(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】極性基含有アリルモノマー共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 210/02 20060101AFI20221017BHJP
C08F 218/12 20060101ALI20221017BHJP
C08F 4/70 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C08F210/02
C08F218/12
C08F4/70
(21)【出願番号】P 2020501621
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2019002963
(87)【国際公開番号】W WO2019163442
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2018028030
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎庫
(72)【発明者】
【氏名】野崎 京子
(72)【発明者】
【氏名】黒田 潤一
(72)【発明者】
【氏名】奥村 吉邦
(72)【発明者】
【氏名】林 慎也
(72)【発明者】
【氏名】小林 稔
(72)【発明者】
【氏名】安川 雄一郎
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-068881(JP,A)
【文献】国際公開第2013/168626(WO,A1)
【文献】特開2014-159540(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067776(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/029432(WO,A1)
【文献】特開2015-137282(JP,A)
【文献】特開2016-084437(JP,A)
【文献】特開2004-196975(JP,A)
【文献】ITO et al.,Coordination-Insertion Copolymerization of Allyl Monomers with Ethylene,Journal of the American Chemical Society,2011年01月04日,Vol.133, No. 5,p. 1232-1235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00- 4/82
6/00-246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(C1)
【化1】
(式中、Mは
Pdを表し、Xはリン原子(P
)を表し、Yは、炭素原子数6~30の置換または無置換のアリーレン基、炭素原子数1~20の置換または無置換のアルキレン基、
及び炭素原子数3~30の置換または無置換のシクロアルキレン
基から選ばれる2価の基を表す。Qは、-S(=O)
2-O
-で示されるアニオン性配位子、または-P(-R
8)(-R
9)=
Oで示される中性配位子を表す(R
8、
及びR
9
は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基及びアミノ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。)。このときの結合様式は、Y-S(=O)
2-O-M
、またはY-P(-R
8)(-R
9)=O-
Mである。R
5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。R
6及びR
7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表し、それぞれで結合して環構造を形成してもよい。Lは電子供与性配位子を表し、R
5とLが環形成してもよい。qは0、1/2、1または2である。nは、有機金属化合物の電荷数を表し、0または1である。Z
n-はカチオン性有機金属化合物の対アニオンを表し、nが0である場合、存在しない。)
で示される金属錯体を触媒として使用し、エチレン及び一般式(1)
【化2】
(式中、R
1は、水酸基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数2~10のアシル基、炭素原子数2~10のエステル基(オキシカルボニル基;R-O-(C=O)-、Rは有機基)、炭素原子数2~10のアシロキシ基、アミノ基、炭素原子数1~12の置換アミノ基、炭素原子数2~12の置換アミド基、炭素原子数5~10の置換ピリジル基、炭素原子数4~10の置換ピロリジル基、炭素原子数5~10の置換ピペリジル基、炭素原子数4~10の置換ハイドロフリル基、炭素原子数4~10の置換イミダゾリル基、メルカプト基、炭素原子数1~10のアルキルチオ基、炭素原子数6~10のアリールチオ基、エポキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基を示す。)で示される極性基を有するアリルモノマーとの共重合体、またはエチレン、前記一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマー、及び他のモノマーとの共重合体を製造するにあたり、重合中に、1つ以上のケイ素-水素結合(Si-H)を有するシラン化合物を共存させることを特徴とする前記共重合体の製造方法。
【請求項2】
1つ以上のケイ素-水素結合(Si-H)を有するシラン化合物が、一般式(2)
【化3】
(式中、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数1~20の置換アミノ基、炭素原子数1~30の置換または無置換のアルキル基、炭素原子数3~30の置換または無置換のシクロアルキル基、炭素原子数6~30の置換または無置換のアリール基からなる群より選ばれる置換基を表す。R
2、R
3及びR
4は、それぞれで結合して、環構造を形成していてもよい。)
で示されるシラン化合物である請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項3】
一般式(2)中のR
2、R
3及びR
4が、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数1~30の置換または無置換のアルキル基、または炭素原子数6~30の置換または無置換のアリール基から選ばれる置換基である請求項2に記載の共重合体の製造方法。
【請求項4】
一般式(C
1)中の
nが0、Qが-S(=O)
2-O-である、すなわち使用する触媒が一般式(C4)
【化5】
(式中、X、Y、M、L、q、R
5、R
6及びR
7は、一般式(C1)の記載と同様の意味を表す。)
で示される金属錯体である請求項
1~3のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項5】
一般式(C
4)中のYが、置換または無置換のフェニレン基、
または置換または無置換のメチレン
基である請求項
4に記載の共重合体の製造方法。
【請求項6】
一般式(C
4)中のR
6及びR
7が、いずれも炭素原子数3~20のアルキル基である請求項4
または5に記載の共重合体の製造方法。
【請求項7】
一般式(C1)中のnが1、QがQ
2である、すなわち使用する触媒が一般式(C3)
【化6】
(式中、X、Y、M、L、q、R
5、R
6、R
7、及びZは、一般式(C1)の記載と同様の意味を表し、Q
2は、-P(-R
8)(-R
9)=
Oで示される中性配位子を表す(R
8、
及びR
9
は、一般式(C1)の記載と同様の意味を表す)。)
で示される金属錯体である、請求項1~3のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項8】
一般式(C3)中のYが、置換または無置換のフェニレン基、
または置換または無置換のメチレン
基である請求項
7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項9】
一般式(C3)中のR
6及びR
7が、いずれも炭素原子数3~20のアルキル基である請求項
7または
8に記載の共重合体の製造方法。
【請求項10】
一般式(C1)、一般式(C3)中のZが、SbF
6、BPh
4、BArF
4(ArF
4=[3,5-(CF
3)
2C
6H
3]
4)、BF
4またはPF
6から選択される一種である請求項1~3または
7~
9のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項11】
一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーが酢酸アリル(一般式(1)中のR
1がアセトキシ基(CH
3C(=O)-O-))である請求項1~1
0のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項12】
エチレンと一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーとの共重合反応、またはエチレン、一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマー、及び他のモノマーの共重合反応において、重合反応開始後に1つ以上のシラン-水素結合を有するシラン化合物を連続フィードまたは間欠フィードにより添加することを特徴とする請求項1~1
1のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性基を含有するアリルモノマー共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非極性モノマーであるエチレンやプロピレンなどのオレフィンと極性基を有するビニルモノマーとの共重合体は、無極性であるポリエチレンやポリプロピレンにはない機能性や特性を有しており、幅広い分野で使用されている。例えば、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、エチレンモノマー構造単位とビニルアルコールモノマー構造単位からなる共重合体であり、エチレンと酢酸ビニルのラジカル共重合で得られるエチレン・酢酸ビニル共重合体をケン化することによって製造される。EVOHはその優れたガスバリア性を生かして、食品包装用途など広い分野で使用されている。
【0003】
一方で、酢酸アリルやアリルアルコールなどの極性基を有するアリルモノマーの重合は、通常のビニルモノマーと比べて難しく、その重合体はほとんど知られていない。その主な理由は、アリルモノマーをラジカル重合させた場合、アリル位炭素上に存在する水素原子引き抜きによるモノマーへの退化的連鎖移動反応のため、ポリマーの生長反応が極めて遅く、重合度の低いオリゴマーしか得られないためである(Chem. Rev. 58, 808 (1958);非特許文献1)。
【0004】
特開2011-68881号公報(特許文献1)、国際公開第2013/168626号(特許文献2)及びJ. Am. Chem. Soc., 133, 1232 (2011)(非特許文献2)には、周期表第10族の金属錯体触媒を使用したエチレンと極性基含有アリルモノマーの配位共重合が示されており、ラジカル重合法では得られなかった極性基含有アリルモノマー共重合体の合成に成功している。また、特開2014-159540号公報(特許文献3)及び国際公開第2016/067776号(特許文献4)には、上記文献に記載の触媒をさらに改良することで、様々な成形品に成形できるレベルの分子量の重合体を製造できるようになったことが示されている。しかしながら、触媒コストの観点から、触媒活性及び単位触媒あたりのポリマー生産性は十分ではなく、工業化に向けて課題は残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-68881号公報(US8916663,US9284390)
【文献】国際公開第2013/168626号(US9303101)
【文献】特開2014-159540号公報(US9499644)
【文献】国際公開第2016/067776号(US2017313792)
【非特許文献】
【0006】
【文献】Chem. Rev. 58, 808 (1958)
【文献】J. Am. Chem. Soc., 133, 1232 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、極性基を有するアリルモノマー共重合体を、周期表第10族金属錯体を触媒として製造するにあたり、より高い触媒活性で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、周期表第10族金属錯体を触媒として使用し、1つ以上のケイ素-水素結合(Si-H)を有するシラン化合物共存下で、エチレンと極性基を有するアリルモノマーを共重合することにより、高い触媒活性で、種々の応用が可能な極性基を有するアリルモノマー共重合体を製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]~[13]の共重合体の製造方法に関する。
[1] 一般式(C1)
【化1】
(式中、Mは周期表第10族の元素を表し、Xはリン原子(P)または砒素原子(As)を表し、Yは、炭素原子数6~30の置換または無置換のアリーレン基、炭素原子数1~20の置換または無置換のアルキレン基、炭素原子数3~30の置換または無置換のシクロアルキレン基、置換または無置換のイミノ基(-NH-)、オキシ基(-O-)、または置換または無置換のシリレン基(-SiH
2-)から選ばれる2価の基を表す。Qは、-S(=O)
2-O-、-C(=O)-O-、-P(=O)(-OH)-O-、-O-、-S-から選ばれるアニオン性配位子、または-P(-R
8)(-R
9)=O、-C(-R
10)=Oから選ばれる中性配位子を表す(R
8、R
9、及びR
10は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基及びアミノ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。)。このときの結合様式は、Y-S(=O)
2-O-M、Y-C(=O)-O-M、Y-P(=O)(-OH)-O-M、Y-O-M、Y-S-M、Y-P(-R
8)(-R
9)=O-M、Y-C(-R
10)=O-Mである。R
5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。R
6及びR
7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表し、それぞれで結合して環構造を形成してもよい。Lは電子供与性配位子を表し、R
5とLが環形成してもよい。qは0、1/2、1または2である。nは、有機金属化合物の電荷数を表し、0または1である。Z
n-はカチオン性有機金属化合物の対アニオンを表し、nが0である場合、存在しない。)
で示される金属錯体を触媒として使用し、エチレン及び一般式(1)
【化2】
(式中、R
1は、水酸基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数2~10のアシル基、炭素原子数2~10のエステル基(オキシカルボニル基;R-O-(C=O)-、Rは有機基)、炭素原子数2~10のアシロキシ基、アミノ基、炭素原子数1~12の置換アミノ基、炭素原子数2~12の置換アミド基、炭素原子数5~10の置換ピリジル基、炭素原子数4~10の置換ピロリジル基、炭素原子数5~10の置換ピペリジル基、炭素原子数4~10の置換ハイドロフリル基、炭素原子数4~10の置換イミダゾリル基、メルカプト基、炭素原子数1~10のアルキルチオ基、炭素原子数6~10のアリールチオ基、エポキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基を示す。)で示される極性基を有するアリルモノマーとの共重合体、またはエチレン、前記一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマー、及び他のモノマーとの共重合体を製造するにあたり、重合中に、1つ以上のケイ素-水素結合(Si-H)を有するシラン化合物を共存させることを特徴とする前記共重合体の製造方法。
[2] 1つ以上のケイ素-水素結合(Si-H)を有するシラン化合物が、一般式(2)
【化3】
(式中、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数1~20の置換アミノ基、炭素原子数1~30の置換または無置換のアルキル基、炭素原子数3~30の置換または無置換のシクロアルキル基、炭素原子数6~30の置換または無置換のアリール基からなる群より選ばれる置換基を表す。R
2、R
3及びR
4は、それぞれで結合して、環構造を形成していてもよい。)
で示されるシラン化合物である[1]に記載の共重合体の製造方法。
[3] 一般式(2)中のR
2、R
3及びR
4が、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数1~30の置換または無置換のアルキル基、または炭素原子数6~30の置換または無置換のアリール基から選ばれる置換基である[2]に記載の共重合体の製造方法。
[4] 一般式(C1)中のnが0、QがQ
1、すなわち使用する触媒が一般式(C2)
【化4】
(式中、X、Y、M、L、q、R
5、R
6及びR
7は、一般式(C1)の記載と同様の意味を表し、Q
1は、-S(=O)
2-O-、-C(=O)-O-、-P(=O)(-OH)-O-、-O-、-S-から選ばれるアニオン性配位子を表す。)
で示される金属錯体である[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[5] 一般式(C2)中のQ
1が-S(=O)
2-O-である、すなわち使用する触媒が一般式(C4)
【化5】
(式中、X、Y、M、L、q、R
5、R
6及びR
7は、一般式(C1)の記載と同様の意味を表す。)
で示される金属錯体である[4]に記載の共重合体の製造方法。
[6] 一般式(C2)中のYが、置換または無置換のフェニレン基、置換または無置換のメチレン基、または置換または無置換のイミノ基である[4]または[5]に記載の共重合体の製造方法。
[7] 一般式(C2)中のR
6及びR
7が、いずれも炭素原子数3~20のアルキル基である[4]~[6]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[8] 一般式(C1)中のnが1、QがQ
2である、すなわち使用する触媒が一般式(C3)
【化6】
(式中、X、Y、M、L、q、R
5、R
6、R
7、及びZは、一般式(C1)の記載と同様の意味を表し、Q
2は、-P(-R
8)(-R
9)=O、-C(-R
10)=Oから選ばれる中性配位子を表す(R
8、R
9、及びR
10は、一般式(C1)の記載と同様の意味を表す)。)
で示される金属錯体である、[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[9] 一般式(C3)中のYが、置換または無置換のフェニレン基、置換または無置換のメチレン基、または置換または無置換のイミノ基である[8]に記載の共重合体の製造方法。
