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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】基板キャリア、成膜装置、及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20221017BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
H01L21/68 N
C23C14/24 J
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020044196
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021145091
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/098200(WO,A1)
【文献】特開2010-267807(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0222145(US,A1)
【文献】特開2014-194896(JP,A)
【文献】国際公開第2012/039383(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持する第1の面、及び前記第1の面の反対側の面である第2の面を有する板状部材と、
前記第1の面の側に配置され、それぞれが前記基板を保持するための粘着面を有する複数の粘着部材と、
前記第2の面の側に配置された第1のリブと、を備え、
前記複数の粘着部材は、前記第1の面に沿って列状に並ぶ第1の粘着部材群を含み、
前記第1の粘着部材群のそれぞれの前記粘着面を前記第1の面に垂直投影した領域は、前記第1のリブを前記第1の面に垂直投影した領域と重なる
ことを特徴とする基板キャリア。
【請求項2】
前記第2の面において、前記板状部材の周縁部に沿って配置された第2のリブをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の基板キャリア。
【請求項3】
前記複数の粘着部材は、前記板状部材の周縁部に沿って並ぶ第2の粘着部材群を含み、
前記第2の粘着部材群のそれぞれの前記粘着面を前記第1の面に垂直投影した領域は、前記第2のリブを前記第1の面に垂直投影した領域と重なることを特徴とする請求項2に記載の基板キャリア。
【請求項4】
前記第1のリブの剛性は、前記第2のリブの剛性より高いことを特徴とする請求項2または3に記載の基板キャリア。
【請求項5】
前記第1のリブの長手方向に垂直な断面の断面積は、前記第2のリブの長手方向に垂直な断面の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の基板キャリア。
【請求項6】
前記第1のリブを構成する材料のヤング率は、前記第2のリブを構成する材料のヤング率よりも大きいことを特徴とする請求項2~5のいずれか1項に記載の基板キャリア。
【請求項7】
前記複数の粘着部材は、前記板状部材の周縁部に沿って並ぶ第2の粘着部材群を含むことを特徴とする請求項1に記載の基板キャリア。
【請求項8】
前記第1の粘着部材群の並ぶ方向において、前記第1の粘着部材群の両側に前記第2の粘着部材群のうちの2つが配置され、
前記第2の粘着部材群のうちの前記2つの前記粘着面を前記第1の面に垂直投影した領域は、前記第1のリブを前記第1の面に垂直投影した領域と重なることを特徴とする請求項7に記載の基板キャリア。
【請求項9】
記第1の粘着部材群の並ぶ方向に交差する方向において、前記第1のリブは前記板状部材の中央に配置されることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の基板キャリア。
【請求項10】
前記第1のリブは、前記板状部材に対して着脱自在に配置されることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の基板キャリア。
【請求項11】
前記複数の粘着部材は、前記板状部材に対して着脱自在に配置されることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の基板キャリア。
【請求項12】
前記第1のリブは、前記板状部材に対して着脱自在に配置され、
前記複数の粘着部材は、前記板状部材に対して着脱自在に配置されることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の基板キャリア。
【請求項13】
前記基板の被成膜領域を区画するための境界部が設けられたマスクを用いて前記基板に成膜を行う成膜装置において前記基板を保持して搬送するために用いられる基板キャリアであって、
前記マスクの前記境界部に対応して、前記複数の粘着部材が配置されることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の基板キャリア。
【請求項14】
前記第1のリブは、前記基板キャリアの搬送方向と交差する方向に延びていることを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載の基板キャリア。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の基板キャリアと、
前記基板キャリアに保持された前記基板の被成膜面に対し、マスクを介して成膜を行うための成膜手段と、
前記基板キャリアを搬送する搬送手段と、を備える
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項16】
前記基板が前記板状部材の上方に保持された状態から、前記基板が前記板状部材の下方に保持された状態へ、前記基板キャリアを反転する反転手段をさらに備えることを特徴とする請求項15に記載の成膜装置。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか1項に記載の基板キャリアに保持された前記基板の被成膜面に対し、前記基板の被成膜領域を区画するための境界部を有するマスクを介して成膜を行う成膜方法であって、
前記基板キャリアに前記基板を保持させる保持工程と、
前記第1の粘着部材群が前記マスクの前記境界部に重なるように、前記基板キャリアを前記マスクに載置する載置工程と、
前記載置工程の後に、前記被成膜面に前記マスクを介して成膜を行う成膜工程と、を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項18】
前記保持工程の後であって、前記載置工程の前に、前記基板が前記板状部材の上方に保持された状態から、前記基板が前記板状部材の下方に保持された状態へ、前記基板キャリアを反転する反転工程をさらに有することを特徴とする請求項17に記載の成膜方法。
【請求項19】
基板キャリアに保持された基板の被成膜面に対し、マスクを介して成膜を行うための成膜手段と、
前記基板キャリアを搬送する搬送手段と、
を備える成膜装置であって、
前記基板キャリアは、
前記基板を保持する第1の面、及び前記第1の面の反対側の面である第2の面を有する板状部材と、
前記第1の面の側に配置され、それぞれが前記基板を保持するための粘着面を有する複数の粘着部材と、
前記第2の面の側に配置された第1のリブと、を備え、
前記搬送手段は、前記基板キャリアを前記第1のリブの長手方向と交差する方向に、前記基板キャリアを搬送することを特徴とする成膜装置。
【請求項20】
前記複数の粘着部材は、前記第1の面に沿って列状に並ぶ第1の粘着部材群を含み、
前記第1の粘着部材群のそれぞれの前記粘着面を前記第1の面に垂直投影した領域は、前記第1のリブを前記第1の面に垂直投影した領域と重なることを特徴とする請求項19に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板キャリア、成膜装置、成膜方法、及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイを製造する方法として、所定のパターンで開口が形成されたマスクを介して基板上に成膜することで、所定のパターンの膜を形成するマスク成膜法が知られている。マスク成膜法では、マスクと基板を位置合わせした後に、マスクと基板を密着させて成膜を行う。マスク成膜法によって精度よく成膜するためには、マスクと基板の位置合わせを高い精度で行うことと、マスクと基板を密着させて膜ボケを抑制することが重要である。
【0003】
近年、有機ELディスプレイの大面積化や生産効率向上のために、大きなサイズの基板を用いて成膜を行うことが求められている。一般に、有機ELディスプレイの製造時には、ガラスや樹脂等の薄板が基板として用いられることが多く、基板のサイズが大きくなると基板を水平に保持した際の撓みが大きくなり、基板単独で搬送することが困難となる。
【0004】
特許文献1には、基板をチャックプレート(「基板キャリア」とも称する)に保持させ、チャックプレートごと基板を搬送することが記載されている。これにより、撓みの大きい大面積基板であっても搬送することが可能となる。また、特許文献1には、基板の処理面が鉛直方向上向きの状態で基板キャリアに保持させ、その後、基板キャリアの側面を機械的に保持して180°回転させることで反転させ、基板の処理面を鉛直方向下向きに変えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-55093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板を基板キャリアに保持させて搬送することで基板単体で搬送する場合よりは撓みを軽減できるものの、基板を保持させた基板キャリアにも撓みは存在する。基板を保持した基板キャリアを反転させると重力に対する基板キャリアの基板保持面の方向が反転するため、基板キャリアの撓みの形状が反転の前後で逆になる。このように基板キャリアの姿勢が変化すると基板と基板キャリアの接触面の形状が変化し、その変化量が大きすぎると基板キャリアから基板が剥がれ、基板が落下してしまう可能性があった。
【0007】
一方、基板キャリアの剛性をできるだけ高くして全体的に撓みにくいようにすると基板キャリアの重量が著しく増大し、搬送や反転が困難となる。
【0008】
そこで本発明は、上述の課題に鑑み、基板キャリア全体の重量を大幅に増大させることなく、基板を保持したまま安定的に反転や搬送が可能な基板キャリアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の基板キャリアは、
基板を保持する第1の面、及び前記第1の面の反対側の面である第2の面を有する板状部材と、
前記第1の面の側に配置され、それぞれが前記基板を保持するための粘着面を有する複数の粘着部材と、
前記第2の面の側に配置された第1のリブと、を備え、
前記複数の粘着部材は、前記第1の面に沿って列状に並ぶ第1の粘着部材群を含み、
前記第1の粘着部材群のそれぞれの前記粘着面を前記第1の面に垂直投影した領域は、前記第1のリブを前記第1の面に垂直投影した領域と重なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板キャリア全体の重量を大幅に増大させることなく、基板を保持したまま安定的に反転可能な基板キャリアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の基板キャリアの構成を示す模式的な図
