(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】ニッケル含有水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20221017BHJP
H01M 4/505 20100101ALN20221017BHJP
H01M 4/525 20100101ALN20221017BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2017252218
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-07-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】漁師 一臣
(72)【発明者】
【氏名】土岡 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌史
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-117700(JP,A)
【文献】特開2012-91955(JP,A)
【文献】国際公開第2016/060105(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩として少なくともニッケル塩を含む酸性の金属塩水溶液を、撹拌槽の内部に収容されるアルカリ性の反応水溶液に添加し、中和晶析によりニッケル含有水酸化物の粒子を得るニッケル含有水酸化物の製造方法であって、
前記反応水溶液のpH値を測定するpH電極を、前記撹拌槽の外部で酸洗浄し、次いで、前記撹拌槽の外部で
Naイオンを含むアルカリ溶液に浸漬し、
前記アルカリ溶液に浸漬した前記pH電極を前記撹拌槽の内部に設置し、設置した前記pH電極で前記反応水溶液のpH値を測定しながら前記中和晶析を行う、ニッケル含有水酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ溶液のpH値(A)と、前記反応水溶液のpH値(B)との差(A-B)は、-1以上1以下である、請求項1に記載のニッケル含有水酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記ニッケル含有水酸化物が、NiとCoとAlとを、物質量比がNi:Co:Al=1-x-y:x:y(ただし、0≦x≦0.3、0.005≦y≦0.15)となるように含む、請求項1または2に記載のニッケル含有水酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記ニッケル含有水酸化物が、NiとCoとMnとM(Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の添加元素)とを、物質量比がNi:Co:Mn:M=x:y:z:t(ただし、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.8、0≦t≦0.02)となるように含む、請求項1または2に記載のニッケル含有水酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に用いられる、ニッケル含有水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が要求されている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として、高出力の二次電池の開発も要求されている。このような要求を満たす非水系電解質二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0003】
リチウム複合酸化物としては、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)、コバルトよりも安価なマンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)やニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)が用いられている。このリチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物よりも低い電気化学ポテンシャルを示すため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待でき、コバルト系と同様に高い電池電圧を示すことから、開発が盛んに行われている。しかし、純粋にニッケルのみで合成したリチウムニッケル複合酸化物を正極材料としてリチウムイオン二次電池を作製した場合、コバルト系に比ベサイクル特性が劣り、また、高温環境下での使用や保存により比較的電池性能を損ないやすいという欠点を有しているため、ニッケルの一部をコバルトやアルミニウムで置換したリチウムニッケル複合酸化物が一般的に知られている。
【0004】
