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特許7159535タングステン酸リチウム、タングステン酸リチウムの製造方法、タングステン酸リチウムの製造装置、非水系電解質二次電池用正極材料、及び非水系電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】タングステン酸リチウム、タングステン酸リチウムの製造方法、タングステン酸リチウムの製造装置、非水系電解質二次電池用正極材料、及び非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221018BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221018BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
C01G41/00 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2017013472
(22)【出願日】2017-01-27
(65)【公開番号】P2018120831
(43)【公開日】2018-08-02
【審査請求日】2019-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】相原 俊明
(72)【発明者】
【氏名】戸屋 広将
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-238581(JP,A)
【文献】特開2016-225277(JP,A)
【文献】特開2013-095647(JP,A)
【文献】特開2001-080920(JP,A)
【文献】特開昭63-245871(JP,A)
【文献】特開2016-167439(JP,A)
【文献】特開2013-171785(JP,A)
【文献】特開2013-152866(JP,A)
【文献】特開2016-183090(JP,A)
【文献】荒川 正文,粒度測定入門,粉体工学会誌,日本,1980年06月10日,Vol.17, No.6,pp. 299-307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C01G 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:LiWO・(HO)(0.4≦a≦6、3≦b≦6、0≦n≦4)で表され、レーザー回折散乱法における体積基準の平均粒径D50が5μm以上100μm以下であり、安息角が30°以上60°以下である、非水系電解質二次電池用正極材料に用いられる、タングステン酸リチウムであって、
無水物と水和物の混合物または無水物であり、前記無水物の質量と前記水和物の質量の合計に対する、前記無水物の質量の比率(無水物/(無水物+水和物))が0.75以上1.0以下である、タングステン酸リチウム
【請求項2】
粉末X線回折装置によりCuKα線を用いてX線回折測定をした時、前記無水物の最大回折ピーク強度が、前記水和物の最大回折ピーク強度の3倍以上である、請求項に記載のタングステン酸リチウム。
【請求項3】
前記無水物が化学式:LiWOで表される、請求項または請求項に記載のタングステン酸リチウム。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のタングステン酸リチウムの製造方法であって、
少なくとも1種のタングステン化合物と、水酸化リチウムおよび水酸化リチウム水和物の少なくとも1種と、溶媒とを混合し、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を得ることと、得られたタングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥することと、を含む、タングステン酸リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記溶媒は、前記タングステン化合物の質量と酸化リチウムおよび水酸化リチウム水和物の少なくとも1種の質量との合計に対する、前記溶媒の質量の比率が0.7以上である、請求項に記載のタングステン酸リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液を得る際、前記溶媒及び前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液は、前記混合中から前記乾燥の前まで、温度が25℃以上60℃以下に制御される、請求項または請求項に記載のタングステン酸リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥する際、乾燥温度を80℃以上とし、乾燥時間10分以内に水分率1.5%以下に乾燥することを含む、請求項から請求項のいずれか一項に記載のタングステン酸リチウムの製造方法。
【請求項8】
前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥する際、前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液を加熱した媒体に接触させて乾燥させる、請求項から請求項のいずれか一項に記載に記載のタングステン酸リチウムの製造方法。
【請求項9】
前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥する際、前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液を噴霧乾燥により乾燥させることを含む、請求項から請求項のいずれか一項に記載のタングステン酸リチウムの製造方法。
【請求項10】
前記タングステン化合物は、酸化タングステンおよびタングステン酸、タングステン酸塩の少なくとも1種である、請求項から請求項のいずれか一項に記載のタングステン酸リチウムの製造方法。
【請求項11】
前記溶媒は水である、請求項から請求項10のいずれか一項に記載のタングステン酸リチウムの製造方法。
【請求項12】
請求項に記載のタングステン-リチウム化合物を含む溶液の乾燥に用いる装置であって、
前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液を噴霧する噴霧部と、
前記噴霧部により噴霧された前記タングステン-リチウム化合物の溶液を乾燥する加熱部と、を備える、タングステン酸リチウムの製造装置。
【請求項13】
前記加熱部は、前記噴霧部により噴霧された前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液が接触し乾燥する媒体を備え、前記噴霧部により噴霧された前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液が接触した状態において前記媒体を80度以上に保持し、且つ前記タングステン-リチウム化合物を含む溶液を、前記媒体に接触してから10分以内に1.5%以下にする、請求項12に記載のタングステン酸リチウムの製造装置。
【請求項14】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のタングステン酸リチウムを含む、非水系電解質二次電池用正極材料。
【請求項15】
請求項14に記載の非水系電解質二次電池用正極活材料を含む、非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン酸リチウム、タングステン酸リチウムの製造方法、タングステン酸リチウムの製造装置、非水系電解質二次電池用正極材料、及び非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量なリチウムイオン二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用途に適した高出力二次電池の開発も強く望まれている。このような要望を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池などの非水系電解質二次電池がある。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料が用いられる。これまでに提案されている正極活物質としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、さらに安価なマンガンを用いて安全性に優れたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3など)、スピネル系リチウムマンガン複合酸化物(LiMn)などが挙げられる。中でも、リチウムニッケル複合酸化物、およびリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、サイクル特性が良く、低抵抗で高出力が得られる電池特性に優れた材料として注目されている。また、近年、二次電池のさらなる高出力化に必要な二次電池の低抵抗化に関する技術が重要視されている。
