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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20221012BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20221012BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
G01N35/10 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020507215
(86)(22)【出願日】2018-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2018011423
(87)【国際公開番号】W WO2019180879
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】小林 遼
(72)【発明者】
【氏名】石澤 直也
(72)【発明者】
【氏名】上野 太郎
(72)【発明者】
【氏名】林 耕磨
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/213074(WO,A1)
【文献】特開2006-283965(JP,A)
【文献】特開昭54-078525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/08
G01N 37/00
G01N 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を循環可能な第1循環流路と、
前記第1循環流路の一部である共有流路を共有する第2循環流路と、
前記第1循環流路のうち前記共有流路以外の流路の両端部に配置される複数の第1バルブと、
前記第2循環流路のうち前記共有流路以外の流路の両端部に配置される複数の第2バルブと、
前記共有流路に3つ以上配置される第3バルブと、
前記第3バルブを前記共有流路と対向する面から押圧して変形させる押圧部材と、
前記複数の第1バルブまたは前記複数の第2バルブが閉じた状態で、前記押圧部材を前記第3バルブの配置面と垂直な方向に所定の押圧パターンで周期的に駆動し、前記第1循環流路または前記第2循環流路の流体の流れを制御する駆動装置と、
を備え、
前記第3バルブは、円周上に等間隔で3つ配置され、
前記駆動装置はカム部を有し、
前記カム部が回転駆動されることによって前記押圧部材が前記第3バルブを押圧し、
前記カム部は、平坦面を有する山部および谷部を有し、
前記山部は前記押圧部材と接触して前記第3バルブを閉じ、
前記谷部は前記押圧部材と接触して前記第3バルブを開き、
前記第3バルブは、前記円周を有する円の軸線を中心として、角度45°間隔で配置されており、前記山部と前記谷部とは90°間隔で配置され、
前記押圧部材が前記谷部と接触して、3つの前記第3バルブの全てが前記共有流路を開放した状態を含む、システム。
【請求項2】
前記押圧部材を前記カム部に向けて押圧する付勢部材を有し、
前記山部は、前記付勢部材の押圧力に抗して前記押圧部材を駆動して前記第3バルブを閉じさせる、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1循環流路には、異なる種類の溶液を導入可能な複数の導入流路と、溶液を排出可能な排出流路とがそれぞれ直接接続され、
前記複数の第2バルブが閉じた状態で前記駆動装置が駆動することで前記異なる種類の溶液を混合する、
請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1循環流路で混合された混合液に含まれる複合体を捕捉する捕捉部を備え、
前記捕捉部は前記共有流路に配置される
請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2循環流路は、
前記複合体を移送する移送液を導入する第3流路と、
前記移送液によって移送された前記複合体を検出する検出部とを備え、
前記第3流路と前記検出部は、前記第2循環流路における前記第1循環流路と前記共有流路を共有しない非共有流路に配置される、
請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記カム部は、前記山部と前記谷部との間に傾斜部を備える、
請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
接合面で接合される第1基材及び第2基材を有し、
前記第2基材は、前記接合面に開口する流路を有し、
3つの前記第3バルブと前記第1基材とは、一体的に成形された成形体である、
請求項1からのいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、体外診断分野における試験の高速化、高効率化、および集積化、又は、検査機器の超小型化を目指したμ-TAS(Micro-Total Analysis Systems)の開発などが注目を浴びており、世界的に活発な研究が進められている。
【0003】
μ-TASは、少量の試料で測定、分析が可能なこと、持ち運びが可能となること、低コストで使い捨て可能なこと等、従来の検査機器に比べて優れている。
更に、高価な試薬を使用する場合や少量多検体を検査する場合において、有用性が高い方法として注目されている。
【0004】
μ-TASの構成要素として、流路と、該流路上に配置されるポンプとを備えたデバイスが報告されている(非特許文献1)。このようなデバイスでは、該流路へ複数の溶液を注入し、ポンプを作動させることで、複数の溶液を流路内で混合する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Jong Wook Hong, Vincent Studer, Giao Hang, W French Anderson and Stephen R Quake,Nature Biotechnology 22, 435 - 439 (2004)
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様に従えば、接合面で接合され少なくとも一方が前記接合面に開口する流路を有する、第1基材及び第2基材と、前記流路と対向する位置に3つ以上配置され、変形により前記流路中の流体の流れを調整するバルブ部と、を備え、前記第1基材は、前記バルブ部と対向する位置において、前記第1基材を貫通する貫通孔を有し、前記バルブ部は、前記接合面の法線方向に延びる軸線を中心とする同一円周上に配置されている、流体デバイスが提供される。
【0007】
