IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-無アルカリガラス 図1
  • 特許-無アルカリガラス 図2
  • 特許-無アルカリガラス 図3
  • 特許-無アルカリガラス 図4
  • 特許-無アルカリガラス 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】無アルカリガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20221018BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
C03C3/091
G02F1/1333 500
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021085154
(22)【出願日】2021-05-20
(62)【分割の表示】P 2019219238の分割
【原出願日】2015-10-23
(65)【公開番号】P2021138612
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2014216174
(32)【優先日】2014-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 博文
(72)【発明者】
【氏名】秋山 順
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-184146(JP,A)
【文献】特開2012-082130(JP,A)
【文献】国際公開第2013/183626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/091
G02F 1/1333
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪点が704℃以上738℃以下であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であり、ヤング率が77~86GPaであり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO:56.0~63.8%
Al:17.0~23.0%
:2.5~5.5%
MgO:1.5~5.2%
CaO:3.5~10.0%
を含有し、
少なくともSrO若しくはBaOのいずれか一つを含有し、SrOを含有する場合は8.0%以下であり、BaOを含有する場合は8.0%以下であり、
MgO+CaO+SrO+BaOの合量が18.0%以下であり、
Na OとB との質量比(Na O/B )が0.001以上0.3以下であり、
アルカリ金属酸化物の含有量が1000質量ppm以下である無アルカリガラス。
【請求項2】
MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.10以上0.31以下である請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項3】
CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.22以上0.59以下である請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項4】
SrOを含有し、SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.06以上0.52以下である請求項1~3のいずれかに記載の無アルカリガラス。
【請求項5】
BaOを含有し、BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.08以上0.55以下である請求項1~4のいずれかに記載の無アルカリガラス。
【請求項6】
ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tが1589℃以上1786℃以下である請求項1~5のいずれかに記載の無アルカリガラス。
【請求項7】
ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tが1298℃以上1381℃以下である請求項1~6のいずれかに記載の無アルカリガラス。
【請求項8】
等価冷却速度が400℃/分以下である請求項1~7のいずれかに記載の無アルカリガ ラス。
【請求項9】
熱収縮率が90ppm以下である請求項1~のいずれかに記載の無アルカリガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ディスプレイ用基板ガラスやフォトマスク用基板ガラスとして好適な、アルカリ金属酸化物を実質上含有せず、フロート成形が可能な、無アルカリガラスに関する。以下、本明細書において、「無アルカリ」と言った場合、アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO)の含有量が1000質量ppm以下であることを意味する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種ディスプレイ用基板ガラス、特に表面に金属ないし酸化物薄膜等を形成するものでは、以下に示す特性が要求されてきた。
(1)アルカリ金属酸化物を含有していると、アルカリ金属イオンが薄膜中に拡散して膜特性を劣化させるため、アルカリ金属酸化物の含有量がきわめて低いこと、具体的には、アルカリ金属酸化物の含有量が1000質量ppm以下であること。
(2)薄膜形成工程における加熱によるガラス基板の変形、特に熱収縮が少ないこと。すなわち、熱収縮率が小さいこと。
【0003】
(3)半導体形成に用いる各種薬品に対して充分な化学耐久性を有すること。特にSiOやSiNのエッチングのためのバッファードフッ酸(BHF:フッ酸とフッ化アンモニウムの混合液)、およびITOのエッチングに用いる塩酸を含有する薬液、金属電極のエッチングに用いる各種の酸(硝酸、硫酸等)、レジスト剥離液のアルカリに対して耐久性のあること。
(4)内部および表面に欠点(泡、脈理、インクルージョン、ピット、キズ等)がないこと。
【0004】
上記の要求に加えて、近年では、以下のような状況にある。
(5)ディスプレイの軽量化が要求され、ガラス自身も密度の小さいガラスが望まれる。
(6)ディスプレイの軽量化が要求され、基板ガラスの薄板化が望まれる。
【0005】
(7)これまでのアモルファスシリコン(a-Si)タイプの液晶ディスプレイに加え、若干熱処理温度の高い多結晶シリコン(p-Si)タイプの液晶ディスプレイが作製されるようになってきた(a-Si:約350℃→p-Si:350~550℃)。
