(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】絶縁電線およびケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/295 20060101AFI20221018BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20221018BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01B7/295
H01B7/02 Z
H01B3/44 M
H01B3/44 P
(21)【出願番号】P 2019035062
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 周
(72)【発明者】
【氏名】梶山 元治
(72)【発明者】
【氏名】橋本 充
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-239901(JP,A)
【文献】国際公開第2016/175076(WO,A1)
【文献】特開2016-021360(JP,A)
【文献】特開2014-024910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/295
H01B 7/02
H01B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を被覆する第1絶縁層と、前記第1絶縁層を被覆する第2絶縁層と、を有する絶縁電線であって、
前記第1絶縁層は、第1ベースポリマと、充填剤とを含む第1ノンハロゲン樹脂組成物よりなり、
前記第2絶縁層が、第2ベースポリマと、金属水酸化物とを含む第2ノンハロゲン樹脂組成物よりなり、
前記第2ベースポリマは、酢酸ビニル含有量(VA量)が60%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)および融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマの少なくとも2種のポリマを含み、前記2種のポリマが第2ベースポリマの80%以上を占め、
前記金属水酸化物は、ベースポリマ100重量部に対して150~250重量部の割合で含ま
れ、
前記第1ベースポリマは、融点110℃以上のポリエチレンを50%以上含み、前記充填剤は、ベースポリマ100重量部に対して150重量部以下の割合で含まれ、
前記第1ベースポリマに、酸変性されたポリオレフィンが混合されている、絶縁電線。
【請求項2】
請求項
1記載の絶縁電線において、
前記充填剤は、焼成クレーまたはタルクである、絶縁電線。
【請求項3】
請求項
1記載の絶縁電線において、
架橋後の引張強さが10MPa以上、かつ伸びが150%以上であり、
IRM903油に、70℃で、168時間浸漬した後の引張強さ変化率が±30%以内、かつ伸び変化率が±40%以内である、絶縁電線。
【請求項4】
請求項
1記載の絶縁電線において、
前記第2ベースポリマに、酸変性されたポリオレフィンが混合され、
前記酸変性されたポリオレフィンのガラス転移温度(Tg)が-55℃以下であり、
前記2種のポリマと、前記酸変性されたポリオレフィンとの質量比が80:20~99:1である、絶縁電線。
【請求項5】
請求項
1記載の絶縁電線において、
前記金属水酸化物は、水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムを含み、
前記融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマは、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)である、絶縁電線。
【請求項6】
絶縁電線と、前記絶縁電線を被覆するシースとを有するケーブルであって、
前記絶縁電線として、請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の絶縁電線を有する、ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン樹脂組成物を用いた絶縁電線およびケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境保全に対する活動の世界的な高まりから、燃焼時に有毒なガスを発生せず、廃棄処分時の環境汚染が少ないノンハロゲン材料の普及が急速に進んできている。
例えば、特許文献1(特開2010-97881号公報)には、導体と、導体を被覆し、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)を含む絶縁性を有する内層と、内層を被覆し、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)とノンハロゲン難燃剤とを含み、架橋して耐油性および難燃性を有する外層とを備える絶縁電線が開示されている。
【0003】
しかしながら、ノンハロゲン材料は一般的にハロゲン材料と比較して難燃性に劣るため、高い難燃性を付与するためには難燃剤を高充填する必要がある。例えば、EN45545、NFPA130等の非常に高い難燃性が要求される規格を満たすためには、難燃剤の添加量を200質量部程度、もしくはそれ以上添加する必要がある。このような難燃剤の添加により、難燃性は向上するものの、材料の伸び特性、低温特性等のその他の特性が低下する傾向にある。
