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特許7156635破骨細胞分化制御ペプチド、および、破骨細胞分化に関連する疾患の含有する治療薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】破骨細胞分化制御ペプチド、および、破骨細胞分化に関連する疾患の含有する治療薬
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20221012BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20221012BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A61K38/08
A61P43/00 105
A61P19/02
A61P19/10
A61P35/04
A61P19/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018163521
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020033327
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】西川 喜代孝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 美帆
(72)【発明者】
【氏名】安西 聖敬
(72)【発明者】
【氏名】川端 宏
(72)【発明者】
【氏名】水野 紗緒利
(72)【発明者】
【氏名】井上 純一郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 祐
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0167072(US,A1)
【文献】特開2012-158525(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038168(WO,A1)
【文献】米国特許第08853367(US,B1)
【文献】米国特許第04847240(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号1-11のペプチドモチーフのうちのいずれか1種が、直接またはスペーサーを介して結合しており、かつ、前記ペプチドモチーフは全て同一である4価ペプチドであることを特徴とする破骨細胞分化制御ペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドモチーフのC末端側の前記スペーサーが膜透過性配列を含むことを特徴とする請求項1の破骨細胞分化制御ペプチド。
【請求項3】
前記膜透過性配列は、1~4つのアルギニン(Arg)からなることを特徴とする請求項2の破骨細胞分化制御ペプチド。
【請求項4】
破骨細胞分化に関連する疾患の治療薬であって、請求項1から3のいずれかの破骨細胞分化制御ペプチドを含有することを特徴とする治療薬。
【請求項5】
前記疾患が、慢性関節炎、骨粗鬆症、リウマチ、がんの骨転移のうちの1種または2種以上であることを特徴とする請求項4の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破骨細胞分化制御ペプチドと、破骨細胞分化に関連する疾患の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の骨量は、造骨を担う骨芽細胞と骨破壊を担う破骨細胞の機能的バランスにより制御されている。この骨量制御バランスが破綻し、破骨細胞優位に傾いた場合には骨量減少に伴う慢性関節炎や骨粗鬆症が発症し、骨芽細胞優位に傾いた場合には骨量過多による大理石骨病が発症する。
【0003】
特に、我が国で骨粗鬆症と診断される推定患者数は1,000万人を突破しており、医療上大きな脅威となっている。これまでに骨粗鬆症の治療薬として、破骨細胞を障害するビスホスホネート系薬剤が第一選択薬として使用されているが、強い肝毒性に加え、過剰な骨代謝回転抑制に伴う非定型骨折の報告例が激増している。その一方で、抗TNFα抗体に代表される抗体医薬品の重要性が急増しているが、原理的に対症療法であること、副作用が強いこと、高額であること、等の問題が指摘されている。そこで、根本的な病因である破骨細胞の制御という観点からの新たな薬剤の開発が早急に求められている。
【0004】
造血幹細胞から破骨細胞への分化は、破骨前駆細胞膜上に存在しているRANK (Receptor activator of NF-kB)にRANKL (RANK ligand)が作用することで引き起こされる。この際、RANKの細胞質側にTRAF6 (TNF receptor-associated factor 6) が結合し、下流に情報が伝達される。このため、TRAF6とRANKの相互作用を阻害することにより破骨細胞分化が制御できると考えられるが、低分子化合物ライブラリーを用いたスクリーニング等の従来技術では、前記相互作用を制御する分子の開発は実現されていないのが現状である。
【0005】
一方、本発明者らはこれまでに、多量体形成によって発揮される強い相互作用(クラスター効果)に基づく強い相互作用を阻害する分子をスクリーニングする技術として多価型ペプチドライブラリー法を開発している(特許文献1)。多価型ペプチドライブラリーは、4価の核構造にランダムペプチドライブラリーが4本結合した構造であるため、それ自体がクラスター効果を発揮する。また、このクラスター効果を発揮して機能する様々な分子に対する阻害分子の開発にも成功している(例えば、特許文献2~4)。さらに、本発明者らは、多価型ペプチドライブラリー法を応用し、多価型ペプチドをシート上に数百のレベルで合成する技術も確立している(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4744443号公報
