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特許7157219リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
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  • 特許-リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20221012BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221012BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221012BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20221012BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20221012BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 A
H01M4/505
C01G53/00 A
H01M4/131
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021127566
(22)【出願日】2021-08-03
【審査請求日】2022-04-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】橘 信吾
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098218(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123951(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/192759(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/051089(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
H01M 10/052-0587
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属複合酸化物と、リチウムと元素Xとを含むLi-X化合物と、を備えるリチウム二次電池用正極活物質であって、
前記Li-X化合物はリチウムイオン導電性を有する酸化物であり、
前記リチウム金属複合酸化物は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含み、前記二次粒子は、一次粒子同士の間に間隙を有し、前記Li-X化合物は、少なくとも前記間隙に存在し、前記元素Xは、Nb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、下記(A)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質。
4.95≦L/Lav ≦7.7 ・・・(A)
((A)中、Lは、CuKα線で測定した前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末X線回折の回折パターンにおいて、2θ=18.5±1°の範囲内の最大の回折ピークから算出する結晶子径である。
avは、前記回折パターンにおいて2θ=10°以上90°以下の範囲内に含まれる回折パターンから算出する平均結晶子径である。)
【請求項2】
リチウム金属複合酸化物と、リチウムと元素Xとを含むLi-X化合物と、を備えるリチウム二次電池用正極活物質であって、
前記Li-X化合物はリチウムイオン導電性を有する酸化物であり、
前記リチウム金属複合酸化物は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含み、前記二次粒子は、一次粒子同士の間に間隙を有し、前記Li-X化合物は、少なくとも前記間隙に存在し、前記元素Xは、Nb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、下記(A)を満たし、リチウム二次電池用正極活物質。
4.95≦L /L av ・・・(A)
((A)中、L は、CuKα線で測定した前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末X線回折の回折パターンにおいて、2θ=18.5±1°の範囲内の最大の回折ピークから算出する結晶子径である。
av は、前記回折パターンにおいて2θ=10°以上90°以下の範囲内に含まれる回折パターンから算出する平均結晶子径である。前記L av は80Å以上150Å以下を満たす。)
【請求項3】
前記リチウム二次電池用正極活物質の50%累積体積粒度であるD50は3μm以上20μm以下を満たす、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積が0.2m/g以上2.5m/g以下を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
下記組成式(I)を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)Co1-a]O ・・・(I)
(式(I)中、MはMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、XはNb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦a≦0.2、0≦y≦0.5、0<z≦0.7、0<w≦0.1、y+z+w<1を満たす。)
【請求項6】
10、D90及びD50が下記(B)を満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
(D90-D50)/(D50-D10)≦2.0 ・・・(B)
((B)中、D10はリチウム二次電池用正極活物質の10%累積体積粒度である。D50はリチウム二次電池用正極活物質の50%累積体積粒度である。D90はリチウム二次電池用正極活物質の90%累積体積粒度である。)
【請求項7】
前記Lは500Å以上700Å以下を満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記BET比表面積が1.5m/g以上を満たす、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池を構成する正極には、リチウム二次電池用正極活物質が用いられる。リチウム二次電池用正極活物質は、リチウム金属複合酸化物を含む。
【0003】
リチウム二次電池の電池特性を向上させる技術として、例えば特許文献1には、ニッケル含有水酸化物と、リチウム化合物と、ニオブ化合物を混合してリチウム混合物を得る混合工程を備える正極活物質の製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、リチウム金属複合酸化物とリチウム及びニオブを含む化合物とを含有する正極活物質が記載されている。特許文献2は、リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面を、リチウム及びニオブを含む化合物で被覆することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-122298号公報
【文献】特開2020-53383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~2は、正極活物質にニオブを添加したことにより電池特性が向上することを開示している。
一方、リチウム金属複合酸化物とニオブ、タングステン又はモリブデンを含む化合物とを混合して焼成した場合、一次粒子同士の焼結、及び結晶成長が阻害されやすくなる。焼成時の焼結、及び結晶成長が阻害されると、正極活物質の粒子の平均結晶子サイズが小さくなりやすい。その結果、製造した正極活物質を用いたリチウム二次電池は、初回放電容量、初回効率及びサイクル特性が低下しやすいという課題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、ニオブ、タングステン又はモリブデンを添加した場合に初回放電容量、初回効率及びサイクル特性に優れるリチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は[1]~[10]を包含する。
[1]リチウム金属複合酸化物と、リチウムと元素Xとを含むLi-X化合物と、を備えるリチウム二次電池用正極活物質であって、前記Li-X化合物はリチウムイオン導電性を有する酸化物であり、前記リチウム金属複合酸化物は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含み、前記二次粒子は、一次粒子同士の間に間隙を有し、前記Li-X化合物は、少なくとも前記間隙に存在し、前記元素Xは、Nb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、下記(A)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質。
4.95≦L/Lav ・・・(A)
((A)中、Lは、CuKα線で測定した前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末X線回折の回折パターンにおいて、2θ=18.5±1°の範囲内の最大の回折ピークから算出する結晶子径である。
avは、前記回折パターンにおいて2θ=10°以上90°以下の範囲内に含まれる回折パターンから算出する平均結晶子径である。)
[2]前記リチウム二次電池用正極活物質の50%累積体積粒度であるD50が3μm以上20μm以下を満たす[1]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[3]前記リチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積が0.2m/g以上2.5m/g以下を満たす、[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[4]下記組成式(I)を満たす、[1]~[3]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)Co1-a]O ・・・(I)
(式(I)中、MはMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、XはNb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦a≦0.2、0≦y≦0.5、0<z≦0.7、0<w≦0.1、y+z+w<1を満たす。)
[5]D10、D90及びD50が下記(B)を満たす、[1]~[4]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
(D90-D50)/(D50-D10)≦2.0 ・・・(B)
((B)中、D10はリチウム二次電池用正極活物質の10%累積体積粒度である。D50はリチウム二次電池用正極活物質の50%累積体積粒度である。D90はリチウム二次電池用正極活物質の90%累積体積粒度である。)
[6]前記Lavは80Å以上150Å以下を満たす、[1]~[5]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[7]前記Lは500Å以上700Å以下を満たす、[1]~[6]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[8]前記BET比表面積は1.5m/g以上を満たす、[3]~[7]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[9][1]~[8]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
