(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】熱伝導シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20221018BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20221018BHJP
B32B 27/18 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
H01L23/36 D
B24B27/06 F
B32B27/18 Z
(21)【出願番号】P 2018121650
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【氏名又は名称】池田 浩
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義徳
【審査官】平林 雅行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-043655(JP,A)
【文献】特開2002-254286(JP,A)
【文献】特開2016-026391(JP,A)
【文献】特開2018-16715(JP,A)
【文献】国際公開第2017/081867(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 3/00-3/60
B24B 21/00-39/06
B32B 1/00-43/00
H01L 23/29
H01L 23/34-23/36
H01L 23/373-23/427
H01L 23/44
H01L 23/467-23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定距離を隔てて配置された複数のメインローラのメインローラ間に複数列に配設されたワイヤを備えるマルチワイヤソー装置を用いて、熱可塑性樹脂および熱伝導フィラーを含む熱伝導層が厚み方向に複数形成された積層体を、該積層体の積層方向に対して45°以下の角度でスライスするスライス工程を含む、熱伝導シートの製造方法
であって、
前記積層体が熱硬化性樹脂およびホットメルト樹脂の少なくともいずれかを含む樹脂被覆層をさらに有し、
前記樹脂被覆層が、少なくとも、前記ワイヤの延在方向と略同一方向に延びる法線を有する積層体側面に形成された、
熱伝導シートの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂被覆層の厚みが、1mm以上10cm以下である、請求項1に記載の熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体(IGBTモジュールなど)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、熱伝導率が高いシート状の部材(熱伝導シート)を介し、この熱伝導シートに対して所定の圧力をかけることで発熱体と放熱体とを密着させている。当該熱伝導シートとしては、熱伝導性に優れる複合材料シートを用いて成形したシートが用いられている。
【0004】
また、電子機器同士が相互干渉することによって生じる電磁ノイズや静電気が、電子機器に機能障害をもたらすことがある。このような電磁ノイズや静電気による機能障害対策としては、導電性が高い熱伝導シートを、電子機器または電子部品に直接取り付けたり、電子機器または電子部品に接触する部材(梱包材など)として用いる方法が採られている。このように、導電性が高い熱伝導シートを利用するにより、電子機器間に発生するノイズ伝播の防止および帯電防止などを図ることができる。
【0005】
従って、熱伝導シートには、高い熱伝導性および導電性を、用途や使用箇所に応じた配向性をもって発揮することが求められている。
【0006】
例えば、特許文献1では、アクリル酸エステル共重合樹脂と黒鉛粒子等の粒子状炭素材料と含む組成物に対して球状成形およびプレスを実施して得た一次シートを積層した積層体を厚み方向にスライス切断することにより、熱伝導性および柔軟性に優れた熱伝導シートを製造する技術が開示されている。
【0007】
また、スライス切断には、下記のようなワイヤソー装置を用いて切断する技術がある。
例えば、半導体インゴットからウェハを切り出す手段等として、ワイヤソーが用いられている。このワイヤソーは、ロールに等間隔にまたがった、切断用ワイヤが多数本並んだ状態で配設されており、1つの工程から多数枚の薄片が同時に切り出される。
このワイヤソーには、ワイヤを支持する多数のガイド溝を備えたガイドローラが設けられている。例えば、特許文献2には、このガイドローラとして、内側ローラと、該内側ローラの外周に装着された外側ローラとで構成され、この外側ローラを周方向に分割することにより、内側ローラをワイヤソーの支持装置に装着したまま外側ローラのみを交換できるようにしたものが記載されている。
ワイヤソーとしては、芯線の周面に白色アルミナや緑色炭化ケイ素またはダイヤモンド、などの砥粒を固着させた固定砥粒方式のワイヤソーが使用されている。この固定砥粒方式のワイヤソーとしては、電着により砥粒を固着させる電着ワイヤソーとレジンを結合剤として砥粒を固着させるレジンボンドワイヤソーとがある。現在では、レジンボンドワイヤソーがワイヤソーの主流である。
また、例えば、特許文献3には、有機、無機材料等からなるバインダと砥粒とを混練した塗料を芯線(心線)の表面に塗布し焼付固着した砥粒付ソーワイヤにおいて、前記芯線は、前記表面に細かい凹みを有し、前記砥粒が前記凹みに入り込んで前記芯線と固着している砥粒付ソーワイヤ用いることが開示されている。
【0008】
また、ワイヤソーを使用してシリコンインゴットなどの切断加工を行う際に、被加工物との接触による樹脂層の磨耗や振動などにより砥粒が脱落しやすいという問題を解決するために、例えば、特許文献3には、芯線の表面に細かい凹みを形成し砥粒をこの凹みに入り込ませて芯線に固着させたワイヤソーが開示され、例えば、特許文献4には、芯線と砥粒層の間に接着用樹脂層を形成して砥粒層を接着したワイヤソーが開示されている。
【0009】
また、切断加工時に生じる切り粉が砥粒間の隙間に溜まって目詰まりが生じ、切れ味が低下するという問題を解決するために、例えば、特許文献5には、砥粒分布を密な部分と粗な部分を螺旋状に形成し、密な部分の切削作用で発生した切り粉を粗な部分に排除するようにしたワイヤソーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-1388号公報
【文献】特開平9-216222号公報
【文献】特開平10-328932号公報
【文献】特開2000-246542号公報
【文献】特開2000-271872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術では、熱伝導シートに高い熱伝導性を発揮させるためには、熱伝導シートにおける黒鉛粒子等の粒子状炭素材料を垂直に配向させる必要があり、通常、スリットを有する平滑な盤面と、該スリット部より突出した刃部により、1枚づつスライスして切断加工していた。また、スライスすることにより、スライス枚数が増加するとともに、スライス時に生じる摩擦熱によるシート蓄熱が大きくなり、シートのカール度合いが増大してしまい、また、カールしたシートを広げる際に破けてしまうことがあり、作業性および歩留まりが悪化するという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、熱伝導性が高い熱伝導シートを製造する際の作業性および歩留まりを向上させることができる熱伝導シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、マルチワイヤソー装置を用いて積層体をスライスすることで、熱伝導性が高い熱伝導シートを製造する際の作業性および歩留まりを格段に向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートの製造方法は、所定距離を隔てて配置された複数のメインローラのメインローラ間に複数列に配設されたワイヤを備えるマルチワイヤソー装置を用いて、熱可塑性樹脂および熱伝導フィラーを含む熱伝導層が厚み方向に複数形成された積層体を、該積層体の積層方向(
