(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】食品組成物及び食品
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20221012BHJP
【FI】
A23L33/10
(21)【出願番号】P 2016110438
(22)【出願日】2016-06-01
【審査請求日】2019-03-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】川上 晋平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良一
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】齋 政彦
【合議体】
【審判長】大島 祥吾
【審判官】加藤 友也
【審判官】奥田 雄介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-158563(JP,A)
【文献】特開2004-182610(JP,A)
【文献】特開2013-193996(JP,A)
【文献】特開2012-25691(JP,A)
【文献】日本農芸化学会大会講演要旨集、2012、p.1462、「3J13p15」
【文献】日本農芸化学会大会講演要旨集、2012、p.1461、「3J13p14」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L33/10
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/FSTA/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕を有効成分として含むムチン産生促進用食品組成物。
【請求項2】
米麹を有効成分として含むムチン産生促進用食品組成物。
【請求項3】
前記ムチン産生促進が消化管で生じる、請求項1または2に記載のムチン産生促進用食品組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のムチン産生促進用食品組成物を含む
ムチン産生促進用食品。
【請求項5】
甘酒を含む、請求項4に記載の
ムチン産生促進用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品組成物及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ムチンは、動物の上皮組織から分泌される粘液の主成分である粘性物質であり、細胞や組織の保護や潤滑剤として機能している。例えば、ムチンは、口腔、胃、腸などの消化器官や鼻腔、腟、目の表面などの粘膜層を形成している。特に消化管などでは、消化管内からの病原体や毒素の侵入から消化管表面を保護するバリア機能を担っていることが知られている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Am J Clin Nutr. 2001 Jun;73(6):1131S-1141S.
【文献】Mucosal Immunol. 2008 May;1(3):183-97.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ムチン産生促進作用を有する食品組成物及び食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる一実施態様は、酒粕及び/又は米麹を有効成分として含むムチン産生促進用食品組成物又は粘膜組織保護用食品組成物である。前記粘膜組織が消化管であってもよい。
【0006】
本発明にかかる他の実施態様は、上記いずれかの食品組成物を含む食品である。本食品が、甘酒を含んでもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、ムチン産生促進作用を有する食品組成物及び食品を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る一実施例において、甘酒成分を含有した餌(通常食)を摂取したマウスにおける、糞便中のムチンの量を測定した結果である。
【
図2】本発明に係る一実施例において、甘酒成分を含有した餌(高脂肪食)を摂取したマウスにおける、糞便中のムチンの量を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0010】
==食品組成物==
本発明にかかる食品組成物は、酒粕及び/又は米麹を有効成分として含む。
【0011】
本明細書において、酒粕とは、日本酒の醪を圧搾した後に残る固形物をいう。酒粕中には水分およびアルコール分が含まれるが、その含有量は特に限定されず、例えば10~90%、30~70%、40~60%などであってもよい。日本酒の醪の製造方法は特に限定されないが、通常の日本酒の醸造工程で得られるものを用いればよく、市販品を用いてもよい。
