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特許7158627結晶積層構造体、半導体装置、及び、結晶積層構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-13
(45)【発行日】2022-10-21
(54)【発明の名称】結晶積層構造体、半導体装置、及び、結晶積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/365 20060101AFI20221014BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20221014BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20221014BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20221014BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20221014BHJP
【FI】
H01L21/365
H01L29/86 301F
H01L29/86 301M
H01L29/86 301D
C30B25/20
C30B29/16
C23C16/40
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022527788
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2021032392
【審査請求日】2022-05-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】湯田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】綿引 達郎
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 義直
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-086458(JP,A)
【文献】特開2015-091740(JP,A)
【文献】特開2017-109902(JP,A)
【文献】特開2015-214448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/365
H01L 29/872
C30B 25/20
C30B 29/16
C23C 16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面を有し、β型の結晶構造を有するGa単結晶基板と、
前記Ga単結晶基板の前記第1主面上に設けられ、前記Ga単結晶基板と逆側に第2主面を有し、β型の結晶構造を有するエピタキシャル成長層であるGa単結晶層と
を備え、
前記Ga単結晶基板の前記第1主面、及び、前記Ga単結晶層の前記第2主面のそれぞれの面方位は、(011)面である、結晶積層構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の結晶積層構造体であって、
前記Ga単結晶層は塩素を含む、結晶積層構造体。
【請求項3】
請求項1に記載の結晶積層構造体であって、
前記Ga単結晶層の残留キャリア濃度は3×1015/cm以下である、結晶積層構造体。
【請求項4】
請求項2に記載の結晶積層構造体であって、
前記Ga単結晶層の塩素の濃度は、5×1016atoms/cm以下である、結晶積層構造体。
【請求項5】
第1主面を有し、β型の結晶構造を有するGa単結晶基板を準備する工程と、
塩化ガリウム系ガスと酸素含有ガスとによって、前記Ga単結晶基板の前記第1主面上に、前記Ga単結晶基板と逆側に第2主面を有し、β型の結晶構造を有するエピタキシャル成長層であるGa単結晶層を形成する工程と
を備え、
前記Ga単結晶基板の前記第1主面、及び、前記Ga単結晶層の前記第2主面のそれぞれの面方位は、(011)面である、結晶積層構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の結晶積層構造体の製造方法であって、
前記Ga単結晶層は900℃以上の成長温度下で形成され、
前記塩化ガリウム系ガスは、ガリウム原料と、水素を含まない塩素含有ガスとの反応によって生成され、