図1における矢印方向)に対して45°以下の角度でスライスするスライス工程を含む、ことを特徴とする。このような熱伝導シートの製造方法は、熱伝導性が高い熱伝導シートを製造する際の作業性および歩留まりを向上させることができる。
【0015】
本発明の熱伝導シートの製造方法では、前記積層体が熱硬化性樹脂およびホットメルト樹脂の少なくともいずれかを含む樹脂被覆層をさらに有し、前記樹脂被覆層が、少なくとも、前記ワイヤの延在方向と略同一方向に延びる法線を有する積層体側面に形成されたことが好ましい。熱硬化性樹脂およびホットメルト樹脂の少なくともいずれかを含む樹脂被覆層が、少なくとも、ワイヤの延在方向と略同一方向に延びる法線を有する積層体側面(即ち、スライス工程におけるスライスの際にワイヤが貫通する積層体側面)に形成されたことにより、スライス工程を経て得られた熱伝導シートにおける複数の熱伝導層に対する衝撃(例えば、
図1における回収層槽4に熱伝導シートが回収される際の衝撃)を樹脂被覆層が吸収することができ、スライス工程の際に熱伝導シートが破れるのを防止することができ、さらに、スライス工程の際におけるワイヤの振動に対して積層体を固定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱伝導性が高い熱伝導シートを製造する際の作業性および歩留まりを向上させることができる熱伝導シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の熱伝導シートの製造方法に使用されるマルチワイヤソー装置の実施形態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の製造方法により製造される熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の製造方法により製造される熱伝導シートは、放熱部材として、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に、高い放熱能力を有し、且つ、近傍の回路をショートさせるリスクの少ない放熱装置を構成することができる。
また、上記熱伝導シートは、例えば、発熱体に単独で取り付けて、放熱シートとして使用することもできる。即ち、上記熱伝導シートは、単独で、或いは、放熱体と組み合わせて、放熱装置を構成することができる。そして、上記熱伝導シートは、例えば、後述する本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて製造することができる。
【0019】
(熱伝導シートの製造方法)
本発明の熱伝導シートの製造方法は、スライス工程を少なくとも含み、必要に応じて、プレ熱伝導シート成形工程、積層体形成工程、その他の工程をさらに含む。
【0020】
<熱伝導シート>
熱伝導シートは、熱伝導層(以下、「プレ熱伝導シート」という場合もある)が厚み方向に複数形成された積層体をスライスすることにより得られる熱伝導シートであって、上記熱伝導層が熱可塑性樹脂および熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)を含む。これにより、本発明の熱伝導シートは、高い熱伝導性を有する。
【0021】
<<熱可塑性樹脂>>
本発明の熱伝導シートの製造方法により製造される熱伝導シートにおける熱伝導層が含みうる熱可塑性樹脂は、熱伝導層のマトリックス樹脂を構成し、また、上記熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)などを結着する結着材としても機能する。
このような熱可塑性樹脂としては、「常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂」、「常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂」、などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
なお、本明細書において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0022】
[常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂]
熱伝導層(熱伝導シート)が常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を含むことにより、熱伝導層(熱伝導シート)の柔軟性を良好にすることができ、例えば、熱伝導層(熱伝導シート)と、該熱伝導層(熱伝導シート)を接着させる被着体(発熱体、放熱体)との間の密着性を高めて、熱伝導シートにより高い熱伝導性を発揮させることができる。
【0023】
常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、熱伝導層ひいては熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、および耐薬品性などを向上させる観点からは、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂としては、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂が好ましい。
【0024】
[[常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂]]
常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂は、常温常圧下で液体状の熱可塑性フッ素樹脂であれば、特に制限されない。常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロペンテン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、パーフルオロプロペンオキサイド重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
また、市販されている、常温常圧下で液状の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、デュポン株式会社製のバイトン(登録商標)LM、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-101、スリーエム株式会社製のダイニオンFC2210、信越化学工業株式会社製のSIFELシリーズ、などが挙げられる。
【0025】
なお、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の粘度は、特に制限されないが、混練性、流動性、架橋反応性が良好で、成形性にも優れる観点からは、温度80℃における粘度(粘度係数)が、500cP以上30000cP以下であることが好ましく、550cP以上25000cP以下であることがより好ましい。
【0026】
因みに、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の分子量は、一般に、後述する常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂の分子量に比べて小さい。従って、例えば、熱伝導シート中に常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂と常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂とが含まれる場合は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて得られる異なる二つのピークのうち、低分子量側のピークが常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂を、高分子量側のピークが常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂を指すことが通常である。
