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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】有機化合物の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/46 20060101AFI20221014BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20221014BHJP
【FI】
C12P7/46 ZNA
C12N15/54
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019563762
(86)(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2018063159
(87)【国際公開番号】W WO2018211093
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】17171894.3
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM 18541
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュレーダー,ハルトヴィヒ
(72)【発明者】
【氏名】ハエフナー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ゼルダー,オスカー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィットマン,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】シュレーヤ,アンナ クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】ホフ,ビルジット
(72)【発明者】
【氏名】ベーマー,ニコ
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-505869(JP,A)
【文献】特開2014-158474(JP,A)
【文献】特表2017-505134(JP,A)
【文献】特表2016-528893(JP,A)
【文献】特表2012-521190(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0337519(US,A1)
【文献】国際公開第2007/019301(WO,A2)
【文献】Jeong Wook Lee et al.,Metabolic Engineering,2016年10月13日,Vol. 38,p. 409-417
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
C12P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物の生産方法であって、該方法が、
I) 遺伝子改変微生物を、同化可能な炭素源としてスクロースを含む培養培地中で培養して該遺伝子改変微生物に有機化合物を生産させること、
II) プロセスステップI)で得られた発酵ブロスから該有機化合物を回収すること
を含み、該遺伝子改変微生物は、
A) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較してrbsK遺伝子によりコードされる酵素の活性の増加をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変を含み、
該元の微生物がパスツレラ科に属し、
該有機化合物がコハク酸であり、
該rbsK遺伝子が、以下:
a1) 配列番号3のヌクレオチド配列を有する核酸;
b1) 配列番号4のアミノ酸配列をコードする核酸;
c1) a1)又はb1)の核酸と少なくとも90%同一である核酸であって、同一性がa1)又はb1)の核酸の全長にわたる同一性である核酸;
d1) a1)又はb1)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性が、a1)又はb1)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長にわたる同一性である核酸;
e1) a1)又はb1)による核酸のいずれかの相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸;及び
f1) a1)又はb1)の核酸のいずれかと同じタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重により上記a1)又はb1)の核酸とは異なる核酸
からなる群から選択される核酸を含む
前記方法。
【請求項2】
元の微生物がバスフィア属に属する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
元の微生物が、バスフィア・スクシニシプロデュセンス種に属する、請求項に記載の方法。
【請求項4】
元の微生物が、DSM 18541の下でDSMZ(ドイツ)に寄託されているバスフィア・スクシニシプロデュセンスDD1株である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
c1)及びd1)の核酸が、a1)又はb1)の核酸と少なくとも95%同一である核酸であって、同一性がa1)又はb1)の核酸の全長にわたる同一性である核酸である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの遺伝子改変A)が、rbsK遺伝子の改変、rbsK遺伝子の調節エレメントの改変又は両方の組み合わせを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの遺伝子改変A)がrbsK遺伝子の過剰発現改変を含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子改変微生物が、
B) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較してfruA遺伝子によりコードされる酵素の活性の低減をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変
をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
fruA遺伝子が、以下:
a2) 配列番号5のヌクレオチド配列を有する核酸;
b2) 配列番号6のアミノ酸配列をコードする核酸;
c2) a2)又はb2)の核酸と少なくとも90%同一である核酸であって、同一性が、a2)又はb2)の核酸の全長にわたる同一性である核酸;
d2) a2)又はb2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性が、a2)又はb2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長にわたる同一性である核酸;
e2) a2)又はb2)による核酸のいずれかの相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸;及び
f2) a2)又はb2)の核酸のいずれかと同じタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重により上記a2)又はb2)の核酸とは異なる核酸
からなる群から選択される核酸を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
c2)及びd2)の核酸が、a2)又はb2)の核酸と少なくとも95%同一である核酸であって、同一性がa2)又はb2)の核酸の全長にわたる同一性である核酸である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの遺伝子改変B)が、fruA遺伝子の改変、fruA遺伝子の調節エレメントの改変、又は両方の組み合わせを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの遺伝子改変B)がfruA遺伝子の不活性化を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
遺伝子改変微生物であって、
A) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較して、rbsK遺伝子によりコードされる酵素の活性の増加をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変
を含み、該元の微生物がパスツレラ科に属し、
該rbsK遺伝子が、以下:
a1) 配列番号3のヌクレオチド配列を有する核酸;
b1) 配列番号4のアミノ酸配列をコードする核酸;
c1) a1)又はb1)の核酸と少なくとも90%同一である核酸であって、同一性がa1)又はb1)の核酸の全長にわたる同一性である核酸;
d1) a1)又はb1)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性が、a1)又はb1)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長にわたる同一性である核酸;
e1) a1)又はb1)による核酸のいずれかの相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸;及び
f1) a1)又はb1)の核酸のいずれかと同じタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重により上記a1)又はb1)の核酸とは異なる核酸
からなる群から選択される核酸を含む
前記遺伝子改変微生物。
【請求項14】
遺伝子改変が、請求項~12のいずれか1項に定義されるものである、請求項13に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項15】
同化可能な炭素源としてのスクロースからの有機化合物の発酵生産のための、請求項13又は14に記載の遺伝子改変微生物の使用であって、該有機化合物がコハク酸である、使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物、好ましくはコハク酸の生産方法、遺伝子改変微生物、及び有機化合物、好ましくはコハク酸の発酵生産のための遺伝子改変微生物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
6以下の炭素を有する小さなジカルボン酸などの有機化合物は、多くの用途を有する商業的に重要な化学物質である。例えば、小さな二価酸としては、1,4-二価酸、例えばコハク酸、リンゴ酸及び酒石酸、並びに5炭素分子イタコン酸などが挙げられる。他の二価酸として、2炭素シュウ酸、3炭素マロン酸、5炭素グルタル酸及び6炭素アジピン酸が挙げられ、かかる二価酸の多くの誘導体も存在する。
【0003】