リチウムニッケル複合酸化物の一般的な製造方法は、(1)まず、中和晶析法によりリチウムニッケル複合酸化物の前駆体であるニッケル複合水酸化物を作製し、(2)その前駆体をリチウム化合物と混合して焼成する方法が知られている。このうち、(1)の中和晶析法によって粒子を製造する方法として、代表的な実施の形態は、撹拌槽を用いたプロセスである。
【0005】
特許文献1では、撹拌槽内に、ニッケル塩およびコバルト塩を含む混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、苛性アルカリ水溶液とを供給して反応させ、ニッケルコバルト複合水酸化物の粒子を析出させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属塩として少なくともニッケル塩を含む酸性の金属塩水溶液を、撹拌槽の内部に収容されるアルカリ性の反応水溶液に添加し、中和晶析によりニッケル含有水酸化物の粒子を得るニッケル含有水酸化物の製造方法が開発されている。この製造方法では、反応水溶液のpH値をpH電極で測定しながら、中和晶析を行う。中和晶析で反応水溶液のpH値を管理するのは、pH値に応じてニッケル含有水酸化物の溶解度が変化するためである。
【0008】
ところで、pH電極を長時間使用すると、pH電極の表面に粒子が付着し、反応水溶液のpH値の変化に対するpH電極の応答性が低下し、粒子の粒径制御が困難になる。そこで、pH電極の応答性が低下した場合、pH電極に付着した粒子を除去するため、pH電極を撹拌槽の外部に取り出し、取り出したpH電極を酸洗浄することが行われる。
【0009】
酸洗浄後のpH電極には、水素イオン(H+)が付着している。一方、酸洗浄前のpH電極には、水酸化物イオン(OH-)が付着している。酸洗浄前のpH電極はアルカリ性の反応水溶液に長時間浸漬されるためである。酸洗浄の後と、酸洗浄の前とでは、pH電極の表面状態が異なる。
【0010】
酸洗浄した後のpH電極を撹拌槽の内部に設置し、設置したpH電極で反応水溶液のpH値を測定しながら中和晶析を再開すると、pH電極の表面状態が酸洗浄する前の表面状態に戻るまで、反応水溶液のpH値を正確に測定できなかった。そのため、所望の粒径分布が得られず、金属塩水溶液などの原料が無駄になるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、酸洗浄した後のpH電極の表面状態が酸洗浄する前の表面状態に戻るまでに、金属塩水溶液などの原料が無駄になることを抑制する、ニッケル含有水酸化物の製造方法の提供を主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
金属塩として少なくともニッケル塩を含む酸性の金属塩水溶液を、撹拌槽の内部に収容されるアルカリ性の反応水溶液に添加し、中和晶析によりニッケル含有水酸化物の粒子を得るニッケル含有水酸化物の製造方法であって、
前記反応水溶液のpH値を測定するpH電極を、前記撹拌槽の外部で酸洗浄し、次いで、前記撹拌槽の外部でNaイオンを含むアルカリ溶液に浸漬し、
前記アルカリ溶液に浸漬した前記pH電極を前記撹拌槽の内部に設置し、設置した前記pH電極で前記反応水溶液のpH値を測定しながら前記中和晶析を行う、ニッケル含有水酸化物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、酸洗浄した後のpH電極の表面状態が酸洗浄する前の表面状態に戻るまでに、金属塩水溶液などの原料が無駄になることを抑制する、ニッケル含有水酸化物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態によるニッケル含有水酸化物の製造方法のフローチャートである。
【
図2】一実施形態による粒子成長工程の前半で形成される凝集体を模式化した断面図である。
【
図3】一実施形態による粒子成長工程の後半で形成される外殻を模式化した断面図である。
【
図4】一実施形態によるニッケル含有水酸化物の製造方法に用いられる化学反応装置を示す上面図である。
【
図5】
図4のV-V線に沿った化学反応装置の断面図である。
【
図6】一実施形態によるpH計のpH電極を示す図である。
【
図7】
図6のpH電極を酸洗浄する直前の状態を示す図である。
【
図8】
図7のpH電極を酸洗浄した後、アルカリ溶液に浸漬する前の状態を示す図である。
【
図9】
図8のpH電極をアルカリ溶液に浸漬した後、撹拌槽の内部に設置する前の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、各図面において、同一のまたは対応する構成については同一のまたは対応する符号を付して説明を省略する。
【0016】
図1は、一実施形態によるニッケル含有水酸化物の製造方法のフローチャートである。
図1に示すように、ニッケル含有水酸化物の製造方法は、中和晶析によりニッケル含有水酸化物の粒子を得るものであって、ニッケル含有水酸化物の核を生成させる核生成工程S11と、核を成長させる粒子成長工程S12とを有する。以下、各工程について説明するが、その前に、得られるニッケル含有水酸化物について説明する。
【0017】
<ニッケル含有水酸化物>
