(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ガラス板、反射防止層付きガラス板、およびガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 19/00 20060101AFI20221012BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20221012BHJP
B24C 5/02 20060101ALI20221012BHJP
B24C 1/06 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C03C19/00 A
B24C11/00 G
B24C5/02 B
B24C11/00 D
B24C1/06
(21)【出願番号】P 2020528991
(86)(22)【出願日】2019-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2019026190
(87)【国際公開番号】W WO2020009081
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018127733
(32)【優先日】2018-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018177660
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲本 美砂
(72)【発明者】
【氏名】留野 暁
(72)【発明者】
【氏名】青嶋 有紀
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/113970(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043538(WO,A1)
【文献】特開2014-201445(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150187(WO,A1)
【文献】特開2013-242725(JP,A)
【文献】特開2017-001940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
B24C 1/00-11/00
G06F 3/041-3/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と、前記第1主面に対向する第2主面とを備え、
前記第1主面の直下に、加工変質層を有し、
前記第1主面の少なくとも一部において、要素の平均長さRSmが2500nm~6000nmであり、二乗平均平方根高さSqが3nm~45nmであり、スキューネスSskが負の値である、ガラス板。
【請求項2】
前記加工変質層は、前記ガラス板の他の部位が保有する水分量よりも多くの水分量を保有し、
前記加工変質層の平均水素濃度Hsと、前記加工変質層の下部に存在する内部領域の平均水素濃度Hbとの関係が、1<Hs/Hb<50を満たす請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
前記第1主面において、算術平均高さSaを前記要素の平均長さRSmで除した値が0.001~0.01である、請求項1または2に記載のガラス板。
【請求項4】
前記第1主面において、前記スキューネスSskが-3.0~-0.2である、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス板。
【請求項5】
前記第1主面におけるAl/Siの値と前記第2主面におけるAl/Siの値との差の絶対値が、0.1以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス板。但し、AlはX線光電子分光法により測定したAl2pの結合エネルギーのピーク面積であり、SiはX線光電子分光法により測定したSi2pの結合エネルギーのピーク面積である。
【請求項6】
前記第1主面において、最大山高さSpが20nm~250nmである、請求項1~5のいずれか1項に記載のガラス板。
【請求項7】
前記加工変質層の厚さが30nm~500nmである、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス板。
【請求項8】
前記ガラス板の反りの絶対値が、200μm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス板。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のガラス板と、
前記ガラス板の前記第1主面に形成される反射防止層とを備え、
