(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】絶縁電線およびケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 7/295 20060101AFI20221018BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20221018BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01B7/295
H01B7/02 Z
H01B3/44 M
H01B3/44 P
(21)【出願番号】P 2019035065
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 孔亮
(72)【発明者】
【氏名】田所 修一
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-051903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/295
H01B 7/02
H01B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、を有する絶縁電線であって、
前記絶縁層は、ベースポリマと、水酸化アルミニウムとを含むノンハロゲン樹脂組成物の架橋物よりなり、
前記ベースポリマは、ポリエステルエラストマを35重量%以上50重量%以下の範囲で含み、かつ、エチレン系共重合体を50重量%以上65重量%以下の範囲で含み、
前記水酸化アルミニウムの添加量は、前記ベースポリマ100重量部に対し、150重量部以上200重量部以下であ
り、
前記エチレン系共重合体は、
無水マレイン酸で変性されたエチレン系共重合体と、
50重量%以上65重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、を含み、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル量は、50重量%以上80重量%以下である、絶縁電線。
【請求項2】
導体と、前記導体を被覆する絶縁内層と、前記絶縁内層を被覆する絶縁外層と、を有する絶縁電線であって、
前記絶縁外層は、ベースポリマと、水酸化アルミニウムとを含むノンハロゲン樹脂組成物の架橋物よりなり、
前記ベースポリマは、ポリエステルエラストマを35重量%以上50重量%以下の範囲で含み、かつ、エチレン系共重合体を50重量%以上65重量%以下の範囲で含み、
前記水酸化アルミニウムの添加量は、前記ベースポリマ100重量部に対し、150重量部以上200重量部以下
であり、
前記エチレン系共重合体は、
無水マレイン酸で変性されたエチレン系共重合体と、
50重量%以上65重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、を含み、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル量は、50重量%以上80重量%以下である、絶縁電線。
【請求項3】
絶縁電線と、前記絶縁電線を被覆するシースと、を有するケーブルであって、
前記絶縁電線として、請求項
1又は2に記載の絶縁電線を有する、ケーブル。
【請求項4】
絶縁電線と、前記絶縁電線を被覆するシースと、を有するケーブルであって、
前記シースは、ベースポリマと、水酸化アルミニウムとを含むノンハロゲン樹脂組成物の架橋物よりなり、
前記ベースポリマは、ポリエステルエラストマを35重量%以上50重量%以下の範囲で含み、かつ、エチレン系共重合体を50重量%以上65重量%以下の範囲で含み、
前記水酸化アルミニウムの添加量は、前記ベースポリマ100重量部に対し、150重量部以上200重量部以下である、
前記エチレン系共重合体は、
無水マレイン酸で変性されたエチレン系共重合体と、
50重量%以上65重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、を含み、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル量は、50重量%以上80重量%以下である、ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン樹脂組成物を用いた絶縁電線およびケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両、自動車、電気・電子機器などに使用される絶縁電線およびケーブルの材料としては、耐油・燃料性、低温特性、難燃性およびコスト性にバランスのとれた、ポリ塩化ビニル混和物、ポリクロロプレンゴム混和物、クロロスルホン化ポリエチレン混和物、塩素化ポリエチレン混和物、フッ素ゴム、フッ素樹脂、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂に、難燃性を高めるためにハロゲン系難燃剤を添加した材料が使用されてきた。