前記塩化ガリウム系ガス及び前記酸素含有ガスのそれぞれは、水素を含まない、結晶積層構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の結晶積層構造体の製造方法であって、
前記酸素含有ガスはOガスである、結晶積層構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の結晶積層構造体の製造方法であって、
前記塩素含有ガスはClガスである、結晶積層構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の結晶積層構造体の製造方法であって、
前記塩化ガリウム系ガスは、ガリウム金属体と、ClガスまたはHClガスを含む塩素含有ガスとの反応によって生成される、結晶積層構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項6から請求項9のうちのいずれか1項に記載の結晶積層構造体の製造方法であって、
前記塩化ガリウム系ガスは、300℃以上の雰囲気温度下で生成される、結晶積層構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項6から請求項10のうちのいずれか1項に記載の結晶積層構造体の製造方法であって、
前記塩化ガリウム系ガスは、GaClガスと、GaClガスを除く他の塩化ガリウム系ガスとを含み、
GaClガスの分圧比は、前記他の塩化ガリウム系ガスの分圧比よりも高い、結晶積層構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項5から請求項11のうちのいずれか1項に記載の結晶積層構造体の製造方法であって、
前記Ga単結晶層の成長速度が1μm/h以上である、結晶積層構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の結晶積層構造体と、
前記Ga単結晶層の前記第2主面上に設けられたショットキー電極と、
前記Ga単結晶基板の前記Ga単結晶層と逆側の面上に設けられたオーミック電極と
を備え、
前記Ga単結晶層のキャリア濃度は、前記Ga単結晶基板のキャリア濃度よりも低い、半導体装置。
【請求項14】
請求項13に記載の半導体装置であって、
前記Ga単結晶層の前記第2主面上に互いに離間して設けられたソース電極及びドレイン電極と、
前記Ga単結晶層の前記第2主面上、かつ、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に設けられたゲート電極と
をさらに備える、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、結晶積層構造体、半導体装置、及び、結晶積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子の高耐圧化を図るために、半導体素子に用いられる材料がワイドギャップ半導体(ワイドバンドギャップ半導体ともいう)に移行しつつある。そのワイドギャップ半導体の一種である酸化ガリウムを用いたショットキーバリアダイオードでは、珪素(Si)及び炭化珪素(SiC)などを用いたショットキーバリアダイオードと比較して、逆方向耐圧を高くすることができる。このような酸化ガリウムを用いたショットキーバリアダイオードについて、様々な技術が提案されている(例えば特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-096197号公報
【文献】特開2016-029735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、酸化ガリウムを用いた半導体素子では、酸化ガリウムのエピタキシャル成長層内の欠陥密度が高くなると、デバイス特性の低下を招くという問題があった。
【0005】
そこで、本開示は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、デバイス特性を高めることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る結晶積層構造体は、第1主面を有し、β型の結晶構造を有するGa単結晶基板と、前記Ga単結晶基板の前記第1主面上に設けられ、前記Ga単結晶基板と逆側に第2主面を有し、β型の結晶構造を有するエピタキシャル成長層であるGa単結晶層とを備え、前記Ga単結晶基板の前記第1主面、及び、前記Ga単結晶層の前記第2主面のそれぞれの面方位は、(011)面である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、Ga単結晶基板の第1主面、及び、Ga単結晶層の第2主面のそれぞれの面方位は、(011)面である。このような構成によれば、デバイス特性を高めることができる。