(8)液晶ディスプレイ作製熱処理の昇降温速度を速くして、生産性を上げたり耐熱衝撃性を上げるために、ガラスの平均熱膨張係数の小さいガラスが求められる。
【0006】
一方、エッチングのドライ化が進み、耐BHF性に対する要求が弱くなってきている。これまでのガラスは、耐BHF性を良くするために、Bを6~10モル%含有するガラスが多く用いられてきた。しかし、Bは歪点を下げる傾向がある。Bを含有しないまたは含有量の少ない無アルカリガラスの例としては以下のようなものがある。
【0007】
特許文献1にはBを0~3重量%含有するガラスが開示されているが、実施例の歪点が690℃以下である。
【0008】
特許文献2にはBを0~5モル%含有するガラスが開示されているが、50~350℃での平均熱膨張係数が50×10-7/℃を超える。
【0009】
特許文献1、2に記載のガラスにおける問題点を解決するため、特許文献3に記載の無アルカリガラスが提案されている。特許文献3に記載の無アルカリガラスは、歪点が高く、フロート法による成形ができ、ディスプレイ用基板、フォトマスク用基板等の用途に好適であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本国特開平4-325435号公報
【文献】日本国特開平5-232458号公報
【文献】日本国特開平9-263421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、スマートフォンのような携帯用端末などの高精細小型ディスプレイでは、高品質のp-Si TFTの製造方法としてレーザーアニールによる方法が採用されているが、商品価値の向上のため、さらなる高精細化が望まれており、そのため、さらに熱収縮率が小さいガラスが求められている。一方、ガラス製造プロセス、特にフロート成形における要請から、ガラスの粘性、特にガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tと失透温度を低くすること、さらに歪点を過度に上げ過ぎないことが求められている。
【0012】
上述したように、各種ディスプレイ用基板ガラスやフォトマスク用基板ガラスとして使用される無アルカリガラスは、熱収縮率をより小さくすることが求められている。そのためには、ガラスの主成分構成を変更して歪点を高くしたり、ガラスの冷却速度を低減させたりすることが効果的であるが、その結果、600℃80分の熱処理での熱収縮率が50ppmを切るレベルとなってくると、ガラス中の様々な不純物の影響を無視できなくなる。
【0013】
特に原料中から不可避的に混入するアルカリ成分(RO:RはLi、Na、K等のアルカリ金属元素)は、ガラス構造中での移動が速いため、熱収縮率に及ぼす影響が大きく、特にB成分を含むガラス中においては、アルカリ成分はホウ素の配位数に影響を及ぼし、ガラス構造の変化をもたらすことから、アルカリ成分とB成分との含有割合(RO/B比)は重要なパラメータである。しかしながら、従来の無アルカリガラスにおいては、RO/B比は重要視されておらず、また、B含有量が多いため、無アルカリガラスの上限として好ましいとされる例えば0.1wt%(1000ppm)の含有でも、RO/Bは約0.02以下と微量であった。
【0014】
低熱収縮ガラスを得るためにB量が少なくなってくると、この比率を低減させるためには、アルカリ成分量をさらに低減させる必要がある。アルカリ成分を極端に低減するためには、極めて高純度の原料を用いれば良いが、このような高純度の原料を用いるとコスト高となってしまい、好ましくない。一方、アルカリ成分はフラックスとして働くため初期溶解性を向上させることから、少なくしすぎると、欠点品質の低下を招く虞がある。
【0015】
また、アルカリ成分は、不純物であるため管理が困難である。そのため、変動が生じると熱収縮率にロット間でのばらつきが発生する可能性が高い。一方、近年のディスプレイの高精細化のため、ロット間のばらつきは、パネル作製工程での不良率を高める危険性があるため非常に懸念される。
【0016】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、低い熱収縮率のガラスにおいて、BHFによる問題が発生しにくく、生産性がよく、かつ熱収縮率が低い無アルカリガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、歪点が680℃以上738℃未満であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であり、失透粘性ηがlogη=3.5[dPa・s]以上であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO:57~63%
Al:18~23%
:0.2~5.5%
MgO:1~8.5%
CaO:3~12%
SrO:0~10%
BaO:1.3~5%
MgO+CaO+SrO+BaO:13~23%
を含有し、かつ、NaOを600質量ppm以下含有し、NaOとBとの質量比(NaO/B)が0.001以上0.3以下であり、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.15以上であり、CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.60以下であり、SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下であり、BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下である無アルカリガラスを提供する。
また、本発明は、歪点が680℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が35×10-7/℃超45×10-7/℃以下であり、失透粘性ηがlogη=3.5[dPa・s]以上であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO:57~63%
Al:18~23%
:0.2~5.5%
MgO:1~8.5%
CaO:3~12%
SrO:0~10%
BaO:1.3~5%
MgO+CaO+SrO+BaO:13~23%
を含有し、かつ、NaOを600質量ppm以下含有し、NaOとBとの質量比(NaO/B)が0.001以上0.3以下であり、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.15以上であり、CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.60以下であり、SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下であり、BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下である無アルカリガラスを提供する。