【0012】
本明細書において、米麹とは、蒸した米に麹菌を繁殖させたものをいい、通常の製麹方法に従って調製することができる。具体的には、例えば、米を蒸して得られた蒸米に麹菌を散布し、増殖に適した条件下(例えば、25~40℃で2~4日間)で麹菌を繁殖させることにより得られる。なお、米麹は、市販品を用いてもよい。用いる米は特に限定されず、うるち米であっても、もち米であってもよい。好ましくは米を適宜精米し、洗米し、水に浸漬し、そして水切りしたものを用いることができる。用いる麹菌は特に限定されないが、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)およびアスペルギルス・ソーヤ(Asperugillus sojae)などのコウジカビ属(アスペルギルス、Asperugillus)が例示できる。なお、麹菌は、種麹として販売される市販品を用いてもよい。
【0013】
本発明にかかる食品組成物には、酒粕と米麹の少なくともどちらか一方が含まれていればよいが、両方が含まれている場合、食品組成物に含まれる酒粕と米麹の割合は特に限定されず、例えば、20:1~1:5であってもよく、8:1~1:2であってもよく、4:1~1:1であってもよく、約2:1であってもよい。
【0014】
この食品組成物を含んだ食品は特に限定されないが、甘酒を含むことが好ましい。食品の製造方法は特に限定されず、食品の製造工程の途中で酒粕と米麹の少なくともどちらか一方を添加してもよく、最終形態の食品に酒粕と米麹の少なくともどちらか一方を添加してもよい。以下、食品の一例として、甘酒の製法を説明する。
【0015】
本発明の甘酒は、酒粕と米麹の少なくともどちらか一方が含まれていればよいが、米麹、米麹と米飯との混合物、米麹と酒粕との混合物、酒粕、米麹と米飯と酒粕との混合物から選ばれた一種を主原料とするものであることが好ましい。甘酒の製法は特に限定されず、公知の方法を用いればよい。例えば、蒸した米や粥と米麹を混合し、40~70℃で数時間~一晩保温することによって得ることができる。また、酒粕を湯に溶いて、数時間加熱することで製造してもよい。また、米麹と酒粕の両方を用いる場合は、例えば、これらの原料を混合押して適当量の水を添加し、必要に応じて糖化反応等を行わせることにより、甘酒液を調製することができる。水の添加量は特に限定されないが、水100重量部に対して、米麹と酒粕の混合物が1~50重量部となるようにすることが好ましい。甘酒の製造工程の中途段階や最終段階で、適宜、砂糖などの甘味料や、クエン酸などの酸味料や塩などを適量添加してもよい。
【0016】
食品は、甘酒そのものであっても良いが、他の飲食品(例えば、果汁、乳飲料など)に甘酒を混合させたものであってもかまわない。その場合、甘酒の含有量は特に限定されず、例えば、10%~90%、30%~70%、40%~60%など、どのような含有量でも良い。
【0017】
==食品組成物の用途==
実施例に示すように、動物個体が本発明の食品組成物を摂取することによって、その動物個体のムチン産生が促進され、糞便中のムチン量が増加する。このように、本発明の食品組成物は、ムチンの産生促進効果を有する。
【0018】
ムチンを主要な構成成分とする粘膜層は、生体組織を保護するバリア機能を担っている。例えば口内、食道、胃、腸管などの消化管では、粘膜層が消化管上皮を覆っており、口内では、熱からの保護、胃では強酸からの保護、また消化管内から体内への病原体や毒素の侵入の阻止といった組織保護の作用を有している。従って、ムチン産生が促進されることによって、組織がより強固に保護されるようになる。このように、本発明の食品組成物は、ムチンの産生促進を通じ、粘膜組織保護の効果を有する。ここで、動物は、ヒトであってもよく、ヒト以外の脊椎動物であっても構わない。
【実施例】
【0019】
本発明を、実施例によってさらに詳細に説明するが、本実施例は発明の具体的な説明のためのものであって、発明を限定するためのものではない。
【0020】
マウス(BALB/c、雄、生後9週齢、各群7匹)に甘酒成分を含有した餌を4週間投与した。甘酒成分を含有した餌は、市販の酒粕と米麹を2:1の割合(質量)で混合し、乾燥させた後、餌中の糖質10重量%に置き換える形で10重量%添加し、混合することで作製した。マウス対照群には、甘酒成分を含有しない餌を同様に投与した。餌は、通常食と高脂肪食(通常食:AIN-93G、高脂肪食:HFD32、日本クレア製)の両方を用い、毎週、糞便ムチン測定キット(コスモバイオ社)を用いて、糞便中のムチンの量を測定した。測定値をグラフ化したものを
図1、
図2に示す。
【0021】
通常食であっても、高脂肪食であっても、甘酒成分を含有した餌を摂取したマウスでは、糞便中のムチンの量が有意に増加した。このように、酒粕や米麹を摂取すると、ムチンの産生量が増加する。すなわち、酒粕や米麹を含む食品は、ムチンの産生量促進効果を有する。