IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特許7159926金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法
<>
  • 特許-金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法 図1
  • 特許-金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法 図2
  • 特許-金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法 図3
  • 特許-金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法 図4
  • 特許-金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法 図5
  • 特許-金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法 図6
  • 特許-金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法 図7
  • 特許-金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法 図8
  • 特許-金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法 図9
  • 特許-金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20221018BHJP
   G01N 27/72 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
G01B7/00 101F
G01N27/72
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019045110
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020148554
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】杉原 淳
(72)【発明者】
【氏名】森川 桂一
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-205701(JP,A)
【文献】特開昭62-098287(JP,A)
【文献】特開2010-048569(JP,A)
【文献】特開昭62-036555(JP,A)
【文献】特開2001-022992(JP,A)
【文献】特開2004-198322(JP,A)
【文献】特開2007-292572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01N 27/72-27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置であって、
渦電流センサと、
前記コンクリートパネルに対して前記渦電流センサを相対的に移動させる移動機構と、
演算装置と、を備え、
前記演算装置は、
前記渦電流センサの出力波形のピークの位置に基づいて前記コンクリートパネル内における前記金属の位置を推定し、且つ、
前記渦電流センサの出力波形のピーク形状に基づき、推定した前記金属の位置を補正するように構成されている、
装置。
【請求項2】
前記演算装置は、前記ピーク形状の左側部分と右側部分との関係に基づき、推定した前記金属の位置を補正するように構成されている、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記演算装置は、
前記渦電流センサの出力波形の移動平均線を導き出し、
前記移動平均線のピークの左側にある部分に関する上向き接線角度の最大値と、前記移動平均線のピークの右側にある部分に関する下向き接線角度の最大値との比である傾き比を算出し、
前記傾き比に基づき、推定した前記金属の位置を補正する際の補正量を導き出すように構成されている、
請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記演算装置は、前記傾き比と前記補正量との関係を表す式を用い、或いは、前記傾き比と前記補正量との対応関係を記憶する参照用テーブルを用い、前記傾き比から前記補正量を導き出すように構成されている、
請求項3に記載の装置。
【請求項5】