また、本発明は、歪点が680℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であり、失透粘性ηがlogη=3.5[dPa・s]以上であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO:57~63%
Al:18~23%
:0.2~5.5%
MgO:1~8.5%
CaO:3~12%
SrO:0~6.5%
BaO:1.3~5%
MgO+CaO+SrO+BaO:13~23%
を含有し、かつ、NaOを600質量ppm以下含有し、NaOとBとの質量比(NaO/B)が0.001以上0.3以下であり、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.15以上であり、CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.60以下であり、SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下であり、BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下である無アルカリガラスを提供する。
また、本発明は、歪点が680℃以上738℃未満であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であり、失透粘性ηがlogη=3.5[dPa・s]以上であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO:57~63%
Al:18~23%
:0.2~5.5%
MgO:1~8.5%
CaO:3~12%
SrO:0~10%
BaO:0~5%
MgO+CaO+SrO+BaO:13%以上、17%未満
を含有し、かつ、NaOを600質量ppm以下含有し、NaOとBとの質量比(NaO/B)が0.001以上0.3以下であり、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.15以上であり、CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.60以下であり、SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下であり、BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下である無アルカリガラスを提供する。
また、本発明は、歪点が680℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が35×10-7/℃超45×10-7/℃以下であり、失透粘性ηがlogη=3.5[dPa・s]以上であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO:57~63%
Al:18~23%
:0.2~5.5%
MgO:1~8.5%
CaO:3~12%
SrO:0~10%
BaO:0~5%
MgO+CaO+SrO+BaO:13%以上、17%未満
を含有し、かつ、NaOを600質量ppm以下含有し、NaOとBとの質量比(NaO/B)が0.001以上0.3以下であり、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.15以上であり、CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.60以下であり、SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下であり、BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下である無アルカリガラスを提供する。
また、本発明は、歪点が680℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であり、失透粘性ηがlogη=3.5[dPa・s]以上であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO:57~63%
Al:18~23%
:0.2~5.5%
MgO:1~8.5%
CaO:3~12%
SrO:0~6.5%
BaO:0~5%
MgO+CaO+SrO+BaO:13%以上、17%未満
を含有し、かつ、NaOを600質量ppm以下含有し、NaOとBとの質量比(NaO/B)が0.001以上0.3以下であり、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.15以上であり、CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.60以下であり、SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下であり、BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下である無アルカリガラスを提供する。
また、本発明は、歪点が680℃以上718℃以下であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であり、失透粘性ηがlogη=3.5[dPa・s]以上であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO:57~63%
Al:18~23%
:0.2~5.5%
MgO:1~8.5%
CaO:3~12%
SrO:0~6%
BaO:0~5%
MgO+CaO+SrO+BaO:13~23%
を含有し、かつ、NaOを600質量ppm以下含有し、NaOとBとの質量比(NaO/B)が0.001以上0.3以下であり、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.15以上であり、CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.28以上0.60以下であり、SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下であり、BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下である無アルカリガラスを提供する。