本発明の第2の態様に従えば、本発明の第1の態様の流体デバイスと、前記流体デバイスの前記バルブ部を押圧駆動する駆動装置と、を備え、前記駆動装置は、前記流体デバイスをセットした際に、前記貫通孔を介して先端側で前記バルブ部を押圧して前記流路を閉じる第1位置と、前記第1位置から前記軸線方向に退避して前記流路を開放する第2位置との間を移動可能な移動部材と、前記軸線周りに回転可能な回転装置と、前記回転装置に前記流体デバイスのバルブ部と同一円周上に配置され、前記移動部材の基端側を支持し前記移動部材を前記軸線方向に移動させるカム部と、を備えるシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る流体デバイス100Aを備えたシステムSYSの要部断面図。
図2】本実施形態に係るシステムSYSを流体デバイス100A側から視た平面図。
図3】本実施形態に係る回転駆動源61及び回転装置62の概略的な構成図。
図4】本実施形態に係るカム部65を軸線C周りに展開した図。
図5】本実施形態に係る6相式送液サイクルのカム位置と、流路40の開閉状態との関係をバルブ部V11~V13毎に示すタイミングチャート。
図6】本実施形態に係る送液サイクルの第1相における断面図。
図7】本実施形態に係る送液サイクルの第2相における断面図。
図8】本実施形態に係る送液サイクルの第3相における断面図。
図9】本実施形態に係る送液サイクルの第4相における断面図。
図10】本実施形態に係る送液サイクルの第5相における断面図。
図11】本実施形態に係る送液サイクルの第6相における断面図。
図12】本実施形態に係る3相式送液サイクルのカム位置と、流路40の開閉状態との関係をバルブ部V11~V13毎に示すタイミングチャート。
図13】本実施形態に係る4相式送液サイクルのカム位置と、流路40の開閉状態との関係をバルブ部V11~V13毎に示すタイミングチャート。
図14】本実施形態に係る5相式送液サイクルのカム位置と、流路40の開閉状態との関係をバルブ部V11~V13毎に示すタイミングチャート。
図15】本実施形態に係る流体デバイス及びシステムを模式的に示した平面図。
図16】本実施形態に係る検出部3に含まれる磁気センサーの平面図。
図17】本実施形態に係る流体デバイス及びシステムを模式的に示した平面図。
図18】本実施形態に係る流体デバイス及びシステムを模式的に示した平面図。
図19】本実施形態に係る流体デバイス及びシステムを模式的に示した平面図。
図20】本実施形態に係る抗原・抗体反応時のポンプPの駆動周波数と磁気センサーが検出する信号強度との関係を示す図。
図21】本実施形態に係る抗原・抗体反応時のポンプPの駆動周波数とセンサー間ばらつき(C.V.(%)値)との関係を示す図。
図22】本実施形態に係る流体デバイス100Aを備えたシステムSYSの変形例を示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の流体デバイス及びシステムの実施の形態を、図1ないし図22を参照して説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限られない。
【0010】
図1は、流体デバイス100Aを備えたシステムSYSの要部断面図である。図2は、システムSYSを流体デバイス100A側から視た平面図である。
【0011】
図1に示すように、システムSYSは、流体デバイス100A及び駆動装置DRを備えている。流体デバイス100Aは、駆動装置DRにセットして使用される。流体デバイス100Aは駆動装置DRに配置し、固定し、又は押し当てて使用される。駆動装置DRは、流体デバイス100Aをセットしたときに、後述するバルブ部と対向する押圧ピン(移動部材)P1~P3を有する。
【0012】
本実施形態の流体デバイス100Aは、検体試料に含まれる検出対象である試料物質をハイブリダイズ、免疫反応および酵素反応などにより検出するデバイスを含む。試料物質は、例えば、核酸、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、細胞外小胞体などの生体分子や粒子などである。
【0013】
流体デバイス100Aは、第1基材6および第2基材9を備えている。第1基材6および第2基材9は、例えば板状の基材であり、一例として、樹脂材(ポリプロピレン、ポリカーボネイト等の硬質材)で形成されている。第1基材6および第2基材9は、それぞれ第1基板、第2基板と言い換えてもよい。流体デバイス100Aは、接合面で接合される第1基材及び第2基材を備えている。例えば、第1基材6と第2基材9とは、超音波溶着やレーザー溶着などの溶着技術により接合されている。第1基材6および第2基材9は、例えば、それぞれ接合方向に貫通し面方向の位置決めが行われる複数(例えば2つ)の位置決め孔(不図示)を有している。第1基材6および第2基材9は、位置決め孔(不図示)に軸部材を挿通させることにより、面方向に互いに位置決めされた状態で積層(多層)可能である。第1基材6又は第2基材9の少なくとも一方は、両基材を接合することにより流路40を形成する溝を接合面に有する。本実施形態においては、第2基材9は、第1基材6との接合面9aに開口する流路40を有している。流路40は、一例として、数μmから数百mm程度の幅又は深さを有した溝である。
【0014】
なお、以下の説明においては、第1基材6および第2基材9は水平面に沿って配置され、第1基材6は第2基材9の下側(駆動装置DR側)に配置されるものとして説明する。また、第1基材6を上板、第2基材9を基板と説明することもある。ただし、これは、説明の便宜のために水平方向および上下方向を定義したに過ぎず、本実施形態に係る流体デバイス100A及びシステムSYSの使用時の向きを限定しない。
【0015】
流体デバイス100Aは、流路40において溶液を送液するためのポンプPを有している。ポンプPは、互いに間隔をあけて配置されたバルブ部V11~V13を含む。本実施形態では、3つのバルブ部V11~V13を有する。ポンプPは、少なくとも3つのバルブ部を備えればよく、例えば3~12個備えてもよい。バルブ部V11~V13は、軟性部材60で形成れている。軟性部材60は、弾性材である。軟性部材60は、3つのバルブ部V11~V13を含む大きさのシート状に形成され、流路40と対向する第1基材6の上面6aに設けられている。軟性部材60が、バルブ部V11~V13で共通した1枚のシートである場合、第1基材6及び第2基材9の間に、シートを挟んだ積層構造により流体デバイスを製造することができる。このため、溝や凹部を形成した板状又はシート状の基材を積層して貼り合わせるという流体デバイスの一般的な製造工程と整合性がある。なお、軟性部材60は、バルブ部V11~V13毎に分離して設けられる構成でもよい。すなわち、バルブ部V11、V12,V13はそれぞれ独立して軟性部材60を備えてもよい。軟性部材60は、シート状に設けられる場合、バルブ部V11~V13毎に分離して設けられる場合のいずれについても、第1基材6と一体的に成形された成形体であることが好ましい。軟性部材60と第1基材6とを一体的に成形することにより、製造効率を向上させることができる。バルブ部V11~V13の径は、数μmから数百mm程度である。流路40の幅に対して1.2倍~3倍のサイズであることが好ましい。例えば流路の幅1.5mmである場合には、使用されるバルブは2mm径以上であることが好ましい。
【0016】
