(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料成形品の製造方法およびプリプレグ
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20221012BHJP
B29C 70/20 20060101ALI20221012BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20221012BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
B29C70/20
B29C70/42
B32B27/04
(21)【出願番号】P 2021516325
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2020017973
(87)【国際公開番号】W WO2020218610
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019086112
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】古橋 佑真
(72)【発明者】
【氏名】市野 正洋
(72)【発明者】
【氏名】池田 和久
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014367(JP,A)
【文献】国際公開第2018/055932(WO,A1)
【文献】特開2016-199008(JP,A)
【文献】特開2016-017111(JP,A)
【文献】特開2009-191092(JP,A)
【文献】特開2008-207545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04- 5/10
5/24
B29B11/16
15/08-15/14
B29C41/00-41/36
41/46-41/52
70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含むプリプレグを、型を用いて変形させる工程を含み、
前記プリプレグに形成され前記強化繊維の配向方向に実質的に平行な切込を平行切込と呼ぶとき、前記プリプレグは、前記変形させる工程でせん断変形及び/または圧縮変形する部位に形成され
、前記強化繊維の配向方向で一直線上に配置された複数の平行切込を有し、かつ、前記強化繊維を切断する切込を実質的に有さない、繊維強化複合材料成形品の製造方法。
【請求項2】
前
記複数の平行切込が同じ間隔で一直線上に並んでいる、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前
記複数の平行切込が同じ長さを有している、請求項
2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記型がプリフォーム型であり、前記変形させる工程の後に前記プリプレグを硬化させる工程を更に含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
プリフォームを経ずに繊維強化複合材料成形品を製造する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記マトリックス樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記繊維強化複合材料成形品がフロアパンである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含
み、型を用いて変形させる工程に供されるプリプレグであって、当該プリプレグに形成され前記強化繊維の配向方向に実質的に平行な切込を平行切込と呼ぶとき、
前記変形させる工程でせん断変形及び/または圧縮変形する部位に形成され、前記強化繊維の配向方向で一直線上に配置された複数の平行切込を有し、かつ、繊維を切断する切込を実質的に有さない、プリプレグ。
【請求項9】
前
記複数の平行切込が同じ間隔で一直線上に並んでいる、請求項
8に記載のプリプレグ。
【請求項10】
前
記複数の平行切込が同じ長さを有している、請求項
9に記載のプリプレグ。
【請求項11】
前記マトリックス樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物である、請求項
8~
10のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料成形品の製造方法、強化繊維基材および繊維強化複合材料成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂を含む、繊維強化複合材料用のプリプレグは、その硬化物または固化物(繊維強化複合材料)が軽量で優れた機械特性を有するため、スポーツ、航空宇宙、一般産業用途に広く用いられている。繊維強化複合材料は、例えば、プリプレグを複数積層して形成したプリプレグ積層体を、オートクレーブまたはプレス成形機を用いて加熱加圧成形して製造される。
【0003】
プリプレグの成形方法として、強化繊維とマトリックス樹脂組成物とを含むプリプレグを複数積層し、得られた積層体からプリフォームを作製し、そしてプリフォームを加熱及び加圧して当該樹脂組成物を硬化または固化させることにより繊維強化複合材料成形品を製造する方法が、ハイサイクル成形法の一つとして知られている。
【0004】
特許文献1には、強化繊維の配向方向に実質的に平行な切込及び強化繊維を横切る切込を有する切込プリプレグを用いることで、マトリックス樹脂を硬化した際の外観品位と力学特性を発現しながら、三次元形状追従性にも優れた繊維強化複合材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術では、連続する強化繊維(連続強化繊維)を切断することで、三次元形状への追従を実現している。一般に、連続繊維を切断した繊維強化複合材料成形品は、連続繊維由来の優れた力学特性が損なわれるため、成形品の強度低下といった問題が生じる場合がある。このように、従来技術には、繊維強化複合材料成形品を製造した場合の強度の観点から、検討の余地が残されている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、連続繊維の力学特性を損なわずに、優れた三次元形状への追従性を有する繊維強化複合材料成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る繊維強化複合材料成形品の製造方法は、一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材を、型を用いて変形させる工程を含み、上記強化繊維基材は、せん断変形及び/または圧縮変形する部位と、上記せん断変形及び/または圧縮変形する部位に、上記強化繊維の配向方向に実質的に平行な切込と、を有し、かつ、実質的に繊維を切断する切込を有さない。
【0009】
また、本発明の一態様に係る強化繊維基材は、一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含み、せん断変形及び/または圧縮変形する部位に、上記強化繊維の配向方向に実質的に平行な切込と、を有し、かつ、実質的に繊維を切断する切込を有さない。
【0010】
また、本発明の一態様に係る繊維強化複合材料成形品は、上記強化繊維基材の硬化物または固化物を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、外観及び強度に優れた繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明における強化繊維基材の一例を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態におけるプリフォーム型の下型の構造の一例を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施形態における、プリフォーム型を平面視したときの幾何中心及びY方向と、三次元形状におけるY方向の寸法とを説明するための、プリフォーム型の下型の構造の一例を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施形態における、プリフォーム型を平面視したときの幾何中心及びX方向と、三次元形状におけるX方向の寸法とを説明するための、プリフォーム型の下型の構造の一例を模式的に示す図である。
【
図5】本発明における強化繊維基材の変形量の測定を説明するための図である。
【
図6】本発明における強化繊維基材の変形量を説明するための図である。
【
図7】繊維の配向方向が0°であるプリプレグシートと、繊維の配向方向が90°であるプリプレグシートとを模式的に示す図である。
【
図8】本発明の実施形態における、強化繊維基材またはプリフォームの裁断工程を説明する図である。
【
図9】本発明の実施形態における、圧密化工程を説明する図である。
【
図10】実施例1で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。
【
図11】実施例2で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。
【
図12】
参考例3で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。
【
図13】実施例4で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。
【
図14】実施例5で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。
【
図15】実施例6で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。
【
図16】
参考例7で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。
【
図17】
参考例8で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。
【
図18】
参考例9で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。
【
図19】比較例1で使用したプリプレグシートを模式的に示す図である。
【
図20】実施例1で得られたプリフォームを示す写真である。
【
図21】実施例2で得られたプリフォームを示す写真である。
【
図22】
参考例3で得られたプリフォームを示す写真である。
【
図23】
参考例7で得られたプリフォームを示す写真である。
【
図24】
参考例8で得られたプリフォームを示す写真である。
【
図25】
参考例9で得られたプリフォームを示す写真である。
【
図26】比較例1で得られたプリフォームを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書中「A及び/またはB」は、「A及びBの一方または両方」を意味する。
【0014】
[1.プリフォームの製造方法]
本発明の一実施の形態に係るプリフォームの製造方法は、強化繊維基材を型によって賦形する工程を含む。以下、プリフォームの製造に用いる型を「プリフォーム型」とも言う。強化繊維基材は、せん断変形及び/または圧縮変形する部位を有する。また、強化繊維基材は、当該せん断変形及び/または圧縮変形する部位を上記プリフォーム型に追従させるための切込を有する。当該切込は、当該部位をせん断変形及び/または圧縮変形させてプリフォーム型に追従させるための切込である。当該切込は、強化繊維の配向方向に実質的に平行な切込である。
【0015】
当該強化繊維基材は、せん断変形及び/または圧縮変形する部位に実質的に繊維を切断する切込を有さない。
強化繊維基材は、せん断変形及び/または圧縮変形する部位は、三次元形状への追従性を高める点等で、型による変形の際にせん断変形及び/または圧縮変形することが好ましい。「型による変形の際」とは、例えば、強化繊維基材からプリフォームを形成する「賦形時」であり、または、強化繊維基材もしくはプリフォームから繊維強化複合材料成形品を成形する「成形時」である。
【0016】
プリフォームは、後述する強化繊維基材を賦形することにより、目的とする成形品の正味形状に予備成形したものである。得られるプリフォームの形状は、繊維強化複合材料成形品の形状そのものであってもよいし、繊維強化複合材料成形品の形状に近い(類似した)形状であってもよい。
【0017】
繊維強化複合材料成形品の形状に近い形状とは、例えば、後述の成形工程における型内に収容可能な程度に繊維強化複合材料成形品の形状に類似した形状である。なお、以下、成形に用いる型を「成形型」とも言う。プリフォームは、所望する成形品形状のほぼ正味形状(立体形状)を有することが、成形品の形状を再現性良く製造する観点から好ましく、正味形状(立体形状)を有するプリフォームを製作することがより好ましい。このように、目的とする繊維強化複合材料成形品を得る成形工程に先立って、強化繊維基材、または強化繊維基材を積層した積層体を賦形してプリフォームを得ることにより、所望する形状の繊維強化複合材料成形品を、高品質で、効率よく製造することができる。
【0018】
プリフォームの厚さは、所望の物性・形状等に依存するが、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、0.15mm以上が更に好ましい。3.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましく、1.0mm以下が更に好ましい。プリフォームの厚さが上記下限値以上であると、所望の厚みとなるようにプリフォームを積層する工程数が削減される。上記上限値以下であると賦形工程における立体形状への賦形が好適に実施可能である。当該プリフォームを用いて成形した強化繊維複合材料は軽量でありながら十分な強度を有する。プリフォームの好ましい成形方法等については、後述する。
【0019】
強化繊維基材としては、一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含み、せん断変形及び/または圧縮変形する部位に、当該部位をせん断変形及び/または圧縮変形させて型に追従させるための切込を有するものを用いる。本明細書において、「型」は、プリフォーム型および成形型を含む。
図1は、本発明の一実施形態に係る強化繊維基材の一例を模式的に示す図である。強化繊維基材1は、