【0008】
本開示の目的、特徴、局面及び利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係るGa単結晶積層構造体を概略的に例示する断面図である。
図2】実施の形態1に係る面方位を示す斜視図である。
図3】実施の形態1に係る面方位を説明するための概略図である。
図4】実施の形態1に係る気相成長装置を概略的に例示する断面図である。
図5】実施の形態2に係る半導体装置を概略的に例示する断面図である。
図6】実施の形態3に係る半導体装置を概略的に例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付される図面を参照しながら本実施の形態について説明する。なお、図面は概略的に示されるものであり、以下の図面では適宜、構成の省略、または、構成の簡略化がなされる。また、異なる図面にそれぞれ示される構成の大きさ及び位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されるものではなく、適宜変更され得る。
【0011】
また、以下に示される説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称と機能とについても同様である。したがって、同様の構成要素などについての詳細な説明については、重複を避けるために省略する場合がある。
【0012】
<実施の形態1>
図1は、本実施の形態1に係る結晶積層構造体であるGa単結晶積層構造体を概略的に例示する断面図である。Ga単結晶積層構造体は、Ga単結晶基板1と、Ga単結晶基板1の主面上に形成されたGaエピタキシャル成長層2とを備える。Gaエピタキシャル成長層2の形成方法は、エピタキシャル成長を用いて、Ga単結晶層(Ga単結晶膜ともいう)を形成する方法であれば特に限定されるものではない。
【0013】
Ga単結晶基板1は、β型の結晶構造を有するGa系単結晶からなる基板である。以下の説明では、β-Gaを、Ga単結晶基板1の材料の基本とする。ただし、Ga単結晶基板1の材料は、これに限ったものではなく、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉄(Fe)またはマグネシウム(Mg)からなる群のうちの1種以上を添加したGaを主成分とする酸化物であってもよい。
【0014】
その一例として、Ga単結晶基板1の材料に、(AlInGa1-x-y(ただし、0≦x<1、0≦y<1、0≦x+y<1)で表わされるガリウム酸化物を用いることができる。Alを添加した場合には、Ga単結晶基板1のバンドギャップが広がり、Inを添加した場合には、Ga単結晶基板1のバンドギャップが狭くなる。また、Ga単結晶基板1の材料は、Si等の導電型不純物を含んでもよい。Ga単結晶基板1は、酸素欠損のみでn型の伝導性を示す基板、n型不純物のみでn型の伝導性を示す基板、及び、酸素欠損とn型不純物との両方でn型の伝導性を示す基板のいずれであってもよい。
【0015】
Ga単結晶基板1は、例えば、FZ(Floating Zone)法やEFG(Edge-Defined Film-Fed Growth)法等の融液成長法により生成されたGa系単結晶のバルク結晶をスライスして表面を研磨することにより形成される。Ga単結晶基板1の電子キャリア濃度は、Ga単結晶基板1の作製時に形成される酸素欠陥の量と、SiやSn等の不純物の量とによって決まる。不純物量の制御及びその活性化率を制御することにより、Ga単結晶基板1中の電子キャリア濃度を制御することができる。
【0016】
Ga単結晶基板1は第1主面を有しており、図1の例では第1主面は上面である。第1主面の面方位は(011)面であることが好ましく、第1主面の(011)面に対するオフセット角度は0°であることが最も望ましい。しかしながら、第1主面の面方位は、(021)面及び(012)面を除く(021)面から(012)面までの間の面方位であればよい。以下、このことについて、図2及び図3を用いて説明する。
【0017】
図2は、β-Gaの面方位を示す斜視図である。β-Gaの結晶は、単斜晶系であるため、(100)面はb軸とc軸とが成す面(つまりbc面)に平行な面である。
