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特許7157524水中油型乳化油脂組成物及びこれを含有するベーカリー用フィリング材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】水中油型乳化油脂組成物及びこれを含有するベーカリー用フィリング材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20221013BHJP
   A21D 2/02 20060101ALI20221013BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20221013BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20221013BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20221013BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20221013BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/02
A21D2/16
A21D2/18
A21D2/26
A21D10/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017207940
(22)【出願日】2017-10-27
(65)【公開番号】P2019076074
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-10-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】土屋 修
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-212752(JP,A)
【文献】特開昭62-040257(JP,A)
【文献】特開平07-016060(JP,A)
【文献】特開昭61-170339(JP,A)
【文献】特開2003-265131(JP,A)
【文献】特開2017-175952(JP,A)
【文献】国際公開第2009/034818(WO,A1)
【文献】特開平08-256717(JP,A)
【文献】特開2003-070431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーカリー用フィリング材の製造において、フラワーペースト類に粘度調整のために混合される水中油型乳化油脂組成物であって、水分54質量%~6質量%、油分16質量%~30質量%、糖分9質量%~19質量%、安定剤0.01質量%~3質量%を含み、蛋白質含有量が3.0質量%~6質量%であることを特徴とする水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
フラワーペースト類100質量部に対し、水分54質量%~6質量%、油分16質量%~30質量%、糖分9質量%~19質量%、安定剤0.01質量%~3質量%を含み、蛋白質含有量が3.0質量%~6質量%である水中油型乳化油脂組成物を、粘度調整のために50質量部~250質量部混合する工程を含むベーカリー用フィリング材の製造方法。
【請求項3】
前記水中油型乳化油脂組成物が、濃縮乳又は濃縮牛乳状組成物と、低油分クリーム又は低油分ホイップクリームとを、混合することにより得られる請求項2記載のベーカリー用フィリング材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、なめらかでとろけるような食感で、経日的な食感の変化が少ないベーカリー用フィリング材を製造することができる水中油型乳化油脂組成物、及び、該特徴を有するベーカリー用フィリング材に関する。
【背景技術】
【0002】
カップ状に成形したタルト生地やクッキー生地などの焼菓子生地の中にフィリング材としてプリン液を充填、焼成して得られるエッグタルトは、そのフィリング材部分がなめらかでとろけるような食感が特徴である。
また、クリームチーズに各種製菓材料を添加したチーズケーキフィリングをカップ状に成形したタルト生地やクッキー生地などの焼菓子生地の中、あるいは成形焼成済のタルトカップの中に充填、焼成して得られるタルト菓子もまた、そのフィリング部分のなめらかでとろけるような食感が特徴である。
【0003】
しかし、プリン液は卵とクリームを主体とするもので、液状であることから、型焼き、あるいはエッグタルトのような成形の焼菓子への充填用途にしか使用できない。
また、クリームチーズはたいへん高価である。
このため、プリン液やクリームチーズに代えて、フラワーペーストを使用することが行われる。
