(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ガスバリア性組成物、コーティング剤および積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/08 20060101AFI20221012BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20221012BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20221012BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20221012BHJP
C09D 133/02 20060101ALI20221012BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221012BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221012BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221012BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20221012BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221012BHJP
B65D 65/00 20060101ALI20221012BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C08L101/08
C08K3/10
C08K5/05
C08L33/02
C09D133/02
C09D7/61
C09D7/63
B32B27/30 A
B32B9/00 A
B32B27/00 H
B65D65/00 A
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2021511997
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014010
(87)【国際公開番号】W WO2020203766
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2019069852
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智雄
(72)【発明者】
【氏名】原田 友昭
(72)【発明者】
【氏名】宇佐見 祐章
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-126528(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146323(WO,A1)
【文献】特開2018-058280(JP,A)
【文献】特開2004-018806(JP,A)
【文献】特開2003-292713(JP,A)
【文献】特開2016-011392(JP,A)
【文献】特開2004-238604(JP,A)
【文献】国際公開第2009/041500(WO,A1)
【文献】特開2013-241587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09D 7/61、7/63、65/00-65/46、133/02
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する樹脂(A)と、2価金属化合物(B)と、アルコール(C)と
からなるガスバリア用組成物であって、
組成物中におけるアルコール(C)の含有量が85~98wt%であって、
組成物中における水分量が1%以下であ
り、
前記カルボキシル基を有する樹脂(A)が、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸およびイタコン酸から選ばれる単量体の単独重合体または共重合体から選ばれる少なくとも1種であり、
前記アルコール(C)が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、ガスバリア用組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル基を有する樹脂(A)が、アクリル酸の単量体の単独重合体または共重合体であり、
前記アルコール(C)が、プロパノールである、請求項1に記載のガスバリア用組成物。
【請求項3】
前記組成物中における水分量が0%である、請求項2に記載のガスバリア用組成物。
【請求項4】
前記2価金属化合物(B)が、亜鉛化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物から選ばれる少なくとも1種である、請求項1
~3のいずれかに記載のガスバリア用組成物。
【請求項5】
前記2価金属化合物(B)が、平均粒子径が500nm以下の微粒子である、請求項1~
4のいずれかに記載のガスバリア用組成物。
【請求項6】
請求項1~5に記載の組成物を含有することを特徴とする、ガスバリア性コーティング剤。
【請求項7】
請求項6に記載のコーティング剤を塗工して得られるコート層と、基材とを有する積層体。
【請求項8】
