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特許7156523フルオロポリエーテル基含有ポリマー及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】フルオロポリエーテル基含有ポリマー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/331 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
C08G65/331
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021524775
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2020020636
(87)【国際公開番号】W WO2020246301
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2019105865
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒匂 隆介
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-44158(JP,A)
【文献】国際公開第2019/039226(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/049753(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G65/00-67/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rfは1価又は2価のフルオロポリエーテル基含有ポリマー残基であり、Xは独立に2価の有機基であり、αは1又は2である。)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー。
【請求項2】
前記式(1)のαが1であり、Rfが下記一般式(2)で表される基である請求項1記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー。
【化2】
(式中、Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が-CF3基、末端が-CF2H基もしくは末端が-CH2F基である1価のフッ素含有基であり、RfHは1個以上の水素原子を含むフルオロオキシアルキレン基であり、dは単位毎にそれぞれ独立して1~3の整数であり、p、q、r、s、t、u、vはそれぞれ0~200の整数で、p+q+r+s+t+u+v=3~200であり、これら各単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、p、q、r、s、t、u、vが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【請求項3】
前記式(1)のαが2であり、Rfが下記一般式(3)で表される基である請求項1記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー。
【化3】
(式中、RfHは1個以上の水素原子を含むフルオロオキシアルキレン基であり、dは単位毎にそれぞれ独立して1~3の整数であり、p、q、r、s、t、u、vはそれぞれ0~200の整数で、p+q+r+s+t+u+v=3~200であり、これら各単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、p、q、r、s、t、u、vが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【請求項4】
前記式(1)において、Xが、炭素数2~12のアルキレン基、又は炭素数8~16のアリーレン基を含むアルキレン基である請求項1~3のいずれか1項に記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー。
【請求項5】
ポリスチレン換算での数平均分子量が1,000~50,000である請求項1~4のいずれか1項に記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー。
【請求項6】
下記一般式(4)
【化4】
(式中、Rfは1価又は2価のフルオロポリエーテル基含有ポリマー残基であり、Yは脱離可能な1価の基である。αは1又は2である。)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーとβ水素を有する有機金属試薬とを反応させることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマーの製造方法。
【請求項7】
β水素を有する有機金属試薬が、グリニャール試薬である請求項6記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマーの製造方法。
【請求項8】
グリニャール試薬が、下記式から選ばれる化合物である請求項7記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマーの製造方法。
【化5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロポリエーテル基含有ポリマー(1価又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基を分子内に有する化合物)に関し、詳細には、撥水撥油性、耐摩耗性に優れた被膜を形成するフルオロポリエーテル基含有ポリマー、及び該ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のディスプレイをはじめ、画面のタッチパネル化が加速している。しかし、タッチパネルは画面がむき出しの状態であり、指や頬などが直接接触する機会が多く、皮脂等の汚れが付き易いことが問題となっている。そこで、外観や視認性をよくするためにディスプレイの表面に指紋を付きにくくする技術や、汚れを落とし易くする技術の要求が年々高まってきており、これらの要求に応えることのできる材料の開発が望まれている。特にタッチパネルディスプレイの表面は指紋汚れが付着し易いため、撥水撥油層を設けることが望まれている。しかし、従来の撥水撥油層は撥水撥油性が高く、汚れ拭取り性に優れるが、使用中に防汚性能が劣化してしまうという問題点があった。
【0003】
一般に、フルオロポリエーテル基含有化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性などを有する。その性質を利用して、工業的には紙・繊維などの撥水撥油防汚剤、磁気記録媒体の滑剤、精密機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜など、幅広く利用されている。しかし、その性質は同時に他の基材に対する非粘着性、非密着性であることを意味しており、基材表面に塗布することはできても、その被膜を密着させることは困難であった。
