(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】半導体検査装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20221017BHJP
G01R 31/28 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
H01L21/66 S
H01L21/66 B
H01L21/66 A
G01R31/28 L
G01R31/28 H
(21)【出願番号】P 2020526821
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2018024678
(87)【国際公開番号】W WO2020003458
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】古森 正明
(72)【発明者】
【氏名】大木 克夫
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-210067(JP,A)
【文献】特開2008-204775(JP,A)
【文献】特開2004-146802(JP,A)
【文献】特開2011-185633(JP,A)
【文献】特開2008-166702(JP,A)
【文献】特開2004-296771(JP,A)
【文献】特開2008-041757(JP,A)
【文献】特開平02-157665(JP,A)
【文献】特開2002-176088(JP,A)
【文献】特開2001-156136(JP,A)
【文献】特開2013-187510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01R 31/28
G01R 31/3183
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する試料台と、
前記試料に電子線を照射する電子光学系と、
前記試料に接触される測定探針と、
前記測定探針からの出力を測定する測定器と、
前記試料への前記電子線の照射に応答した前記測定探針からの出力の測定値を取得する情報処理装置とを有し、
前記情報処理装置は、
前記試料に対して前記電子線を照射したときの前記測定探針からの出力の時間変化を検出し、前記試料に対して前記電子線の照射を開始するタイミング及び前記電子線の照射をフリーズするタイミングと、前記電子線が前記試料に照射された状態で前記測定器が前記測定探針からの出力を測定する第1の測定期間と、前記電子線の照射がフリーズされた後に前記測定器が前記測定探針からの出力を測定する第2の測定期間とを
前記時間変化の少ない時間帯に含まれるように設定し、
前記試料への前記電子線の照射に応答した前記測定探針からの出力の測定値を、前記第1の測定期間に測定された第1の測定値と前記第2の測定期間に測定された第2の測定値との差から求める半導体検査装置。
【請求項2】
請求項
1において、
前記第1の測定値は、前記測定器が前記第1の測定期間において測定した測定値を積算処理した値であり、前記第2の測定値は、前記測定器が前記第2の測定期間において測定した測定値を積算処理した値である半導体検査装置。
【請求項3】
請求項
2において、
前記測定器は、前記電子線の照射に応答して前記測定探針に生じる電圧信号を測定する半導体検査装置。
【請求項4】
請求項
2において、
前記試料に接触される第1の測定探針及び第2の測定探針と、
前記第1の測定探針からの出力が第1の入力端子に接続され、前記第2の測定探針からの出力が第2の入力端子に接続される差動アンプとを有し、
前記測定器は、前記差動アンプから出力される電圧信号を測定する半導体検査装置。
【請求項5】
請求項
4において、
前記情報処理装置は、前記差動アンプのゲインを制御する半導体検査装置。
【請求項6】
請求項
2において、
前記測定器は、前記電子線の照射に応答して前記測定探針に生じる電流信号を測定する半導体検査装置。
【請求項7】
請求項
2において、
前記電子光学系は前記試料上を2次元に走査し、
前記情報処理装置は、前記電子線の照射に応答した前記測定探針からの出力の測定値を、前記電子線の照射位置と対応付けて記憶する半導体検査装置。
【請求項8】
請求項
7において、
前記情報処理装置は、前記電子線の照射位置に対応する画素の画素値を、前記電子線の照射に応答した前記測定探針からの出力の測定値に基づき決定した数値マッピング画像を作成する半導体検査装置。
【請求項9】
請求項
7において、
前記電子線と前記試料との相互作用により放出される信号電子を検出する検出器を有し、
前記情報処理装置は、前記検出器から検出された信号からSEM像を作成し、前記SEM像に基づき仮想座標を設定する半導体検査装置。
【請求項10】
請求項
9において、
前記情報処理装置は、前記仮想座標により指定された位置に前記測定探針を移動させる半導体検査装置。
【請求項11】
請求項1において、
前記電子線と前記試料との相互作用により放出される信号電子を検出する検出器
を有し、
前記電子光学系は第1の撮像条件により前記試料上を2次元に走査し、前記情報処理装置は、前記検出器から検出された信号からSEM像を作成し、前記SEM像に基づき仮想座標を設定し、
前記電子光学系は第2の撮像条件により前記試料上を2次元に走査し、前記情報処理装置は、前記測定器により測定された前記測定探針からの出力の測定値に基づき電気特性マップ像を作成し、
前記情報処理装置は、前記仮想座標を前記第1の撮像条件及び前記第2の撮像条件に基づき座標変換することにより、前記仮想座標により指定された位置を前記電気特性マップ像上で特定
し、
前記電気特性マップ像の画素値は、前記電気特性マップ像の画素に対応する位置への、前記第2の撮像条件による前記電子線の照射に応答した前記測定探針からの出力の測定値に基づき決定される半導体検査装置。
【請求項12】
請求項
11において、
前記電子線の照射に応答した前記測定探針からの出力より、前記電子線の照射位置における吸収電流量を示す信号を出力するEBAC(Electron Beam Absorbed Current)制御装置を有し、
前記電子光学系は第3の撮像条件により前記試料上を2次元に走査し、前記情報処理装置は、前記EBAC制御装置が出力した信号からEBAC像を作成し、前記仮想座標を前記第1の撮像条件及び前記第3の撮像条件に基づき座標変換することにより、前記EBAC像上の位置を前記仮想座標上の位置に変換する半導体検査装置。
【請求項13】
請求項
11において、
前記測定器が測定する前記測定探針からの出力の測定値は電圧値または電流値である半導体検査装置。
【請求項14】
請求項
11において、
前記電子光学系は、前記試料にパルス電子線を照射し、
前記測定器が測定する前記測定探針からの出力の測定値はパルス応答特性である半導体検査装置。
【請求項15】
請求項
14において、
