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特許7158486位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法、偏光板および液晶表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法、偏光板および液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20221014BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20221014BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20221014BHJP
   G02F 1/1337 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1335 510
G02F1/13363
G02F1/1337
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020539389
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2019032811
(87)【国際公開番号】W WO2020045224
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2018161442
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】森谷 千枝
【審査官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-206236(JP,A)
【文献】特開2007-003917(JP,A)
【文献】特開2016-139566(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030449(WO,A1)
【文献】特開2006-297831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/1335
G02F 1/13363
G02F 1/1337
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポジティブAプレートである位相差フィルムと、偏光子と、を有する、偏光板であって、
前記位相差フィルムが、支持体と、液晶性化合物を含有する液晶組成物を用いて前記支持体に接触するように形成された液晶層と、を有し、
前記支持体の前記液晶層が形成される面の表面エネルギーが45mN/m以上、かつ、表面エネルギーに含まれる非極性の分散力成分が45mN/m以上であり、
前記液晶性化合物が配向した状態で固定化されており、
前記位相差フィルムのコントラストが10000超であり、
前記支持体の遅相軸が、前記偏光子の吸収軸と平行であり、
前記支持体は、Re1が100~180nm、かつ、Rth1が50~90nmであり、
前記液晶層は、Re2が-10~10nm、かつ、Rth2が-150~-80nmであり、
前記支持体および前記液晶層が、逆波長分散性を有する、偏光板。
但し、Re1は支持体の波長550nmにおける面内レターデーション(nm)を意味し、Rth1は支持体の波長550nmにおける厚み方向のレターデーション(nm)を意味し、Re2は液晶層の波長550nmにおける面内レターデーション(nm)を意味し、Rth2は液晶層の波長550nmにおける厚み方向のレターデーション(nm)を意味する。
【請求項2】
前記支持体を構成する材料がポリカーボネートである、請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記液晶層がスメクチック性を示す、請求項1または2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記液晶組成物が、さらに、重合性基および下記式(B)で表されるボロン酸基を有するボロン酸モノマーを含有する、請求項1~3のいずれか1項に偏光板。
【化1】
式(B)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の、脂肪族炭化水素基、アリール基、またはヘテロ環基を表す。R1およびR2は、互いに連結して環を形成してもよい。*は結合位置を示す。
【請求項5】
前記偏光子と、前記液晶層と、前記支持体と、がこの順に配置されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の偏光板の製造方法であって、
液晶性化合物と溶剤とを含む液晶組成物を支持体の表面に塗布して、前記支持体に接するように液晶層を形成する工程を含み、
前記溶剤が、前記支持体を溶解させない溶剤Aと、前記溶剤Aよりも沸点が低く、前記支持体を溶解させる溶剤Bとを含有し、
前記溶剤Aおよび前記溶剤Bの含有量がいずれも、前記液晶組成物の全質量に対して、10質量%以上である、偏光板の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の偏光板と、横電界方式の液晶セルと、を有する液晶表示装置であって、
視認側から、前記偏光板が有する偏光子、前記偏光板が有する液晶層、前記偏光板が有する支持体、および、前記液晶セルの順に配置されている、液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法、偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、位相差フィルムと偏光子とを有する偏光板が、光学補償や反射防止などを目的として、液晶表示装置や有機電界発光装置などに用いられている。
このような偏光板が有する位相差フィルムの製造方法として、特許文献1には、脂環式オレフィン系ポリマーからなるフィルム(支持体)の表面に、液晶性化合物を含む液晶組成物を塗布して、支持体の表面に液晶層が形成された位相差フィルムを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-164142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されているように、位相差フィルムの配向性を向上する方法として支持体に配向処理に施す方法が知られているが、配向処理の条件等によって位相差フィルムの配向性にばらつきが生じるという問題がある。そのため、配向性に優れた位相差フィルムを得るためには、配向処理の条件の厳密な管理が必要になる等、製造手順が煩雑になる場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、支持体に配向処理を施さなくても、優れた配向性を有する位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法、偏光板および液晶表示装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、支持体と、支持体に接触するように形成された液晶層とを有する位相差フィルムにおいて、表面エネルギーおよび表面エネルギーに含まれる非極性の分散力成分が所定値以上の支持体を用い、かつ、位相差フィルムのコントラストが所定値超であれば、配向処理を施した支持体を用いなくても、配向性に優れた位相差フィルムが得られることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者は、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
[1] 支持体と、液晶性化合物を含有する液晶組成物を用いて上記支持体に接触するように形成された液晶層と、を有し、
上記支持体の上記液晶層が形成される面の表面エネルギーが45mN/m以上、かつ、表面エネルギーに含まれる非極性の分散力成分が45mN/m以上であり、
上記液晶性化合物が配向した状態で固定化されており、
コントラストが10000超である、位相差フィルム。
[2] 上記支持体を構成する材料がポリカーボネートである、[1]に記載の位相差フィルム。
[3] 上記液晶層がスメクチック性を示す、[1]または[2]に記載の位相差フィルム。
[4] 上記液晶組成物が、さらに、重合性基および後述の式(B)で表されるボロン酸基を有するボロン酸モノマーを含有する、[1]~[3]のいずれかに位相差フィルム。
後述の式(B)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の、脂肪族炭化水素基、アリール基、またはヘテロ環基を表す。R1およびR2は、互いに連結して環を形成してもよい。*は結合位置を示す。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法であって、
液晶性化合物と溶剤とを含む液晶組成物を支持体の表面に塗布して、上記支持体に接するように液晶層を形成する工程を含み、
上記溶剤が、上記支持体を溶解させない溶剤Aと、上記溶剤Aよりも沸点が低く、上記支持体を溶解させる溶剤Bとを含有し、
上記溶剤Aおよび上記溶剤Bの含有量がいずれも、上記液晶組成物の全質量に対して、10質量%以上である、位相差フィルムの製造方法。
[6] [1]~[4]のいずれかに記載の位相差フィルムと、偏光子と、を有する、偏光板。
[7] 上記偏光子と、上記位相差フィルムが有する液晶層と、上記位相差フィルムが有する支持体と、がこの順に配置されている、[6]に記載の偏光板。
[8] 上記支持体の遅相軸が、上記偏光子の吸収軸と平行であり、