[10] 一般式(C3)中のR
6及びR
7が、いずれも炭素原子数3~20のアルキル基である[8]または[9]に記載の共重合体の製造方法。
[11] 一般式(C1)、一般式(C3)中のZが、SbF
6、BPh
4、BArF
4(ArF
4=[3,5-(CF
3)
2C
6H
3]
4)、BF
4またはPF
6から選択される一種である[1]~[3]または[8]~[10]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[12] 一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーが酢酸アリル(一般式(1)中のR
1がアセトキシ基(CH
3C(=O)-O-))である[1]~[11]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[13] エチレンと一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーとの共重合反応、またはエチレン、一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマー、及び他のモノマーの共重合反応において、重合反応開始後に1つ以上のシラン-水素結合を有するシラン化合物を連続フィードまたは間欠フィードにより添加することを特徴とする[1]~[12]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
極性基を有するアリルモノマー共重合体を高い触媒活性で製造できるようになり、低い製造コストが実現可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[触媒]
(金属錯体の構造)
本発明で使用する周期表第10族金属錯体からなる触媒の構造は、一般式(C1)で示される。
【化7】
【0012】
式中、Mは周期表第10族の元素を表し、Xはリン原子(P)または砒素原子(As)を表し、Yは、炭素原子数6~30の置換または無置換のアリーレン基、炭素原子数1~20の置換または無置換のアルキレン基、炭素原子数3~30の置換または無置換のシクロアルキレン基、置換または無置換のイミノ基(-NH-)、オキシ基(-O-)、または置換または無置換のシリレン基(-SiH2-)から選ばれる2価の基を表す。Qは、-S(=O)2-O-、-C(=O)-O-、-P(=O)(-OH)-O-、-O-、-S-から選ばれるアニオン性配位子、または-P(-R8)(-R9)=O、-C(-R10)=Oから選ばれる中性配位子を表す(R8、R9、及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアミノ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。)。このときの結合様式は、Y-S(=O)2-O-M、Y-C(=O)-O-M、Y-P(=O)(-OH)-O-M、Y-O-M、Y-S-M、Y-P(-R8)(-R9)=O-M、Y-C(-R10)=O-Mである。R5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド(amido)基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。R6及びR7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表し、それぞれで結合して環構造を形成してもよい。Lは電子供与性配位子を表し、R5とLが環形成してもよい。qは0、1/2、1または2である。nは、有機金属化合物の電荷数を表し、0または1である。Zn-はカチオン性有機金属化合物の対アニオンを表し、nが0である場合、存在しない。
【0013】
なお、本明細書では、「炭化水素」は飽和、不飽和の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素を含む。
【0014】
以下、一般式(C1)の構造について説明する。
Mは周期表第10族の元素を表す。周期表第10族の元素としては、Ni、Pd、Ptが挙げられるが、触媒活性や得られる重合体の分子量の観点からNi及びPdが好ましく、Pdがより好ましい。
【0015】
Xはリン原子(P)または砒素原子(As)であり、中心金属Mに2電子配位している。Xとしては、入手容易性及び触媒コストの面からPが好ましい。
【0016】
Yは、炭素原子数6~30の置換または無置換のアリーレン基、炭素原子数1~20の置換または無置換のアルキレン基、炭素原子数3~30の置換または無置換のシクロアルキレン基、置換または無置換のイミノ基(-NH-)、オキシ基(-O-)、または置換または無置換のシリレン基(-SiH2-)から選ばれる2価の基を表す。
【0017】
炭素原子数6~30の無置換のアリーレン基の例として、1,2-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基などが挙げられ、原料入手の容易さ及び触媒合成の容易さから、1,2-フェニレン基または1,2-ナフチレン基が好ましい。
【0018】
上記の無置換アリーレン基に1つまたは複数の置換基が存在していてもよい。置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、イソプロピル基、1-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2,3-ジメトキシフェニル基、2,4-ジメトキシフェニル基、2,5-ジメトキシフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基、3,4-ジメトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、3,6-ジメトキシフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、フェノキシ基、アミノ基、モノメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、モノ(n-プロピル)アミノ基、モノ(イソプロピル)アミノ基、モノ(n-ブチル)アミノ基、モノ(イソブチル)アミノ基、モノ(sec-ブチル)アミノ基、モノ(t-ブチル)アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ(n-プロピル)アミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジ(n-ブチル)アミノ基、ジ(イソブチル)アミノ基、ジ(sec-ブチル)アミノ基、ジ(t-ブチル)アミノ基、モノフェニルアミノ基、モノベンジルアミノ基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ(n-プロピル)シリル基、トリ(イソプロピル)シリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、フルオロ基、ブロモ基、クロロ基、ヨード基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基などが挙げられる。なお、置換基が複数存在する場合、同じであっても異なっていてもよい。
【0019】
炭素原子数1~20の無置換のアルキレン基の例として、メチレン基、1,2-エチレン基、ジメチルメチレン基、ジエチルメチレン基、モノメチルメチレン基、モノエチルメチレン基、1-メチル-1,2-エチレン基、1-エチル-1,2-エチレン基、1,2-ジメチル-1,2-エチレン基、1,2-ジエチル-1,2-エチレン基、1,1-ジメチル-1,2-エチレン基、1,1-ジエチル-1,2-エチレン基、1,1,2-トリメチル-1,2-エチレン基、1,1,2-トリエチル-1,2-エチレン基、1,1,2,2-テトラメチル-1,2-エチレン基、1,1,2,2-テトラエチル-1,2-エチレン基などが挙げられる。
【0020】
上記の無置換アルキレン基に1つまたは複数の置換基が存在していてもよい。置換基としてはアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、オキソ基(=O)などが挙げられる。
【0021】
炭素原子数1~20の置換基を有するアルキレン基の具体例としては、ジフェニルメチレン基、モノフェニルメチレン基、モノ(トリメチルシリル)メチレン基、ジ(トリメチルシリル)メチレン基、ジ(2-メトキシフェニル)メチレン基、モノ(2-メトキシフェニル)メチレン基、ジ(3-メトキシフェニル)メチレン基、モノ(3-メトキシフェニル)メチレン基、ジ(4-メトキシフェニル)メチレン基、モノ(4-メトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,6-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,6-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,4-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,4-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,3-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,3-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(3,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(3,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,4,6-トリメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,4,6-トリメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,4,6-トリメチルフェニル)メチレン基、モノ(2,4,6-トリメチルフェニル)メチレン基、ジ(2-イソプロピルフェニル)メチレン基、モノ(2-イソプロピルフェニル)メチレン基、ジ(2,6-ジイソプロピルフェニル)メチレン基、モノ(2,6-ジイソプロピルフェニル)メチレン基、ジ(1-ナフチル)メチレン基、モノ(1-ナフチル)メチレン基、ジ(2-ナフチル)メチレン基、モノ(2-ナフチル)メチレン基、ジメトキシメチレン基、ジエトキシメチレン基、ジプロポキシメチレン基、ジイソプロポキシメチレン基、モノフェノキシメチレン基、ジフェノキシメチレン基、1,2-エタンジオキシメチレン基、1,3-プロパンジオキシメチレン基、1-フェニル-1,2-エチレン基、1,2-ジフェニル-1,2-エチレン基、1,1,2-トリフェニル-1,2-エチレン基、1,1,2,2-テトラフェニル-1,2-エチレン基、カルボニル基(-C(=O)-)などが挙げられる。
【0022】
炭素原子数1~20の置換または無置換のアルキレン基は、原料入手の容易さ及び触媒合成の容易さから、メチレン基、モノメチルメチレン基、ジメチルメチレン基、ジフェニルメチレン基、またはモノフェニルメチレン基が好ましい。
【0023】
炭素原子数3~30の無置換のシクロアルキレン基の例として、cis-シクロプロパン-1,2-イル基、trans-シクロプロパン-1,2-イル基、cis-シクロブタン-1,2-イル基、trans-シクロブタン-1,2-イル基、cis-シクロペンタン-1,2-イル基、trans-シクロペンタン-1,2-イル基、cis-シクロヘキサン-1,2-イル基、trans-シクロヘキサン-1,2-イル基、cis-シクロヘプタン-1,2-イル基、trans-シクロヘプタン-1,2-イル基、cis-シクロオクタン-1,2-イル基、trans-シクロオクタン-1,2-イル基などが挙げられる。原料入手の容易さ及び触媒合成の容易さから、cis-シクロペンタン-1,2-イル基、trans-シクロペンタン-1,2-イル基、cis-シクロヘキサン-1,2-イル基、またはtrans-シクロヘキサン-1,2-イル基が好ましい。
【0024】
上記の無置換シクロアルキレン基に1つまたは複数の置換基が存在していてもよい。置換基の具体例は、無置換アリーレン基に置換基が存在する場合の置換基の上記具体例と同様である。なお、置換基が複数存在する場合、同じであっても異なっていてもよい。
【0025】
置換または無置換のイミノ基(-NH-)における置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数2~10のアルコキシカルボニル基、炭素数6~20の、アルキル基またはアルコキシ基を有していてもよいアリール基、炭素数6~20のアラルキル基が挙げられる。
【0026】
置換または無置換のイミノ基(-NH-)の具体例として、イミノ基、N-メチルイミノ基、N-エチルイミノ基、N-(n-プロピル)イミノ基、N-イソプロピルイミノ基、N-(n-ブチル)イミノ基、N-(sec-ブチル)イミノ基、N-(t-ブチル)イミノ基、N-ベンジルイミノ基、N-フェニルイミノ基、N-トリメチルシリルイミノ基、N-(2-メトキシフェニル)イミノ基、N-(3-メトキシフェニル)イミノ基、N-(4-メトキシフェニル)イミノ基、N-(2,6-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,5-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,4-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,3-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(3,5-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,4,6-トリメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,4,6-トリメチルフェニル)イミノ基、N-(1-ナフチル)イミノ基、N-(2-ナフチル)イミノ基、N-(t-ブトキシカルボニル)イミノ基などが挙げられる。
【0027】
触媒合成の容易さから、イミノ基、N-メチルイミノ基、N-ベンジルイミノ基、またはN-(t-ブトキシカルボニル)イミノ基が好ましい。
【0028】
置換または無置換のシリレン基(-SiH2-)の例として、シリレン基、ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、モノメチルシリレン基、モノエチルシリレン基、ジフェニルシリレン基、モノフェニルシリレン基、モノ(トリメチルシリル)シリレン基、ジ(トリメチルシリル)シリレン基、ジ(2-メトキシフェニル)シリレン基、モノ(2-メトキシフェニル)シリレン基、ジ(3-メトキシフェニル)シリレン基、モノ(3-メトキシフェニル)シリレン基、ジ(4-メトキシフェニル)シリレン基、モノ(4-メトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,6-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,6-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,4-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,4-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,3-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,3-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(3,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(3,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,4,6-トリメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,4,6-トリメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,4,6-トリメチルフェニル)シリレン基、モノ(2,4,6-トリメチルフェニル)シリレン基、ジ(2-イソプロピルフェニル)シリレン基、モノ(2-イソプロピルフェニル)シリレン基、ジ(2,6-ジイソプロピルフェニル)シリレン基、モノ(2,6-ジイソプロピルフェニル)シリレン基、ジ(1-ナフチル)シリレン基、モノ(1-ナフチル)シリレン基、ジ(2-ナフチル)シリレン基、モノ(2-ナフチル)シリレン基、ジメトキシシリレン基、ジエトキシシリレン基、ジプロポキシシリレン基、ジイソプロポキシシリレン基、1,2-エタンジオキシシリレン基、1,3-プロパンジオキシシリレン基などが挙げられる。触媒合成の容易さから、シリレン基、モノメチルシリレン基、ジメチルシリレン基、ジフェニルシリレン基、またはモノメチルシリレン基が好ましい。
【0029】
一般式(C1)において、Qは、-S(=O)2-O-、-C(=O)-O-、-P(=O)(-OH)-O-、-O-、-S-から選ばれるアニオン性配位子、または-P(-R8)(-R9)=O、-C(-R10)=Oから選ばれる中性配位子を表す。(R8、R9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアミノ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。)。このときの結合様式は、Y-S(=O)2-O-M、Y-C(=O)-O-M、Y-P(=O)(-OH)-O-M、Y-O-M、Y-S-M、Y-P(-R8)(-R9)=O-M、Y-C(-R10)=O-Mである。
【0030】
QまたはQ2が-P(-R8)(-R9)=Oである場合のR8及びR9は、それぞれ独立して、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアミノ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。
【0031】
R8及びR9が表すアルコキシ基としては、炭素原子数1~20のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、1-プロポキシ基、イソプロポキシ基、1-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基などが挙げられる。R8及びR9が表すアリールオキシ基としては、炭素原子数6~24のものが好ましく、フェノキシ基などが挙げられる。R8及びR9が表すアミノ基としては、アミノ基、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基などが挙げられる。