前記パルス電子線の照射に応答した前記測定探針からの出力より、前記パルス電子線と同期して、前記パルス電子線の照射位置における吸収電流量を示す信号を出力するEBAC(Electron Beam Absorbed Current)制御装置を有し、
前記電子光学系は第4の撮像条件により前記試料上を2次元に走査し、前記情報処理装置は、前記EBAC制御装置が出力した信号から動的EBAC像を作成し、前記仮想座標を前記第1の撮像条件及び前記第4の撮像条件に基づき座標変換することにより、前記動的EBAC像上の位置を前記仮想座標上の位置に変換する半導体検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の検査装置に関するものであり、特に、電子顕微鏡を用いた微小デバイス特性評価装置による半導体デバイスの故障解析技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化により、大規模集積回路(LSI:Large-Scale Integration)の高速化、高性能化が進んでいる。このような半導体デバイスの微細化に伴って、トランジスタ数、配線数、コンタクト数が増大し、故障デバイスの不良解析は複雑化するとともに、微小デバイスにおける故障検出技術に対しては、より高感度化が求められている。なお、微小デバイスとはLSIに集積される素子やLSIに形成される配線等の微細構造を指す。現在、この故障検出技術として、微細な領域に測定探針を直接接触させて電気特性を測定するナノプロービング装置が注目されている。これによれば、10nm世代プロセスのトランジスタなどのナノデバイスの端子に直接、測定探針を接触させ、その電気特性を評価でき、他の解析技術にはない大きな特徴となっている。
【0003】
ナノプロービング装置を用いたデバイス故障解析手法として、このような電気特性の測定の他に、特許文献1等に示されるEBAC(電子ビーム吸収電流:Electron Beam Absorbed Current)観察と呼ばれる故障解析手法が知られている。通常のSEM観察では、試料に電子線(1次電子)を入射することにより発生する2次電子を検知して試料表面の構造観察を行うが、このとき入射した1次電子の一部は2次電子の発生に寄与することなく、エネルギーを失って、試料中に流れる微弱な電流(吸収電流)となる。EBAC観察では、電子線の照射位置と測定探針との間に局所的に流れる吸収電流を検出し、得られた信号量の変化をコントラストとして電子線の走査に対応付けることにより、画像(EBAC像)として表示する。EBAC像では、測定試料の内部情報、例えば、試料の深さ方向に形成された配線の形状を含めて可視化することができる。配線に断線箇所があると、測定探針の接触箇所からみて、電子線照射位置が断線箇所の手前の配線上にあるか、断線箇所の先の配線上にあるかによって、吸収電流の検出量が異なり、EBAC像では異なるコントラストで表現される。これにより、欠陥部分を破壊することなく、簡便にデバイスの故障箇所を把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなEBAC観察であるが、以下のような課題がある。
(1)低抵抗性の欠陥に対してEBAC像のコントラストが弱く、欠陥箇所の検知が難しい。例えば、配線不良を例にとると、断線のようなオープン障害の場合は欠陥箇所が高抵抗となり強いコントラストを得られるが、配線ショートの場合はEBAC像に強いコントラストが得られない場合が多く、検知が難しい。
(2)EBAC像の画像処理において、コントラストの黒潰れなど、映像信号のデジタル処理やアンプの特性に起因してEBAC情報の欠損が生じることがある。
【0006】
まず、第1の課題に関し説明する。EBAC観察では、低抵抗体の場合、入射する電子線量(以降、プローブ電流と表記)に対して、試料中の抵抗体が発する電圧信号は、極めて小さくなる。このため、低抵抗の材料同士の場合、電圧信号の違いとしてほとんど表れず、その結果EBAC像のコントラストから異常個所の検出が困難となることが多い。
【0007】
EBAC像のコントラストを高めるため、ショットキー電子銃などの大きなプローブ電流が得られる電子銃を用いることで、より大きな反応信号(電圧信号)を得ることは可能である。しかし、過度のプローブ電流の照射は、それにより欠陥部を変質させることがあり、故障解析の観点からは好ましくない。このため、EBAC(EBIC)測定システムの高感度化、例えば、ロックインアンプの導入や、映像信号の階調数増加によるEBAC像の高感度化などが、報告されている。しかし、測定対象とする微小デバイスには、容量性の時定数をもつ部分が存在することがある。ロックインアンプによるノイズの除去には、最適な参照周波数を設定する必要があるが、測定箇所が容量性の時定数を有していると、測定信号がなだらかに減衰し、ノイズが十分に除去できないことがある。半導体検査装置としては、試料が容量性の時定数をもつ部分を有していても、低ノイズ・高感度測定が可能な装置が望ましい。
【0008】
次に、第2の課題に関し説明する。半導体層と金属層とが混在する試料を、電流アンプを用いてEBAC観察すると、EBAC像に半導体層の特有の反応であるEBIC(電子線励起電流:Electron Beam Induced Current)反応が現れることがある。EBICは、電子線が接合近傍に入射した際に発生する電子と正孔によるドリフト電流であり、EBIC反応による信号は、極めて強い電流信号となる。このため、半導体層と金属層とが混在する試料を観察する場合にEBAC装置に流れ込む電流信号は、EBIC反応による10nA程度から、電流のあまり流れない構造部による0.001nA程度までと広範囲となる。このような広範囲の信号を、例えば、256階調に振り分けて映像の濃淡を表示しても、情報のきめ細やかさは損なわれ、情報が欠損しやすい状態となる。あるいは、過度の電流が流れるとことでEBAC観察に使用するアンプが飽和してしまうことがあり、飽和領域ではコントラストの違いを表示することができない。このような場合、本来得られるべき電流分布情報が欠損しており、結果、微小デバイスに生じている現象に対する物理的な解釈を行う上での妨げになってしまう。
【0009】
このように、検出信号の変化を画像化するEBAC観察は簡便であるものの、測定内容によっては本来得られるべき情報を見逃してしまうことがある。本発明者らは、ナノプロービング装置を用いて計測した電気特性を画像化する(電気特性マッピング)にあたり、信号処理を高感度化することで従来のEBAC観察では観察できなかったデバイス情報が得られることを確認した。加えて、ナノプロービング装置を用いる利点は微小デバイスの様々な電気特性を計測することができることにより、多様な観点からデバイス故障解析が行えることにある。このため、複数の電気特性マップ像による解析、あるいは電気特性マップ像による解析と他の解析手法による解析とを連携して実行可能な半導体検査装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施の態様である半導体検査装置は、試料を載置する試料台と、試料に電子線を照射する電子光学系と、試料に接触される測定探針と、測定探針からの出力を測定する測定器と、試料への電子線の照射に応答した測定探針からの出力の測定値を取得する情報処理装置とを有し、情報処理装置は、試料に対して電子線を照射したときの測定探針からの出力の時間変化を検出し、試料に対して電子線の照射を開始するタイミング及び電子線の照射をフリーズするタイミングと、電子線が試料に照射された状態で測定器が測定探針からの出力を測定する第1の測定期間と、電子線の照射がフリーズされた後に測定器が測定探針からの出力を測定する第2の測定期間とを時間変化の少ない時間帯に含まれるように設定し、試料への電子線の照射に応答した測定探針からの出力の測定値を、第1の測定期間に測定された第1の測定値と第2の測定期間に測定された第2の測定値との差から求める。