ニッケル含有水酸化物は、リチウムイオン二次電池の正極活物質の前駆体として用いられるものである。ニッケル含有水酸化物は、例えば、(1)ニッケル(Ni)とコバルト(Co)とアルミニウム(Al)とを、物質量比(mol比)がNi:Co:Al=1-x-y:x:y(ただし、0≦x≦0.3、0.005≦y≦0.15)となるように含むニッケル複合水酸化物であるか、または(2)ニッケル(Ni)とコバルト(Co)とマンガン(Mn)とM(Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の添加元素)とを、物質量比(mol比)がNi:Co:Mn:M=x:y:z:t(ただし、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.8、0≦t≦0.02)となるように含むニッケルコバルトマンガン複合水酸化物である。
【0018】
一実施形態によるニッケル含有水酸化物に含まれる水酸化物イオンの量は、通常、化学量論比を持つが、本実施形態に影響のない程度で過剰であったり、欠損していてもよい。また、本実施形態に影響のない程度で水酸化物イオンの一部は、アニオン(例えば、炭酸イオンや硫酸イオンなど)に置き換わっていてもよい。
【0019】
なお、一実施形態によるニッケル含有水酸化物は、X線回折(XRD)測定によって、ニッケル含有水酸化物の単相(または、主成分がニッケル含有水酸化物)であればよい。
【0020】
ニッケル含有水酸化物は、ニッケルを含有し、好ましくはニッケル以外の金属をさらに含有する。ニッケル以外の金属をさらに含有する水酸化物を、ニッケル複合水酸化物と呼ぶ。ニッケル複合水酸化物の金属の組成比(例えば、Ni:Co:Mn:M)は、得られる正極活物質においても維持されるので、正極活物質に要求される金属の組成比と一致するように調整される。
【0021】
<ニッケル含有水酸化物の製造方法>
ニッケル含有水酸化物の製造方法は、上述の如く、核生成工程S11と、粒子成長工程S12とを有する。本実施形態では、バッチ式の撹拌槽を用いて、撹拌槽内の反応水溶液のpH値などを制御することで、核生成工程S11と、粒子成長工程S12とを分けて実施する。
【0022】
核生成工程S11では、核の生成が核の成長(粒子成長)よりも優先して起こり、生成した核はほとんど成長しない。一方、粒子成長工程S12では、粒子成長が核生成よりも優先して起こり新しい核はほとんど生成されない。核生成工程S11と粒子成長工程S12とを分けて実施することで、粒度分布の範囲が狭く均質な核が形成でき、その後に、核を均質に成長させることができる。
【0023】
以下、核生成工程S11および粒子成長工程S12について説明する。核生成工程S11における撹拌槽内の反応水溶液と、粒子成長工程S12における撹拌槽内の反応水溶液とでは、pH値の範囲が異なるが、アンモニウムイオン濃度の範囲や温度の範囲は実質的に同じであってよい。
【0024】
なお、本実施形態では、バッチ式の撹拌槽を用いるが、連続式の撹拌槽を用いてもよい。後者の場合、核生成工程S11と粒子成長工程S12とは、同時に実施される。この場合、核生成工程S11と粒子成長工程S12とで撹拌槽内の反応水溶液のpH値の範囲は当然に同じになり、例えば、12.0の近傍に設定されてよい。連続式の撹拌槽を用いる場合、pH値が高いほど、ニッケル含有水酸化物の溶解度が低下し、ニッケル含有水酸化物の過飽和度が上昇する。過飽和度が上昇するほど、核が生成されやすく、粒子の数が増えるため、粒径が小さくなる。連続式の撹拌槽を用いる場合、核生成と粒子成長のバランスに鑑みてpH値が設定されてよい。
【0025】
(核生成工程)
まず、撹拌槽の外部で、酸性の金属塩水溶液を調製する。金属塩水溶液は、少なくともニッケル塩を含み、好ましくはニッケル塩以外の金属塩をさらに含有する。金属塩としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などが用いられる。より具体的には、例えば、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルト、硫酸アルミニウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、硫酸ハフニウム、タンタル酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、またはタングステン酸アンモニウムなどが用いられる。
【0026】
金属塩水溶液の金属の組成比(例えば、Ni:Co:Mn:M)は、得られるニッケル複合水酸化物においても維持されるので、ニッケル複合水酸化物に要求される組成比と一致するように調整される。
【0027】
一方、撹拌槽の内部には、中和剤および水を供給して混合した水溶液を溜める。混合した水溶液を、以下、「反応前水溶液」と呼ぶ。中和剤は、金属塩と反応して金属水酸化物を生成するものであればよい。また、中和剤は、反応前水溶液のpH値を調整するpH調整剤としても用いられる。中和剤としては、アルカリ水溶液を含むものが用いられる。アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を含むものが用いられる。アルカリ金属水酸化物は、固体として供給してもよいが、水溶液として供給することが好ましい。