【0027】
[[含有割合]]
そして、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂の含有割合は、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂および後に詳述する常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂の合計含有量の40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、90質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂の含有割合が上記範囲内であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの柔軟性をより高めて、例えば、熱伝導シートと熱伝導シートを挟み込んでいる被着体(発熱体、放熱体との間の密着性をより良好にし得るため、比較的低い挟持圧力下(例えば、0.5MPa以下)での熱伝導シートにより高い熱伝導性を発揮させることができるからである。
【0028】
[常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂]
熱伝導層(熱伝導シート)が常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂を含むことにより、熱伝導層(熱伝導シート)と、該熱伝導層(熱伝導シート)を接着させる被着体(発熱体、放熱体)との間の密着性を高めて、熱伝導シートにより高い熱伝導性を発揮させることができる。
【0029】
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、熱伝導層ひいては熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、および耐薬品性などを向上させる観点からは、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂であることが好ましい。
【0030】
[[常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂]]
常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂は、常温常圧下で固体状の熱可塑性フッ素樹脂であれば、特に制限されない。常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-プロピレン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル系フッ素樹脂等、フッ素含有モノマーを重合して得られるエラストマーなどが挙げられる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物およびポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、加工性の観点から、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好ましい。
【0031】
また、市販されている、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-912、G-700シリーズ、ダイエルG-550シリーズ/G-600シリーズ、ダイエルG-310;ALKEMA社製のKYNAR(登録商標)シリーズ、KYNAR FLEX(登録商標)シリーズ;、スリーエム社製のダイニオンFC2211、FPO3600ULV;などが挙げられる。
【0032】
[[熱可塑性フッ素樹脂の含有割合]]
熱可塑性樹脂が熱可塑性フッ素樹脂である場合、熱伝導層(熱伝導シート)における熱可塑性フッ素樹脂の含有割合は、30質量%以上60質量%以下であることが好ましい。熱可塑性フッ素樹脂の含有割合が上記範囲内であれば、熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、および耐薬品性などをより向上させることができる。なお、熱可塑性樹脂が常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂の双方を含む場合には、それら各々の含有割合の合計が上記範囲内にあることが好ましい。
【0033】
<<熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)>>
本発明の熱伝導シートの製造方法により製造される熱伝導シートにおける熱伝導層が熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)を含むことにより、熱伝導層(熱伝導シート)の熱伝導性をさらに高めることができる。熱伝導層(熱伝導シート)が含みうる熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)としては、炭素質材料や、無機酸化物材料、無機窒化物材料、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
【0034】
[炭素質材料]
炭素質材料としては、粒子状炭素材料や繊維状炭素材料などが挙げられる。
熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)が炭素質材料である場合に、熱伝導層(熱伝導シート)における炭素質材料の含有割合は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。炭素質材料の含有割合が上記下限値以上であれば、熱伝導層(熱伝導シート)中において伝熱パスを良好に形成できるため、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性をより高めることができる。また、炭素質材料の含有割合が上記上限値以下であれば、炭素質材料の配合により熱伝導層ひいては熱伝導シートの柔軟性が低下するのを抑制し、熱伝導層(熱伝導シート)と被着体(発熱体、放熱体)との間の密着性を高めて、熱伝導シートに優れた熱伝導性を発揮させることができる。
【0035】
[[粒子状炭素材料]]
粒子状炭素材料としては、特に制限されることはなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、膨張化黒鉛が好ましい。熱伝導層(熱伝導シート)に膨張化黒鉛を用いれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性をより向上させることができる。
【0036】
-膨張化黒鉛-
膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業株式会社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0037】
-平均粒子径-
粒子状炭素材料の平均粒子径は、体積平均粒子径で50μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。粒子状炭素材料の平均粒子径が上記下限値以上であれば、熱伝導層(熱伝導シート)中において粒子状炭素材料の伝熱パスをより良好に形成し、比較的低い挟持圧でも熱伝導層ひいては熱伝導シートに優れた熱伝導性をより発揮させ得るからである。また、粒子状炭素材料の平均粒子径が上記上限値以下であれば、熱伝導層ひいては熱伝導シートの良好な柔軟性を確保することができるからである。
なお、本明細書において、「体積平均粒子径」は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA-960」)を用いて、レーザー回折法を用いて測定された粒子径分布において、小径側から計算した累積体積が50%となるときの粒子径(D50)として求めることができる。ここで、粒子状炭素材料の平均粒子径の測定に際しては、特に制限されることなく、例えば、熱伝導シートに含まれている樹脂に対する良溶媒を用いて樹脂を溶解させる等の任意の手法を用いて熱伝導シートから粒子状炭素材料を取り出して行うことができる。