【0004】
また、金属水酸化物等の難燃剤は吸湿性が高いため、多量に添加することで電気特性が低下し、必要な絶縁性能を維持することが困難な場合がある。
【0005】
一方、鉄道車両等に使用される絶縁電線およびケーブルは、高い難燃性、電気絶縁性に加え、使用される環境に応じて、耐燃料性等も要求される。例えばEN60811-2-1に規定されている耐燃料試験では、70℃においてIRM903油に材料を浸漬し、材料の引張強さ、伸びの変化率を測定する。
【0006】
高い難燃性、電気絶縁性および耐燃料性を両立する方法として、外層を難燃性、耐燃料性の高い層とし、内層を電気絶縁性の高い層とする方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、ケーブルの外被層や電線の絶縁層のような被覆材の研究・開発に従事しており、被覆材であるポリマとして、ノンハロゲン材料を用い、難燃性の他、耐油性、耐燃料性、低温特性などが良好な樹脂組成物を検討している。
【0009】
特に、鉄道車両等に使用される絶縁電線およびケーブルは、高い難燃性、電気絶縁性に加え、使用される環境に応じて、耐燃料特性等も要求されている。
【0010】
耐燃料性を向上させるためには、試験温度である70℃で溶融しないポリマを使用するか、IRM903油と相溶しにくいポリマを使用することが有効である。前者のポリマを使用することは、耐燃料性の向上に効果はあるが、難燃剤等の添加に伴う伸び特性等の低下が顕著であり、EN45545、NFPA130等の非常に高い難燃性が要求される場合は、難燃性と伸び特性等の諸物性との両立が困難である。
【0011】
後者のIRM903油と相溶しないポリマとしては、ポリマの極性の高いものが有効である。但し、融点の高いものは前述のとおり、難燃性と伸び特性等の諸物性との両立が困難である。低融点であり、極性の高いポリマとしては、高VA量のEVA、高EA量のEEA等が挙げられ、市場での入手性も考慮すると多くのグレードが上市されている高VAのEVAが適している。ただし、高VAのEVAは一般的に引張強さが乏しく、またポリマ同士の融着も激しく、単独の使用には適していない。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであり、難燃性、耐油性、耐燃料性、低温特性が良好な、ノンハロゲン樹脂組成物を用いた絶縁電線およびケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の一態様の絶縁電線は、導体と、前記導体を被覆する第1絶縁層と、前記第1絶縁層を被覆する第2絶縁層と、を有する絶縁電線であって、前記第1絶縁層は、第1ベースポリマと、充填剤とを含む第1ノンハロゲン樹脂組成物よりなり、前記第2絶縁層が、第2ベースポリマと、金属水酸化物とを含む第2ノンハロゲン樹脂組成物よりなり、前記第2ベースポリマは、酢酸ビニル含有量(VA量)が60%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)および融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマの少なくとも2種のポリマを含み、前記2種のポリマが第2ベースポリマの80%以上を占め、前記金属水酸化物は、ベースポリマ100重量部に対して150~250重量部の割合で含まれる。
【0014】
(2)例えば、前記第1ベースポリマは、融点110℃以上のポリエチレンを50%以上含み、前記充填剤は、ベースポリマ100重量部に対して150重量部以下の割合で含まれる。
【0015】
(3)例えば、前記充填剤は、焼成クレーまたはタルクである。
【0016】
(4)例えば、架橋後の引張強さが10MPa以上、かつ伸びが150%以上であり、IRM903油に、70℃で、168時間浸漬した後の引張強さ変化率が±30%以内、かつ伸び変化率が±40%以内である。
【0017】
(5)例えば、前記第1ベースポリマに、酸変性されたポリオレフィンが混合されている。
【0018】
(6)例えば、前記第2ベースポリマに、酸変性されたポリオレフィンが混合され、前記酸変性されたポリオレフィンのガラス転移温度(Tg)が-55℃以下であり、前記2種のポリマと、前記酸変性されたポリオレフィンとの質量比が80:20~99:1である。
【0019】
(7)例えば、前記金属水酸化物は、水酸化マグネシウムまたは水酸化アルミニウムを含み、融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマは、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)である。
【0020】
(8)本発明の一態様のケーブルは、前記絶縁電線と、前記絶縁電線を被覆するシースとを有するケーブルである。
【0021】