【0028】
反応前水溶液は、錯化剤を含んでよい。錯化剤は、反応前水溶液と金属塩水溶液とを混ぜた反応水溶液中で、金属塩の金属イオンと結合して錯体を形成することで、ニッケル含有水酸化物の溶解度を上げて、ニッケル含有水酸化物の過飽和度を下げる役割を果たす。ここで、ニッケル含有水酸化物の過飽和度とは、上記反応水溶液中に実際に溶けているニッケル含有水酸化物の濃度から、上記反応水溶液中に溶けるニッケル含有水酸化物の溶解度(限界量)を差し引いた値である。
【0029】
錯化剤は、金属塩水溶液の供給口付近において、ニッケル含有水酸化物の過飽和度を下げることにより、ニッケル含有水酸化物の析出反応を緩やかに生じさせる。その結果、粒径が大きく品質が良い粒子が得られる。尚、錯体は、金属塩と同様に、中和剤と反応して、金属水酸化物を生成する。
【0030】
錯化剤としては、例えばニッケルアンミン錯体([Ni(NH3)6]2+)を形成するものが用いられ、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、またはフッ化アンモニウムなどが用いられる。なお、錯化剤として、エチレンジアミン四酢酸、ニトリト三酢酸、ウラシル二酢酸、またはグリシンなどが用いられてもよい。これらのうち、取り扱いの容易性などの点から、錯化剤としては、アンモニアを含む水溶液(アンモニア水)を用いることが好ましい。
【0031】
反応前水溶液のpH値は、液温25℃基準で、12.0~14.0、好ましくは12.3~13.5の範囲内に調節しておく。また、反応前水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、好ましくは3~25g/L、より好ましくは5~20g/L、さらに好ましくは5~15g/Lの範囲内に調節しておく。また、反応前水溶液の温度は、好ましくは20~60℃、より好ましくは35~60℃の範囲内に調節しておく。反応前水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度および温度は、それぞれ、公知のpH計、イオンメータおよび温度計などで測定できる。
【0032】
反応前水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度および温度などの調節後、反応前水溶液を撹拌しながら金属塩水溶液などの原料液を撹拌槽内に供給する。これにより、撹拌槽内には、反応前水溶液と原料液とが混合した反応水溶液が形成される。反応水溶液では、中和晶析によってニッケル含有水酸化物が析出し、ニッケル含有水酸化物からなる微細な核が生成され、核生成工程S11が開始される。
【0033】
核生成工程S11において、以下の2通りの経路で、ニッケル含有水酸化物が生成される。1つ目の経路では、金属塩水溶液に含まれるニッケル塩などの金属塩が中和剤であるアルカリ水溶液と反応して、ニッケル含有水酸化物が生成される。例えば、金属塩水溶液に含まれるニッケルイオンが水酸化ナトリウムの水酸基と下記式(1)のように反応して、ニッケル水酸化物が生成される。2つ目の経路では、まず、金属塩水溶液に含まれるニッケル塩などの金属塩が錯化剤のアンモニアなどと結合して、錯体を形成する。その後、錯体が中和剤であるアルカリ水溶液と反応して、ニッケル含有水酸化物が生成される。例えば、金属塩水溶液に含まれるニッケルイオンが反応水溶液中のアンモニアと下記式(2-1)のように反応して、ニッケルアンミン錯体([Ni(NH3)6]2+)が形成される。その後、ニッケルアンミン錯体が水酸化ナトリウムの水酸基と下記式(2-2)のように反応して、ニッケル水酸化物が生成される。尚、粒子成長工程S12において同様に、ニッケル含有水酸化物が生成される。
Ni2++2OH-→Ni(OH)2 ・・・(1)
Ni2++6NH3→[Ni(NH3)6]2+ ・・・(2-1)
[Ni(NH3)6]2++2OH-→Ni(OH)2+6NH3 ・・・(2-2)
反応水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度および温度は、反応前水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度および温度と同じ範囲内に維持されるように調整する。
【0034】
核生成工程S11において、反応水溶液のpH値が12.0以上であれば、核生成が粒子成長よりも支配的になる。核生成工程S11において、反応水溶液のpH値が14.0以下であれば、核が微細化し過ぎることを防止でき、反応水溶液のゲル化を防止できる。核生成工程S11において、反応水溶液のpH値の変動幅(最大値と最小値の幅)は、好ましくは0.4以下である。
【0035】
核生成工程S11において、反応水溶液の温度が20℃以上であれば、ニッケル含有水酸化物の溶解度が大きいため、核発生が緩やかに生じ、核発生の制御が容易である。反応水溶液の温度が60℃以下であれば、錯化剤に含まれるアンモニアの揮発が抑制できるため、錯化剤の使用量が削減でき、製造コストが低減できる。
【0036】
