(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】水溶性フィルム及びそれを用いた薬剤包装体並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20221012BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20221012BHJP
B65D 65/46 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
B65D65/40 D
B65D65/46
(21)【出願番号】P 2022541602
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022012982
【審査請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2021052052
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】工藤 勇真
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-278967(JP,A)
【文献】特許第6431474(JP,B2)
【文献】特開昭59-164355(JP,A)
【文献】特開2017-106002(JP,A)
【文献】特開平9-039387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02
5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B65D 1/00-90/00
B32B 1/00-43/00
C11D 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼイン及び/又はカゼインの塩とポリビニルアルコール系樹脂(A)と可塑剤(B)とを含有する水溶性フィルムであって、前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)がカチオン性ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はノニオン性ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、前記カゼイン及び/又はカゼイン塩と前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)との含有比率(質量比)が15/85~45/55であり、前記可塑剤(B)の含有量が、前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)100質量部に対して15~60質量部であることを特徴とする水溶性フィルム。
【請求項2】
前記カゼインの塩が、カゼインカリウム、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、及びカゼインマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の水溶性フィルム。
【請求項3】
含水率が3~15質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水溶性フィルム。
【請求項4】
薬剤包装に用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の水溶性フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶性フィルムで形成された包装体と、前記包装体に包装された薬剤とからなることを特徴とする薬剤包装体。
【請求項6】
前記薬剤が液体洗剤であることを特徴とする請求項5記載の薬剤包装体。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶性フィルムを製造する方法であって、前記カゼイン及び/又はカゼインの塩とポリビニルアルコール系樹脂(A)と可塑剤(B)とを含有してなる製膜原料をキャスト面に流延し、乾燥することを特徴とする水溶性フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の薬剤包装体を製造する方法であって、請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶性フィルムで薬剤を包み、前記水溶性フィルムを圧着することを特徴とする薬剤包装体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カゼイン又はカゼインの塩を含有する水溶性フィルムに関する。詳しくは、カゼイン又はカゼインの塩とポリビニルアルコール系樹脂を含有する水溶性フィルム及びそれを用いた薬剤包装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年地球環境の保護の観点から、従来の石油由来原料からなるプラスチックフィルムに代わり、天然由来原料を用いたより生分解性の高いフィルムの開発が期待されている。
【0003】
天然由来原料を用いたフィルムとして、例えば、ゼラチン、大豆タンパク質、カゼイン等を用いたタンパク質系フィルムが知られており、中でも牛乳に含まれるタンパク質であるカゼインは一定品質のものが比較的安価に得られ、生分解性にも優れるため、石油由来原料の代替品や可食性(水溶性)の食品包装用途フィルム原料として注目されている。
【0004】
カゼインを用いたフィルムとして、例えば、包装する食品の種類や用途に応じたガスバリア性、耐油性又はデッドホールド性等に優れた包装用フィルムが提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来カゼインフィルムは脆いことが知られており、上記カゼインフィルムにおいても強度や延伸性が十分ではなく、食品や薬剤等を包装する際の成型性の点で、より強靭で成型性に優れたフィルムとするために更なる改良が求められるものであった。
またシール性についても、特に液体を包装する場合にはシール部分の強度が低いと液漏れ等が懸念され、更なる改良が求められるものであった。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景下において、優れた水溶性を有し、かつフィルム強度や延伸性に優れ、成型性、シール性にも優れたカゼイン含有水溶性フィルム、及び上記水溶性フィルムで各種薬剤が包装されてなる薬剤包装体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み鋭意研究した結果、カゼイン及び/又はカゼインの塩とポリビニルアルコール系樹脂とを特定割合で併用し、かつ可塑剤を特定量含有することで、フィルム強度や延伸性、成型性、シール性に優れる水溶性フィルムが得られることを見出した。
なおポリビニルアルコール系樹脂は生分解性の樹脂であり、フィルム全体としての生分解性を大きく低下させることなく上記課題を解決することが可能である。
【0009】
即ち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]
カゼイン及び/又はカゼインの塩とポリビニルアルコール系樹脂(A)と可塑剤(B)とを含有する水溶性フィルムであって、前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)がカチオン性ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はノニオン性ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、前記カゼイン及び/又はカゼイン塩と前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)との含有比率(質量比)が15/85~45/55であり、前記可塑剤(B)の含有量が、前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)100質量部に対して15~60質量部であることを特徴とする水溶性フィルム。