[10][9]に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ニオブ、タングステン又はモリブデンを添加した場合に初回放電容量、初回効率及びサイクル特性に優れるリチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明において、結晶子径を説明するための模式図である。
図2】リチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
図3】全固体リチウム二次電池の全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、金属複合化合物(Metal Composite Compound)を以下「MCC」と称する。リチウム金属複合酸化物(Lithium Metal Composite Compound)を以下「LiMO」と称する。
リチウム二次電池用正極活物質(Cathode Active Material for lithium secondary batteries)を以下「CAM」と称する。
「Li」との表記は、特に言及しない限りLi金属単体ではなく、Li元素であることを示す。Ni、Co、Mn等の他の元素の表記も同様である。
【0012】
<リチウム二次電池用正極活物質>
本実施形態のCAMは、LiMOと、リチウムと元素Xとを含むLi-X化合物とを備える。リチウム二次電池用正極活物質は、後述する(A)を満たす。
【0013】
CAMは粒子であり、粒子は一次粒子と、二次粒子とを含む。
本明細書において、「一次粒子」とは、外観上に粒界が存在しない粒子であって、二次粒子を構成する粒子を意味する。より詳細には、「一次粒子」とは、走査型電子顕微鏡等で5000倍以上20000倍以下の視野にて粒子を観察した場合に、粒子表面に明確な粒界が見られない粒子を意味する。
本明細書において、「二次粒子」とは、複数の前記一次粒子が間隙をもって三次元的に結合した粒子を意味する。二次粒子は、球状、略球状の形状を有する。
通常、前記二次粒子は前記一次粒子が10個以上凝集して形成される。
【0014】
本実施形態において、CAMが備える一次粒子は、LiMOの粒子である。
CAMが含む二次粒子は、一次粒子の凝集体であり、一次粒子同士の間に間隙を備える。
本明細書において「間隙」と記載した場合には、二次粒子を構成する一次粒子同士の間に形成された間隙を意味する。
【0015】
≪LiMO≫
LiMOはLi、Ni、任意金属元素であるCo、及び元素Mを含む化合物である。元素MはMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である。
【0016】
≪Li-X化合物≫
Li-X化合物はリチウムと元素Xとを含む化合物であり、元素XはNb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素である。
Li-X化合物は具体的には、ニオブ酸リチウム、タングステン酸リチウム、モリブデン酸リチウムが挙げられる。
【0017】
ニオブ酸リチウムとしては、LiNbO、LiNbO、LiNb、又はLiNb等が挙げられる。ニオブ酸リチウムは、リチウムイオン導電性を有する。
【0018】
タングステン酸リチウムとしては、LiWO、LiWO、LiWO、又はLi629が挙げられる。タングステン酸リチウムは、リチウムイオン導電性を有する。
【0019】
モリブデン酸リチウムとしては、LiMoO、LiMоO、又はLiMоが挙げられる。モリブデン酸リチウムは、リチウムイオン導電性を有する。
【0020】
高いリチウムイオン導電性を発揮する観点から、Li-X化合物は、ニオブ酸リチウム、又はタングステン酸リチウムであることが好ましく、特にニオブ酸リチウムが好ましい。
【0021】
[Li-X化合物の確認方法]
Li-X化合物が間隙に存在するか否かは、以下の方法により確認することができる。
まず、下記の方法によりCAMの粒子の断面を得る。
その後、得られた断面の像を用いて走査透過型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線測定を実施する。
【0022】
(正極活物質の粒子の断面を得る工程)
CAMの粒子の断面を得る方法としては、まず、CAMの一粒子を集束イオンビーム加工装置で加工して、CAMの一粒子の断面を得る。集束イオンビーム加工装置としては、例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、FB2200が使用できる。
【0023】
また、正極に含まれるCAMの断面を得る場合には、CAMを用いて作製した正極の一部を切り取り、イオンミリング装置で加工して、電極の合材層に含まれるCAMの粒子の断面を得てもよい。
【0024】
断面を得る粒子は、レーザー回折式粒度分布測定で得られた50%累積体積粒度D50μm)±5%の最大径を示すCAMの粒子を選択することが好ましい。
CAMの粒子の重心付近を通る態様で粒子を切断し、得られたCAMの粒子の断面の長軸長がD50(μm)±5%のものを選び観察することが好ましい。
【0025】
断面加工を行うCAMは、粉末状のCAMが好ましいが、電極に含まれるCAMやCAMの粉体を樹脂で包埋したものであってもよい。
【0026】
(透過型電子顕微鏡による観察)
間隙にLi-X化合物が存在するか否かは、上記の方法により得たCAMの断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することで確認できる。
【0027】
透過型電子顕微鏡としては、日本電子株式会社製、JEM-2100Fが使用できる。
具体的には、CAMの粒子の断面をTEMを用いて観察し、CAMの粒子の断面についてエネルギー分散型X線分析により元素分析する。エネルギー分散型X線分析(Energy Didpersive X-ray spectroscopy、略称EDX)には、日本電子株式会社製のCenturioが使用できる。
【0028】
EDXにより元素Xが検出された箇所を、元素Xを含む化合物が存在する箇所と判断する。
【0029】
元素Xを含む化合物がリチウムを含有したLi-X化合物であるかは、X線吸収微細構造(XAFS)解析、X線光電子分光(XPS)分析などで確認することができる。
【0030】
XAFS解析によれば、着目する原子の局所構造の情報を得ることができる。原子の局所構造とは、例えば原子の価数、隣接する原子種、結合性等が挙げられる。
XAFS解析は、測定対象に照射する前のX線強度(I)と測定対象を透過した後のX線強度(I)の比(I/I)を測定し、解析する。
【0031】
XPS分析はサンプル表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで、サンプルの構成元素とその電子状態を分析することができる。XPS分析を実施することで、元素Xを含む化合物の組成分析を行うことができる。
【0032】
本実施形態において、元素Xを含む化合物の組成分析は、XAFS解析を利用する。
具体的には、作製した元素Xを含むCAMを測定装置であるXAFSビームラインに導入し、以下の条件で元素XのXAFS測定、及び解析を実施する。このとき、想定されるLi-X化合物の標準試料のXAFS測定を併せて実施する。
測定装置 :大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 BL-12C
測定吸収端 :Nb-K吸収端、W-L吸収端、Mo-K吸収端
【0033】
得られたXAFSスペクトルはピーク値からベースライン値を差し引き、CAMと標準試料のピーク形状を比較することで、元素Xを含む化合物の組成分析を実施する。
【0034】
本明細書において「粒子の中心部」とは、上記の方法により得られたTEM-EDX像において、粒子の中心から表面までの半径のうち、中心側50%に相当する領域を意味する。
本明細書において「粒子の表面部」とは、上記の方法により得られたTEM-EDX像において、粒子の最表面と、最表面から粒子の中心に向かって概ね10nmの深さまでの領域を意味する。
本明細書において「粒子の外周部」とは、上記の方法により得られたTEM-EDX像において、上記粒子の中心部と、上記粒子の表面部のいずれにも該当しない領域を意味する。
【0035】
本実施形態のCAMは、X線強度分布図から判断した場合に、二次粒子の中心部の間隙にLi-X化合物が存在していてもよい。
本実施形態のCAMは、X線強度分布図から判断した場合に、二次粒子の外周部の間隙にLi-X化合物が存在していてもよい。
本実施形態のCAMは、X線強度分布図から判断した場合に、二次粒子の中心部の間隙及び二次粒子の外周部の間隙にLi-X化合物が存在していてもよい。
本実施形態のCAMは、X線強度分布図から判断した場合に、二次粒子の中心部から二次粒子の表面部までの全領域に存在する間隙にLi-X化合物が存在していてもよい。
【0036】
本実施形態のCAMは、X線強度分布図から判断した場合に、二次粒子の表面部にLi-X化合物が存在していてもよい。ただし、二次粒子の表面部のみにLi-X化合物が存在する態様は含まない。
【0037】
本実施形態のCAMは、(A)を満たす。
4.95≦L/Lav ・・・(A)
((A)中、Lは、CuKα線で測定した前記CAMの粉末X線回折の回折パターンにおいて、2θ=18.5±1°の範囲内の最大の回折ピークから算出する結晶子径である。
avは、前記回折パターンにおいて2θ=10°以上90°以下の範囲内に含まれる回折パターンから算出する平均結晶子径である。)
【0038】
[Lの測定方法]
は、以下の方法により得られる。
まず、CuKαを線源とし、かつ回折角2θの測定範囲を10°以上90°以下とする粉末X線回折測定を行い、回折パターンを得る。得られた回折パターンから、2θ=18.5±1°の範囲内の最大の回折ピークを決定する。
【0039】
粉末X線回折測定は、X線回折装置、例えば、Bruker社製D8 Advanceが使用できる。
測定条件を以下に記載する。
(測定条件)
サンプリング幅:0.02
スキャンスピード:4°/min
【0040】
決定した回折ピークの半値幅を算出し、Scherrer式 L=Kλ/Bcosθ (L:結晶子径、K:Scherrer定数、B:ピーク半値幅)を用いることで結晶子径を算出する。
Scherrer式により、結晶子径を算出することは従来から使用されている手法である。例えば「X線構造解析-原子の配列を決める-」2002年4月30日第3版発行、早稲田嘉夫、松原栄一郎著を参照すればよい。
【0041】
以下にCAMが空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造である場合を例に、図面を用いてより具体的に説明する。
図1(a)に、結晶子における003面の模式図を示す。図1(a)中、003面の垂線方向の結晶子径は結晶子径L(Å)(図1(b))に相当する。
【0042】
結晶子径Lの値が大きいことは、CAMの粒子が層状方向に成長していることを意味する。このようにCAMの粒子が層状方向に成長している場合、リチウムイオンの挿入時と脱離時の抵抗が低減されやすくなり、リチウム二次電池の初回放電容量及び初回効率を向上させることができる。
【0043】
[Lavの測定方法]
avは、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=10°以上90°以下の範囲内のX線回折パターンにより算出した平均結晶子径である。
CAMのLavは、得られた粉末X線回折パターンを、Rietveld解析して算出される結晶子径である。Rietveld解析法は、最初に結晶構造を仮定し、この結晶構造に関するパラメーターを最小二乗法によって精密化することで結晶構造を決定する方法である。Rietveld解析用の解析ソフトの例として、TOPAS、Rietan、JANA、JADE等が挙げられる。
【0044】
≪L/Lav
