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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】磁気記録媒体のシード層用Ni系合金
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20221013BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20221013BHJP
   H01F 10/14 20060101ALI20221013BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20221013BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221013BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20221013BHJP
   B22F 9/08 20060101ALN20221013BHJP
   C22C 1/04 20060101ALN20221013BHJP
   B22F 1/00 20220101ALN20221013BHJP
【FI】
G11B5/84 Z
G11B5/738
H01F10/14
C22C19/03 G
C22C38/00 302X
C22C19/07 G
B22F9/08 A
C22C1/04 B
B22F1/00 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018127487
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2020009510
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 優衣
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-146801(JP,A)
【文献】特開平11-339244(JP,A)
【文献】特開2012-128933(JP,A)
【文献】特開2005-251375(JP,A)
【文献】特開2001-243620(JP,A)
【文献】特開2004-095074(JP,A)
【文献】特開2014-049171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
G11B 5/738
H01F 10/14
C22C 19/03
C22C 38/00
C22C 19/07
B22F 9/08
C22C 1/04
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素REを含んでおり、
上記元素REの含有率が1at%以上10at%以下である磁気記録媒体のシード層用Ni系合金であって、
Fe及び/又はCoをさらに含有しており、
Niの含有率α(at%)、Feの含有率β(at%)及びCoの含有率γ(at%)の比がα:β:γで表されたとき、αが60以上90以下であり、βが10以上30以下であり、γが0以上20以下である磁気記録媒体のシード層用Ni系合金
【請求項2】
Ru、Re、W、Mo及びTaからなる群から選択される1種または2種以上の元素M1をさらに含有しており、
上記元素M1の含有率が20at%以下である請求項1に記載のNi系合金。
【請求項3】
Al、Si、B及びCからなる群から選択される1種または2種以上の元素M2をさらに含有しており、
上記元素M2の含有率が5at%以下である請求項1又は2に記載のNi系合金。
【請求項4】
その材質が、請求項1から3のいずれかに記載のNi系合金であるスパッタリングターゲット。
【請求項5】
シード層を有しており、
上記シード層が、その材質が請求項1から3のいずれかに記載のNi系合金であるターゲットが用いられた、スパッタリングで得られる磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体のシード層に関する。詳細には、本発明は、このシード層に適したNi系合金に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にとって、大容量は重要である。大容量の達成には、高記録密度化が必要である。
【0003】
面内磁気記録方式が採用された媒体が、普及している。近年は、この媒体に代えて、垂直磁気記録方式が採用された媒体(垂直磁気記録媒体)が普及しつつある。垂直磁気記録媒体では、磁化容易軸は、磁性膜中の媒体面に対して垂直方向に配向する。この垂直磁気記録媒体は、高記録密度に適している。
【0004】
垂直磁気記録媒体は、磁気記録層と軟磁性層とを有している。垂直磁気記録媒体はさらに、磁気記録層と軟磁性層との間に、シード層、下地膜層等を有している。
【0005】
特開2009-155722公報には、NiW系の合金からなるシード層が開示されている。このシード層は、磁気記録層の微細化に寄与しうる。
【0006】
特開2012-128933公報には、その材質がNi-Fe-Co-M合金であるシード層用ターゲットが開示されている。この合金は、元素MとしてW、Mo、Ta、Cr、V又はNbを含有する。このターゲットは、シード層の(111)面への配向に寄与する。
【0007】
特開2017-191625公報には、その材質がNi-Fe-Co-M合金であるシード層用ターゲットが開示されている。この合金は、元素Mとして貴金属(Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Re又はPt)を含有する。このターゲットは、シード層の(111)面への配向に寄与する。
【0008】
特開2013-073635公報には、スパッタリングターゲットの材質として、希土類が添加された合金が開示されている。このターゲットから、垂直磁気記録媒体の軟磁性層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-155722公報
【文献】特開2012-128933公報
