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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】生体試料分離器具
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/10 20060101AFI20221014BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20221014BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
G01N1/10 B
G01N1/10 V
G01N1/28 J
G01N33/48 S
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021509411
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020012829
(87)【国際公開番号】W WO2020196443
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019056589
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】渡野 弘隆
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/064921(WO,A1)
【文献】特表2015-528328(JP,A)
【文献】特開2007-003479(JP,A)
【文献】特開2007-000536(JP,A)
【文献】米国特許第4487696(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/10
G01N 1/28
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取した生体試料を収容する第1の容器と、
前記採取した生体試料中の所定成分を濾過させるフィルターと、
前記第1の容器内に挿入可能に構成され、前記フィルターにより濾過された前記所定成分を収容する第2の容器と、を備え、
前記フィルターは、前記第2の容器の、前記第1の容器への挿入方向の先端側に設けられ、
前記第2の容器の前記挿入方向の先端側の外周には、前記第1の容器の内壁に液密的に接触された状態で、前記第1の容器内を移動可能とするシール部材を有し、
前記シール部材のショアA硬度が20以上90以下であり、且つ、残留シロキサン濃度が1wt%以下である生体試料分離器具。
【請求項2】
前記フィルターは、前記シール部材に直接保持されている請求項1に記載の生体試料分離器具。
【請求項3】
前記残留シロキサン濃度が、0.01wt%以下である請求項1又は2に記載の生体試料分離器具。
【請求項4】
前記シール部材は、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、及び、熱可塑性エラストマーのいずれかで構成される請求項1から3のいずれか1項に記載の生体試料分離器具。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマーが、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー及びポリブタジエン系熱可塑性エラストマーのいずれかである請求項4に記載の生体試料分離器具。
【請求項6】
前記フィルターは、親水性フィルターである請求項1から5のいずれか1項に記載の生体試料分離器具。
【請求項7】
前記フィルターは、前記フィルターの端部を厚さ方向に押圧されることで前記第2の容器に保持されており、
前記フィルターの中心部の厚みが、前記フィルターの端部の厚みより厚い請求項1から6のいずれか1項に記載の生体試料分離器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料分離器具に係り、特に、採取した生体試料を分離膜により濾過する生体試料分離器具に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料を採取し、検査するための生体試料の採取方法として、例えば、血液の場合、医師等一定の有資格者が注射器を用いて静脈から血液を採取する一般採血と、検査対象者が、自分の手の指等に採血針を刺して血液を採取する自己採血とがある。
【0003】
一般採血により採取された血液は、採取容器に密閉された状態で医療機関又は検査機関に搬送され、そこで検査が行われている。血液検体を血球と血漿もしくは血清とに分離せずに搬送する場合には、医療機関又は検査機関にて遠心分離機により血液検体を血球と血漿もしくは血清とに分離した後に検査が行われる。また、検査対象者が行う自己採血では、採血後の血液検体は分離膜により血球と血漿もしくは血清とに分離され、この分離された状態で検査場所に輸送され、そこで検査が行われる。
【0004】
自己採血をした場合、血液の分離は、分離器具を用いて行われる。例えば、下記の特許文献1には、血液を採取し、採取された血液を血球と血漿もしくは血清とにフィルター部材を用いて分離する血液採取及び分離装置が記載されている。血液採取及び分離装置は、ガスケットを用いて、第1の容器と第2の容器を気密接触された状態のまま、長さ方向に移動可能としている。
