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特許7159967発泡電線の製造装置、発泡電線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】発泡電線の製造装置、発泡電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/14 20060101AFI20221018BHJP
   B29C 48/30 20190101ALI20221018BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20221018BHJP
   B29C 44/52 20060101ALI20221018BHJP
   B29C 44/50 20060101ALI20221018BHJP
   B29C 48/15 20190101ALI20221018BHJP
   B29C 48/154 20190101ALI20221018BHJP
   B29C 48/34 20190101ALI20221018BHJP
【FI】
H01B13/14 B
B29C48/30
B29C44/00 E
B29C44/52
B29C44/50
B29C48/15
B29C48/154
B29C48/34
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019085534
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020181764
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正浩
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-228064(JP,A)
【文献】特開平04-325223(JP,A)
【文献】特開平04-144007(JP,A)
【文献】特開2002-343142(JP,A)
【文献】特開平01-076622(JP,A)
【文献】特開2017-220424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/14
B29C 48/30
B29C 44/00
B29C 44/52
B29C 44/50
B29C 48/15
B29C 48/154
B29C 48/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心金及び口金を有する押出金型から樹脂を押出し発泡させて、中心導体の外周に発泡絶縁体を形成する発泡電線の製造装置において、
前記口金は、その押出し出口に、内周面が押出し方向に徐々に広がるテーパ状に形成された気泡成長部を有すると共に、
前記気泡成長部の内周面に、気泡核生成用の複数の凸部又は凹部又はその両方を形成してなる気泡核生成部を有し、
前記気泡核生成部で気泡の核を発生させつつ、前記気泡の核を樹脂の流れによって押し出し、前記気泡成長部での樹脂圧の低下に合わせて前記気泡の核を成長させて前記発泡絶縁体中の気泡を形成するように構成されている、
発泡電線の製造装置。
【請求項2】
前記気泡核生成部は、前記気泡成長部の内周面に、凸部と凹部の両方を形成してなる、
請求項1記載の発泡電線の製造装置。
【請求項3】
前記気泡核生成部は、押出し方向において、凸部と凹部とが隣接するように形成されている、
請求項2に記載の発泡電線の製造装置。
【請求項4】
前記気泡成長部の内周面からの凸部の高さと、前記気泡成長部の内周面からの凹部の深さの和が、20μm以上である、
請求項2又は3に記載の発泡電線の製造装置。
【請求項5】
前記気泡核生成部は、円周方向に複数の凸部又は凹部を等間隔に形成してなる、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の発泡電線の製造装置。
【請求項6】
心金及び口金を有する押出金型から樹脂を押出し発泡させて、中心導体の外周に発泡絶縁体を形成する発泡電線の製造方法において、
前記押出金型から押し出す樹脂は、発泡核剤を含まない樹脂であって、
前記口金は、その押出し出口に、内周面が押出し方向に徐々に広がるテーパ状に形成された気泡成長部を有すると共に、
前記気泡成長部の内周面に、気泡核生成用の複数の凸部又は凹部又はその両方を形成してなる気泡核生成部を有し、
前記気泡核生成部で気泡の核を発生させつつ、前記気泡の核を樹脂の流れによって押し出し、前記気泡成長部での樹脂圧の低下に合わせて前記気泡の核を成長させて前記発泡絶縁体中の気泡を形成する、