【0018】
図3は、a軸の格子ベクトルに沿って、3つの格子ベクトルの原点の手前にa面、つまり(100)面を見たときのオフセット角度を示す概略図である。c軸に付されたアスタリスクは、図面の奥方向に傾くc軸を、慣例的な図面内の方向として表すことを意味する。
【0019】
原点からa面へa軸方向に沿って進む右ねじの回転方向(図3では反時計回りの方向に対応)を正方向とした場合に、第1主面の面方位は、(011)面から正方向に18.8292°以下で回転させた面方位であればよい。換言すれば、第1主面の(011)面に対するオフセット角度は、第1主面の面方位として(012)面が現れない角度であればよい。また、第1主面の面方位は、(011)面から負方向に13.2504°以下で回転させた面方位であればよい。換言すれば、第1主面の(011)面に対するオフセット角度は、第1主面の面方位として(021)面が現れない角度であればよい。
【0020】
Gaエピタキシャル成長層2は、Ga単結晶基板1と同様に、β型の結晶構造を有するGa系単結晶からなる。Gaエピタキシャル成長層2は、Ga単結晶基板1と同様に、Si等の導電型不純物を含んでもよい。また、Gaエピタキシャル成長層2は、Ga単結晶基板1と同様に、酸素欠損のみでn型の伝導性を示す層、n型不純物のみでn型の伝導性を示す層、及び、酸素欠損とn型不純物との両方でn型の伝導性を示す層のいずれであってもよい。なお、Gaエピタキシャル成長層2の電子キャリア濃度は、例えば、エピタキシャル成長中における不純物の供給量または酸素欠陥を制御することで調節することができる。
【0021】
Gaエピタキシャル成長層2は、Ga単結晶基板1の第1主面上に設けられており、Ga単結晶基板1と逆側に第2主面を有する。図1の例では第2主面は上面である。
【0022】
Gaエピタキシャル成長層2の第2主面の面方位は、(011)面であることが好ましく、第2主面の(011)面に対するオフセット角度は0°であることが最も望ましい。しかしながら、第2主面の面方位は、(021)面及び(012)面を除く(021)面から(012)面までの間の面方位であればよい。すなわち、第2主面の面方位は、(011)面から正方向に18.8292°以下で回転させた面方位であればよく、第2主面の(011)面に対するオフセット角度は、第2主面の面方位として(012)面が現れない角度であればよい。また、第2主面の面方位は、(011)面から負方向に13.2504°以下で回転させた面方位であればよく、換言すれば、第2主面の(011)面に対するオフセット角度は、第2主面の面方位として(021)面が現れない角度であればよい。
【0023】
一般的にGa単結晶基板の形成時には、様々な要因により単結晶基板中に欠陥が形成されることが知られている。例えば、(001)面を主面としたGa単結晶基板では、すべり面を起因とした欠陥が当該主面上に現れることになる。また、その単結晶基板上にエピタキシャル成長層を形成した場合には、その欠陥がエピタキシャル成長層に引き継がれ、エピタキシャル成長層の主面にも現れる。
【0024】
これに対して本実施の形態1のように第1主面及び第2主面のそれぞれの面方位が(011)面及びその付近である構成では、すべり面を起因とした欠陥が、第1主面及び第2主面に現れることが抑制されるので、欠陥密度を低減することができる。デバイスの特性に直接影響する因子である欠陥密度を低減化することにより、デバイスの漏れ電流の低減、または、逆方向耐圧の向上などが可能となるため、デバイス特性を高めることができる。
【0025】
<製造方法>
本実施の形態1に係るGa単結晶積層構造体の製造方法のうち、Gaエピタキシャル成長層2のエピタキシャル成長について主に説明する。以下、Gaエピタキシャル成長層2の形成方法に、HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法を用いる場合について説明するが、これに限ったものではない。例えば、Gaエピタキシャル成長層2の形成方法に、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、または、ミストCVD法などが用いられてもよい。
【0026】