【0005】
また、特許文献2には、採取した生体試料を、収容する生体試料採取手段と、採取した生体試料中の所定成分を通過させる濾過手段と、濾過手段を通過した所定成分を収容する分離成分収容手段と、を備える生体試料分離器具が記載されている。採血容器内に筒体を嵌挿させる際に、筒体の外周に設けられたシリコンゴム製のカバーを採血容器の内面に密着した状態で、筒体を降下させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-6973号公報
【文献】特開2003-270239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
血液を、フィルターを用いて分離するためには、フィルターの親水性を維持する必要がある。しかしながら、ガスケットがシリコンゴムで形成されている場合、シリコンゴムから発生するシロキサンの影響により、フィルターが疎水化してしまう場合があった。フィルターが疎水化すると、血球がフィルターの中心部に入らず、フィルターとフィルターを保持する保持部との間に血球が回り込んでしまい、血球をフィルターで破壊する、すなわち、溶血が発生していた。
【0008】
ガスケットの材料として、特許文献1は、ゴム弾性を有する材料を用いており、特許文献2は、シリコンゴム製のカバーを用いている。このように、特許文献1及び特許文献2においては、ガスケットから発生するシロキサンについては考慮されておらず、シロキサンの発生を抑える材料については検討されていなかった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、生体試料を分離するためのフィルターの疎水化を防止することで、生体試料を所定の成分に安定して分離することができる生体試料分離器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的を達成するために、本発明に係る生体試料分離器具は、採取した生体試料を収容する第1の容器と、採取した生体試料中の所定成分を濾過させるフィルターと、第1の容器内に挿入可能に構成され、フィルターにより濾過された所定成分を収容する第2の容器と、を備え、フィルターは、第2の容器の、第1の容器への挿入方向の先端側に設けられ、第2の容器の挿入方向の先端側の外周には、第1の容器の内壁に液密的に接触された状態で、第1の容器内を移動可能とするシール部材を有し、シール部材のショアA硬度が20以上90以下であり、且つ、残留シロキサン濃度が1wt%以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の生体試料分離器具によれば、第2の容器の外周に設けられ、第1の容器と液密的に接触するシール部材の残留シロキサン濃度を1wt%以下としているので、シロキサンの発生を抑えることができ、フィルターが疎水化することを防止することができる。また、シール部材のショアA硬度を20以上90以下とすることで、第1の容器と第2の容器の摺動性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】収容器具の構成の一例を示す断面図である。
図2】フィルターを有する保持器具の構成の一例を示す断面図である。
図3】保持器具をシリンダとキャップに分解した分解断面図である。
図4】収容器具に保持器具を挿入した状態を説明する図である。
図5】分離器具を用いて生体試料を分離した後の状態を説明する図である。
図6図2に示す保持器具の先端部の拡大図である。
図7】保持器具の先端部の別の実施形態の拡大図である。
図8】保持器具の先端部のさらに別の実施形態の拡大図である。
図9】保持器具の先端部のさらに別の実施形態の拡大図である。
図10】保持器具の先端部のさらに別の実施形態の拡大図である。
図11】保持器具の先端部のさらに別の実施形態の拡大図である。
図12】保持器具の先端部のさらに別の実施形態の拡大図である。
図13】保持器具の先端部のさらに別の実施形態の拡大図である。
図14】保持器具の先端部のさらに別の実施形態の拡大図である。
図15】保持器具の先端部のさらに別の実施形態の拡大図である。
図16】保持器具の先端部のさらに別の実施形態の拡大図である。
図17】保持器具の先端部のさらに別の実施形態の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面にしたがって、本発明に係る生体試料分離器具について説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[生体試料分離器具]
図1から図6を用いて、生体試料分離器具について説明する。図1は、収容器具(第1の容器)の構成の一例を示す断面図であり、図2は、フィルターを有する保持器具(第2の容器)の構成の一例を示す断面図である。図3は、図2に示す保持器具をシリンダとキャップに分解した分解断面図である。図4は、収容器具に保持器具を挿入した状態を説明する図であり、図5は、保持器具に設けられた分離器具で生体試料を分離した状態を説明する図である。図6は、保持器具の先端部の拡大図である。なお、以下では、生体試料として、血液を例に説明するが、本実施形態の生体試料は血液に限定されず、他の生体試料にも用いることができる。
【0015】
≪収容器具(第1の容器)≫
