(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】触媒成形体、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸製造用の触媒成形体、並びに、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20221012BHJP
B01J 27/192 20060101ALI20221012BHJP
C07C 45/35 20060101ALI20221012BHJP
C07C 47/22 20060101ALI20221012BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
B01J35/02 301A
B01J27/192 Z
C07C45/35
C07C47/22 A
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021509649
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014138
(87)【国際公開番号】W WO2020196853
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2019059974
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲史
(72)【発明者】
【氏名】西木 健介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】藤森 祐治
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-109946(JP,A)
【文献】特開2008-155126(JP,A)
【文献】特開2013-192988(JP,A)
【文献】国際公開第2012/141076(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選択される1以上の化合物からメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を製造する触媒成形体であって、
触媒成形体の密度(g/cm
3)をX、触媒成形体の充填嵩密度(g/cm
3)をY、触媒成形体の代表長さ(cm)をZとする場合、下記式(1)及び(2)を満た
し:
0.700(g/cm
3)
2≦(X×Y)≦1.200(g/cm
3)
2 ・・・式(1)
0.050g/cm
2≦(X×Z)≦0.130g/cm
2・・・式(2)
前記Xが、1.300g/cm
3
以上1.800g/cm
3
以下、前記Yが、0.500g/cm
3
以上0.815g/cm
3
以下、前記Zが、0.062cm以上0.100cm以下であり、
前記触媒成形体が、下記式(A)で表される組成を有する触媒成形体:
Mo
a
Bi
b
Fe
c
M
d
X
e
Y
f
Z
g
Si
h
O
i
(A)
(式(A)中、Mo、Bi、Fe、Si及びOは、それぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは、各元素の原子比率を表し、a=12のとき、b=0.01~3、c=0.01~5、d=1~12、e=0~8、f=0~5、g=0.001~2、h=0~20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
ただし、前記Zは、下記式により算出される値とする:
触媒成形体の代表長さZ(cm)=触媒成形体の体積(cm
3
)÷触媒成形体の外表面積(cm
2
)。
【請求項2】
前記Xが、1.300g/cm
3以上
1.700g/cm
3以下である、請求項1に記載の触媒成形体。
【請求項3】
前記Yが、
0.600g/cm
3以上
0.815g/cm
3以下である、請求項1又は2に記載の触媒成形体。
【請求項4】
前記Zが、
0.062cm以上
0.090cm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒成形体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の触媒成形体の存在下で、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルからなる群から選択される1以上の化合物を、分子状酸素により気相接触酸化する、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒成形体、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸製造用の触媒成形体、並びに、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、触媒の存在下で、イソブチレン、tert-ブチルアルコール、メチル-tert-ブチルエーテル等を分子状酸素により気相接触酸化させることにより、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸が製造することが知られており、該触媒として様々な組成や形状を有する触媒が提案されており、さらには多様の触媒製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、少なくともモリブデン、ビスマス、及び鉄を含み、β-1,3-グルカン及び液体を加えて混練りした押出成形した触媒が提案されている。特許文献2には、中空円筒形触媒成形体であり、該円筒形の内径及び外径比を特定の値とする触媒成形体が提案されている。特許文献3には、累積細孔容積及びマクロ細孔の容積、比表面積と充填嵩密度を調整した触媒が提案されている。また、特許文献4及び5には、触媒調製時に特定の工程を追加することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-282695号公報
【文献】特表2016-538120号公報
【文献】特開2010-188276号公報
【文献】特開2008-155126号公報
【文献】特開平9-57105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1~5に記載された触媒を用いて気相酸化反応によりメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を製造した場合、原料化合物の反応率、並びに、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率が十分でない可能性があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑み鋭意検討の結果、本発明者らは特定の触媒成形体を用いることにより、高い原料化合物の反応率を維持したまま、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸を高い選択率で得られることを見出し、本発明を達成するに至った。すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0007】