ただし、MBE法では、真空槽内にガリウム蒸気と酸素系ガスとを供給することによって、Ga単結晶基板1上にエピタキシャル成長を行うことが可能であるが、成長レートが比較的低く、厚い層の形成には長い時間を要するため、大量生産には不向きである。PLD法では、基板への原料供給源であるソースが点源であり、ソース直上とそれ以外の場所との間で成長レートが異なるため、膜厚の面内分布が不均一になりやすく、面積の大きい膜の成長に不向きである。また、PLD法では、成長レートが比較的低いため、大量生産には不向きである。ミストCVD法では、大口径化は比較的容易であるが、使用原料に含まれている不純物がエピタキシャル成長中にGa単結晶層に取り込まれてしまうため、高純度なGaエピタキシャル成長層を得ることが困難である。
【0027】
これに対して、HVPE法では、MBE法やPLD法等と比較して、Gaエピタキシャル成長層の成膜レートが高く、膜厚の面内分布の均一性が高く、大口径化が可能であるため、大量生産に適している。
【0028】
は、HVPE法用の気相成長装置を概略的に例示する断面図である。HVPE法用の気相成長装置は、反応チャンバー20と、反応チャンバー20の周囲に設置され、反応チャンバー20内を加熱する第1加熱手段26及び第2加熱手段27とを備える。
【0029】
反応チャンバー20は、原料反応領域R1と、結晶成長領域R2とを有する。原料反応領域R1では、ガリウム原料が収容された反応容器25が配置されており、塩化ガリウム系ガスが生成される。本実施の形態1では、反応容器25に収容されるガリウム原料はガリウム金属体であるが、これに限ったものではない。
【0030】
結晶成長領域R2では、Ga単結晶基板1が配置されており、原料反応領域R1で生成されたガリウムの原料ガスである塩化ガリウム系ガスと、酸素の原料ガスである酸素含有ガスとによって、Gaエピタキシャル成長層2の成長が行われる。反応チャンバー20の材質は、例えば、石英ガラスなどであるが、特にこれに限定されるものではない。
【0031】
第1加熱手段26及び第2加熱手段27は、反応チャンバー20の原料反応領域R1及び結晶成長領域R2をそれぞれ加熱することが可能である。第1加熱手段26及び第2加熱手段27のそれぞれは、例えば、抵抗加熱式や輻射加熱式の加熱装置であるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0032】
反応チャンバー20は、第1ガス導入ポート21、第2ガス導入ポート22、第3ガス導入ポート23、及び、排気ポート24を有する。
【0033】
第1ガス導入ポート21は、不活性のキャリアガスを用いて、ClガスまたはHClガスを含む塩素含有ガスを、反応チャンバー20の原料反応領域R1内に導入するためのポートである。不活性のキャリアガスは、例えば、窒素ガス(N)、アルゴンガス(Ar)またはヘリウムガス(He)などであり、以下において同様である。
【0034】
第2ガス導入ポート22は、不活性のキャリアガスを用いて、酸素ガス(O)または水蒸気ガス(HO)を含む酸素含有ガスと、Gaエピタキシャル成長層2にSi等の不純物を添加するための添加元素の原料ガスとを、反応チャンバー20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。
【0035】
第3ガス導入ポート23は、不活性のキャリアガスを反応チャンバー20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。
【0036】
排気ポート24は、反応チャンバー20の結晶成長領域R2で用いられなかったガスなどを、反応チャンバー20外に排気するためのポートである。
【0037】
次に、HVPE法を用いて本実施の形態1に係るGaエピタキシャル成長層2を形成する例について説明する。
【0038】
まず、第1加熱手段26を用いて反応チャンバー20の原料反応領域R1を加熱することによって、原料反応領域R1の雰囲気温度を、予め定められた温度に保つ。
【0039】
次に、第1ガス導入ポート21からキャリアガスを用いて塩素含有ガスを導入し、原料反応領域R1において、予め定められた温度に保たれた雰囲気温度下で反応容器25内のガリウム金属体と塩素含有ガスとを反応させ、塩化ガリウム系ガスを生成する。生成される塩化ガリウム系ガスは、GaClガスと、GaClガスを除く他の塩化ガリウム系ガスとを含み、他の塩化ガリウム系ガスとしては、例えば、GaClガス、GaClガス、(GaClガス等が想定される。
【0040】
GaClガスは、他の塩化ガリウム系ガスよりも、Ga系単結晶の成長駆動力を高めることができる、換言すれば成長速度を向上させることができる温度に保つことができる。また、高純度、高品質のGaエピタキシャル成長層2を形成するためには、高い温度での成長が有効である。以上のことから、GaClガスの分圧が高い塩化ガリウム系ガスを生成することが好ましい。