【0003】
しかしながら、ハロゲン系難燃剤を大量に含む混和物は、燃焼時に、有毒、有害なガスを発生させ、燃焼条件によっては猛毒のダイオキシンを発生させる。このことから、火災時の安全性や環境負荷低減の観点からハロゲンを含まないノンハロゲン材料(ハロゲンフリー材料)を被覆材料として使用した絶縁電線が普及され始めている。
【0004】
しかしながら、ノンハロゲン材料は、従来のハロゲン系難燃剤を添加した材料と、難燃作用メカニズムが異なり、難燃性を向上させると、耐油性、低温特性が悪くなる傾向がある。
【0005】
特に、鉄道車両に使用される絶縁電線およびケーブルは、その不具合により大事故につながる危険性があることから、高い難燃性や耐油性、低温特性を有するノンハロゲン材料を使用することが求められている。
【0006】
例えば、特許文献1(特許第6229942号公報)には、エチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とし、ガラス転移温度が-55℃以下である酸変性ポリオレフィン樹脂を含有するベースポリマ100質量部に対して、金属水酸化物が150質量部から250質量部、シリコーンゴムが0.5質量部から10質量部添加されたノンハロゲン樹脂組成物が開示されている。そして、前記金属水酸化物が水酸化マグネシウムを含み、前記水酸化マグネシウムが脂肪酸処理された水酸化マグネシウムとシラン処理された水酸化マグネシウムからなる。また、前記ベースポリマは、酢酸ビニル含有量が20質量%以上50質量%未満である。このようなノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いることにより、低温特性、可とう性、耐油性、耐寒性、難燃性及び機械特性を備える絶縁電線やケーブルを提供することができる。
【0007】
例えば、特許文献2(特許第4495016号公報)には、ファイバの外周に一次被覆層が形成され、更に前記一次被覆層の外周に二次被覆層が形成されてなる光ファイバ素線が開示されている。そして、前記二次被覆層は少なくとも2層以上からなり、該二次被覆層の内層が熱可塑性エラストマー20~70質量%およびエチレン系共重合体30~80質量%からなるベース樹脂100質量部に対し金属水和物を含有する樹脂組成物により構成されるとともに、該二次被覆層の外層はベース樹脂がポリエステルエラストマーおよび/またはエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物により構成され、該内層の該外層に対する肉厚比が1.5~20である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6229942号公報
【文献】特許第4495016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、絶縁電線やケーブルの被覆材(絶縁層、シース)の研究・開発に従事しており、被覆材であるポリマとして、ノンハロゲン材料を用い、難燃性の他、耐油性、耐燃料性、低温特性、耐酸性、耐アルカリ性などが良好な樹脂組成物を検討している。
【0010】
特に、鉄道車両等に使用される絶縁電線およびケーブルは、高い難燃性に加え、耐油性、低温特性等も要求されている。特に、耐油性と低温特性とはトレードオフの関係になることが多く、これらの両立は困難である。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであり、難燃性、耐油性、耐燃料性、低温特性、耐酸性、耐アルカリ性が良好な、ノンハロゲン樹脂組成物を用いた絶縁電線およびケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の一態様の絶縁電線は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、を有する絶縁電線であって、前記絶縁層は、ベースポリマと、水酸化アルミニウムとを含むノンハロゲン樹脂組成物の架橋物よりなり、前記ベースポリマは、ポリエステルエラストマを35重量%以上50重量%以下の範囲で含み、かつ、エチレン系共重合体を50重量%以上65重量%以下の範囲で含み、前記水酸化アルミニウムの添加量は、前記ベースポリマ100重量部に対し、150重量部以上200重量部以下である。
【0013】
(2)例えば、前記エチレン系共重合体は、15重量%以下の無水マレイン酸で変性されたエチレン系共重合体と、50重量%以上65重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、を含み、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル量は、50重量%以上80重量%以下である。