前記第1主面の側から光を入射したときのヘイズが2.0%以下である、反射防止層付きガラス板。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のガラス板を製造する方法であって、
第1主面と、前記第1主面に対向する第2主面とを備えるガラス板の、前記第1主面に、ウェットブラスト処理を行う工程を備える、ガラス板の製造方法。
【請求項11】
前記ウェットブラスト処理において、前記ガラス板の表面に対する、砥粒を含むスラリーの噴射角度が25°~80°である、請求項10に記載のガラス板の製造方法。
【請求項12】
前記ウェットブラスト処理において、砥粒がアルミナであり、砥粒の平均粒子径が4μm以下である、請求項10または11に記載のガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板、反射防止層付きガラス板、およびガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
指またはペンによる入力で文字及び図形等の入力を行うことができるディスプレイ入力装置には、ディスプレイ装置の前面側に、ガラス等で構成される透明なカバー部材が配置されている。カバー部材として、書き味とディスプレイの解像度とを両立するガラス板や、手触り感に優れるガラス板が、提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2018-20942号公報
【文献】国際公開第2017/094683号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、手触り感、ペン入力における書き味及びディスプレイの解像度に優れるガラス板において、凹凸構造の形成によりガラス板の反りという問題が生じること、を見出した。
【0005】
本発明は、手触り感、ペン入力における書き味及びディスプレイの解像度に優れ、反りが抑制されたガラス板の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ガラス板の表面に形成される凹凸構造が特定の条件を満たすことで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、以下の構成により、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
第1主面と、前記第1主面に対向する第2主面とを備え、
前記第1主面の直下に、加工変質層を有し、
前記第1主面の少なくとも一部において、要素の平均長さRSmが2500nm~6000nmであり、二乗平均平方根高さSqが3nm~45nmであり、スキューネスSskが負の値である、ガラス板が、提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガラス板は、手触り感、ペン入力における書き味及びディスプレイの解像度に優れ、反りが抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明のガラス板1の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のガラス板及びその製造方法について、説明する。
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されない。
【0013】
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
(ガラス板)
図1は、本発明のガラス板1の一例を示す断面図である。ガラス板1は、第1主面2と、第1主面2に対向する第2主面3とを備える。第1主面2は、直下に加工変質層4を有する。すなわち、ガラス板1は、第1主面2側の最表面に、加工変質層4を有する。
【0015】
図1における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なる。
【0016】
ガラス板1としては、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス及びアルミノボロシリケートガラスが挙げられる。ガラス板1としては、特に、ソーダライムガラス又はアルミノシリケートガラスであることが好ましい。
【0017】
ガラス板1の厚さは、0.1~20mmであることが好ましい。タブレットやスマートフォンのカバーガラス用途において、ガラス板1の厚さは、0.3mm以上であることがさらに好ましく、0.4mm以上であることが特に好ましい。ガラス板1の厚さは、0.7mm以下であることがさらに好ましく、0.6mm以下であることが特に好ましい。また、デジタルサイネージ用途において、ガラス板1の厚さは、3mm以上であることがさらに好ましく、5mm以上であることが特に好ましい。ガラス板1の厚さは、15mm以下であることがさらに好ましく、10mm以下であることが特に好ましい。
【0018】