第1基材6には、バルブ部V11~V13と対向する位置に露出部51~53が形成されている。露出部51~53は、第1基材6を上下方向(第1基材6の厚さ方向)に貫通する貫通孔で形成されている。すなわち、バルブ部V11~V13は、軟性部材60のうち、露出部51~53によって外側(下側)に露出する軟性部材60によって形成されている。
【0017】
軟性部材60を形成する材料としては、例えば、弾性材などの圧力におり変形する材料があげられ、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーを例示することができる。
【0018】
図2に示すように、バルブ部V11~V13は、接合面9aの法線方向に延びる軸線Cを中心とする同一円周上に間隔をあけて配置されている。一例として、バルブ部V11~V13は、軸線Cを中心とする角度75°間隔で配置されている。流路40の一部は、バルブ部V11とバルブ部V12、及びバルブ部V12とバルブ部V13とを結ぶ平面視でく字状(V字状)の経路で形成されている。バルブ間の距離は、バルブの径の2~5倍であることが好ましい。
周方向で隣り合うバルブ部V11とバルブ部V12を結ぶ直線と、周方向で隣り合うバルブ部V12とバルブ部V13とを結ぶ直線との間の角度は、バルブ部V11~V13の配置間隔が角度75°の場合は、105°である。
【0019】
駆動装置DRは、上記押圧ピンP1~P3、回転駆動源61、回転装置62及び保持板63、64を備えている。押圧ピンP1~P3は、同様の構成を有しているため、以下では押圧ピンP1についてのみ説明する。押圧ピンP1は、先端側から順次配置された押圧部71、フランジ部72及び摺動部73を有している。押圧部71は、軸線C方向に延びる円柱状であり、先端が半球状に形成されている。押圧部71の直径は、露出部51~53の直径よりも小さく形成されている。
【0020】
フランジ部72は、押圧部71の直径よりも大きい直径の円盤状に形成されている。摺動部73は、フランジ部72から下側に軸線C方向に延びる円柱状に形成されている。摺動部73の下端は半球状に形成されている。摺動部73の直径は、押圧部71の直径よりも小さく形成されている。摺動部73の下端は、後述するように、回転装置62に設けられたカム部65に下方から支持される。
【0021】
保持板63、64は、互いに位置合わせされ上下方向に一体的に接合されている。保持板63は、流体デバイス100Aのバルブ部V11~V13を駆動する際に第1基材6の下面6bに当接してセットされる。保持板63は、第1基材6がセットされたときにバルブ部V11~V13と対向する位置に保持孔71a及び空洞部72aをそれぞれ有している。保持孔71aは、軸線C方向に保持板63を貫通している。保持孔71aは、押圧ピンP1~P3の押圧部71を軸線C方向に移動自在に保持する。空洞部72aは、底面72bを有し保持板63の下面63aに開口する軸線C方向に延びる窪みである。空洞部72aの直径は、フランジ部72の直径よりも大きく形成されている。
【0022】
保持板64は、保持孔71a及び空洞部72aと同軸で形成された保持孔73aを有している。保持孔73aは、軸線C方向に保持板64を貫通している。保持孔73aは、押圧ピンP1~P3の摺動部73を軸線C方向に移動自在に保持する。
【0023】
押圧ピンP1~P3の長さは、図1に示す押圧ピンP1のように、摺動部73の下端がカム部65における山部65aに支持された第1位置にあるときに、押圧部71の先端が露出部51~53を介してバルブ部V11~V13を下方から押圧して流路40の底面に当接させて流路40を閉じる長さである。また、押圧ピンP1~P3の長さは、図1に示す押圧ピンP2、P3のように、摺動部73の下端がカム部65における谷部65bに支持された第2位置にあるときに、押圧部71の先端がバルブ部V11~V13を押圧しない状態で露出部51~53に挿入され流路40を開放する長さである。
【0024】
フランジ部72の厚さ及び軸線C方向の位置は、押圧ピンP1~P3が第1位置にあるときに、空洞部72aの底面72bに当接せず、押圧ピンP1~P3が第2位置にあるときに、保持板64に当接しない厚さ及び位置に設定されている。
【0025】
空洞部72aには、長さ方向の上端が底面72bに当接し、下端がフランジ部72の上面に当接する圧縮バネ74が圧縮された状態で付勢部材として設けられている。上端が底面72bに当接する圧縮バネ74は、常時フランジ部72を下側に押圧することにより、第1位置及び第2位置にある押圧ピンP1~P3に対して下側への力を付与する。
【0026】
図3は、回転駆動源61及び回転装置62の概略的な構成図である。回転装置62は、円盤状に形成されている。回転装置62は、モーター等の回転駆動源61の回転駆動により軸線C周りに回転する。回転装置62の上面には、カム部65が突出して設けられている。カム部65は、軸線C周りに円環状に突出している。カム部65は、バルブ部V11~V13と同一円周上に配置され、押圧ピンP1~P3の摺動部73を下方から支持する。押圧ピンP1~P3は、圧縮バネ74により常時下側に押圧されているため、回転装置62が軸線C周りに回転することより、押圧ピンP1~P3の摺動部73は、カム部65の上面を摺動する。
【0027】
カム部65は、押圧ピンP1~P3を第1位置に支持する山部65aと、山部65aよりも下側に形成され押圧ピンP1~P3を第2位置に支持する谷部65aとを有している。山部65aと谷部65bとは、90°間隔で交互に配置されている。
【0028】
図4は、カム部65を軸線C周りに展開した図である。図4においては、一例として、山部65aの周方向端部を基準としている。
図4に示されるように、カム部65においては、0°以上、90°以下、及び180°以上270°以下の範囲に山部65aが配置され、90°を超えて180°未満、及び270°を超えて360°未満の範囲に谷部65bが配置されている。
【0029】
本実施形態におけるカム部65は、回転装置62が一回転する間に、後述するように、流路40において溶液を送液する送液サイクルを二回実施可能とするために、山部65a及び谷部65bが二箇所ずつ配置されている。回転装置62が一回転する間に送液サイクルを二回実施可能とするために、バルブ部V11~V13が配置される範囲は、180°以下の角度であることが好ましく、上述したように、隣り合うバルブ部V11~V13が75°の間隔で配置された総範囲が150°以下であることがより好ましい。
【0030】
谷部65bは、最も下側に位置する領域(押圧ピンP1~P3を第2位置とする領域)と山部65aとの間に設けられた傾斜部を含む。摺動部73が傾斜部を摺動することにより、山部65aと谷部65bとの間で押圧ピンP1~P3を支持する位置を円滑に切り替えることができる。摺動部73が傾斜部に支持された場合においては、押圧ピンP1~P3における押圧部71が下方に移動することで、バルブ部V11~V13は弾性変形しつつも流路40の閉塞が部分的に解除される。以下では、摺動部73が傾斜部に支持された場合についても、流路40の少なくとも一部が開放された開状態であるとして説明する。
【0031】
次に、上記構成のシステムSYSにおけるポンプPの動作を、図5乃至図14を参照して説明する。