【発明の効果】
【0012】
微小デバイスの不良解析において高感度に異常を検出できる電気特性マッピング測定可能な半導体検査装置を提供することができる。
【0013】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】電圧マップ像を作成するフローチャートである。
【
図3】積算処理による平均化を説明するための図である。
【
図4A】電圧信号の時間変化とその場合の測定タイミングを示す図である。
【
図4B】電流信号の時間変化とその場合の測定タイミングを示す図である。
【
図5】電圧マッピング測定における測定値の算出方法を説明するための図である。
【
図7A】
図6に示した試料のEBAC像の模式図である。
【
図7B】EBAC像における階調差の抵抗依存性を示す図である。
【
図10】
図9に示したEBAC像に対応する電流分布データである。
【
図12】第1実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【
図13】第2実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【
図14】第3実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【
図15】第4実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【
図16】第5実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【
図17】第6実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【
図18】第7実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【
図19】第8実施例におけるプロービング位置設定動作を説明する図である。
【
図20】第9実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【
図21】第10実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【
図22】第11実施例における仮想2次元座標の設定方法を説明するための図である。
【
図23】第11実施例における仮想2次元座標の設定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に本発明の実施の形態にかかる微小デバイス特性評価装置の概略図を示す。走査型電子顕微鏡は、その主要な構成として電子光学系1、検出器2、真空チャンバ4を有し、通信ケーブル14で接続される制御装置12により制御される。真空チャンバ4中の試料台6に測定試料5が載置され、測定試料5には測定探針3が接触されている。なお、測定探針3は、測定試料5の試料表面を移動させるための駆動装置(図示せず)に接続されており、この駆動装置の動作により、測定試料5に接触される。測定探針3の出力は、測定ケーブル13を通して差動アンプ7に接続され、差動アンプ7の出力信号が、半導体パラメータアナライザ8に入力されている。半導体パラメータアナライザ8は、電流-電圧測定、キャパシタンス測定など半導体デバイスのパラメトリックテストのための測定器である。測定対象、測定内容に応じた測定器を用いても構わない。半導体パラメータアナライザ8は、通信ケーブル14を通して情報処理装置9に接続される。なお、ここではアナログ信号を伝達するケーブルを測定ケーブル13(実線)と称し、デジタル信号を伝達するケーブルを通信ケーブル14(
破線)と称している。伝達特性や通信プロトコルなどは接続される装置間ごとに異なっていて構わない。情報処理装置9は電子顕微鏡を制御し、検出器2から検出された信号からSEM像、あるいは測定探針3から検出された信号からEBAC像、本実施例の電気特性マップ像を作成、表示するための装置であり、例えば、パーソナルコンピュータなどが適用できる。検出器2は電子光学系1からの電子線と測定試料5との相互作用により放出される信号電子を検出するものである。検出する信号電子のエネルギー等の相違に応じた複数の検出器を備えていてもよい。差動アンプ7は、情報処理装置9よりその増幅率が制御される。これにより、差動アンプ7の出力信号が過大となっている場合には、増幅率を小さくすることができる。
【0016】
なお、
図1の測定回路は、電気特性として電圧を測定し、電気特性マップ像として電圧マップ像を作成するのに適した構成である。また、本実施例における電圧マップ像は後述するように低抵抗性の欠陥に対して高い検出感度を得ることができるため、低抵抗性の金属配線等の欠陥検出や故障解析に適している。
【0017】
差動アンプ7は、プローブ電流によって測定探針3に生じる極めて微弱な試料からの信号を増幅して電圧信号を出力するが、その出力信号には様々なノイズがのっている。正確な電圧マップ像を得るには、このようなノイズは可能な限り除去する必要がある。
図1の微小デバイス特性評価装置により、電圧マップ像を作成するフローを
図2に示す。フローは、主に、測定のための条件出し(S10)、測定(S20)、測定値の画像化(S30)を含む。まず、装置に測定試料5を設置し、測定探針3を、試料表面に接触させる(S01)。続いて、条件出しを行う。除去すべきノイズは大きく、高周波数のランダムノイズと低周波数ノイズとに分けられる。まず、試料表面の任意の1カ所に電子線を照射する(S11)。この結果得られた測定探針の信号を差動アンプ7で増幅し、この電圧信号を半導体パラメータアナライザ8の積算処理を用いて、高周波数のランダムノイズを除去する(S12)。積算処理とは、
図3に示すようにランダムノイズが混入する信号を、所定の期間加算し、平均化するものである。これにより、ランダムノイズの影響を除去できる。
【0018】
次に、高周波数のランダムノイズが除去された電圧信号データの時間変化を検出する(S13)。出力信号は低周波数ノイズの影響を受けて時間変化する。