図1に示されるように、強化繊維基材のせん断変形及び/または圧縮変形する部位に、当該部位をせん断変形及び/または圧縮変形させて型に追従させるための切込2を有する。切込2は、強化繊維基材のせん断変形及び/または圧縮変形する部位全てに有していてもよく、一部に有していてもよい。強化繊維基材は、それ自体が賦形時または成形時に加熱されることで、切込2がない状態であっても、ある程度せん断変形及び/または圧縮変形することができる。そのため、切込2がない状態で、後述する強化繊維基材のせん断変形量の測定方法に準じて測定したせん断変形量を超える変形が生じる部分について、切込2を付与することが好ましい。また、強化繊維基材のせん断変形及び/または圧縮変形する部位以外の部位に、切込2を有していてもよい。切込2は、強化繊維の配向方向に実質的に平行に延在している。以下、切込2を「平行切込」とも言う。また、一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含み、平行切込を有する強化繊維基材を、以下「平行切込を有する強化繊維基材」とも言う。
【0020】
実質的に平行であるとは、強化繊維群を切断しない程度に強化繊維の配向方向に沿う方向を意味し、例えば、強化繊維基材において一方向に配向している強化繊維群の配向方向に平行であることを意味する。強化繊維基材中の強化繊維の配向は、強化繊維基材の製造工程における押圧により乱れることがあるため、上記条件を満たす平行切込が、強化繊維基材中の強化繊維のごく一部を切断することがあってもよい。
【0021】
例えば、切込の延在方向が強化繊維の配向方向に対してなす角度が0~10°であれば、切込は強化繊維に対して実質的に平行と言える。0~3°がより好ましく、0~1.7°が更に好ましく、0~1.5°が特に好ましく、0~1°が最も好ましい。切込の延在方向および強化繊維の配向方向は、目視で確認してもよく、また強化繊維基材におけるせん断変形及び/または圧縮変形する部位を3DレーザースキャナーやX線CT等で撮影した画像の画像処理を用いる定性的または定量的な処理により得られたデータから確認してもよい。
【0022】
強化繊維基材は、せん断変形及び/または圧縮変形する部位に実質的に平行な切込を有する。また、強化繊維基材は、せん断変形及び/または圧縮変形する部位に実質的に繊維を切断する切込(以下、繊維を切断する切込を「切断切込」とも言う)を有さない、とも言える。切断切込とは、例えば、切込の延在方向が強化繊維の配向方向に対してなす角度が10°を超える場合には、当該切込は切断切込と言える。あるいは、切断切込は、強化繊維基材におけるある切込によって切断されている強化繊維を、強化繊維の配向方向へ引張応力を付与したときに、強化繊維基材に伸張性を与える切込、とも言える。あるいは、切断切込は、当該切込による強化繊維基材の切断面およびその近傍における強化繊維に流動性を付与する切込、とも言える。
【0023】
本実施形態の強化繊維基材は、切断切込を実質的に有さないことを特徴とする。切断切込を実質的に有さないとは、全く切断切込を有さない場合だけでなく、多少の切断切込を有していても、成形品の強度が、商業的に許容できる範囲であれば、この概念に含める趣旨である。
【0024】
繊維の切断による強度の低下を抑制する観点から、せん断変形及び/または圧縮変形する部位において、強化繊維基材中の、分断されていない連続した強化繊維と樹脂とで構成される領域が占める面積の合計が、せん断変形及び/または圧縮変形する部位の面積に占める割合の5%より大きいことが好ましく、10%より大きいことがより好ましく、25%より大きいことが更に好ましく、50%より大きいことが特に好ましく、80%より大きいことが最も好ましい。更により良くは、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、99%以上が更に好ましく、99.5%以上が特に好ましく、99.9%以上が最も好ましい。上記平行切込がある強化繊維基材は、せん断変形及び/または圧縮変形し易さと成形品の強度を両立する点で、実質的に平行な切込のみを有することが特に好ましい。
【0025】
一方、平行切込は、切込長さの略全長に亘り、強化繊維基材を貫通していることが好ましい。上述したように、平行切込は、強化繊維基材のせん断変形及び/または圧縮変形する部位をせん断変形及び/または圧縮変形させてプリフォーム型に追従させるための切込である。せん断変形及び/または圧縮変形する部位には、平行切込の上記の機能が発現される範囲において、他の機能のための切込を有していてもよい。このような観点から、例えば、せん断変形及び/または圧縮変形する部位における切込の総数に対する上記平行切込の数の割合が0.5%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。成形品の強度を高める観点で、50%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが特に好ましく、80%以上であることが最も好ましい。更により良くは、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、99%以上が更に好ましく、99.5%以上が特に好ましく、99.9%以上が最も好ましい。上記平行切込がある強化繊維基材は、せん断変形及び/または圧縮変形し易さと成形品の強度を両立する点で、実質的に平行な切込のみを有することが特に好ましい。
【0026】
平行切込は、本実施形態の効果が得られる十分な量及び長さで存在すればよい。平行切込の存在量及び長さについては後述する。
【0027】
上記平行切込がある強化繊維基材を用いることで、せん断変形及び/または圧縮変形する際に、強化繊維基材に含まれる強化繊維の、マトリックス樹脂組成物による拘束が小さくなり、強化繊維基材がせん断変形及び/または圧縮変形し易くなる。
【0028】
せん断変形及び/または圧縮変形する部位とは、強化繊維基材の少なくとも一部分であり、型による変形のために強化繊維基材に面外方向の力を与えた場合に、せん断変形及び圧縮変形の一方または両方の変形を生じる部位である。例えば、後述の賦形工程において、賦形すべき形状、または、後述の成形工程において、成形すべき形状に応じて決められる。賦形すべき形状とは、複合材料成形品の形状、または、そのためのプリフォームとして実現すべき当該複合材料成形品の形状に近い形状、である。成形すべき形状とは、複合材料成形品の形状、またはトリミングなどの後加工を行うことで複合材料成形品の形状になる程度に複合材料成形品の形状に近い形状である。
【0029】
上記成形すべき形状は、例えば、
図2に示すような平面及び/または三次元形状を含むものである。
図2は、本発明の実施形態におけるプリフォーム型の下型の構造の一例である、強化繊維基材や、外観向上のための樹脂フィルムなどの材料が接する面を模式的に示す図である。以下、型のうち、強化繊維基材や、外観向上のための樹脂フィルムなどの材料が接する面のことを型と称する。
図2に示す下型の構成については、後に詳述する。当該成形すべき形状は、プリフォーム型の形状が転写されたものとなる。このように、プリフォームの型等の型の形状は三次元形状であってよい。
【0030】
三次元形状とは、平面形状ではなく、立体的な形状であることを示し、平面、可展面及び三次元曲面のうち、いずれか一つ、または二つ以上の組合せ、からなる。可展面とは、伸縮させることなく、展開することにより平面になる面を示す。可展面の一例としては、錐面が挙げられる。三次元曲面とは、平面を伸縮させずに形成することができない面のことを示し、展開して平面とすることができない面を示す。三次元曲面の一例としては、球面が挙げられる。成形すべき形状が可展面および/または三次元形状で構成される場合では、せん断、圧縮およびそれらの両方を含む複雑な変形を賦形時に生じるため、本実施形態における繊維強化複合材料成形品の製造方法の優位性がより顕著になりやすい。
二次元形状である平面状のシート部材を、当該三次元形状に追従させるためのプリフォーム型に追従する様に押圧すると、型による変形の際に、通常、せん断変形が生じる。型による変形の際に、元のシート部材の面積に対して、追従させる面の面積が小さい場合は、圧縮変形が生じる。せん断変形と圧縮変形は、同時に生じることもある。
【0031】
通常、二次元形状である平面状シート部材、特に強化繊維が一方向に配向している強化繊維基材を変形させて、
図2に示すような三次元形状を有する下型へ追従させて賦形することは困難である。三次元形状へ追従させようとすると、強化繊維の配向方向が乱れて曲がりくねって見える繊維蛇行や、強化繊維基材の面外方向に浮き上がるシワといった外観不良が発生する。外観不良は、塗装により隠蔽することは可能であるが、このような、繊維の直進性が損なわれるような外観不良は、成形品の強度低下につながるため好ましくない。面内方向とは、平面状の強化繊維基材を含む平面内の水平方向を示し、面外方向とは、面内方向に直交する方向を意味する。
【0032】
以下、プリフォーム型について詳細に説明する。プリフォーム型の構造および形状は、成形型の構造および形状にも適用してもよい。
【0033】
[プリフォーム型]
プリフォーム型は、プリフォームを製造するための型である。すなわち、プリフォーム型は、平面状の強化繊維基材を最終製品である複合材料成形品の形状か、またはそれに近い形状に賦形することが可能な型である。プリフォーム型は、強化繊維基材をプリフォームに賦形可能な範囲において、複合材料成形品を製造するための型と同じ形状であってもよいし、異なっていてもよい。なお、「複合材料成形品に近い形状」とは、複合材料成形品を成形するための型にプリフォームを収容して加熱加圧することが可能な程度に、複合材料成形品の形状に近づけられた形状、とも言える。
【0034】
プリフォーム型は、下型と、当該下型に対応する形状を有する上型とを有する通常の型を用いることが可能である。いずれか一方の型のみであってもよい。上型及び下型は、それぞれ一体であってもよいし、それぞれ複数に分割される構成のものであってもよい。上型と下型は、重力方向の上下となるよう設置してもよく、垂直に立てたり、傾けたりして設置してもよい。その場合は、型嵌合する二つの型のうちのいずれか一方を上型と呼称する。プリフォーム型の上型及び下型のいずれにも強化繊維基材を配置して、強化繊維基材を型嵌合することで、本実施形態に適用することが可能であるが、本実施形態では下型とする。強化繊維基材を型に載置して作業可能であることは、作業性及び生産性の観点から好ましい。
【0035】
プリフォームは、一枚の上記切込を有する強化繊維基材、または、二枚以上積層させた上記切込を有する強化繊維基材を、プリフォーム型に配置し、当該強化繊維基材を上記プリフォーム型によって賦形して製造することができる。下型と、当該下型に対応する形状を有する上型とを有する型を用いる場合は、上下の型を嵌合させて賦形することで、プリフォームを得ることができる。
【0036】
上記平行切込がある強化繊維基材は、本実施形態の効果が得られる範囲において、一枚を単独で賦形してプリフォームとしてもよく、二枚以上の上記平行切込がある強化繊維基材を含む積層体として賦形してプリフォームとしてもよい。さらに、本実施形態では、上記平行切込がある強化繊維基材を少なくとも一枚以上使用していれば、上記平行切込がある強化繊維基材とは異なる他の強化繊維基材、または外観向上のための樹脂フィルムをさらに含んでいてもよい。また、上記樹脂フィルムは、ガラススクリムクロスなどの強化繊維を含む基材を含んでよい。
【0037】
たとえば、上記平行切込がある強化繊維基材と上記平行切込がない強化繊維基材とが交互に、またはランダムに積層して構成される積層体を賦形してプリフォームとしてもよい。型に対する追従性を高める観点から、積層体中の強化繊維基材中の総数に対する上記平行切込がある強化繊維基材が50%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましい。上記平行切込がある強化繊維基材またはその積層体のみを用いることが最も好ましい。ただし、成形品の一部に異なる種類の強化繊維基材を併用する場合はその限りではない。その使用例としては、補強が挙げられる。
【0038】
プリフォームを、複数の強化繊維基材及び/またはマトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材を賦形して得る場合、全ての強化繊維基材またはマトリックス樹脂組成物を含有する強化繊維基材を積層して積層体としてから賦形してもよく、強化繊維基材またはマトリックス樹脂組成物を含有する強化繊維基材を一枚~数枚ずつ、または、強化繊維基材またはマトリックス樹脂組成物を含有する強化繊維基材を複数枚重ねた積層体を一枚~数枚ずつ、複数回に分けて賦形してもよい。このとき、全ての層を、マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材としてもよく、一部を、マトリックス樹脂組成物を含まない強化繊維基材としてもよい。全ての層を、マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材とすることで、成形品中に効果又は固化したマトリックス樹脂組成物が欠乏した部分が生じにくくなることから、好ましい。このときも、平行切込がある強化繊維基材を少なくとも一枚使用するものとする。
【0039】
複数回の賦形を行って、1つのプリフォームを得る場合、強化繊維基材または積層体を用いて形成した同形状の予備プリフォームを複数得てから、予備プリフォームを更に重ね合わせて賦形を行ってプリフォームを得てもよい。また、予備プリフォーム上に一枚の強化繊維基材、または積層体を載置してから更なる賦形を行い、プリフォームを得てもよい。すなわち、上記プリフォーム型内における賦形された、一枚以上の切込を有する強化繊維基材に、切込を有する一枚以上の別の強化繊維基材に重ねて、上記プリフォーム型によってさらに賦形してもよい。後者の場合、更なる賦形を複数回繰り返してもよい。前者の方法を用いる場合、効率的にプリフォームを得ることができる。後者の方法を用いると、プリフォームが厚い場合であっても、同形状の予備プリフォーム同士を重ね合わせる際に、重なりが悪くなることがないため、極めて外観の良いプリフォームを得ることができる。強化繊維基材としては、全ての層を、マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材としてもよく、一部をマトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材としてもよい。全ての層にマトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材を使用することで、成形品中に硬化又は固化したマトリックス樹脂組成物が欠乏した部分が生じにくくなることから、好ましい。なお、プリフォームは、切込を有する強化繊維基材を少なくとも一枚以上使用するものとする。
【0040】
以下、平行切込について、
図2に示される下型を例に、さらに詳しく説明する。
【0041】
(プリフォーム型の構造)
図2に示される下型は、例えば、自動車の車内に配置されるフロアパン用のプリフォームを製造するためのプリフォーム型の一部である。なお、プリフォーム及びフロアパン(複合材料成形品)は、シート状の強化繊維基材を用いることから、下型の内面(賦形又は成形する材料が接する面)が転写された形状(当該内面と実質的に同形)となる。
【0042】