ガラス板1の第1主面2は、化学強化されていることが好ましい。この場合、化学強化された第1主面2の圧縮応力値は、200MPa~1000MPaであることが好ましい。また、化学強化された第1主面2の圧縮応力層の深さは、5μm~150μmであることが好ましい。さらに、第2主面3も、化学強化されていることが好ましい。
【0019】
ガラス板1は、第1主面2におけるAl/Siの値及び第2主面3におけるAl/Siの値の相対的差異(差の絶対値)が、0.1以下であることが好ましい。Al/Siの値の相対的差異が0.1以下であると、第1主面2に凹凸構造を形成したガラス板1において、第1主面2に生じた残留応力及び第2主面3に生じた残留応力の相対的差異を低減でき、ガラス板1の反りが抑制される。また、ガラス板1の第1主面2及び第2主面3が化学強化された場合、第1主面2の圧縮応力値及び第2主面3の圧縮応力値の相対的差異は、20MPa以下になり、化学強化したガラス板1の反りも抑制される。第1主面2におけるAl/Siの値及び第2主面3におけるAl/Siの値の相対的差異は、0.05以下であることがさらに好ましく、0.03以下であることが特に好ましい。
【0020】
Al/Siの値は、以下のように算出した値である。
【0021】
X線光電子分光計(PHI1500 VersaProbe:アルバックファイ社製)を用いて、ガラス板1の第1主面2及び第2主面3の、Al2pの結合エネルギー及びSi2pの結合エネルギーを測定した。Al2pの測定範囲は、70eV~80eVとし、エネルギーステップは0.1とし、積算回数は200回とした。Si2pの測定範囲は、96eV~111eVの範囲とし、エネルギーステップは0.1とし、積算回数は50回とした。Al/Siの値は、バックグラウンド補正後のAl2pの結合エネルギーピークのピーク面積を、バックグラウンド補正後のSi2pの結合エネルギーピークのピーク面積で除した値とした。なお、それぞれのエネルギーピークは、大気暴露によって生じるカーボンであるC1sのピークを284.5eVとして規格化した。
【0022】
本発明のガラス板1は、化学強化前の反りの絶対値が200μm以下であることが好ましい。化学強化前の反りの絶対値が200μm以下であると、化学強化後の反りの絶対値を300μm以下に制御することができる。なお、本発明において、ガラス板1の反りの絶対値は、厚さが0.5mmであり、四辺のそれぞれの長さが100mmであるガラス板を測定したときの値である。ガラス板1の反りの絶対値は、フラットネステスター(FT-17、ニデック社製)を用いて、測定した。なお、厚さが0.5mmであるガラス板1の反りの絶対値は、厚さの異なるガラス板1でも算出できる。一般的にガラス板の反りの絶対値は、ガラス板の厚さの二乗に反比例することが知られているためである。したがって、例えば、厚さが0.7mmで四辺のそれぞれの長さが100mmであるガラス板の反りの絶対値が100μmであった場合、厚さが0.5mmで四辺のそれぞれの長さが100mmであるガラス板の反りの絶対値は、上記知見に基づき、196μmと算出できる。
【0023】
(ガラス板の第1主面)
ガラス板1の第1主面2の少なくとも一部において、要素の平均長さRSmが2500nm~6000nmであり、二乗平均平方根高さSqが3nm~45nmであり、スキューネスSskが負の値である。
【0024】
「要素の平均長さRSm」は、JISB0601:2001で規定される粗さ曲線における凹凸の平均ピッチである。ガラス板1の第1主面2は、RSmが2500nm以上であると、ペン入力時に、滑りすぎず適度なひっかかり感があり書きやすくなる。さらに、RSmが2500nm以上であると、ガラス板1の第1主面2に生じる残留応力を低減でき、ガラス板1の反りが抑制できる。ガラス板1の第1主面2は、RSmが6000nm以下であると、ペン入力時に、ざらざらした凸凹感がなく滑らかに書きやすくなる。さらに、RSmが6000nm以下であると、ガラス板1の第1主面2に生じる残留応力を低減でき、ガラス板1の反りが抑制できる。RSmは、2600nm以上であることが好ましく、2800nm以上であることが特に好ましい。RSmは、5500nm以下であることが好ましく、5000nm以下であることが特に好ましい。
【0025】
「二乗平均平方根高さSq」は、ISO25178で規定される平均面からの距離の標準偏差である。ガラス板1の第1主面2は、Sqが3nm以上であると、指で触った時になめらかな触感となり、手触り感がよい。ガラス板1の第1主面2は、Sqが45nm以下であると、ザラザラ感を低減でき、ディスプレイの解像度とディスプレイの電源を切った際の透明感を高く保てる。Sqは、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることが特に好ましい。Sqは、40nm以下であることが好ましく、16nm以下であることが特に好ましい。
【0026】