[2]
前記カゼインの塩が、カゼインカリウム、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、及びカゼインマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]記載の水溶性フィルム。
[3]
含水率が3~15質量%であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の水溶性フィルム。
[4]
薬剤包装に用いることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の水溶性フィルム。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の水溶性フィルムで形成された包装体と、前記包装体に包装された薬剤とからなることを特徴とする薬剤包装体。
[6]
前記薬剤が液体洗剤であることを特徴とする[5]記載の薬剤包装体。
[7]
[1]~[4]のいずれかに記載の水溶性フィルムを製造する方法であって、前記カゼイン及び/又はカゼインの塩とポリビニルアルコール系樹脂(A)と可塑剤(B)とを含有してなる製膜原料をキャスト面に流延し、乾燥することを特徴とする水溶性フィルムの製造方法。
[8]
[5]又は[6]に記載の薬剤包装体を製造する方法であって、[1]~[4]のいずれかに記載の水溶性フィルムで薬剤を包み、前記水溶性フィルムを圧着することを特徴とする薬剤包装体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水溶性フィルムは、フィルム強度や延伸性に優れ、成型性、シール性にも優れるものである。そのため、薬剤の包装用途に使用した際に破袋したり、内容物が漏れたりしないことから薬剤の包装用途に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態の例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
なお、本発明において、ポリビニルアルコールを「PVA」と略記することがある。
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」又は「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)又は「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」又は「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
更に、「X及び/又はY(X,Yは任意の構成)」とは、X及びYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、X及びY、の3通りを意味するものである。
【0013】
本発明の一実施形態に係る水溶性フィルム(以下、「本水溶性フィルム」という場合がある)は、カゼイン及び/又はカゼインの塩とPVA系樹脂(A)とを含有する。
本水溶性フィルムは、PVA系樹脂(A)とカゼイン及び/又はカゼインの塩との両成分合計を主成分として用いることが好ましい。
ここで「主成分」とは、主成分が対象物中の最も多い成分をさし、水溶性フィルム全体に対して、通常、50質量%以上、好ましくは55質量%以上、特に好ましくは60質量%以上含有することを意味する。かかる含有量が少なすぎると、水に対する溶解性やフィルムの機械物性が低下する傾向がある。かかる含有量の上限については、通常、99質量%以下、好ましくは95質量%以下、特に好ましくは90質量%以下である。
【0014】
本水溶性フィルムの「水溶性フィルム」とは、常温(20℃)程度の水に溶解するフィルムを示す。
本水溶性フィルムにおいて、フィルムの溶解性は以下のように評価できる。
フィルムを3cm×5cmのサイズにカットし、水(1リットル)を入れた1リットルビーカーに入れ治具で固定し、水温を20℃に保ちつつ、スターラーにより撹拌(回転子長3cm、回転数750rpm)し、該フィルムの直径1mm以上の不溶微粒子の分散が見られない場合を溶解とする。
【0015】
カゼイン及び/又はカゼイン塩とPVA系樹脂(A)との含有比率(質量比)は、通常1/99~99/1であることが好ましく、特に好ましくは5/95~80/20、更に好ましくは10/90~60/40であるが、本水溶性フィルムにおいては、15/85~45/55であることが必要であり、好ましくは20/80~40/60である。
カゼインやカゼイン塩の含有比率が多すぎると、フィルムの強度など機械物性が低下する傾向があり、またPVA系樹脂との相溶性が悪くなりフィルムの水への溶解性が低下する傾向がある。
【0016】
<カゼイン及び/又はカゼインの塩>
カゼインは、牛乳に含まれる蛋白質のうちの大部分を占める主要な蛋白質であり、主にα-カゼイン、β-カゼイン、及びκ-カゼインの混合物から構成される。
カゼインを牛乳中から分離する方法はいくつか有る。例えば、酸を加えて得られたものは酸カゼインと呼ばれ、工業的に生産されている。しかし、酸カゼインは水溶性に乏しく、水溶性が高く扱いやすいカゼインの塩が用いられている。
カゼインの塩としては、例えば、カゼインカリウム、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインマグネシウム等が挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、2種以上を併せて用いることもできる。なかでも、水への溶解性やPVA系樹脂との相溶性の点でカゼインナトリウムを用いることが好ましい。
【0017】
<PVA系樹脂(A)>
本水溶性フィルムで用いられるPVA系樹脂(A)としては、電荷を有する官能基を有しないノニオン性PVA系樹脂、電荷を有するイオン性基を含有する、アニオン性PVA系樹脂、カチオン性PVA系樹脂のいずれも用いることができる。
【0018】
〔ノニオン性PVA系樹脂〕
本水溶性フィルムで用いられる電荷を有する官能基を有しない、ノニオン性PVA系樹脂としては、例えば、未変性PVAやノニオン性基変性PVA系樹脂が挙げられる。
【0019】
(未変性PVA)
上記未変性PVAは、特に限定されないが、ビニルエステル系化合物を重合して得られるビニルエステル系重合体をケン化することにより製造することができる。
【0020】
かかるビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられるが、単独又は2種以上併用で用いられるが、実用上は酢酸ビニルが好適である。
【0021】
上記重合方法としては、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等、公知の重合方法を任意に用いることができるが、通常、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合法により行われる。
【0022】
重合触媒としては、重合方法に応じて、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系触媒、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物触媒等の公知の重合触媒を適宜選択することができ、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、反応温度は35℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0023】
上記ケン化も公知の方法で行うことができ、通常、得られた重合体をアルコールに溶解してケン化触媒の存在下で行なわれる。アルコールとしてはメタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。アルコール中の共重合体の濃度は、溶解率の観点から20~50質量%の範囲から選択される。
【0024】
ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができ、酸触媒を用いることも可能である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。ケン化触媒の使用量はビニルエステル系化合物に対して1~100ミリモル当量にすることが好ましい。
【0025】
本水溶性フィルムにおいて未変性PVAを用いる場合には、その平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは82~99モル%、更に好ましくは85~98モル%、殊に好ましくは86~90モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、水への溶解性が低下する傾向がある。なお、平均ケン化度が大きすぎても水への溶解性が低下する傾向がある。
【0026】
本水溶性フィルムにおいて未変性PVAを用いる場合には20℃における4質量%水溶液粘度は、5~60mPa・sであることが好ましく、更に好ましくは10~45mPa・s、特に好ましくは15~40mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、水溶性フィルムの機械強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高くなり生産性が低下する傾向がある。
【0027】
なお、上記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定され、4質量%水溶液粘度は、JIS K 6726 3.11.2に準じて測定される。
【0028】
(ノニオン性基変性PVA系樹脂)
上記ノニオン性基変性PVA系樹脂は、特に限定されないが、ノニオン性基としては、例えば、ヒドロキシ基、オキシアルキレン基、アミド基、チオール基等が挙げられる。なかでも、カゼインやカゼイン塩との相溶性や、水への溶解性の点で、ヒドロキシ基、オキシアルキレン基が好ましい。
【0029】
上記ノニオン性基変性PVA系樹脂は、例えば、ビニルエステル系単量体とノニオン性を有する不飽和単量体との重合体をケン化して製造することができる。
【0030】
上記のノニオン性基を有する不飽和単量体として、オキシアルキレン基を有する不飽和単量体としては、例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等を挙げることができる。
また、側鎖に1,2-ジオール構造を有するノニオン性基変性PVA系樹脂を用いることも好ましい。
【0031】
上記ノニオン性基変性PVA系樹脂の変性量は、通常0.1~15モル%であり、好ましくは0.5~10モル%、更に好ましくは1~9モル%である。かかる変性量が多すぎると、樹脂の生産性が低下したり、生分解性が低下する傾向があり、変性量が少なすぎるとカゼインやカゼイン塩との相溶性が低下する傾向がある。
【0032】
上記ノニオン性基変性PVA系樹脂のケン化度は85~99.9モル%、更に好ましくは90~99.8モル%、殊に好ましくは95~99.7モル%である。かかるケン化度が高すぎると樹脂の製造が難しくなる傾向があり、低すぎると水への溶解性が低下する傾向がある。
【0033】
上記ノニオン性基変性PVA系樹脂の4質量%水溶液粘度は、通常、1~20mPa・sであり、好ましくは1.5~12mPa・sであり、特に好ましくは2~10mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、水溶性フィルムの機械強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高くなり生産性が低下する傾向がある。
【0034】
〔アニオン性PVA系樹脂〕
本水溶性フィルムで用いられるアニオン性PVA系樹脂は、アニオン性基の種類としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。なかでも、水への溶解性や耐薬品性の点で、カルボキシ基、スルホン酸基が好ましい。
【0035】
上記アニオン性PVA系樹脂としては、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いることができ、例えば、ビニルエステル系単量体とアニオン性を有する不飽和単量体との重合体をケン化したり、PVA系樹脂を後変性したりして製造することができる。
【0036】
上記のアニオン性基を有する不飽和単量体としては、例えば、カルボキシ基含有不飽和単量体、スルホン酸基又はスルホン酸塩基含有不飽和単量体、リン酸基含有不飽和単量体等が挙げられる。
【0037】
カルボキシ基含有不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボキシ基含有不飽和化合物、及びこれらのカルボキシ基が、アルカリ化合物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等の塩基によって、全体的あるいは部分的に中和されたもの、あるいはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、フマル酸モノメチル、マレイン酸モノメチル等の上記カルボキシ基含有不飽和化合物のモノアルキルエステル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジエチル等、上記カルボキシ基含有不飽和化合物のジアルキルエステルが挙げられる。これらのエステルの炭素数は、経済性と実用性の点から通常炭素数1~20、更には炭素数1~10が好ましく、特には炭素数1~4が好ましい。これらの中でもマレイン酸系の化合物が好ましく、更にマレイン酸モノメチルが好ましい。
【0038】
スルホン酸基又はスルホン酸塩基含有不飽和単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ナトリウムスルホプロピル-2-エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピル-2-エチルヘキシルマレート、ナトリウムスルホプロピルトリデシルマレート、ナトリウムスルホプロピルエイコシルマレート等のスルホアルキルマレート;ナトリウムスルホメチルアクリルアミド、ナトリウムスルホt-ブチルアクリルアミド、ナトリウムスルホS-ブチルアクリルアミド、ナトリウムスルホt-ブチルメタクリルアミド等のスルホアルキル(メタ)アクリルアミド;ナトリウムスルホメチルアクリルアミド、ナトリウムスルホt-ブチルアクリルアミド、ナトリウムスルホS-ブチルアクリルアミド、ナトリウムスルホt-ブチルメタクリルアミド等のスルホアルキル(メタ)アクリレート等;を挙げることができ、これら不飽和単量体から選ばれる1種又は2種以上の不飽和単量体が用いられ得る。
【0039】
リン酸基含有不飽和単量体としては、フォスホノカルボン酸化合物又はそのアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0040】
上記の不飽和単量体と共重合されるビニルエステル系化合物としては、上記未変性PVAの製造で用いられるものと同様のビニルエステル系化合物が用いられ得る。共重合方法、ケン化方法も、上記未変性PVAと同様の方法が用いられ得る。
【0041】
上記アニオン性基変性PVA系樹脂の変性量は、1~15モル%であることが好ましく、更に好ましくは2~10モル%、特に好ましくは2~8モル%、殊に好ましくは3~7モル%である。かかる変性量が少なすぎると、水に対する溶解性が低下する傾向があり、多すぎるとPVA系樹脂の生産性が低下したり、生分解性が低下したりする傾向があり、また、ブロッキングを引き起こしやすくなる傾向があり、実用性が低下するものとなる。
【0042】
上記アニオン性基変性PVA系樹脂の20℃における4質量%水溶液粘度は、5~50mPa・sであることが好ましく、更に好ましくは13~40mPa・s、特に好ましくは17~30mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、水溶性フィルムの機械強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高くなり生産性が低下する傾向がある。
【0043】