プリフォーム型は、上型と下型3とを有している。下型3は、コルゲート構造10とその一端側に形成されている前段部20とを有する。
【0043】
コルゲート構造10は、強度を上げるための波状構造である。コルゲート構造10は、底部10a、10bと、これらの底部間に形成されている凸条部11と、コルゲート構造10の側縁のそれぞれに形成されている凸縁部12、13とを有する。
【0044】
底部10a、10bは、それぞれ、平面形状が矩形の平面で構成されている。底部10aは、第一の辺41、第二の辺42及び第三の辺43を有し、底部10bは、第一の辺51、第二の辺52及び第三の辺53を有する。第一の辺41(51)及び第三の辺43(53)は、例えば当該矩形における一対の長辺であり、第二の辺42(52)は、例えば当該矩形における一短辺である。
【0045】
凸条部11は、底部10aの一側縁から起立する壁部11aと、底部10bの他側縁から起立する壁部11bと、これらの壁部間に形成されている天面部11cとによって構成されている。壁部11a、11bは、強化繊維基材などの材料と接する面が、底部10a、10bが強化繊維基材などの材料と接する面に対して鈍角をなす傾斜面となっている。天面部11cは、底部10a、10bに水平な平面で構成されている。本明細書において、材料とは、強化繊維基材および強化繊維基材以外の繊維強化複合材料成形品の材料(例えば、外観向上のための樹脂フィルム)を示す。以下、材料を、「強化繊維基材などの材料」と示す場合がある。なお、強化繊維基材の一部に強化繊維基材以外の繊維強化複合材料成形品の材料を積層するように配置することもある。
【0046】
凸縁部12は、底部10aの他側縁から起立する壁部12aと、壁部12aの上端に形成されている天面部12bとを有する。壁部12aは、強化繊維基材などの材料と接する面が、底部10aが強化繊維基材などの材料と接する面に対して鈍角をなす傾斜面となっている。天面部12bは、底部10aに水平な平面で構成されている。凸縁部13も、凸縁部12と同様に壁部13aと天面部13bとを有する。
【0047】
前段部20は、コルゲート構造10の一端縁から起立する壁部21と、壁部21の上端に形成されている天面部22とを有する。壁部21は、強化繊維基材などの材料と接する面が、底部10a、10bが強化繊維基材などの材料と接する面に対して鈍角をなす傾斜面となっている。天面部22は、底部10a、10bに水平な平面で構成されている。
【0048】
底部10a(10b)において、第一の辺41(51)及び第二の辺42(52)は角部31(33)を形成しており、第二の辺42(52)及び第三の辺43(53)は、角部32(34)を形成している。より詳しくは、底部10a、壁部11a、21の交点には角部31が形成されており、底部10a、壁部12a、21の交点には角部32が形成されている。同様に、底部10b、壁部11b、21の交点には角部33が形成されており、底部10b、壁部13a、21の交点には角部34が形成されている。
【0049】
天面部11c、12b、13bの底部10a、10bからの高さは、いずれも同じである。天面部22は、他の天面部に比べて高い位置に形成されている。これらの天面部の高さは、製品の仕様によるが、2~40cmであってよい。また、壁部11a、11b、12a、13a、21の底部10a、10bに対する傾斜角も、製品の仕様によるが、30~90°であってよい。当該傾斜角は、壁部11a、11b、12a、13a、21の、強化繊維基材等の材料が接しない面の、底部10a、10bに対する角度である。すなわち、壁部11a、11b、12a、13a、21の、強化繊維基材等の材料が接する面の、底部10a、10bに対する角度は鈍角であってもよい。なお、壁部21のうち、底部10a、10bから天面部11c、12b、13bまでの高さの部分を下部21a、天面部11c、12b、13bまでの高さよりも上の部分を上部21bとも言う。
【0050】
このように、プリフォーム型の下型3は、平面視したときに角部31(33)を含む底部10a(10b)と、底部10a(10b)の一側縁(他側縁)から起立する壁部11a(11b)と、底部10a(10b)の一端縁から起立する壁部21(下部21a)とを含んでいる。
【0051】
また、下型3において、底部10a(10b)は、角部31(33)とは異なるさらなる角部32(34)を含む。壁部21は、底部10a(10b)の一端縁における角部31(33)と角部32(34)との間から起立している。さらに、下型3は、底部10a(10b)の他側縁(一側縁)には、角部32(34)を介して壁部21とは反対側で起立している壁部12a(13a)をさらに含んでいる。
【0052】
次に、
図3を用いて、平行切込を入れる位置について具体的に説明する。
図3は、本発明の実施形態における、プリフォーム型を平面視したときの中心及びY方向の寸法を説明するための図である。また、
図3は、本発明の実施形態における、三次元形状におけるY方向の寸法を説明するための図である。
【0053】
図3の符号301は、プリフォーム型における下型3を平面視したときの下型3、すなわち下型の平面形状を示している。
図3の符号302は、プリフォーム型における下型3を斜め上方から見たときの下型3、すなわち下型の立体的な形状を示している。当該平面形状は、型(
図3では、プリフォーム型)の、強化繊維基材および強化繊維基材以外の材料のうち少なくとも一方に接する面(強化繊維基材を変形させる面)の投影面積が最大になるように、型の強化繊維基材および強化繊維基材以外の材料のうち少なくとも一方に接する面を平面投影したときの二次元図形に該当する。当該型の強化繊維基材および強化繊維基材以外の材料のうち少なくとも一方に接する面を平面投影したときの投影方向をZ方向とする。Z方向は、図の紙面に対して鉛直方向である。また、Oで示した二次元図形の幾何中心を通る線分が二次元図形で最短となる方向をX方向とし、X方向に二次元図形において直交する方向をY方向とする。中心Oは、下型3の幾何中心である。
図3に示されるように、X方向は、上記平面形状における短手方向であり、Y方向は長手方向である。なお、型の、賦形又は成形する材料に接する面の周辺に、賦形又は成形する材料が型に接しない部分がある場合、上記の幾何中心は、賦形又は成形する材料に接する面を投影して得られた二次元図形の幾何中心とする。
【0054】
上記二次元図形の対称性が高く、上記二次元図形の幾何中心を通る線分が二次元図形で最短となる方向が複数存在する場合(例えば、正方形や円形である場合)は、任意の一方向を選択してX方向とし、X方向に直交する方向をY方向とする。
【0055】
L1’は、二次元図形において、Y方向に延在する直線であって、天面部11cと壁部11aとの境界を通る直線で表される。L1は、下型3の表面にあり、Y方向に平行である線分であって、最短となる線分を表している。L1’は、二次元図形における最短の線分とも言う。l1’はL1’の長さを示す。
【0056】
なお、L1’は、上記の最短の線分であればよく、例えば、二次元図形においてY方向に沿う直線であって、天面部11cを通る直線であってもよいし、天面部12bまたは13bを通る直線であってもよいし、天面部12bまたは13bと壁部12aまたは13aとの境界を通る直線であってもよい。
【0057】
L1はL1’に対応する上記プリフォーム型の形状に沿った線分を示す。l1は下型3の二次元形状におけるL1の長さを表す。l1は、L1’の三次元長さとも言う。
【0058】
L2は、下型3の表面にあり、Y方向に平行である線分である。L2’は、二次元図形において、Y方向に延在する直線であって、第一の辺41を通る直線で表される。l2’はL2’の長さを示す。L2を含む平面は、L1を含む平面と平行である。せん断力は、互いに並行で、同軸上にない逆方向の力のことである。せん断力の大小は、型に沿った、互いに平行である線分の長さの差、または比で比較するのが分かり易い。
【0059】
L2はL2’に対応する上記プリフォーム型の形状に沿った線分を示す。l2は下型3の二次元形状におけるL2の長さを表す。l2は、L2’の三次元長さとも言う。
【0060】
なお、L2’は、同じ方向に延在する他の線分であってもよく、例えば、二次元図形においてY方向に平行に沿う直線であって、底部10aを通る直線であってもよい。
【0061】
下型3において、l1とl2とは異なり、l1’とl2’は等しいので、l1’に対するl1の割合(l1/l1’)と、l2’に対するl2の割合(l2/l2’)とは異なる。このように、下型3は、上記の割合が異なる部位を有する。
【0062】
また、下型3は、前者を第一の割合、後者を第二の割合とし、L
2を任意に設定可能とすると、
図3におけるL
1とL
2とに挟まれた部分では、L
2がL
1から離れるにつれて第一の割合に対する第二の割合の変化の割合が大きくなる部分がある。
【0063】
l
1’に対するl
1の割合(l
1/l
1’)と、l
2’に対するl
2の割合(l
2/l
2’)とが異なる部位では、シート状の強化繊維基材の位置に応じて変形すべき量が異なる為に、強化繊維基材内でせん断変形が生じる。型の形状によっては、同時に圧縮変形が生じる。ただし、通常は、当該強化繊維基材からなるシート部材には変形性が乏しいものがあり、結果としてせん断変形が不十分であったために、所望の形状に追従できなかった部位に外観不良が発生する。したがって、l
1’に対するl
1の割合(l
1/l
1’)と、l
2’に対するl
2の割合(l
2/l
2’)とが異なる部位、すなわち、型(
図3では、プリフォーム型)が、強化繊維基材および強化繊維基材以外の材料のうち少なくとも一方に接する面に対応する、強化繊維基材における、L
1とL
2とに挟まれる部分(例えば、
図3における網掛け部分)に、平行切込を入れることで、強化繊維基材のせん断変形性を改善し、三次元形状への追従性を高めることができる。そして、賦形性を改善し、外観良好なプリフォームを得ることが可能となる。L
1とL
2の線分のうち、例えば、
図2の下部21a及び壁部11aを通る部分に関しては、L
1中の長さとL
2中の長さが異なり、天面部22を通る部分に関しては、L
1中の長さとL
2中の長さが等しくなる。このような場合、L
1とL
2に挟まれる部分のうち、下部21a及び/または壁部11aの一部を形成する部分に対応する、切込を有する強化繊維基材の部分に切込を入れると、切込の効果が最大限に発揮されるため好ましい。
【0064】
上記の通り、強化繊維基材におけるY方向に沿う部分における切込の位置は、上記のl
1、l
2等により特定される。強化繊維基材におけるX方向に沿う部分における切込の位置も同様に特定することが可能である。次に、
図4を用いて、平行切込を入れる位置について具体的に説明する。
【0065】
図4は、本発明の実施形態におけるプリフォーム型を平面視したときの中心及びX方向の寸法と、三次元形状におけるX方向の寸法とを説明するための、プリフォーム型の下型の構造の一例を模式的に示す図である。
図4の符号401は、プリフォーム型の下型の平面形状を示しており、
図4の符号402は、当該下型の立体的な形状を示している。
【0066】
L3’は、二次元図形において、X方向に延在する直線であって、上部21bを通る直線で表される。L3は、下型3の表面にあり、Y方向に平行である線分であって、最短となる線分を表している。L3’は、二次元図形における最短の線分とも言う。l3’はL3’の長さを示す。
【0067】
なお、L3’は、上記の最短の線分であればよく、例えば、二次元図形においてX方向に沿う直線であって、天面部11c、12b、13bを通る直線であってもよい。あるいは、L3’は、天面部22を通る直線であってもよいし、天面部12bまたは13bを通る直線であってもよいし、上部21bと天面部22との境界を通る直線であってもよい。
【0068】
L3はL3’に対応する上記プリフォーム型の形状に沿った線分を示す。l3は下型3の二次元形状におけるL3の長さを表す。l3はL3’の三次元長さとも言う。
【0069】
L4は、下型3の表面にあり、X方向に平行である線分である。L4’は、二次元図形において、X方向に延在する直線であって、底部10a、10b、凸条部11及び凸縁部12、13を横断する直線で表される。l4’はL4’の長さを示す。L4を含む平面は、L3を含む平面と平行である。
【0070】
L4はL4’に対応する上記プリフォーム型の形状に沿った線分を示す。l4は、L4’の三次元長さとも言う。l4は下型3の二次元形状におけるL4の長さを表す。
【0071】
なお、L4’は、同じ方向に延在する線分であってもよく、例えば、二次元図形においてX方向に沿う直線であって、第二の辺42、52を通る直線であってもよい。
【0072】
下型3において、l3とl4とは異なり、l3’とl4’は等しいので、l3’に対するl3の割合(l3/l3’)と、l4’に対するl4の割合(l4/l4’)とは異なる。このように、下型3は、上記の割合が異なる部位を有する。
【0073】
また、下型3は、前者を第三の割合、後者を第四の割合とし、L
3に対してL
4を任意に設定可能とすると、
図4におけるL
3とL
4とに挟まれた部分では、L
4がL
3から離れるにつれて第三の割合に対する第四の割合の変化の割合が大きくなる部分を有する。当該部分とは、例えば、L
3が二次元図形において天面部11c、12b、13bを通る直線であり、L
4が二次元図形において第二の辺42、52を通る直線である場合にL
3とL
4によって挟まれる部分である。
【0074】
l
3’に対するl
3の割合(l
3/l
3’)と、l
4’に対するl
4の割合(l
4/l
4’)とが異なる部位では、強化繊維基材がせん断変形及び/または圧縮変形する。したがって、l
3’に対するl
3の比(l
3/l
3’)と、l
4’に対するl
4の比(l
4/l
4’)とが異なる部位、すなわち、型(
図3では、プリフォーム型)の、強化繊維基材および強化繊維基材以外の材料のうち少なくとも一方に接する面に対応する、強化繊維基材におけるL
3とL
4とに挟まれる部分(例えば、
図4の網掛け部分)に、平行切込を入れることが好ましい。上記部分に平行切込を入れることで、平行切込を有する強化繊維基材のせん断変形及び/または圧縮変形を容易にすることができ、外観が良好なプリフォームを得る観点から好ましい。L
3とL
4の線分のうち、例えば、
図2の凸条部11、凸縁部12、凸縁部13、及び下部21aを通る部分に関しては、L
4の長さl
4が異なる部分があり、上部21bを通る部分に関しては、L
3の長さはl
3で一定である。このような場合、L
3とL
4に挟まれる部分のうち、下部21aを形成する部分に対応する、切込を有する強化繊維基材の部分に切込を入れると、切込の効果が最大限に発揮されるため好ましい。
【0075】