【0032】
R8及びR9が表すハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアミノ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基における炭化水素基としてはアルキル基(鎖状アルキル基、シクロアルキル基、橋架けシクロアルキル基を含む)、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。置換基としてのハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。置換基としてのアルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基は、前記R8及びR9が表すアルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基と同様のものが好ましい。
【0033】
R8及びR9が表すハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアミノ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-メチル-4-ヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3-メチル-4-ヘプチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、メンチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基、2’-メトキシベンジル基、3’-メトキシベンジル基、4’-メトキシベンジル基、4’-トリフルオロメチルベンジル基、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2-イソプロピルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、3,5-ジイソプロピルフェニル基、2,4,6-トリイソプロピルフェニル基、2-t-ブチルフェニル基、2-シクロヘキシルフェニル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、2,4,6-トリメトキシフェニル基、4-フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-フリル基、2-ビフェニル基、2’,6’-ジメトキシ-2-ビフェニル基、2’-メチル-2-ビフェニル基、2’,4’,6’-トリイソプロピル-2-ビフェニル基などが挙げられる。
【0034】
触媒活性の観点から、R8とR9は、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、またはフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
また、R8とR9は同じでも、異なっていてもよい。また、R6とR7は結合して環構造を形成してもよい。
【0035】
QまたはQ2が-C(-R10)=Oである場合のR10は、水素原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアミノ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基を表す。R10の具体例は、上記のR8及びR9の具体例と同様であり、触媒活性の観点から、メチル基、トリフルオロメチル基、またはフェニル基が好ましい。
【0036】
R5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、または炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。
R5が表すハロゲン原子の好ましい具体例は、フッ素、塩素、臭素である。これらの中では塩素が好ましい。
【0037】
R5が表す炭素原子数1~30の炭化水素基は、好ましくは炭素原子数1~13の炭化水素基であり、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基である。
好ましい具体例は、メチル基、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、t-ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1-ジメチル-2-フェニルエチル基、イソプロピル基、1-ジメチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基、1-フェニル-2-プロピル基、イソブチル基、1,1-ジメチルブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-プロピルヘプチル基、2-オクチル基、3-ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、エキソ-ノルボルニル基、エンド-ノルボニル基、2-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノピニル基、デカヒドロナフチル基、メンチル基、ネオメンチル基、ネオペンチル基、5-デシル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基及び4-エチルフェニル基などが挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい基は、メチル基、ベンジル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0038】
R5が表すハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基は、好ましくは前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をフッ素、塩素または臭素で置換した基であり、具体的に好ましい例として、トリフルオロメチル基またはペンタフルオロフェニル基が挙げられる。
【0039】
R5が表す炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基は、好ましくは前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1-プロポキシ基、1-ブトキシ基またはt-ブトキシ基で置換した基である。さらに好ましくはメトキシ基またはエトキシ基で置換された炭素原子数2~6の炭化水素基である。具体的には、1-(メトキシメチル)エチル基、1-(エトキシメチル)エチル基、1-(フェノキシメチル)エチル基、1-(メトキシエチル)エチル基、1-(エトキシエチル)エチル基、ジ(メトキシメチル)メチル基、ジ(エトキシメチル)メチル基、ジ(フェノキシメチル)メチル基が挙げられる。特に好ましくは、1-(メトキシメチル)エチル基または1-(エトキシメチル)エチル基である。
【0040】
R5が表す炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、2,6-ジ-t-ブチルフェノキシ基で置換した基である。さらに好ましくはフェノキシ基または2,6-ジメチルフェノキシ基で置換された炭素原子数1~6の炭化水素基であり、特に好ましくは、1-(フェノキシメチル)エチル基または1-(2,6-ジメチルフェノキシ基メチル)エチル基である。
【0041】
R5が表す炭素原子数2~10のアミド基(R-(C=O)NH-、Rは有機基)で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をアセトアミド基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基、イソブチリルアミノ基、ヴァレリルアミノ基、イソヴァレリルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基で置換した置換基である。さらに好ましくは2-アセトアミドフェニル基、2-プロピオニルアミノフェニル基、2-ヴァレリルアミノフェニル基、2-ベンゾイルアミノフェニル基であり、特に好ましくは、2-アセトアミドフェニル基である。
【0042】
R
5がアミド基で置換された炭化水素基である場合には、電子供与性配位子Lを別途使用せずとも、アミド基のカルボニル酸素がMに配位して環構造を形成することができる。即ち、R
5がLを兼ねることができる。この場合をR
5とLが環形成しているという。具体的には、2-アセトアミドフェニル基、2-プロピオニルアミノフェニル基、2-ヴァレリルアミノフェニル基、2-ベンゾイルアミノフェニル基の場合が相当する。2-アセトアミドフェニル基の場合を下記化学式に示す。
【化8】
【0043】
R5が表す炭素原子数1~30のアルコキシ基は、好ましくは炭素原子数1~6のアルコキシ基であり、好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1-プロポキシ基、1-ブトキシ基、及びt-ブトキシ基などである。これらの中で、さらに好ましい基は、メトキシ基、エトキシ基、またはイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基である。
【0044】
R5が表す炭素原子数6~30のアリールオキシ基は、好ましくは炭素原子数6~12のアリールオキシ基であり、好ましい具体例は、フェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基及び2,6-ジ-t-ブチルフェノキシ基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましい基としては、フェノキシ基または2,6-ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基である。
【0045】
R5が表す炭素原子数2~10のアシロキシ基は、好ましくは炭素原子数2~8のアシロキシ基であり、好ましい具体例としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ヴァレリルオキシ基、イソヴァレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい基は、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基であり、特に好ましくは、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基である。
【0046】
これらのR5として好ましい群のうち、さらに好ましくは、炭素原子数1~20の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数2~10のアミド基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアシロキシ基であり、特に好ましい具体例は、メチル基、ベンジル基、メトキシ基、2-アセトアミドフェニル基、アセチルオキシ基である。
【0047】
R6及びR7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、またはハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表す。
【0048】
R6及びR7が表すアルコキシ基としては、炭素原子数1~20のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などが挙げられる。
【0049】
R6及びR7が表すアリールオキシ基としては、炭素原子数6~24のものが好ましく、フェノキシ基などが挙げられる。
【0050】
R6及びR7が表すシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ(n-プロピル)シリル基、トリ(イソプロピル)シリル基などが挙げられ、アミノ基としては、アミノ基、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基などが挙げられる。
【0051】
R6及びR7が表すハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基における炭化水素基としては、アルキル基(鎖状アルキル基、シクロアルキル基、橋架けシクロアルキル基を含む)、フェニル基、ナフチル基などが挙げられ、炭素原子数3~20のアルキル基が好ましい。置換基としてのハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。置換基としてのアルコキシ基、アリールオキシ基は、前記R6及びR7が表すアルコキシ基、アリールオキシ基と同様のものが好ましい。
【0052】
R6及びR7が表すハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-メチル-2-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-メチル-4-ヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3-メチル-4-ヘプチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、メンチル基(メンチル基、ネオメンチル基、イソメンチル基、ネオイソメンチル基はメンチル基と総称される。)、トリフルオロメチル基、ベンジル基、2’-メトキシベンジル基、3’-メトキシベンジル基、4’-メトキシベンジル基、4’-トリフルオロメチルベンジル基、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2-イソプロピルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、3,5-ジイソプロピルフェニル基、2,4,6-トリイソプロピルフェニル基、2-t-ブチルフェニル基、2-シクロヘキシルフェニル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、2,4,6-トリメトキシフェニル基、4-フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-フリル基、2-ビフェニル基、2’,6’-ジメトキシ-2-ビフェニル基、2’-メチル-2-ビフェニル基、2’,4’,6’-トリイソプロピル-2-ビフェニル基などが挙げられる。触媒活性及び得られる共重合体の分子量の観点から、R6とR7は、イソプロピル基、t-ブチル基、4-ヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基またはメンチル基が好ましく、イソプロピル基、t-ブチル基またはメンチル基がより好ましい。
また、R6とR7は同じでも、異なっていてもよい。また、R6とR7は結合して環構造を形成してもよい。
【0053】
電子供与性配位子(L)とは、電子供与性基を有し、金属原子Mに配位して金属錯体を安定化させることのできる化合物である。前述のように、R5がアミド基で置換された炭化水素基である場合には、アミド基のカルボニル酸素がMに配位して環構造を形成することができる。即ち、R5がLを兼ね、LはR5と環を形成していることになる。
【0054】
電子供与性配位子(L)としては、硫黄原子を有するものとしてジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。窒素原子を有するものとして、アルキル基の炭素原子数1~10のトリアルキルアミン、アルキル基の炭素原子数1~10のジアルキルアミン、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン(別名:2,6-ルチジン)、アニリン、2,6-ジメチルアニリン、2,6-ジイソプロピルアニリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、アセトニトリル、ベンゾニトリル、キノリン、2-メチルキノリンなどが挙げられる。酸素原子を有するものとして、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタンが挙げられる。金属錯体の安定性及び触媒活性の観点から、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン(別名:2,6-ルチジン)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)が好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)、2,6-ジメチルピリジン(別名:2,6-ルチジン)がより好ましい。
【0055】
qは0、1/2、1または2である。
【0056】
一般式(C1)の金属錯体を単離する場合、予め電子供与性配位子(L)を配位させて安定化させたものを用いることもできる。この場合、qは1/2、1または2となる。qが1/2とは一つの2価の電子供与性配位子が2つの金属錯体に配位していることを意味する。qは金属錯体触媒を安定化する意味で1/2または1が好ましい。なお、qが0の場合は配位子がないことを意味する。
【0057】
nは、有機金属化合物の電荷数を表し、0または1である。Zn-はカチオン性有機金属化合物の対アニオンを表し、nが0である場合、存在しない。
【0058】
nが1のときに相当するZ-は、カチオン性有機金属錯体の対アニオンを表す。Z-で示される対アニオンは、1価のアニオンであればどのようなものでも良い。さらに中心金属(M)1原子あたりの電荷数が1価になるようであれば、Z-は多価のアニオンであってもよい。Z-の具体例としては、硫酸イオン(SO4
2-)、硝酸イオン(NO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)等のハロゲン化物イオン、テトラフルオロボレート(BF4
-)、ブロモトリフルオロボレート(BBrF3
-)、クロロトリフルオロボレート(BClF3
-)、トリフルオロメトキシボレート(BF3(OCH3)-)、トリフルオロエトキシボレート(BF3(OC2H5)-)、トリフルオロアリロキシボレート(BF3(OC3H5)-)、テトラフェニルボレート(B(C6H5)4
-)、テトラキス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート(B(3,5-(CF3)2C6H3)4
-=BArF4
―)、ブロモトリフェニルボレート(BBr(C6H5)3
-)、クロロトリフェニルボレート(BCl(C6H5)3
-)、メトキシトリフェニルボレート(B(OCH3)(C6H5)3
-)、エトキシトリフェニルボレート(B(OC2H5)(C6H5)3
-)、アリロキシトリフェニルボレート(B(OC3H5)(C6H5)3
-)、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(B(C6F5)4
-)、ブロモトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(BBr(C6F5)3