(9)本発明の一態様のケーブルは、絶縁電線と、前記絶縁電線を被覆するシースを有するケーブルであって、前記シースは、ベースポリマと、金属水酸化物とを含むノンハロゲン樹脂組成物よりなり、前記ベースポリマは、酢酸ビニル含有量(VA量)が60%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)および融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマの少なくとも2種のポリマを含み、前記2種のポリマがベースポリマの80%以上を占め、前記金属水酸化物は、ベースポリマ100重量部に対して150~250重量部の割合で含まれる。
【0022】
(10)例えば、架橋後の引張強さが10MPa以上、かつ伸びが150%以上であり、IRM903油に、70℃で、168時間浸漬した後の引張強さ変化率が±30%以内、かつ伸び変化率が±40%以内である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様の、ノンハロゲン樹脂組成物を用いた絶縁電線およびケーブルによれば、難燃性、耐油性、耐燃料性、低温特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態の絶縁電線の構成例を示す断面図である。
図1に示す絶縁電線11は、導体11aと、内層11bと、外層11cとを有している。
【0026】
導体11aとしては、金属線、例えば、銅線、銅合金線の他、アルミニウム線、金線、銀線などを用いることができる。また、金属線の外周に錫やニッケルなどの金属めっきを施したものを用いてもよい。導体11aとしては、複数本の金属線を用いてもよく、また、撚線を用いてもよい。
【0027】
内層(絶縁層)11bとしては、ベースポリマと、充填剤と、その他の添加剤と、を含む樹脂組成物を用いることができる。
【0028】
(ベースポリマ)
ベースポリマとしては、電気絶縁性に優れたポリマであるポリエチレン(ポリオレフィン)を用いることができる。ポリエチレンとしては、融点が110℃以上のものを用いることが好ましい。融点は示差走査熱量測定(DSC)法にて測定することができる。融点が110℃を下回ると、耐油試験中に結晶が融解し、ポリマ中への油の拡散を防ぐことが難しくなり、引張特性の変化率が大きくなる。
【0029】
結晶化度を向上させるために、融点が120℃以上の結晶性のポリエチレン(ポリオレフィン)を添加することが好ましい。
【0030】
融点が110℃以上のポリエチレンとしては低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどが挙げられる。ベースポリマ中に占める融点110℃以上のポリエチレンの比率は、50%(50重量%)以上であることが好ましく、60~80%であることがより好ましい。このように、ベースポリマは、融点110℃以上のポリエチレンを主成分として含有する。
【0031】
充填剤の受容性を考慮するとベースポリマ中にゴム成分が含まれていることが好ましい。即ち、ゴム成分によりポリエチレン(ポリオレフィン)と充填剤との界面が密着し、ポリエチレン(ポリオレフィン)と充填剤との剥離を防止することができる。
【0032】
ゴム成分としては、エチレンープロピレン共重合体ゴム(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム(EPDM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素添加NBR(HNBR)、アクリルゴム、エチレン-アクリル酸エステル共重合体ゴム、エチレンオクテン共重合体ゴム(EOR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体ゴム、エチレン-ブテン-1共重合体ゴム(EBR)、ブタジエン-スチレン共重合体ゴム(SBR)、イソブチレン-イソプレン共重合体ゴム(IIR)、ポリスチレンブロックを含むブロック共重合体ゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。中でもEORやEBRは、二重結合をもたないため、押出し時のスコーチのリスクが無く、また、極性を有しないため、高い電気特性を得ることができる。このように、ゴム成分としてEORやEBRを用いることが好ましい。
【0033】
また、高い電気特性を得るために酸変性されたポリオレフィン(ポリオレフィンを酸で変性したもの)を用いることが好ましい。酸変性ポリオレフィンの材料となる酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。酸変性ポリオレフィンの材料となるポリオレフィンとしては、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。中でも、ガラス転移温度(Tg)が-55℃以下の酸変性ポリオレフィンを用いることが好ましい。
【0034】
(充填剤)
ベースポリマには、充填剤が添加される。ここで、本明細書において、充填剤とは、ベースポリマに添加する無機物であって、ベースポリマ100重量部(質量部)に対し、少なくとも20重量部以上添加されるものを言う。但し、充填剤の量が多すぎると破断伸びが低下するため、充填剤の添加量は、ベースポリマ100重量部あたり、150重量部以下とすることが好ましい。
【0035】
充填剤を添加しなくても構わないが、充填剤の添加により、樹脂組成物中の有機物の割合を減らすことができる。有機物(ポリマやゴム成分)の割合が低下することにより燃焼時に発生する一酸化炭素や二酸化炭素といった毒性ガスを減少させることができる。充填剤の添加量は、ベースポリマ100重量部あたり、20~130重量部とすることがより好ましく、50~100重量部とすることがさらに好ましい。
