IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清フーズ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-12
(45)【発行日】2022-10-20
(54)【発明の名称】麺生地及び麺類用穀粉組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20221013BHJP
【FI】
A23L7/109 C
A23L7/109 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018565508
(86)(22)【出願日】2018-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2018002502
(87)【国際公開番号】W WO2018143090
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2017017003
(32)【優先日】2017-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平内 亨
(72)【発明者】
【氏名】張替 敬裕
(72)【発明者】
【氏名】入江 謙太朗
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-313804(JP,A)
【文献】特開平05-161462(JP,A)
【文献】特開2016-002000(JP,A)
【文献】特開平11-018706(JP,A)
【文献】特開平10-262589(JP,A)
【文献】切刃(番手)・加水率比較表、ご当地ラーメン探訪[online]、2014年、[検索日:2022年1月30日]、retrieved from the internet<URL:https://ご当地ラーメン.com/bante/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジスタントスターチを含有する穀粉組成物と、水とを含有し、該穀粉組成物における該レジスタントスターチの含有量が5質量%以上である麺生地であって、
前記穀粉組成物がさらに、α化澱粉及びα化穀粉からなる群から選択される1種以上のα化穀粉類を2質量%以上、小麦粉を10質量%以上、並びに増粘多糖類を0.04~3質量%含有し、
含水量が20~40質量%である麺生地。
【請求項2】
前記穀粉組成物における前記レジスタントスターチと前記α化穀粉類との含有質量比が、前者/後者として1/4~50/2である請求項1に記載の麺生地。
【請求項3】
前記穀粉組成物がさらに、α化澱粉以外の加工澱粉を含有する請求項1又は2に記載の麺生地。
【請求項4】
前記穀粉組成物がさらに、小麦たん白を含有する請求項1~の何れか1項に記載の麺生地。
【請求項5】
前記増粘多糖類がアルギン酸類である請求項1~の何れか1項に記載の麺生地。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の麺生地を製麺して生麺線を得、該生麺線を加熱調理した後に冷凍する工程を有する、麺類の製造方法。
【請求項7】
前記加熱調理が、前記生麺線の茹で調理である請求項に記載の麺類の製造方法。
【請求項8】
レジスタントスターチを含有し、該レジスタントスターチの含有量が5質量%以上である麺類用穀粉組成物であって、
さらに、α化澱粉及びα化穀粉からなる群から選択される1種以上のα化穀粉類を2質量%以上、小麦粉を10質量%以上、並びに増粘多糖類を0.04~3質量%含有する麺類用穀粉組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低カロリーの麺類を製造し得る麺生地及び麺類用穀粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満、高脂血症、脂肪肝、糖尿病などの生活習慣病を予防・改善し得る食材、あるいは糖尿病などの糖代謝異常を有する人に適した食品素材として、低糖質化によるカロリーコントロールがなされた食品素材が種々提案されている。
【0003】
低糖質の食品素材として、レジスタントスターチと称される、消化酵素の消化作用に抵抗性を有する難消化性澱粉が知られており、これを用いた低糖質、低カロリーを謳う麺類が提案されている。また、レジスタントスターチは、食物繊維の定量法として公認されているプロスキー法によって食物繊維として定量されるものであり、レジスタントスターチを食することによって、日常の食生活で不足しがちな食物繊維を補給することができる。
【0004】