図4Aは電圧測定時にみられるパターンであり、微小デバイス特性評価装置に固有の低周波数ノイズである。真空チャンバ4を排気する排気ポンプの振動や評価装置の電気ノイズなどの影響により出力信号(電圧信号)がドリフトするものである。なお、このような低周波ノイズの影響を受けるのは電圧信号のみではない。電気特性マップ像として電流マップ像を作成する場合には電流信号を検出することになるが(その場合の装置構成等については後述する)、電流信号においても低周波数ノイズが存在している。
図4Bは電流測定時にみられるパターンであり、測定試料5が高抵抗試料(半導体など)である場合に、その容量に起因して出力信号(電流信号)が時定数を有する変化を示す。
【0019】
そこで、情報処理装置9は、測定試料5のランダムノイズが除去された電圧信号データ(あるいは電流信号データ)の時間変化から、時間変化の最も少ない時間帯を、例えば、微分解析によって求める。具体的には、
図4A、Bの信号波形401,402において、時間変化の少ない時間帯として時間帯t1~t3が検出できる。そこで、測定が時間帯t1~t3の間で行われるよう、測定タイミングを設定する(S14)。信号波形401の場合の測定タイミングチャートが403であり、信号波形402の場合の測定タイミングチャートが404である。いずれの場合も、時間帯t1~t3の間のt2において、電子線の測定試料5への照射をフリーズさせ、その直前の時間帯t1~t2、及びその直後の時間帯t2~t3の時間帯において出力信号の計測を行う。時間帯t1~t2、時間帯t2~t3がそれぞれ高周波数のランダムノイズを除去するための積算処理を行うための時間を有していなければならない。なお、電圧信号の測定の場合は、低周波ノイズの原因は電子線の照射ではないので、低周波ノイズの周期性を抽出し、基準時間(t=0)は低周波ノイズ波形をモニタして定められることになる。一方、電流信号の測定の場合は、低周波ノイズの原因が電子線の照射であるので、基準時間(t=0)は電子線の照射開始時間と一致する。以上により、ノイズの影響を抑えて測定するための条件出しが完了する。
【0020】
条件出し(S10)において定められた測定タイミングにしたがって、測定試料5の測定を開始する(S20)。
図5に測定の様子を示す。試料表面501の1点502に測定探針3が接触させられており、試料表面501上を電子線500がX方向及びY方向に走査される。試料表面501に仮想的に示したマス目は電子線500の照射位置を表しており、電圧マップ像の1画素に対応する。まず、照射位置を例えば、位置503に移動し(S21)、電子線500の照射を開始する(S22)。条件出しにおいて定められた測定タイミングt1~t2において、出力信号の測定を行う(S23)。この測定においては、半導体パラメータアナライザ8による積算処理が行われている。積算処理が行われた出力データ(ここでは「電子線照射データ」と呼ぶ)を、情報処理装置9は、データベース11に保存する(S24)。続いて、時間t2において、電子線500の位置503への照射をフリーズさせ(S25)、条件出しにおいて定められた測定タイミングt2~t3において、出力信号の測定を行う(S26)。この測定においても、半導体パラメータアナライザ8による積算処理が行われている。積算処理が行われた出力データ(ここでは「電子線非照射データ」と呼ぶ)を、情報処理装置9は、データベース11に保存する(S27)。情報処理装置9はすべての照射位置で照射と計測が完了したかどうかを判定し(S28)、未完了の場合には次の照射位置に移動する。例えば、位置503にX方向に隣接する位置504に照射位置を移動し(S21)、電子線500の照射を開始する(S22)。全ての照射位置への電子線の照射と計測が完了している場合には計測を終了し、全ての照射位置での測定結果がデータベース11に保存される。
【0021】
なお、
図2の測定(S20)のフローは大きな流れを示すものであり、これに限定されるものではない。例えば、電子線照射データや電子線非照射データは照射ごとにデータベース11に保存する必要はなく、よりまとまった単位で保存する、例えば計測中は情報処理装置9が一時的に保存し、計測完了後にデータベース11に保存するようにしてもよい。また、情報処理装置9は半導体パラメータアナライザ8の計測が適切に行えるように差動アンプ7のゲインを制御しているので、出力データを半導体パラメータアナライザ8の出力値そのままでなく、差動アンプ7のゲインを補正した値を出力データとして保存しておくことが望ましい。出力データと差動アンプ7のゲインとを組として保存してもよい。
【0022】
測定(S20)で得られた電子線照射データ、電子線非照射データを用いて画像化(S30)を行う。
図5の510に示すように、電子線照射データと電子線非照射データとの差を測定値として算出する(S31)。この演算により、測定値から低周波数ノイズの影響が除去される。この測定値の値に基づき各画素の画素値を決定し、数値マッピング画像(=電圧マップ像)として表示する(S32)。このとき、本実施の装置では、各画素に対応する位置に電子線を照射して計測した測定値(数値データ)を保有しているため、測定者はその解析視点に応じて、表示する数値の範囲を設定して、すなわち測定レンジを切り替えて、数値マッピング画像を作成、表示することができる。設定された数値の範囲で色や濃淡が識別可能となるように画素値を割り当てることにより、黒潰れなどの情報の欠損を回避し、ワイドレンジの解析が可能になる。
【0023】
以下、
図1の微小デバイス特性評価装置を用いた解析例に基づき、第1の課題の解決について説明する。
図6に解析対象として使用した試料の例を示す。絶縁体層600上に抵抗体602を形成し、抵抗体602を挟んで電極603,604を設けている。電極603に差動アンプ7の+端子に接続される測定探針3aが接触され、電極604に差動アンプ7の-端子に接続される測定探針3bが接触される。ここでは、絶縁体層600をSiO
2層、抵抗体602をSi、電極603,604をAlで形成している。抵抗体602の抵抗値として、異なる抵抗値を有する複数の試料を用意した。
【0024】
図6に示す試料をEBAC観察した場合、抵抗体602の抵抗値が高い場合(例えば、数十kΩオーダー)には、
図7Aに示すように、EBAC像610は、抵抗体602を境にして強いコントラストが表示される。これより、コントラストの変化点に抵抗体があると判断できる。これは、半導体デバイスの不良解析において、オープン障害の欠陥検出を行うことに相当する。しかしながら、抵抗体602の抵抗値が小さくなるにつれて高コントラスト部分611と低コントラスト部分613との差が小さくなっていく。
図7BはEBAC像610における階調差の抵抗依存性を示す図である。横軸に抵抗体602の抵抗値を、縦軸に低コントラスト部分613と絶縁体層600に相当するバックグラウンド部分612との階調差を示したものである。なお、EBAC観察条件として、試料に照射した電子線量(プローブ電流)は、1nAである。このように、抵抗体602の抵抗値が小さくなるとバックグラウンド部分612との階調差も乏しくなり、抵抗体602の抵抗値が数100Ωのオーダーである場合、抵抗体602の抵抗値が変化しても、階調差620はごく小さなものとなる。このため、EBAC像からそのコントラスト差を視認することは不可能である。配線ショートのような低抵抗性の欠陥をEBAC像で検知するのが困難であるのはこのことに起因する。100Ωの抵抗体に対して、電子線量1nAの電子線を照射したときに発生する電圧は0.1μVであるから、配線ショートのような欠陥を検出可能にするためには、約0.1μVという微小な電圧信号の違いを判別する必要がある。