1群としての小さな二価酸は幾つかの化学的類似性を有し、ポリマー生産におけるそれらの使用は、樹脂に特殊な特性を与え得る。このような多用途性は、上記の小さな二価酸が下流の化学インフラ市場に容易に適合することを可能とする。例えば、1,4-二価酸分子は、これらが様々な工業用化学品(テトラヒドロフラン、ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、2-ピロリドン)及びコハク酸塩誘導体であるスクシンジアミド、スクシノニトリル、ジアミノブタン及びスクシネートエステルに変換されるという点において、大規模化学品である無水マレイン酸の用途の多くを満たす。酒石酸は、食品産業、皮革産業、金属産業及び印刷産業において多くの用途を有する。イタコン酸は、3-メチルピロリドン、メチル-BDO、メチル-THF等の生産の出発材料を形成する。
【0004】
特に、コハク酸又はスクシネート(これらの用語は、本明細書中で互換可能に用いられる)は、食品業界、化学業界及び医薬品業界において多くの工業的に重要な化学品の前駆体として使用されているため、かなりの関心を集めている。実際、アメリカ合衆国エネルギー省のレポートは、コハク酸が、バイオマスから製造される12の上位の化学的ビルディングブロックの1つであると報告している。従って、細菌中で二価酸を生成する能力は、著しい商業的重要性を有するだろう。
【0005】
WO-A-2009/024294は、元々ルーメンから単離され、炭素源としてグリセロールを利用し得るパスツレラ科(Pasteurellaceae)のメンバーであるコハク酸産生細菌株、及びそれに由来する前記能力を保持する変異体及び変異株、特に、DSMZ(ドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germany)に寄託され、寄託番号DSM 18541(ID 06-614)を有し、コハク酸を生産する能力を有する、DD1と命名された細菌株について開示している。DD1株は、Kuhnert et al., 2010により分類されるように、バスフィア・スクシニシプロデュセンス種(Basfia succiniciproducens)及びパスツレラ科に属する。ldhA遺伝子及び/又はpflD-若しくはpflA遺伝子が破壊されているこれらの株の変異はWO-A-2010/092155に開示されており、これらの変異株は、WO-A-2009/024294に開示されるDD1-野生型と比較して、嫌気条件下における、グリセロール又はグリセロールとマルトースのような炭水化物との混合物などの炭素源からのコハク酸の生産の顕著な増加によって特徴づけられる。
【0006】
しかしながら、バイオベースのスクシネートは、石油化学ベースの代替品に対してコスト競争力を有するようになるという課題に依然として直面している。コハク酸のバイオベースの工業的生産を発展させるためには、低コスト培地で細胞を増殖させることが重要であり、また実施株は、最も安価な利用可能な原料を使用し得るように、最適には広範囲の低コスト糖原料を代謝し優れた収率でコハク酸を生産することが可能であるべきである。
【0007】
スクロース(一般的には砂糖として知られる)は、グルコースとフルクトースからなる二糖であって、天然において極めて豊富な炭素源であり、光合成能力を有する全ての植物から生産される。特に、サトウキビ及びサトウダイコンは多量のスクロースを含有し、現在、世界のスクロースの60%超がサトウキビから生産される。特に、スクロースはサトウキビの機械的圧縮により得られた抽出物を蒸発させ/濃縮する簡単な工程により工業的に生産することができるため、極めて低コストで生産される。このため、微生物発酵を介して化学化合物を生産するための原料としてのスクロースは安価であり、また多量の所望の代謝物を含む外部環境から細胞膜を保護するようにも機能し、このようにして、Kilimann et al. (Biochimica et Biophysica Acta, 1764, 2006)に示されるように、高濃度の所望の代謝産物を生産する。
【0008】
WO 2015/118051 A1は、野生型と比較して、fruA遺伝子によりコードされる酵素の低減された活性を有する改変微生物について開示し、ここで上記改変微生物が由来する野生型はパスツレラ科に属し、fruA遺伝子は、フルクトース特異的ホスホトランスフェラーゼ(フルクトースPTS)をコードする。野生型細胞(すなわち上記のDD1株)と比較して、fruA遺伝子が欠失している組換え細胞は、単一の又は主要な炭素源としてのスクロースの存在下で培養した場合のコハク酸の収率の増加によって特徴付けられる。しかしながら、炭素源としてのスクロースからのコハク酸の発酵生産の経済的効率を考慮すると、スクロースから大量のコハク酸を生産することが可能であり、また先行技術から公知の改変株と比較して、好ましくはさらにより多くのコハク酸をスクロースから生産し得るさらなる改変微生物を提供することが依然として望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO-A-2009/024294
【文献】WO-A-2010/092155
【文献】WO 2015/118051 A1
【非特許文献】
【0010】
【文献】Kuhnert et al., 2010
【文献】Kilimann et al. (Biochimica et Biophysica Acta, 1764, 2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、先行技術の不利点を克服することであった。
【0012】
特に、本発明の目的は、コハク酸などの有機化合物の生産方法であって、この方法により、炭素源としてスクロースを用いた場合に高い炭素収率を達成し得る、上記方法を提供することであった。
【0013】
また、遺伝子改変微生物であって、それが遺伝子改変により由来する元の細胞と比較して、より高い炭素収率での、炭素源としてのスクロースからのコハク酸などの有機化合物の生産を可能とする上記遺伝子改変微生物を提供することも、本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するための貢献は、有機化合物、好ましくはコハク酸の生産方法により提供され、この方法は、以下:
I) 遺伝子改変微生物を、同化可能な炭素源としてスクロースを含む培養培地中で培養して上記遺伝子改変微生物に有機化合物を生産させること、
II) プロセスステップI)で得られた発酵ブロスから有機化合物を回収すること
を含み、上記遺伝子改変微生物は、
A) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較して、rbsK遺伝子によりコードされる酵素の活性の増加をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変
を含み、上記元の微生物はパスツレラ科に属する。
【0015】
驚くべきことに、rbsK遺伝子(ATP依存性フルクトキナーゼ;EC 2.7.1.4をコードする)によりコードされる酵素の活性の増加をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変を含むパスツレラ科の微生物は、遺伝子改変されていない元の微生物と比較して、単独の又は主要な炭素源としてのスクロースからのコハク酸などの有機化合物の生産の増加によって特徴付けられることが見出された。この遺伝子改変に加えて、改変微生物がfruA遺伝子によりコードされる酵素の活性の低減をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変(フルクトース特異的ホスホトランスフェラーゼ系;EC 2.7.1.202をコードする)をさらに含む場合、スクロースからのコハク酸などの有機化合物の生産をさらに増加させることができる。
【0016】
本発明による方法において、
A) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較して、rbsK遺伝子によりコードされる酵素の活性の増加をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変
を含む遺伝子改変微生物が使用され、上記元の微生物はパスツレラ科に属する。
【0017】
かかる遺伝子改変微生物は、少なくとも以下のプロセスステップ:
i) パスツレラ科の元の微生物を提供すること;
ii) 上記微生物を、rbsK遺伝子によりコードされる酵素の活性が増加するような方法で遺伝子改変すること;
iii) 場合により、rbsK遺伝子によりコードされる酵素とは異なる1つ以上のさらなる酵素の活性の増加又は低減をもたらす微生物のさらなる遺伝子改変を実施すること
を含む方法により入手可能であり、プロセスステップiii)は、プロセスステップI)の後(特にプロセスステップii)の前、プロセスステップii)の後、又はプロセスステップii)の前後)のいつでも実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書中で使用される用語「元の微生物」は、好ましくは、いわゆる「野生型」株を指す。用語「野生型」は、そのゲノム、特にそのそのrbsK遺伝子及びそのrbsK遺伝子の調節エレメントが、進化の結果として自然に生じた状態で存在する微生物を指す。結果として、用語「野生型」は、好ましくは、その遺伝子配列が少なくとも部分的に組換え法により人為的に改変された微生物を包含しない。従って、用語「遺伝子改変微生物」は、それが由来する天然の野生型微生物と比較して、変更された、改変された又は異なる遺伝子型及び/又は表現型を示すように(例えば、遺伝的改変が微生物のコーディング核酸配列に影響する場合)、遺伝子的に変更、改変又は操作された(例えば遺伝子操作された)微生物を含む。本発明の方法において使用される遺伝子改変微生物の特定の好ましい実施形態によれば、遺伝子改変微生物は組換え微生物であり、これは、微生物が組換えDNAを用いて得られたことを意味する。本明細書中で使用される表現「組換えDNA」は、複数の供給源から遺伝物質を集めて、それがなければ生物中には見出されないであろう配列を作製する実験室的方法(分子クローニング)の使用から得られるDNA配列を指す。かかる組換えDNAの例は、異種DNA配列が挿入されたプラスミドである。
【0019】
上記の遺伝子改変により本遺伝子改変微生物が由来する元の微生物は、パスツレラ科に属する。パスツレラは、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)などの細菌から動物及びヒトの粘膜の共生生物にわたるメンバーを有するグラム陰性プロテオバクテリアの大ファミリーを含む。大部分のメンバーは、鳥類及び哺乳動物の粘膜表面上、特に上気道中に共生生物として生息する。パスツレラは、典型的には桿菌様であり、通性嫌気性菌の注目すべき群である。これらは、酸化酵素の存在により関連する腸内細菌科から区別することが可能であり、鞭毛の非存在により大部分の他の類似の細菌から区別することができる。パスツレラ科の細菌は、代謝特性並びにそれらの16S RNA及び23S RNAの配列に基づいて多くの属に分類されている。パスツレラの多くは、ピルビン酸ギ酸リアーゼ遺伝子を含み、炭素源を有機酸に嫌気的に発酵する能力を有する。
【0020】