【0036】
充填剤としては、カオリナイト、カオリンクレー、焼成クレー、タルク、マイカ、ウォラストナイト、パイロフィライトなどの硅酸塩類、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、などの酸化物、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウムなどの炭酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物などが挙げられる。これらの材料は、単独で用いても良く、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0037】
上記材料の中でも、疎水性の焼成クレーやタルクは高い電気特性を示すだけでなく、炭素を含まないため、一酸化炭素の発生を抑えることができ、充填剤として用いて好ましい。また、充填剤として、表面処理を施した材料を用いてもよい。例えば、上記材料にシランを表面処理したものを用いてもよい。シランを表面処理することにより、充填剤とポリマとの密着を強固にすることができ、絶縁性能を向上させることができる。
【0038】
(他の添加剤)
樹脂組成物には必要に応じて、架橋助剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、滑剤、着色剤、補強剤、界面活性剤、可塑剤、金属不活性剤、発泡剤、相溶化剤、加工助剤、安定剤などを添加することができる。
【0039】
外層(絶縁層)11cとしては、ベースポリマと、充填剤と、その他の添加剤と、を含むノンハロゲン樹脂組成物を用いることができる。
【0040】
(ベースポリマ)
ベースポリマは、酢酸ビニル含有量(VA量)が60%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と、融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマと、の2種のポリマを含む。ここで言う“2種のポリマ”とは、ポリマのグループを意味し、酢酸ビニル含有量(VA量)が60%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)として、複数種類のポリマを含んでいてもよく、また、融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマとして、複数種類のポリマを含んでいてもよい。また、融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマがエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)であってもよい。
【0041】
上記EVAとしては、VA量が60%以上であれば特に制限はないが、VA量が高くなるにつれ、低温特性が低下する傾向にあるため、低温特性が必要な場合はVA量を60~80%とすることが好ましく、60~70%とすることがより好ましい。“VA量[%]”は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニルの含有量である。このVA量は、JISK7192に基づいて測定することができる。
【0042】
上記ポリオレフィン系ポリマとしては、融点が85℃以上であれば特に制限はないが、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。中でも、融点85℃以上のEVAを用いることが好ましい。但し、結晶性が高い程、充填剤の添加に伴い伸び等の物性が低下するため、VA量17%程度、融点89℃程度のEVAを用いることがより好ましい。
【0043】
上記2種のポリマはどちらも必須であり、その比率としては特に制限はないが、VA量が60%以上であるEVAと、融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマとが、1:2~2:1(前者が約33%~66%、後者が約66%~33%)の割合であることが好ましく、4:6~6:4(前者が40%~60%、後者が60%~40%)の割合であることがより好ましい。
【0044】
ベースポリマは、その他のポリマを含んでいてもよい。その他のポリマは、規定の範囲内で添加することができる。即ち、ベースポリマとして、必須である酢酸ビニル含有量(VA量)が60%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)と、融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマと、の2種のポリマを80%以上含むため、残りの20%未満の範囲において、上記2種のポリマと重複しない範囲において、その他のポリマを含むことができる。