/Lavが(A)を満たすCAMは、層状方向に成長した粒子の存在比率が大きいことを意味し、結晶構造中でのリチウムイオンの挿入及び脱離に関わる結晶構造が効果的に発達している。このような結晶構造を有するCAMを用いたリチウム二次電池は、リチウムイオンの挿入及び脱離において抵抗となる結晶因子が少なく、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率が向上しやすい。
【0045】
(A)の好ましい例を以下に記載する。
4.99≦L/Lav ・・・(A)-1
5.00≦L/Lav ・・・(A)-2
5.05≦L/Lav ・・・(A)-3
5.15≦L/Lav ・・・(A)-4
5.20≦L/Lav ・・・(A)-5
【0046】
(A)の好ましい例をさらに以下に記載する。
4.95≦L/Lav≦9.9・・・(A)-10
4.99≦L/Lav≦8.8・・・(A)-11
5.00≦L/Lav≦7.7・・・(A)-12
5.05≦L/Lav≦7.0・・・(A)-13
5.15≦L/Lav≦6.5・・・(A)-14
5.20≦L/Lav≦6.0・・・(A)-15
【0047】
CAMは、Lavが80Å以上150Å以下を満たすことが好ましく、90Å以上140Å以下を満たすことがより好ましく、100Å以上130Å以下を満たすことがさらに好ましい。
avが上記範囲内であると、結晶子が十分発達し、格子欠陥や歪みが少ない。このため、リチウムイオンの挿入時及び脱離時の抵抗が小さく、リチウム二次電池の初回放電容量及び初回効率を高めやすくなる。また、結晶子の過剰な成長に起因する粒子割れが抑制され、リチウム二次電池のサイクル維持率を高めやすくなる。
【0048】
CAMは、Lは500Å以上700Å以下を満たすことが好ましく、510Å以上690Å以下を満たすことがより好ましく、520Å以上680Å以下を満たすことがさらに好ましい。
が上記範囲内であると、CAMの粒子が層状方向に十分成長しており、リチウムイオンの挿入時及び脱離時において抵抗が少ない。このため、Lが上記範囲内であると、リチウム二次電池の初回放電容量及び初回効率を高めやすくなる。
【0049】
[D50
CAMは、CAMの50%累積体積粒度であるD50が3μm以上20μm以下を満たすことが好ましく、5μm以上18μm以下を満たすことがより好ましく、8μm以上15μm以下を満たすことがさらに好ましい。
CAMのD50が上記の範囲であると、正極を製造する際に充填しやすくなり、導電助剤との接触が良好となって、抵抗が低い正極を製造できる。
【0050】
[D10、D90及びD50
CAMは、D10、D90及びD50が下記(B)を満たすことが好ましい。
(D90-D50)/(D50-D10)≦2.0 ・・・(B)
((B)中、D10はCAMの10%累積体積粒度である。D90はCAMの90%累積体積粒度である。)
【0051】
(B)の好ましい例を以下に記載する。
(D90-D50)/(D50-D10)≦1.9 ・・・(B)-1
(D90-D50)/(D50-D10)≦1.8 ・・・(B)-2
(D90-D50)/(D50-D10)≦1.75 ・・・(B)-3
【0052】
(B)の好ましい例を以下にさらに記載する。
1.0≦(D90-D50)/(D50-D10)≦2.0 ・・・(B)-10
1.2≦(D90-D50)/(D50-D10)≦1.9 ・・・(B)-11
1.4≦(D90-D50)/(D50-D10)≦1.8 ・・・(B)-12
1.6≦(D90-D50)/(D50-D10)≦1.75 ・・・(B)-13
【0053】
CAMが(B)を満たす範囲であると、正極を製造する際にCAMを充填しやすくなり、導電助剤との接触が良好となって、抵抗が低い正極を製造できる。また、CAMが(B)を満たすと、一次粒子同士の焼結阻害が生じる一方、電池特性を充分に発揮できるCAMを製造できる。
【0054】
[BET比表面積]
CAMは、BET比表面積が0.2m/g以上2.5m/g以下を満たすことが好ましく、0.5m/g以上2.5m/g以下を満たすことがより好ましく、1.0m/g以上2.5m/g以下を満たすことがさらに好ましい。
【0055】
BET比表面積が上記の下限値以上であるCAMを用いると、リチウム二次電池の出力特性を高めやすい。
BET比表面積が上記の上限値以下であるCAMを用いると、CAMと電解液との接触面積が増大しにくく、電解液の分解に起因するガスの発生を抑制しやすい。
【0056】
[BET比表面積測定]
測定対象物のBET比表面積は、BET比表面積測定装置により測定できる。BET比表面積測定装置としては、例えば、マウンテック社製Macsorb(登録商標)を用いることができる。粉末状の測定対象物を測定する場合、前処理として窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させることが好ましい。測定対象物としては、CAM又は後述する化合物Xである。
【0057】
[組成式]
CAMは、下記組成式(I)で表されることが好ましい。下記組成式(I)で表されるCAMは、LiMOとLi-X化合物とを同時に備える。
Li[Li(Ni(1-y-z-w)Co1-a]O ・・・式(I)
(式(I)中、MはMn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、XはNb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦a≦0.2、0≦y≦0.5、0<z≦0.7、0<w≦0.1、y+z+w<1を満たす。)
【0058】
組成式(I)において、aはサイクル特性を向上させる観点から、-0.02以上が好ましく、0以上であることがより好ましく、0.002以上が特に好ましい。また、初回放電容量及び初回効率が高いリチウム二次電池を得る観点から、aは0.1以下が好ましく、0.08以下がより好ましく、0.07以下が特に好ましい。
【0059】
aの上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
aは、-0.02≦a≦0.1を満たすことが好ましく、0≦a≦0.08を満たすことがより好ましく、0.002≦a≦0.07を満たすことが特に好ましい。
【0060】
組成式(I)において、放電効率が高いリチウム二次電池を得る観点から、0<y+z+w<0.6を満たすことが好ましく、0<y+z+w≦0.5を満たすことがより好ましく、0<y+z+w≦0.25を満たすことがさらに好ましく、0<y+z+w≦0.2を満たすことが特に好ましい。
【0061】
組成式(I)において、yは電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、0.02以上がより好ましく、0.04以上が特に好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、0.4以下が好ましく、0.3以下が特に好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、yは、0.02≦y≦0.4、0.04≦y≦0.3が挙げられる。
【0062】
組成式(I)において、zはサイクル特性を向上させる観点から0.0002以上がより好ましく、0.0005以上が特に好ましい。また、0.15以下が好ましく、0.13以下がより好ましく、0.1以下が特に好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
本実施形態においては、zは0.0002≦z≦0.15を満たすことが好ましい。
【0063】
組成式(I)において、wはサイクル特性を向上させる観点から0.001以上がより好ましく、0.002以上が特に好ましい。また、0.09以下が好ましく、0.07以下がより好ましく、0.05以下が特に好ましい。
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
wは0.001≦w≦0.05を満たすことが好ましい。
【0064】
a、y、z及びwの組み合わせとしては、0.002≦a≦0.07かつ0.04≦y≦0.3かつ0.0002≦z≦0.15かつ0.001≦w≦0.05を満たすことが好ましい。
【0065】
[組成分析]
CAMの組成分析は、得られたCAMの粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置を用いて測定できる。
ICP発光分光分析装置としては、例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000が使用できる。
【0066】
(層状構造)
CAMの結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0067】
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm及びP63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0068】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c及びC2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0069】
これらのうち、初回放電容量が高いリチウム二次電池を得るため、結晶構造は、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0070】
[初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の測定方法]
評価対象となるCAMを正極に用いて、コイン型のリチウム二次電池を作製する。異なるCAMの物性を比較する場合には、CAM以外の電池構成が共通するリチウム二次電池を作製して評価する。
組み立てたコイン型のリチウム二次電池を室温で12時間静置することでセパレータ及び正極合剤層に充分電解液を含浸させる。
【0071】
試験温度25℃において、充電及び放電ともに電流設定値0.2CAとし、それぞれ定電流定電圧充電と定電流放電を行う。負極を金属Liとし、充電最大電圧は、4.3V、放電最小電圧は2.5Vとする。充電容量を測定し、得られた値を「初回充電容量」(mAh/g)とする。さらに放電容量を測定し、得られた値を「初回放電容量」(mAh/g)とする。
【0072】
初回放電容量の値と、初回充電容量の値を用い、下記の式で初回効率を算出する。
初回効率(%)=初回放電容量(mAh/g)÷初回充電容量(mAh/g) ×100
【0073】
次いで、試験温度は25℃にて、以下の条件で定電流定電圧充電と定電流放電を繰り返す。充放電サイクルの繰り返し回数は50回である。
充電:電流設定値1CA、最大電圧4.3V、定電圧定電流充電
放電:電池設定値1CA、最小電圧2.5V、定電流放電
1サイクル目の放電容量と50サイクル目の放電容量から、下記の式でサイクル維持率を算出する。サイクル維持率が高いほど、充電と放電を繰り返した後の電池の容量が低下しにくいため、電池性能として望ましいことを意味する。
サイクル維持率(%)=50サイクル目の放電容量(mAh/g)/1サイクル目の放電容量(mAh/g)×100
【0074】
本明細書において、「初回放電容量が高い」とは、上記の方法により測定する初回放電容量の値が205mAh/g以上であることを意味する。「初回効率が高い」とは、上記の方法により測定する初回効率の値が88.0%以上であることを意味する。また、「サイクル維持率が高い」とは、上記の方法により測定するサイクル維持率が80.0%以上であることを意味する。
【0075】
[D10、D50及びD90の測定方法]
本明細書において、測定対象物の10%累積体積粒度であるD10、50%累積体積粒度であるD50及び90%累積体積粒度であるD90は、以下の湿式または乾式の方法により測定できる。測定対象物は、CAM又は後述する化合物Xである。
【0076】
湿式での測定方法としては、レーザー回折散乱法による測定方法が挙げられる。
具体的には、まず、粉末状の測定対象物2gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、測定対象物を分散させた分散液を得る。
【0077】