上記支持体は、Re1が100~180nm、かつ、Rth1が50~90nmであり、
上記液晶層は、Re2が-10~10nm、かつ、Rth2が-150~-80nmであり、
上記支持体および上記液晶層が、逆波長分散性を有する、[6]または[7]に記載の偏光板。
但し、Re1は支持体の波長550nmにおける面内レターデーション(nm)を意味し、Rth1は支持体の波長550nmにおける厚み方向のレターデーション(nm)を意味し、Re2は液晶層の波長550nmにおける面内レターデーション(nm)を意味し、Rth2は液晶層の波長550nmにおける厚み方向のレターデーション(nm)を意味する。
[9] [6]~[8]のいずれかに記載の偏光板と、横電界方式の液晶セルと、を有する液晶表示装置であって、
視認側から、上記偏光板が有する偏光子、上記偏光板が有する液晶層、上記偏光板が有する支持体、および、上記液晶セルの順に配置されている、液晶表示装置。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、支持体に配向処理を施さなくても、優れた配向性を有する位相差フィルム、位相差フィルムの製造方法、偏光板および液晶表示装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、角度について「直交」および「平行」とは、厳密な角度±10°の範囲を意味するものとし、角度について「同一」および「異なる」は、その差が5°未満であるか否かを基準に判断できる。
また、本明細書では、「可視光」とは、380~780nmのことをいう。また、本明細書では、測定波長について特に付記がない場合は、測定波長は550nmである。
次に、本明細書で用いられる用語について説明する。
【0010】
<遅相軸>
本明細書において、「遅相軸」とは、面内において屈折率が最大となる方向を意味する。なお、位相差フィルムの遅相軸という場合は、位相差フィルム全体の遅相軸を意図する。
【0011】
<傾斜角>
本明細書において、「傾斜角」(チルト角とも称する)とは、傾斜した液晶性化合物が層平面となす角度を意味し、液晶性化合物の屈折率楕円体において最大の屈折率の方向が層平面となす角度のうち、最大の角度を意味する。したがって、正の光学的異方性を持つ棒状液晶性化合物では、チルト角は棒状液晶性化合物の長軸方向すなわちダイレクター方向と層平面とのなす角度を意味する。また、本発明において、「平均チルト角」とは、位相差フィルムの上界面でのチルト角から下界面までのけい角の平均値を意味する。
【0012】
<Re(λ)、Rth(λ)>
本明細書において、「Re(λ)」および「Rth(λ)」とは、それぞれ、波長λにおける面内のレターデーション、および、厚さ方向のレターデーションを表す。
ここで、面内レターデーションおよび厚み方向のレターデーションの値は、AxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)を用い、測定波長の光を用いて測定した値をいう。
具体的には、AxoScan OPMF-1にて、平均屈折率((Nx+Ny+Nz)/3)と膜厚(d(μm))を入力することにより、
遅相軸方向(°)
Re(λ)=R0(λ)
Rth(λ)=((nx+ny)/2-nz)×d
が算出される。
なお、R0(λ)は、AxoScan OPMF-1で算出される数値として表示されるものであるが、Re(λ)を意味している。
【0013】
[位相差フィルム]
本発明の位相差フィルムは、支持体と、液晶性化合物を含有する液晶組成物を用いて上記支持体に接触するように形成された液晶層と、を有する。
また、上記支持体の上記液晶層が形成される面の表面エネルギーが45mN/m以上、かつ、表面エネルギーに含まれる非極性の分散力成分が45mN/m以上である。
また、上記液晶性化合物は、配向した状態で固定化されている。
また、本発明の位相差フィルムは、コントラストが10000超である。
本発明の位相差フィルムは、配向処理を施した支持体を用いなくても、配向性に優れている。この理由の詳細は未だ明らかになっていないが、以下の理由によるものと推測される。
【0014】
表面エネルギーおよび非極性の分散力成分の値が所定値以上の支持体を用いると、液晶組成物の濡れ性が向上して、支持体と液晶層との密着性が良好になる。このように支持体と液晶層との密着性が良好である場合、液晶層に含まれる液晶組成物の配向の乱れが生じにくくなる。
また、コントラストの高い位相差フィルムは、支持体の液晶層の形成面の表面荒れが少ない場合に得られやすい。このように、表面荒れの少ない支持体の表面に配置された液晶性化合物は、配向の乱れが少なく良好に配向しやすくなる。
このように、支持体の表面エネルギーおよび非極性の分散力成分が所定値以上であることで奏する効果、ならびに、位相差フィルムのコントラストの高いことで奏する効果が相乗的に作用して、配向性が優れた位相差フィルムが得られたと推測される。
【0015】
位相差フィルムのコントラストは、10000超であり、本発明の効果がより発揮される点から、20000以上が好ましく、30000以上がより好ましく、50000以上が特に好ましい。
位相差フィルムのコントラストの上限値は特に限定されないが、通常1000000以下である。
本明細書の位相差フィルムのコントラストの値は、後述の実施例欄の記載方法にしたがって測定される。
【0016】
位相差フィルムの厚みは、2~210μmが好ましく、3~110μmがより好ましく、5~80μmが特に好ましい。なお、位相差フィルムの膜厚とは、位相差フィルムが複数の層を有する場合には、この層を含めた全体の膜厚を指す。
【0017】
位相差フィルムは、各種表示装置、発光装置、偏光板などの各種光学素子などの光学部材に用いることができる。
【0018】
〔支持体〕
本発明における支持体は、後述の液晶組成物を塗布するための基材としての機能を有する部材である。
支持体の液晶層が形成される面の表面エネルギー(以下、単に「表面エネルギー」ともいう。)は、45mN/m以上あり、本発明の効果がより発揮される点から、47mN/m以上が好ましく、49mN/m以上がより好ましい。
表面エネルギーの上限値は、特に限定されないが、80mN/m以下が好ましく、75mN/m以下がより好ましい。
また、上記表面エネルギーに含まれる非極性の分散力成分(以下、単に「分散力成分」ともいう。)は、45mN/m以上であり、本発明の効果がより発揮される点から、47mN/m以上が好ましく、49mN/m以上がより好ましい。
分散力成分の上限値は、特に限定されないが、80mN/m以下が好ましく、75mN/m以下がより好ましい。
また、表面エネルギーと分散力成分との差[(表面エネルギー)-(分散力成分)]は、0~7mN/mが好ましく、0~5mN/mがより好ましく、0~3mN/mが特に好ましい。これにより、疎水的な液晶組成物が支持体でより濡れ拡がりやすくなるので、支持体と液晶層との密着性がより向上して、配向性により優れた位相差フィルムが得られる。
【0019】
ここで、上記表面エネルギー(γs:単位、mN/m)および分散力成分(γs:単位、mN/m)は、D.K.Owens:J.Appl.Polym.Sci.,13,1741(1969)を参考に、測定対象となる支持体の表面で、純水HOとヨウ化メチレンCHを用いて実験的に求めることができる。このとき、純水およびヨウ化メチレンのそれぞれの接触角をθH2OおよびθCH2I2として、下記の連立方程式(SA)および(SB)によりγsおよびγs(極性成分:単位、mN/m)を求め、その和で表される値γs(=γs+γs)で定義されるものとする。また、接触角は、温度20℃~27℃、相対湿度50~65%の環境下で、2時間以上調湿させた後に、温度25℃、相対湿度60%の環境下で測定した値を採用し、接触角計(例えば、Dropmaster(協和界面科学株式会社製))を用いて測定することができる。
1+cosθH2O=2√γs(√γH2O /γH2O )+2√γs(√γH2O /γH2O ) ・・・(SA)
1+cosθCH2I2=2√γs(√γCH2I2 /γCH2I2 )+2√γs(√γCH2I2 /γCH2I2 ) ・・・(SB)
(ただし、γH2O =21.8、γH2O =51.0、γH2O =72.8、γCH2I2 =49.5、γCH2I2 =1.3、γCH2I2 =50.8とする。)
【0020】
支持体を構成する材料としては、支持体に配向処理を施さなくても、表面エネルギーおよび分散力成分が上述の値を満たす材料を用いればよい。このような材料の中でも、後述するRe1およびRth1の数値範囲を満たす点、逆波長分散性を有する点、位相差フィルムの配向性により優れる点、および、支持体と液晶層との密着性により優れる点から、ポリカーボネートが好ましい。なお、逆波長分散性の定義については後述する。
【0021】
支持体は、透明であるのが好ましい。なお、本発明でいう「透明」とは、可視光の透過率が60%以上であることを示し、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
支持体の厚みは、特に限定されないが、1~200μmが好ましく、2~100μmであるのがより好ましい。
【0022】
位相差フィルムは、ポジティブAプレートであることが好ましい。
なお、本明細書において、ポジティブAプレートは以下のように定義する。ポジティブAプレート(正のAプレート)は、フィルム面内の遅相軸方向(面内での屈折率が最大となる方向)の屈折率をnx、面内の遅相軸と面内で直交する方向の屈折率をny、厚さ方向の屈折率をnzとしたとき、式(A1)の関係を満たすものである。なお、ポジティブAプレートはRthが正の値を示す。
式(A1) nx>ny≒nz