発泡電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡電線の製造装置、発泡電線の製造方法、及び発泡電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化に伴い、それらに使用される電線に伝送される信号も高速化している。高速信号伝送用の電線として、絶縁体の中に気泡を含有させることで絶縁体全体としての誘電率を下げ、高速信号の伝送ロスを抑制した発泡電線が知られている。
【0003】
従来、発泡電線を製造する際には、押出機に窒素や炭酸ガス等の発泡剤と発泡核剤とを樹脂と共に供給し、押出機から樹脂が吐出され圧力が開放された際に発泡核剤を核として気泡を発生させることで、発泡絶縁体を形成していた。
【0004】
例えば、超音波診断装置に用いられるプローブケーブルでは、中心導体の周囲に発泡絶縁体、外部導体、シースを順次形成した発泡電線(同軸ケーブル)を数百本束ねてケーブル化している。そのため、プローブケーブルに用いる発泡電線では、取り回し性を良好とするために、できるだけ細径であることが望まれる。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-228064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細径の発泡電線においては、発泡絶縁体の厚さも薄くする必要がある。しかしながら、従来のように発泡核剤を用いた方法では、気泡の発生位置や気泡の大きさがランダムとなってしまうため、特に発泡絶縁体を薄くした場合には、長手方向において誘電率のばらつき(すなわち特性インピーダンスのばらつき)が大きくなり、高速信号を伝送させる際の伝送ロスが大きくなってしまうという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、発泡絶縁体の厚さを薄くした場合であっても、発泡絶縁体の長手方向における誘電率のばらつきを抑制可能な発泡電線の製造装置、発泡電線の製造方法、及び発泡電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、心金及び口金を有する押出金型から樹脂を押出し発泡させて、中心導体の外周に発泡絶縁体を形成する発泡電線の製造装置において、前記口金は、その押出し出口に、内周面が押出し方向に徐々に広がるテーパ状に形成された気泡成長部を有すると共に、前記気泡成長部の内周面に、気泡核生成用の複数の凸部又は凹部又はその両方を形成してなる気泡核生成部を有し、前記気泡核生成部で気泡の核を発生させつつ、前記気泡の核を樹脂の流れによって押し出し、前記気泡成長部での樹脂圧の低下に合わせて前記気泡の核を成長させて前記発泡絶縁体中の気泡を形成するように構成されている、発泡電線の製造装置を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、心金及び口金を有する押出金型から樹脂を押出し発泡させて、中心導体の外周に発泡絶縁体を形成する発泡電線の製造方法において、前記口金は、その押出し出口に、内周面が押出し方向に徐々に広がるテーパ状に形成された気泡成長部を有すると共に、前記気泡成長部の内周面に、気泡核生成用の複数の凸部又は凹部又はその両方を形成してなる気泡核生成部を有し、前記気泡核生成部で気泡の核を発生させつつ、前記気泡の核を樹脂の流れによって押し出し、前記気泡成長部での樹脂圧の低下に合わせて前記気泡の核を成長させて前記発泡絶縁体中の気泡を形成する、発泡電線の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、中心導体と、前記中心導体の外周を覆う厚さ100μm以下の発泡絶縁体と、を備え、前記発泡絶縁体には、長手方向に沿って一直線状に、断続的に気泡が形成されている、発泡電線を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発泡絶縁体の厚さを薄くした場合であっても、発泡絶縁体の長手方向における誘電率のばらつきを抑制可能な発泡電線の製造装置、発泡電線の製造方法、及び発泡電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は本発明の一実施の形態に係る発泡電線の製造装置の断面図であり、(b)はそのA部を拡大した図である。
図2】(a)は口金部の先端部の構造を示す斜視図、(b)はその側面図、(c)はテーパ部を展開した際の模式図である。
図3】(a),(b)は、凸部凹部による気泡核生成を説明する説明図である。
図4】(a)は、本発明の一実施の形態に係る発泡電線の長手方向に垂直な断面を示す断面図、(b)は(a)のB-B線断面図である。
図5】従来の発泡電線の断面図である。
