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特許7157989容器詰め固形状好気性発酵食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】容器詰め固形状好気性発酵食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/50 20210101AFI20221014BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20221014BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
A23L11/50 209Z
A23C9/123
C12N1/14 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022095915
(22)【出願日】2022-06-14
【審査請求日】2022-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(73)【特許権者】
【識別番号】317006214
【氏名又は名称】株式会社Mizkan
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】関 誠
(72)【発明者】
【氏名】薫田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】清原 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】福重 朋昭
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 浩寿
(72)【発明者】
【氏名】石川 真弘
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-022721(JP,A)
【文献】特開2003-000176(JP,A)
【文献】特開平10-136923(JP,A)
【文献】特開平05-276890(JP,A)
【文献】特開2013-078289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-35/00
A23C 9/00-9/20
C12N 1/00-1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器詰め好気性発酵食品の製造方法であって、
上部に蓋がなく側面及び底面に開口部を有するコンテナ内に、発酵前の被発酵物である原料と発酵菌が入った容器を複数配置し、
容器を配置した当該コンテナを2個以上積み上げてコンテナ塊とし、
コンテナ塊を隔離する区画を有しない単一の発酵室内に当該コンテナ塊を静置して、前記容器内の被発酵物を好気的に発酵させることを含むと共に、
下記(1)~(5)の条件を充足する方法。
(1)各容器の被発酵物に通じる天面の略全面積に対する、被発酵物に通じる天面及び/又は天面周囲の開口部の略全面積の割合が、0%超1%以下である。
(2)各容器の略全内容積に対する、当該容器内に配置した発酵開始前の被発酵物の略全合計体積の割合が、20%以上60%以下である。
(3)各コンテナが略直方体又は略立方体であって、各コンテナの側面及び底面の各略全面積に対する各略全開口部の合計面積の割合が、30%以上80%以下である。
(4)各コンテナの略全容積に対する、当該コンテナ内に配置した全容器の略全合計体積の割合が、40%以上80%以下である。
(5)各コンテナの内側底面から最上端までの高さに対する、当該コンテナ内に配置した容器の積み上げ高の最大値の割合が、70%以上100%以下である。
【請求項2】
前記発酵室内の略全容積に対する、前記発酵室内に配置されるコンテナ塊の略全体積の割合が、80%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
単一の発酵室内で一品種の好気性発酵食品を製造する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
容器1個当たりの発酵前の被発酵物の合計質量が、20g以上300g以下である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
上から見た場合に、各コンテナの内部底面に対して、容器が略全面に配置される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
容器をコンテナ内で垂直方向に2個以上積み重ねる、請求項1記載の方法。
【請求項7】
2以上のコンテナ塊を、空のコンテナを一個以上挟んで積み重ねる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
容器詰め好気性発酵食品について、品質のばらつきを抑制し、及び/又は、均質性を高め、及び/又は、容器一個当たりの生産効率を高める方法であって、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法によって、容器詰め好気性発酵食品を製造することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰め固形状好気性発酵食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固形状好気性発酵食品は、微生物の発酵に伴う酸素の消費とその影響、これに対する酸素の供給制御、また、微生物の発酵に伴う熱の発生とその影響、これに対する温度制御、さらには短時間での発酵終了の観点から、嫌気性発酵食品に比べて、発酵条件の制御に伴う品質の均質化が難しいという特性を有している。
【0003】
そこで、その大量生産には、例えば、麹の製造工程における麹菌発酵にみられるように、直径数m~十数m程度の内部通風方式の回転円盤型製麹装置等が主流となっており(非特許文献1)、被発酵物全量を一括して発酵制御し、最後に全体を混合して品質の均質化を図る生産方法が採られている。
【0004】
しかしながら、このような大量生産方式は、個食用の容器詰め固形状好気性発酵食品においては、発酵終了後にこれを小分けする必要が生じ、その後工程における異物の混入や、特には殺菌工程が入らないチルド食品においては、雑菌の混入による変敗や、その逆の生菌の漏出による工程汚染につながり、食品としての生産上、大きなリスクを伴うという課題があった。
【0005】
そこで、個食用の容器詰め固形状好気性発酵食品としては、例えば、納豆のように、予め個別の容器に発酵前の原料を詰め、これに発酵菌を接種して(以下これらをまとめて被発酵物という場合がある)容器詰めし、容器ごと発酵させ、発酵終了したものを容器ごとそのまま商品として出荷するという態様が採られている。
【0006】
しかしながら、一方で、個別の容器に詰めた後に発酵させる固形状好気性発酵食品においては、容器毎の発酵物の品質を一定範囲内に揃えることはすこぶる困難である。具体的には、通風や温調装置を有する発酵室内において、被発酵物が封入された容器を配置する場所や態様によって供給酸素量や温度制御効果にばらつきが生じ、これに伴って容器毎に被発酵物の発酵の進み度合いの差異が生じ、出来上がり品質が同一種類の商品としての許容範囲以上にばらつきが生じてしまい、一括出荷できなくなるという課題が生じるからである。
【0007】
そこで、このような、個別の容器に詰めて発酵させる固形状好気性発酵食品の製造においては、容器毎の被発酵物の発酵の進み度合いがなるべく均質になるような工夫がなされている。
【0008】
菌株の工夫による被発酵物の品質のばらつきの抑制については、特許文献1に、低温発酵納豆菌と高温発酵納豆菌とを使い分け、納豆発酵室内における温度ムラの影響による品質のばらつきを抑制する納豆の製造方法が開示されている。しかしながら、本方法によれば、低温発酵納豆菌と高温発酵納豆菌との両者を要するが、ある菌株特有の性質を付与した菌株とこれに由来する品質特徴の異なる納豆製品についてそれぞれ、これら低温発酵菌や高温発酵菌を探索選抜しなければならないこと、異なる特性の菌株の生育の同時制御を行わなければならないという技術的困難さがあった。
【0009】
発酵室の発酵条件制御に係る工夫による被発酵物の品質のばらつきの抑制については、特許文献2に、発酵室内の空調空気の通風方向を所定のプログラムに従って反復逆転させる発酵食品の製造方法が開示されている。また、特許文献3には、循環通風の平均風速を0.5m/s~1.0m/sとし、かつ循環通風のコンテナ収納室入口部と出口部の平均温度差を3℃以内とする納豆の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、循環通風型発酵室を使用して納豆を製造する方法が記載されており、送風を制御し、醗酵室の温度差を減少させて、品質の均一性が保持することが開示されている。
【0010】
しかしながら、これらの方法では、発酵室の通風装置や温調装置の制御条件が、発酵室内に格納した、容器詰め固形状好気性発酵食品を多数配置したコンテナの数やその積み重ね方、発酵室内でのコンテナの配置箇所やその密度などによって、品質のばらつき抑制効果が影響を受け、生産量の調整や品種の変更等が行われる度に、上記通風装置や通風量、通風方向や温調装置の制御条件をその都度調整せねばならないという過度な試行錯誤が必要であるという課題があった。
【0011】
こうした被発酵物の品質のばらつきの抑制という課題の下、従来は、発酵室内で各コンテナ内に通風を充分に循環させ、一つ一つの納豆容器の外部環境条件を揃えるために、容器の全面(六方周囲)が外部雰囲気に直接晒されるように各容器を充分に離してコンテナ内に配置するとともに、コンテナ内に配置する容器の段数を1段のみに留める(すなわち、一つ一つの納豆容器が疎の状態にあるようにする、或いは疎の状態にあるような外部環境を作る)ことが技術常識であった。この点は例えば、特許文献3の段落[0022](実施例1)に、「納豆菌を接種した蒸煮大豆が充填された納豆容器を1コンテナ当たり49個(7個×7個)づつ収納」する、と記載があることからも明らかである。