金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する方法であって、
演算装置が、前記コンクリートパネルに対して相対的に移動する渦電流センサの出力を受け、
前記演算装置が、渦電流センサの出力波形のピークの位置に基づいて前記コンクリートパネル内における前記金属の位置を推定し、且つ、
前記演算装置が、前記渦電流センサの出力波形のピーク形状に基づき、推定した前記金属の位置を補正する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートパネルに埋設された鉄筋の位置を確認するためには、破壊検査が行われる必要がある。しかし、破壊検査が行われると、破壊されたコンクリートパネルは、製品として使用できない。そのため、一般的には、渦電流センサを用いた非破壊検査が行われる(特許文献1~5参照。)。
【0003】
この非破壊検査では、通常、渦電流センサの出力波形のピークに対応する位置に鉄筋が存在すると推定される。具体的には、渦電流センサは、渦電流センサと鉄筋との距離に応じた値を出力するように構成されている。そして、渦電流センサを利用する検査装置は、渦電流センサが出力する値を時系列に並べて波形化し、その波形におけるピークの位置に基づいて鉄筋の位置を認識するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5146673号公報
【文献】特開2018-132426号公報
【文献】特開2018-9862号公報
【文献】特許第5241200号公報
【文献】特開2009-109304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、検査の対象となっている鉄筋の近くに別の鉄筋が存在する場合、渦電流センサは、その別の鉄筋で生じる渦電流の影響を受けるおそれがある。そのため、渦電流センサを利用する検査装置は、検査の対象となっている鉄筋の位置を正確に認識できないおそれがある。
【0006】
そこで、コンクリートパネルに埋設された金属の位置をより正確に認識できる装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る装置は、金属が埋設されたコンクリートパネルを検査する装置であって、渦電流センサと、前記コンクリートパネルに対して前記渦電流センサを相対的に移動させる移動機構と、演算装置と、を備え、前記演算装置は、前記渦電流センサの出力波形のピークの位置に基づいて前記コンクリートパネル内における前記金属の位置を推定し、且つ、前記渦電流センサの出力波形のピーク形状に基づき、推定した前記金属の位置を補正するように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
上述の装置は、コンクリートパネルに埋設された金属の位置をより正確に認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】鉄筋が埋設されたコンクリートパネルの斜視図である。
図2図1のコンクリートパネルの部分断面図である。
図3】検査装置の構成例を示す機能ブロック図である。
図4】コンベアで搬送されるコンクリートパネルの上を相対的に移動する渦電流センサの軌跡の一例を示す図である。
図5】1本の鉄筋が埋設されている部分の上を通過する渦電流センサの出力波形の一例を示す図である。
図6】2本の鉄筋が隣り合うように埋設されている部分の上を通過する渦電流センサの出力波形の一例を示す図である。
図7図6の一部を拡大した図である。
図8】渦電流センサの出力波形の詳細を示す図である。
図9】傾き比と補正量の関係を示す図である。
図10】かぶり厚推定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に、図1図4を参照し、本発明の実施形態に係る検査装置100について説明する。検査装置100は、金属が埋設されたコンクリートパネルを検査できるように構成されている。図1は、検査装置100が検査するコンクリートパネル11の斜視図である。図2は、図1の一点鎖線L1を含む仮想鉛直平面(XZ平面)におけるコンクリートパネル11の部分断面図である。図3は、検査装置100の機能ブロック図である。図4は、検査装置100によって搬送されるコンクリートパネル11と渦電流センサ51との位置関係を示す図である。具体的には、図4(A)は、コンクリートパネル11及び渦電流センサ51の上面図であり、図4(B)は、コンクリートパネル11及び渦電流センサ51の側面図である。図4(B)のドットパターンで示される領域MRは、渦電流センサ51の検出範囲を表す。
【0011】