【0014】
(3)本発明の一態様の絶縁電線は、導体と、前記導体を被覆する絶縁内層と、前記絶縁内層を被覆する絶縁外層と、を有する絶縁電線であって、前記絶縁外層は、ベースポリマと、水酸化アルミニウムとを含むノンハロゲン樹脂組成物の架橋物よりなり、前記ベースポリマは、ポリエステルエラストマを35重量%以上50重量%以下の範囲で含み、かつ、エチレン系共重合体を50重量%以上65重量%以下の範囲で含み、前記水酸化アルミニウムの添加量は、前記ベースポリマ100重量部に対し、150重量部以上200重量部以下である。
【0015】
(4)例えば、前記エチレン系共重合体は、15重量%以下の無水マレイン酸で変性されたエチレン系共重合体と、50重量%以上65重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体と、を含み、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル量は、50重量%以上80重量%以下である。
【0016】
(5)本発明の一態様のケーブルは、絶縁電線と、前記絶縁電線を被覆するシースと、を有するケーブルであって、前記絶縁電線として、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の絶縁電線を有する。
【0017】
(6)本発明の一態様のケーブルは、絶縁電線と、前記絶縁電線を被覆するシースと、を有するケーブルであって、前記シースは、ベースポリマと、水酸化アルミニウムとを含むノンハロゲン樹脂組成物の架橋物よりなり、前記ベースポリマは、ポリエステルエラストマを35重量%以上50重量%以下の範囲で含み、かつ、エチレン系共重合体を50重量%以上65重量%以下の範囲で含み、前記水酸化アルミニウムの添加量は、前記ベースポリマ100重量部に対し、150重量部以上200重量部以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様のノンハロゲン樹脂組成物を用いた絶縁電線およびケーブルによれば、難燃性、耐油性、耐燃料性、低温特性、耐酸性、耐アルカリ性を良好とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態)
本実施の形態の絶縁電線やケーブルは、被覆材(絶縁層、シース)で覆われており、この被覆材は、以下のノンハロゲン樹脂組成物よりなる。
【0021】
[ノンハロゲン樹脂組成物]
本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物(ノンハロゲン難燃性樹脂組成物)は、ベースポリマと、金属水酸化物を有する。
【0022】
(ベースポリマ)
本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物は、ベースポリマとして、ポリエステルエラストマとエチレン系共重合体とを有する。
【0023】
(1)ポリエステルエラストマ
ポリエステルエラストマは、ハードセグメントと呼ばれる硬い結晶相と、ソフトセグメントと呼ばれる柔軟な非晶相とからなる熱可塑性エラストマのひとつである。
【0024】
ハードセグメントとしては、以下の化学式(1)に示すポリアルキレンテレフタレート、化学式(2)に示すポリアルキレンナフタレートを用いることが好ましい。入手性の観点から、化学式(3)に示すポリブチレンテレフタレート、化学式(4)に示すポリブチレンナフタレートを用いることが好ましい。ハードセグメントとして、2種以上のものを含んでもよい。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
ソフトセグメントとしては、以下の化学式(5)や化学式(6)に示すポリアルキルエーテル、化学式(7)に示すポリカーボネートジオールを用いることが好ましい。なお、ソフトセグメントとして、脂肪族ポリエステルを用いることも可能であるが、耐湿熱性や耐酸・アルカリ性に劣る傾向があるため、上記化学式(5)、化学式(6)、化学式(7)等に示す材料を用いることが好ましい。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
なお、上記化学式(1)~(7)において、p、q、nは、それぞれ任意の自然数である。
【0034】
後述する水酸化アルミニウムの分解による成型加工時の発泡を防ぐため、ポリエステルエラストマの融点は200℃以下であることが好ましく、165℃以下であることが、より好ましい。
【0035】
(2)エチレン系共重合体