前記コート層中において、カルボキシル基を有する樹脂(A)と、2価金属化合物(B)とがイオン結合を形成していることを特徴とする、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
請求項8に記載の積層体を有する包装材料。
【請求項10】
加熱殺菌用である、請求項9に記載の包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性を有する組成物を提供するものである。また、該ガスバリア性組成物を含有するコーティング剤、および該コーティング剤を塗工して得られる積層体を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等の包装に用いられる包装材料は、内容物の変質、特に酸素による酸化を防止する事が求められている。この要求に対し、従来、比較的酸素バリア性が高いとされる樹脂で構成されるバリア性フィルムや、当該バリア性フィルムをフィルム基材として用いた積層体(積層フィルム)が用いられている。
従来、酸素バリア性樹脂としては、ポリアクリル酸やポリビニルアルコールに代表される分子内に親水性の高い水素結合性基を含有する樹脂が用いられてきた。これらの樹脂からなる包装材料は乾燥条件下において非常に優れた酸素バリア性を示す。一方、高湿度下においては樹脂の親水性に起因して酸素バリア性が大きく低下する問題があった。
【0003】
これらの問題を解決する為、基材上にポリカルボン酸系重合体層と多価金属化合物含有層を隣接させて積層し、2層間で反応させる事によりポリカルボン酸の多価金属塩を生成し、ガスバリア性包装材料を調整する方法が知られている。しかし、この様なガスバリア性包装材料は製造に際し、複数種の塗液が必要で、塗工を複数回行う必要があり、手間が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、塗工工程を少なくした上で高いバリア性を発揮する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、カルボキシル基を有する樹脂と、2価金属化合物と、アルコールとを含有する特定のガスバリア用組成物が、前記課題を解決可能であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、カルボキシル基を有する樹脂(A)と、2価金属化合物(B)と、アルコール(C)とを含有するガスバリア用組成物であって、組成物中におけるアルコール(C)の含有量が85~98wt%であって、組成物中における水分量が1%以下であることを特徴とする、ガスバリア用組成物を提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記ガスバリア用組成物を含有するガスバリア性コーティング剤、さらには当該コーティング剤を塗工して得られるコート層と、基材とを有する積層体を提供するものである。
【0009】
また本発明は、当該積層体を有する包装材料を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、2価金属化合物を安定して保持できることから保存安定性に優れる。さらには塗工後のコーティング膜は1液で高いバリア性を示すことから、塗工工程を少なくした上で高いバリア性を発揮することが可能であり、ガスバリア用コーティング剤として好適に使用可能である。
また、当該組成物を基材に塗工して得られる積層体は、ガスバリア性に優れることから、包装材料、特に食品・日用品・電子材料・医療用等のバリア性を必要とする包装材料として好適に使用可能である。
さらには耐熱性・耐湿熱性にも優れることから、ボイルやレトルトといった加熱殺菌用の包装材料としても好適に使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、カルボキシル基を有する樹脂(A)と、2価金属化合物(B)と、アルコール(C)とを含有するガスバリア用組成物であって、組成物中におけるアルコール(C)の含有量が85~98wt%であって、組成物中における水分量が1%以下であることを特徴とする、ガスバリア用組成物
【0012】
<カルボキシル基を有する樹脂(A)>
本発明の樹脂(A)は、カルボキシル基を有することを特徴とする。カルボキシル基としては、無水カルボン酸を含んでよい。
カルボン酸基を有する樹脂(A)としては、酸価が50~800mgKOH/gであると、バリア性能が向上する為好ましい。特に好ましくは80~800mgKOH/gである。80mgKOH/g以上であればイオン結合が十分進み高いバリア性能が得られる。
【0013】
(酸価測定方法)
酸価とは、試料1g中に存在する酸分を、中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数である。具体的には、秤量した試料を試料が溶解する適当な溶媒、例えば体積比でトルエン/メタノール=70/30の溶媒に溶かし、1%フェノールフタレインアルコール溶液を数滴滴下しておき、そこに0.1mol/Lの水酸化カリウムアルコール溶液を滴下して、変色点を確認する方法により測定することができ、下記の計算式で求めることができる。
【0014】
酸価測定方法-1
酸価(mgKOH/g)=(V×F×5.61)/S
V:0.1mol/L水酸化カリウムアルコール溶液の使用量(mL)
F:0.1mol/L水酸化カリウムアルコール溶液の力価
S:試料の採取量(g)