【0012】
なお、特許文献5には、原料煮豆を収納する小分け容器を収容した一括容器の斜視図の態様における、納豆菌を植菌した原料煮豆を収納する小分け容器の所定数を一括容器に入れて納豆を発酵させる方法(特許文献5の図3等参照;図中では6段積み×3行×4列)、さらに、この一括容器の複数個を段積みした多数積み重ね体を手押し台車複数輛に載置し、納豆発酵に最適の温湿度条件をあらかじめセットした自動発酵室内へ収容して、一括発酵・熟成を行って納豆を製品化する例(特許文献5の図4等参照)が開示されている。
【0013】
しかしながら、特許文献5によれば、上記課題の解決のためには、「発酵に必要な調整温度階程に応じた個数の定温調節保持式の発酵室を直列に配置」することが必要であり、多数の発酵室や自動コンベア等の過大な設備の準備が必要であり、また、上記発酵態様は、調整温度階程に応じた個数の定温調節保持式の発酵室を必要とする観点からも、下記する本願発明の着想にかかる被発酵物の発酵状態の自己同期作用を応用した発酵態様でなければ、その示唆もない。また、特許文献5に記載の当該発明は、装置メーカーによるものであるところ、システム的な生産効率性(大量生産性や生産の自動化・合理化)に主眼をおいてなされたものであり、納豆の製造者の実情とは異なるところがある。
【0014】
すなわち、納豆を製造する当業者の観点からは、特許文献5に記載の当該発明はとても技術常識と言えるものではない。むしろ上述したように、発酵室内で各コンテナ内に通風を充分に循環させ、一つ一つの納豆容器の外部環境条件を揃えるために、容器の全面(六方周囲)が外部雰囲気に直接晒されるように各容器を充分に離してコンテナ内に配置するとともに、コンテナ内に配置する容器の段数を1段のみに留める(例えば、特許文献3の段落[0022](実施例1)に記載の「納豆菌を接種した蒸煮大豆が充填された納豆容器を1コンテナ当たり49個(7個×7個)づつ収納」する態様等とする)ことが技術常識であったと言える。
【0015】
一方、発酵室自体に係る工夫による被発酵物の品質のばらつきの抑制については、非特許文献2に「立体自動回転醗酵室」による製造方法が開示されている。しかし、本文献に記載の技術は特殊な設備を用いることから、設備投資及びその汎用性を伴った応用利用の観点から導入が困難であるという課題があった。
【0016】
特に近年、その健康機能が注目され、マスメディア等によって取り上げられることの多い発酵食品においては、その宣伝効果に伴う繁忙期と閑散期の生産数量の変動が著しく大きく、増産のための生産設備投資や発酵条件の都度制御が困難な状況下において、生産数量の多少にかかわらず年間を通じて一定の品質を維持することが極めて大きな課題になっている。しかしながら、上記したとおり、先に提案された解決手段のいずれにおいても、これを解決する手段にはなり得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2013-78289号公報
【文献】特開平5-276890号公報
【文献】特開2003-176号公報
【文献】特開平10-136923号公報
【文献】特開平6-22721号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】日本醸造協会誌、99(9)、p626-631、2004
【文献】おいしい理由!秋田県のオリジナル納豆菌のお話(https://www.usmh.co.jp/eatime/products/%E7%B4%8D%E8%B1%86%E5%A5%BD%E3%81%8D%E3%81%AB%E8%B4%88%E3%82%8B%E5%A4%A7%E7%B2%92%E3%81%AE%E9%A3%9F%E6%84%9F%E3%81%A8%E5%A4%A7%E8%B1%86%E3%81%AE%E3%81%86%E3%81%BE%E5%91%B3%E5%9B%BD%E7%94%A3%E5%A4%A7/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は斯かる課題に鑑みてなされたもので、その目的は、繁忙期と閑散期の生産数量の変動にかかわらず、生産設備や発酵条件制御の大きな変更や条件調整を伴うことなく、被発酵物の品質のばらつきを抑制した容器詰め固形状好気性発酵食品を、特殊な製造設備を用いることなく、汎用条件・設備で簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは上記の事情に鑑みて鋭意研究した結果、被発酵物が入った容器を配置したコンテナを2個以上積み上げてコンテナ塊とし、これを隔離区画を有しない単一の発酵室内に静置して、前記容器内の被発酵物を好気的に発酵させると共に、(1)各容器の被発酵物に通じる天面の略全面積に対する当該天面及び/又は天面周囲の開口部の略全面積の割合、(2)各容器の略全内容積に対する当該容器内の発酵開始前被発酵物の略全合計体積の割合、(3)略直方体又は略立方体の各コンテナの側面及び底面の各略全面積に対する各略全開口部の合計面積の割合、(4)各コンテナの略全容積に対する当該コンテナ内の全容器の略全合計体積の割合、並びに、(5)各コンテナ内部高さに対するコンテナ内の容器の最大積み上げ高さの割合を、それぞれ所定の範囲に調整することにより、従来の技術では解決困難であった上記課題を同時に簡易に解決できる技術が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
すなわち、本発明は、以下の[項1]~[項9]を提供するものである。
[項1]容器詰め好気性発酵食品の製造方法であって、
上部に蓋がなく側面及び底面に開口部を有するコンテナ内に、発酵前の被発酵物である原料と発酵菌が入った容器を複数配置し、
容器を配置した当該コンテナを2個以上積み上げてコンテナ塊とし、
コンテナ塊を隔離する区画を有しない単一の発酵室内に当該コンテナ塊を静置して、前記容器内の被発酵物を好気的に発酵させることを含むと共に、
下記(1)~(5)の条件を充足する方法。
(1)各容器の被発酵物に通じる天面の略全面積に対する、被発酵物に通じる天面及び/又は天面周囲の開口部の略全面積の割合が、0%超1%以下である。
(2)各容器の略全内容積に対する、当該容器内に配置した発酵開始前の被発酵物の略全合計体積の割合が、20%以上60%以下である。
(3)各コンテナが略直方体又は略立方体であって、各コンテナの側面及び底面の各略全面積に対する各略全開口部の合計面積の割合が、30%以上80%以下である。
(4)各コンテナの略全容積に対する、当該コンテナ内に配置した全容器の略全合計体積の割合が、40%以上80%以下である。
(5)各コンテナの内側底面から最上端までの高さに対する、当該コンテナ内に配置した容器の積み上げ高の最大値の割合が、70%以上100%以下である。
[項2]前記発酵室内の略全容積に対する、前記発酵室内に配置されるコンテナ塊の略全体積の割合が、80%以下である、項1に記載の方法。
[項3]単一の発酵室内で一品種の好気性発酵食品を製造する、項1又は2に記載の方法。
[項4]容器1個当たりの発酵前の被発酵物の合計質量が、20g以上300g以下である、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
[項5]上から見た場合に、各コンテナの内部底面に対して、容器が略全面に配置される、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
[項6]容器をコンテナ内で垂直方向に2個以上積み重ねる、項1~5のいずれか一項に記載の方法。
[項7]2以上のコンテナ塊を、空のコンテナを一個以上挟んで積み重ねる、項1~6のいずれか一項に記載の方法。
[項8]項1~7のいずれか一項に記載の方法によって生産された、容器詰め好気性発酵食品。
[項9]容器詰め好気性発酵食品について、品質のばらつきを抑制し、均質性を高め、及び/又は、容器一個当たりの生産効率を高める方法であって、項1~7のいずれか一項に記載の方法によって、容器詰め好気性発酵食品を製造することを含む方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、繁忙期と閑散期の生産数量の変動にかかわらず、生産設備や発酵条件制御の大きな変更や条件調整を伴うことなく、被発酵物の品質のばらつきを抑制した容器詰め固形状好気性発酵食品を特殊な製造設備を用いることなく、汎用条件・設備で簡便に製造できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の製造方法に使用される容器10の一例を模式的に示す斜視図である。本容器10は、上から見ると正方形、横から見ると天面が左右にはみ出した逆台形を有する。点線で示す部分Tは被発酵物に通じる天面部分を表し、一点鎖線矢印は被発酵物に通じる隙間(孔)Pの位置を表す。別記なき限り、各実施例及び各比較例でも本態様の容器を使用した(各実施例及び各比較例で使用した容器は、ポリスチレン製、天面の一辺は98.5mm、高さは27.8mm。)。
図2図2は、本発明の製造方法に使用されるコンテナ20の一例を模式的に示す斜視図である。本コンテナ20は、上から見ると正方形、横から見ると横長の長方形を有す。黒抜きの部分は開口部Oを表す。別記なき限り、各実施例及び各比較例でも本態様のコンテナを使用した(各実施例及び各比較例で使用したコンテナは、ポリプロピレン製、天面の一辺は675mm、内底面の一片は615mm、内側面の高さは90mm、高さは109.5mm。)。
図3図3は、コンテナ20内への容器10の配置態様の一例を模式的に示す斜視図である。なるべく疎になるように、コンテナ20底面に対して、容器10間に隙間を多く取るように配置し、且つ、容器10は重ねずに1段で配置している。
図4図4は、コンテナ20への容器10の配置態様の別の例(好適な例)を模式的に示す斜視図である。なるべく密になるように、コンテナ20底面に対して、容器10が略全面を占めるように配置し、かつ、容器10を3段に積み重ねて配置している。