コンクリートパネル11には、図1に示すように、鉄筋12が埋設されている。具体的には、コンクリートパネル11には、コンクリートパネル11の長辺に平行な主筋としての長尺鉄筋12Lと、コンクリートパネル11の短辺に平行な横補強筋としての短尺鉄筋12Sとが埋設されている。図1の例では、長尺鉄筋12Lは、3本の長尺鉄筋12L1~12L3を含み、短尺鉄筋12Sは、5本の短尺鉄筋12S1~12S5を含む。
【0012】
コンクリートパネル11に埋設される鉄筋12の位置は、製造条件によって定められる。しかしながら、検査者は、コンクリートパネル11内に鉄筋12が埋設された後では、コンクリートパネル11を破壊しない限り、鉄筋12の位置を直接的には確認できない。
【0013】
そこで、本発明の実施形態に係る検査装置100は、渦電流センサ51を用いて鉄筋12の位置を間接的に且つ自動的に確認する。具体的には、検査装置100は、コンクリートパネル11内の適切な位置に鉄筋12が埋設されているか否かを検査できるように構成されている。より具体的には、検査装置100は、コンクリートパネル11の+X側の端面11Sから短尺鉄筋12S1までの距離であるかぶり厚CTを推定するように構成されている。なお、かぶり厚CTは、コンクリートパネル11の+X側の端面11Sから短尺鉄筋12S1の中心までの距離として推定されてもよい。
【0014】
図3は、検査装置100の機能ブロック図である。検査装置100は、主に、演算装置50、渦電流センサ51、移動機構52、表示装置53、及び音出力装置54等で構成されている。
【0015】
表示装置53は、検査装置100に関する情報を表示できるように構成されている。本実施形態では、表示装置53は、液晶ディスプレイであり、検査装置100が推定したかぶり厚CTの値を表示するように構成されている。表示装置53は、検査装置100が推定したかぶり厚CTの値と基準値との差が所定値以上の場合に、かぶり厚CTが異常である旨を伝える警告画面を表示してもよい。
【0016】
音出力装置54は、検査装置100に関する情報を聴覚的に出力できるように構成されている。本実施形態では、音出力装置54は、スピーカであり、検査装置100が推定したかぶり厚CTの値と基準値との差が所定値以上の場合に、かぶり厚CTが異常である旨を伝える警告音を出力する。音出力装置54は、かぶり厚CTが異常である旨を伝える音声メッセージを出力してもよい。
【0017】
演算装置50は、検査装置100を制御できるように構成されている。本実施形態では、演算装置50は、CPU、揮発性記憶装置、不揮発性記憶装置、及び入出力インタフェース等を含むマイクロコンピュータである。
【0018】
演算装置50による各機能は、不揮発性記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することで実現される。但し、演算装置50による各機能は、ハードウェア又はファームウェアで実現されていてもよい。演算装置50は、各機能を担う機能要素として、推定部50A及び補正部50Bを有する。
【0019】
推定部50Aは、コンクリートパネル1に埋設された鉄筋12の位置を推定するように構成されている。本実施形態では、推定部50Aは、渦電流センサ51の出力波形のピークの位置に基づき、コンクリートパネル11の+X側の端面11Sから短尺鉄筋12S1までの距離であるかぶり厚CTを推定するように構成されている。
【0020】
補正部50Bは、推定部50Aが推定した鉄筋12の位置を補正するように構成されている。本実施形態では、補正部50Bは、渦電流センサ51の出力波形のピーク形状に基づき、推定した短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTを補正するように構成されている。ピーク形状は、出力波形におけるピークの前後を含む部分の形状を意味する。
【0021】
渦電流センサ51は、コンクリートパネル11に埋設された金属等の導電性の物体の位置を非接触で検知できるように構成されている。本実施形態では、渦電流センサ51は、励磁コイルと検出コイルとを備え、鉄筋12が接近したときに鉄筋12で生じる渦電流による磁界を検出することで、コンクリートパネル11に埋設された鉄筋12の位置を検知できるように構成されている。具体的には、渦電流センサ51は、鉄筋12で発生した渦電流による磁界の強さを電圧値として検出し、その電圧値を演算装置50に対して出力する。演算装置50は、単一の渦電流センサ51の出力を受けるように構成されていてもよく、複数の渦電流センサ51の出力を受けるように構成されていてもよい。
【0022】
移動機構52は、コンクリートパネル11に対して渦電流センサ51を相対的に移動させる機構であり、渦電流センサ51のみを移動させてもよく、コンクリートパネル1のみを移動させてもよく、渦電流センサ51及びコンクリートパネル1の双方を移動させてもよい。