上記アニオン性基変性PVA系樹脂の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは85~99.9モル%、更に好ましくは88~99モル%、殊に好ましくは90~98モル%である。かかるケン化度が高すぎると水への溶解性が低下する傾向があり、低すぎると包装する剤によっては経時的に水溶性フィルムの水への溶解性が低下する傾向がある。
【0044】
〔カチオン性PVA系樹脂〕
本水溶性フィルムで用いられるカチオン性PVA系樹脂は、カチオン性基の種類としては、例えば、アミン及びその塩、第4級アンモニウム塩、フォスホニウム塩、スルホニウム塩、複素環化合物を含有する置換基等が挙げられる。なかでもカゼインやカゼイン塩との相溶性や、水への溶解性の点で4級アンモニウム塩であることが好ましい。
【0045】
上記カチオン性PVA系樹脂としては、カチオン性基変性PVA系樹脂を用いることができ、例えば、カチオン性基あるいはケン化によってカチオン性基に変わる官能基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物との共重合体をケン化することによって得られる。
【0046】
上記のカチオン性基を有する不飽和単量体としては、トリメチル-(メタクリルアミド)-アンモニウムクロライド、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロライド、3-アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3-メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、N-(3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)ジメチルアミン、N-(4-アリルオキシ-3-ヒドロキシブチル)ジエチルアミン、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等の4級アンモニウム塩が挙げられ、これら不飽和単量体から選ばれる1種又は2種以上の不飽和単量体が用いられ得る。
【0047】
また、上記のケン化によってカチオン性基に変わる官能基を有する不飽和単量体としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-アリルアセトアミド、N-アリルホルムアミド等のカルボン酸アミド化合物が挙げられ、これら不飽和単量体から選ばれる1種又は2種以上の不飽和単量体が用いられ得る。
【0048】
上記の不飽和単量体と共重合されるビニルエステル系化合物としては、上記未変性PVAの製造で用いられるものと同様のビニルエステル系化合物が用いられ得る。共重合方法、ケン化方法も、上記未変性PVAと同様の方法が用いられ得る。
【0049】
上記カチオン性基変性PVA系樹脂の変性量は、通常、0.1~10モル%であり、特に0.1~8モル%であり、更に0.15~5モル%、殊に0.2~3モル%が好ましい。かかる変性量が多すぎると、樹脂の生産性が低下したり、生分解性が低下する傾向があり、変性量が少なすぎるとカゼインやカゼイン塩との相溶性が低下する傾向がある。
【0050】
上記カチオン性基変性PVA系樹脂のケン化度は、特に限定されないが、通常、70~100モル%であり、特に75~99.8モル%、更に80~90モル%が好ましい。かかるケン化度が高すぎると水への溶解性が低下する傾向があり、低すぎると、樹脂の製造が難しくなる傾向がある。
【0051】
上記カチオン性基変性PVA系樹脂の20℃における4質量%水溶液粘度は、3~35mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは4~30mPa・s、更に好ましくは5~25mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、水溶性フィルムの機械強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高くなり生産性が低下する傾向がある。
【0052】
本水溶性フィルムにおいて、上記のPVA系樹脂(A)はそれぞれ単独で用いることもできるし、また、ケン化度、粘度、変性種、変性量等が異なる2種以上を併用することもできる。
【0053】
本水溶性フィルムにおいてはPVA系樹脂(A)が、カゼインやカゼインの塩との相溶性の点から、ノニオン性PVA系樹脂、カチオン性PVA系樹脂の少なくとも1種を含有することが好ましい。
特に、水溶性とのバランスや取扱い易さの点からはノニオン性PVAのなかでも未変性PVAが好ましく、静電気的相互作用の点からはカチオン性PVA系樹脂が好ましい。
【0054】
本水溶性フィルムに用いられるPVA系樹脂(A)の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは82~99.9モル%、更に好ましくは85~99モル%である。
かかる平均ケン化度が小さすぎると、フィルムの水への溶解性が低下したり、包装する剤によっては経時的にフィルムの溶解性が低下する傾向がある。なお、平均ケン化度が大きすぎても水への溶解性が低下する傾向がある。
【0055】
上記PVA系樹脂(A)の20℃における4質量%水溶液粘度は5~60mPa・sであることが好ましく、特に好ましくは10~45mPa・s、更に好ましくは15~40mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、水溶性フィルムの機械強度が低下する傾向があり、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高くなり生産性が低下する傾向がある。
【0056】
〔可塑剤(B)〕
本水溶性フィルムにおいては、可塑剤(B)を含有する。フィルムに適度な柔軟性を付与する点で好ましい。可塑剤(B)は1種のみを用いたり、2種以上を併用したりすることができる。フィルムの機械特性や成型性の点から2種以上を併用することも好ましい。
【0057】
かかる可塑剤(B)としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピリングリコール等のアルキレングリコール類やトリメチロールプロパン、ソルビトール、キシリトールやマルチトール等の糖アルコール等が挙げられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いられる。なかでも、グリセリン、ジグリセリン、ポリエチレングリコールは入手が容易であり少量で可塑効果が得られる点で好ましく、また包装体の経時安定性の点ではソルビトールを併用することが好ましい。
【0058】
かかる可塑剤を2種以上併用する場合、包装体(特には液体薬剤を包装した包装体)の経時安定性の点では融点が80℃以上である多価アルコールを用いることが好ましく、特には、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)(以下、可塑剤(b1)と略記することがある。)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)(以下、可塑剤(b2)と略記することがある。)を併用することが好ましい。
【0059】
上記の融点が80℃以上である多価アルコール(b1)としては、糖アルコール、単糖類、多糖類の多くが適用可能であるが、なかでも、例えば、サリチルアルコール(83℃)、カテコール(105℃)、レゾルシノール(110℃)、ヒドロキノン(172℃)、ビスフェノールA(158℃)、ビスフェノールF(162℃)、ネオペンチルグリコール(127℃)等の2価アルコール、フロログルシノール(218℃)等の3価アルコール、エリスリトール(121℃)、トレイトール(88℃)、ペンタエリスリトール(260℃)等の4価アルコール、キシリトール(92℃)、アラビトール(103℃)、フシトール(153℃)、グルコース(146℃)、フルクトース(104℃)等の5価アルコール、マンニトール(166℃)、ソルビトール(95℃)、イノシトール(225℃)等の6価アルコール、ラクチトール(146℃)、スクロース(186℃)、トレハロース(97℃)等の8価アルコール、マルチトール(145℃)等の9価以上のアルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。