図2】実施形態の基板キャリア下面を示す模式的な図
図3】実施形態の有機ELパネルのインライン製造システムの模式的な構成図
図4】実施形態の基板キャリアの上面図とリブの配置例を示す図
図5】実施形態のアライメント機構の模式的な図
図6】実施形態のキャリア保持部、マスク保持部の拡大図
図7】実施形態のアライメント機構の斜視図
図8】比較例の基板キャリアでのアライメント状態の模式的な図
図9】実施形態のキャリアのアライメント状態の模式的な図
図10】回転並進機構の一例を示す斜視図
図11】基板およびマスクの保持の様子を示す平面図とマークの拡大図
図12】実施形態における処理の各工程を示すフローチャート
図13】有機EL表示装置の説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態1]
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
図1図12を参照して、本発明の実施形態に係る基板キャリア、成膜装置、成膜方法、及び電子デバイスの製造方法について説明する。以下の説明においては、電子デバイスを製造するための装置に備えられるマスク装着装置等を例にして説明する。また、電子デバイスを製造するための成膜方法として、真空蒸着法を採用した場合を例にして説明する。ただし、本発明は、成膜方法としてスパッタリング法を採用する場合にも適用可能である。また、本発明のマスク装着装置等は、成膜工程に用いられる装置以外においても、基板にマスクを装着する必要のある各種装置にも応用可能であり、特に大型基板が処理対象となる装置に好ましく適用できる。なお、本発明に適用される基板の材料としては、ガラスの他、半導体(例えば、シリコン)、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選ぶことができる。また、基板として、例えば、シリコンウエハ、又はガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板を採用することもできる。なお、基板上に複数
の層を形成する場合においては、一つ前の工程までに既に形成されている層も含めて「基板」と称するものとする。また、以下で説明する各種装置等の同一図面内に同一もしくは対応する部材を複数有する場合には、図面中にa、bなどの添え字を付与して示す場合があるが、説明文において区別する必要がない場合には、a、bなどの添え字を省略して記述する場合がある。
【0014】
(キャリア構成)
図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係る基板キャリア9の構成について説明する。図1(a)は、基板キャリア9を斜め上方から見たときの基板キャリア9の様子を示しており、搬送およびアライメント時の支持状態における基板キャリア9全体の自重変形形状を示している。また、図2は、基板キャリア9の裏面を、斜め下方から見たときの基板キャリア9の様子を示しており、搬送ローラ15の図示を省略している。
【0015】
基板キャリア9は、平面視矩形の平板状の構造体であり、矩形外周縁部をなす四辺のうちの対向二辺近傍が、当該対向二辺が搬送方向に沿う姿勢で、基板キャリア9の搬送経路の両側に搬送方向に沿って複数配置された搬送回転体としての搬送ローラ15によって支持される。かかる支持構成により、上記搬送方向の基板キャリア9の移動が搬送ローラ15の回転によって案内される。図1(a)及び図2は、基板キャリア9が搬送ローラ15によって矩形外周縁部をなす四辺のうちの対向二辺近傍を支持された状態を示しており、自重による変形により、両支持辺から離れる中央部(四辺のうち支持辺ではない対向二辺に沿った方向における中央部)が下方に落ち込むように変形した様子を示している。
【0016】
基板キャリア9は、矩形の平板状部材であるキャリア面板30と、複数のチャック部材32と、を有する。基板キャリア9は、キャリア面板30の保持面(第1の面、図1に示す状態では下面)に基板5を保持する。
【0017】
チャック部材32は、基板5と接触して基板5をチャックするチャック面を有する。本実施形態のチャック部材32の有するチャック面は粘着性の部材によって構成された粘着面であり、粘着力によって基板5を保持する。それゆえ、本実施形態のチャック部材32は、粘着パッドと呼ぶこともできる。本実施形態では複数のチャック部材32のそれぞれは、図2に示すようにキャリア面板30に設けられた複数の穴の内部に、それぞれが有するチャック面(粘着面)がキャリア面板30の保持面と面一になるように(同一平面上に位置するように)配置されている。これにより、複数のチャック部材32のそれぞれによって基板5をチャックすることで、基板5をキャリア面板30の保持面に沿って保持することができる。なお、複数のチャック部材32はそれぞれが有するチャック面がキャリア面板30の保持面から所定の距離だけ飛び出た状態となるように配置されていてもよい。チャック部材32は、マスク6の形状に応じて配置されていることが好ましく、マスク6の基板5の被成膜領域を区画するための境界部(桟の部分)に対応して配置されていることがより好ましい。これにより、チャック部材32が基板5と接触することによる基板5の成膜エリアの温度分布への影響を抑制することができる。
【0018】
キャリア面板30の保持面とは反対側の面(第2の面、本実施形態では上面)には基板キャリア9全体の自重撓み変形量を抑制するための中央補強リブ80(第1のリブ)が固定されている。また、キャリア面板30の、搬送方向と直交方向の辺近傍には周辺補強リブ81(第2のリブ)が固定されている。これら中央補強リブ80および周辺補強リブ81は、キャリア面板30の任意の箇所に配置変更可能であり、適宜本数を追加、削減することが可能な構成となっている。
【0019】
キャリア面板30の材質は、基板キャリア9全体の重量を低減するためアルミニウムまたはアルミニウム合金を主材とすることが望ましい。また、中央補強リブ80および周辺
補強リブ81は、アルミとすることもあるが、省スペースで剛性を確保するためステンレスや高剛性鋼、セラミックを材料としてもよい。
【0020】
図1(b)は、自重による撓み状態にある本実施形態に係る基板キャリア9を、搬送方向と直交する幅方向に側方から見た透視図であり、幅方向の中央部における変形断面は中央補強リブ80を頂点とする双曲線形状をしている。中央補強リブ80は、太く剛性が高いので、基板キャリア9の幅方向中央部における撓み量は、搬送方向において中央部で低減している。すなわち、基板キャリア9において、搬送方向のどの位置においても幅方向の中央部が最も下方に落ち込む変形となるのは共通するが、その落ち込み具合を搬送方向で比較すると搬送方向の中央部の落ち込みが搬送方向端部のそれよりも低減された撓み変形となる。この中央補強リブ80により補強された幅方向中央かつ搬送方向中央の部分における基板キャリア9の撓み量は、dccである。また、基板キャリア9の外周四辺のうち幅方向に延びる辺近傍に沿った周辺補強リブ81で補強された部分の幅方向中央部における基板キャリア9の撓み量は、dceである。ここで言う「撓み量」とは、基板キャリア9の周縁部における、基板5の周縁部をなす複数の辺のうち所定の方向に沿って配された一対の対向辺に対応した一対の周縁領域のみを搬送ローラ15やキャリア支持部8の如き一対の支持手段によって支持したときの撓み量である。そして、「撓み量」とは、上記支持状態において、基板キャリア9の支持点である搬送ローラ15の高さもしくはキャリア支持部8からの高さに対して基板キャリア9の下部が撓んだ量のことを言う。すなわち、基板キャリア9の搬送方向中央部において、高さが最も高くなる幅方向一端部の上端(上面)と、高さが最も低くなる幅方向中央部の下端(下面)と、の間の、高さ方向の高さの差の絶対値を、撓み量dccと定義する。同様に、基板キャリア9の搬送方向の一端部において、高さが最も高くなる幅方向一端部の上端(上面)と、高さが最も低くなる幅方向中央部の下端(下面)と、の間の、高さ方向の高さの差の絶対値を、撓み量dceと定義する。なお、上記のような幅方向一端部の上端と幅方向中央部の下端の高さの差ではなく、幅方向の一端部と中央部のそれぞれの上端同士の高さの差や、下端同士の高さの差で、撓み量を定義してもよい。なお、高さ方向は、搬送方向を第1方向とし、搬送方向と直交する幅方向を第2方向としたときに、第1方向及び第2方向と直交する第3方向と規定することができる。
【0021】
基板5は、基板キャリア9において主に基板5自体を保持するキャリア面板30の下面に、複数配置されるチャック部材32によって吸着保持されている。チャック部材32の吸着力には、チャック部材32の特性上の制限があり、閾値以上の力をかけると剥離される。なお、この閾値内で基板5を保持することができるように、チャック部材32の個数や配置を適宜設計することができる。
【0022】
本発明の特徴的構成である中央補強リブ80は、チャック部材32の配列に沿って配置されており、特に、チャック部材32の配列が交差する箇所(具体的には縦横で直交する箇所)やチャック部材32の基板キャリア9における配置密度の高い箇所を補強し、撓み量dccを低減するような構成を取っている。この結果、基板キャリア9全体としては双曲面形状の撓み変形状態を取ることができる。
【0023】
図3を参照して、本発明の実施形態に係る製造システム(成膜装置)について説明する。図3は、本発明の実施形態に係る製造システムの模式的な構成図であり、有機ELパネル(有機EL表示装置)をインラインで製造する製造システム300を例示している。有機ELパネルは、一般的に、基板上に有機発光素子を形成する有機発光素子形成工程と、形成した有機発光層上に保護層を形成する封止工程と、を経て製造されるが、本実施形態に係る製造システム300は有機発光素子形成工程を主に行う。
【0024】
製造システム300は、図3に示すように、アライメント室100(マスク取付室)と
、複数の成膜室110と、転回室111と、搬送室112と、マスク分離室113と、基板分離室114と、基板投入室117(基板取付室)と、搬送室118と、搬送室115と、を有する。製造システム300はさらに、後述する搬送手段を有しており、基板キャリアは搬送手段によって製造システム300の有する各チャンバ内を通る所定の搬送経路に沿って搬送される。具体的には、図3の構成においては、基板キャリア9は、アライメント室100(マスク取付室)、複数の成膜室110a、転回室111a、搬送室112、転回室111b、複数の成膜室110b、マスク分離室113、基板分離室114(反転室)、基板投入室117(基板取付・反転室)、搬送室118、搬送室115、の順に各チャンバ内を通って搬送され、再度、アライメント室100に戻る。このように、基板キャリア9は所定の搬送経路(循環搬送経路)に沿って循環して搬送される。なお、本実施形態における製造システム300はさらに、マスク投入室90と、マスク搬送室116と、を有する。以下、各チャンバの機能について説明する。
【0025】
基板キャリア9が上記循環搬送経路を循環搬送されるのに対し、マスク6は、マスク投入室90から循環搬送経路に投入され、マスク搬送室116から搬出される。また、未成膜の基板5は、基板取付室としての基板投入室117から循環搬送経路に投入され、基板キャリア9に保持された状態で成膜された後に、成膜済みの基板5は、基板分離室114から搬出される。基板投入室117に搬入された未成膜の基板5は、基板搬入室117で基板キャリア9に保持され、搬送室118および搬送室115を経由してアライメント室110に搬入される。
【0026】