このフラワーペーストは、一般的に、小麦粉や穀物澱粉等の澱粉類、ミルク、砂糖、卵、水等を混合した後、加熱して糊化させることによって得られるもので、一般に粘弾性に富んだ物性と食感を示す。そのため上記用途に使用するにはやや硬めの物性であることに加え、さらにこのフラワーペーストをベーカリー用に使用すると、その糖分や蛋白質成分が焼成により硬化してさらに硬い食感になってしまう問題があった。
そのため、一般的には、ベーカリー生地製造直前に、このフラワーペーストに粘度調整のために、水、牛乳、さらには生クリームなどの水性成分を混合することで低粘度化することが行われる。
【0004】
しかし、水や牛乳を使用した場合は粘弾性の強いフラワーペーストに均質に混合することは困難であり、また、焼成時、さらには焼成後のとくに冷蔵・冷凍保管時に水分が分離しやすくなってしまうという問題があった。また生クリームを使用した場合は、混合性はやや良好であるが、焼成時、さらには焼成後のとくに冷蔵・冷凍保管時に油分が分離しやすくなってしまうという問題があった。
そのため、フラワーペーストにショートニング、マーガリン及びファットスプレッドを混合したクリーム組成物(たとえば特許文献1参照)、フラワーペーストに特定の粘度の水中油型乳化物を混合したクリーム組成物(たとえば特許文献2参照)、クリームチーズに卵と生クリームを特定量添加したチーズケーキ生地(たとえば特許文献3参照)、特定粒径のホイップ済クリームを練り込んだ焼菓子生地(たとえば特許文献4参照)などが提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法はなめらかでとろける食感は得られるものの、焼成時に油脂分離をおこしてしまう問題があり、特許文献2に記載の方法はしとりのある食感であるがややねちゃついた食感になる問題があり、特許文献3の方法は卵ゲルの生成により重い食感になってしまう問題があり、特許文献4の方法は軽い食感であるがねちゃついた食感になってしまう問題があった。
また、これらの方法では、焼成後に澱粉の老化や水分移行により食感が硬くなってしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-279120号公報
【文献】特開2003-265131号公報
【文献】特開2006-081447号公報
【文献】特開2002-010730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、なめらかでとろけるような食感で、経日的な食感の変化が少ないベーカリー用フィリング材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく種々検討した結果、フラワーペーストに粘度調整に添加する水性成分として、特定の成分組成の水中油型乳化油脂組成物を使用することにより上記問題を解決可能であることを見出した。
即ち本発明は、水分54~65質量%、油分14~34質量%、糖分7~19質量%であって、蛋白質含有量が3~10質量%であることを特徴とする水中油型乳化油脂組成物を提供するものである。
また、本発明は、フラワーペースト類100質量部に対し、上記特定の水中油型乳化油脂組成物を50~250質量部含有するベーカリー用フィリング材を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、なめらかでとろけるような食感で、経日的な食感の変化が少ないベーカリー用フィリング材を簡単に製造することができる。
本発明のベーカリー用フィリング材は、焼成後も、なめらかでとろけるような食感で、経日的な食感の変化が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の水中油型乳化油脂組成物について好ましい実施形態に基づき詳述する。
【0011】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は水分含量が54~65質量%、好ましくは54~63質量%、より好ましくは54~60質量%である。54質量%未満であると、フィリング材になめらかでとろけるような食感を付与できず、65質量%を超えると、フィリング材が水分分離を起こしやすくなってしまう。
なお、上記水分には、水道水、ミネラルウォーターなどに加え、水中油型乳化油脂組成物に使用される各種原材料、例えば水飴、液糖、乳や乳製品、卵類等に含まれる水分含量も算入する。
【0012】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は油分含量が14~34質量%、好ましくは16~30質量%、より好ましくは16~23質量%である。14質量%未満であると、フィリング材になめらかでとろけるような食感を付与できず、34質量%を超えると、フィリング材が油分分離を起こしやすくとなってしまう。
なお、上記油分には、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂などに加え、水中油型乳化油脂組成物に使用される各種原材料、例えば、バター、クリーム等に含まれる油分含量も算入する。