【0004】
ところで、電池特性を改善する方法として、上記した元素以外の他種の元素の正極活物質への添加が検討されており、特にW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属元素が有効であることが報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に、層状あるいは島状のタングステン酸リチウム化合物あるいはその水和物を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が記載されている。また、上記タングステン酸リチウム化合物として、LiWO、LiWO、LiWO、Li13、Li、Li、Li、Li16、Li1955、Li1030、Li1815、またはこれらの水和物から選択されるタングステン酸リチウムを、少なくとも1種含むことが記載されている。特許文献1によれば、高容量と共に高出力が実現可能な非水系電解質二次電池用正極活物質が得られるとしている。
【0006】
また、特許文献2には、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物などのリチウム金属複合酸化物粉末にタングステン酸リチウムを混合することにより、充放電容量を維持しながら出力特性を向上させたリチウムイオン二次電池用正極材料が得られることが記載されている。また、タングステン酸リチウムは正極材料内に均一に分散させる必要があり、タングステン酸リチウムの平均粒子径は0.1~10μmとすることが好ましく、0.1~5μmとすることがより好ましいことが記載されている。特許文献2によれば、平均粒子径が0.1μm未満では、十分なリチウムイオン伝導性を有しない微細なタングステン酸リチウムの粒子が含まれ、このような微粒子が多く存在する部分では上記の出力特性向上効果が得られず、結果的に不均一に分散された場合と同様にサイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇が起きることがあり、一方、平均粒子径が10μmを超えると、正極材料内にタングステン酸リチウムを均一に分散させることが困難で、反応抵抗の低減効果が十分に得られない場合がある、としている。
【0007】
また、特許文献3には、一般式LiWO(0.3≦a≦6.0、3.0≦b≦6.0)で表されるタングステン酸リチウムの製造方法であって、酸化タングステン及びタングステン酸の少なくとも1種からなるタングステン源と、水酸化リチウム及びその水和物の少なくとも1種からなるリチウム源とを、質量比で前記タングステン源に対して0.01以上の水を添加して湿式混合を施し、タングステン混合物を得る混合工程と、得られたタングステン混合物に加熱・乾燥処理を施して乾燥物を得る乾燥工程と、前記乾燥物を解砕する解砕工程と、を有することを特徴とするタングステン酸リチウムの製造方法が記載されている。特許文献3によれば、電池の正極材に用いられた場合に高容量とともに高出力が実現可能な非水系電解質二次電池用正極活物質が、容易に工業的規模で得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-152866号公報
【文献】特開2013-171785号公報
【文献】特開2016-183090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1~特許文献3には、正極材料としてタングステン酸リチウムを添加することにより、電池特性が向上することが記載されている。
【0010】
本発明は、非水系電解質二次電池の正極材料に添加するタングステン酸リチウムの性状を最適化し、効率的かつ低コストである製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、リチウムイオン二次電池の正極材料への添加に適したタングステン酸リチウムの特性及びその製造方法を見出した。本発明は、このような技術的発見に基づき完成され、以下の発明の態様を含む。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、一般式:LiWO・(HO)(0.4≦a≦6、3≦b≦6、0≦n≦4)で表され、平均粒径が5μm以上100μm以下であり、安息角が30°以上60°以下である、非水系電解質二次電池用正極材料に用いられる、タングステン酸リチウムが提供される。
【0013】
また、無水物と水和物の混合物または無水物であり、無水物の質量と水和物の質量の合計に対する、無水物の質量の比率(無水物/(無水物+水和物))が0.75以上1.0以下であることが好ましい。また、粉末X線回折装置によりCuKα線を用いてX線回折測定をした時、無水物の最大回折ピーク強度が、水和物の最大回折ピーク強度の3倍以上であることが好ましい。また、無水物が化学式:LiWOで表されることが好ましい。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、上記タングステン酸リチウムの製造方法であって、少なくとも1種のタングステン化合物、水酸化リチウムおよび水酸化リチウム水和物の少なくとも1種、及び溶媒を混合し、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を得ることと、得られたタングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥することと、を含む、タングステン酸リチウムの製造方法が提供される。
【0015】
また、溶媒は、タングステン化合物の質量と酸化リチウムおよび水酸化リチウム水和物の少なくとも1種の質量との合計に対する、溶媒の質量の比率が0.7以上であることが好ましい。また、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を得る際、溶媒及びタングステン-リチウム化合物を含む溶液は、混合中から乾燥の前まで、温度が25℃以上60℃以下に制御されることが好ましい。また、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥する際、乾燥温度を80℃以上とし、乾燥時間10分以内に水分率1.5%以下に乾燥することを含むことが好ましい。また、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥する際、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を加熱した媒体に接触させて乾燥させることが好ましい。また、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥する際、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を噴霧乾燥により乾燥させることを含むことが好ましい。また、タングステン化合物は、酸化タングステンおよびタングステン酸、タングステン酸塩の少なくとも1種であることが好ましい。また、溶媒は水であることが好ましい。
【0016】
本発明の第3の態様によれば、上記タングステン-リチウム化合物を含む溶液の乾燥に用いる装置であって、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を噴霧する噴霧部と、噴霧部により噴霧されたタングステン-リチウム化合物の溶液を乾燥する加熱部と、を備える、タングステン酸リチウムの製造装置が提供される。
【0017】
また、加熱部は、噴霧部により噴霧されたタングステン-リチウム化合物を含む溶液が接触し乾燥する媒体を備え、噴霧部により噴霧されたタングステン-リチウム化合物を含む溶液が接触した状態において媒体を80度以上に保持し、且つタングステン-リチウム化合物を含む溶液を、媒体に接触してから10分以内に1.5%以下にすることが好ましい。
【0018】