図6】本発明の他の実施の形態に係る発泡電線の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0015】
(発泡電線の製造装置の全体構成)
図1は、本実施の形態に係る発泡電線の製造装置の断面図である。図2(a)は口金部の先端部の構造を示す斜視図、図2(b)はその側面図、図2(c)はテーパ部を展開した際の模式図である。
【0016】
図1及び図2に示すように、発泡電線の製造装置1は、心金21及び口金22を有する押出金型2から樹脂3を押出し発泡させて、中心導体11の外周に発泡絶縁体12を形成するものである。
【0017】
発泡電線の製造装置1内に投入された樹脂3は、図示しないスクリュにより混練されつつ、口金22が設けられた発泡電線の製造装置1の先端部へと搬送される。樹脂3は、スクリュの混練によるせん断熱等により溶融されつつ口金22側へと搬送される。溶融した樹脂3には、ガス(二酸化炭素や窒素などの発泡剤)が注入され、ガスが高圧で樹脂3中に溶解した状態となっている。なお、本実施の形態において、樹脂3中には発泡核剤が含まれていない。
【0018】
心金21からは、中心導体11が引き出されており、心金21から引き出された中心導体11と共に、樹脂3が口金22より押し出される。この際、口金22から押し出された樹脂3が、大気圧に開放されることで、溶解しているガスが気体となって気泡が成長する。これにより、中心導体11の外周に気泡13を有する発泡絶縁体12が形成された発泡電線10が得られる。
【0019】
(気泡核生成部23の説明)
本実施の形態に係る発泡電線の製造装置1では、口金22は、その押出し出口に、内周面22bが押出し方向に徐々に広がるテーパ状に形成された気泡成長部としてのテーパ部22aを有している。また、口金22は、そのテーパ部22aの内周面22bに、気泡核生成用の複数の凸部23a又は凹部23b又はその両方を形成してなる気泡核生成部23を有している。
【0020】
図3(a)に示すように、テーパ部22aの内周面22bに気泡核生成部23としての凸部23aと凹部23bを形成することにより、気泡核生成部23の近傍にて樹脂3の流れが乱れて樹脂圧が変化し、樹脂3とテーパ部22aの内周面22bの界面(凸部23aや凹部23bの表面)から気泡の核13aが発生する。この発生した気泡の核13aが、図3(b)に示すように、テーパ部22aでの圧力勾配に沿って成長しながら樹脂3の流れによって樹脂3と共に押し出され、発泡絶縁体12中の気泡13となる。
【0021】
このように、発泡電線の製造装置1では、気泡核生成部23で気泡の核13aを発生させつつ、気泡の核13aを樹脂の流れによって押し出し、テーパ部22aでの樹脂圧の低下に合わせて気泡の核13aを成長させて発泡絶縁体12中の気泡13を形成するように構成されている。これにより、発泡核剤を用いずとも、気泡核生成部23にて気泡の核13aを連続して発生させて、発泡絶縁体12を形成することが可能になる。
【0022】
本実施の形態では、気泡核生成部23は、テーパ部22aの内周面22bに、凸部23aと凹部23bの両方を形成して構成されている。ただし、テーパ部22aの内周面22bに、凸部23aのみ、あるいは凹部23bのみを形成しても気泡の核13aを発生させることが可能である。ただし、凸部23aのみ、あるいは凹部23bのみを形成した場合と比較して、凸部23aと凹部23bの両方を形成した方が、樹脂3の流れがより乱れやすくなり、気泡の核13aがより安定して発生しやすくなる。
【0023】
さらに、押出し方向において、凸部23aと凹部23bとが隣接するように気泡核生成部23を形成することで、樹脂3の流れがより乱れやすくなり、気泡の核13aがより安定して発生しやすくなる。本実施の形態では、テーパ部22aの内周面22bに、樹脂3の押出し方向に沿って、凸部23a、凹部23b、凸部23aを順次形成した凹凸部23cを形成すると共に、凹凸部23cを、テーパ部22aの内周面22bの周方向にわたって複数形成している。
【0024】
気泡核生成部23の各凹凸部23cは、気泡13発生の起点(気泡の核13aの発生位置)となる。そのため、発泡絶縁体12中で気泡13が均等に分散されるように、テーパ部22aの内周面22bの周方向において、略等間隔となるように形成されることが望ましい。
【0025】
また、ここでは、各凹凸部23cにおいて、凸部23aと凹部23bとを隣接させたが、凸部23aと凹部23bとが離間していてもよい。ただし、樹脂3の流れを乱し、気泡の核13aを安定して発生させるという観点からは、凸部23aと凹部23bとがなるべく近接して形成されていることが望ましい。
【0026】