【文献】特許第5635779号公報
【文献】特許第5754008号公報
【文献】特許第5897178号公報
【文献】特許第5718574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、TRAF6が3量体構造をとっており、そのTRAF-Cドメイン(TRAF-C)はRANK3量体と、多価対多価の強い相互作用(クラスター効果)を介して結合する点に着目し、これまでに確立してきた多価型ペプチドライブラリー法などの知見を用いることで、クラスター効果に基づいてTRAF-Cに強力に結合し、RANKとの相互作用を阻害することにより破骨細胞分化を抑制できる新規な分子を特定できるのではないかとの着想を得て、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、TRAF6のTRAF-Cドメインに強力に結合し、RANKとの相互作用を阻害することにより破骨細胞分化を抑制できる破骨細胞分化制御ペプチドと、破骨細胞分化に関連する疾患の治療薬を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の破骨細胞分化制御ペプチドは、3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号1-11のペプチドモチーフのうちのいずれか1種が、直接またはスペーサーを介して結合している4価ペプチドであることを特徴としている。
【0010】
この破骨細胞分化制御ペプチドでは、前記ペプチドモチーフのC末端側の前記スペーサーが膜透過性配列を含むことが好ましい。
【0011】
この破骨細胞分化制御ペプチドでは、前記膜透過性配列は、1~4つのアルギニン(Arg)からなることがより好ましい。
【0012】
本発明の破骨細胞分化制御ペプチドは、3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、配列番号12のペプチドモチーフが、直接またはスペーサーを介して結合しているとともに、
前記ペプチドモチーフのN末端側、または、C末端側の前記スペーサーに膜透過性配列を有することを特徴としている。
【0013】
この破骨細胞分化制御ペプチドの前記膜透過性配列は、1~4つのアルギニン(Arg)からなることが好ましい。
【0014】
本発明の治療薬は、破骨細胞分化に関連する疾患の治療薬であって、前記破骨細胞分化制御ペプチドを含有することを特徴としている。
【0015】
この治療薬では、前記疾患が、慢性関節炎、骨粗鬆症、リウマチ、がんの骨転移のうちの1種または2種以上である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の破骨細胞分化制御ペプチドは、TRAF-Cに強力に結合し、RANKとの相互作用を阻害することにより破骨細胞分化を抑制することができる。また、本発明の治療薬によれば、破骨細胞の分化に関連する疾患を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】多価型ペプチドの構造ならびにシート上に合成された多価型ペプチドの構造を例示した概要図である。
図2】(A)は、TRAF6ならびにTc-bの構造を示す図である。ここでは、C末端側のCCドメインの一部、TRAF-Cドメインを含む領域を用い、そのN末端にHis-tagを導入したものを作成した(Tc-bと称する)。(B)は、RANK由来で、TRAF-Cドメインとの結合に関わることが知られている配列、RQMPTEDEY をモノマーで有するもの(構造は、RQMPTEDEY; RANK-mono)、テトラマーで有するもの(構造は、[MA-RQMPTEDEY-AU]4-3Lys; RANK-tet)を用いてTc-bとの結合を検討した結果を示す図である。各ペプチドのN末端はビオチン化してある。ELISA plateに、30 microgram/mlのTc-b 野生型(WT)を固定し、各ペプチド存在下1時間、室温で反応させた。洗浄後、結合したペプチドをHRP標識アビジンで検出した。(C)は、Tc-bの配列中で、RANKとの結合に関わることが知られている部位をシングル、あるいはダブルでAla置換した一連のTc-b変異体を作成し、10 microgram/mlのbiotin-RANK-tetとの結合を同様に評価した図である(WT; n=10, R392A; n=5, mean ± SE、他はn=2, mean)。(D)は、Tc-b WTならびにTc-b R392Aを用い、各濃度のbiotin-RANK-tetとの結合を同様に評価した図である(WT; n=8, R392A; n=5, mean ± SE)。
図3】1次ライブラリーを用いた検討を示した図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成した。このシートを10 microgram/mlのTc-bまたはTc-b R392A 存在下、4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、抗His-tag抗体、続いてHRP標識2次抗体を用いて発色させ、結合したTc-bを検出した。
図4】2次ライブラリーを用いた検討を示した図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