核生成工程S11では、反応水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度および温度が上記範囲内に維持されるように、撹拌槽内に、金属塩水溶液の他に、中和剤および錯化剤を供給する。これにより、反応水溶液中で、核の生成が継続される。そして、所定の量の核が生成されると、核生成工程S11を終了する。所定量の核が生成したか否かは、金属塩の供給量によって推定できる。
【0037】
(粒子成長工程)
核生成工程S11の終了後、粒子成長工程S12の開始前に、撹拌槽内の反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で、10.5~12.0、好ましくは11.0~12.0、かつ、核生成工程S11におけるpH値よりも低く調整する。このpH値の調整は、撹拌槽内への中和剤の供給を停止すること、金属塩の金属を水素と置換した無機酸(例えば、硫酸塩の場合、硫酸)を撹拌槽内へ供給することなどで調整できる。
【0038】
反応水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度および温度などの調節後、反応水溶液を撹拌しながら金属塩水溶液を撹拌槽内に供給する。これにより、中和晶析によって核の成長(粒子成長)が始まり、粒子成長工程S12が開始される。なお、本実施形態では、核生成工程S11と粒子成長工程S12とを、同一の撹拌槽で行うが、異なる撹拌槽で行ってもよい。
【0039】
粒子成長工程S12において、反応水溶液のpH値が12.0以下であってかつ核生成工程S11におけるpH値よりも低ければ、新たな核はほとんど生成せず、核生成よりも粒子成長の方が優先して生じる。
【0040】
なお、pH値が12.0の場合は、核生成と粒子成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、優先順位が変わる。例えば、核生成工程S11のpH値を12.0より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程S12でpH値を12.0とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、粒子成長が優先する。一方、反応水溶液中に核が存在しない状態、すなわち、核生成工程S11においてpH値を12.0とした場合、成長する核が存在しないため、核生成が優先する。その後、粒子成長工程S12においてpH値を12.0より小さくすれば、生成した核が成長する。核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
【0041】
また、粒子成長工程S12において、反応水溶液のpH値が10.5以上であれば、アンモ二アによる溶解度が低いため、析出せずに液中に残る金属イオンが減り、生産効率が向上する。
【0042】
粒子成長工程S12では、反応水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度および温度が上記範囲内に維持されるように、撹拌槽内に、金属塩水溶液の他に、中和剤および錯化剤を供給する。これにより、反応水溶液中で、粒子成長が継続される。
【0043】
粒子成長工程S12は、撹拌槽内の雰囲気を切り換えることで前半と後半とに分けることができる。粒子成長工程S12の前半の雰囲気は、核生成工程S11と同様に、酸化性雰囲気とされる。酸化性雰囲気の酸素濃度は、1容量%以上、好ましくは2容量%以上、より好ましくは10容量%以上である。酸化性雰囲気は、制御が容易な大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)であってよい。酸化性雰囲気の酸素濃度の上限は、特に限定されるものではないが、30容量%以下である。一方、粒子成長工程S12の後半の雰囲気は、非酸化性雰囲気とされる。非酸化性雰囲気の酸素濃度は、1容量%未満、好ましくは0.5容量%以下、より好ましくは0.3容量%以下である。非酸化性雰囲気の酸素濃度は、酸素ガスまたは大気と、不活性ガスとを混合することにより制御する。
【0044】
図2は、一実施形態による粒子成長工程S12の前半で形成される凝集体を模式化した断面図である。
図3は、一実施形態による粒子成長工程S12の後半で形成される外殻を模式化した断面図である。
【0045】
粒子成長工程S12の前半では、核が成長することで種晶粒子2が形成され、種晶粒子2がある程度大きくなると、種晶粒子2同士が衝突するようになり、複数の種晶粒子2からなる凝集体4が形成される。一方、粒子成長工程S12の後半では、凝集体4の周りに緻密な外殻6が形成される。その結果、凝集体4と外殻6とで構成される、ニッケル含有水酸化物の粒子が得られる。
【0046】
なお、ニッケル含有水酸化物の粒子の構造は、
図3に示す構造に限定されない。例えば、核生成工程S11と粒子成長工程S12とが同時に実施される場合、中和晶析の完了時に得られる粒子の構造は、
図3に示す構造とは別の構造である。その構造は、例えば、種晶粒子2に相当するものと外殻6に相当するものとが混じり合い、容易にその境界が分からない一様な構造となる。
【0047】
ニッケル含有水酸化物の粒子が所定の粒径まで成長した時点で、粒子成長工程S12を終了させる。その粒径は、核生成工程S11と粒子成長工程S12のそれぞれにおける金属塩の供給量から推測できる。