【0013】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は糖分含量が7~19質量%、好ましくは9~19質量%、より好ましくは10~17質量%である。7質量%未満であると、焼成後のフィリング材が経日的に食感が硬くなりやすく、19質量%を超えると、焼成時に焦げを生じやすくなってしまうことに加え、焼成中に固化しにくくなる問題もある。
なお、上記糖分には、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖などの糖類に加え、水中油型乳化油脂組成物に使用される各種原材料、例えば、加糖練乳、チョコレート等に含まれる糖分含量も算入する。
なお、上記糖分とは糖の固形分含量を指す。
【0014】
本発明の水中油型乳化油脂組成物の蛋白質含有量は3.0~10質量%、好ましくは3.0~8%質量%、より好ましくは3.0~6質量%である。3.0質量%未満であると、焼成中に固化しにくくなることに加え良好な風味が得られにくく、10質量%を超えると、フィリング材が焼成時に焦げを生じやすくなってしまうことに加え、経日的に食感が硬くなりやすい問題もある。
なお、上記蛋白質としては、例えばα-ラクトアルブミンやβ-ラクトグロブリン、血清アルブミン等のホエイ蛋白質、カゼイン、その他の乳蛋白質、低密度リポ蛋白質、高密度リポ蛋白質、ホスビチン、リベチン、リン糖蛋白質、オボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド等の卵蛋白質、グリアジン、グルテニン、プロラミン、グルテリン等の小麦蛋白質、その他動物性及び植物性蛋白質等の蛋白質が挙げられる。これらの蛋白質は、目的に応じて一種ないし二種以上の蛋白質として、あるいは一種ないし二種以上の蛋白質を含有する食品素材の形、例えばホエイプロテインコンセントレート、脱脂粉乳、卵黄、発酵乳、大豆粉などの形で添加してもよい。なお、その場合は純タンパク質含量について、上記蛋白質含量に算入する。
【0015】
本発明の水中油型乳化油脂組成物はさらに必要により、乳化剤、安定剤、でんぷん、デキストリン、高甘味度甘味料、果汁、ジャム、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品等の呈味成分、アミノ酸、調味料、乳清ミネラル、食塩、酸味料、着香料、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤等のその他の成分を任意に配合してもよい。これら成分の含有量は一般的なホイップクリーム等の水中油型乳化油脂組成物に準じた量であれば良いが、好ましくは15質量%以下、より好ましくは5質量%以下とする。
【0016】
上記の乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム及びポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤や天然乳化成分が挙げられる。本発明においては、必要に応じてこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。乳化剤を使用する場合、水中油型乳化油脂組成物中の乳化剤の含有量は0.1~10質量%とすることが好ましい。
【0017】
上記安定剤としては、リン酸塩(ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸、オルソリン酸、ピロリン酸、第3リン酸、第2リン酸、第1リン酸)、クエン酸のアルカリ金属塩(カリウム、ナトリウム等)、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、アルギン酸塩、ファーセルラン、ローカストビーンガム、ペクチン、カードラン、澱粉、化工澱粉、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、デキストリン、寒天、デキストラン等が挙げられる。これらの安定剤は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。安定剤を使用する場合、本発明の水中油型乳化油脂組成物中の安定剤の含有量は0.01~3質量%とすることが好ましい。
【0018】
次に上記本発明の水中油型乳化油脂組成物を製造する方法について述べる。
上記水中油型乳化油脂組成物の製造方法は、通常のホイップクリームなどの一般的な水中油型乳化油脂組成物と同様であり、その一例として以下の方法が挙げられる。
まず、油脂に必要によりその他の原料を加えた油性相を用意する。一方、水に糖類、蛋白質、その他の原料を加えた水性相を用意する。該水性相を、上記油性相と混合し、水中油型に乳化することにより、得ることができる。
なお、糖類や蛋白質は必要に応じ油脂に分散させてもよい。
乳化の際には、まず予備乳化物を調製し、次にこれを必要によりバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置により圧力0~100MPaの範囲で均質化してもよい。
