(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】防汚層付きガラス板
(51)【国際特許分類】
G09F 9/00 20060101AFI20221018BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20221018BHJP
G02B 1/111 20150101ALI20221018BHJP
C03C 17/42 20060101ALI20221018BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
G09F9/00 313
G09F9/00 302
G02B1/18
G02B1/111
C03C17/42
C03C15/00 Z
(21)【出願番号】P 2021118173
(22)【出願日】2021-07-16
(62)【分割の表示】P 2020006102の分割
【原出願日】2016-08-01
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2015158418
(32)【優先日】2015-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健輔
【審査官】小野 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-266291(JP,A)
【文献】特開2014-224979(JP,A)
【文献】特開2014-047109(JP,A)
【文献】特開2012-031494(JP,A)
【文献】特開2013-242725(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0140291(US,A1)
【文献】国際公開第2013/089178(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/119453(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 9/00-46
G02F 1/13-1/141
1/15-1/19
G02B 1/18
G02B 1/111
C03C 17/42
C03C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の主面と、前記第一の主面に向かい合う第二の主面と、前記第一の主面および前記第二の主面を接続する端面とを有するガラス板と、
前記ガラス板の前記第一の主面から前記端面にわたって形成される密着層と、
前記密着層上に形成される防汚層とを備え、
前記第二の主面の周縁部には、印刷層がさらに形成され、前記ガラス板は化学強化されており、
前記密着層および前記防汚層がさらに前記ガラス板の前記第二の主面側の最表面の外周の少なくとも一部にわたって配設され、
前記密着層および前記防汚層が前記印刷層の内周の外側かつ前記印刷層の外周の内側に存在する、ことを特徴とする、防汚層付きガラス板。
【請求項2】
前記防汚層には、含フッ素有機基が存在する、請求項1に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項3】
前記防汚層は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物の硬化物からなる、請求項1または2に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項4】
前記密着層の最表層は、酸化ケイ素からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項5】
前記端面上で、前記密着層及び前記防汚層の少なくとも一方が、まだら状に配置されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項6】
前記第一の主面は、凹凸形状を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項7】
前記第一の主面の表面粗さRMSが0.01μm以上0.5μm以下である、請求項6に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項8】
前記凹凸形状の凹部分は円形状の孔である、請求項6または7に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項9】
前記円形状の孔の直径は1μm以上10μm以下である、請求項8に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項10】
前記凹凸形状は、フロスト処理により形成される、請求項6~9のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項11】
前記第一の主面および前記第二の主面は、圧縮応力が残留する表面層を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項12】
前記ガラス板と前記防汚層の間に低反射膜を有し、