その他のポリマとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-スチレン共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ブテン-ヘキセン三元共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-オクテン共重合体(EOR)、エチレン共重合ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、ポリ-4-メチル-ペンテン-1、マレイン酸グラフト低密度ポリエチレン、水素添加スチレン-ブタジエン共重合体(H-SBR)、マレイン酸グラフト直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンと炭素数が4~20のαオレフィンとの共重合体、エチレン-スチレン共重合体、マレイン酸グラフトエチレン-メチルアクリレート共重合体、マレイン酸グラフトエチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸三元共重合体、ブテン-1を主成分とするエチレン-プロピレン-ブテン-1三元共重合体などが挙げられる。
【0045】
また、その他のポリマとして、酸変性されたポリオレフィン(ポリオレフィンを酸で変性したもの)を用いてもよい。特に、ガラス転移温度が-55℃以下である酸変性ポリオレフィンを用いることが好ましい。ガラス転移温度とは、DSC法により測定されたガラス転移温度を指す。酸変性ポリオレフィンは、無水マレイン酸等の酸とポリオレフィンとを、グラフトもしくは共重合させたものである。酸変性ポリオレフィンの材料であるポリオレフィンとしては、天然ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンαオレフィンコポリマ、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンアクリル酸エステル共重合体、ポリウレタン、超低密度ポリエチレン、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ヘキセン-1共重合体、エチレン-オクテン-1共重合体などが挙げられる。特に、エチレンプロピレンゴム、エチレンαオレフィン共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体を用いることが好ましい。
【0046】
また、酸変性ポリオレフィンの材料である酸としては、上記無水マレイン酸の他、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらの酸変性ポリオレフィンは、単独で添加してもよく、2種以上を添加してもよい。
【0047】
また、上記2種のポリマと、上記酸変性されたポリオレフィンとの質量比は、80:20~99:1であることが好ましい。
【0048】
(充填剤)
ベースポリマには、充填剤が添加される。充填剤として、金属水酸化物を添加する。金属水酸化物は、難燃剤としての役割を有する。金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。中でも水酸化マグネシウムを用いることが好ましい。また、上記金属水酸化物は、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。また、金属水酸化物として、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸やステアリン酸カルシウム等の脂肪酸又は、脂肪酸金属塩等によって表面処理されたものを用いてもよい。
【0049】
金属水酸化物の添加量は、ベースポリマ100重量部あたり、150~250重量部とすることが好ましく、180~220重量部とすることがより好ましい。150重量部未満では十分な難燃性を得ることができず、250重量部より多いと伸び特性等が低下する。
【0050】
(その他の添加剤)
ベースポリマには、必要に応じてその他の添加剤が添加される。その他の添加剤としては、酸化防止剤、金属不活性剤、上記金属水酸化物以外の難燃剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、上記充填剤以外の充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等が挙げられる。
【0051】
酸化防止剤としては、例えばフェノール系、硫黄系、アミン系、リン系酸化防止剤が挙げられる。
【0052】
フェノール系酸化防止剤としては、例えばジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジル)-s-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。中でもペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を用いることが好ましい。
【0053】
硫黄系酸化防止剤としては、例えばジドデシル3,3’-チオジプロピオネート、ジトリデシル3,3’-チオジプロピオネート、ジオクタデシル3,3’-チオジプロピオネート、テトラキス[メチレン-3-(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン等が挙げられる。中でもテトラキス[メチレン-3-(ドデシルチオ)プロピオネート]メタンを用いることが好ましい。
【0054】
これらの酸化防止剤は、単独で添加してもよく、2種以上を添加してもよい。