また、必要により、インジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌若しくは加熱殺菌処理を施してもよく、あるいは直火等の加熱調理により加熱してもよい。また、加熱後に必要に応じて再度均質化してもよい。また、必要により急速冷却、徐冷却等の冷却操作を施してもよい。
【0019】
なお、上記本発明の水中油型乳化油脂組成物は2種または3種以上の水中油型乳化油脂組成物、好ましくは乳や乳製品を混合し、上記特定の水分、油分、糖分、蛋白質含量の水中油型乳化油脂組成物とする方法によると、より乳化安定性が良好で、風味発現性の高い水中油型乳化油脂組成物とすることができる点、及び、より簡単に本発明の水中油型乳化油脂組成物が得られる点で好ましい。
この場合、一般的な乳の代表である牛乳は水分含量が約90質量%と高く、油分含量が約3質量%、糖分含量が約5質量%と低く、蛋白質含量が約3質量%であり、乳製品の代表であるクリームは水分含量が50質量%と低く、油分含量が45質量%と高く、糖分が約3質量%と低く、蛋白質含量が約2質量%であるため、この2種の乳製品をいかなる混合比で混合しても本発明の水中油型乳化油脂組成物は得られない。そのため、さらに糖類や蛋白質を添加混合する必要がある。
そのため、単純に2種の乳や乳製品の混合により本発明の特定組成の水中油型乳化油脂組成物を得るには、牛乳に代えて、水分含量が低く油分含量、糖分含量、蛋白質含量の高い濃縮乳や濃縮牛乳状組成物を使用することが好ましい。
【0020】
なお、クリームについては一般的な油脂含量は45質量%であるが、これより油分含量の低い低油分クリームや低油分ホイップクリームを使用することが、とくに油分調整をすることなく、上記好ましい成分組成の水中油型乳化油脂組成物が得られる点で好ましい。なお、低油分とは組成物中の油分含量が35質量%以下のことを指すものとする。
【0021】
さらに、上記ホイップクリームは、加糖ホイップクリームを使用することが、油分含量が低く、さらにはとくに糖分を別途添加をすることなく、上記好ましい成分組成の水中油型乳化油脂組成物が得られる点で好ましい。
すなわち、本発明の水中油型乳化油脂組成物を得るには、濃縮乳や濃縮牛乳状組成物と、加糖ホイップクリームを混合する方法によることが好ましい。
【0022】
次に本発明のベーカリー用フィリング材について述べる。
本発明のベーカリー用フィリング材は、フラワーペースト類100質量部に対し、上記本発明の水中油型乳化油脂組成物を50~250質量部、好ましくは100~220質量部含有するものである。50質量部未満であると、フィリング材になめらかでとろけるような食感を付与できず、250質量部を超えると、焼成中に固化しにくくなる問題がある。
【0023】
本発明でいうフラワーペースト類とは、パン類や菓子類のトッピング、フィリングとして広く利用されてきたものであり、油脂、澱粉、糖類及び水からなり、必要により乳化剤、安定剤、乳製品、卵、呈味成分、保存料、日持ち向上製剤、フレーバー、酸化防止剤、着色料、pH調整剤等を使用したものである。代表的なものとしてはフラワーペースト、カスタードなどがある。そして、該フラワーペースト類は、好ましくは油相成分の含有量を2~50質量%、水相成分の含有量を98~50質量%としたもの、更に好ましくは油相成分の含有量を5~30質量%、水相成分の含有量を95~70質量%としたものである。
【0024】
上記の油相成分としては、油脂が挙げられ、必要により乳化剤、酸化防止剤、フレーバー、着色料等を使用することができる。油脂としては特に制限はなく、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
また、上記の水相成分としては、水、澱粉及び糖類が挙げられ、必要により乳化剤、安定剤、乳製品、卵、呈味成分、保存料、日持ち向上製剤、フレーバー、酸化防止剤、着色料、pH調整剤等を使用することができる。
ここで、水の含有量は、フラワーペースト類全組成中、好ましくは15~75質量%、更に好ましくは35~60質量%とするのがよい。
【0026】
また、上記澱粉としては、コーン、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカ、小麦、米、もち米等由来の澱粉が挙げられ、必要に応じて、エステル化、リン酸架橋、α化、熱処理等の化学的、物理的処理を施したものを使用することができ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。澱粉の含有量は、フラワーペースト類の全組成中、好ましくは2~10質量%、更に好ましくは4~8質量%である。
【0027】
また、上記糖類としては、砂糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、異性化糖、乳糖、オリゴ糖、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、還元澱粉糖化物、還元水あめ、水あめ、液糖、はちみつ等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。糖類の含有量は、フラワーペースト類の全組成中、好ましくは7.5~60質量%、更に好ましくは12~40質量%であり、また水相成分中の糖濃度は、好ましくは15~70質量%、更に好ましくは20~50質量%である。