しかしながら、レジスタントスターチは糊化開始温度が高く膨潤性に劣るなどの特性があり、これに起因して、麺類にレジスタントスターチを配合すると食感が低下するという問題がある。そこで、レジスタントスターチが配合され低糖質、低カロリーでありながらも、食感が良好に維持され得る技術が要望されている。
【0005】
特許文献1には、小麦粉、蕎麦粉などの穀粉と、60重量%以上のレジスタントスターチを含むレジスタントスターチ含有澱粉と、糊化開始温度を低下させる加工を施した加工澱粉とを含有する麺類が記載されており、該加工澱粉として、タピオカ澱粉などの原料澱粉にエステル化やエーテル化などの加工を施したものが記載されている。特許文献1記載の麺類によれば、低糖質、低カロリーでありながらも、食感が良好に維持されるとされ、さらには、製麺性も良好に保たれるとされているところ、ここでいう「良好な製麺性」とは、麺生地から形成された麺帯が裂けにくいことを意味する。
【0006】
特許文献2には、麺の種類に応じて、所望の食感(硬さ、粘弾性)を有する麺を調製し得る低糖質麺用ミックス粉として、レジスタントスターチ、小麦たん白及び増粘多糖類を基本原料として含有するものが記載され、その実施例では小麦粉は無添加とされている。また特許文献2には、これらの基本原料に加えてさらに、α化澱粉などの加工澱粉を1~20質量%の範囲で含有させても良い旨が記載されており、そうすることによって、麺の食感が向上し、麺に冷蔵・冷凍耐性が付与されるとされている。
【0007】
特許文献3には、生麺線を蒸煮などによってα化した麺線を熱風乾燥して得られる熱風乾燥麺(即席ノンフライ麺)において、低カロリーとするために、小麦粉、α化澱粉などを含む原料粉の一部としてレジスタントスターチを使用することが記載されている。また特許文献3にはレジスタントスターチに関して、三層麺における内層に外層よりも多量のレジスタントスターチを含有させることで、麺線内部の乾燥効率が向上し、乾燥時間の大幅な短縮、均一な乾燥ができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-313804号公報
【文献】特開2016-2000号公報
【文献】米国特許出願公開第2011/229613号明細書
【発明の概要】
【0009】
レジスタントスターチが配合された麺類に関する従来技術では、麺類を食べた際にざらつきを感じることが多く、依然として食感の点で改良の余地がある。また、特に茹で調理される麺類に関しては、茹で歩留まりの安定性が要求されるところ、レジスタントスターチが配合された麺類は、茹で歩留まりが不安定であり、この点についても改善の余地がある。「茹で歩留まり」とは、原料粉の質量に対する茹で麺類の質量の比率(百分率)であり、例えば、300質量%の茹で歩留まりに茹でられた麺類は、その麺類の調製に使用した原料粉の質量の3倍の質量になるまで吸水するように茹でられた麺類である。茹で歩留まりが不安定であると、毎回同じ質量の麺類を茹で調理しているにもかかわらず、その茹で調理によって得られた茹で麺類の質量が毎回安定しないという事態を招くおそれがあり、麺類を提供する店舗などで特に問題となるおそれがある。
【0010】
従って本発明の課題は、レジスタントスターチの使用によって低カロリーでありながらも食感が良好で、且つ茹で歩留まりの安定性に優れる麺類を製造し得る、麺生地及び麺類用穀粉組成物を提供することである。
【0011】
本発明は、レジスタントスターチを含有する穀粉組成物と、水とを含有し、該穀粉組成物における該レジスタントスターチの含有量が5質量%以上である麺生地であって、前記穀粉組成物がさらに、α化澱粉及びα化穀粉からなる群から選択される1種以上のα化穀粉類を含有する麺生地である。
【0012】
また本発明は、前記の本発明の麺生地を製麺して生麺線を得、該生麺線を加熱調理した後に冷凍する工程を有する、麺類の製造方法である。
【0013】
また本発明は、レジスタントスターチを含有し、該レジスタントスターチの含有量が5質量%以上である麺類用穀粉組成物であって、さらに、α化澱粉及びα化穀粉からなる群から選択される1種以上のα化穀粉類を含有する麺類用穀粉組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の麺類用穀粉組成物はレジスタントスターチ(難消化性澱粉)を含有する。本発明で用いるレジスタントスターチは、消化酵素の消化作用に抵抗性を有し、健康な人の小腸内で消化・吸収されない澱粉及び部分分解物の総称である。レジスタントスターチは、各種の澱粉を物理的及び/又は化学的に加工することにより生成又は調製される。本発明では、当技術分野で公知のレジスタントスターチを使用することができ、その種類及び製造方法は特に限定されない。例えば、レジスタントスターチは、通常澱粉を澱粉分解酵素で限定加水分解した後、脱分枝化酵素を加えて反応させることにより得ることができる。具体的には、ジャガイモ、タピオカ、トウモロコシ等の澱粉をα-アミラーゼ等の澱粉分解酵素によって部分的に加水分解して得た中間生成物を温水に溶解し、イソアミラーゼ等の酵素によって脱分枝化すると共に、老化させてから酵素を不活性化し、若しくは酵素を不活性化してから老化させて、噴霧乾燥することにより得ることができる。