【0038】
-アスペクト比-
また、粒子状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において、「アスペクト比」は、熱伝導層(積層体)の厚み方向に沿う断面(スライス工程のスライスによるスライス面)をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0039】
[[繊維状炭素材料]]
上記熱伝導層(熱伝導シート)が任意に含みうる繊維状炭素材料としては、特に制限されることなく、例えば、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
例えば、熱伝導シートが繊維状炭素材料を含めば、熱伝導シートの熱伝導性を向上させ得ると共に、粒子状炭素材料の粉落ちを防止することもできる。なお、繊維状炭素材料を配合することで、粒子状炭素材料の粉落ちを防止することができる理由は、明らかではないが、繊維状炭素材料が三次元網目構造を形成することにより、熱伝導性や強度を高めつつ、粒子状炭素材料の脱離を防止しているためであると推察される。
【0040】
上述した中でも、繊維状炭素材料としては、CNTなどの繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、比較的低い挟持圧力での熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および強度をさらに向上させることができるからである。
【0041】
-CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体-
繊維状炭素材料として好適に使用し得る、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、CNTのみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状の炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に制限されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、熱伝導シートの熱伝導性および強度を一層向上させることができるからである。
【0042】
-アスペクト比-
ここで、繊維状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は、10超であることが好ましい。
なお、本発明において、「繊維状炭素材料のアスペクト比」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて無作為に選択した繊維状炭素材料100本の最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0043】
-比表面積-
また、繊維状炭素材料の比表面積は、300m2/g以上であることが好ましく、600m2/g以上であることがより好ましく、2500m2/g以下であることが好ましく、1200m2/g以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の比表面積が上記下限値以上であれば、熱伝導シート中で繊維状炭素材料が三次元網目構造をより良好に形成することができる。その結果、熱伝導シートの熱伝導性をより高いレベルで両立し得る。また、繊維状炭素材料の比表面積が上記上限値以下であれば、繊維状炭素材料の凝集を抑制して熱伝導シート中の繊維状炭素材料の分散性を高めることができるからである。
なお、本発明において、「BET比表面積」は、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0044】
-繊維状炭素材料の調製-
繊維状炭素材料としては、市販品を用いてもよいし、例えば、スーパーグロース(SG)法(国際公開第2006/011655号参照)に準じて、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を効率的に製造してもよい。なお、以下では、SG法により得られるCNTを「SGCNT」とも称することがある。
ここで、スーパーグロース法により製造したSGCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
【0045】
-繊維状炭素材料の含有割合-
そして、熱伝導層(熱伝導シート)中における繊維状炭素材料の含有割合は、0.03質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、また、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の含有割合が上記下限値以上であれば、熱伝導層(熱伝導シート)中において伝熱パスを良好に形成できるため、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性をさらに高めることができると共に、強度をより高めることができるからである。また、繊維状炭素材料の含有割合が上記上限値以下であれば、繊維状炭素材料の配合により熱伝導層ひいては熱伝導シートの柔軟性が低下するのを抑制して、熱伝導層(熱伝導シート)および被着体(発熱体、放熱体)との間の密着性を高めて、熱伝導シートに優れた熱伝導性を発揮させることができる。
【0046】
<<添加剤>>
上記熱伝導層(熱伝導シート)には、必要に応じて、熱伝導層(熱伝導シート)の形成に使用され得る既知の添加剤をさらに配合することができる。そして、熱伝導層(熱伝導シート)に配合し得る添加剤としては、特に制限されることなく、例えば、赤りん系難燃剤、りん酸エステル系難燃剤等の難燃剤;脂肪酸エステル系可塑剤等の可塑剤;ウレタンアクリレート等の靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の濡れ性向上剤;無機イオン交換体等のイオントラップ剤;などが挙げられる。
【0047】
<プレ熱伝導シート成形工程>
プレ熱伝導シート成形工程では、熱可塑性樹脂と、熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)とを含み、添加剤等の任意成分をさらに含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る。
【0048】
<<組成物>>
ここで、組成物は、熱可塑性樹脂と、熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)と、上述した任意成分(添加剤)とを混合して調製することができる。そして、熱可塑性樹脂、熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)および任意の添加剤としては、本発明の熱伝導シートの製造方法により製造させる熱伝導シートに含まれ得る熱可塑性樹脂、熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)および添加剤として上述した成分を用いることができる。
因みに、熱伝導層(熱伝導シート)の樹脂を架橋型の樹脂とする場合には、架橋型の樹脂を含む組成物を用いてプレ熱伝導シートを形成してもよいし、架橋可能な樹脂と硬化剤とを含有する組成物を用いてプレ熱伝導シートを形成し、プレ熱伝導シート成形工程後に架橋可能な樹脂を架橋させることにより、熱伝導層(熱伝導シート)に架橋型の樹脂を含有させてもよい。
【0049】
なお、上述した成分の混合は、特に制限されることなく、ニーダー;ヘンシェルミキサー;ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;などの既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め熱可塑性樹脂を溶解または分散させて樹脂溶液として、他の熱伝導性充填材および任意の添加剤を混合してもよい。そして、混合時間は、例えば、5分以上60分以下とすることができる。また、混合温度は、例えば、5℃以上150℃以下とすることができる。
【0050】