5.61:0.1mol/L水酸化カリウムアルコール溶液1mL中の水酸化カリウム相当量(mg)
【0015】
試料が樹脂溶液の場合は、下記の計算式で樹脂酸価(mgKOH/g)を求めることができる。
【0016】
樹脂酸価(mgKOH/g)=樹脂溶液の酸価(mgKOH/g)/NV(%)×100
NV:不揮発分(%)
【0017】
また、有機溶媒への試料の溶解性が低く、析出などをして、測定困難な場合は、以下の方法でも酸価を測定することができる。
【0018】
酸価測定方法-2
酸価(mgKOH/g-resin)とは、FT-IR(日本分光社製、FT-IR4200)を使用し、無水マレイン酸のクロロホルム溶液によって作成した検量線から得られる係数(f)、無水マレイン酸変性ポリオレフィン溶液における無水マレイン酸の無水環の伸縮ピーク(1780cm-1)の吸光度(I)とマレイン酸のカルボニル基の伸縮ピーク(1720cm-1)の吸光度(II)を用いて下記式により算出した値である。
酸価(mgKOH/g-regin)=[(吸光度(I)×(f)×2×水酸化カリウムの分子量×1000(mg)+吸光度(II)×(f)×水酸化カリウムの分子量×1000(mg))/無水マレイン酸の分子量]
無水マレイン酸の分子量:98.06、水酸化カリウムの分子量:56.11
【0019】
本発明のカルボキシル基を有する樹脂(A)としては、分子量に特に限定はないが、数平均分子量が300~1,200,000であると塗膜成形性が良好となり好ましい。特に好ましくは500~1、000,000である。
本発明のカルボキシル基を有する樹脂(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)の方法で測定を行うことで算出することができる。
【0020】
カルボキシル基を有する樹脂(A)としては樹脂骨格に特に限定はない。好ましくは、カルボキシル基含有ビニル樹脂であることが好ましい。
【0021】
(カルボキシル基含有ビニル樹脂)
カルボキシル基含有ビニル樹脂としては、例えばカルボキシル基を有する重合性不飽和単量体の重合体が挙げられる。カルボキシル基を有する重合性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸またはフマル酸等の不飽和カルボン酸類;
【0022】
イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノ-n-ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノ-n-ブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノ-n-ブチル等の各種の不飽和ジカルボン酸類と、飽和1価アルコール類とのモノエステル類(ハーフエステル類);
【0023】
アジピン酸モノビニルまたはコハク酸モノビニル等の各種の飽和ジカルボン酸のモノビニルエステル類;
【0024】
無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸または無水トリメリット酸等の各種の、飽和ポリカルボン酸の無水物類と、各種の水酸基含有ビニル系単量体類との付加反応生成物;さらには、前掲したような各種のカルボキシル基含有単量体類と、ラクトン類とを付加反応せしめて得られるような種々の単量体類などが挙げられる。
【0025】
本発明のカルボキシル基を有する樹脂(A)としては、前記したカルボキシル基を有する重合性不飽和単量体の単独重合体であってもよいし、カルボキシル基を有する重合性不飽和単量体を複数使用した共重合体であってもよい。また、カルボキシル基を有する重合性不飽和単量体と共重合可能なその他の単量体との共重合体であってもよい。
【0026】
カルボキシル基を有する重合性不飽和単量体と共重合可能な単量体としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
【0027】
(1)(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ドコシル等の炭素数1~22のアルキル基を持つ(メタ)アクリル酸エステル類;
【0028】
(2)(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等の脂式のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;
【0029】
(3)(メタ)アクリル酸ベンゾイルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニルエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル等の芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステル類;
【0030】
(4)(メタ)アクリル酸ヒドロキエチル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸グリセロール;ラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール基を有する(メタ)アクリル酸エステル等のヒドロキシアルキル基を有するアクリル酸エステル類;
【0031】
(5)フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジブチル、フマル酸メチルエチル、フマル酸メチルブチル、イタコン酸メチルエチルなどの不飽和ジカルボン酸エステル類;