【文献】特開2017-191625公報
【文献】特開2013-073635公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
磁気記録媒体には、さらなる高記録密度化の要請がある。シード層の、(111)面への配向性と結晶粒の微細化とには、改善の余地がある。
【0011】
本発明の目的は、大容量な磁気記録媒体が得られうるシード層用Ni系合金の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る磁気記録媒体のシード層用Ni系合金は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素REを含む。この元素REの含有率は、1at%以上10at%以下である。
【0013】
好ましくは、このNi系合金は、Fe及び/又はCoをさらに含有する。Niの含有率α(at%)、Feの含有率β(at%)及びCoの含有率γ(at%)の比がα:β:γで表されたとき、αは20以上100以下であり、βは0以上50以下であり、γは0以上60以下である。
【0014】
好ましくは、このNi系合金は、Ru、Re、W、Mo及びTaからなる群から選択される1種または2種以上の元素M1をさらに含有する。この元素M1の含有率は、20at%以下である。
【0015】
好ましくは、このNi系合金は、Al、Si、B及びCからなる群から選択される1種または2種以上の元素M2をさらに含有する。このM2の含有率は、5at%以下である。
【0016】
他の観点によれば、本発明に係るスパッタリングターゲットの材質は、Ni系合金である。このNi系合金は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素REを含む。Ni系合金における、この元素REの含有率は、1at%以上10at%以下である。
【0017】
さらに他の観点によれば、本発明に係る磁気記録媒体は、シード層を有する。このシード層は、Ni系合金であるターゲットが用いられたスパッタリングで得られる。このターゲットの材質は、Ni系合金である。このNi系合金は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素REを含む。Ni系合金における、この元素REの含有率は、1at%以上10at%以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るNi系合金により、(111)面への配向性が高く、かつ結晶粒度が微細であるシード層が得られうる。このNi系合金は、磁気記憶媒体の高記録密度に寄与しうる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る磁気記録媒体のシード層用Ni系合金は、
(1)Ni
及び
(2)La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素RE
を含む。元素REの含有率は、1at%以上10at%以下である。
【0020】
好ましい1つの態様では、このNi系合金の組成は、
元素RE:1at%以上10at%以下
並びに
残部:Ni及び不可避的不純物
である。
【0021】
La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLu(すなわち元素RE)は、いずれも希土類元素である。Niは、fcc構造を有する。元素REは、そのメカニズムは明確でないが、fcc構造の優先配向を(200)から(111)へ変化させうる。Niに元素REが添加された合金から、(111)面への配向性に優れたシード層が得られうる。このシード層により、垂直磁気記録媒体における高記録密度が達成されうる。
【0022】
元素REのNiへの固溶範囲は、非常に狭い。従って、Niに元素REが添加された合金から得られたシード層では、金属間化合物が析出する。この析出により、結晶粒度の微細化が達成される。このシード層により、垂直磁気記録媒体における高記録密度が達成されうる。
【0023】
高記録密度の観点から、Ni系合金における元素REの含有率は、1at%以上が好ましく、2at%以上が特に好ましい。過剰の元素REは、シード層をfcc構造以外の構造にシフトさせる。シード層がfcc構造を維持しうるとの観点から、元素REの含有率は10at%以下がより好ましく、5at%以下が特に好ましい。
【0024】
Ni系合金が、Fe及び/又はCoをさらに含有してもよい。Niの含有率α(at%)、Feの含有率β(at%)及びCoの含有率γ(at%)の比は、α:β:γで表される。なお、(α+β+γ)は、100である。
【0025】
含有率αは、20以上100以下が好ましい。含有率αが20以上であるNi系合金により、保磁力が抑制されたシード層が得られうる。この観点から、含有率αは50以上がより好ましく、60以上が特に好ましい。
【0026】
含有率βは、0以上50以下が好ましい。含有率βがこの範囲内であるNi系合金により、保磁力が抑制されたシード層が得られうる。この観点から、含有率βは2以上50以下がより好ましく、10以上40以下が特に好ましい。
【0027】
含有率γは、0以上60以下が好ましい。含有率γがこの範囲内であるNi系合金により、(111)方向の保磁力が抑制されたシード層が得られうる。この観点から、含有率γは0以上40以下がより好ましく、0以上30以下が特に好ましい。
【0028】
好ましい1つの態様では、このNi系合金の組成は、
元素RE:1at%以上10at%以下
並びに
残部:Ni、Fe及び/又はCo;並びに不可避的不純物
である。
【0029】
Ni系合金が、Ru、Re、W、Mo及びTaからなる群から選択される1種または2種以上の元素M1をさらに含有してもよい。元素M1を含有するNi系合金から、(111)面への配向性に優れたシード層が得られうる。さらに、元素M1を含有するNi系合金から、結晶粒度が微細であるシード層が得られうる。このシード層により、垂直磁気記録媒体における高記録密度が達成されうる。
【0030】