「スキューネスSsk」は、ISO25178で規定される高さ分布の対称性を示す。ガラス板1の第1主面2は、Sskが負の値であると、谷が多い表面となり、ペンのような先端が固いもので繰り返し擦っても構造が崩れにくく、良い書き味が持続する。Sskは、-0.2以下であることが好ましく、-0.3以下であることがより好ましく、-0.5以下であることが特に好ましい。Sskは、-3.0以上であることが好ましく、-2.5以上であることがより好ましく、-2.0以上であることが特に好ましい。
【0027】
ガラス板1の第1主面2において、Sqが3nm~45nmであること及びSskが負の値であることは、第1主面2に、谷が多く、谷の深さが比較的均一であることを示している。このような表面形状を有するガラス板1の第1主面2は、手触り感、ペン入力における書き味及びディスプレイの解像度に優れる。さらに、ガラス板1の第1主面2において、RSmを2500nm~6000nmに制御することにより、第1主面2に生じる残留応力を低減でき、ガラス板1の反りが抑制される。
【0028】
ガラス板1は、第1主面2の直下に、凹凸構造の形成に起因した加工変質層4を有する。「加工変質層」とは、ガラス板1の他の部位が保有する水分量よりも多くの水分量を保有する領域のことである。ガラス板1は、保有する水分量の多い加工変質層4を有することで、反りが抑制される。ガラス板1の反りは、加工変質層4に生じる残留応力に起因する。加工変質層4が反りを抑制する詳細なメカニズムは不明だが、保有する水分量の多い加工変質層4は、ガラスを構成するネットワークの一部が切れて、ネットワークとしての運動性が高まった状態にあるため、加工変質層4に生じた残留応力が緩和され、ガラス板1の反りが抑制された、と本発明者らは考えている。
【0029】
加工変質層4の平均水素濃度Hsと、加工変質層4の下部に存在する内部領域の平均水素濃度Hbとの関係が、1<Hs/Hb<50を満たすことが好ましい。Hs/Hbが1超かつ50未満であると、加工変質層4の保有する水分量が多くなる。加工変質層4の保有する水分量が多くなると、ガラスを構成する結合が動きやすくなり、加工変質層4に生じた残留応力を緩和することで、ガラス板1の反りを抑制できる。内部領域とは、ガラス板の第1主面側から深さ500nmから1000nmまでの領域を指す。なお、平均水素濃度Hs及び平均水素濃度Hbは、以下のようにして算出する。
【0030】
(Hs/Hb算出法)
二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)を用いて、ガラス板1の1H-及び30Si-の強度の深さ方向プロファイルを取得する。その後、1H-プロファイルを30Si-プロファイルで除して、1H-/30Si-強度比の深さ方向プロファイルを得る。得られた1H-/30Si-強度比の深さ方向プロファイルより、加工変質層4の領域における平均1H-/30Si-強度比を加工変質層4の平均水素濃度Hsとする。同様に、得られた1H-/30Si-強度比の深さ方向プロファイルより、深さ500nmから1000nmまでの領域における平均1H-/30Si-強度比を、内部領域の平均水素濃度Hbとする。得られた加工変質層4の平均水素濃度Hsを内部領域の平均水素濃度Hbで除して、Hs/Hbを求める。Hs/Hbは、1.50以上であることがより好ましく、5.00以上であることがさらに好ましく、9.00以上であることが特に好ましく、10.0以上であることが最も好ましい。Hs/Hbは、45未満であることがより好ましく、40未満であることがさらに好ましく、35未満であることが特に好ましい。
ここで、加工変質層の水分量が多すぎる場合、ガラス板中の可溶性成分(例えばNa+等の金属イオン)と加工変質層の水分とが反応し、ガラス板表面が白濁することがあるので好ましくない。一方、ガラス板の反りを緩和するためには、加工変質層に適度な水分量があることが好ましい。具体的には、Hs/Hbが50以上になると、ガラス板に白ヤケ等が発生して欠点となるおそれがあるので、Hs/Hbは50未満であることが好ましい。
【0031】
なお、SIMSの測定条件は以下の通りである。
装置:アルバックファイ社製 ADEPT1010
一次イオン種:Cs+
一次イオンの加速電圧:5kV
一次イオンの電流値:500nA
一次イオンの入射角:試料面の法線に対して60°
一次イオンのラスターサイズ:300×300μm2
二次イオンの極性:マイナス
二次イオンの検出領域:60×60μm2(一次イオンのラスターサイズの4%)
中和銃の使用:有。
【0032】
加工変質層4の厚さは、30nm~500nmであることが好ましい。加工変質層4の厚さが30nm以上であると、RSmが2500nm~6000nm、Sqが3nm~45nm及びSskが負の値である凹凸構造を容易に作成できる。加工変質層4の厚さが500nm以下であると、加工変質層4に生じる残留応力を低減できるため、ガラス板1の反りを抑制できる。なお、本発明において、加工変質層4の厚さは、走査型プローブ顕微鏡で測定したガラス板1の表面のAFM像からSPIP(Scanning Image Procesror)を用いて算出した最大高さSzとした。加工変質層4の厚さは、40nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。加工変質層4の厚さは、400nm以下であることがさらに好ましく、300nm以下であることが特に好ましく、150nm以下であることが最も好ましい。