【0025】
同じ試料に対して、
図1の微小デバイス特性評価装置における計測回路を用いて測定した結果を
図8に示す。
図8には、
図6に示す試料において、電極603または電極604の領域に電子線を照射した時に、
図1の計測回路における半導体パラメータアナライザ8で測定された電圧信号量を示している。抵抗体602の抵抗値がそれぞれ、803Ω、290Ω、186Ωの3種類の試料について測定を行った。本測定に際し、測定探針3の位置は、
図6に示した通りであり、電子線の照射電流も、前述のEBAC観察と同じ1nAとした。差動アンプ7のゲインは1000倍とし、測定方法は、
図2及び
図5で説明した通りである。この電圧信号量の大小を濃淡化し、電子線照射位置の画素値とすることで、本実施例の電圧マップ像が形成できる。比較例として、差動アンプ7に代えて電圧アンプ(ゲイン100000倍)を用いた結果も示している。
【0026】
これより、抵抗体602の抵抗値の減少に伴い、差動アンプ7が出力する電圧値の絶対値が減少傾向にあることが確認できる。本実施例の測定回路により、この程度の抵抗の違いが検知できることは、低抵抗不良の異常検知が可能となったことを意味する。なお、比較例として示した電圧アンプでは、ノイズにデータが埋れ、値を取得することができなかった。
【0027】
現時点で半導体デバイスのパラメトリックテスト向けに使用される一般的な測定器の最小可能測定電圧は、0.5μV程度である。これに対して、本実施例の測定回路では約0.1μVという、微小な電圧信号の違いを可能とする。このため、本実施例の測定回路では徹底的にノイズ除去を行った。差動アンプ7は2本の測定ケーブルの差分を増幅するため、両方の測定ケーブルに同じように加わるノイズを除去できる。次に上述したように、測定器により積算処理を行い、差動アンプ7では除去できなかったランダムノイズを除去する。さらに
図2で説明した条件出しによって定めた測定タイミングにより計測し、電子線の照射時、非照射時の測定値の差分を測定値とすることにより、低周波数ノイズが除去される。ノイズの除去手法には、それぞれ対応できるノイズの種類が決まっており、幅広い手法を活用することで、高感度検出を実現する。
【0028】
加えて、信号量が大きくノイズの影響が小さくなった場合には、情報処理装置9によりは差動アンプ7の増幅率あるいは測定器による積算量などを調整する。このように、情報処理装置9は、測定データを取得、加工するだけでなく、測定データに含まれるノイズの種類に応じて最適なノイズ除去工程を提供する役割も果たしている。
【0029】
次に、第2の課題の解決について説明する。
図9は半導体層を観察したEBAC像の例である。黒つぶれした部分900が半導体層からの反応である。これに対し、
図1の微小デバイス特性評価装置における計測回路を用いて測定を行った結果を
図10に示す。黒つぶれした部分900の部分の電流値を測定してグラフ化したものである。これより、EBAC像では、黒潰れしてしまっているが、その領域に電流変化が存在していることが認識できる。このように、EBAC像では情報の得られない領域についても、詳細な情報を得ることができ、このような領域における物理的な解釈を行うことが可能となる。
【0030】
EBAC像のコントラストは吸収電流量に基づく。ここで吸収電流量は、測定試料のナノスケールの内部構造と入射した電子の複雑な挙動に影響されて変化するため、コントラストを視覚で観察するのみでは、得られる情報に限界がある。これに対して、
図1の微小デバイス特性評価装置によって電圧値を精密に測定することが可能になるため、本実施例は従来のEBAC像では得られなかった情報が得られるポテンシャルを有している。
【0031】
図6で示した試料の例で説明する。抵抗体602の抵抗値として、異なる抵抗値を有する6つの試料を用意して解析を行った。試料は、
図6に示すように、電極603(Al)と抵抗体602(Si)という異なる材料が接触している。このため、EBAC像では、電極603と抵抗体602の境界をまたいだコントラストが、ゼーベック反応によって大きくなり、境界を境に白と黒の像が表示される。ただし、先に述べたように抵抗体602の抵抗値が小さくなるほどEBAC像のコントラストは小さくなり、ゼーベック反応によるコントラストも小さくなる。このため、抵抗体602の抵抗値が数100Ωになってくると、EBAC像においてはゼーベック効果によるコントラストの存在が視認できる程度の情報しか得られない。これに対して、
図11は、それぞれの試料について、
図6に示す位置605に電子線を照射して測定された電圧値を示している。横軸に抵抗体602の抵抗値、縦軸に電圧値(ただし、本電圧値は差動アンプで増幅後の値となっている)を示す。
図11に示すように、電圧値という数値に着目してグラフ化することにより、6つの試料は、2つのグループに分かれることが見出された。この2つのグループは、抵抗体602の大きさが違っており、グループ701は抵抗体幅が10μm、グループ702は抵抗体幅が1μmとなっていた。このように、精密な数値データが得られることにより、微小デバイスの内部構造や現象に対する知見を深めることが可能になる。
【実施例1】
【0032】
微小デバイス特性評価装置の第1実施例を
図12に示す。本実施例では、EBAC像に基づくEBAC解析と電気特性マップ像に基づく電気特性マップ解析の連携解析が可能となる。具体的には、試料表面の広範囲の観察を高速で行えるEBAC解析によりおおよその異常個所を確認し、検査箇所を絞り込んだ後に、測定処理に時間を有する電気特性マップ解析により、詳細を解析する。
【0033】
図1の微小デバイス特性評価装置と共通する構成については、同じ符号を用い、重複する説明については省略するものとする。以下の実施例においても同様である。本実施例では、差動アンプ7は切り替え器20を通して、半導体パラメータアナライザ8と、EBAC制御装置21とに接続されている。この切り替えにより、電気特性マップ観察とEBAC観察とを切り替えることができる。EBAC制御装置21は、差動アンプ7の出力を電子線の照射位置における吸収電流量を示す信号として出力し、情報処理装置9によりEBAC像22を画像化する。
【0034】
図12の微小デバイス特性評価装置における測定回路は、先に説明したようにEBAC像では検出の難しい低抵抗性の不良解析に適合するものとなっており、LSIデバイスの配線構造における欠陥検出、解析などに使用できる。はじめに、LSIデバイスの測定コンタクトが表面に出るまで、研磨する。このように研磨されたLSIデバイスを測定試料5とし、表面に露出したコンタクトに対し、測定探針3を接触させ、まずEBAC制御装置21に差動アンプ7の出力を切り替え、EBAC像22により所望の配線部を探索する。その後、半導体パラメータアナライザ8に差動アンプ7の出力を切り替え、電圧マップ観察に切り替え、電圧マップ像15により詳細解析を行う。これにより、効率的にLSIデバイスの配線構造における異常の検出、解析を行うことができる。