なお、組成物に繊維状炭素ナノ構造体をさらに含有させる場合、繊維状炭素ナノ構造体は、凝集し易く、分散性が低いため、そのままの状態で樹脂などの他の成分と混合すると、組成物中で良好に分散し難い。一方、繊維状炭素ナノ構造体は、溶媒(分散媒)に分散させた分散液の状態で樹脂などの他の成分と混合すれば凝集の発生を抑制することはできるものの、分散液の状態で混合した場合には混合後に固形分を凝固させて組成物を得る際などに多量の溶媒を使用するため、組成物の調製に使用する溶媒の量が多くなる虞が生じる。そのため、プレ熱伝導シートの形成に用いる組成物に繊維状炭素ナノ構造体を配合する場合には、繊維状炭素ナノ構造体は、溶媒(分散媒)に繊維状炭素ナノ構造体を分散させて得た分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素ナノ構造体の集合体(易分散性集合体)の状態で他の成分と混合することが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素ナノ構造体の集合体は、一度溶媒に分散させた繊維状炭素ナノ構造体で構成されており、溶媒に分散させる前の繊維状炭素ナノ構造体の集合体よりも分散性に優れているので、分散性の高い易分散性集合体となる。従って、易分散性集合体と、樹脂などの他の成分とを混合すれば、多量の溶媒を使用することなく効率的に、組成物中で繊維状炭素ナノ構造体を良好に分散させることができる。
【0051】
ここで、繊維状炭素ナノ構造体の分散液は、例えば、溶媒に対して繊維状炭素ナノ構造体を添加してなる粗分散液を、キャビテーション効果が得られる分散処理または解砕効果が得られる分散処理に供して得ることができる。なお、キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際、水に生じた真空の気泡が破裂することにより生じる衝撃波を利用した分散方法である。そして、キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波ホモジナイザーによる分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌装置による分散処理が挙げられる。また、解砕効果が得られる分散処理は、粗分散液にせん断力を与えて繊維状炭素ナノ構造体の凝集体を解砕・分散させ、さらに粗分散液に背圧を負荷することで、気泡の発生を抑制しつつ、繊維状炭素ナノ構造体を溶媒中に均一に分散させる分散方法である。そして、解砕効果が得られる分散処理は、市販の分散システム(例えば、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)など)を用いて行うことができる。
【0052】
また、分散液からの溶媒の除去は、乾燥やろ過などの既知の溶媒除去方法を用いて行うことができるが、迅速かつ効率的に溶媒を除去する観点からは、減圧ろ過などのろ過を用いて行うことが好ましい。
【0053】
[組成物の成形]
そして、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡および解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。このように組成物を加圧成形したシート状のものを、プレ熱伝導シートとすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0054】
ここで、組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば、特に制限されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、組成物は、圧延成形によりシート状に成形することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に制限されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃以下、ロール間隙は50μm以上2500μm以下、ロール線圧は1kg/cm以上3000kg/cm以下、ロール速度は0.1m/分以上20m/分以下とすることができる。
【0055】
そして、組成物を加圧してシート状に成形してなるプレ熱伝導シートでは、熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)が主として面内方向に配列し、特にプレ熱伝導シートの面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。
なお、プレ熱伝導シートの厚みは、特に制限されることなく、例えば0.05mm以上2mm以下とすることができる。また、熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)が粒子状炭素材料を含む場合、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および熱放射性をさらに向上させる観点からは、プレ熱伝導シートの厚みは、粒子状炭素材料の平均粒子径の4倍超5000倍以下であることが好ましい。
【0056】
<積層体形成工程>
積層体形成工程では、プレ熱伝導シート成形工程で得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、熱可塑性樹脂および熱伝導フィラーを含む熱伝導層が厚み方向に複数形成された積層体を得る。ここで、プレ熱伝導シートの折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いてプレ熱伝導シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、プレ熱伝導シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りにプレ熱伝導シートを捲き回すことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0057】
ここで、通常、積層体形成工程で得られる積層体において、プレ熱伝導シートの表面同士の接着力は、プレ熱伝導シートを積層する際の圧力や、折畳または捲回する際の圧力により充分に得られる。
【0058】
なお、得られた積層体は、層間剥離を抑制する観点から、積層方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力で押し付けながら、120℃以上170℃以下で2時間以上8時間以下加熱することが好ましい。ここで、層間剥離の防止は、積層体を形成する際に接着剤または溶剤をプレ熱伝導シートに塗布し、プレ熱伝導シート同士を接着させることにより行ってもよいが、熱伝導シートを効率的に製造する観点からは、接着剤または溶剤は使用しないことが好ましい。
【0059】
そして、プレ熱伝導シートを積層、折畳、または捲回して得られる積層体では、熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)が積層方向に略直交する方向に配列していると推察される。
また、積層体は、後述するように樹脂被覆層をさらに有することが好ましい。
【0060】
<<樹脂被覆層>>
本発明においては、少なくとも、ワイヤの延在方向と略同一方向に延びる法線を有する積層体側面(
図1における積層体側面1aおよびその対向面)が樹脂被覆層で覆われた積層体を後述するマルチワイヤソー装置を用いてスライスすることが好ましく、積層体の4面(
図1における、積層体側面1aおよびその対向面、並びに、積層体主面1bおよびその対向面)が樹脂被覆層で覆われた(包埋された)積層体を後述するマルチワイヤソー装置を用いてスライスすることがより好ましい。
少なくともワイヤの延在方向と略同一方向に延びる法線を有する積層体側面(
図1における積層体側面1aおよびその対向面)が樹脂被覆層で覆われた積層体を用いることで、スライス工程を経て得られた熱伝導シートにおける熱伝導層に対する衝撃(例えば、
図1における回収層槽4に熱伝導シートが回収される際の衝撃)を樹脂被覆層が吸収することができ、スライス工程の際に積層体が破れるのを防止することができ、さらに、スライス工程の際にワイヤの振動に対して積層体を固定することができる。