【0004】
一方、ガラスや布などの基材表面と有機化合物とを結合させるものとして、シランカップリング剤が良く知られており、各種基材表面のコーティング剤として幅広く利用されている。シランカップリング剤は、1分子中に有機官能基と反応性シリル基(一般にはアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基)を有する。加水分解性シリル基が、空気中の水分などによって自己縮合反応を起こして被膜を形成する。該被膜は、加水分解性シリル基がガラスや金属などの表面と化学的・物理的に結合することにより耐久性を有する強固な被膜となる。
【0005】
そこで、フルオロポリエーテル基含有化合物に加水分解性シリル基を導入したフルオロポリエーテル基含有ポリマーを用いることによって、基材表面に密着し易く、かつ基材表面に、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性等を有する被膜を形成しうる組成物が開示されている(特許文献1:特許第6451279号公報)
【0006】
特許文献1において、フルオロポリエーテル基含有ポリマーの中間体として、例えば下記
【化1】
の3級アルコールを用いている。該中間体は反応性オレフィン部位と水酸基を併せ持つポリマーであるが、水酸基が3級であるため、反応性に乏しく、水酸基を有効利用できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6451279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、種々の官能基への変換が容易な末端オレフィン部位(-CH=CH2)と反応性の高い2級水酸基(2級炭素原子に結合した水酸基)とを併せ持つフルオロポリエーテル基含有ポリマー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を解決すべく鋭意検討した結果、カルボニル基を末端に有するフルオロポリエーテル基含有ポリマーにβ水素を有する有機金属試薬、具体的には、末端に脂肪族不飽和二重結合(末端オレフィン部位又は外部オレフィン部位)を有し、かつβ水素を有する有機金属試薬を作用させることで、下記一般式(1)
【化2】
(式中、Rfは1価又は2価のフルオロポリエーテル基含有ポリマー残基であり、Xは独立に2価の有機基であり、αは1又は2である。)
で表され、好適にはポリスチレン換算での数平均分子量が1,000~50,000である、官能基変換容易なオレフィン部位と反応性の高い2級水酸基を併せ持つフルオロポリエーテル基含有ポリマーを製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記フルオロポリエーテル基含有ポリマー(1価又は2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基を分子内に有する化合物)及びその製造方法を提供する。
〔1〕
下記一般式(1)
【化3】
(式中、Rfは1価又は2価のフルオロポリエーテル基含有ポリマー残基であり、Xは独立に2価の有機基であり、αは1又は2である。)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー。
〔2〕
前記式(1)のαが1であり、Rfが下記一般式(2)で表される基である〔1〕記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー。
【化4】
(式中、Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が-CF3基、末端が-CF2H基もしくは末端が-CH2F基である1価のフッ素含有基であり、RfHは1個以上の水素原子を含むフルオロオキシアルキレン基であり、dは単位毎にそれぞれ独立して1~3の整数であり、p、q、r、s、t、u、vはそれぞれ0~200の整数で、p+q+r+s+t+u+v=3~200であり、これら各単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、p、q、r、s、t、u、vが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
〔3〕
前記式(1)のαが2であり、Rfが下記一般式(3)で表される基である〔1〕記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー。
【化5】
(式中、RfHは1個以上の水素原子を含むフルオロオキシアルキレン基であり、dは単位毎にそれぞれ独立して1~3の整数であり、p、q、r、s、t、u、vはそれぞれ0~200の整数で、p+q+r+s+t+u+v=3~200であり、これら各単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、p、q、r、s、t、u、vが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
〔4〕
前記式(1)において、Xが、炭素数2~12のアルキレン基、又は炭素数8~16のアリーレン基を含むアルキレン基である〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー。
〔5〕
ポリスチレン換算での数平均分子量が1,000~50,000である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー。
〔6〕
下記一般式(4)
【化6】
(式中、Rfは1価又は2価のフルオロポリエーテル基含有ポリマー残基であり、Yは脱離可能な1価の基である。αは1又は2である。)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーとβ水素を有する有機金属試薬とを反応させることを特徴とする〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマーの製造方法。
〔7〕
β水素を有する有機金属試薬が、グリニャール試薬である〔6〕記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマーの製造方法。
〔8〕
グリニャール試薬が、下記式から選ばれる化合物である〔7〕記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマーの製造方法。
【化7】
【発明の効果】
【0011】
本発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマーは、種々の官能基への変換が容易であり、なおかつ、末端オレフィン部位(-CH=CH2)と反応性の高い2級水酸基(2級炭素原子に結合した水酸基)という、反応性の異なる2種類の部位を分子中にそれぞれ有することで、様々な末端基変性が可能である。また、好ましくは、末端オレフィン部位と該2級水酸基に結合した2級炭素原子との連結基をアリーレン基(特には、フェニレン基)を含んでもよいアルキレン基とすることで耐薬品性、耐候性など各種耐久性のより優れたフルオロポリエーテル基含有ポリマーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマーは、下記一般式(1)で表されるものであり、好適にはポリスチレン換算での数平均分子量が1,000~50,000である、フルオロポリエーテル基含有ポリマーである。