【0032】
(6)スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン誘導体類;
【0033】
(7)ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、ジメチルブタジエンなどのジエン系化合物類;
【0034】
(8)塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニルやハロゲン化ビニリデン類;
【0035】
(9)メチルビニルケトン、ブチルビニルケトンなどの不飽和ケトン類;
【0036】
(10)酢酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステル類;
【0037】
(11)メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;
【0038】
(12)アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどのシアン化ビニル類;
【0039】
(13)アクリルアミドやそのアルキド置換アミド類;
【0040】
(14)N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドなどのN-置換マレイミド類;
【0041】
(15)フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン若しくはヘキサフルオロプロピレンの如きフッ素含有α-オレフィン類;またはトリフルオロメチルトリフルオロビニルエーテル、ペンタフルオロエチルトリフルオロビニルエーテル若しくはヘプタフルオロプロピルトリフルオロビニルエーテルの如き(パー)フルオロアルキル基の炭素数が1から18なる(パー)フルオロアルキル・パーフルオロビニルエーテル類;2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート若しくはパーフルオロエチルオキシエチル(メタ)アクリレートの如き(パー)フルオロアルキル基の炭素数が1から18なる(パー)フルオロアルキル(メタ)アクリレート類等のフッ素含有エチレン性不飽和単量体類;
【0042】
(16)γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシリル基含有(メタ)アクリレート類;
【0043】
(17)N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート若しくはN,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
これらの重合性不飽和単量体は、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0045】
前記カルボキシル基を有する樹脂(A)は、公知慣用の方法を用いて重合(共重合)させれば得られ、その共重合形態は特に制限されない。触媒(重合開始剤)の存在下に、付加重合により製造することができ、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよい。また共重合方法も塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合方法が使用できる。
【0046】
<2価金属化合物(B)>
本発明の金属化合物(B)は、2価金属化合物であることを特徴とする。
2価金属化合物(B)とは、2価金属の化合物である。2価金属化合物(B)としては、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、マンガン化合物、鉄化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物、銅化合物等が挙げられ、特に好ましくは亜鉛化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物である。これらの金属化合物は、単独で用いても、2種以上を併用しても構わない。
【0047】
2価金属化合物(B)としては、2価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩であることが好ましいく、これらの混合物であっても構わない。
2価金属化合物(B)の具体的な化合物として、好ましくは酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウムであり、特に好ましくは酸化亜鉛と酸化マグネシウムである。
【0048】
2価金属化合物(B)としては、粒子状であることが好ましい。さらに好ましくは、平均粒子径が500nm以下10nm以上の微粒子である。特に好ましくは20nm~300nmの微粒子である。
ここでの平均粒子径は、動的光散乱式粒径分布測定装置、例えばLB-500(堀場製作所製)を用いて測定することができる。
【0049】
<アルコール(C)>
本発明のアルコール(C)としては、公知慣用のアルコールを使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ペンタノール等が挙げられる。好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールであり、特に好ましくはプロパノールである。