上記の中でも、水溶性フィルムの引張強度の点で融点が85℃以上、特には90℃以上のものが好ましい。なお、融点の上限は300℃、特には200℃が好ましい。
【0060】
更に、本水溶性フィルムでは、可塑剤(b1)の中でも1分子中の水酸基の数が4個以上であることがPVA系樹脂との相溶性の点で好ましく、更に好ましくは5~10個、特に好ましくは6~8個であり、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース、トレハロース等が好適なものとして挙げられる。
【0061】
また、本水溶性フィルムにおいては、可塑剤(b1)として、水溶性フィルムの張りの点で、分子量が150以上であることが好ましく、更には160~500、特には180~400であることが好ましく、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース等が好適なものとして挙げられる。
【0062】
一方、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)としては、脂肪族系アルコールの多くが適用可能であり、例えば、好ましくはエチレングリコール(-13℃)、ジエチレングリコール(-11℃)、トリエチレングリコール(-7℃)、プロピレングリコール(-59℃)、テトラエチレングリコール(-5.6℃)、1,3-プロパンジオール(-27℃)、1,4-ブタンジオール(20℃)、1,6-ヘキサンジオール(40℃)、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン(18℃)、ジグリセリン、トリエタノールアミン(21℃)等の3価以上のアルコールが挙げられる。そして、水溶性フィルムの柔軟性の点で融点が30℃以下、特には20℃以下のものが好ましい。なお、融点の下限は通常-80℃であり、好ましくは-40℃、特に好ましくは-15℃、更に好ましくは-5℃である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。
【0063】
更に、本水溶性フィルムでは、可塑剤(b2)の中でも1分子中の水酸基の数が4個以下、特には3個以下であることが室温(25℃)近傍での柔軟性を制御しやすい点で好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。
【0064】
また、本水溶性フィルムにおいては、可塑剤(b2)として、柔軟性を制御しやすい点で、分子量が100以下であることが好ましく、更には50~100、特には60~95であることが好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。
【0065】
本水溶性フィルムにおいては、上記の可塑剤(b1)や(b2)以外の可塑剤(b3)を併用することもでき、かかる可塑剤(b3)としては、例えば、トリメチロールプロパン(58℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノール、カルビトール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類、ジブチルエーテル等のエーテル類、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ソルビン酸、クエン酸、アジピン酸等のカルボン酸類、シクロヘキサノン等のケトン類、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、イミダゾール化合物等のアミン類、アラニン、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リシン、システイン等のアミノ酸類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0066】
可塑剤(B)の含有量は、PVA系樹脂(A)100質量部に対して15~60重量部であることが好ましく、特に好ましくは20~55重量部、更に好ましくは25~50質量部である。
かかる可塑剤(B)の含有量が少なすぎると可塑効果が低く加工性が低下したり、包装体を成型した際に外観が悪くなったり、包装体とした場合に経時で水溶性フィルムの強靭さを損なう傾向があり、多すぎるとフィルムの強度が低下したり、ブロッキングが生じやすくなる傾向がある。
【0067】
上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)について、その含有質量割合(b1/b2)が0.1~5であることが好ましく、より好ましくは0.35~4.5、特に好ましくは0.4~4、更に好ましくは0.5~3.5、殊に好ましくは0.7~3である。かかる含有質量割合が小さすぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎる傾向があり、また、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、液体薬剤の包装体とした際の経時的な形状安定性が低下する傾向がある。大きすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎたり、シール性が低下する傾向があり、また低湿環境下でもろくなる傾向がある。
【0068】
また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)の含有量としては、PVA系樹脂(A)100質量部に対して、可塑剤(b1)が5~40質量部、更には8~30質量部、特には10~25質量部であることが好ましく、可塑剤(b2)が5~40質量部、更には10~35質量部であることが好ましい。
かかる可塑剤(b1)が少なすぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、また、液体薬剤の包装体とした際の経時的な形状安定性が低下する傾向がある。多すぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向がある。また、可塑剤(b2)が少なすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向がある。
【0069】
更に、可塑剤(B)全体に対して、可塑剤(b1)及び可塑剤(b2)の合計量が70質量%以上であることが好ましく、更には80質量%以上、特には87質量%以上、殊には90質量%以上、殊更には95質量%以上であることが好ましい。最も好ましくは可塑剤(B)全体が上記可塑剤(b1)及び可塑剤(b2)のみからなる場合である。かかる可塑剤(b1)と(b2)の合計量が少なすぎると機械強度が低下する傾向がある。
【0070】
〔フィラー(C)〕
本水溶性フィルムにおいては、必要に応じて、更に、フィラー(C)を含有させることができる。
【0071】
上記フィラー(C)は、耐ブロッキング性の目的で含有されるものであり、有機フィラー(c1)や無機フィラー(c2)が挙げられるが、なかでも有機フィラー(c1)が好適に用いられる。
フィラー(C)の平均粒子径としては、0.1~50μmであることが好ましく、特に好ましくは1~35μmである。なお、上記フィラー(C)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した値であり、得られた累計体積分布のD50値(累積50%の粒子径)より算出したものである。
【0072】
上記有機フィラー(c1)とは、有機化合物で構成された針状・棒状、層状、鱗片状、球状等の任意の形状からなる粒子状物質(1次粒子)、もしくはその粒子状物質の集合体(2次粒子)のことを示す。
かかる有機フィラー(c1)としては、主に高分子化合物の中から選択され、例えば、メラミン系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂の他、澱粉、ポリ乳酸等の生分解性樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ポリメチル(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、澱粉、等の生分解性樹脂が好ましく、特にはPVA系樹脂(A)に対する分散性の点から澱粉が好ましい。