この文脈において、元の微生物がバスフィア属に属することが特に好ましく、それがバスフィア・スクシニシプロデュセンス種に属することが特に好ましい。
【0021】
最も好ましくは、元の微生物は、ブダペスト条約下でDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen, GmbH)(ドイツ)に寄託され、寄託番号DSM 18541を有するバスフィア・スクシニシプロデュセンスDD1株である。この株は、元々ドイツ起源のウシのルーメンから単離された。パスツレラ科細菌は、動物及び好ましくは哺乳動物の胃腸管から単離することができる。細菌株DD1は、特に、ウシルーメンから単離することが可能であり、炭素源として(粗グリセロールを含む)グリセロールを利用する能力を有する。本発明による改変微生物を作製するために使用し得るバスフィア属のさらなる株は、寄託番号DSM 22022の下に寄託されているバスフィア株、又はヨーテボリ大学のカルチャーコレクション(Culture Collection of the University of Goeteborg)(CCUG)(スウェーデン)に寄託され、寄託番号CCUG 57335、CCUG 57762、CCUG 57763、CCUG 57764、CCUG 57765又はCCUG 57766を有するバスフィア株である。前記株は、元々ドイツ又はスイス起源のウシのルーメンから単離された。
【0022】
この文脈において、元の微生物が、配列番号1、又は配列番号1と少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%若しくは少なくとも99.9%の配列相同性を示す配列の16S rDNAを有することが特に好ましい。同様に、元の微生物が、配列番号2、又は配列番号2と少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%若しくは少なくとも99.9%の配列相同性を示す配列の23S rDNAを有することも好ましい。
【0023】
本発明による改変微生物について用いられる様々なポリペプチド又はポリヌクレオチドに関して言及される同一性(パーセント値)は、好ましくは、例えば、バイオインフォマティクスソフトウェアパッケージEMBOSS(バージョン5.0.0, http://emboss.source-forge.net/what/)のプログラム「ニードル(needle)」を利用して、デフォルトパラメータ、すなわちギャップオープン(ギャップを空けるペナルティー):10.0、ギャップエクステンド(ギャップを伸張するペナルティー):0.5、及びデータファイル(パッケージに含まれるマトリックスファイルをスコア化する):EDNAFULを用いて(かなり類似した配列について)計算される同一性のように、アラインされた配列の全長にわたる残基の同一性として計算される。
【0024】
本遺伝子改変微生物が由来する元の微生物は、上述の株の1つには限定されるものではなく、特にバスフィア・スクシニシプロデュセンスDD1株に限定されるものではないが、これらの株の変異体も含み得ることに留意すべきである。この文脈において、表現「株の変異体」は、野生型株と同じか又は本質的に同じ特徴を有する全ての株を含む。この文脈において、変異株の16S rDNAが、変異株が由来する野生型と、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%及び最も好ましくは少なくとも99.9%の同一性を有することが特に好ましい。同様に、変異株の23S rDNAが、変異株が由来する野生型と、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%及び最も好ましくは少なくとも99.9%の同一性を有することも特に好ましい。この定義の意味における株の変異体は、例えば野生型株を変異誘発化学剤、X線又はUV光で処理することにより得ることができる。
【0025】
遺伝子改変微生物の好ましい実施形態によれば、rbsK遺伝子は:
a1) 配列番号3のヌクレオチド配列を有する核酸;
b1) 配列番号4のアミノ酸配列をコードする核酸;
c1) a1)又はb1)の核酸と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一である核酸であって、同一性がa1)又はb1)の核酸の全長にわたる同一性である核酸;
d1) a1)又はb1)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性が、a1)又はb1)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長にわたる同一性である核酸;
e1) a1)又はb1)による核酸のいずれかの相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸;及び
f1) a1)又はb1)の核酸のいずれかと同じタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重により上記a1)又はb1)の核酸とは異なる核酸
からなる群から選択される核酸を含む。
【0026】
本明細書中で使用される用語「ハイブリダイゼーション」は、「それにより核酸分子の鎖が塩基対合を介して相補鎖と結合する任意の方法」を包含する(J. Coombs (1994) Dictionary of Biotechnology, Stockton Press, New York)。ハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの強度(すなわち、核酸分子間の結合の強度)は、核酸分子間の相補性の程度、関与する条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドのTm、及び核酸分子中のG:C比などの因子により影響を受ける。
【0027】
本明細書中で使用される用語「Tm」は、「融解温度」に関して用いられる。融解温度は、二本鎖核酸分子の集団が一本鎖へと半分解離する温度である。核酸分子のTmを計算するための式は、当技術分野で周知である。標準的な参考文献により示されるとおり、Tm値の簡単な推定は、核酸分子が1M NaClの水溶液中にある場合、式:Tm=81.5+0.41(%G+C)により計算することができる(例えば、Anderson and Young, Quantitative Filter Hybridization, in Nucleic Acid Hybridization (1985)を参照)。他の参考文献は、Tmの計算に構造的特徴並びに配列の特徴を考慮したより複雑な計算を含む。ストリンジェントな条件は当業者に公知であり、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に見出し得る。
【0028】
特に、用語「ストリンジェンシー条件」は、相補鎖核酸分子(DNA、RNA、ssDNA又はssRNA)の断片であるか又はこれと同一である100連続ヌクレオチド以上、150連続ヌクレオチド以上、200連続ヌクレオチド以上又は250連続ヌクレオチド以上が、50℃における7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5M NaPO4、1mM EDTA中のハイブリダイゼーションと50℃又は65℃、好ましくは65℃における2×SSC、0.1%SDS中の洗浄、と同等の条件下で特定の核酸分子(DNA、RNA、ssDNA又はssRNA)とハイブリダイズする条件を指す。好ましくは、ハイブリダイズ条件は、50℃における7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5M NaPO4、1mM EDTA中のハイブリダイゼーションと50℃又は65℃、好ましくは65℃における1×SSC、0.1%SDS中の洗浄、と同等であり、より好ましくは、ハイブリダイズ条件は、50℃における7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.5M NaPO4、1mM EDTA中のハイブリダイゼーションと50℃又は65℃、好ましくは65℃における0.1×SSC、0.1%SDS中の洗浄、と同等である。好ましくは、相補ヌクレオチドは、fruA核酸の断片又は全体とハイブリダイズする。あるいは、好ましいハイブリダイゼーション条件は、65℃における1×SSC中のハイブリダイゼーション若しくは42℃における1×SSC及び50%ホルムアミド中のハイブリダイゼーション、その後の65℃における0.3×SSC中の洗浄、又は50℃における4×SSC中のハイブリダイゼーション若しくは40℃における6×SSC及び50%ホルムアミド中のハイブリダイゼーション、その後の50℃における2×SSC中の洗浄を包含する。さらに好ましいハイブリダイゼーション条件は、0.1%SDS、0.1 SSD及び65℃である。
【0029】
配列番号3のヌクレオチド配列を有する核酸は、バスフィア・スクシニシプロデュセンス-DD1株のrbsK遺伝子に対応する。
【0030】
本発明による方法において使用される遺伝子改変微生物の特に好ましい実施形態によれば、遺伝子改変微生物は、さらに
B) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較して、fruA遺伝子によりコードされる酵素の活性の低減をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変
を含む。
【0031】
本改変微生物が由来する元の微生物において、fruA遺伝子は、好ましくは、以下:
a2) 配列番号5のヌクレオチド配列を有する核酸;
b2) 配列番号6のアミノ酸配列をコードする核酸;
c2) a2)又はb2)の核酸と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一である核酸であって、同一性が、a2)又はb2)の核酸の全長にわたる同一性である核酸;
d2) a2)又はb2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性が、a2)又はb2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長にわたる同一性である核酸;
e2) a2)又はb2)による核酸のいずれかの相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸;及び
f2) a2)又はb2)の核酸のいずれかと同じタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重により上記a2)又はb2)の核酸とは異なる核酸
からなる群から選択される核酸を含む。
【0032】
配列番号5のヌクレオチド配列を有する核酸は、バスフィア・スクシニシプロデュセンス-DD1株のfruA遺伝子に対応する。
【0033】
フルクトキナーゼ活性の増加