図5図5は、本発明の製造方法における複数のコンテナ20の配置態様の一例を模式的に示す斜視図である。容器10をその内部に配置したコンテナ20a(図中白塗り)を複数段(図では11段)積み上げて、単一のコンテナ塊200Aからなるコンテナ積層体200を構成している。
図6図6は、本発明の製造方法における複数のコンテナ20の配置態様の別の例を模式的に示す斜視図である。コンテナ20を複数段(図では11段)積み上げてコンテナ積層体200’を構成している点では図5と同様であるが、容器10をその内部に配置したコンテナ20a(図中白塗り)を複数段(図では3段)積み上げて構成した複数(図では3つ)のコンテナ塊200’Aの間に、容器をその内部に配置しない空のコンテナ20b(図中黒塗り)を介挿することにより、単一のコンテナ積層体200’が複数(図では3つ)のコンテナ塊200’Aを含む構成としている。
図7図7は、本発明の製造方法に使用される容器12の一例を模式的に示す斜視図である。本容器12は円柱形状を有する。点線で示す部分Tは被発酵物に通じる天面部分を表し、一点鎖線矢印は被発酵物に通じる隙間(孔)Pの位置を表す。なお、各実施例で使用した図1の容器に代えて、本態様の容器を使用することもできる(この場合、具体例としては、防水コート紙製、天面直径60mm、高さ45mm。)。
図8図8は、本発明の製造方法に使用される発酵室30の一例を模式的に示す斜視図である。天井部分の凸部Xは自動通風温度制御装置を表す。前面の縦長の四角Dは発酵室30内へ連通する扉を表す。別記なき限り、各実施例及び各比較例でも本態様の発酵室を使用した(各実施例及び各比較例で使用した発酵室は、高さが3000mm、各側面の幅が4000mm。)。
図9図9は、本発明の製造方法における発酵室30内へのコンテナ積層体200、200’の配置態様の一例を示す図である。本図では発酵室30を上から見た場合の配置の例として、図5又は図6のコンテナ積層体200、200’を台車に載せ(何れも一台の台車に2個ずつ)、発酵室30内にコンテナ積層体200、200’を24個配置した状態を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して、且つ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態及び添付の図面に何ら束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0025】
[概要]
本発明は、容器詰め好気性発酵食品の製造方法であって、上部に蓋がなく側面及び底面に開口部を有するコンテナ内に、発酵前の被発酵物である原料と発酵菌が入った容器を複数配置し、容器を配置した当該コンテナを2個以上積み上げてコンテナ塊とし、コンテナ塊を隔離する区画を有しない単一の発酵室内に当該コンテナ塊を静置して、前記容器内の被発酵物を好気的に発酵させることを含むと共に、後述の種々の条件を充足する方法(以下適宜「本発明の製造方法」又は「本発明の方法」等と略称する。)に関する。
【0026】
本発明者らは、上記の事情に鑑みて鋭意研究した結果、同一品種の製品において、一個の容器内の豆粒は、幾層にも重なり全方位に対して密な状況になっているにもかかわらず、発酵終了時には豆粒の一粒一粒がほぼ一定の発酵品質に揃っていることに着目した。
【0027】
結果、豆粒が密な状態におかれても、最終的に発酵品質が揃う理由は、次のようなメカニズムによるものと考えられた。すなわち、発酵初期においては、発酵の進展に伴い、その容器の中心部にある豆粒は発酵熱により温度が高くなり発酵速度は促進される。一方で、容器の外縁部にある豆粒は発酵熱が生じても雰囲気中への熱の放散により温度が低くなり、発酵速度は抑制させる。発酵中期になると、発酵熱の高い中心部の豆粒は高温の影響で発酵の進展が抑えられるようになる。一方で、外縁部の豆粒には中心部の豆粒の熱が伝播し、温度が高められることで、発酵の進展が促進される。発酵後期になると、中心部の豆粒の発酵熱の産生が弱まり、外縁部の豆粒の高い発酵熱は、再び雰囲気中への放散により温度が低くなり、中心部の豆粒と外縁部の豆粒の発酵速度は同等に揃い、全体として発酵状態が同期し、被発酵物(豆粒全体)の品質が揃う結果となることを知った。
【0028】
そこで、本発明者らは鋭意検討の結果、従来技術に認められるような製造設備の新調、改修や、発酵条件の大きな都度変更、調整などの外部環境を被発酵物に対して均一になるよう調節して被発酵物の品質のばらつきの抑制を試みる(個々の容器をなるべく疎の状態に近づける又は疎の状態にあるような外部環境を作る)という視点とは真逆の着想に至った。すなわち、一つの容器を一つの被発酵物(例えば、納豆であれば、一つの被発酵物の入った容器を一つの豆粒として捉え、容器をコンテナ内に密になるように配置し、これを重ねたコンテナ塊を一個の納豆容器として捉える)としてマクロに捉え、多数の発酵前の容器詰め固形状好気性発酵食品を、特定の特徴を有するコンテナに、特定の条件で配置し、これを何段にも重ねた状態を一個の容器と見立てて(これを「コンテナ塊」という場合がある。)、ミクロな発酵品質の同期化をマクロな状態で再現するとの着想に至った。こうした製造方法によって、従来の技術では解決困難であった上記課題を同時に簡易に解決できることを新規に知見し、本発明の方法を完成させるに至った。
以下、本発明の方法の詳細について説明する。
【0029】
[容器]
本発明において、容器とは、発酵菌による被発酵物である原料とこれに接種した発酵菌を主たる内容物(これらをまとめて被発酵物という場合がある)として充填し、封をした後、そのまま発酵に供し、発酵終了後はそのまま熟成を行い、これが完了した後、これに包装を施し、そのまま製品として出荷するための容器であって、そのまま食器として供する態様で使用することが可能な(すなわち、容器の底部及び側面下部に液状調味料等が流出する孔等がない)容器である。尚、当該容器は、被発酵物の摂取態様は人により様々であるから、そのまま食器として供することに必ずしも限定されない。
【0030】
本発明の製造方法に使用される容器の一例10を図1に模式的に示す。本容器10は、上から見ると正方形、横から見ると天面が左右にはみ出した逆台形を有する。本発明の製造方法に使用される容器の別の例12を図7に模式的に示す。本容器12は円柱形状を有する。図中、点線で示す部分Tは被発酵物に通じる天面部分を表し、一点鎖線矢印は被発酵物に通じる隙間(孔)Pの位置を表す。もちろん、図1及び図7の容器10、12はあくまでも例であり、本発明の製造方法には任意の形状の容器を使用することができる。
【0031】
容器の材質としては特に限定されることはなく、一般に包装用容器として使用している材質やフィルム構成を有するものであれば、紙、発泡スチロール、各種プラスチック等(例えば、カップ状の紙製やスチレン改質ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、スチレン-エチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂等の各種の合成樹脂製の発泡シートで成形した容器等)、発酵菌と原料の組合せの特性に合わせて適宜選択、組み合わせればよい。尚、発酵時の保温性、大量生産時の積み重ねの際の軽さ、出荷時の軽さ、衝撃緩衝性、喫食時の形状保持性、軽さ、製造コストの観点からは、紙や発泡スチロール製であることが好ましく、特には発泡スチロール製(一例として具体的には、ポリスチレン製)であることがより好ましい。
【0032】
また、光の透過性については、光合成や光による発酵の活性化等が望まれるならば、透明性の高い材質を選択すればよいし、光による作用を要さない場合は、不透明であっても構わない。尚、流通、販売時の光照射に伴う、品質の光劣化の観点からは不透明であることが好ましい。
【0033】
なお、本発明の製造方法では、形状、寸法、素材等が異なる二種以上の容器を併用してもよい。
【0034】
また、容器内の内容物としては、上記主たる内容物(発酵菌による被発酵物である原料とこれに接種した発酵菌(被発酵物))以外に、被発酵物の発酵に影響を及ぼさない態様で、一般の液体/ゲル状/粉末状/固体状調味料等を、小袋や容器のセパレート構造等によって封入してもよい。また、被発酵物が容器のふたに接触、付着して、食べやすさを阻害しないように、フィルム状の薄膜を被発酵物上に敷く事にも、被発酵物の発酵に影響を及ぼさない態様である限りにおいては、その有無については何ら制限されない。フィルム状の薄膜に孔を開けるか否かについても、同様に特に限定されない。さらには即食性を高める観点からスプーンやフォークなどの食器類を封入することも可能である。尚、これらは、容器内の被発酵物とは区別される。
【0035】
ただし、本発明の容器詰め固形状好気性発酵食品は、好気性発酵菌により発酵を行うという観点から、各容器は、天面(ふたを兼ねる場合がある。)に孔状の開口部があったり、天面とそれがシールされる直下部(以下「天面周囲」という場合がある。また、天面周囲には、喫食時に内容物がこぼれだしにくい側面上部も含まれうる。)との間に隙間や孔があったりすることが必要である。
【0036】
各容器の開口部としては、各容器の被発酵物に通じる天面の略全面積に対する、被発酵物に通じる天面及び/又は天面周囲の開口部の略全面積の割合が、所定範囲内であればよい。具体的に、当該割合の下限は、通常0%超である。中でも0.00075%以上、又は0.001%以上、又は0.005%以上、さらには0.0075%以上であることが好ましい。当該割合がこの下限よりも小さく、各容器が実質的に密封された状態であると、発酵が阻害され、本発明の効果が奏されない場合がある。一方で、当該割合の上限としては、通常1%以下である。中でも0.8%以下、さらには0.6%以下であることが好ましい。当該割合がこの上限よりも大きいと、保温性が抑制されたり、乾燥が生じたりして、本発明の効果が奏されない場合がある。ここで、略全面積の「略」とは、角が丸まっていたり多少の凹凸があった場合においても、直線状として寸法を測ったり、平面として見立て、寸法を測ったりしてもよいことを表す。
【0037】