【0041】
これを実現するために、原料反応領域R1内の雰囲気温度は、GaClガスの分圧比が、他の塩化ガリウム系ガスの分圧比よりも高くなるような温度であることが好ましい。具体的には、原料反応領域R1の雰囲気温度を、GaClガスの分圧比が高くなる300℃以上の状態に第1加熱手段26で保持して、反応容器25内のガリウム金属体と塩素含有ガスとを反応させることが好ましい。例えば、原料反応領域R1の雰囲気温度が850℃である場合には、GaClガスの分圧比が圧倒的に高くなり、他の塩化ガリウム系ガスはGa系単結晶の成長にほとんど寄与しなくなる。
【0042】
また、第1加熱手段26の寿命と、石英ガラス等からなる反応チャンバー20の耐熱性とを考慮して、原料反応領域R1の雰囲気温度を1000℃以下に保持した状態で、反応容器25内のガリウム金属体と塩素含有ガスを反応させることが好ましい。
【0043】
ところで、Gaエピタキシャル成長層2を成長させる雰囲気に水素を含まないようにすると、Gaエピタキシャル成長層2の結晶成長駆動力が向上し、成長速度を向上させることができる。このため、塩化ガリウム系ガスは、ガリウム原料と、水素を含まない塩素含有ガスとの反応によって生成された、例えば水素を含まないClガスなどであってもよく、酸素含有ガスは、水素を含まないOガスなどであってもよい。
【0044】
以上の製造方法によれば、Gaエピタキシャル成長層2の成長速度は、1時間当たり1μm以上、つまり1μm/h以上にすることができる。
【0045】
次に、結晶成長領域R2において、原料反応領域R1で生成された塩化ガリウム系ガスと、第2ガス導入ポート22から導入された酸素含有ガスとを混合させ、その混合ガスにGa単結晶基板1を曝す。これにより、Ga単結晶基板1上にGaエピタキシャル成長層2をエピタキシャル成長させる。このとき、反応チャンバー20を収容する炉内の結晶成長領域R2における圧力は、例えば1atmに保たれる。
【0046】
添加元素としてSiまたはAl等を含むGaエピタキシャル成長層2を形成する場合には、添加元素の原料ガスを、塩化ガリウム系ガス及び酸素含有ガスに加えて、第2ガス導入ポート22から結晶成長領域R2に導入する。例えば、添加元素としてSiを含むGaエピタキシャル成長層2を形成する場合には、添加元素の原料ガスとして、四塩化ケイ素(SiCl)などの塩化物系ガスが用いられる。
【0047】
なお、結晶成長領域R2におけるOガスの供給分圧のGaClガスの供給分圧に対する比が0.5以上であり、成長温度が900℃以上であることが、Gaエピタキシャル成長層2を効率的に成長させる観点から好ましい。また、Gaエピタキシャル成長層2の効率的な成長だけに着目すれば、成長温度が約1000℃以上であることがより好ましい。なお、成長温度は、例えば、反応チャンバー20内の雰囲気温度と、Ga単結晶基板1の温度との少なくともいずれか1つに相当する。
【0048】
また、HVPE法を用いて形成されるGaエピタキシャル成長層2には、およそ5×1016atoms/cm以下の濃度の塩素が含まれる。これは、塩素含有ガスを用いてGaエピタキシャル成長層2が形成されることに起因する。HVPE法以外の塩素含有ガスを用いない方法によって形成されるGaエピタキシャル成長層2には、通常、1×1016atoms/cm以上の塩素が含まれることはない。
【0049】
また、HVPE法を用いて形成されるGaエピタキシャル成長層2の残留キャリア濃度は、1×1013/cm以下となる。このため、SiなどのIV族元素を不純物ドーピングすれば、Gaエピタキシャル成長層2のキャリア濃度を、例えば、1×1013~1×1020/cmの範囲、つまり3×1015/cmを含む範囲で制御することが可能である。なお、キャリア濃度は、例えばC-V(capacitance-voltage)法によって測定することができる。
【0050】
<実施の形態1のまとめ>
以上のような本実施の形態1によれば、Ga単結晶基板1の第1主面、及び、Gaエピタキシャル成長層2の第2主面のそれぞれの面方位は、(011)面及びその付近である。このような構成によれば、第1主面及び第2主面の欠陥密度を低減することができ、デバイスの漏れ電流の低減、及び、逆方向耐圧の向上などが可能となるので、デバイス特性を高めることができる。
【0051】
また、塩化ガリウム系ガスと酸素含有ガスとを用いるHVPE法によってGaエピタキシャル成長層2を形成すれば、成膜レート、及び、膜厚の面内分布の均一性を高くすることができ、大口径化が可能となる。