【0028】
また、上記安定剤としては、キサンタンガム等の天然多糖類ガム質やセルロース誘導体等が挙げられ、その含有量は、フラワーペースト類の全組成中、好ましくは0.05~0.4質量%、更に好ましくは0.1~0.3質量%である。
また、上記乳製品としては、牛乳、濃縮乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、調製粉乳、練乳、チーズ等を用いることができる。
また、上記卵としては、全卵、卵黄、卵白、酵素処理卵等を用いることができる。
また、上記呈味成分としては、ココア、コーヒー、チョコレート、果肉、果汁、ナッツ若しくはその加工品等を用いることができる。
また、上記保存料としては、市販の天然保存料及び合成保存料、例えば、ソルビン酸とそのカリウム塩等の保存料を用いることができる。
また、日持ち向上製剤としては、市販の日持ち向上製剤、例えば、グリシン、リゾチーム、しらこ蛋白抽出物、ポリリジン、茶抽出物、アルコール等を主剤とする日持ち向上製剤を、食品衛生法で定められているものについてはその規定範囲内で、使用することができる。
【0029】
また、上記フラワーペースト類において、乳化剤は、油相及び/又は水相に添加することができ、該乳化剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。乳化剤の含有量は、フラワーペースト類の全組成中、好ましくは0.05~2質量%、更に好ましくは0.1~1.5質量%である。
【0030】
フィリングの方法としてはとくに限定されず、塗布、スプレッド、絞り、折込みなどの通常の方法を適宜採用することができる。
そして本発明のベーカリー用フィリング材は、ベーカリー生地、あるいはベーカリー製品にフィリングさせ、焼成するものである。
ベーカリー生地の種類についてはとくに限定されないが、タルト生地、練りパイ生地、クッキー生地などのショートペーストであることが好ましい。
そして、その場合は、カップ状に成形したベーカリー生地の中に上記本発明のベーカリー用フィリング材を絞ることによりフィリングすることが好ましい。
【0031】
また、ベーカリー製品にフィリングする場合は、成形焼成済のカップ状のタルトの中に上記本発明のベーカリー用フィリング材を絞ることによりフィリングすることが好ましい。
焼成方法や焼成条件はベーカリー生地の種類に応じて適宜選択することができるが、フィリング材の表面が硬化しないように、上火はなるべく抑えた条件で焼成することが好ましい。
このようにして得られたベーカリー製品は、フィリング材部分がなめらかでとろけるような食感であり、且つ、経日的な食感の変化が少ないという特徴を有している。
【実施例
【0032】
<濃縮牛乳状組成物の製造>
〔製造例1〕
60℃に加温したパーム油8質量%にレシチン0.1質量%とグリセリン脂肪酸エステル0.1質量%を溶解した油相を用意した。一方、60℃に加温した水67.5質量%に乳糖8質量%、脱脂粉乳(糖分53質量%、蛋白質含量34質量%)15質量%、リン酸塩0.2質量%、香料0.1質量%を溶解し、さらに低置換度カルボキシメチルセルロース(置換度=0.2~0.3)1質量%を添加・分散した水相を用意した。該油相と水相を65℃で混合し、攪拌して水中油型の予備乳化物を調製した。該予備乳化物をVTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機ステリラボ)で143℃にて5秒間殺菌し、10MPaの圧力で均質化後、5℃まで冷却し、水分含量が68質量%、油分含量が8質量%、糖分含量が16質量%、蛋白質含有量が5.1質量%である濃縮牛乳状組成物Aを得た。
【0033】
<加糖ホイップクリームの製造>
〔製造例2〕
水44.38質量部を60℃に昇温し、攪拌しながら乳清ミネラル0.4質量部、脱脂粉乳(糖分53質量%、蛋白質含量34質量%)6質量部、トータルミルクプロテイン(蛋白質含量91.4質量%、)0.5質量部、グラニュー糖15質量部、クエン酸ナトリウム0.05質量部、グアーガム0.05質量部、キサンタンガム0.02質量部を溶解させた水性相を用意した。一方、パーム核油及びパーム極度硬化油を50:50の質量比率で混合した油脂を化学触媒を用いてランダムエステル交換したエステル交換油脂2質量部、パーム分別中部油3質量部、パーム核油23質量部、大豆レシチン0.2質量部、シュガーエステル0.2質量部、グリセリンモノ脂肪酸エステル0.1質量部、香料0.1質量部、ホワイトチョコレート(油分含量35質量%、砂糖含量50質量%、蛋白質含量5.2質量%)5質量部、を溶解させた油性相を用意し、上記水性相に該油性相を加え、混合攪拌して予備乳化物を調製した。予備乳化後5MPaの圧力で均質化し、次いでVTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で142℃にて4秒間殺菌し、再度10MPaの圧力で均質化後、5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間のエージングを行い、水分含量が44質量%、油分含量が30質量%、糖分含量が21質量%、蛋白質含有量が2.7質量%である加糖ホイップクリームAを得た。