また、外観不良が発生する原因の一つに、三次元形状への型による変形の際に、二次元形状である平面状シート部材に、型による変形前の面積よりも、型による変形後の面積が小さくなる部分、すなわち圧縮変形が生じる部分がある場合も挙げられる。型による変形時に面積が縮小することで、形状に収まりきらなかったシート部材の面外へのたわみによる外観不良が発生する。したがって、強化繊維の配向方向に実質的に平行な切込がある強化繊維基材の部分の面積と、強化繊維基材の部分と対応するプリフォーム型の部分の面積とが異なる場合には、圧縮変形する部位(強化繊維基材の部分)に平行切込を入れることで、強化繊維基材中に重なりが生じ、強化繊維基材の変形の自由度が上がって強化繊維基材が変形する。このことによって、余分なシート部材を逃がすことができ、外観良好なプリフォームを得る観点からより好ましい。
【0076】
(せん断変形の量)
せん断変形の量は、強化繊維基材の種類にも依存するが、繊維蛇行抑制の観点から、平行切込がある強化繊維基材の最大変形量を超えないことが好ましい。せん断変形の量は、1°以上であることが好ましい。また、せん断変形の量は、60°以下であることが好ましい。せん断変形の量の下限値は、3°以上がより好ましく、5°以上が更に好ましい。せん断変形の量の上限値は、45°以下がより好ましく、30°以下が更に好ましい。上記下限値以上であれば、上記平行切込による強化繊維基材のせん断変形性の向上効果を充分に発揮できる。上記上限値以下であれば、プリフォームの繊維蛇行やシワを抑制できる。
【0077】
(圧縮変形の量)
圧縮変形は、シート部材面外へのたわみ抑制の観点から、後述する一方向性プリプレグの場合、圧縮変形する前の面積に対する圧縮変形後の面積が70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。すなわち、圧縮変形する前の面積に対する圧縮変形後の面積の変化率が30%以下であることが好ましく、変化率が20%以下であることがより好ましく、変化率が10%以下であることが更に好ましい。上記下限値以上であれば、上記平行切込により余分なシート部材を逃がすことが可能である。
【0078】
ここで、強化繊維基材におけるせん断変形の量は、以下の方法によって測定することが可能である。
図5は、本発明における強化繊維基材の変形量の測定を説明するための図である。
図6は、
図5の試料における碁盤目状の模様の、当該試料のせん断変形前後の形状を模式的に示す図である。
【0079】
まず、
図5に示すような碁盤目状の模様Cuを有する強化繊維基材の試料Sを用意する。試料Sの平面形状及び模様Cuにおける碁盤目のそれぞれの平面形状は、いずれも矩形である。模様Cuの一角度θ1は、
図6に示すように、例えば90°である。
【0080】
次いで、少なくとも試料Sの対向する一対の辺を含む縁部のそれぞれを治具で挟持する。次いで、それぞれの当該治具にせん断方向の力(例えば
図6中の矢印Fに示す方向の力)を印加して試料Sの平面形状を変形させる。すると模様Cuの一角部の角度θ2は、例えば
図6に示すように、90°よりも大きくなる。このときの角度θ2が変形後の角度である。変形量は、元の角度からの変化量が分かるように表されればよく、一例として元の角度(θ1=90°)からの差の絶対値で表すことができる。試料Sにシワが発生する直前の変形量を最大変形量とする。
【0081】
圧縮変形の量は、強化繊維基材上に、碁盤目状に矩形の模様を付し、賦形前後の強化繊維基材の画像を取得し、画像を市販の画像処理ソフトで処理して、面積の変化を算出することで得られる。賦形前の面積から、賦形後の面積の減少を、百分率で表した値を圧縮変形量とする。
【0082】
(平行切込の寸法及び配置)
平行切込は、実質的に強化繊維の配向方向に沿って形成される。平行切込の長さは、強化繊維基材が型による変形の際にプリフォーム型に当接する部分におけるプリフォーム型の表面長さであって、当該プリフォーム型の三次元形状における上記配向方向における最も長い表面長さの0.5%以上であることが、強化繊維基材のせん断変形性を高める観点から好ましい。1.0%以上がより好ましく、1.5%以上が更に好ましい。強化繊維基材の形態保持性の観点から、上記平行切込の長さは、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下が更に好ましい。強化繊維基材などの、賦形又は成形する対象の材料は、廃棄物を少なくするために、型と同程度の大きさとして使用することが多いため、上述のように、型の寸法に対して平行切込の長さを規定することが好ましい。強化繊維の配向方向が異なる、複数枚の平行切込を有する強化繊維基材を用いる場合は、各層の平行切込の長さを略同一にすることが、切込長さを設計するうえで簡便であるため好ましい。
【0083】
また、略一直線上に存在する平行切込は、連続、すなわち間隔がなくても、間隔を有していてもよい。切込が連続である場合は、強化繊維基材の取り扱い性の観点から、端部が一体化しているようにすることが好ましい。平行切込の間隔は、等間隔であっても、間隔が不規則であってもよい。
【0084】
平行切込が間隔を有している場合、すなわち、複数の平行切込が強化繊維の配向方向で略一直線上に配置されている場合は、当該配向方向における平行切込間の間隔が一定であると、平行切込の設計、及び作製効率を高める。また、平行切込による強化繊維基材の変形性を高める観点から、上記表面長さの0.5%以上であることが好ましく、1.0%以上がより好ましく、1.5%以上が更に好ましい。シート形状を持する観点から、上記表面長さの80%未満であることが好ましく、70%未満であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましく、50%未満であることが特に好ましい。強化繊維基材のうち、変形量が大きい部分のみ(例えば、切込を付与する前の強化繊維基材の最大変形量を超える部分のみ)に平行切込を入れる場合は、当該部分のY方向の長さを基準として、上述の割合で平行切込を付与してもよい。
【0085】
また、当該配向方向に直交する方向における平行切込間の間隔は、強化繊維基材などの材料が型による変形の際にプリフォーム型に当接する部位のうち、上記プリフォーム型を平面投影した二次元形状の寸法に対する三次元形状の寸法の割合が異なる部分に対応する部位の、上記方向に直交する方向の寸法に対して75%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。また5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。上記上限値以下であれば、強化繊維基材におけるせん断変形量及び/または圧縮変形量を十分に大きくすることができる。また上記下限値以上であれば、強化繊維基材に安定して平行切込を付与することができる。上記部分の繊維に直交する方向の長さが、繊維の配向方向に沿って変化している場合は、上記長さの最大値を基準として、上述の割合で平行切込を付与してもよい。
【0086】
別の観点では、上記プリフォーム型等の型の、強化繊維基材などの材料に接する面の投影面積が最大になるように、上記プリフォーム型等の型の強化繊維基材などの材料に接する面を平面投影して二次元図形を得たときに、上記強化繊維の配向方向に平行な方向で、上記二次元図形中で最長の線分L
5’の長さをl
5’としたとき、上記強化繊維基材の切込が、上記l
5’の0.5%以上の長さが好ましく、l
5’の0.8%以上がより好ましく、l
5’の1.0%以上が更に好ましい。また、平行切込のY方向における長さは、シートを分断しない観点から、l
5’の100%未満であることが好ましく、l
5’の90%以下であることがより好ましく、l
5’の80%以下であることが更に好ましい。L
5’は、下型3の表面にあり、強化繊維の配向方向に平行である線分であって、最長となる線分を表している。l
5’はL
5’の長さを示す。なお、
図3では、l
1’とl
5’が等しくなる。平行切込による強化繊維基材の変形性向上及びシート形状保持性の観点から、平行切込の長さは、l
5’に対して上記範囲の割合であることが好ましく、プリフォーム型の三次元形状における上記配向方向における最も長い表面長さの割合が上記範囲であることがより好ましい。
【0087】
強化繊維の配向方向における間隔は、隣り合う平行切込同士の配向方向における間隔を示す。ここで隣り合う切込とは、ある切込に対し、配向方向において最も近い位置にある切込であることを示す。すなわち、略一直線上にあることを示す。配向方向における間隔は、強化繊維基材へ平行切込を加える工程の効率を高める観点から、l5’の0.5%以上が好ましく、l5’の0.8%以上がより好ましく、l5’の1.0%以上が更に好ましい。また、平行切込のY方向における間隔は、平行切込による強化繊維基材の変形性向上及びシート形状保持性の観点から、l5’の70%未満であることが好ましく、l5’の40%以下であることがより好ましく、l5’の25%以下であることが更に好ましい。強化繊維基材のうち、変形量が大きい部分のみ(例えば、切込を付与する前の強化繊維基材の最大変形量を超える部分のみ)に平行切込を入れる場合は、当該部分のY方向の長さを基準として、上述の割合で平行切込を付与してもよい。
【0088】
また、強化繊維の配向方向に直交する方向における上記切込の間隔は、強化繊維の配向方向に直交する方向に隣り合う平行切込同士の間隔を示す。ここで隣り合う切込とは、ある切込に対し、配向方向に直交する方向において最も近い位置にある切込であることを示す。配向方向に直交する方向における間隔は、強化繊維基材に含まれる強化繊維がX方向に配向している場合は、L3とL4との最短距離を基準として間隔を定めることが好ましく、強化繊維基材に含まれる強化繊維がY方向に配向している場合は、L1とL2との最短距離を基準として間隔を定めることが好ましい。配向方向に直交する方向における間隔は、強化繊維基材へ平行切込を加える工程の効率を高める観点から、強化繊維がX方向に配向している強化繊維基材については、L3とL4との最短距離の10%以上が好ましく、当該距離の15%以上がより好ましく、当該距離の20%以上が更に好ましい。配向方向に直交する方向における間隔は、平行切込がある強化繊維基材のせん断変形及び/または圧縮変形を効果的に行う観点から、当該距離の70%以下が好ましく、当該距離の60%以下がより好ましく、当該距離の50%以下が更に好ましい。同様に、強化繊維がY方向に配向している強化繊維基材については、L1とL2との最短距離の10%以上が好ましく、当該距離の15%以上がより好ましく、当該距離の20%以上が更に好ましい。配向方向に直交する方向における間隔は、平行切込がある強化繊維基材のせん断変形及び/または圧縮変形を効果的に行う観点から、当該距離の70%以下が好ましく、当該距離の60%以下がより好ましく、当該距離の50%以下が更に好ましい。L3とL4との最短距離とは、線分L3上および線分L4上のそれぞれに存在する二点間の距離の最小値である。L1とL2との最短距離とは、線分L1上および線分L2上のそれぞれに存在する二点間の距離の最小値である。L1とL2との最短距離またはL3とL4との最短距離の代わりに、L1’とL2’、L3’とL4’の最短距離を用いて、同様の数値範囲で切込の間隔を設定してもよい。
【0089】
強化繊維の配向方向がX方向、Y方向でない場合については、切込の間隔の設計を容易にするため、L1とL2、L3とL4、L1’とL2’、もしくはL3’とL4’との最短距離のいずれかを基準として、上記の数値範囲で間隔を設定するものとする。同様に、平行切込の長さ、及び強化繊維の配向方向における間隔についても、l2またはl2’、もしくはl4またはl4’を基準として、前述の数値範囲で設定してもよい。
【0090】
上記の条件を満たした平行切込を強化繊維基材に加えることで、三次元形状への賦形後の強化繊維の蛇行が抑制され、強化繊維の蛇行幅を2mm以下に抑えることができる。強化繊維の蛇行とは、製造されたプリフォームにおける強化繊維基材中の強化繊維の一部が、当該強化繊維基材における配向方向に交差する方向に配向することである。蛇行幅とは、強化繊維における蛇行した部分の、蛇行しなかった場合(上記配向方向中の位置)からの距離であって、上記配向方向に直交する方向における距離である。当該距離は、蛇行の程度を適当に表す値であればよく、平均値であってもよいし、最大値であってもよい。蛇行を抑制することで、成形品の強度及び外観が向上する。
【0091】
(積層体)
平行切込がある強化繊維基材は、二枚以上を重ねて積層体として用いてもよい。積層体に用いる強化繊維基材の枚数は、成形品に要求される厚さに応じて適宜選択することができる。積層体は、平行切込がある強化繊維基材以外の強化繊維基材を含んでもよい。
【0092】
賦形する積層体の枚数は、成形品に要求される厚さに応じて適宜選択することができる。例えば、成形品に要求される厚さが、積層体を五枚以上重ねた厚さである場合は、一枚の積層体または積層体を一枚または二枚~四枚重ねて賦形する工程を複数回行い、複数個のプリフォームを作製することが好ましい。一回の賦形工程において賦形する積層体の数を一枚または二枚~四枚とすることによって、積層体の賦形をより効率的に行うことができる。
【0093】
強化繊維基材に含まれる強化繊維が長繊維である場合、例えば
図7に示されるように、強化繊維基材の積層方向に沿って見たときに強化繊維基材に含まれる強化繊維の配向方向が重ならないように、強化繊維基材を積層して用いてもよい。
図7は、繊維の配向方向が0°であるプリプレグシートと、繊維の配向方向が90°であるプリプレグシートとのそれぞれを模式的に示す図である。なお、強化繊維基材を積層する際は、強化繊維基材を平面視したときの、強化繊維基材に含まれる強化繊維の交差角度は90°でなくてもよい。
【0094】
また、強化繊維基材の積層形態を疑似等方積層とした積層体を用いてもよい。疑似等方積層とは、異方性がある材料、特に、強化繊維基材に含まれる強化繊維が長繊維であり、一方向に配向している場合、強化繊維の配向方向を(360/n)°ずつ回転させてn層(n≧3)積層することをいう。また、強化繊維基材の積層形態を直交積層としてもよい。直交積層とは、異方性がある材料、特に、強化繊維基材に含まれる強化繊維が長繊維であり、一方向に配向している場合、強化繊維の配向方向を交差角が直角(-90°または90°)となるように強化繊維基材を複数積層させた積層構成である。
【0095】
具体的には、例えば、互いの強化繊維基材に含まれる強化繊維の配向方向が45°あるいは135°となるように第一の強化繊維基材と第二の強化繊維基材とを重ねて賦形してもよい。このように強化繊維基材を重ねることにより、例えば、[0°/45°/90°/-45°/0°]のような擬似等方積層を形成することが可能である。このような重ね方により、高い等方性を有する繊維強化複合材料成形品、あるいは、任意の方向に高い強度を有する繊維強化複合材料成形品、を設計することが可能である。
【0096】
強化繊維基材を賦形してプリフォームを得る方法の例としては、以下の三つの方法が挙げられる。以下の方法以外の方法でプリフォームを得てもよい。
【0097】
(i)人手によって上述の積層体を型材に貼り込むことにより、この積層体を賦形してプリフォームを製作する方法。
【0098】
(ii)型材上に積層体を配置して、その上部からゴム膜などを配置した後に、内部を真空引きしてゴム膜を圧着させることで積層体を賦形してプリフォームを製作する方法。
【0099】