-)、クロロトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(BCl(C6F5)3
-)、メトキシトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(B(OCH3)(C6F5)3
-)、エトキシトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(B(OC2H5)(C6F5)3
-)、アリロキシトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(B(OC3H5)(C6F5)3
-)等のボレートイオン、メタンスルホネート(CH3SO3
-)、トリフルオロメタンスルホネート(CF3SO3
-)、ノナフルオロブタンスルホネート(C4F9SO3
-)、ベンゼンスルホネート(C6H5SO3
-)、p-トルエンスルホネート(p-CH3-C6H4SO3
-)などのスルホネートイオン、酢酸イオン(CH3CO2
-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3CO2
-)、トリクロロ酢酸イオン(CCl3CO2
-)、プロピオン酸イオン(C2H5CO2
-)、安息香酸イオン(C6H5CO2
-)などのカルボキシレートイオン、ヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)などのホスフェートイオン、ヘキサフルオロアルセネートイオン(AsF6
-)などのアルセネートイオン、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6
-)等のアンチモネートイオン、ヘキサフルオロシリケート(SiF6
-)などのシリケートアニオン等が挙げられる。これら対イオンの中でも、本発明においては、原料の入手容易性及び触媒活性の観点から、Z-はSbF6
-、BPh4
-、BArF4
-、BF4
-またはPF6
-であることが好ましい。
【0059】
nの数値及びZ
n-の有無は、Qの種類によって決定される。Qが、-S(=O)
2-O-、-C(=O)-O-、-P(=O)(-OH)-O-、-O-、-S-から選ばれるアニオン性配位子である場合、nが0であり、一般式(C1)で示される金属錯体が中性の有機金属化合物となるため、対アニオンであるZ
n-は存在しない。すなわち、この場合、一般式(C1)で示される金属錯体は、一般式(C2)
【化9】
(式中、X、Y、M、L、q、R
5、R
6、及びR
7は、一般式(C1)の記載と同様の意味を表し、Q
1は、-S(=O)
2-O-、-C(=O)-O-、-P(=O)(-OH)-O-、-O-、-S-から選ばれるアニオン性配位子を表す。)
で表すことができる。
【0060】
Q
1は、-S(=O)
2-O-、-C(=O)-O-、-P(=O)(-OH)-O-、-O-、-S-から選ばれるアニオン性配位子を表す。このときの結合様式は、Y-S(=O)
2-O-M、Y-C(=O)-O-M、Y-P(=O)(-OH)-O-M、Y-O-M、Y-S-Mであり、金属原子Mに1電子配位している。触媒活性の観点から、Q
1は-S(=O)
2-O-が特に好ましい。このときの触媒構造は一般式(C4)で示される。
【化10】
【0061】
一方、Qが、-P(-R
8)(-R
9)=O、-C(-R
10)=Oから選ばれる中性配位子である場合、nが1であり、対アニオンがZ
-となる。すなわち、この場合、一般式(C1)で示される金属錯体は、一般式(C3)
【化11】
(式中、X、Y、M、L、q、R
5、R
6、R
7、及びZは、一般式(C1)と同様の意味を表し、Q
2は、-P(-R
8)(-R
9)=O、-C(-R
10)=Oから選ばれる中性配位子を表す(R
8、R
9及びR
10は、一般式(C1)と同様の意味を表す。)。)
で表すことができる。
【0062】
Q
2は、-P(-R
8)(-R
9)=O、-C(-R
10)=Oから選ばれる中性配位子を表す。このときの結合様式は、Y-P(-R
8)(-R
9)=O-M、Y-C(-R
10)=O-Mであり、金属原子Mに2電子配位している。Q
2が-C(-R
10)=Oの場合は一般式(C5)の構造となる。式中の符号は一般式(C1)と同様の意味を表す。
【化12】
【0063】
(金属錯体の製造方法)
一般式(C1)で示される触媒である金属錯体は、公知の文献(例えば、J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 8802)に記載の方法と同様の方法で、合成することができる。すなわち、0価あるいは2価のMソースと一般式(C1)中の配位子と反応させる。また、一般式(C1)で示される金属錯体が一般式(C3)である場合、Mソースと配位子を反応させた後に、さらに対アニオンZ-を導入するために、1価の金属塩を反応させて金属錯体を合成する。
【0064】
0価のMソースは、パラジウムソースとして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムが挙げられ、ニッケルソースとして、テトラカルボニルニッケル(0):Ni(CO)4、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルが挙げられる。
2価のMソースは、パラジウムソースとして、(1,5-シクロオクタジエン)(メチル)塩化パラジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム:PdCl2(CH3CN)2、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム:PdCl2(PhCN)2、(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)ジクロロパラジウム(II):PdCl2(TMEDA)、(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)ジメチルパラジウム(II):PdMe2(TMEDA)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II):Pd(acac)2(acac=アセチルアセトナト)、トリフルオロメタンスルホン酸パラジウム(II):Pd(OSO2CF3)2が、ニッケルソースとして、(アリル)塩化ニッケル、(アリル)臭化ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II):Ni(acac)2、(1,2-ジメトキシエタン)ジクロロニッケル(II):NiCl2(DME)、トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II):Ni(OSO2CF3)2などが挙げられる。
【0065】
一般式(C1)で示される金属錯体は、単離して使用することができるが、錯体を単離することなくMを含む金属ソースと配位子前駆体を反応系中で接触させて、これをそのまま(in situ)重合に供することもできる。特に一般式(C1)中のR5が水素原子の場合、0価のMを含む金属ソースと配位子とを反応させた後、錯体を単離することなくそのまま重合に供することが好ましい。
【0066】
一般式(C1)におけるMソース(M)と配位子(C1配位子)との比率((C1配位子)/M)は、0.5~2.0の範囲で、さらには、1.0~1.5の範囲で選択することが好ましい。
【0067】
一般式(C1)で示される金属錯体は、担体に担持して重合に使用することもできる。この場合の担体は、特に限定されないが、シリカゲル、アルミナなどの無機担体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの有機担体などを挙げることができる。金属錯体の担持法としては、金属錯体の溶液を担体に含浸させて乾燥する物理的な吸着方法や、金属錯体と担体とを化学的に結合させて担持する方法などが挙げられる。
【0068】
[モノマー]
本発明の共重合体の製造方法で、エチレンと共重合させる極性基を有するアリルモノマーは、一般式(2)
【化13】
で示される。
【0069】
式中、R1は、水酸基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数2~10のアシル基、炭素原子数2~10のエステル基、炭素原子数2~10のアシロキシ基、アミノ基、炭素原子数1~12の置換アミノ基、炭素原子数2~12の置換アミド基、炭素原子数5~10の置換ピリジル基、炭素原子数4~10の置換ピロリジル基、炭素原子数5~10の置換ピペリジル基、炭素原子数4~10の置換ハイドロフリル基、炭素原子数4~10の置換イミダゾリル基、メルカプト基、炭素原子数1~10のアルキルチオ基、炭素原子数6~10のアリールチオ基、エポキシ基、ハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基を表す。
【0070】
炭素原子数1~10のアルコキシ基であるR1は、好ましくは、炭素原子数1~4のアルコキシ基であり、好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1-プロポキシ基、1-ブトキシ基、またはt-ブトキシ基などである。
これらの中で、さらに好ましい置換基は、メトキシ基、エトキシ基、またはイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基である。
【0071】
炭素原子数6~20のアリールオキシ基であるR1は、好ましくは、炭素原子数6~12のアリールオキシ基であり、好ましい具体例としては、フェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、3,5-ジ-t-ブチルフェノキシ基または2,6-ジ-t-ブチルフェノキシ基が挙げられる。
【0072】
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、フェノキシ基、3,5-ジ-t-ブチルフェノキシ基または2,6-ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基、3,5-ジ-t-ブチルフェノキシ基である。
【0073】
炭素原子数2~10のアシル基であるR1は、好ましくは、炭素原子数2~8のアシル基であり、好ましい具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ヴァレリル基、イソヴァレリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基は、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基であり、特に好ましくは、ベンゾイル基である。
【0074】
炭素原子数2~10のエステル基(オキシカルボニル基;R-O-(C=O)-、Rは有機基)であるR1は、好ましくは、炭素原子数2~8のエステル基であり、好ましい具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、(4-ヒドロキシブトキシ)カルボニル基、(4-グリシジルブトキシ)カルボニル基、フェノキシカルボニル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、(4-ヒドロキシブトキシ)カルボニル基が挙げられ、特に好ましくは、メトキシカルボニル基である。
【0075】
炭素原子数2~10のアシロキシ基であるR1は、好ましくは、炭素原子数2~8のアシロキシ基であり、好ましい具体例としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、ヴァレリルオキシ基、イソヴァレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基は、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基であり、特に好ましくは、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基である。
【0076】
炭素原子数1~12の置換アミノ基であるR1の好ましい具体例としては、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モノイソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、モノフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ビス(トリメチルシリル)アミノ基、モルホリニル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基は、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基である。
【0077】
炭素原子数1~12の置換アミド基(R-(C=O)NH-、Rは有機基)であるR1の好ましい具体例としては、アセトアミド基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基、イソブチリルアミノ基、ヴァレリルアミノ基、イソヴァレリルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基は、アセトアミド基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基であり、特に好ましくは、アセトアミド基である。
【0078】
炭素原子数5~10の置換ピリジル基であるR1の好ましい具体例としては、2-ピリジル基、3-ピリジル基、2-(3-メチル)ピリジル基、2-(4-メチル)ピリジル基、3-(2-メチル)ピリジル基、3-(4-メチル)ピリジル基、2-(4-クロロメチル)ピリジル基、3-(4-クロロメチル)ピリジル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、2-ピリジル基、3-ピリジル基、2-(4-メチル)ピリジル基が挙げられ、特に好ましくは、2-ピリジル基である。
【0079】
炭素原子数4~10の置換ピロリジル基であるR1の好ましい具体例としては、2-ピロリジル基、3-ピロリジル基、2-(1-メチル)ピロリジル基、2-(1-ブチル)ピロリジル基、2-(1-シクロペンテニル)ピロリジル基、2-(4-メトキシカルボニル)ピロリジル基、2-(5-メトキシカルボニル)ピロリジル基、2-(6-メトキシカルボニル)ピロリジル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基は、2-ピロリジル基、3-ピロリジル基、2-(1-メチル)ピロリジル基、2-(6-メトキシカルボニル)ピロリジル基が挙げられ、特に好ましくは、2-ピロリジル基である。
【0080】
炭素原子数5~10の置換ピペリジル基であるR1の好ましい具体例としては、2-ピペリジル基、3-ピペリジル基、2-(1,2,3,6-テトラヒドロ)ピペリジル基、2-(1-メチル)ピペリジル基、2-(1-エチル)ピペリジル基、2-(4-メチル)ピペリジル基、2-(5-メチル)ピペリジル基、2-(6-メチル)ピペリジル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、2-ピペリジル基、3-ピペリジル基、2-(1,2,3,6-テトラヒドロ)ピペリジル基、2-(6-メチル)ピペリジル基が挙げられ、特に好ましくは、2-ピペリジル基、2-(1,2,3,6-テトラヒドロ)ピペリジル基である。
【0081】
炭素原子数4~10の置換ハイドロフリル基であるR1の好ましい具体例としては、2-テトラハイドロフリル基、3-テトラハイドロフリル基、2-(5-メチル)テトラハイドロフリル基、2-(5-イソプロピル)テトラハイドロフリル基、2-(5-エチル)テトラハイドロフリル基、2-(5-メトキシ)テトラハイドロフリル基、2-(5-アセチル)テトラハイドロフリル基、2-(4,5-ベンゾ)テトラハイドロフリル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、2-テトラハイドロフリル基、3-テトラハイドロフリル基、2-(5-メチル)テトラハイドロフリル基、2-(5-イソプロピル)テトラハイドロフリル基、2-(4,5-ベンゾ)テトラハイドロフリル基が挙げられ、特に好ましくは、2-テトラハイドロフリル基、2-(5-メチル)テトラハイドロフリル基、2-(5-イソプロピル)テトラハイドロフリル基である。
【0082】
炭素原子数4~10の置換イミダゾリル基であるR1の好ましい具体例としては、2-イミダゾリル基、2-(1-メチル)イミダゾリル基、2-(1-ベンジル)イミダゾリル基、2-(1-アセチル)イミダゾリル基、2-(4,5-ベンゾ)イミダゾリル基、2-(1-メチル-4,5-ベンゾ)イミダゾリル基が挙げられる。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、2-イミダゾリル基、2-(1-メチル)イミダゾリル基、2-(4,5-ベンゾ)イミダゾリル基が挙げられ、特に好ましくは、2-(1-メチル)イミダゾリル基、2-(4,5-ベンゾ)イミダゾリル基である。
【0083】
炭素原子数1~10のアルキルチオ基であるR1の好ましい具体例は、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、t-ブチルチオ基であり、炭素原子数6~10のアリールチオ基であるR1の好ましい具体例は、フェニルチオ基である。
これらの中で、さらに好ましい置換基としては、メチルチオ基、t-ブチルチオ基、フェニルチオ基が挙げられ、特に好ましくは、メチルチオ基、フェニルチオ基である。
【0084】
ハロゲン原子であるR1の好ましい具体例は、フッ素、塩素、臭素である。これらの中で、さらに好ましい置換基は塩素である。
【0085】
これらのR1として好ましい群のうち、さらに好ましくは、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数2~10のエステル基、炭素原子数2~10のアシロキシ基である。一般式(1)で表される特に好ましい極性基を有するアリルモノマーの具体例としては、酢酸アリル、トルフルオロ酢酸アリル、安息香酸アリル、アリルアルコール、アリルメチルエーテル、臭化アリル、塩化アリルなどが挙げられる。
【0086】
本発明の共重合体の製造方法において、エチレンと共重合させる一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーは、2種以上を組み合わせて重合させてもよい。
【0087】