【0015】
レジスタントスターチは、原料である澱粉の加工法の違いなどに起因して、消化(酵素)抵抗性、即ち体内摂取後の発酵度合いに差があり、より具体的には、熱量(カロリー)が0kcal/gのものから2kcal/g程度のものまで種々存在するところ、本発明では、カロリーコントロールの観点から、熱量がなるべく少ないレジスタントスターチを用いることが好ましく、好ましくは熱量1kcal/g以下、さらに好ましくは熱量1kcal/g未満のレジスタントスターチが特に好ましい。本発明によれば、熱量0kcal/gのレジスタントスターチを使用した場合でも、食感及び茹で歩留まり安定性の良好な麺類が得られる。尚、ここでいう「熱量(カロリー)」は、下記の電子的技術情報に記載の方法による算出値を意味する。また一般に、レジスタントスターチの熱量はレジスタントスターチの架橋度に反比例し、レジスタントスターチの架橋度が高くなるほど熱量が低下することから、本発明では、熱量が0kcal/gあるいはこれに近いレジスタントスターチとして、高架橋レジスタントスターチを用いることが特に好ましい。ここでいう「高架橋」とは具体的には、リン酸架橋処理等によって加工澱粉のうち難消化性部分が約75%以上存在することを意味する。市販の高架橋レジスタントスターチとして、例えば、松谷化学工業株式会社製の商品名「パインスターチRT」が挙げられる。
電子的技術情報:一般社団法人日本食物繊維学会 ルミナコイド素材エネルギー評価検討委員会(委員長 奥 恒行),“ルミナコイド素材のエネルギー評価の考え方とメチルセルロース、イヌリン、還元難消化性デキストリンならびに高架橋澱粉のエネルギー評価結果”,[online],ルミナコイド研究,日本食物繊維学会,2013年7月,vol.17,No.1,[2017年2月1日検索],インターネット<URL:http://jdf.umin.ne.jp/pdf/H24luminacoid.pdf>
【0016】
本発明の麺類用穀粉組成物におけるレジスタントスターチの含有量は、レジスタントスターチを使用する意義即ち麺類の低カロリー化を考慮すると、該麺類用穀粉組成物の全質量に対して、5質量%以上は必要である。麺類のより一層の低カロリー化を図る観点からは、麺類用穀粉組成物においてレジスタントスターチの含有量を5質量%よりも多くすることが望ましいが、多すぎるとレジスタントスターチの影響が強く出すぎる結果、麺類の食感低下や茹で歩留まりの不安定化が顕著になる。以上を考慮すると、本発明の麺類用穀粉組成物におけるレジスタントスターチの含有量は、該麺類用穀粉組成物の全質量に対して、好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%である。
【0017】
本発明の麺類用穀粉組成物の主たる特徴の1つとして、α化澱粉及びα化穀粉からなる群から選択される1種以上のα化穀粉類を含有する点が挙げられる。レジスタントスターチを含有する麺類用穀粉組成物に、さらにα化穀粉類を配合することにより、レジスタントスターチに起因する食感の低下や茹で歩留まりの不安定化といった不都合の発生が効果的に抑制されるので、低カロリーでありながらも食感が良好で、且つ茹で歩留まりの安定性に優れる麺類の製造が可能となる。
【0018】
α化澱粉は、未α化澱粉に対し水分を加えて加熱する等のいわゆるα化処理が施された澱粉である。α化澱粉の原料となる未α化澱粉としては、麺類に従来用いられているものを特に制限なく用いることができ、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉が挙げられる。
α化穀粉は、未α化穀粉に対しα化処理が施された穀粉である。α化穀粉の原料となる未α化穀粉としては、例えば、各種小麦粉の他、そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉が挙げられる。
前記のα化穀粉類の中でも特に、小麦澱粉をα化処理したα化小麦澱粉は、麺のざらつきを抑える効果が高いため、本発明で好ましく用いられる。
【0019】