図5】3次ライブラリーを用いた検討を示した図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
図6】4次ライブラリー(I系統)を用いた検討を示した図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
図7】4次ライブラリー(II系統)を用いた検討を示した図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
図8】5次ライブラリー(I系統)を用いた検討を示した図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
図9】(a)4次ライブラリー(II系統)から得られたモチーフ、KHDLEEF、のポジション4を酸性アミノ酸で置換し評価した図である。(b)5次ライブラリー(II系統)を用いた検討を示した図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
図10】6次ライブラリー(I系統)を用いた検討を示す図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
図11】7次ライブラリー(I系統)を用いた検討を示す図である。図に示す配列を4価で有するペプチドライブラリーをシート上にスポット合成し、同様の検討を行った。
図12】4価型ランダムペプチドシートスクリーニング法を用いた、R392依存的Tc-b高親和性結合モチーフの同定スキームを示す図である。図は、ライブラリー部、MA-XXXXXXX-A-Ahx、のランダマイズした7アミノ酸を示す。I系統、II系統のスクリーニングで決定されたモチーフを、EFシリーズ、 DFシリーズとしてそれぞれ示す。
図13】EFシリーズおよびDFシリーズとして同定したモチーフの名称と配列を示す図である。
図14】RANK-tetにpoly Argを導入した化合物を示す図である。各々は、RANK-tetのモチーフのN末端、C末端側にArgを図に示す個数導入したテトラマーを示す。
図15】poly Arg導入RANK-tetの破骨細胞分化阻害効果を比較した図である。マウス(C57BL/6,雄,6~8週齢)の大腿骨および脛骨から骨髄細胞を取得し、24well plateにて培養した(2.0×106 cells/ml、 500μlのαーMEM , 10%FBS, Penicillin 100 unit/ml)。その後、66 ng/ml RANKLとM-CSFを含む培地に交換し、72時間培養した。各濃度のペプチドはRANKL刺激と同時に投与した。PFAで固定後、破骨細胞のマーカーである、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(Tartrate-Resistant Acid Phosphatase;TRAP)の活性を細胞染色にて評価した。(a)は、各条件下でのTRAP染色の様子を示す。(b)TRAP陽性かつ核が3個以上の多核細胞を破骨細胞とみなし、単位面積当たりの総数をカウントした。縦軸は、ペプチドを添加しない場合を100%として表示した。n=3 (10 microMのみn=1, mean ± SE)
図16】同定したモチーフのC末端側にArgを4個導入したテトラマーを示す図である。各々は、各配列が図1に示す核構造に導入されたテトラマーであることを示す。
図17】Arg導入テトラマーによる破骨細胞分化抑制を示す図である。(a)各濃度のペプチド存在化でRANKL刺激を行い、TRAPの活性を細胞染色にて評価した。(b)TRAP陽性かつ核が3個以上の多核細胞を破骨細胞とみなし、単位面積当たりの総数をカウントした。ペプチド非存在下での単位面積当たりの破骨細胞数を100%とし、各ペプチド濃度での破骨細胞数を割合で示している。n=3 (mean ± SE、0.1 microM並びにRRT, WDEはn=2)
図18】各テトラマーの細胞毒性評価を示す図である。96well plateにて培養した骨髄由来細胞に、各濃度のペプチドを添加し、3日間培養した。生細胞数はcell count reagent SF (Nakalai tesque, Japan)を用いて測定し、ペプチド非存在下での生存細胞数を100%として示した。n=3 (mean ± SE、0.1 microMの条件並びにRRT, WDEのみn=2)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の破骨細胞分化制御ペプチドの一実施形態について説明する。なお、本発明においては、「破骨細胞への分化」とは、細胞が形態的に破骨細胞の性質を示すこと、および、その形態学的な変化を経て活性化され骨吸収作用を示すことを含む概念である。
【0019】
本発明の破骨細胞分化制御ペプチドの一実施形態は、3つのリジン(Lys)が結合して形成された以下の分子核構造(化学式1)、
【0020】
【化1】
【0021】
の端部に位置する4つの‐NH基の各々に、以下のペプチドモチーフ、
配列番号1:Trp-His-Asp-Asp-Glu-Glu-Phe(WHDDEEF)
配列番号2:His-Arg-Asp-Asp-Glu-Glu-Phe (HRDDEEF)
配列番号3:Arg-His-Asp-Asp-Glu-Glu-Phe(RHDDEEF)
配列番号4:Arg-Arg-Asp-His-Thr-Asp-Phe (RRDHTDF)
配列番号5:Arg-Arg-Asp-Arg-Thr-Asp-Phe (RRDRTDF)
配列番号6:Arg-Arg-Asp-Gln-Thr-Asp-Phe (RRDQTDF)
配列番号7:Arg-Arg-Asp-Pro-Thr-Asp-Phe (RRDPTDF)