また、本発明の共重合体の製造方法では、エチレンと一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーに加えて、第3のモノマーを用いてもよい。第3のモノマーとして、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、スチレンなどのα-オレフィン、ノルボルネン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどの環状オレフィン、1,3-ブタジエン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、ノルボルナジエン、シクロペンタジエン、1,4-シクロヘキサジエン、1,4-ジビニルベンゼンなどのジエン化合物、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、ビニルエーテル、アクリロニトリル、アクロレインなどの極性基を有するオレフィンなどが挙げられる。また、これらは2種以上を組み合わせて重合させてもよい。ただし、第3のモノマーとしてα-オレフィンが共重合されるときは、得られる重合体中に含まれるα-オレフィンとエチレンの合計に対するα-オレフィンの比率は40mol%未満である。
また、共重合体に含まれる第3のモノマーの含有率は5mol%未満であることが好ましい。
【0088】
[重合方法]
一般式(C1)、(C2)、(C3)、(C4)または(C5)で示される金属錯体を触媒として使用して、エチレンと一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーを共重合する方法は特に制限されるものではなく、一般に使用される方法で重合可能である。すなわち、溶液重合法、懸濁重合法、気相重合法などのプロセス法が可能であるが、特に溶液重合法、懸濁重合法が好ましい。また重合様式は、バッチ様式でも連続様式でも可能である。また、一段重合でも、多段重合でも行うこともできる。
【0089】
一般式(C1)、(C2)、(C3)、(C4)または(C5)で示される金属錯体触媒は2種類以上を混合して重合反応に使用してもよい。混合して使用することで重合体の分子量、分子量分布、一般式(1)のモノマーに由来するモノマーユニットの含有量を制御することが可能であり、所望の用途に適した重合体を得ることができる。金属錯体触媒総量とモノマーの総量のモル比は、モノマー/金属錯体の比で、1~10000000の範囲、好ましくは10~1000000の範囲、より好ましくは100~100000の範囲が用いられる。
【0090】
重合温度は、特に限定されないが、通常-30~400℃の範囲で行われ、好ましくは0~200℃、より好ましくは30~150℃の範囲で行われる。
【0091】
エチレン圧が内部圧力の大半を占める重合圧力については、常圧から100MPaの範囲内で行われ、好ましくは常圧から20MPa、より好ましくは常圧から10MPaの範囲内で行われる。
【0092】
重合時間は、プロセス様式や触媒の重合活性などにより適宜調整することができ、数十秒から数分の短い時間も、数千時間の長い反応時間も可能である。
【0093】
重合系中の雰囲気は触媒の活性低下を防ぐため、モノマー以外の空気、酸素、水分などが混入しないように窒素ガスやアルゴンなどの不活性ガスで満たすことが好ましい。また溶液重合の場合、モノマー以外に不活性溶媒を使用することが可能である。不活性溶媒は、特に限定されないが、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチルなどの脂肪族エステル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどの芳香族エステルなどが挙げられる。
【0094】
[シラン化合物]
本発明の重合体の製造方法では、触媒活性を向上させるために、重合反応系に1つ以上のケイ素-水素結合(Si-H)を有するシラン化合物を共存させることを特徴とする。
【0095】
金属錯体(C1)、(C2)、(C3)、(C4)または(C5)を触媒として使用したエチレン等のオレフィン重合では、モノマーの金属への配位と挿入の繰り返しにより重合体が生長し、連鎖移動反応により重合体が触媒から解離する。周期表第10族金属錯体を使用した重合における連鎖移動反応は、下記式に示される機構で進行することが一般的に知られている(式中、R’はポリマー鎖を表す。金属Mの配位子は省略している。)。なお、下記式では、エチレンをモノマーとして使用した重合例を記載しているが、その他オレフィンモノマーでも同様である。M-R’錯体種にエチレンが挿入して生成した錯体種において、β-ヒドリド脱離が進行することで、重合体(式中CH2=CH-R’)が触媒から解離するのと同時に、ヒドリド錯体種(式中M-H)が生成し、生長反応が停止する。このヒドリド錯体種は反応性が非常に高いため、すぐにモノマーの配位・挿入反応が進行し、再重合が開始する。
【0096】
【0097】
一方で、酢酸アリルに代表される極性基を有するアリルモノマーの重合では、上記式と同様に、モノマーの金属への配位と挿入の繰り返しにより重合体生長反応が進行するが、連鎖移動反応の機構が異なることがわかってきた。極性基を有するアリルモノマーの重合における重合体生長反応及び連鎖移動反応の機構を下記式に示す(式中、R’は重合体鎖を表し、AcはCH3C(=O)-基を表す。金属Mの配位子及びシラン化合物の1つの水素原子以外の置換基は省略している。)。なお、下記式では、酢酸アリルをモノマーとして使用した重合例を記載しているが、その他の一般式(1)で示される、極性基を有するアリルモノマーでも同様である。
【0098】
【0099】
重合体中に酢酸アリルが取り込まれる場合、エチレンと同様に、酢酸アリルの金属Mへの配位及びM-R’結合への挿入反応が起こる。その後、生成した錯体種に対して、エチレンや酢酸アリル等のモノマーの配位・挿入により、重合体が生長する。一方で、M-R’錯体種に酢酸アリルが挿入して生成した錯体種に対して、次のモノマーの配位・挿入と競合して、ある確率でβ-アセトキシ脱離が進行する。これにより、重合体(式中CH2=CH-CH2-R’)が触媒から解離し、アセトキシ錯体種(式中M-OAc)が生成する。このアセトキシ錯体種は、ヒドリド錯体種と比べて、遥かに反応性が低いため、アセトキシ錯体種へのモノマーの配位・挿入反応による再重合開始が律速となる。反応系ではこのアセトキシ錯体種がドーマント種となるため、触媒活性が発現している触媒は、実質的には仕込み量の一部であり、触媒あたりの重合体生産性が低くなる。
【0100】
本発明の重合体の製造方法では、ケイ素-水素結合(Si-H)を1つ以上有するシラン化合物を重合系に共存させることで、ドーマント種であるアセトキシ錯体種を、シラン化合物との反応により、ヒドリド錯体種に変換させる。ヒドリド錯体種であれば、上記の通り、モノマーとの反応性が向上し、モノマーの配位・挿入反応による再重合が容易に開始する。これにより、触媒あたりの重合体生産性が大幅に改善され、触媒コスト低減化に繋がる。
【0101】
本発明の重合体の製造方法で、重合系に共存させるシラン化合物は、1つ以上のケイ素-水素結合(Si-H)を有することが必須である。ケイ素-水素結合を有していれば特に制限されるものではなく、ジシラン化合物、トリシラン化合物、テトラシラン化合物などの複数のケイ素原子を有する化合物であってもよい。
【0102】
共存させるシラン化合物がモノシラン化合物である場合、一般式(2)
【化16】
【0103】
(式中、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数1~20の置換アミノ基、炭素原子数1~30の置換または無置換のアルキル基、炭素原子数3~30の置換または無置換のシクロアルキル基、炭素原子数6~30の置換または無置換のアリール基を表す。R2、R3及びR4は、それぞれで結合して、環構造を形成していてもよい。)で示されるシラン化合物が好ましい。
【0104】
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数1~20の置換アミノ基、炭素原子数1~30の置換または無置換のアルキル基、炭素原子数3~30の置換または無置換のシクロアルキル基、炭素原子数6~30の置換または無置換のアリール基を表す。
【0105】
R2、R3及びR4が表すハロゲン原子の好ましい具体例は、フッ素、塩素、臭素である。これらの中ではフッ素がより好ましい。
R2、R3及びR4が表す炭素原子数1~20のアルコキシ基の好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、1-プロポキシ基、イソプロポキシ基、1-ブトキシ基、sec-ブトキシ基またはt-ブトキシ基である。これらの中では、メトキシ基、エトキシ基、1-プロポキシ基、イソプロポキシ基がより好ましい。
【0106】
R2、R3及びR4が表す炭素原子数6~20のアリールオキシ基の好ましい具体例は、フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、3-メチルフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、2,3-ジメチルフェノキシ基、2,4-ジメチルフェノキシ基、2,5-ジメチルフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、3,4-ジメチルフェノキシ基、3,5-ジメチルフェノキシ基、3,6-ジメチルフェノキシ基である。これらの中では、フェノキシ基がより好ましい。
【0107】
R2、R3及びR4が表す炭素原子数1~20の置換アミノ基の好ましい具体例は、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モノ(1-プロピル)アミノ基、ジ(1-プロピル)アミノ基、モノイソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、モノ(1-ブチル)アミノ基、ジ(1-ブチル)アミノ基、モノフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基である。これらの中では、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基がより好ましい。
【0108】
R2、R3及びR4が表す炭素原子数1~30の置換または無置換のアルキル基の好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、t-ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1-ジメチル-2-フェニルエチル基、イソプロピル基、1-ジメチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基、1-フェニル-2-プロピル基、イソブチル基、1,1-ジメチルブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-プロピルヘプチル基、2-オクチル基、3-ノニル基、ネオペンチル基、5-デシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基などが挙げられる。これらの中では、メチル基、エチル基、1-プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基がより好ましい。
【0109】
R2、R3及びR4が表す炭素原子数3~30の置換または無置換のシクロアルキル基の好ましい具体例は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基である。これらの中では、シクロペンチル基、シクロヘキシル基がより好ましい。
【0110】
R2、R3及びR4が表す炭素原子数6~30の置換または無置換のアリール基の好ましい具体例は、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基、2-トリル基、3-トリル基、4-トリル基、キシリル基、2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基である。これらの中では、フェニル基、2-トリル基、3-トリル基、4-トリル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基がより好ましい。
また、R2、R3及びR4は、それぞれで結合して、環構造を形成していてもよい。
【0111】
R2、R3及びR4は、工業的な入手容易性及び重合反応中に生成するアセトキシ錯体等のドーマント種との反応性の面で炭素原子数1~30の無置換のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、または炭素原子数6~30の置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましい。また、R2、R3及びR4がすべて等しいトリアルキルシラン、トリアルコキシシランまたはトリアリールシランがより好ましい。無置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、イソプロピル基が好ましく、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基が好ましく、無置換のアリール基としては、フェニル基が好ましい。
【0112】
一般式(2)で示されるシラン化合物としては、トリメチルシラン、トリエチルシラン、トリ(1-プロピル)シラン、トリイソプロピルシラン、トリエトキシシラン、モノフェニルシラン、ジフェニルシラン、トリフェニルシランが特に好ましい。また、シラン化合物は2種以上を混合して使用してもよい。
【0113】
本発明の共重合体の製造方法では、一般式(2)で示されるシラン化合物の添加方法については特に制限はなく、反応前に反応溶媒中に溶解させていても、反応開始後に添加してもよい。また、シラン化合物の添加方法は、所定の反応時間に添加を行う間欠フィードでも、連続的に添加し続ける連続フィードでもよい。
【0114】
一般式(2)で示されるシラン化合物の使用量は、特に制限はないが、使用する触媒とシラン化合物の反応性によって、最適な量が決定される。金属錯体触媒量とシラン化合物の総添加量のモル比は、シラン化合物/金属錯体の比で、1~1000の範囲、好ましくは5~500の範囲、より好ましくは10~300の範囲が用いられる。
【0115】
一般式(2)で示されるシラン化合物を添加するときは、シラン化合物をそのまま単体で添加しても、有機溶媒に溶解させて添加してもよい。有機溶媒に溶解させて添加する場合、溶解させる有機溶媒としては、重合反応で使用する溶媒が好ましい。また、エチレンと共重合させる極性基を有するアリルモノマーが常温で液体である場合、シラン化合物をアリルモノマーに溶解させて添加してもよい。
【実施例】
【0116】
以下、合成例、実施例、比較例、及び参考例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0117】
重合体の平均分子量、モノマーユニット含有量及び融点は以下の方法により測定、解析し算出した。
[平均分子量]
実施例及び比較例で得た共重合体の数平均分子量及び重量平均分子量は、昭和電工(株)製AT-806MSカラム(2本直列)を備えた東ソー(株)製高温GPC装置、HLC-8121GPC/HTを用いた、ポリスチレンを分子量の標準物質とするサイズ排除クロマトグラフィー(溶媒:1,2-ジクロロベンゼン、温度:145℃)により算出した。
【0118】
[モノマーユニット含有量]
一般式(1)で示される極性基を有するオレフィンに由来するモノマーユニットの含有率は、日本電子(株)製JNM-ECS400を使用して、溶媒として1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2を使用した120℃における1H-NMRによって決定した。
【0119】
[融点]
共重合体の融点は、セイコーインスツルメンツ社製DSC6200示差走査熱量測定装置を使用して測定した。シート状にしたサンプル片を5mgアルミパンに詰め、室温から一旦200℃まで昇温速度100℃/分で昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で20℃まで降温して結晶化させた後に、10℃/分で200℃まで昇温することにより融解曲線を得た。融解曲線を得るために行った最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点とした。
【0120】
合成例1:金属錯体1の合成
特開2011-68881号公報に記載の方法を用い、下記の反応スキームに従って金属錯体1の合成を行った。
【化17】
【0121】
(a)2-(ジイソプロピルホスフォニオ)ベンゼンスルホナート(化合物1a)の合成
ベンゼンスルホン酸(21.7g,137mmol)のTHF溶液(400mL)に、n-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液,174mL,274mmol)を0℃で加え、室温で3時間撹拌した。反応容器を-78℃に冷却した後に、塩化ジイソプロピルホスフィン(19.0g,125mmol)を-78℃で加え、室温で15時間撹拌した。反応をトリフルオロ酢酸(15.6g,137mmol)を添加して停止した後に、溶媒を減圧留去した。残渣をジクロロメタンに溶解させ、飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、2-(ジイソプロピルホスフォニオ)ベンゼンスルホナート(化合物1a)を白色粉末として得た。収量は26.8g(収率78%)であった。
【0122】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ1.25 (dd, J = 21.6, 7.0 Hz, 6H), 1.53 (dd, J = 21.8, 7.2 Hz, 6H), 3.45 (m, 2H), 5.42 (br d, 1JPH = 380 Hz), 7.58 (tdd, J = 7.6, 2.8, 1.1 Hz, 1H), 7.69 (ddd, J = 15.1, 7.7, 0.7 Hz, 1H), 7.83 (dd, J = 7.6, 7.6 Hz, 1H), 8.27 (dd, J = 7.5, 4.4 Hz, 1H);
13C-NMR(101MHz,CDCl3):δ19.4 (s), 24.5-27.7 (m), 114.4 (br d, J = 93 Hz), 129.1 (d, J = 8.6 Hz), 130.3 (d, J = 12.5 Hz), 134.7-137.1 (m), 150.7 (br s);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ62.5 (d, 1JPH = 380 Hz) (83%), 31.0 (d, 1JPH = 460 Hz) (17%)。
【0123】
(b)金属錯体1の合成
アルゴン雰囲気下、2-(ジイソプロピルホスフォニオ)ベンゼンスルホナート(化合物1a;16.3g,59mmol)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(38.3g,296mmol)の塩化メチレン溶液(500mL)に、(cod)PdMeCl(文献;Inorg. Chem., 1993, 32, 5769-5778に従って合成。cod=1,5-シクロオクタジエン、16.3g,62mmol)を加え、室温で2.5時間撹拌した。溶液を濃縮した後に、残渣を塩化メチレン(200mL)に溶解させ、この溶液を、炭酸カリウム(80.8g,585mmol)と2,6-ルチジン(62.7g,585mmol)の塩化メチレン懸濁液(500mL)に加え、室温で1時間撹拌した。この反応液をセライト(乾燥珪藻土)及びフロリジル(ケイ酸マグネシウム)でろ過した後に、溶媒を濃縮し、減圧下乾燥を行った。さらに、塩化メチレン/ヘキサンからの再結晶精製を行い、金属錯体1を白色結晶として得た。収量は、18.9g(収率61%)であった。