【0033】
加工変質層4の密度は、2.39g/cm3~2.51g/cm3であることが好ましい。加工変質層4の密度が2.39g/cm3~2.51g/cm3であると、加工変質層4に生じる残留応力を低減できるため、ガラス板1の反りを抑制できる。
【0034】
「算術平均高さSa/要素の平均長さRSm」は、粗さ曲線のなだらかさを示す。ガラス板1の第1主面2において、Sa(nm)/RSm(nm)は、0.001~0.01であることが好ましい。Sa/RSmが0.001以上であると、RSmが2500nm~6000nm、Sqが3nm~45nm及びSskが負の値である凹凸構造を容易に作製できる。Sa/RSmが0.01以下であると、粗さ曲線をなだらかにすることができ、加工変質層4に生じる残留応力を低減でき、ガラス板1の反りを抑制できる。Sa/RSmは、0.006以下であることがさらに好ましく、0.003以下であることが特に好ましい。
【0035】
「最大山高さSp」は、ISO25178で規定される平均面からの高さの最大値である。ガラス板1の第1主面2において、Spは、20nm~250nmであることが好ましい。Spが20nm以上であると、RSmが2500nm~6000nm、Sqが3nm~45nm及びSskが負の値である凹凸構造を容易に作製できる。Spが250nm以下であると、加工変質層4に生じる残留応力を低減でき、ガラス板1の反りを抑制できる。Spは、25nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることが特に好ましい。Spは、150nm以下であることがさらに好ましく、60nm以下であることが特に好ましい。
【0036】
ガラス板1は、第1主面2の側から光を入射して測定したヘイズが、2.0%以下であることが好ましい。ガラス板1のヘイズが2.0%以下であると、ガラス板1の第1主面2の上に反射防止層を備えた、反射防止層付きガラス板1のヘイズを、2.0%以下にできる。ガラス板1のヘイズは、1.0%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることが特に好ましい。ガラス板1のヘイズの下限値は、0.0%である。
【0037】
反射防止層は、高屈折率材料からなる層と低屈折率材料からなる層とを、交互に積層することにより構成できる。また、反射防止層は、膜の厚さ方向に屈折率が連続的に変化する傾斜構造を有していてもよい。ここで高屈折率材料からなる層の屈折率は1.70~2.70、低屈折率材料からなる層の屈折率は1.30~1.55であることが好ましい。これらの反射防止層の形成方法は特に限られない。例えば、電子ビーム蒸着や抵抗加熱などの蒸着法、CVD法、プラズマCVD法、スパッタリング法、または塗布法などで成膜されてもよい。
【0038】
(ガラス板の第2主面)
ガラス板1の第2主面3は、Saが0.0nm~0.2nmであり、RSmが10000nm~15000nmであることが好ましい。第2主面3のSa及びRSmが上記範囲であると、ディスプレイとの貼合性に優れ、ガラス板1のヘイズを2.0%以下に抑えることができる。
【0039】
ガラス板1の第2主面3に凹凸構造を形成する場合、第1主面2と同様に、RSmが2500nm~6000nmであり、Sqが3nm~45nmであり、Sskが負の値であることが好ましい。このような表面形状を有するガラス板1の第2主面3であれば、第2主面3に生じる残留応力を低減でき、第1主面2及び第2主面3に生じる残留応力差が低減され、ガラス板1の反りが抑制される。
【0040】
(ガラス板の製造方法)
ガラス板1の製造方法は、凹凸構造を形成する工程を含み、かかる工程として、ガラス板の表面に対する、湿式エッチング処理、研削処理、研磨処理、熱粗化処理、サンドブラスト処理、プラズマエッチング処理、ウェットブラスト処理が挙げられる。特に、湿式エッチング処理又はウェットブラスト処理が、好ましい。
【0041】
湿式エッチング処理は、弗酸、硫酸、フッ化アンモニウムを用いて行われる。
【0042】
ウェットブラスト処理は、砥粒と液体とを均一に撹拌してスラリーとしたものを、圧縮エアを用いて噴射ノズルからガラス板の表面に噴射する処理である。ウェットブラスト処理により、ガラス板の第1主面2の直下に加工変質層4を形成することが好ましい。砥粒を含むスラリーをガラス板の表面に噴射するウェットブラスト処理において、ガラス板の表面に対する噴射角度は25°~80°であることが好ましい。噴射角度は、ノズルから吐出されたスラリーの流れとガラス板の表面とのなす角のことである。ガラス板の表面に対する噴射角度が25°以上であると、加工変質層4の厚さを一定範囲に抑えつつ、手触り感、ペン入力による書き心地及びディスプレイの解像度に優れる凹凸構造を形成できる。噴射角度が80°以下であると、加工変質層4の厚さを500nm以下に抑えることができ、ガラス板1の反りが抑制される。噴射角度は、30°以上であることがより好ましく、40°以上であることが特に好ましい。噴射角度は、70°以下であることがより好ましく、60°以下であることが特に好ましい。