エチレン系共重合体としては、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体およびこれらの酸変性物などを用いることができる。側鎖に極性基を持つエチレン-酢酸ビニル共重合体やエチレン-アクリル酸エステル共重合体は、難燃性やポリエステルエラストマとの相溶性に優れるためベースポリマとして用いて好適である。
【0036】
特に、酢酸ビニル量(VA量)が50~80重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いることにより、耐油性や機械特性を向上させることができる。酢酸ビニル量が50重量%より少ないと耐油性がやや低下し、80重量%を超えると低温特性や引張強さなどの機械特性がやや低下する。“VA量[%]”は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニルの含有量である。このVA量は、JISK7192に基づいて測定することができる。
【0037】
後述するように、エチレン系共重合体の割合は50~65重量%である。このエチレン系共重合体の内、15重量%以下が無水マレイン酸で変性されたエチレン系共重合体であり、50~65重量%が酢酸ビニル量が50~80重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。
【0038】
無水マレイン酸変性されたエチレン系共重合体は、低温特性を良くするためにガラス転移点の低いエチレン-αオレフィン共重合体の変性共重合体を使用することが好ましい。例えば、ガラス転移温度(Tg)が-55℃以下のものを用いることが好ましい。また、この無水マレイン酸変性のエチレン-αオレフィン共重合体は、水酸化アルミニウムとポリエステルエラストマのカップリング剤として作用する。このため、無水マレイン酸変性のエチレン-αオレフィン共重合体を用いることで、耐酸性を向上させることができる。また、無水マレイン酸変性のエチレン-αオレフィン共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体に対しても低温環境下での緩衝材として働き、これを用いることで低温特性を改善することができる。
【0039】
(3)配合割合
前述したように、本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物は、ベースポリマとして、ポリエステルエラストマとエチレン系共重合体とを有し、配合割合は、以下のとおりである。ポリエステルエラストマの割合は35~50重量%で、エチレン系共重合体の割合は50~65重量%である。ポリエステルエラストマの割合が35重量%より少ないと耐油性、低温特性(耐寒性)に劣り、50重量%を超えると耐酸性や耐アルカリ性に劣る。
【0040】
(金属水酸化物)
本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物は、金属水酸化物を有する。金属水酸化物は難燃剤である。ここで、本実施の形態においては、金属水酸化物として水酸化アルミニウムを有する。一般に、ハロゲンフリーの難燃剤としては、水酸化アルミニウムの他に水酸化マグネシウムが使用される。しかしながら、本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物においては、水酸化マグネシウムを使用すると架橋の際にポリエステルエラストマが加水分解を起こし、機械特性が得られない。このため、金属水酸化物として水酸化アルミニウムを用いることが好ましい。
【0041】
この水酸化アルミニウムはベースポリマ100重量部に対し、150~200重量部添加することが好ましい。150重量部より少ないと難燃性が不十分となる。また、200重量部を超えると機械特性、特に引張破断伸びが悪化してしまう。
【0042】
また、ノンハロゲン樹脂組成物が酸性溶液に接触すると、水酸化アルミニウムが溶解し機械特性が低下する。特に、ポリエステルエラストマと水酸化アルミニウムとの密着性は弱いため、ポリエステルエラストマの割合が高いと水酸化アルミニウムが溶解する量が増え、耐酸性が劣る結果となる。
【0043】
一方、このノンハロゲン樹脂組成物が、アルカリ性溶液に接触すると、ポリエステルエラストマが加水分解を起こし、機械特性が低下する。このため、ポリエステルエラストマの割合が高いと耐アルカリ性に劣る結果となる。
【0044】
このため、前述したように、ポリエステルエラストマの割合を50重量%以下とし、耐酸性や耐アルカリ性を維持することが好ましい。
【0045】
また、分散性を考慮し、水酸化アルミニウムに表面処理を施してもよい。例えば、ステアリン酸やオレイン酸などに代表される高級脂肪酸、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤などで表面処理することができる。特に、高級脂肪酸処理した水酸化アルミニウムを使用すると水との接触が抑制されるため耐酸性が改善する。また、シランカップリング剤処理した水酸化アルミニウムを使用すると優れた機械特性を得ることができる。