なお、上記「≒」とは、両者が完全に同一である場合だけでなく、両者が実質的に同一である場合も包含する。「実質的に同一」とは、例えば、(ny-nz)×d(ただし、dはフィルムの厚みである)が、-10~10nm、好ましくは-5~5nmの場合も「ny≒nz」に含まれる。
【0023】
〔液晶層〕
本発明における液晶層は、支持体に接触するように支持体の表面に形成される。すなわち、支持体と液晶層との間には、他の部材(例えば、いわゆる配向膜)などが存在しない。
【0024】
液晶層において、液晶性化合物が配向した状態で固定化されており、この場合、液晶性化合物はもはや液晶性を示す必要はない。
液晶層は、コントラスト向上の観点から、スメクチック性を示すのが好ましい。すなわち、液相層の形成に使用する液晶組成物に含まれる液晶性化合物がスメクチック相の状態で固定されていることが好ましい。
【0025】
液晶層の厚みは、1~5μmが好ましく、1~4μmがより好ましく、1~3μmが特に好ましい。
【0026】
<液晶組成物>
本発明における液晶層は、液晶性化合物を含有する液晶組成物を用いて形成される。
【0027】
(液晶性化合物)
液晶性化合物は、液晶性を示す化合物であれば特に限定されないが、本発明の効果がより発揮される点から、重合性液晶化合物が好ましい。
重合性液晶化合物の種類は特に制限されないが、その形状から、棒状タイプ(棒状液晶性化合物)と円盤状タイプ(円盤状液晶性化合物。ディスコティック液晶性化合物)に分類できる。さらにそれぞれ低分子タイプと高分子タイプがある。高分子とは一般に重合度が100以上のものを指す(高分子物理・相転移ダイナミクス,土井 正男 著,2頁,岩波書店,1992)。本発明では、いずれの液晶性化合物を用いることもできる。2種以上の棒状液晶性化合物、2種以上の円盤状液晶性化合物、または、棒状液晶性化合物と円盤状液晶性化合物との混合物を用いてもよい。
これらの中でも、棒状液晶性化合物を用いることが好ましい。棒状液晶性化合物をホメオトロピック(垂直)配向させることで、形成される液晶層をポジティブCプレートとして機能させることが容易になるという利点があるためである。
【0028】
本明細書において、ポジティブCプレートは以下のように定義する。ポジティブCプレート(正のCプレート)は、液相層における面内の遅相軸方向(面内での屈折率が最大となる方向)の屈折率をnx、面内の遅相軸と面内で直交する方向の屈折率をny、厚さ方向の屈折率をnzとしたとき、式(C1)の関係を満たすものである。なお、ポジティブCプレートはRthが負の値を示す。
式(C1) nx≒ny<nz
なお、上記「≒」とは、両者が完全に同一である場合だけでなく、両者が実質的に同一である場合も包含する。「実質的に同一」とは、例えば、(nx-ny)×d(ただし、dはフィルムの厚みである)が、0~10nm、好ましくは0~5nmの場合も「nx≒ny」に含まれる。
【0029】
本明細書における重合性液晶化合物とは、重合性基を有する液晶性化合物のことを指す。重合性基の種類は特に限定されないが、ラジカル重合またはカチオン重合が可能な重合性基が好ましい。ラジカル重合性基およびカチオン重合性基の具体例は、後述の式(I)において説明する通りである。
【0030】
重合性液晶化合物は、本発明の効果がより発揮される点から、逆波長分散性の重合性液晶化合物が好ましい。
ここで、本明細書において「逆波長分散性」とは、層(フィルム)の特定波長(可視光範囲)における面内のレターデーション(Re)値を測定した際に、測定波長が大きくなるにつれてRe値またはRth値の絶対値が同等または高くなることをいい、Re(450)≦Re(550)≦Re(650)や|Rth(450)|≦|Rth(550)|≦|Rth(650)|の関係を満たすものをいう。また、逆波長分散性の重合性化合物とは、これを用いて作製された層(フィルム)が上記関係を満たすものをいう。
【0031】
逆波長分散性の重合性液晶化合物としては、式(I)で表される化合物が好ましい。
-SP-A-D-G-D-Ar-D-G-D-A-SP-L ・・・(I)
【0032】
上記式(I)中、D、D、DおよびDは、それぞれ独立に、単結合、-CO-O-、-C(=S)O-、-CR-、-CR-CR-、-O-CR-、-CR-O-CR-、-CO-O-CR-、-O-CO-CR-、-CR-O-CO-CR-、-CR-CO-O-CR-、-NR-CR-、または、-CO-NR-を表す。R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または、炭素数1~4のアルキル基を表す。
また、上記式(I)中、GおよびGは、それぞれ独立に、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を表し、脂環式炭化水素基を構成する-CH-の1個以上が-O-、-S-または-NH-で置換されていてもよい。
また、上記式(I)中、AおよびAは、それぞれ独立に、炭素数6以上の芳香環、または、炭素数6以上のシクロアルカン環を表す。
また、上記式(I)中、SPおよびSPは、それぞれ独立に、単結合、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、または、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を構成する-CH-の1個以上が-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、もしくは、-CO-に置換された2価の連結基を表し、Qは、置換基を表す。
また、上記式(I)中、LおよびLは、それぞれ独立に1価の有機基を表し、LおよびLの少なくとも一方は重合性基を表す。ただし、Arが、下記式(Ar-3)で表される芳香環である場合は、LおよびLならびに下記式(Ar-3)中のLおよびLの少なくとも1つが重合性基を表す。
【0033】
上記式(I)中、GおよびGが示す炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基としては、5員環又は6員環であることが好ましい。また、脂環式炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよいが飽和脂環式炭化水素基が好ましい。GおよびGで表される2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、特開2012-21068号公報の[0078]段落の記載を参酌でき、この内容は本願明細書に組み込まれる。
【0034】
上記式(I)中、AおよびAが示す炭素数6以上の芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナンスロリン環等などの芳香族炭化水素環;フラン環、ピロール環、チオフェン環、ピリジン環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環等の芳香族複素環;が挙げられる。なかでも、ベンゼン環(例えば、1,4-フェニル基など)が好ましい。
また、上記式(I)中、AおよびAが示す炭素数6以上のシクロアルカン環としては、例えば、シクロヘキサン環、シクロペプタン環、シクロオクタン環、シクロドデカン環、シクロドコサン環などが挙げられ、なかでも、シクロヘキサン環(例えば、シクロヘキサン-1,4-ジイル基など)が好ましい。
【0035】
上記式(I)中、SPおよびSPが示す炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、メチルヘキシレン基、へプチレン基等が好適に挙げられる。なお、SPおよびSPは、上述した通り、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を構成する-CH-の1個以上が-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、もしくは、-CO-に置換された2価の連結基であってもよく、Qで表される置換基としては、後述する式(Ar-1)中のYが有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0036】
上記式(I)中、LおよびLが示す1価の有機基としては、例えば、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などを挙げることができる。アルキル基は、直鎖状、分岐状または環状であってもよいが、直鎖状が好ましい。アルキル基の炭素数は、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、1~10が更に好ましい。また、アリール基は、単環であっても多環であってもよいが単環が好ましい。アリール基の炭素数は、6~25が好ましく、6~10がより好ましい。また、ヘテロアリール基は、単環であっても多環であってもよい。ヘテロアリール基を構成するヘテロ原子の数は1~3が好ましい。ヘテロアリール基を構成するヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子、酸素原子が好ましい。ヘテロアリール基の炭素数は6~18が好ましく、6~12がより好ましい。また、アルキル基、アリール基およびヘテロアリール基は、無置換であってもよく、置換基を有していてもよい。置換基としては、後述する式(Ar-1)中のYが有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0037】
上記式(I)中、LおよびLの少なくとも一方が示す重合性基は、特に限定されないが、ラジカル重合またはカチオン重合可能な重合性基が好ましい。