【0032】
[6相式送液サイクル]
本実施形態では、バルブ部V11~V13の開閉状態を6相で切り替えることにより、流路40において溶液を送液する場合について図5乃至図11を参照して説明する。
図5は、6相式送液サイクルで溶液を送液する場合の図4に示したカム部65に対して押圧ピンP1~P3が支持されたときのカム位置と、流路40の開閉状態との関係をバルブ部V11~V13毎に示すタイミングチャートである。図6乃至図11は、バルブ部V11~V13の開閉状態と、流路40における溶液の流れを示す図である。図6乃至図11においては、第1基材6及び押圧ピンP1~P3の図示を省略している。
【0033】
以下の説明で示す角度は、特に言及しない限り、図5に示したカム部65における基準に対する角度である。また、図6乃至図11においては、バルブ部V11側を左側、バルブ部V13側を右側として流路40の溶液の流れ方向を説明する。
【0034】
(第1相)
図6は、送液サイクルの第1相における断面図である。
第1相は、30°~60°の範囲で行われる。第1相では、バルブ部V11は流路40を閉じ、バルブ部V12、V13は流路を開放する。これにより、流路40の溶液はバルブ部V11で分断される。
【0035】
(第2相)
図7は、送液サイクルの第2相における断面図である。
第2相は、60°~90°の範囲で行われる。第2相では、第1相に対してバルブ部V12が流路40を閉じる。バルブ部V11は流路40を閉じたままであるため、バルブ部V11よりも右側の溶液は、バルブ部V12が流路40を閉じた際に、矢印で示すように右側に送液される。
【0036】
(第3相)
図8は、送液サイクルの第3相における断面図である。
第3相は、90°~120°の範囲で行われる。第3相では、第2相に対してバルブ部V11が流路40を開放する。バルブ部V12は流路40を閉じたままであるため、バルブ部V11よりも左側の溶液は、バルブ部V11が流路40を開放した際に、矢印で示すようにバルブ部V12まで右側に移動して、バルブ部V11の弾性変形解除に伴う流路40の容積増加を補う。
【0037】
(第4相)
図9は、送液サイクルの第4相における断面図である。
第4相は、120°~150°の範囲で行われる。第4相では、第3相に対してバルブ部V13が流路40を閉じる。バルブ部V12は流路40を閉じたままであるため、バルブ部V12よりも右側の溶液は、バルブ部V13が流路40を閉じた際に、矢印で示すように右側に送液される。
【0038】
(第5相)
図10は、送液サイクルの第5相における断面図である。
第5相は、180°~210°の範囲で行われる。第5相では、第4相に対してバルブ部V12が流路40を開放する。バルブ部V13は流路40を閉じたままであるため、バルブ部V12よりも左側の溶液は、バルブ部V12が流路40を開放した際に、矢印で示すようにバルブ部V13まで右側に移動して、バルブ部V12の弾性変形解除に伴う流路40の容積増加を補う。
【0039】
(第6相)
図11は、送液サイクルの第6相における断面図である。
第6相は、240°~270°の範囲で行われる。第6相では、第5相に対してバルブ部V11が流路40を閉じる。これにより、バルブ部V13よりも左側の流路40の溶液はバルブ部V11で分断される。また、バルブ部V13は流路40を閉じたままであるため、バルブ部V11が流路40を閉じた際に、流路40の容液は矢印で示すように左側に移動する。
【0040】
この後、第1相に戻り、バルブ部V13が流路40を開放することにより、バルブ部V13よりも右側の溶液が左側に移動して、バルブ部V13の弾性変形解除に伴う流路40の容積増加を補う。
以後、第1相から第6相を繰り返すことにより、流路40の溶液を右側(バルブ部V11側からバルブ部V13側)に送液することができる。
【0041】
[3相式送液サイクル]
次に、バルブ部V11~V13の開閉状態を3相で切り替えることにより、流路40において溶液を送液する場合について、図12を参照して説明する。
図12は、3相式送液サイクルで溶液を送液する場合のカム部65に対して押圧ピンP1~P3が支持されたときのカム位置と、流路40の開閉状態との関係をバルブ部V11~V13毎に示すタイミングチャートである。
【0042】
3相式送液サイクルの場合、カム部65においては、0°以上、120°以下、及び180°以上300°以下の範囲に山部65aが配置され、120°を超えて180°未満、及び300°を超えて360°未満の範囲に谷部65bが配置されている。
【0043】
(第1相)
第1相は、0°~60°の範囲で行われる。第1相では、6相式送液サイクルの第6相(図11参照)と同様に、バルブ部V11、V13は流路40を閉じ、バルブ部V12は流路を開放する。これにより、流路40の溶液はバルブ部V11、V13で分断される。
【0044】
(第2相)
第2相は、60°~120°の範囲で行われる。第2相では、6相式送液サイクルの第2相(図7参照)と同様に、第1相に対してバルブ部V12が流路40を閉じ、バルブ部V13が流路40を開放する。バルブ部V11は流路40を閉じたままであるため、バルブ部V11よりも右側の溶液は、バルブ部V12が流路40を閉じた際に、矢印で示すように右側に送液される。
【0045】
(第3相)
第3相は、120°~180°の範囲で行われる。第3相では、6相式送液サイクルの第4相(図9参照)と同様に、第2相に対してバルブ部V11が流路40を開放し、バルブ部V13が流路40を閉じる。バルブ部V11が流路40を開放することにより、バルブ部V11よりも左側の流路40の溶液がバルブ部V12まで右側に移動して、バルブ部V11の弾性変形解除に伴う流路40の容積増加を補う。また、バルブ部V12は流路40を閉じたままであるため、バルブ部V12よりも右側の溶液は、バルブ部V13が流路40を閉じた際に、矢印で示すように右側に送液される。
【0046】
この後、第1相に戻り、第3相に対してバルブ部V12が流路40を開放し、バルブ部V11が流路40を閉じる。これにより、これにより、流路40の溶液はバルブ部V11、V13で分断される。また、バルブ部V11が流路40を閉じた際に、流路40の容液の一部は矢印で示すように左側に移動し、容液の一部はバルブ部V13まで右側に移動して、バルブ部V12の弾性変形解除に伴う流路40の容積増加を補う。
以後、第1相から第3相を繰り返すことにより、流路40の溶液を右側(バルブ部V11側からバルブ部V13側)に送液することができる。
【0047】
[4相式送液サイクル]
次に、バルブ部V11~V13の開閉状態を4相で切り替えることにより、流路40において溶液を送液する場合について、図13を参照して説明する。
図13は、4相式送液サイクルで溶液を送液する場合のカム部65に対して押圧ピンP1~P3が支持されたときのカム位置と、流路40の開閉状態との関係をバルブ部V11~V13毎に示すタイミングチャートである。
【0048】
4相式送液サイクルの場合、カム部65においては、図4に示した6相式送液サイクルの場合と同様に、0°以上、90°以下、及び180°以上270°以下の範囲に山部65aが配置され、90°を超えて180°未満、及び270°を超えて360°未満の範囲に谷部65bが配置されている。