本発明の第4の態様によれば、上記タングステン酸リチウムを含む、非水系電解質二次電池用正極材料が提供される。
【0019】
本発明の第5の態様によれば、上記非水系電解質二次電池用正極活材料を含む、非水系電解質二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るタングステン酸リチウムは、非水系電解質二次電池の正極材料として用いられる場合、二次電池の電池容量及び出力特性を向上させる。また、本発明に係るタングステン酸リチウムの製造方法は、上記タングステン酸リチウムを簡単かつ効率的に製造することができる。また、本発明に係るタングステン酸リチウムの製造装置は、上記タングステン酸リチウムの製造方法に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1のタングステン酸リチウムのX線回折パターンを示す図である。
図2】実施形態に係るタングステン酸リチウムの製造方法のフローチャートである。
図3】実施形態に係るタングステン酸リチウムの製造装置を示す概念図である。
図4】電池評価に使用したコイン型電池の概略断面図である。
図5】インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
図6】比較例4のタングステン酸リチウムのX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。また、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。まず、実施形態に係るタングステン酸リチウムを説明し、続いて、実施形態のタングステン酸リチウムの製造方法について説明する。
【0023】
[タングステン酸リチウム]
実施形態に係るタングステン酸リチウムは、一般式:LiWO・(HO)(0.4≦a≦6、3≦b≦6、0≦n≦4)で表され、平均粒径が5μm以上100μm以下であり、安息角が30°以上60°以下である。このタングステン酸リチウムは、リチウムイオン二次電池などの非水系電解質二次電池用正極材料に用いられた場合、優れた粉体特性を有し、容易に正極材料内に均一に分散して、電池容量、及び出力特性を向上させることができる。
【0024】
タングステン酸リチウムの組成は、上記の一般式(1)を満たす組成であれば、特に限定されない。上記一般式(1)中、LiWOは、例えば、LiWO、LiWO、LiWO4.5(Li)、LiWO、Li0.5WO3.25(Li13)、LiWO3.5(Li)、LiWO4.5(Li)、LiWO3.5(Li)、Li0.4WO(Li16)、Li4.73WO6.11(Li1955)、Li0.3WO(Li1030)、Li3.6WO(Li1815)等で表される。また、上記一般式(1)中、(HO)のnが0≦n≦4で表され、無水物、水和物、または無水物と水和物との混合物である。
【0025】
タングステン酸リチウムは、水和物よりも無水物の含有量が高い方が好ましい。タングステン酸リチウムは、無水物の方が水和物よりも水へ溶けやすいため、正極活物質表面に分散させる際、湿式で正極活物質と混合することにより、正極活物質全体に均一に分散させることが容易となるまた、タングステン酸リチウム水和物の含有量が多い場合、正極を製造する際、タングステン酸リチウム水和物中の結晶水が脱離し、正極材料を劣化させたり、正極合材ペーストのゲル化を促進させたりすることがある。
【0026】
タングステン酸リチウムは、水への溶解性の観点から、無水物の中でも、LiWO4、LiWOであるのが好ましく、LiWOであるのがより好ましい。また、LiWOである場合、製造が簡便であるので好ましい。タングステン酸リチウムは、LiWOを含むのが好ましく、LiWOからなるのがより好ましい。
【0027】
タングステン酸リチウムは、上述したように無水物を含むのが好ましく、無水物と水和物の総量に対する、無水物の質量比率(無水物/(無水物+水和物))が0.75以上1.0以下であるのがより好ましく、0.85以上1.0以下であるのがより好ましく、0.90以上1.0以下であるのがより好ましく、0.95以上1.0以下であるのが特に好ましく、1.0であるのがさらに好ましい。無水物と水和物との比率が上記の範囲である場合、上記した水による影響を抑制し、正極活物質に均一に分散させ、正極活物質の反応抵抗を低減することができる。なお、本実施形態の質量比率は、熱質量分析計(例、ブルカー社製、TG-DTA2020SR)により、空気中で、昇温速度20℃/minで1100℃まで昇温させた時の質量変化から求めた値である。
【0028】
タングステン酸リチウムは、例えば、粉末X線回折装置によりCuKα線を用いてX線回折測定をした時、無水物の最大回折ピーク強度が、水和物の最大回折ピーク強度の3倍以上であるのが好ましい。タングステン酸リチウムは、X線回折ピークが上記の範囲である場合、タングステン酸リチウムの無水物が十分に存在し、正極活物質に均一に分散させることができる。
【0029】
タングステン酸リチウムは、水分率が低い方が好ましい。例えば、タングステン酸リチウムは、水分率が、2.5%以下であるのが好ましく、2.0%以下であるのがより好ましく、1.7%以下であるのがより好ましく、1.5%以下であるのがさらに好ましい。なお、水分率は、大気乾燥機内で、105℃で2hr乾燥した前後のタングステン酸リチウムの質量の差から算出した値である。
【0030】
タングステン酸リチウムの結晶構造は、特に限定されないが、例えば、タングステン酸リチウムの無水物がLiWOである場合、結晶構造は、菱面体晶系の結晶構造(例:実施例1、図1のX線回折ピーク参照)である。
【0031】
タングステン酸リチウムは、平均粒径が5μm以上100μm以下であり、10μm以上60μm以下であるのがより好ましく、20μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。タングステン酸リチウムは、平均粒径が上記の範囲である場合、正極活物質の反応抵抗をより低減することができる。タングステン酸リチウムの平均粒径は、公知の方法(例、噴霧乾燥条件、分散液濃度、解砕、分級)などにより、制御することができる。なお、本実施形態のタングステン酸リチウムは、平均粒径が30μmを超えるである場合でも、上記効果を十分発揮することができる。なお、タングステン酸リチウムの平均粒径は、レーザー回折散乱法における体積基準平均粒径D50を測定した値である。
【0032】
タングステン酸リチウムは、安息角が、30度以上60度以下、好ましくは37度以上58度である。タングステン酸リチウムは、安息角が上記範囲である場合、粉体特性が良好となり、ハンドリングが容易である。例えば、タングステン酸リチウムは、実施例に示すように、流動性が良く、ホッパー内で棚吊りや壁面への付着を起こすことが抑制される。なお、安息角はセイシン企業社製マルチテスターMT-1000を用いて注入法により測定した値である。
【0033】
[タングステン酸リチウムの製造方法]
次に、実施形態に係るタングステン酸リチウムの製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)について説明する。図2は、実施形態に係るタングステン酸リチウムの製造方法の一例を示すフローチャートである。本製造方法により、上記した本実施形態のタングステン酸リチウムを簡単かつ効率的に製造することができる。
【0034】
本実施形態に係る製造方法は、少なくとも1種のタングステン化合物と、水酸化リチウムおよび水酸化リチウム水和物の少なくとも1種と、溶媒とを混合し、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を得ること(ステップS1)と、得られたタングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥すること(ステップS2)とを含む。以下、各ステップについて、説明する。
【0035】
(タングステン-リチウム化合物の合成)
まず、少なくとも1種のタングステン化合物(以下、「タングステン源」ともいう。)、水酸化リチウムおよび水酸化リチウム水和物の少なくとも1種(以下、「リチウム源」ともいう。)、及び溶媒を混合し、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を得る(ステップS1)。例えば、ステップS1では、タングステン源とリチウム源とを、溶媒に添加して混合し、タングステン-リチウム化合物の合成反応を行う。
【0036】