ラジカル重合性基としては、一般に知られているラジカル重合性基を用いることができ、好適なものとして、アクリロイル基またはメタクリロイル基を挙げることができる。この場合、重合速度はアクリロイル基が一般的に速いことが知られており、生産性向上の観点からアクリロイル基が好ましいが、メタクリロイル基も重合性基として同様に使用することができる。
カチオン重合性基としては、一般に知られているカチオン重合性を用いることができ、具体的には、脂環式エーテル基、環状アセタール基、環状ラクトン基、環状チオエーテル基、スピロオルソエステル基、および、ビニルオキシ基などを挙げることができる。中でも、脂環式エーテル基、または、ビニルオキシ基が好適であり、エポキシ基、オキセタニル基、または、ビニルオキシ基が特に好ましい。
特に好ましい重合性基の例としては下記が挙げられる。
【0038】
【化1】
【0039】
上記式(I)中、耐久性が良好となる理由から、上記式(I)中のLおよびLが、いずれも重合性基であることが好ましく、アクリロイル基またはメタクリロイル基であることがより好ましい。
【0040】
一方、上記式(I)中、Arは、下記式(Ar-1)~(Ar-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの芳香環を表す。なお、下記式(Ar-1)~(Ar-5)中、*は、上記式(I)中のDまたはDとの結合位置を表す。
【0041】
【化2】
【0042】
ここで、上記式(Ar-1)中、Qは、NまたはCHを表し、Qは、-S-、-O-、または、-N(R)-を表し、Rは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、Yは、置換基を有してもよい、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、または、炭素数3~12の芳香族複素環基を表す。
が示す炭素数1~6のアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基などが挙げられる。
が示す炭素数6~12の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、2,6-ジエチルフェニル基、ナフチル基などのアリール基が挙げられる。
が示す炭素数3~12の芳香族複素環基としては、例えば、チエニル基、チアゾリル基、フリル基、ピリジル基などのヘテロアリール基が挙げられる。
また、Yが有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
アルキル基としては、例えば、炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、シクロヘキシル基等)がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることが更に好ましく、メチル基またはエチル基であるのが特に好ましい。
アルコキシ基としては、例えば、炭素数1~18のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~8のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-ブトキシ基、メトキシエトキシ基等)がより好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基であることが更に好ましく、メトキシ基またはエトキシ基であるのが特に好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、中でも、フッ素原子、塩素原子であるのが好ましい。
【0043】
また、上記式(Ar-1)~(Ar-5)中、Z、ZおよびZは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、-OR、-NR、または、-SRを表し、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、ZおよびZは、互いに結合して芳香環を形成してもよい。
炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、tert-ブチル基、1,1-ジメチル-3,3-ジメチル-ブチル基が更に好ましく、メチル基、エチル基、tert-ブチル基が特に好ましい。
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基等の単環式飽和炭化水素基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基、シクロデセニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロオクタジエニル基、シクロデカジエン等の単環式不飽和炭化水素基;ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、トリシクロ[3.3.1.13,7]デシル基、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデシル基、アダマンチル基等の多環式飽和炭化水素基;等が挙げられる。
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、具体的には、例えば、フェニル基、2,6-ジエチルフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられ、炭素数6~12のアリール基(特にフェニル基)が好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、中でも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子であるのが好ましい。
一方、R~Rが示す炭素数1~6のアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基などが挙げられる。
【0044】
また、上記式(Ar-2)および(Ar-3)中、AおよびAは、それぞれ独立に、-O-、-N(R10)-、-S-、および、-CO-からなる群から選択される基を表し、R10は、水素原子または置換基を表す。
10が示す置換基としては、上記式(Ar-1)中のYが有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0045】
また、上記式(Ar-2)中、Xは、水素原子または置換基が結合していてもよい第14~16族の非金属原子を表す。
また、Xが示す第14~16族の非金属原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、置換基を有する窒素原子、置換基を有する炭素原子が挙げられ、置換基としては、具体的には、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキル置換アルコキシ基、環状アルキル基、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アルキルカルボニル基、スルホ基、水酸基等が挙げられる。
【0046】
また、上記式(Ar-3)中、DおよびDは、それぞれ独立に、単結合、-CO-O-、-C(=S)O-、-CR-、-CR-CR-、-O-CR-、-CR-O-CR-、-CO-O-CR-、-O-CO-CR-、-CR-O-CO-CR-、-CR-CO-O-CR-、-NR-CR-、または、-CO-NR-を表す。R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または、炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0047】
また、上記式(Ar-3)中、SPおよびSPは、それぞれ独立に、単結合、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、または、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基を構成する-CH-の1個以上が-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、もしくは、-CO-に置換された2価の連結基を表し、Qは、置換基を表す。置換基としては、上記式(Ar-1)中のYが有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0048】
また、上記式(Ar-3)中、LおよびLは、それぞれ独立に1価の有機基を表し、LおよびLならびに上記式(I)中のLおよびLの少なくとも1つが重合性基を表す。
1価の有機基としては、上記式(I)中のLおよびLにおいて説明したものと同様のものが挙げられる。
また、重合性基としては、上記式(I)中のLおよびLにおいて説明したものと同様のものが挙げられる。
【0049】
また、上記式(Ar-4)~(Ar-5)中、Axは、芳香族炭化水素環および芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも1つの芳香環を有する、炭素数2~30の有機基を表す。
また、上記式(Ar-4)~(Ar-5)中、Ayは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基、または、芳香族炭化水素環および芳香族複素環からなる群から選択される少なくとも1つの芳香環を有する、炭素数2~30の有機基を表す。
ここで、AxおよびAyにおける芳香環は、置換基を有していてもよく、AxとAyとが結合して環を形成していてもよい。