ここで、被発酵物に通じる天面及び/又は天面周囲とは、容器にふたをして封をし、静置したときに、開口部を設ければ被発酵物が空気を交換可能な部位のことを指す。また、天面及び/又は天面周囲の開口部の形状や位置は、針孔や切れ込みや隙間等、本発明の効果を妨げない限りにおいて何ら限定されず、適宜選択して適用すればよい。
【0038】
また、被発酵物に通じる天面部分の略全面積や天面及び/又は天面周囲の開口部の略面積は、そこに凹凸があったとしても、これを平面として見立て、その面積を測定すればよい。
【0039】
尚、容器を上下に重ねて配置する場合、開口部が他の容器の底面により閉塞してしまう観点から、開口部は、天面にあるよりも天面周囲にあるほうが好ましい。尚、容器の底面に凹凸があり、容器を上下に積み重ねても天面の開口部が閉塞しない場合は、その限りではない。
【0040】
さらに、本容器の特性としては、大量生産の観点から、その向き(例えば、ふたの開口位置等)をそろえる工程が省略できる、上から見た際の形状が略円形や略正方形であることが好ましい。尚、略直方体又は略立方体であるコンテナへの充填効率や容器の向きを考慮せずともよい取扱い容易性の観点からは、略正方形であることがより好ましい。この時、当然ながら被発酵物を内容する部位の形状もまた、略正方形であることがより好ましい。ここで、略とは、角が丸まっていたり多少の凹凸があったりする場合においても、大まかに形状の把握をしてもよいことを表す。
【0041】
また、喫食時に器として使用される点で、被発酵物に通じる天面及び/又は天面周囲にしか開口部を設けられないという特性と、外雰囲気間との熱、空気の交換の観点から、発酵物を内容する部位の容器の高さに対する被発酵物に通じる天面の幅の比率は、制限されるものではないが、例えば0.5以上10以内であることが好ましい。
【0042】
尚、容器が略円柱状の場合は、これを後述するコンテナ中に配置したときに、最大限に詰めてもおのずと個々の容器の間に隙間が生じ好ましいが、容器が略直方体又は略立方体の場合は、コンテナ中に配置したときに、最大限に詰めた場合、個々の容器の間に隙間が生じない場合がある。この場合、本発明の効果が奏されない虞がある観点から、容器を横から見た場合の形状が台形状や逆台形状など、コンテナに容器を最大限に詰めても個々の容器の間に隙間ができる形状であることが好ましい。
【0043】
また、容器の大きさとしては特に限定されるものではないが、個食用途に適したものである観点から、被発酵物の発酵前の内容量が、例えば20g以上300g以下で封入できるサイズであることが好ましい。さらに具体的には、容器が略円柱状の場合、最少直径が例えば4cm以上15cm以下であり、高さが例えば4cm以上10cm以下であることが好ましく、容器が略直方体又は略正方形の場合、最少幅が5cm以上15cm以下であり、高さが2cm以上5cm以下であることが好ましい。
【0044】
[コンテナ]
本発明において、コンテナとは、上記容器をその内部に配置し、これをコンテナごと発酵室に配置し、発酵するための什器である。コンテナの形状は制限されないが、通常は略直方体又は略立方体である。
【0045】
本発明の製造方法に使用されるコンテナの一例20を図2に模式的に示す。本コンテナ20は、上から見ると正方形、横から見ると横長の長方形を有す。黒抜きの部分は開口部Oを表す。もちろん、図2のコンテナ20はあくまでも例であり、本発明の製造方法には任意の形状のコンテナを使用することができる。
【0046】
コンテナの材質としては特に限定されることはなく、一般にコンテナとして使用している材質や構造を有するものであれば、金属製、木製や各種プラスチック製、各種金属製等、使用都合に合わせて適宜選択、組み合わせればよい。尚、大量生産時の積み重ねの際の軽さ、剛性、衝撃緩衝性、繰り返し使用、異物混入の可能性の低さの観点からは、プラスチック製(一例として具体的には、ポリプロピレン製等)であることが好ましい。
【0047】
ただし、本発明の容器詰め固形状好気性発酵食品は、好気性発酵菌により発酵を行うという観点から、コンテナの積み重ね時に、当該コンテナ塊の側面及び底面に少なくとも一つの開口部を備えることが必須である。開口部の位置については、外雰囲気間との温度、酸素の交換の観点から、通常は各コンテナの少なくとも一つの側面と底面に開口部があればよい。中でも、各コンテナの少なくとも二つの側面と底面に開口部があることが好ましい。さらには、各コンテナの少なくとも一対の側面と底面に開口部があることがより好ましい。特に、各コンテナの全側面と底面に開口部があることが最も好ましい。
【0048】
なお、本発明の製造方法では、形状や寸法、開口部の位置や数等が異なる二種以上のコンテナを併用してもよい。
【0049】
また、コンテナの上記開口部の大きさとしては、各コンテナの側面及び底面の各略全面積に対する各略全開口部の合計面積の割合が所定範囲内であればよい。具体的に、当該割合の下限は、通常30%以上である。中でも35%以上、さらには40%以上であることが好ましい。当該割合がこの下限よりも小さいと、過剰に蓄熱されたり、酸素供給が著しく低下したりして発酵が阻害され、本発明の効果が奏されない場合がある。一方で、当該割合の上限としては、通常80%以下である。中でも75%以下、さらには70%以下であることが好ましい。当該割合がこの上限よりも大きいと、温度制御ムラが大きくなったり、過乾燥が生じたりすることによって発酵が阻害され、本発明の効果が奏されない場合がある。ここで、略全面積や略全開口部の合計面積の「略」とは、角が丸まっていたり多少の凹凸があった場合においても、直線状として寸法を測ったり、平面として寸法を測ったりしてもよいことを表す。尚、本願発明の思想に基づく解決手段、及び本願発明の効果の奏功の観点から(コンテナ塊を一個の容器として見立てる)、各側面又は底面の略全面積あたりの略全開口部の合計面積の割合としては、各側面における開口部の割合よりも底面の開口部の割合が大きいほうが好ましい。
【0050】
ここで、コンテナの各側面の略全面積及び開口部とは、コンテナを積み重ねたときに、外雰囲気中に接する部分を指し、上下のコンテナ間の重なりによって、外雰囲気に接しない部分は除かれる。底面の略全面積及び開口部とは、容器を配置するコンテナ内部の底面及び開口部であって、コンテナを積み重ねたときに、コンテナ同士が重なる部分は除かれる。また、コンテナの側面の開口部とは、コンテナ側面に開けられた窓状の開口部だけでなく、コンテナを積み重ねたときに生じる、側面部上端の凹み構造等によってコンテナとコンテナの間にできる隙間の態様も含まれる概念である。側面の略全面積や底面の略全面積は、そこに凹凸があったとしても、平面として見立て、その面積を測定すればよい。この時、支持棒などを用い、上下のコンテナの間に挟んで積み上げる態様を採用してもよいが、この場合、コンテナの各側面の面積には、支持棒自体や、支持棒と上部のコンテナの底部の間に生じる開口部等も含むものとする。
【0051】
本発明において、コンテナは複数段重ねることができる。本発明では、コンテナを複数段重ねた構造体を「コンテナ積層体」という場合があり、容器をその内部に配置したコンテナを複数段重ねた構造体を「コンテナ塊」という場合がある。
【0052】
一態様によれば、図5に示すように、容器10をその内部に配置したコンテナ20a(図中白塗り)のみを複数段(図では11段)積み上げて、単一のコンテナ塊200Aからなるコンテナ積層体200を構成してもよい。
【0053】
一態様によれば、図6に示すように、容器10をその内部に配置したコンテナ20a(図中白塗り)を複数段(図では3段)積み上げて構成した複数(図では3つ)のコンテナ塊200’Aの間に、容器をその内部に配置しない空のコンテナ20b(図中黒塗り)を介挿することにより、単一のコンテナ積層体200’が複数(図では3つ)のコンテナ塊200’Aを含む構成としてもよい。尚、この場合、空のコンテナの体積及び容積は、コンテナ塊の体積としては加えないものとする。
【0054】
何れの態様に応じて、コンテナ塊を構成するコンテナの段数は、2段以上であればよいが、本発明の効果の奏効の観点からは、3個以上であることが好ましく、中でも4段以上、さらには5段以上であることがより好ましい。
【0055】
また、コンテナの大きさとしては特に限定されるものではないが、効率的な生産性や操作性の観点から、上記容器が10個以上200個以下で配置できるサイズであることが好ましい。さらに具体的には、略直方体又は略立方体のコンテナの一片の幅が、最短部で例えば50cm以上であり、最長部で例えば200cm以下であることが好ましい。さらには、取扱容易性の観点から、コンテナの向きを考慮せずともよい、上から見たときの形が略正方形であることが好ましい。ここで、略直方体や略立方体、略正方形の「略」とは、角が丸まっていたり多少の凹凸があった場合においても、直線状として捉えたり、平面として捉えたりして形の概形を認識してもよいことを表す。
【0056】
[コンテナ中での容器の配置]
本発明において、本発明の効果が奏される限りにおいては、コンテナ中での容器の配置態様は特に限定されない。コンテナ中に容器を斜めに傾けて連続的にもたれさせて配置してもよく、単に水平に並べてもよい。個々の容器の間隔があいていても、ほとんど詰まっていてもよい。
【0057】
コンテナ内への容器の配置態様の例を図3及び図4に示す。図3に示す例では、容器10がなるべく疎になるように、コンテナ20底面に対して、容器10間に隙間を多くとるように配置し、且つ、容器10は重ねずに1段で配置している。図4に示す例では、容器10がなるべく密になるように、コンテナ20底面に対して、容器10が略全面を占めるように配置し、かつ、容器10を複数段(図では3段)に積み重ねて配置している。もちろん、図3及び図4の配置態様はあくまでも例であり、本発明の製造方法では後述の各要件を満たす限りにおいて、任意の配置態様でコンテナ内に容器を配置することができる。
【0058】