【0124】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ0.34 (d, J = 2.3 Hz, 3H), 1.32 (ddd, J = 49.9, 16.0, 7.0 Hz, 12H), 2.58 (dt, J = 22.3, 7.2 Hz, 2H), 3.18 (s, 6H), 7.12 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 7.46 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.53 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.58 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 8.29-8.32 (m, 1H);
13C-NMR(101MHz,CDCl3):δ-10.10 (d, J = 4.8 Hz), 18.44 (s), 19.29 (d, J = 4.8 Hz), 25.91 (d, J = 25.9 Hz), 26.20 (s), 122.72 (d, J = 3.8 Hz), 124.56 (d, J = 35.5 Hz), 129.19 (t, J = 6.7 Hz), 131.03 (d, J = 1.9 Hz), 132.39 (s), 138.30 (s), 151.13 (d, J = 10.5 Hz), 159.17 (s);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ34.4 (s)。
【0125】
合成例2:金属錯体2の合成
特開2014-159540号公報に記載の方法を用い、下記の反応スキームに従って金属錯体2の合成を行った。
【化18】
【0126】
(a)塩化メンチル(化合物2a)の合成
文献(J. Org. Chem., 17, 1116. (1952))記載の手法で、塩化メンチル(化合物2a)の合成を行った。すなわち、塩化亜鉛(77g、0.56mol)の37%塩酸(52mL、0.63mol)溶液に、(-)-メントール(27g、0.17mol)を加え、35℃に加熱しながら、5時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応液にヘキサン(50mL)を加え、分液漏斗を使用して、有機層と水層を分離した。有機層は水(30mL×1)で洗浄後、さらに濃硫酸(10mL×5)及び水(30mL×5)で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮を行い、塩化メンチル(化合物2a)を無色の油状物質として得た。収量は27g(収率91%)であった。
【0127】
(b)塩化ジメンチルホスフィン(化合物2c)の合成
文献(Journal fur Praktische Chemie, 322, 485. (1980))記載の手法で、塩化ジメンチルホスフィン(化合物2c)の合成を行った。すなわち、アルゴン雰囲気下、塩化メンチル(化合物2a;2.6g、15mmol)とマグネシウム(0.63g、26mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(30mL)中で、70℃に加熱しながら反応させて得られた塩化メンチルマグネシウム(化合物2b)の溶液を、三塩化リン(0.63mL、7.2mmol)のTHF(30mL)溶液に-78℃で加えた。室温まで昇温後、70℃に加熱しながら2時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、蒸留精製を行い、塩化ジメンチルホスフィン(化合物2c)を得た。収量は、0.62g(収率25%)であった。
31P-NMR(162MHz,THF):δ 123.9。
【0128】
(c)2-(ジメンチルホスフォニオ)ベンゼンスルホナート(化合物2d)の合成
ベンゼンスルホン酸(0.18g,1.2mmol)のTHF溶液(10mL)に、n-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液,1.4mL,2.3mmol)を0℃で加え、室温で1時間撹拌した。反応容器を-78℃に冷却した後に、塩化ジメンチルホスフィン(化合物2c;0.36g,1.1mmol)を-78℃で加え、室温で15時間撹拌した。反応をトリフルオロ酢酸(0.97mL,1.3mmol)で停止した後に、溶媒を減圧留去した。残渣をジクロロメタンに溶解させ、飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、2-(ジメンチルホスフォニオ)ベンゼンスルホナート(化合物2d)を白色粉末として得た。収量は0.31g(収率63%)であった。
【0129】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ8.27 (br s, 1H), 7.77 (t, J = 7.3 Hz, 1H), 7.59-7.52 (m, 2H), 3.54 (br s, 1H), 2.76 (br s, 1H), 2.16 (br s, 1H), 1.86-1.38 (m, 12H), 1.22-0.84 (m, 22H), 0.27 (br s, 1H);
31P{1H}-NMR(162MHz,CDCl3):δ 45.1(br.),-4.2(br.)。
【0130】
(d)金属錯体2の合成
アルゴン雰囲気下、2-(ジメンチルホスフォニオ)ベンゼンスルホナート(化合物2d;0.14g,0.30mmol)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.26mL,1.5mmol)の塩化メチレン溶液(10mL)に、(cod)PdMeCl(文献;Inorg. Chem., 1993, 32, 5769-5778に従って合成。cod=1,5-シクロオクタジエン、0.079g,0.30mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。溶液を濃縮した後に、残渣を塩化メチレン(10mL)に溶解させ、この溶液を、炭酸カリウム(0.42g,3.0mmol)と2,6-ルチジン(0.35mL,3.0mmol)の塩化メチレン懸濁液(2mL)に加え、室温で1時間撹拌した。この反応液をセライト(乾燥珪藻土)及びフロリジル(ケイ酸マグネシウム)でろ過した後に、溶媒を濃縮し、減圧下乾燥を行い、金属錯体2を得た。収量は、0.17g(収率80%)であった。
【0131】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 8.26 (ddd, J = 7.8, 3.9, 1.4 Hz, 1H), 7.81 (t, J = 7.9 Hz, 1H), 7.56 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.49 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.43 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.13 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.08 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 3.75 (s, 1H), 3.24 (s, 3H), 3.17 (s, 3H), 2.59 (s, 1H), 2.49-2.39 (m, 2H), 2.29-2.27 (m, 1H), 2.05-1.96 (m, 1H), 1.89-1.37 (m, 12H), 1.21-1.11 (m, 2H), 0.98 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.95 (d, J = 6.2 Hz, 3H), 0.84 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.78 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.58 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.41 (d, J = 2.3 Hz, 3H), 0.08 (d, J = 6.6 Hz, 3H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 16.6。
【0132】
合成例3:金属錯体6の合成
下記の反応スキームに従って金属錯体6の合成を行った。
【化19】
【0133】
(a)メタンスルホン酸イソプロピル(化合物6b)の合成
メタンスルホン酸クロリド(化合物6a;20.0g,174.6mmol)のジクロロメタン溶液(50mL)に、2-プロパノール(10.5g,174.6mmol,1.0eq)とトリエチルアミン(44.2g,436.5mmol,2.5eq)のジクロロメタン溶液(50mL)を0℃にてゆっくりと加え、25℃で16時間撹拌した。反応液をろ過し、回収したろ液を濃縮した後、再度ジクロロメタン(50mL)に溶解させ、1M塩酸(20mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水(20mL)、飽和食塩水(20mL)にて洗浄した。無水硫酸ナトリウムにて脱水し、ろ過した後、濃縮することにより、目的物(化合物6b)を黄色いオイルとして得た。収量20.2g(収率84%)。
【0134】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 4.91 (m, 1H), 3.04 (s, 3H), 1.39 (s, 3H), 1.38 (s, 3H)。
【0135】
(b)ジt-ブチルホスファニルメタンスルホン酸イソプロピル(化合物6c)の合成
メタンスルホン酸イソプロピル(化合物6b;6.0g,43.4mmol)のテトラヒドロフラン溶液(100mL)に、n-ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液,45.6mmol,1.1eq)を0℃で加え、0℃で1時間撹拌した。反応容器を-78℃に冷却した後に、塩化ジt-ブチルホスフィン(7.8g,43.4mmol,1.0eq)を-78℃で加え、室温で16時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(ペンタン/酢酸エチル=20/1、体積比)で精製し、ペンタン(5mL×2回)で洗浄することにより、目的物(化合物6c)を白色粉末として得た。収量3.6g(収率29%)。
【0136】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 5.00 (m, 1H), 3.26 (br, 2H), 1.41 (d, J = 6.4Hz, 6H), 1.19 (d, J = 12.0 Hz, 18H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 18.4。
【0137】
(c)ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸イソプロピル(化合物6d)の合成
ジt-ブチルホスファニルメタンスルホン酸イソプロピル(化合物6c;3.58g,12.68mmol)のTHF(テトラヒドロフラン)溶液(40mL)に、硫黄(2.5Mヘキサン溶液,2.03g,63.39mmol,5eq)を-78℃で加え、25℃で16時間撹拌し、さらに60℃で2時間撹拌した。反応液をろ過し、ろ過残渣を酢酸エチル(20mL)にて洗浄し、全ての溶液を回収して溶媒を減圧留去した。ペンタン(10mL)を加えてろ過し、減圧乾燥することにより、目的物(化合物6d)を白色粉末として得た。収量3.5g(収率88%)。
【0138】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 5.16 (m, 1H), 3.80 (br, 2H), 1.46 (d, J = 6.4 Hz, 6H), 1.43 (d, J = 12.0 Hz, 18H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 74.5。
【0139】
(d)ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸(化合物6e)の合成
ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸イソプロピル(化合物6d;5.5g,16.62mmol)のメタノール(40mL),THF(20mL),水(5mL)の混合溶液に、水酸化ナトリウム(2.66g,66.47mmol,4eq)を加え、66℃で16時間撹拌した。この反応液から溶媒を留去して濃縮後、酢酸エチル(20mL)にて洗浄し、得られた白色粉末をエタノール(100mL)とジクロロメタン(50mL)混合溶液に懸濁させ、HCl/酢酸エチルにてpH=5に中和した。この中和液をろ過し、ろ液を濃縮後にジクロロメタンに溶解させ、不溶物をろ過により除去後、溶媒を減圧留去することにより、目的物(化合物6e)を淡黄色の粉末として得た。収量4.2g(収率93%)。
【0140】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 6.28 (br, 1 H), 3.75 (d, J = 6.4 Hz, 2H), 1.41 (d, J = 16.8 Hz, 18H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 72.2。
【0141】
(e)ジt-ブチルフォスファニルメタンスルホン酸(化合物6f)の合成
RANEY(登録商標)-Ni(4.5g,52.5mmol,6.8eq)のTHF溶液(100mL)に、ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸(化合物3e;2.1g,7.71mmol,1eq)のTHF溶液(40mL)をシリンジを用いてゆっくりと加え、室温で16時間撹拌した。この反応液にジクロロメタン(80mL)を加えてろ過し、溶媒を減圧留去した。この反応物をジクロロメタン(200mL)に懸濁し、不溶物をろ過により除去後、溶媒を減圧留去することにより、目的物(化合物6f)をピンクの粉末として得た。収量0.8g(収率44%)。
【0142】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 4.88 (br, 1H), 3.06 (d, J = 3.2 Hz, 2H), 1.17 (d, J = 11.2 Hz, 18H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 19.1。
【0143】
(f)金属錯体6の合成
窒素雰囲気下、ジt-ブチルフォスファニルメタンスルホン酸(化合物6f;0.95g,3.96mmol)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.5mL,19.8mmol)の塩化メチレン溶液(30mL)に、(cod)PdMeCl(cod=1,5-シクロオクタジエン、1.05g,3.96mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。溶液を濃縮した後に、残渣をジクロロメタン(15mL)に溶解させ、この溶液を、炭酸カリウム(5.47g,39.6mmol)と2,6-ルチジン(4.61mL,39.8mmol)のジクロロメタン懸濁液(10mL)に加え、室温で1時間撹拌した。この反応液をセライト(乾燥珪藻土)及びフロリジル(ケイ酸マグネシウム)でろ過した後に、溶媒を濃縮し、減圧下乾燥を行った。ヘキサン(15mL×3回)で洗浄することにより、金属錯体6を得た。収量は、1.2g(収率63%)であった。
【0144】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 7.57 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.11 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 3.44 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 3.06 (s, 6H), 1.49 (d, J = 14.6 Hz, 18H), 0.54 (d, J = 1.9 Hz, 3H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 46.5。
【0145】
合成例4:金属錯体7の合成
【化20】
合成例3において、化合物6cの合成原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化ジ(2-メチル-2-ペンチル)ホスフィンに変えた以外は、上記の金属錯体6の合成法と同様の方法で、金属錯体7の合成を行った。
【0146】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 7.57 (t, J = 7.6Hz, 1H), 7.11(d, J = 8.0Hz, 2H), 3.48(d, J = 7.6Hz, 2H), 3.07(s, 6H), 1.95-1.85(m, 4H), 1.55-1.45(m, 16H), 0.98(t, J = 7.2Hz, 6H), 0.53(d, J = 2.0Hz, 3H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 50.9。
【0147】
合成例5:金属錯体8の合成
【化21】
国際公開第2013/168626号公報に記載の方法を用い、金属錯体8の合成を行った。
【0148】
1H-NMR(400MHz,CD2Cl2):δ7.74 (s, 8H), 7.66 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.57 (s, 4H), 7.19 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 2.97 (s, 6H), 2.35 (dd, J1= J2 = 9.7 Hz, 2H), 1.70 (d, J = 12.8 Hz, 6H), 1.45 (d, J = 14.9 Hz, 18H), 0.63 (d, J = 2.1 Hz, 3H);
31P-NMR(162MHz,CD2Cl2):δ58.01 (d, J = 8.7 Hz), 53.25 (d, J = 8.7 Hz).