また、Qは、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基を表す。
AxおよびAyとしては、特許文献2(国際公開第2014/010325号)の[0039]~[0095]段落に記載されたものが挙げられる。
また、Qが示す炭素数1~6のアルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基などが挙げられ、置換基としては、上記式(Ar-1)中のYが有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0050】
上記式(I)で表される化合物としては、具体的には、例えば、特開2008-297210号公報に記載の一般式(I)で表される化合物(特に、段落番号[0034]~[0039]に記載の化合物)、特開2010-084032号公報に記載の一般式(1)で表される化合物(特に、段落番号[0067]~[0073]に記載の化合物)、特開2016-053709号公報に記載の一般式(II)で表される化合物(特に、段落番号[0036]~[0043]に記載の化合物)、および、特開2016-081035公報に記載の一般式(1)で表される化合物(特に、段落番号[0043]~[0055]に記載の化合物)等が挙げられる。
【0051】
本発明においては、逆波長分散性が向上する理由から、上記式(I)で表される化合物は、上記式(I)中のAおよびAが、それぞれ独立に、炭素数6以上のシクロアルカン環を表す重合性液晶化合物を用いてもよく、この中でも、上記式(I)中のAおよびAが、それぞれ独立に、炭素数6以上のシクロアルカン環を表し、かつ、上記式(I)中のDおよびDが、いずれも単結合を表す重合性液晶化合物が好ましい。
このような重合性液晶化合物としては、例えば、下記式(1)~(12)で表される化合物が好適に挙げられ、具体的には、下記式(1)~(12)中のK(側鎖構造)として、下記表1および表2に示す側鎖構造を有する化合物がそれぞれ挙げられる。
なお、下記表1および表2中、Kの側鎖構造に示される「*」は、芳香環との結合位置を表す。
また、以下の説明においては、下記式(1)で表され、かつ、下記表1中の1-1に示す基を有する化合物を「化合物(1-1-1)」と表記し、他の構造式および基を有する化合物についても同様の方法で表記する。例えば、下記式(2)で表され、かつ、下記表2中の2-3に示す基を有する化合物は「化合物(2-2-3)」と表記できる。
また、下記表1中の1-2および下記表2中の2-2で表される側鎖構造において、それぞれアクリロイルオキシ基およびメタクリロイル基に隣接する基は、プロピレン基(メチル基がエチレン基に置換した基)を表し、メチル基の位置が異なる位置異性体の混合物を表す。
【化3】
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
液晶性化合物の含有量は、液晶組成物の全固形分量に対して、50~99質量%が好ましく、60~99質量%がより好ましい。
液晶組成物の全固形分量とは、溶剤を除く成分の合計質量を意味する。
【0055】
(重合性棒状化合物)
液晶組成物は、逆波長分散性を有しない重合性棒状化合物を含有していてもよい。この重合性棒状化合物は液晶性の有無を問わない。したがって、液晶性を有する重合性棒状化合物は、上述の液晶性化合物にも分類できる。
重合性棒状化合物の添加により、液晶組成物の液晶配向性を制御することができる。
特に、重合性棒状化合物としては、特開2015-163596に記載の式(I)の構造の液晶性を持つ化合物を好ましく用いることができる。
重合性棒状化合物の含有量は、逆波長分散性の重合性液晶化合物100質量部に対して、0~80質量部が好ましく、0~70質量部がより好ましい。
重合性棒状化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0056】
(他の重合性化合物)
液晶組成物は、上述の逆波長分散性の重合性液晶化合物、および、上述の重合性棒状化合物以外の他の重合性化合物を含有していてもよい。他の重合性化合物は、液晶性の有無を問わない。したがって、他の重合性化合物のうち、液晶性を有する他の重合性化合物は、上述の液晶性化合物にも分類できる。
ここで、他の重合性化合物が有する重合性基は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリロイル基を有しているのが好ましい。
【0057】
位相差フィルムの耐久性が向上する理由などから、重合性基を2~4個有する重合性化合物であるのが好ましく、重合性基を2個有する重合性化合物であるのがより好ましい。
【0058】
他の重合性化合物の具体例としては、特開2014-077068号公報の[0030]~[0033]段落に記載された式(M1)、(M2)、(M3)で表される液晶性を持つ化合物が挙げられ、より具体的には、同公報の[0046]~[0055]段落に記載された具体例が挙げられる。
また、液晶性を持たない化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート等の多官能アクリレートが挙げられる。
【0059】
他の重合性化合物の含有量は、逆波長分散性の重合性液晶化合物100質量部に対して、0~80質量部が好ましく、0~70質量部がより好ましい。
他の重合性化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0060】
(ボロン酸モノマー)
液晶組成物は、重合性基および下記式(B)で表されるボロン酸基を有するボロン酸モノマーを含有するのが好ましい。ボロン酸モノマーは、垂直配向剤および密着改良剤の一種として用いられる。
液晶組成物がボロン酸モノマーを含有すれば、支持体と液晶層との密着性の向上、位相差フィルムのコントラストの向上、および、液晶表示装置の光漏れの低減等の効果を奏する。
【0061】
【化4】
【0062】
式(B)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換の、脂肪族炭化水素基、アリール基、またはヘテロ環基を表す。
脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数1~20の置換もしくは無置換の直鎖もしくは分岐のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、iso-プロピル基等)、炭素数3~20の置換もしくは無置換の環状アルキル基(例えば、シクロヘキシル基等)、炭素数2~20のアルケニル基(例えば、ビニル基等)が挙げられる。
アリール基としては、例えば、炭素数6~20の置換もしくは無置換のフェニル基(例えば、フェニル基、トリル基など)、炭素数10~20の置換もしくは無置換のナフチル基等が挙げられる。
ヘテロ環基としては、例えば、少なくとも一つのヘテロ原子(例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等)を含む、置換もしくは無置換の5員もしくは6員環の基であり、例えば、ピリジル基、イミダゾリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基等が挙げられる。R1およびR2は互いに連結して環を形成してもよく、例えば、R1およびR2のイソプロピル基が連結して、4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン環を形成してもよい。
式(B)中、R1およびR2として好ましくは、水素原子、炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基、R1およびR2が連結して環を形成した場合であり、最も好ましくは、水素原子である。
式(B)中、*は結合位置を示す。
なお、式(B)で表されるボロン酸基の数は特に制限されず、1つでも、複数(2つ以上)であってもよい。
【0063】
なお、これらの脂肪族炭化水素基、アリール基、およびヘテロ環基に含まれる炭化水素基は任意の置換基によって1個以上置換されていてもよい。置換基の種類は、例えば、特開2013-054201号公報の段落0046に記載の置換基が挙げられる。
【0064】
重合性基の種類は特に制限されず、例えば、ラジカル重合性基、カチオン重合性基などが挙げられる。ラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、アクリルアミド基、ビニル基、スチリル基、アリル基などが挙げられる。カチオン重合性基としては、ビニルエーテル基、オキシラニル基、オキセタニル基などが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ビニル基、オキシラニル基またはオキセタニル基が好ましく、(メタ)アクリロイル基またスチリル基がさらに好ましく、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
重合性基の数は特に制限されず、1つでも、複数(2つ以上)であってもよい。
【0065】
ボロン酸モノマーの分子量は特に制限されないが、多官能モノマーとの相溶性に優れる点で、120~1200が好ましく、180~800がより好ましい。
【0066】
ボロン酸モノマーの好適態様としては、偏光子と樹脂層との密着性がより優れる点で、下記式(B-1)で表されるボロン酸モノマーが挙げられる。
【0067】
【化5】
【0068】
式(B-1)中のR1およびR2の定義は、上述の通りである。
Zは、重合性基を表す。重合性基の定義は、上述の通りである。