【0073】
上記の澱粉としては、例えば、生澱粉(トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、コムギ澱粉、キッサバ澱粉、サゴ澱粉、タピオカ澱粉、モロコシ澱粉、コメ澱粉、マメ澱粉、クズ澱粉、ワラビ澱粉、ハス澱粉、ヒシ澱粉等)、物理的変性澱粉(α-澱粉、分別アミロース、湿熱処理澱粉等)、酵素変性澱粉(加水分解デキストリン、酵素分解デキストリン、アミロース等)、化学分解変性澱粉(酸処理澱粉、次亜塩素酸酸化澱粉、ジアルデヒド澱粉等)、化学変性澱粉誘導体(エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、架橋澱粉等)等が挙げられる。なかでも、生分解性や入手の容易さや経済性の点から、生澱粉、とりわけトウモロコシ澱粉、コメ澱粉を用いることが好ましい。
【0074】
有機フィラー(c1)の平均粒子径は、5~50μmであることが好ましく、特に好ましくは10~40μm、更に好ましくは15~35μmである。かかる平均粒子径が小さすぎるとフィルムのブロッキング性が高くなる傾向があり、大きすぎるとフィラー同士が凝集しやすくなり分散性が低下したり、フィルムを成形加工時に引き伸ばした際にピンホールとなる傾向がある。
【0075】
上記無機フィラー(c2)とは、無機化合物で構成された針状・棒状、層状、鱗片状、球状等の任意の形状からなる粒子状物質(1次粒子)、もしくはその粒子状物質の集合体(2次粒子)のことを示す。
無機フィラー(c2)としては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、珪藻土、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化亜鉛等の酸化物系無機化合物や、タルク、クレー、カオリン、雲母、アスベスト、石膏、グラファイト、ガラスバルーン、ガラスビーズ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ウィスカー状炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドーソナイト、ドロマイト、チタン酸カリウム、カーボンブラック、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、加工鉱物繊維、炭素繊維、炭素中空球、ベントナイト、モンモリロナイト、銅粉、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アルミニウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、クロム酸カリウム等が挙げられる。これらは、単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0076】
なかでも、酸化物系無機化合物、タルクを用いることが好ましく、特には、酸化チタン、タルク、シリカを用いることが好ましく、更には、シリカを用いることが好ましい。
【0077】
無機フィラー(c2)の平均粒子径は、1~20μmであることが好ましく、特に好ましくは2~15μm、更に好ましくは3~10μmである。かかる平均粒子径が小さすぎるとフィルムの柔軟性や靭性が低下したり、ブロッキング性が高くなる等の傾向があり、大きすぎるとフィルムを成形加工時に引き伸ばした際にピンホールとなる傾向がある。
【0078】
上記フィラー(C)は、単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
上記フィラー(C)の含有量は、PVA系樹脂(A)100質量部に対して1~30質量部であることが好ましく、特に好ましくは1.5~25質量部、更に好ましくは2~20質量部である。かかる含有割合が少なすぎるとフィルムのブロッキング性が高くなる傾向があり、多すぎるとフィルムの柔軟性や強靭性が低下する傾向がある。
【0079】
〔界面活性剤(D)〕
本水溶性フィルムにおいては、必要に応じて、更に界面活性剤(D)等を含有させることができる。
本水溶性フィルムで用いられる界面活性剤(D)は、フィルム製造時のキャスト面からの剥離性改善の目的で含有されるものであり、通常、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤が挙げられる。例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ステアリン酸グリセリンエステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。なかでも、製造安定性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルが好適である。
上記界面活性剤(D)は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0080】
かかる界面活性剤(D)の含有量については、PVA系樹脂(A)100質量部に対して0.01~3質量部であることが好ましく、特に好ましくは0.05~2.5質量部、更に好ましくは0.1~2質量部である。かかる含有量が少なすぎると製膜装置のキャスト面と製膜したフィルムとの剥離性が低下して生産性が低下する傾向があり、多すぎるとブロッキングしやすくなったりフィルムを用いて包装体とする場合のシール時の接着強度が低下する傾向がある。
【0081】
なお、発明の目的を阻害しない範囲で、更にPVA系樹脂(A)以外の他の水溶性高分子(例えば、ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)や、香料、防錆剤、着色剤、増量剤、消泡剤、紫外線吸収剤、流動パラフィン類、蛍光増白剤、苦味成分(例えば、安息香酸デナトニウム等)等を含有させることも可能である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0082】
また、本水溶性フィルムにおいては、酸化防止剤を配合してもよい。かかる酸化防止剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム等の亜硫酸塩、酒石酸、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、テコール、ロンガリット等が挙げられ、なかでも、亜硫酸塩、特には亜硫酸ナトリウムが好ましい。かかる配合量は変性PVA系樹脂(A)100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、特に好ましくは0.2~5質量部、更に好ましくは0.3~3質量部である。
【0083】
<水溶性フィルムの製造>
本水溶性フィルムにおいては、上記の通りカゼイン及び/又はカゼイン塩とPVA系樹脂(A)、好ましくは更に可塑剤(B)、必要に応じて更に、フィラー(C)及び界面活性剤(D)等を配合し、水を用いて溶解又は分散して製膜原料を調製し、製膜してフィルムとする。
【0084】
〔溶解工程〕
溶解工程では、上記配合した各成分を水に溶解又は分散して、製膜原料となる水溶液又は水分散液を調製する。
製膜原料の調整に際しては、カゼイン及び/又はカゼイン塩とPVA系樹脂(A)、その他の添加剤の混合方法は特に制限はなく、例えば、カゼイン及び/又はカゼイン塩とPVA系樹脂(A)とその他の添加剤を混合して混合物として、これを水と混合して溶解させる方法、カゼイン及び/又はカゼイン塩と、PVA系樹脂(A)とその他の添加剤をそれぞれ別に水に溶解させた後、混合する方法、カゼイン及び/又はカゼイン塩とPVA系樹脂(A)をそれぞれ別に水に溶解させた後、これらとその他の添加剤とを混合して溶解する方法等が挙げられる。
【0085】
水に溶解する際の溶解方法としては、通常、常温溶解、高温溶解、加圧溶解等が採用され、なかでも、未溶解物が少なく、生産性に優れる点から高温溶解、加圧溶解が好ましい。