【0149】
[重合体の合成]
合成例1~5で合成した金属錯体1~2及び6~8を使用して、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
なお、触媒濃度、生産性、及び触媒活性は次の式により計算した。
【数1】
【数2】
【0150】
実施例1:金属錯体1を使用したトリエチルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体1の調製)
窒素ガス雰囲気下、金属錯体1(10.0mg,0.020mmol)を含む500mLオートクレーブ中に、一般式(1)で示されるモノマーとして酢酸アリル(150mL、1,390mmol)、及び少なくともケイ素-水素結合を1つ以上有するシラン化合物としてトリエチルシラン(46.5mg,0.40mmol)を加えた。エチレン(0.79MPa)を充填した後、オートクレーブを65℃で、24時間撹拌した。室温まで冷却後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(500mL)に加え、共重合体を析出させた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体1を得た。収量は1.1gであった。生産性は55g/mmolと算出され、触媒活性は2.3g/(mmol・h)と算出された。重合体1の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにより測定し、数平均分子量:2200、重量平均分子量:8800、Mw/Mn:4.0であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H-NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:22.0(酢酸アリルモル分率=18.0%)と決定した。重合条件と結果をそれぞれ表1、表2に示す。
【0151】
比較例1:金属錯体1を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体1の調製)
トリエチルシランを加えない点以外は実施例1と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。重合条件と結果をそれぞれ表1、表2に示す。
【0152】
実施例2:金属錯体2を使用したトリエチルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体2の調製)
触媒として金属錯体1の代わりに金属錯体2を使用した以外は、実施例1と同様にして酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。重合条件と結果をそれぞれ表1、表2に示す。
【0153】
比較例2:金属錯体1を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体2の調製)
触媒として金属錯体1の代わりに金属錯体2を使用し、トリエチルシランを加えない点以外は実施例1と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。重合条件と結果をそれぞれ表1、表2に示す。
【0154】
【0155】
【0156】
実施例1と比較例1の結果及び実施例2と比較例2の結果の比較により、ケイ素-水素結合を有するトリエチルシランを重合反応系に共存させることで、重合体の生産性及び触媒活性が向上することが明らかとなった。また、トリエチルシランを共存させても、得られる重合体の分子量及び酢酸アリル含量はほとんど変わらなかった。
続いて、シラン化合物の添加方法及び添加量を変えて、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。重合条件と結果をそれぞれ表3、表4に示す。
【0157】
実施例3:金属錯体2を使用したトリエチルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体3の調製)
触媒として金属錯体2を使用し、トリエチルシランを反応開始時からの共存ではなく、反応所定時間において逐次添加させて、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。窒素ガス雰囲気下、金属錯体2(13.9mg,0.020mmol)を含む500mLオートクレーブ中に、一般式(1)で示されるモノマーとして酢酸アリル(150mL、1,390mmol)を加えた。エチレン(0.51MPa)を充填した後、オートクレーブを65℃で撹拌し、反応を開始した。反応開始後、2時間、5時間、8時間、及び22時間の時点に、それぞれトリエチルシラン(4.7mg,0.040mmol)の酢酸アリル溶液(5.4mL,50.0mmol)をオートクレーブ中に圧送し、開始後24時間で反応終了とした。なお、トリエチルシランを添加した直後には、エチレン消費速度の上昇が見られ、重合反応が加速されていることを確認した。反応終了後、室温まで冷却後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(500mL)に加え、共重合体を析出させた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体3を得た。収量は1.0gであった。生産性は52g/mmolと算出され、触媒活性は2.2g/(mmol・h)と算出された。重合体3の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定し、数平均分子量25000、重量平均分子量73000と算出し、Mw/Mnは2.9であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H-NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:24.2(酢酸アリルモル分率=19.5%)と決定した。
【0158】
実施例4~7:金属錯体2を使用したトリエチルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体4~7の調製)
トリエチルシランの添加量及び添加する時間を変えた以外は、実施例3と同様の方法で、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0159】
【0160】
【0161】
実施例3~7及び実施例1の結果から、トリエチルシランは、重合反応開始時から共存させるよりも、反応時に逐次添加する方が、生産性及び触媒活性の向上効果に優れることがわかった。また、実施例3~7の結果から、生産性及び触媒活性の向上効果が発現するのに適したトリエチルシランの添加間隔及び添加量があることが明確となった。
【0162】
実施例8:金属錯体2を使用したモノフェニルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体8の調製)
トリエチルシランの代わりにモノフェニルシランを使用し、モノフェニルシランの添加量及び添加する時間を変えて、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。窒素ガス雰囲気下、金属錯体2(13.9mg,0.020mmol)を含む500mLオートクレーブ中に、一般式(1)で示されるモノマーとして酢酸アリル(150mL、1,390mmol)を加えた。エチレン(0.51MPa)を充填した後、オートクレーブを65℃で撹拌し、反応を開始した。反応開始後、2時間の時点でモノフェニルシラン(2.2mg,0.020mmol)の酢酸アリル溶液(5.4mL,50.0mmol)、5時間の時点でモノフェニルシラン(6.5mg,0.060mmol)の酢酸アリル溶液(5.4mL,50.0mmol)、8時間の時点でモノフェニルシラン(10.8mg,0.10mmol)の酢酸アリル溶液(5.4mL,50.0mmol)、及び22時間の時点で、モノフェニルシラン(10.8mg,0.10mmol)の酢酸アリル溶液(5.4mL,50.0mmol)をそれぞれオートクレーブ中に圧送し、開始後24時間で反応終了とした。なお、モノフェニルシランを添加した直後には、エチレン消費速度の上昇が見られ、重合反応が加速されていることを確認した。反応終了後、室温まで冷却後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(500mL)に加え、共重合体を析出させた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体8を得た。収量は1.1gであった。生産性は54g/mmolと算出され、触媒活性は2.3g/(mmol・h)と算出された。重合体8の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定し、数平均分子量21000、重量平均分子量71000と算出し、Mw/Mnは3.4であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H-NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:24.2(酢酸アリルモル分率=19.3%)と決定した。
【0163】
実施例8の結果から、本発明の重合体製造方法で使用するシラン化合物として、ケイ素-水素結合を複数有するモノフェニルシランであっても、トリエチルシランと同様の効果が発現することがわかった。
さらに、一般式(2)で示されるシラン化合物のケイ素原子上の置換基(一般式(2)中のR2、R3及びR4)を変えて、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。重合条件を表5に、重合結果を表6に示す。
【0164】
実施例9:金属錯体2を使用したトリエチルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体9の調製)
充分に窒素ガスで置換した30mLフラスコに金属錯体2(34.7mg,50μmol)を秤量し、脱水トルエン(10mL)を加えた後、これを10分間撹拌することで、触媒溶液を調製した。次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、トルエン(969mL)と酢酸アリル(31mL,287mmol)をオートクレーブ内に導入した。重合温度である80℃に昇温し、エチレン(1.4MPa)を充填後、先に調製した触媒溶液を添加し、反応開始とした。反応開始後20分の時点で、トリエチルシラン(R2=R3=R4=エチル基,232.6mg,2.0mmol)のトルエン溶液(10mL)を圧送し、さらに60分間反応させた。
重合終了後、エチレンをパージ、オートクレーブを室温まで冷却し、得られた重合体を、エタノール(1L)を用いて再沈殿させた。ろ過により得られた固形重合体を70℃で3時間減圧乾燥することで、共重合体を15.6g回収した。生産性は312g/mmolと算出され、触媒活性は234g/(mmol・h)と算出された。得られた重合体の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定し、数平均分子量332000、重量平均分子量783000と算出し、Mw/Mnは2.4であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H-NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:0.32(酢酸アリルモル分率=0.32%)と決定した。また、融点は126.1℃であった。
【0165】
実施例10:金属錯体2を使用したトリフェニルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体10の調製)
トリエチルシランの代わりにトリフェニルシラン(R2=R3=R4=フェニル基)を使用したこと以外は、実施例9と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0166】
実施例11:金属錯体2を使用したトリイソプロピルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体11の調製)
トリエチルシランの代わりにトリイソプロピルシラン(R2=R3=R4=イソプロピル基)を使用したこと以外は、実施例9と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0167】
比較例3:金属錯体2を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体3の調製)
トリエチルシランを添加しないこと以外は、実施例9と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0168】
【0169】
【0170】
実施例9~11及び比較例3の結果から、本発明の重合体製造方法で使用するシラン化合物として、トリフェニルシラン及びトリイソプロピルシランであっても、トリエチルシランと同様に、触媒活性が向上する効果が見られることがわかった。
次に、シラン化合物の添加方法の検討として、シラン化合物を連続フィード法で反応系に添加しながら、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0171】
実施例12:金属錯体2を使用したトリエチルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体12の調製)
金属錯体2を触媒として使用し、連続フィード法でトリエチルシランを添加しながら、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。窒素ガス雰囲気下、金属錯体2(13.9mg,0.020mmol)を含む500mLオートクレーブ中に、一般式(1)で示されるモノマーとして酢酸アリル(150mL、1,390mmol)を加えた。エチレン(0.51MPa)を充填した後、オートクレーブを65℃で撹拌し、反応を開始した。反応開始後、1時間の時点からトリエチルシランのフィードを開始した。トリエチルシランのフィードは送液ポンプ(日本分光製PU-2085ポンプ)を使用して行い、トリエチルシランの酢酸アリル溶液(39.1mmol/L)を1.3mL/時の流速で添加した。反応開始後24時間で反応を終了した。添加したトリエチルシランの総量は141.9mg、1.22mmolであった。反応終了後、室温まで冷却し、オートクレーブ内の反応液をメタノール(500mL)に加え、共重合体を析出させた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体12を得た。収量2.4gであった。生産性は120g/mmolと算出され、触媒活性は5.0g/(mmol・h)と算出された。重合体12の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定し、数平均分子量27000、重量平均分子量76000と算出し、Mw/Mnは2.8であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H-NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:24.1(酢酸アリルモル分率=19.4%)と決定した。結果を表7に記す。