前記低反射膜は波長550nmでの屈折率が1.9以上の高屈折率層と、波長550nmでの屈折率が1.6以下の低屈折率層とを積層した構成であり、前記低反射膜の最表層は酸化ケイ素からなり、前記低反射膜は、密着層として機能する請求項1~11のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項13】
前記高屈折率層を構成する材料は、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、窒化ケイ素から選択される1種以上の材料からなり、前記低屈折率層を構成する材料は、酸化ケイ素、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料、SiとAlとの混合酸化物を含む材料から選択される1種以上の材料からなる、請求項12に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項14】
前記防汚層の厚さは、2nm以上20nm以下である請求項2~13のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項15】
前記含フッ素有機基は、パーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基である、請求項
2に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項16】
前記ガラス板は、面取りされている、請求項1~15のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項17】
前記面取りは、C面取りである、請求項16に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項18】
前記ガラス板の厚さは、0.5mm以上3mm以下である、請求項1~17のいずれか1項に記載の防汚層付きガラス板。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の防汚層付きガラス板
と、前記第二の主面の側に配置される表示部とを備える表示装置であって、
前記第二の主面における前記印刷層より内側の前記印刷層を有しない部分が、前記表示部の上に位置するように配置され、前記表示部の周縁部が前記印刷層と重なりあい、
前記密着層および前記防汚層が、前記印刷層の外周から、前記表示部の周縁部が前記印刷層と重なりあう部分よりも外側の領域までに形成されることを特徴とする、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚層付きガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、タブレットPC、カーナビゲーション装置等の携帯機器に用いられるタッチパネルや保護パネルには、ガラス基板が多く使用されるようになってきている。このようなガラス基板については、強度の高いことが求められる。
【0003】
また、タッチパネルは、使用時に人間の指が触れるため、指紋、皮脂、汗等による汚れが付着しやすい。そのため、人間の指が触れる部分に、撥水・撥油性を備える防汚層が形成される。
【0004】
特許文献1には、トラックパッド用カバーガラスにおいて、ガラス基板の端面に防汚コート層が形成されることで、印刷時にガラス基板のマイクロクラックの発生を防止し得ることが記載されている。
【0005】
また、特許文献1の方法では、テクスチャを形成されていない側の主表面上に形成された防汚コート層に対して、防汚コート面改質処理を施すことで、防汚コート層上に直接印刷を行うことを可能とし、印刷により形成される印刷層の付着性を向上させる。
【0006】
しかしながら、上記した方法では、防汚コート層のガラス基板への密着性が低く、充分な防汚性を得られないという課題があった。また、防汚コート層のガラス基板への密着性が低いことにより、特に、カバーガラスの端面において、割れにつながるマイクロクラックに起因する強度の低下が起こりやすいという課題があった。
【0007】
さらに、上記した方法では、防汚コート層の形成後、テクスチャを形成されていない側の面をさらに処理する工程が加わるため、生産性や、携帯機器などへの組み付けの工程等における加工性(以下「後加工性」という。)が低いという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記した課題を解決するためになされたものであって、優れた防汚性を備えるとともに、特に端面において、成長して割れの起点となりうるマイクロクラック(以降、単にマイクロクラックともいう)の発生を抑制することで高い強度を有し、後加工性の良好な防汚層付きガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の防汚層付きガラス板は、第一の主面と、前記第一の主面に向かい合う第二の主面と、前記第一の主面および前記第二の主面を接続する端面とを有するガラス板と、前記ガラス板の前記第一の主面から前記端面にわたって形成される密着層と、前記密着層上に形成される防汚層とを備える。
【0011】
本発明の防汚層付きガラス板において、前記第二の主面の周縁部に形成される印刷層をさらに備えることが好ましい。また、前記密着層および前記防汚層がさらに前記ガラス板の前記第二の主面側の最表面の外周にわたって配設されることが好ましい。