【化8】
(式中、Rfは1価又は2価のフルオロポリエーテル基含有ポリマー残基であり、Xは独立に2価の有機基であり、αは1又は2である。)
【0013】
本発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマーは、1価のフルオロポリエーテル基又は2価のフルオロポリエーテル基含有ポリマー残基(即ち、1価又は2価のフルオロポリエーテル基含有ポリマー残基)に、官能基変換容易な末端オレフィン部位(-CH=CH2)と反応性の高い2級水酸基(2級炭素原子に結合した水酸基)とが連結していることで、様々な末端基に変性できることを特徴としている。
【0014】
上記式(1)において、Rfは1価又は2価のフルオロポリエーテル基含有ポリマー残基であり、αが1の場合(即ち、Rf1が1価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基の場合)は下記一般式(2)で表される1価のフルオロポリエーテル基であることが好ましく、αが2の場合(即ち、Rf1が2価のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー残基の場合)は下記一般式(3)で表される2価のフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0015】
【化9】
(式中、Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が-CF3基、末端が-CF2H基もしくは末端が-CH2F基である1価のフッ素含有基であり、RfHは1個以上の水素原子を含むフルオロオキシアルキレン基であり、dは単位毎にそれぞれ独立して1~3の整数であり、p、q、r、s、t、u、vはそれぞれ0~200の整数で、p+q+r+s+t+u+v=3~200であり、これら各単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、p、q、r、s、t、u、vが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0016】
上記式(2)において、Aはフッ素原子、水素原子、又は末端が-CF3基、末端が-CF2H基もしくは末端が-CH2F基である1価のフッ素含有基であり、好ましくはフッ素原子、-CF3基、-CF2CF3基、-CF2CF2CF3基である。
【0017】
上記式(2)、(3)において、RfHは1個以上の水素原子を含むフルオロオキシアルキレン基であり、例えば、CF2O単位、C24O単位、C36O単位、C48O単位、C510O単位、C612O単位等の各パーフルオロオキシアルキレン繰り返し単位の1種又は2種以上の組合せにおいて、個々の繰り返し単位中のフッ素原子の1個又は2個が水素原子で置換されたもの等が例示できる。
【0018】
上記式(2)、(3)において、dは単位毎にそれぞれ独立して1~3の整数であり、好ましくは1である。
また、p、q、r、s、t、u、vはそれぞれ0~200の整数、好ましくは、pは5~100の整数、qは5~100の整数、rは0~100の整数、sは0~100の整数、tは0~100の整数、uは0~100の整数、vは0~100の整数であり、p+q+r+s+t+u+v=3~200、好ましくは10~105であり、より好ましくはp+qは10~105、特に15~65の整数であり、r=s=t=u=v=0である。p+q+r+s+t+u+vが上記上限値より小さければ密着性や硬化性が良好であり、上記下限値より大きければフルオロポリエーテル基の特徴を十分に発揮することができるので好ましい。
【0019】
上記式(2)、(3)において、各単位は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、p、q、r、s、t、u、vが付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。
【0020】
式(2)で表される1価のフルオロポリエーテル基として、具体的には、以下のものを例示することができる。
【化10】
(式中、p’、q’、r’、s’はそれぞれ1~200の整数、v’は1~100の整数、w’は1~99の整数で、それぞれのp’、q’、r’、s’、v’の合計は3~200である。また、p’、q’、r’、s’が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。なお、(C24OC48O)は、(C24O)単位と(C48O)単位とが交互に繰り返されている構造を示すものである。)
【0021】
式(3)で表される2価のフルオロポリエーテル基として、具体的には、以下のものを例示することができる。
【化11】
(式中、p’、q’、r’、s’はそれぞれ1~200の整数で、それぞれのp’、q’、r’、s’の合計は3~200である。r1、r2は1~198の整数で、r1+r2の合計は2~199である。また、p’、q’、r’、s’が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0022】
上記式(1)において、Xは、末端オレフィン部位(-CH=CH2)と2級水酸基に結合した2級炭素原子との連結基であって、独立に2価の有機基、好ましくは炭素数2~20の2価炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2~12、更に好ましくは2~6のアルキレン基、又は炭素数8~16のアリーレン基(好ましくはフェニレン基、特にはパラフェニレン基)を含むアルキレン基(即ち、炭素数8~16のアルキレン・アリーレン基)であり、更に好ましくはエチレン基、プロピレン基(トリメチレン基)である。
【0023】
このようなXとしては、例えば、下記の基が挙げられる。
【化12】
【0024】
上記式(1)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーの数平均分子量は、好ましくは1,000~50,000であり、より好ましくは1,500~10,000、更に好ましくは2,500~8,000の範囲である。数平均分子量が1,000未満ではパーフルオロアルキレンエーテル構造の特徴である撥水撥油性、防汚性などを十分に発揮できない場合があり、50,000を超えると末端官能基の濃度が小さくなりすぎて、基材との反応性や密着性が低下する場合がある。なお、本発明中で言及する数平均分子量とは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指す。
【0025】
[測定条件]
展開溶媒:ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)-225
流量:1mL/min.
