(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】伸線機
(51)【国際特許分類】
B21C 1/02 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
B21C1/02
(21)【出願番号】P 2018180435
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大築 優
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-282929(JP,A)
【文献】特開昭56-053816(JP,A)
【文献】特開平02-217110(JP,A)
【文献】特開2011-240388(JP,A)
【文献】実開平02-038114(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線を運搬する第1キャプスタンと、
前記第1キャプスタンから送られた前記金属線を伸ばす伸線ダイスと、
前記伸線ダイスから送られた前記金属線を運搬する第2キャプスタンと、
を有し、
前記第1キャプスタンの表面のうち、前記金属線と接する第1表面を構成する第1材料と前記金属線との間の第1摩擦係数は、前記第2キャプスタンの表面のうち、前記金属線と接する第2表面を構成する第2材料と前記金属線との間の第2摩擦係数よりも小さく、
前記伸線ダイスを通過する前後の前記金属線の減面率に応じて、前記第1キャプスタンと前記伸線ダイスとの間の前記金属線の運搬速度の下限を決定
し、
前記第1キャプスタンは、互いに離間してそれぞれ回転する第1ロールおよび第2ロールを有し、
前記第1キャプスタンにおいて、前記金属線は、前記第1ロールと前記第2ロールとの相互間で撓んだ状態となるように貯線されており、前記金属線の貯線量は、前記第1キャプスタンから前記伸線ダイスへ送られる前記金属線の運搬速度の変動に応じて調整される、伸線機。
【請求項2】
請求項1記載の伸線機において、
前記第1材料は金属であり、前記第2材料はゴムである、伸線機。
【請求項3】
請求項1~2の何れか1項に記載の伸線機において、
前記第1キャプスタンは、互いに離間して
おり、それぞれの回転軸の傾きが異なる前記第1ロールおよび
前記第2ロールを有し、
前記第2キャプスタンは、互いに離間して
おり、それぞれの回転軸の傾きが異なる第3ロールおよび第4ロールを有し、
前記第1キャプスタンにおいて、前記金属線は、前記第1ロールおよび前記第2ロールに巻き付いて運搬され、
前記第2キャプスタンにおいて、前記金属線は、前記第3ロールおよび前記第4ロールに巻き付いて運搬され、
前記金属線の運搬中において、前記第1キャプスタンに巻き付く前記金属線の1周の巻き付き長は、前記第2キャプスタンに巻き付く前記金属線の1周の巻き付き長よりも大きい、伸線機。
【請求項4】
請求項1~
3の何れか1項に記載の伸線機において、
前記金属線の断面積は、前記伸線ダイスを通過することで、第1断面積から、前記第1断面積よりも小さい第2断面積となり、
前記第2キャプスタンから送り出される前記金属線の第2速度に対する、前記第1キャプスタンと前記伸線ダイスとの間で運搬される前記金属線の第1速度の比は、前記第1断面積に対する前記第2断面積の比以上の大きさであり、
前記第1速度は、前記第2速度未満である、伸線機。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか1項に記載の伸線機において、
前記第1キャプスタンの前記表面には、潤滑油が供給される、伸線機。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか1項に記載の伸線機において、
前記第1キャプスタンに送られる前の前記金属線を成形する成形ロールをさらに有し、
前記成形ロールには、潤滑油が供給され、
前記成形ロールと前記第1キャプスタンとの間を運搬される前記金属線の表面から前記潤滑油を除去する洗浄部は設けられていない、伸線機。
【請求項7】
請求項1~
6の何れか1項に記載の伸線機において、
前記伸線ダイスと前記第2キャプスタンとの間で運搬される前記金属線の速度は、一定である、伸線機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線を伸ばす伸線機に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
銅線などの金属線を伸ばす(伸線する)伸線機(伸線装置)としては、駆動キャプスタンと伸線ダイスとを備えたものがある。特許文献1(特開2015-213917号公報)には、駆動モータが接続された駆動キャプスタンにより金属線を送り出し、金属線を伸線ダイスから引き抜くことで金属線を伸ばすことが記載されている。ここでは、駆動キャプスタンの回転トルクを調整することで、金属線の張力(バックテンション)を所定の値に調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