[1]イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルから選択される1以上の化合物からメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を製造する触媒成形体であって、
触媒成形体の密度(g/cm3)をX、触媒成形体の充填嵩密度(g/cm3)をY、触媒成形体の代表長さ(cm)をZとする場合、下記式(1)及び(2)を満たし:
0.700(g/cm3)2≦(X×Y)≦1.200(g/cm3)2 ・・・式(1)
0.050g/cm2≦(X×Z)≦0.130g/cm2・・・式(2)
前記Xが、1.300g/cm
3
以上1.800g/cm
3
以下、前記Yが、0.500g/cm
3
以上0.815g/cm
3
以下、前記Zが、0.062cm以上0.100cm以下であり、
前記触媒成形体が、下記式(A)で表される組成を有する触媒成形体:
Mo
a
Bi
b
Fe
c
M
d
X
e
Y
f
Z
g
Si
h
O
i
(A)
(式(A)中、Mo、Bi、Fe、Si及びOは、それぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは、各元素の原子比率を表し、a=12のとき、b=0.01~3、c=0.01~5、d=1~12、e=0~8、f=0~5、g=0.001~2、h=0~20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
ただし、前記Zは、下記式により算出される値とする:
触媒成形体の代表長さZ(cm)=触媒成形体の体積(cm
3
)÷触媒成形体の外表面積(cm
2
)。
[2]前記Xが、1.300g/cm3以上、1.700g/cm3以下である、[1]に記載の触媒成形体。
[3]前記Yが、0.600g/cm3以上、0.815g/cm3以下である、[1]又は[2]に記載の触媒成形体。
[4]前記Zが、0.062cm以上、0.090cm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の触媒成形体。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の触媒成形体の存在下で、イソブチレン、tert-ブチルアルコール及びメチル-tert-ブチルエーテルからなる群から選択される1以上の化合物を、分子状酸素により気相接触酸化する、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い原料化合物の反応率を維持したまま、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸を高い選択率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、以下に説明する実施形態は、本発明の一実施形態の一例(代表例)であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下、本発明の一実施形態に係る触媒成形体を用いてメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を製造する形態について説明する。なお、本発明において触媒成形体とは、触媒成分を成形して得られた触媒を意味するものとする。
【0010】
<触媒成形体>
本実施形態に係る触媒成形体は、触媒成形体の密度(g/cm3)をX、触媒成形体の充填嵩密度(g/cm3)をY、触媒成形体の代表長さ(cm)をZとする場合、下記式(1)及び(2)を満たす触媒成形体である。
【0011】
0.700(g/cm3)2≦(X×Y)≦1.200(g/cm3)2 ・・・式(1)
【0012】
0.050g/cm2≦(X×Z)≦0.130g/cm2・・・式(2)
【0013】
なお、本発明において、触媒成形体の密度X、触媒成形体の充填嵩密度Y及び触媒成形体の代表長さZは、後述の実施例に記載の方法により算出される値を意味するものとする。
【0014】
触媒成形体が上記式(1)及び(2)を満たすことにより、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸を、高い原料反応率を維持したまま、高い選択率で製造することができる。このメカニズムは明らかではないが、上記式(1)及び(2)を満たす触媒成形体は、触媒成形体の密度及び形状が適切に制御された触媒成形体が適切に充填されることになるために、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸を高い原料反応率及び高い選択率で製造することができるものと考えられる。
【0015】
上記式(1)の中でも、(X×Y)の値は、原料化合物の反応率向上、及び目的生成物の選択率向上の観点から、0.750(g/cm3)2以上であることが好ましく、0.790以上であることがより好ましく、0.800(g/cm3)2以上であることがさらに好ましく、一方、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、1.170以下であることが好ましく、1.150(g/cm3)2以下であることがより好ましく、1.100(g/cm3)2以下であることがさらに好ましい。
【0016】
上記式(2)の中でも、(X×Z)の値は、原料化合物の反応率向上、及び目的生成物の選択率向上の観点から、0.055g/cm2以上であることが好ましく、0.060g/cm2以上であることがさらに好ましく、0.065g/cm2以上であることが特に好ましく、0.070g/cm2以上であることが最も好ましく、一方、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、0.125g/cm2以下であることが好ましく、0.120g/cm2以下であることがさらに好ましい。
【0017】
触媒成形体の密度Xは、触媒成形体が上記式(1)及び(2)を満たす限りにおいて、特段の制限はないが、原料化合物の反応率向上、及び目的生成物の選択率向上の観点から、1.300g/cm3以上であることが好ましく、1.350g/cm3以上であることがさらに好ましく、1.400g/cm3以上であることが特に好ましく、一方、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、1.800g/cm3以下であることが好ましく、1.750g/cm3以下であることが更に好ましく、1.700g/cm3以下であることが特に好ましい。