次に、得られた分散液について、レーザー回折粒度分布計により粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。そして、得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から10%累積時の粒子径の値が10%累積体積粒度D10(μm)である。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から50%累積時の粒子径の値が50%累積体積粒度D50(μm)である。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から90%累積時の粒子径の値が90%累積体積粒度D90(μm)である。
レーザー回折粒度分布計としては、例えばマルバーン製、MS2000が使用できる。
【0078】
また、上記湿式での測定が困難である場合、以下の乾式の方法で測定できる。
具体的には、まず、測定対象物2gを用いてレーザー回折粒度分布計により乾式粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から10%累積時の粒子径の値が10%累積体積粒度D10(μm)である。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から50%累積時の粒子径の値が50%累積体積粒度D50(μm)である。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から90%累積時の粒子径の値が、90%累積体積粒度D90(μm)である。
レーザー回折粒度分布計としては、例えばマルバーン製、MS2000が使用できる。
【0079】
CAMの製造方法は、MCCの製造工程と、MCC、リチウム化合物及び化合物Xとを混合して混合物を得る工程と、CAMを得る工程と、を順に実施する方法である。
【0080】
[MCCの製造工程]
まず、NiとCoと、任意金属である元素Mとを含むMCCを調製する。
MCCは、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びアルミニウムを含む金属複合水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
【0081】
まず共沈殿法、特にJP-A-2002-201028に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液、及び錯化剤を反応させ、Ni(1-y-z)CoAl(OH)(式中、y+z=1)で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0082】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0083】
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0084】
上記アルミニウム塩溶液の溶質であるアルミニウム塩としては、例えば硫酸アルミニウムやアルミン酸ソーダ等が使用できる。
【0085】
以上の金属塩は、上記Ni(1-y-z)CoAl(OH)の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
【0086】
錯化剤は、水溶液中で、Ni、Co、及びAlのイオンと錯体を形成可能な化合物である。例えば、アンモニウムイオン供給体、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0087】
アンモニウムイオン供給体としては、水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。
【0088】
錯化剤は含まれていなくてもよく、錯化剤が含まれる場合、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
【0089】
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液及び錯化剤を含む混合液のpH値を調整するため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ性水溶液を添加する。アルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが使用できる。
【0090】
なお、本明細書におけるpHの値は、混合液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃になったときに測定する。
【0091】
サンプリングした混合液の温度が40℃よりも低い場合には、混合液を加熱して40℃になったときにpHを測定する。
【0092】
サンプリングした混合液の温度が40℃よりも高い場合には、混合液を冷却して40℃になったときにpHを測定する。
【0093】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びアルミニウム塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、Ni、Co、及びAlが反応し、Ni(1-y-z)CoAl(OH)が生成する。
【0094】
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内で制御する。
【0095】
また、反応に際しては、反応槽内のpH値を、例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。
【0096】
反応槽内の物質は、適宜撹拌して混合する。
連続式共沈殿法で用いる反応槽は、形成された反応沈殿物を分離のためオーバーフローさせるタイプの反応槽を用いることができる。
【0097】
反応槽内は不活性雰囲気であってもよい。不活性雰囲気であると、ニッケルよりも酸化されやすい元素が凝集してしまうことを抑制し、均一なMCCを得ることができる。
【0098】
また、反応槽内は、不活性雰囲気を保ちつつも、適度な酸素含有雰囲気または酸化剤存在下であってもよい。
遷移金属の酸化量を増やすと、比表面積は大きくなる。酸素含有ガス中の酸素や酸化剤は、遷移金属を酸化させるために十分な酸素原子があればよい。多量の酸素原子を導入しなければ、反応槽内の不活性雰囲気を保つことができる。なお、反応槽内の雰囲気制御をガス種で行う場合、所定のガス種を反応槽内に通気するか、反応液を直接バブリングすればよい。
【0099】
上記の条件の制御に加えて、各種気体、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の酸化性ガス、またはそれらの混合ガスを反応槽内に供給し、得られる反応生成物の酸化状態を制御してもよい。
【0100】
得られる反応生成物を酸化する化合物として、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン、オゾンなどを使用することができる。
【0101】
得られる反応生成物を還元する化合物として、シュウ酸、ギ酸などの有機酸、亜硫酸塩、ヒドラジンなどを使用する事ができる。
【0102】
以上の反応後、得られた反応生成物を水で洗浄した後、乾燥することで、MCCが得られる。本実施形態では、MCCとして、ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物が得られる。また、反応生成物に水で洗浄するだけでは混合液に由来する夾雑物が残存してしまう場合には、必要に応じて、反応生成物を、弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄してもよい。
【0103】
乾燥時間は、昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間を1時間以上30時間以下とすることが好ましい。最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は180℃/時間以上が好ましく、200℃/時間以上がより好ましく、250℃/時間以上が特に好ましい。
【0104】
本明細書における最高保持温度とは、乾燥工程又は後述の焼成工程(以下、総称して「加熱工程」ともいう。)における乾燥炉内又は焼成炉(以下、総称して「加熱装置」ともいう。)内雰囲気の保持温度の最高温度であり、それぞれ乾燥工程における乾燥温度と、焼成工程における焼成温度を意味する。複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、最高保持温度とは、各加熱工程のうちの最高温度を意味する。
【0105】
本明細書における昇温速度は、加熱装置において、昇温を開始した時間から最高保持温度に到達するまでの時間と、加熱装置の炉内における昇温開始時の温度から最高保持温度までの温度差とから算出される。
【0106】
MCCの乾燥条件は特に制限されない。MCCが金属複合酸化物又は金属複合水酸化物である場合、乾燥条件は、例えば、下記1)~3)のいずれの条件でもよい。
1)金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化又は還元されない条件。具体的には、金属複合酸化物が金属複合酸化物のまま維持される乾燥条件、金属複合水酸化物が金属複合水酸化物のまま維持される乾燥条件である。
2)金属複合水酸化物が酸化される条件。具体的には、金属複合水酸化物が金属複合酸化物に酸化される乾燥条件である。
3)金属複合酸化物が還元される条件。具体的には、金属複合酸化物が金属複合水酸化物に還元される乾燥条件である。
【0107】
金属複合酸化物又は金属複合水酸化物が酸化又は還元されない条件にするためには、乾燥時の雰囲気に窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガスを使用すればよい。
金属複合水酸化物が酸化される条件にするためには、乾燥時の雰囲気に酸素又は空気を使用すればよい。
【0108】
また、金属複合酸化物が還元される条件にするためには、乾燥時に、不活性ガス雰囲気下、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用すればよい。
【0109】
MCCの乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
【0110】
[混合物を得る工程]
MCCを乾燥させた後、リチウム化合物と、化合物Xとを混合する。
【0111】
MCCと、リチウム化合物と、化合物Xとを含む混合物を焼成することにより、LiMOの間隙に、Li-X化合物を備えるCAMが得られる。以下の説明において、MCCと、リチウム化合物と、化合物Xとを含む混合物を、混合物1と記載する場合がある。
【0112】
混合物1を焼成することにより、MCCと、リチウム化合物と、が反応して一次粒子が成長し、一次粒子同士が凝集して焼結し、間隙を有する二次粒子が形成される。一次粒子同士の焼結が進むほど、二次粒子の平均結晶子径は大きくなりやすい。
さらに、リチウム化合物に含まれるリチウムと、化合物Xとが反応し、Li-X化合物が形成される。形成されたLi-X化合物は間隙に堆積する。
【0113】
本発明者らの検討により、化合物Xを用いると一次粒子同士の焼結、及び結晶成長に対する阻害の影響が小さく、層状構造が十分に発達したCAMが得られやすいことが見いだされた。化合物Xの粒径、及び比表面積を適切な範囲とすることで、MCC、及びリチウム化合物への化合物Xの分散性を高め、化合物Xの凝集体による一次粒子同士の焼結への阻害の影響を小さくできると考えられる。
【0114】
リチウム化合物としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウムのうち何れか一つ、または、二つ以上を混合して使用することができる。
これらのリチウム化合物のうち、水酸化リチウムや酢酸リチウムは、空気中の二酸化炭素と反応して、炭酸リチウムを数%含みうる。
【0115】
化合物Xとは、元素XとしてNb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素を含む化合物である。