【0043】
砥粒の平均粒子径は、4μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが特に好ましい。砥粒の平均粒子径が4μm以下であると、反りと手触り感とディスプレイの解像度とを両立できる。なお、砥粒の平均粒子径は、走査型顕微鏡及び画像解析装置を用いて、任意の表面10000μm2における砥粒の最大長さを少なくとも20点測定し、それらを平均して求める。
【0044】
以上、本発明の一実施形態によるガラス板1の構成要素について説明した。これらは単なる一例であって、本発明のガラス板1がその他の構成、例えば反射防止層や指紋除去性層を有していてもよいことは、当業者に明らかである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。例1~例9は実施例であり、例10~例14は比較例である。
【0046】
(例1) ガラス板として、アルミノシリケートガラス(100mm×100mm×厚さ0.5mm)を2枚準備した。アルミノシリケートガラスの組成は、SiO2 64.3mol%、Al2O3 10.5mol%、Na2O 16.0mol%、K2O 0.8mol%、MgO 8.3mol%、ZrO2 0.2mol%であった。
【0047】
ガラス板の一方の主面に対し、ホワイトアルミナ砥粒(#6000、平均粒子径:2μm)と水とからなるスラリーを、噴射して、凹凸構造を形成した。ガラス板の表面に対する噴射角度は45°、ガラス板と噴射口との距離は30mm、処理速度は20mm/sec、噴射圧力は0.1MPa、処理回数は10回であった。
【0048】
スラリーを噴射後、ガラス板の表面を水で洗浄し、ガラス板1を得た。
一方、例1で得たガラス板1の第1主面2に、スパッタ法で反射防止層(AR膜)を成膜し、AR膜付きガラス板も得た。反射防止層は、酸化ニオブ層(厚さ14nm)/酸化ケイ素層(厚さ31nm)/酸化ニオブ層(厚さ113nm)/酸化ケイ素層(厚さ87nm)の4層構成とした。
【0049】
(例2~例9、例12~例14)
表1に示す構成とした以外は、例1と同様にして、ガラス板1を得た。なお、ホワイトアルミナ砥粒において、#4000の平均粒子径は3μm、#3000の平均粒子径は4μmである。
【0050】
なお、例9において、準備したアルミノシリケートガラスの組成を、SiO2 67.1mol%、Al2O3 13.1mol%、B2O3 3.6mol%、Na2O 13.7mol%、K2O 0.1mol%、MgO 2.4mol%とし、表1に示す構成とした以外は、例1と同様にして、ガラス板1及びAR膜付きガラス板を得た。
また、例2、例6、例9および例11においては、上記「Hs/Hb測定法」により必要なデータを取得してから、ガラス板1の第1主面におけるHs/Hbを算出した。
【0051】
(例10)
例10において、凹凸構造を形成しない以外は、例1と同様にして、ガラス板1及びAR膜付きガラス板を得た。
【0052】
(例11)
例11において、ウェットブラスト処理をサンドブラスト処理とした以外は、例1と同様にして、ガラス板を得た。サンドブラスト処理は、ホワイトアルミナ砥粒(#3000、平均粒子径:4μm)を投射圧0.2MPaで行った。
【0053】
【0054】
得られたガラス板について、RSm、Sa、Sq、Ssk、Sp、Sz、Al/Si、ヘイズ、反りの絶対値、手触り感、ペン入力における書き味及びディスプレイの解像度について、評価を行った。結果を表2に示す。
【0055】
(RSm)
レーザー顕微鏡(VK-X250、キーエンス社製)を用いて、凹凸構造を形成したガラス板1の第1主面2を測定し、RSmを得た。取得データ数は1024×768ピクセル、測定エリアは32μm×24μm、測定エリアにおける線粗さ計測は30か所以上とした。
【0056】
(Sa、Sq、Ssk、Sp、Sz)
走査型プローブ顕微鏡(SPI3800N、SIIナノテクノロジー社製)を用いて、凹凸構造を形成したガラス板1の第1主面2を測定し、AFM像を取得した。取得したAFM像を、SPIP(Scanning Image Procesror)により画像解析することで、Sa、Sq、Ssk、Sp、Szを得た。なお、3か所で得られたAFM像から得た値の平均値を、本発明におけるSa、Sq、Ssk、Sp、Szとした。走査エリアは一辺8μmの正方形領域、取得データ数は512×512、走査周波数は0.4kHz、とした。但し、例11では、走査エリアを一辺24μmの正方形領域とした。