【0049】
(第1相)
第1相は、0°~45°の範囲で行われる。第1相では、6相式送液サイクルの第1相(図6参照)と同様に、バルブ部V11は流路40を閉じ、バルブ部V12、V13は流路を開放する。これにより、流路40の溶液はバルブ部V11で分断される。
【0050】
(第2相)
第2相は、45°~90°の範囲で行われる。第2相では、6相式送液サイクルの第2相(図7参照)と同様に、第1相に対してバルブ部V12が流路40を閉じる。バルブ部V11は流路40を閉じたままであるため、バルブ部V11よりも右側の溶液は、バルブ部V12が流路40を閉じた際に、矢印で示すように右側に送液される。
【0051】
(第3相)
第3相は、90°~135°の範囲で行われる。第3相では、6相式送液サイクルの第4相(図9参照)と同様に、第2相に対してバルブ部V11が流路40を開放し、バルブ部V13が流路40を閉じる。バルブ部V11が流路40を開放することにより、バルブ部V11よりも左側の流路40の溶液がバルブ部V12まで右側に移動して、バルブ部V11の弾性変形解除に伴う流路40の容積増加を補う。また、バルブ部V12は流路40を閉じたままであるため、バルブ部V12よりも右側の溶液は、バルブ部V13が流路40を閉じた際に、矢印で示すように右側に送液される。
【0052】
(第4相)
第4相は、135°~180°の範囲で行われる。第4相では、6相式送液サイクルの第5相(図10参照)と同様に、第3相に対してバルブ部V12が流路40を開放する。バルブ部V13は流路40を閉じたままであるため、バルブ部V12よりも左側の溶液は、バルブ部V12が流路40を開放した際に、矢印で示すようにバルブ部V13まで右側に移動して、バルブ部V12の弾性変形解除に伴う流路40の容積増加を補う。
【0053】
この後、第1相に戻り、第4相に対してバルブ部V13が流路40を開放し、バルブ部V11が流路40を閉じる。これにより、流路40の溶液はバルブ部V11で分断される。バルブ部V11が流路40を閉じた際には、流路40の容液の一部は左側に移動する。また、バルブ部V13が流路40を開放した際には、バルブ部V13よりも右側の溶液は左側に移動して、バルブ部V13の弾性変形解除に伴う流路40の容積増加を補う。
以後、第1相から第4相を繰り返すことにより、流路40の溶液を右側(バルブ部V11側からバルブ部V13側)に送液することができる。
【0054】
[5相式送液サイクル]
次に、バルブ部V11~V13の開閉状態を5相で切り替えることにより、流路40において溶液を送液する場合について、図14を参照して説明する。
図14は、5相式送液サイクルで溶液を送液する場合のカム部65に対して押圧ピンP1~P3が支持されたときのカム位置と、流路40の開閉状態との関係をバルブ部V11~V13毎に示すタイミングチャートである。
【0055】
5相式送液サイクルの場合、カム部65においては、0°以上、72°以下、及び180°以上252°以下の範囲に山部65aが配置され、72°を超えて180°未満、及び252°を超えて360°未満の範囲に谷部65bが配置されている。
【0056】
(第1相~第4相)
5相式送液サイクルにおいては、第1相~第4相は、4相式送液サイクルに対して流路40の開閉が行われるカム部65の角度のみが異なり、バルブ部V11~V13の駆動パターンは同一である。すなわち、5相式送液サイクルにおける第1相は0°~36°の範囲で行われ、第2相は36°~72°の範囲で行われる。5相式送液サイクルにおける第3相は72°~108°の範囲で行われ、第4相は108°~144°の範囲で行われる。
【0057】
(第5相)
第5相は、144°~180°の範囲で行われる。第5相では、第4相に対してバルブ部V13が流路40を開放する。これにより、バルブ部V11~V13の全てで流路40が開放される。
【0058】
以後、第1相から第5相を繰り返すことにより、流路40の溶液を右側(バルブ部V11側からバルブ部V13側)に送液することができる。
【0059】
以上のように、本実施形態の流体デバイス100A及びシステムSYSにおいては、バルブ部V11~V13を軸線Cを中心とする同一円周上に配置し、回転駆動源61の回転駆動により軸線C周りに回転するカム部65及び押圧ピンP1~P3を介してバルブ部V11~V13を同期駆動して流路40を開閉するため、エア等の流体を用いてバルブ部V11~V13を駆動する場合のように流体のリークを生じさせることなく、流路40の溶液を送液することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態の流体デバイス100A及びシステムSYSにおいては、回転駆動源61が電動駆動されることにより、流体を用いてバルブ部V11~V13を駆動する場合のようにガスボンベやコンプレッサー等の気体圧縮機器を設置する必要がなく汎用性を広げることができる。回転駆動源を用いる場合には、回転速度を調整してバルブ部V11~V13の駆動周期を変更することにより、溶液の送液速度を容易に変更することが可能になる。
【0061】
また、本実施形態の流体デバイス100A及びシステムSYSにおいては、山部65a及び谷部65bの配置パターンが異なるカム部65を有する回転装置62を適宜選択することにより、上述したように、6相式、3相式、4相式等の駆動パターンを任意に選択することができる。
【0062】
[流体デバイス及びシステムの実施例]
次に、流体デバイス及びシステムの実施例について、図15乃至図21を参照して説明する。
図15は、流体デバイス300を模式的に示した平面図である。
【0063】
図15に示すように、流体デバイス300は、流路およびバルブ部V11~V13が形成された基板209を備える。流体デバイス300は、基板209上に形成され、試料物質を含む溶液を循環させる第1循環流路210と第2循環流路220を含む。第1循環流路210および第2循環流路220は、互いに共有する共有流路202を有する。また、第1循環流路210は、第2循環流路220と共有しない非共有流路211を有し、第2循環流路220は、第1循環流路210と共有しない非共有流路221を有する。
【0064】
(共有流路)
共有流路202は、第1循環流路210の非共有流路211の端部同士を繋ぐ。また、共有流路202は、第2循環流路220の非共有流路221の端部同士を繋ぐ。共有流路202は、ポンプPと、第1の捕捉部4と、補助物質検出部5と、を有する。
共有流路202には、廃液槽7に繋がる排出流路227が接続されている。排出流路227には、排出流路バルブO3が設けられている。
【0065】
ポンプPは、流路中に並んで配置された上述した3つのバルブ部V11~V13から構成されている。バルブ部V11~V13は、上述した駆動装置DR(図15乃至図18ではカム部65のみ図示)によって駆動される。バルブ部V11~V13は、カム部65と同一円周上に配置されている。ポンプPは、3つのバルブ部V11~V13の開閉を制御することにより、循環流路内における溶液の送液方向の制御が可能となる。バルブ部V11~V13の数は、4以上であってもよい。第1の捕捉部4は、第1循環流路210内を循環している溶液中の試料物質を捕捉・収集する。第1の捕捉部4の構成は、例えば、磁石等の磁力発生源(不図示)を含む。磁力発生源は、下側から共有流路202に近接して配置される。