基板投入室117および基板分離室114には基板キャリア9の保持面の向きを鉛直方向上向きから鉛直方向下向きに、または、鉛直方向下向きから鉛直方向上向きに反転させる反転機構(反転機構120。基板分離室114に設けられた反転機構は不図示)が備えられている。反転手段としての反転機構120は、基板キャリア9を把持等して姿勢(向き)を変化させることができる従来既知の機構を適宜採用してよく、具体的な構成の説明は省略する。基板5は、基板キャリア9が保持面が鉛直方向上を向いた状態で配置されている基板投入室117に、被成膜面が鉛直方向上を向いた状態で搬入され、基板キャリア9の保持面の上に載置され、基板キャリア9によって保持される。その後、反転機構120によって基板5を保持した基板キャリア9が反転され、基板5の被成膜面が鉛直方向下を向いた状態になる。一方、基板キャリア9がマスク分離室113から基板分離室114に搬入される際には、基板5の被成膜面が鉛直方向下を向いた状態で搬入されてくる。搬入後、不図示の反転機構によって基板5を保持した基板キャリア9が反転され、基板5の被成膜面が鉛直方向上を向いた状態となる。その後、基板5は被成膜面が鉛直方向上を向いた状態で基板分離室114から搬出される。
【0027】
基板投入室117で投入された基板5を保持して反転された基板キャリア9がアライメント室100に搬入される際には、これに合わせてマスク6がマスク投入室90からアライメント室100に搬入される。アライメント室100(マスク取付室)には、アライメント装置1が搭載されており、本実施形態に係る基板キャリア9に載った基板5とマスク6とを高精度で位置合わせしてマスク6に基板キャリア9(基板5)を載置した状態とし、その後、搬送ローラ15(搬送手段)に受け渡し、次工程に向けて搬送を開始する。基板5、マスク6、基板キャリア9は、それぞれ向きを変えずに上記搬送経路を搬送される。すなわち、搬送経路の延びる方向が変わったとしてもそれぞれ向きは変えずに進行方向だけを変える搬送方式である。搬送手段としての搬送ローラ15は、搬送経路の両脇に搬送方向に沿って複数配置されており、それぞれ不図示のACサーボモータの駆動力により回転することで、基板キャリア9やマスク6を搬送する構成となっている。搬送経路には、その搬送方向に応じて、第1方向に搬送するための第1搬送回転体としての搬送ローラ15Aの対(15Aa、15Ab)と、第2方向に搬送するための第2搬送回転体としての搬送ローラ15Bの対(15Ba、15Bb)と、のいずれか、あるいは両方が設けら
れている。
【0028】
図3において、搬送経路の前段の成膜室110aでは、搬入されてきた基板キャリア9に吸着された基板5が、蒸着源7上を通過することで、基板5の被成膜面においてマスク6によって遮られる個所以外の面が成膜される。基板キャリア9とマスク6は、転回室111aで進行方向をそれまでの進行方向に対して直交する方向に変化させ(90°転回)、搬送室112を経て、さらに転回室11bを通り(さらに進行方向90°転回し)、搬送経路の後段の成膜室110bへ投入される。各転回室111には、基板キャリア9及びマスク6を、第1方向に搬送するための第1搬送回転体としての搬送ローラ15Aの対(15Aa、15Ab)と、第2方向に搬送するための第2搬送回転体としての搬送ローラ15Bの対(15Ba、15Bb)とが設けられている。第1搬送回転体と第2搬送回転体の高さを異ならせることで基板キャリア9及びマスク6の載せ替えを行い、基板キャリア9及びマスク6の向きは変えることなく、進行方向のみを変えるように構成されている。具体的には、基板キャリア9及びマスク6が第1搬送回転体に支持された状態で、第2搬送回転体が下から上に上昇して第1搬送回転体よりも高い位置へと移動することで、基板キャリア9及びマスク6が第2搬送回転体に支持される状態とすることで、載せ替えを実現することができる。成膜完了後、基板キャリア9とマスク6は、マスク分離室113に到達し、基板キャリア9は、基板分離室114へ搬送され、基板分離室114において、成膜が完了した基板5は、基板キャリア9から分離され循環搬送経路内から回収される。一方、基板キャリア9から分離したマスク6単体は、そのまま直進しマスク搬出室116へ搬送される。基板キャリア9には、基板投入室117において新たな基板5が投入、吸着、反転され、基板キャリア9は、基板5を搭載した基板キャリア9単体で循環搬送経路内を搬送され、再びアライメント室100において、投入室90から搬送されてきたマスク6上にアライメントされて載置される。なお、搬送室118には、搬送方向が互いに異なる(直交する)搬送ローラ対が上下二段に別けて設けられている。上記第1方向に複数並ぶ下段の搬送ローラ対は、マスク分離室113で分離されたマスク6がマスク分離室113からマスク搬送室116へ搬送する際に用いられる。上記第2方向に複数並ぶ上段の搬送ローラ対は、基板投入室117から搬入された基板キャリア9を搬送室115へ搬送する際に用いられる。
【0029】
上述のとおり、基板投入室117および基板分離室114では基板キャリア9は反転機構によって反転されるが、反転機構による反転時に、図1(b)で示した基板キャリア9の撓み量dccは、上下反転することになる。すなわち、チャック部材32の配列が縦横で交差する中央の吸着部Aは最大で2×dccの変位(高さ方向)を受けることになる。この際、反転により吸着部に荷重がかかるが、撓み量dccは中央補強リブ80の剛性があるので変形量が低減され荷重変化は剥離の閾値内に収まっており、反転時に基板5がキャリア面板30から剥離してしまうことが無い。
【0030】
図4は、本実施形態に係る基板キャリア9を示している。図4(a)は、基板キャリア部9を上方から見た平面図であり、キャリア面板30の裏面(基板保持面とは反対側の面)を示している。中央補強リブ80は、基板キャリア9の搬送方向における中央に、幅方向の一端から他端にかけて幅方向に延びるように配置されている。これは、マスク6のマスク箔6bが有する被成膜領域を区画するための境界部が十字型で左右上下に対称なレイアウトで、中型のディスプレイを4枚同時に成膜する構成に対応する例である。この場合、チャック部材32の縦横の配列は中央で交差し、中央の吸着部Aにおいて反転時に撓み量の変化が小さい。したがって中央補強リブ80によって剛性を確保することで、チャック部材32の配列の交差部における反転時の撓み変化を低減し、基板5のキャリア面板30からの剥離を防ぐことができる。
【0031】
本実施形態においては、中央補強リブ80をキャリア面板30上で任意に配置変更可能
である。図4(b)に本発明を適用した他の実施形態を示す。他の実施形態に係る基板キャリア9aは、大型のディスプレイ2枚と、小型のディスプレイ4枚を同時成膜するためのマスクに対応した基板キャリアとなっている。この構成においては、中央補強リブ80を、中央の大型基板のマスク部と小型基板のマスクが交差する箇所に配置している。この構成において中央の交差部Aにおける反転時の撓み変化は小さい。このようにマスク6のマスク部(マスク箔6bが有する被成膜部を区画するための境界部)のレイアウトに応じて中央補強リブ80によって剛性を確保することで、チャック部材32の配列の交差部における反転時の撓み変化を低減し、基板の剥離を防ぐことができる。
【0032】
図4に示した各実施形態は、中央補強リブ80及び周辺補強リブ81に対して直交(交差)する方向に延び、かつそれらの間を連結するように設けられる複数の補助補強リブ83を備えている。補助補強リブ83は、中央補強リブ80や周辺補強リブ81よりも幅の狭い(断面積の小さい)補強リブであり、マスク6のマスク部のレイアウトに応じて適宜に配置される。本実施形態におけるマスク6の特徴的な撓み制御は、主として中央補強リブ80及び周辺補強リブ81によって制御されるため、マスク部のレイアウトによっては補助補強リブ83を設けない構成としてもよい。
【0033】
なお、チャック部材32は、ディスプレイのアクティブエリアの外に配置されることが好ましい。これは、チャック部材32による吸着による応力が基板5を歪ませる、あるいは成膜時の温度分布を引き起こす懸念があるため、チャック部材32による基板5の吸着保持面積はなるべく小さく、保持数はなるべく少ないほうがよい。また、チャック部材32の配列は、上記理由によりマスク部の背面に配置するのが成膜上好ましい。
【0034】
図5は、本実施形態のインライン蒸着装置のアライメント機構部における全体構成を示すための模式的な断面図である。
【0035】
蒸着装置は、概略、チャンバ4と、基板キャリア9に保持された基板5およびマスク6を保持して相対位置合わせを行うアライメント装置1を備えている。チャンバ4は、真空ポンプや室圧計を備えた室圧制御部(不図示)により室圧(チャンバ内部の圧力)を調整可能であるとともに、チャンバ4の内部には蒸着材料71(成膜材料)を収納した蒸発源7(成膜源)を配置可能であり、これにより、チャンバ内部に減圧された成膜空間2が形成される。成膜空間2においては、蒸発源7から基板5に向けて蒸着材料が飛翔し、基板上に膜が形成される。
【0036】
図示例では成膜時に基板5の成膜面(被成膜面)が重力方向下方を向いた状態で成膜されるデポアップの構成について説明する。しかし、成膜時に基板5の成膜面が重力方向上方を向いた状態で成膜されるデポダウンの構成でもよい。また、基板5が垂直に立てられて成膜面が重力方向と略平行な状態で成膜が行われる、サイドデポの構成でもよい。すなわち本発明は、基板キャリア9に保持された基板5とマスク6を相対的に接近させるときに、該基板キャリア9とマスク6の少なくともいずれかの部材に垂下や撓みが発生した状態において高精度で位置合わせすることが求められる際に、好適に利用できる。
【0037】
なお、本実施形態では、図11に示すように、マスク6は枠状のマスクフレーム6aに数μm~数十μm程度の厚さのマスク箔6bが溶接固定された構造を有する。マスクフレーム6aは、マスク箔6bが撓まないように、マスク箔6bをその面方向(後述するX方向およびY方向)に引っ張った状態で支持する。マスク箔6bは、基板の被成膜領域を区画するための境界部を含む。マスク箔6bの有する境界部は基板5にマスク6を装着したときに基板5に密着し、成膜材料を遮蔽する。なお、マスク6はマスク箔6bが境界部のみを有するオープンマスクであってもよいし、境界部以外の部分、すなわち基板の被成膜領域に対応する部分に、画素または副画素に対応する微細な開口が形成されたファインマ
スクであってもよい。基板5としてガラス基板またはガラス基板上にポリイミド等の樹脂製のフィルムが形成された基板を用いる場合、マスクフレーム6aおよびマスク箔6bの主要な材料としては、鉄合金を用いることができ、ニッケルを含む鉄合金を用いることが好ましい。ニッケルを含む鉄合金の具体例としては、34質量%以上38質量%以下のニッケルを含むインバー材、30質量%以上34質量%以下のニッケルに加えてさらにコバルトを含むスーパーインバー材、38質量%以上54質量%以下のニッケルを含む低熱膨張Fe-Ni系めっき合金などを挙げることができる。
【0038】
チャンバ4は上部隔壁4a(天板)、側壁4b、底壁4cを有している。チャンバ内部は、上述した減圧雰囲気の他、真空雰囲気や、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持されていてもよい。なお、本明細書における「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態をいい、典型的には、1atm(1013hPa)より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態をいう。
【0039】