なお、樹脂被覆層は、熱硬化性樹脂およびホットメルト樹脂の少なくともいずれかを含む。
【0061】
樹脂被覆層で覆われた積層体の形成方法としては、例えば、(i)熱伝導層が積層された積層体が内部に配置された容器に樹脂(熱硬化性樹脂、ホットメルト樹脂)液を流し込む方法、(ii)刷毛、スプレー等により塗布する方法、などが挙げられる。これらの中でも、樹脂被覆層で覆われた積層体を短時間で形成できる点で、(i)熱伝導層が積層された積層体が内部に配置された容器に樹脂液を流し込む方法が好ましい。
【0062】
[熱硬化性樹脂、ホットメルト樹脂]
また、樹脂被覆層を形成するための熱硬化性樹脂組成物は、通常、熱硬化性樹脂と、硬化剤とを含有するものである。熱硬化性樹脂としては、硬化剤と組み合わせることで熱硬化性を示すものであれば、特に制限されないが、例えば、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、トリアジン樹脂、脂環式オレフィン重合体、芳香族ポリエーテル重合体、ベンゾシクロブテン重合体、シアネートエステル重合体、ポリイミド、などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、熱伝導層との接着性の観点から、熱硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型(メタ)アクリル樹脂、が好ましい。
【0063】
また、樹脂被覆層を形成するためのホットメルト樹脂としては、23℃における剪断貯蔵弾性率が1MPa以上500MPa以下であり、常温で粘着性を示さない、いわゆるホットメルト接着剤をも包含する。これらの中でも、積層体を簡単に形成できる観点から、ホットメルト接着剤が好ましい。ホットメルト接着剤の具体例としては、例えば、東亜合成社製の「アロンメルト接着剤PPETシリーズ」、3M社製「3M Scotch-Weld ホットメルト接着剤」、日信化学工業社製「ホットメルト接着剤」、などが好適に挙げられる。
【0064】
樹脂被覆層(熱硬化性樹脂被覆層、ホットメルト樹脂被覆層)の厚みは、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることが特に好ましく、10cm以下であることが好ましく、5cm以下であることがより好ましく、3cm以下であることが特に好ましい。樹脂被覆層(熱硬化性樹脂被覆層、ホットメルト樹脂被覆層)の厚みが前記下限値以上であることによって、積層体のスライスによる潰れを効果的に抑制でき、また、樹脂被覆層(熱硬化性樹脂被覆層、ホットメルト樹脂被覆層)の厚みが前記上限値以下であることによって、樹脂の使用量を抑制できるので、製造コストを低くできる。
また、スライス工程における積層体振動抑制およびシート破れ防止の観点から、積層体の4面(
図1における、積層体側面1aおよびその対向面、並びに、積層体主面1bおよびその対向面)が樹脂被覆層で覆われている(包埋されている)場合、積層体主面1bおよびその対向面を覆う樹脂被覆層の厚みよりも、ワイヤの延在方向と略同一方向に延びる法線を有する積層体側面(
図1における積層体側面1aおよびその対向面)を覆う樹脂被覆層の厚みが厚いことが好ましい。
【0065】
前記樹脂(熱硬化性樹脂、ホットメルト樹脂)の融点あるいはガラス転移温度は、40℃以上であることが好ましい。融点あるいはガラス転移温度が40℃以上の樹脂(熱硬化性樹脂、ホットメルト樹脂)は、常態で固体であり、かつ結晶時の凝集力により初期接着強度を高くできる。また、前記樹脂(熱硬化性樹脂、ホットメルト樹脂)の融点あるいはガラス転移温度は、150℃以下が好ましい。融点あるいはガラス転移温度が150℃以下の樹脂(熱硬化性樹脂、ホットメルト樹脂)を用いることにより、樹脂(熱硬化性樹脂、ホットメルト樹脂)の加熱溶融時の熱による積層体の溶融を抑制でき、積層体のスライスによるシートの破損を抑制できる。
【0066】
<スライス工程>
スライス工程では、上述した積層体形成工程等により積層された積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる熱伝導シートを得る。ここで、積層体をスライスする装置としては、マルチワイヤソー装置である必要がある。
【0067】
なお、積層体をスライスする角度は、積層体の積層方向に対して45°以下であることが必要であり、熱伝導層ひいては熱伝導シートの熱伝導性および熱放射性を高める観点からは、積層体の積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層体の積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層体の積層方向に対して略0°である(即ち、積層体の積層方向に沿う方向である)ことが特に好ましい。
【0068】
そして、スライス工程を経て得られた、熱可塑性樹脂および熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)を含む熱伝導シートは、通常、熱可塑性樹脂および熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)を含む条片(積層体を構成していたプレ熱伝導シートのスライス片)が並列接合されてなる構成を有する。
【0069】
なお、所定の面(少なくともワイヤの延在方向と略同一方向に延びる法線を有する積層体側面)が上述の樹脂被覆層で覆われた積層体をスライスした場合には、樹脂被覆層を取り除くことが好ましい。樹脂被覆層は熱伝導性に大きな悪影響を及ぼさないため、樹脂被覆層で覆われたままのものを熱伝導シートとして使用することも可能であるが、樹脂被覆層を取り除くことにより、より高品質な熱伝導シートが得られるからである。また、熱伝導シートに含まれる熱可塑性樹脂がフッ素系樹脂であることで、樹脂被覆層を取り除くための取り外しを容易に行うことができる。
【0070】
<<マルチワイヤソー装置>>
上記マルチワイヤソー装置は、所定距離を隔てて配置された複数のメインローラのメインローラ間に複数列に張られた(配設された)ワイヤを備えたもの(例えば、
図1に示すようなマルチワイヤソー装置)であれば、市販されている装置の中で、適宜好ましいものを用いることができ、特に制限されない。そのスライス条件としては、シリコンインゴットのような極めて硬い材料の切断条件とは異なる。しかしながら、ゴム弾性を有する熱伝導シートの面内膜厚、熱伝導特性、歩留り、破け、生産性に影響を与えない条件をマルチワイヤソー装置に適宜設定することで、好適にスライス工程を実施することが可能となる。
【0071】
図1は、本発明の熱伝導シートの製造方法に使用されるマルチワイヤソー装置の実施形態の一例を示す図である。
図1において、マルチワイヤソー装置Xは、複数のメインローラ3(3a,3b,3c)、ワイヤ2等を有している。そして、ワイヤ2はメインローラ3に巻きつけられ、メインローラ3同士の間にワイヤ列を形成している。
マルチワイヤソー装置Xは、所定距離を隔てて配置された少なくとも2つのメインローラ3a,3b間に複数列に張られたワイヤ2を備え、例えば、第1メインローラ3aと第2メインローラ3bとの間のワイヤ2に対向させて、被加工物(積層体)1を配置して、前記メインローラ3間でワイヤ2を走行させるとともに、走行しているワイヤ2に対して被加工物1(積層体)を所定の押付け速度で押し付けながらワイヤ2で被加工物1(積層体)から複数枚の熱伝導シートを得ている。
第1メインローラ3aと第2メインローラ3bとは所定距離を隔てて配置されており、ワイヤ2は、これらメインローラ3間で複数列に平面状に張られている。メインローラ3を所定の回転速度で回転させることによって、ワイヤ2の長手方向(延在方向)にワイヤ2を走行させることができる。また、メインローラ3の回転方向を変化させることによってワイヤ2を往復運動させることもできる。
被加工物(積層体)1の切断は、高速に走行しているワイヤ2に向かって切削液を供給しながら、被加工物(積層体)1を移動させて、ワイヤ2に被加工物1(積層体)を相対的に押圧することによってなされる。このとき、ワイヤ2の張力、ワイヤ2が走行する速度(走行速度)、および、被加工物(積層体)1をワイヤ2側へと下降させる速度(フィード速度)は、それぞれ適宜制御されている。