【0116】
化合物Xは、元素XがNbである場合には、酸化ニオブ(Nb、NbO)、ニオブ酸が挙げられる。
【0117】
化合物Xは、元素XがWである場合には、酸化タングステン(WO、WO)、タングステン酸、塩化タングステンが挙げられる。
【0118】
化合物Xは、元素XがMoである場合には、酸化モリブデン(MoO)が挙げられる。
【0119】
化合物Xの添加量は、元素Xの種類に応じて異なる。化合物Xの添加量は、金属複合化合物に含まれる金属元素の総モル量に対する、元素Xのモル量の割合により適宜調整する。
【0120】
例えば、MCCに含まれる金属元素の総モル量に対する、化合物Xに含まれる元素Xのモル量の割合は、0.1モル%以上2.5モル%以下であることが好ましい。
【0121】
LiMOに含まれる一次粒子同士の焼結を阻害せず、CAMの粒子の層状構造を十分発達させる観点から、化合物Xの50%累積体積粒度D50(μm)は、0.02μm以上μm20μm以下であることが好ましく、0.05μm以上14μm以下であることがより好ましい。
【0122】
LiMOの間隙に効果的にLi-X化合物を存在させるため、化合物XのBET比表面積は、5.0m/g以上15m/g以下が好ましい。
【0123】
化合物Xが元素XとしてNbを含有する場合、化合物Xの50%累積体積粒度D50(μm)は、10μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることが更に好ましい。また、化合物XのD50は0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることが特に好ましい。
【0124】
化合物Xが元素XとしてNbを含有する場合、化合物XのBET比表面積は、5.5m/g以上15m/g以下が好ましく、6.0m/g以上10m/g以下がより好ましい。
【0125】
化合物Xが元素XとしてNbを含有する場合、D50が0.05μm以上3.0μm以下であり、BET比表面積は、6.0m/g以上10.0m/g以下であることが好ましい。
【0126】
化合物Xが元素XとしてWを含有する場合、化合物Xの50%累積体積粒度D50(μm)は、10μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましい。また、化合物XのD50は0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることが特に好ましい。
【0127】
化合物Xが元素XとしてWを含有する場合、化合物XのBET比表面積は、4.0m/g以上15m/g以下が好ましく、5.0m/g以上12.0m/g以下がより好ましい。
【0128】
化合物Xが元素XとしてWを含有する場合、D50が0.05μm以上5μm以下であり、BET比表面積は、5.0m/g以上12.0m/g以下であることが好ましい。
【0129】
化合物Xが元素XとしてMoを含有する場合、化合物Xの50%累積体積粒度D50(μm)は、10μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましい。また、化合物XのD50は0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることが特に好ましい。
【0130】
化合物Xが元素XとしてMoを含有する場合、化合物XのBET比表面積は、4.0m/g以上15m/g以下が好ましく、5.0m/g以上12.0m/g以下がより好ましい。
【0131】
化合物Xが元素XとしてMoを含有する場合、D50が0.05μm以上5.0μm以下であり、BET比表面積は、5.0m/g以上12.0m/g以下であることが好ましい。
【0132】
50、及びBET比表面積が上記の範囲である化合物Xを用いると、一次粒子同士の焼結が阻害されにくく、間隙にLi-X化合物を備えるCAMを得ることができ、さらにL、Lav、L/Lavを本実施形態の好ましい範囲に制御できる。
【0133】
MCC、リチウム化合物、及び化合物Xは、それぞれの凝集体がなくなるまで均一に混合することが好ましい。MCC、リチウム化合物、及び化合物Xを均一に混合できれば混合装置は限定されないが、例えば、レーディゲミキサーを用いて混合することが好ましい。
【0134】
リチウム化合物、MCC及び化合物Xは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、MCCとしてニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を用いる場合、リチウム化合物とMCCと化合物Xは、LiNi(1-y-z-w)CoAl(式中、y+z+w=1)の組成比に対応する割合で用いられる。
また、最終目的物であるCAMにおいて、リチウム化合物に含まれるLiと、MCCに含まれる金属元素とのモル比が0.98以上、1.1以下となる比率で混合すると、得られるCAMのL/Lavを本実施形態の好ましい範囲に制御しやすい。
【0135】
[正極活物質を得る工程]
ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物、リチウム化合物及び化合物Xの混合物を焼成することによって、LiMOとしてリチウム-ニッケルコバルトアルミニウム金属複合酸化物を有し、間隙にLi-X化合物を有するCAMを得ることができる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられる。本実施形態においては酸素雰囲気で焼成することが好ましい。
【0136】
焼成工程は、1回のみの焼成であってもよく、複数回の焼成段階を有していてもよい。
複数回の焼成段階を有する場合、最も高い温度で焼成する工程を本焼成と記載する。本焼成の前には、本焼成よりも低い温度で焼成する仮焼成を行ってもよい。また、本焼成の後には本焼成よりも低い温度で焼成する後焼成を行ってもよい。
【0137】
本焼成の焼成温度(最高保持温度)は、リチウム複合化合物の粒子の成長を促進させる観点から、600℃以上が好ましく、650℃以上がより好ましく、700℃以上が特に好ましい。また、LiMOの粒子にクラックが形成されることを防止し、粒子強度を維持する観点から、1200℃以下が好ましく、1100℃以下がより好ましく、1000℃以下が特に好ましい。
【0138】
本焼成の最高保持温度の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、600℃以上1200℃以下、650℃以上1100℃以下、700℃以上1000℃以下が挙げられる。
本焼成を600℃以上で実施すると、得られるCAMのL、Lav、L/Lavを本実施形態の好ましい範囲に制御しやすい。
【0139】
仮焼成又は後焼成の焼成温度は、本焼成の焼成温度よりも低ければよく、例えば350℃以上800℃以下の範囲が挙げられる。
【0140】
焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
【0141】
また、前記保持温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガスを用いることができる。
【0142】
[任意工程]
・洗浄工程
本実施形態においては、焼成後の焼成物を純水やアルカリ性洗浄液などの洗浄液で洗浄することが好ましい。
アルカリ性洗浄液としては、例えば、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、LiCO(炭酸リチウム)、NaCO(炭酸ナトリウム)、KCO(炭酸カリウム)および(NHCO(炭酸アンモニウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物の水溶液並びに前記無水物の水和物の水溶液を挙げることができる。また、アルカリとして、アンモニアを使用することもできる。
【0143】
洗浄工程において、洗浄液と焼成物とを接触させる方法としては、各洗浄液中に、焼成物を投入して撹拌する方法や、各洗浄液をシャワー水として、焼成物にかける方法等が挙げられる。各洗浄液をシャワー水として、焼成物にかける方法としては、洗浄液中に、焼成物を投入して撹拌した後、各洗浄液から焼成物を分離し、次いで、各洗浄液をシャワー水として、分離後の焼成物にかける方法が挙げられる。
【0144】
洗浄に用いる洗浄液の温度は、15℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、8℃以下がさらに好ましい。洗浄液の温度を上記範囲で洗浄液が凍結しない温度に制御することで、洗浄時に焼成物の結晶構造中から洗浄液中へのリチウムイオンの過度な溶出が抑制できる。
【0145】
洗浄後の焼成物は、適宜乾燥させてもよい。
【0146】
以上の工程により、CAMが得られる。
【0147】
<正極活物質の製造方法2>
本実施形態のCAMの製造方法は、MCCの製造工程と、MCC及びリチウム化合物とを混合しLiMOを得る工程と、LiMOと化合物Xとを混合し、焼成してCAMを得る工程と、を順に実施する方法である。
【0148】
[MCCの製造工程]
CAMの製造方法2における、MCCの製造工程に関する説明は、前記CAMの製造方法1におけるMCCの製造工程に関する説明と同様である。
【0149】
[リチウム複合金属化合物を得る工程]
得られたMCCと、リチウム化合物を混合する。MCCと、リチウム化合物とを含む混合物を焼成することにより、LiMOが得られる。
【0150】
本工程において用いるリチウム化合物は、CAMの製造方法1において説明したリチウム化合物と同様の化合物が使用できる。
【0151】
以上のリチウム化合物とMCCとは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、MCCとしてニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を用いる場合、リチウム化合物とMCCは、LiNi(1-y-z)CoAl(式中、y+z=1)の組成比に対応する割合で用いられる。また、最終目的物であるCAMにおいて、リチウム化合物に含まれるLiと、MCCに含まれる金属元素とのモル比が0.98以上、1.1以下となる比率で混合すると、得られるCAMのL、Lav、L/Lavを本実施形態の好ましい範囲に制御しやすい。
【0152】
ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物及びリチウム化合物の混合物を焼成することによって、リチウム-ニッケルコバルトアルミニウム金属複合酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられる。
【0153】
ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物及びリチウム化合物の混合物を焼成する焼成工程は、1回のみの焼成であることが好ましい。以下において、ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物及びリチウム化合物の混合物の焼成を一次焼成と記載する。
【0154】
一次焼成は、後述する二次焼成の焼成温度よりも低ければよく、例えば350℃以上800℃以下の範囲が挙げられる。
【0155】
[CAMを得る工程]
一次焼成後に得られる焼成物と、化合物Xとを混合し、さらに焼成することで、CAMが得られる。一次焼成後に得られる焼成物と化合物Xとを混合して焼成する工程を二次焼成と記載する。
【0156】
一次焼成によりMCCと、リチウム化合物とが反応して一次粒子が成長し、一次粒子同士が凝集して焼結し、間隙を有する二次粒子が形成される。一次焼成後に得られる焼成物と化合物Xとを混合して二次焼成することにより、CAMの製造方法1と同様に、間隙にLi-X化合物が堆積しやすくなる。
【0157】
CAMの製造方法2において用いる化合物Xについての説明は、CAMの製造方法1における化合物Xの説明と同様である。
【0158】