本発明による方法において使用される遺伝子改変微生物は、A) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較して、rbsK遺伝子によりコードされる酵素の活性の増加をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変を含む。かかる遺伝子改変は、例えば、rbsK遺伝子自体の改変及び/又はrbsK遺伝子の調節エレメントの改変であってよく、上記rbsK遺伝子の改変及び/又はrbsK遺伝子の調節エレメントの改変は、rbsK遺伝子及び/又はrbsK遺伝子の調節エレメントが改変されていない元の微生物と比較して、rbsK遺伝子によりコードされる酵素の活性の増加をもたらす。
【0034】
酵素活性の増加(Δ活性)は、一定のフルクトキナーゼの活性を既に有する元の微生物の場合、好ましくは以下のとおりに定義される:
【0035】
【数1】
ここで、Δ活性を決定する場合、元の微生物における活性及び改変微生物における活性は、正確に同一条件下で決定される。rbsK遺伝子によりコードされるフルクトキナーゼの活性は、Helanto et al.“Characterization of genes involved in fructose utilization by Lactobacillus fermentum”;Arch. Microbiol. (2006), Vol. 186, p. 51-59により開示されるとおりに決定することができる。
【0036】
フルクトキナーゼの活性の増加は、上記微生物の野生型における前記酵素の活性と比較して1~10000%の酵素活性の増加、あるいは少なくとも50%、又は少なくとも100%、又は少なくとも200%、又は少なくとも300%、又は少なくとも400%、又は少なくとも500%、又は少なくとも600%、又は少なくとも700%、又は少なくとも800%、又は少なくとも900%、又は少なくとも1000%、又は少なくとも5000%の酵素活性の増加であり得る。好ましくは、酵素の活性の増加は、10~1000%の範囲内、より好ましくは100~500%の範囲内である。
【0037】
フルクトキナーゼ活性の増加は、rbsK遺伝子自体の遺伝子改変により、例えば、rbsK遺伝子のコピー数を増加させることにより、活性の増加を有する対応する酵素をコードする遺伝子又はアレルを用いることにより、又はフルクトキナーゼの活性の増加をもたらす1つ以上の遺伝子変異を導入することによって達成することができる。このような変異は、同様に、進化的適応、UV照射又は突然変異原性化学物質などの古典的な方法により無方向に作製し得るか、あるいは部位特異的突然変異誘発による欠失(1つ又は複数)、挿入(1つ又は複数)及び/又はヌクレオチド交換(1つ又は複数)などの遺伝子操作法により標的化して作製することができる。またフルクトキナーゼ活性の増加は、rbsK遺伝子の調節エレメントの改変、例えばrbsK-プロモーター配列の遺伝子改変又はrbsK遺伝子の転写及び/又は遺伝子産物の翻訳に関与する調節タンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写活性化因子などの改変により達成することもできる。この文脈において、例えば、元の微生物中のプロモーター配列と比較してより強いプロモーター配列を使用することが可能である。当然のことながら、フルクトキナーゼ活性を増加させるためにこれらの手段を組み合わせることも可能である。
【0038】
本発明によれば、遺伝子改変微生物は、例えば、所望の遺伝子、この遺伝子のアレル又はその一部を含有するベクターであって、このベクターの発現を可能とする遺伝子を含む上記ベクターを用いた形質転換、形質導入、コンジュゲーション又はこれらの方法の組み合わせにより作製される。異種発現は、特に、遺伝子又はアレルを細胞の染色体に組み込むか、又はベクターを染色体外で複製することにより達成される。
【0039】
この文脈において、少なくとも1つの遺伝子改変A)が、rbsK遺伝子の過剰発現、好ましくはackAプロモーターの制御下のエピソームプラスミド上のrbsK遺伝子の過剰発現を含むことが特に好ましい。ackAプロモーターは、好ましくは、以下:
a3) 配列番号7のヌクレオチド配列を有する核酸;
b3) a3)の核酸と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一である核酸であって、同一性がa3)の核酸の全長にわたる同一性である核酸
からなる群から選択される核酸を含む。
【0040】
遺伝子が細胞中で発現される程度は、例えば、Real-Time PCRを用いて決定することができる。Real-Time PCTを用いて細胞中の遺伝子発現を決定するための詳細は、Wong及びMedranoにより、“Real-time PCR for mRNA quantitation”, BioTechniques, Vol. 39, No. 1, July 2005, pp. 75-85に開示される。
【0041】
ホスホトランスフェラーゼ活性の低減
本発明による方法において使用される遺伝子改変微生物の特に好ましい実施形態によれば、遺伝子改変微生物は、B) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較してfruA遺伝子によりコードされる酵素の活性の低減をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変、をさらに含む。このような遺伝子改変は、例えば、fruA遺伝子自体の改変及び/又はfruA遺伝子の調節エレメントの改変であって、fruA遺伝子の改変及び/又はfruA遺伝子の調節エレメントの改変が、fruA遺伝子及び/又はfruA遺伝子の調節エレメントが改変されていない元の微生物と比較して、fruA遺伝子によりコードされる酵素の活性の低減をもたらす上記改変であり得る。
【0042】
酵素活性の低減(Δ活性)は、以下のとおりに定義される:
【0043】
【数2】
ここで、Δ活性を決定する場合、元の微生物における活性及び遺伝子改変微生物における活性は、正確に同一の条件下で決定される。fruA遺伝子によりコードされる酵素の活性の検出及び決定のための方法は、例えば、上記のHelanto et al.の刊行物中に見出され得る。
【0044】
fruA遺伝子によりコードされるフルクトース特異的ホスホトランスフェラーゼの活性の低減(又は、後述されるとおり、「乳酸デヒドロゲナーゼ活性の低減」又は「ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性の低減」)は、元の細胞における前記酵素の活性と比較して、少なくとも50%の酵素活性の低減、又は少なくとも90%の酵素活性の低減、又はより好ましくは少なくとも95%の酵素活性の低減、又はより好ましくは少なくとも98%の酵素活性の低減、又はさらにより好ましくは少なくとも99%の酵素活性の低減、又はさらにより好ましくは少なくとも99.9%の酵素活性の低減であり得る。用語「フルクトース特異的ホスホトランスフェラーゼの活性の低減」又は以下に記載されるとおり、「乳酸デヒドロゲナーゼ活性の低減」又は「ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性の低減」もまた、これらの酵素の検出可能な活性を有さない改変微生物を包含する。
【0045】
ホスホトランスフェラーゼ活性の低減は、fruA遺伝子自体の遺伝子改変により達成され得る。この文脈において、遺伝子改変B)がfruA遺伝子の不活性化を含むことが特に好ましく、この不活性化は、好ましくはfruA遺伝子又はその一部の欠失により達成される。低下した活性を有する対応する酵素をコードする遺伝子若しくはアレルを使用するか、又はホスホトランスフェラーゼの活性の低減をもたらす1つ以上の遺伝子変異を導入することによることも可能である。このような変異もまた、進化的適応、UV照射若しくは突然変異原性化学物質などの古典的な方法により無方向に作製し得るか、又は部位特異的突然変異誘発による欠失(1つ又は複数)、挿入(1つ又は複数)及び/若しくはヌクレオチド交換(1つ又は複数)などの遺伝子操作法により標的化して作製することができる。同様に、ホスホトランスフェラーゼ活性の低減は、fruA遺伝子の発現に関連する調節配列又は部位などのfruA遺伝子の調節エレメントを改変すること(例えば、強力なプロモーター又は抑制可能なプロモーターを除去することにより)、fruA遺伝子の転写及び/又は遺伝子産物の翻訳に関与する調節タンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写活性化因子などを改変することにより達成することができる。
【0046】
本発明による方法において用いられる遺伝子改変微生物の好ましい実施形態によれば、fruA遺伝子の不活性化は、fruA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、プロモーター配列などのfruA遺伝子の調節エレメント若しくはその一部の欠失、又はfruA遺伝子への少なくとも一つの変異の導入により達成される。
【0047】
以下に、特に変異を導入するため又は配列を欠失させるための好適な組え技術を記載する。
【0048】
この技術は、本明細書中で「キャンベル組換え(Campbell recombination)」(Leenhouts et al., Appl Env Microbiol (1989), Vol. 55, 394-400頁)と呼ばれる場合もある。本明細書中で用いられる「キャンベルイン(Campbell in)」は、環状二本鎖DNA分子(例えばプラスミド)の全体が単一の相同組換え事象(クロスイン事象)により染色体に組み込まれ、前記環状DNA分子の第一DNA配列に相同な染色体の第一DNA配列への、線状化型の前記環状DNA分子の挿入を効果的に生じさせる、元の宿主細胞の形質転換体を指す。「キャンベルドイン(Campbelled in)」は、「キャンベルイン」形質転換体の染色体に組み込まれている線状化DNA配列を指す。「キャンベルイン」は、第一相同DNA配列の複製を含み、その各コピーは、相同組換え交差点のコピーを含み且つそれを包囲する。
【0049】
本明細書中で用いられる「キャンベルアウト(Campbell out)」は、「キャンベルドイン」DNAの線状化挿入DNA上に含まれる第二DNA配列と、前記線状化インサートの第二DNA配列に相同な染色体由来の第二DNA配列との間で第二相同組換え事象(クロスアウト事象)が生じている「キャンベルイン」形質転換体に由来する細胞を指し、上記第二組換え事象は、組み込まれたDNA配列の一部の欠失(放出)をもたらすが、重要なことに、元の宿主細胞と比較して「キャンベルアウト」細胞が染色体における1つ以上の意図的な変化(例えば、一塩基置換、多塩基置換、異種遺伝子若しくはDNA配列の挿入、相同遺伝子若しくは改変相同遺伝子のさらなるコピー(1つ又は複数)の挿入、又は上に列挙されるこれらの前述の例の2つ以上を含むDNA配列の挿入)を含むように、染色体中に残存する組み込まれたキャンベルドインDNAの一部分(これはわずか一塩基であってもよい)も生じさせる。「キャンベルアウト」細胞は、好ましくは、「キャンベルドイン」DNA配列の一部分(放出されることが望ましい部分)に含まれる遺伝子(例えば、約5%~10%スクロースの存在下で増殖する細胞において発現されると致死的な枯草菌(バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis))sacB遺伝子)に対するカウンターセレクションにより得られる。カウンターセレクションを用いても又は用いなくても、例えば、限定するものではないが、コロニー形態、コロニー色、抗生物質耐性の存在又は不存在、ポリメラーゼ連鎖反応による所与のDNA配列の存在又は不存在、栄養要求性の存在又は不存在、酵素の存在又は不存在、コロニー核酸ハイブリダイゼーション、抗体スクリーニング等の任意のスクリーニング可能な表現型を用いて所望の細胞をスクリーニングすることにより、所望の「キャンベルアウト」細胞を得るか又は同定することができる。「キャンベルイン」及び「キャンベルアウト」という用語はまた、上記の方法又は工程を指す様々な時制の動詞として使用することもできる。