ただし、大量生産工程における自動省力化下での操作性の観点から、コンテナ中での容器の配置態様は、コンテナ底面に対して水平であることが好ましく、ランダムに配置するよりも、端から順序良く容器毎の間隔がほとんど詰まった状態で配置されることが好ましい。また、数量管理及び本発明の顕著な奏効の観点から、コンテナ中での容器の配置は間欠的ではなく、コンテナ底面に対してびっしりと容器が並んだ状態(即ち、上から見た場合に、各コンテナの内部底面に対して、容器が略全面に配置された状態)であることがより好ましい。ここで「略全面」とは、容器と容器の間が必ずしもぴったりと接触している必要はないが、手動又は機械による自動配置の際にやむを得ず生じる隙間が生じてもよいことを表す。即ち、例えば図3に示す配置態様の例と図4に示す配置態様の例とを比較すると、図4に示す配置態様の方が好ましい。
【0059】
尚、本発明の効果の奏効の観点から、各コンテナの略全容積に対する、当該コンテナ内に配置した全容器の略全合計体積の割合の下限は通常40%以上である。中でも45%以上、さらには50%以上であることが好ましい。当該割合がこの下限よりも小さいと、発酵が阻害され、本発明の効果が奏されない場合がある。一方で、当該割合の上限としては、通常80%以下である。中でも75%以下、さらには70%以下であることが好ましい。当該割合がこの上限よりも大きいと、保温性が過剰となったり、酸素供給不足が生じたりして、本発明の効果が奏されない場合がある。
【0060】
また、本発明の効果の奏功の観点から、各コンテナの内側底面から最上端(通常、コンテナを積み重ねたときに、上に積み重ねられたコンテナの裏側(独立した状態では外側)底面を指す。)までの高さに対する、各コンテナ内に配置した容器の積み上げ高の最大値の割合は、通常70%以上である。中でも75%以上、さらには80%以上であることが好ましい。一方で、当該割合の上限は100%以下である。尚、この時、コンテナの内部に配置された容器のすべてが上記範囲を満たす必要はなく、少なくともコンテナ内側底部の略全面積に対する容器の略天面積の50%以上がこれを満たせばよい。また、上記50%の容器のコンテナ内での配置箇所は特に限定されないが、本願発明の効果の奏功の観点から、コンテナの中心部付近に集中して配置されることが好ましい。
【0061】
すなわち、本発明において、各コンテナ中での容器の配置は、大量生産時における製品一個あたりの省力化の観点から、容器をコンテナ内で垂直方向に2個以上積み重ねることが好ましく、さらには3個以上重ねて積まれる態様が好ましい。また、容器の再上端(天面)が、その上に積み重ねられたコンテナの裏側(独立した状態では外側)底面にギリギリ接触するか又はギリギリ接触しない態様が好ましい。この場合、必ずしも、上下の容器と容器とが上から見た場合にほぼ重なる態様でなくともよい。具体的には、4つの容器の各一端に上の容器の底面がかかるように上から見た場合に交差する態様であってもよい。ただし、大量生産工程における自動省力化下での操作性の観点から、容器は一気に複数の容器を積み込みできるような上下の容器と容器とが上から見た場合にほぼ重なる態様であることが好ましい。
【0062】
さらに、この場合の容器をその内部に配置したコンテナの積み重ね段数としては、2段以上であれば限定されるものではない。しかし、大量生産時における製品一個あたりの省力化、本発明の効果の顕著な奏効の観点から、例えば通常3段以上に積み重ねたコンテナ塊であることが好ましく、中でも4段以上、さらには5段以上のコンテナ塊であることがより好ましい。以上のように限定される理由は、本発明の着想の原点である、一つの容器を一つの被発酵物(例えば、納豆であれば、一つの容器の被発酵物の集合体を一粒の煮豆として捉える)としてマクロに捉え、多数の発酵前の容器詰め固形状好気性発酵食品を入れ配置したコンテナを何段にも重ねた状態を一個の容器と見立て、これらを配置するそれぞれの空間充填率を調整する、この着想によって発明された解決手段による効果を、十分に奏させるためである。ここで、略全容積や略合計体積の「略」とは、角が丸まっていたり多少の凹凸があった場合においても、直線状として寸法を測ったり、平面として寸法を測ったりしてもよいことを表す。
【0063】
尚、コンテナの略全容積はこれを立方体や直方体に見立て、各辺の長さを採寸して容量を求めればよい。容器の略全体積は内部に水が入らないようにして、水を入れたメスシリンダー等に沈めてその容量を測定することで求められる。
【0064】
[被発酵物]
本発明の被発酵物は、原料とこれに接種した発酵菌である。ここで、具体的な原料と発酵菌の組合せの例としては、常法(例えば、原料を冷蔵又は常温の水中に6~24時間程度浸漬した後、水切りして、100~135℃の蒸気で1~30分間の蒸煮処理)により蒸煮した米や玄米等の穀類と麹菌(例えばAspergillus属の糸状菌)、加熱殺菌(例えば、80~135℃に設定したプレートヒーターで1~30分間の加熱処理)した乳類等(動物性の牛乳や植物性の豆乳等)と微好気性乳酸菌(例えばLactobacillus属の細菌)、常法(例えば、原料を冷蔵又は常温の水中に6~24時間程度浸漬した後、水切りして、100~135℃の蒸気で5~30分間の蒸煮処理)により蒸煮した大豆等の豆類と納豆菌(一例としてはBacillus subtilis var. nattoとして挙げられる細菌)やテンペ菌(例えばRhizopus属の糸状菌)等が挙げられるが、これらに限ったものではなく、微好気性菌(通性嫌気性菌)から好気性菌まで、酸素を要求する微生物であれば特に限定されず、原料についても発酵菌がこれを資化し、発酵食品として食されるものができれば特に限定されない。なお、これら原料や発酵菌を二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0065】
ただし、容器詰め固形状好気性発酵食品は、後工程による小分けが困難であるという課題から、発酵前から容器詰めがなされているという意義において、発酵後に、粘りや発酵塊、発酵菌の胞子が発生する糸状菌発酵物や納豆菌発酵物が本発明の適用に相応しく、より好ましい。また、このことは、原料が粒状である点で、従来法に対して本発明の効果の奏効がより高い観点からも好ましい。さらには、粘りが著しく強く衛生的で均質な小分けが甚だ困難である納豆菌を含む発酵物がさらに好ましく、これが納豆を含むものであることがより好ましく、納豆であることが特に好ましい。
【0066】
尚、本発明の奏効の観点からは、各容器の略全内容積に対する、当該容器内に配置した発酵開始前の被発酵物の略全合計体積の割合が、所定範囲内であればよい。具体的に、当該割合の下限は、通常20%以上である。中でも25%以上であることが好ましい。当該割合がこの下限よりも小さいと、発酵が阻害され、本発明の効果が奏されない場合がある。一方で、当該割合の上限としては、通常60%以下である。中でも55%以下、さらには50%以下であることが好ましい。当該割合がこの上限よりも大きいと、保温性が抑制されたり、乾燥が生じたりして、本発明の効果が奏されない場合がある。ここで、略全内容積や略全合計体積の「略」とは、角が丸まっていたり多少の凹凸があった場合においても、直線状として寸法を測ったり、平面として寸法を測ったりしてもよいことを表す。
【0067】
ここで、一個の容器の略全内容積とは、ふたをして封をしたときに、被発酵物を充填可能又は充填する空間を指す。発酵開始前の被発酵物の略全合計体積とは、被発酵物の充填体積である。一個の容器の略全内容積や発酵開始前の被発酵物の略全合計体積は、水を満たしたり、水を加えたメスシリンダーに測定対象物を入れてその容量を測定することで求められる。
【0068】
また、本発明の着想の原点である、ミクロな態様をマクロな態様にて再現するという技術的困難性の克服という難易度の観点から、容器1個当たりの発酵前の被発酵物の合計質量が、所定範囲内である態様で本発明を適用することが好ましい。具体的に、当該割合の下限は、限定されるものではないが、例えば20g以上、中でも30g以上、更には40g以上とすることが好ましい。また、当該割合の上限は、限定されるものではないが、例えば300g以下、中でも250g以下、更には200g以下とすることが好ましい。当該割合を前記範囲内に収めることによって、上記容器の空寸の範囲との関係から、容器一個の大きさも一定の大きさに決まることになる。
【0069】
さらには、同様の理由で、発酵後の被発酵物がゲル状や粉末状の態様であるよりも、被発酵物中に空隙の生じる、発酵前の原料が略粒状物である態様で本発明を適用することが好ましい。
【0070】
これを満たす具体的な略粒状物としての具体例としては、穀類や豆類が挙げられ、これらをそのままの状態や、微細粒状、割砕状等に加工したもの、粉状に粉砕した物を顆粒化して再構築した粒状の態様であってもよい。これらは、単独使用してもよいし、2種以上を混合使用してもよい。
【0071】
さらに具体的な食品素材としては、麹菌発酵に多用される精白した米や玄米等、納豆菌発酵に多用される大豆等が例示される。尚、これら原料は、発酵植菌前に水浸漬等の組織の軟化措置が施されたり、蒸煮等の加熱処理を施され、植菌の適温になるまで冷却されたりすることが発酵性の向上及び殺菌の観点から好ましい。尚、容器への原料及び発酵菌の充填は、容器に原料を充填後、発酵菌の植菌を行ってもよいし、原料に植菌後、容器に充填を行ってもよく、特に限定されない。ここで、原料への植菌は、麹菌のように胞子となり乾燥粉末状になるものはその態様で、乳酸菌や納豆菌のように培養液として増殖できるものは、液状の種菌液として接種できる。さらに、原料からの栄養源の供給が不足すると考えられる場合には、原料に、炭素源としては、グルコース、シュクロース、ガラクトース、マンノース、デンプン、デンプン分解物などの糖類、クエン酸などの有機酸類、窒素源としては、ペプトン、肉エキス、カゼイン加水分解物、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等、無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化第2鉄・6水和物、硫酸マグネシウム・7水和物、塩化マンガン・4水和物、硫酸第一鉄等、その他としては、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、ビタミン類(ビオチン等)などを含有させてもよい。尚、種菌の培養は常法によって行えばよい。また、菌数の測定、調整は詳述するまでもなく、常法に従って測定すればよい。
【0072】