伸線機の構造としては、伸線ダイスと、伸線ダイスを挟み、金属線の運搬に用いられる入線側のゴムキャプスタンおよび出線側のゴムキャプスタンとを備えた構造が考えられる。この場合、入線側のゴムキャプスタンで潤滑油による金属線の滑りが生じることに起因して金属線の張力の増大および断線が生じることを防ぐため、入線側のゴムキャプスタンに成形ロール側から送られて来る金属線を洗浄・乾燥する装置またはシールダイスが必要となり、装置が大型化する。また、伸線による金属線の運搬速度の変動に応じて金属線の速度制御を行うため、ダンサーと、複雑かつ高価な制御回路とが必要となる。そのため、エナメル線などの導体に使用される金属線を伸線して製造するときの製造原価が高くなってしまう。
【0005】
すなわち、伸線機の課題として、装置の小型化および金属線を伸線して製造するときの製造原価の低減が求められている。特に、金属線を伸ばし、続いて当該金属線を絶縁被膜で被膜してエナメル線を製造する装置などに組み込まれた伸線機(インライン伸線機)が、上記のように部品点数の多い構造を有していると、当該装置の大型化の問題が顕著となる。
【0006】
そこで、本発明は、小型化および製造原価の低減が実現可能な伸線機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0008】
代表的な実施の形態による伸線機は、金属線が順に送られる第1キャプスタン、伸線ダイスおよび第2キャプスタンを備え、第1キャプスタンの表面の摩擦係数は、第2キャプスタンの表面の摩擦係数より小さく、伸線ダイスを通過する前後の金属線の減面率に応じて、第1キャプスタンと伸線ダイスとの間の金属線の運搬速度の下限を決定するものである。
【発明の効果】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0010】
本発明によれば、小型化および製造原価の低減が実現可能な伸線機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態である伸線機を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施の形態である伸線機の一部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0013】
(実施の形態)
本実施の形態は、金属線(例えば、銅線)を、伸線ダイスの孔部を通過させることで伸ばすものであって、伸線ダイスに金属線を送る入線側のキャプスタンと、伸線ダイスから金属線を引き出す出線側のキャプスタンとを備えた伸線機に係るものである。
【0014】
<改善の余地>
以下に、
図3を用いて、改善の余地の詳細について説明する。
図3は、比較例である伸線機を示す概略図である。
【0015】
伸線ダイスを用いた伸線機では、伸線ダイスに金属線を送る入線側のキャプスタンと、伸線ダイスから送り出された金属線を引き出す出線側のキャプスタンとを用いて、金属線を運搬しながら引き伸ばすことが考えられる。このような装置の比較例の構造を、
図3に示す。ここでは例として、丸線、つまり断面形状が円である金属線を引き伸ばして、平角線、つまり、断面形状が矩形である金属線を形成するための伸線機について説明する。
図3では、伸線用の潤滑油が供給されている箇所を破線の矢印で示している。
【0016】
図3に示すように、伸線機に供給された金属線20は、順に、成形ロール1、洗浄装置9、乾燥装置10、ゴムキャプスタン11、伸線ダイス3、ダンサー12、および、ゴムキャプスタン13を介して運搬される。伸線ダイス3は、例えば円盤状の金属板から成り、当該金属板を貫通する孔部を有している。当該孔部は、当該金属板の表面側から徐々に直径が小さくなる構造を有しているため、当該表面側から当該孔部を通るように送り込まれた金属線20は、伸線ダイス3を通過する際に細く絞られ、細く引き伸ばされて伸線ダイス3から出線する。
【0017】
なお、本願では、キャプスタンまたはダイスなどに金属線が送り込まれることを入線と呼び、キャプスタンまたはダイスなどから金属線が送り出されることを出線と呼ぶ。伸線ダイス3を基準として見れば、ゴムキャプスタン11は入線側(上流)のキャプスタンである。つまり、ゴムキャプスタン11は伸線ダイス3に入線する前の金属線20を運搬するために用いられる。また、伸線ダイス3を基準として見れば、ゴムキャプスタン13は、出線側(下流)のキャプスタンである。つまり、ゴムキャプスタン13は、伸線ダイス3から金属線20を引き抜き、運搬するために用いられる。
【0018】
丸線である金属線20が巻かれたロール(図示しない)から供給された金属線20は、成形ロール1により、断面がほぼ矩形となるように成形される。その際、成形ロールでは金属線20との間で摩擦が生じるため、成形ロール1の表面には潤滑油が供給される。ここでは、金属線20の断面はほぼ矩形となるが、矩形の当該断面の角部は丸みを帯びている。
【0019】
次に、金属線20が洗浄装置9および乾燥装置10を順に通過することで、金属線20の表面に付着した潤滑油は除去される。このように潤滑油を除去する理由は、ゴムキャプスタン11に巻き付いて運搬される金属線20に潤滑油が付着していることに起因して、ゴムキャプスタン11の表面と金属線20との間でスリップが生じ、金属線20の運搬速度が不安定になることを防ぐことにある。