タングステン化合物(タングステン源)は、特に限定されないが、タングステン酸リチウムを形成した際に、有害な不純物が残留せず、高純度のものが得られ、水酸化リチウムとの反応性も高く、容易にタングステン酸リチウムが得られるものが好ましい。タングステン化合物は、例えば、酸化タングステン(WO)、タングステン酸(HWO)、及びタングステン酸塩の少なくとも1種を用いることができ、これらの中でも酸化タングステン、タングステン酸の少なくとも1種が好ましい。
【0037】
リチウム源である水酸化リチウムおよび水酸化リチウム水和物の少なくとも1種は、タングステン酸リチウムを形成した際に、有害な不純物が残留せず、高純度のものが得られる。溶媒は水を用いることができる。
【0038】
タングステン源とリチウム源とは、リチウムのモル量がタングステンのモル量に対して(Li/Wモル比)、0.4倍量以上6倍量以下となるようにして混合する。Li/Wモル比は、上記の一般式(1)に示されるように、目的とするタングステン酸リチウムの組成に応じて調整される。リチウムのモル量がタングステンのモル量に対して0.4倍以下の場合、リチウムと反応しないタングステン源が残留し、その結果、電池特性改善効果を効率的に発現させることができないことがある。一方、リチウムのモル量がタングステンのモル量に対して6倍以上では未反応のリチウム源が残留し、その結果、正極活物質(正極材料)が過度にアルカリ化することで電池製造時にゲル化を起こしたり、電池の熱安定性を低下させたりすることがある。
【0039】
タングステン-リチウム化合物の合成反応を行う際は、タングステン-リチウム化合物を含む溶液の温度を60℃以下に保持(制御)することが好ましい。タングステン-リチウム化合物を含む溶液を上記範囲に保持する方法としては、例えば、タングステン-リチウム化合物を含む溶液の反応容器を、冷却ジャケット付きのものにして冷却しつつ混合するなどの方法が好ましい。また、タングステン-リチウム化合物水溶液の温度が、25℃未満である場合、タングステン酸リチウムが析出し、後の乾燥工程でタングステン酸リチウムの性状を制御することが困難になることがあるため、25℃以上に加温(制御)することが好ましい。
【0040】
タングステン源(タングステン化合物)とリチウム源(水酸化リチウムなど)の反応は発熱反応である。例えば、酸化タングステンと水酸化リチウムを反応させる際に、添加する水の質量を、酸化タングステン及び水酸化リチウムの合計質量に対する比で、1とし、添加する前の水の液温が25℃だった場合、液温は一時的に60℃を超えて上昇する。ここで、タングステン酸リチウムは60℃を超えて保持されるとタングステン酸リチウム水和物の結晶を生成してしまい、タングステン酸リチウムの無水物を優勢的に得ることが困難となる。そして、タングステン酸リチウム水和物は、結晶水を含んでいるため、製造方法によっては、リチウムイオン二次電池の正極材料に混合した際に、その結晶水が脱離しリチウムイオン二次電池正極材料を劣化させる、あるいはリチウムイオン二次電池用正極材料と導電助剤、結着剤および溶媒を混合し正極材料ペーストを作製する際にゲル化を発生させ、その後の塗工工程の生産性を著しく悪化させるなどの悪影響がある。よって、タングステン-リチウム化合物を含む溶液の温度を上記に制御することにより、無水物のタングステン酸リチウムをより優勢的に製造することができる。
【0041】
タングステン源とリチウム源を混合する際に用いる水(溶媒)の量は、タングステン源とリチウム源との合計質量に対して0.7倍以上にすることが好ましい。水(溶媒)をタングステン源とリチウム源の合計質量に対して0.7倍以上で混合した場合、上記の発熱反応により生成されるタングステン-リチウム化合物を含む溶液の液温を60℃以下に安定して保持することが容易になり、タングステン酸リチウム水和物の生成を抑制することができる。一方、水(溶媒)の添加量が多いほど、乾燥の際に熱量が多く必要になることから、水(溶媒)の添加量は、タングステン源とリチウム源の合計質量に対して1.2倍程度までに抑えるのが好ましい。したがって、タングステン源とリチウム源を混合する際に添加する水(溶媒)の量は、タングステン源とリチウム源の合計質量に対して0.7倍以上1.2倍以下程度が好ましい。
【0042】
タングステン源とリチウム源との混合に用いる装置は、タングステン源とリチウム源を均一になるように混合し、反応させることが可能なものであれば、特に制限されない。例えば、このような装置として、シェーカーミキサー、撹拌混合機、ロッキングミキサーなど種々の混合機を、添加する水の量に応じて選択して用いることができる。タングステン源とリチウム源との混合の時間は、タングステン源とリチウム源が反応する時間であればよく、通常は1分間以上であればよいが、用いるタングステン源とリチウム源の性状によりさらに長時間混合しても良い。混合の時間は、例えば、1分以上60分以下とすることができる。
【0043】
ステップS1で得られるタングステン-リチウム化合物は、タングステン源とリチウム源が反応して生成されたタングステン酸リチウムを含む。タングステン-リチウム化合物は、乾燥させることで、本実施形態に係るタングステン酸リチウムが得られる。
【0044】
(乾燥)
続いて、図2のステップS2において、上記のステップS1で得られたタングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥する。これにより、本実施形態のタングステン酸リチウムを得る。以下、ステップS2において、ステップS1で合成したタングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥により結晶化させ、タングステン酸リチウムを得る例を説明する。
【0045】
ステップS2の乾燥では、例えば、噴霧乾燥機、気流乾燥機、加熱プレート接触式乾燥機などを用いることができる。乾燥温度は80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上の温度で短時間に乾燥させることが好ましい。前述のように、タングステン-リチウム化合物の水溶液は60℃以上に保持されるとタングステン酸リチウム水和物がより多く析出してしまうことがあるため、乾燥時にも、60℃以上に保持される時間は短いことが望ましい。また、乾燥時間は、例えば、10分以下であるのが好ましい。例えば、乾燥は、乾燥温度を上記の範囲とし、乾燥時間10分以内に、タングステン-リチウム化合物を含む溶液が水分率1.5%以下になるように乾燥するのが好ましい。このような条件で乾燥を行う場合、簡単かつ短時間な乾燥の工程で、水和物の生成を抑制して、無水物の含有量が高いタングステン酸リチウムを製造することができる。
【0046】
上記乾燥は、例えば、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を加熱した媒体に接触させて乾燥させることにより行う。この場合、タングステン-リチウム化合物を含む溶液が加熱した媒体に接触するので、効率よく乾燥させることができる。例えば、この乾燥は、噴霧乾燥により行うことができる。噴霧乾燥では、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を所定の大きさの溶液(液状粒子)に分割して、加熱した媒体に接触させる。噴霧乾燥の場合、乾燥させる溶液を所定の大きさに微粒化して乾燥するので、上記のように短い乾燥時間で、簡単に、上記した本実施形態のタングステン酸リチウム粒子を製造することができる。例えば、下記のように噴霧乾燥を行うことにより、短時間で簡単な1工程の噴霧乾燥により、本実施形態のタングステン酸リチウム粒子を製造することができる。
【0047】
例えば、噴霧乾燥において、噴霧乾燥機、気流乾燥機などの気体と混合するタイプの乾燥機を用いる場合、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を乾燥缶体内に、一般の1流体ノズル、2流体ノズル、遠心噴霧ノズルなどのノズルを用いて噴霧することにより、120℃~250℃に加熱した気体(媒体)と混合し、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を微粒化し乾燥させる。これらの噴霧乾燥の場合、乾燥時間を10分以内に、タングステン-リチウム化合物を含む溶液が水分率1.5%以下になるように乾燥することができる。なお、この際に用いる気体は、特に制限はないが、例えば、不活性ガスもしくは8g/kg以下に除湿された空気を用いることが望ましい。用いる気体の水分量が多いとタングステン酸リチウムの水和物の生成割合が増加するためである。目的とする物性のタングステン酸リチウムは、噴霧条件(タングステン-リチウム化合物を含む液の条件を含む)を調整することにより得ることができる。この噴霧乾燥の条件は、装置の種類、乾燥条件などに応じて任意に設定されるものであるが、当業者において公知の手法であり、予備実験により設定することができる。例えば、タングステン-リチウムの平均粒径は、タングステン-リチウム化合物を含む溶液またはスラリーを噴霧により微粒化する条件等を変えることにより、制御可能である。