[発酵室・発酵条件等]
本発明において「発酵室」とは、上述した容器を配置したコンテナを2個以上積み重ね手形成したコンテナ塊を含むコンテナ積層体を台車などの上に載置し、これを静置し発酵を行う、温度制御装置、通風・換気装置等の発酵に必要な設備や保温性や密封性を備えた室をいう。尚、これらは特別な条件や装置を要するものではなく、従来法で行われている条件や従来法で使用している発酵室をそのまま適用すればよい。
【0073】
尚、台車等の体積はコンテナ塊に比べて著しく小さいものであるから、コンテナ塊の略全体積には台車を含める必要はない。尚、この時、コンテナ塊は、通風方向の調節や温度の調整を目的とする、特別なコンテナ収容室などの、コンテナ塊を隔離する区画を有さない。
【0074】
発酵室の大きさとしては特に限定されるものではないが、上述のコンテナ塊を容易に搬入・搬出できればよく、コンテナ塊を複数個静置できる大きさがあればよく、従来法で使用されている発酵室を用いればよい。
【0075】
本発明の製造方法に使用される発酵室の一例30を図8に模式的に示す。本発酵室30は、直方体上に包囲された部屋である。図中、天井部分の凸部Xは自動通風温度制御装置を表す。前面の縦長の四角Dは発酵室30内へ連通する扉を表す。もちろん、図8の発酵室30はあくまでも例であり、本発明の製造方法には任意の形状のコンテナを使用することができる。
【0076】
具体的な一例としては、従来法で使用している、幅4m×奥行4m×高さ3mの発酵室で、制御温度や通風量は、従来法で行われているのと同様に所望する品質になるように適宜調節された条件を適用すればよい。
【0077】
本発明の製造方法における発酵室内へのコンテナ積層体の配置態様の一例を図9に示す。図9に示す例では、発酵室30を上から見た場合の配置の例として、コンテナ積層体200、200’を台車に載せ(図では何れも一台の台車に2塊ずつ)、発酵室30内にコンテナ積層体200、200’を24個配置した状態を模式的に示している。もちろん、図9の配置態様はあくまでも例であり、本発明の製造方法では後述の各要件を満たす限りにおいて、任意の配置態様で発酵室内にコンテナ積層体を配置することができる。
【0078】
前記発酵室内の略全容積に対する、前記発酵室内に配置されるコンテナ塊の略全体積の割合は、本発明の効果の顕著な奏効の観点から、次の通りであることが好ましい。その上限としては、限定されるものではないが、例えば80%以下であれば好ましく、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。一方、その下限としては発酵室の効率的使用が損なわれるだけで特に限定されるものではないが、本発明の効果の顕著な奏効の観点から、例えば1%以上であれば好ましく、8%以上であることがより好ましく、16%以上であることがさらに好ましい。ここで、略全容積や略全体積の「略」とは、角が丸まっていたり多少の凹凸があった場合においても、直線状として寸法を測ったり、平面として寸法を測ったりしてもよいことを表す。
【0079】
ここで、発酵室内の略全容積は、発酵室の図面或いは実物の内部の幅、奥行き、高さ等を計測することにより求めればよい。この時、よほど大きな突出物や凹みがなければ、小型装置類の容積は無視しても構わない。また、コンテナ塊の略全体積としては、コンテナには積み上げたときの重なりがあるから、発酵室に静置する態様において、その幅、奥行き、高さを実測して求めればよい。この場合、空のコンテナの体積及び容積は、コンテナ塊の体積としては加えないものとする。
【0080】
被発酵物に対する、発酵菌の種類としては、上述した如何なる発酵菌も採用することができる。例えば、一般的な市販菌等を用いることができるが、特定の性質を有する突然変異株、遺伝子組み換え株などの各種菌株を利用することもできる。なお、単一の発酵室内で複数品種の好気性発酵食品を製造することも可能ではあるが、単一の発酵室内で一品種の好気性発酵食品を製造することが好ましい。
【0081】
被発酵物に対する発酵菌の接種量としては、常法に準じた菌濃度であれば特に限定されるものではないが、通常、原料1gあたり103~106個であればよい。植菌する際の原料の品温は、特に限定はないが、常法に準じ、植菌時の雑菌汚染を防ぐため、30~95℃程度の中~高温状態で植菌することが好ましい。
【0082】
発酵条件としては、常法に準じた発酵温度帯であれば特に限定されるものではないが、例えば、品温が35~54℃の温度帯になるように、発酵室に備え付けの、従来法に準じた温度制御装置兼通風装置を用いて制御すればよい。また、当該発酵温度帯を維持する所定時間(発酵時間)としては、限定されるものではないが、例えば常法に準じた5~23時間を挙げることができる。発酵時間の下限としては、限定されるものではないが、例えば5時間以上、好ましくは6時間以上、さらに好ましくは7時間以上を挙げることができる。発酵時間の上限としては、限定されるものではないが、例えば23時間以下、好ましくは22時間以下、さらに好ましくは21時間以下を挙げることができる。
【0083】
尚、「発酵開始から所定時間の間、豆の品温を実質的に通常の発酵温度帯に維持する」とは、完全に当該温度帯を外れないことを意味するものではなく、例えば、若干の温度範囲(例えば、3℃以内、好ましくは2℃以内)であって、かつ、若干の時間(例えば、20分以内、好ましくは10分以内)であれば、当該温度帯を外れた品温となった場合も、当該発酵条件を満たすことを意味する。
【0084】
尚、発酵工程終了後、熟成工程が必要な麹や納豆については、二次発酵による糸引き劣化、アンモニアの産生等の品質劣化を抑制するために、常法に準じて、3℃以上10℃未満、好ましくは3℃以上8℃未満、より好ましくは3℃以上6℃未満の低温になるようにして、6時間~3日間、好ましくは8時間~2日間、より好ましくは24時間程度、熟成を行うことが好ましい。尚、二次発酵による品質劣化が生じにくい上述した乳類等の被発酵物については、熟成工程を省いてもよい。尚、これら被発酵物は、品質保持の観点から、チルド配送や冷蔵配送、冷凍配送などの低温流通、販売を行うことが好ましい。
【0085】
[その他]
本発明の製造方法によれば、繁忙期と閑散期の生産数量の変動にかかわらず、生産設備や発酵条件制御の大きな変更や条件調整を伴うことなく、被発酵物の品質のばらつきを抑制した容器詰め固形状好気性発酵食品を特殊な製造設備を用いることなく、汎用条件・設備で簡便に製造できる方法を提供することができる。このように、本発明の製造方法により生産された容器詰め好気性発酵食品は、被発酵物の品質のばらつきが抑制された優れた性質を有しているところ、斯かる容器詰め好気性発酵食品も、本発明の対象となる。
【0086】
また、本発明の製造方法により容器詰め好気性発酵食品を製造すれば、得られる容器詰め好気性発酵食品について、品質のばらつきを抑制し、均質性を高め、及び/又は、容器一個当たりの生産効率を高めることも可能になる。このように、本発明の製造方法により容器詰め好気性発酵食品を製造することによって、容器詰め好気性発酵食品の品質のばらつきを抑制し、均質性を高め、及び/又は、容器一個当たりの生産効率を高める方法も、本発明の対象となる。
【実施例
【0087】
以下、本発明を実施例に則して、且つ、添付の図面を参照しながら更に詳細に説明するが、これらの実施例及び図面はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
[試験1:従来法と本発明の効果のあたり付]
ここでは、容器詰め固形状好気性発酵食品の一例として納豆を選択し、以下の試験に供し、本発明の着想に伴う容器詰め固形状好気性発酵食品の生産方法の効果が奏されるかどうかについてあたり付のための検証試験を行った。
【0089】
(蒸煮大豆の調製)
実施例及び比較例に使用する蒸煮大豆は、次の方法で調製した。
まず、常法に従い、原料の極小粒の乾燥大豆を、軽く水洗し、水に浸漬した状態で冷蔵庫で18時間処理を行うことで、豆に水を十分に吸水させた後、水を切った。
続いて、常法に従い、水を切った浸漬大豆を蒸煮工程に供した。具体的には、浸漬豆を金属製容器に入れ、蒸煮釜(原田産業製テスト用蒸煮釜)に入れ、98℃達温まで加熱後、表1に示す条件で加圧後、脱圧して蒸煮を行った。尚、これを当該試験に必要十分量準備し、混合して試験に供した。
【0090】
【表1】
【0091】
(植菌)
このようにして得られた蒸煮大豆に、常法に従い納豆菌を植菌した。
納豆菌としては、純粋培養の納豆菌(宮城野菌、Bacillus subtilis)(宮城野納豆製造所製)を用いた。この納豆菌株を表2に示す胞子形成培地(YE)10mL/試験管に植菌し、37℃、150rpm、24時間振盪培養することで胞子懸濁液を得た。これを当該試験に必要十分量準備し、混合して試験に供した。納豆菌株は、上記の納豆菌株を用い、液体培地で培養した胞子懸濁液を蒸煮大豆1gあたりそれぞれ約1000個の納豆菌となるように水で希釈して蒸煮大豆に植菌した。
【0092】
【表2】
【0093】
(納豆醗酵)
納豆の容器としては、図1に示す形状の容器10(ポリスチレン製、天面の一辺は98.5mm、高さは27.8mm)を用いた。
容器を配置するコンテナとしては、図2に示す構成のコンテナ20(ポリプロピレン製、天面の一辺は675mm、内底面の一片は615mm、内側面の高さは90mm、高さは109.5mm)を用いた。
コンテナを配置する発酵室としては、図8に示す構成の発酵室30(高さが3000mm、各側面の幅が4000mm)を用いた。
【0094】
前述の納豆菌植菌直後の蒸煮大豆(被発酵物)を各容器10に35gずつ盛り込んだ。その後、被発酵物を含む容器10をコンテナ20に図3又は図4に示す態様で配置した。図3の態様では、容器10がなるべく疎になるように、コンテナ20底面に対して、容器10間に隙間を多く取るように配置し、且つ、容器10は重ねずに1段で配置した。図4の態様では、容器10がなるべく密になるように、コンテナ20底面に対して、容器10が略全面を占めるように配置し、かつ、容器10を3段に積み重ねて配置した。
【0095】