【0048】
なお、核生成工程S11の終了後、粒子成長工程S12の途中で、金属塩水溶液などの供給を停止すると共に反応水溶液の撹拌を停止して、ニッケル含有水酸化物の粒子を沈降させた後、上澄み液を排出してもよい。これにより、中和晶析によって減少した反応水溶液中の金属イオン濃度を高めることができる。
【0049】
図4は、一実施形態によるニッケル含有水酸化物の製造方法に用いられる化学反応装置を示す上面図である。
図5は、
図4のV-V線に沿った化学反応装置の断面図である。
図4および
図5に示すように、化学反応装置10は、撹拌槽20と、撹拌翼30と、撹拌軸40と、バッフル50とを有する。撹拌槽20は、円柱状の内部空間に反応水溶液を収容する。撹拌翼30は、撹拌槽20内の反応水溶液を撹拌させる。撹拌翼30は、撹拌軸40の下端に取付けられる。モータなどが撹拌軸40を回転させることで、撹拌翼30が回転される。撹拌槽20の中心線、撹拌翼30の中心線、および撹拌軸40の中心線は、一致してよく、鉛直とされてよい。バッフル50は、邪魔板とも呼ばれる。バッフル50は、撹拌槽20の内周面から突き出しており、回転流を邪魔することで上昇流や下降流を生じさせ、反応水溶液の撹拌効率を向上させる。
【0050】
また、化学反応装置10は、金属塩水溶液供給管60と、中和剤供給管62と、錯化剤供給管64とを有する。金属塩水溶液供給管60は、供給口61から撹拌槽20内に金属塩水溶液を供給する。中和剤供給管62は、供給口63から撹拌槽20内に中和剤を供給する。錯化剤供給管64は、撹拌槽20内に錯化剤を供給する。
【0051】
(pH計)
ニッケル含有水酸化物の製造方法では、上述の如く、金属塩として少なくともニッケル塩を含む酸性の金属塩水溶液を、撹拌槽20の内部に収容されるアルカリ性の反応水溶液に添加し、中和晶析によりニッケル含有水酸化物の粒子を得る。この製造方法では、反応水溶液のpH値をpH電極で測定しながら、中和晶析を行う。中和晶析で反応水溶液のpH値を管理するのは、pH値に応じてニッケル含有水酸化物の溶解度が変化するためである。
【0052】
図6は、一実施形態によるpH計のpH電極を示す図である。pH電極70は、例えば複合電極であって、ガラス膜71と、液絡部72と、第1内部電極73と、第2内部電極74とを有する。ガラス膜71は、内側の第1内部液75と、外側の液体(例えば反応水溶液)とを隔てる。液絡部72は、多孔質セラミックなどで構成され、ガラス膜71の外側の液体と第2内部液76とを短絡する。ガラス膜71で隔てられた2つの液体のpH値に差があると、その差に比例した電位差がガラス膜71の内側と外側に発生する。第1内部電極73は、ガラス膜71の内側の電位を測定する。第2内部電極74は、ガラス膜71の外側の電位を測定する。pH電極70は、第1内部電極73と第2内部電極74とでガラス膜71の内側と外側に生じる電位差を測定し、その測定結果に基づきガラス膜71の外側の液体のpH値を算出する。
【0053】
図7は、
図6のpH電極を長時間使用したときのガラス膜の状態を示す図である。pH電極70を長時間使用すると、pH電極70にニッケル含有水酸化物の粒子77が付着する。例えば、
図7に示すように粒子77がガラス膜71に付着すると、ガラス膜71と反応水溶液との接触面積が減り、反応水溶液のpH値の変化に対するガラス膜71の応答性が低下する。また、粒子77が液絡部72に付着すると、液絡部72が詰まり、反応水溶液のpH値の変化に対する第2内部電極74の応答性が低下する。これらのため、pH電極70の応答性が低下し、粒子77の粒径制御が困難になる。
【0054】
そこで、pH電極70の応答性が低下した場合、pH電極70に付着した粒子77を除去するため、pH電極70を撹拌槽20の外部に取り出し、pH電極70を酸洗浄することが行われる。酸洗浄の洗浄液としては、粒子77を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば硝酸、硫酸、塩酸などの無機酸の水溶液が用られる。
【0055】
図8は、
図7のガラス膜を酸洗浄した後、アルカリ溶液に浸漬する前の状態を示す図である。酸洗浄の後のガラス膜71には、
図8に示すように水素イオン(H
+)が付着している。一方、酸洗浄の前のガラス膜71には、
図7に示すように水酸化物イオン(OH
-)が付着している。酸洗浄の前のガラス膜71は、アルカリ性の反応水溶液中に長時間浸漬されるためである。
【0056】
酸洗浄の後と、酸洗浄の前とでは、ガラス膜71の外側に付着しているイオンが異なり、ガラス膜71の外側の表面状態が異なる。ガラス膜71の外側の表面状態はガラス膜71で隔てられた2つの液体のpH値の差に応じて変化し、その差に応じた電位差がガラス膜71の内側と外側に発生する。
【0057】
本実施形態では、酸洗浄した後のpH電極70を、撹拌槽20の内部に戻す前に、撹拌槽20の外部でアルカリ溶液に浸漬する。アルカリ溶液としては、ガラス膜71の外側の表面状態を酸洗浄前の表面状態に戻すことができるものであれば特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニアなどの水溶液が用いられる。酸洗浄中に洗浄液によってガラス膜71中のNaイオンがHイオンに置換される場合に、置換されたHイオンをNaイオンに再置換できる観点から、水酸化ナトリウム水溶液が特に好ましい。