【0023】
本実施形態では、移動機構52は、図4(A)の矢印AR1で示すように、コンクリートパネル1をX軸に沿って-X側から+X側に移動させるコンベアで構成されている。コンベアは、例えば、ベルトコンベア及びローラコンベア等である。X軸は、コンクリートパネル1の長辺に平行であり、典型的には水平に延びる。この構成により、移動機構52は、コンクリートパネル1を直線的に且つ水平方向に一定速度で移動させることができる。
【0024】
本実施形態では、渦電流センサ51は、図4(B)で示すように、製造ラインを搬送されていくコンクリートパネル11の+Z側の面である腹面11aから所定距離だけ離れた上側位置に固定的に配置されている。そのため、コンクリートパネル11上を相対的に移動する渦電流センサ51の走査軌跡は、図4の点線矢印AR2で示すように、X軸に沿って+X側から-X側に延びる。なお、渦電流センサ51は、コンクリートパネル11の-Z側の面である背面から所定距離だけ離れた下側位置に固定的に配置されていてもよい。
【0025】
但し、移動機構52は、X軸に垂直なY軸に沿って渦電流センサ51を往復動させることができるように構成されていてもよい。Y軸は、コンクリートパネル1の短辺に平行であり、典型的には水平に延びる。この往復移動機構は、例えば、リニアアクチュエータ等の公知の技術により、渦電流センサ51が所定の距離を往復できるように構成される。往復移動機構の移動範囲は、コンクリートパネル11の幅と同等か、それより大きくなるように設定される。
【0026】
本実施形態では、上述のように、渦電流センサ51は、コンクリートパネル11の腹面11aを+X側の端部から-X側の端部にわたって走査することができる。そのため、コンクリートパネル11に埋設されている鉄筋12が渦電流センサ51に接近すると、渦電流センサ51の出力値は変化する。演算装置50は、この出力値を継続的に受けることで、出力波形を取得できる。
【0027】
図5は、演算装置50が取得する出力波形の一例を示す。演算装置50は、渦電流センサ51がコンクリートパネル11における1本の短尺鉄筋12Sが埋設されている部分の上を通過する際に図5に示すような出力波形を取得する。例えば、演算装置50は、図1における短尺鉄筋12S2が埋設されていない別のコンクリートパネルにおける、短尺鉄筋12S1が埋設されている部分の上を渦電流センサ51が通過する際に図5に示すような出力波形を取得する。
【0028】
図5では、縦軸が渦電流センサ51の出力値に対応し、横軸がコンクリートパネル11の端面11SからのX軸方向における距離に対応している。そして、図5は、端面11Sから距離D1の位置で渦電流センサ51の出力値が増大し始め、端面11Sから距離D2の位置で渦電流センサ51の出力値がピークP1を形成し、端面11Sから距離D3の位置で渦電流センサ51の出力値がゼロに戻ることを示している。
【0029】
この場合、演算装置50の推定部50Aは、ピークP1が形成された位置である端面11Sから距離D2の位置に短尺鉄筋12S1が埋設されていると推定し、短尺鉄筋12S1に関するかぶり厚CTの推定値として距離D2を導き出す。
【0030】
図6は、演算装置50が取得する出力波形の別の一例を示す。演算装置50は、渦電流センサ51が、コンクリートパネル11における、2本の短尺鉄筋12Sが隣り合うように埋設されている部分の上を通過する際に図6に示すような出力波形を取得する。例えば、演算装置50は、図1におけるコンクリートパネル11における、短尺鉄筋12S1と短尺鉄筋12S2とが隣り合うように埋設されている部分の上を渦電流センサ51が通過する際に図6に示すような出力波形を取得する。なお、図6に示す出力波形をもたらす短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTは、図5に示す出力波形をもたらす短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTと同じである。
【0031】
図6では、図5の場合と同様に、縦軸が渦電流センサ51の出力値に対応し、横軸がコンクリートパネル11の端面11SからのX軸方向における距離に対応している。そして、図6は、端面11Sから距離D1の位置で渦電流センサ51の出力値が増大し始め、端面11Sから距離D11の位置で渦電流センサ51の出力値が第1のピークP11を形成し、端面11Sから距離D12の位置で渦電流センサ51の出力値がディップDP1を形成し、端面11Sから距離D13の位置で渦電流センサ51の出力値が第2のピークP12を形成し、端面11Sから距離D14の位置で渦電流センサ51の出力値がゼロに戻ることを示している。