また、本発明は、歪点が680℃以上718℃以下であり、50~350℃での平均熱膨張係数が35×10-7/℃超45×10-7/℃以下であり、失透粘性ηがlogη=3.5[dPa・s]以上であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO:57~63%
Al:18~23%
:0.2~5.5%
MgO:1~8.5%
CaO:3~12%
SrO:0~6%
BaO:0~5%
MgO+CaO+SrO+BaO:13~23%
を含有し、かつ、NaOを600質量ppm以下含有し、NaOとBとの質量比(NaO/B)が0.001以上0.3以下であり、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.15以上であり、CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.28以上0.60以下であり、SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下であり、BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下である無アルカリガラスを提供する。
また、本発明は、歪点が680℃以上718℃以下であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であり、失透粘性ηがlogη=3.5[dPa・s]以上であり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO:57~63%
Al:18~23%
:0.2~5.5%
MgO:1~8.5%
CaO:3~12%
SrO:0~6%
BaO:0~5%
MgO+CaO+SrO+BaO:13~23%
を含有し、かつ、NaOを600質量ppm以下含有し、NaOとBとの質量比(NaO/B)が0.001以上0.3以下であり、MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.15以上であり、CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.28以上0.60以下であり、SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下であり、BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下である無アルカリガラスを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の無アルカリガラスは、特に熱収縮率が小さいことが求められる用途のディスプレイ用基板、フォトマスク用基板等に好適であり、また、フロート成形が容易なガラスである。本発明の無アルカリガラスは、磁気ディスク用ガラス基板としても使用できる。
しかも、原料中から不可避的に混入するアルカリ金属酸化物の大半を占めるNaOの含有量による熱収縮率の変動が少ないため、ロット間で熱収縮率のばらつきが発生する可能性が抑制されている。これにより、パネル作製工程での不良率を低減されることが記載される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、NaO/Bと、C/Cと、の関係を比較したグラフである。
図2図2は、ボトムゲート構造の模式図を示す。
図3図3は、例1に対して、TFTの特性試験を行った結果を示す。
図4図4は、例9に対して、TFTの特性試験を行った結果を示す。
図5図5は、例6に対して、TFTの特性試験を行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に各成分の組成範囲について説明する。SiOは54%(質量%、以下特記しないかぎり同じ)未満では、歪点が充分に上がらず、かつ、熱膨張係数が増大し、密度が上昇するため54%以上である。本発明の無アルカリガラスを、ディスプレイ用基板、フォトマスク用基板として使用する際の成形法としてフロート成形を採用する場合は、57%以上が好ましい。一方、成形法としてフュージョン成形を採用する場合は、58%以上が好ましい。
【0021】
SiOが66%超では、溶解性が低下し、ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tや10dPa・sとなる温度Tが上昇し、失透温度が上昇するため66%以下である。成形法としてフロート成形を採用する場合は、63%以下が好ましい。一方、成形法としてフュージョン成形を採用する場合は、65%以下が好ましい。
【0022】
Alはガラスの分相性を抑制し、熱膨脹係数を下げ、歪点を上げるが、10%未満ではこの効果があらわれず、また、ほかの膨張を上げる成分を増加させることになり、結果的に熱膨張が大きくなるため10%以上である。成形法としてフロート成形を採用する場合は、18%以上が好ましい。一方、成形法としてフュージョン成形を採用する場合は、14%以上が好ましい。
【0023】
Alが27%超ではガラスの溶解性が悪くなったり、失透温度を上昇させるおそれがあるため27%以下である。成形法としてフロート成形を採用する場合は、23%以下が好ましい。一方、成形法としてフュージョン成形を採用する場合は、22%以下が好ましい。
【0024】
は、ガラスの溶解反応性をよくし、失透温度を低下させ、耐BHF性を改善するが、0.2%未満ではこの効果が十分あらわれず、また、歪点が過度に高くなり、板への成形が困難となったり、BHFによる処理後にヘイズの問題になりやすいため0.2%以上である。0.3%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、1.5%以上が特に好ましい。しかし、5.5%超では歪点が低くなり、ヤング率が小さくなるため5.5%以下である。4.5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3.5%以下がさらに好ましく、3%以下がよりさらに好ましい。
【0025】
MgOは、必須ではないが、アルカリ土類の中では膨張を高くせず、かつ密度を低く維持したままヤング率を上げるという特徴を有するため、溶解性向上のために含有できる。しかし、多すぎると、失透温度が上昇するため、10%以下とする。成形法としてフロート成形を採用する場合は、1%以上が好ましい。成形法としてフロート成形を採用する場合は、8.5%以下が好ましい。一方、成形法としてフュージョン成形を採用する場合は、6%以下が好ましい。
【0026】
CaOは、必須ではないが、MgOに次いでアルカリ土類中では膨張を高くせず、かつ密度を低く維持したままヤング率を上げるという特徴を有し、溶解性も向上させるという特徴を有するため含有できる。しかし、多すぎると、失透温度が上昇したり、CaO原料である石灰石(CaCO)中の不純物であるリンが、多く混入するおそれがあるため、15%以下とする。12%以下が好ましい。上記の特徴を発揮するためには3%以上が好ましい。