【0055】
金属不活性剤は、金属イオンをキレート形成により安定化し酸化劣化を抑制する効果がある。金属不活性剤としては、例えばN-(2H-1,2,4-トリアソール-5-イル)サリチルアミド、ドデカンニ酸ビス[N2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジド]、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド等が挙げられる。中でも2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジドを用いることが好ましい。
【0056】
金属水酸化物以外の難燃剤としては、例えば非晶質シリカ、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛化合物等、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム等のホウ酸化合物、リン系難燃剤、メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤、燃焼時に発泡する成分と固化する成分の混合物からなるインテュメッセント系難燃剤が挙げられる。
【0057】
架橋助剤としては、例えばトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)や、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)を用いることが好ましい。
【0058】
滑剤としては、例えば脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド等があげられる。具体的にはステアリン酸亜鉛を用いることができる。これらの滑剤は、単独で添加してもよく、2種以上を添加してもよい。
【0059】
カーボンブラックとしては、例えばゴム用カーボンブラック(N900-N100:ASTM D 1765-01)を用いることができる。
【0060】
着色剤としては、例えば外層11c用のカラーマスターバッチ等を用いることができる。
【0061】
(架橋)
上記絶縁電線に用いられる内層11bおよび外層11cは、上記材料の混合物(樹脂組成物)を架橋することで得られる。架橋方法としては、上記材料の混合物(樹脂組成物)の成形後に、電子線や放射線等を照射して架橋させる照射架橋法が挙げられる。照射架橋法を実施する場合、あらかじめ架橋助剤を、上記材料の混合物(樹脂組成物)中に添加しておいてもよい。また、加熱により架橋させる化学架橋法を用いてもよい。化学架橋法を実施する場合、あらかじめ架橋剤を、上記材料の混合物(樹脂組成物)中に添加しておいてもよい。架橋剤としては、有機過酸化物を用いることができる。有機過酸化物としては、例えば1,3-ビス(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド(DCP)等を用いることができる。
【0062】
なお、内層11bおよび外層11cを同時に架橋してもよく、また、内層11bを架橋した後、外層11cをその外周に形成し、架橋してもよい。
【0063】
(応用例1)
図1においては、導体11aを2層構造の絶縁層(内層11bと外層11c)で覆う例を示したが、導体11aを単層の絶縁層で覆う構成としてもよい。この場合も、単層の絶縁層を、前述した外層11cと同様の材料を用いて構成することで、特性の良好な絶縁電線を得ることができる。
【0064】
(応用例2)
図1および上記応用例1においては、絶縁電線に適用するノンハロゲン樹脂組成物を例に説明したが、本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物をケーブルのシースとして用いてもよい。
【0065】
図2は、応用例2のケーブルの構成例を示す断面図である。
図2に示すケーブル12は、撚り合わせた2本の絶縁電線11(撚線、
図1参照)と、撚線の外側に設けられたシース(外被層、被覆層)12dとを有する。このシース12dの材料として、前述した外層11cと同様の材料を用いることができる。なお、ケーブル12中の絶縁電線11は1本としてもよく、また、3本以上としてもよい。また、撚り合わせた2本の絶縁電線11とシース12dとの間に、セパレータやシールド編組を設けてもよい。セパレータの材質は特に限定されず、シールド編組の内側または外側に設けることができる。
【0066】
上記絶縁電線およびケーブルは、ノンハロゲン絶縁電線またはノンハロゲンケーブルとして使用することができる。具体的用途としては、例えば、鉄道車両用の用途が考えられる。即ち、鉄道車両用のノンハロゲン絶縁電線や鉄道車両用のノンハロゲンケーブルとして使用することができる。
【0067】
[実施例]
以下に、本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物を用いた絶縁電線を、実施例を用いてさらに具体的に説明する。
【0068】
ノンハロゲン樹脂組成物を用いた絶縁電線を以下のように作製した。
【0069】
(材料名)
実施例および比較例で用いた材料を表1、表3に示す。具体的な材料名は以下に示すとおりである。
・PE
1):プライムポリマ社製「エボリューSP1510」(融点117℃)