1は、単結合または2価の連結基を表す。2価の連結基としては、例えば、-O-、-CO-、-NH-、-CO-NH-、-COO-、-O-COO-、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロ環基(ヘテロアリール基)、および、それらの組み合わせから選ばれる2価の連結基が挙げられる。
なお、組み合わせとしては、例えば、-アリーレン基-COO-アリーレン基-O-アルキレン基-、-アリーレン基-COO-アルキレン基-などが挙げられる。
【0069】
以下に、ボロン酸モノマーの具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0070】
【化6】
【0071】
【化7】
【0072】
【化8】
【0073】
【化9】
【0074】
ボロン酸モノマーの含有量は、本発明の効果がより発揮される点から、液晶組成物の全固形分量に対して、1~10質量%が好ましく、1~9質量%がより好ましく、2~8質量%が特に好ましい。
【0075】
(溶剤)
本発明の重合性液晶組成物は、位相差フィルムを形成する作業性等の観点から、溶剤を含有するのが好ましい。
溶剤としては、有機溶剤が好ましく、具体的には、例えば、ケトン類(例えば、アセトン、2-ブタノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなど)、エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(例えば、シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンなど)、ハロゲン化炭素類(例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなど)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、水、アルコール類(例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルなど)、セロソルブアセテート類(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)等が挙げられ、本発明の効果がより発揮される点から、これらの中から適切な2種以上の溶剤を併用することが好ましい。
【0076】
溶剤の含有量は、液晶組成物の塗布性が向上する点から、液晶組成物の全質量に対して、55~85質量%が好ましく、60~80質量%がより好ましい。
溶剤を2種以上含有する場合、合計量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0077】
液晶組成物は、支持体を溶解させない溶剤Aと、溶剤Aよりも沸点が低く、支持体を溶解させる溶剤Bとを含有するのが好ましい。
ここで、溶剤Aは、支持体を溶解させない溶剤のうち、液晶組成物の全質量に対して10質量%以上含まれるものを意味する。また、溶剤Bは、溶剤Aよりも沸点が低く、支持体を溶解させる溶剤のうち、10質量%以上含まれるものを意味する。
このような溶剤Aおよび溶剤Bを含有する場合、液晶組成物を支持体に塗布した際に、支持体を溶解させる溶剤Bが溶剤Aと比較して迅速に蒸発または揮発するので、溶剤Bが支持体に与えるダメージを低減できる。これにより、支持体の表面荒れを抑制できるので、配向性により優れた位相差フィルムが得られる。
【0078】
本明細書において、「支持体を溶解させない溶剤」とは、溶剤で満たした30ml容量のサンプル管に24×36mmのサイズの支持体を5時間浸漬して、サンプル管から取り出した支持体を乾燥した後に質量を測定した際に、支持体の溶解割合[100×(浸漬前の支持体の質量-浸漬後の支持体の質量)/(浸漬前の支持体の質量)]を5%以下にできる溶剤を意味する。
また、「支持体を溶解させる溶剤」とは、「支持体を溶解させない溶剤」の定義で示した方法と同様にして支持体の溶解割合を求めた際に、支持体の溶解割合を5%超にできる溶剤を意味する。
なお、本明細書における溶剤の沸点とは、特に断りのない限り、標準沸点を意味する。
【0079】
溶剤Aと溶剤Bの沸点の差(溶剤Aの沸点-溶剤Bの沸点)は、20~120℃が好ましく、25~110℃がより好ましく、50~95℃がより好ましい。沸点の差が上記範囲内にあれば、位相差フィルムのコントラストをより高くすることができる。
溶剤Aの沸点は、本発明の効果がより発揮される点から、100~180℃が好ましく、105~170℃がより好ましく、110~160℃が特に好ましく、130~160℃が最も好ましい。
溶剤Bの沸点は、本発明の効果がより発揮される点から、40~100℃が好ましく、45~95℃がより好ましく、50~90℃が特に好ましい。
【0080】
溶剤Aの具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびメチルイソブチルケトン等が挙げられる。
溶剤Bの具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルおよび酢酸メチル等が挙げられる。
【0081】
液晶組成物が溶剤Aおよび溶剤Bを含有する場合、溶剤Aおよび溶剤Bの含有量はいずれも、液晶組成物の全質量に対して10質量%以上である。
溶剤Aの含有量は、液晶性化合物の溶解性を維持する点から、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、液晶組成物の塗布性が向上する点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
溶剤Bの含有量は、液晶性化合物の溶解性が向上する点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、支持体の表面荒れをより低減できるという点から、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0082】
(他の成分)
液晶組成物は、上記以外の他の成分を含有してもよく、例えば、上記以外の液晶性化合物、レベリング剤、界面活性剤、チルト各制御剤、配向助剤、可塑剤、および、架橋剤などが挙げられる。
【0083】
[位相差フィルムの製造方法]
本発明の位相差フィルムは、例えば、以下の製造方法により得られる。
すなわち、本発明の位相差フィルムの製造方法の一例は、液晶性化合物と溶剤とを含む液晶組成物を支持体の表面に塗布して、支持体に接するように液晶層を形成する工程を含む。また、上記溶剤は、支持体を溶解させない溶剤Aと、溶剤Aよりも沸点が低く、支持体を溶解させる溶剤Bと、含有する。また、溶剤Aおよび溶剤Bの含有量がいずれも、液晶組成物の全質量に対して、10質量%以上である。
【0084】
本発明の位相差フィルムの製造方法で使用する支持体および液晶組成物については、本発明の位相差フィルムの項で説明した通りであるので、その説明を省略する。
このように、上述の支持体(すなわち、表面エネルギーおよび非極性の分散力成分の値が所定値以上である支持体)、および、溶剤Aおよび溶剤Bを含む液晶組成物を用いることにより、位相差フィルムのコントラストを上述の値にすることが容易となり、配向性に優れた位相差フィルムが得られる。
【0085】
液晶組成物の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
【0086】
本発明の位相差フィルムの製造方法において、液晶組成物を支持体に塗布して得られる塗膜に対して、配向処理を行うことが好ましい。
配向処理は、塗膜を室温(例えば、20~25℃)等で乾燥させる、または、加熱することにより行うことができる。配向処理で形成される液晶相は、サーモトロピック性をもつ液晶性化合物の場合、一般に温度または圧力の変化により転移させることができる。リオトロピック性をもつ液晶性化合物の場合には、溶剤量等の組成比によっても転移させることができる。
例えば、棒状の液晶性化合物がスメクチック相を発現する場合、ネマチック相を発現する温度領域の方が、棒状の液晶性化合物がスメクチック相を発現する温度領域よりも高いことが一般的である。したがって、棒状の液晶性化合物を含む場合には、ネマチック相が発現する温度領域まで液晶性化合物を加熱し、次に、液晶性化合物がスメクチック相を発現する温度領域まで加熱温度を低下させることにより、液晶性化合物をネマチック相からスメクチック相に転移させることができる。
液晶性化合物が棒状の液晶性化合物を含む場合において、液晶性化合物がネマチック相を発現する温度領域では、液晶性化合物がモノドメインを形成するまで一定時間加熱する必要がある。加熱時間(加熱熟成時間)は、10秒間~5分間が好ましく、10秒間~3分間がより好ましく、10秒間~2分間が特に好ましい。
液晶性化合物が棒状の液晶性化合物を含む場合において、液晶性化合物がスメクチック相を発現する温度領域では、棒状液晶性化合物がスメクチック相を発現するまで一定時間加熱する必要がある。加熱時間は、10秒間~5分間が好ましく、10秒間~3分間がさらに好ましく、10秒間~2分間が最も好ましい。
【0087】
本発明の位相差フィルムの製造方法において、液晶組成物を支持体に塗布して得られる塗膜に対して、硬化処理を行うことが好ましい。硬化処理は、液晶性化合物の配向を固定化するための固定化処理ということもできる。
硬化処理としては、活性エネルギー線の照射(光照射処理)および/または加熱処理が挙げられ、活性エネルギー線(好ましくは紫外線)の照射により行われることが好ましく、液晶性化合物が重合性液晶化合物を含む場合、重合性液晶化合物の重合により液晶が固定化される。
塗膜の硬化処理とともに、塗膜の配向処理を行う場合、配向処理後に硬化処理を行うことが好ましい。
【0088】