蒸発源7は例えば、蒸着材料を収容する坩堝などの材料収容部と、蒸着材料を加熱するシースヒータなどの加熱手段を備えるものであってもよい。さらに、基板キャリア9およびマスク6と略平行な平面内で材料収容部を移動させる機構や蒸発源7全体を移動させる機構を備えることで、蒸着材料を射出する射出口の位置をチャンバ4内で基板5に対して相対的に変位させ、基板5上への成膜を均一化してもよい。
【0040】
アライメント装置1は、概略、チャンバ4の上部隔壁4aの上に搭載されて基板キャリア9を駆動してマスク6との位置を相対的に合わせる位置合わせ機構60が含まれる。アライメント装置1は、基板キャリア9を保持するキャリア支持部8(基板キャリア支持部)と、マスク6を保持するマスク受け台16(マスク支持部)と、搬送ローラ15(搬送手段)と、を有している。
【0041】
位置合わせ機構60は、チャンバ4の外側に設けられており、蒸着時に所望の精度を実現できるように、基板キャリア9とマスク6の相対的な位置関係を変化させたり安定的に保持したりする。位置合わせ機構60は、概略、回転並進機構11(面内移動手段)と、Z昇降ベース13と、Z昇降スライダ10を含んでいる。
【0042】
回転並進機構11は、チャンバ4の上部隔壁4aに接続され、Z昇降ベース13をXYθ方向に駆動する。Z昇降ベース13は、回転並進機構11に接続され、基板キャリア9がZ方向に移動するときのベースとなる。Z昇降スライダ10は、Zガイド18に沿ってZ方向に移動可能な部材である。Z昇降スライダは、基板保持シャフト12を介して基板キャリア支持部8に接続されている。
【0043】
かかる構成において、回転並進機構11による基板キャリア9およびマスク6に略平行な面内でのXYθ駆動の際には、Z昇降ベース13、Z昇降スライダ10および基板保持シャフト12が一体として移動し、キャリア支持部8に駆動力を伝達する。そして、基板5を、基板5およびマスク6と略平行な平面内において移動させる。なお、マスク6および基板5は後述するように重力によって撓んでいるが、ここでいう基板5およびマスク6と略平行な平面とは、撓みが生じていない理想的な状態の基板5およびマスク6と略平行な平面を指す。例えば、デポアップやデポダウンなど、基板5とマスク6を水平に配置する構成においては、回転並進機構11は基板5を水平面内で移動させる。また、Zガイド18によってZ昇降スライダ10がZ昇降ベース13に対してZ方向に駆動する際には、駆動力が基板保持シャフト12(本実施形態では、4本の基板保持シャフト12a、12b、12c、12dを備える。なお、図7では、シャフト12dが基板5及びマスク6に隠れていて不図示である。)を介してキャリア支持部8に伝達される。そして、基板5のマスク6に対する距離を変化(離隔または接近)させる。すなわち、Z昇降ベース13、
Z昇降ベース13およびZガイド18は位置合わせ手段の距離変化手段として機能する。
【0044】
図示例のように、可動部を多く含む位置合わせ機構60を成膜空間の外に配置することで、成膜空間内あるいはアライメントを行う空間内での発塵を抑制することができる。これにより、発塵によってマスクや基板が汚染されて成膜精度が低下してしまうことを抑制することができる。なお、本実施形態では位置合わせ機構60が基板5をXYθ方向およびZ方向に移動させる構成について説明したが、これに限定はされず、位置合わせ機構60はマスク6を移動させてもよいし、基板5およびマスク6の両方を移動させてもよい。すなわち、位置合わせ機構60は基板5およびマスク6の少なくとも一方を移動させる機構であり、これにより、基板5とマスク6の相対的な位置を合わせることができる。
【0045】
基板キャリア9は、キャリア面板30(面板部材)と、着座ブロック31(着座部材)と、チャック部材32と、を有する。
【0046】
キャリア面板30は、金属等で構成された板状部材であり、基板5を保持する保持面を構成する部材である。キャリア面板30はある程度の剛性(少なくとも基板5よりも高い剛性)を有しており、基板5を保持面に沿って保持することで、基板5の撓みを抑制することができる。
【0047】
着座ブロック31は、キャリア面板30の保持面の基板保持エリアの外側に、保持面から突出して複数配置されている。着座ブロック31は基板5が基板キャリア9に保持された状態で、基板5よりもマスク6側に突出するように設けられている。基板キャリア9は着座ブロック31を介してマスクフレーム6aの外周フレーム上に、アライメント動作を経て着座する。
【0048】
基板キャリア9は、さらに、保持した基板5を介してマスク6を磁気吸着するための磁気吸着手段(不図示)を有する。磁気吸着手段としては永久磁石や電磁石、永電磁石を備えた磁石プレートを用いることができる。また、磁気吸着手段はキャリア面板30に対して相対移動可能に設けられていてもよい。より具体的には、磁気吸着手段は、キャリア面板30との間の距離を変更可能に設けられてもよい。
【0049】
図6はマスクおよびキャリア保持部を拡大して示した図であり、これを用いて詳細部分を説明する。基板キャリア9は、キャリア支持部8を介してマスク6に対して位置合わせ可能である。キャリア支持部8はキャリア受け爪42およびキャリア受け面41で構成されており、キャリア受け面41上に基板キャリア9の側面近傍(幅方向に対向する二辺をなす周縁部)を載置することで、基板キャリア9全体を支持してマスク6に対してアライメント動作を実施する。
【0050】
マスクフレーム6aはマスク受け面を構成するマスクパッド33を介してマスク受け台16によって支持されている。なおこのマスクパッド33は、アライメント中に発生する振動によってマスク位置がずれないように摩擦係数が高いことが望ましい。例えば金属同士の接触とし、表面をエンボス状にすることが考えられる。
【0051】
このように、本実施形態では、矩形状の基板キャリア9と矩形状のマスク6が、キャリア支持部8とマスク支持部(マスク受け台16)によって搬送ローラ15の搬送方向に沿ってそれぞれ支持されている。すなわち、基板キャリア9は対向する2組の辺のうちの一方の組の辺が搬送ローラ15の搬送方向と略平行に配置され、その1組の辺に対応する基板キャリア9の周縁部を、これに対向して配置されたキャリア支持部8が支持している。また、マスク6は対向する2組の辺のうちの一方の組の辺が搬送ローラ15の搬送方向と略平行に配置され、その1組の辺に対応するマスク6の周縁部を、これに対向して配置さ
れたマスク支持部が支持している。なお、基板キャリア9とマスク6において支持される対向辺は、それぞれの長辺でもよいし短辺でもよい。また、基板キャリア9とマスク6が正方形である場合にも、2組の辺のうちの一方の組の辺の周縁部を支持する構成であればよい。
【0052】
図7は、アライメント機構の一形態を示す斜視図である。マスク受け台16はマスク台ベース19上に載置された昇降台案内34に沿って上下に案内(昇降)される。また、マスク6の搬送方向の辺下部には搬送ローラ15が載置されており、マスク6はマスク受け台16が下降することによって搬送ローラ15に受け渡される。
【0053】
基板保持シャフト12は、チャンバ4の上部隔壁4aに設けられた貫通孔を通って、チャンバ4の外部と内部にわたって設けられている。成膜空間内では、基板保持シャフト12の下部にキャリア支持部8が設けられ、基板キャリア9を介して被成膜物である基板5を保持可能となっている。
【0054】
基板保持シャフト12と上部隔壁4aとが干渉することのないよう、貫通孔は基板保持シャフト12の外径に対して十分に大きく設計される。また、基板保持シャフト12のうち貫通孔からZ昇降スライダ10への固定部分までの区間(貫通孔より上方の部分)は、Z昇降スライダ10と上部隔壁4aとに固定されたベローズ40によって覆われる。これにより、基板保持シャフト12がチャンバ4と連通する閉じられた空間によって覆われるため、基板保持シャフト12全体を成膜空間2と同じ状態(例えば、真空状態)に保つことができる。ベローズ40には、Z方向およびXY方向にも柔軟性を持つものを用いるとよい。これにより、アライメント装置1の稼働によってベローズ40が変位した際に発生する抵抗力を十分に小さくすることができ、位置調整時の負荷を低減することができる。
【0055】
マスク受け部は、チャンバ4の内部において、上部隔壁4aの成膜空間2の側の面に設置されており、マスク6の支持が可能となっている。例えば有機ELパネルの製造に用いられるマスクは、成膜パターンに応じた開口を有するマスク箔6bが高剛性のマスクフレーム6aに架張された状態で固定された構成を有している。この構成により、マスク受け部はマスク箔6bの撓みを低減した状態で保持することができる。
【0056】
アライメント装置1による各種の動作(回転並進機構によるアライメント、距離変化手段によるZ昇降スライダ10の昇降、キャリア支持部8による基板保持、蒸発源7による蒸着など)は、制御部70によって制御される。制御部70は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御部70の機能は、メモリ又はストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(programmable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御部70の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。なお、蒸着装置ごとに制御部70が設けられていてもよいし、1つの制御部70が複数の蒸着装置を制御してもよい。
【0057】
次にアライメント装置1の位置合わせ機構60の詳細について、図7を参照して説明する。図7は、アライメント機構の一形態を示す斜視図である。Z昇降スライダ10を鉛直Z方向に案内するガイドは、複数本(ここでは4本)のZガイド18a~18dを含んでおり、Z昇降ベース13の側面に固定されている。Z昇降スライダ中央には駆動力を伝達するためのボールネジ27が配設され、Z昇降ベース13に固定されたモータ26から伝達される動力が、ボールネジ27を介してZ昇降スライダ10に伝えられる。
【0058】
モータ26は不図示の回転エンコーダを内蔵しており、エンコーダの回転数により間接
的にZ昇降スライダ10のZ方向位置を計測できる。モータ26の駆動を外部コントローラで制御することにより、Z昇降スライダ10のZ方向の精密な位置決めが可能となっている。なお、Z昇降スライダ10の昇降機構は、ボールネジ27と回転エンコーダに限定されるものではなく、リニアモータとリニアエンコーダの組み合わせなど、任意の機構を採用することができる。
【0059】
図10の構成では、回転並進機構11は複数の駆動ユニット21a、21b、21c、21dを、ベースの四隅に有している。各駆動ユニット21a~21dは、駆動力を発生させる方向が四隅ごとに90度ずつ異なるように、隣接する隅に配置された駆動ユニットをZ軸周りに90度ずつ向きを回転させて配置されている。
【0060】
各駆動ユニット21は、駆動力を発生させる駆動ユニットモータ25を備えている。各駆動ユニット21は更に、駆動ユニットモータ25の力が駆動ユニットボールネジ46を介して伝達されることにより第1の方向にスライドする第1のガイド22と、XY平面において第1の方向と直交する第2の方向にスライドする第2のガイド23とを備えている。さらに、Z軸周りに回転可能な回転ベアリング24を備えている。例えば、駆動ユニット21dの場合は、X方向にスライドする第1のガイド22、X方向と直交するY方向にスライドする第2のガイド23、回転ベアリング24を有しており、駆動ユニットモータ25の力が駆動ユニットボールネジ46を介して第1のガイド22に伝達される。他の駆動ユニット21a、21b、21cも、配置する向きが互いに90度ずつ異なるだけで、それぞれ駆動ユニット21dと同様の構成を有している。