・PE
2):プライムポリマ社製「エボリューSP4030」(融点127℃)
・EBR
3):三井化学社製「タフマーDF840」
・酸変性ポリオレフィン
4):三井化学社製「タフマーMH7020」(ガラス転移温度(Tg)≦-55℃)
・焼成クレー
5):BASF社製「トランスリンク37」
・酸化防止剤
6):アデカ社製「AO-18」
・銅害防止剤
7):アデカ社製「CDA-6」
・滑剤
8):日東化成社製「ステアリン酸亜鉛」
・EVA
9):ランクセス社製「レバプレン600」(VA量:60%、融点:無)
・EVA
10):ランクセス社製「レバプレン800」(VA量:80%、融点:無)
・EVA
11):三井・デュポンポリケミカル社製「エバフレックスV5274」
(VA量:17%、融点:89℃)
・EVA
12):三井・デュポンポリケミカル社製「エバフレックスP1007」
(VA量:10%、融点:94℃)
・EEA
13):日本ポリエチレン社製「レクスパールA1150」
(EA量:15%、融点:100℃)
・酸変性ポリオレフィン
14):三井化学社製「タフマーMH7020」(ガラス転移温度(Tg)≦-55℃)
・水酸化マグネシウム
15):神島化学工業社製「マグシーズS4」
・酸化防止剤
16):アデカ社製「AO-18」
・カーボンブラック
17):旭カーボン社製「FTカーボン」
・滑剤
18):日東化成社製「ステアリン酸亜鉛」
・PE
19):プライムポリマ社製「エボリューSP0510」(融点98℃)
・EVA
20):三井・デュポンポリケミカル社製「エバフレックスV9000」
(VA量:41%、融点:無)
・EVA
21):三井・デュポンポリケミカル社製「エバフレックスEV260」
(VA量:28%、融点:72℃)
(絶縁電線の作製)
実施例1~10においては、表1に示す配合で、また、比較例1~7においては、表3に示す配合で、内層、外層を製造した(
図1参照)。すなわち、表1、表3に示された内層用の配合用材料または外層用の配合用材料を、加圧ニーダによって開始温度40℃、終了温度190℃で混練し、混練物をペレット状にした。このペレット状の樹脂組成物を用いて、絶縁電線を形成した。
【0070】
ここでは、直径0.18mmのスズめっき導体を37本用いた導体の周りに、厚さ0.3mmの内層、厚さ0.47mmの外層を、40mm押出機を用い、2層押出しを行うことで、内層および外層を同時に形成した。その後、電子線を7.5MRad照射し、内層および外層を架橋した。
【0071】
(1)引張試験
絶縁電線から導体を引き抜き、内層および外層よりなるチューブを作製した。このチューブを切断し、所定の距離(間隔)を置いて標線を付けた試験片を得た。室温(25℃)にて、試験片を250mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの荷重および伸びを測定した。上記荷重から引張強さ(単位[MPa])を算出した。また、当初長さ(標線距離)Laと伸び(破断時の標線間の長さ)Lbとから、破断伸び((Lb-La/La)×100[%])を算出した。引張強さが10MPa以上、伸びが150%以上を○(合格)とした。
【0072】
(2)耐燃料試験
絶縁電線から導体を引き抜き、内層および外層よりなるチューブを作製した。このチューブを切断し、所定の間隔を置いて標線を付けた試験片を得た。試験片を、70℃に熱したIRM903試験油に168時間浸漬した後、室温で16時間程度放置し、試験片を250mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの荷重および伸びを測定した。試験油に浸漬する前の試験片の引張強さ(A1)、破断伸び(B1)と、試験油に浸漬した後の試験片の引張強さ(A2)、破断伸び(B2)と、から耐油引張強さ変化率((A2-A1)/A1)×100[%])、耐燃料破断伸び変化率((B2-B1)/B1)×100[%])を算出した。浸漬後において、「引張強さ」または「破断伸び」が低下したものは、“-(マイナス)”とした。耐燃料引張強さ変化率(引張強さ残率)が±30%以内であれば○(合格)とし、耐燃料破断伸び変化率(引張伸び残率)が±40%以内であれば○(合格)とした。
【0073】
(3)耐油試験
絶縁電線から導体を引き抜き、内層および外層よりなるチューブを作製した。このチューブを切断し、所定の間隔を置いて標線を付けた試験片を得た。試験片を、100℃に熱したIRM902試験油に72時間浸漬した後、室温で16時間程度放置し、試験片を250mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの荷重および伸びを測定した。試験油に浸漬する前の試験片の引張強さ(A1)、破断伸び(B1)と、試験油に浸漬した後の試験片の引張強さ(A2)、破断伸び(B2)と、から耐油引張強さ変化率((A2-A1)/A1)×100[%])、耐油破断伸び変化率((B2-B1)/B1)×100[%])を算出した。浸漬後において、「引張強さ」または「破断伸び」が低下したものは、“-(マイナス)”とした。耐油引張強さ変化率(引張強さ残率)が±30%以内であれば○(合格)とし、耐油破断伸び変化率(引張伸び残率)が±40%以内であれば○(合格)とした。
【0074】
(4)低温試験