二次焼成の焼成温度(最高保持温度)は、間隙にLi-X化合物を均一に存在させる観点から、600℃以上が好ましく、650℃以上がより好ましく、700℃以上が特に好ましい。また、CAMの粒子にクラックが形成されることを防止し、粒子強度を維持する観点から、1200℃以下が好ましく、1100℃以下がより好ましく、1000℃以下が特に好ましい。
【0159】
二次焼成の最高保持温度の上限値及び下限値は任意に組みわせることができる。
組み合わせの例としては、600℃以上1200℃以下、650℃以上1100℃以下、700℃以上1000℃以下が挙げられる。
二次焼成を600℃以上で実施すると、得られるCAMのL、Lav、L/Lavを本実施形態の好ましい範囲に制御しやすい。
【0160】
焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
【0161】
また、前記保持温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガスを用いることができる。
【0162】
化合物Xの添加量は、元素Xの種類に応じて、LiMOに含まれるLi以外の金属元素の総モル量に対する、元素Xのモル量の割合が好ましい範囲になる割合に調整する。
【0163】
例えば、CAMの製造工程において、元素XとしてNb、W及びMoからなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する化合物を用いる場合、LiMOに含まれるリチウム原子以外の金属元素の総モル量に対する、元素Xのモル量の割合は、0.1モル%以上2.5モル%以下であることが好ましい。
【0164】
化合物X及びLiMOは、化合物Xの凝集体又はLiMOの過度な凝集体がなくなるまで均一に混合される。化合物X及びLiMOを均一に混合できれば混合装置は限定されないが、例えば、レーディゲミキサーを用いて混合することが好ましい。
【0165】
<リチウム二次電池>
次いで、本実施形態のCAMを用いる場合の好適なリチウム二次電池の構成を説明する。
さらに、本実施形態のCAMを用いる場合に好適なリチウム二次電池用正極(以下、正極と称することがある。)について説明する。
さらに、正極の用途として好適なリチウム二次電池について説明する。
【0166】
本実施形態のCAMを用いる場合の好適なリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0167】
リチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0168】
図2は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0169】
まず、図2に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0170】
次いで、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0171】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形又は角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0172】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型又は角型などの形状を挙げることができる。
【0173】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、又はペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0174】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
正極は、まずCAM、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0175】
(導電材)
正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。
【0176】
正極合剤中の導電材の割合は、CAM100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。
【0177】
(バインダー)
正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂;ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の樹脂を挙げることができる。
【0178】
(正極集電体)
正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。
【0179】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、電極プレス工程を行って固着する方法が挙げられる。
【0180】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)が挙げられる。
【0181】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
【0182】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
リチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0183】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0184】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0185】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO、SiOなど式SiO(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;SnO、SnOなど式SnO(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;LiTi12などのリチウムとチタンとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
【0186】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。
負極活物質として使用可能な材料として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の材料を用いてもよい。
【0187】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0188】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0189】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCということがある。)、スチレンブタジエンゴム(以下、SBRということがある。)ポリエチレン及びポリプロピレンを挙げることができる。
【0190】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。
【0191】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0192】
(セパレータ)
リチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。また、JP-A-2000-030686やUS20090111025A1に記載のセパレータを用いてもよい。
【0193】
(電解液)
リチウム二次電池が有する電解液は、電解質及び有機溶媒を含有する。
【0194】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO、LiPF、LiBFなどのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。
【0195】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどのカーボネート類を用いることができる。
【0196】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒及び環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。
【0197】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPFなどのフッ素を含むリチウム塩及びフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。
電解液に含まれる電解質および有機溶媒として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の電解質および有機溶媒を用いてもよい。
【0198】
<全固体リチウム二次電池>
次いで、全固体リチウム二次電池の構成を説明しながら、本発明の一態様に係るCAMを全固体リチウム二次電池のCAMとして用いた正極、及びこの正極を有する全固体リチウム二次電池について説明する。
【0199】
図3は、本実施形態の全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。図3に示す全固体リチウム二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。また、全固体リチウム二次電池1000は、集電体の両側に正極活物質と負極活物質とを配置したバイポーラ構造であってもよい。バイポーラ構造の具体例として、例えば、JP-A-2004-95400に記載される構造が挙げられる。各部材を構成する材料については、後述する。
【0200】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間にセパレータを有していてもよい。
【0201】
全固体リチウム二次電池1000は、さらに積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーター及び外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0202】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、外装体200として、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0203】
全固体リチウム二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(またはシート型)、円筒型、角型、又はラミネート型(パウチ型)などの形状を挙げることができる。
【0204】
全固体リチウム二次電池1000は、一例として積層体100を1つ有する形態が図示されているが、本実施形態はこれに限らない。全固体リチウム二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0205】
以下、各構成について順に説明する。
【0206】
(正極)
本実施形態の正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
【0207】
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様であるCAM及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含んでいてもよい。
【0208】
(固体電解質)