【0020】
洗浄装置9および乾燥装置10の代わりに、シールダイスを設けてもよい。シールダイスは、伸線ダイス3と同様に金属板から成り、金属線20が殆ど隙間無く通過する貫通孔を有するものである。シールダイスの当該貫通孔を金属線20が通ると、金属線20の表面に付着した潤滑油がシールダイスによりこそぎ取られる。したがって、シールダイスは、洗浄装置9および乾燥装置10と同様に潤滑油を除去する役割を果たす。
【0021】
次に、金属線20は、駆動されて回転するゴムキャプスタン11に巻き付けられた後、伸線ダイス3へ送り出される。ゴムキャプスタン11は、表面がゴムで覆われた金属製のロール(キャプスタン)から成る。金属線20は、ゴムキャプスタン11の周囲を周回するように巻き付けられる。駆動されて回転するゴムキャプスタン11との摩擦により、金属線20は運搬される。金属線20は、例えばゴムキャプスタン11の周囲に複数回巻かれている。
【0022】
次に、金属線20が伸線ダイス3を通過することで金属線20は引き伸ばされ、かつ、金属線20の断面形状はより矩形に近付く。つまり、金属線20の断面の角部の丸みは小さくなる。伸線ダイス3には、金属線20との摩擦を低減するため潤滑油が供給されるが、金属線20が伸線ダイス3を通過することで金属線20の表面からは潤滑油が除去される。伸線ダイス3により引き伸ばされた金属線20は、ダンサー12に巻き付いた後、ゴムキャプスタン13に巻き付いて運搬される。つまり、金属線20は、ゴムキャプスタン13により伸線ダイス3から引き抜かれる。
【0023】
ゴムキャプスタン13は、ゴムキャプスタン11と同様に、表面がゴムで覆われた金属製のロールから成る。金属線20は、ゴムキャプスタン13の周囲を周回するように巻き付けられる。駆動されて回転するゴムキャプスタン13との摩擦により、金属線20は運搬される。金属線20は、例えばゴムキャプスタン13の周囲に複数回巻かれている。
【0024】
ゴムキャプスタン11とゴムキャプスタン13のそれぞれの表面には、いずれもゴムから成る膜が巻かれている。つまり、金属線20に接する箇所におけるゴムキャプスタン11の表面を構成する材料と金属線20との摩擦係数と、金属線20に接する箇所におけるゴムキャプスタン13の表面を構成する材料と金属線20との摩擦係数とは、互いに同じである。
【0025】
ゴムキャプスタン13により送り出された金属線20は、例えばロールに巻かれ、または、次の工程(例えば、エナメル線を形成するための被膜工程)に進む。以上のようにして、比較例の伸線機による伸線が行われる。
【0026】
ここで、金属線20は、伸線ダイス3を通過する前よりも、伸線ダイス3を通過した後の方が細く長く引き伸ばされている。よって、伸線ダイス3に入線する前の金属線20の運搬される速度よりも、伸線ダイス3から出線した後の金属線20の運搬される速度の方が速くなる。このため、伸線ダイス3の入線側と出線側とで金属線20の運搬速度の調整を行わないと、ゴムキャプスタン11およびゴムキャプスタン13の相互間で金属線20に過剰な張力が生じ、金属線20の異常な伸びまたは断線が発生する。
【0027】
したがって、伸線ダイス3とゴムキャプスタン13との間には、金属線20の速度調節機構であるダンサー12を設けている。ダンサー12は、例えば、回転軸の位置が固定されたロール16と、上下方向に可動するロール17とから成り、金属線20は、ロール16、17の周囲に複数回巻かれる。ダンサー12は、ゴムキャプスタン11とゴムキャプスタン13との間の金属線20の速度を逐次制御するための装置である。すなわち、ゴムキャプスタン11で金属線20を送る場合、ゴムキャプスタン11の表面で金属線20が一時的にスリップすることがあり、その後急激にゴムキャプスタン11と金属線20との間で摩擦が復活する場合もあるため、金属線20を安定した速度で送ることが困難である。このため、金属線20の異常な伸びおよび断線を防ぐ観点から、ダンサー12に金属線20を貯め、上下に動くロール17によりダンサー12における金属線20の貯線量を調整することで、ゴムキャプスタン11とゴムキャプスタン13との間における金属線20の速度の変動を防ぐ必要がある。
【0028】
例えば、伸線ダイス3から出線する金属線20の速度が速くなった場合、ロール17が下方に降りて、ダンサー12における貯線量が増大する。これにより、ダンサー12からゴムキャプスタン13に出線する金属線20の速度が速くなることを防ぐことができ、金属線20の運搬速度は所定の速度に修正される。つまり、ゴムキャプスタン13において金属線20に過度な張力が生じることを防ぐことができる。伸線ダイス3の入線側と出線側とのそれぞれで金属線20の速度が一定であれば、ダンサー12を構成するロール17は上下に動かず一定の高さに留まるが、実際にはロール17は小刻みに上下しており、金属線20の速度は常に調整されている。この調整には、金属線20の速度の大きな変動に対応し、リアルタイムで金属線20の速度を制御する複雑で高価な制御回路が必要となる。
【0029】