【0061】
駆動ユニットモータ25は不図示の回転エンコーダを内蔵しており、第1のガイド22の変位量を計測可能である。各駆動ユニット21において、駆動ユニットモータ25の駆動を制御部70で制御することにより、Z昇降ベース13のXYθz方向における位置を精密に制御することが可能となっている。
【0062】
例えば、Z昇降ベース13を+X方向へ移動させる場合は、駆動ユニット21aと駆動ユニット21dのそれぞれにおいて+X方向にスライドさせる力を駆動ユニットモータ25で発生させ、Z昇降ベース13にその力を伝えるとよい。また、+Y方向へ移動させる場合には、駆動ユニット21bと駆動ユニット21cのそれぞれにおいて+Y方向にスライドさせる力を駆動ユニットモータ25で発生させ、Z昇降ベース13にその力を伝えるとよい。
【0063】
Z昇降ベース13をZ軸に平行な回転軸まわりに+θ回転(時計周りにθz回転)させる場合は、対角に配置された駆動ユニット21aと21dとを用いて、Z軸周りに+θz回転させるために必要な力を発生させ、Z昇降ベース13にその力を伝えるとよい。あるいは、駆動ユニット21bと駆動ユニット21cとを用いて、Z昇降ベース13に回転に必要な力を伝えてもよい。
【0064】
次に、基板5とマスク6との位置を検出するために、それぞれのアライメントマークの位置を同時に計測するための撮像装置について説明する。図5図7に示すように、上部隔壁4aの外側の面には、マスク6上のアライメントマーク(マスクマーク)および基板5上のアライメントマーク(基板マーク)の位置を取得するための位置取得手段である撮像装置14(14a、14b、14c、14d)が配設されている。上部隔壁4aには、撮像装置14によりチャンバ4の内部に配置されたアライメントマークの位置を計測できるよう、カメラ光軸上に撮像用貫通孔が設けられている。撮像用貫通孔には、チャンバ内部の気圧を維持するために窓ガラス17(17a、17b、17c、17d)等が設けられる。さらに、撮像装置14の内部または近傍に不図示の照明を設け、基板およびマスクのアライメントマーク近傍に光を照射することで、正確なマーク像の計測を可能としてい
る。なお、図5では、撮像装置14d、窓ガラス17c、17dが、他の部材に隠れていて不図示である。
【0065】
図11(a)~図11(c)を参照して、撮像装置14を用いて基板マーク37とマスクマーク38の位置を計測する方法を説明する。
【0066】
図11(a)は、キャリア支持部8に保持されている状態のキャリア面板30上の基板5を上から見た図である。説明のため、キャリア面板30は点線で、透過されたように図示する。基板5上には撮像装置14で計測可能な基板マーク37a、37b、37c、37dが基板5の4隅に形成されている。この基板マーク37a~37dを4つの撮像装置14a~14dによって同時計測し、各基板マーク37a~37dの中心位置4点の位置関係から基板5の並進量、回転量を算出することにより、基板5の位置情報を取得することができる。なお、キャリア面板30には貫通孔が開いており、上部から撮像装置14によって基板マーク37の位置を計測することが可能となっている。
【0067】
図11(b)は、マスクフレーム6aを上面から見た図である。四隅には撮像装置で計測可能なマスクマーク38a、38b、38c、38dが形成されている。このマスクマーク38a~38dを4つの撮像装置14a、14b、14c、14dにより同時計測し、各マスクマーク38a~38dのそれぞれの中心位置4点の位置関係からマスク6の並進量、回転量などを算出して、マスク6の位置情報を取得することができる。
【0068】
図11(c)は、マスクマーク38および基板マーク37の4つの組の中の1組を、撮像装置14によって計測した際の、撮像画像の視野44を模式的に示した図である。この例では、撮像装置14の視野44内において、基板マーク37とマスクマーク38が同時に計測されているので、マーク中心同士の相対的な位置を測定することが可能である。マーク中心座標は、撮像装置14の計測によって得られた画像に基づいて、不図示の画像処理装置を用いて求めることができる。なお、マスクマーク38および基板マーク37として四角形や丸形状のものを示したが、マークの形状はこれに限られるわけではない。例えば、×印や十字形などのように中心位置を算出しやすく対称性を有する形状を用いることが好ましい。
【0069】
精度の高いアライメントが求められる場合、撮像装置14として数μmのオーダーの高解像度を有する高倍率CCDカメラが用いられる。このような高倍率CCDカメラは、視野の径が数mmと狭いため、基板キャリア9をキャリア受け爪41に載置した際の位置ズレが大きいと、基板マーク37が視野から外れてしまい、計測不可能となる。そこで、撮像装置14として、高倍率CCDカメラと併せて広い視野をもつ低倍率CCDカメラを併設するのが好ましい。その場合、マスクマーク38と基板マーク37が同時に高倍率CCDカメラの視野に収まるよう、低倍率CCDカメラを用いて大まかなアライメント(ラフアライメント)を行った後、高倍率CCDカメラを用いてマスクマーク38と基板マーク37の位置計測を行い、高精度なアライメント(ファインアライメント)を行う。
【0070】
撮像装置14として高倍率CCDカメラを用いることにより、マスクフレーム6aと基板5の相対位置を誤差数μm内の精度で調整することができる。ただし、撮像装置14はCCDカメラに限られるわけではなく、例えばCMOSセンサを撮像素子として備えるデジタルカメラでもよい。また、高倍率カメラと低倍率カメラを別個に併設しなくとも、高倍率レンズと低倍率レンズを交換可能なカメラや、ズームレンズを用いることにより、単一のカメラで高倍率と低倍率の計測を可能にしてもよい。
【0071】
撮像装置14によって取得したマスクフレーム6aの位置情報および基板5の位置情報から、マスクフレーム6aと基板5との相対位置情報を取得することができる。この相対
位置情報を、アライメント装置の制御部70にフィードバックし、昇降スライダ10、回転並進機構11、キャリア支持部8など、それぞれの駆動部の駆動量を制御する。
【0072】
(アライメント時のキャリア撓み)
図8図9を用いて、本実施形態の基板キャリア9と、本発明を適用するのに好適な基板キャリアのアライメント時の撓み形状、構成に関して説明する。図8は、参考例のリブ82を用いた基板キャリア9bをアライメント時にアライメント機構で保持した状態を、装置正面から見た(搬送方向に見た)模式図を示している。基板キャリア9bは、キャリア受け面41上に支持された状態でマスク6に対してアライメントされる。搬送方向と直交方向の辺(搬送方向の端部)の断面における撓み量はdce´であり、マスクの撓み量dmよりも小さくなる(dce´<dm)。その結果、アライメントが完了して基板キャリア9bをマスク6上に載置した後にも、基板キャリア9bとマスクフレーム6aとの間に隙間(空隙)dsが生じる状態となる。
【0073】
基板キャリア9bをマスク6に対してアライメントした後にマスク6の上に載置すると、基板キャリア9bをマスクフレーム6aに着座させる際に、最初に、基板キャリア9bのキャリア受け爪42によって支持されている部分に沿って延びる領域と、マスク6のマスク支持部によって支持されている部分に沿って延びる領域と、が辺同士で接触することになる。辺同士が接触する際には、接触する2つの辺が同じ形状で、かつ2辺が平行を保ったまま接近して接触するような理想的な状態であれば辺全体が一度に接触することになるが、実際には、様々な外乱の影響によって辺の中の一部から接触が始まることになる。そしてこの場合、その接触の開始箇所は様々な外乱の影響を受けて毎回変わり、1箇所に定まることがなく、接触の開始箇所がランダムに決まることになる。また、1つの辺の中での接触開始箇所がランダムに決まるだけでなく、2つの対向辺のどちらが先に接触を開始するかも、様々な外乱の影響によって不定となる。この結果、基板キャリア9bとマスク6の着座時の再現性が低下する。また、2つの対向辺のどちらか一方が先に接触を開始すると、先に接触を開始した方に偏荷重がかかる状態となるため、基板キャリア9bの着座時の反力がキャリア受け面41を介して位置合わせ機構60側に伝わり、機構の姿勢変動や位置ズレといった外乱がさらに生じうる。
【0074】
これに対し、本発明を用いたさらに好適な例を、図9を用いて説明する。図9(a)に示すように、本実施形態に係る基板キャリア9のキャリア面板30の背面の搬送方向の前後両端には、中央補強リブ80と比して、成膜方向と直交な方向の断面が比較的小さく、自重変形の大きい周辺補強リブ81が固定されている。周辺補強リブ81を固定した断面における撓み量dceがマスクフレーム6a以上の撓み量であれば、基板キャリア9aがアライメント後にマスク6上に載置される際に接触を開始する箇所は中央部となり、接触開始箇所が毎回同じ個所になり、安定的な着座を行うことができるようになる。また、着座時の基板キャリア9aの横ズレ量も低減するのでアライメント精度が向上する。さらに、基板キャリア9aの中央から対称的に外側へと接触が進行し、キャリア受け面41に左右均等に荷重がかかるようになるため、偏荷重による位置合わせ機構60の姿勢変動や位置ズレが低減される。
【0075】
また、基板キャリア9とマスク6に図9(a)に示すような撓み状態を形成することができれば、着座時に基板キャリア9とマスク6が中央部から密着し始めるため、図8に示したような空隙dsはほとんど発生しない。そして、最終的には、図9(b)に示すように、基板キャリア9は、キャリア受け爪42(キャリア支持部8)からマスク6上に受け渡され、マスク6を介して搬送ローラ15に支持された状態となり、マスク6との間に隙間が略無い状態で搬送され成膜工程を経る。これにより、成膜時の有機材料の回り込みを防ぐことが可能となり、有機ELパネル生産の歩留まりを向上させることができる。
【0076】
ここで、改めて、キャリア支持部8によって支持された基板キャリア9と、マスク支持部によって支持されたマスク6の撓みについて検討する。上述のように、キャリア支持部8によって支持された基板キャリア9(基板5を保持)は、搬送ローラ15の搬送方向に垂直な断面において重力方向下向きに凸な放物線状に撓んだ形状となる。また、マスク支持部によって支持されたマスク6も、搬送ローラ15の搬送方向に垂直な断面において重力方向下向きに凸な放物線状に撓んだ形状となる。本明細書では、この基板キャリア9の撓みの程度とマスク6の撓みの程度を定量的に取り扱うための量として、キャリア自重撓み量dcとマスク自重撓み量dmを、下記のように定義する。
【0077】
本明細書において、キャリア自重撓み量dcは、キャリア支持部8によって基板キャリア9をある平面(仮想平面)に沿って支持しようとしたときに、その平面に沿った高さ(該仮想平面の高さ)を基準として、基準高さと自重によって撓んだ部分の高さとの差分(絶対値)を指す。例えば、キャリア支持部8によって基板キャリア9を水平に支持しようとしたときには、基板キャリア9においてキャリア受け面41に支持された端部の上面(上端)の高さを基準として、基準高さと、基板キャリア9のうち最も大きく撓んだ部分(仮想平面の高さからの高さの変化が最も大きい部分)の基板キャリア9の下面の高さ(典型的には対向配置されたキャリア支持部8の間の中間部分に対応する基板キャリア9の下面(下端)の高さ)との差分(絶対値)が、キャリア自重撓み量dcとなる。すなわち、図9(a)に示すように、キャリア支持部8に支持された基板キャリア9の上面において、高さの変化が最も少ない端部の部分の高さを上記仮想平面の高さとし、この仮想平面の高さから、高さの変化が最も大きい中央部の下面(下端)の高さまでの差分(絶対値)を、キャリア自重撓み量dcとしている。さらに、本実施形態においては、図1(b)に示すように、基板キャリア9の搬送方向において撓み量が異なる構成となっており、搬送方向における比較において最も撓み量が大きくなる搬送方向両端部におけるキャリア自重撓み量をdce、最も撓み量が小さくなる搬送方向中央部におけるキャリア自重撓み量をdccとしている。なお、上記仮想平面の高さは、キャリア受け面41の高さと基板キャリア9の厚み(高さ)を基に、取得するようにしてもよい。すなわち、基板キャリア9のキャリア受け面41と当接する部分に着目し、キャリア受け面41の高さに基板キャリア9の厚さを加えた値を、上記仮想平面の高さとしてもよい。