配列番号8:Arg-Arg-Asp-Lys-Thr-Asp-Phe (RRDKTDF)
配列番号9:Arg-Arg-Asp-Thr-Thr-Asp-Phe (RRDTTDF)
配列番号10:Trp-Asp-Asp-Glu-Thr-Asp-Phe (WDDETDF)
配列番号11:Asp-Phe-Asp-Asp-Thr-Asp-Phe (DFDDTDF)
のうちのいずれか1種が、直接またはスペーサーを介して結合した4価ペプチドである。
【0022】
この破骨細胞分化制御ペプチドは、配列番号1-11のうちの1種のペプチドモチーフを4つ含むため、クラスター効果を発揮してTRAF6のTRAF-Cドメインに強力に結合し、RANKとの相互作用を阻害することにより破骨細胞分化を抑制できる。
【0023】
具体的には、この実施形態の破骨細胞分化制御ペプチドは、例えば、以下の化学式2、
【0024】
【化2】
【0025】
において、3つのリジン(Lys)からなる分子核構造の端部に位置する4つのXXXX部のそれぞれに、配列番号1-11のうちのいずれか1種のペプチドモチーフが組み込まれた4価ペプチドが例示される。なお、上記の化学式2では、ペプチドモチーフが組み込まれる位置を便宜的に「XXXX」と記載している。
【0026】
また、上記化学式2では、分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、スペーサーが結合している形態を例示しているが、スペーサーを介さず、4つのアミノ基の各々に、直接、配列番号1-11のペプチドモチーフのうちの1種を結合させることもできる。スペーサーを結合させる場合、TRAF-Cへの結合性を損なわないものであればよく、具体的な分子、長さは限定されず、適宜設計することができる。
【0027】
スペーサーとしては、例えば、末端にアミノ酸を有する炭素数4~10程度の鎖長のものが好ましく、特に上記化学式2中の「U」で示される、amino hexanoic acid [NH2-(CH2)5-COOH](アミノカプロン酸)を好ましく例示することができる。また、スペーサーに含まれるアミノ酸としては、例えば、アラニン(A)を例示することができる。
【0028】
さらに、この破骨細胞分化制御ペプチドは、化学式2のXXXX部に組み込まれた配列番号1-11のペプチドモチーフの各々の末端に修飾分子を有していてもよい。なお、上記化学式2で例示するペプチドは、末端にMA(Met-Ala)を有しているが、これは、後述の実施例において、スクリーニングの際に導入したものを例示しており、上記化学式2のMAは、本発明の破骨細胞分化制御ペプチドにおいては必ずしも必要ではない。ペプチドモチーフの末端にNHが露出するとプラス電荷になることから、電荷調節の観点からは、配列番号1-11のペプチドモチーフの各々の末端に、修飾分子として、電荷がない分子、さらには、疎水性の分子を結合させることも考慮される。また、本発明の破骨細胞分化制御ペプチドは含有する治療薬を経口投与する場合、消化管内でのプロテアーゼによる分解を抑えるための安定化を目的として、末端のNHをアセチル基により保護することもできる。このように、ペプチドモチーフの末端の修飾分子は、所望の効果に応じて適宜選択することができ、リン酸化、メチル化、アデニリル化、糖鎖付加などの修飾が加えられていてよい。
【0029】
さらに、この破骨細胞分化制御ペプチドは水溶性が高いことから、配列番号1-11のペプチドモチーフのN末端側またはC末端側に膜透過性配列を含むことが好ましい。
【0030】
膜透過性配列を構成するアミノ酸や長さは特に限定されず、適宜設計することができるが、ヒスチジン(His)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)などのアミノ酸を含む塩基性に富む配列であることが好ましい。具体的には、例えば、膜透過性配列としては、1~6つアルギニン(Arg)、特に好ましくは4つアルギニン(Arg)から構成されるポリアルギニン(Arg)を例示することができる。膜透過性配列の位置も特に限定されず、適宜設計することができるが、配列番号1-11のペプチドモチーフのC末端側であることが好ましく、上記化学式2に例示した形態では、スペーサーであるアラニン(A)とamino hexanoic acid [NH2-(CH2)5-COOH](U)の間に導入することがより好ましい。破骨細胞分化制御ペプチドがポリアルギニン(Arg)などの膜透過性配列を含むことで、破骨細胞分化制御ペプチドのTRAF-Cへの結合性を高めることができ、RANKとの相互作用を阻害することにより破骨細胞分化をより確実に抑制することができる。
【0031】
本発明の破骨細胞分化制御ペプチドの作成方法は特に限定されず、例えば、ペプチド合成装置等を利用するなどの公知の方法によって作製することができる。本発明の破骨細胞分化制御ペプチドに組み込まれる配列番号1のペプチドモチーフ(ペプチド性化合物)は、4価の核構造に順次アミノ酸を付加することにより合成でき、1価のペプチド合成と同様の手法にて簡便にバルク合成することができる。
【0032】
次に、本発明の破骨細胞分化制御ペプチドの別の実施形態について説明する。上記の実施形態として説明した内容については、説明を省略する。
【0033】
本発明の破骨細胞分化制御ペプチドの別の実施形態は、3つのリジン(Lys)が結合して形成された分子核構造の端部に位置する4つのアミノ基の各々に、
配列番号12:Arg-Gln-Met-Pro-Thr-Glu-Asp-Glu-Tyr (RQMPTEDEY)
で示されるペプチドモチーフが、直接またはスペーサーを介して結合しており、かつ、このペプチドモチーフのN末端側、または、C末端側のスペーサーに膜透過性配列を有している。