本願でいう貯線量とは、伸線機の稼働時において、ダンサーまたはキャプスタンなどに巻き付いている金属線の長さを指す。つまり、貯線量は、ダンサーまたはキャプスタンなどに貯まっている金属線の長さである。
【0030】
また、本願でいう減面率とは、伸線ダイス3に入線する前の金属線20の断面積に対する、伸線ダイス3から出線する金属線20の断面積の低下率である。例えば、金属線20が伸線ダイス3により引き伸ばされたことで、金属線20の断面積が8割に低減した場合、伸線ダイス3を通過する前後の減面率は20%である。伸線ダイス3は、伸線後の金属線20の細さ、形状または断面積に応じて複数種類使い分けられるため、上記制御回路は、複数種類の伸線ダイス3に対応する必要がある。
【0031】
また、成形ロール1を用いて金属線20を成形した後、ゴムキャプスタン11に巻き付く前に金属線20を洗浄・乾燥、または、シールダイスによる潤滑油の除去を行わない場合、ゴムキャプスタン11の表面で頻繁にスリップが起こり、金属線20の速度が過度に不安定になる。したがって、伸線ダイス3の入線側の金属線20の運搬手段としてゴムキャプスタン11を用いる場合は、金属線20の断線などを防ぐため、洗浄装置9および乾燥装置10、または、シールダイスを用いて、潤滑油の除去を行う必要がある。
【0032】
比較例の伸線機では、上記のように、ダンサー12および複雑な速度制御回路が必要となり、また、洗浄装置9および乾燥装置10、または、シールダイスが必要である。このため、伸線機が大型化し、伸線ラインのライン長が大きくなる。また、伸線機のコストが増大する問題がある。特に、金属線20を伸ばし、続いて金属線20に絶縁体を塗布してエナメル線を製造する装置などに比較例の伸線機(インライン伸線機)を組み込んだ場合、当該装置の大型化の問題が顕著となる。
【0033】
さらに、比較例の伸線機では、エナメル線などの導体に使用される金属線を伸線して製造するときの製造原価が高くなる問題がある。すなわち、洗浄装置9ではポンプを用いて水を金属線20に吹き付けることから、電気代および水代などが必要となる。また、乾燥装置10ではブロワを使用するため、電気代が必要となる。また、洗浄装置9および乾燥装置10の代わりにシールダイスを用いる場合、シールダイスは摩耗により定期交換を要する。また、シールダイスは、金属線20の線サイズまたは断面形状などの違いに応じて複数種類を用意する必要がある。また、ゴムキャプスタン11の表面のゴムは摩耗するため、定期的にゴム部分の交換が必要である。このように、比較例では、伸線機を継続して使用して金属線を伸線するための製造原価が高くなることも問題となる。
【0034】
以上より、伸線機の小型化、および、金属線を伸線して製造するときの製造原価の低減が改善の余地として存在する。そこで、本実施の形態では、上述した改善の余地を解決する工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0035】
<伸線機の構造>
以下に、
図1および
図2を用いて、本実施の形態の伸線機の構造について説明する。
図1は、本実施の形態の伸線機を示す概略図である。
図2は、本実施の形態の伸線機の一部を示す側面図である。ここでは例として、丸線、つまり断面形状が円である金属線から、平角線、つまり、断面形状が矩形である金属線を形成するための伸線機について説明する。
図1では、伸線用の潤滑油が供給されている箇所を破線の矢印で示している。
【0036】
図1に示すように、伸線機に供給された金属線20は、順に、成形ロール1、第1キャプスタン2、伸線ダイス3、および、第2キャプスタン4を介して運搬される。伸線ダイス3は、例えば円盤状の金属板から成り、当該金属板を貫通する孔部を有している。当該孔部は、当該金属板の表面側から徐々に直径が小さくなる構造を有しているため、当該表面側から当該孔部を通るように送り込まれた金属線20は、伸線ダイス3を通過する際に細く絞られ、細く引き伸ばされて伸線ダイス3から出線する。
【0037】
伸線ダイス3を基準として見れば、第1キャプスタン2は入線側のキャプスタンである。つまり、第1キャプスタン2は伸線ダイス3に入線する前の金属線20を運搬するために用いられる。また、伸線ダイス3を基準として見れば、第2キャプスタン4は、出線側のキャプスタンである。つまり、第2キャプスタン4は、伸線ダイス3から金属線20を引き抜き、運搬するために用いられる。
【0038】
成形ロール1は、例えば、垂直方向に並ぶ一対のロールと、水平方向に並ぶ一対のロールとを有し、金属線20はそれら4つのロールに挟まれた領域を通過し、その際成形される。つまり、丸線である金属線20が巻かれたロール(図示しない)から供給された金属線20は、成形ロール1により、断面がほぼ矩形となるように粗く成形される。その際、成形ロールでは金属線20との間で摩擦が生じるため、成形ロール1の表面および金属線20には潤滑油が供給される。ここでは、金属線20の断面はほぼ矩形となるが、矩形の当該断面の角部は大きな丸みを帯びている。
【0039】