本発明の位相差フィルムの製造方法では、支持体に対する配向処理を施さない。このように、支持体に対する配向処理を施さなくても、上述した支持体および液晶組成物を使用することで、配向性に優れた位相差フィルムが得られるためである。
これにより、支持体の配向処理で必要とされる条件の管理等が不要になるので、位相差フィルムの製造手順が簡便になる。
【0089】
[偏光板]
本発明の偏光板は、上記位相差フィルムと、偏光子と、を有する。位相差フィルムの説明については、上述した通りであるので省略する。
【0090】
〔偏光子〕
偏光子(偏光膜)は、光を特定の直線偏光に変換する機能を有するいわゆる直線偏光子であればよい。偏光子としては、特に限定されないが、吸収型偏光子を利用することができる。
偏光子の種類は特に制限はなく、通常用いられている偏光子を利用することができ、例えば、ヨウ素系偏光子、二色性染料を利用した染料系偏光子、ポリエン系偏光子、および、ワイヤーグリッドを用いた偏光子のいずれも用いることができる。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般に、ポリビニルアルコールにヨウ素または二色性染料を吸着させ、延伸することで作製される。
また、偏光子として、サーモトロピック液晶性二色性色素(例えば、特開2011-237513号公報に記載の光吸収性異方性膜に用いられるサーモトロピック液晶性二色性色素)を用い、塗布等により作製した塗布型偏光子を用いることも好ましい。塗布型偏光子を用いることにより、ポリビニルアルコールを延伸した偏光子に対して、さらなる薄膜化が実現できる。また、曲げ等の外力が付加された場合においても、光学特性の変化が少ない偏光板を提供できる。
偏光子の厚みは特に制限されないが、5~40μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましく、5~20μmがさらに好ましい。上記厚みであれば、表示装置の薄型化に対応可能となる。
【0091】
本発明の偏光板において、偏光子と、位相差フィルムが有する液晶層と、位相差フィルムが有する支持体と、がこの順に配置されているのが好ましい。
【0092】
〔光学特性〕
本発明の偏光板において、支持体の遅相軸が偏光子の吸収軸と平行になるように配置されているのが好ましい。
支持体は、Re1が100~180nm、かつ、Rth1が50~90nmであるのが好ましい。また、液晶層は、Re2が-10~10nm、かつ、Rth2が-150~-80nmであるのが好ましい。
このように、Re1およびRth1が上記範囲にある支持体と、Re2およびRth2が上記範囲にある液晶層とを組み合せれば、横電界方式の液晶セルを有する液晶表示装置に適用した場合に、斜め方向から視認したときの光漏れおよび色味の変化がより少なくできる。
Re1は、上記効果がより発揮される点から、110~170nmがより好ましく、120~160nmが特に好ましい。Rth1は、上記効果がより発揮される点から、55~85nmがより好ましく、60~80nmが特に好ましい。
Re2は、上記効果がより発揮される点から、-5~5nmがより好ましく、-2~2nmが特に好ましい。Rth2は、上記効果がより発揮される点から、-140~-85nmがより好ましく、-130~-90nmが特に好ましい。
【0093】
ここで、Re1は支持体の波長550nmにおける面内レターデーション(nm)を意味し、Rth1は支持体の波長550nmにおける厚み方向のレターデーション(nm)を意味し、Re2は液晶層の波長550nmにおける面内レターデーション(nm)を意味し、Rth2は液晶層の波長550nmにおける厚み方向のレターデーション(nm)を意味する。
【0094】
支持体および液晶層はいずれも、斜め方向から視認したときの光漏れおよび色味の変化がより少なくなる点から、逆波長分散性を有するのが好ましい。逆波長分散性の定義は上述の通りである。
【0095】
〔偏光子保護フィルム〕
偏光子の表面上には、偏光子保護フィルムが配置されていてもよい。偏光子保護フィルムは、偏光子の片面上(位相差フィルム側とは反対側の表面上)にのみ配置されていてもよいし、偏光子の両面上に配置されていてもよい。
偏光子保護フィルムの構成は特に制限されず、例えば、いわゆる透明支持体やハードコート層であっても、透明支持体とハードコート層との積層体であってもよい。
ハードコート層としては、公知の層を使用することができ、例えば、多官能モノマーを重合硬化して得られる層であってもよい。
また、透明支持体としては、公知の透明支持体を使用することができ、例えば、透明支持体を形成する材料としては、トリアセチルセルロースに代表される、セルロース系ポリマー(以下、セルロースアシレートという)や、熱可塑性ノルボルネン系樹脂(日本ゼオン(株)製のゼオネックス、ゼオノア、JSR(株)製のアートン等)、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂を使用することができる。
偏光子保護フィルムの厚みは特に限定されないが、偏光板の厚みを薄くできる等の理由から50μm以下が好ましい。
【0096】
各層の間の密着性担保のために、各層の間に粘着層または接着層を配置してもよい。さらに、各層の間に透明支持体を配置してもよい。
【0097】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、上記偏光板と、横電界方式の液晶セルと、を有する液晶表示装置であって、視認側から、上記偏光板が有する偏光子、上記偏光板が有する液晶層、上記偏光板が有する支持体、および、上記液晶セルの順に配置されている。
このように、偏光板および液晶層を有する本発明の位相差フィルムは、光学補償フィルムとして好適に使用できる。
以下に、液晶表示装置を構成する液晶セルについて詳述する。
【0098】
〔液晶セル〕
本発明の液晶表示装置に使用される液晶セルは、横電界方式(IPS:In-Plane-Switching)である。
横電界方式の液晶セルは、棒状液晶分子が基板に対して実質的に平行に配向しており、基板面に平行な電界が印加することで液晶分子が平面的に応答する。横電界方式は電界無印加状態で黒表示となり、上下一対の偏光板の吸収軸は直交している。光学補償フィルムを用いて、斜め方向での黒表示時の漏れ光を低減させ、視野角を改良する方法が、特開平10-54982号公報、特開平11-202323号公報、特開平9-292522号公報、特開平11-133408号公報、特開平11-305217号公報、特開平10-307291号公報などに開示されている。
【実施例
【0099】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容および処理手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0100】
[実施例1]
<位相差フィルムの作製>
位相差フィルムの支持体としてポリカーボネートフィルム(帝人(株)製 商品名:ピュアエース Re1(550)=154nm、Rth1(550)=77nm、膜厚76μm)を準備した。
この支持体に配向処理を施さない状態で、支持体の片面に以下の組成で調製した液晶組成物1を、#3.6のワイヤーバーで塗布した。次いで、液晶組成物1の溶剤の乾燥および液晶性化合物の配向熟成のために、45℃の温風で60秒加熱した。窒素パージ下、酸素濃度100ppmで25℃にて紫外線照射(300mJ/cm)を行い、液晶性化合物の配向を固定化し、実施例1の位相差フィルムを作製した。液晶層の光学特性(Re2およびRth2)を表3に示す。
【0101】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶組成物1
―――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶性化合物R1 28.0質量部
液晶性化合物R2(逆波長分散性の液晶性化合物) 10.0質量部
液晶性化合物R3(逆波長分散性の液晶性化合物) 54.0質量部
液晶性化合物R4 8.0質量部
ボロン酸モノマーB1 4.5質量部
単量体K1 8.0質量部
重合開始剤P1 5.0質量部
重合開始剤P2 2.0質量部
界面活性剤S1 0.4質量部
界面活性剤S2 0.5質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶剤A)
56.2質量部
アセトン(溶剤B) 216.3質量部
メタノール 8.4質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0102】
・液晶性化合物R1
液晶性化合物R1は、下記液晶性化合物(RA)、(RB)および(RC)の83:15:2(質量比)の混合物である。
【化10】
【0103】
・液晶性化合物R2
【化11】
【0104】
・液晶性化合物R3
【化12】
【0105】
・液晶性化合物R4
【化13】
【0106】
・ボロン酸モノマーB1
【化14】
【0107】
・単量体K1:A-600(新中村化学工業株式会社)
【0108】
・重合開始剤P1
【化15】
【0109】
・重合開始剤P2
【化16】
【0110】
・界面活性剤S1(重量平均分子量:15,000)
下記式中、繰り返し単位の括弧に付された数値は質量%を意味する。
【化17】
【0111】
・界面活性剤S2(重量平均分子量:11,200)
下記式中、繰り返し単位の括弧に付された数値は質量%を意味する。
【化18】
【0112】
<保護フィルムの作製>
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0113】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアセテート溶液