【0032】
このように、コンクリートパネル11における隣り合う2本の短尺鉄筋12S1及び12S2が埋設されている部分の上を渦電流センサ51が通過する際には、出力波形は、図6の破線で示すような独立した2つの凸状の波形を含む出力波形ではなく、図6の実線で示すような、2つのピークP11及びP12と1つのディップDP1とを含む一続きの出力波形(以下、「複数ピーク波形」とする。)となる。2本の短尺鉄筋12S1及び12S2のそれぞれで生じた渦電流による磁界が互いに影響し合うためである。なお、複数ピーク波形は、コンクリートパネル11における隣り合う3本以上の短尺鉄筋12Sに由来する3つ以上のピークと2つ以上のディップを含む一続きの出力波形であってもよい。
【0033】
図6に示す出力波形が得られた場合、演算装置50の推定部50Aは、第1のピークP11が形成された位置である端面11Sから距離D11の位置に短尺鉄筋12S1が埋設されていると推定し、短尺鉄筋12S1に関するかぶり厚CTの推定値として距離D11を導き出す。
【0034】
しかしながら、破壊検査により実際の短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTを測定すると、かぶり厚CTの実測値は、かぶり厚CTの推定値よりも小さいことが確認される。具体的には、図6の破線で囲まれた範囲R1の拡大図である図7に示すように、かぶり厚CTの推定値である距離D11は、実際のかぶり厚CTである距離D2よりも距離GPだけ大きいことが確認される。以下では、この距離GPをズレ量と称する。
【0035】
そこで、演算装置50は、図6に示すような複数ピーク波形を検知した場合には、出力波形のピークから導き出されるかぶり厚CTの推定値を補正するように構成されている。
【0036】
以下では、図8を参照し、演算装置50がかぶり厚CTの推定値を補正する際に用いる補正量の導出方法について説明する。図8は、渦電流センサ51の出力波形の拡大図である。具体的には、図8は、図6に示す出力波形における第1のピークP11の前後を含む部分の拡大図である。
【0037】
演算装置50の補正部50Bは、図6に示すような2つのピークP11及びP12と1つのディップDP1とを含む出力波形を検知した場合、図8の破線で示すような、その出力波形に対応する移動平均線L10を導き出す。図8の例では、補正部50Bは、所定の制御周期で繰り返し取得される渦電流センサ51の出力値のうちの、先行する2つの出力値と後続の2つの出力値とを含む連続する5つの出力値の平均値を、渦電流センサ51の出力値のそれぞれに対応する移動平均値として導き出す。但し、先行する出力値の数は2つ以外であってもよく、後続の出力値の数は2つ以外であってもよい。また、先行する出力値の数は、後続の出力値の数と異なっていてもよい。
【0038】
その上で、補正部50Bは、移動平均線L10を構成する各点における接線と横軸との間の角度である接線角度を導き出す。具体的には、補正部50Bは、移動平均線L10上の点P21と点P22との間にある各点に関する接線角度である上向き接線角度α(絶対値)と、移動平均線L10上の点P22と点P23との間にある各点に関する接線角度である下向き接線角度β(絶対値)と、を導き出す。なお、点P21は、渦電流センサ51の出力値の増大が開始する出力波形上の点P10に対応し、点P22は、出力波形上の第1のピークP11に対応し、点P23は、出力波形上のディップDP1に対応している。この場合、出力波形における点P10からディップDP1までの部分の形状は、渦電流センサ51の出力波形のピーク形状を意味する。
【0039】
そして、補正部50Bは、上向き接線角度αが最大となる、移動平均線L10上の点を導き出し、且つ、下向き接線角度βが最大となる、移動平均線L10上の点を導き出す。
【0040】
その後、補正部50Bは、下向き接線角度βの最大値βmaxに対する上向き接線角度αの最大値αmaxの比である傾き比(αmax/βmax)を算出する。但し、傾き比は、上向き接線角度αの最大値αmaxに対する下向き接線角度βの最大値βmaxの比(βmax/αmax)であってもよい。
【0041】
図8の例では、補正部50Bは、移動平均線L10上の点P31に関する上向き接線角度αを最大値αmaxとして導き出し、且つ、移動平均線L10上の点P32に関する下向き接線角度βを最大値βmaxとして導き出す。その上で、補正部50Bは、傾き比(αmax/βmax)を取得する。
【0042】
その後、補正部50Bは、不揮発性記憶装置に記憶されている、傾き比と補正量との対応関係を記憶している参照用テーブルを参照し、取得した傾き比に対応する補正量を導き出す。
【0043】