【0034】
具体的には、この破骨細胞分化制御ペプチドは、上記化学式2で示される分子核構造のXXXX部のそれぞれに、配列番号12のペプチドモチーフが組み込まれており、かつ、このペプチドモチーフのN末端側、または、C末端側のスペーサーに膜透過性配列(化学式2では示していない)を有している。
【0035】
膜透過性配列については、上述したように、塩基性に富む配列であることが好ましく、例えば、1~6つアルギニン(Arg)、特に4つアルギニン(Arg)から構成されるポリアルギニン(Arg)であることが好ましい。また、膜透過性配列が導入される位置は、配列番号12のペプチドモチーフのC末端側に位置するスペーサーであるアラニン(A)とamino hexanoic acid [NH2-(CH2)5-COOH](U)の間であることが好ましい。すなわち、この破骨細胞分化制御ペプチドの好ましい形態としては、例えば、上記の化学式1で示した分子核構造の4つの‐NH基の各々に、配列番号12のペプチドモチーフを含む以下のペプチド、
配列番号13:
Met-Ala-[Arg-Gln-Met-Pro-Thr-Glu-Asp-Glu-Tyr]-Ala-Arg-Arg-Arg-Arg
がamino hexanoic acid [NH2-(CH2)5-COOH](U)を介して結合している形態、すなわち、(MA-RQMPTEDEY-A-RRRR-U)4-3Lysを例示することができる。
【0036】
この形態の破骨細胞分化制御ペプチドにおいては、配列番号12のペプチドモチーフ自体の配列はRANK由来であるが、テトラマー化され、さらに膜透過性配列が付与された新規な分子であり、顕著な破骨細胞分化抑制効果を発揮する。
【0037】
そして、本発明の破骨細胞分化制御ペプチドは破骨細胞分化を抑制するため、本発明の破骨細胞分化制御ペプチドを含む組成物は、破骨細胞分化に関連する疾患の治療薬(医薬組成物)として有用である。 すなわち、本発明の治療薬は、上述した破骨細胞分化制御ペプチドを含み、治療対象となる疾患として、慢性関節炎、骨粗鬆症、リウマチ、がんの骨転移などを例示することができる。
【0038】
本発明の治療薬の投与形態は特に限定されず、経口的投与でも非経口的投与でもよい。非経口投与としては、例えば、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射等の注射投与、経皮投与、経粘膜投与(経鼻、経口腔、経眼、経肺、経膣、経直腸)投与などを例示することができる。
【0039】
本発明の治療薬は、有効成分としての破骨細胞分化制御ペプチドをそのまま用いてもよいし、薬学的に許容できる担体、賦形剤、添加剤等を加えて製剤化してもよい。剤形としては、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤等が挙げられる。
【0040】
製剤化は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを適宜使用し、常法により行うことができる。
【0041】
製剤化に用いられる成分の例としては、精製水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、動植物油、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ソルビトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、コーンスターチ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、トラガント、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、高級アルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミンなどを例示することができる。
【0042】
本発明治療薬は、ヒトを含む哺乳類(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ウマ、サル、ブタ等)に投与することができ、特にヒトに投与する場合の投与量は、症状、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、有効成分の種類、製剤の種類によって異なり、特に限定されないが、例えば、100μg~1000 mgを1回または数回に分けて投与することができる。 本発明の破骨細胞分化制御ペプチドおよび破骨細胞分化に関連する疾患の治療薬は、以上の実施形態に限定されることはなく、TRAF-Cへの結合性や破骨細胞の分化制御効果を害さない範囲で適宜設計することができる。
【実施例
【0043】
<実施例1>新たなTRAF-C高親和性モチーフ同定技術の確立
(1-1)4価型ランダムペプチドシートスクリーニング法を用いた高親和性モチーフ同定技術の原理
特許文献1、5のスクリーニング方法に準じて、ニトロセルロースシート上に2価、あるいは4価の多価型ペプチドライブラリーをシート合成し、以下に示す4価の多価型ペプチドライブラリーをシート上に合成する(図1)。
【0044】
(MA-ZXXXXXX-AU)4-3Lys
ZはCysをのぞく19種類の固定アミノ酸、XはCysをのぞく19種類のアミノ酸のミクスチャー、Uはスペーサーとしてのカプロン酸を示す(基本構造は図1と同じ)。ここで、Zをposition1から7までずらしてゆくと、合計133(=19*7)種類のライブラリーをスポット合成することになる(1次ライブラリー)。
【0045】