【0050】
「キャンベルイン」又は「キャンベルアウト」をもたらす相同組換え事象は相同DNA配列内のDNA塩基の範囲にわたって起こり得ることが理解され、相同配列はこの範囲の少なくとも一部については互いに同一であるため、交差事象が起こった場所を正確に特定することは常に可能というわけではない。言い換えれば、どの配列が挿入されたDNAに由来するか、そしてどの配列が染色体DNAに由来するかを正確に特定することは不可能である。さらに、第一相同DNA配列及び第二相同DNA配列は、通常、部分的に非相同な領域によって分離され、「キャンベルアウト」細胞の染色体中に残ったままであるのはこの非相同領域である。
【0051】
好ましくは、第一及び第二相同DNA配列は、少なくとも約200塩基対長であり、最大数千塩基対長であり得る。しかしながら、上記の手法は、より短い配列又はより長い配列を用いて実施するようにし得る。例えば、第一相同配列及び第二相同配列の長さは約500~2000塩基の範囲であってよく、「キャンベルイン」からの「キャンベルアウト」の取得は、第一相同配列と第二相同配列とを、ほぼ同じ長さになるように、好ましくは200塩基対未満の差となるように、最も好ましくは2つの配列のうち短い方が長い方の塩基対の長さの少なくとも70%であるように配置することにより容易になる。
【0052】
上記の「キャンベル組換え」により欠失させ得るか、又は上記の「キャンベル組換え」により少なくとも1つの変異が導入されているfruA遺伝子又はその一部は、好ましくは上記に定義される核酸を含む。
【0053】
本発明による方法において使用される遺伝子改変微生物のさらに好ましい実施形態によれば、この微生物は、
- 低減されたピルビン酸ギ酸リアーゼ活性、
- 低減された乳酸デヒドロゲナーゼ活性、及び/又は
- 低減されたピルビン酸ギ酸リアーゼ活性及び低減された乳酸デヒドロゲナーゼ活性
によりさらに特徴付けることができる。
【0054】
乳酸デヒドロゲナーゼが欠損している及び/又はピルビン酸ギ酸リアーゼ活性が欠損している改変微生物は、WO-A-2010/092155、US2010/0159543及びWO-A-2005/052135に開示されており、微生物、好ましくはパスツレラ属の細菌細胞、特に好ましくはバスフィア・スクシニシプロデュセンスDD1株における乳酸デヒドロゲナーゼ及び/又はピルビン酸ギ酸リアーゼの活性を低減することの様々なアプローチに関するこれらの開示は、参照により本明細書に組込まれる。ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性を決定するための方法は、例えば、Asanum N.及びHino T.により“Effects of pH and Energy Supply on Activity and Amount of Pyruvate-Formate-Lyase in Streptococcus bovis”, Appl. Environ. Microbiol. (2000), Vol. 66, 3773-3777頁に開示されており、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を決定するための方法は、例えば、Bergmeyer, H.U., Bergmeyer J.及びGrassl, M. (1983-1986)により “Methods of Enzymatic Analysis”, 第3版, Volume III, 126-133頁, Verlag Chemie, Weinheimに開示されている。
【0055】
この文脈において、乳酸デヒドロゲナーゼの活性の低減はldhA遺伝子(乳酸デヒドロゲナーゼ;LdhA;EC 1.1.1.27又はEC 1.1.1.28をコードする)の不活性化により達成され、ピルビン酸ギ酸リアーゼの低減はpflA遺伝子(ピルビン酸ギ酸リアーゼのアクチベーター;PflA;EC 1.97.1.4をコードする)又はpflD遺伝子(ピルビン酸ギ酸リアーゼ;PflD;EC 2.3.1.54をコードする)の不活性化により達成されることが好ましく、これらの遺伝子(すなわち、ldhA、pflA及びpflD)の不活性化は、好ましくはこれらの遺伝子又はその一部の欠失により、これらの遺伝子の調節エレメント又は少なくともその一部の欠失により、又はこれらの遺伝子への少なくとも一つの変異の導入により達成され、これらの改変は、好ましくは上記の「キャンベル組換え」により実施される。
【0056】
本発明による方法において使用される遺伝子改変微生物においてその活性が低減されるIdhA遺伝子は、好ましくは、
α1) 配列番号8のヌクレオチド配列を有する核酸;
α2) 配列番号9のアミノ酸配列をコードする核酸;
α3) α1)又はα2)の核酸と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一である核酸であって、同一性がα1)又はα2)の核酸の全長にわたる同一性である核酸;
α4) α1)又はα2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性がα1)又はα2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長にわたる同一性である核酸;
α5) α1)又はα2)による核酸のいずれかの相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸;及び
α6) α1)又はα2)の核酸のいずれかと同じタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重により上記α1)又はα2)の核酸とは異なる核酸
からなる群から選択される核酸を含む。
【0057】
本発明による方法において使用される遺伝子改変微生物においてその活性が低減されるpflA遺伝子は、好ましくは、以下:
β1) 配列番号10のヌクレオチド配列を有する核酸;
β2) 配列番号11のアミノ酸配列をコードする核酸;
β3) β1)又はβ2)の核酸と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一である核酸であって、同一性がβ1)又はβ2)の核酸の全長にわたる同一性である核酸;
β4) β1)又はβ2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性がβ1)又はβ2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長にわたる同一性である核酸;
β5) β1)又はβ2)による核酸のいずれかの相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸;及び
β6) β1)又はβ2)の核酸のいずれかと同じタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重により上記β1)又はβ2)の核酸とは異なる核酸
からなる群から選択される核酸を含む。
【0058】
本発明による方法において使用される遺伝子改変微生物においてその活性が低減されるpflD遺伝子は、好ましくは、以下:
γ1) 配列番号12のヌクレオチド配列を有する核酸;
γ2) 配列番号13のアミノ酸配列をコードする核酸;
γ3) γ1)又はγ2)の核酸と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一である核酸であって、同一性がγ1)又はγ2)の核酸の全長にわたる同一性である核酸;
γ4) γ1)又はγ2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性がγ1)又はγ2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長にわたる同一性である核酸;
γ5) γ1)又はγ2)による核酸のいずれかの相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸;及び
γ6) γ1)又はγ2)の核酸のいずれかと同じタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重により上記γ1)又はγ2)の核酸とは異なる核酸
からなる群から選択される核酸を含む。
【0059】
この文脈において、本発明による方法において使用される遺伝子改変微生物の改変が、少なくとも1つの改変A)に加えて、又は少なくとも1つの改変A)及び少なくとも1つの改変B)に加えて、以下:
C) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の調節エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも一つの変異の導入;
D) pflD遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflD遺伝子の調節エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflD遺伝子への少なくとも一つの変異の導入;
E) pflA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflA遺伝子の調節エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflA遺伝子への少なくとも一つの変異の導入;
F) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の調節エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも一つの変異の導入
及び
pflD遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflD遺伝子の調節エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflD遺伝子への少なくとも一つの変異の導入;
あるいは
G) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の調節エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも一つの変異の導入
及び
pflA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflA遺伝子の調節エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflA遺伝子への少なくとも一つの変異の導入