【0078】
また、本明細書において、マスク自重撓み量dmは、マスク支持部によってマスク6をある平面(仮想平面)に沿って支持しようとしたときに、その平面に沿った高さ(該仮想平面の高さ)を基準として、基準高さと自重によって撓んだ部分の高さとの差分(絶対値)を指す。例えば、マスク支持部によってマスク6を水平に支持しようとしたときには、マスク6のマスク受け面33に当接している部分の上面の高さを基準として、基準高さと、マスク6のうち最も大きく撓んだ部分(仮想平面の高さからの高さの変化が最も大きい部分)のマスク6の上面の高さ(典型的には対向配置されたマスク支持部の間の中間部分に対応するマスク6の上面の高さ)との差分(絶対値)が、マスク自重撓み量dmとなる。すなわち、図9(a)に示すように、マスク支持部に支持されたマスク6の上面において、高さの変化が最も少ない端部の部分の高さを上記仮想平面の高さとし、この仮想平面の高さから、高さの変化が最も大きい中央部の高さまでの差分(絶対値)を、マスク自重撓み量dmとしている。なお、本実施形態においては、基板キャリア9の搬送方向にいてマスク6の撓み量はdmで一定となるように構成されている。すなわち、基板キャリア9のキャリア自重撓み量dcは、上述の通り、搬送方向において図1(b)に示すような双曲線形状を形成するように変化するが、マスク6のマスク自重撓み量dmは一定で変化しない。なお、上記仮想平面の高さは、マスク受け面33の高さとマスク6の厚み(高さ)を基に、取得するようにしてもよい。すなわち、撓み時のマスク6の端部での傾きは無視できるほど小さいものとして、マスク6の端部における高さをマスク6の厚みと略同じと仮定してよい。また、マスク6の上面ではなく、下面を基準にしてマスク自重撓み量dmを規定してもよく、この場合、マスク受け面33の高さを基準高さとしてよい。
【0079】
ここで、基板キャリア9は基板5の撓みを抑制して搬送を容易にするためのものであるから、その目的からすると、基板キャリア9のできるだけ剛性を高くしてできるだけ撓まないようにすることが好ましい。一方、マスク6は上述のようにマスク箔6aが撓まないように剛性の高いマスクフレーム6bを用いているため、基板5等と比較すると撓みにくい。従来は基板5およびマスク6の一辺の長さが高々1.5m程度であったためにマスク6の撓みは無視できる程度であったが、第8世代や第10世代などの一辺の長さが2mを大きく超えるような基板5およびマスク6を用いる場合にはマスク6の撓みも無視できなくなってくる。また、本実施形態のように、矩形状のマスク6および基板キャリア9を4辺全てではなく対向する一対の辺でしか支持しないような場合には、マスク6の撓みはますます大きくなる。すなわち、従来の思想通りに基板キャリア9を設計すると、マスク6のほうが基板キャリア9よりも撓みやすくなっていた。
【0080】
本発明者らが鋭意検討した結果、このような場合に、従来の思想通りに基板キャリア9の剛性をできるだけ高くして撓まないようにすると、いくつかの不都合が生じることがわかった。以下、基板キャリア9の剛性をできるだけ高くして、キャリア自重撓み量dcがマスク自重撓み量dmよりも小さくなった場合(すなわち、dc<dmとなった場合)に生じる不都合について説明する。
【0081】
dc<dmである場合、まず第1に、基板キャリア9とマスク6とを接触させ、マスク6の上に基板キャリア9を載置して基板5にマスク6を装着するときに、マスク6の撓みが基板キャリア9の撓みより大きすぎるとマスク箔6aと基板5との間に大きな隙間が生じてしまう。マスク6と基板5との間に大きな隙間が生じた状態を図8に示す。マスク箔6aと基板5との間に大きな隙間が生じると、基板5および基板キャリア9を挟んで裏側から磁石等の磁気吸着手段によってマスク6を吸着して基板5にマスク箔6aを密着させようとしても隙間が残ってしまう場合がある。このように、基板キャリア9に保持された基板5とマスク6の間に隙間dsが空く状態となり、この状態で搬送されて成膜された場合、成膜時に成膜材料がマスク箔6aと基板5との間の隙間を通って回り込み、膜ボケが発生する状態となる。この結果、成膜ムラが発生することとなり、ディスプレイの輝度ムラによる品質低下を招く恐れがある。
【0082】
dc<dmである場合、第2に、基板キャリア9とマスク6とを接触させる際に、それぞれの支持部(キャリア支持部、マスク支持部)によって支持された部分である長辺に沿って延びる領域から接触が始まる。基板キャリア9の長辺は全て同じ高さになるようにキャリア受け爪42によって支持され、また、マスク6の長辺は全て同じ高さになるようにマスク支持部によって支持されているため、接触の開始は辺同士(長辺同士または長辺に沿って延びる領域同士)で生じることになる。辺同士が接触する際には、接触する2つの辺が同じ形状で、かつ2辺が平行を保ったまま接近して接触するような理想的な状態であれば辺全体が一度に接触することになるが、実際には、様々な外乱の影響によって辺の中の一部から接触が始まることになる。そしてこの場合、その接触の開始箇所は様々な外乱の影響を受けて毎回変わり、1箇所に定まることがなく、接触の開始箇所がランダムに決まることになる。この結果、基板キャリア9とマスク6の着座時の再現性が低下する。例えば、アライメント時のZ昇降スライダ10はZガイド18によって案内されて下降するが、Zガイドの真直度や姿勢の再現性によって基板キャリア9が下降する過程の経路や姿勢が異なるので、接触開始箇所を一定にすることは困難となる。このため接触開始箇所が変わると基板キャリア9がマスクフレーム6aから受ける反力が変わるため、基板キャリア9(または基板キャリア9に保持された基板5)とマスク6とのアライメントが完了した後、基板キャリア9をマスク6に着座させる時のズレ方が都度大きく異なりばらつく懸念がある。なお、dc=dmの場合も、dc<dmの場合と同様、着座時の振る舞い方が安定しないため、安定的な着座を実現する観点からはあまり好ましくない。
【0083】
そこで、本発明者らは、基板キャリア9の剛性を敢えて高くしすぎないようにし、基板キャリア9の撓み量とマスク6の撓み量を調整することによって、上述の課題を解決した。本実施形態では、キャリア自重撓み量dcとマスク自重撓み量dmとの関係がdc(dcc、dce)>dmとなるように、基板キャリア9の中央補強リブ80と周辺補強リブ81の剛性の調整している。dc(dcc、dce)>dmとすることで、図9(a)に示すように、マスク6よりも基板キャリア9のほうが大きく撓むようになる。なお、基板5は基板キャリア9の保持面に沿って基板キャリア9に保持されているため、基板5の撓み量もキャリア自重撓み量dcと同等と見なせる。なお、本実施形態においては、キャリア自重撓み量dccとキャリア自重撓み量dceのいずれもがマスク自重撓み量dmよりも大きいことが好適であるが、少なくとも、アライメント時にマスクとの接触が最初に開始される搬送方向両端部のキャリア自重撓み量dceがマスク自重撓み量dmよりも大きくなるように構成するとよい。
【0084】
この状態で基板キャリア9をマスク6に載置すると、基板キャリア9がマスク6に倣うように載置されていくため、載置後は図9(b)のように基板キャリア9とマスク6の撓みを揃えることができるようになる。そのため、マスク箔6aと基板5との間の隙間を十分に小さくすることができ、成膜時の膜ボケを抑制することができるようになる。
【0085】
また、dc>dmとすることで、基板キャリア9に保持された基板5をマスク6に接触させる際には、基板5の短辺側の最も撓んだ部分から接触が始まるようになる。本実施形態では、基板キャリア9の基板5を保持しているエリアの外側に着座ブロック31が複数配置されており、着座ブロック31は基板5よりも突出するように設けられている。また、複数の着座ブロック31のうちの一部は、基板キャリア9の短辺側の中央、すなわち、最も撓む部分に配置されている。そのため、本実施形態では、基板キャリア9をマスク6に接触させる際には基板キャリア9の短辺側の中央に配置された着座ブロック31から接触が始まるようにすることができるため、着座の再現性を高めることができる。また、最初に接触する着座ブロック31を位置合わせの基準とすることができ、着座による位置の再現性も高めることができるようになる。
【0086】
(基板載置方法)
以下では、基板5を基板キャリア9にセットし、基板キャリア9上の基板5とマスク6とをアライメントし、基板キャリア9(基板5)をマスク6上に載置するまでの、蒸着装置の一連の動作を説明する。
【0087】
図12は、実施形態の蒸着装置の動作シーケンスを示すフローチャートである。
【0088】
まず、ステップS101では、不図示のローラ搬送機構に搭載された基板キャリア9がゲートバルブを介してチャンバ4内に搬入され、キャリア支持部8の両側のキャリア受け爪42上に載置される。一方のキャリア受け爪42aは、基板5(基板キャリア9)の一辺に沿って所定の間隔を空けて複数配置され、該基板5の一辺近傍において基板キャリア9の周縁部(本実施形態では周縁部にレール51が備えられている(図6等))を支持する。他方のキャリア受け爪42bは、基板5の上記一辺と対向する第二辺に沿って所定の間隔を空けて複数配置され、該基板5の第二辺近傍において基板キャリア9の周縁部を支持する。
【0089】
次に、ステップS103では、基板キャリア9を下降させ、低倍率CCDカメラで撮像する高さにセットする。次に、ステップS104では、低倍率CCDカメラで基板5に設けられた基板マーク37を撮像する。制御部70は、撮像された画像に基づき基板5の位置情報を取得してメモリに保存する。
【0090】
ステップS105は、ステップS104に続いて実行される場合と、ステップS109またはステップS113での判定が「NO」のとき、これらのS109またはS113に続いて実行される場合とがある。
【0091】
ステップS104に続いて実行されるステップS105では、基板キャリア9を下降させ、アライメント動作高さにセットし、ステップS104で取得した位置情報に基づいて基板5の位置を調整する。
【0092】
まず基板キャリア9の高さについて言えば、キャリア受け面41(キャリア受け爪42の上面)とマスク6とを隔てる距離を、ステップS104のときより低い高さ変更する。ただしこのとき、キャリア受け面41の位置は、自重により撓んだ基板キャリア9上の基板5がマスク6と接触しない高さに設定する。なお、場合によっては、ステップS105とステップS104を同じ高さで実行してもよい。
【0093】