【0012】
本発明の防汚層付きガラス板において、前記密着層および前記防汚層が前記印刷層の内周の外側かつ前記印刷層の外周の内側に存在することが好ましい。
【0013】
本発明の防汚層付きガラス板において、前記防汚層は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物の硬化物からなることが好ましい。また、前記密着層の最表層は、酸化ケイ素からなることが好ましい。また、前記第一の主面は、凹凸形状を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の防汚層付きガラス板によれば、優れた防汚性を備えるとともに、特に端面において高い強度を有し、後加工性の良好な防汚層付きガラス板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の防汚層付きガラス板を概略的に示す断面図である。
【
図2】印刷層を備える防汚層付きガラス板を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図2に示す防汚層付きガラス板の平面図である。
【
図4】印刷層を備える防汚層付きガラス板を表示装置に組み付けた状態を概略的に示す断面図である。
【
図5】
図4に示す防汚層付きガラス板の平面図である。
【
図6】防汚層を形成するための装置の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
[防汚層付きガラス板]
図1は、第1の実施形態の防汚層付きガラス板1を概略的に示す断面図である。
図1に示す防汚層付きガラス板1は、相互に向かい合う第一の主面2および第二の主面3と、第一の主面2および第二の主面3を接続する端面4とを有するガラス板5を備えている。さらに、防汚層付きガラス板1は、ガラス板5の第一の主面2から端面4にわたって、第一の主面2上および端面4上に形成される密着層6と、密着層6上に形成される防汚層7とを備えている。
【0018】
実施形態の防汚層付きガラス板1において、ガラス板5の形状は、第一の主面2と、第一の主面2に向かい合う第二の主面3と、端面4とを有するものであれば特に限定されない。例えばガラス板5の第一の主面2の形状は、四角形状の他、円状、楕円状等の形状であってもよく、目的に応じて所望の形状に成形されていてもよい。また、端面4は、第一の主面2および第二の主面3の外周側に備えられる態様に限定されない。ガラス板5は第一の主面2から第二の主面3を貫通する穴を有していてもよく、この場合、当該穴において第一の主面2と第二の主面3を接続している面が端面4を構成する。なお、この場合の穴の形状についても特に限定されない。
【0019】
密着層6は、密着層形成材料を用いて形成され、防汚層7とガラス板5との間に密着性を付与する。密着層6は、防汚層7とガラス板5との間に密着性を付与する構成であれば特に限定されず、単一の層で構成されていてもよく、複数の層からなる多層構造であってもよい。密着層6としては、最表層が酸化ケイ素からなる層が好ましい。酸化ケイ素からなる層は、その表面に水酸基を備える。そのため、後述するように、防汚層形成材料として、例えばフッ素加水分解性ケイ素化合物を用いた場合、酸化ケイ素からなる層と防汚層との間にシロキサン結合による接着点数が多くなり、防汚層7と密着層6の強固な密着性を得られると考えられる。このようにして、防汚層7は、密着層6を介してガラス板5上に良好な密着性をもって形成される。密着層6は、密着性向上の点で、スパッタリングにより形成されることが好ましい。
【0020】
防汚層7は、撥水性や撥油性を有することで防汚性を発揮するものであり、防汚層形成材料を用いて形成される。防汚層7の形成方法は特に限定されず、湿式法や蒸着法を用いることができる。防汚層7の形成方法は、防汚性を向上させる点で、蒸着法を用いることが好ましい。
【0021】
防汚層形成材料としては、例えば、後述するように、フッ素加水分解性ケイ素化合物が用いられる。蒸着法の場合、防汚層7は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物が密着層6の表面で以下のように加水分解縮合反応して形成される。本明細書において、含フッ素加水分解性ケイ素化合物とは、ケイ素原子に加水分解可能な基または原子が結合した加水分解性シリル基を有し、さらにそのケイ素原子に結合する含フッ素有機基を有する化合物をいう。なお、ケイ素原子に結合して加水分解性シリル基を構成する加水分解可能な基または原子を併せて、「加水分解性基」という。
【0022】
すなわち、含フッ素加水分解性ケイ素化合物の加水分解性シリル基が、加水分解によりシラノール基となり、さらにこれらが分子間で脱水縮合して-Si-O-Si-で表されるシロキサン結合を生成することで、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成される。含フッ素有機ケイ素化合物被膜において、シロキサン結合のケイ素原子に結合する前記含フッ素有機基のほとんどは、密着層6側の被膜表面付近に存在し、この含フッ素有機基の作用により、撥水性や撥油性の発現が可能となる。この際、シラノール基は、防汚層7が形成される被成膜面である密着層6の防汚層7側の表面、好ましくは酸化ケイ素からなる層の表面の水酸基と、脱水縮合反応により化学結合して、シロキサン結合を介して接着した点を形成する。このように、防汚層付きガラス板1において、防汚層7が密着層6を介してガラス板5に強固に付着されているため、防汚層付きガラス板1は優れた防汚性を有する。