をさらに含むことが好ましい。
【0060】
本発明による方法において用いられる遺伝子改変微生物の特に好ましい実施形態は、以下:
- rbsK遺伝子が(好ましくはackAプロモーターの制御下のエピソームプラスミド上で)過剰発現されており、より好ましくはfruA遺伝子が(好ましくはfruA遺伝子又は少なくともその一部の欠失により)不活性化されており、且つrbsK遺伝子が(好ましくはackAプロモーターの制御下のエピソームプラスミド上で)過剰発現されているバスフィア属、好ましくはバスフィア・スクシニシプロデュセンス種、最も好ましくはバスフィア・スクシニシプロデュセンス種DD1株の改変細菌細胞;
- rbsK遺伝子が(好ましくはackAプロモーターの制御下のエピソームプラスミド上で)過剰発現されており、より好ましくはfruA遺伝子が(好ましくはfruA遺伝子又は少なくともその一部の欠失により)不活性化されており、且つrbsK遺伝子が(好ましくはackAプロモーターの制御下のエピソームプラスミド上で)過剰発現されており、これらの遺伝子改変に加えて、好ましくはldhA遺伝子の改変により、特に配列番号8による核酸配列を有し且つ配列番号9によるアミノ酸配列を有するLdhAをコードするldhA遺伝子の欠失により乳酸デヒドロゲナーゼの活性が低減されているバスフィア属、好ましくはバスフィア・スクシニシプロデュセンス種、最も好ましくはバスフィア・スクシニシプロデュセンス種DD1株の改変細菌細胞;
- rbsK遺伝子が(好ましくはackAプロモーターの制御下のエピソームプラスミド上で)過剰発現されており、より好ましくはfruA遺伝子が(好ましくはfruA遺伝子又は少なくともその一部の欠失により)不活性化されており、且つrbsK遺伝子が(好ましくはackAプロモーターの制御下のエピソームプラスミド上で)過剰発現されており、さらにこれらの遺伝子改変に加えて、好ましくはpflA遺伝子又はpflD遺伝子の改変により、特に配列番号10による核酸配列を有し且つ配列番号11によるアミノ酸配列を有するPflAをコードするpflA遺伝子の改変により、又は配列番号12による核酸配列を有し且つ配列番号13によるアミノ酸配列を有するPflDをコードするpflD遺伝子の改変によりピルビン酸ギ酸リアーゼの活性が低減されているバスフィア属、好ましくはバスフィア・スクシニシプロデュセンス種、最も好ましくはバスフィア・スクシニシプロデュセンス種DD1株の改変細菌細胞;
- rbsK遺伝子が(好ましくはackAプロモーターの制御下のエピソームプラスミド上で)過剰発現されており、より好ましくはfruA遺伝子が(好ましくはfruA遺伝子又は少なくともその一部の欠失により)不活性化されており、且つrbsK遺伝子が(好ましくはackAプロモーターの制御下のエピソームプラスミド上で)過剰発現されており、さらにこれらの遺伝子改変に加えて、好ましくはldhA遺伝子及びpflA遺伝子の改変により、特に配列番号8による核酸配列を有し且つ配列番号9によるアミノ酸配列を有するLdhAをコードするldhA遺伝子の改変により、又は配列番号10による核酸配列を有し且つ配列番号11によるアミノ酸配列を有するPflAをコードするpflA遺伝子の改変により、又はldhA遺伝子及びpflD遺伝子の改変、特に配列番号8による核酸配列を有し且つ配列番号9によるアミノ酸配列を有するLdhAをコードするldhA遺伝子の改変により、又は配列番号12による核酸配列を有し且つ配列番号13によるアミノ酸配列を有するPflDをコードするpflD遺伝子の改変により乳酸デヒドロゲナーゼ及びピルビン酸ギ酸リアーゼの活性が低減されているバスフィア属、好ましくはバスフィア・スクシニシプロデュセンス種、最も好ましくはバスフィア・スクシニシプロデュセンス種DD1株の改変細菌細胞
である。
【0061】
プロセスステップI)において、本発明による遺伝子改変微生物を、同化可能な炭素源としてスクロースを含む培養培地中で培養して上記改変微生物に有機化合物を生産させ、これにより上記有機化合物を含む発酵ブロスを得る。本発明による方法により生産することができる好ましい有機化合物は、カルボン酸(例えばギ酸、乳酸、プロピオン酸、2-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシ酪酸、アクリル酸、ピルビン酸又はこれらのカルボン酸の塩)、ジカルボン酸(例えばマロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸又はそれらの塩)、トリカルボン酸(例えばクエン酸又はその塩)、アルコール(例えばメタノール又はエタノール)、アミノ酸(例えばL-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-アルギニン、L-イソロイシン、L-グリシン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-システイン、L-セリン、L-チロシン、L-トリプトファン、L-トレオニン、L-バリン、L-ヒスチジン、L-プロリン、L-メチオニン、L-リシン、L-ロイシン)、等を含む。
【0062】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、有機化合物はコハク酸である。本発明の文脈において用いられる用語「コハク酸」は、その最も広い意味において理解されるべきであり、その塩(すなわちスクシネート)、例えばコハク酸の、Na+塩及びK+塩などのアルカリ金属塩、又はMg2+塩及びCa2+塩などのアルカリ土類金属塩、又はアンモニウム塩あるいは無水物も包含する。
【0063】
本発明による遺伝子改変微生物は、好ましくは約10~60℃又は20~50℃又は30~45℃の範囲内の温度において、5.0~9.0又は5.5~8.0又は6.0~7.0のpHで、培養培地中でインキュベートされる。
【0064】
好ましくは、有機化合物、特にコハク酸は、嫌気条件下で生産される。嫌気条件は、従来技術を用いて、例えば反応培地の構成成分を脱気し、二酸化炭素若しくは窒素又はそれらの混合物、及び場合により水素を、例えば0.1~1又は0.2~0.5 vvmの流速で導入することによって嫌気条件を維持することにより確立することができる。好気条件は、従来技術を用いて、例えば空気又は酸素を、例えば0.1~1又は0.2~0.5 vvmの流速で導入することにより確立することができる。適切であれば、本方法において0.1~1.5バールのわずかな過圧を適用してもよい。
【0065】
同化可能な炭素源は、好ましくはスクロースである。この文脈において、二酸化炭素を除く同化可能な炭素源の総重量に対して、同化可能な炭素源の少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、さらにより好ましくは少なくとも95重量%及び最も好ましくは少なくとも99重量%がスクロースであることが好ましい。
【0066】
同化可能な炭素源の初期濃度、好ましくはスクロースの初期濃度は、好ましくは5~100g/l、好ましくは5~75g/l及びより好ましくは5~50g/lの範囲内の値に調整され、培養の間、前記範囲内に維持され得る。反応培地のpHは、好適な塩基、例えば気体アンモニア、NH4HCO3、(NH4)2CO3、NaOH、Na2CO3、NaHCO3、KOH、K2CO3、KHCO3、Mg(OH)2、MgCO3、Mg(HCO3)2、Ca(OH)2、CaCO3、Ca(HCO3)2、CaO、CH6N2O2、C2H7N及び/又はこれらの混合物の添加により制御することができる。これらのアルカリ中和剤は、発酵プロセスの過程において形成される有機化合物がカルボン酸又はジカルボン酸である場合に特に必要とされる。有機化合物がコハク酸である場合、Mg(OH)2が特に好ましい塩基である。
【0067】
本発明による発酵ステップI)は、例えば撹拌型発酵槽(stirred fermenter)、気泡塔(bubble column)及びループリアクター(loop reactor)中で実施することができる。撹拌タイプを含む可能な方法タイプ及び幾何学的的設計の包括的外観は、Chmiel: "Bioprozesstechnik:Einfuehrung in die Bioverfahrenstechnik", Volume. 1に見出され得る。本発明による方法において、利用し得る典型的な変形は、当業者に公知の、又は、例えばChmiel, Hammes及びBailey:“Biochemical Engineering”において説明される以下の変形、例えばバッチ法、フェッドバッチ法、反復フェッドバッチ法あるいはバイオマスの再循環を伴う、及び伴わない連続発酵である。生産株に応じて、良好な収率(YP/S)を達成するために空気、酸素、二酸化炭素、水素、窒素又は適切な気体混合物のスパージングを行うことができる。
【0068】
プロセスステップI)において、有機酸、特にコハク酸を生産するための特に好ましい条件は:
同化可能な炭素源:スクロース
温度:30~45℃
pH:5.5~7.0
供給ガス:CO2
である。
【0069】
プロセスステップI)において、同化可能な炭素源、好ましくはスクロースが、少なくとも0.5g/g~約1.18g/gの炭素収率YP/Sで;例えば少なくとも0,6g/g、少なくとも0.7g/g、少なくとも0.75g/g、少なくとも0.8g/g、少なくとも0.85g/g、少なくとも0.9g/g、少なくとも0.95g/g、少なくとも1.0g/g、少なくとも1.05g/g又は少なくとも1.1g/g(有機化合物/炭素、好ましくはコハク酸/炭素)の炭素収率YP/Sで、有機化合物、好ましくはコハク酸に変換されることがさらに好ましい。
【0070】
プロセスステップI)において、同化可能な炭素源、好ましくはスクロースが、少なくとも0.6 g g DCW-1h-1有機化合物(好ましくはコハク酸)、又は少なくとも0.65g g DCW-1h-1、少なくとも0.7g g DCW-1h-1、少なくとも0.75g g DCW-1h-1又は少なくとも0.77g g DCW-1h-1有機化合物(好ましくはコハク酸)の比生産性収率で、有機化合物、好ましくはコハク酸に変換されることがさらに好ましい。
【0071】
プロセスステップI)において、スクロースが、少なくとも2.2g/(L×h)又は少なくとも2.5g/(L×h)、少なくとも2.75g/(L×h)、少なくとも3g/(L×h)、少なくとも3.25g/(L×h)、少なくとも3.5g/(L×h)、少なくとも3.7g/(L×h)、少なくとも4.0g/(L×h)、少なくとも4.5g/(L×h)又は少なくとも5.0g/(L×h)の有機化合物(好ましくはコハク酸)の、有機化合物(好ましくはコハク酸)の空時収率で、有機化合物、好ましくはコハク酸に変換されることがさらに好ましい。本発明による方法の別の好ましい実施形態によれば、プロセスステップI)において、遺伝子改変微生物は、少なくとも20g/L、より好ましくは少なくとも25g/L、さらにより好ましくは少なくとも30g/Lのスクロースを、少なくとも20g/L、より好ましくは少なくとも25g/L、さらにより好ましくは少なくとも30g/Lの有機化合物、好ましくはコハク酸に変換する。
【0072】