【0046】
(その他の添加剤)
本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物に、必要に応じて、他の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、酸化防止剤、シランカップリング剤、滑剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、界面活性剤、無機充填剤、相溶化剤、着色剤、ポリカルボジイミドなどの加水分解抑制剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などを用いることができる。
【0047】
特に、高耐熱性を要求される場合は酸化防止剤や紫外線吸収剤、HALSを添加することが好ましい。また、滑剤としてシリコーンオイル、シリコーンガム、シリコーンゴムなどのシリコーン化合物を添加し、絶縁電線の表面にブリードさせることで、水との接触を抑制し、耐酸・アルカリ性を向上させることができる。
【0048】
(架橋)
ノンハロゲン樹脂組成物を絶縁電線やケーブルの被覆材として用いる場合、耐熱性を向上させるために被覆材が架橋されていることが好ましい。即ち、絶縁電線やケーブルの被覆材は、ノンハロゲン樹脂組成物の架橋物である。架橋方法に制限はないが、電離放射線のエネルギーを利用した放射線架橋、有機化酸化物を樹脂組成物に添加して熱で架橋する有機化酸化物架橋、樹脂組成物にビニルアルコキシシランなどのシランカップリング剤をグラフトし水架橋するシラン架橋などが挙げられる。これらの架橋方法ではポリエステルエラストマの架橋はできないため、エチレン系共重合体を架橋することになる。よって、シラン架橋を選択する場合はエチレン系共重合体のみにシランカップリング剤をグラフトさせればよい。本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物を用いる場合、ベースポリマの融点が比較的高く、成形温度を高くすることができる。しかしながら、成形温度が高くなると、加工中において架橋が進行する恐れがあるため、早期架橋を抑制するため、放射線架橋を用いることが好ましい。
【0049】
[絶縁電線]
図1は、本実施の形態の絶縁電線の構成例を示す断面図である。
図1に示す絶縁電線11は、複数本の錫めっき銅などよりなる導体11aの外周に、絶縁層11bを有する。複数本の導体は、撚り合わされていてもよい。絶縁層11bとして、前述した本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物を用いる。
【0050】
図2は、本実施の形態の絶縁電線の他の構成例を示す断面図である。
図2に示す絶縁電線11は、複数本の錫めっき銅などよりなる導体11aの外周に、絶縁層11bを有する。そして、
図2の構成では、絶縁層11bが、絶縁内層11cと絶縁外層11dとの2層構造である。この場合には、最外層である絶縁外層11dに前述した本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物を用いることが好ましい。このように、ノンハロゲン樹脂組成物を絶縁層の最外層として用いることで、難燃性を向上させることができる。一方、絶縁内層11cには、難燃剤(例えば金属水酸化物)等の無機物の添加量が少ないノンハロゲン樹脂組成物を用いることで、電気絶縁性を向上させることができる。このように、絶縁層11bを2層構造(11c、11d)とすることにより、導体11a側の絶縁内層11cにより電気絶縁性を向上させ、最外層である絶縁外層11dにより難燃性を向上させることができる。もちろん、絶縁層を3層以上の構成としてもよい。
【0051】
[ケーブル]
図3は、本実施の形態のケーブルの構成例を示す断面図である。
図3に示すケーブル12は、撚り合わせた2本の絶縁電線11(撚線)と、撚線の外側に設けられたセパレータ12bと、このセパレータを覆うように設けられたシールド編組12cと、シールド編組12cを覆う、シース(被覆層)12dとを有する。このシース(被覆層)12dとして、前述した本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物を用いる。なお、絶縁電線11を1本としてもよく、また、3本以上としてもよい。セパレータの材質は特に限定されず、シールド編組の外側に設けてもよい。
【0052】
上記絶縁電線およびケーブルは、ノンハロゲン絶縁電線またはノンハロゲンケーブルとして使用することができる。具体的用途としては、例えば、鉄道車両用の用途が考えられる。即ち、鉄道車両用のノンハロゲン絶縁電線や鉄道車両用のノンハロゲンケーブルとして使用することができる。
【0053】
[実施例]