図9は、傾き比と補正量との対応関係の一例を表す散布図である。図9の縦軸はズレ量すなわち補正量に対応し、横軸は傾き比に対応している。ズレ量は、かぶり厚CTの推定値と実際のかぶり厚CTとの差である。図7の距離GPは、ズレ量の一例である。
【0044】
図9における各点が示すズレ量は、短尺鉄筋12S1及び12S2が埋設された複数のコンクリートパネル11の破壊検査により得られた実測値に基づく。図9の線分L20は、最小二乗法に基づく回帰直線を示す。補正部50Bは、図9の回帰直線によって表される傾き比と補正量との対応関係を記憶した参照用テーブルを参照し、取得した傾き比に対応する補正量を導き出す。補正部50Bは、例えば、傾き比の値が「10」の場合に、補正量の値「-7[mm]」を導き出す。補正部50Bは、図9の回帰直線に関する回帰式に傾き比を代入して補正量を算出してもよい。或いは、補正部50Bは、最小二乗法以外の他の方法で導き出される近似直線によって表される対応関係を記憶した参照用テーブルを参照し、若しくは、そのような近似直線に関する計算式に傾き比を代入することで、取得した傾き比に対応する補正量を導き出してもよい。
【0045】
最後に、補正部50Bは、推定部50Aが推定したかぶり厚CTの推定値に補正量を加えた値を、かぶり厚CTの補正済み推定値として算出する。
【0046】
次に、図10を参照し、演算装置50がコンクリートパネル11に埋設された短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTを推定する処理(以下、「かぶり厚推定処理」とする。)の流れについて説明する。図10は、かぶり厚推定処理の一例のフローチャートを示す。演算装置50は、例えば、移動機構52によって次々に搬送されてくる個々のコンクリートパネル11の渦電流センサ51による走査が終わる度に、このかぶり厚推定処理を実行する。なお、演算装置50は、かぶり厚推定処理を実行しているか否かにかかわらず、渦電流センサ51の出力値を所定の制御周期で継続的に取得している。そして、演算装置50は、渦電流センサ51の出力値に基づき、渦電流センサ51による個々のコンクリートパネル11の走査の開始と終了とを検知できるように構成されている。但し、演算装置50は、近接センサ等の他のセンサの出力に基づき、渦電流センサ51による個々のコンクリートパネル11の走査の開始と終了とを検知できるように構成されていてもよい。
【0047】
最初に、演算装置50は、渦電流センサ51の出力波形におけるピークを検出したか否かを判定する(ステップST1)。本実施形態では、演算装置50は、直近に走査されたコンクリートパネル11に関する渦電流センサ51の出力値が第1所定値を超えた後で、第1所定値よりも小さい第2所定値を下回った場合に、ピークを検出したと判定する。但し、第2所定値は、第1所定値と同じ値であってもよい。或いは、演算装置50は、別の方法を用いてピークを検出したか否かを判定してもよい。
【0048】
ピークを検出したと判定した場合(ステップST1のYES)、演算装置50の推定部50Aは、出力波形におけるピークの位置に基づいてかぶり厚CTを推定する(ステップST2)。本実施形態では、推定部50Aは、演算装置50がピークを検出したときに渦電流センサ51の真下にあるコンクリートパネル11の腹面11a上の点とコンクリートパネル11の端面11S(図1参照。)との間の距離を短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTとして推定する。
【0049】
その後、演算装置50は、複数ピーク波形を検出したか否かを判定する(ステップST3)。本実施形態では、演算装置50は、例えば図6に示すように、渦電流センサ51の出力値が第1のピークP11を形成した後で、第2所定値より小さい第3所定値を下回ることなく第2のピークP12を形成した場合に、複数ピーク波形を検出したと判定する。或いは、演算装置50は、別の方法を用いて複数ピーク波形を検出したか否かを判定してもよい。
【0050】
複数ピーク波形を検出していないと判定した場合(ステップST3のNO)、演算装置50は、ステップST2で推定したかぶり厚CTの推定値を表示装置53に表示させる(ステップST8)。本実施形態では、演算装置50は、例えば図5に示すような出力波形を解析して複数ピーク波形を検出していないと判定した場合には、ステップST2で推定したかぶり厚CTを補正することなく、ステップST2で推定したかぶり厚CTをそのまま表示装置53に表示させる。
【0051】
一方、複数ピーク波形を検出したと判定した場合(ステップST3のYES)、演算装置50の補正部50Bは、移動平均線を導き出す(ステップST4)。本実施形態では、補正部50Bは、例えば図6に示すような出力波形を解析して複数ピーク波形を検出したと判定した場合には、図8の破線で示すような移動平均線を導き出す。