図1に示されるように、収容器具1は、透明な材質の円筒形状の採血容器10を有する。採血容器10の上端側には、外面に螺子部12が形成され、内面に係止部14が突設されている。また、採血容器10の下端部には、下端側に突出する円錐形状の底部16が形成されている。底部16の周囲に円筒形状の脚部18が形成されている。「上」及び「下」とは、脚部18を載置面に設置した状態における「上」及び「下」を意味する。
【0016】
脚部18は、血液の分析検査時に使用するサンプルカップ(不図示)と同一外径を有しており、好ましくは、その下端の対向する位置にそれぞれ鉛直方向にスリット溝20が形成されている。さらに、採血容器10には、図1に示されているように、所要量、例えば、500mmの希釈液22が収容されることが好ましい。
【0017】
図1に示すように、使用前の収容器具1は、採血容器10の上端開口が、キャップ24によりパッキン26を介して密閉されることが好ましい。また、血液を採取する際は、キャップ24を取り外し、採取後は、キャップ24及びパッキン26により密閉されることが好ましい。
【0018】
採血容器10への血液の採取は、血液を直接採取することができる。また、血液を吸収性材料に吸収させ、吸収性材料を採血容器10内に投入することで、血液検体を採取することができる。
【0019】
≪保持器具(第2の容器)≫
採取された血液検体は、分析が行われるまで、希釈された状態で、収容器具1の中で長時間経過する可能性がある。その間に、例えば赤血球の溶血が起こると、血球内に存在する物質や酵素などが血漿中あるいは血清中に溶出して検査結果に影響を与えたり、溶出したヘモグロビンが有する吸収により、分析対象成分の光学的な吸収等の光情報で分析対象成分量を測定する場合に影響を及ぼす可能性がある。したがって、溶血を防止することが好ましい。そのため、血液検体の希釈物から所定成分(本実施形態においては血漿成分)をフィルターにより分離し、分離された血漿成分を保持器具に収容する。フィルターは、保持器具に設けられていることが好ましく、フィルターを通過した血漿成分は、保持器具に直接収容される。フィルターは、例えば血液検体の希釈物に圧力を加えることによって、血球成分をフィルターで捕獲し、血漿成分を通過させて、血球を分離して血漿成分を回収するように用いることができる。この場合、抗凝固剤を用いることが好ましい。また、測定の精度を確保するために、フィルターを通過した血漿が血球側へ逆流しないことが好ましく、そのために、具体的には特開2003-270239号公報に記載の、逆流防止手段を保持器具に設けることができる。
【0020】
図2は、フィルター128を有する保持器具100の一例を示す図である。図2に示す保持器具100は、シリンダ110とキャップ112を組み合わせることで構成される。シリンダ110は、収容器具1の採血容器10に挿入可能に構成される。キャップ112は、収容器具1に螺合可能であり、キャップ112の下端には、シリンダ110内の血漿が採血容器10内に逆流することを防止する封止部材114を備える。
【0021】
シリンダ110は透明な材質で構成され、円筒形状を有している。シリンダ110の上端部162には拡径部116が形成されている。拡径部116は薄肉部118を介して本体部120と接続されている。図6に示すように、シリンダ110の下端部には、縮径部122が形成されている。縮径部122の内面には係止突起部124が形成されている。さらに、縮径部122の外側には外鍔部126が形成されている。縮径部122の下端側、すなわち、収容器具1への挿入方向の先端側にはフィルター128が設けられる。フィルター128は血液中の血漿の通過を許容し、血球の通過を阻止するように構成される。縮径部122の外側及びフィルター128の外側には、シール部材130が装着されている。シール部材130により、採血容器10にシリンダ110を嵌挿する際に、採血容器10とシリンダ110との液密性を保持することができる。また、採血容器10とシリンダ110との摺動性を確保することができる。シール部材130は、内面に溝132を有し、この溝132に外鍔部126が嵌合することで、シール部材130が縮径部122から脱落することを防止できる。また、シール部材130の内周には、段差部144を有し、縮径部122の先端と段差部144とが接している。シール部材130の下端側には、内側に向かって突出した第1の凸部134を有する。フィルター128は、シリンダ110の縮径部122及びシール部材130の第1の凸部134とで、上下方向から挟持することで、保持される。第1の凸部134により形成される内側の開口が、採血容器10から、血液が流入する流入口142となる。シール部材130の上端部外周には第2の凸部136を有し、また、下端部外周には、第3の凸部138を有する。シール部材130の第2の凸部136及び第3の凸部138の外径は、本体部120の外径より大きくなっている。
【0022】
フィルター128としては、血液を濾過する必要があるため、親水性フィルターを用いることが好ましい。具体的には、デプスフィルターを用いることが好ましい。また、図2図3及び図6では、1枚のフィルターを用いた構成で説明しているが、2枚以上のデプスフィルターで構成してもよい。
【0023】