以下に、本実施の形態のノンハロゲン樹脂組成物を用いた絶縁電線を、実施例を用いてさらに具体的に説明する。
【0054】
ノンハロゲン樹脂組成物を用いた絶縁電線を以下のように作製した。
【0055】
(ノンハロゲン樹脂組成物)
実施例1~6および比較例1~4においては、表1に示す配合で、ノンハロゲン樹脂組成物を製造した。すなわち、表1に示された配合用材料(ベースポリマ、滑剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤)を、オープンロールによって混練し、ストランドで押出し、冷却後、ペレット状にした。
【0056】
錫めっき銅導体を複数本撚り合わせた導体(断面積1.5mm
2)に、表1に示したノンハロゲン樹脂組成物を0.78mmの厚さで押出し被覆し、吸収線量が150kGyとなるように電子線を照射して、絶縁層を架橋し、
図1に示すような絶縁電線とした。
【0057】
また、実施例7の絶縁電線(2層絶縁電線)を次のとおり作製した。錫めっき銅導体を複数本撚り合わせた導体(断面積1.5mm
2)に、表2に示した樹脂組成物を絶縁内層として0.3mmの厚さで、表1の実施例2に示したノンハロゲン樹脂組成物を絶縁外層として0.48mmの厚さで押出し被覆し、吸収線量が150kGyとなるように電子線を照射して、絶縁層を架橋し、
図2に示すような絶縁電線とした。
【0058】
(評価)
[引張試験(初期引張試験)]
作製した絶縁電線から導体を引き抜き、絶縁層よりなるチューブを作製した。このチューブを切断し、所定の距離(間隔)を置いて標線を付け、試験片を得た。室温(25℃)にて、試験片を200mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの荷重および伸びを測定した。上記荷重から引張強さ(単位[MPa])を算出した。また、当初長さLaと伸びLbとから、破断伸び(((Lb-La)/La)×100[%])を算出した。引張強さが10MPa以上、伸びが150%以上を合格とした。Laは標線距離であり、Lbは破断時の標線間の長さである。
【0059】
[耐油性試験]
作製した絶縁電線から導体を引き抜き、絶縁層よりなるチューブを作製した。このチューブを切断し、所定の間隔を置いて標線を付け、試験片を得た。試験片を、100℃に熱したASTM No.2油に72時間浸漬し、試験片を200mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの荷重および伸びを測定した。試験油に浸漬する前の試験片の引張強さ(A1)、破断伸び(B1)と、試験油に浸漬した後の試験片の引張強さ(A2)、破断伸び(B2)と、から引張強さ残率(A2/A1)×100[%])、破断伸び残率((B2/B1)×100[%])を算出した。引張強さ残率70~130%、破断伸び残率60~140%の範囲のものを合格とした。
【0060】
[耐燃料性試験]
作製した絶縁電線から導体を引き抜き、絶縁層よりなるチューブを作製した。このチューブを切断し、所定の間隔を置いて標線を付け、試験片を得た。試験片を、70℃に熱したASTM No.3油に168時間浸漬し、試験片を200mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの荷重および伸びを測定した。試験油に浸漬する前の試験片の引張強さ(A1)、破断伸び(B1)と、試験油に浸漬した後の試験片の引張強さ(A2)、破断伸び(B2)と、から引張強さ残率(A2/A1)×100[%])、破断伸び残率((B2/B1)×100[%])を算出した。引張強さ残率70~130%、破断伸び残率60~140%の範囲のものを合格とした。
【0061】
[難燃性試験]
EN60332-1-2に準拠した難燃性試験として垂直燃焼試験(VFT)を行なった。長さ600mmの絶縁電線を試験片として切り出し、試験片を垂直にて保ち、炎を60秒あてた後、炎を取り去った場合に、60秒以内に消化したものを合格とし、60秒以内に消化しなかったものを不合格とした。
【0062】
[低温特性試験]
EN60811-1-4に準拠した低温曲げ試験を行った。絶縁電線を試験片として切り出し、-40℃にて低温曲げ試験を行い、曲げ時にクラックが発生しなかったものを合格とし、クラックが発生したものを不合格とした。
【0063】
[耐酸性試験]
作製した絶縁電線から導体を引き抜き、絶縁層よりなるチューブを作製した。このチューブを切断し、所定の間隔を置いて標線を付け、試験片を得た。試験片を、23℃の環境下で1Nのしゅう酸水溶液に168時間浸漬し、試験片を200mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの荷重および伸びを測定した。しゅう酸水溶液に浸漬する前の試験片の引張強さ(A1)と、しゅう酸水溶液に浸漬した後の試験片の引張強さ(A2)とから引張強さ残率(A2/A1)×100[%])を算出した。また、当初長さLaと伸びLbとから、破断伸び(((Lb-La)/La)×100[%])を算出した。引張強さ残率50~150%、破断伸び(絶対値)100%以上のものを合格とした。