(iii)簡易成形機に上型と下型を有するプリフォーム型を配置し、開いた上下の型の間に積層体を配置し、引き続いて挟圧することで賦形してプリフォームを製作する方法。
【0100】
賦形は、上記の三つの方法のいずれかで行ってもよいし、これらのうちの二以上を適宜組み合わせた方法で行ってもよい。上記賦形工程は、大きな形状であっても短時間で賦形可能な観点から、上記(iii)の方法が好ましい。
【0101】
賦形時の温度は、マトリックス樹脂組成物の組成にも依存するが、マトリックス樹脂組成物が軟化する60~80℃程度が好ましい。加熱しながら賦型することで、型への追従性を向上させられる。
【0102】
賦形時の圧力は、形状追従性の観点で、0.01MPa~0.05MPaが好ましい。上記範囲内であることで、基材が十分に型に追随する。また、プリフォーム型に過重な負荷がかからない。
【0103】
賦形時間は、10秒以上が好ましく、20秒以上がより好ましい。60秒以下が好ましく、40秒以下がより好ましい。
上記下限値以上であれば、加熱されたプリプレグを充分に冷却でき、型にプリプレグが張り付くことによる形状や繊維配向の乱れを防ぐことができる。また、上記上限値以下であれば、工程時間を短縮でき、成形サイクルを効率的に回すことができる。
【0104】
<その他の工程>
(予備加熱工程)
予備加熱工程は、賦形工程の前にプリプレグシートを予備加熱する工程である。これにより、マトリックス樹脂の粘度が適度に低下することで、後段の賦形工程における賦形作業が容易となる。その結果、後段の賦形工程において、プリフォームを良好に製作することができる。
【0105】
予備加熱工程は、プリプレグシートに用いた熱硬化性マトリックス樹脂が硬化しない温度で行われる。例えば、プリプレグシートの温度が40℃~80℃になるよう予備加熱することが好ましい。予備加熱温度を40℃以上とすることによって、例えば、熱硬化性マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合に、マトリックス樹脂に充分な成形性を付与できる傾向にある。また、予備加熱温度を80℃以下とすることによって、マトリックス樹脂の粘性を適度に維持することができる。そして、後段の賦形工程においてプリフォームの繊維乱れを発生させることなく、機械特性に優れた繊維強化複合材料成形品を最終的に得ることができる傾向にある。
【0106】
予備加熱の方法としては、例えば、プリプレグシートに温風を当てる方法、プリプレグシートに赤外線を照射する方法、加熱したプレート上にプリプレグシートを配置する方法等を挙げることができる。プリプレグシートを短時間で予備加熱できること、および、予備加熱後のプリプレグシートの取り扱いが容易であることから、赤外線を照射することによって予備加熱を行うことが好ましい。
【0107】
(裁断工程)
賦形工程の前または成形工程の前に、上記強化繊維基材またはプリフォームを所望の形状に裁断する裁断工程を行ってもよい。裁断工程を行うことで、プリフォームの形状(特に、プリフォームの寸法)を所望する成形品形状の正味形状(寸法)とすることができる。
【0108】
成形品の正味形状(寸法)を有するプリフォームを製作するための裁断工程としては、例えば、上記強化繊維基材を、所望する成形品形状の平面展開形状となるよう裁断してもよい。このように裁断された上記強化繊維基材を賦形することで、成形品の正味形状(寸法)を有するプリフォームを製作してもよい。
【0109】
または、上記強化繊維基材を賦形することで、成形品のほぼ正味形状(寸法)のプリフォームを製作した後に、このプリフォームの余剰部分を裁断してもよい。このように裁断することで、成形品の正味形状(寸法)を有するプリフォームを製作してもよい。
【0110】
得られるプリフォームの寸法精度を高められることから、裁断工程を、賦形工程の後かつ成形工程の前に行うことが好ましい。成形品形状のほぼ正味形状(寸法)を有するプリフォームを裁断することは、成形品の正味形状(寸法)を有するプリフォームを製作する観点から好ましい。
【0111】
上記裁断工程は、例えば、
図8に示すような超音波カッター等のカット装置を用いて自動で実施してもよく、
図8に示すようなトリミング冶具、またははさみやカッター等を用いて手作業で実施してもよい。
【0112】
(圧密化工程)
上記積層体を圧密化する圧密化工程を行うことで、上記積層体を構成する強化繊維基材間の残留エアーが除去され、空隙(ボイド)を抑制した積層体を製造することができる。
【0113】
積層体の圧密化方法は、強化繊維基材の強化繊維が蛇行しない方法であることが好ましい。このような圧密化方法の例には、平坦なツール上に上記強化繊維基材を配置して、その上部からゴム膜などの弾性シートを配置した後、上記強化繊維基材側から真空引きしてゴム膜を圧着させる方法が含まれる。当該圧密化工程により、強化繊維基材間の残留エアーが除去される。
【0114】
圧密化工程に関し、例えば、
図9に示すようなデバルグ装置を用いることができる。以下、
図9を参照して圧密化工程を説明する。
【0115】
図9は、本実施形態に係るプリフォームの製造方法における圧密化工程を説明する図である。
図9に示すように、積層体を平坦な作業台上に搬送する。次いで、積層体をデバルグ装置(例えば、Torr社製;T-7シールシステム)で覆う。次いで、真空ポンプで内部を減圧状態にすることで、積層体を圧密化する。減圧状態は、例えば、真空圧を700mmHgとし、その真空圧を5分間維持することにより形成される。次いで、デバルグ装置の内部を大気圧に戻し、圧密化された積層体を得る。
【0116】
<平行切込がある強化繊維基材の製造方法>
(平行切込工程)
上記強化繊維基材の繊維配向方向に平行な切込を入れる手段は、
図8に示すような超音波カッター、カッティングプロッタ、回転刃ローラー、レーザー照射、等により自動で切込を入れる方法を用いることはもちろん、カット装置、またははさみやカッター等を用いて手作業で実施する方法を用いてもよい。また、切込を入れる手段は、上記強化繊維基材の厚み方向に切込が入れば刃物に限定するものではない。さらに、刃物に樹脂が付着すると連続的に切込を入れることが困難となる為、保護フィルム側より切込を入れることが好ましい。
【0117】
また、工程の簡略化にも繋がるため、後述する強化繊維基材の裁断工程と同時に、上記強化繊維基材に平行切込を付与して切込プリプレグを製造することがより好ましい。
【0118】
得られた切込プリプレグは、所望の厚さのプリフォームが得られるよう、1枚または複数重ねた積層体としてプリフォーム型に配置し、賦型してプリフォームを得る。賦型したプリフォームを加熱加圧して成形し、成形品を得る。積層体を用いる場合は、1枚以上の切込プリプレグを用いるが、平行切込を有する強化繊維基材以外の強化繊維基材を1枚以上混在させて積層して用いてもよい。
【0119】
(強化繊維基材)
強化繊維基材とは、多数の強化繊維で構成されたシート状またはテープ状の基材である。なお、便宜上、比較的幅が広いものをシート、狭いものをテープと称しているが、強化繊維基材のサイズに制限はなく、成形品のサイズに合わせて、裁断したり、複数の強化繊維基材を組み合わせて使用したりすることができる。繊維強化複合材料成形品の製造において強化繊維基材を型で変形させることによって、繊維強化複合材料成形品を得ることができる。
【0120】
強化繊維基材の形態としては、連続繊維を一方向に引き揃えた形態(一方向材)、連続繊維を製織して織物形態(クロス材)、及び強化繊維を不織布とした形態などが挙げられる。
【0121】
成形後の物性を高くする観点で、長繊維を用いた一方向材の形態、及びクロス材の形態が好ましい。
【0122】
強化繊維基材としては、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0123】
本発明の、平行切込がある強化繊維基材としては、強化繊維の切断を極限まで抑制し、長繊維であることに由来して、成形品の強度を向上するという観点から、一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含むものに、平行切込がある強化繊維基材を用いる。当該強化繊維の少なくとも一枚には、せん断変形及び/または圧縮変形する部位に上述の平行切込を有する。また、本発明のプリフォームまたは成形品の製造には、一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含み、平行切込がある強化繊維基材を少なくとも一枚使用する。このとき、当該平行切込がある強化繊維基材と異なる強化繊維基材を併用してもよい。
【0124】
(強化繊維基材の厚さ)
強化繊維基材の厚さは、特に制限されるものではないが、0.03~6mmの範囲であることが好ましい。シートの厚さが0.03mm以上であれば、プリフォームの形状保持性が良好となる。シートの厚さの下限値は、より好ましくは、0.2mm以上であり、さらに好ましくは0.4mm以上である。また、シートの厚さが6mm以下であれば、プリフォームの賦形性が良好となり、得られる成形品におけるシワの発生を低減させることができる。シートの厚さの上限値は、より好ましくは、5mm以下であり、さらに好ましくは4mm以下である。
【0125】
(強化繊維基材の目付(TAW;Total Areal Weight))
強化繊維基材の1m2あたりの重量(単位:gsm)は、本発明のプリフォームを用いた繊維強化複合材料の作業性と作業効率、強度の観点から、50gsm以上が好ましく、100gsm以上がより好ましく、150gsm以上が更に好ましい。同様に、軽量性の観点から、350gsm以下が好ましく、300gsm以下がより好ましく、250gsm以下が更に好ましい。
【0126】
なお、gsmとは、g/m2を示し、単位面積あたりの重量を言う。
【0127】
(強化繊維)
強化繊維には、通常の繊維強化複合材料に使用される強化繊維を使用することができる。強化繊維は、後述する繊維強化複合材料成形品の所期の物性等の、プリプレグシートの用途に応じて適宜に選択することができる。
【0128】
強化繊維の太さは、フィラメント径で1~20μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは3~10μmの範囲である。強化繊維の太さが20μm以下であることは、その引張強度及び引張弾性率を高める観点から好ましい。また、強化繊維の太さを1μm以上とすることにより、強化繊束の生産性を高くすることができ、製造コストを安くすることができる。
【0129】
強化繊維は、一種でもそれ以上でもよい。強化繊維の例には、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、高強度ポリエステル繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維及びナイロン繊維が含まれる。なお、炭素繊維には黒鉛繊維も含まれる。
【0130】
中でも、軽量かつ高強度で高弾性率を有し、耐熱性、耐薬品性にも優れる点から、炭素繊維が好ましい。炭素繊維の種類の例には、ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN)系及びレーヨン系が含まれ、これらのいずれの種類の炭素繊維であってもよい。炭素繊維の生産性の観点からPAN系炭素繊維がより好ましい。
【0131】
また、炭素繊維は、炭素繊維束の収束性の観点、または、繊維強化複合材料成形品とした際の炭素繊維と熱硬化性樹脂との接着性を改善する観点から、所定の官能基を有する物質が0.01~5質量%程度付着されていてもよい。所定の官能基は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、エポキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、アクリレート基及びメタクリレート基が含まれる。
【0132】
炭素繊維は、高強度炭素繊維であることが、繊維強化複合材料の強度発現に適している。高強度炭素繊維とは、そのストランド引張強度が4GPa以上、好ましくは4.6GPa以上であり、引張伸度が1.5%以上である。ストランド引張強度とは、JIS R7601(1986)に基づいて行うストランド引張試験で測定される強度をいう。
【0133】
(マトリックス樹脂組成物)
マトリックス樹脂組成物は、マトリックス樹脂とその他成分を含む。マトリックス樹脂としては、特に制限はなく、熱可塑性樹脂及び/または熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0134】
以下、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いたマトリックス樹脂組成物を熱可塑性樹脂組成物、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いたマトリックス樹脂組成物を熱硬化性樹脂組成物とも言う。熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、その他成分として硬化剤を含む。
【0135】
熱可塑性樹脂は、加熱により粘度の高い液体状態になって、外力により自由に変形でき、冷却して外力を除去すると、固体状態でその形状を保つ。また、この過程を繰り返し行える。熱可塑性樹脂としては、特に制限は無く、成形品としての機械特性を大きく低下させない範囲で適宜選択することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6樹脂、ナイロン6,6樹脂等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂等を用いることができる。中でも、物性や価格の観点で、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂のいずれかであることが好ましい。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0136】
熱硬化性樹脂は、熱または触媒の作用を受けて、分子間架橋による硬化反応が進行し、不溶不融の三次元網目構造をとる反応性ポリマーである。熱硬化性樹脂としても特に制限は無く、成形品としての機械特性を大きく低下させない範囲で適宜選択することができる。熱硬化性マトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、これらの中から一種以上を適宜選択して使用することができるが、中でも硬化後の強度を高くできる傾向にあることから、エポキシ樹脂が好ましい。
【0137】
(硬化剤)
熱硬化性樹脂の硬化剤は、熱硬化性樹脂の硬化反応を進行させ得るものであれば特に限定されないが、硬化後の物性が高いことから、アミノ基を有する化合物または分解によりアミノ基を有する化合物を生じるアミン系の硬化剤が好ましい。硬化速度を高める観点から、硬化剤としてイミダゾール環を有するイミダゾール化合物を使用してもよく、硬化助剤としてウレア基を有するウレア化合物を併用してもよい。
【0138】
