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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】オキアミ成分含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/612 20150101AFI20221012BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A61K35/612
C12P1/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018070235
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178127
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390025793
【氏名又は名称】岩手県
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】白石 朗子
(72)【発明者】
【氏名】箱崎 真友佳
(72)【発明者】
【氏名】長洞 希
(72)【発明者】
【氏名】矢野 明
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 裕也
(72)【発明者】
【氏名】小池 誠治
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-087017(JP,A)
【文献】特開2015-163607(JP,A)
【文献】特開2017-122067(JP,A)
【文献】特表2014-509339(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0274496(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105542936(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/612
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に懸濁したオキアミの破砕物を、pH3~4の条件下で麹菌由来のプロテアーゼを用いて酵素処理することによって得られる処理液を、オイル画分を含む液分と固形分に分離した後、得られたオイル画分を含む液分をオイル画分と水画分に分離し、得られたオイル画分を乾燥することによる、オキアミ成分含有組成物の製造方法。
【請求項2】
pHの調整を有機酸および/または炭酸を用いて行うことによる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
有機酸がクエン酸である、請求項2記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品素材や食品素材などとして用いることができるオキアミ成分含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキアミ(Euphausiacea)は、養殖魚のエサや釣りのエサなどとして利用されている海洋生物であることは周知の通りである。また、オキアミの一種であるツノナシオキアミ(Euphausia pacifica)は、三陸地方ではイサダと呼ばれ、食用として馴染み深い。
【0003】
近年、オキアミには、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのω-3系脂肪酸、1-アルキルエーテル型リン脂質をはじめとする様々な生理活性成分が含まれていることが知られるに至り、オキアミ由来の医薬品素材や食品素材の研究開発が精力的に行われている(例えば特許文献1や特許文献2)。しかしながら、オキアミに含まれている生理活性成分を医薬品素材や食品素材として提供するためのさらなる方法の探索は、今なお意義深い状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-122067号公報
【文献】特開2017-155025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、医薬品素材や食品素材などとして用いることができるオキアミ成分含有組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、水中に懸濁したオキアミの破砕物を、所定の酸性条件下で麹菌由来のプロテアーゼを用いて酵素処理することにより、医薬品素材や食品素材などとして用いることができるオキアミ成分含有組成物を製造することができることを見出した。
【0007】
上記の知見に基づいてなされた本発明のオキアミ成分含有組成物の製造方法は、請求項1記載の通り、水中に懸濁したオキアミの破砕物を、pH3~4の条件下で麹菌由来のプロテアーゼを用いて酵素処理することによって得られる処理液を、オイル画分を含む液分と固形分に分離した後、得られたオイル画分を含む液分をオイル画分と水画分に分離し、得られたオイル画分を乾燥することによる。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、pHの調整を有機酸および/または炭酸を用いて行うことによる。