【0064】
[耐アルカリ性試験]
作製した絶縁電線から導体を引き抜き、絶縁層よりなるチューブを作製した。このチューブを切断し、所定の間隔を置いて標線を付け、試験片を得た。試験片を、23℃の環境下で1Nの水酸化ナトリウム水溶液に168時間浸漬し、試験片を200mm/minの変位速度で引張り、破断するまでの荷重および伸びを測定した。水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する前の試験片の引張強さ(A1)と、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後の試験片の引張強さ(A2)とから引張強さ残率(A2/A1)×100[%])を算出した。また、当初長さLaと伸びLbとから、破断伸び(((Lb-La)/La)×100[%])を算出した。引張強さ残率50~150%、破断伸び(絶対値)100%以上のものを合格とした。
【0065】
[直流安定性試験]
EN50305 6.7に準拠して直流安定試験を行った。絶縁電線を85℃の3%濃度の塩水中に浸漬させ、1500Vを課電し、絶縁破壊するまでの時間を測定した。測定期間は10日間とした。この試験については、実施例2と実施例7の絶縁電線で実施した。
【0066】
実施例1~7および比較例1~4の各試験結果を表3に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
(考察)
上記実施例および比較例から以下の事項が考察される。
【0071】
表3に示すように、実施例1~7では、難燃性、耐油性、耐燃料性、低温特性に優れ、酸・アルカリ溶液に対しても耐性のある絶縁電線であることが分かる。
【0072】
実施例2と実施例3の比較から、エチレン系共重合体として、酢酸ビニル量の割合が高いエチレン-酢酸ビニル共重合体を使用した実施例2の方が、耐油性試験、耐燃料性試験における引張強さ残率が大きく、耐油性、耐燃料性に優れることが分かる。
【0073】
また、無水マレイン酸変性されたエチレン系共重合体を使用している実施例6は耐酸性にも優れていた。
【0074】
比較例1はポリエステルエラストマの割合が少ないため低温特性試験で不合格となり、耐油性試験でも不合格となった。
【0075】
比較例2はポリエステルエラストマの割合が多く、耐酸性試験、耐アルカリ性試験で不合格となった。また、初期引張試験でも不合格となった。
【0076】
比較例3は水酸化アルミニウムの添加量が少ないため難燃性が不合格となり、また、全体としてポリエステルエラストマの割合が高くなってしまったため、耐アルカリ性試験が不合格となった。
【0077】
比較例4は水酸化アルミニウムの添加量が多すぎるため初期引張試験の破断伸びが不合格となり、低温特性試験でも不合格となった。
【0078】
これら比較例と実施例より、(1)ポリエステルエラストマを、35重量%以上50重量%以下の範囲で含み、(2)エチレン系共重合体を、50重量%以上65重量%以下の範囲で含む、ベースポリマを用いることが好ましく、(3)水酸化アルミニウムを、ベースポリマ100重量部に対し、150重量部以上200重量部以下で含むことが好ましいことが分かる。
【0079】
また、より優位な実施例2、6から、酢酸ビニル量が50重量%以上80重量%以下(例えば、60重量%)のエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いることが好ましく、また、無水マレイン酸で変性されたエチレン系共重合体をベースポリマとして含むことが好ましいことが分かる。
【0080】
また、比較例として記載していないが、上記実施例の配合において、水酸化アルミニウムに代えて水酸化マグネシウムを用いた場合には、引張強さが4~5MPaと低く、引張試験(初期引張試験)において不合格であった。これより、難燃剤としては、水酸化アルミニウを用いることが好ましいことが分かる。
【0081】
また、絶縁層を2層とし、内層に絶縁性の高い樹脂組成物を用いた実施例7は、直流安定性試験において、絶縁層が単層の実施例2と比較し電気絶縁性が向上していることが分かる。
【0082】
本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施例においては、絶縁電線を例に説明したが、ケーブルを作製し、評価してもよい。例えば、ケーブルからシースの内部の構造物を引き抜き、絶縁電線の場合と同様に評価することができる。
【符号の説明】
【0083】
11 絶縁電線
11a 導体
11b 絶縁層
11c 絶縁内層
11d 絶縁外層
12 ケーブル
12b セパレータ
12c シールド編組
12d シース