ワイヤ2の下方には、熱伝導シートの回収、並びに、切断時に発生する被加工物1の切屑および加工液の回収を目的とした回収層槽4が設けられてもよい。
【0072】
[ワイヤ(ワイヤソー)]
ワイヤ(ワイヤソー)の芯線としては、通常、ピアノ線などの高抗張力金属線が使用されるが、高抗張力金属の表面に銅や銅合金などの軟質金属によるメッキを施した芯線を使用することもできる。
ワイヤによる加工方法には、砥粒を付着させたワイヤで切断する固定砥粒方式や、研磨剤を含むスラリーを塗布したワイヤで切断する遊離砥粒方式、などがある。以下、固定砥粒方式に用いられるワイヤについて詳述する。
【0073】
芯線と砥粒層の間に接着用樹脂層を設け、この接着用樹脂層に螺旋状の凹部を形成してもよい。この場合、螺旋状の凹部が形成された表面に液状樹脂と砥粒の混合物を被覆した後、所定の内径のダイスを通過させて硬化させる。このダイスを通過した際に表面張力により接着用樹脂層の螺旋状の凹部に対応した螺旋状の凹部が形成される。また、砥粒層の樹脂に揮発成分を添加すれば、硬化時の収縮でも接着用樹脂層の螺旋状の凹部に対応した螺旋状の凹部が形成することができる。
【0074】
接着用樹脂層に螺旋状の凹部が形成されていることにより、接着用樹脂層の表面積が増大して、接着用樹脂層と砥粒層との接着強度が向上し、切断加工時の砥粒の脱落が防止され、ワイヤの寿命が延長する。さらに、砥粒層外面に螺旋状の凹部が形成されていることにより、切断加工時の切り粉の排出性能が向上し、良好な切れ味を継続することができる。
【0075】
接着用樹脂層の厚さは、3μm以上10μm以下であることが好ましい。接着用樹脂層の厚さが薄すぎると、必要な深さの螺旋状の凹部を形成することができず、厚すぎると、ワイヤの外径を一定とした場合に芯線の径が小さくなりすぎ、芯線の強度に問題が生じる。さらに、この接着用樹脂層は、熱硬化性樹脂と感光性樹脂の二層構造とすることが好ましい。熱硬化性樹脂は硬化時の縮合によって芯線をかしめる効果があるので、接着用樹脂層の芯線側を熱硬化性樹脂で形成することにより、芯線と接着用樹脂層との接着強度が高くなる。一方、熱硬化性樹脂には揮発成分が含まれているので、熱硬化性樹脂を砥粒層側に使用すると、螺旋状の凹部を安定的に形成することができない。感光性樹脂には揮発成分が含まれていないので、接着用樹脂層の砥粒層側を感光性樹脂で形成することにより、螺旋状の凹部を安定的に形成することができる。
【0076】
接着用樹脂層に形成する螺旋状の凹部の深さは、2μm以上で砥粒平均粒径の20%以内とすることが好ましい。凹部の深さが2μm未満であると、凹部が浅いために凹部の効果が小さく、凹部の深さが砥粒平均粒径の20%を超えると、凹部に固着される砥粒が砥粒層内の樹脂に埋没してしまい、凹部を設けた効果がなくなってしまう。この接着用樹脂層のみに螺旋状の凹部を形成して砥粒の一部を埋設することで、芯線には何ら損傷を与えることがなく、ワイヤの断線のおそれもない。この場合、凹部に相当する部分の砥粒層の砥粒は、凹部の耐摩耗性を向上させる機能を果たす。ワイヤの使用により砥粒層が摩耗して全体が一様になったときがワイヤの寿命となる。
【0077】
レジンボンドワイヤは、一部の工程を除いて従来公知のワイヤの製造設備と方法を利用して製造することができる。芯線として軟質金属メッキを施した芯線を使用する場合は、芯材である高抗張力金属線に銅や銅合金、金、錫、亜鉛やその合金などを用いて金属メッキを施す。芯線に形成する接着用樹脂層は、芯線を一定の速度で送りながら、容器に収容した液状樹脂中を通過させて芯線に液状樹脂を被覆し、硬化させる、公知の方法を応用して形成する。ここで、接着用樹脂層を熱硬化性樹脂層と感光性樹脂層の二層構造とする場合は、はじめに、芯線を容器に収容した液状の熱硬化性樹脂中を通過させて芯線に液状の熱硬化性樹脂を被覆し、硬化させて一層目の接着用樹脂層を形成し、続いて、容器に収容した液状の感光性樹脂中を通過させて一層目の接着用樹脂層に液状の感光性樹脂を被覆し、硬化させて二層目の接着用樹脂層を形成することができる。この接着用樹脂層に螺旋状の凹部を形成するには、接着用樹脂層を形成した芯線を一定の速度で送りながら、たとえば、非円形孔のダイスを芯線軸線方向に対して垂直な平面内に回転させながら芯線を通過させる方法や、芯線を押圧工具で挟み付けて芯線と押圧工具とを相対的に回転させる方法などを採用することができる。
【0078】
砥粒層の形成は公知の方法により行うことができる。たとえば、接着用樹脂層に螺旋状の凹部を形成した芯線を容器に収容した砥粒と液状樹脂の混合物中を通過させて接着用樹脂層に砥粒と液状樹脂の混合物を被覆し、この状態の芯線を所定の内径のダイスを通過させ、ダイスを通過した後の液状樹脂を硬化させて芯線に砥粒層を固着させることによりワイヤを製造する。また、砥粒層を構成する樹脂としては、感光性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を使用することができる。しかし、液状樹脂の硬化時間を短縮して生産能率を高めるためには感光性樹脂を使用するのが望ましい。
【0079】
<熱伝導シートの性状>
<<熱抵抗値>>
熱伝導シートは、0.80MPa加圧下での熱抵抗値が、0.31℃/W未満であることが好ましく、0.25℃/W未満であることがより好ましく、0.19℃/W未満であることが特に好ましい。0.80MPa加圧下の熱抵抗値が0.31℃/W未満であると、比較的高い圧力が加えられる使用環境下で、優れた熱伝導性を有することができる。
ここで、熱伝導シートの熱抵抗値は、通常用いられる既知の測定方法を用いて測定することができ、樹脂材料熱抵抗試験器(例えば、株式会社日立テクノロジーアンドサービス製、商品名「C47108」)などで測定することができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、常温常圧下で固体の樹脂のムーニー粘度;熱伝導シートの膜厚;熱伝導シートの熱抵抗値;熱伝導シートの表面粗さRa;および熱伝導シートのカール試験は、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0081】
<常温常圧下で固体の樹脂のムーニー粘度>
常温常圧下で固体の樹脂のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、ムーニー粘度計(島津製作所製、製品名「MOONEY VISCOMETER SMV-202」)を用いて、JIS-K6300に従って、温度100℃で測定した。一般に、常温常圧下で固体の樹脂のムーニー粘度が低いほど、高い柔軟性を有することを示す。
【0082】
<熱伝導シートの膜厚>
熱伝導シートの膜厚は、膜厚計(株式会社ミツトヨ製、製品名「デジマチックインジケーター(ID-C112X)」を用いて、(1/1000mm)の精度で測定した。そして、熱伝導シート表面上の任意の箇所5点について測定した値の平均値(μm)を、熱伝導シートの膜厚とした。結果を表1に示す。
【0083】
<熱伝導シートの熱抵抗値>
熱伝導シートの熱抵抗値は、樹脂材料熱抵抗試験器(株式会社日立テクノロジーアンドサービス製、製品名「C47108」)を用いて測定した。ここで、1cm角の略正方形に切り出した熱伝導シートを試料とし、試料温度50℃において、比較的低圧である0.05MPaを加えた時の熱抵抗値(℃/W)と、試料温度50℃において、比較的高圧である0.80MPaを加えた時の熱抵抗値(℃/W)とをそれぞれ測定した。熱抵抗値が小さいほど熱伝導シートが熱伝導性に優れ、例えば、発熱体と放熱体との間に介在させて放熱装置とした際の放熱特性に優れていることを示す。さらに、下記評価基準により評価した。結果を表1に示す。
<<評価基準>>
A:0.19(℃/W)未満
B:0.19(℃/W)以上0.25(℃/W)未満
C:0.25(℃/W)以上0.31(℃/W)未満
D:0.31(℃/W)以上
【0084】
<熱伝導シートの表面粗さRa>
熱伝導シートの表面粗さRaは、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、形状解析レーザー顕微鏡、VK-X250シリーズ)を用いて測定した。20倍の倍率で測定し、任意に4線、長さ200μmを選択し、線粗さに対する表面粗さRaを求め、平均を算出した。結果を表1に示す。