【0050】
<ガスバリア用組成物>
本発明のガスバリア用組成物は、前述したカルボキシル基を有する樹脂(A)と、2価金属化合物(B)と、アルコール(C)とを含有することを特徴とする。そのうち、アルコール(C)の含有量が85~98wt%であって、組成物中における水分量が1%以下であることを特徴とする。アルコール(C)と水がこの範囲にあるとき、2価金属化合物(B)が組成物中で安定して存在し、塗工乾燥時に初めてカルボキシル基を有する樹脂(A)とイオン結合を形成してガスバリア性を発揮する。組成物の常態で安定に保存できることから、ガスバリア用コーティング剤として非常に好適に使用可能であり、1液型でガスバリア性のコート層を形成することができる。
【0051】
本発明のガスバリア組成物において、不揮発分は組成物中の1wt%~15wt%である。不揮発分全量中、カルボキシル基を有する樹脂(A)と、2価金属化合物(B)との合計量は、90~100wt%であることが好ましい。この範囲であると、ガスバリア性を十分に発揮することができる。特に好ましくは95~100wt%である。
また、カルボキシル基を有する樹脂(A)と、2価金属化合物(B)の比率としては、カルボキシル基を有する樹脂(A)と2価金属化合物(B)の合計量に対し、2価金属化合物(B)が15~60wt%であることが好ましい。この範囲であると、ガスバリア性と塗工性が良好に両立できる。特に好ましくは20~50wt%である。
【0052】
本発明のガスバリア性組成物は、前述したカルボキシル基を有する樹脂(A)と、2価金属化合物(B)と、アルコール(C)以外の材料を含有していても構わない。
【0053】
(溶剤)
本発明のガスバリア性組成物は、アルコール(C)以外の溶剤を含有しても構わない。アルコール(C)と相溶する溶剤が好ましく、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0054】
(添加剤)
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、カップリング剤、シラン化合物、リン酸化合物、有機フィラー、無機フィラー、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等)、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、着色剤、結晶核剤、酸素捕捉剤(酸素捕捉機能を有する化合物)、粘着付与剤等が例示できる。これらの各種添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用される。
【0055】
カップリング剤としては公知慣用のものが挙げられ、例えばシランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤、アルミカップリング剤等が挙げられる。
【0056】
シランカップリング剤としては公知慣用のものを用いればよく、例えば3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤;3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基含有シランカップリング剤などが挙げられる。
【0057】
チタンカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等が挙げられる。
【0058】
ジルコニウムカップリング剤としては、例えば、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、フッ化ジルコニウム等が挙げられる。
【0059】
アルミカップリグ剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロポキシモノエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0060】
シラン化合物としては、アルコキシシラン、シラザン、シロキサン等が挙げられる。アルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。シラザンとしてはヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。シロキサンとしては加水分解性基含有シロキサン等が挙げられる。
【0061】
添加剤のうち、無機フィラーとしては、金属、金属酸化物、樹脂、鉱物等の無機物及びこれらの複合物が挙げられる。無機フィラーの具体例としては、シリカ、アルミナ、チタン、ジルコニア、銅、鉄、銀、マイカ、タルク、アルミニウムフレーク、ガラスフレーク、粘土鉱物等が挙げられる。
【0062】
酸素捕捉機能を有する化合物としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ビタミンC、ビタミンE、有機燐化合物、没食子酸、ピロガロール等の酸素と反応する低分子有機化合物や、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄、銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。
【0063】