また、請求項3記載の製造方法は、請求項2記載の製造方法において、有機酸がクエン酸である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、医薬品素材や食品素材などとして用いることができるオキアミ成分含有組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のオキアミ成分含有組成物の製造方法は、水中に懸濁したオキアミの破砕物を、pH3~4の条件下で麹菌由来のプロテアーゼを用いて酵素処理することによって得られるオイル画分を乾燥することによるものである。
【0010】
本発明において原料として用いるオキアミは、特に限定されるものではなく、三陸地方でイサダと呼ばれているツノナシオキアミの他、ナンキョクオキアミ(Euphausia superba)などであってもよい。オキアミは生のものを用いてもよいし、凍結したもの(例えば無加水や加水の冷凍ブロックであって-50℃以下で保存したもの)を用いてもよい。
【0011】
オキアミの破砕は、例えば、室温環境下において、-10~-3℃に維持したオキアミを(凍結したオキアミはこの温度域まで解凍してから)、ミートチョッパーを用いて粗く行った後、マスコロイダーを用いてペースト状になるまで行うことが、優れた品質のオキアミ成分含有組成物を製造することができる点において望ましい。
【0012】
こうして得られたオキアミの破砕物を、水中に懸濁し、pH3~4の条件下で麹菌(Aspergillus oryzae)由来のプロテアーゼを用いて酵素処理する。オキアミの破砕物の水中への懸濁は、例えばオキアミの破砕物1重量部に0.3~0.7重量部の水を加えて撹拌することで行えばよい。麹菌由来のプロテアーゼは、麹菌由来の酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼから選択される少なくとも1種であってよく、市販のものでは、これらの混合製剤であるコクラーゼP顆粒(三菱ケミカルフーズ社製)、中性プロテアーゼ製剤であるオリエンターゼOP(エイチビィアイ社製)やスミチームFP(新日本化学工業社製)などを用いることができる。麹菌由来のプロテアーゼは、例えばオキアミの破砕物1重量部に対して0.001~0.03重量部用い、その至適温度でオキアミの破砕物を酵素処理する。麹菌由来のプロテアーゼとしてコクラーゼP顆粒を用いる場合の至適温度は、50~55℃である。処理時間は、例えば30分間~3時間であってよい。麹菌由来のプロテアーゼを用いたオキアミの破砕物の酵素処理を、pH3~4の条件下で行うのは、オキアミの破砕物を酵素処理することによって得られるオイル画分に含まれる脂質が、オキアミ自身が持つ脂質分解酵素によって分解されてしまうことを防ぐためである。なお、pHの調整は、クエン酸、乳酸、酢酸、グルクロン酸、アスコルビン酸などの有機酸や、炭酸を用いて行えばよいが、中でもクエン酸を用いてpHの調整を行うことが、医薬品素材や食品素材などを製造するための安全性を確保する点で望ましい。クエン酸は、例えばオキアミの破砕物の水懸濁液1重量部に対して0.001~0.03重量部用いればよい。
【0013】
オキアミの破砕物を酵素処理した後、例えば処理液を70~75℃に加温して10分間~1時間インキュベートすることでプロテアーゼの失活を行ってから、処理液に含まれるオイル画分を回収する。処理液からのオイル画分の回収は、例えば、室温環境下において、脱水型デカンタを用いて処理液を遠心分離することによってオイル画分を含む液分と固形分に分離した後、得られたオイル画分を含む液分を濃縮型デカンタを用いて遠心分離することによってオイル画分と水画分に分離することで行えばよい。
【0014】
最後に水画分から分離したオイル画分を乾燥することで、目的物であるオキアミ成分含有組成物を得る。オイル画分の乾燥は、例えばフリーズドライ法によって行えばよいが、スプレードライ法や熱風乾燥法などによって行うこともできる。目的物であるオキアミ成分含有組成物が固形物として得られた場合、顆粒状や粉末状に粉砕してもよい。
【0015】
以上の方法によって製造される本発明のオキアミ成分含有組成物は、例えば、タンパク質を30~60重量%の割合で、脂質を25~50重量%の割合で、水分を1~15重量%の割合で含むものであり、とりわけ、脂質として哺乳動物において細胞の機能保持などのために重要な役割を果たしているとされるプラズマローゲン(plasmalogen)に生体内で変換されることが知られている1-アルキルエーテル型リン脂質を多く含む(本発明のオキアミ成分含有組成物の1~5重量%の割合)点が特筆に値する。従って、本発明のオキアミ成分含有組成物は、医薬品素材や食品素材などとして健康の維持や増強のために用いることができる。
【実施例
【0016】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0017】
実施例1:
三陸地方で漁獲されたイサダ(ツノナシオキアミ)の無加水冷凍ブロック(-50℃保存のもの)10tを-5℃で解凍し、市販のミートチョッパーを用いて粗く破砕した後、市販のマスコロイダーを用いてペースト状になるまで破砕した。得られたオキアミの破砕物10tに5tの純水を加えて撹拌することで調製したオキアミの破砕物の水懸濁液15tに、麹菌由来のプロテアーゼであるコクラーゼP顆粒(三菱ケミカルフーズ社製)50kgを加え、さらにクエン酸150kgを加えることで液のpHを3~4に調整し、50℃で酵素処理した。1時間後、処理液を70℃に加温して30分間インキュベートすることでプロテアーゼの失活を行った。処理液を室温まで冷却してから、市販の脱水型デカンタを用いて処理液を遠心分離することで、オイル画分を含む液分13tを固形分から分離した。次に、得られたオイル画分を含む液分を市販の濃縮型デカンタを用いて遠心分離することで、オイル画分1.7tを水画分から分離した。得られたオイル画分(赤色ないし桃色のオイル状物)をフリーズドライした後、得られた固形物を粉砕することで、目的物である茶褐色の粉末状イサダ成分含有組成物374gを得た。こうして得られたイサダ成分含有組成物は、タンパク質を44重量%の割合で、脂質を28重量%の割合で、水分を10重量%の割合で含むものであり(残部は炭化水素や灰分)、脂質の内訳は、中性脂質16.4重量%、フォスファチジルエタノールアミン6.8重量%、フォスファチジルコリン40.8重量%、ジアシルグリセロール12.6重量%、遊離脂肪酸16.7重量%、その他6.7重量%であって、イサダ成分含有組成物中に占める1-アルキルエーテル型リン脂質の割合は2.7重量%であった。なお、イサダ成分含有組成物に含まれる脂質の分析は、Bligh-Dyer法によって試料(イサダ成分含有組成物)0.2gから脂質を抽出して行った。抽出された脂質中の中性脂質、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン、ジアシルグリセロール、遊離脂肪酸の割合は、10mg/mLの濃度でクロロホルムに溶解した脂質を1μL薄層クロマトグラフ-水素炎イオン化検出器(イアトロスキャン:LSIメディエンス社製)に供して測定した。薄層クロマトグラフは、クロロホルム/メタノール/水(42:24:2.5)で1次展開した後、ヘキサン/ジエチルエーテル(50:30)で2次展開することで、それぞれの脂質を分離した。1-アルキルエーテル型リン脂質は、抽出された脂質中の含量を高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて定量し、試料中に占める割合を算出した。高速液体クロマトグラフは、0.3mg/mLの濃度でクロロホルム/メタノール(2:1)に溶解した脂質の溶液30μLを分析サンプルとし、カラムはLichrospher 100 Diol 250x4(Agilent社製)を用い、溶出液Aとしてヘキサン/2-プロパノール/酢酸(82:17:1)0.08%トリエチルアミン、溶出液Bとして2-プロパノール/水/酢酸(85:14:1)0.08%トリエチルアミンを、溶出液A95%/溶出液B5%(23分間グラジエント)溶出液A60%/溶出液B40%(4分間グラジエント)溶出液A15%/溶出液B85%(1分間ホールドの後に4分間グラジエント)溶出液A95%/溶出液B5%(10分間ホールド)の条件で送液することによって行い、1-アルキルエーテル型リン脂質を分離し、分離した1-アルキルエーテル型リン脂質を光散乱検出器(SOFTA社製)を用いて検出した。定量のための検量線作成には1-アルキルエーテル型リン脂質の標準品である1-hexadecenoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphocoline(フナコシ社製)を用いた。また、タンパク質はケルダール法、含水量は加熱乾燥法によってそれぞれ分析した。
【0018】
実施例2:
麹菌由来のプロテアーゼとしてコクラーゼP顆粒(三菱ケミカルフーズ社製)のかわりにオリエンターゼOP(エイチビィアイ社製)を用い、クエン酸のかわりに炭酸を用いてpHの調整を行うこと以外は実施例1と同様にして、目的物である粉末状イサダ成分含有組成物を得た。
【0019】
製剤例1:錠剤
以下の成分組成からなるオキアミ成分含有組成物を含む錠剤を自体公知の方法で製造した。
実施例1で得たイサダ成分含有組成物 1
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 19(単位:重量%)
【0020】
製剤例2:ビスケット
以下の成分組成からなるオキアミ成分含有組成物を含むビスケットを自体公知の方法で製造した。
実施例1で得たイサダ成分含有組成物 1
薄力粉 32
全卵 16
バター 16
砂糖 24
水 10
ベーキングパウダー 1(単位:重量%)
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、医薬品素材や食品素材などとして用いることができるオキアミ成分含有組成物の製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。