―――――――――――――――――――――――――――――――――
酢化度60.7~61.1%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶剤) 336質量部
メタノール(第2溶剤) 29質量部
1-ブタノール(第3溶剤) 11質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0114】
別のミキシングタンクに、下記のレターデーション上昇剤(A)16質量部、メチレンクロライド92質量部およびメタノール8質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。セルロースアセテート溶液474質量部にレターデーション上昇剤溶液25質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション上昇剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、6.0質量部であった。
【0115】
【化19】
【0116】
得られたドープを、バンド延伸機を用いて流延した。バンド上での膜面温度が40℃となってから、70℃の温風で1分乾燥し、バンドからフィルムを140℃の乾燥風で10分乾燥し、残留溶剤量が0.3質量%のトリアセチルセルロースフィルムを作製した。膜厚は41μmであった。このフィルムを保護フィルムとする。
保護フィルムの位相差を測定した結果、Re=1nm、Rth=40nmであった。
【0117】
<保護フィルムのけん化処理>
上記作製した保護フィルムを、2.3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、55℃で3分間浸漬した。その後、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.05mol/Lの硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥し、保護フィルム表面の鹸化処理を行った。
【0118】
<偏光板の作製>
上記作製したけん化処理した保護フィルム、ポリビニルアルコール系偏光子、位相差フィルムを、偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸が平行な方向になり、かつ、位相差フィルムの液晶層側が偏光子側になるように、接着剤を用いて貼り合わせ、実施例1の第一偏光板を作製した。接着剤としては、PVA((株)クラレ製、PVA-117H)3%水溶液を用いた。このとき、第一偏光板における偏光子と位相差フィルムとの接着性は、実用上十分な接着性であった。
また、第二偏光板は、けん化処理した保護フィルム、ポリビニルアルコール系偏光子、けん化処理した保護フィルムを同様に貼り合わせて作製した。
また、配向性評価用の偏光板として、第三偏光板と第四偏光板を、ポリビニルアルコール系偏光子の片側のみにけん化処理した保護フィルムを同様に貼り合わせて作製した。
【0119】
<液晶表示装置の作製>
市販の液晶表示装置(iPad(登録商標)、Apple社製)を分解し、貼合されている両面の偏光板を剥がし、第一偏光板を視認側に、第二偏光板をバックライト側に配置した。このとき、第一偏光板の位相差フィルムにおける支持体が液晶セル側になるように、粘着剤(総研科学社製SK2057)を用いて貼り合わせ、実施例1の液晶表示装置を作製した。またこのとき、セル内の液晶の遅相軸と第一偏光板の吸収軸が直交な方向に、セル内の液晶の遅相軸と第二偏光板の吸収軸が平行な方向に、それぞれなるように貼り合わせた。
【0120】
[実施例2~4、比較例1~4]
位相差フィルムの作製において、支持体の種類、液晶組成物に含まれる溶剤Aの種類、液晶組成物に含まれる溶剤Aの種類、液晶組成物Bの種類、および、ボロン酸モノマーの使用の有無のうち、少なくとも1つを表3の通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4および比較例1~4の各位相差フィルムを作製した。各支持体の光学特性および各位相差フィルムの光学特性を表3に示す。
また、このようにして得られた位相差フィルムを使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4および比較例1~4の各偏光板および各液晶表示装置を作製した。
なお、表3における支持体および略称で示した溶剤の概要を以下に示す。
【0121】
PC:ポリカーボネートフィルム(帝人(株)製、商品名:ピュアエース、Re1(550)=154nm、Rth1(550)=77nm、膜厚76μm)
アートン:ポリシクロオレフィンフィルム(JSR(株)製、商品名:ARTON、Re1(550)=124nm、Rth1(550)=62nm、膜厚40μm)
TAC:トリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム(株)製、商品名:ZRD40、Re1(550)=0nm、Rth1(550)=-1nm、膜厚40μm)
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
MEK:メチルエチルケトン
【0122】
<表面エネルギー>
実施例および比較例の位相差フィルムの製造で使用した支持体について、液晶層を形成する面における表面エネルギーおよび表面エネルギーに含まれる非極性の分散力成分を上述した方法により測定した。
【0123】
<配向性>
配向性の評価はシャーカステン(LEDビューワープロHR-2、フジカラー製)の上に第三偏光板と第四偏光板をこの順にクロスニコルで配置し、位相差フィルムを第三偏光板もしくは第四偏光板の吸収軸と平行になるよう偏光板間に配置し、正面(フィルムの法線方向)から目視にて下記基準で評価した。
OK:位相差フィルム配置前後で光漏れなし。
NG:位相差フィルム配置前後で光漏れあり。
【0124】
<密着性>
位相差フィルムにおける液晶層と支持体の密着性について、JISK5600-5-6で定められたクロスカット試験を実施し、そのときの支持体からの剥離性を下記基準で評価した。
A:液晶層が剥がれる面積が1%未満。
B:液晶層が剥がれる面積が1%以上50%未満。
C:液晶層が剥がれる面積が50%以上。
【0125】
<コントラスト>
位相差フィルムのコントラストは、以下のようにして求めた。ここで、輝度測定には色彩輝度計(BM5、トプコン社製)を用いた。
まず、シャーカステンの上に第三偏光板と第四偏光板をこの順に配置させ、第四の偏光板を回転させ一番暗い配置(クロスニコル配置)を探し、輝度(Ynb)を測定した。その後、第四偏光板を90°回転させパラニコル配置にし、輝度(Ynw)を測定し、コントラスト比CRn=Ynw/Ynbを算出した。
次に、クロスニコル配置の第三偏光板、第四偏光板間に位相差フィルムを配置し、位相差フィルムを回転し一番暗い配置にした状態で、輝度(Ytb)を測定した。その後、第四偏光板を90°回転させ、輝度(Ytw)を測定し、コントラスト比CRt=Ytw/Ytbを算出した。
上記CRnとCRtを用いて、下記式Cから位相差フィルムのコントラストCRfを算出した。
1/CRf=1/CRt-1/CRn (式C)
【0126】
<黒表示の光漏れ、および、色味>
作製した液晶表示装置を拡散光源の上に配置し、測定機“EZ-Contrast XL88”(ELDIM社製)を用いて、方位角0°(水平方向)から反時計方向に359°まで1°刻み、および極角0゜(正面方向)から88゜までの1゜刻みの黒表示における輝度および色味を測定した。極角60°における光漏れを下記の評価基準で評価した。
A:光漏れが非常に少なく、特に優れている
B:光漏れが少なく、優れている
C:光漏れがやや多いが、実用上問題ない
D:光漏れが多く、許容できない
【0127】
極角60°における黒色味を下記の評価基準で評価した。
A:色味変化が非常に少なく、特に優れている
B:色味変化が少なく、優れている
C:色味変化がやや多いが、実用上問題ない
D:色味変化が多く、許容できない
【0128】
以上の評価試験の結果を表3に示す。
なお、表3中、Re1(450)、Re1(550)およびRe1(650)はそれぞれ、支持体の波長450nmにおける面内レターデーション、支持体の波長550nmにおける面内レターデーションおよび支持体の波長650nmにおける面内レターデーションを表す。また、Rth1(550)は、支持体の波長550nmにおける厚さ方向のレターデーションを表す。
また、表3中、Re2(550)は、液晶層の波長550nmにおける面内レターデーションを表す。また、Rth2(450)、Rth2(550)およびRth2(650)はそれぞれ、液晶層の波長450nmにおける厚さ方向のレターデーション、液晶層の波長550nmにおける厚さ方向のレターデーション、液晶層の波長650nmにおける厚さ方向のレターデーションを表す。
【0129】
【表3】
【0130】
表3の通り、表面エネルギーおよび非極性の分散力成分の値が45mN/m以上の支持体を用い、かつ、位相差フィルムのコントラストが10000超であれば、位相差フィルムの配向性が優れているのがわかった(実施例)。
また、実施例1~4の対比から、ボロン酸モノマーを含有する液晶組成物を用いれば(実施例1~3)、コントラストがより高く、光漏れがより少なく、支持体と液晶層との密着性がより優れた位相差フィルムが得られることが示された。
これに対して、支持体の表面エネルギーの値、支持体の表面エネルギーの非極性の分散力成分の値、および、位相差フィルムのコントラストの値のうち、少なくとも1つを満たさない位相差フィルムを用いた場合、位相差フィルムの配向性が劣ることがわかった(比較例)。