【0023】
本実施形態の防汚層付きガラス板1において、密着層6および防汚層7は、ガラス板5の第一の主面2から端面4にわたってその順に備えられる。防汚層付きガラス板1においては、端面4の表面が、密着層6を介して密着された防汚層7によって保護されることで、特に端面4における割れの起点となりうるマイクロクラックの発生を抑制できると考えられる。そのため、防汚層付きガラス板1が高い強度を有する。
【0024】
この際、密着層6および防汚層7の配設される領域は、ガラス板5の第一の主面2および端面4の表面全体が、密着層6および防汚層7によって隙間なく覆われた態様に限定されず、隙間なく覆われた態様と同等の効果を奏する範囲内で、密着層6または防汚層7を備えない部分が存在していてもよい。防汚層付きガラス板1において、第一の主面2に対しては、主として、防汚性に優れることが求められる。そのため、密着層6および防汚層7は、第一の主面2の表面の略全体に形成されることが好ましい。また、特に端面4においては、防汚層付きガラス板1の強度を向上させるために、主として、割れの起点となりうるマイクロクラックの発生が抑制されることが求められる。このため、端面4上には、このようなマイクロクラックの発生が抑制される程度に、密着層6および防汚層7が形成されていればよい。
【0025】
例えば、後述するように密着層6および防汚層7の形成方法によっては、第一の主面2および端面4上に、密着層6または防汚層7の備えられない部分が形成されることがあるが、このような場合であっても、密着層6および防汚層7が、それぞれの機能を発揮し得る態様で、第一の主面2および端面4上の大部分に備えられていればよい。第一の主面2および端面4上で、密着層6または防汚層7を備えない部分が存在する場合、当該部分は、密着層6および防汚層7の両者を備えない部分であってもよく、いずれか一方を備えない部分であってもよい。
【0026】
また、密着層6および防汚層7の厚さは、それぞれ、これらが備えられる領域において均一であることが好ましいが、これに限定されない。密着層6および防汚層7の厚さは、それぞれの機能を発揮し得る態様であれば、均一でなくてもよい。例えば、防汚層付きガラス板1が携帯電話、テレビ、PC、カーナビゲーション装置等の表示装置に組み付けられた際の、表示部の視認性を向上させる観点で、第一の主面2上では、密着層6および防汚層7の厚さは均一であることが好ましい。これに対し、端面4上では、上記したように、マイクロクラックの発生が抑制される程度の厚さで、密着層6および防汚層7が形成されていればよい。
【0027】
ここで、例えば、第二の主面3側に、例えば、キャリア基板を備え付けた状態で、ガラス板5に、密着層6をスパッタリングで形成し、防汚層7を蒸着法で形成する場合、後述するように、密着層形成材料および防汚層形成材料は、第一の主面2側から端面4に回り込んで、端面4の最表面に付着される。これにより、密着層6および防汚層7が第一の主面2から端面4にわたって形成される。この場合、密着層6または防汚層7は第一の主面2上にはある一定の厚さを持って均一に形成され、端面4上では、島状の密着層6または防汚層7が、不規則にまだら状に配置された状態となって、密着層6または防汚層7が形成されない部分が存在しているものと考えられる。
【0028】
また、防汚層付きガラス板1は、第二の主面3上に密着層6および防汚層7が形成されないことで、後加工性、特には、表示装置等との接着性を向上させることができる。
【0029】
なお、防汚層付きガラス板1の強度をより向上させる観点から、密着層6および防汚層7はそれぞれ、ガラス板5の第二の主面3の最表面の外周近傍までに限り、連続して配設されることが好ましい。密着層6および防汚層7がガラス板5の第二の主面3の最表面に配設される場合、密着層6は第二の主面3の最表面上に形成され、防汚層7は密着層6上に形成される。このような、第一の主面2から端面4、さらに第二の主面3の最表面の外周近傍にわたって密着層6および防汚層7が形成された防汚層付きガラス板1は、後加工性を十分に良好に維持しながら、防汚層付きガラス板1の強度、特に端面におけるマイクロクラックの発生を抑制することで強度をより向上させることができる。
【0030】
密着層6および防汚層7が第一の主面2から端面4、さらに第二の主面3の最表面の外周近傍にわたって配設される場合、第二の主面3における密着層6および防汚層7の幅、すなわち、密着層6および防汚層7の備えられている第二の主面3の外周から外周近傍までの距離は、上記のように後加工性が維持される範囲で用途に応じて適宜選択される。密着層6および防汚層7の幅は、例えば、防汚層付きガラス板1がカバーガラスやタッチパネルとして携帯機器等の表示装置に組み付けられる際の貼合位置などによって適宜設定できる。すなわち、防汚層付きガラス板1と表示装置との貼り合わせに際して、接着材料を付着させる接着部分に防汚層7を備えると、防汚層7によって接着材料がはがれやすくなり、防汚層付きガラス板1および表示装置の接着力が低下する等の不具合が生じる。そのため、このような場合、密着層6および防汚層7の幅は、上記した接着材料を付着させる接着部分と重ならないように設定されることが好ましい。