【実施例2】
【0035】
微小デバイス特性評価装置の第2実施例を
図13に示す。本実施例は、微小デバイス特性評価装置のGUI(Graphical User Interface)に関し、電気特性マップ像を詳細解析するために、電気特性マップ像の一部をユーザインターフェースから指定し、指定された箇所の測定値をグラフ表示する。これにより、着目箇所の詳細を数値データとして即座に把握できるようになり、試料に起こっている電気的な現象を解析するのに役立つ。
【0036】
特に限定されないが、本実施例の解析データは2画面モニタ10a,10bに表示される。モニタ10bに表示された電圧マップ像15に、線状のマーク25をGUI上で引くことができる。情報処理装置9は、電圧マップ像15にマーク25により指定された位置を特定し、その位置の測定値をモニタ10aにグラフ26として表示する。グラフ26は、横軸にマーク25により指定された位置、縦軸にその位置の測定値(この場合は電圧値)を表示するものである。
【実施例3】
【0037】
微小デバイス特性評価装置の第3実施例を
図14に示す。本実施例も、微小デバイス特性評価装置のGUIに関し、複数の試料に対して電気特性マップ観察を行い、この観察結果(電気特性マップ像)を並べて比較することを可能にする。さらに、電気特性マップ像の所定箇所をユーザインターフェースから指定し、この部分の測定値をグラフ化して表示する。
【0038】
特に限定されないが、本実施例の解析データも2画面モニタ10a,10bに表示される。画面モニタ10bに表示された電圧マップ像15a~dに対して、それぞれユーザが比較したい位置を指定するための点状のマーク30a~dをGUI上で指定できる。各試料に対して、この指定位置の測定値をデータベース11から抽出し、モニタ10aに、縦軸を指定位置の測定値(この場合は電圧値)とし、横軸を比較対象としている試料名のグラフ31として表示する。
【実施例4】
【0039】
微小デバイス特性評価装置の第4実施例を
図15に示す。本実施例では、測定探針3から電流信号を取得し、電流マップ像35を作成する。測定探針3の出力は、測定ケーブル13を通して半導体パラメータアナライザ8に接続されている。電圧マップ像による観察が、LSIデバイスの低抵抗性の配線構造における異常検出などを想定するのに対して、電流マップ像による観察はLSIデバイスの半導体層のPN接合における異常検出などを想定する。半導体パラメータアナライザ8など一般的な半導体デバイスのパラメトリックテスト用途の測定器の測定精度は本用途に対して十分な精度を有していることから、本実施例の測定回路では測定探針3からの出力をそのまま半導体パラメータアナライザ8に接続している。
【0040】
電流マップ像を作成するための計測方法は
図2のフローチャートに従う(電圧信号を電流信号に読み替える)。電流測定の場合も高周波数のランダムノイズを除去する必要があり、また
図4Bに示したように低周波数のノイズが存在し、この影響を除去する必要があるためである。
【0041】
図15の微小デバイス特性評価装置により、半導体層の電流マップ像を観察することにより半導体層の電流の分布量が観察できる。これを半導体シミュレーションなどと比較することにより、ドーピング量などの半導体構造を推測することができる。
【実施例5】
【0042】
微小デバイス特性評価装置の第5実施例を
図16に示す。本実施例は、電気特性マップ像としてパルス応答マップ像41を作成する微小デバイス特性評価装置である。測定探針3の出力は、測定ケーブル13を通してオシロスコープ40に接続されている。オシロスコープ40は、通信ケーブル14を通して情報処理装置9に接続される。
【0043】
本実施例では、電子線の照射、非照射の際に、照射する入射電子線を、所定の間隔、パルス幅で入射する。オシロスコープ40は、パルス電子線によりパルス状に生じるプローブ電流42を計測し、パルスの立ち上がり時間43を計測し、数値データとして情報処理装置9に送信する。情報処理装置9はオシロスコープ40で計測されたパルス立ち上がり時間43を、例えば256階調に区分して各画素の画素値を決定し、数値マッピング画像として、パルス応答マップ像41を作成する。
【0044】
図16に示すパルス応答マップ像41では、LSIデバイスの配線構造について観察した像を模式的に示している。金属配線部分はパルスプローブ電流が急速に立ち上がるため黒で表示されるのに対して、絶縁
体層部分は基本的には白で表示される。ただし、金属配線同士が近接している領域44は容量成分をもつことにより、その容量成分の大きさに応じたコントラストが表れる。
【0045】
このように、信号遅延やノイズの原因となる配線間容量を、パルス応答マップ像41により観察することができる。パルス応答マップ像にあらわれたコントラストから異常を解析することもでき、正常なデバイスサンプルと不良デバイスサンプルとを比較することで異常を解析することもできる。
【0046】
なお、ここではパルス電流の立ち上がり時間を電気特性として計測する例を説明したが、これに限られず、パルス電子線の照射に応答するパルス応答特性を広く、電気特性として測定することが可能である。例えば、パルス電圧値の変化から高周波損失に関する解析を行うことが考えられる。この他にも、パルス幅、パルス電流値などの測定が考えられる。
【実施例6】
【0047】
微小デバイス特性評価装置の第6実施例を
図17に示す。本実施例では、断面電圧マップ像を作成する。
【0048】
ここでは、測定試料を、酸素イオンを注入したベアシリコンウエハを斜め研磨した試料45とする例を示す。試料台6の表面には、試料45の裏面から電気特性を測定するための電極46が設けられ、試料45は電極46上に載置される。電極46に測定探針3が接触されることにより、試料45の裏面の電位変化を半導体パラメータアナライザ8で、計測することができる。本実施例では、ベアシリコンウエハという高抵抗試料を計測対象とするため、測定探針3の出力は、測定ケーブル13を通してそのまま半導体パラメータアナライザ8に接続されている。差動アンプは使用しないが、高周波数のランダムノイズ及び低周波数のノイズの影響を除去するため
図2のフローチャートにしたがって計測を行う。ただし、真空チャンバ4の基準電位と半導体パラメータアナライザ8の基準電位とを共通化することで測定精度を高めている。
【0049】