【0066】
補助物質検出部5は、試料物質に結合させて試料物質の検出を補助する標識物質(検出補助物質)を検出するために設けられている。標識物質として酵素を用いる場合、保管時間が長くなるにつれて酵素の劣化が生じて、第2循環流路220に設けられた磁気センサーを含む検出部3における検出効率が低下する虞がある。補助物質検出部5は、標識物質を検出して酵素の劣化度を測定する。
【0067】
(第1循環流路)
第1循環流路210は、非共有流路211に、複数のバルブV1、V2、W1、W2を有する。これらのバルブのうち、バルブV1、V2、W2は、定量バルブとして機能する。また、バルブW1、W2は、非共有流路端末バルブとして機能する。すなわち、バルブW2は、定量バルブとしても、非共有流路端末バルブとしても機能する。
【0068】
定量バルブV1、V2、W2は、定量バルブで区切られる第1循環流路210の区画のそれぞれが所定の体積となるように配置されている。定量バルブV1、V2は、第1循環流路210を、第1定量区画A1と第2定量区画A2と第3定量区画A3とに区画する。
第1定量区画A1は、共有流路202を内包する。
【0069】
第1定量区画A1の非共有流路211には、導入流路212、213が接続されている。第2定量区画A2には、導入流路214と排出流路217が接続されている。第3定量区画A3には、導入流路215と排出流路218と空気流路216が接続されている。
【0070】
導入流路212、213、214、215は、第1循環流路210内にそれぞれ異なる液を導入するために設けられている。導入流路212、213、214、215には、それぞれ導入流路を開閉する導入流路バルブI1,I2,I3,I4が設けられている。また、導入流路212、213、214、215の端末には、基板209の表面に開口する液導入用インレット212a、213a、214a、215aが設けられている。
【0071】
空気流路216は、第1循環流路210から空気を排出又は空気を導入するために設けられている。空気流路216には流路を開閉する空気流路バルブG1が設けられている。
空気流路216の端末には、基板209の表面に開口する空気導入用インレット216aが設けられている。
【0072】
排出流路217、218は、第1循環流路210から液を排出するために設けられている。排出流路217、218にはそれぞれ、排出流路を開閉する排出流路バルブO1,O2が設けられている。排出流路217、218は、廃液槽7に接続されている。廃液槽7には、外部吸引ポンプ(不図示)と接続されて負圧吸引するために基板表面に開口するアウトレット7aが設けられている。なお、本実施形態の流体デバイス300において、廃液槽7は、第1循環流路210の内側領域に配置されている。これにより、流体デバイス300の小型化を図ることができる。
【0073】
第1定量区画A1の非共有流路211には、蛇行部219が設けられている。蛇行部219は、第1定量区画A1の非共有流路211の一部であり、左右に蛇行して形成された部分である。蛇行部219は、第1定量区画A1の非共有流路211の体積を大きくする。
【0074】
(第2循環流路)
第2循環流路220は、非共有流路221に、非共有流路端末バルブとして機能するバルブW3、W4と第2の捕捉部4Aとを有する。第2の捕捉部4Aは、非共有流路221を流動している溶液中の試料物質を捕捉・収集する。第2の捕捉部4Aは、試料物質と結合した担体粒子を捕捉するものであってもよい。第2の捕捉部4Aが、試料物質自体、又は試料物質と結合された担体粒子を捕捉することで、非共有流路221を流動する溶液から、試料物質を収集することができる。流体デバイス300は、第2の捕捉部4Aを備えることで、試料物質の濃縮や洗浄、移送を効果的に実現できる。
【0075】
担体粒子は、磁気ビーズ又は磁性粒子である。なお、第2の捕捉部4Aのその他の例として、担体粒子と結合可能な充填剤を有するカラム、担体粒子を引きつけ可能な電極などが挙げられる。また、第2の捕捉部4Aは、試料物質が核酸の場合、当該核酸とハイブリダイゼーションする核酸を固定した核酸アレイとしてもよい。
【0076】
担体粒子は、一例として、検出の標的となる試料物質と反応可能な粒子である。担体粒子と試料物質との反応は、例えば、担体粒子と試料物質との結合、担体粒子と試料物質同士の吸着、試料物質による担体粒子の修飾、試料物質による担体粒子の化学変化などが挙げられる。担体粒子としては、磁気ビーズ、磁性粒子、金ナノ粒子、アガロースビーズ、プラスチックビーズ等が挙げられる。
【0077】
担体粒子と試料物質との結合には、試料物質に結合又は吸着可能な物質を表面に備えた担体粒子を用いてもよい。例えば、担体粒子とタンパク質を結合させる場合、タンパク質に結合可能な抗体を表面に備えた担体粒子を用いて、担体粒子表面の抗体とタンパク質を結合可能である。試料物質に結合可能な物質は、試料物質の種類に応じて適宜選択すればよい。試料物質に結合又は吸着可能な物質/試料物質又は試料物質に含まれる部位との組み合わせの例としては、アビジンおよびストレプトアビジン等のビオチン結合タンパク質/ビオチン、スクシンイミジル基等の活性エステル基/アミノ基、ヨウ化アセチル基/アミノ基、マレイミド基/チオール基(‐SH)、マルトース結合タンパク質/マルトース、Gタンパク質/グアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ/グルタチオン、DNA結合タンパク質/DNA、抗体/抗原分子(エピトープ)、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質/ATP、あるいはエストラジオール受容体タンパク質/エストラジオールなどの、各種受容体タンパク質/そのリガンドなどが挙げられる。
【0078】
第2の捕捉部4Aで捕捉された試料物質は、磁気センサーを含む検出部3で検出される。試料物質を検出する例として、試料物質を、試料物質の検出を補助する検出補助物質と結合させてもよい。標識物質(検出補助物質)を用いる場合、試料物質は、標識物質とともに第2循環流路220内で循環させ混合することで、検出補助物質と結合させる。
【0079】
図16は、検出部3に含まれる磁気センサーの平面図である。
図16に示すように、検出部3は、8個×10個の格子状(マトリクス状)に配列された合計80個の磁気センサー3a、3bを有している。磁気センサー3a、3bは、縦方向及び横方向に交互に配置されている。磁気センサー3aには、ヒト組織免疫染色用抗体 (Anti-EGFR Antibody) 等の抗体Aが固定されている。Rと表示された磁気センサー3bは、参照(Reference)用であり、抗体は固定されていない。磁気センサー3a、3bは、第2の捕捉部4Aにおいて非共有流路221に臨んで設けられている。
【0080】