ステップS104に続いて実行されるステップS105におけるアライメント動作では、制御部70は、ステップS104で取得した基板5の位置情報に基づいて、アライメント装置1が備える位置合わせ機構60を駆動する。すなわち、制御部70は、基板5の基板マーク37が高倍率CCDカメラの視野内に入るように基板5の位置を調整する。なお、マスク6については、マスクマーク38が高倍率CCDカメラの視野内(望ましくは視野中心)に入るように、予め、マスク6と高倍率CCDカメラの相対位置が調整済みである。このため、ステップS104に続いて実行されるステップS105におけるアライメント動作により、基板マーク37とマスクマーク38の両方が高倍率CCDカメラの視野内に入るように調整される。ただしこの時点では、被写界深度の関係から、基板マーク37が高倍率CCDカメラで撮像できない可能性がある。なお、アライメント動作では、基板5をXYθz方向に移動させるが、前述のように自重により撓んだ基板5がマスク6と接触しない高さで移動させるため、基板5の表面、あるいは、基板5表面に既に形成された膜パターンがマスク6と摺動して破損することはない。
【0094】
次に、ステップS106では、基板キャリア9を下降させ、高倍率CCDカメラで撮像する高さに基板5をセットする。
【0095】
ここでは、被写界深度が浅い高倍率CCDカメラを、基板マーク37とマスクマーク36の両方に合焦させて撮影するために、基板5の少なくとも一部(撓んだ部分)がマスク6に接触して基板マスク当接部ができるまで、基板5をマスク6に近接させる。
【0096】
次に、ステップS108では、高倍率CCDカメラによって基板5の基板マーク37とマスク6のマスクマーク38とを同時に撮像する。制御部70は、撮像された画像に基づき基板5とマスク6の相対位置情報を取得する。ここでいう相対位置情報とは、具体的には、基板マーク37とマスクマーク38の中心位置どうしの距離と位置ズレの方向に関する情報である。ステップS108は、基板5とマスク6の相対位置情報(相対位置ズレ量)を取得し、基板5とマスク6の位置ズレ量を計測する計測工程(計測処理)である。
【0097】
次に、ステップS109では、制御部70はステップS108で計測した基板5とマスク6の位置ズレ量が所定の閾値以下かどうかを判定する。所定の閾値は、基板5とマスク6の位置ズレ量が成膜を行っても支障ない範囲内に収まるように、予め設定された値である。閾値は、求められる基板5とマスク6の位置合わせ精度を達成し得るように設定される。閾値は例えば、誤差数μm内のオーダーとする。
【0098】
ステップS109において、基板5とマスク6の位置ズレ量が所定の閾値を越えると判
定した場合には(ステップS109:NO)、ステップS105に戻ってアライメント動作を実行し、さらにステップS106以降の処理を続行する。
【0099】
ステップS109の判定がNOの場合に実行されるステップS105では、基板キャリア9を上昇させ、アライメント動作高さにセットし、ステップS108で取得した相対位置情報に基づいて基板5の位置を調整する。
【0100】
ステップS109の判定がNOの場合に実行されるアライメント動作では、制御部70は、ステップS108で取得した基板5とマスク6の相対位置情報に基づいて、アライメント装置1が備える位置合わせ機構を駆動する。すなわち、制御部70は、基板5の基板マーク37とマスク6のマスクマーク38とがより近接する位置関係になるように、基板5をXYθz方向に移動させて位置を調整する。
【0101】
アライメント動作では、基板5をXYθz方向に移動させるが、前述のように自重により撓んだ基板5がマスク6と接触しない高さでの移動であるため、基板5の表面、あるいは、基板5表面に既に形成された膜パターンがマスク6と摺動して破損することはない。
【0102】
ステップS105は、基板5とマスク6の位置ズレ量が減少するように基板5を移動させるアライメント工程(アライメント処理)であり、ステップS109の判定がNOの場合にはファインアライメントが行われる。
【0103】
ステップS109の判定がYESの場合には、ステップS110において、基板キャリア9をさらに下降して、基板キャリア9全体がマスクフレーム6a上に載置された状態にする。すなわち、キャリア支持部8による基板キャリア9の支持が解かれ、基板キャリア9(基板5)とこれを搭載するマスクフレーム6a(マスク6)とが共に、マスク受け台16(マスク支持部)によって支持される状態となる。そして、ステップS112において、高倍率CCDカメラにより基板マーク37とマスクマーク36を撮像し、基板5とマスク6の相対位置情報を取得する。
【0104】
次に、ステップS113では、制御部70はステップS112で取得した基板5とマスク6の相対位置情報に基づき、基板5とマスク6の位置ズレ量が所定の閾値以下かどうかを判定する。所定の閾値は、その閾値内であれば成膜を行っても支障ない範囲内である条件として、予め設定しておく。
【0105】
ステップS113において、基板5とマスク6の位置ズレ量が所定の閾値を越えると判定した場合には(ステップS113:NO)、キャリア受け爪42を基板5の高さに上昇させ基板キャリア9を支持する。なお、かかるNO判定は、例えばステップS109~ステップS114の間に、外部振動により位置ズレが発生した場合などに起こりえる。
【0106】
そして、ステップS105に戻ってアライメント動作を実行する。その後、ステップS106以降の処理を続行する。
【0107】
一方、ステップS113において、基板5とマスク6aの位置ズレ量が所定の閾値以下であると判定した場合には(ステップS113:YES)、ステップS114に移行し、マスク昇降台16を下降させて、搬送ローラ15に受け渡す。これによりアライメントシーケンスは完了する(END)。
【0108】
本実施形態に係る基板キャリア9は、基板5を吸着する保持面を有する板状部材としてのキャリア面板30の背面上(保持面とは反対側の面上)に、架設リブとしての中央補強リブ80が固定された構成となっている。キャリア面板30の基板保持面には、マスク6
のマスク箔6bの有する境界部に対応した位置に粘着部材としてのチャック部材32が複数配置されている。マスク箔6bは、基板5の被成膜面における被成膜領域を区画する境界部を有しており、対象とする製品に応じて適宜種々の配置でマスクフレーム6aに張架される。チャック部材32は、マスク箔6bによるマスキング効果をより確実なものにすべく、基板5においてマスク箔6bに対応した部分がより確実にキャリア面板30の保持面に吸着保持されるように、マスク箔6bの有する境界部が延びる方向に沿って複数配置される。すなわち、複数のチャック部材32(粘着部材)は、保持面の反対側の面(第2の面)の周縁部に含まれる対向辺部の一方から他方へ至るように複数のチャック部材32が並んで配置された第1のチャック部材群(第1の粘着部材群)を含む。第1のチャック部材群は、マスク6が基板5に装着された際に、基板5のマスク箔6bの有する境界部が密着する部分の裏面に位置するように、基板キャリア9に配置されている。第1のリブである中央補強リブ80は、キャリア面板30において、特に、チャック部材32が配列された部分における剛性を高める(補強する)べく、チャック部材32の配列方向に沿って延びるように設けられている。より具体的には、キャリア面板30の裏面における周縁部の二対の対向辺部のうち基板キャリア9の搬送方向に平行な対向辺部の一方の辺部から、チャック部材32の配列に対応した位置を辿って、他方の辺部へ至る(対向辺部の一方から他方に架け渡される)ように、キャリア面板30の裏面に固定されている。すなわち、第1のリブ(中央補強リブ80)は、基板キャリア9の第1のチャック部材群が配置されている部分の裏面側に固定して配置されている。第1のリブである中央補強リブ80を保持面(第1の面)に垂直投影した領域は、第1のチャック部材群を構成する複数のチャック部材32(粘着部材)のそれぞれのチャック面(粘着面)を保持面(第1の面)に垂直投影した領域のそれぞれと重なる。
【0109】
チャック部材32の配列には、基板キャリア9の搬送方向と直交する方向に複数並べられる配列(第1配列)と、搬送方向に平行な方向に複数並べられる配列(第2配列)と、が含まれる。中央補強リブ80は、少なくとも、第1配列と第2配列との接続位置に配置されるチャック部材32に対応した位置を通過するように固定されるのが好適である。また、基板キャリア9がキャリア面板30の対向辺部を支持される構成においては、中央補強リブ80は、上記対向辺部と直交する対向辺部、すなわち、基板キャリア9の搬送方向における両端部から離れた位置において、対向辺部の対向方向(上記搬送方向と直交する方向)に延びるように固定されるのが好適である。
【0110】
このように、キャリア面板30においてチャック部材32が配置された部分における剛性(撓み難さ)を中央補強リブ80によって局所的に高めることで、基板キャリア9がキャリア面板30の対向辺部のみで支持されたときにキャリア面板30が撓み変形した際の、チャック部材32の配置箇所における変形量(撓み量)を局所的に抑えることが可能となる。これにより、基板5がキャリア面板30の保持面から剥がれること、特に、基板キャリア9bの姿勢を、基板保持面が上方を向く第1の姿勢から下方を向く第2の姿勢へ反転させたときに、基板5が基板キャリア9から脱落してしまうことを抑制することができる。
【0111】
本実施例では、中央補強リブ80のほかに、キャリア面板30の背面における周縁部(矩形の四辺に対応する縁部)に沿って周縁リブとしての周辺リブ81が設けられている。周辺リブ81は、二対の対向辺部に対応して4本設けられている。キャリア面板30の基板保持面においては中央部周辺(搬送方向の中央部かつ搬送方向と直交する幅方向の中央部)におけるマスク箔6bと基板5の密着が、基板5の被成膜領域の区画をより確実なものとするうえで重要となる。一方で、リブを多数設けることは基板キャリア9の重量増加につながる。そこで、中央補強リブ80の剛性を周辺リブ81の剛性よりも高める、すなわち、中央補強リブ80の方が周辺リブ81よりも撓み難くなるように構成することが好適である。周縁部の撓みよりも中央部の撓みを相対的に抑制することで、リブを設けるこ
とによる基板キャリア9の重量増加を抑制しつつ、中央補強リブ80によるキャリア面板30の、特に中央部周辺の撓み抑制効果を局所的に高め、成膜に対する影響の大きいマスク箔6bと基板5の剥離を効果的に抑制することができる。
【0112】
例えば、中央補強リブ80の長手方向に垂直な断面の断面積を、周辺リブ81の長手方向に垂直な断面の断面積よりも大きくしたり、中央補強リブ80を構成する材料のヤング率が、周辺リブ81を構成する材料のヤング率よりも大きくなるように構成するとよい。なお、中央補強リブ80と周辺リブ81との間で撓み易さに違いを持たせる手法としては、特定の手法に限定されるものではなく、従来既知の手法を適宜用いてよい。
【0113】
また、中央補強リブ80は、キャリア面板30に対する着脱が容易な構成であると好適である。着脱容易な構成としては、例えば、ボルト等の締結具により中央補強リブ80を固定する構成が挙げられる。すなわち、例えば、キャリア面板30に、光学ブレッドボードのように均等にボルト孔を配置し、任意の配列を選定して中央補強リブ80を固定することができる構成が考えられる。かかる構成によれば、マスクのレイアウトに応じて中央補強リブ80の配置の変更・固定を容易とすることができる。また、例えば、マグネットで中央補強リブ80を吸着固定する構成でもよい。すなわち、例えば、中央補強リブ80を磁性体で構成し、キャリア面板30内に中央補強リブ80を吸引するためのマグネットを埋め込む構成とすることが考えられる。かかる構成により、中央補強リブ80を任意の配置で吸着固定することができる。マスク箔6bの配置に応じて中央補強リブ80の配置を任意に変更可能にキャリア面板30に対して着脱自在な構成であることで、マスク箔6bの配置が異なるマスク6に交換された際に、同じ基板キャリア9を使い回しすることが可能となる。
【0114】