【0018】
触媒成形体の充填嵩密度Yは、触媒成形体が上記式(1)を満たす限りにおいて、特段の制限はないが、原料化合物の反応率向上、及び目的生成物の選択率向上の観点から、0.500g/cm3以上であることが好ましく、0.550g/cm3以上であることがさらに好ましく、0.600g/cm3以上であることが特に好ましく、一方、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、0.800g/cm3以下であることが好ましく、0.750g/cm3以下であることが更に好ましく、0.700g/cm3以下であることが特に好ましい。
【0019】
触媒成形体の代表長さZは、触媒成形体が上記式(2)を満たす限りにおいて、特段の制限はないが、原料化合物の反応率向上、及び目的生成物の選択率向上の観点から、0.030cm以上であることが好ましく、0.035cm以上であることがさらに好ましく、0.040cm以上であることが特に好ましく、0.050cm以上であることが最も好ましく、一方、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、0.100cm以下であることが好ましく、0.095cm以下であることが更に好ましく、0.090cm以下であることが特に好ましい。
【0020】
触媒成形体の体積は、特段の制限はないが、原料化合物の反応率向上、及び目的生成物の選択率向上の観点から、0.050cm3以上であることが好ましく、0.060cm3以上であることがさらに好ましく、0.070cm3以上であることが特に好ましく、一方、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、1.000cm3以下であることが好ましく、0.800cm3以下であることがより好ましく、0.500cm3以下であることがさらに好ましく、0.300cm3以下であることが特に好ましい。なお、本発明において触媒成形体の体積とは、例えば、触媒成形体が中空筒状のような場合、空間部分を除いた体積を意味する。
【0021】
触媒成形体の外表面積は、特段の制限はないが、高い原料反応率を維持しつつ高い選択率でメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を製造するために、0.500cm2以上であることが好ましく、0.700cm2以上であることがさらに好ましく、0.800cm2以上であることが特に好ましく、一方、5.000cm2以下であることが好ましく、4.000cm2以下であることが更に好ましく、3.000cm2以下であることが特に好ましい。なお、触媒成形体の外表面積は幾何学的な表面積を指す。
【0022】
触媒成形体の質量は、特段の制限はないが、原料化合物の反応率向上、及び目的生成物の選択率向上の観点から0.050g以上であることが好ましく、0.080g以上であることがさらに好ましく、0.100g以上であることが特に好ましく、一方、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、0.300g以下であることが好ましく、0.280g以下であることが更に好ましく、0.250g以下であることが特に好ましい。
【0023】
触媒成形体の形状は、特に限定されないが、例えば、球状、円筒状、リング状、星型状等とすることができる。なかでも、リング状であることが好ましい。
【0024】
また、触媒成形体は、担体に担持されていてもよい。この場合、担体としてはシリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、マグネシア、チタニア、シリコンカーバイト等を用いることができる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。なお、担体を使用する場合、上記のなかでもシリカを使用することが好ましい。なお、本発明において、触媒成分を担持するために担体を使用する場合、担体も含めて触媒成形体と称すものとする。
【0025】
触媒成形体の平均径は、特段の制限はないが、触媒反応時の圧損の上昇を抑制し、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸を長期に渡り安定して製造するために、リング状または円筒状、球状の形状を有する場合、その外径は0.10cm以上であることが好ましく、0.15cm以上であることがさらに好ましく、0.20cm以上であることが特に好ましく、一方、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、1.00cm以下であることが好ましく、0.90cm以下であることが更に好ましく、0.80cm以下であることが特に好ましい。
【0026】
触媒成形体の平均細孔容積は、特段の制限はないが、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、0.100cm3/g以上であることが好ましく、0.200cm3/g以上であることがさらに好ましく、0.300cm3/g以上であることが特に好ましく、一方、触媒成形体に十分な強度を持たせメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を長期に渡り安定して製造するために、1.000cm3/g以下であることが好ましく、0.900cm3/g以下であることが更に好ましく、0.800cm3/g以下であることが特に好ましい。なお、触媒成形体の平均細孔容積は水銀圧入測定装置等で測定することができる。
【0027】
触媒成形体を構成する触媒成分は、特段の制限はないが、イソブチレン、tert-ブチルアルコール、メチル-tert-ブチルエーテル等からメタクロレイン及び/又はメタクリル酸の製造が可能となるような触媒組成であることが好ましい。具体的には、触媒成形体は複数の触媒成分を含む複合酸化物であることが好ましい。具体的には、触媒成形体は、触媒成分として、モリブデン、ビスマス及び鉄を含むことが好ましい。以下に、モリブデン、ビスマス及び鉄を必須成分とする触媒成形体の好ましい形態について説明する。
【0028】
モリブデンに対するビスマスの原子比は特段の制限はないが、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、モリブデン12原子に対するビスマスの原子比は0.01以上であることが好ましく、0.10以上であることがさらに好ましく、0.20以上であることが特に好ましく、一方、3.00以下であることが好ましく、2.00以下であることがさらに好ましく、1.50以下であることが特に好ましい。
【0029】