【0052】
その後、補正部50Bは、導き出した移動平均線に関する上向き接線角度αの最大値αmaxと下向き接線角度βの最大値βmaxとを算出する(ステップST5)。図8に示す例では、補正部50Bは、出力波形における第1のピークP11よりも左側にある波形部分に対応する移動平均線上の点P31を通る接線L11に関する上向き接線角度αを、上向き接線角度αの最大値αmaxとして算出する。また、補正部50Bは、出力波形における第1のピークP11よりも右側にある波形部分に対応する移動平均線上の点P32を通る接線L12に関する下向き接線角度βを、下向き接線角度βの最大値βmaxとして算出する。また、補正部50Bは、下向き接線角度βの最大値βmaxに対する上向き接線角度αの最大値αmaxの比である傾き比(αmax/βmax)を算出する。
【0053】
その後、補正部50Bは、傾き比(αmax/βmax)に基づいて補正量を導き出す(ステップST6)。本実施形態では、補正部50Bは、導き出した傾き比を入力として、図9に示す回帰直線で表される傾き比とズレ量(補正量)との関係を記憶する参照用テーブルを参照し、その傾き比に対応する補正量を導き出す。
【0054】
その後、補正部50Bは、導き出した補正量を用いてかぶり厚CTを補正する(ステップST7)。本実施形態では、補正部50Bは、ステップST2で推定部50Aが推定したかぶり厚CTの推定値に補正量を加えて補正済み推定値を算出する。なお、補正量は、正値であってもよく負値であってもよい。
【0055】
その後、演算装置50は、ステップST7で補正したかぶり厚CTの補正済み推定値を表示装置53に表示させる(ステップST8)。本実施形態では、演算装置50は、例えば図6に示すような出力波形を解析して複数ピーク波形を検出したと判定した場合には、ステップST2で推定したかぶり厚CTの推定値ではなく、ステップST7で補正したかぶり厚CTの補正済み推定値を表示装置53に表示させる。
【0056】
なお、ピークを検出していないと判定した場合(ステップST1のNO)、演算装置50は、警告を表示する(ステップST9)。演算装置50は、例えば、音出力装置54から警告音を出力させ、且つ、「鉄筋を検出できません」といったテキストメッセージを表示装置53に表示させる。なお、警告の表示は、移動機構52の停止等を伴うものであってもよい。或いは、警告の表示は、警告音の出力、又は、移動機構52の停止等を伴う警告音の出力で置き換えられてもよい。
【0057】
演算装置50は、表示装置53に表示させるかぶり厚の推定値又は補正済み推定値が所定範囲から逸脱している場合に、警告を表示するように構成されていてもよい。
【0058】
上述のように、本発明の実施形態に係る検査装置100は、鉄筋12等の金属が埋設されたコンクリートパネル11を検査する装置であって、渦電流センサ51と、コンクリートパネル11に対して渦電流センサ51を相対的に移動させる移動機構52と、演算装置50と、を備えている。そして、演算装置50は、渦電流センサ51の出力波形のピークの位置に基づいてコンクリートパネル11内における金属の位置を推定し、且つ、渦電流センサ51の出力波形のピーク形状に基づき、推定した金属の位置を補正するように構成されている。
【0059】
この構成により、演算装置50は、例えば、渦電流センサ51の出力波形におけるピークの位置、及び、出力波形の形状に基づき、図1に示すようなコンクリートパネル11に埋設された短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTをより正確に推定できる。具体的には、演算装置50は、例えば図6に示すように、渦電流センサ51の出力波形における第1のピークP11の位置のみに基づいて短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTを推定する場合よりも高精度に短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTを推定できる。
【0060】
なお、演算装置50は、短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTを導き出す場合と同様に、短尺鉄筋12S2のかぶり厚を導き出すことができる。短尺鉄筋12S3~12S5についても同様である。
【0061】
また、演算装置50は、短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTを導き出す場合と同様に、コンクリートパネル11の-X側の端面と短尺鉄筋12S5との間の距離を導き出すことができる。