なお、相溶性の点からはカゼイン及び/又はカゼイン塩とPVA系樹脂(A)をそれぞれ別に水に溶解させることも好ましく、その際のカゼイン及び/又はカゼイン塩の溶解温度は50~90℃であることが好ましく、特に好ましくは55~85℃、更に好ましくは60~80℃である。
【0086】
更に、溶解した後、得られた製膜原料に対して脱泡処理が行われるが、かかる脱泡方法としては、例えば、静置脱泡、真空脱泡、二軸押出脱泡等が挙げられる。なかでも、静置脱泡、二軸押出脱泡が好ましい。
脱泡温度は通常50~100℃であり、40~80℃であることが好ましく、特に好ましくは50~75℃、更に好ましくは55~70℃である。脱泡温度が高すぎるとカゼインが変性する傾向があり、低すぎると粘度が高くなり脱泡に時間を要し、生産性が低下する傾向がある。
また、脱泡時間は通常2~30時間、好ましくは5~25時間である。
【0087】
かかる製膜原料の固形分濃度は、10~60質量%であることが好ましく、特に好ましくは12~50質量%、更に好ましくは15~40質量%である。かかる濃度が低すぎるとフィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎ、製膜原料の脱泡に時間を要したり、フィルム製膜時にダイラインが発生したりする傾向がある。
また製膜原料のpHは通常4~8であり、好ましくは4.8~7.5である。
【0088】
〔製膜工程〕
製膜工程では、溶解工程で調製した製膜原料を膜状に賦形し、必要に応じて乾燥処理を施すことで、含水率15質量%以下にした水溶性フィルムに調整する。
製膜に当たっては、例えば、溶融押出法や流延法等の方法を採用することができ、膜厚の精度の点で流延法が好ましい。
流延法を行うに際しては、例えば、上記製膜原料を、T型スリットダイ等のスリットから吐出させ、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面等ポリエチレンテレフタレートフィルム等のプラスチック基材表面等のキャスト面に流延し、乾燥し、必要に応じて更に熱処理することにより水溶性フィルムを製造することができる。
【0089】
製膜工程でキャスト面等から剥離した水溶性フィルムは搬送され芯管に巻き取ることによりフィルムロールが得られる。得られたフィルムロールは、そのまま製品として供給することもできるが、好ましくは水溶性フィルムを所望サイズのフィルム幅にスリットしたフィルムロールとして供給することもできる。
【0090】
本水溶性フィルムの表面はプレーンであってもよいが、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品同士の密着性軽減、及び外観の点から、フィルムの片面あるいは両面にエンボス模様や微細凹凸模様、特殊彫刻柄、等の凹凸加工を施しておくことも好ましい。
【0091】
本水溶性フィルムの厚みとしては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは10~120μm、特に好ましくは15~110μm、更に好ましくは20~100μmである。かかる厚みが薄すぎるとフィルムの機械強度が低下する傾向があり、厚すぎると水への溶解速度が遅くなる傾向があり、製膜効率も低下する傾向がある。
【0092】
本水溶性フィルムの幅としては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは300~5000mm、特に好ましくは500~4000mm、更に好ましくは600~3000mmである。かかる幅が狭すぎると生産効率が低下する傾向があり、広すぎると弛みや膜厚の制御が困難になる傾向がある。
【0093】
本水溶性フィルムの長さとしては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは100~20000m、特に好ましくは800~15000m、更に好ましくは1000~10000mである。かかる長さが短すぎるとフィルムの切り替えに手間を要するため生産効率が低下する傾向があり、長すぎると巻き締まりによる外観不良が発生する傾向がある。
【0094】
また、得られた本水溶性フィルムの含水率は、機械強度やヒートシール性の点で3~15質量%であることが好ましく、特に好ましくは5~9質量%、更に好ましく6~8質量%である。かかる含水率が低すぎるとフィルムが硬くなりすぎて、包装体とする際の成型性や包装体の耐衝撃性が低下する傾向があり、高すぎるとブロッキングが生じやすくなる傾向がある。かかる含水率に調整するに際しては、乾燥条件や調湿条件を適宜設定することにより達成することができる。
なお、上記含水率は、JIS K 6726 3.4に準拠して測定され、得られた揮発分の値を含水率とする。
【0095】
本水溶性フィルムは、単層で用いてもよいし、他のフィルムや樹脂層を積層した多層構造として用いてもよい。
【0096】
<薬剤包装体>
本発明の一実施形態に係る薬剤包装体(以下、「本薬剤包装体」という場合がある)は、得られた本水溶性フィルムで薬剤を内包してなる包装体である。水溶性フィルムで包装されているため、包装体ごと水に投入し、水溶性フィルムが溶解した後に、薬剤が水に溶解又は分散して、薬剤の効果を発現するため、1回分等の比較的少量の薬剤が包装されている薬剤包装体に好適である。
【0097】
内包する薬剤としては、例えば、殺虫剤、殺菌剤、除草剤等の農薬、肥料、洗剤等が挙げられ、特に洗濯用洗剤、食器洗浄用洗剤等の洗剤が好ましい。薬剤の形状は、液体であっても固体であってもよく、液体の場合は、液状であり、固体の場合は、顆粒状、錠剤状、粉状等が挙げられる。薬剤は、水に溶解又は分散させて用いる薬剤が好ましく、本薬剤包装体においては、とりわけ液体洗剤を内包することが好ましい。また、薬剤のpHは、アルカリ性、中性、酸性のいずれであってもよい。
【0098】
上記の液体洗剤としては、水に溶解又は分散させた時のpH値が6~12であることが好ましく、特には6.5~11、更には7~8が好ましい。また、液体洗剤の水分量が15質量%以下であることが好ましく、特に好ましくは0.1~10質量%、更に好ましくは0.1~7質量%であり、水溶性フィルムがゲル化したり不溶化したりすることがなく水溶性に優れることとなる。
なお、上記pH値は、JIS K 3362 8.3に準拠して測定される。また、水分量は、JIS K 3362 7.21.3に準じて測定される。
【0099】
本水溶性フィルムを用いて、液体洗剤等の薬剤を包装して薬剤包装体とするに際しては、公知の方法を採用することができる。
例えば、2枚の水溶性フィルムを用いて貼り合わせることにより製造され、成型装置の下部にある金型の上に、フィルム(ボトムフィルム)を固定し、装置の上部にもフィルム(トップフィルム)を固定する。その後、成型されたフィルムに液体洗剤等の薬剤を投入した後、トップフィルムとボトムフィルムを圧着する。圧着した後は真空を解放し、包装体を得ることができる。
【0100】
薬剤を投入後のフィルムの圧着方法としては、例えば、(1)熱シールする方法、(2)水シールする方法、(3)糊シールする方法等が挙げられ、なかでも、上記(2)水シールする方法が汎用的で有利である。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中、「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0102】
水溶性フィルムの材料成分として、以下のものを用意した。
<カゼイン及び/又はカゼインの塩>
・Fonterra社製「カゼインナトリウム180」
<PVA系樹脂(A)>
・ノニオン性PVA系樹脂(a1):20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル%の未変性PVA
・アニオン性PVA系樹脂(a2):20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度94モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル%のカルボキシ基変性PVA系樹脂
・カチオン性PVA系樹脂(a3):20℃における4%水溶液粘度20mPa・s、平均ケン化度87モル%、4級アンモニウム塩の含有量1.0モル%のカチオン性基変性PVA系樹脂