【0048】
以上の説明のように、ステップS2により、実施形態に係るタングステン酸リチウムが製造される。製造されたタングステン酸リチウムは、大気中の水分を吸収して水分率が高くならないように、保存される。
【0049】
なお、上記ステップS2の乾燥は、噴霧乾燥に限定されず、噴霧乾燥以外の方法で行ってもよい。例えば、乾燥は、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を、加熱プレート(加熱した媒体)に接触させることにより行ってもよい。この場合、タングステン-リチウム化合物を含む溶液に、加熱プレート(加熱した媒体)を挿入し引き上げることにより乾燥を行ってもよいし、タングステン-リチウム化合物を含む溶液を、加熱プレート(加熱した媒体)に噴霧してもよい。タングステン-リチウム化合物を含む溶液を、加熱プレート(加熱した媒体)に噴霧する場合、実施例3に示すように、加熱プレート(加熱した媒体)を回転させながらタングステン-リチウム化合物を含む溶液を噴霧してもよい。また、ステップS2の乾燥は、2段階に分けて行ってもよい。例えば、上記した噴霧乾燥を行った後、さらに、条件を変えて乾燥を行ってもよい。
【0050】
[タングステン酸リチウムの製造装置]
例えば、上記の乾燥は、実施形態に係るタングステン酸リチウムの製造装置を用いて容易に行うことができる。図3は、実施形態に係るタングステン酸リチウムの製造装置を示す概念図である。
【0051】
タングステン酸リチウムの製造装置AP(以下、「製造装置AP」」ともいう。)は、タングステン-リチウム化合物を含む溶液L(以下、「溶液L」ともいう。)を噴霧する噴霧部10と、噴霧部10により噴霧された溶液Lを乾燥する加熱部11と、回収部12と、を備える。
【0052】
加熱部11は、噴霧部10により噴霧された溶液Lが接触し乾燥する媒体Mを備える。加熱部11は、媒体Mを内部に収容する。媒体Mは、例えば、空気や不活性ガス等の気体である。噴霧部10は、例えば、ノズルあるいはディスク(遠心ディスク、ロータリアトマイザ)である。噴霧部10は、例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、遠心噴霧ノズルである。噴霧部10は、溶液Lを所定の大きさに分割(微粒化)して、加熱部11内の媒体Mに噴霧する。噴霧部10には、溶液Lが、ポンプ(図示せず)などにより供給される。
【0053】
加熱部11は、媒体Mを加熱する加熱装置13を備える。加熱部11は、加熱装置13により媒体Mを加熱して、加熱部11の内部に供給する。加熱部11内の媒体Mは、例えば、120℃以上250℃以下の範囲の温度に保持される。媒体Mの温度が上記範囲である場合、溶液Lの水分率を容易に1.5%以下となるように乾燥させることができる。例えば、加熱部11は、コンプレッサ(図示せず)などにより、加熱部11の内部に加熱した媒体Mを供給することにより、噴霧部10により噴霧された溶液Lと接触させる。加熱部11は、媒体Mが噴霧部10により噴霧された溶液Lが接触した状態において媒体Mを80℃以上に保持し、且つ溶液Lを、媒体Mに接触してから10分以内に水分率1.5%以下となるように乾燥させる。すなわち、加熱部11は、噴霧部10により噴霧された溶液Lを、80℃以上、10分以内に水分率1.5%以下に乾燥させる。これにより、溶液Lが乾燥しタングステン酸リチウムが製造される。
【0054】
製造されたタングステン酸リチウムは、例えば、加熱した媒体Mの排気とともに回収部12に回収される。なお、気体は、特に制限されないが、用いる媒体Mの水分量が多いとタングステン酸リチウムの水和物の生成割合が増加するため、不活性ガスもしくは8g/kg以下に除湿された空気を用いるのが望ましい。
【0055】
以上のように、本実施形態のタングステン酸リチウムの製造装置APは、噴霧部10により所定の大きさに微細化して噴霧されたタングステン-リチウム化合物を含む溶液Lを、加熱した媒体Mに接触させ、80度以上、10分以内に1.5%以下に乾燥した状態、すなわち、水和物の生成を抑制して、無水物の含有量が高いタングステン酸リチウムを簡単かつ短時間で製造することができる。本実施形態のタングステン酸リチウムの製造装置は、上記の特性を有するので、上記した本実施形態の製造方法に好適に用いることができる。
【0056】
なお、上記した加熱部11は、加熱した気体を噴霧部10のノズルに供給しなくてもよい。例えば、加熱部11は、加熱した気体を、加熱部11の内部に供給してもよい。なお、上記の例では、加熱部11が加熱する媒体Mを気体である例を説明したが、媒体Mは気体でなくてもよい。例えば、媒体Mは金属などで形成される部材(例、実施例3のディスク)でもよい。
【0057】
[正極材料]
以下、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極材料(以下、単に「正極材料」という。)について説明する。本実施形態に係る正極材料は、上記した実施形態に係るタングステン酸リチウムを含む。
【0058】
例えば、タングステン酸リチウムは、チウムイオン伝導性が高く、リチウムイオンの移動を促す効果があるため、特許文献2、特許文献3などに記載されるような、従来公知の正極活物質の表面に付着させることにより、正極において、電解液との界面でLiの伝導パスを形成して、充放電容量を維持しながら、正極活物質の反応抵抗が低減され、その結果非水系電解質二次電池の出力特性を向上させることができる。
【0059】
正極活物質としては、特に限定されず、例えば、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物などを用いることができる。また、これら以外の一般的に使用されるリチウム二次電池用正極活物質を用いることができる。
【0060】
以下、タングステン酸リチウムを粒子表面に有する正極活物質の製造方法の一例について、正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物粉末を用いた場合について、説明する。
(混合工程)
まず、上記の本実施形態のタングステン酸リチウムを、母材として用いるリチウムニッケル複合酸化物粉末及び水と混合し、リチウムニッケル複合酸化物粉末中にタングステン酸リチウムを分散させたタングステン酸リチウム混合物(以下、「LWO混合物」ともいう。)を得る。
【0061】
水が存在する状態でタングステン酸リチウムをリチウムニッケル複合酸化物粉末と混合する、すなわち、水を含んだLWO混合物を得ることで、後工程の熱処理時における加熱により、タングステン酸リチウムが水に溶解してリチウムニッケル複合酸化物粉末の一次粒子表面にタングステンを均一に分散させることができる。
【0062】
上記の混合工程においては、水が存在する状態でタングステン酸リチウムが混合されればよく、タングステン酸リチウムのリチウムニッケル複合酸化物粉末への混合は、スラリー状態で混合する、もしくはスラリーとした後に固液分離した状態で混合する、少量の水とともに混合するなど、リチウムニッケル複合酸化物粉末が水を含んだ粉末状態での混合のいずれでも可能である。また、リチウムニッケル複合酸化物粉末を水洗した後、固液分離して、水分を少量含む状態で、タングステン酸リチウムを混合してもよい。上述した本実施形態の製造方法により得られたタングステン酸リチウムは、粉体特性が良好で、分散性が高いため、少量の水分量でも、正極活物質と十分に混合することができる。
【0063】
混合工程に用いられるタングテン酸リチウムは、水分を含んだ粉末状態で混合する場合は、LiWO、Li、LiWOなどの無水物が好ましく用いられ、20~30℃程度でも水への溶解度をもつLiWO、LiWOなどの無水物を含むことがより好ましい。上述した本実施形態の製造方法により得られたタングステン酸リチウムは、水に溶けやすく、分散性が高いため、効率よく、より均一に分散した状態とすることができる。また、本実施形態のタングステン酸リチウムの製造方法を用いることにより、無水物を好適な割合で含むタングステン酸リチウムを容易に得ることができる。
【0064】