【0058】
アルカリ溶液のpH値(A)と、中和晶析が行われる反応水溶液のpH値(B)との差(A-B)は、好ましくは-1以上1以下である。上記差(A-B)が-1以上1以下であると、pH電極70をアルカリ溶液に浸漬する時間(以下、単に「浸漬時間」とも呼ぶ。)が下限以上であれば、ガラス膜71の外側の表面状態が酸洗浄前の表面状態に戻る。浸漬時間に上限が無く、浸漬時間の許容範囲が広いため、浸漬時間の管理が容易である。
【0059】
尚、アルカリ溶液のpH値(A)と、反応水溶液のpH値(B)との差(A-B)は、本実施形態では-1以上1以下であるが、1を超えていてもよい。比較的短い浸漬時間で、ガラス膜71の外側の表面状態を酸洗浄前の表面状態に戻すことができる。この場合、浸漬時間には上限と下限が両方設定され、浸漬時間の許容範囲は狭い。
【0060】
バッチ式の場合、反応水溶液のpH値(B)とは、核生成工程S11における反応水溶液のpH値である。バッチ式の場合、pH電極70の酸洗浄およびpH電極70のアルカリ溶液への浸漬はn(nは1以上の自然数)回目のバッチとn+1回目のバッチとの間に行われ、n+1回目のバッチでpH電極70を用いる最初の工程は核生成工程S11のためである。
【0061】
一方、連続式の場合、反応水溶液のpH値(B)とは、核生成工程S11と粒子成長工程S12との両方に共通のpH値である。連続式の場合、pH電極70の酸洗浄およびpH電極70のアルカリ溶液への浸漬は中和晶析を中断して行われ、再開後に行われる中和晶析では核生成工程S11と粒子成長工程S12とが同時に行われるからである。
【0062】
図9は、
図8のガラス膜をアルカリ溶液に浸漬した後、撹拌槽の内部に戻す前の状態を示す図である。アルカリ溶液に浸漬した後のガラス膜71には、
図9に示すように水酸化物イオン(OH
-)が付着している。そのため、アルカリ溶液に浸漬した後のガラス膜71の外側の表面状態は、酸洗浄前の表面状態に戻っている。
【0063】
pH電極70の酸洗浄およびpH電極70のアルカリ溶液への浸漬は、バッチ式の場合にはn回目のバッチとn+1回目のバッチとの間に行われ、連続式の場合には中和晶析を中断している間に行われる。連続式の場合、中和晶析を中断している間、金属塩水溶液や中和剤、錯化剤などは、反応水溶液に添加されない。
【0064】
その後、アルカリ溶液に浸漬したpH電極70を撹拌槽20の内部に設置し、設置したpH電極70で反応水溶液のpH値を測定しながら中和晶析を行う。予めガラス膜71の外側の表面状態が酸洗浄前の表面状態に戻っているため、pH電極70を撹拌槽20の内部に設置した直後から、反応水溶液のpH値を正確に測定でき、所望の粒径分布を得ることができる。そのため、ガラス膜71の外側の表面状態が酸洗浄前の表面状態に戻るまでの無駄な中和晶析(規格外の粒子の製造)を防止でき、金属塩水溶液などの原料の無駄を低減できる。
【0065】
バッチ式の場合、酸洗浄した直後の1回分のバッチが無駄になるのを防止できる。一方、連続式の場合、ガラス膜71の外側の表面状態が酸洗浄前の表面状態に戻るまでの無駄(規格外の粒子の製造)を防止できるだけでなく、規格外の粒子を撹拌槽20の内部から撹拌槽20の外部へ追い出すための待ち時間が不要になり、その待ち時間分の無駄も削減できる。また、時間短縮の効果も得られる。
【実施例】
【0066】
[実施例1]
実施例1では、オーバーフロー型の連続式の撹拌槽を用い、中和晶析によって、ニッケル複合水酸化物の粒子の核を生成させる核生成工程と、粒子を成長させる粒子成長工程とを同時に行った。撹拌槽の容積は200L、撹拌翼のタイプはディスクタービン翼、撹拌翼の羽根の枚数は6枚、撹拌翼の翼径は250mm、撹拌翼と撹拌槽の内底面との間の上下方向距離は140mm、撹拌翼の回転数は280rpmとした。撹拌槽内の反応水溶液の液量は200L、反応水溶液のpH値は11.3、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度は12g/L、反応水溶液の温度は50℃に維持した。反応水溶液の周辺雰囲気は大気雰囲気とした。
【0067】
金属塩水溶液は、ニッケル複合水酸化物としてNi
0.82Co
0.15Al
0.03(OH)
2が得られるように調製した。また、金属塩水溶液供給管の本数は1本、1本の金属塩水溶液供給管からの供給量は400ml/分とした。また、核生成工程や粒子成長工程の間、撹拌槽内に、金属塩水溶液の他に、中和剤としての水酸化ナトリウム水溶液および錯化剤としてのアンモニア水を供給して、反応水溶液のpH値や反応水溶液のアンモニウムイオン濃度を維持した。反応水溶液のpH値の測定には、
図6に示す構造のpH電極を用いた。
【0068】
中和晶析の開始から、所望の粒度分布(平均粒子径13μm)の粒子が得られるまでの所要時間は、30時間であった。中和晶析の開始からの経過時間が240時間に達した時点で、中和晶析を停止し、中和晶析中に反応水溶液に浸漬していたpH電極を撹拌槽の外部に取り出した。取り出したpH電極は、pH値1.0の塩酸水溶液に5時間浸漬し、次いで水洗いし、続いてpH値11.0の水酸化ナトリウム水溶液に10時間浸漬した。その後、pH電極を撹拌槽の内部に戻し、中和晶析を再開したところ、再開直後から所望の粒度分布(平均粒子径13μm)の粒子が得られた。