【0034】
<フラワーペーストの製造>
〔製造例3〕
パーム油25質量%に、ワキシーコーン由来のリン酸架橋澱粉3質量%及びローカストビーンガム0.05質量%を添加し分散させて油相とした。水38.45質量%、小麦粉1質量%、砂糖30質量%、WPC(ホエータンパク質濃縮物)2質量%、及び、卵黄0.5質量%を混合し水相とした。この油相と水相とを加熱溶解、混合、乳化、均質化し、掻き取り式加熱装置で100℃で2分間加熱殺菌し、厚さ0.2mmポリエチレン製の包材にピロー充填後、22℃まで冷却し、ペースト状であるカスタード風味フラワーペーストAを得た。
【0035】
<水中油型乳化油脂組成物の製造>
〔実施例1〕
上記濃縮牛乳状組成物Aと上記加糖ホイップクリームAを50:50の質量比で混合し、本発明の水中油型乳化油脂組成物Aを得た。得られた水中油型乳化油脂組成物Aの水分含量は56質量%、油分含量は19質量%、糖分含量は18質量%、蛋白質含有量は3.9質量%であった。
【0036】
〔実施例2〕
上記濃縮牛乳状組成物Aと生クリーム(水分含量50質量%、油分含量45質量%、糖分含量3質量%、蛋白質含有量2質量%)を50:50の質量比で混合し、本発明の水中油型乳化油脂組成物Bを得た。得られた水中油型乳化油脂組成物Bの水分含量は59質量%、油分含量は27質量%、糖分含量は9質量%、蛋白質含有量は3.6質量%であった。
【0037】
〔比較例1〕
牛乳(水分含量89質量%、油分含量3質量%、糖分含量5質量%、蛋白質含有量は3質量%)と生クリーム(水分含量50質量%、油分含量45質量%、糖分含量3質量%、蛋白質含有量は2質量%)を50:50の質量比で混合し、比較例の水中油型乳化油脂組成物Cを得た。得られた水中油型乳化油脂組成物Cの水分含量は70質量%、油分含量は24質量%、糖分含量は4質量%、蛋白質含有量は2.5質量%であった。
【0038】
<ベーカリー用フィリング材の製造>
〔実施例3〕
上記カスタード風味フラワーペーストA100質量部に対し、上記水中油型乳化油脂組成物Aを180部添加、混合し、本発明のベーカリー用フィリング材Aを得た。
【0039】
〔実施例4〕
上記カスタード風味フラワーペーストA100質量部に対し、上記水中油型乳化油脂組成物Bを180部添加、混合し、本発明のベーカリー用フィリング材Bを得た。
【0040】
〔比較例2〕
上記カスタード風味フラワーペーストA100質量部に対し、上記水中油型乳化油脂組成物Cを180部添加、混合し、比較例のベーカリー用フィリング材Cを得た。
【0041】
〔実施例5〕
チーズ風味フラワーペースト(「フロマクリエ」:株式会社ADEKA製)100質量部に対し、グラニュー糖25質量部、及び、上記水中油型乳化油脂組成物Aを180部添加、混合し、本発明のベーカリー用フィリング材Dを得た。
【0042】
〔実施例6〕
チーズ風味フラワーペースト(「フロマクリエ」:株式会社ADEKA製)100質量部に対し、グラニュー糖25質量部、及び、上記水中油型乳化油脂組成物Bを180部添加、混合し、本発明のベーカリー用フィリング材Eを得た。
【0043】
〔比較例3〕
チーズ風味フラワーペースト(「フロマクリエ」:株式会社ADEKA製)100質量部に対し、グラニュー糖25質量部、及び、上記水中油型乳化油脂組成物Cを180部添加、混合し、比較例のベーカリー用フィリング材Fを得た。
【0044】
<タルト菓子の製造>
市販の成形焼成済カップタルトの中に、上記ベーカリー用フィリング材A~F各50gを絞り、180℃に設定した固定オーブンで12分焼成し、タルト菓子A~Fを得た。
得られたタルト菓子は室温で放冷後、5℃で3日間保管し、フィリング材部分の外観及び風味・食感を下記の評価基準に従って評価を行い、結果を表1に記載した。
【0045】
(評価基準)
・外観
◎:なめらかな表面であり、油分分離も水分分離もみられず、大変良好な外観であった。
○:やや表面が濡れた感じであるがなめらかな表面であり、良好な外観であった。
△:油分分離または水分分離が見られた。
×:ひび割れが見られた。
【0046】
・風味
◎:きわめて良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
【0047】
・食感
◎:なめらかでとろけるような食感が優れており大変良好であった。
○:なめらかでとろけるような食感であり良好であった。
△:なめらかではあるがややねちゃつきが感じられた。
×:なめらかではあるがべちゃついた食感であった。
××:なめらかではあるが、ゴム様の食感であった。
×××:なめらかな食感が感じられなかった。
【0048】
【表1】