<可塑剤(B)>
・可塑剤(b1):ソルビトール
・可塑剤(b2):グリセリン
<その他添加剤>
・界面活性剤(d1):ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩
【0103】
<実施例1>
PVA系樹脂(A)として、ノニオン性PVA系PVA樹脂(a1)を75部、カゼインナトリウムを25部、可塑剤(B)として、ソルビトール(b1)を20部及びグリセリン(b2)を20部、界面活性剤(D)として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩(d1)を0.2部、及び水を混合して、溶解処理をし、固形分濃度25%の樹脂組成物の水分散液である製膜原料を得た。得られた製膜原料を60℃にて24時間静置脱泡した。
静置脱泡後の製膜原料をポリエチレンテレフタレートフィルム上(キャスト面相当)に流延し、長さ3mの乾燥室(105℃)の中を0.350m/分の速度で通過させ乾燥し、厚み90μmの水溶性フィルム(含水率:6.9質量%)を得た。
【0104】
得られた水溶性フィルムを用いて、下記に示す方法に従い評価した。結果を下記の表1に示す。
【0105】
<相溶性>
〔評価方法〕
レーザー顕微鏡(キーエンス社製)を用いて水溶性フィルムの海島構造の有無を目視観察し、評価した。
〔評価基準〕
○(Very good)・・・海島構造が少なくほぼ相分離が見られなかった。
△(Good)・・・海島構造の島が小さくやや相分離が見られた。
×(Poor)・・・海島構造の島が200μm以上の大きなものが多く、明らかに相分離していた。
【0106】
<溶解性>
〔評価方法〕
上記で得られた水溶性フィルムを3cm×5cmのサイズにカットし、水(1リットル)を入れた1リットルビーカーに入れ治具で固定し、スターラーにより撹拌(回転子長3cm、回転数750rpm)しながら水温を20℃に保ちつつ、該フィルムが直径1mm以上の不溶微粒子の分散が見られない場合を溶解とし、溶解に要する時間を評価した。
〔評価基準〕
○(Very good)・・・90秒未満で溶解した。
△(Good)・・・90秒~300秒で溶解した。
×(Poor)・・・300秒を超えた後でも溶解しなかった。
【0107】
<機械物性>
〔評価方法〕
上記で得られた水溶性フィルムを用い、JIS K 7127に準拠して引張強度と引張伸度を測定した。即ち、測定前に23℃、50%RH調湿条件下に24時間静置した後、この環境下で水溶性フィルムを、オートグラフAG-X Plus(島津製作所社製)を用いて、引張速度200mm/分で、引張強度と引張伸度を測定した(フィルム幅15mm、チャック間距離50mm)。
〔評価基準〕
〇(Very good)・・・引張強度が10MPa以上で、かつ引張伸度が300%超であった。
△(Good)・・・引張強度が10MPa以上で、かつ引張伸度が200~300%であった。
×(Poor)・・・引張強度が0~10MPa未満及び/又は引張伸度が200%未満であった。
【0108】
<包装体の作製>
上記で得られた実施例1の水溶性フィルムについて、Engel社製包装体製造機を用いて、下記の手順にて包装体を作製した。
即ち、水溶性フィルムを23℃、40%RH調湿条件下に24時間静置して調湿した後、この環境下で、装置の下部にある金型(成型される包装体:縦45mm、横42mm、高さ30mm)の上に、水溶性フィルム(ボトムフィルム)を固定し、装置の上部にも水溶性フィルム(トップフィルム)を固定した。ボトムフィルムを4秒間、70℃の熱風を発生させるドライヤーで加熱し、ボトムフィルムを金型に真空成型した。その後、市販の衣類用液体洗濯洗剤(組成概要:プロピレングリコール11%、グリセリン7.5%、界面活性剤67%、水14.2%、pH7.5)を成型された水溶性フィルムに34mL投入した。トップフィルム全面(縦80mm、横140mm)に水を0.25g塗布し、トップフィルムとボトムフィルムを圧着し、10秒間圧着した後に、真空を解放し、包装体を作製した。
【0109】
<圧縮強度>
〔評価方法〕
上記の方法で作製した包装体を、オートグラフAG-X Plus(島津製作所社製)を用いて、試験速度200mm/分で包装体が破袋する際の圧縮強度を測定した。なお、ロードセルは5kNを使用した。
〔評価基準〕
○(Very good)・・・圧縮強度が500N超であった。
△(Good)・・・圧縮強度が200~500Nであった。
×(Poor)・・・圧縮強度が200N未満で容易に破袋した。又はシール面が容易に剥離することで破袋した。
【0110】
<包装体の外観>
上記の方法で作製した包装体の外観を目視観察し、評価した。
〔評価基準〕
○(Very good)・・・包装体に成型する前のフィルムと同等の透明性だった。
△(Good)・・・フィルムがやや白化していた。
×(Poor)・・・フィルムが明らかに白化して内容物が見えにくかった。
【0111】
<実施例2>
実施例1において、PVA系樹脂としてアニオン性基変性PVA系樹脂(a2)を用いた以外は同様にして水溶性フィルム(厚み88μm)及び包装体を作製し、評価した。
【0112】
<実施例3>
実施例1において、PVA系樹脂としてカチオン性基変性PVA系樹脂(a3)を用いた以外は同様にして水溶性フィルム(厚み88μm)及び包装体を作製し、評価した。
【0113】
<実施例4,5>
実施例1において、可塑剤(B)の含有量を表1の通りにした以外は同様にして水溶性フィルム(厚み88μm)及び包装体を作製し、評価した。
【0114】
<比較例1>
カゼインナトリウムを100部、グリセリンを25部及び水を混合して、溶解処理をし、固形分濃度25%の樹脂組成物の水分散液である製膜原料を得た。
得られた製膜原料を用いて実施例1と同様にして厚み95μmの水溶性フィルムを作製し評価した。なお得られた水溶性フィルムの機械物性が低く、包装体は作製できなかった。
【0115】
【0116】
実施例1~5の水溶性フィルムは、カゼインとPVA系樹脂との相溶性が良好で機械物性にも優れており、包装体とした際の圧縮強度も十分であるため、包装用途として適したものであることがわかる。なお、圧縮強度の評価において、シール面で容易に剥離して破袋したものはなく、即ちシール性にも優れることがわかる。
一方で、カゼインのみからなる比較例1の水溶性フィルムは機械物性に劣り、圧縮強度も低く、包装体が成型できないものであり、実用には至らないものであることがわかる。
【0117】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の水溶性フィルムは、農薬や洗剤等の薬剤の包装(ユニット包装)用途、(水圧)転写用フィルム、ナプキン・紙おむつ等の生理用品、オストミーバッグ等の汚物処理用品、吸血シート等の医療用品、育苗シート・シードテープ・刺繍用基布等の一時的基材等に用いることができる。
また食品や医薬品にも用いられているPVA系樹脂と天然由来原料とのブレンドフィルムである本発明のフィルムは可食用途(食品包装)にも有用である。
【要約】
優れた水溶性を有し、かつフィルム強度や延伸性、成型性、シール性にも優れる、包装用途に有用なカゼイン含有水溶性フィルム及び、上記水溶性フィルムで各種薬剤が包装されてなる薬剤包装体として下記を提供する。
カゼイン及び/又はカゼインの塩とポリビニルアルコール系樹脂(A)と可塑剤(B)とを含有する水溶性フィルムであって、前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)がカチオン性ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はノニオン性ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、前記カゼイン及び/又はカゼイン塩と前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)との含有比率(質量比)が15/85~45/55であり、前記可塑剤(B)の含有量が、前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)100質量部に対して15~60質量部であることを特徴とする水溶性フィルム。