次に、金属線20は、駆動されて回転する第1キャプスタン2に巻き付けられた後、伸線ダイス3へ送り出される。第1キャプスタン2は、例えば表面に金属が露出している金属製のロール(キャプスタン)5および表面に金属が露出している金属製のロール(キャプスタン)6から成る金属キャプスタンなどで構成される。本願では、一対のロール(キャプスタン)をまとめてキャプスタンと呼ぶ場合がある。例えば、キャプスタンの表面と呼ぶ場合、当該表面は、当該キャプスタンを構成する複数のロールのそれぞれにおける表面を意味する。金属製のロールの表面には、めっき層を有していてもよい。当該めっき層は金属から成る。金属線20は、互いに離間する一対のロール5、6の周囲を周回するように巻き付けられる。駆動されて回転するロール5、6のそれぞれとの摩擦により、金属線20は運搬される。つまり、金属線20はロール7、8のそれぞれに巻き付いて運搬される。
【0040】
ただし、成形ロール1を通過する際に金属線20に供給された潤滑油は除去されずに残っており、第1キャプスタン2にも、潤滑油が供給されている。つまり、伸線ダイス3の上流に設けられた第1キャプスタン2の表面には、潤滑油が塗布されている。加えて、金属線20と接する第1キャプスタン2の表面を構成する材料である金属と金属線20との間の摩擦は、ゴムと金属線20との間の摩擦に比べて小さい。このため、金属線20は第1キャプスタン2により駆動されるが、第1キャプスタン2と金属線20との間では常に滑りが生じている。
【0041】
金属線20は、上側のロール5と、下側のロール6とをそれぞれ約半周回って一対のロール5、6の周囲を1周している。第1キャプスタン2に金属線20が複数回巻き付けられている場合は、金属線20はこのような周回を複数繰り返している。
【0042】
図2に、ロール5および6のそれぞれを、
図1の右側から観察した場合の側面図を示す。つまり、
図2に示す金属線20は、
図2の奥側からロール5および6から成る第1キャプスタン2に入線し、金属キャプスタン2に巻き付いた後、
図2の手前側に出線する。
図2では、ロール5、6のそれぞれの回転軸を破線で示している。また、
図2では、金属線20の進行方向を矢印で示している。
【0043】
図2に示すように、ロール5の回転軸は水平方向に沿っているのに対し、ロール6の回転軸は、水平方向に対して下方に角度θの傾きを有している。言い換えれば、ロール6の回転軸は、ロール5の回転軸に対して下方に角度θの傾きを有している。なお、ロール6の回転軸の傾きは、角度θを最大で3.0°程度とすることが好ましく、角度θを0°より大きく2.5°以下とすることがより好ましい。ロール5、6のそれぞれは、モータにより同じ速度で回転する。ロール5、6に複数回巻かれた金属線20は、1周目の金属線20は、2周目の金属線20と接触しないように、互いに離間してロール5、6に巻かれている。このように、第1キャプスタン2に巻かれている金属線20は、自身に接することなく第1キャプスタン2から送り出される。
【0044】
すなわち、下段のロール6の中心軸が上段のロール5の中心軸に対してずれている(傾いている)ことにより、金属線20が一対のロール5、6に複数回巻き付けられている場合に、巻き付けられている金属線20同士が絡まる不具合などを防止しつつ、金属線20をストレスなくスムーズに走行させることができる。なお、
図2では第1キャプスタン2から出線する箇所の金属線20についてのみ断面を示している。
【0045】
図1に示すように、ロール5とロール6との間を移動する金属線20はロール5の表面とロール6の表面との間で一直線に張られておらず、ロール5、6の相互間の領域に対し外側に膨らんで撓んでいる。言い換えれば、伸線ダイス3の上流に設けられた第1キャプスタン2では、金属線(線材、銅線)20が撓む状態で第1キャプスタン2の周上を走行する。
【0046】
これは、上記のように第1キャプスタン2と金属線20との間で滑りが生じているためである。金属線20の運搬中にはこの撓みが存在するため、ロール5の表面とロール6の表面との間で金属線20を一直線に張って、ロール5、6の周囲に金属線20を1周させる場合の金属線20の巻き付き長に比べ、本実施の形態の伸線機の稼働中にロール5、6の周囲に巻き付く金属線20の1周の巻き付き長は大きい。
【0047】
次に、第1キャプスタン2から送られた金属線20が伸線ダイス3を通過することで金属線20は引き伸ばされ、かつ、金属線20の断面形状はより矩形に近付く。つまり、金属線20の断面の角部の丸みは小さくなる。伸線ダイス3には、金属線20との摩擦を低減するため潤滑油が供給されるが、金属線20が伸線ダイス3を通過することで金属線20の表面からは潤滑油が除去される。伸線ダイス3により引き伸ばされた金属線20は、伸線ダイスから第2キャプスタン4に送られ、第2キャプスタン4に巻き付いて運搬される。つまり、金属線20は、第2キャプスタン4により伸線ダイス3から引き抜かれる。伸線ダイス3の下流に設けられた第2キャプスタン4の表面には、潤滑油は塗布されていない。
【0048】