モリブデンに対する鉄の原子比は特段の制限はないが、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の選択率向上のために、モリブデン12原子に対する鉄の原子比は0.01以上であることが好ましく、0.10以上であることがさらに好ましく、0.50以上であることが特に好ましく、一方、5.00以下であることが好ましく、4.00以下であることがさらに好ましく、3.00以下であることが特に好ましい。
【0030】
また、触媒成形体は上記以外の元素を含有していてもよい。このような元素として特段の制限はないが、コバルト、ニッケル、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、亜鉛、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン、チタン、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、又はタリウムが挙げられる。
【0031】
なかでも、触媒成形体は、コバルト及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、を含有することが好ましい。
【0032】
上記のなかでも、触媒成形体は下記式(A)で表される組成を有することが特に好ましい。
【0033】
MoaBibFecMdXeYfZgSihOi (A)
(式(A)中、Mo、Bi、Fe、Si及びOは、それぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは、各元素の原子比率を表し、a=12のとき、b=0.01~3、c=0.01~5、d=1~12、e=0~8、f=0~5、g=0.001~2、h=0~20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)なお、該触媒の組成は各元素の原料仕込み量から算出した値である。
【0034】
なお、上記式(A)中のM、X、Y及びZは、それぞれ複数の元素で構成されていてもよい。また、M、X、Y及びZは、それぞれ複数の元素で構成されている場合、d、e、f及びgはそれぞれ、モリブデン12原子に対する各元素の合計原子比を表すものとする。
【0035】
式(A)中、Mはコバルト及びニッケルを含むことが好ましい。
【0036】
式(A)中、Xは鉛であることが好ましい。
【0037】
式(A)中、Yはリン、アンチモン、及びタングステンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、少なくともタングステンを含むことが特に好ましい。
【0038】
式(A)中、Zはセシウムであることが好ましい。
【0039】
式(A)中、bは0.10以上であることがより好ましく、0.20以上であることがさらに好ましく、一方、2.00以下であることが好ましく、1.50以下であることがさらに好ましい。
【0040】
式(A)中、cは0.10以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましく、一方、4.00以下であることが好ましく、3.00以下であることがさらに好ましい。
【0041】
式(A)中、dは2.00以上であることがより好ましく、3.00以上であることがさらに好ましく、一方、11.00以下であることが好ましく、10.00以下であることがさらに好ましい。
【0042】
式(A)中、eは0.01以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましく、一方、5.00以下であることがより好ましく、2.00以下であることがさらに好ましく、1.00以下であることが特に好ましい。
【0043】
式(A)中、fは0.10以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましく、一方、4.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。
【0044】
式(A)中、gは0.01以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましく、一方、1.50以下であることが好ましく、1.00以下であることがさらに好ましい。
【0045】
触媒成形体がシリカ担体を含有する場合、式(A)中、hは0.10以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましく、一方、15.0以下であることが好ましく、12.00以下であることがさらに好ましい。
【0046】
<触媒成形体の製造方法>
以下、本発明において使用する触媒成形体の製造方法について説明する。
【0047】
本発明に係る触媒成形体の製造方法は特に限定されず、公知の種々の方法を適用できる。例えば、モリブデン、ビスマス及び鉄等の触媒成分を含む水性スラリーを製造・乾燥し、必要に応じて粉砕して成形した後、熱処理して触媒成形体を得る方法が挙げられる。
【0048】
このような水性スラリーを製造する方法は特に限定されず、公知の、共沈法、酸化物混合法等の種々の方法を用いることができる。以下、代表例として共沈法における触媒成形体の製造例を示す。
【0049】
前記水性スラリーを製造するために用いられる触媒成分の原料は特に限定されず、触媒成分を構成する各元素の酸化物、塩化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、又はそれらの混合物を用いることができる。例えば、モリブデンの原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン等を用いることができる。ビスマスの原料としては酸化ビスマス、硝酸ビスマス等を用いることができる。鉄の原料としては硝酸第二鉄、酸化第二鉄等を用いることができる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。他の元素についても公知の化合物を使用することができる。なお、各原料の比率は、所望の触媒組成が得られるように適宜調整すればよい。
【0050】
また、二種以上の原料を用いる場合、撹拌しながら各原料を混合して水性スラリーを製造することが好ましい。撹拌しながら混合を行うことにより、再現性良く調製することができる。
【0051】
撹拌の方法については特に限定されず、回転翼攪拌機、高速回転剪断攪拌機(ホモジナイザー)等の回転式撹拌装置、振り子式の直線運動型攪拌機、容器ごと撹拌する振とう機、超音波等を用いた振動型攪拌機等の公知の撹拌装置が挙げられるが、撹拌装置としては強度を容易に調節することができ、工業上簡便であることから、回転翼攪拌機、高速回転剪断攪拌機(ホモジナイザー)等の回転式撹拌装置を用いることが好ましい。回転式撹拌装置における撹拌翼または回転刃の回転速度は、液の飛散等の不都合が起きない程度に、容器、撹拌翼、邪魔板等の形状、液量等を勘案して適宜調整すればよい。
【0052】