LWO混合物中のタングテン酸リチウムに含まれるタングステン量は、混合するリチウムニッケル複合酸化物粉末に含まれるニッケル、コバルトおよびMの原子数の合計(Me)に対して、0.01~3.0原子%となるように調整することが好ましい。
【0065】
このような混合においては、一般的な混合機を用いることができ、例えば、シェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いてリチウムニッケル複合酸化物の形骸が破壊されない程度で十分に混合してやればよい。
【0066】
(乾燥工程)
次いで、上記の混合工程により得られたLWO混合物を、乾燥して、リチウムニッケル複合酸化物粉末の一次粒子表面にタングステン酸リチウムが付着した正極材料を得る。乾燥をすることにより、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子表面に、WおよびLiを含む化合物を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
【0067】
乾燥温度は、例えば、50℃以上250℃以下で行うことができ、好ましくは80℃以上200℃以下、より好ましくは100℃以上180℃以下で行うことができる。また、乾燥時間は、例えば、30分以内で行うことができ、好ましくは10分以内、より好ましくは1分以内行うこと好ましい。
【0068】
[非水系電解質二次電池]
本実施形態の非水系電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、上述の本実施形態に係る正極活物質を正極に用いる。以下、本実施形態の二次電池の一例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、正極、負極及び非水電解液を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、非水系電解質二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0069】
(正極)
上記の本実施形態に係る正極活物質を用いて、二次電池の正極を作製する。以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、上記の正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
【0070】
正極合材中のそれぞれの材料の混合比は、リチウム二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウム二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60~95質量%、導電材を1~20質量%、結着剤を1~20質量%含有することができる。
【0071】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもある。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法に依ってもよい。
【0072】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0073】
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸などを用いることができる。
【0074】
必要に応じ、正極活物質、導電材および活性炭を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0075】
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0076】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0077】
(セパレータ)
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0078】
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0079】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0080】
(二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【実施例
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【0082】
(タングステン酸リチウムの評価方法)
タングステン酸リチウムの平均粒径はマイクロトラック・ベル社製粒度分布測定装置MT3300EXIIを用いて、レーザー回折散乱法における体積基準平均粒径D50を測定した。安息角はセイシン企業社製マルチテスターMT-1000を用いて注入法により測定した。水分率の測定は大気乾燥機内で、105℃で2hr乾燥させた前後の質量の差から算出した。また、PANalytical社製X線回折装置X’Pert PROにより、CuKα線を用いて粉末X線回折測定を行い、タングステン酸リチウムの結晶構造解析を行った。またブルカー製熱質量分析計TG-DTA2020SRを用いて、空気中、昇温速度20℃/minで1100℃まで昇温させた時の質量変化からタングステン酸リチウムの水和物と無水物の質量比率を無水物/(無水物+水和物)として求めた。
【0083】
(電池特性評価方法)
正極材料の電池特性評価は、図4に示す2032型コイン電池1(以下、コイン電池と称す)を作製し行った。図4に示すように、コイン電池1は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層され、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接するようにケース2に収容されている。
【0084】
なお、ケース2はガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bが非接触の状態を維持するように固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0085】
具体的に、コイン電池1は、以下のようにして作製した。まず、正極材料52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成型して正極3aとした。正極3aは真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0086】
負極3bには、平均粒径20μmの黒鉛粉末9gとポリフッ化ビニリデン1gを混合したものを銅箔に塗布、乾燥した後、直径14mmの円盤状に打ち抜いた負極シートを用いた。
【0087】
セパレータ3cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、濃度1MのLiClOを支持電解質として含む、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0088】
正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、コイン型電池1を、露点が-80℃以下に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0089】
製造したコイン型電池1の性能を示す初期放電容量、正極反応抵抗は、以下に示す方法により評価した。
【0090】
初期放電容量は、コイン型電池を作製してから24時間程度放置しコンディショニング処理を行い、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの放電容量を測定し、初期放電容量とした。
【0091】
正極反応抵抗は、コイン型電池1を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定して図5に示すようなナイキストプロットを得た。このナイキストプロットから等価回路を用いたフィッティング計算を行い、正極反応抵抗の値を算出した。
【0092】
[実施例1]
タングステン酸リチウムを混合する正極活物質には、ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたリチウム金属複合酸化物粉末(組成式:Li1.06Ni0.76Co0.14Al0.10)を用いた。このリチウム金属複合酸化物粉末の平均粒径は11.0μm、その比表面積は0.9m/gであった。なお、組成はICP法により分析し、平均粒径はレーザー回折散乱法における体積基準平均粒径D50を用い、比表面積は窒素ガス吸着BET法を用いて評価した。