高記録密度の観点から、元素M1の含有率は1at%以上が好ましく、2at%以上が特に好ましい。過剰の元素M1は、シード層をfcc構造以外の構造にシフトさせる。さらに、過剰の元素M1は、シード層のアモルファス化を招くおそれがある。シード層がfcc構造を維持しうるとの観点、及びアモルファス化が生じにくいとの観点から、元素M1の含有率は20at%以下が好ましく、10at%以下が特に好ましい。
【0031】
好ましい1つの態様では、このNi系合金の組成は、
元素RE:1at%以上10at%以下
元素M1:20at%以下
並びに
残部:Ni、Fe及び/又はCo;並びに不可避的不純物
である。
【0032】
Ni系合金が、Al、Si、B及びCからなる群から選択される1種または2種以上の元素M2をさらに含有してもよい。元素M2を含有するNi系合金から、(111)面への配向性に優れたシード層が得られうる。さらに、元素M2を含有するNi系合金から、結晶粒度が微細であるシード層が得られうる。このシード層により、垂直磁気記録媒体における高記録密度が達成されうる。
【0033】
高記録密度の観点から、元素M2の含有率は1at%以上が好ましく、2at%以上が特に好ましい。過剰の元素M2は、シード層のアモルファス化を招くおそれがある。シード層のアモルファス化が生じにくいとの観点から、元素M2の含有率は5at%以下が好ましい。
【0034】
垂直磁気記録媒体における高記録密度が達成されうるとの観点から、元素M1の含有率と元素M2の含有率との合計は、1at%以上が好ましく、2at%以上が特に好ましい。シード層のアモルファス化が生じにくいとの観点から、元素M1の含有率と元素M2の含有率との合計は20at%以下が好ましく、15at%以下が特に好ましい。
【0035】
好ましい1つの態様では、このNi系合金の組成は、
元素RE:1at%以上10at%以下
元素M1:20at%以下
元素M2:5at%以下
並びに
残部:Ni、Fe及び/又はCo;並びに不可避的不純物
である。
【0036】
好ましい他の態様では、このNi系合金の組成は、
元素RE:1at%以上10at%以下
元素M2:5at%以下
並びに
残部:Ni、Fe及び/又はCo;並びに不可避的不純物
である。
【0037】
本発明に係る合金からなる粉末は、アトマイズによって得られうる。好ましいアトマイズは、ガスアトマイズである。この粉末に、必要に応じ、分級(例えば粒子径が500μm以下の粒子を抽出)がなされる。分級後の粉末が、炭素鋼製の缶に充填される。この缶が真空脱気され、封止されてビレットが得られる。このビレットに、HIP成形(熱間等方圧プレス)が施される。HIP成形の、好ましい圧力は50MPa以上300MPa以下であり、好ましい焼結温度は800℃以上1350℃以下である。HIP成形により、成形体が得られる。この成形体に加工が施され、ターゲットが得られる。このターゲットにスパッタリングが施されることで、このターゲットの成分と同じ成分を有するシード層が得られる。磁気記録媒体には、このシード層が組み込まれる。
【実施例
【0038】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0039】
前述の通りシード層は、その成分と同じ成分を有するターゲットにスパッタリングが施されることで、成膜される。このシード層は、急冷・凝固により得られる。シード層の形成には多大の労力を要するので、単ロール法により得られた試験片を用いる。単ロール法は、スパッタリングと同様、急冷・凝固の工程を有する。単ロール法を採用することで、スパッタリングで得られるであろう膜の評価を、簡易的に行う。
【0040】
下記の表1-5に示された組成となるように秤量した30gの原料を、直径が10mmであり長さが40mmである水冷銅鋳型に投入した。この鋳型を減圧し、アルゴンガス雰囲気中でアーク溶解し、溶解母材を得た。この母材を直径が15mmである石英缶中に投入し、ノズルから出湯させ、単ロール法に供して試験片を得た。この単ロール法の条件は、以下の通りである。
出湯ノズルの直径:1mm
雰囲気の気圧:61kPa
噴霧差圧:69kPa
ロールの材質:銅
ロールの直径:300mm
ロールの回転速度:3000rpm
ロールと出湯ノズルとのギャップ:0.3mm
なお、各表に記載された合金の残部は、不可避的不純物である。
【0041】
[結晶粒径]
試験片の、ロール方向断面のミクロ組織像を得た。「JIS G 0551」の「鋼・結晶粒度の顕微鏡試験方法」の規定に準拠し、結晶粒径を測定した。下記の基準に基づき、格付けを行った。この結果が、下記の表1-5に示されている。
A:P/Ltが1.5以上
B:P/Ltが1.2以上1.5未満
C:P/Ltが1.2未満
【0042】
[保磁力]
試料台に、両面テープで試験片を張り付けた。初期印加磁場144kA/mの条件で、振動試料型の保磁力メータにて、保磁力を測定した。下記の基準に基づき、格付けを行った。
A:保磁力が300A/m以下
B:保磁力が300A/mを超え500A/m以下
C:保磁力が500A/mを超える
この結果が、下記の表1-5に示されている。
【0043】
[配向性]
測定面が銅ロールとの接触面となるように、ガラス板に試験片を両面テープで貼り付けた。X線回折装置にて、この試験片の回折パターンを得た。回折の条件は、下記の通りである。
X線源:Cu-α線
スキャンスピード:4°/min
この回折パターンにて、(111)面で回折したX線の強度I(111)と、(200)面で回折したX線の強度I(200)との強度比I(111)/I(200)を求めた。下記の基準に基づき、格付けを行った。
A:強度比I(111)/I(200)が1.0以上
B:強度比I(111)/I(200)が0.7以上、1.0未満
C:強度比I(111)/I(200)が0.7未満
なお、試験片がfcc構造を保っていないもの、及びアモルファス化したものも、Cとした。この結果が、下記の表1-5に示されている。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
表1-5に示されるように、本発明に係るNi系合金により、諸性能に優れたシード層が得られうる。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明されたNi系合金は、種々の磁気記録媒体のシード層に適している。