本実施の形態では、四角柱状の凸部23aを形成すると共に、平面視で四角形状となるように凹部23bを形成したが、凸部23aや凹部23bの形状はこれに限定されるものではなく、例えば、角が丸まった形状となっていてもよい。ただし、樹脂3の流れを乱し、気泡の核13aを安定して発生させるために、緩やかな曲線を描くような形状は好ましくなく、急激に立ち上がるあるいは立ち下がるエッジ部を含むことが望ましいといえる。
【0027】
また、気泡核生成部23における、テーパ部22aの内周面22bからの凸部23aの高さと、テーパ部22aの内周面22bからの凹部23bの深さの和(以下、凹凸高さという)hは、20μm以上であることが望ましい。これは、凹凸高さhが20μm以下になると、気泡の核13aの発生が不安定となり、望ましくないためである。
【0028】
また、凹凸高さhは、発泡絶縁体12の厚みの半分以下とすることが好ましい。凹凸高さhが、発泡絶縁体12の厚みの半分を超えると、凸部23aが中心導体11と接触する等の不具合が生じる可能性があるためである。例えば、発泡絶縁体12の厚さが100μmの場合、凹凸高さhは、20μm以上50μm以下とすることが好ましい。
【0029】
気泡核生成部23の凹凸部23cにおいて、凸部23aの押出し方向の長さL1は、凹部23bの押出し方向の長さL2よりも大きくすることが望ましい。これは、凹部23bの長さL2が凸部23aの長さL1よりも長いと、気泡の核13aの発生が不安定となる場合があるためである。
【0030】
気泡核生成部23は、口金22の開口が最も狭い部分、すなわちテーパ部22aの基端部のなるべく近傍に形成されることが望ましい。これは、樹脂3の圧力が開放されていく過程で気泡の核13aが発生するためであり、例えば、樹脂3の圧力が略開放された状態となるテーパ部22aの先端部に気泡核生成部23を形成しても、安定して気泡の核13aを発生させることが困難となるためである。
【0031】
なお、気泡の核13aを安定して発生させるためには、樹脂3の流動性(粘度)ができるだけ小さい方が望ましい。例えば、樹脂3としてPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素樹脂を用いる場合、樹脂3のメルトフローレート(MFR)は50以上であることが望ましく、70以上であることがより望ましい。
【0032】
(発泡電線の製造方法)
本実施の形態に係る発泡電線の製造方法では、上述の発泡電線の製造装置1を用いて、心金21及び口金22を有する押出金型2から樹脂3を押出し発泡させて、中心導体11の外周に発泡絶縁体12を形成する方法である。
【0033】
すなわち、本実施の形態に係る発泡電線の製造方法では、口金22のテーパ部22aに、複数の凸部23a又は凹部23bの両方を形成してなる気泡核生成部23を形成しておき、気泡核生成部23で気泡の核13aを発生させつつ、気泡の核13aを樹脂の流れによって押し出し、気泡成長部としてのテーパ部22aでの樹脂圧の低下に合わせて気泡の核13aを成長させて発泡絶縁体12中の気泡13を形成する。
【0034】
気泡核生成部23で生成された気泡の核13aは、図2(c)に示したように、口金22の出口に向かって順次押し出され、気泡核生成部23にて連続的(断続的)に気泡の核13aが生成される。その結果、押し出された発泡絶縁体12の長手方向に沿って一直線状に、断続的に、均一な独立した気泡13が形成されることとなる。
【0035】
なお、押出金型2から押し出す樹脂3に窒化ホウ素等の発泡核剤を含めた場合、気泡核生成部23で生成した気泡の核13aが成長した気泡13に加え、発泡核剤を核としてランダムに気泡13が発生するようになり、発泡絶縁体12中に均一に気泡13を形成することが困難になる。よって、本実施の形態に係る発泡電線の製造方法では、押出金型2から押し出す樹脂3に発泡核剤を含まない。
【0036】
(発泡電線10の説明)
図4(a)は、本実施の形態に係る発泡電線10の長手方向に垂直な断面を示す断面図、図4(b)は図4(a)のB-B線断面図である。
【0037】
図4(a),(b)に示すように、発泡電線10は、中心導体11と、中心導体11の外周を覆う厚さ100μm以下の発泡絶縁体12と、を備え、発泡絶縁体12には、長手方向に沿って一直線状に、断続的に気泡13が形成されている。
【0038】
中心導体11は、単線導体であってもよいし、複数の金属素線を撚り合わせた撚り線導体であってもよい。また、単線導体は断面形状が円形状であってもよいし、矩形状(つまり平角導体)であってもよい。本実施の形態では、中心導体11を撚り線導体で構成した。中心導体11を撚り線導体で構成することで、曲げに対する耐久性が向上すると共に、発泡絶縁体12を形成する際に金属素線間の隙間に樹脂3が入り込み、発泡絶縁体12と中心導体11との密着性が向上する。例えば、中心導体11を単線導体とした場合、中心導体11の表面で気泡が発生して発泡絶縁体12に対して中心導体11が浮いた状態となってしまう場合があるが、中心導体11を撚り線導体とすることで、このような不具合を抑制可能である。