また、熱硬化性樹脂組成物は、本実施形態の効果を奏する範囲において、上述した熱硬化性樹脂及び硬化剤以外の他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分は、一種でもそれ以上でもよい。上記他の成分の例には、硬化助剤、離型剤、脱泡剤、紫外線吸収剤及び充填剤が含まれる。
【0139】
(マトリックス樹脂組成物の粘度)
マトリックス樹脂組成物の粘度は、強化繊維基材の取扱性の点で、30℃での粘度が、10000Pa・s~50000Pa・sが好ましく、15000Pa・s~35000Pa・sがより好ましい。
【0140】
また、本実施形態の強化繊維基材に含まれる熱硬化性樹脂組成物等のマトリックス樹脂組成物を2.0℃/分で昇温した昇温粘度測定において、最低粘度は0.3~20Pa・sであることが好ましく、0.5~20Pa・sであることがより好ましい。最低粘度を0.3Pa・s以上とすることにより、プレス成形時の樹脂フロー量を抑え、得られる繊維強化複合材料の表面に凹凸が生じるなどの外観不良をより防ぐことができる。最低粘度を0.5Pa・s以上とすることにより、プレス成形時の樹脂フロー量をさらに抑え、得られる繊維強化複合材料の表面に凹凸が生じるなどの外観不良をさらに防ぐことができる。最低粘度を20Pa・sより低くすることにより、樹脂フロー量を増やし、プレス成形の際に、樹脂組成物が金型内の隅々まで充填されない不良発生を防ぐのに好適である。
【0141】
上記最低粘度を示す温度範囲は100~120℃であることが好ましい。上記最低粘度を示す温度範囲が100℃以上であれば、プレス成形時のフロー量が低くなり過ぎて、成形体に樹脂が行き渡らないことを防ぐ観点から好適である。また、上記最低粘度を示す温度範囲が120℃以下であれば、プレス成形時のフロー量を抑える観点から好適である。
【0142】
<マトリックス樹脂組成物の硬化性>
本実施形態の強化繊維基材に含まれるマトリックス樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物である場合における、キュラストメーターで測定した際の140℃における硬化完了時間は、2.0~15.0分であることが好ましく、2.0~10.0分であることがより好ましく、2.0~8.0分であることがさらに好ましい。
【0143】
<評価および評価方法>
キュラストメーターによる測定は、ゴム加硫試験の工業規格JIS K6300に基づいて行う。この時、振動数は100cpm、振幅角度は±1/4°、ダイス形状はWP-100とする。
【0144】
キュラストメーターのトルク-時間曲線は、測定されたトルクを縦軸とし、横軸を時間として得られる曲線である。通常、樹脂の硬化反応が進むに従いトルクは上昇し、硬化反応が終わりに近づくとトルクの上昇が終結し、値が一定になる。
【0145】
上記の硬化完了時間は、トルク-時間曲線の接線の傾きが最大値となった後、その傾きが最大値の1/20となる時間とする。
【0146】
キュラストメーターで測定した際の140℃における硬化完了時間が、15.0分以内であれば、本実施形態の強化繊維基材に含まれる熱硬化性樹脂組成物等のマトリックス樹脂組成物は、硬化性に優れている。よって、プレス成形におけるプレス型の占有時間を短くすることができ、成形サイクルを早く回すことができる。また、キュラストメーターで測定した際の140℃における硬化完了時間が、2.0分以上であれば、樹脂がフローする時間があるため成形体に樹脂を十分に行き渡らせることができる。
【0147】
(強化繊維基材の樹脂含有率)
強化繊維基材における樹脂含有率は、20~45質量%が好ましく、25~40質量%がさらに好ましい。上記樹脂含有率が20質量%以上であることは、強化繊維基材中のボイドを低減させる観点から好ましい。また、上記樹脂含有率が45質量%以下であることは、強化繊維基材の機械物性を高くするとともに、強化繊維基材のタック性が強くなり過ぎることを防ぐ観点から好ましい。なお、樹脂含有率の樹脂とは強化繊維基材に含有させるマトリックス樹脂組成物中の樹脂である。
【0148】
(マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材の形態)
強化繊維基材のうち、マトリックス樹脂組成物を含むものを、「マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材」と称する。マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材は、一般に、プリプレグと呼称されるものである。本実施形態に係るプリフォームの製造方法で、平行切込を有する強化繊維基材と併用できるマトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材の種類としては、複数の配列するテープ状プリプレグで形成されているシート状の基材、クロスプリプレグ及び一方向性プリプレグ等のシート状基材が挙げられる。
【0149】
マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材としては、一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよく、マトリックス樹脂組成物を含まない強化繊維基材と併用してもよい。圧縮成形用のプリフォームの製造または圧縮成形による成形品の製造に、強化繊維基材を併用する際は、成形品のボイド等の欠陥を抑制する観点から、マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材を用いることが好ましい。以下、各マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材の種類について説明する。
【0150】
強化繊維を一方向に引き揃えた形態を一方向材という。一方向材の例には、強化繊維を一方向に配向させた一方向材、強化繊維を一方向に配向させるとともに補助糸等によりステッチングした、一方向に強化繊維を配置してステッチングした一方向性織物が含まれる。
【0151】
一方向材のうち、強化繊維を一方向に配向させたものに、マトリックス樹脂組成物を含浸させた、マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材を一方向性プリプレグという。
【0152】
(一方向性プリプレグの製造方法)
上記シート状の一方向性プリプレグの製造方法の例には、ホットメルト法が含まれる。ホットメルト法は、フィルム化された熱硬化性樹脂組成物を一方向に引き揃えた強化繊維束を複数本引き揃えて広幅にしたものに貼り付けてから加熱加圧して熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物を強化繊維束に含浸させる方法である。
【0153】
(テープ状プリプレグ)
本発明のプリフォーム及び/または成形品を部分的に補強する観点で、一方向に配向させた細幅の強化繊維基材にマトリックス樹脂組成物を含浸させた、マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材として、テープ状のプリプレグを用いてもよい。テープ状プリプレグとして例えば、スリットテープやトウプリプレグが挙げられる。スリットテープは、強化繊維束を一方向に引き揃えた状態でマトリックス樹脂組成物を含浸させたシート状の一方向性プリプレグから作製される。該一方向性プリプレグを専用スリッターで短冊状に切断することにより作製したテープ状プリプレグである。
【0154】
(スリットテープ)
スリットテープは、強化繊維束を一方向に引き揃えた状態で熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物を含浸させたシート状の一方向性プリプレグが、強化繊維の配向方向に沿って細長く切断されてなるテープ状の強化繊維基材である。スリットテープは、例えば、通常の一方向プリプレグをスリッターで短冊状に切断した後、これを紙管などのボビンに巻き取ることにより得られる細幅の強化繊維基材である。
【0155】
(スリットテープの製造方法)
スリットテープは、複数の強化繊維束を一方向に引き揃えた状態で熱硬化性樹脂組成物を含浸させたシート状の一方向プリプレグを、専用スリッターで短冊状に切断することにより作製することができる。上記一方向プリプレグの製造方法の例には、ホットメルト法が含まれる。ホットメルト法は、フィルム化された熱硬化性樹脂組成物を一方向に引き揃えた強化繊維束に貼り付けてから加熱加圧して熱硬化性樹脂組成物を強化繊維束に含浸させる方法である。
【0156】
(トウプリプレグ)
トウプリプレグは、連続する強化繊維束に熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物が含浸しているテープ状のマトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材である。トウプリプレグは、例えば、数千~数万本の強化繊維のフィラメントが一方向に配列した強化繊維束に、熱硬化性樹脂を含浸させた後に得られる細幅の強化繊維基材である。
【0157】
強化繊維束は、複数の強化繊維の束である。強化繊維束におけるフィラメント数は、1000本~100000本、好ましくは1000本~60000本、より好ましくは3000本~50000本である。上記フィラメント数が60000本以下であることは、強化繊維束へのマトリックス樹脂組成物の含浸を容易にする観点から好ましい。また強化繊維束の生産性の観点から、上記フィラメント数が1000本以上であることが好ましい。
【0158】
(トウプリプレグの製造方法)
上記トウプリプレグは、熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物を強化繊維束に含浸させることにより作製することができる。強化繊維束への熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物の供給は、公知の方法によって行うことが可能である。このような供給方法の例には、レジンバス法、回転ロール法、紙上転写法及びノズル滴下法が含まれる。
【0159】
上記レジンバス法では、熱硬化性樹脂組成物を貯留しているレジンバス内に、一方向に配向させた細幅の強化繊維束(トウ)を通過させて熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物を含浸させる。そして、オリフィスやロール等によって余剰の熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物を搾り取り、強化繊維束中の樹脂含有量を調整する方法である。また、上記回転ロール法は、回転ロール上に熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物の層を形成し、これをトウに転写する転写ロール式の含浸法である。当該回転ロール法の例には、ドクターブレードを持つ回転ドラムによる含浸法が含まれる。
【0160】
また、上記紙上転写法は、紙上に熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物の層を形成し、トウに転写する方法である。また、上記ノズル滴下法は、特開平09-176346号公報、特開2005-335296号公報及び特開2006-063173号公報などの公報に記載されている。
【0161】
これらの中でも、熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物の供給量の制御や実施の容易さの点で、回転ロール法が好ましい。熱硬化性樹脂組成物などのマトリックス樹脂組成物は、成形品のボイド低減や物性低下抑制の観点で強化繊維束に均一に含浸されていることが好ましい。
【0162】
(クロスプリプレグ)
クロスプリプレグは、上記クロス材に、マトリックス樹脂組成物が含浸している、マトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材である。クロス材は、必要な方向に強化繊維を配置した一方向性織物;平織、朱子織、綾織等の二方向性織物;三軸織;ノンクリンプ織物;等のいずれの織組織のクロス材であってもよい。せん断変形に優れている点で、平織、綾織、及び朱子織の使用が特に好ましい。
【0163】
(クロスプリプレグの製法)
クロスプリプレグは、上述の(スリットテープの製造方法)の項で記載した一方向性プリプレグの製法と同様の方法でマトリックス樹脂組成物を含浸させて製造することができる。
【0164】
(シートモールディングコンパウンド)
シートモールディングコンパウンド(以下、SMC)は、3mm~100mm程度に切断した強化繊維と熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含むシート状材料である。
【0165】
(SMCの製法)
SMCは、例えば、3mm~100mm程度に切断した強化繊維束をシート状に散布したのち、マトリックス樹脂組成物を十分に含浸させることによって製造される。
【0166】
本実施形態に係るプリフォームは、せん断変形/圧縮変形部位における強化繊維の配向方向に複数の切込を有することから、強化繊維に交差する方向から切断して断面を観察すると、各層内で、強化繊維の間に樹脂だまりが見られる。本実施形態に係る製法で製造されたプリフォームは、このような観点から判別することが可能である。
【0167】
〔2.繊維強化複合材料成形品の製造方法〕
本実施形態に係る繊維強化複合材料成形品の製造方法は、上記のプリフォームの製造方法を、プリフォームを製造する工程として含み、さらに、プリフォームを金型内で加熱加圧する加熱加圧工程を含む。また、本実施形態に係る繊維強化複合材料成形品の製造方法は、上記強化繊維基材を、型(例えば、成形型)を用いて成形する工程を含む。その際に、プリフォームを経ず、上記繊維強化基材を型で成形して繊維強化複合材料成形品を得てもよい。当該強化繊維基材のせん断変形及び/または圧縮変形する部位は、三次元形状への追従性を高める点等で、型による変形の際にせん断変形及び/または圧縮変形することが好ましい。「型による変形の際」とは、例えば、「成形中の型による変形時」が挙げられる。型の構造および形状は上述のプリフォーム型の構造および形状と同様であってもよいし、異なっていてもよい。三次元形状への追従性を高める点等で、型の形状は上述のプリフォーム型の形状と同様であることが好ましい。
【0168】
また、上記プリフォーム型等の型によって、上記強化繊維基材及び/またはマトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材を変形させる工程を含んでいてもよい。すなわち、本実施形態における、型を用いて強化繊維基材を変形させる工程とは、強化繊維基材を、成形型を用いて直接、繊維強化複合材料成形品の形状へ成形することであってもよい。あるいは、当該変形させる工程は、強化繊維基材を、プリフォーム型を用いて繊維強化複合材料成形品の形状に近い形状に賦形することと、賦形により形成されたプリフォームを、成形型を用いて成形することとを含んでいてもよい。このように本実施形態では、変形とは、賦形および成形の総称であってよく、この場合、賦形および成形の一方または両方の意味を含む。