【0052】
また、塩化ガリウム系ガスにおいて、GaClガスの分圧比を、他の塩化ガリウム系ガスの分圧比よりも高くすれば、高純度、高品質のGaエピタキシャル成長層2を形成することができ、その成長駆動力を高めることができる。
【0053】
また、酸素の原料としてHOを利用した場合、Gaエピタキシャル成長層2の表面平坦性を向上させることができる。
【0054】
<実施の形態2>
は、本実施の形態2に係る半導体装置の構成を概略的に例示する断面図である。本実施の形態2に係る半導体装置は、実施の形態1に係るGa単結晶積層構造体を備えるショットキーバリアダイオード(SBD)である。しかしながら本実施の形態2に係る半導体装置は、SBDに限定されるものではなく、他の半導体ダイオードであってもよいし、これら以外の半導体装置であってもよい。
【0055】
の半導体装置は、上述したGa単結晶基板1及びGaエピタキシャル成長層2と、アノード電極3と、カソード電極4とを備える。アノード電極3は、Gaエピタキシャル成長層2の上面上に設けられ、Gaエピタキシャル成長層2と電気的にショットキー接合されたショットキー電極である。カソード電極4は、Ga単結晶基板1のGaエピタキシャル成長層2と逆側の面である下面上に設けられ、Ga単結晶基板1と電気的にオーミック接合されたオーミック電極である。
【0056】
n型不純物を含むGa単結晶基板1の電子キャリア濃度は、酸素欠損とn型不純物との合計の濃度となる。Ga単結晶基板1の電子キャリア濃度は、例えば、1×1017cm-3以上、かつ、1×1019cm-3以下であってよい。また、Ga単結晶基板1とカソード電極4とのコンタクト抵抗を低減するために、Ga単結晶基板1の不純物濃度は、上記数値範囲よりも高濃度であってもよい。
【0057】
Gaエピタキシャル成長層2は、Ga単結晶基板1の上面上に配設される。Gaエピタキシャル成長層2の電子キャリア濃度は、Ga単結晶基板1の電子キャリア濃度よりも低いことが望ましく、例えば、1×1015cm-3以上、かつ、1×1017cm-3以下であってよい。
【0058】
アノード電極3は、Gaエピタキシャル成長層2の上面上に配設される。アノード電極3は、Gaエピタキシャル成長層2とショットキー接合されるため、Gaエピタキシャル成長層2の仕事関数よりも仕事関数が大きい金属材料で構成されることが好ましい。
【0059】
このような金属材料としては、例えば、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、金(Au)、または、パラジウム(Pd)であってよい。アノード電極3は、複数の金属材料を積層した積層構造であってよい。例えば、Gaエピタキシャル成長層2とのショットキー接合に適した金属材料からなる第1層を、Gaエピタキシャル成長層2に接触させて配設し、第1層の上面上に、他の金属材料からなる第2層を配設することによってアノード電極3を構成してもよい。
【0060】
カソード電極4は、Ga単結晶基板1の下面上に配設される。カソード電極4は、Ga単結晶基板1とオーミック接合されるため、Ga単結晶基板1の仕事関数よりも仕事関数が小さい金属材料で構成されることが好ましい。また、Ga単結晶基板1に形成した後の熱処理によって、Ga単結晶基板1との接触抵抗が小さくなるような金属材料で、カソード電極4が構成されることが好ましい。
【0061】
このような金属材料としては、例えば、チタン(Ti)であってよい。また、カソード電極4は、アノード電極3と同様に、複数の金属材料を積層した積層構造であってもよい。例えば、Ga単結晶基板1の下面に酸化しやすい金属材料が接触している場合には、当該金属材料の下面上に酸化しにくい金属材料をさらに形成した積層構造のカソード電極4を構成してもよい。また例えば、Ga単結晶基板1に接触し、オーミック接合に適したTiからなる第1層を配設し、第1層の下面上に、金(Au)または銀(Ag)からなる第2層を配設することによってカソード電極4を構成してもよい。また、カソード電極4は、Ga単結晶基板1の下面の全体に配設されてもよく、Ga単結晶基板1の下面の一部に配設されてもよい。
【0062】
以上のような実施の形態2によれば、実施の形態1の積層結晶構造体を利用することにより、デバイス特性が高められた半導体装置を実現することができる。
【0063】
<実施の形態3>