【0093】
タングステン酸リチウムは、次のように合成した。6kgのイオン交換水を冷却ジャケット付きステンレス容器に入れ、水酸化リチウム一水和物(FMC社製、純度99.5%)2.17kgと酸化タングステン(日本無機化学株式会社製、純度99.5%)6.0kg(リチウムモル数:タングステンモル数=2:1)とを投入した後、液温をモニターして液温を25℃~60℃に保った状態で、100rpmで60分撹拌して反応させ、タングステン-リチウム化合物の水溶液を得た。
【0094】
このタングステン-リチウム化合物水溶液を遠心噴霧式の噴霧乾燥機を用いて乾燥した。この噴霧乾燥機は、図2に示す本実施形態のタングステン酸リチウムの製造装置APに相当する噴霧ノズルは直径65mmのピンディスクタイプ遠心噴霧ノズルを使用し、回転数16000rpmで上記タングステン-リチウム化合物水溶液を流量20kg/hrで噴霧した。絶対湿度5g/kgの空気を風量を300Nm/hr、乾燥機入り口の温度(噴霧部10近傍)が200℃、乾燥機出口(回収部12近傍)の温度が120℃になるように温風温度を調整して乾燥させ、タングステン酸リチウム粉末を得た。なお、乾燥時間は、10分以内であった。
【0095】
得られたタングステン酸リチウムを大気中で105℃で2時間乾燥させ、その前後の質量から水分率を測定したところ0.6%であった。また、粉末X線回折装置により得られた回折パターンを図1に示す。この回折パターンは、報告されている菱面体結晶LiWOのパターンとほぼ一致し、他のタングステン酸リチウムの回折ピークは確認されなかった。水和物のピークが確認されなかったため、タングステン酸リチウム無水物の最大回折ピーク強度のタングステン酸リチウム水和物の最大回折ピーク強度に対する比は算出できなかった。また、熱質量分析計により求めたタングステン酸リチウムの無水物と水和物の存在比率は無水物/(無水物+水和物)=1.0、すなわちほぼ全量が無水物であった。
【0096】
リチウム金属複合酸化物粉末15gを水洗したのち吸引濾過して固液分離してから水分が残った状態で、作製したタングステン酸リチウム粉末0.19gを添加し、十分に混合した後真空乾燥し、リチウム金属複合酸化物粉末とタングステン酸リチウムの混合物を得て正極活物質とした。この際、タングステン酸リチウムは、リチウム金属複合酸化物粉末に残った水分により簡単に溶解した。この正極活物質中のタングステン含有量をICP法により分析したところ、ニッケル、コバルトおよびアルミの原子数の合計に対して0.50原子%であることが確認できた。
【0097】
得られた正極活物質の電池特性評価を前述の評価方法で行った。表1に実施例および比較例のタングステン酸リチウムの物性値と電池特性評価結果を示す。なお、各実施例および比較例の正極反応抵抗は実施例1で求められた正極反応抵抗を100とした時の相対値で表している。
【0098】
[実施例2]
実施例1と同様の方法でタングステン-リチウム化合物の水溶液を得た。水溶液を遠心噴霧式の噴霧乾燥機を用いて乾燥した。ノズルは直径65mmのピンディスクタイプ遠心噴霧ノズルを使用し回転数16000rpm、上記タングステン酸リチウム水溶液を流量20kg/hrで噴霧した。送液配管の装置入口からノズルまでの時間を約3秒になるように送液パイプ径を調整した。絶対湿度5g/kgの空気を風量を300Nm/hr、乾燥機入り口の温度が150℃、乾燥機出口の温度が85℃になるように熱風温度を調整して乾燥させ、タングステン酸リチウム粉末を得た。なお、乾燥時間は、10分以内であった。実施例1と同様の方法でタングステン酸リチウムの物性評価と電池特性評価を行った。製造したタングステン酸リチウムは、粉末X線回折装置により得られた回折パターンが、報告されている菱面体結晶のLiWOのパターンとほぼ一致し、他のタングステン酸リチウムの回折ピークが確認されなかったことから、菱面体結晶のLiWOであることが確認された(図示せず)。
【0099】
[実施例3]
実施例1と同様の方法でタングステン-リチウム化合物の水溶液を得た。水溶液を円錐型ノズルタイプの噴霧乾燥機を用いて乾燥した。ノズルは2流体ノズルを使用し、上記タングステン酸リチウム水溶液を吐出圧力0.6MPa、流量80NL/minのノズルエアーと40ml/minの送液量で噴霧した。絶対湿度5g/kgの空気を温風風量60Nm/hr、乾燥機入口の温度が150℃、乾燥機出口の温度が85℃になるように熱風温度を調整して乾燥させ、タングステン酸リチウム粉末を得た。なお、乾燥時間は、10分以内であった。実施例1と同様の方法でタングステン酸リチウムの物性評価と電池特性評価を行った。製造したタングステン酸リチウムは、粉末X線回折装置により得られた回折パターンが、報告されている菱面体結晶のLiWOのパターンとほぼ一致し、他のタングステン酸リチウムの回折ピークが確認されなかったことから、菱面体結晶のLiWOであることが確認された(図示せず)。
【0100】
[実施例4]
実施例1と同様の方法でタングステン-リチウム化合物の水溶液を得た。水溶液を回転ディスクタイプのプレート式乾燥機を用いて乾燥した。ノズルは扇型1流体ノズルを使用し、上記タングステン酸リチウム水溶液を250ml/minの送液量で130℃に加熱した2rpmで回転するディスク表面にスプレーすることによりディスク上で乾燥させた。ディスク上のタングステン酸リチウムをスクレーパーで掻き取ることによりタングステン酸リチウム粉末を得た。なお、乾燥時間は、10分以内であった。
【0101】
得られた生成物について、乾燥機で105℃大気中で2時間乾燥させその前後の質量から水分率を算出したところ1.3%の水分率であった。粉末X線回折装置により、CuKα線を用いてX線回折測定を行ったところ回折パターンは、報告されている菱面体結晶LiWOの回折パターンと、立方晶(LiWO(HO)の回折パターンの混合パターンであった。また、菱面体結晶LiWO(無水物)の最大回折ピーク強度は(LiWO(HO)(水和物)の最大回折ピーク強度の3.5倍であった。また、熱質量分析計により求めたタングステン酸リチウム無水物と水和物の存在比率は無水物/(無水物+水和物)=0.78であった。
【0102】
[実施例5]
6kgのイオン交換水を冷却ジャケット付きステンレス容器に入れ、水酸化リチウム一水和物2.17kgと酸化タングステン6.0kg(リチウムモル量:タングステンモル量=2:1となるように)とを投入した後、液温を75℃に保った状態で、100rpmで60分撹拌して酸化タングステンと水酸化リチウムを反応させ、タングステン-リチウム化合物の水溶液を得た。
【0103】
上記水溶液の液温を75℃に保った状態で、100rpmで撹拌しながら、遠心噴霧式の噴霧乾燥機を用いて乾燥した。ノズルは直径65mmのピンディスクタイプ遠心噴霧ノズルを使用し回転数16000rpm、上記タングステン-リチウム化合物水溶液を流量20kg/hrで噴霧した。温風風量を300Nm/hr、乾燥機入り口の温度が200℃乾燥機出口の温度が120℃になるように熱風温度を調整して乾燥させ、タングステン酸リチウム粉末を得た。実施例1~4と同様の方法でタングステン酸リチウムの物性評価と電池評特性価を行った。製造したタングステン酸リチウムは、粉末X線回折装置により得られた回折パターンが、報告されている菱面体結晶LiWOの回折パターンと、立方晶の(LiWO(HO)の回折パターンの混合パターンであったことから、菱面体結晶のLiWOと立方晶の(LiWO(HO)との混合物あることが確認された(図示せず)。
【0104】
[実施例6]
実施例1と同様の方法でタングステン-リチウム化合物水溶液を得た。水溶液を遠心噴霧式の噴霧乾燥機を用いて乾燥した。ノズルは直径65mmのピンディスクタイプ遠心噴霧ノズルを使用し回転数16000rpm、上記タングステン-リチウム化合物水溶液を流量20kg/hrで噴霧した。温風風量を300Nm/hr、乾燥機入り口の温度が120℃乾燥機出口の温度が75℃になるように熱風温度を調整して乾燥させ、タングステン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法でタングステン酸リチウムの物性評価と電池特性評価を行った。製造したタングステン酸リチウムは、粉末X線回折装置により得られた回折パターンが、報告されている菱面体結晶LiWOの回折パターンと、立方晶の(LiWO(HO)の回折パターンの混合パターンであったことから、菱面体結晶のLiWOと立方晶の(LiWO(HO)との混合物あることが確認された(図示せず)。