このシートに標識TRAF-Cを結合させ、その結合活性を指標に最適アミノ酸とその固定位置(ここでは仮にXXXB4XXXとする)を決定した。決定にあたっては、RANK結合領域に変異を有し、RANK結合能を欠く変異体に比べ、野生型TRAF-Cにより強く、かつ特異的に結合することを指標とする。
【0046】
次に、得られた情報に基づき、 (MA-ZXXB4XXX-AU)4-3Lysから構成される114(=19*6)種類をスポット合成する(2次ライブラリー)。同様の操作を行い、最適アミノ酸とその固定位置を決定する。以下同様のスクリーニングを繰り返し(Xが7個あるので7次ライブラリーまで行う)、全てのXについて最適アミノ酸を決定し、最適モチーフ、B1B2B3B4B5B6B7を決定する。
【0047】
このスクリーニング法では1ポジション毎に最適アミノ酸を決定してゆくため、アミノ酸シークエンス法によるモチーフ決定法(特許文献1)で問題となるリダンダンシーの問題がなく、かつ最終的に取得できる阻害モチーフを格段に増やすことができる。同定されたモチーフを多価型ペプチドライブラリーと同じ核構造に導入した4価のペプチド化合物が最終の阻害薬候補となる。
【0048】
(1-2)スクリーニングに使用するTRAF-Cならびにその変異体の作成
TRAF6の構造のうち、C末端側のCCドメインの一部、TRAF-Cドメインを含む領域を用い、そのN末端にHis-tagを導入したものを作成した(以下、「Tc-b」と称する、図2-A)。
【0049】
RANK由来で、TRAF-Cドメインとの結合に関わることが知られている以下の配列、
配列番号12:Arg-Gln-Met-Pro-Thr-Glu-Asp-Glu-Tyr (RQMPTEDEY)
をモノマーで有するもの(構造は、RQMPTEDEY; RANK-mono)、テトラマーで有するもの(構造は、[MA-RQMPTEDEY-AU]4-3Lys; RANK-tet)、を作成し、Tc-bとの結合を検討した。
【0050】
その結果、モノマーに比べ、テトラマーに強い結合活性を示すこと、すなわち、Tc-bはクラスター効果を発揮してリガンドペプチドを結合する活性を有していることが確認できた(図2-B)。
【0051】
次に、Tc-bの配列中で、RANKとの結合に関わることが知られている部位をシングル、あるいはダブルでAla置換した一連のTc-b変異体を作成し、RANK-tetとの結合を評価した。その結果、いずれの変異体においても活性が著しく減弱すること、中でもTc-b R329Aが最も結合活性が低いことが示された。そこで以下の検討ではTc-b R329A を用いることにした(図2-C)。
【0052】
RANK-tetのTc-bならびにTc-b R392Aへの結合の濃度依存性を検討したところ、野生型Tc-b(WT)に対しては強い結合親和性(Kd=6.5 ± 1.5 microgram/ml; mean ± SE)を示すものの、Tc-b R392Aに対しては結合親和性が著しく減弱していること(Kd=149 ± 34 microgram/ml)、すなわちRANK-tetはArg392依存的にTc-bに結合することが示された(図2-D)。
【0053】
そこで以下の検討では、Tc-bならびにTc-b R392Aを用い、Tc-bに高親和性に結合し、かつ結合がArg392依存的であることを指標にして、本来のリガンドである RANKペプチドよりも優れたモチーフをスクリーニングする。
【0054】
(1-3)多価型ランダムペプチドシートスクリーニング法を用いたTc-b高親和性モチーフの同定
(1次スクリーニング)
4価の1次ランダムペプチドライブラリー(ライブラリー部は、MA-XXXXXXX-A-Ahx)がスポット合成されたシートを、Tc-bまたはTc-b R392Aでブロットすることにより、各ペプチドとの結合活性を評価した(図3、表1、表2)。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
具体的には、標識Tc-bでブロットした場合、ならびに標識Tc-b R392Aでブロットした場合、それぞれについて各ペプチドの濃さ(PSL)を定量し、各ペプチドのPSL値の総計がスポットの総数になるように補正表示した。すなわち、各ペプチドの間で結合に差が全く存在しない場合には、値は全て1.0となる。また、結合特異性を示す指標として、補正後のTc-bへの結合量(WT結合力)を、補正後のTc-b R392Aへの結合量(R392A結合力)で割った値、結合比(WT/R392A)を算出し、この値についても総計がペプチドの総数になるように補正して表示した。さらに、Tc-bへの結合力、ならびに結合比、双方に優れていることを示す指標として、補正後のTc-bへの結合量と補正後の結合比をかけた値(WT結合力×結合比)を用いた。 表示は、WT結合力が高い順にソートしてある。各ペプチドのシート上での位置はシートの縦(A-F)と横(1-24)の組み合わせで表示した(ペプチドポジション)。
【0058】
その結果、Tc-bへの結合量(WT結合力)が上位5位以内で、かつ、Tc-bへの結合力ならびにTc-b R392Aに対する結合比が共に優れていることを示す指標(WT結合力×結合比)を基準として、3番目のポジションがAspであること、が重要であることを見出した。
【0059】
(2次スクリーニング)
そこで、ライブラリー部にMA-XXDXXXX-A-Ahxを有する、2次ライブラリーを作成し、同様の検討を行った(図4、表3、表4)。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
同様の解析により、7番目のポジションがPheであること、が重要であることが示された。またその一方で、WT結合力×結合比から判断し、4番目がLeuであること、4番目、7番目以外のポジションでは6番目がGluであること、がそれぞれ重要であることが示された。