尚、本明細書において、「未α化澱粉」とは、小麦等の植物から単離された純粋な澱粉(澱粉の含有量が通常80質量%以上)で且つα化されていないものを意味し、「未α化穀粉中の未α化澱粉」とは異なる。従って、未α化澱粉をα化処理して得られる「α化澱粉」と、未α化穀粉をα化処理して得られる「α化穀粉中のα化穀粉」とは、互いに異なる物質である。
【0020】
本発明の麺類用穀粉組成物におけるα化穀粉類の含有量は、α化穀粉類を使用する意義即ち、レジスタントスターチに起因する不都合の抑制を考慮すると、該麺類用穀粉組成物の全質量に対して、2質量%以上とすることが好ましく、特に2~20質量%、とりわけ5~10質量%とすることが好ましい。麺類用穀粉組成物におけるα化穀粉類の含有量が多すぎると、製麺の操作性が低下するおそれがあり、また、麺の食感がべたついたものとなるおそれがある。
【0021】
また、同様の観点から、本発明の麺類用穀粉組成物におけるレジスタントスターチとα化穀粉類との含有質量比は、前者(レジスタントスターチ)/後者(α化穀粉類)として、好ましくは1/4~50/2、より好ましくは4/1~10/1、さらに好ましくは6/1~10/1である。
【0022】
本発明の麺類用穀粉組成物は、小麦粉を含有していてもよい。麺類用穀粉組成物に、レジスタントスターチ及びα化穀粉類に加えてさらに、小麦粉が含有されていることにより、麺線の強度や食味がより一層向上し得る。小麦粉としては、麺類に従来用いられているものを特に制限なく用いることができ、例えば、強力小麦粉、準強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉、デュラム小麦粉等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。小麦粉の種類は、製造する麺類の種類等に応じて適宜選択すればよい。
【0023】
本発明の麺類用穀粉組成物における小麦粉の含有量は、小麦粉による作用効果をより確実に奏させるようにする観点から、該麺類用穀粉組成物の全質量に対して、好ましくは10質量%以上とすることが好ましく、特に20~80質量%、とりわけ30~50質量%とすることが好ましい。麺類用穀粉組成物における小麦粉の含有量が多すぎると、カロリー低減効果を効果的に享受できないおそれがある。
【0024】
本発明の麺類用穀粉組成物は、α化澱粉以外の加工澱粉を含有していてもよい。麺類用穀粉組成物に、レジスタントスターチ及びα化穀粉類に加えてさらに、α化澱粉以外の加工澱粉が含有されていることにより、麺線の強度や食味がより一層向上し得る。α化澱粉以外の加工澱粉としては、麺類に従来用いられているものを特に制限なく用いることができ、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉等の未加工澱粉に、α化以外の加工処理、例えば、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理が施されたものが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特に、酢酸化タピオカ澱粉は、食味の改善効果が高いため、α化澱粉以外の加工澱粉として、本発明で好ましく用いられる。
【0025】
本発明の麺類用穀粉組成物におけるα化澱粉以外の加工澱粉の含有量は、該麺類用穀粉組成物の全質量に対して、好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは15~25質量%である。斯かる含有量が少なすぎると、α化澱粉以外の加工澱粉を使用する意義に乏しく、斯かる含有量が多すぎると、食味が悪くなるおそれがある。
【0026】
本発明の麺類用穀粉組成物は、小麦たん白を含有していてもよい。麺類用穀粉組成物に、レジスタントスターチ及びα化穀粉類に加えてさらに、小麦たん白が含有されていることにより、麺線の強度や食味がより一層向上し得る。小麦たん白としては、粉末状の小麦たん白を好適に使用することができる。粉末状の小麦たん白は、グルテンのたん白質としての性質を変えずに、これを粉末にしたものであり、活性グルテンとも称される。
【0027】
本発明の麺類用穀粉組成物における小麦たん白の含有量は、該麺類用穀粉組成物の全質量に対して、好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは10~15質量%である。斯かる含有量が少なすぎると、小麦たん白を使用する意義に乏しく、斯かる含有量が多すぎると、麺が硬くなりすぎたり、製麺の操作性が低下したりするおそれがある。
【0028】