容器10を配置した各コンテナ20を、図5又は図6に示す態様で積み上げ、コンテナ積層体200,200’を形成した。図5の態様では、容器10をその内部に配置したコンテナ20a(図中白塗り)を11段積み上げて、単一のコンテナ塊200Aからなるコンテナ積層体200を構成した。図6の態様では、コンテナ20を11段積み上げてコンテナ積層体200’を構成した点では図5と同様であるが、容器10をその内部に配置したコンテナ20a(図中白塗り)を3段積み上げて構成した3つのコンテナ塊200’Aの間に、容器をその内部に配置しない空のコンテナ20b(図中黒塗り)を介挿することにより、単一のコンテナ積層体200’内に3つのコンテナ塊200’Aが含まれる構成とした。
【0096】
図5又は図6の態様で積み上げたコンテナ積層体200,200’を2個ずつ台車に載せ、図9に示す配置で各発酵室30内に計24個配置した。
【0097】
発酵は、常法に従い、発酵室内に設置されている、自動通風温度制御装を用い、発酵当初は、室温を37℃に設定し、発酵開始から1.5時間経過以降は通常の発酵温度帯である品温が35℃以上54℃以下の範囲に維持されるように制御した。発酵は18時間で終了とした。
【0098】
(熟成)
熟成は、常法に従い、醗酵工程終了後の容器を、コンテナに配置され、コンテナ塊としたまま台車ごと各々同型の4℃の冷蔵庫で同様に冷却することで行った。熟成は24時間で終了とした。
【0099】
(結果の評価)
本発明の効果の検証は、熟成後の試料について、各実施例及び各比較例について、各コンテナからランダムに3つの容器を採取し、これら全コンテナ分を合わせて、さらにそこからランダムに計10個の容器を選抜し、容器毎に以下に記載の評価基準を用いて評価をすることで行った。
【0100】
尚、各評価試験を行う検査員としては、予め食品の味、食感、物性や外観等の識別訓練を実施した上で、特に成績が優秀で、商品開発経験があり、食品の味、食感、物性や外観等の品質についての知識が豊富で、各評価項目に関して絶対評価を行うことが可能な検査員10名を選抜し行った。検査員10名が、何れの評価項目でも、事前に検査員全員で標準試料の評価を行い、評価基準の用語やスコアについて標準化を行った上で、客観性のある評価を行った。評価項目の評価は、5段階の評点の中から、各検査員が自らの評価と最も近い数字をどれか一つ選択する方式で評価した。評価結果の集計は、10名のスコアの算術平均値から算出し、小数点以下は四捨五入した。さらに、本発明の効果について、特筆すべき特徴がある場合は、これを自由記述させ、検査員の過半数が同様に感じた結果を総合的なコメントとして示した。
【0101】
<評価基準1:容器内の被発酵物を混ぜ合わせる際の品質の均質性>
尚、ここで、品質の均質性とは、容器毎の、納豆を混ぜ合わせる際の糸引きの強さ、粘りの強さ、香り、味、食感について総合的に評価した場合の均質性を指す。
5:容器毎の品質のばらつきがなく、特に優れる。
4:容器毎の品質のばらつきがほとんどなく、優れる。
3:容器毎の品質のばらつきがややあるが、許容範囲。
2:容器毎の品質のばらつきがあり、劣る。
1:容器毎の品質のばらつきが大きく、特に劣る。
【0102】
<評価基準2:容器内の被発酵物を混ぜ合わせずに観察した際の品質の均質性>
尚、ここで、品質の均質性とは、容器毎の、容器内の部位毎(中心部と外周等)の納豆の各豆粒の外観(菌膜の張り具合や色の違い)、豆の硬さ、大きさについて総合的に評価した場合の均質性を指す。
5:容器内の被発酵物の部位毎の品質のばらつきがなく、特に優れる。
4:容器毎の被発酵物の部位毎の品質のばらつきがほとんどなく、優れる。
3:容器毎の被発酵物の部位毎の品質のばらつきがややあるが、許容範囲。
2:容器毎の被発酵物の部位毎の品質のばらつきがあり、劣る。
1:容器毎の被発酵物の部位毎の品質のばらつきが大きく、特に劣る。
【0103】
<評価基準3:容器当たりの生産効率>
また、生産効率については、容器一個当たりの生産性を、従来法を「1」としたときの倍率として示した。尚、発酵室あたりの消費電力に顕著な差異が認められなかった場合には、消費電力の多少の差異については、勘案しなかった。
【0104】
<評価基準4:評価基準1~3の評点を総合的に勘案した場合の本発明の効果>
5:容器内の品質のばらつきがなく、生産効率も高く特に優れる。
4:容器毎の品質のばらつきがほとんどなく、生産効率もやや高く優れる。
3:容器毎の品質のばらつきがややあるが、生産効率も悪くなく許容範囲。
2:容器毎の品質のばらつきがあり、生産効率もやや低く劣る。
1:容器毎の品質のばらつきが大きく、生産効率が低く特に劣る。
【0105】
試験1の試験系及び評価結果を表3に示す。
【0106】
【表3-1】
【表3-2】
【0107】
結果、従来法(比較例1)では、納豆を混ぜ合わせた際の品質の均質性については、容器毎の品質のばらつきがややあるが許容範囲であったものの、混ぜ合わせずに納豆の各豆粒を観察した際の品質の均質性には、容器内での部位毎の品質のばらつきがあり、劣っていた。また、本発明の方法(実施例1)と、側面及び底面の開口部の割合が同一のコンテナを使用した以外は、従来法の態様で発酵した実施例2(従来法の改法)では、容器内の被発酵物を混ぜ合わせる際の品質の均質性は比較例1(従来法)に比べてやや改善されたものの、容器内の被発酵物を混ぜ合わせずに観察した際の品質の均質性は、比較例1(従来法)と変わらなかった。これらに対して、本発明の方法(実施例1)では、納豆を混ぜ合わせた際の品質の均質性及び混ぜ合わせずに納豆の各豆粒を観察した際の品質の均質性について、ばらつきがなく、特に優れるものになることが分かった。さらに、ほぼ同じ電気消費量に対して、生産効率は従来法の4.5倍と極めて高くなることが分かった。以上から、総合評価は、本発明の方法が、従来法に対して、品質のばらつきがなく、生産効率も高く、特に優れることが分かった。
【0108】
[試験2:容器の天面及び/又は天面周囲の開口部の面積の割合と本発明の効果の関係の検証]
試験1において、本発明の着想に伴う容器詰め固形状好気性発酵食品の生産方法の効果が奏されることが実証された。そこで、本発明の効果が奏される条件について、その条件の詳細についての検討を行った。
ここでは、容器の天面及び/又は天面周囲の開口部の面積の割合と本発明の効果の関係の検証を行った。
【0109】
試験は、容器の天面及び/又は天面周囲の開口部の面積の割合を調整、変化させた以外は、試験1の実施例1と同様にして行った。試験系及び結果を表4に示す。尚、ここで、容器の天面及び/又は天面周囲の開口部の面積の割合の調整は、通気性、透湿性のないシールを用いて塞いだり、天面とその直下部の隙間(孔)を溶着したり、キリや針で天面及び/又は天面周囲に孔をあけたりすることで行った。
【0110】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0111】
結果、被発酵物に通じる天面部分の略全面積当たりの容器の被発酵物に通じる天面及び/又は天面周囲の開口部の略全面積の割合として、その下限は通常0%超であればよいことが分かった。本発明の効果の顕著な奏効の観点からは、より好ましくは0.00075%以上、さらに好ましくは0.001%以上であった。容器を密封すると、発酵が阻害され、所定時間内に発酵が完了しなかった。一方で、その上限としては、通常1%以下であればよいことが分かった。本発明の効果の顕著な奏効の観点からは、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下であった。この上限よりも大きいと、保温性が抑制され、乾燥が生じ、特に容器周囲及び天面の納豆豆粒の硬さや大きさ、色のばらつきが大きくなる課題が生じた。
【0112】
[試験3:容器内の被発酵物の体積の割合と本発明の効果の関係の検証]
ここでは、容器内の被発酵物の体積の割合と本発明の効果の関係の検証を行った。
【0113】
試験は、容器内の被発酵物の体積の割合を調整、変化させた以外は、試験1の実施例1と同様にして行った。試験系及び結果を表5に示す。尚、ここで、容器内の被発酵物の体積の割合の調整は、発酵前の被発酵物の充填量を調整することで行った。
【0114】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【0115】
結果、一個の容器の略全内容積あたりの発酵開始前の被発酵物の略全合計体積の割合の上限としては通常20%以上であればよいことが分かった。本発明の効果の顕著な奏効の観点からは、より好ましくは25%以上であることが分かった。この下限よりも小さいと、納豆の均質性以前に、全体が過乾燥状態となり納豆としての品質に劣ることが分かった。一方で、その上限としては、通常60%以下でればよいことが分かった。本発明の効果の顕著な奏効の観点からは、より好ましくは55%以下、さらに好ましくは50%以下であることが分かった。この上限よりも大きいと、容器の部位毎の品質のばらつきが大きくなり劣ることが分かった。
【0116】
[試験4:コンテナの側面と底面の開口部の割合と本発明の効果の関係の検証]
ここでは、コンテナの側面と底面の開口部の割合と本発明の効果の関係の検証を行った。
【0117】
試験は、コンテナの側面と底面の開口部の割合を調整、変化させた以外は、試験1の実施例1と同様にして行った。試験系及び結果を表6に示す。尚、ここで、コンテナの側面と底面の開口部の割合の調整は、通気性、透湿性のないシールを張り付けたり、コンテナの構造部分を切り取ったりすることで行った。
【0118】
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【0119】
結果、開口部の大きさとしては、側面、底面共に、1側面又は底面の略全面積あたりの略全開口部の合計面積の割合の下限としては通常30%以上であればよいことが分かった。本発明の効果の顕著な奏効の観点からは、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上であることが分かった。この下限よりも小さいと、容器の部位毎の品質のばらつきが大きくなり劣ることが分かった。一方で、その上限としては、通常80%以下である。より好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下である。この上限よりも大きいと、全体が過乾燥状態となり納豆としての品質に劣ることが分かった。また、実施例1と実施例27の結果の対比から、本発明の効果のより高い奏功の観点において、1側面又は底面の略全面積あたりの略全開口部の合計面積の割合としては、1側面における開口部の割合よりも底面の開口部の割合が大きいほうが好ましいことが分かった。