【0027】
SrOは、必須ではないが、ガラスの失透温度を上昇させず溶解性を向上させるため含有できる。しかし、多すぎると、膨脹係数が増大するおそれがあるため、15%以下とする。10%以下が好ましく、6.5%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましく、5.5%以下がよりさらに好ましい。
【0028】
BaOは必須ではないが溶解性向上のために含有できる。しかし、多すぎるとガラスの膨張と密度を過大に増加させるので15%以下とする。成形法としてフロート成形を採用する場合は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。一方、成形法としてフュージョン成形を採用する場合は、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましく、4%以下がよりさらに好ましい。いずれの場合も実質的に含有しないことがより好ましい。実質的に含有しないとは、不可避的不純物を除き含有しない意味である。本発明においてBaOが実質的に含有しないとは例えば0.15%以下である。
【0029】
MgO、CaO、SrO、BaOは合量で8%よりも少ないと、光弾性定数が大きくなり、また溶解性が低下する傾向があるため8%以上である。MgO、CaO、SrO、BaOの合量は光弾性定数を小さくする目的で多く含有することが好ましいことから、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは13%以上、特に好ましくは16%以上である。25%よりも多いと、平均熱膨張係数を低くできず、歪点が低くなるおそれがあるため25%以下である。好ましくは22%以下、さらに好ましくは20%以下である。
【0030】
成形法としてフロート成形を採用する場合、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量が上記を満たし、より好ましくは13~23%を満たし、かつ、下記の条件を満たすことにより、失透温度を上昇させることなしに、ヤング率、比弾性率を上昇させ、さらにガラスの粘性、特にTを下げることができる。
MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.15以上、好ましくは0.20以上、より好ましくは0.25以上。
CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.60以下、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.50以下。
SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.50以下。
BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.40以下。
【0031】
成形法としてフュージョン成形を採用する場合、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量が上記を満たし、より好ましくは8~22%を満たし、かつ、下記の条件を満たすことが好ましい。
MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.25以下、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.15以下。
CaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.20以上、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.40以上。
SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.50以下、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.40以下。
BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.70以下、好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下。
【0032】
なお、本発明のガラスは、ガラスのリサイクルを容易にするため、PbO、As、Sbは実質的に含有しないことが好ましい。
【0033】
さらに同様の理由で、P含有量は実質的に含有しないことが好ましい。不純物としての混入量は80質量ppm以下が好ましく、70質量ppm以下がより好ましく、60質量ppm以下がさらに好ましく、50質量ppm以下が特に好ましい。
【0034】
本発明のガラスでは、原料不純物等からアルカリ金属酸化物が不可避的に含有され、また、溶解性を向上させるためにごく微量のアルカリ金属酸化物の含有は許容される。しかしながら、アルカリ金属酸化物の含有量が多すぎる場合、TFT素子中へのアルカリイオンの移動が顕著となり、トランジスタ特性が不安定になったり、信頼性が失われたりするため、その含有量については適切な範囲に抑える必要がある。
【0035】
原料中から不可避的に混入するアルカリ金属酸化物の大半を占めるのはNaOであるため、本発明では、NaOの含有量に着目した。本発明のガラスは、NaOの含有量が600質量ppm以下であり、好ましくは600質量ppm未満であり、より好ましくは500質量ppm以下であり、さらに好ましくは400質量ppm以下であり、さらに好ましくは300質量ppm以下である。特に好ましくは200ppm以下、最も好ましくは150ppm以下である。
【0036】
但し、原料中から不可避的に混入するアルカリ金属酸化物として、NaO以外の成分(たとえば、KO)を有意に含有する場合(たとえば、これらの成分を100質量ppm以上含有する場合)は、NaO以外の成分を含めたアルカリ金属酸化物の合計含有量が、700質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは700質量ppm未満であり、さらに好ましくは600質量ppm以下であり、さらに好ましくは500質量ppm以下であり、さらに好ましくは400質量ppm以下である。特に好ましくは300ppm以下、最も好ましくは200ppm以下である。
【0037】
一方、また、ガラス中のアルカリ金属酸化物は、フラックスとして作用して初期溶解性を向上させることから、アルカリ金属酸化物の含有量が少なすぎると、製造されるガラスの欠点品質の低下を招くおそれがある。本発明のガラスは、NaOの含有量が50質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは100質量ppm以上である。