また、各原料を混合した後は、加熱処理を行うことが好ましい。
【0053】
加熱処理の条件としては、特段の制限はないが、処理温度は70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがさらに好ましく、一方、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることが特に好ましい。また、加熱時間は10分間以上であることが好ましく、一方、加熱処理時間についての上限は特にないが、5時間以下であることが好ましい。加熱処理を行うことにより、高性能な触媒を再現性良く調製することができる。
【0054】
得られた水性スラリーを基に後述の成形により触媒成形体を製造することができるが、成形前に水性スラリーを乾燥させて乾燥粉体の状態にして成形を行うことが好ましい。水性スラリーを乾燥する方法は特に限定されず、例えば、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法、スラリードライヤーを用いて乾燥する方法、ドラムドライヤーを用いて乾燥する方法、蒸発乾固して得られた塊状の乾燥物を粉砕する方法等が挙げられる。乾燥条件は、例えば、スプレー乾燥機を用いて乾燥する場合、入口温度は100~500℃が好ましく、110~300℃がより好ましい。また、出口温度は100~300℃が好ましく、105~200℃がより好ましい。前記条件で乾燥を行うことで、一定の嵩密度の乾燥物を再現性良く得ることができ、本発明における要件を満たす触媒成形体を再現性良く製造することができる。
【0055】
このようにして得られた乾燥粉体は触媒原料等に由来する硝酸等の塩を含んでいる場合がある。そのため、このような塩を脱離するために乾燥粉体を焼成することが好ましいが、乾燥粉体を成形した後に焼成すると塩が分解して触媒成形体の強度が低下する場合がある。このため、乾燥粉体を成形する前に焼成を行うことが好ましい。また、塩を脱離する目的で、乾燥粉体の一次焼成を行い、後述する成形を行った後に最終的な触媒活性点構造を形成するための二次焼成を行ってもよい。また、一次焼成と二次焼成を行い、その後に成形を実施してもよい。
【0056】
各焼成温度は200~600℃が好ましく、300~550℃であることがより好ましい。この範囲の温度で焼成を行うことにより高性能な触媒成形体が得られる傾向がある。また、所定の温度に到達してから熱処理を持続する時間については特に限定はないが、生産性高く高性能な触媒成形体を製造するために、0.5~15時間の範囲で行うことが好ましく、1~10時間の範囲で行うことがより好ましく、1.5~8時間の範囲で行うことがより好ましい。
【0057】
また、成形を行う直前の乾燥粉体の嵩密度は、0.500(g/ml)~1.500(g/ml)であることが好ましい。この値の範囲の乾燥粉体を用いることで、上述に記載した充填嵩密度を有する触媒成形体を再現性良く製造することができる。
前記乾燥粉体の嵩密度は、乾燥を行う際の温度や時間を制御することで適宜調整することができる。一般に乾燥時の温度が高く乾燥時間が長い程、乾燥粉体の嵩密度は大きくなり、温度が低く乾燥時間が短い程、嵩密度が小さくなる傾向がある。
【0058】
また、本発明において、触媒成形体が式(1)及び(2)を満たすようにするには、触媒成形体の、質量、嵩密度、外表面積及び体積を調整する必要があるが、これらは成形時の条件を公知の方法により適宜調整すればよい。
【0059】
焼成前又は焼成後の乾燥粉体の成形方法は特に限定されず、打錠成形、押出し成形、担体への担持等の種々の成形方法を用いることができる。
また、成形に際しては、成形物の比表面積、細孔容積及び細孔分布を制御したり、機械的強度を高めたり、成形時のハンドリング性を高めたりする目的で、グラファイトやケイソウ土等の無機化合物、ガラス繊維、セラミックファイバーや炭素繊維等の無機ファイバー、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の有機バインダーを添加してもよい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
有機バインダーを使用する場合の使用量は、粒子の種類や大きさ、液体の種類等により適宜選択されるが、通常は粒子100質量部に対して0.05~15質量部であり、好ましくは0.1~10質量部である。有機バインダーの添加量が多くなるほど、成形性が向上する傾向があり、少なくなるほど、成形後の熱処理等の後処理が簡単になる傾向がある。
【0060】
なお、式(1)を満たす触媒成形体を製造するには、触媒の密度及び充填性を制御する必要がある。触媒の密度は例えば、湿式押出成形の場合は乾燥粉に加える液体の量や、混練物を押出成形する際の圧力で調整することができるが、乾燥粉に加える液体の量のみで制御した場合、触媒の充填性が悪化することがあるため混練物の押出圧力を併せて制御することが好ましい。押出成形する際の圧力は、押出機のダイス開口率や、そこから排出される混練物の排出速度で調整できる。打錠成形であれば乾燥粉の密度や圧縮圧力で調整することができる。触媒の充填性は例えば、触媒の密度に加え、成形時に加える添加材などで調整することができる。
なお、本発明において、押出機のダイス開口率は以下のように定義される。
押出機のダイス開口率(%)=(ダイスの開口部の総面積/押出機のシリンダー断面積)×100
また、式(2)を満たす触媒成形体を製造するには、触媒の密度及び形状を制御する必要がある。触媒の形状は成形する際のダイスの形状などで調整することができる。
【0061】
<メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の製造方法>
本実施形態に係る触媒は、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸の製造において有効である。具体的には、本実施形態に係る触媒の存在下に、反応原料であるイソブチレン、tert-ブチルアルコール、メチル-tert-ブチルエーテル等を分子状酸素により気相接触酸化することにより、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸を製造することができる。なお、当該反応は、通常、固定床反応で行う。また、触媒は1種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、必要に応じて触媒をシリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、シリコンカーバイト、チタニア、マグネシア、セラミックボールやステンレス鋼等の不活性担体を用いて希釈して使用してもよい。さらに、組成や活性の異なる触媒を混合して使用してもよい。この場合も、不活性担体を用いて希釈してもよい。
【0062】