【0069】
なお、粒度分布の測定には、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いた。下記比較例1、下記実施例2および下記比較例2では、実施例1と同様に、粒度分布の測定には、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いた。
【0070】
[比較例1]
比較例1では、酸洗浄後のpH電極をpH値11.0の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することなく撹拌槽の内部に戻した以外、実施例1と同様にして、中和晶析を再開した。その結果、中和晶析の再開から所望の粒度分布(平均粒子径13μm)の粒子が得られるまで25時間を要した。この25時間の間、規格外の粒子が得られ、金属塩水溶液や中和剤、錯化剤などの原料が無駄になった。
【0071】
比較例1では、中和晶析の再開から10時間が経過した時点では、pH電極のガラス膜の外側の表面状態は、酸洗浄前の表面状態に戻っていたと推定される。中和晶析の反応水溶液のpH値(11.3)と、実施例1で酸洗浄後、中和晶析再開前に使用した水酸化ナトリウム水溶液のpH値(11.0)とは略同じであるためである。しかしながら、その時点からさらに15時間が経過するまで所望の粒度分布の粒子が得られなかったのは、その時点までに製造された規格外の粒子を撹拌槽の内部から撹拌槽の外部に追い出すのに時間がかかったためと推定される。連続式の撹拌槽の内部で生成された粒子が全て入れ替わるのにかかる時間は、通常、平均滞留時間の3倍程度である。
【0072】
[実施例2]
実施例2では、金属塩水溶液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.34Co0.33Mn0.33(OH)2が得られるように調製した以外は実施例1と同様にしてニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
【0073】
中和晶析の開始から、所望の粒度分布(平均粒子径13μm)の粒子が得られるまでの所要時間は、30時間であった。中和晶析の開始からの経過時間が240時間に達した時点で、中和晶析を停止し、中和晶析中に反応水溶液に浸漬していたpH電極を撹拌槽の外部に取り出した。取り出したpH電極は、pH値1.0の塩酸水溶液に5時間浸漬し、次いで水洗いし、続いてpH値11.0の水酸化ナトリウム水溶液に10時間浸漬した。その後、pH電極を撹拌槽の内部に戻し、中和晶析を再開したところ、再開直後から所望の粒度分布(平均粒子径13μm)の粒子が得られた。
【0074】
[比較例2]
比較例2では、酸洗浄後のpH電極をpH値11.0の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することなく撹拌槽の内部に戻した以外、実施例2と同様にして、中和晶析を再開した。その結果、中和晶析の再開から所望の粒度分布(平均粒子径13μm)の粒子が得られるまで25時間を要した。この25時間の間、規格外の粒子が得られ、金属塩水溶液や中和剤、錯化剤などの原料が無駄になった。
【0075】
比較例2では、中和晶析の再開から10時間が経過した時点では、pH電極のガラス膜の外側の表面状態は、酸洗浄前の表面状態に戻っていたと推定される。中和晶析の反応水溶液のpH値(11.3)と、実施例2で酸洗浄後、中和晶析再開前に使用した水酸化ナトリウム水溶液のpH値(11.0)とは略同じであるためである。しかしながら、その時点からさらに15時間が経過するまで所望の粒度分布の粒子が得られなかったのは、その時点までに製造された規格外の粒子を撹拌槽の内部から撹拌槽の外部に追い出すのに時間がかかったためと推定される。連続式の撹拌槽の内部で生成された粒子が全て入れ替わるのにかかる時間は、通常、平均滞留時間の3倍程度である。
【0076】
[まとめ]
実施例1、2および比較例1、2から、酸洗浄した後のpH電極を撹拌槽の内部に戻す前に撹拌槽の外部でアルカリ溶液に浸漬することにより、金属塩水溶液などの原料の無駄を低減できることがわかる。連続式の場合、撹拌槽20の内部から撹拌槽20の外部へ規格外の粒子を追い出すための待ち時間が不要であるので、その待ち時間分の無駄も削減できる。また、時間短縮の効果も得られる。尚、バッチ式の場合、酸洗浄した直後の1回分のバッチが無駄になるのを防止できる。
【0077】
以上、ニッケル含有水酸化物の製造方法の実施形態等について説明したが、本発明は上記実施形態等に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【符号の説明】
【0078】
2 種晶粒子
4 凝集体
6 外殻
10 化学反応装置
20 撹拌槽
30 撹拌翼
40 撹拌軸
50 バッフル
60 金属塩水溶液供給管
62 中和剤供給管
64 錯化剤供給管