【0169】
<加熱加圧工程>
加熱加圧工程において、例えば、プリフォームを、予め調温せしめた金型の下型内に配置する。次いで、プリフォームを予め調温せしめた金型の上型を近接させて閉じ、加圧する。金型の温度は、100~170℃が好ましく、130~150℃がより好ましい。金型の上型と下型の温度は、同じであっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。成形時の金型の面圧は、1~15MPaが好ましく、4~10MPaがより好ましい。こうして、成形型によって加熱加圧してプリフォームを硬化させる。
【0170】
成形時間は、1~15分が好ましく、2~5分がより好ましい。これによって、所定の形状の成形品を得る。成形時間は、成形品に求められる生産性及びそれを実現するための材料の選択に基づいて、適宜に決めることが可能である。例えば、上述した自動車用製品用の熱硬化性樹脂を適宜に選択することによって、150~600秒間の上記の加熱加圧によって成形品を得ることが可能である。
【0171】
マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合、強化繊維基材に含まれるマトリックス樹脂組成物を軟化させて、形状を付与し、その後冷却することにより固化物である成形品を得ることができる。マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、強化繊維基材に含まれるマトリックス樹脂組成物を硬化させて、硬化物である成形品を得ることができる。また、上記強化繊維基材と上記繊維強化基材とは異なる種類の強化繊維基材とを成形することによって、強化繊維基材の硬化物または固化物である成形品を得ることができる。
【0172】
このように、本実施形態における繊維強化複合材料成形品は、上述したプリフォームの製造方法で得られたプリフォームの硬化物または固化物である。本実施形態における繊維強化複合材料成形品は、上記強化繊維基材の硬化物または固化物である。当該成形品は、型による変形の際にせん断変形/圧縮変形する部位の強度と、せん断変形/圧縮変形しない部位の強度との間に、強化繊維の切断による差がないことによって確認することが可能である。
【0173】
また、本実施形態に係る繊維強化複合材料成形品の製造方法は、上記強化繊維基材から、上述したプリフォームを経ずに繊維強化複合材料成形品を製造してもよい。すなわち、1枚以上の上記強化繊維基材を加熱加圧したのち冷却することで複合材料成形品を製造する成形工程を含む複合材料成形品の製造方法も本実施形態に含まれる。
【0174】
プリフォームを経ずに繊維強化複合材料成形品を製造するとき、強化繊維基材が複合材料成形品の形状となるように、適度な形状の型によって、また適度な押圧力で強化繊維基材を押圧すればよい。上記の成形工程は、上述した「プリフォームを加熱加圧して複合材料成形品を製造する工程」と同様に実施してよい。たとえば、当該成形工程は、強化繊維基材から複合材料成形品を製造するのに十分な温度において十分な時間で、型で固定している上記強化繊維基材を加熱加圧すればよい。
【0175】
本実施形態では、上記強化繊維基材から繊維強化複合材料成形品を直接製造する方法であって、プリフォームを経ない製造方法によっても、プリフォーム型と同様の形状の成形型を用いて良好な外観と強度とを有する繊維強化複合材料成形品を製造することが可能である。このような繊維強化複合材料成形品の製造方法は、例えば、上述したプリフォーム型を用いるプリフォームの製造方法と同様にして行うことができる。当該製造方法は、プリフォームの製造が省略されることから、プリフォームから繊維強化複合材料成形品を製造する際の作業を省略することができるため、作業性に優れる。
【0176】
本実施形態に係る製造方法によって得られる繊維強化複合材料成形品は、上記強化繊維基材またはプリフォームを加熱加圧硬化しているため、成形時のシワ及び強化繊維の蛇行の発生が抑制されている。さらに強化繊維束を実質的に切断していない為、連続する強化繊維由来の強度が得られる。したがって、本実施形態に係る製造方法によって、良好な外観を有するとともに(外観性に優れる)、高強度な繊維強化複合材料成形品を製造することが可能である。
【0177】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る繊維強化複合材料成形品の製造方法は、一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含む強化繊維基材を、型を用いて変形させる工程を含み、強化繊維基材は、せん断変形及び/または圧縮変形する部位と、上記せん断変形及び/または圧縮変形する部位に、上記強化繊維の配向方向に実質的に平行な切込と、を有し、かつ、実質的に繊維を切断する切込を有さない。
【0178】
上記の構成によれば、外観及び強度に優れる繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0179】
また、本実施の形態では、せん断変形及び/または圧縮変形する部位は、上記型による変形の際にせん断変形及び/または圧縮変形してもよい。
【0180】
上記の構成によれば、外観及び強度に優れる繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0181】
また、本実施の形態では、型の形状は三次元形状であってもよい。
【0182】
上記の構成によれば、外観及び強度に優れる繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0183】
また、本実施の形態では、上記型の投影面積が最大になるように、上記型の強化繊維基材および強化繊維基材以外の材料のうち少なくとも一方に接する面を平面投影して二次元図形を得たときに、上記投影方向をZ方向とし、上記二次元図形の幾何中心を通り、かつ最短となる線分に沿う方向をX方向とし、二次元図形において上記X方向に直交する方向をY方向とし、上記Y方向に平行である、上記二次元図形内の最短線分をL1’、上記L1’の長さをl1’、上記L1’に対応する上記型の形状に沿った線分をL1、上記L1の長さをl1とし、上記L1’に平行な、上記二次元図形内の線分をL2’、上記L2’の長さをl2’、上記L2’に対応する上記型の形状に沿った線分をL2、上記L2の長さをl2としたときに、上記型は、上記l1’に対する上記l1の割合(l1/l1’)と、上記l2’に対する上記l2の割合(l2/l2’)とが異なる部位を有していてもよい。
【0184】
上記の構成によれば、強化繊維基材のせん断変形性を改善し、三次元形状への追従性を高めることで、外観が良好な繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0185】
また、上記型の強化繊維基材および強化繊維基材以外の材料のうち少なくとも一方に接する面を平面投影して得られた二次元図形と対応する強化繊維基材において、L1とL2とに挟まれる部分に切込を有していてもよい。
【0186】
上記の構成によれば、強化繊維基材中に重なりが生じたり、強化繊維基材の変形の自由度が上がって変形したりすることで、余分なシート部材を逃がすことができ、外観が良好な繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0187】
また、本実施の形態では、X方向に平行である、上記二次元図形内の最短線分をL3’、上記L3’の長さをl3’、上記L3’に対応する上記型の形状に沿った線分をL3、上記L3の長さをl3とし、上記L3’に平行な、上記二次元図形内の線分をL4’、上記L4’の長さをl4’、上記L4’に対応する上記型の形状に沿った線分をL4、上記L4の長さをl4としたときに、上記型は、上記l3’に対する上記l3の割合(l3/l3’)と、上記l4’に対する上記l4の割合(l4/l4’)とが異なる部位を有していてもよい。
【0188】
上記の構成によれば、強化繊維基材のせん断変形性を改善し、三次元形状への追従性を高めることで、外観が良好な繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0189】
また、本実施の形態では、上記型を平面投影して得られた二次元図形と対応する強化繊維基材におけるL3とL4とに挟まれる部分に切込を有していてもよい。
【0190】
上記の構成によれば、強化繊維基材中に重なりが生じたり、強化繊維基材の変形の自由度が上がって強化繊維基材が変形したりすることで、余分なシート部材を逃がすことができ、外観が良好な繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0191】
また、本実施の形態では、強化繊維の配向方向に実質的に平行な切込がある強化繊維基材の部分の面積と、強化繊維基材の部分と対応する型の部分の面積とが異なっていてもよい。
【0192】
上記の構成によれば、強化繊維基材中に重なりが生じたり、強化繊維基材の変形の自由度が上がって強化繊維基材が変形したりすることで、余分なシート部材を逃がすことができ、外観良好な繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0193】
また、本実施の形態では、せん断変形の量が1°以上60°以下であってもよい。
【0194】
上記の構成によれば、切込による強化繊維基材のせん断変形性の向上効果を充分に発揮できる。また、繊維強化複合材料成形品の繊維蛇行やシワを抑制することができる。
【0195】
また、本実施の形態では、圧縮変形の量が圧縮変形する部位の面積の30%以下であってもよい。
【0196】
上記の構成によれば、切込による強化繊維基材のせん断変形性の向上効果を充分に発揮できる。また、繊維強化複合材料成形品の繊維蛇行やシワを抑制することができる。
【0197】
また、本実施の形態では、上記型の投影面積が最大になるように、上記型を平面投影して二次元図形を得たときに、上記強化繊維の配向方向に平行な方向で、上記二次元図形中で最長の線分L5’の長さをl5’としたとき、上記強化繊維基材の切込が、上記l5’の0.5%以上の長さであってもよい。
【0198】
上記の構成によれば、強化繊維基材のせん断変形性を高めることができ、外観及び強度に優れる繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0199】
また、本実施の形態では、上記配向方向における上記切込の間隔が、上記l5’の0.5%以上70%未満であってもよい。
【0200】
上記の構成によれば、強化繊維基材のせん断変形性を高めることができ、外観及び強度に優れる繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0201】
また、本実施の形態では、上記配向方向に直交する方向における上記切込の間隔が、上記L3と上記L4との最短距離または上記L1と上記L2との最短距離の10%以上であってもよい。
【0202】
上記の構成によれば、強化繊維基材のせん断変形性を高めることができ、外観及び強度に優れる繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0203】
また、本実施の形態では、1枚以上の上記切込を有する強化繊維基材と、上記1枚以上の上記切込を有する強化繊維基材とは異なる種類の強化繊維基材を、上記型を用いて成形してもよい。
【0204】
上記の構成によれば、外観及び強度に優れる繊維強化複合材料成形品を製造することができる。
【0205】
また、本実施の形態では、上述の変形させる工程は、上記の強化繊維基材を、プリフォーム型を用いて賦形することを含んでいてもよい。
【0206】
上記の構成によれば、プリフォームを経て繊維強化複合材料成形品を製造することができ、外観及び強度に優れる繊維強化複合材料成形品を製造する観点からより一層効果的である。
【0207】
また、本実施形態に係る強化繊維基材は、一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂組成物を含み、せん断変形及び/または圧縮変形する部位に、上記強化繊維の配向方向に実質的に平行な切込を有し、かつ、実質的に繊維を切断する切込を有さない。
【0208】
上記の構成であれば、外観に優れ、高い強度を有する繊維強化複合材料成形品が得られる。
【0209】
また、本実施形態に係る繊維強化複合材料成形品は、上記強化繊維基材の硬化物または固化物である。
【0210】
上記の構成であれば、繊維強化複合材料成形品は、成形時のシワ及び強化繊維の蛇行の発生が抑制されている。また、外観に優れ、高い強度を有する。
【0211】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0212】
[実施例1]
(強化繊維基材の製造)
強化繊維である炭素繊維の束(三菱ケミカル株式会社製、製品名:TR50S)を一方向に引き揃えたものに、マトリックス樹脂組成物が含浸された強化繊維基材を用意した。マトリックス樹脂組成物は、jER828とエポキシ樹脂予備重合物を86.9:13.1(単位:質量部)で混合した混合物を使用した。エポキシ樹脂予備重合物は、特許第5682838号の成分D-2の製造方法に従って準備した。マトリックス樹脂組成物を100℃で加熱し、室温付近(30℃)においてB型粘度計で測定した粘度は、35000Pa・sであり、キュラストメーターで測定した硬化完了時間は5分であった。2.0℃/分で昇温した昇温粘度測定において、最低粘度は0.8Pa・sで、最低粘度を示す温度は、120℃であった。また、マトリックス樹脂組成物のガラス転移点Tgは、170℃であった。強化繊維基材の厚さは0.22mmであった。
【0213】
(強化繊維基材の裁断)
図8に示すような裁断装置を用いて、上記強化繊維基材を
図1に示すような形状にカットした。強化繊維基材のY方向の長さは532mm、X方向の長い方の辺の長さは550mm、X方向の短い方の辺の長さは500mmであった。
【0214】
(平行切込の付与)
カッティングプロッタを用いて、上記の強化繊維基材に平行切込を付与することで平行切込がある強化繊維基材を製造した。
図10は、実施例1で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。
図10に示すような平行切込を有する二種の強化繊維基材を製造した。なお、
図10以降における「繊維方向」とは、強化繊維の配向方向を意味する。
【0215】
(積層)
上記平行切込がある強化繊維基材を、それぞれのシートに含まれる強化繊維の配向方向が直交する様に積層した。そして、
図10に示すように、強化繊維の配向方向が90°交差する方向となるように二つの強化繊維基材シートが積層された積層体を得た。このような積層体における強化繊維基材の配置を「0°/90°」とも言う。なお、
図10の紙面に対して左図が0°層であり、右図が90°層である。