絶縁電線から導体を引き抜き、内層および外層よりなるチューブを作製した。このチューブを切断し、所定の間隔を置いて標線を付けた試験片を得た。試験片を-40℃に保持し、-40℃の雰囲気下において試験片を30mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの伸び(L2)を測定した。当初長さL1と伸びL2とから、低温伸び((L2/L1)×100[%])を算出した。低温伸びが、30%以上のものを○(合格)とした。
【0075】
(5)難燃性試験
(5-1)垂直燃焼試験
EN60332-1-2に準拠した難燃性試験として垂直燃焼試験(VFT)を行なった。長さ600mmの絶縁電線を試験片として切り出し、試験片を垂直にて保ち、炎を60秒あてた後、炎を取り去った場合に、60秒以内に消化したものを○(合格)とし、60秒以内に消化しなかったものを×(不合格)とした。
【0076】
(5-2)垂直トレイ燃焼試験
EN50266-2-4に準拠した垂直トレイ燃焼試験(VTFT)を行った。長さ3.5mの絶縁電線を7本準備し、これを撚って1束のコアとし、11束を等間隔で垂直に並べた。下端より20分間燃焼させた後、自己消炎させ、下端からの炭化長を測定した。炭化長が2.5m以下のものを○(合格)とし、炭化長が2.5mを超えたものを×(不合格)とした。なお、炭化長が1.5m以下のものについては、◎(優)とした。
【0077】
(6)絶縁性試験
EN50305 6.7に準拠して直流安定試験を行った。絶縁破壊しなかったものを○(合格)とし、絶縁破壊したものを×(不合格)とした。
【0078】
実施例1~10の各試験結果を表2に、比較例1~7の各試験結果を表4に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
(考察)
上記実施例および比較例から以下の事項が考察される。
【0084】
表1、表2に示すように、実施例1~10では、高い難燃性を維持しつつ、耐燃料性、絶縁特性その他特性(引張特性、耐油性、低温特性など)も良好であることが確認された。
【0085】
実施例1と比較し、内層の充填剤(無機充てん剤)の添加量が多い実施例2、実施例4では、充填剤の添加量が増加するに伴い、引張強さが向上している。また、充填剤の添加量を多く、150重量部として実施例4では、難燃性試験において、垂直燃焼試験(VFT)が、○(合格)、垂直トレイ燃焼試験(VTFT)が、◎(優)であり、良好な結果が得られた。
【0086】
実施例1と比較し、内層のベースポリマ(ポリマ)として、高融点のPE(融点127℃)を用いた実施例3では、耐油性が向上している。
【0087】
外層の難燃剤を150または250重量部の添加量で添加した実施例5、6では、特性がすべて良好であり、他の実施例、比較例との対比から150~250重量部の範囲内であれば金属水酸化物の添加量を増減しても良いことが判明した。金属水酸化物が少ないほど、伸び特性、低温特性が向上する傾向にあり、多いほど難燃性が向上する傾向にあることが判明した。
【0088】
外層のポリマ種、添加量を変更した実施例7~10においても特性は良好であり、酸変性ポリオレフィンの添加量が20重量部と多い実施例8では低温特性が向上することが判明した。
【0089】
一方、比較例1では内層に融点110℃以上のポリエチレンを添加しておらず、耐油性が不合格となった。この事項および他の実施例、比較例から、内層に、融点110℃以上のポリエチレンを含むことが好ましいことが判明した。また、内層に、酸変性されたポリオレフィンが混合されていることがより好ましいことが判明した。
【0090】
比較例2は、外層に融点85℃以上のポリオレフィン(EVA10))を添加しておらず、引張強さ、低温特性が不合格となった。また、比較例2では、2層押出し後、架橋前の絶縁電線において電線間の融着(粘着)が見られた。比較例3は、外層にVA量60%以上のEVAを添加しておらず、伸び特性、難燃性が不合格となった。融点85℃以上のポリオレフィンおよびVA量60%以上のEVAのどちらも添加していない比較例4、および2種の合計がポリマ重量の80%に満たない比較例5では耐燃料性が不合格となった。これらの事項等から、外層に、酢酸ビニル含有量(VA量)が60%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、および融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマの少なくとも2種のポリマがポリマ全体の80%以上を占めるベースポリマを用いることが好ましいことが判明した。
【0091】
また、外層の金属水酸化物が120重量部と少ない比較例6では難燃性が不合格となり、外層の金属水酸化物が280重量部と多い比較例7では伸び特性、低温特性が不合格となった。これらの事項および他の実施例等から、外層の金属水酸化物としては、150~250重量部とすることが好ましいことが判明した。
【0092】
本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施例においては、絶縁電線を例に説明したが、ケーブルを作製し、評価してもよい。例えば、ケーブルからシースの内部の構造物を引き抜き、絶縁電線の場合と同様に評価することができる。
【符号の説明】
【0093】
11 絶縁電線
11a 導体
11b 内層
11c 外層
12 ケーブル
12d シース