キャップ112は、略円筒形状の摘み部152と、摘み部152と同心で下方に延びる心棒部154とで構成されている。摘み部152の内側上端部にはシリンダ110の拡径部116が嵌合可能な円筒状の空間156が形成され、その下方は螺刻され、螺子に螺合可能となっている。心棒部154はその下端部158がピン状に形成され、下端部158に封止部材114が着脱可能に設けられている。封止部材114はシリコンゴム製である。封止部材114の下端部が外鍔状に形成された略円柱状を成し、外周にわたり段差部160が形成されている。摘み部152は頂部164を有し、頂部164の内面と拡径部116とは接触する。シリンダ110とキャップ112とは、使用するまでは、組み合わされておらず、使用する際に、使用者が組み合わせて使用してもよく、最初からシリンダ110とキャップ112とが組み合わされていてもよい。
【0024】
次に、血液を採取した後の、血液分離方法について、図4及び図5を参照しつつ説明する。まず、キャップ24が取り外され、血液検体の希釈物が収容された採血容器10に、キャップ112が取り付けられたシリンダ110を採血容器10内に嵌挿する。
【0025】
次に、図4に示されるように、摘み部152を螺子部12に螺合させる。最初、摘み部152とシリンダ110とが回転する。採血容器10の係止部14が、シリンダ110の外周面に形成されたストッパ部(不図示)に係止すると、シリンダ110の回転が拘束され、薄肉部118はねじりにより破断する。この結果、シリンダ110は本体部120と拡径部116とに分離される。さらに摘み部152を回転させると、本体部120の上端部162が拡径部116の内側の空間156に入り込む。摘み部152の頂部164の内面によりシリンダ110は下方に押圧されるようになるので、シリンダ110はさらに降下する。
【0026】
シリンダ110の降下に伴い、シリンダ110に保持されるフィルター128は、採血容器10の底部16の側に移動する。その際、フィルター128を通って血漿がシリンダ110の側に移動し、血球はフィルター128を通過できずに採血容器10の側に残る。
【0027】
シール部材130の第2の凸部136及び第3の凸部138の外径は、シリンダ110の本体部120の外径より大きいので、シリンダ110は採血容器10の内壁に液密的に接触した状態で移動可能である。したがって、シリンダ110を採血容器10に嵌挿させる過程で、採血容器10の中の血液又は希釈液22が採血容器10とシリンダ110との隙間を通って外部に漏出するおそれはない。
【0028】
摘み部152を最下部まで螺子部12に螺合させると、封止部材114は縮径部122に嵌合する。採血容器10とシリンダ110との間の流路は封止部材114により密閉される。封止部材114は、逆流に起因する血漿と血球の混合を防止する。これにより、血球と血漿又は血清とに分離された状態が確実に保持される。
【0029】
〔シール部材の構成〕
次にシール部材130の構成について説明する。本実施形態においては、シール部材130からシロキサンの発生を抑制することで、フィルター128の疎水化を防止する。シール部材130の材料としては、製造後の残留シロキサン濃度が1wt%以下となる材料を用いる。好ましくは、0.01wt%以下の材料を用いる。残留シロキサン濃度を上記の数値以下とすることで、シロキサンの発生を抑えることができ、フィルター128の疎水化を防止することができる。なお、シロキサン濃度は、試料(シール部材)30mgをヘキサン1mLとトルエン0.5mLの混合液に12時間浸漬し、GC-MS(Gas Chromatography - Mass spectrometry)で定量することで測定することができる。フィルター128の疎水化を防止するためには、低分子成分、揮発性成分及び溶出成分の少なくともいずれかを発生しにくくさせることも有効である。
【0030】
また、上述したように、シール部材130が、採血容器10の内面に密着した状態でシリンダ110を降下させるため、シール部材130は、摺動性を有することが好ましい。シール部材130に摺動性を持たせるため、シール部材130のショアA硬度が20以上90以下の軟質とする。ショアA硬度を上記の範囲とすることで、採血容器10とシール部材130との間で、液密性と摺動性を両立することができる。ショアA硬度は、JIS K 6253により測定した数値を用いることができる。
【0031】
シール部材130の材料としては、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、及び、熱可塑性エラストマーのいずれかを用いることができる。また、熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー及びポリブタジエン系熱可塑性エラストマーのいずれかを用いることができる。シール部材130を上記の材料により構成することで、シール部材130からのシロキサンの発生を抑制、あるいは、防止することができる。
【0032】
フィルター128は、シリンダ110の縮径部122の先端と第1の凸部134とで上下方向から、また、シール部材130により周囲から押圧されることで保持されている。すなわち、フィルター128は、シール部材130により直接保持されている。縮径部122の先端とシール部材130の第1の凸部134とで上下方向から押圧されることで、フィルター128は、中心部の厚みが端部の厚みより厚くなっている。すなわち、フィルター128の端部が圧縮されて薄くなって保持されている。これにより、血液を濾過する際、フィルター128の端部を通りにくくすることができる。したがって、血液をフィルター128の中心部で濾過することができる。また、端部方向への回り込みも抑制することができるので、溶血を防止することができる。