【0105】
[実施例7]
リチウムモル量がタングステンモル量の2倍になるように、酸化タングステン100gと、水酸化リチウム一水和物LiOH・HO36.2gとをシェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)入れた後、1gの水を添加したのち十分に混合して、酸化タングステンと水酸化リチウムを反応させ、タングステン酸リチウムのペーストを得た。上記タングステン酸リチウムを、大気乾燥機を用いて80℃で12hかけて乾燥させたのち、ハンマーミルを用いて粉砕することによりタングステン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法でタングステン酸リチウムの物性評価と電池評価を行った。製造したタングステン酸リチウムは、粉末X線回折装置により得られた回折パターンが、報告されている立方晶の(LiWO(HO)の回折パターンの混合パターンであったことから立方晶の(LiWO(HO)であることが確認された(図示せず)。
【0106】
[比較例1]
実施例1のリチウム金属複合酸化物粉末(組成式:Li1.06Ni0.76Co0.14Al0.10)を正極活物質として、タングステン酸リチウムを混合せずに実施例1と同様にコイン電池を作製し、電池特性評価を行った。
【0107】
[比較例2]
実施例3で作製したタングステン酸リチウムを、150Meshステンレス篩で篩別し、篩上を用いるタングステン酸リチウム粉末とした。得られたタングステン酸リチウムの平均粒径は105μmであった。実施例1~4と同様の方法でタングステン酸リチウムの物性評価と電池特性評価を行った。
【0108】
[比較例3]
実施例3で作製したタングステン酸リチウムを、ジェットミルで粉砕して、タングステン酸リチウム粉末を得た。得られたタングステン酸リチウムの平均粒径は4μmであった。実施例1~4と同様の方法でタングステン酸リチウムの物性評価と電池特性評価を行った。
【0109】
[比較例4]
実施例1と同様の方法でタングステン-リチウム化合物水溶液を得た。水溶液を遠心噴霧式の噴霧乾燥機を用いて乾燥した。ノズルは直径65mmのピンディスクタイプ遠心噴霧ノズルを使用し回転数16000rpm、上記タングステン-リチウム化合物水溶液を流量20kg/hrで噴霧した。温風風量を300Nm/hr、乾燥機入り口の温度が120℃乾燥機出口の温度が60℃になるように熱風温度を調整して乾燥させ、タングステン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法でタングステン酸リチウムの物性評価と電池特性評価を行った。製造したタングステン酸リチウムは、粉末X線回折装置により得られた回折パターンが、報告されている菱面体結晶LiWOの回折パターンと、立方晶の(LiWO(HO)の回折パターンの混合パターンであったことから、菱面体結晶のLiWOと立方晶の(LiWO(HO)との混合物あることが確認された(図6参照)。
【0110】
実施例1~7および比較例1~4のタングステン酸リチウム物性値、および電池特性評価結果を表1に示す。なお、ハンドリングの容易さは、得られたタングステン酸リチウムの流動性が良く、ホッパー内で棚吊りや壁面への付着を起こさないことを基準とし、問題が生じた場合は×としている。また、無水物の最大回折ピーク強度/水和物の最大回折ピーク強度がN/Aと表記されているのは無水物あるいは水和物ピークが検出されず、測定不能であったことを示す。
【0111】
【表1】
【0112】
実施例1~3で作製したタングステン酸リチウムはほぼ全量が無水物であり、実施例4も78%が無水物である。図1に示すように実施例1で得られたタングステン酸リチウムはLiWOであった。また同様に実施例2~7で得られたタングステン酸リチウムもLiWOであった。また電池特性評価の結果では、これらのタングステン酸リチウムを含んだ正極活物質は、正極反応抵抗が低いものとなっており、優れた電池特性を示した。
【0113】
特に、添加したタングステン酸リチウム合成時の温度や水添加量の割合、また乾燥温度条件とも好ましい条件で実施した実施例1は、タングステン酸リチウムの特性が良好であり、それを含んだリチウムイオン二次電池用正極活物質についても一層好適なものとなっているため、放電容量、正極反応抵抗共に良好な電池特性値を示している。
【0114】
実施例2、3はタングステン酸リチウムの水分率がやや高いため実施例1には劣るが、放電容量、正極反応抵抗共に良好な電池特性値を示している。
【0115】
実施例4は無水物/(無水物+水和物)の値が実施例1~3に比べやや低いため、放電容量がやや低く、正極反応抵抗がやや高いが、比較例1、2、4に比べて良好な電池特性値を示している。
【0116】
実施例5はタングステン酸リチウムの無水物の割合が低い。それを含んだ正極活物質も水への溶解速度が遅いため母材を水洗した後混合したタングステン酸リチウムが正極材表面へ分散が不十分となり正極反応抵抗の値がやや大きいが、比較例1、2、4に比べて良好な電池特性値を示している。
【0117】
実施例6はタングステン酸リチウムの乾燥温度より低い温度での乾燥であるために、タングステン酸リチウムの水分率が高い。そのため乾燥後に残留水分によりタングステン酸リチウムが固化する場合がある。そのため正極活物質とタングステン酸リチウムの混合時に正極活物質表面へ分散が不十分となり、正極反応抵抗の値が大きいが、比較例1、2、4に比べて良好な電池特性値を示している。
【0118】
実施例7は混合工程における水の添加量が少ないため、乾燥時間も80℃12hrと長いため水和物の割合が高くなる。水への溶解速度が遅いため正極活物質を水洗した後、このタングステン酸リチウムを混合する場合、タングステン酸リチウムが正極材表面へ分散が不十分となり、無水物/(無水物+水和物)の値が実施例1~3に比べ大幅に低くほとんどが水和物であるため、正極反応抵抗の値が大きく放電容量も低くなっているが、比較例1に比べて良好な電池特性値を示している。
【0119】
比較例1は正極活物質にタングステン酸リチウムが添加されてないため、反応抵抗が大幅に高い。
【0120】
比較例2は本発明にかかるタングステン酸リチウムの粒子径が大きくタングステン酸リチウムの正極活物質表面への分散が不十分となり実施例と比較し十分な正極材抵抗の低減効果が得られていない。
【0121】
比較例3は高容量、低反応抵抗の電池特性が得られているが、タングステン酸リチウムの粒子径が小さく、安息角が大きい流動性の悪いタングステン酸リチウム粉末であるため、粉体のハンドリングが困難であり工業的利用は困難である。
【0122】
比較例4は、実施例中のタングステン酸リチウムの乾燥温度より低い温度での乾燥であるために、タングステン酸リチウムの水分率が大幅に高い。そのため乾燥後に残留水分によりタングステン酸リチウムが固化する場合がある。そのため正極活物質とタングステン酸リチウムの混合時に正極活物質表面へ分散が不十分となり実施例と比較して十分な正極材抵抗の低減効果が得られていない。
【0123】
実施例1~6では、無水物割合の大きなタングステン酸リチウムが得られており、これを混合した正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、反応抵抗が低く、優れた電池特性を示すことが確認された。また、無水物割合が低い実施例7においても、反応抵抗が低く、優れた電池特性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上のように、本発明のタングステン酸リチウムは、リチウムイオン電池の正極材料の成分として有用な、無水物の割合が大きなタングステン酸リチウムであり、これを配合した正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源やハイブリッド車用のリチウムイオン二次電池用正極材料に添加するに適している。
【0125】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0126】
1…コイン型電池
2…ケース
2a…正極缶
2b…負極缶
2c…ガスケット
3…電極
3a…正極
3b…負極
3c…セパレータ
AP…タングステン酸リチウム製造装置
L…タングステン-リチウム化合物を含む溶液
M…媒体(気体)
10…噴霧部
11…加熱部
12…回収部
13…加熱装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6