前記固定床反応器としては、熱媒循環による管型の反応器を用いることが好ましい。反応管は1本のみ備えた単管式を用いてもよいが、工業的には複数の反応管を備えた多管式反応器を使用することが好ましい。この場合、該反応器は除熱設備を有していることが好ましい。反応管の長さは数cmから数m程度まで、製造する量に応じて適宜選択することができる。
【0063】
原料ガス中の反応原料であるイソブチレン、tert-ブチルアルコール、メチル-tert-ブチルエーテルの合計濃度は、特段の制限はないが、1~20容量%とするのが好ましい。
【0064】
原料ガスは反応原料と分子状酸素以外に水蒸気を含んでいることが好ましい。原料ガス中の水蒸気の濃度は、1~45容量%が好ましい。水蒸気は、また、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈して用いることが好ましい。
【0065】
酸素分子に対する、原料であるイソブチレン、tert-ブチルアルコール、メチル-tert-ブチルエーテルの合計のモル比は、特段の制限はないが、50モル%以上であることが好ましく、一方、300モル%以下であることが好ましい。なお、分子状酸素は純酸素ガスでもよいが、工業的には、空気であることが好ましい。反応中の反応圧力は特段の制限はなく、常圧ないし数気圧まで用いられる。また、反応温度は250~450℃の範囲が好ましい。
【0066】
当該反応は管型の固定床反応器により行うことが好ましいが、使用する反応管の管径は、触媒成形体を均一に充填しメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を長期に渡り安定して製造するために、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがさらに好ましく、一方、反応によって生じる熱を効率的に除去しメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を安定して製造するために、100mm以下であることが好ましく、80mm以下であることが特に好ましい。
【0067】
反応管に供給する原料の触媒への接触時間は、十分な転化率を得るために、0.1秒以上であることが好ましく、1.0秒以上であることがさらに好ましく、一方、高い選択率を得るために、10.0秒以下であることが好ましく、8.0秒以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明において、イソブチレンの反応率、生成したメタクロレインおよびメタクリル酸の選択率はそれぞれ以下のように定義される。
【0069】
イソブチレンの反応率(%)=(反応したイソブチレンのモル数/供給したイソブチレンのモル数)×100
【0070】
メタクロレインの選択率(%)=(生成したメタクロレインのモル数/反応したイソブチレンのモル数)×100
【0071】
メタクリル酸の選択率(%)=(生成したメタクリル酸のモル数/反応したイソブチレンのモル数)×100
【0072】
また、触媒成形体の密度X(g/cm3)、触媒成形体の充填嵩密度Y(g/cm3)、及び触媒成形体の代表長さZ(cm)は、それぞれ下記式により算出した。
【0073】
触媒成形体の密度X(g/cm3)=触媒成形体の質量(g)÷触媒成形体の体積(cm3)
なお、触媒成形体が幾何学形状の中空部分を有する場合、触媒成形体の体積に、該中空部分は含まないものとした。
【0074】
触媒成形体の充填嵩密度Y(g/cm3)は、JIS-K 7365に準拠する方法により触媒成形体を100mlメスシリンダーに充填した際の触媒成形体の総質量から算出した。具体的には下記式により算出した。
【0075】
充填嵩密度Y(g/cm3)=充填した際の触媒成形体の総質量(g)÷100(ml)
【0076】
触媒成形体の代表長さZ(cm)=触媒成形体の体積(cm3)÷触媒成形体の外表面積(cm2)
【0077】
[実施例1]
純水600質量部に、パラモリブデン酸アンモニウム300質量部を溶解した。続いて、この溶液を攪拌しながらパラタングステン酸アンモニウム7.44質量部、硝酸セシウム13.8質量部、三酸化アンチモン16.4質量部及び三酸化ビスマス19.8質量部を加え、50℃に加温した(A液)。これとは別に、純水600質量部に、硝酸第二鉄125.9質量部、硝酸ニッケル45.3質量部、硝酸コバルト272.0質量部、硝酸鉛18.8質量部及び85%リン酸3.4質量部を順次加えて溶解し、30℃に加温した(B液)。攪拌下で、A液にB液を加えて、水性スラリーを得て、これを90℃で2時間加熱して反応を進めて、その後、103℃まで昇温して、2時間加熱した。
こうして得られた触媒成分の原料化合物を含有するスラリーを、スプレードライヤーを用いて入口温度180℃、出口温度120℃の条件下で乾燥させ、平均粒径60μmの球状の乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末を300℃で1時間焼成した後、515℃で3時間焼成を行い、触媒焼成粉末を得た。得られた触媒焼成粉末の嵩密度は1.00(g/cm3)であった。
【0078】
得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水166質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.2%のピストン式押出し成形機を用いて、外径0.64cm、内径0.25cm、長さ0.50cmのリング状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体1を得た。
【0079】
得られた触媒成形体1の密度Xは1.322(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.692(g/cm3)、代表長さZは0.070(cm)であり、(X×Y)の値は0.915(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.093(g/cm2)であった。また、酸素および触媒反応温度条件下で留去される有機バインダー成分を除いた組成は、Mo12Bi0.6Fe2.2Co6.6Ni1.1Pb0.4P0.2W0.2Sb0.8Cs0.5であった。なお、該触媒成形体1の組成は各元素の原料仕込み量から算出した値である。
【0080】
(メタクロレイン及びメタクリル酸の製造)
得られた触媒成形体1を10g、内径20mm、高さ500mmのステンレス製反応管に充填し、イソブチレン5容量%、酸素12容量%、水蒸気10容量%および窒素73容量%の原料ガスを用い、常圧下、接触時間3.6秒、反応温度340℃で反応させた。その反応結果は、イソブチレンの反応率94.7% 、メタクロレインの選択率85.4%、メタクリル酸の選択率3.6%であった。また、200時間の連続反応において反応率や選択率は安定しており低下することはなかった。
【0081】