【0057】
(Al/Si)
X線光電子分光計(PHI1500 VersaProbe:アルバックファイ社製)を用いて、ガラス板1の第1主面2及び第2主面3のAl2pの結合エネルギー及びSi2pの結合エネルギーを測定した。Al2pの測定範囲は、70eV~80eVとし、エネルギーステップは0.1とし、積算回数は200回とした。Si2pの測定範囲は、96eV~111eVの範囲とし、エネルギーステップは0.1とし、積算回数は50回とした。Al/Siの値は、バックグラウンド補正後のAl2pの結合エネルギーピークのピーク面積を、バックグラウンド補正後のSi2pの結合エネルギーピークのピーク面積で除した値とした。なお、それぞれのエネルギーピークは、大気暴露によって生じるカーボンであるC1sのピークを284.5eVとして規格化した。また、バックグラウンド補正は、X線光電子分光計に付属したソフト(MultiPak)のBackgroundSubtract(Truncate)機能を使用した。
【0058】
第1主面2におけるAl/Siの値及び前記第2面主面におけるAl/Siの値の相対的差異は、第1主面におけるAl/Siの値から第2主面におけるAl/Siの値を減じた値の絶対値とした。
【0059】
(ヘイズ)
ヘイズメーター(HZ-2、スガ試験機社製)を用いて、凹凸構造を形成したガラス板1の第1主面2側から光を入射し、JISK7361に準拠する条件で、ヘイズを測定した。なお、3か所で得られた値の平均値を、本発明に係るガラス板1のヘイズとした。
(ヘイズAR)
ヘイズメーター(HZ-2、スガ試験機社製)を用いて、第1主面にAR膜が形成されたガラス板1の第1主面2側から光を入射し、JISK7361に準拠する条件で、ヘイズを測定した。なお、3か所で得られた値の平均値を、AR膜付きガラス板のヘイズとした。
【0060】
(反りの絶対値)
フラットネステスター(FT-17、ニデック社製)を用いて、ガラス板1の反りを測定し、反りの絶対値を得た。ガラス板1の厚さは0.5mmで、四辺のそれぞれの長さは100mmであった。
【0061】
なお、例1及び例4で得られたガラス板1を化学強化した後、反りを測定したところ、10.1μm及び2.2μmであった。化学強化処理は、硝酸カリウムを含む450℃の溶融塩に、ガラス板1を2時間浸漬する条件で行った。
【0062】
(手触り感)
触感計(Type33、新東科学社製)を用いて、凹凸構造を形成したガラス板1の第1主面2における動摩擦係数を測定した。動摩擦係数は、ガラス板1の第1主面2にニトリル手袋をした指を接触させた状態で移動した時に、垂直方向にかかる力と進行方向にかかる力とを測定し、算出した。なお、動摩擦係数は、3か所で得られた値の平均値とした。◎:動摩擦係数が2.0以下。○:動摩擦係数が2.0以上~2.5未満。×:動摩擦係数が2.5以上。
【0063】
(ペン入力における書き味)
凹凸構造を形成したガラス板1の第1主面2に対して、ペンにより文字及び図形等の入力を行った際の書き味を、官能試験により評価した。ペンとしてワコム社製プロペン(KP-503E)を使用し、ガラス板1の第1主面2上での書き味が、紙上でのHBのシャープペンシルの書き味と感覚的とほぼ一致している場合を◎とし、当該書き味に近い場合を○とし、当該書き味よりも滑りやすい、滑りにくいなど感覚的に異なる場合を×として、書き味の判定を行った。
【0064】
(ディスプレイの解像度)
ディスプレイ装置の前面側に、ガラス板1を配置した場合の、ディスプレイ装置に表示される映像の解像度について評価を行った。◎:鮮明な映像が見え、像に滲みが見られない。○:映像が十分に視認できるが、僅かに像の滲みが見られる。×:映像が不鮮明であり、かつ像の滲みが目立つ。
【0065】
【0066】
例1~例9で得られたガラス板1は、手触り感、ペン入力における書き味及びディスプレイの解像度に優れ、反りが抑制されていた。例10で得られたガラス板は、反りとディスプレイの解像度に優れていたものの、手触り感とペン入力における書き味が劣っていた。例11で得られたガラス板は、手触り感とペン入力における書き味とに優れていたものの、反りとディスプレイの解像度とが劣っていた。例12~例14で得られたガラス板は、手触り感とディスプレイの解像度とに優れていたものの、ペン入力における書き味と反りとに劣っていた。なお、触感、解像度等は、AR膜をつけても、AR膜なしと比べて大きく変わらない。
【0067】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2018年7月4日出願の日本特許出願(特願2018-127733)、2018年9月21日出願の日本特許出願(特願2018-177660)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のガラス板1は、ディスプレイ入力装置用のカバー部材として有用である。
【符号の説明】
【0069】
1:ガラス板
2:第1主面
3:第2主面
4:加工変質層