標識物質(検出補助物質)としては、例えば、蛍光色素、蛍光ビーズ、蛍光タンパク質、量子ドット、金ナノ粒子、ビオチン、抗体、抗原、エネルギー吸収性物質、ラジオアイソトープ、化学発光体、酵素等が挙げられる。
蛍光色素としては、FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’,7’-ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5’-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト)、Cy3、Cy5、Alexa568、Alexa647等が挙げられる。
酵素としては、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ等が挙げられる。
【0081】
第2循環流路220の非共有流路221には、導入流路222と集約流路223とが接続されている。集約流路223には、液溜り部223aと、バルブI10と、が設けられている。バルブI10は、液溜り部223aと第2循環流路220との間に位置する。液溜り部223aには、導入流路224、225と空気流路226とが接続されている。導入流路222、224、225の経路中には、導入流路バルブI5,I6,I7が設けられ、端末には導入用インレット222a、224a、225aが設けられている。同様に、空気流路226の経路中には、空気流路バルブG2が設けられ、端末には空気導入用インレット226aが設けられている。
【0082】
(検出方法)
次に、本実施形態の流体デバイス300を用いた試料物質の混合方法、捕捉方法および検出方法について説明する。本実施形態の検出方法は、検体試料に含まれる検出対象である抗原(試料物質、生体分子)を免疫反応および酵素反応により検出する。
【0083】
まず、第1循環流路210のバルブV1、V2、W2を閉じ、バルブW1を開くとともに、第2循環流路220の非共有流路端末バルブW3、W4を閉じる。これにより、第1循環流路210は、第1定量区画A1と第2定量区画A2と第3定量区画A3とに区切られた状態となる。
【0084】
次いで、図17に示すように、導入流路213から第1定量区画A1に試料物質を含む検体液(第1液)L1を導入して定量する(検体液導入工程)。さらに、導入流路214から第2定量区画A2に標識物質(検出補助物質)を含む第2試薬液L3を導入し(第2試薬液導入工程)、導入流路215から第3定量区画A3に担体粒子を含む第1試薬液(第2液)L2を導入して定量する(第1試薬液導入工程)。
【0085】
本実施形態において、検体液L1は、検出対象(試料物質)としての抗原を含む。検体液としては、血液、尿、唾液、血漿、血清等の体液、細胞抽出物、組織破砕液等が挙げられる。
また、本実施形態において、第1試薬液L2に含まれる担体粒子としては、磁性粒子が用いられる。磁性粒子の表面には、検出対象の抗原(試料物質)に特異的に結合する抗体A1(例えば、ストレプトアビジン等のビオチン結合タンパク質)が固定化されている。
さらに、本実施形態において、第2試薬液L3は、検出対象の抗原に特異的に結合する抗体A2を含有する。抗体A2には、例えば、ビオチン(検出補助物質)が固定化され標識されている。
【0086】
次いで、図18に示すように、バルブV1、V2、W2を開放して、共有流路202のポンプPを駆動させることで、第1循環流路210内において、検体液L1、第1試薬液L2および第2試薬液L3を循環し混合して混合液L4を得る(第1循環工程)。検体液L1、第1試薬液L2および第2試薬液L3の混合により、ビオチンが固定化された抗体A2が抗原に結合し、担体粒子に固定化された抗体A1がビオチンを介して抗原に結合する。これにより、混合液L4の中では、担体粒子-抗原-タンパク質複合体が生成される。
また、第1循環工程において、担体粒子-抗原-タンパク質複合体を形成しない余剰の標識物質を補助物質検出部5において捕捉する。
【0087】
さらに、試料物質と担体粒子の結合が十分に進んだ後に、第1循環流路210内で混合液L4を循環させたまま、第1の捕捉部4において磁性粒子を捕捉する磁石を流路に近接させる。これにより、第1の捕捉部4は、担体粒子-抗原-タンパク質複合体を捕捉する。複合体は、第1の捕捉部4における第1循環流路210内壁面上に捕捉され、液成分から分離される。
【0088】
次いで、工程を示す図を省略するが、第1の捕捉部4において担体粒子-抗原-タンパク質複合体を捕捉したまま、空気流路バルブG1および排出流路バルブO1、O2、O3を開け、廃液槽7のアウトレット7aから負圧吸引して、液成分を排出する(混合液排出工程)。これにより共有流路202では混合液が除去され、担体粒子-抗原-タンパク質複合体は、混合液から分離される。
【0089】
次いで、工程を示す図を省略するが、空気流路バルブG1および排出流路バルブO1、O2、O3を閉じ、導入流路212から第1循環流路210に洗浄液を導入する。さらに、共有流路202のポンプPを駆動させることで、第1循環流路210内において、洗浄液を循環させて、担体粒子-抗原-タンパク質複合体を洗浄する。さらに、一定時間の洗浄液の循環を完了させた後、洗浄液を廃液槽7に排出する。
なお、洗浄液の導入、循環および排出のサイクルは複数回行われてもよい。繰返し、洗浄液の導入、循環、排出を行うことによって、不要物の除去効率を高めることができる。
【0090】
次いで、図19に示すように、第1循環流路210のバルブW1、W2を閉じるとともに、第2循環流路220の非共有流路端末バルブW3、W4を開き、導入流路222から移送液L5を導入して第2循環流路220を移送液L5で満たす。次いで、第1の捕捉部4における担体粒子-抗原-タンパク質複合体の捕捉を解除するとともに、ポンプPを駆動させることで、担体粒子-抗原-タンパク質複合体を第2循環流路220に移送する。
【0091】
第2循環流路220に移送された担体粒子-抗原-タンパク質複合体は、検出部3において、磁気センサー3aに固定された抗体Aと抗原が結合する。
【0092】
次いで、バルブW4を閉じ、空気流路226の空気流路バルブG2および排出流路227の排出流路バルブO3を開放し、アウトレット7aから負圧吸引する。これにより、担体粒子-抗原-タンパク質複合体と分離された移送液L5の液成分(廃液)を、第2循環流路から右回りに排出する。
【0093】
この後、複数の磁気センサー3aのそれぞれにおいて得られる信号を検出することにより、磁気センサー3aに固定された抗体Aに吸着した磁性粒子(すなわち、抗原)の量を測定することができる。
【0094】
上記の検出方法では、抗原を含む検体液L1と、抗体A1が固定化された担体粒子を含む第1試薬液L2と、抗体A2を含有する第2試薬液L3とを混合して担体粒子-抗原-タンパク質複合体を生成し、当該担体粒子-抗原-タンパク質複合体を磁気センサー3aに固定された抗体Aに吸着させる手順を例示したが、この手順に限定されない。例えば、まず、抗原を含む検体液L1と、抗体A2を含有する第2試薬液L3とを循環流路220で循環し混合して、抗体A2が固定化された抗原を抗体Aに結合させる(抗原・抗体混合)。
【0095】