[実施例2]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水156質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.1%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.63cm、内径0.30cm、長さ0.50cmのリング状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体2を得た。
【0082】
得られた触媒成形体2の密度Xは1.463(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.713(g/cm3)、代表長さZは0.062(cm)であり、(X×Y)の値は1.043(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.092(g/cm2)であった。
得られた触媒成形体成形体2を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。また、200時間の連続反応において反応率や選択率は安定しており低下することはなかった。
【0083】
[実施例3]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水168質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.2%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.65cm、内径0.22cm、長さ0.50cmのリング状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体3を得た。
【0084】
得られた触媒成形体3の密度Xは1.323(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.734(g/cm3)、代表長さZは0.070(cm)であり、(X×Y)の値は0.971(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.092(g/cm2)であった。得られた触媒成形体3を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。また、200時間の連続反応において反応率や選択率は安定しており低下することはなかった。
【0085】
[比較例1]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水156質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.4%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.64cm、長さ0.50cmの円柱状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体4を得た。
【0086】
得られた触媒成形体4の密度Xは1.409(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.882(g/cm3)、代表長さZは0.098(cm)であり、(X×Y)の値は1.242(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.137(g/cm2)であった。
得られた触媒成形体成形体4を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。
【0087】
[比較例2]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水156質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.4%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.64cm、長さ0.40cmの円柱状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体5を得た。得られた触媒成形体5の密度Xは1.406(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.888(g/cm3)、代表長さZは0.089(cm)であり、(X×Y)の値は1.249(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.125(g/cm2)であった。
【0088】
得られた触媒成形体成形体5を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。
【0089】
[比較例3]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水164質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.4%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.64cm、長さ0.50cmの円柱状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体6を得た。
【0090】
得られた触媒成形体6の密度Xは1.351(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.824(g/cm3)、代表長さZは0.098(cm)であり、(X×Y)の値は1.113(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.132(g/cm2)であった。
得られた触媒成形体成形体6を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。
【0091】
[実施例4]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水178質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.1%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.63cm、内径0.30cm、長さ0.50cmのリング状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体7を得た。
得られた触媒成形体7の密度Xは1.306(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.612(g/cm3)、代表長さZは0.062(cm)であり、(X×Y)の値は0.799(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.081(g/cm2)であった。