【0038】
本発明のガラスは、耐BHF性を高めるために、Bを所定量含有させるが、本願発明者らは、このようなガラスにおいて、原料中から不可避的に混入するアルカリ金属酸化物の大半を占めるNaOと、Bと、の比率を最適化することにより、ガラスの溶解性と低熱収縮性を両立させることができることを見出した。これは以下のように考えられる。
【0039】
熱収縮現象は、ガラスのガラス転移温度(T)付近において生じる構造緩和に起因する。Bを含むガラスは、T以上で結合が変化しやすいため、仮想温度による構造変化が大きく、そのため、熱収縮が生じやすいと考えられる。このようなガラスに微量のアルカリイオンが添加されると、アルカリイオンはホウ素を4配位に変化させやすい。また、アルカリイオンは拡散係数が大きいため、アルカリ土類イオンと比較して移動しやすい。そのため、アルカリイオンがホウ素量に対して過剰な場合には、構造変化の速度を増大させ、その結果、熱収縮が大きくなる。アルカリ金属酸化物の大半を占めるNaOと、Bと、の質量比(NaO/B)が0.3超であると、この効果が大きくなり、熱収縮率は不必要に大きくなってしまう。
【0040】
以上の理由により、NaO/Bについては、0.3以下であり、0.2以下が好ましく、0.12以下がより好ましく、0.08以下がさらに好ましく、0.06以下がさらに好ましく、0.04以下がより好ましい。NaO/Bが小さすぎる場合には初期溶解性が低減し品質の低下が生じるおそれがあるため、0.001以上である。好ましくは0.002以上であり、0.003以上がより好ましく、0.005以上が特に好ましい。
【0041】
本発明の無アルカリガラスはB含有量が所定量であるが、B含有量が所定量の範囲だと、NaO/Bによる熱収縮率の変動が少ない。NaOは原料中から不可避的に混入するため、NaO含有量を厳密に制御することは困難である。本発明の無アルカリガラスは、NaO/Bによる熱収縮率の変動が少ないため、原料中から不可避的に混入するNaOの含有量による熱収縮率の変動が少ない。そのため、ロット間で熱収縮率のばらつきが発生する可能性が抑制される。
【0042】
さらに本発明において、Bが少なくなるほど、ガラス表面からTFT等の相手部材側へアルカリイオンが拡散しやすくなることを本発明者らは発見した。すなわち、Bの含有量に対するアルカリイオンの含有量を小さくすることで、TFT素子中へのアルカリイオンの拡散を抑制し、TFT素子の特性を高めることができることを本発明者らは見出した。この効果を十分に得る為には、NaO/Bは0.06未満が好ましく、0.05以下がより好ましく、0.04以下がさらに好ましく、0.02以下がよりさらに好ましく、0.01以下が特に好ましく、0.008以下が最も好ましい。
【0043】
本発明の無アルカリガラスは上記成分以外にガラスの溶解性、清澄性、成形性(フロート成形性)を改善するため、ZnO、Fe、SO、F、Cl、SnOを総量で好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下含有できる。ZrO、ZnOは、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0044】
本発明の無アルカリガラスは、歪点が680℃以上である。本発明の無アルカリガラスは、歪点が680℃以上であるため、パネル製造時の熱収縮を抑えられる。また、p-Si TFTの製造方法としてレーザーアニールによる方法を適用することができる。685℃以上がより好ましく、690℃以上がさらに好ましい。
【0045】
本発明の無アルカリガラスは、歪点が680℃以上であるため、高歪点用途(例えば、板厚0.7mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下の薄板のディスプレイ用基板または照明用基板等)に適している。これら薄板ガラスの成形では、成形時の引き出し速度が速くなる傾向があるため、ガラスの仮想温度が上昇し、ガラスの熱収縮率が増大しやすい。この場合、本発明の高歪点ガラスであると、熱収縮率を抑制することができる。
【0046】
一方、本発明の無アルカリガラスは、歪点が好ましくは780℃以下である。無アルカリガラスの歪点が高過ぎると、それに応じて成形装置の温度を高くする必要があり、成形装置の寿命が低下する傾向がある。このため、本発明の無アルカリガラスは歪点が750℃以下がより好ましく、740℃以下がさらに好ましく、730℃以下が特に好ましい。
【0047】
また本発明の無アルカリガラスは、歪点と同様の理由で、ガラス転移点が好ましくは730℃以上であり、より好ましくは740℃以上であり、さらに好ましくは750℃以上である。また、840℃以下が好ましく、820℃以下がさらに好ましく、800℃以下が特に好ましい。
【0048】
また本発明の無アルカリガラスは、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であり、耐熱衝撃性が大きく、パネル製造時の生産性を高くできる。本発明の無アルカリガラスにおいて、50~350℃での平均熱膨張係数は好ましくは35×10-7/℃以上である。50~350℃での平均熱膨張係数は好ましくは43×10-7/℃以下、より好ましくは41×10-7/℃以下、さらに好ましくは40×10-7/℃以下である。
【0049】
さらに、本発明の無アルカリガラスは、比重が好ましくは2.70以下であり、より好ましくは2.65以下であり、さらに好ましくは2.60以下である。
【0050】
また、本発明の無アルカリガラスは、粘度が10dPa・sとなる温度Tが1800℃以下であり、好ましくは1750℃以下、より好ましくは1700℃以下、さらに好ましくは1680℃以下、特に好ましくは1670℃以下になっているため溶解が比較的容易である。
【0051】
さらに、本発明の無アルカリガラスは粘度が10dPa・sとなる温度Tが1350℃以下であり、好ましくは1325℃以下、より好ましくは1300℃以下、さらに好ましくは1300℃未満、1295℃以下、1290℃以下であり、フロート成形に好ましい。
【0052】
また、本発明の無アルカリガラスは失透温度が、1300℃以下であることがフロート法による成形が容易となることから好ましい。より好ましくは1300℃未満、さらに好ましくは1290℃以下、最も好ましくは1280℃以下である。また、フロート成形性やフュージョン成形性の目安となる温度T(ガラス粘度が10dPa・sとなる温度、単位:℃)と失透温度との差(T-失透温度)は、好ましくは-20℃以上、より好ましくは-10℃以上、さらに好ましくは0℃以上、よりさらに好ましくは10℃以上、特に好ましくは20℃以上、最も好ましくは30℃以上である。