【0063】
(3次スクリーニング)
3次ライブラリーとしては、定法に従ってライブラリー部にMA-XXDXXXF-A-Ahxを有するもの(I系統)と、この段階での最適候補アミノ酸情報を導入し、ライブラリー部にMA-XXDLXEF-A-Ahxを有するもの(II系統)、の2系統を使用した。
(I系統)
ライブラリー部にMA-XXDXXXF-A-Ahxを有するものについては、同様の解析により、6番目のポジションがAspであること、が重要であることが示された(図5、表5、表6)。
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
そこで、I系統の4次ライブラリーとしては、ライブラリー部にMA-XXDXXDF-A-Ahxを有するものを使用することとした。
(II系統)
ライブラリー部にMA-XXDLXEF-A-Ahxを有するものについては、WT結合力×結合比から判断し、5番目のポジションがGluであること、1番目のポジションがLysであること、が重要であることが示された(図5、表7)。
【0067】
【表7】
【0068】
そこで、II系統の4次ライブラリーとしては、ライブラリー部にMA-KXDLEEF-A-Ahxを有するものを使用することとした。
【0069】
(4次スクリーニング)
(I系統)
同様の解析により、2番目のポジションがSerであること、が重要であることが示された(図6、表8)。
【0070】
【表8】
【0071】
その他に、C末端領域から、5番目がThrであるものも採用した。そこで、I系統の5次ライブラリーとしては、ライブラリー部にMA-XSDXXDF-A-Ahxを有するもの(Ia系統)と、MA-XXDXTDF-A-Ahxを有するもの(Ib系統)、の2系統を使用することとした。
(II系統)
同様の解析により、2番目のポジションがHisであること、が重要であることが示された(図7、表9)。
【0072】
【表9】
【0073】
本系統はこの段階で全てのポジションのアミノ酸(KHDLEEF)が決定したことになる。
【0074】
(5次スクリーニング)
(Ia系統)
同様の解析により、4番目のポジションがPheであること、が重要であることが示された(図8、表10)。
【0075】
【表10】
【0076】
そこで、Ia系統の6次ライブラリーとしては、ライブラリー部にMA-XSDFXDF-A-Ahxを有するものを使用することとした。
(Ib系統)
同様の解析により、2番目のポジションがAspであること、4番目のポジションがAspであること、2番目のポジションがArgであること、が重要であることが示された(図8、表11)。
【0077】
【表11】
【0078】
そこで、Ib系統の6次ライブラリーとしては、ライブラリー部にMA-XDDXTDF-A-Ahxを有するもの(Ic系統)を有するもの、MA-XXDDTDF-A-Ahxを有するもの(Id系統)、MA-XRDXTDF-A-Ahxを有するもの(Ie系統)を有するものを、をそれぞれ使用することとした。
(II系統)
4次スクリーニングで決定したモチーフ、KHDLEEF、のうち、ポジション3-6はポジション4のLeu以外酸性アミノ酸がクラスターしていること、2次スクリーニングでポジション4のLeuを決定した際にもLeuの他にGluが強く選択されていた。このことから、まず、ポジション4のLeuをGlu, Aspで置換したものをスポット合成し、Tc-bへの結合量(WT結合力)、ならびに結合比(WT結合力×結合比)を検討した。その結果、ポジション4にAspを持つもの、KHDDEEFがいずれも優れていることが示された(図9a、表12)。
【0079】
【表12】
【0080】
その一方で、KHDLEEF、のうち、ポジション1、2はLys、Hisの塩基性アミノ酸がクラスターしていることから、5次ライブラリーとして、KHDDEEFをベースとして、ポジション1、2をシャッフルした、MA-KXDDEEF-A-Ahx、A-XHDDEEF-A-Ahx、を有するものを使用した。さらに、KHDDEEFのポジション1、2に塩基性アミノ酸を導入したものも作成した。以上のグループがスポット合成されたシートをスクリーニングし、同様の解析により、WHDDEEF、HRDDEEF、RHDDEEF、の3種のモチーフを取得した(図9b、表13)。
【0081】
【表13】
【0082】
(6次スクリーニング)
(Ia系統)
同様の解析により、5番目のポジションがGluであること、が重要であることが示された(図10、表14)。
【0083】
【表14】
【0084】
(Ic系統)
同様の解析により、1番目のポジションがTrpであること、が重要であることが示された(図10、表15)。
【0085】
【表15】
【0086】
そこで、Ic系統の7次ライブラリーとしては、ライブラリー部にMA-WDDXTDF-A-Ahxを有するものを使用することとした。
(Id系統)
同様の解析により、1番目のポジションがArg、2番目のポジションがPhe、であること、が重要であることが示された(図10、表16)。
【0087】
【表16】
【0088】
そこで、Id系統の7次ライブラリーとしては、ライブラリー部にMA-RXDDTDF-A-Ahx(If系統)、ならびにMA-XFDDTDF-A-Ahx(Ig系統)を有するものを使用することとした。
(Ie系統)
同様の解析により、1番目のポジションがArg、であることが重要であることが示された(図10、表17)。
【0089】
【表17】
【0090】
そこで、Ie系統の7次ライブラリーとしては、ライブラリー部にMA-RRDXTDF-A-Ahxを有するものを使用することとした。
【0091】