検出器:蒸発光散乱検出器
カラム:東ソー社製 TSKgel Multipore HXL-M
7.8mmφ×30cm 2本使用
カラム温度:35℃
試料注入量:20μL(濃度0.3質量%のHCFC-225溶液)
【0026】
上記式(1)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーとして、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化13】
(式中、p’、q’、r’、v’、w’、r1、r2は上記と同じであり、それぞれのp’、q’、v’の合計は3~200であり、r1+r2の合計は2~199である。また、p’、q’が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。なお、(C24OC48O)は、(C24O)単位と(C48O)単位とが交互に繰り返されている構造を示すものである。)
【0027】
上記式(1)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーの製造方法としては、下記一般式(4)
【化14】
(式中、Rf、αは上記と同じであり、Yは脱離可能な1価の基である。)
で表されるカルボニル基を末端に有するフルオロポリエーテル基含有ポリマーとβ水素を有する有機金属試薬とを反応させる方法が好ましい。
【0028】
上記式(4)において、Yは脱離可能な1価の基であり、例えば、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、チオール基、アルキルチオ基、アシル基などが挙げられる。
【0029】
このようなYとしては、例えば下記の基が挙げられる。
【化15】
【0030】
上記式(4)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーとして、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化16】
(式中、p’、q’、r’、v’、w’、r1、r2は上記と同じであり、それぞれのp’、q’、v’の合計は3~200であり、r1+r2の合計は2~199である。また、p’、q’が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。なお、(C24OC48O)は、(C24O)単位と(C48O)単位とが交互に繰り返されている構造を示すものである。)
【0031】
β水素を有する有機金属試薬として、具体的には、末端に脂肪族不飽和二重結合(オレフィン部位)を有し、かつ、β水素(即ち、金属原子のβ位の炭素原子に結合した水素原子)を有する有機金属試薬であり、例えば、有機リチウム試薬、グリニャール試薬、有機亜鉛試薬、有機ホウ素試薬、有機スズ試薬などが挙げられ、特に扱い易さの点から、グリニャール試薬、有機亜鉛試薬を用いることが好ましく、末端に脂肪族不飽和二重結合を有し、かつβ水素を有するグリニャール試薬を用いることがより好ましい。
【0032】
β水素を有する有機金属試薬としては、例えば、以下のものが使用できる。
【化17】
【0033】
β水素を有する有機金属試薬の使用量は、上記式(4)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーの反応性末端基(脱離可能な1価の基)1当量に対して、2~5当量、より好ましくは2.5~3.5当量、更に好ましくは約3当量用いることが好ましい。
【0034】
上記式(1)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーの製造方法には、本発明の目的を損なわない範囲で、上記試薬以外の試薬が添加されていてもよい。
【0035】
また、上記式(1)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーの製造方法には、溶剤を用いることができる。このとき用いる溶剤は、特に限定されないが、反応化合物がフッ素化合物である点からフッ素系溶剤を用いることが好ましい。フッ素系溶剤としては、1,3-ビストリフルオロメチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、AGC社から販売されているパーフルオロ系溶剤(アサヒクリンAC2000、アサヒクリンAC6000)、3M社から販売されているHFE系溶剤(NOVEC7100:C49OCH3、NOVEC7200:C49OC25、NOVEC7300:C25-CF(OCH3)-CF(CF32など)、同じく3M社から販売されているパーフルオロ系溶剤(PF5080、PF5070、PF5060など)などが挙げられる。フッ素系溶剤は単独で使用しても混合して使用してもよい。