本明細書中に記載される様々な収率パラメーター(「炭素収率」又は「YP/S」;「比生産性収率」;又は「空時収率(STY)」)は、当技術分野において周知であり、例えば、Song及びLeeら, 2006により記載されるとおりに決定される。「炭素収率」及び「YP/S」(それぞれ、生産される有機化合物の質量/消費される同化可能な炭素源の質量で表される)は、本明細書中で同義語として用いられる。比生産性収率は、1gの乾燥バイオマス当たりの、1時間(h)及び1Lの発酵ブロス当たりに生産されるコハク酸などの生産物の量を表す。「DCW」として示される乾燥細胞重量の量は、生化学反応における生物学的に活性な微生物の量を表す。この値は、1時間(h)当たり(g)DCW当たりの(g)生産物(すなわち、g g DCW-1h-1)として示される。空時収率(STY)は、培養の全時間にわたる、発酵プロセスにおいて形成される有機化合物の総量の、培養の体積に対する比として定義される。空時収率は、「容積生産性(volumetric productivity)」としても知られる。
【0073】
プロセスステップII)において、有機化合物(好ましくはコハク酸)は、プロセスステップI)で得られた発酵ブロスから回収される。
【0074】
通常、回収プロセスは、遺伝子改変微生物を、発酵ブロスからいわゆる「バイオマス」として分離するステップを含む。バイオマスを除去するための方法は当業者に公知であり、濾過、沈降、浮選又はそれらの組み合わせを含む。結果的に、バイオマスは、例えば遠心分離機、セパレーター、デカンター、フィルターを用いて、又は浮選装置中で除去することができる。有用な生産物の回収を最大化するため、多くの場合、例えば透析濾過の形態でバイオマスを洗浄することが望ましい。方法の選択は、発酵ブロス中のバイオマス含量及びバイオマスの特性により決定され、さらにまたバイオマスと有機化合物(すなわち有用生産物)との相互作用によっても決まる。一実施形態において、発酵ブロスは、滅菌(sterilize)又は殺菌(pasteurize)され得る。さらなる実施形態において、発酵ブロスは濃縮される。必要に応じて、この濃縮は、バッチ様式で又は連続的に行うことができる。圧力及び温度範囲は、第一に生産物の損傷が生じないように、第二に装置及びエネルギーの使用の必要性が最小限であるように選択されるべきである。多段蒸発のための圧力及び温度レベルを巧みに選択することにより、特にエネルギーの節約が可能となる。
【0075】
回収プロセスは、有機化合物、好ましくはコハク酸がさらに精製される付加的な精製ステップをさらに含み得る。しかしながら、有機化合物が以下に記載される化学反応によって二次有機産物に変換される場合、有機化合物のさらなる精製は、反応の種類及び反応条件によっては必ずしも必要でない。プロセスステップII)において得られた有機化合物の精製のため、好ましくはコハク酸の精製のために、例えば結晶化、濾過、電気透析法及びクロマトグラフィーのような当業者に公知の方法を使用することができる。有機化合物がコハク酸である場合、例えば、コハク酸は、中和のため水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム又は炭酸水素カルシウムを用いることによりコハク酸をコハク酸カルシウム生成物として沈殿させ、沈殿物を濾過することによって単離され得る。コハク酸は、沈殿したコハク酸カルシウムから、硫酸による酸性化、その後の、沈殿する硫酸カルシウム(石膏)を除去するための濾過により回収される。結果として得られた溶液は、望ましくない残留イオンを除去するため、イオン交換クロマトグラフィーを用いてさらに精製され得る。あるいは、発酵ブロスを中和するために水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム又はそれらの混合物が使用された場合、プロセスステップI)で得られた発酵ブロスは酸性化されて培地中に含まれるコハク酸マグネシウムを酸形態(すなわちコハク酸)に変換することが可能であり、その後このコハク酸は、酸性化された培地を冷却することにより結晶化され得る。さらなる好適な精製プロセスの例は、EP-A-1 005 562、WO-A-2008/010373、WO-A-2011/082378、WO-A-2011/043443、WO-A-2005/030973、WO-A-2011/123268及びWO-A-2011/064151並びにEP-A-2 360 137に開示されている。
【0076】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、この方法は、以下のプロセスステップ:
I) プロセスステップI)で得られた発酵ブロスに含まれる有機化合物の、又はプロセスステップII)で得られた回収された有機化合物の、少なくとも1つの化学反応による上記有機化合物とは異なる二次有機産物への変換
をさらに含む。
【0077】
有機化合物がコハク酸である場合、好ましい二次有機産物は、コハク酸エステル及びそのポリマー、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ブタンジオール(BDO)、ガンマ-ブチロラクトン(GBL)及びピロリドンからなる群から選択される。
【0078】
THF、BDO及び/又はGBLの生産のための好ましい実施形態によれば、このプロセスは:
b1) プロセスステップI)又はII)で得られたコハク酸の、THF及び/又はBDO及び/又はGBLへの直接触媒的水素化、又は
b2) プロセスステップI)又はII)で得られたコハク酸及び/又はコハク酸塩の、その対応するジ低級アルキルエステルへの化学的エステル化、及びそれに続く前記エステルのTHF及び/又はBDO及び/又はGBLへの触媒的水素化、
のいずれかを含む。
【0079】
ピロリドンの生産のための好ましい実施形態によれば、このプロセスは:
b) プロセスステップI)又はII)で得られたコハク酸アンモニウム塩の、それ自体公知の方法でのピロリドンへの化学的変換
を含む。
【0080】
これらの化合物の調製の詳細については、US-A-2010/0159543及びWO-A-2010/092155を参照されたい。
【0081】
冒頭で言及した課題を解決するための貢献は、
A) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較して、rbsK遺伝子によりコードされる酵素の活性の増加をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変
を含む遺伝子改変微生物によりさらに提供され、ここで上記元の微生物はパスツレラ科に属する。
【0082】
本発明による遺伝子改変微生物の好ましい実施形態は、本発明による方法において用いられる好ましい遺伝子改変微生物としての上記の実施形態である。
【0083】
冒頭で言及した課題を解決するための貢献は、同化可能な炭素源としてのスクロースからの有機化合物(好ましくはコハク酸)の発酵生産のための、本発明による遺伝子改変微生物の使用によりさらに提供される。好ましい有機化合物、及び有機化合物の発酵生産のための好ましい条件は、本発明による方法のプロセスステップI)に関連して既に記載されている化合物及び条件である。
【0084】
本発明の様々な実施形態を以下に列挙する。
[実施形態1]
有機化合物の生産方法であって、該方法が、
I) 遺伝子改変微生物を、同化可能な炭素源としてスクロースを含む培養培地中で培養して該遺伝子改変微生物に有機化合物を生産させること、
II) プロセスステップI)で得られた発酵ブロスから該有機化合物を回収すること
を含み、該遺伝子改変微生物は、
C) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較してrbsK遺伝子によりコードされる酵素の活性の増加をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変を含み、
該元の微生物がパスツレラ科に属する、
前記方法。
[実施形態2]
有機化合物がコハク酸である、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]
元の微生物がバスフィア属に属する、実施形態1又は2に記載の方法。
[実施形態4]
元の微生物が、バスフィア・スクシニシプロデュセンス種に属する、実施形態3に記載の方法。
[実施形態5]
元の微生物が、DSM 18541の下でDSMZ(ドイツ)に寄託されているバスフィア・スクシニシプロデュセンスDD1株である、実施形態4に記載の方法。
[実施形態6]
rbsK遺伝子が、以下:
a1) 配列番号3のヌクレオチド配列を有する核酸;
b1) 配列番号4のアミノ酸配列をコードする核酸;
c1) a1)又はb1)の核酸と少なくとも70%同一である核酸であって、同一性がa1)又はb1)の核酸の全長にわたる同一性である核酸;
d1) a1)又はb1)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性が、a1)又はb1)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長にわたる同一性である核酸;
e1) a1)又はb1)による核酸のいずれかの相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸;及び
f1) a1)又はb1)の核酸のいずれかと同じタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重により上記a1)又はb1)の核酸とは異なる核酸
からなる群から選択される核酸を含む、実施形態1~5のいずれか1項に記載の方法。
[実施形態7]
少なくとも1つの遺伝子改変A)が、rbsK遺伝子の改変、rbsK遺伝子の調節エレメントの改変又は両方の組み合わせを含む、実施形態1~6のいずれか1項に記載の方法。
[実施形態8]
少なくとも1つの遺伝子改変A)がrbsK遺伝子の過剰発現改変を含む、実施形態7に記載の方法。
[実施形態9]
遺伝子改変微生物が、
D) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較してfruA遺伝子によりコードされる酵素の活性の低減をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変
をさらに含む、実施形態1~8のいずれか1項に記載の方法。
[実施形態10]
fruA遺伝子が、以下:
a2) 配列番号3のヌクレオチド配列を有する核酸;
b2) 配列番号4のアミノ酸配列をコードする核酸;
c2) a2)又はb2)の核酸と少なくとも70%同一である核酸であって、同一性が、a2)又はb2)の核酸の全長にわたる同一性である核酸;
d2) a2)又はb2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも70%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性が、a2)又はb2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長にわたる同一性である核酸;
e2) a2)又はb2)による核酸のいずれかの相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸;及び
f2) a2)又はb2)の核酸のいずれかと同じタンパク質をコードするが、遺伝コードの縮重により上記a2)又はb2)の核酸とは異なる核酸