本実施形態の正極活物質層111に含まれる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体リチウム二次電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質及び有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質及び水素化物系固体電解質を挙げることができる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。各電解質としては、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2012/0251871A1、US2018/0159169A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0209】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物及びガーネット型酸化物などが挙げられる。各酸化物の具体例は、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2020/0259213A1に記載の化合物が挙げられる。
【0210】
ガーネット型酸化物としては、LiLaZr12(LLZともいう)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
【0211】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0212】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、LiS-P系化合物、LiS-SiS系化合物、LiS-GeS系化合物、LiS-B系化合物、LiI-SiS-P系化合物、LiI-LiS-P系化合物、LiI-LiPO-P系化合物及びLi10GeP12などを挙げることができる。
【0213】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「LiS」「P」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、LiS-P系化合物には、LiSとPとを主として含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。LiS-P系化合物に含まれるLiSの割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して50~90質量%である。LiS-P系化合物に含まれるPの割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して10~50質量%である。また、LiS-P系化合物に含まれる他の原料の割合は、例えばLiS-P系化合物全体に対して0~30質量%である。また、LiS-P系化合物には、LiSとPとの混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0214】
LiS-P系化合物としては、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBrなどを挙げることができる。
【0215】
LiS-SiS系化合物としては、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-P-LiClなどを挙げることができる。
【0216】
LiS-GeS系化合物としては、LiS-GeS及びLiS-GeS-Pなどを挙げることができる。
【0217】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0218】
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
【0219】
(導電材及びバインダー)
本実施形態の正極活物質層111が有する導電材としては、上述の(導電材)で説明した材料を用いることができる。また、正極合剤中の導電材の割合についても同様に上述の(導電材)で説明した割合を適用することができる。また、正極が有するバインダーとしては、上述の(バインダー)で説明した材料を用いることができる。
【0220】
(正極集電体)
本実施形態の正極110が有する正極集電体112としては、上述の(正極集電体)で説明した材料を用いることができる。
【0221】
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
【0222】
また、有機溶媒を用いてCAM、固体電解質、導電材及びバインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0223】
また、有機溶媒を用いてCAM、固体電解質及び導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0224】
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、上述の(正極集電体)で説明した正極合剤をペースト化する場合に用いることができる有機溶媒と同じものを用いることができる。
【0225】
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、上述の(正極集電体)で説明した方法が挙げられる。
【0226】
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。正極110に用いる具体的な材料の組み合わせとしては、本実施形態に記載のCAMと表1に記載する組み合わせが挙げられる。
【0227】
【表1】
【0228】
【表2】
【0229】
【表3】
【0230】
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質及び導電材を含んでいてもよい。負極活物質、負極集電体、固体電解質、導電材及びバインダーは、上述したものを用いることができる。
【0231】
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、及び負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
【0232】
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質を有している。
【0233】
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
【0234】
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
【0235】
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極活物質層121が接する態様で負極120を積層させることで製造することができる。
【0236】
以上のような構成のリチウム二次電池において、上述した本実施形態により製造されるCAMを用いているため、このCAMを用いたリチウム二次電池の初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率を向上させることができる。
【0237】
また、以上のような構成の正極は、上述した構成のCAMを有するため、リチウム二次電池の初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率を向上させることができる。
【0238】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の高い二次電池となる。
【実施例
【0239】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0240】
<組成分析>
後述の方法で製造されるCAMの組成分析は、上記[組成分析]に記載の方法により実施した。
【0241】
<L及びLavの測定>
後述の方法で製造されるCAMのL及びLavは、上記[Lの測定方法]、[Lavの測定方法]に記載の方法により実施した。
得られたL及びLavの各値から、L/Lavを算出した。
【0242】
<Li-X化合物の確認方法>
後述の方法で製造されるCAMについて、Li-X化合物の確認方法は上記[Li-X化合物の確認方法]に記載の方法により実施した。
【0243】
<BET比表面積測定>
後述の方法で製造されるCAMのBET比表面積は、上記[BET比表面積測定]に記載の方法により実施した。化合物Xについても同様の方法によりBET比表面積を測定した。
【0244】
<D10、D50及びD90の測定>
後述の方法で製造されるCAMの累積体積粒度は、上記[D10、D50及びD90の測定方法]に記載の方法により実施した。化合物Xについても同様の方法により測定した。
【0245】
<初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の測定方法>
上記[初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の測定方法]に記載の方法により、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率を測定した。
【0246】
≪実施例1≫
1.CAM-1の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0247】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸アルミニウム水溶液とを、NiとCoとAlとの原子比が88:9:3となる割合で混合して、混合原料液を調製した。
【0248】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.6(液温40℃での測定時)になるよう、水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の粒子を得た。
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物の粒子を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、単離して105℃で乾燥することで、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1を得た。
【0249】
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1を大気雰囲気中650℃で5時間保持して加熱し、室温まで冷却してニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物1を得た。
【0250】
ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、モル比がLi/(Ni+Co+Al)=1.10となる割合で秤量して混合した。
さらに、Nbをモル比がNb/(Ni+Co+Al)=0.01となる割合で秤量して混合した。
【0251】
実施例1において用いたNbは、BET比表面積が7.19m/g、D50が1.26μmであった。
【0252】
その後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成した。
その後、さらに酸素雰囲気下760℃で6時間焼成した。
【0253】
その後、水洗し、150℃で12時間の条件で減圧乾燥し、CAM-1を得た。
【0254】
2.CAM-1の評価
CAM-1の組成分析を行ったところ、a=0.03、y=0.09、z=0.03、w=0.009であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。また、間隙に相当する領域に元素Xの存在を確認した。CAM-1をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。このため、Li-X化合物が少なくとも間隙に存在することが確認できた。
CAM-1のL/Lav、L、Lav、BET比表面積、D50、(D90-D50)/(D50-D10)、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の結果を表1に記載する。
【0255】