【0216】
(圧密化)
得られた積層体を平坦な作業台上に搬送し、デバルグ装置(Torr社製;T-7ツールシステム)で覆い、真空ポンプで内部を減圧することで、上記積層体を圧密化した。減圧状態の条件は、真空圧が700mmHg、減圧時間が5分間であった。次いで、デバルグ装置の内部を大気圧に戻し、圧密化された積層体を得た。
【0217】
(プリフォームの作製)
圧密化された積層体を、上面が開口した下型の開口上部に載せ、当該積層体のタック性により、当該積層体の一部分を下型に固定した。なお、下型には、上述した
図2~
図4に示すような下型を用いた。L
1は天面部11cと壁部11aの境界を通る線分、L
2は底部10aと壁部11aの境界を通る線分及び底部10bと壁部11bの境界を通る線分とした。また、L
3は下部21aと上部21bの境界を通る線分、L
4は壁部21とプリフォーム型10の境界を通る線分とした。具体的には、L
1は520mm、L
2は548mm、L
3は440mm、L
4は530mmだった。固定した積層体を可動式赤外線ヒーターにより70℃で30秒間加熱した。次いで、簡易成形機に取り付けた上型を下降させ、下型と上型で挟み込み、0.03MPaの圧力を30秒間かけることにより、上記積層体を賦形した。次いで下型及び上型に空気を吹き付けて当該積層体を冷却し、上型を上昇させて、プリフォームを得た。得られたプリフォームの写真を
図20に示す。
図20の右図において2001~2003で示される部分は、それぞれ、
図20の左図において符号2001~2003が付されている部分の拡大図である。
【0218】
なお、符号2001が付されている部分とは、壁部における凸条部と凸縁部との間の部分である。符号2002が付されている部分とは、凸条部の側面における壁部側の端部である。符号2003が付されている部分とは、壁部における凸条部との接続部およびその周辺部である。また、
図21~26においても、プリフォームにおける図示する部分は、
図20と同様である。
【0219】
[実施例2]
図11は、実施例2で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。積層体を構成する二種の強化繊維基材に
図11に示すような平行切込を有する強化繊維基材を用いる以外は実施例1と同様にして、プリフォームを得た。
図11の左図が0°層であり、右図が90°層である。得られたプリフォームの写真を
図21に示す。
図21の右図の2101~2103で示される部分は、それぞれ、
図21の左図の符号2101~2103が付されている部分の拡大図である。
【0220】
[
参考例3]
図12は、
参考例3で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。積層体を構成する二種の強化繊維基材に、
図12に示すような平行切込を有する強化繊維基材を用いる以外は実施例1と同様にして、プリフォームを得た。
図12の左図が0°層であり、右図が90°層である。得られたプリフォームの写真を
図22に示す。
図22の右図の2201~2203で示される部分は、それぞれ、
図22の左図の符号2201~2203が付されている部分の拡大図である。
【0221】
[実施例4]
図13は、実施例4で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。積層体を構成する強化繊維基材に、
図13に示すような平行切込を有する強化繊維基材を用いる以外は実施例1と同様にして、プリフォームを得ることを想定した。当該積層体は、
図13に示されるような強化繊維基材を、強化繊維の配向方向が同じとなるように一枚を配置して構成されている。
【0222】
[実施例5]
図14は、実施例5で使用するプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。積層体を構成する強化繊維基材に
図14の左図に示すような平行切込を有する強化繊維基材、及び
図14の右図に示すような平行切込を有さない強化繊維基材を用いる以外は実施例1と同様にして、プリフォームを得ることを想定した。当該積層体は、
図14の左図が0°層であり、右図が90°層である。
【0223】
[実施例6]
図15は、実施例6で使用するプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。積層体を構成する強化繊維基材に
図15に示すような平行切込を有する強化繊維基材と、強化繊維を切断する強化繊維基材を用いる以外は実施例1と同様にして、プリフォームを得ることを想定した。
図15の左図が0°層であり、右図が90°層である。90°層には、強化繊維を切断する切込を、0°層と同じ長さ、同じ間隔で付与した。
【0224】
[
参考例7]
図16は、
参考例7で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。積層体を構成する強化繊維基材に、
図16に示すような平行切込を有する強化繊維基材を用いる以外は実施例1と同様にして、プリフォームを得た。当該積層体は、
図16に示されるような強化繊維基材を、強化繊維の配向方向が同じとなるように一枚を配置して構成されている。得られたプリフォームの写真を
図23に示す。
図23の右図の2301~2303で示される部分は、それぞれ、
図23の左図の符号2301~2303が付されている部分の拡大図である。
【0225】
また、
図23の左図下側における右側の図は、
参考例7におけるプリフォームの凸条部の一側面部を示しており、左側の図は、当該プリフォームにおける壁部、凸縁部および底部で規定される一角部を示している。上記2302より、コルゲート構造の側面に繊維の撚れが見られ、これは該当部位に平行切込を有していないことが原因と想定される。
【0226】
[
参考例8]
図17は、
参考例8で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。積層体を構成する強化繊維基材に
図17に示すような平行切込を有する強化繊維基材を用いる以外は実施例1と同様にして、プリフォームを得た。当該積層体は、
図17の左図が0°層であり、右図が90°層である。得られたプリフォームの写真を
図24に示す。
図24の右図の2401~2403で示される部分は、それぞれ、
図24の左図の符号2401~2403が付されている部分の拡大図である。
【0227】
[
参考例9]
図18は、
参考例9で使用したプリプレグシートの切込の配置を模式的に示す図である。積層体を構成する強化繊維基材に
図18に示すような平行切込を有する強化繊維基材と、強化繊維を切断する強化繊維基材を用いる以外は実施例1と同様にして、プリフォームを得た。90°層には、強化繊維を切断する切込を、0°層と同じ長さ、同じ間隔で付与した。
図18の左図が0°層であり、右図が90°層である。得られたプリフォームの写真を
図25に示す。
図25の右図の2501~2503で示される部分は、それぞれ、
図25の左図の符号2501~2503が付されている部分の拡大図である。
【0228】
また、
図25の左図下側における右側の図は、
参考例9におけるプリフォームの凸条部の一側面部を示しており、左側の図は、符号2501が付されている部分を斜めから見た状態を示している。これらの図はそれぞれ、プリフォームの目開き及びプリフォーム型からの浮きを示している。
参考例7と同様に積層体を構成する二種の強化繊維基材の同一箇所に切込を有していることが原因と推測される。
【0229】
[比較例1]
図19は、比較例1で使用したプリプレグシートを模式的に示す図である。積層体を構成する強化繊維基材に
図19に示すような平行切込を有さない強化繊維基材を用いる以外は実施例1と同様にして、プリフォームを得た。
図19の左図が0°層であり、右図が90°層である。得られたプリフォームの写真を
図26に示す。
図26の右図の2601~2603で示される部分は、それぞれ、
図26の左図の符号2601~2603が付されている部分の拡大図である。
【0230】
[プリフォームの評価]
実施例1、2、4、5、6、参考例3、7~9及び比較例1のプリフォームの製造過程及び得られたプリフォームを観察して、以下の3項目の特性を下記の基準にて評価した。
【0231】
(1)型形状への追従
A:積層体の型への追従が十分であった。
B:シワは発生したが、プレス成形によってシワの緩和が期待される、許容できる範囲だった。
C:型への追従が不十分でシワが発生し、プレス成形後にも大きなシワが残ると考えられる程度だった。
【0232】
(2)中央部のシワ
A:積層体の十分な変形及び移動により成形品中の凹凸を含む部分であるフロア中央部にシワが見られなかった。
B:フロア中央部に若干のシワが確認されたが、プレス成形によりシワの緩和が予想される程度であった。
C:フロア中央部に深くきついシワが発生し、プレス成形の実施が困難であると予想された。
【0233】
(3)賦形時の繊維蛇行
A:賦形時の繊維蛇行または繊維の撚れが見られなかった。
B:賦形時に若干の繊維蛇行または繊維の撚れが見られたが、許容できる範囲であった。C:賦形時に極度の繊維蛇行または繊維の撚れが観測された。
【0234】
実施例1、2、4、5、6、参考例3、7~9及び比較例1のプリフォームについて、積層体における平行切込の寸法及び配置ならびに評価結果を表1および2に示す。実施例4~6の評価結果については、実施例1、2、及び参考例3、7~9から類推した想定値である。なお、表中、l1~l4及びL1~L4は上述の通りである。また、表中、「D12」は、L1とL2との間の最短距離を表し、「D34」は、L3とL4との間の最短距離を表す。
【0235】
その他、表中の用語は以下の意味である。
「Sy」 それぞれの切込のY方向における長さ
「Sys」 Y方向に沿う一直線上にある切込の長さの合計
「Gy」 Y方向に隣り合う切込間の間隔
「Gx」 X方向に隣り合う切込間の間隔
「Rsy」 l1に対する切込の長さSyの割合
「Rgy1」 l1に対する切込間の間隔Gyの割合
「Rgx12」 L1とL2の最短距離に対する切込間の間隔Gxの割合
「Rsys」 l1に対する切込の長さの合計Sysの割合
「Sx」 それぞれの切込のX方向における長さ
「Sxs」 X方向に沿う一直線上にある切込の長さの合計
「Rsx」 l3に対する切込の長さSxの割合
「Rgx3」 l3に対する切込間の間隔Gxの割合
「Rgy34」 L3とL4の最短距離に対する切込間の間隔Gyの割合
「Rsxs」 l3に対する切込の長さの合計Sxsの割合
「連続」 切込はあるが切込間の間隔がないこと。
【0236】
【0237】
【0238】
表1および2および
図20~25に示すように、実施例1
、2、4、5、6、及び参考例3、7~9のプリフォームは、比較例1のプリフォームと比較して、Cの評価がなく、型形状に追従し、中央部にシワが発生せず、繊維蛇行または繊維の撚れが見られなかった。
【0239】
実施例6のプリフォームは、強化繊維を切断する方向の切込を有する強化繊維基材と強化繊維を切断する方向に切込を有さない強化繊維基材を積層させたプリフォームである。実施例1、2、4、5及び参考例3は、いずれも、強化繊維を切断する方向の切込を有さないにも関わらず、実施例6と同等かそれ以上の賦形性を有していた。
【0240】
また、表1および
図20~
図22によれば、コルゲート構造の側面に対応する部分に切込が入っていると、より良い評価が得られることがわかる。
図2に示す形状では、コルゲート構造の長手方向に圧縮・引張が発生するため、コルゲート構造の側面である11a、11cに繊維の撚れが発生しやすい。その結果、中央部にも影響が及ぶが、コルゲート構造の側面に対応する部分に切込があることで、その影響を最低限に抑えることができるためであると考えられる。
【0241】
また、表2および
図23~
図25によれば、強化繊維基材がせん断変形及び/または圧縮変形する部位の一部にでも切込を有していれば、良好な評価が得られることがわかる。コルゲート構造の側面に対応する部分に切込がなく、コルゲート構造の側面である11a、11cに対応する部分の変形性が低い場合であっても、当該切込があることで、強化繊維基材が型から浮きあがることを抑制していると考えられる。
【0242】
また、実施例1、2、4、6および参考例3と実施例5との対比、あるいは参考例7、9と参考例8との対比によれば、互いに重ね合わせる二枚の強化繊維基材の二枚ともが切込を有すると、一枚の強化繊維基材のみが切込を有する場合に比べてより良好な評価が得られることがわかる。切込を有しないことで、変形性に劣る層があることで、少しでもしわが出ると、全層にわたってしわが見えることになることから、全ての層に切込があることが良いと考えられる。
【0243】
成形品の強度は測定していないが、実施例のプリフォームのシワ及び繊維蛇行が抑制されていることから、実施例のプリフォームにより製造された成形品においてもシワ及び繊維蛇行が抑制される傾向は明らかである。また、当該成形品は明らかに外観が良好で、強度が高くなるものと考えられる。また、連続繊維であることから、繊維を切断しているものよりも強度が高くなることは自明であると考えられる。たとえば、実施例1と実施例6、あるいは参考例7と参考例9、を対比すると明らかになるが、強化繊維基材が強化繊維の配向方向を横断する方向の切込を有する場合では、平行切込を有する強化繊維基材を用いる場合に比べて、得られる成形品の強度が低下する。
【0244】
また、実施例1、2と参考例3とを比べると、参考例3は、強化繊維基材の形態保持性が低位であることから、取り扱い性が若干劣る。これは、切込が長く、強化繊維基材の端部まで存在するためである。また、切込を付与する際に、強化繊維基材の形状が安定せず、作業性が悪かった。
【0245】
比較例1のプリフォームは、
図26に示すように、シワを抑制することができず、極度の繊維蛇行または繊維の撚れが発生した。これは、プリフォームの作製工程において、積層体における強化繊維間の絡み合いが強く変形の自由度が低いために、型形状への追従性が悪くなったことが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0246】
本発明の一態様に係る発明によれば、成形時にシワ及び強化繊維の蛇行の発生を抑制することができ、さらに成形性に優れたプリフォームを提供することができる。本発明の一態様に係るプリフォームは、特に、自動車部品等の複雑な構造を有する成形品の製造に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0247】
1 強化繊維基材
2 (平行)切込
3 下型
4 積層体(強化繊維基材)
5 超音波カッター
6 トリミング治具
7 デバルグ装置
10 プリフォーム型
10a、10b 底部
11 凸条部
11c、12b、13b、22 天面部
11a、11b、12a、13a、21 壁部
12、13 凸縁部
20 前段部
21a 下部
21b 上部
31、32、33、34 角部
41、51 第一の辺
42、52 第二の辺
43、53 第三の辺
Cu 模様
S 試料