第2キャプスタン4は、例えば、金属製のロールの表面をゴムで覆ったロール(キャプスタン)7および金属製のロールの表面をゴムで覆ったロール(キャプスタン)8から成るゴムキャプスタンなどで構成される。つまり、ゴムキャプスタンから成る第2キャプスタン4の表面には、ゴムから成る膜が巻かれている。金属線20は、互いに離間する一対のロール7、8の周囲を周回するように巻き付けられる。駆動されて回転するロール7、8のそれぞれとの摩擦により、金属線20は運搬される。つまり、金属線20はロール7、8のそれぞれに巻き付いて運搬される。金属線20は、上側のロール7と、下側のロール8とをそれぞれ約半周回って一対のロール7、8の周囲を1周している。第2キャプスタン4に金属線20が複数回巻き付けられている場合は、金属線20はこのような周回を複数繰り返している。
【0049】
図2に示すロール5、6と同様に、ロール7の回転軸は、水平方向に沿っているのに対し、ロール8の回転軸は、水平方向に対して下方に角度θの傾きを有している。言い換えれば、ロール7の回転軸は、ロール8の回転軸に対して下方に角度θの傾きを有している。ロール7、8のそれぞれは、モータにより同じ速度で回転する。また、第2キャプスタン4に巻かれている金属線20は、自身に接することなく第2キャプスタン4から送り出される。なお、ロール8の回転軸の傾きは、ロール6と同様に、角度θを最大で3.0°程度とすることが好ましく、角度θを0°より大きく2.5°以下とすることがより好ましい。また、ロール8の回転軸の傾きは、ロール6の回転軸の傾きと同じでも異なっていてもよい。さらに、ロール6、8の回転軸は、水平方向に対して下方に角度θの傾きを有している構成を説明したが、この構成に限定されない。ロール6、8の回転軸は、例えば、水平方向に対して平行な方向(
図2の手前側)に角度θの傾きを有している構成であってもよい。
【0050】
図1に示すように、ロール7とロール8との間を移動する金属線20はロール7の表面とロール8の表面との間で一直線に張られており、撓んでいない。言い換えれば、伸線ダイス3の下流に設けられた第2キャプスタン4では、金属線(線材、銅線)20が撓まない状態で第2キャプスタン4の周上を走行する。これは、第2キャプスタン4に送られる金属線20は、伸線ダイス3を通過することで潤滑油が除去されており、かつ、金属線20に接する箇所における第1キャプスタン2の表面を構成する材料(金属)と金属線20との摩擦係数が、金属線20に接する箇所における第2キャプスタン4の表面を構成する材料(ゴム)と金属線20との摩擦係数よりも小さいためである。このように、ここでは第1キャプスタン2において金属線20のスリップを起こしているのに対し、第2キャプスタン4ではスリップは起きない。ここでいう材料と金属線との摩擦係数とは、潤滑油がない場合の静摩擦係数を指す。
【0051】
静摩擦係数の測定方法としては、例えば、第1キャプスタン2の表面に金属線を配置し、金属線の法線方向から金属線に一定荷重Fpをかけながら一定速度で送り出したときに、第1キャプスタン2の表面の金属線が第1キャプスタンの表面を滑り始めるときの最大荷重Fsを求め、荷重Fpに対する最大荷重Fsの比によって第1摩擦係数が算出される。また、第2摩擦係数は、例えば、第2キャプスタン4の表面に金属線を配置し、金属線の法線方向から金属線に一定荷重Fpをかけながら一定速度で送り出したときに、第2キャプスタン4の表面の金属線が第2キャプスタンの表面を滑り始めるときの最大荷重Fsを求め、荷重Fpに対する最大荷重Fsの比によって算出される。
【0052】
本願でいう水平方向は、重力方向に対して垂直な方向である。本願でいう垂直方向は、水平方向に対して垂直な方向である。ロール5、6は、互いに垂直方向に並んでいるが、ロール5、6のそれぞれの回転軸は、
図2に示すように並行ではない。ロール7、8は、互いに垂直方向に並んでいるが、
図2に示すロール5、6と同様に、ロール7、8のそれぞれの回転軸は、互いに並行ではない。例えば、ロール5、7のそれぞれの回転軸は互いに並行であり、ロール6、8のそれぞれの回転軸は互いに並行である。つまり、第1キャプスタン2と第2キャプスタン4とは、互いに並列(並行)に配置されている。また、第1キャプスタン2および第2キャプスタン4は、いずれも2つのロールで金属線を挟んで金属線を駆動するものではない。ロール5、6、7および8のそれぞれは、第2キャプスタン4の表面のゴム部分を含めて同じ直径を有しており、ロール5、6の相互間の距離と、ロール7、8の相互間の距離とは、互いに同じである。また、ロール5~8のそれぞれの回転軸の位置は固定されている。つまり、ロール5、6のそれぞれの間の距離と、ロール7、8のそれぞれの間の距離とは、互いに同じである。
【0053】
よって、仮に、ロール5の表面とロール6の表面との間で金属線20を一直線に張って、ロール5、6の周囲に金属線20を1周させる場合の金属線20の巻き付き長は、ロール7の表面とロール8の表面との間で金属線20を一直線に張って、ロール7、8の周囲に金属線20を1周させる場合の金属線20の巻き付き長と同じである。これに対し、本実施の形態の伸線機の稼働中においては、ロール5、6の相互間で金属線20に撓みが生じる。つまり、ロール5、6の相互間の金属線20は、ロール5、6の相互間の領域に対して外側に弧を描いて膨らむ。したがって、ロール5、6(第1キャプスタン2)の周囲に巻き付く金属線20の1周の巻き付き長は、ロール7、8(第2キャプスタン4)の周囲に巻き付く金属線20の1周の巻き付き長より大きい。なお、ロール5、6、7および8は、いずれも