【0033】
図7から図9は、保持器具の先端に設けられたフィルター及びシール部材の他の構成を示す拡大図である。図6は、図2から図5で説明した構成の拡大図である。
【0034】
図7に示す保持器具200は、フィルター228が2枚のフィルターで構成されており、流入口142側からデプスフィルターである第1のフィルター228Aと、メンブレンフィルターである第2のフィルター228Bと、を有する。フィルター228を2枚のフィルターとし、デプスフィルターとメンブレンフィルターとすることで、例え、血球成分がデプスフィルターを通過してしまっても、メンブレンフィルターで確実に捕獲することができる。なお図7においても、第1のフィルター228Aを1枚のデプスフィルターとしているが、2枚以上のデプスフィルターで構成してもよい。
【0035】
図7に示す保持器具においては、第1のフィルター228Aと第2のフィルター228Bとを重ねて配置し、シール部材130の第1の凸部134と縮径部122の先端とで、押圧することで、フィルター228を保持している。
【0036】
図8は、保持器具の先端部のさらに別の実施形態を示す拡大図である。図8に示す保持器具250は、第1のフィルター228Aと第2のフィルター228Bとを重ねて配置し、シール部材130の第1の凸部134と縮径部122の先端とで、押圧することで、フィルター228は保持されている。図8に示す保持器具250は、第2のフィルター228Bが、第1のフィルター228Aより広い面積を有する。そして、この第2のフィルター228Bの第1のフィルター228Aと重ならないはみ出した部分を、縮径部122とシール部材130の段差部144とで押圧することで保持する。このような構成とすることで、第2のフィルター228Bの端部を確実に圧縮し保持することができる。したがって、血液の回り込みを防止し、溶血を防止することができる。
【0037】
図9は、さらに別の実施形態の保持器具の先端部の拡大図である。図9に示す保持器具300では、第1のフィルター228Aと第2のフィルター228Bの間にスペーサー346を有する点が、図8に示す保持器具250と異なっている。図9に示すように、スペーサー346を設けることで、まず、第2のフィルター228Bについては、図8と同様に、シリンダ110の縮径部122とシール部材130の段差部144とで押圧及び保持することができる。また、第1のフィルター228Aは、縮径部122と第1の凸部134に押圧されて、第2のフィルター228B及びスペーサー346を介して保持される。また、第2のフィルター228Bは、縮径部122と段差部144とで保持される他に、縮径部122と第1の凸部134とで押圧されて、第1のフィルター228A及びスペーサー346を介して保持される。第1のフィルター228Aと第2のフィルター228Bとの間にスペーサー346を設けることで、第1の凸部134とスペーサー346とで第1のフィルター228Aを押圧することができる。また、縮径部122とスペーサー346とで第2のフィルター228Bを押圧することができる。したがって、第1のフィルター228A及び第2のフィルター228Bを確実に保持することができる。
【0038】
フィルターの端部を圧縮して確実に保持することで、採血容器10に採取した血液が、フィルターを通過せず、フィルターとシール部材との間に回り込むことを防止することができる。したがって、血液の分離を確実に行うことができ、また、溶血を防止することができる。
【0039】
図10から図13は、さらに別の実施形態の保持器具の先端部の拡大図である。図10から図13に示す保持器具の先端部は、フィルターをシリンダの縮径部とシール部材の第1の凸部とで上下方向から押圧することでフィルターを保持するとともに、側部からホルダーを介して、シール部材により保持されている。ホルダーを介してフィルターを保持することで、フィルターとシール部材が直接接触する面積を減らすことができる。したがって、シール部材からシロキサンが発生したとしても、フィルターが疎水化することを防止することができる。ただし、ホルダーを設けずに、直接シール部材で保持することで、シール部材の弾性力により、フィルターを圧縮することができ、血液の回り込みをより抑えることができる。
【0040】
図10に示す保持器具350は、縮径部122の外側に設けられた外鍔部126に、ホルダー398に設けられた溝399を嵌合し、ホルダー398の位置を固定する。また、側部からシール部材380を嵌め込むことで、ホルダー398を保持する。フィルター128は、シリンダ110の縮径部122とシール部材380の第1の凸部134とで上下方向から押圧されて保持されている。また、ホルダー398は、段差部397を有し、シリンダ110の縮径部122と段差部397が接している。
【0041】
図11に示す保持器具400は、流入口142側からデプスフィルターである第1のフィルター228Aと、メンブレンフィルターである第2のフィルター228Bと、を有する。第1のフィルター228A及び第2のフィルター228Bは、重ね合わされて、縮径部122の先端とシール部材130の第1の凸部134とで、押圧されて保持される。また、側部からホルダー398により保持されている。
【0042】