からなる群から選択される核酸を含む、実施形態9に記載の方法。
[実施形態11]
少なくとも1つの遺伝子改変B)が、fruA遺伝子の改変、fruA遺伝子の調節エレメントの改変、又は両方の組み合わせを含む、実施形態10に記載の方法。
[実施形態12]
少なくとも1つの改変B)がfruA遺伝子の不活性化を含む、実施形態11に記載の方法。
[実施形態13]
遺伝子改変微生物であって、
A) 遺伝子改変されていない元の微生物と比較して、rbsK遺伝子によりコードされる酵素の活性の増加をもたらす少なくとも1つの遺伝子改変
を含み、該元の微生物がパスツレラ科に属する、
前記遺伝子改変微生物。
[実施形態14]
遺伝子改変が、実施形態7~12のいずれか1項に定義されるものである、実施形態13に記載の遺伝子改変微生物。
[実施形態15]
同化可能な炭素源としてのスクロースからの有機化合物の発酵生産のための、
実施形態13又は14に記載の遺伝子改変微生物の使用。
本発明は、非限定的な例を用いてさらに詳細に説明される。
【実施例
【0085】
実施例1:欠失構築物の作製
ベクター及び株の構築を、以前に報告された標準技術(Becker et al., Biotechnology and Bioengineering, Vol. 110 (2013), 3013-3023頁)により実行した。構築した全ての変異株を表1に列挙する:
【0086】
【表1】
【0087】
株の構築及び確認に使用された具体的なプライマー配列は、表2に示される:
【0088】
【表2】
【0089】
フルクトースPTSをコードするfruAのマーカーフリー欠失は、組み込みベクターpClikCM(Becker et al., Metabolic Engineering, Vol. 13(2011), 59-168頁)及びプライマーPRfruA1-PRfruA4(表2)を使用した。fruA欠失断片を、制限部位XbaI及びXhoIを介してベクターpClik int sacB(Kind et al., Metabolic Engineering, Vol. 12 (2010), 341-351頁)にライゲートした。ゲノム中のfruAの所望の除去をPCRにより確認した。プラスミドpSacB_delta_fruAを用いたΔfruA Basfia株の作製は、WO 2015/118051 A1にも開示されている。
【0090】
フルクトキナーゼ(rbsK)の過剰発現のため、エピソームプラスミドpJFF224(Frey, Res. Microbiol. Vol. 143(3)(1992), 頁 263-9.1992)を使用した。この遺伝子を、酢酸キナーゼをコードするackAのプロモーターの制御下で発現させた。プロモーターと遺伝子のシームレスな融合のため、重複伸長PCRを適用した。この目的のため、プライマーコンビネーションPRrbsK1/PRrbsK2及びPRrbsK3/PRrbsK4をそれぞれ用いてackAプロモーター及びrbsK遺伝子を最初に増幅した。次いで、結果として得られたPCR断片を、PRrbsK1/PRrbsK4により1520bpサイズのプロモーター遺伝子構築物に融合させた。InFusionキット(Clontech Laboratories, マウンテンビュー、カリフォルニア州、米国)を用いて、XbaI及びXhoI消化したベクターpJFF224へのPackArbsK構築物のサブクローニングを行い、プラスミドpJFF224_PackArbsKを得た。pJFF224及びpJFF224_PackArbsKによるB.スクシニシプロデュセンスの形質転換を、エレクトロポレーション(Becker et al., 2011)により実施した。結果として得られた変異株(表1)を、PCR及び酵素活性研究により分析した。プルーフリーディングポリメラーゼ(Phusion High-Fidelity PCR Kit, Thermo Fisher Scientific,シュヴェルテ、ドイツ)を用いてPCRをルーチン的に実施した。
【0091】
実施例2:DD1、DD1 PackArbsK及びDD1 ΔfruAPackArbsKのスクロース上の培養
DD1株の生産性を、炭素源としてのスクロースの存在下で、変異株DD1 PackArbsK及びDD1 ΔfruAPackArbsKの生産性と比較した。以下に記載される培地及びインキュベーション条件を利用して生産性を分析した。
【0092】
1. 培地調製
生理学的研究及びスクシネート生産のため、B.スクシニシプロデュセンスの第1前培養を、1リットル当たり:50gスクロース、5g酵母抽出物(Becton Dickinson、フランクリンレイクス、ニュージャージー州、米国)、5gバクトペプトン144(Becton Dickinson)、1g NaCl、0.2g MgCl2・6H2O、0.2g CaCl2・2H2O、3g K2HPO4、1g(NH4)2SO4、及び50g MgCO3を含有する複合培地中で行った。第2前培養及び主培養については、1リットル当たり:50gスクロース、1g NaCl、0.2g MgCl2・6H2O、0.2g CaCl2・2H2O、3g K2HPO4、5g(NH4)2SO4、3mgチアミン・HCl、0.6mgリボフラビン、3mgニコチン酸、10mg Ca-パントテネート、1mg ピリドキサール・HCl、0.5mgビオチン、0.05mgシアノコバラミン、及び50g MgCO3を含有する最小培地を使用した。二酸化炭素を、0.8バールの超過気圧で培養ボトル(血清フラスコ)に適用した。プラスミド含有株の培養のため、クロラムフェニコールを50μg mL-1の最終濃度まで培地に添加した。
【0093】
酵素アッセイのため、細胞を、1リットル当たり:50gスクロース、1g NaCl、0.2g MgCl2・6H2O、0.2g CaCl2・2H2O、3g K2HPO4、5g(NH4)2SO4、3mgチアミン・HCl、0.6mgリボフラビン、3mgニコチン酸、10mg Ca-パントテネート、1mgピリドキサール・HCl、0.5mgビオチン及び0.05mgシアノコバラミンを含有する最小培地中で、pH制御のために1M Na2CO3を自動添加しながら増殖させた。
【0094】
2. 培養
血清中の嫌気培養のため、サンプリング用のブチルゴムシールを備え、0.8バールの超過気圧のCO2雰囲気下で10mL培地が充填された30mL血清ボトル中でフラスコ培養を行った。凍結ストックから播種された後、第1前培養液を、オービタルシェーカー上で37℃及び130rpmにて8時間インキュベートした。指数関数的増殖中、細胞を遠心分離(3分、16,000×g、16℃)により回収し、1mL培地で洗浄し、第2前培養液に播種するために使用して、初期吸光度(OD600)を0.3とした。10時間のインキュベーション後、指数関数的に増殖している細胞を上記のとおりに回収及び洗浄し、その後主培養液に播種するために使用して初期OD600を0.08とした。
【0095】
3. 分析
コハク酸をHPLCにより分析した。粗無細胞抽出物中で酵素活性を決定した。粗無細胞抽出物の調製のため、細胞を遠心分離(5分、5,000×g、4℃)により回収し、100mM TrisHCl(0.75mMジチオスレイトール、pH7.8)で洗浄し、同じバッファー中で0.33(g細胞湿重量)mL-1の濃度まで再懸濁し、その後ベンチトップホモジナイザー(Precellys 24, Peqlab, VWR International GmbH, Darmstadt, Germany)で破壊した。酵素活性を、37℃で分光光度的に定量した(Spectronic Helios, Thermo Electron Corporation, Waltham, Massachusetts, 255 USA)。動態パラメータの決定のため、フルクトキナーゼを、Helanto et al. 2006により記載されるとおりに100mM Tris・HCl(pH7.8、10mM MgCl2)、1U mL-1グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、2U mL-1ホスホグルコイソメラーゼ、1mM NADP+及び異なる濃度のATP(0~5mM)及びフルクトース(0~25mM)中でアッセイした。
【0096】
4. 結果
DD1株、DD1 PackArbsK株及びDD1 ΔfruAPackArbsK株におけるフルクトキナーゼの活性の決定のための酵素アッセイの結果を表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
表4は、細胞をバッチ法で培養する場合の、単一炭素源としてのスクロースからのコハク酸の形成を示す。
【0099】
【表4】
【0100】
配列 配列番号1(DD1株の16S rDNAのヌクレオチド配列)
【0101】
【化1】
【0102】
配列番号2(DD1株の23S rDNAのヌクレオチド配列)
【0103】
【化2】
【0104】
配列番号3(DD1株由来のrbsK遺伝子のヌクレオチド配列)
【0105】
【化3】
【0106】
配列番号4(DD1株由来のRbsKのアミノ酸配列)
【0107】
【化4】
【0108】
配列番号5(DD1株由来のfruA遺伝子のヌクレオチド配列)
【0109】
【化5】
【0110】
配列番号6(DD1株由来のFruAのアミノ酸配列)
【0111】
【化6】
【0112】
配列番号7(DD1株由来のackAプロモーターのヌクレオチド配列)
【0113】
【化7】
【0114】
配列番号8(DD1株由来のldhA遺伝子のヌクレオチド配列)
【0115】
【化8】
【0116】
配列番号9(DD1株由来のLdhAのアミノ酸配列)
【0117】
【化9】
【0118】
配列番号10(DD1株由来のpflA遺伝子のヌクレオチド配列)
【0119】
【化10】
【0120】
配列番号11(DD1株由来のPflAのアミノ酸配列)
【0121】
【化11】
【0122】
配列番号12(DD1株由来のpflD遺伝子のヌクレオチド配列)
【0123】
【化12】
【0124】
配列番号13(DD1株由来のPflDのアミノ酸)
【0125】
【化13】
【0126】
配列番号14(プライマーPRfruA1のヌクレオチド配列)
【0127】
【化14】
【0128】
配列番号15(プライマーPRfruA2のヌクレオチド配列)
【0129】
【化15】
【0130】
配列番号16(プライマーPRfruA3のヌクレオチド配列)
【0131】
【化16】
【0132】
配列番号17(プライマーPRfruA4のヌクレオチド配列)
【0133】
【化17】
【0134】
配列番号18(プライマーPRrbsK1のヌクレオチド配列)
【0135】
【化18】
【0136】
配列番号19(プライマーPRrbsK2のヌクレオチド配列)
【0137】
【化19】
【0138】
配列番号20(プライマーPRrbsK3のヌクレオチド配列)
【0139】
【化20】
【0140】
配列番号21(プライマーPRrbsK4のヌクレオチド配列)
【0141】
【化21】
【0142】
配列番号22(プラスミドpJFF224_PackArbsKのヌクレオチド配列)
【0143】
【化22】
【0144】
配列番号23(プラスミドpClikCMΔfruAのヌクレオチド配列)
【0145】
【化23】
【配列表】
0007158107000001.app