図1において時計回りに回転する。
【0054】
第2キャプスタン4により送り出された金属線20は、例えばロールに巻かれ、または、次の工程(例えば、エナメル線を形成するための被膜工程)に進む。以上のようにして、本実施の形態の伸線機による伸線が行われる。本実施の形態で伸線された金属線20は、例えばリアクトル、または、電気自動車の駆動モータ用のコイルなどに用いられる。
【0055】
ここで、金属線20は、伸線ダイス3を通過する前よりも、伸線ダイス3を通過した後の方が細く長く引き伸ばされている。よって、伸線ダイス3に入線する前の金属線20の運搬される速度よりも、伸線ダイス3から出線した後の金属線20の運搬される速度の方が速くなる。言い換えれば、伸線ダイス3から出線した後において、単位時間当たりに運搬される金属線20の長さは、伸線ダイス3に入線する前において、単位時間当たりに運搬される金属線20の長さよりも大きい。
【0056】
具体的には、伸線ダイス3による金属線20の減面率が20%である場合、伸線ダイス3から出線した金属線20の速度(運搬速度)は、10m/minであり、伸線ダイス3に入線する金属線20の速度(運搬速度)は、8~9m/minである。なお、金属線20の速度は、例えば毎分数百~数千mであってもよい。
【0057】
本実施の形態では、第1キャプスタン2に潤滑油を供給し、第1キャプスタン2の表面の摩擦を低減しており、第1キャプスタン2において意図的にスリップを起こしている。これにより、伸線ダイス3に一定の速度で金属線20を送ることができる。
図3に示す比較例のゴムキャプスタン11では、金属線20から潤滑油を除去した場合、および、意図的に金属線20に潤滑油を塗布した場合のいずれにおいても、本実施の形態のように金属線20を一定のスピードで伸線ダイス3に送ることは困難である。
【0058】
ただし、第1キャプスタン2における滑りの微小な変化、または、伸線ダイス3に入線する金属線20の引っかかりなどに起因して、伸線ダイス3に入線する金属線20の速度が変動する場合がある。このような場合であっても、第1キャプスタン2においては金属線20が撓んでいるため、第1キャプスタン2における金属線20の貯線量は自動的に調整される。これにより、第1キャプスタン2から伸線ダイス3に送られる金属線20の速度を安定させることが可能である。
【0059】
すなわち、伸線ダイス3に対する入線側の金属線20の速度が過度に低下した場合、ロール5、6の相互間の金属線20の撓みは自動的に小さくなる。これにより、金属線20の貯線量は小さくなり、金属線20の速度は上昇する。つまり、金属線20の速度は所望の速度に調整される。また、伸線ダイス3に対する入線側の金属線20の速度が過度に増大した場合、ロール5、6の相互間の金属線20の撓みは自動的に大きくなる。これにより、金属線20の貯線量は大きくなり、金属線20の速度は低下する。つまり、金属線20の速度は所望の速度に調整される。
【0060】
このようにして、金属線20から伸線ダイス3に送られる金属線20の速度が所望の速度から変動することを防ぐことができる。つまり、比較例のようにダンサーを設けなくても、金属線20を第1キャプスタン2から第2キャプスタン4へ一定の速度で送ることができるため、金属線20の異常な伸びおよび断線を防ぐことができる。
【0061】
上記のように伸線ダイス3に対する入線側の金属線20の運搬速度の変動を防ぐことができるため、比較例のように、リアルタイムで金属線20の速度を制御する複雑で高価な制御回路を用いる必要はない。すなわち、本実施の形態では、伸線ダイス3による金属線20の減面率に応じて、入線側の金属線20の運搬速度の下限を設定(決定)すればよい。伸線ダイス3による減面率が20%である場合、伸線ダイス3により減面される前の断面積S1と、伸線ダイス3により減面された後の断面積S2との関係は、S1×0.8=S2で表される。また、減面前の金属線20の体積V1と、減面後の金属線20の体積V2とは、V1=V2で表される。ここで、第1キャプスタン2から出線する金属線20の速度(線速)Ve1と、第2キャプスタン4から出線する金属線20の速度(線速)Ve2との関係は、Ve2>Ve1≧Ve2×0.8で表される。
【0062】
本実施の形態では、このように、減面率に応じて、伸線ダイス3に対する入線側(上流)の金属線20の速度と、伸線ダイス3に対する出線側(下流)の金属線20の速度との関係を設定する。具体的には、伸線ダイス3に対する出線側の金属線20の速度、つまり、要求される伸線の製造速度を基準として、伸線ダイス3に対する出線側の金属線20の運搬速度の下限を設定(決定)する。
【0063】
言い換えれば、第2キャプスタン4から送り出される金属線20の速度Ve2(第2速度)に対する、第1キャプスタン2と伸線ダイス3との間で運搬される金属線20の速度Ve1(第1速度)の比は、断面積S1(第1断面積)に対する断面積S2(第2断面積)の比以上の大きさである。このことは、以下の式1により表される。
【0064】
Ve1/Ve2≧S2/S1・・・(式1)