【0053】
本明細書における失透温度は、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の光学顕微鏡観察によって、ガラスの表面及び内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との平均値である。
【0054】
また、本発明の無アルカリガラスは、成形法としてフロート成形を採用する場合、失透粘性η[dPa・s]がlogη=3.5以上であることが好ましい。
本明細書における失透粘性ηとは、失透温度における粘性値である。
一方、成形法としてフュージョン成形を採用する場合、失透粘性ηがlogη=4.5[dPa・s]以上であることが好ましい。
【0055】
また、本発明の無アルカリガラスは、ヤング率は78GPa以上が好ましく、79GPa以上、80GPa以上、さらに81GPa以上がより好ましく、82GPa以上がさらに好ましい。
【0056】
また、本発明の無アルカリガラスは、光弾性定数が31nm/MPa/cm以下であることが好ましい。液晶ディスプレイパネル製造工程や液晶ディスプレイ装置使用時に発生した応力によってガラス基板が複屈折性を有することにより、黒の表示がグレーになり、液晶ディスプレイのコントラストが低下する現象が認められることがある。光弾性定数を31nm/MPa/cm以下とすることにより、この現象を小さく抑えることができる。好ましくは30nm/MPa/cm以下、より好ましくは29nm/MPa/cm以下、さらに好ましくは28.5nm/MPa/cm以下、特に好ましくは28nm/MPa/cm以下である。
【0057】
また、本発明の無アルカリガラスは、他の物性確保の容易性を考慮すると、光弾性定数が好ましくは21nm/MPa/cm以上、より好ましくは23nm/MPa/cm以上、さらに好ましくは25nm/MPa/cm以上である。なお、光弾性定数は円盤圧縮法により測定波長546nmにて測定できる。
【0058】
本発明の無アルカリガラスは、例えば次のような方法で製造できる。通常使用される各成分の原料を目標成分になるように調合し、これを溶解炉に連続的に投入し、1500~1800℃に加熱して溶融する。この溶融ガラスをフロート法またはフュージョン法により所定の板厚に成形し、徐冷後切断することによって板ガラスを得ることができる。
本発明のガラスは、比較的溶解性が低いため、各成分の原料として下記を用いることが好ましい。
【0059】
また、本発明の無アルカリガラスは、熱処理時の収縮量が小さいことが好ましい。液晶パネル製造においては、アレイ側とカラーフィルター側では熱処理工程が異なる。そのため、特に高精細パネルにおいて、ガラスの熱収縮率が大きい場合、嵌合時にドットのずれが生じるという問題がある。
【0060】
なお、熱収縮率の評価は次の手順で測定できる。試料をガラス転移点+100℃の温度で10分間保持した後、毎分40℃で室温まで冷却する。ここで試料の全長Lを計測する。その後、100℃/時で600℃まで加熱し、600℃で80分間保持し、100℃/時で室温まで冷却し、再度試料の全長Lを計測する。
【0061】
ここで、熱収縮率C(ppm)は、以下の式で求めることができる。
C=(L-L)/L×10
【0062】
上記評価方法において、熱収縮率は好ましくは90ppm以下、より好ましくは80ppm以下、さらに好ましくは70ppm以下さらには60ppm以下、特に好ましくは50ppm以下である。
【0063】
本発明の無アルカリガラスは、低熱収縮率性を向上させるための製造方法を取り入れることができる。具体的には、例えば、等価冷却速度を400℃/分以下とする。ここで、等価冷却速度の定義ならびに評価方法は以下のとおりである。
【0064】
10mm×10mm×1mmの直方体に加工したガラスを、赤外線加熱式電気炉を用い、Tg+120℃にて5分間保持し、その後、ガラスを室温(25℃)まで冷却する。このとき、冷却速度を1℃/分から1000℃/分の範囲で複数のガラスサンプルを作製する。
島津デバイス社製KPR2000を用いて、これらのサンプルのd線(波長587.6nm)の屈折率nを、Vブロック法により測定する。得られたnを、前記冷却速度の対数に対してプロットすることにより、前記冷却速度に対するnの検量線を得る。
次に、実際に生産ラインにて溶解、成形、冷却等の工程を経て製造されたガラスのnを、上記測定方法により測定する。得られたnに対応する対応冷却速度(本発明において等価冷却速度という)を、前記検量線より求める。
【0065】
本発明の無アルカリガラスは、ガラス基板上に作製されたTFTのトランジスタ特性や信頼性をより高めることが可能となる。ガラス基板上に作製されたTFTの特性については、本発明では下記の手順で評価できる。
【0066】
(TFTの作製方法)
図2に示すボトムゲート構造でかつトップコンタクト型のTFT10の製造方法を一例に挙げて説明する。まず、ガラス基板11の一方の主面上にゲート電極12を成膜する。成膜後、必要に応じてフォトリソグラフィーおよびエッチング法またはリフトオフ法等により所定の形状にパターンニングする。これにより、ゲート電極12が形成される。ゲート電極12は高い導電性を有することが好ましく、例えば、Al、Moなどの金属を用いることができる。
【0067】
ゲート電極12の形成後、ゲート電極12上およびガラス基板11の露出面上にゲート絶縁層13を形成する。成膜後、必要に応じて、フォトリソグラフィーおよびエッチング法またはリフトオフ法等により所定の形状にパターンニングする。これにより、ゲート絶縁層13が形成される。ゲート絶縁層13は、高い絶縁性を有するものが好ましく、例えば、SiO、SiNxなどを用いることができる。
【0068】
ゲート絶縁層13の形成後、ゲート絶縁層13上で、かつゲート電極12と対向する位置に半導体膜からなる活性層14を形成する。活性層14にはアモルファスシリコンやポリシリコン、またIn-Ga-Zn-O等の酸化物半導体などを用いることができる。
【0069】
成膜後、必要に応じて、フォトリソグラフィーおよびエッチング法またはリフトオフ法等により所定の形状にパターンニングする。その後、適宜、電気抵抗率等を調整するための熱処理を行ってもよい。活性層14の形成後、活性層14上およびゲート絶縁層13の露出面上にソース電極15およびドレイン電極16を形成する。ソース電極15及びドレイン電極16は高い導電性を有することが好ましく、例えば、Al、Moなどの金属を用いることができる。
【0070】
成膜後、必要に応じて、フォトリソグラフィーおよびエッチング法またはリフトオフ法等によって所定の形状にパターンニングする。これにより、ソース電極15、ドレイン電極16が形成される。ゲート電極12、ゲート絶縁層13、活性層14、ソース電極15およびドレイン電極16は湿式法や乾式法により形成される。湿式法の例としてはコーティング法、乾式法の例としてはスパッタリング法が挙げられる。