【0039】
図4(a),(b)では、周方向における4か所に等間隔に気泡13を形成した場合を示している。発泡絶縁体12中の気泡13の直径(最大径)は、発泡絶縁体12の厚さの50%以上60%以下であることが望ましく、また、中心導体11を中心として周方向に等間隔に4つ以上の気泡13が形成されていることがより望ましい。なお、発泡絶縁体12中の気泡13の直径は、ガスの注入圧や樹脂3の吐出量等で調整でき、周方向における気泡13の数は、気泡核生成部23における凸部23aや凹部23bの数によって調整することができる。
【0040】
本実施の形態では、樹脂3中に発泡核剤を含んでいないため、発泡絶縁体12にも、窒化ホウ素等の発泡核剤が含まれていない。
【0041】
ここで、参考のため、気泡核生成部23を有さない従来の発泡電線の製造装置を用い、発泡核剤により発泡させた従来の発泡電線を図5に示す。従来方法においては、発泡核剤を核として気泡113が発生し成長するが、発泡核剤は樹脂3中にランダムに分散されているために、気泡113の発生位置がランダムとなる。そのため、図5に示すように、従来の発泡電線100では、中心導体111の外周に設けられた発泡絶縁体112において、気泡113の位置や大きさがランダムとなってしまう。よって、特に発泡絶縁体112を薄くした場合には、長手方向において誘電率のばらつき(すなわち特性インピーダンスのばらつき)が大きくなり、高速信号を伝送させる際の伝送ロスが大きくなってしまう。図中111は、従来の発泡電線の中心導体である。
【0042】
これに対して、本実施の形態に係る発泡電線10では、発泡絶縁体12において、長手方向に断続的に気泡13が形成されているために、発泡絶縁体112を薄くした場合であっても、長手方向において誘電率のばらつき(すなわち特性インピーダンスのばらつき)を小さくし、高速信号を伝送させる際の伝送ロスを小さくすることができる。つまり、発泡電線10は、細径でありつつも、高速信号を伝送させる際の伝送ロスが小さい。
【0043】
(他の実施の形態)
図6は、本発明の他の実施の形態に係る発泡電線の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。図6に示す発泡電線10aは、図4の発泡絶縁体12の外周に、さらに、外部導体41とシース42とを備えたものであり、所謂同軸ケーブルである。
【0044】
外部導体41としては、複数の金属素線を編み組みした編組シールドや、金属素線を螺旋状に巻き付けた横巻きシールドを用いることができる。また、外部導体41は、金属箔や、樹脂フィルムの一方の面に金属層を形成した金属テープを、発泡絶縁体12の周囲に巻き付けて構成されてもよい。また、外部導体41として、銅等の金属をメッキしてなる金属メッキを用いることもできる。
【0045】
発泡電線10aによれば、発泡絶縁体12の厚さを薄くしても、発泡絶縁体12の誘電率のばらつき(すなわち特性インピーダンスのばらつき)を抑えることができるので、高速信号を伝搬させる際の伝送ロスを抑えつつ、細径な同軸ケーブルを実現できる。
【0046】
発泡電線10aは、大量のデータ送信を担うケーブル、例えば超音波診断装置に用いられるプローブケーブルに適用することができる。上述のプローブケーブルでは、同軸ケーブルを数百本束ねてケーブル化しており、この同軸ケーブルとして発泡電線10aを用いることで、プローブケーブル全体を細径化でき、曲げやすく取り扱いが容易であり、かつ小さい電送ロスで高速信号を伝搬できるプローブケーブルを実現できる。
【0047】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る発泡電線の製造装置1では、口金22は、その押出し出口に、内周面22bが押出し方向に徐々に広がるテーパ状に形成された気泡成長部としてのテーパ部22aを有し、テーパ部22aの内周面22bに、気泡核生成用の複数の凸部23a又は凹部23b又はその両方を形成してなる気泡核生成部23を有し、気泡核生成部23で気泡の核13aを発生させつつ、気泡の核13aを樹脂の流れによって押し出し、テーパ部22aでの樹脂圧の低下に合わせて気泡の核13aを成長させて発泡絶縁体12中の気泡13を形成するように構成されている。
【0048】
このように構成することで、気泡核生成部23で断続的に気泡の核13aを発生させて、発泡電線10の長手方向において、発泡絶縁体12に均一に気泡13を形成することが可能になる。その結果、発泡絶縁体12の厚さを例えば100μm以下と薄くした場合であっても、発泡絶縁体12の長手方向における誘電率のばらつきを小さくし、高速信号を伝送させる際の伝送ロスが小さい発泡電線10を製造することが可能になる。
【0049】