は、本実施の形態3に係る半導体装置の構成を概略的に例示する断面図である。本実施の形態3に係る半導体装置は、実施の形態1に係るGa単結晶積層構造体を備える横型ショットキーゲートトランジスタである。しかしながら本実施の形態3に係る半導体装置は、横型ショットキーゲートトランジスタに限定されるものではなく、ゲート絶縁膜を有する他の半導体スイッチング素子であってもよいし、これら以外の半導体装置であってもよい。
【0064】
の半導体装置は、上述したGa単結晶基板1及びGaエピタキシャル成長層2と、ソース電極5と、ドレイン電極6と、ゲート電極7とを備える。ソース電極5及びドレイン電極6は、Gaエピタキシャル成長層2の上面上に互いに離間して設けられ、Gaエピタキシャル成長層2と電気的にオーミック接合されたオーミック電極である。ゲート電極7は、Gaエピタキシャル成長層2の上面上、かつ、ソース電極5とドレイン電極6との間に設けられ、Gaエピタキシャル成長層2と電気的にショットキー接合されたショットキー電極である。

【0065】
本実施の形態3に係る半導体装置は、電流の流れる方向が横方向であるため、Gaエピタキシャル成長層2の電子キャリア濃度は、Ga単結晶基板1の電子キャリア濃度よりも高い。この点は、実施の形態2に示した縦型の半導体素子と異なる点であり、このようなGaエピタキシャル成長層2はそのn型不純物の濃度を調節することにより形成することができる。
【0066】
n型不純物を含むGa単結晶基板1の電子キャリア濃度は、酸素欠損とn型不純物との合計の濃度となる。Ga単結晶基板1の電子キャリア濃度は、例えば、1×1012cm-3以上、かつ、1×1015cm-3以下であってよい。また、Ga単結晶基板1の電子キャリア濃度は電流の流れに寄与しないので、不純物濃度は、上記数値範囲よりも低濃度であってもよい。つまり、Ga単結晶基板1を意図的に半絶縁化するために、鉄(Fe)等をGa単結晶基板1に添加してもよい。
【0067】
一方、Gaエピタキシャル成長層2の不純物濃度及び電子キャリア濃度は、Ga単結晶基板1よりも高濃度であることが望ましく、その電子キャリア濃度は、例えば、1×1015cm-3以上、かつ、1×1017cm-3以下であってよい。
【0068】
ソース電極5及びドレイン電極6は、Gaエピタキシャル成長層2とオーミック接合されるため、Gaエピタキシャル成長層2の仕事関数よりも仕事関数が小さい金属材料で構成されることが好ましい。また、Gaエピタキシャル成長層2に形成した後の熱処理によって、Gaエピタキシャル成長層2との接触抵抗が小さくなるような金属材料で、ソース電極5及びドレイン電極6が構成されることが好ましい。このような金属材料としては、例えば、チタン(Ti)であってよい。また、ソース電極5及びドレイン電極6は、実施の形態2で説明したカソード電極4と同様に、積層構造であってもよい。
【0069】
ゲート電極7は、Gaエピタキシャル成長層2とショットキー接合されるため、Gaエピタキシャル成長層2の仕事関数よりも仕事関数が大きい金属材料で構成されることが好ましい。このような金属材料としては、例えば、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、金(Au)、または、パラジウム(Pd)であってよい。また、ゲート電極7は、実施の形態2で説明したアノード電極3と同様に、積層構造であってもよい。
【0070】
なお、各実施の形態及び各変形例を自由に組み合わせたり、各実施の形態及び各変形例を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0071】
上記した説明は、すべての局面において、例示であって、限定的なものではない。例示されていない無数の変形例が、想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0072】
1 Ga単結晶基板、2 Gaエピタキシャル成長層、3 アノード電極、4 カソード電極、5 ソース電極、6 ドレイン電極、7 ゲート電極。
【要約】
デバイス特性を高めることが可能な技術を提供することを目的とする。結晶積層構造体は、第1主面を有するGa単結晶基板を備える。また、結晶積層構造体は、Ga単結晶基板の第1主面上に設けられ、Ga単結晶基板と逆側に第2主面を有するエピタキシャル成長層であるGa単結晶層を備える。Ga単結晶基板の第1主面の面方位は、(011)面である。また、Ga単結晶層の第2主面は、(011)面である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6