得られた触媒成形体成形体7を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。また、200時間の連続反応において反応率や選択率は安定しており低下することはなかった。
【0092】
[実施例5]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水148質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.1%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.63cm、内径0.30cm、長さ0.50cmのリング状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体8を得た。
得られた触媒成形体8の密度Xは1.514(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.750(g/cm3)、代表長さZは0.062(cm)であり、(X×Y)の値は1.135(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.094(g/cm2)であった。
得られた触媒成形体成形体8を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。また、200時間の連続反応において反応率や選択率は安定しており低下することはなかった。
【0093】
[実施例6]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水164質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.4%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.63cm、内径0.10cm、長さ0.50cmのリング状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体9を得た。
得られた触媒成形体9の密度Xは1.351(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.775(g/cm3)、代表長さZは0.087(cm)であり、(X×Y)の値は1.047(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.117(g/cm2)であった。
得られた触媒成形体成形体9を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。また、200時間の連続反応において反応率や選択率は安定しており低下することはなかった。
【0094】
[実施例7]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水158質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.4%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.63cm、内径0.10cm、長さ0.50cmのリング状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体10を得た。
得られた触媒成形体10の密度Xは1.413(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.815(g/cm3)、代表長さZは0.087(cm)であり、(X×Y)の値は1.152(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.122(g/cm2)であった。
得られた触媒成形体成形体10を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。また、200時間の連続反応において反応率や選択率は安定しており低下することはなかった。
【0095】
[比較例4]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水192質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.1%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.63cm、内径0.30cm、長さ0.50cmのリング状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体9を得た。
得られた触媒成形体9の密度Xは1.216(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.552(g/cm3)、代表長さZは0.062(cm)であり、(X×Y)の値は0.671(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.075(g/cm2)であった。
得られた触媒成形体成形体11を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。また、200時間の連続反応において反応率や選択率は安定しており低下することはなかった。
【0096】
[比較例5]
実施例1と同様の方法によって得られた触媒焼成粉末400質量部と有機バインダー成分であるメチルセルロース粉末12質量部とをよく混合した後、純水170質量部を加え、混練機で粘土状物質になるまで混練した。次いで得られた不定形の混練物を、ダイス開口率1.7%のピストン式押出し成形機を用いて外径0.66cm、長さ0.55cmの円柱状に成形した。混練物の排出速度は250mm/sに調整した。得られた成形品を110℃で熱風乾燥機を用いて乾燥し触媒成形体10を得た。
得られた触媒成形体10の密度Xは1.278(g/cm3)、充填嵩密度Yは0.791(g/cm3)、代表長さZは0.103(cm)であり、(X×Y)の値は1.011(g/cm3)2、(X×Z)の値は0.132(g/cm2)であった。
得られた触媒成形体成形体12を用いて、実施例1と同様の方法でメタクロレイン及びメタクリル酸の製造を実施した。反応結果について表1に示す。また、200時間の連続反応において反応率や選択率は安定しており低下することはなかった。
【0097】
【0098】
以上の結果から、上記式(1)及び(2)を満たすことにより、高い原料化合物の反応率を維持したたま、高い選択率でメタクロレイン及び/又はメタクリル酸の製造が可能となることが分かる。