次に、循環流路220を排液した後に、抗体A1が固定化された担体粒子を含む第1試薬液L2を循環流路220で循環し、磁気センサー3aにおける抗体Aに結合した抗原に固定された抗体A2に抗体A1を結合させる(抗原・抗体反応)ことにより、抗原に担体粒子を吸着させてもよい。この手順を採った場合についても、複数の磁気センサー3aのそれぞれにおいて得られる信号を検出することにより、磁気センサー3aに固定された抗体Aに吸着した磁性粒子(すなわち、抗原)の量を測定することができる。
【0096】
なお、検出部3が磁気センサーではなく、例えば、光を透過する部材で構成されており、外部装置に撮像素子を備える場合には、抗体A2に酵素を用い、担体粒子が吸着する抗原と抗体Aとが結合した後に、第2循環流路220の非共有流路端末バルブW3、W4を開き、導入流路224から基質液L6を導入して第2循環流路220を基質液L6で満たす(基質液導入工程)。基質液L6には、例えば酵素がアルカリフォスファターゼ(酵素)の場合、基質となる3-(2'-spiroadamantane)-4-methoxy-4-(3''-phosphoryloxy)phenyl-1, 2-dioxetane (AMPPD)、あるいは4-Aminophenyl Phosphate (pAPP)、4-Nitrophenyl Phosphate(pNPP)等が含有されている。基質液L6は、第2循環流路220内で担体粒子-抗原-酵素複合体の酵素と反応する。基質液L6と担体粒子-抗原-酵素複合体を第2循環流路220内で循環させることで、担体粒子-抗原-酵素複合体の酵素と反応させて第2の捕捉部4Aで発色させることができる。この発色を撮像素子で撮像することにより、反応生成物を検出できる。
【0097】
[ポンプPの駆動周波数による磁気センサーの検出変動の検証]
次に、ポンプPの駆動周波数が磁気センサーの検出ばらつき(変動)に与える影響の検証について説明する。
【0098】
この検証は、抗原を含む検体液L1と、ビオチンが標識された抗体A1を含有する第2試薬液L3とを循環流路220で循環し混合して、抗体A1が固定化された抗原を抗体Aに結合させた後に、ストレプトアビジンが固定化された担体粒子を含む第1試薬液L2を循環流路220で循環し、磁気センサー3aにおける抗体Aに結合した抗原に固定された抗体A1のビオチンにストレプトアビジンを結合させることにより、抗原に担体粒子を吸着させる手順を採った。各手順については、[表1]に示す仕様に設定された条件1~3をL18直交表に割り付けて行い、複数の磁気センサー3aにおける信号強度の上位10点を平均化して変動係数(C.V.(%))を算出した。表1におけるポンプPの駆動周波数は、第1相~第5相を1秒間で駆動する回数を示している。
【0099】
各条件においては、抗原として濃度25ng/mlのEGFR抗原を10μl定量して用い、抗体A2としてEGFR抗体を57μl定量して用い、抗体A1としてストレプトアビジンが固定されたψ30nmの磁性粒子を67μl定量して用いた。
【0100】
【表1】
【0101】
図20は、抗原・抗体反応時のポンプPの駆動周波数と磁気センサーが検出する信号強度との関係を示す図である。図20に示されるように、ポンプPの駆動周波数が高いほど磁気センサーの信号レベルが高いことを確認できた。
【0102】
図21は、抗原・抗体反応時のポンプPの駆動周波数とセンサー間ばらつき(C.V.(%)値)との関係を示す図である。図21に示されるように、ポンプPの駆動周波数が高いほど磁気センサー間のばらつきが小さく、例えば、ポンプPの駆動周波数が20Hzの場合は1Hzの場合と比較して、ばらつきが半減することを確認できた。
【0103】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0104】
例えば、上記実施形態では、バルブ部を3つ配置する構成を例示したが、4つ以上配置する構成であってもよい。また、上記実施形態では、カム部65は回転装置62が一回転する間に送液サイクルを二回実施可能である構成を例示したが、この構成に限定されず、回転装置62が一回転する間に送液サイクルを一回以下実施可能である構成や3回以上実施可能である構成であってもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、バルブ部V11~V13が円形状である構成を例示したが、例えば、楕円形状であってもよい。バルブ部V11~V13も形状及び大きさは、バルブ部V11~V13の間で同一であっても異なっていてもよい。例えば、3つのバルブ部V11~V13を用いる場合には、中央に位置するバルブ部(V12)が両側に位置するバルブ部(V11、V13)に対して大きい方が、より多くの溶液を流動させることが可能となり、送液効率が高い。
【0106】
また、上記実施形態では、バルブ部V11~V13毎に露出部(貫通孔)51~53を設ける構成としたが、この構成に限定されない。例えば、バルブ部V11~V13が含まれる大きさの露出部(貫通孔)を一つ設け、この一つの貫通孔を介してバルブ部V11~V13を駆動する構成であってもよい。この構成を採る場合には、露出部(貫通孔)をバルブ部V11~V13毎に設ける場合と比較して露出部(貫通孔)の位置精度を緩和することができ、流体デバイスの製造効率を向上させることができる。
【0107】
また、上記実施形態では、軟性部材60が3つのバルブ部V11~V13を含む大きさのシート状に形成される構成を例示したが、この構成に限定されない。例えば、図22に示すように、軟性部材60が3つのバルブ部V11~V13毎に分離し、それぞれ独立して設けられる構成であってもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、バルブ部V11~V13を75°間隔で配置する構成を例示したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、45°間隔で配置し、カム部65における山部65aと谷部65bとを90°間隔で配置してもよい。この構成を採る場合、周方向で隣り合うバルブ部V11とバルブ部V12を結ぶ直線と、周方向で隣り合うバルブ部V12とバルブ部V13とを結ぶ直線との間の角度は、135°である。この場合、押圧ピンP1~P3の摺動部73の下端がカム部65における谷部65bに支持された第2位置にあり全てのバルブ部V11~V13が流路40を開放した状態にすることが可能になる。全てのバルブ部V11~V13が流路40を開放した状態を原点とすることで、原点状態にあるときはポンプPにおいても流路40の一部とみなすことが可能になり、定量や廃液操作の際にも制御が容易なる。
【符号の説明】
【0109】
6…第1基材、 9…第2基材、 40…流路、 51~53…露出部(貫通孔)、 60…軟性部材(弾性材)、 62…回転装置、 65…カム部、 65a…山部、 65b…谷部、 100A、300…流体デバイス、 DR…駆動装置、 P1~P3…押圧ピン(移動部材)、 V11~V13…バルブ部、 SYS…システム
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