また、溶剤としては、上記フッ素系溶剤以外に有機溶剤を用いることができる。有機溶剤として、テトラヒドロフラン(THF)、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶剤を用いることができる。有機溶剤は単独で使用してもフッ素系溶剤と混合して使用してもよい。
【0036】
溶剤の使用量は、上記式(4)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー100質量部に対して、10~600質量部、好ましくは50~400質量部、更に好ましくは200~350質量部用いることができる。
【0037】
上記式(1)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーの製造方法としては、例えば、下記一般式(4)
【化18】
(式中、Rf、α、Yは上記と同じである。)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーと、求核剤(β水素を有する有機金属試薬)としてグリニャール試薬、溶剤として例えばアサヒクリンAC6000(AGC社製)、THFを混合し、0~80℃、好ましくは45~70℃、より好ましくは約50℃で、1~12時間、好ましくは5~7時間熟成する。
続いて、反応を停止し、分液操作により水層とフッ素溶剤層を分離する。得られたフッ素溶剤層を更に有機溶剤で洗浄し、溶剤を留去することで、上記式(1)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーが得られる。
【0038】
本発明の上記式(1)で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマーは、反応性の異なる2種類の構造、即ち官能基変換容易なオレフィン部位と反応性の高い2級水酸基とを有しており、反応条件を選ぶことで様々な官能基を導入することができる。
ここで、導入することができる官能基としては、加水分解性シリル基(例えばアルコキシシリル基等)、アルキル基、フェニル基、ビニル基、アリル基、アシル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、ポリエーテル基、シリル基、シロキサン基、チオエステル基、リン酸エステル基、リン酸基などが挙げられる。
【0039】
本発明のフルオロポリエーテル基含有ポリマーは、例えば、表面処理剤として使用することができ、基材や物品等、例えば、カーナビゲーション、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ、保護フイルム、反射防止フイルムなどの光学物品等の表面処理用途に好適に用いることができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。なお、下記例において、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
【0041】
[実施例1]
反応容器に、3-ブテニルマグネシウムブロミド150ml(0.5M THF溶液:7.5×10-2mol)を入れ、撹拌した。続いて、下記式(A)
【化19】
(A)
で表される化合物100g(2.5×10-2mol)、アサヒクリンAC6000 200g、PF5060 100gの混合液を反応容器内に滴下した後、50℃で6時間加熱した。加熱終了後、室温まで冷却し、塩酸水溶液を滴下した。分液操作により、下層であるフッ素化合物層を回収後、アセトンで洗浄した。洗浄後の下層であるフッ素化合物層を再び回収し、減圧下、残存溶剤を留去することで、下記式(B)
【化20】
(B)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー95g(数平均分子量;約3,900)を得た。
【0042】
1H-NMR
δ1.4-1.7(C-C 2 CH2CH=CH2)2H
δ1.9-2.2(C-C 2 CH2CH=CH2,-CF2-CH(O)-CH2-)3H
δ3.6-3.8(-CF2-C(OH)-CH2-)1H
δ4.8-4.9(-CH2CH=C 2 )2H
δ5.5-5.6(-CH2=CH2)1H
【0043】
[実施例2]
反応容器に、3-ブテニルマグネシウムブロミド10.2ml(0.5M THF溶液:5.1×10-3mol)を入れ、撹拌した。続いて、下記式(C)
【化21】
(C)
で表される化合物10g(1.7×10-3mol)、アサヒクリンAC6000 20g、PF5060 10gの混合液を反応容器内に滴下した後、50℃で6時間加熱した。加熱終了後、室温まで冷却し、塩酸水溶液を滴下した。分液操作により、下層であるフッ素化合物層を回収後、アセトンで洗浄した。洗浄後の下層であるフッ素化合物層を再び回収し、減圧下、残存溶剤を留去することで、下記式(D)