本発明の麺類用穀粉組成物は、増粘多糖類を含有していてもよい。麺類用穀粉組成物に、レジスタントスターチ及びα化穀粉類に加えてさらに、増粘多糖類が含有されていることにより、茹で歩留まりの安定性のさらなる向上や麺のざらつきのさらなる軽減という効果が奏される。増粘多糖類としては、麺類に従来用いられているものを特に制限なく用いることができ、例えば、アルギン酸類(アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸類の塩を含む)、LMペクチン、ι(イオタ)‐カラギーナン、ジェランガムが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特にアルギン酸類は、耐熱性に優れ、麺の溶け出しを防止する作用が強いため、本発明で好ましく用いられる。
【0029】
本発明の麺類用穀粉組成物における増粘多糖類の含有量は、該麺類用穀粉組成物の全質量に対して、好ましくは0.04~3質量%、さらに好ましくは0.3~1質量%である。斯かる含有量が少なすぎると、増粘多糖類を使用する意義に乏しく、斯かる含有量が多すぎると、製麺の操作性が低下するおそれがある。
【0030】
本発明の麺類用穀粉組成物は、前記成分(レジスタントスターチ、α化穀粉類、小麦粉、α化澱粉以外の加工澱粉、小麦たん白、増粘多糖類)以外の他の成分を含有していてもよい。この他の成分としては、例えば、食塩、卵黄粉、卵白粉、全卵粉が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
本発明の麺類用穀粉組成物は麺類の製造に使用され、麺類の製造方法は常法に準じる。本発明が適用可能な麺類の種類は特に限定されず、例えば、中華麺、つけめん、焼きそば、素麺、冷麦、うどん、そば、パスタ等が挙げられる。
【0032】
本発明の麺類用穀粉組成物を用いた麺類の製造方法は、典型的には、該麺類用穀粉組成物を含む生地原料に加水し混合して麺生地を調製し、該麺生地を製麺して生麺線を得る工程を有する。本発明には、斯かる麺生地、即ち、「レジスタントスターチを含有する穀粉組成物と、水とを含有し、該穀粉組成物における該レジスタントスターチの含有量が5質量%以上である麺生地であって、該穀粉組成物がさらに、α化澱粉及びα化穀粉からなる群から選択される1種以上のα化穀粉類を含有する麺生地」が含まれる。以下、この本発明の麺生地について、前述した本発明の麺類用穀粉組成物と異なる点を中心に説明する。
【0033】
本発明の麺生地を調製するに際し、主原料である穀粉組成物(本発明の麺類用穀粉組成物)に加えてさらに必要に応じ、副原料を用いてもよい。副原料としては、例えば、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維、膨張剤、乳化剤、かんすい、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、デキストリン、アルコール、酵素剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。副原料の配合量は、生地原料中の穀粉組成物100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、さらに好ましくは0.5~1質量部である。
【0034】
本発明の麺生地の含水量は、好ましくは20~40質量%、さらに好ましくは25~35質量%である。麺生地の調製工程において、生地原料(主原料たる穀粉組成物と必要に応じ配合される副原料との混合物)に対する加水量は、麺生地の含水量が斯かる範囲となるように調整することが好ましい。麺生地の含水量が少なすぎると、製麺性が低下するほか、目標茹で歩留まりに達するまで麺を茹でる時間が増え、結果的に歩留まり安定性が低下するおそれがあり、該含水量が多すぎると、麺がべたつき、製麺の操作性が低下するおそれがある。
【0035】
本発明の麺生地を常法に従って製麺することで生麺線が得られる。製麺方法は特に限定されず、例えば、圧延製麺、ロール製麺、押出製麺などの各種製麺法により、麺生地に圧力をかけて伸ばして麺帯を得、該麺帯を切り出して生麺線を得る方法が挙げられる。あるいは押出製麺でもよい。押出製麺は、乾パスタ製造用の一軸押出製麺機や二軸押出製麺機等を用いて常法に従って行うことができ、その際、押出製麺機の麺線の押出部に所望の形状の孔を有するダイスを設置して押出し成形することで、その孔に対応した形状の生麺線が得られる。麺線の断面形状は特に限定されず、方形、円形、楕円形、三角形などの何れの形状であっても良い。本発明の麺生地を製麺して得られた生麺線を加熱調理することで、そのまま喫食が可能な麺類が得られる。
【0036】