斜め研磨した試料45表面に電子線を照射する。最初の電子線の照射位置P1に、電子線が照射されることにより、測定探針3から電位V1が計測される。続いて電子線を走査し、照射位置P2に電子線が照射されることにより電位V2が計測される。ここで、電位V2から電位V1を差し引いた値は、深さ位置Pd2(照射位置P2の深さ方向の位置をいう、以下同様)と深さ位置Pd1の間の電位差Vmap1となり、電位差Vmap1を位置データ(Pd1,Pd2)とともにデータベース11に保存する。次に、照射位置P3に電子線が照射されることにより電位V3が計測される。電位V3から電位V2を差し引いた値は、深さ位置Pd2と深さ位置Pd3の間の電位差Vmap2となり、電位差Vmap2を位置データ(Pd2,Pd3)とともにデータベース11に保存する。同様の操作を斜め研磨された表面に沿って繰り返す。これらの、電子線のスキャン、電位測定、深さ位置の算出は自動的に行われる。例えば、深さ位置は、研磨開始位置と電子線照射位置との水平方向の距離及び研磨面の傾斜角に基づき、算出することができる。
【0050】
データベース11に蓄えられた位置データ(Pd1,Pd2),(Pd2,Pd3)等は、シリコン断面の深さを示し、この位置に対応する電位差データVmap1,Vmap2等を、濃淡表示として画像化することにより、断面電圧マップを作成できる。
【実施例7】
【0051】
微小デバイス特性評価装置の第7実施例を
図18に示す。本実施例では、シミュレータを併用する。電気特性マップ像と当該電気特性についてシミュレーションで得られるシミュレーション像とを比較することにより、異なる部分を不良個所として推定することができる。
図18では電気特性マップ像として電圧マップ像を作成する例を示しており、微小デバイス特性評価装置の測定回路の構成は
図1と同じである。なお、電気特性マップ像を作成する電気特性に応じて測定回路を構成することができる。また、電気特性の測定に用いる測定器の例として半導体パラメータアナライザ8の例を示しているが、測定する電気特性に応じて、オシロスコープ、インピーダンスアナライザ、LCRメータなどを用いることができる。
【0052】
シミュレーションは一般に高い演算負荷が生じるため、本実施例での情報処理装置9は、GPU(Graphics Processing Unit)による並列処理計算を可能とする。GPUの並列処理機能を用いて、測定試料の構造から予想される電圧マッピングの2次元シミュレーションを実行するとともに、電圧マップ像作成のためのデータ収集及び画像処理を行う。この場合、GPUのプロセッサの一部を、電圧測定及び、電圧マップ像作成・表示用に確保する。一方で、理論上、どのような電圧マップ像が表示されるかを、測定と並行して把握するため、測定試料5の構造をシミュレーションモデルとし、本構造に電子線が入射されたときに発生する電圧を、試料表面の各位置に対して計算する。
【0053】
測定試料5の実測によって得られる電圧マップ像15をモニタ10bに、上述のシミュレーションにより予想されたシミュレーション像50をモニタ10aに表示し、両者を比較することにより、異常の有無を推測することができる。なお、他の実施態様においても、すなわち、シミュレータの併用に関わらず、GPUによる並列処理計算処理可能な情報処理装置9を適用することは、電気特性マップ像の作成は演算負荷が大きいために有効である。
【実施例8】
【0054】
微小デバイス特性評価装置の第8実施例を
図19に示す。本実施例では、自動的に測定探針3を試料表面の複数のコンタクトに接触させ、自動的に複数の配線構造の電気特性マッピング測定(例えば、電圧マッピング測定)を可能にする。微小デバイス特性評価装置の構成は、電圧マッピング測定を行う場合は、
図1の構成と同じである。自動測定を行うため、情報処理装置9は、測定探針3を所望のコンタクト上に移動させ、接触させるよう、測定探針3の駆動装置を制御する。
図19を用いて第8実施例におけるプロービング位置設定動作を説明する。
【0055】
図19において、試料5の表面に3つのコンタクト55a~cが形成されており、測定探針3aが第1のコンタクト55aに、測定探針3bが第3のコンタクト55cに接触されている状態を示している。自動測定として、測定探針をコンタクト55a,55cに接触させて電気特性マッピング測定を実施後に、測定探針3aをコンタクト55bに移動させ、測定探針をコンタクト55b,55cに接触させた状態で電気特性マッピング測定を行う場合を想定する。情報処理装置9はX,Y,Z方向の3次元の仮想座標56を設定し、仮想座標56に従って測定探針3の移動を制御する。
【0056】
仮想座標56のX方向及びY方向の仮想座標は、微小デバイス特性評価装置により取得するSEM像に基づき設定する(その詳細については第11実施例として後述する)。
図19では説明の都合により、測定試料5に対して、情報処理装置9により設定されるX,Y方向の仮想座標及びZ方向の仮想座標を重ね合わせた状態を表示している。X,Y方向の仮想座標は、SEM像において適宜設定することができ、
図19の例では、第1のコンタクト55aの位置座標を(0,0)であり、移動先となる第2のコンタクト55bの位置座標が(7,5)である。
【0057】
一方、測定探針3は、弾性を有する先端が所定の接触圧でコンタクト55に接触することで適切な接触を得ることができる。このため、接触するコンタクトを移動させるには、先端がコンタクトから一旦、完全に離れた状態になるまでZ方向に移動させ(引き上げ)、その後(X,Y)方向に移動し、再度所定の接触圧で移動先のコンタクトに接触するようZ方向に移動させる(引き下げる)必要がある。このため、コンタクトに適切に接触した状態から完全に離れた状態になるまでの駆動装置によるZ方向の駆動量を把握しておく必要があり、これをZ方向の仮想座標の目盛りにより特定する。
【0058】
具体的には、まず測定探針3をコンタクト55a,55cに接触させた状態で測定試料5に電子線を照射して電圧を測定する。次に、電子線を照射したまま、測定探針3aをZ方向に引き上げていく。Z方向の目盛り5において、測定電圧が0になったとする。この場合、情報処理装置9は、5目盛り分、測定探針3を上下させるよう駆動装置を駆動させることにより、測定探針3のコンタクト55への接触/非接触を制御できることになる。ここで、Z方向の目盛りは、一例として、Z方向への測定探針3の駆動時間を基準にして、任意の時間で等分割し、仮想的に、この時間間隔をZ方向の目盛りとして対応付けることによって実現できる。例えば、Z方向の1目盛りを、駆動装置による測定探針3の5秒間のZ方向への駆動として設定することができる。
【0059】
測定者は、仮想座標を用いて、複数のコンタクトの位置を指定することにより、順次、情報処理装置9は指定された仮想座標(X,Y)を目指して自動的に測定探針3を移動させ、測定試料5のコンタクトに接触させることにより、自動計測を行うことができる。これにより、情報処理装置9は、複数の場所で触診した電圧マップ像をモニタに表示することができ、高い測定スループットを得ることができる。
【0060】
なお、本実施例の仮想座標は、プロービング位置の設定だけでなく、その他、電子線の照射位置の設定にも使用できることができる。
【実施例9】
【0061】
微小デバイス特性評価装置の第9実施例を