6次スクリーニングで使用した、Ia、Ic、Id、Ie全ての系統を合わせたものについて、WT結合力×結合比で比較したところ、上記で決定したモチーフのうち、Ia系統で決定したモチーフは最も値が低かったため、Ia系統は以降のスクリーニングには使用しないこととした。
【0092】
(7次スクリーニング)
(Ic, Id, Ie系統)
7次スクリーニングで使用した、Ic、Ie、 If、Ig全ての系統を合わせたWT結合力×結合比のランギングを指標とし、8モチーフを決定した。いずれのモチーフを有するペプチドもRANKペプチドよりもWT結合力×結合比の値が優れていることが示された(図11、表18)。
【0093】
【表18】
【0094】
以上のスクリーニングの結果を図12にまとめた。
【0095】
さらにI系統で決定された8種のモチーフ、II系統で決定された3種のモチーフを、それぞれのEFシリーズ、DFシリーズと称し、それぞれのモチーフの名称ならびに配列を図13に示す。
【0096】
<実施例2>取得したペプチドの破骨細胞分化に対する阻害効果
(2-1)テトラマー体に対する膜透過性付与の試み
取得したペプチドにクラスター効果を発揮させるために、各モチーフを図1に示す核構造に組み入れテトラマー体を作成し、骨髄由来細胞を用いた破骨細胞への分化に対する阻害効果を検討することとした。
【0097】
検討にあたり、今回取得したモチーフはいずれも酸性アミノ酸を2個以上含んでいることから水溶性が高く膜透過性に乏しい可能性が懸念された。事実、RANKテトラマー(RANK-tet)は一つのモチーフ中に酸性アミノ酸を3個有しており、効率良くTc-bに結合するにも関わらず、破骨細胞分化に対する阻害効果をほとんど示さない(図15)。
【0098】
そこで、まずRANK-tetを用いて、膜透過性を亢進させるための検討を行った。これまでに、HIVの転写活性因子Tatの配列の一部や、ショウジョウバエが持つAntennapediaタンパク由来のpenetratin、オリゴアルギニン、などの塩基性に富む配列は、膜透過性の性質を有することが知られている。そこで、RANK-tetのRANKペプチド部のN末端、あるいはC末端にポリArgを導入し、破骨細胞分化に対する阻害効果を検討した(図14)。
【0099】
その結果、N末端、あるいはC末端のいずれにArgを導入した場合にも、Argの個数が多いほど阻害能が増加すること、中でもC末端にArgを4個導入した場合に最も阻害活性が高いことが明らかとなった(図15)。
【0100】
以上の結果から、先に同定したEFシリーズ、DFシリーズいずれのモチーフについても、C末端にArg4個からなる膜透過性配列(配列番号14:Arg-Arg-Arg-Arg(RRRR))を導入したテトラマーを作成した(図16)。
【0101】
(2-2)Arg導入テトラマーの破骨細胞分化に対する阻害効果
得られたArg導入テトラマーの破骨細胞分化に対する阻害効果を同様に検討した。その結果、いずれのテトラマーもRANK-tetと同程度あるいはそれよりも強い阻害活性を示すこと、特に、EFシリーズのCR4-WHD-tet、DFシリーズのCR4-RRK-tetが最も強い阻害活性を示すことを見出した(図17)。
【0102】
各テトラマー単独での細胞毒性を評価したところ、3μMのCR4-RRK-tet、並びにCR4-RRR-tetでは細胞毒性が観察されたものの、ほとんどのテトラマーは細胞毒性を示さない(図18)。以上の結果から、今回同定したモチーフを有するテトラマー、特に、CR4-WHD-tet、CR4-RRK-tetは、RANK-TRAF6間の強い相互作用を特異的に阻害することで機能する、新規破骨細胞分化制御分子として期待される。
【0103】
<3>まとめ
4価型ランダムペプチドシートスクリーニング法を用いて、破骨細胞分化制御ペプチドの以下のモチーフを同定することができた。
【0104】
配列番号1:Trp-His-Asp-Asp-Glu-Glu-Phe (WHDDEEF)
配列番号2:His-Arg-Asp-Asp-Glu-Glu-Phe (HRDDEEF)
配列番号3:Arg-His-Asp-Asp-Glu-Glu-Phe(RHDDEEF)
配列番号4:Arg-Arg-Asp-His-Thr-Asp-Phe (RRDHTDF)
配列番号5:Arg-Arg-Asp-Arg-Thr-Asp-Phe (RRDRTDF)
配列番号6:Arg-Arg-Asp-Gln-Thr-Asp-Phe (RRDQTDF)
配列番号7:Arg-Arg-Asp-Pro-Thr-Asp-Phe (RRDPTDF)
配列番号8:Arg-Arg-Asp-Lys-Thr-Asp-Phe (RRDKTDF)
配列番号9:Arg-Arg-Asp-Thr-Thr-Asp-Phe (RRDTTDF)
配列番号10:Trp-Asp-Asp-Glu-Thr-Asp-Phe (WDDETDF)
配列番号11:Asp-Phe-Asp-Asp-Thr-Asp-Phe (DFDDTDF)
これまでにTRAF6を標的とし、クラスター効果を発揮して強力に結合することにより機能し、破骨細胞分化を顕著に抑制する分子は開発された例はなく、今回同定された分子群は化合物としての独自性が高い。また、配列番号12のペプチドモチーフを有するRANK-tet(MA-RQMPTEDEY-A-RRRR-U)4-3Lys)についても、モチーフ自体の配列はRANK由来であるが、テトラマー化し、さらに膜透過性配列を付与することで顕著な破骨細胞分化抑制効果が得られており、新規な破骨細胞分化制御分子と位置付けることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
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