【0062】
更に、演算装置50は、短尺鉄筋12S1のかぶり厚CTを導き出す場合と同様に、長尺鉄筋12Lのかぶり厚を導き出すことができるように構成されていてもよい。長尺鉄筋12Lのかぶり厚は、例えば、コンクリートパネル11の+Y側の側面(図1参照。)と長尺鉄筋12L1との間の距離、又は、コンクリートパネル11の-Y側の側面(図1参照。)と長尺鉄筋12L3との間の距離等である。この場合、渦電流センサ51は、コンクリートパネル11に関してY軸方向に相対的に移動できるように構成される。この構成により、検査装置100は、2本の長尺鉄筋12Lが隣り合うように埋設されている場合、渦電流センサ51の出力波形におけるピークの位置のみに基づいてかぶり厚を推定する場合に比べ、それら2本の長尺鉄筋12Lのそれぞれのかぶり厚をより正確に推定できる。
【0063】
演算装置50は、例えば、ピーク形状の左側部分と右側部分との関係に基づき、推定した金属の位置を補正するように構成されていてもよい。具体的には、演算装置50の補正部50Bは、例えば図8に示すように、渦電流センサ51の出力波形における第1のピークP11よりも左側にある波形部分に対応する移動平均線に関する上向き接線角度αの最大値αmaxと、第1のピークP11よりも右側にある波形部分に対応する移動平均線に関する下向き接線角度βの最大値βmaxとの関係に基づき、推定部50Aが推定した短尺鉄筋12S1のかぶり厚を補正するように構成されていてもよい。より具体的には、補正部50Bは、下向き接線角度βの最大値βmaxに対する上向き接線角度αの最大値αmaxの比である傾き比(αmax/βmax)に基づき、推定部50Aが推定した短尺鉄筋12S1のかぶり厚を補正するように構成されていてもよい。
【0064】
すなわち、演算装置50は、図8に示すように、渦電流センサ51の出力波形の移動平均線L10を導き出し、移動平均線L10のピークである点P22の左側にある部分に関する上向き接線角度αの最大値αmaxと、点P22の右側にある部分に関する下向き接線角度βの最大値βmaxとの比である傾き比を算出し、その傾き比に基づき、推定部50Aが推定した短尺鉄筋12S1のかぶり厚を補正する際の補正量を導き出すように構成されていてもよい。
【0065】
そして、演算装置50は、図9に示すような傾き比と補正量との関係を表す式を用い、或いは、図9に示すような傾き比と補正量との対応関係を記憶する参照用テーブルを用い、傾き比から補正量を導き出すように構成されていてもよい。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施形態が説明された。しかしながら、本発明は、上述した実施形態に限定されることはない。上述した実施形態は、本発明の範囲を逸脱することなしに、種々の変形又は置換等が適用され得る。また、上述の実施形態を参照して説明された特徴のそれぞれは、技術的に矛盾しない限り、適宜に組み合わされてもよい。
【0067】
例えば、上述の実施形態では、補正部50Bは、移動平均線を導き出すように構成されているが、ローパスフィルタ等を利用して出力波形を平滑化するように構成されていてもよい。この場合、補正部50Bは、平滑化された出力波形に関する上向き接線角度αの最大値αmaxと下向き接線角度βの最大値βmaxとに基づいて傾き比を算出してもよい。
【0068】
また、上述の実施形態では、補正部50Bは、接線角度の最大値を導き出すように構成されているが、最大値の代わりに、最小値、平均値、又は中間値等の他の統計値を導き出すように構成されていてもよい。
【0069】
また、上述の実施形態では、補正部50Bは、接線を導き出すように構成されているが、接線の代わりに、最小二乗法に基づく回帰直線又は近似直線等の他の直線を導き出すように構成されていてもよい。
【0070】
或いは、補正部50Bは、渦電流センサ51の出力波形の波形パターンを認識し、認識した波形パターンに対応する補正量を導き出すように構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の実施形態に係る検査装置100は、コンクリートパネル11に埋設されている鉄筋12が製造条件通りに埋設されているか否かを確認する際に利用される。
【符号の説明】
【0072】
11・・・コンクリートパネル 11S・・・端面 12・・・鉄筋 12L・・・長尺鉄筋 12S・・・短尺鉄筋 50・・・演算装置 50A・・・推定部 50B・・・補正部 51・・・渦電流センサ 52・・・移動機構 53・・・表示装置 54・・・音出力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10