図12は、保持器具の先端部のさらに別の実施形態を示す拡大図である。図12に示す保持器具450は、第1のフィルター228Aと第2のフィルター228Bとを重ねて配置し、シール部材130の第1の凸部134と縮径部122の先端とで、押圧することで、フィルター228は保持されている。図12に示す保持器具450は、第2のフィルター228Bが、第1のフィルター228Aより広い面積を有する。そして、この第2のフィルター228Bの第1のフィルター228Aと重ならないはみ出した部分を、縮径部122とホルダー398の段差部397とで押圧することで保持する。このような構成とすることで、第2のフィルター228Bの端部を確実に圧縮し保持することができる。したがって、血液の回り込みを防止し、溶血を防止することができる。
【0043】
図13は、さらに別の実施形態の保持器具の先端部の拡大図である。図13に示す保持器具500では、第1のフィルター228Aと第2のフィルター228Bの間にスペーサー346を有する点が、図12に示す保持器具450と異なっている。図13に示すように、スペーサー346を設けることで、まず、第2のフィルター228Bについては、図12と同様に、シリンダ110の縮径部122とホルダー398の段差部397とで押圧及び保持することができる。また、第1のフィルター228Aは、縮径部122と第1の凸部134に押圧されて、第2のフィルター228B及びスペーサー346を介して保持される。また、第2のフィルター228Bは、縮径部122と段差部397とで保持される他に、縮径部122と第1の凸部134とで押圧されて、第1のフィルター228A及びスペーサー346を介して保持される。第1のフィルター228Aと第2のフィルター228Bとの間にスペーサー346を設けることで、第1の凸部134とスペーサー346とで第1のフィルター228Aを押圧することができる。また、縮径部122とスペーサー346とで第2のフィルター228Bを押圧することができる。したがって、第1のフィルター228A及び第2のフィルター228Bを確実に保持することができる。
【0044】
図14から図17は、さらに、別の実施形態の保持器具の先端部の拡大図である。図6から図13に示す実施形態においては、フィルターをシール部材とシリンダの縮径部で押圧することで、保持しているが、フィルターを保持する態様は、これに限定されない。図14に示す保持器具550は、フィルター128をシール部材130のL字状の第1の凸部134により横方向(側部方向)から押圧し、圧縮することで、保持している。横方向に圧縮する場合は、図14に示すように、L字状に凸部を設ける他に、図15に示す保持器具600のように、第1の凸部134を先端側に向かって第1の凸部134が広がるように、傾斜させて先端側を狭めることで、フィルター128を横方向に圧縮して保持することができる。
【0045】
さらに、図16に示す保持器具650のように、シール部材130とフィルター128とを接着剤685により固定してもよい。接着剤685として使用する材料は、フィルターを疎水化させない材料を用いることが好ましい。また、図17に示す保持器具700は、シール部材130に保持部材737を設け、保持部材737と縮径部122と、により、フィルター128を上下方向から押圧し、フィルター128を保持することができる。
【0046】
図14から図16に示す保持器具においては、フィルターを横方向から押圧、又は、接着剤によりフィルターを保持しているため、フィルターの端部は圧縮されていない。しかしながら、フィルターの保持方法は限定されず、シール部材130の材料をシロキサンが発生しにくい材料を用いることで、フィルターの疎水化を防止することができ、血液の分離を安定しておこなうことができる。
【0047】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、シール部材のショアA硬度を20以上90以下とすることで、収容器具と保持器具との間の摺動性を確保することができ、採血容器内にシリンダを挿入した際の液密性を確保することができる。また、シール部材の残留シロキサン濃度を1wt%以下とすることで、シール部材からのシロキサンの発生を抑えることができ、フィルターの疎水化を防止することができ、血液の分離を効果的に行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 収容器具
10 採血容器
12 螺子部
14 係止部
16 底部
18 脚部
20 スリット溝
22 希釈液
24 キャップ
26 パッキン
100、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700 保持器具
110 シリンダ
112 キャップ
114 封止部材
116 拡径部
118 薄肉部
120 本体部
122 縮径部
124 係止突起部
126 外鍔部
128、228 フィルター
130、380 シール部材
132 溝
134 第1の凸部
136 第2の凸部
138 第3の凸部
142 流入口
144 段差部
152 摘み部
154 心棒部
156 空間
158 下端部
160 段差部
162 上端部
164 頂部
228A 第1のフィルター
228B 第2のフィルター
346 スペーサー
397 段差部
398 ホルダー
399 溝
685 接着剤
737 保持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
図12
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図17