また、本実施の形態では発泡核剤を使用しないので、発泡核剤に起因する誘電率のばらつきを小さく抑えることができ、高速信号を伝送させる際の伝送ロスをより小さくすることが可能である。
【0050】
さらに、従来のように発泡核剤を使用した場合、気泡が大きくなりすぎて絶縁不良を起こす危険があるため、発泡絶縁体12の外周に外装材(絶縁テープ等)を設ける必要があったが、本実施の形態では、略均一な大きさの気泡を安定して形成することができるので、この様な外装材を設ける必要がなくなり、製造コストの低減に寄与する。
【0051】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0052】
[1]心金(21)及び口金(22)を有する押出金型(2)から樹脂(3)を押出し発泡させて、中心導体(11)の外周に発泡絶縁体(12)を形成する発泡電線の製造装置(1)において、前記口金(22)は、その押出し出口に、内周面(22b)が押出し方向に徐々に広がるテーパ状に形成された気泡成長部(22a)を有すると共に、前記気泡成長部(22a)の内周面(22b)に、気泡核生成用の複数の凸部(23a)又は凹部(23b)又はその両方を形成してなる気泡核生成部(23)を有し、前記気泡核生成部(23)で気泡の核(13a)を発生させつつ、気泡の核(13a)を樹脂の流れによって押し出し、前記気泡成長部(22a)での樹脂圧の低下に合わせて前記気泡の核(13a)を成長させて前記発泡絶縁体(12)中の気泡(13)を形成するように構成されている、発泡電線の製造装置(1)。
【0053】
[2]前記気泡核生成部(23)は、前記気泡成長部(22a)の内周面(22b)に、凸部(23a)と凹部(23b)の両方を形成してなる、[1]に記載の発泡電線の製造装置(1)。
【0054】
[3]前記気泡核生成部(23)は、押出し方向において、凸部(23a)と凹部(23b)とが隣接するように形成されている、[2]に記載の発泡電線の製造装置(1)。
【0055】
[4]前記気泡成長部(22a)の内周面(22b)からの凸部(23a)の高さと、前記気泡成長部(22a)の内周面(22b)からの凹部(23b)の深さの和が、20μm以上である、[2]または[3]に記載の発泡電線の製造装置(1)。
【0056】
[5]前記気泡核生成部(23)は、円周方向に複数の凸部(23a)又は凹部(23b)を等間隔に形成してなる、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の発泡電線の製造装置(1)。
【0057】
[6]心金(21)及び口金(22)を有する押出金型(2)から樹脂(3)を押出し発泡させて、中心導体(11)の外周に発泡絶縁体(12)を形成する発泡電線の製造方法において、前記口金(22)は、その押出し出口に、内周面(22b)が押出し方向に徐々に広がるテーパ状に形成された気泡成長部(22a)を有すると共に、前記気泡成長部(22a)の内周面(22b)に、気泡核生成用の複数の凸部(23a)又は凹部(23b)又はその両方を形成してなる気泡核生成部(23)を有し、前記気泡核生成部(23)で気泡の核(13a)を発生させつつ、気泡の核(13a)を樹脂の流れによって押し出し、前記気泡成長部(22a)での樹脂圧の低下に合わせて前記気泡の核(13a)を成長させて前記発泡絶縁体(12)中の気泡(13)を形成する、発泡電線の製造方法。
【0058】
[7]前記押出金型(2)から押し出す樹脂(3)は、発泡核剤を含まない、[6]に記載の発泡電線の製造方法。
【0059】
[8]中心導体(11)と、前記中心導体(11)の外周を覆う厚さ100μm以下の発泡絶縁体(12)と、を備え、前記発泡絶縁体(12)には、長手方向に沿って一直線状に、断続的に気泡(13)が形成されている、発泡電線(10)。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0061】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、気泡核生成部23として周方向に並ぶ一列の凹凸部23cを形成したが、凹凸部23cを押出し方向に複数列設けてもよい。また、テーパ部22aの内周面22bに全面にわたって凸部23aや凹部23bを形成してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…発泡電線の製造装置
10…発泡電線
11…中心導体
12…発泡絶縁体
13…気泡
13a…気泡の核
2…押出金型
21…心金
22…口金
22a…テーパ部(気泡成長部)
22b…内周面
23…気泡核生成部
23a…凸部
23b…凹部
3…樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6