また、中央補強リブ80が周辺リブ81よりも撓み難いこと、言い換えれば、周辺リブ81の方が中央補強リブ80よりも撓み易いことにより、対向辺部のみが支持された場合に下方に凸となる突出変形具合が、基板キャリア9の搬送方向両端部で大きくなる。すなわち、キャリア面板30の搬送方向の断面における下端部の輪郭線が双曲線形状となる撓み状態が形成される。かかる撓み変形により、アライメント時において、基板キャリア9は、マスク6に対して搬送方向の両端部から接触を開始する載置態様となる。
【0115】
すなわち、本実施形態では、支持工程として、基板キャリア9の周縁部における一対の周縁領域(対向辺部)として、基板5の周縁部をなす四辺のうちの一対の対向辺に対応した基板キャリア9の対向周縁部を、該対向周縁部が所定の方向に沿うように、基板キャリア支持部8で支持する。また、マスク6の周縁部における一対の周縁領域として、マスク6の周縁部をなす四辺のうちの一対の対向辺に対応したマスク6(マスクフレーム6a)の対向周縁部を、該対向周縁部が所定の方向に沿うように、マスク支持部(マスク受け台16)で支持する。なお、本実施形態では、所定の方向(第1の方向)をY軸方向とし、第2の方向をX軸方向、第3の方向をZ軸方向としているがこれに限定されるものではない。また、本実施例では矩形の基板5、矩形のマスク6をそれぞれ例示したが、基板、マスクの形状は矩形に限定されるものでなく、基板やマスクの周縁部をなす複数辺のうち所定の方向に沿って配された一対の対向辺に対応した一対の周縁領域を支持する構成とすることができる。したがって、基板やマスクの形状によっては、第1方向と第2方向の交差は直交に限られない。
【0116】
そして、取付工程として、基板キャリア9とマスク6を、基板キャリア9がマスク6から上方に離れた離隔位置から、基板キャリア9がマスク6の上に載せられる取付位置へと移動させる(離隔状態から取付状態へ移行させる)べく、基板キャリア支持部8を下降させる。本実施例では、第3の方向としてのZ軸方向に沿って下降させているが、本発明の所望の載置動作が実現できる範囲においてZ軸方向に対して多少の角度がついた方向であ
ってもよい。また、基板キャリア支持部8は移動させず、マスク支持部の方を移動させてもよいし、両者を移動させてもよい。
【0117】
このとき、基板キャリア支持部8のみによって支持された基板キャリア9と、マスク支持部のみによって支持されたマスク6は、上述したようにdc>dm(・・・式(1))の関係を満たすように、それぞれ支持されている。したがって、基板キャリア9とマスク6は、上記離間位置から上記取付位置へ移動する際に、基板キャリア9において上記第3の方向に撓みが最も大きい部分と、マスク6において上記第3の方向に撓みが最も大きい部分と、から接触が開始される。
【0118】
なお、基板キャリア9は、上記離間位置から上記取付位置への移動においてマスク6と接触した際に、上記第3の方向と直交する方向において、マスク6に対する滑りやすさよりも基板キャリア支持部8(キャリア受け面41)に対する滑りやすさが大きくなるように、基板キャリア支持部8によって支持されていると好適である。すなわち、基板キャリア9は、撓み状態の解消に伴い、上記第2の方向における両端部の位置が第2方向に変位するような変形を生じるが、この両端部の変位を、マスク6との滑りではなく、基板キャリア支持部8(キャリア受け面41)との滑りによって吸収、解消できるように構成されている。これにより、基板キャリア9がマスク6の上に載置される際の平面方向の位置ズレが効果的に抑制される。
【0119】
上述した滑りやすさの大小の制御は、種々の手法を用いてよい。例えば、基板キャリア9の着座部材31を、マスク6(マスクフレーム6a)と同様に鉄などの金属製の部材で構成するとともに、少なくとも両者の接触部を研磨加工面や研削加工面で構成し、接触部における接触面積を適宜設定する。一方、キャリア受け面41には、単独支持の際に基板キャリア9が滑り落ちてしまうことが無い程度の摩擦力は担保しつつ、着座部材31とマスク6との間よりは基板キャリア9に対して滑りやすくなるように、種々のコーティング被膜を施してよい。キャリア受け面41上における基板キャリア9との接触部は、例えば、無機材料、フッ素、DLC、無機セラミックが母材のコーティング(無機材料、フッ素系コート、セラミック系コート、DLCコート)を施してもよい。なお、本実施形態で説明した手法以外の手法を適宜用いてもよい。
【0120】
以上のように本実施形態によれば、蒸着装置において基板キャリアとマスクをインラインで成膜する際に、キャリアに基板を吸着固定した後、キャリアを反転してデポダウンした状態で成膜を実施する際に基板が剥がれて落下、破損することを防止することが可能となる。また、本実施形態によれば、蒸着装置において基板キャリアとマスクをアライメントする際に、基板をマスクに正確に位置合わせすることが可能となり、基板とマスクとの間の隙間を十分に小さくして基板にマスクを装着させることが可能となる。したがって、成膜ムラを低減することが可能となり、成膜制度の向上を図ることが可能となる。
【0121】
[実施形態2]
<電子デバイスの製造方法>
上記の基板処理装置を用いて、電子デバイスを製造する方法について説明する。ここでは、電子デバイスの一例として、有機EL表示装置のようなディスプレイ装置などに用いられる有機EL素子の場合を例にして説明する。なお、本発明に係る電子デバイスはこれに限定はされず、薄膜太陽電池や有機CMOSイメージセンサであってもよい。本実施例においては、上記の成膜方法を用いて、基板5上に有機膜を形成する工程を有する。また、基板5上に有機膜を形成させた後に、金属膜または金属酸化物膜を形成する工程を有する。このような工程により得られる有機EL表示装置600の構造について、以下に説明する。
【0122】
図13(a)は有機EL表示装置600の全体図、図13(b)は一つの画素の断面構造を表している。図13(a)に示すように、有機EL表示装置600の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本図の有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。また、各発光素子は複数の発光層が積層されて構成されていてもよい。
【0123】
また、画素62を同じ発光を示す複数の発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように複数の異なる色変換素子がパターン状に配置されたカラーフィルタを用いて、1つの画素が表示領域61において所望の色の表示を可能としてもよい。例えば、画素62を少なくとも3つの白色発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように、赤色、緑色、青色の各色変換素子が配列されたカラーフィルタを用いてもよい。あるいは、画素62を少なくとも3つの青色発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように、赤色、緑色、無色の各色変換素子が配列されたカラーフィルタを用いてもよい。後者の場合には、カラーフィルタを構成する材料として量子ドット(Quantum Dot:QD)材料を用いた量子ドットカラーフィルタ(QD-CF)を用いることで、量子ドットカラーフィルタを用いない通常の有機EL表示装置よりも表示色域を広くすることができる。
【0124】
図13(b)は、図13(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板5上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R,66G,66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R,66G,66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。なお、上述のようにカラーフィルタまたは量子ドットカラーフィルタを用いる場合には、各発光層の光出射側、すなわち、図13(b)の上部または下部にカラーフィルタまたは量子ドットカラーフィルタが配置されるが、図示は省略する。
【0125】
発光層66R,66G,66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R,62G,62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層Pが設けられている。
【0126】
次に、電子デバイスとしての有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極64が形成された基板5を準備する。
【0127】
次に、第1電極64が形成された基板5の上にアクリル樹脂やポリイミド等の樹脂層をスピンコートで形成し、樹脂層をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素
子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0128】
次に、絶縁層69がパターニングされた基板5を第1の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。ここで、本ステップでの成膜や、以下の各レイヤーの成膜において用いられる成膜装置は、上記各実施形態のいずれかに記載された成膜装置である。
【0129】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板5を第2の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板5の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。本例によれば、マスクと基板とを良好に重ね合わせることができ、高精度な成膜を行うことができる。
【0130】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。発光層66R、66G、66Bのそれぞれは単層であってもよいし、複数の異なる層が積層された層であってもよい。電子輸送層65は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。本実施形態では、電子輸送層67、発光層66R、66G、66Bは真空蒸着により成膜される。
【0131】
続いて、電子輸送層67の上に第2電極68を成膜する。第2電極は真空蒸着によって形成してもよいし、スパッタリングによって形成してもよい。その後、第2電極68が形成された基板を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層Pを成膜して(封止工程)、有機EL表示装置600が完成する。なお、ここでは保護層PをCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【0132】
絶縁層69がパターニングされた基板5を成膜装置に搬入してから保護層Pの成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【符号の説明】
【0133】
100:アライメント室,1:アライメント装置,8:基板キャリア支持部,9:基板キャリア,60:位置合わせ機構,11:回転並進機構,10:Z昇降スライダ,13:Z昇降ベース,18:Zガイド,70:制御部,5:基板,6:マスク,6a:マスクフレーム,31:着座ブロック
図1
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