粘着付与剤としては、キシレン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂等が挙げられる。粘着付与剤を添加することで塗布直後の各種基材に対する粘着性を向上させることができる。粘着性付与剤の添加量は樹脂組成物全量100質量部に対して0.01~5質量部であることが好ましい。
【0064】
<積層体>
本発明のガスバリア用組成物を含有するコーティング剤を、基材に塗工することで、ガスバリア性を有する積層体を得ることができる。コーティング剤を基材に塗工すると、揮発分が除外され、それによりカルボキシル基を有する樹脂(A)と2価金属化合物(B)がイオン結合を形成し、その架橋構造によりバリア性が発揮される。
【0065】
本発明のコーティング剤は、塗工されるまでアルコール(C)の存在によりカルボキシル基を有する樹脂(A)と2価金属化合物(B)のイオン結合がブロックされることから、ゲル化等が起こらずに安定して保存が可能である。
【0066】
また、従来あるような2層式のガスバリア積層体の場合、酸基と金属化合物とのイオン結合は界面でのみ発生するため、架橋が2次元にしか伸長せず、結果として低いガスバリア性しか発揮できない原因であると推測される。本発明のコーティング剤は、1液タイプでありコート層内部で3次元的に架橋が伸長することから、高いガスバリア性が発揮できているものと推測される。
【0067】
(基材)
基材の材質は特に限定はなく、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば木材、金属、金属酸化物、プラスチック、紙、シリコン又は変性シリコン等が挙げられ、異なる素材を接合して得られた基材であってもよい。基材の形状は特に制限はなく、平板、シート状、又は3次元形状全面に、若しくは一部に、曲率を有するもの等目的に応じた任意の形状であってよい。また、基材の硬度、厚み等にも制限はない。
【0068】
積層体を包装材料として用いる場合、紙、プラスチック、金属、金属酸化物等が基材として用いられる。
【0069】
コーティング剤の塗工方法としては、特に限定はなく、公知慣用の塗工方法を用いることができる。例えばスプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディスペンス法等が挙げられる。
【0070】
コーティング剤を塗工することで得られるコート層は、塗工後に乾燥させることでよりコート層内のイオン結合が密になる。よって、塗工後に乾燥工程を設けることが好ましい。乾燥工程としては、常温乾燥でもよく、加熱、減圧、送風といった強制乾燥を行ってもよい。
【0071】
基材、コート層の上に、さらに上層部を積層した多層積層体としてもよい。この時、コーティング剤を乾燥させる前に積層してもよいし、乾燥後に積層してもよい。上層部としては特に限定がなく、木材、金属、金属酸化物、プラスチック、紙、シリコン又は変性シリコン等を積層してよい。また、未硬化の樹脂溶液をコート層の上から塗布し、硬化あるいは乾燥して上層部を形成してもよい。
【0072】
(透過を遮断できるガス成分種類)
本発明の樹脂組成物や本樹脂組成物を含む積層体が遮断できるガスとしては、酸素の他、二酸化炭素、窒素、アルゴン等の不活性ガス、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール成分、フェノール、クレゾール等のフェノール類の他、低分子化合物からなる香気成分類、例えば、醤油、ソース、味噌、リモネン、メントール、サリチル酸メチル、コーヒー、ココアシャンプー、リンス、等を例示することができる。
【0073】
<包装材料、および加熱殺菌用包装材料>
本発明の積層体は、ガスバリア性に優れることから、ガスバリア性が要求される包装材料として好適に使用可能である。特に食品・日用品・電子材料・医療用等は高いバリア性を必要とすることから、本発明の包装材料を好適に使用可能である。
さらには耐熱性・耐湿熱性にも優れることから、ボイルやレトルトといった加熱殺菌用の包装材料としても好適に使用可能である。
【実施例】
【0074】
以下実施例を持って本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特に記述のない場合、単位は重量換算である。
【0075】
言葉の定義:ポリアクリル酸(以下:PAAと省略する事がある)の単位ユニットの分子量は72である。通常、PAAの単位ユニット2分子(分子量72×2)に対して酸化亜鉛(分子量81.4)(以下:ZnOと省略する事がある)1分子が反応に寄与し塩形成する。PAA重量:ZnO重量=144/82.4=100/57で配合する処方を、ZnOを1当量配合すると称する。
【0076】
<実施例>
(調整例1)
フラスコにて数平均分子量25万のPAA粉末(AC―10LHPK、東亜合成社製):20gをイソプロピルアルコール(以下IPAと省略する事がある)関東化学社製:980g中で撹拌、沸騰させながら溶解し、固形分濃度:2%のPAA溶液を得た。
【0077】
(調整例2~6)
フラスコにて数平均分子量9000のPAA粉末(AC―10P、東亜合成社製):200gをIPA:800g中で撹拌、沸騰させながら溶解し、固形分濃度:20%のPAA溶液を得た。この溶液をIPAで希釈し、固形分濃度が2%、5%、10%、15%となる分子量9000のPAA溶液を得た。
【0078】
(調整例7~11)