【0172】
実施例13:金属錯体2を使用したトリエトキシシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体13の調製)
トリエチルシランの代わりにトリエトキシシランを使用したこと以外は、実施例12と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0173】
【0174】
実施例14:金属錯体2を使用したトリス(トリメチルシロキシ)シラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体14の調製)
トリエチルシランの代わりにトリス(トリメチルシロキシ)シランを使用した以外は、実施例4と同様の方法で、酢酸アリルとエチレンの共重合を行い、重合体14を得た。生産性は99g/mmolと算出され、触媒活性は4.1g/(mmol・h)と算出された。重合体14の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定し、数平均分子量23000、重量平均分子量75000と算出し、Mw/Mnは3.2であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H-NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:23.5(酢酸アリルモル分率=19.0%)と決定した。
【0175】
以上の結果より、シラン化合物の添加方法が実施例3~11及び実施例14に示した間欠フィード及び実施例12~13に示した連続フィードいずれの方法においても、触媒活性向上の効果が同様に発現することが明らかとなった。
【0176】
実施例15~17、比較例4~5
金属錯体6~8を使用したシラン化合物共存下での酢酸アリルとエチレンとの共重合を行った。具体的手順は下記の通りである。重合条件を表8に、重合結果を表9に示す。
【0177】
実施例15:金属錯体6を使用したトリイソプロピルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体15の調製)
触媒として金属錯体6を使用し、トリイソプロピルシランを反応所定時間において逐次添加させて、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。窒素ガス雰囲気下、金属錯体6(9.4mg,0.020mmol)を含む500mLオートクレーブ中に、一般式(1)で示されるモノマーとして酢酸アリル(150mL、1,390mmol)を加えた。エチレン(1.75MPa)を充填した後、オートクレーブを65℃で撹拌し、反応を開始した。反応開始後、2時間及び9時間の時点に、それぞれトリイソプロピルシラン(63.3mg,0.40mmol)の酢酸アリル溶液(5.4mL,50.0mmol)をオートクレーブ中に圧送し、開始後24時間で反応終了とした。なお、トリイソプロピルシランを添加した直後には、エチレン消費速度の上昇が見られ、重合反応が加速されていることを確認した。反応終了後、室温まで冷却後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(500mL)に加え、共重合体を析出させた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体15を得た。収量は1.6gであった。生産性は78g/mmolと算出され、触媒活性は3.3g/(mmol・h)と算出された。重合体15の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定し、数平均分子量14000、重量平均分子量37000と算出し、Mw/Mnは2.6であった。共重合体中の酢酸アリル含有率は、1H-NMR測定により、エチレン:酢酸アリルのモル比は100:25.3(酢酸アリルモル分率=20.2%)と決定した。
【0178】
実施例16~17:金属錯体7~8を使用したトリイソプロピルシラン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体16~17の調製)
金属錯体6の代わりに金属錯体7または8を使用し、エチレン圧を変更した以外は、実施例15と同様の方法で、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0179】
比較例4~6:金属錯体6~8を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較共重合体4~6の調製)
金属錯体として金属錯体6~8のいずれかを使用し、トリイソプロピルシランを添加せず、エチレン圧を変更した以外は、実施例15と同様の方法で、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0180】
【0181】
【0182】
実施例15と比較例4、実施例16と比較例5、及び実施例17と比較例6の結果比較から、金属錯体6~8のいずれの金属錯体を触媒として使用した場合でも、シラン化合物を共存させることで、生産性及び触媒活性が向上することがわかった。
【0183】
続いて、エチレンと一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーとの共重合反応の反応メカニズム、及びケイ素-水素結合を有するシラン化合物共存下で触媒活性が向上するメカニズムを明らかとするために、以下の反応実験を行った。
【0184】
参考例1:金属錯体1と酢酸アリルの反応
【化22】
【0185】
国際公開第2012/029432号(US8889805)に記載の方法と同様に、金属錯体1と酢酸アリルの反応を行った。窒素雰囲気下、金属錯体1(1.2g,2.4mmol)のトルエン(94mL)/酢酸アリル(94mL)懸濁液を80℃に加熱し、2時間撹拌した。反応液を濃縮した後、残渣に塩化メチレン(10mL)を加え、シリンジフィルターを用いたろ過により沈殿物を取り除いた。ろ液にヘキサン(15mL)をゆっくりと加え、再結晶操作を行った。析出した結晶をろ過により回収し、t-ブチルメチルエーテル及びヘキサンで洗浄した後、減圧下乾燥し、黄色結晶を得た。収量は1.1gであった。1H-NMR及び13C-NMRスペクトルの解析により、得られた化合物が上記式中のアセトキシ金属錯体3と同定された。収量は83%と算出された。
【0186】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 1.36-1.52 (m, 12H), 1.75 (s, 3H), 2.51-2.60 (m, 2H), 3.42 (s, 6H), 7.06 (d, 2H, J = 7.2 Hz), 7.55-7.64 (m, 4H), 8.20 (br, 1H);
13C-NMR(101MHz,CDCl3):δ 17.7 (s), 17.8 (s), 22.5 (s), 24.5 (s, CH3 of lutidine), 25.0 (d, 1JPC = 26.5 Hz), 121.4 (d, 1JPC = 39.8 Hz), 122.6 (s), 128.5 (d, JPC = 5.7 Hz), 129.8 (d, JPC = 5.8 Hz), 131.6 (s), 131.8 (s), 138.5 (s), 148.5 (d, 2JPC = 8.3 Hz), 159.8 (s), 176.7 (s)。
【0187】
参考例1において、アルキル錯体である金属錯体1と酢酸アリルの反応でアセトキシ金属錯体3が生成したことから、金属錯体1を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合反応においても、反応中にアセトキシ金属錯体3が生成していることが示唆された。
【0188】
[金属錯体1と金属錯体3の重合反応速度の比較]
酢酸アリルとエチレンの共重合における、一般式(1)のR5がメチル基である金属錯体1(「メチル金属錯体1」とする。)とR5がアセトキシ基である金属錯体3(「アセトキシ金属錯体3」とする。)の初期反応速度の比較を行うために、メチル金属錯体1及びアセトキシ金属錯体3を使用した短時間での酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0189】
参考例2:メチル金属錯体1を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合
充分に窒素ガスで置換した30mLフラスコに50μmolのメチル金属錯体1を秤量し、脱水トルエン(10mL)を加えた後、これを10分間撹拌することで、触媒溶液を調製した。次に、内容積2.4Lの誘導撹拌機付ステンレス製オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、精製トルエンと酢酸アリル(コモノマー濃度0.287mol/L)を総液量1Lとなるように、オートクレーブ内に導入した。重合温度である80℃に昇温し、エチレン(1.4MPa)を充填後、先に調製した触媒溶液を添加し、20分間重合した。
重合終了後、エチレンをパージ、オートクレーブを室温まで冷却し、得られた重合体を、エタノール(1L)を用いて再沈殿させた。ろ過により得られた固形重合体を70℃で3時間減圧乾燥することで、共重合体を4.3g回収した。生産性は86g/mmolと算出され、触媒活性は258g/(mmol・h)と算出された。得られた重合体の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定し、数平均分子量10000、重量平均分子量20000と算出し、Mw/Mnは2.0であった。また、融点は128.5℃であった。
【0190】
参考例3:アセトキシ金属錯体3を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合
50μmolのメチル金属錯体1の替わりに100μmolのアセトキシ金属錯体3を用いた以外は参考例2と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合反応を行った。
共重合体の回収量は0.8gであり、生産性は8g/mmolと算出され、触媒活性は23g/(mmol・h)と算出された。得られた重合体の分子量は、数平均分子量9500、重量平均分子量20000、Mw/Mnは2.1であった。また、融点は128.3℃であった。
【0191】
参考例2及び参考例3の触媒活性の比較から、アセトキシ金属錯体3の重合(初期)活性が、メチル金属錯体1の10分の1以下であることがわかった。このことから、酢酸アリルとエチレンの共重合反応中に生成すると考えられるアセトキシ金属錯体に対しては、モノマー挿入による再重合が遅く、アセトキシ金属錯体がドーマント種になっていることが予測される。
【0192】
参考例4:アセトキシ金属錯体3とトリエチルシランの反応
アセトキシ金属錯体とシラン化合物の反応性を把握するために、トリエチルシラン存在下でのアセトキシ金属錯体3との反応挙動を調べた。
【0193】
【化23】
窒素ガス雰囲気下、アセトキシ金属錯体3(0.02g,0.03mmol)、THF-d8(0.5mL)、及びトリエチルシラン(0.035g,0.30mmol,10eq)を、室温にてNMRチューブ(φ5mm)中で混合した。30分後にNMR測定することにより、ヒドリド金属錯体4の生成を観測した。
【0194】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 8.17~8.14 (m, 1 H), 7.65 (dd, J = 7.7 Hz, 2 H), 7.46 (dd, J = 7.4 Hz, 2 H), 7.19 (d, J = 7.1 Hz, 2 H), 3.01 (s, 6 H), 2.65~2.53 (m, 2 H), 1.28~1.18 (m, 12 H), -19.30 (d, J = 3.3 Hz, 1 H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 53.0。
【0195】
参考例5:アクリル酸メチル存在下でのアセトキシ金属錯体3とトリエチルシランの反応
【化24】
【0196】
窒素ガス雰囲気下、アセトキシ金属錯体3(1.0g,1.8mmol)のテトラヒドロフラン溶液(40mL)にアクリル酸メチル(1.7mL,18.4mmol,10eq)を添加し、続いてトリエチルシラン(2.9mL,18.4mmol,10eq)を添加し、室温で15時間撹拌した。この反応液を減圧下にて約1/3量まで濃縮後、ヘキサン(30mL)を加えて再沈殿させた。沈殿物を回収後、ヘキサン(20mL)にて3回洗浄し、減圧下にて乾燥することにより、薄い黄緑色の粉末を得た。
この粉末のテトラヒドロフラン(40mL)抽出液を、セライト(乾燥珪藻土)でろ過し、ろ液の溶媒を減圧留去後、ヘキサン(15mL)、及び、ジエチルエーテル(10mL)にて洗浄し、テトラヒドロフラン/ジエチルエーテル混合溶液にて再沈殿させた。沈殿物を回収後、減圧下にて乾燥することにより、淡黄色の金属錯体5を得た。収量0.4g(収率38%)。
【0197】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 8.26~8.23 (m, 1 H), 7.64~7.46 (m, 4 H), 7.11 (dd, J = 7.5 Hz, 2 H), 3.41 (s, 3 H), 3.28 (s, 3 H), 3.4 (s, 3 H), 3.04~2.98 (m, 1 H), 2.68~2.62 (m, 1 H), 1.48 (dd, J = 7.0, 14.3 Hz, 3 H), 1.40 (dd, J = 7.3, 16.5 Hz, 3 H), 1.36 (dd, J = 7.0, 15.3 Hz, 6 H), 0.93 (dd, J = 3.1, 6.9 Hz, 3 H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 28.3。
【0198】
参考例4及び参考例5の結果から、酢酸アリルとエチレンの共重合において、生成してドーマント種として存在するアセトキシ金属錯体が、ケイ素-水素結合を有するシラン化合物と反応して、ヒドリド錯体に変換され、再重合が加速されることが示唆された。即ち、初期重合活性がメチル金属錯体に劣るアセトキシ金属錯体であってもシラン化合物を添加することにより触媒活性を回復できることがわかる。
【0199】
以上の実施例、比較例、及び参考例の結果から、本発明のエチレンと極性基を有するアリルモノマーとの共重合体の製造方法では、重合反応系にケイ素-水素結合を有するシラン化合物を共存させることで、触媒の再重合を加速させ、生産性及び触媒活性を大幅に向上させることに成功した。これにより、重合体の製造コストを低減化することが可能であり、本発明が産業上有用であるといえる。