【0071】
(TFT特性の評価方法)
上記の手法で作製したガラス基板上TFTに対して、本発明では半導体パラメータアナライザを用いて電流-電圧測定を行う事により、TFTの特性を評価することができる。半導体パラメータアナライザにより電流-電圧測定を行うと、TFTの閾値電圧Vthが求まる。これに対し、ゲート電極とソース、ドレイン電極間に所定時間バイアス電圧Vgsを印加した後、再度電流-電圧測定を行うと、閾値電圧Vthのシフトが観測される。この閾値電圧シフト量ΔVthの大小を評価することにより、TFTの特性を評価できる。即ち、ΔVthが小さいほど特性の高いTFTであると言える。本発明において、TFT特性が高いとは、TFTの信頼性が高い意味を含む。
【0072】
なお特性試験を行うと、ガラス基板からの影響の有無に関わらずある程度のVthシフトが観測される。この原因は半導体層からゲート絶縁膜への電子の注入とトラッピング、及び半導体膜中の局在電位の増加とされている。これは正バイアス、即ちソース、ドレイン電極に対してゲート電極に正のバイアス電圧を印加した際には正方向のVthシフト、負のバイアスを印加した際には負のVthシフトとして観測される。
【0073】
一方でガラス基板が原因となってVthがシフトする機構としては、ゲート電極とソース、ドレイン電極間への電圧印加により、ガラス基板からNaなどのアルカリ金属がTFT層に拡散し、ソースとドレインの間に局在することにより、TFTの空乏層幅が変化する為だと考えられる。
【0074】
なお特性試験を行う際は、TFTを所定の温度まで加熱した状態で試験を行う事も出来る。この場合はアルカリ金属の拡散速度が増加する為、より高負荷条件での特性試験を行うこととなる。
【0075】
本発明における閾値電圧VthはTFTにおいて次のように定義される立ち上がり電圧Vonを用いた。すなわち、TFTの電流-電圧測定においてソース、ドレイン間電流Idsが特定の値Ids0を超えるゲート電圧VgsをVonとする。Ids0はW/L比(チャネル幅のチャネル長に対する比)やVonの測定上の都合に応じて任意に選ぶことができる。本発明ではIds0=1×10-9のときの立ち上がり電圧Vonを閾値電圧Vthとした。また、Vthはこの方法に限らず、例えば√Ids-Vgs法などを用いて求めてもよい。
【実施例
【0076】
以下において例1~3、9、11、13、15、17、19、21、23~32は実施例、例4~8、10、12、14、16、18、20、22は比較例である。
各成分の原料を目標組成になるように調合し、白金坩堝を用いて1550~1650℃の温度で溶解した。溶解にあたっては、白金スターラを用い撹拌しガラスの均質化を行った。次いで溶解ガラスを800℃に加熱した型に流し込み、Tgより100℃高い温度から室温まで40℃/分にてガラスを冷却し、板状のガラスを得た。
【0077】
表1~4には、ガラス組成(単位:質量%)と、上記に記載の物性値ならびに上記に記載の手順で測定した熱収縮率を示した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
表1~4から明らかなように、B含有量が5.5%超の例5~8とNaOが600ppm超の例4、10、12、14、16、18、20、22、23~32は、熱収縮率が90ppmより大きいものであった。また、NaO/Bに従って熱収縮率が増大した。一方、B含有量が0.2~5.5%であり、NaOの含有量が600ppm以下であり、NaO/Bが0.001以上0.3以下の例1~例3、9、11、13、15、17、19、21では、NaO/Bに従って熱収縮率が増大するが、いずれも90ppm以下であった。
【0083】
図1は、NaO/Bと、熱収縮率と、の関係を示したグラフである。但し、熱収縮率Cは、最小二乗法により得られた回帰直線を0に外挿した値をCとし、個々のガラスの熱収縮率をCで除したもの(C/C)を示した。このプロットは、NaO/Bによる熱収縮率の変動を示している。図1に示されたように、B含有量が0.2~5.5%の例1~4は、B含有量が5.5%超の例5~8に対して、熱収縮率の変動を示す直線の傾きが約1/2となっている(但し、例4はNaOが600ppm超である面で比較例である)。したがって、本発明の無アルカリガラスは、原料中から不可避的に混入するアルカリ金属酸化物の大半を占めるNaOの含有量による熱収縮率の変動が低減され、熱収縮率も低減される。
【0084】
図3、4、5は、例1,9,6に対して、TFTの特性試験を行った結果である。ガラス基板は上記手順で作製した板状のガラスを40mm角、厚さ0.5mmに加工したものを用いた。TFTの作製は上記の方法で行った。ゲート電極には膜厚100nmのMo、ゲート絶縁膜には膜厚200nmのSiO、半導体層には膜厚35nmのIn-Ga-Zn-O、ソース、ドレイン電極には膜厚100nmのMoを用いた。
【0085】
ソース、ドレイン電極幅、即ちチャネル幅は300μm、ソース、ドレイン電極間隔、即ちチャネル長は50μmのものを形成した。TFTの特性評価は上記の方法で行った。半導体パラメータアナライザには、キーサイトテクノロジー社製B1500Aを用いた。電流-電圧測定は、大気圧、大気雰囲気下、70℃、遮光環境下で、ソース、ドレイン間電圧Vdsを10Vでゲート電圧Vgsを-10Vから20Vまで変化させた際のドレイン電流Idsを観察した。また、ソース、ドレイン電極に対してゲート電極に10Vの正バイアス電圧Vgsを0秒、3000秒、7000秒印加した後に電流-電圧測定を行い、閾値電圧Vthのシフトの有無を観察した。
【0086】
図3から明らかなように、NaO/Bが0.001以上0.06未満の例1は、Vthのシフト量が小さく、また正のバイアス電圧印加に対してVthが正方向にシフトしており、TFTが高い特性を有していることが分かる。
【0087】
一方で図4から、NaO/Bが0.06以上の例9に関しては、Vthが負方向にシフトしており、特性試験によってアルカリイオンがTFT中に拡散し、図3と比較してTFT側に影響を及ぼしやすい方向であるものと考えられる。
【0088】
また図5から明らかな様に、例6はNaOが例9と同じであるが、NaO/Bが0.001以上0.06未満である為、TFTが高い特性を有している。このことから、ガラス基板上に作製されたTFTの特性を高める為には、単にNaOを減らすのではなく、特にBが5.5%以下において、NaO/Bを小さくすることが有効である。
【0089】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2014年10月23日付で出願された日本特許出願(特願2014-216174)に基づいており、その全体が引用により援用される。
図1
図2
図3
図4
図5