【化22】
(D)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー9g(数平均分子量;約5,700)を得た。
【0044】
1H-NMR
δ1.4-1.7(C-C 2 CH2CH=CH2)2H
δ1.9-2.2(C-C 2 CH2CH=CH2,-CF2-CH(O)-CH2-)3H
δ3.6-3.8(-CF2-CH(O)-CH2-)1H
δ4.8-4.9(-CH2CH=C 2 )2H
δ5.5-5.6(-CH2=CH2)1H
【0045】
[実施例3]
反応容器に、3-ブテニルマグネシウムブロミド28.8ml(0.5M THF溶液:1.4×10-2mol)を入れ、撹拌した。続いて、下記式(E)
【化23】
(E)
で表される化合物10g(2.4×10-3mol)、アサヒクリンAC6000 20g、PF5060 10gの混合液を反応容器内に滴下した後、50℃で6時間加熱した。加熱終了後、室温まで冷却し、塩酸水溶液を滴下した。分液操作により、下層であるフッ素化合物層を回収後、アセトンで洗浄した。洗浄後の下層であるフッ素化合物層を再び回収し、減圧下、残存溶剤を留去することで、下記式(F)
【化24】
(F)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー9.4g(数平均分子量;約4,200)を得た。
【0046】
1H-NMR
δ1.4-1.7(C-C 2 CH2CH=CH2)4H
δ1.9-2.2(C-C 2 CH2CH=CH2,-CF2-CH(O)-CH2-)6H
δ3.6-3.8(-CF2-C(OH)-CH2-)2H
δ4.8-4.9(-CH2CH=C 2 )4H
δ5.5-5.6(-CH2=CH2)2H
【0047】
[実施例4]
反応容器に、3-ブテニルマグネシウムブロミド14.4ml(0.5M THF溶液:7.2×10-3mol)を入れ、撹拌した。続いて、下記式(G)
【化25】
(G)
で表される化合物10g(2.4×10-3mol)、アサヒクリンAC6000 20g、PF5060 10gの混合液を反応容器内に滴下した後、50℃で6時間加熱した。加熱終了後、室温まで冷却し、塩酸水溶液を滴下した。分液操作により、下層であるフッ素化合物層を回収後、アセトンで洗浄した。洗浄後の下層であるフッ素化合物層を再び回収し、減圧下、残存溶剤を留去することで、下記式(H)
【化26】
(H)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー8.9g(数平均分子量;約4,100)を得た。
【0048】
1H-NMR
δ1.4-1.7(C-C 2 CH2CH=CH2)2H
δ1.9-2.2(C-CH2 2 CH=CH2,-CF2-CH(O)-CH2-)3H
δ3.6-3.8(-CF2-C(OH)-CH2-)1H
δ4.8-4.9(-CH2CH=C 2 )2H
δ5.5-5.6(-CH2=CH2)1H
【0049】
[実施例5]
反応容器に、5-ヘキセニルマグネシウムブロミド14.4ml(0.5M THF溶液:7.2×10-3mol)を入れ、撹拌した。続いて、下記式(I)
【化27】
(I)
で表される化合物10g(2.4×10-3mol)、アサヒクリンAC6000 20g、PF5060 10gの混合液を反応容器内に滴下した後、50℃で6時間加熱した。加熱終了後、室温まで冷却し、塩酸水溶液を滴下した。分液操作により、下層であるフッ素化合物層を回収後、アセトンで洗浄した。洗浄後の下層であるフッ素化合物層を再び回収し、減圧下、残存溶剤を留去することで、下記式(J)
【化28】
(J)
で表されるフルオロポリエーテル基含有ポリマー8.2g(数平均分子量;約4,200)を得た。
【0050】
1H-NMR
δ1.3-1.8(C-C 2 2 2 CH2CH=CH2)6H
δ1.9-2.1(C-CH2CH2CH2 2 CH=CH2)2H
δ3.3-3.5(-CF2-CH(O)-CH2-)1H
δ3.6-3.8(-CF2-C(OH)-CH2-)1H
δ4.7-4.9(-CH2CH=C 2 )2H
δ5.5-5.7(-CH2=CH2)1H
【0051】
このように、フルオロポリエーテル基含有ポリマーに、官能基変換容易な末端オレフィン部位と反応性の高い2級水酸基をそれぞれ導入することができた。本ポリマーは反応性の異なる2種類の構造を有しており、反応条件を選ぶことで様々な官能基を導入することができる。
【0052】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に含まれる。