ここで、伸線ダイス3に対する入線側および出線側のそれぞれの線速を、完全に減面率に応じた速さとする場合ことも考えられる。つまり、伸線により金属線20の断面積が4/5になる場合、速度Ve1の値を、速度Ve2と4/5の逆数である5/4との積の値とすれば、安定して伸線を行うことができるようにも思える。ただし、実際には各キャプスタンおよび伸線ダイス3などにおいて金属線20の微細な速度変化が起こり得るため、金属線20の断線などを防ぐ観点から、伸線ダイス3に対する入線側および出線側のそれぞれの線速を、完全に減面率に応じた速さとすることができない場合もある。
【0065】
よって、ここでは、例えば減面率が20%とし、出線側の速度Ve2が10m/minである場合には、入線側の速度Ve1の下限を8m/minとし、実際には、速度Ve1を例えば8.5m/minに設定して伸線機を稼働させる。具体的には、速度Ve2の設定値を10m/minとする。これにより、第2キャプスタン4から出線する金属線20の速度の実測値は、ほぼ10m/minとなる。さらに、速度Ve1の設定値を8.5m/minとする。これにより、第1キャプスタン2から出線する金属線20の速度の実測値は、変動はあるが、ほぼ8.5m/minとなる。
【0066】
伸線により金属線20が減面され、速度Ve2は速度Ve1より速くなるのだから、速度Ve1(第1速度)の上限は、速度Ve2(第2速度)未満である。ロール5、6のそれぞれの回転速度と、ロール7、8のそれぞれの回転速度とを制御することで、伸線ダイス3に対する入線側の金属線20を速度Ve1で運搬し、伸線ダイス3に対する出線側の金属線20を速度Ve2で運搬することができる。伸線ダイス3を、減面率の異なるもの、または、金属線の断面形状の異なるものなどに交換する場合には、それに応じてロール5、6のそれぞれの回転速度と、ロール7、8のそれぞれの回転速度との設定を変更すればよい。ここでは、ロール5、6は、ロール7、8よりも遅く回転させる。
【0067】
<本実施の形態の効果>
本実施の形態では、上記のように、リアルタイムで金属線20の速度を制御する複雑で高価な制御回路を用いる必要はなく、減面率に応じて伸線ダイス3に対する入線側および出線側のそれぞれの線速を設定することで、金属線20における過度な張力の発生、過度な伸びおよび断線を防ぎつつ、伸線機を使用することができる。また、ダンサーを省略することができる。よって、伸線機の信頼性を低下させることなく、伸線機を構成する設備を簡略化し、伸線機の小型化、伸線機のライン長の短縮、および、伸線機の設備コストの低下を実現させることができる。
【0068】
すなわち、ダンサーを用いなくても、潤滑油が供給され、表面の摩擦係数が小さい第1キャプスタン2を伸線ダイス3の入線側に設けることで、伸線ダイス3の入線側の金属線20を安定した速度で運搬することができる。また、金属線20が第1キャプスタン2において撓むことで、金属線20の微小な速度変化を防ぎ、線速を一定に調整することができる。これにより、複雑な制御回路を用いなくても、上記のように単純な速度比の比率設定により伸線機を使用することができる。ここでは、ダンサーがないため、伸線ダイス3と第2キャプスタン4との間で運搬される金属線20の速度は一定である。
【0069】
また、第1キャプスタン2で意図的に金属線20をスリップさせることで、成形ロール1と第1キャプスタン2との間に洗浄装置および乾燥装置、または、シールダイスを配置する必要がない。つまり、成形ロール1と第1キャプスタン2との間を運搬される金属線20の表面から潤滑油を除去する洗浄部は設けられていない。これにより、伸線機を構成する設備を簡略化し、伸線機の小型化、伸線機のライン長の短縮、および、伸線機の設備コストの低下を実現させることができる。
【0070】
例えば、金属線20を伸ばし、続いて金属線20に絶縁体を塗布してエナメル線を製造する装置などに本実施の形態の伸線機(インライン伸線機)を組み込んだ場合には、当該装置を小型化する効果を得ることができる。
【0071】
また、伸線機のランニングコストの低下を実現することができる。すなわち、洗浄装置でポンプを使用するための電気代および水代などが不要となり、乾燥装置でブロワを使用するための電気代が不要となる。また、シールダイスの定期交換も不要である。また、第1キャプスタン2は殆ど摩耗しないため、ゴムキャプスタン11(
図3参照)の表面のゴム部分のように、定期的な部品交換は不要である。このように、比較例に比べ、本実施の形態では、伸線機を継続して使用するためのコストを低減させることができる。
【0072】
よって、上述した改善の余地に記載した問題を解消することができ、伸線機の小型化、および、金属線を伸線して製造するときの製造原価の低減を実現することができる。
【0073】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【0074】
例えば、平角伸線を行う場合に限られず、伸線後の金属線の断面形状は、どのような形状であってもよい。例えば、伸線された金属線の断面形状は円形であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 成形ロール
2 第1キャプスタン
3 伸線ダイス
4 第2キャプスタン
20 金属線