≪実施例2≫
1.CAM-2の製造
実施例1における焼成温度760℃を790℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の実験を行い、CAM-2を得た。
【0256】
2.CAM-2の評価
CAM-2の組成分析を行ったところ、a=0.01、y=0.09、z=0.02、w=0.008であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。また、間隙に相当する領域に元素Xの存在を確認したCAM-2をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。このため、Li-X化合物が少なくとも間隙に存在することが確認できた。
CAM-2のL/Lav、L、Lav、BET比表面積、D50、(D90-D50)/(D50-D10)、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の結果を表1に記載する。
【0257】
≪実施例3≫
1.CAM-3の製造
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、モル比がLi/(Ni+Co+Al)=1.10となる割合で秤量して混合した。
得られた混合物を酸素雰囲気下650℃で5時間焼成し、焼成物を得た。
【0258】
焼成物と、実施例1に記載のNbをモル比がNb/(Ni+Co+Al)=0.01となる割合で秤量して混合した。
【0259】
その後、酸素雰囲気下760℃で6時間焼成した。
【0260】
その後、水洗し、150℃で12時間の条件で減圧乾燥し、CAM-3を得た。
【0261】
2.CAM-3の評価
CAM-3の組成分析を行ったところ、a=0.01、y=0.09、z=0.03、w=0.01であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。また、間隙に相当する領域に元素Xの存在を確認したCAM-3をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。このため、Li-X化合物が、少なくとも間隙に存在することが確認できた。
CAM-3のL/Lav、L、Lav、BET比表面積、D50、(D90-D50)/(D50-D10)、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の結果を表1に記載する。
【0262】
≪実施例4≫
1.CAM-4の製造
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、モル比がLi/(Ni+Co+Al)=1.03となる割合で秤量して混合した。
さらに、WOをモル比がW/(Ni+Co+Al)=0.005となる割合で秤量して混合した。
【0263】
実施例4において用いたWOは、BET比表面積が7.12m/g、D50が0.25μmであった。
【0264】
その後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成した。
その後、さらに酸素雰囲気下790℃で6時間焼成した。
【0265】
その後、水洗し、210℃で10時間の条件で窒素雰囲気下で乾燥し、CAM-4を得た。
【0266】
2.CAM-4の評価
CAM-4の組成分析を行ったところ、a=0.01、y=0.09、z=0.03、w=0.003であり、元素XはWであり、元素MはAlであった。また、間隙に相当する領域に元素Xの存在を確認したCAM-4をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。このため、Li-X化合物が、少なくとも間隙に存在することが確認できた。
CAM-4のL/Lav、L、Lav、BET比表面積、D50、(D90-D50)/(D50-D10)、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の結果を表1に記載する。
【0267】
≪実施例5≫
1.CAM-5の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0268】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、NiとCoとMnとの原子比が88:9:3となる割合で混合して、混合原料液を調製した。
【0269】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.5(液温40℃での測定時)になるよう、水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、単離して105℃で乾燥することで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0270】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、モル比がLi/(Ni+Co+Mn)=1.10となる割合で秤量して混合した。
さらに、実施例1で用いたNbをモル比がNb/(Ni+Co+Mn)=0.01となる割合で秤量して混合した。
【0271】
その後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成した。
その後、さらに酸素雰囲気下790℃で5時間焼成した。
【0272】
その後、水洗し、酸素雰囲気下700℃で5時間熱処理し、CAM-5を得た。
【0273】
2.CAM-5の評価
CAM-5の組成分析を行ったところ、a=0.06、y=0.09、z=0.03、w=0.01であり、元素XはNbであり、元素MはMnであった。また、間隙に相当する領域に元素Xの存在を確認したCAM-5をXAFSにて測定したところLi-X化合物の形成が確認された。このため、Li-X化合物が少なくともの間隙に存在することが確認できた。
CAM-5のL/Lav、L、Lav、BET比表面積、D50、(D90-D50)/(D50-D10)、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の結果を表1に記載する。
【0274】
≪比較例1≫
1.CAM-6の製造
BET比表面積が19.46m/g、D50が34.0μmであるNbを用いたこと以外は、実施例3と同様の実験を行い、CAM-6を得た。
【0275】
2.CAM-6の評価
CAM-6の組成分析を行ったところ、a=0.05、y=0.09、z=0.03、w=0.01であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。また、間隙に相当する領域に元素Xの存在を確認したCAM-6をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。このため、Li-X化合物が少なくとも間隙に存在することが確認できた。
CAM-6のL/Lav、L、Lav、BET比表面積、D50、(D90-D50)/(D50-D10)、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の結果を表1に記載する。
【0276】
≪比較例2≫
1.CAM-7の製造
BET比表面積が5.27m/g、D50が1.30μmであるNbを用いたこと以外は、実施例3と同様の実験を行い、CAM-7を得た。
【0277】
2.CAM-7の評価
CAM-7の組成分析を行ったところ、a=0.02、y=0.09、z=0.03、w=0.001であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。また、間隙に相当する領域に元素Xの存在を確認したCAM-7をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。このため、Li-X化合物が少なくとも間隙に存在することが確認できた。
CAM-7のL/Lav、L、LavBET比表面積、D50、(D90-D50)/(D50-D10)、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の結果を表1に記載する。
【0278】
≪比較例3≫
1.CAM-8の製造
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、モル比がLi/(Ni+Co+Al)=1.10となる割合で秤量して混合した。
【0279】
その後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成した。
その後、さらに酸素雰囲気下720℃で6時間焼成し、焼成品を得た。
【0280】
焼成品と、実施例1に記載のNbをモル比がNb/(Ni+Co+Al)=0.01となる割合で秤量して混合した。
【0281】
その後、酸素雰囲気下400℃で5時間焼成した。
その後、水洗し、150℃で12時間の条件で減圧乾燥し、CAM-8を得た。
【0282】
2.CAM-8の評価
CAM-8の組成分析を行ったところ、a=0.004、y=0.09、z=0.03、w=0.01であり、元素XはNbであり、元素MはAlであった。また、間隙に相当する領域に元素Xの存在を確認した。CAM-8をXAFSにて測定したところ、Li-X化合物の形成が確認された。このため、Li-X化合物が少なくとも間隙に存在することが確認できた。
CAM-8のL/Lav、L、Lav、BET比表面積、D50、(D90-D50)/(D50-D10)、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の結果を表1に記載する。
【0283】
≪比較例4≫
1.CAM-9の製造
ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物1と水酸化リチウム一水和物粉末を、モル比がLi/(Ni+Co+Al)=1.10となる割合で秤量して混合した。
【0284】
その後、酸素雰囲気下650℃で5時間焼成した。
その後、さらに酸素雰囲気下720℃で6時間焼成した。
【0285】
その後、水洗し、210℃で12時間の条件で窒素雰囲気下にて乾燥し、CAM-9を得た。
【0286】
2.CAM-9の評価
CAM-9の組成分析を行ったところ、a=0.028、y=0.089、z=0.026、w=0であり、元素Xは含まれず、元素MはAlであった。
CAM-9のL/Lav、L、Lav、BET比表面積、D50、(D90-D50)/(D50-D10)、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率の結果を表1に記載する。
【0287】
【表4】
【符号の説明】
【0288】
1…セパレータ、2…正極、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード、100…積層体、110…正極、111…正極活物質層、112…正極集電体、113…外部端子、120…負極、121…負極活物質層、122…負極集電体、123…外部端子、130…固体電解質層、200…外装体、200a…開口部、1000…全固体リチウム二次電池
【要約】
【課題】ニオブ、タングステン又はモリブデンを添加した場合に初回放電容量、初回効率及びサイクル特性に優れるリチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池の提供。
【解決手段】リチウム金属複合酸化物と、リチウムと元素Xとを含むLi-X化合物と、を備えるリチウム二次電池用正極活物質であって、前記Li-X化合物はリチウムイオン導電性を有する酸化物であり、前記リチウム金属複合酸化物は、一次粒子の凝集体である二次粒子を含み、前記二次粒子は、一次粒子同士の間に間隙を有し、前記Li-X化合物は、少なくとも前記間隙に存在し、前記元素Xは、Nb、W及びMoからなる群より選択される1種以上の元素であり、下記(A)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質。
4.95≦L/Lav ・・・(A)
【選択図】なし
図1
図2
図3