【0085】
<熱伝導シートのカール試験>
スライス工程直後の熱伝導シートを観察することでカール試験を行い、下記評価基準により評価した。結果を表1に示す。
<<評価基準>>
A:カール全くなし(カールの度合い(水平面からシート端部の盛上り距離):3cm未満)。
B:少しカールするが、手で押さえれば平になる(カールの度合い(水平面からシート端部の盛上り距離):3~5cm)。
C:丸まっていて、手で広げなくてはならない(カールの度合い(曲率半径):3cm~5cm)。
D:丸まっていて、慎重に広げなくては、破けることがある(カールの度合い(曲率半径):3cm未満)。
【0086】
(実施例1)
<繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体の調製>
<<分散液の調製>>
繊維状の炭素ナノ構造体(SGCNT、日本ゼオン社製、比表面積:600m2/g)を400mg量り取り、溶媒としてのメチルエチルケトン2L中に混ぜ、ホモジナイザーにより2分間撹拌し、粗分散液を得た。次に、湿式ジェットミル(株式会社常光製、製品名「JN-20」)を使用し、得られた粗分散液を湿式ジェットミルの0.5mmの流路に100MPaの圧力で2サイクル通過させて、繊維状の炭素ナノ構造体をメチルエチルケトンに分散させた。そして、固形分濃度0.20質量%の分散液を得た。
【0087】
<<溶媒の除去>>
その後、上述で得られた分散液をキリヤマろ紙(No.5A)を用いて減圧ろ過し、繊維状炭素材料としての、シート状の繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体を得た。
【0088】
<組成物の調製>
常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG-101」)を70部と、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、商品名「ダイニオンFC-2211」、ムーニー粘度:27ML1+4、100℃)を30部と、熱伝導フィラー(熱伝導性充填材)である粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC100」、体積平均粒子径:250μm)を50部と、繊維状炭素材料としての上述で得られた繊維状の炭素ナノ構造体の易分散性集合体を0.5部とを、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機に投入して、10秒間解砕することにより、組成物を得た。
【0089】
<プレ熱伝導シートの形成>
次いで、得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み0.5mmのプレ熱伝導シートを得た。
【0090】
<積層体の形成>
続いて、得られたプレ熱伝導シートを縦150mm×横150mm×厚み0.5mmに裁断し、プレ熱伝導シートの厚み方向に300枚積層し、さらに、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレス(二次加圧)することにより、高さ(厚み)約150mmの積層体を得た。
【0091】
<熱伝導シートの形成:スライス(マルチワイヤーカット)工程>
ホットメルト接着剤「3M社製:製品名「Scotch-Weld 3747」:軟化温度104℃」からなる層(厚み5mm)が、上記積層体の4面(
図1における、積層体側面1aおよびその対向面、並びに、積層体主面1bおよびその対向面)において形成されるように、上記積層体が内部に配置された容器に上記ホットメルト接着剤液を流し込み、その後室温に冷却させることで、硬化させた。
また、マルチワイヤソー装置として、マイヤーバーガー社製「小型マルチワイヤー切断機:RTD6400」を用いてスライス工程を実施した。芯線には、レジンボンドダイヤモンドワイヤ:140μmを使用し、ワイヤテンション10Nで、ワイヤは、隙間は150μmになるように、100本平行にセットした。また、切削用潤滑剤として、界面活性剤入りのグリコール液を使用した。
その後、二次加圧されて得られた積層体の4面のうちの、ワイヤの延在方向と略同一方向に延びる法線を有する積層体面(例えば、
図1における積層体側面1aおよびその対向面)を0.1MPaの圧力で押し付けながら、マルチワイヤソー装置を用いて、積層体の積層方向(積層体の厚み方向)に対して0度の角度で(換言すれば、積層されたプレ熱伝導シートの主面の法線方向に対して0度の角度で)、積層体をスライスした。切削(スライス)速度は、1.0mm/minであった。スライスした熱伝導シートをイオン交換水で、切削用潤滑剤(界面活性剤入りのグリコール液)と切削屑とを洗い流し、水分をエアで飛ばし、縦150mm×横150mm×厚み0.15mmの熱伝導シートを99枚得た。
【0092】
得られた99枚のうち、端部の一方(最初の1枚目)を「実施例1」とし、50枚目を「実施例2」とし、端部の他方(最後99枚目)を「実施例3」として、評価した。
【0093】
(比較例1~3)
実施例1~3において、スライス(マルチワイヤーカット)工程を経て熱伝導シートを形成する代わりに、下記のようなスライス(カンナスライス)工程を経て熱伝導シートを形成したこと以外は、それぞれ、実施例1~3と同様にして、熱伝導シートを形成し、得られた熱伝導シートについての測定および評価を行った。
<熱伝導シートの形成:スライス(カンナスライス)工程>
二次加圧されて得られた積層体の側面(カンナスライス方向と略同一方向に沿う積層体側面)を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、積層方向に対して0度の角度で(換言すれば、積層されたプレ熱伝導シートの主面の法線方向に対して0度の角度で)、積層体をスライスした。そして、縦150mm×横150mm×厚み0.15mmの熱伝導シートを100枚得た。
【0094】
【0095】
表1に結果を示す。表1より、マルチワイヤソー装置を用いてスライスして得られた熱伝導性シート(実施例1~3)は、99枚を60秒でスライスすることができる。一方、刃物を用いてスライスした従来の熱伝導性シート(比較例1~3)は、99枚スライスするのに8分以上(500秒)かかっている。また、熱伝導シートの表面粗さRaを測定した結果から分かるように、実施例1~3のスライスの断面は良好になっている。また、実施例1~3の熱伝導シートの熱抵抗値は、比較例1~3の従来の熱伝導シートの熱抵抗値とほぼ同じである。
ここで、刃物でスライス(従来法)すると、カールしてしまい、1枚のシートについてカールを直して平らにしてから、離形PET(ユニチカ製、EMBLET 厚み50μm)に挟み1枚の製品シートにするのに、1枚10秒かかった。また、99枚の製品シートとするのに30分以上を要した。
なお、比較例1~3において、スライスの枚数が増加するとともに、スライス時に生じる摩擦熱によるシート蓄熱が大きくなり、カール試験の結果が悪化する(比較例1:B、比較例2:C、比較例3:D)ことが分かる。
なお、上記カールは、スライス面が延ばされて、スライス面と対向する面側に丸くなって生じるものと推察される。
上記の結果、マルチワイヤソー装置を用いたスライス(マルチワイヤカット)は、生産効率を上げるのに、極めて画期的な効果を奏することが明白である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
従来の刃物でスライスしていた工程を、ロールに巻きつけられた複数のワイヤソーで、一度に多数の熱伝導シートを作製し、シートの破けのない、膜厚も均一であり、一度に複数枚の熱伝導シートの製造を可能にしたものである。
また、得られた熱伝導シートに、高い熱伝導性、高い強度、および高い可撓性(低い硬度)を付与することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 被加工物(積層体)
1a 積層体側面
1b 積層体主面
2 ワイヤ
3 メインローラ
3a 第1メインローラ
3b 第2メインローラ
3c 第3メインローラ
4 回収層槽
X マルチワイヤソー装置