本発明には、前述した本発明の麺生地を製麺して生麺線を得、該生麺線を加熱調理した後に冷凍する工程を有する、麺類の製造方法が含まれる。生麺線の加熱調理方法は特に限定されず、例えば、茹で調理、蒸煮調理、蒸熱調理が挙げられる。茹で調理は、例えば、生麺線を、該生麺線の全質量の10倍以上の量の熱水中に投入して2~15分間程度加熱することで実施され、蒸煮調理や蒸熱調理よりも使用する水分が多い。前述した通り、レジスタントスターチが配合された麺類は従来、茹で歩留まりが不安定であるため、茹で歩留まりの安定性が特に重視される業務用途などでは茹で調理を回避しなければならない場合があったが、本発明によれば、生麺線にレジスタントスターチが配合されているにもかかわらず、茹で歩留まりの安定性が高いため、生麺線を茹で調理することが可能である。
【0037】
また、本発明の麺類の製造方法において、加熱調理済みの麺線の冷凍は、この種の麺類に対して通常行われる冷凍処理に準じて行うことができる。例えば、加熱調理済みの麺線を、必要に応じて所定の分量、例えば、一人分として150~300gに分けてトレイ等に盛り付けた後、所望により包装し、冷凍処理に付すことができる。冷凍には、短時間で凍結させる急速冷凍と、比較的ゆっくり凍結させる緩慢冷凍とがあり、本発明では何れの冷凍法も利用可能である。本発明の麺類の製造方法によって製造された冷凍麺類は、長期保存が可能であり、喫食する際には、電子レンジ等で再加熱するだけで良く、簡便に喫食に供することができる。
【実施例
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1~8及び比較例1~2〕
下記表1に示す組成の穀粉組成物100質量部に対し、練り水として25℃の水30~33質量部を加え混練して麺生地を調製した。使用した原材料の詳細は下記の通り。
・小麦粉(デュラム小麦粉、日清製粉株式会社製、「レオーネG」)
・レジスタントスターチ(松谷化学工業株式会社製、「パインスターチRT」)
・α化澱粉(α化小麦澱粉、松谷化学工業株式会社製、「マツノリンW」)
・α化穀粉(α化小麦粉、フレッシュ・フード・サービス株式会社製、「アルファフラワーP」)
・加工澱粉(酢酸化タピオカ澱粉、松谷化学工業株式会社製、「松谷さくら2」)
・小麦たん白(日本コロイド株式会社製、「スーパーグル85H」)
・増粘多糖類(アルギン酸ナトリウム、紀文フードケミファ製、「ダックアルギンNSPM」)
【0040】
(冷凍麺類の製造)
各実施例及び比較例の麺生地を、パスタ製造用の押出製麺機を用いて-600mmHgの減圧条件下で押出し圧100kgf/cm2で麺線に押出し、太さ1.8mmの生麺線
(生パスタ)を得た。得られた生麺線を沸騰した湯で6~8分間茹で調理し、湯から取り出して約15℃の水で30秒間水洗いした後、水切りし、-40℃で急速冷凍して、調理済み冷凍麺類(調理済み冷凍パスタ)を得、これを庫内温度-20℃の冷凍庫に保存した。
【0041】
〔評価試験1〕
各実施例及び比較例で得られた調理済み冷凍麺類を、-20℃の冷凍庫に保存開始してから48時間後に取り出し、電子レンジで喫食可能な状態になるまで加熱解凍し、その解凍した調理済み麺類の食感を、10名のパネラーに下記評価基準により評価してもらった。その評価結果(パネラー10名の平均点)を下記表1に示す。
【0042】
<食感の評価基準>
5点:適度な硬さと粘弾性が十分にあり、麺線表面のざらつきがなく、非常に良好。
4点:適度な硬さと粘弾性があり、麺線表面のざらつきが少なく、良好。
3点:ある程度軟らかさと粘弾性があり、麺線表面のざらつきは少なめであり、やや良好。
2点:やや軟らかすぎるか若しくはやや硬すぎ、又は麺線表面のざらつきがあり、不良。
1点:軟らかすぎるか若しくは硬すぎ、又は麺線表面のざらつきが強く、非常に不良。
【0043】

【表1】
【0044】
〔評価試験2〕
実施例2~3及び比較例1~2の麺生地を、パスタ製造用の押出製麺機を用いて-600mmHgの減圧条件下で押出し圧100kgf/cm2で麺線に押出し、太さ1.8mmの生麺線を得た。得られた生麺線を沸騰した湯で8分間茹で調理し、湯から取り出して約15℃の水で30秒間水洗いした後、水切りし、調理済み麺類を得た。斯かる茹で調理の前後それぞれにおける麺線の重量を測定し、麺生地調製時の加水量の分も含め、穀粉組成物の全質量に対する調理済み麺類の質量の比率(茹で歩留まり)を算出した。以上の作業を各麺生地につき4回行い、茹で歩留まりの平均値及び標準偏差を算出した。その結果を下記表2に示す。この標準偏差の数値が小さいほど、茹で歩留まりが安定しており、高評価となる。
【0045】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、レジスタントスターチの使用によって低カロリーでありながらも食感が良好で、且つ茹で歩留まりの安定性に優れる麺類を提供することができる。