ZnOの分散液について、一次粒子径20nmのZnO(堺化学工業株式会社製、FINEX-50):200gとIPA:800gを混合し、ビーズミル(寿株式会社製:ウルトラアスペックミルUAM-015)中で直径0.3mmのジルコニアビーズを使って1時間分散処理した後、ビーズをふるい分け、固形分濃度:20%のZnO溶液を得た。この溶液をIPAで希釈し、固形分濃度が2%、5%、10%、15%となるZnOのIPA分散液を得た。この分散液中のZnOの粒径は88nmであった。
【0079】
【0080】
【0081】
(実施例1)
調整例1で得られた2%PAA溶液100gと、調整例8で得られた2%ZnO溶液57.0gを混合し、コーティング剤1を得た。得られたコーティング剤1について、コーティング剤の外観評価を行った。
また、得られたコーティング剤を基材に塗布し、積層体1を作成した。得られた積層体について、コート層の外観評価と、積層体のガスバリア性評価を行った。
これらの結果を表3に示す。
【0082】
<コーティング剤の外観評価>
コーティング剤の外観評価は目視で行った。評価は、以下の通りとした。
4:微粒子の析出が無い
3:微粒子が少量析出する
2:微粒子が中量析出する
1:微粒子が著しく析出する
【0083】
<コート層の外観の評価>
コート層の外観評価は目視で行った。基材としてポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡エステルフィルム社製E5100、膜厚12μm)を用い、以下の塗布方法を用いてコーティング剤1を基材に塗布し、積層体1を作成した。得られたコート層について、外観評価は目視で行った。評価は、以下の通りとした。
4:微白色で微粒子の析出が無い
3:微白色で微粒子が少量析出する
2:微白色で微粒子が中量析出する
1:微白色で微粒子が著しく析出する、とした。
【0084】
・コーティング剤の塗布方法:
松尾産業株式会社:K303バー No.1 イエロー/6μm、K303バーNo.2 レッド/12μm、K303 バー No.3 グリーン/24μm、K303 バー No.4 ブラック/40μmを用意し、PETフィルム(東洋紡エステルフィルム社製:E5100:厚み:12μm)に配合液を塗工した後、120℃:1分乾燥させる事でバリアコート膜を得た。サンプル乾燥時のバリアコート材の重量は約1.0g/m2になるようバーを選択して行った。塗布重量は各条件で10枚ずつ塗工サンプルを作製し、10cm×10cmに切り抜き重量を計測した平均から、同面積の基材シート10枚の重量の平均を差し引き算出し、最適な塗工バーを選択した。
評価は
4:微白色で微粒子の析出が無い
3:微白色で微粒子が少量析出する
2:微白色で微粒子が中量析出する
1:微白色で微粒子が著しく析出する、とした。
【0085】
<ガスバリア性の評価:酸素透過率>
前項で得られたPET(厚み:12μm)に塗工したバリアコート膜を用いて基材込で評価した。酸素透過率の測定は、JIS-K7126(等圧法)に準じ、モコン社製酸素透過率測定装置OX-TRAN1/50を用いて、温度23℃、湿度0%RHの雰囲気下、及び、温度23℃、湿度90%RHの雰囲気下で実施した。RHとは相対湿度を表す。尚、酸素透過率の単位は、cc/day・atm・m2である。
【0086】
(実施例2~11、比較例1~3)
実施例2~11及び比較例1~3について、表3に記載の配合量に変更した以外は実施例1と同様にして、コーティング剤および積層体の評価を行った。結果は表3~5に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
実施例1から5において、分子量25万のPAA溶液とZnO溶液を、ZnOの当量比を0.6から1.4まで変化したところ、良好な配合液外観、塗工外観が得られ、酸素透過率も良好であった。実施例6,7において、水分が配合液全体に対して0.5%、1.0%となるように添加したところ、配合液外観、塗工外観は若干悪くなるものの実用上問題無く、酸素透過率も良好であった。実施例8から11において、分子量9000のPAAを用い、ZnOの当量比を1に固定して固形分量を2%~15%まで試験したところ、良好な配合液外観、塗工外観が得られ、酸素透過率も良好であった。
比較例1、2において、分子量25万、9000それぞれのPAA溶液とZnO溶液について、水分が系全体に対して1.5%となるように添加したところ、配合液外観、塗工外観、酸素透過率は著しく悪化した。比較例3において、分子量9000のPAA溶液とZnO溶液を固形分濃度20%で試験したところ、配合液外観、塗工外観、酸素透過率は悪化した。
以上の結果より、カルボキシル基を有する樹脂と、2価金属化合物と、アルコールとを含有するガスバリア用組成物において、組成物中におけるアルコールの含有量が85~98wt%で組成物中における水分量が1%以下である時、良好な配合液外観、塗工外観が得られ、酸素透過率も良好である事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の組成物は、2価金属化合物を安定して保持できることから保存安定性に優れる。さらには塗工後のコーティング膜は1液で高いバリア性を示すことから、塗工工程を少なくした上で高いバリア性を発揮することが可能であり、ガスバリア用コーティング剤として好適に使用可能である。
また、当該組成物を基材に塗工して得られる積層体は、ガスバリア性に優れることから、包装材料、特に食品・日用品・電子材料・医療用等のバリア性を必要とする包装材料として好適に使用可能である。
さらには耐熱性・耐湿熱性にも優れることから、ボイルやレトルトといった加熱殺菌用の包装材料としても好適に使用可能である。