【0120】
[試験5:コンテナ内に配置した全容器の体積の割合及び容器の積載高の割合と本発明の効果の関係の検証]
ここでは、コンテナ内に配置した全容器の体積の割合及び、容器の積載高の割合と本発明の効果の関係の検証を行った。
【0121】
試験は、コンテナ内に配置した全容器の体積の割合を調整、変化させた以外は、基本的に試験1の実施例1と同様にして行った。ただし、一部、容器の形状と材質を変えた態様及びコンテナの内側面の高さを変えた態様も加えて検証を行った。試験系及び結果を表7に示す。尚、ここで、コンテナ内に配置した全容器の体積の割合及び容器の積載高の割合の調整は、コンテナに充填する容器の数量や配置態様を調整することで行った。
【0122】
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【0123】
結果、一個のコンテナの略全容積あたりのコンテナ内に配置した全容器の略全合計体積の割合の下限としては通常40%以上であればよいことが分かった。本発明の効果の顕著な奏効の観点からは、より好ましくは45%以上、さらに好ましくは50%以上であることが分かった。この下限よりも小さいと、容器の部位毎の品質のばらつきが大きくなり劣ることが分かった。一方で、その上限としては、通常80%以下であることが分かった。本発明の効果の顕著な奏効の観点からは、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下であることが分かった。この上限よりも大きいと、容器の部位毎の品質のばらつきが大きくなり劣ることが分かった。
【0124】
また、一個のコンテナ内に配置した容器の積み上げ高の最大値は、一個のコンテナの内側底面から最上端までの高さの70%以上であればよいことが分かった。本発明の効果の顕著な奏効の観点からは、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上であることが分かった。一方でその上限としては100%以下であることが分かった。尚、この時、コンテナの内部に配置された容器のすべてが上記範囲を満たす必要はなく、少なくともコンテナ内側底部の略全面積に対する容器の略天面積の50%以上がこれを満たせばより好ましいことが分かった。尚、容器の形状やコンテナの内側面の高さによって異なるとは思われるが、容器をコンテナ中で垂直方向に2個以上積み重ねることが好ましいこと、3個以上積み重ねることがより好ましいことが分かった。
【0125】
[試験6:本発明における発酵室内のコンテナ塊の体積の割合と本発明の効果の関係の検証]
ここでは、本発明における発酵室内のコンテナ塊の体積の割合と本発明の効果の関係の検証を行った。
【0126】
試験は、発酵室内のコンテナ塊の体積の割合を調整、変化させた以外は、試験1の実施例1と同様にして行った。試験系及び結果を表8に示す。尚、ここで、発酵室内のコンテナ塊の体積の割合の調整は、発酵室内に静置するコンテナ塊の数量や配置態様を調整することで行った。
【0127】
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【0128】
結果、発酵室内の略全容積あたりのコンテナ塊の略全体積の割合は、本発明の効果の顕著な奏効の観点から、80%以下であれば好ましく、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましいことが分かった。一方、その下限としては特に限定されるものではなかったが、本発明の効果の顕著な奏効の観点から、1%以上であれば好ましく、8%以上であることがより好ましく、16%以上であることがさらに好ましいことが分かった。
さらに、コンテナ塊としては、通常、容器が配置されたコンテナを2段以上積み上げた態様であることが好ましく、本発明の効果の顕著な奏効の観点から、より好ましくは3段以上、さらに好ましくは4段以上、特に好ましくは5段以上であることが分かった。また、当該コンテナ塊を、空のコンテナを1個以上挟んで、何段に積み重ねても本発明の効果が奏されることが分かった。
【0129】
[試験7:本発明における被発酵物の発酵前の充填量と本発明の効果の関係の検証]
ここでは、被発酵物の発酵前の充填量と本発明の効果の関係について検証を行った。
【0130】
試験は、被発酵物の発酵前の充填量及び/又は容器の大きさを調整、変化させた以外は、試験1の実施例1と同様にして行った。試験系及び結果を表9に示す。尚、ここで、容器の大きさを調整する場合、図1と相似状の形状のポリスチレン製の容器を適宜準備して行った。
【0131】
【表9-1】
【表9-2】
【0132】
結果、被発酵物の重量としては、本発明の効果が奏されるように容器の容量を替えればよいことが分かったが、個食用の容器詰め固形状好気性発酵食品としての容器の取り扱い容易性の観点から、被発酵物の重量が、下限としては20g以上であることが好ましく、上限としては300g以下であることが好ましいことが分かった。具体的な容器の大きさとしては、目安として、容器が略直方体又は略正方形の場合、最少幅が5cm以上15cm以下で、高さが2cm以上5cm以下であることが好ましいことが分かった。また、容器が略円柱状の場合には、最少直径が4cm以上15cm以下で、高さが4cm以上10cm以下あることが好ましいことが分かった。
【0133】
[試験8:本発明におけるその他の態様と本発明の効果の関係の検証]
ここでは、試験1~7に記載の態様以外の構成要素が本発明の効果に及ぼす影響を検証した。
【0134】
試験は、試験1~7に記載の態様以外の構成要素を調整、変化させた以外は、試験1の実施例1と同様にして行った。試験系を表10Aに、結果を表10Bに示す。
【0135】
【表10A】
【表10B-1】
【表10B-2】
【0136】
結果、市販納豆の各種構成要素を含んだ容器であっても、本発明の効果は顕著に奏されることが分かった。
【0137】
[試験11:その他の容器詰め固形状好気性発酵食品の生産における本発明の効果の検証]
試験1~10では容器詰め固形状好気性発酵食品の代表として、納豆を選択し、各種検証試験に供した。そこでここでは、本発明が他の種類の容器詰め固形状好気性発酵食品にも適用できるかについて、麹及びヨーグルトの生産に応用してこれを検証した。
【0138】
試験は、試験1に記載の納豆の場合に準じて行った。ただし、麹の場合は、原料米を十分な水浸漬後、蒸煮条件を120℃2分で行い、冷却した後、市販の清酒用乾燥種麹(Aspergillus oryzae)を用いて植菌し、納豆の場合の実施例1で使用した同じ容器に充填し、実施例1と同様の条件で発酵させ、同じく熟成を行った。また、ヨーグルトの場合は、原料乳に発酵栄養源として1質量%のグルコースと0.01質量%のビオチンを添加、混合し、プレートヒーターで90℃2分間殺菌した後、冷却した後、市販のヨーグルト(Lactobacillus brevis)を用いて植菌し、図7に示す円柱状の容器(防水コート紙製、天面直径60mm、高さ45mm)に充填し、実施例1と同様の条件で発酵させ、同じく熟成を行った。評価も実施例1と同様に行った。
試験系及び結果を表11に示す。
【0139】
【表11-1】
【表11-2】
【0140】
結果、麹においてもヨーグルトにおいても本発明の効果が奏されることが分かった。また、ヨーグルトには発酵栄養源を添加したが、被発酵物以外の原料を添加してもよいことが分かった。
ただし、液状であるヨーグルトの場合、本発明の効果は、実施例1の納豆や実施例48の麹に比べて本発明の効果はやや弱く、本発明の適用には原材料が略粒状であるものの方が好ましいことが分かった。
【0141】
以上、従来の方法では、繁忙期に大量生産を要する場合には、多数の発酵室を同時に使用したり、二交代生産制を採らざるを得なかったり、やむなく発酵室の増床や増室をしたりせざるを得なかった。さらには、発酵室あたりの容器数を無理に増加させるがために、発酵条件の都度調整の試行錯誤が生じたり、場合によっては品質のばらつきの許容基準を下げたりせざるを得なかった。
【0142】
これに対して、本発明の生産方法によっては、一つの発酵室で生産できる数量を大幅に増加させることができ、生産効率が顕著に上がるとともに、品質の均質性も高まることから、効率的生産と品質向上を同時に達成できることが分かった。よって、これまでの閑散期と繁忙期のギャップに係る問題を簡便に解決できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の容器詰め固形状好気性発酵食品の生産方法は、汎用条件・設備で簡便に応用でき、顕著な生産効率向上と品質向上を同時に達成できる技術であり、極めて高い有用性を有する。
【要約】      (修正有)
【課題】繁忙期と閑散期の生産数量の変動にかかわらず、生産設備や発酵条件制御の大きな変更や条件調整を伴うことなく、被発酵物の品質のばらつきを抑制した容器詰め固形状好気性発酵食品を、特殊な製造設備を用いることなく、汎用条件・設備で簡便に製造できる方法を提供する。
【解決手段】上部に蓋がなく側面及び底面に開口部を有するコンテナ20内に、発酵前の被発酵物である原料と発酵菌が入った容器10を複数配置し、容器を配置した当該コンテナを2個以上積み上げてコンテナ塊とし、コンテナ塊を隔離する区画を有しない単一の発酵室内に当該コンテナ塊を静置して、前記容器内の被発酵物を好気的に発酵させることを含む方法において、下記の条件(1)を含む複数条件を充足する。
(1)各容器の被発酵物に通じる天面の略全面積に対する、被発酵物に通じる天面及び/又は天面周囲の開口部の略全面積の割合が、0%超1%以下である。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9