図20に示す。本実施例は、実施例5として説明した微小デバイス特性評価装置において、パルス電子線を入射して得られる動的EBAC像との連携解析を可能とする。本実施例の微小デバイス特性評価装置は、動的EBAC像62を取得するため、EBAC制御装置21を有している。測定探針3の出力は切り替え器60により、EBAC制御装置21またはオシロスコープ40に入力される。また、切り替え器60とEBAC制御装置21との間には、測定探針3の出力を増幅するための電圧アンプ61が設けられている。
【0062】
測定試料5に対してパルス電子線を照射し、EBAC制御装置21はパルス電子線と同期して吸収電流量を測定し、情報処理装置9が測定された吸収電流量に基づきEBAC像を作成することにより、通常のEBAC像とは異なる、測定試料における容量成分が反映された動的EBAC像を得ることができる。EBAC観察は試料表面の広範囲の観察を高速で行えるため、動的EBAC観察でおおよその異常個所を確認し、測定処理に時間を有する電気特性マッピング測定については、測定領域を絞り込んでパルス応答マップ像41を作成、解析することにより、効率的に異常検出、解析を行うことが可能になる。
【実施例10】
【0063】
微小デバイス特性評価装置の第10実施例を
図21に示す。本実施例では、電気特性マップ像を取得するための探針とは別の探針から測定試料5に対して電圧信号を印加し、このときに得られるボルテージコントラスト像66と電気特性マップ(電圧マップ)像とを比較可能とするものである。ここで、ボルテージコントラスト像を得るため、探針に印加する信号は、静的な直流信号のみならず、動的な高周波信号など、信号の形態については限定しない。
【0064】
測定探針3は、それぞれ電圧信号印加ケーブル65及び測定ケーブル13を通して、半導体パラメータアナライザ8に接続されている。なお、電圧信号印加ケーブル65は機能として測定ケーブル13と区別しているに過ぎず、アナログ信号を伝達するケーブルであり、測定ケーブル13と同じケーブルを使用して構わない。
【0065】
測定探針3aを通じて、半導体パラメータアナライザ8から所定の電圧信号が測定試料5に対して印加される。情報処理装置9は、検出器2からの検出信号に基づきボルテージコントラスト像66を作成する。一方で、測定探針3bからの出力電圧を半導体パラメータアナライザ8により計測し、電圧マップ像を作成する。電圧マップ像を作成するための測定方法は
図2のフローにしたがうが、
図21の例ではオープン障害のような欠陥検出、解析を目的とし、得られる信号が比較的大きいため、
図1の微小デバイス特性評価装置におけるような差動アンプによる増幅は行なわず、半導体パラメータアナライザ8が測定探針3bからの出力電圧をそのまま測定している。
【実施例11】
【0066】
微小デバイス特性評価装置の第11実施例を
図22~23を用いて説明する。本実施例では、電気特性マッピング測定における仮想座標の設定方法を説明する。第1実施例、第9実施例、第10実施例において他の評価手法との連携解析する例を説明した。このような連携解析においては、他の評価手法により得られる像と電気特性マップ像とを比較したい場合があり、このときに位置関係の整合がとれなければ、複数の評価手法によって得られた結果を比較、照合することが難しくなる。あるいは、他の評価手法により得られる像から測定領域を特定して電気特性マップ像を作成するにも位置関係の整合をとる必要がある。さらには、第2実施例(
図13参照)では電気特性マップ像において領域を指定して測定値をグラフ化しているが、SEM像や他の評価手法により得られる像、例えばEBAC像から領域を指定して電気特性を測定し、測定値をグラフ化するようなGUIも考えられる。このため、第11実施例では、情報処理装置9が検出器2からの検出信号に基づき作成するSEM像を基準として、各種電気特性マップ像、EBAC像、ボルテージコントラスト像との位置関係を整合させる。SEM像を基準とするのは、SEM像には試料の構造が詳細に表れており、仮想座標を設定するための基準位置の設定が容易であるためである。微小デバイス特性評価装置の構成は
図1の構成と同様であるが、測定する電気特性、及び適用する評価手法に応じて測定回路が構成される。
【0067】
図22は、微小デバイス特性評価装置が取得したSEM像70の例である。SEM像の視野は、評価対象とする領域に応じて設定する。この例では試料表面に2本の配線71,72が観察できる。そこで、配線71,72の角のうち、3カ所を第1のマーカ73、第2のマーカ74、第3のマーカ75とそれぞれ合わせ、これらを基準位置として情報処理装置9に登録する。なお、マーカは後述するように仮想2次元座標の基準となるものであるから、最低3つ必要であり、マーカの位置はSEM像70において互いにできるだけ離れた位置に設定することが望ましい。また、この例では配線の角を目印としてマーカを設定したが、目印とする試料の構造は配線には限定されない。試料の構造に限らず、異物のようなものであってもよい。また、マーカ73~75の形状も図示のものに限定されない。
【0068】
次に、仮想座標(X,Y)を設定する。例えば、
図23に示すように、第1のマーカ73を原点(0,0)として、仮想2次元座標76を情報処理装置9により設定する。このSEM像に基づき設定した仮想座標に基づき、EBAC像、電気特性マップ像と位置関係を対応づける。
【0069】
撮像条件を変更しない、具体的には視野や倍率を変更しない場合には、電子線が操作される範囲がSEM像を作成した場合と同じであるため、SEM像で作成した仮想2次元座標76による試料表面の位置関係は、EBAC像や電気特性マップ像ともに同じものとして共有することができる。一方、視野や倍率を変更する場合は、SEM像を取得したときとEBAC像あるいは電気特性マップ像を取得したときの撮像条件(電子線の偏向制御量、倍率の変更量等)に基づき、仮想座標を座標変換することにより、EBAC像、電気特性マップ像それぞれについて仮想座標により指定した位置に対応するEBAC像、電気特性マップ像の位置を特定することができる。これによって、例えば、EBAC像において指定された位置に対応する電気特性マップ像上の測定データを得たいときには、EBAC像において指定された位置を仮想座標上の位置に変換し、仮想座標により電気特性マップ像における位置を特定することで、その測定値を得ることができる。
【0070】
以上、本発明を複数の実施例を用いて説明した。本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0071】
1:電子光学系、 2:検出器、3:測定探針、4:真空チャンバ、5:測定試料、6:試料台、7:差動アンプ、8:半導体パラメータアナライザ、9:情報処理装置、10:モニタ、11:データベース、12:制御装置、13:測定ケーブル、14:通信ケーブル、15:電圧マップ像、21:EBAC制御装置、22:EBAC像、40:オシロスコープ、41:パルス応答マップ像、50:シミュレーション像、55:コンタクト、56:仮想座標、62:動的EBAC像、65:電圧信号印加ケーブル、66:ボルテージコントラスト像、70:SEM像、71,72:配線、73,74,75:マーカ、76:仮想2次元座標。