【0031】
密着層6および防汚層7は、第二の主面3の外周から外周近傍に至る全ての領域に備えられていてもよく、第二の主面3の外周から外周近傍に至る一部の領域に備えられていてもよい。
【0032】
ここで、上記と同様に、密着層6がスパッタリングで形成され、防汚層7が蒸着法で形成されることで、密着層形成材料および防汚層形成材料を、第一の主面2側から端面4に回り込ませ、さらに、第二の主面3の最表面の外周近傍にまで到達させることができる。このようにして、第二の主面3の外周から内側に所定の距離だけ離れた部分、すなわち外周近傍まで密着層6および防汚層7が形成される。なお、本明細書において、ガラス板5の主面において中央部から見て外周側を外側、外周からみて中央部側を内側という。
【0033】
次に、本発明の実施形態に係る防汚層付きガラス板1の各構成について詳細に説明する。
【0034】
(ガラス板5)
実施形態の防汚層付きガラス板1に用いられるガラス板5は、一般に防汚層による防汚性の付与が求められている透明なガラス板であれば特に限定されず、二酸化ケイ素を主成分とする一般的なガラス、例えばソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス板を用いることができる。
【0035】
ガラス板5のガラス組成は、成形、化学強化処理による強化が可能であることが好ましく、ナトリウムを含んでいることが好ましい。このようなガラスとして、具体的に例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノホウ珪酸ガラス等を用いることが好ましい。
【0036】
本実施形態で用いられるガラス板5のガラス組成としては、特に限定されず、種々の組成を有するガラスを用いることができる。ガラス組成として、例えば、以下のガラス組成(いずれも、アルミノシリケートガラスである。)が挙げられる。
(i)モル%で表示した組成で、SiO2を50%以上80%以下、Al2O3を2%以上25%以下、Li2Oを0%以上10%以下、Na2Oを0%以上18%以下、K2Oを0%以上10%以下、MgOを0%以上15%以下、CaOを0%以上5%以下、およびZrO2を0%以上5%以下含有するガラス
(ii)モル%で表示した組成で、SiO2を50%以上74%以下、Al2O3を1%以上10%以下、Na2Oを6%以上14%以下、K2Oを3%以上11%以下、MgOを2%以上15%以下、CaOを0%以上6%以下、およびZrO2を0%以上5%以下含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12%以上25%以下、MgOおよびCaOの含有量の合計が7%以上15%以下であるガラス
(iii)モル%で表示した組成で、SiO2を68%以上80%以下、Al2O3を4%以上10%以下、Na2Oを5%以上15%以下、K2Oを0%以上1%以下、MgOを4%以上15%以下、およびZrO2を0%以上1%以下含有するガラス
(iv)モル%で表示した組成で、SiO2を67%以上75%以下、Al2O3を0%以上4%以下、Na2Oを7%以上15%以下、K2Oを1%以上9%以下、MgOを6%以上14%以下、およびZrO2を0%以上1.5%以下含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が71%以上75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12%以上20%以下であり、CaOを含有する場合CaOの含有量が1%未満であるガラス
【0037】
ガラス板5の製造方法は特に限定されず、所望のガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を好ましくは1500℃以上1600℃以下で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0038】
なお、ガラス板5の成形方法についても特に限定されず、例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を用いることができる。
【0039】
ガラス板5の厚さは、用途に応じて適宜選択することができる。ガラス板5の厚さは、0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、0.2mm以上2mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上2mm以下であることがさらに好ましい。ガラス板5の厚さが5mm以下であれば、ガラス板5に後述する化学強化処理を行う場合に、ガラス板5の化学強化処理を効果的に行うことができ、軽量化と強度とを両立できる。化学強化処理を効果的に行う点からは、ガラス板5の厚さは3mm以下であることがより好ましい。
【0040】
(防眩処理)
本実施形態の防汚層付きガラス板1において、用いられるガラス板5の第一の主面2は、防汚層付きガラス板1に防眩性を付与するための凹凸形状を有することが好ましい。
【0041】
凹凸形状を形成する方法としては、公知の方法を利用でき、例えば、防眩処理を施す方法が用いられる。防眩処理としては、防眩性を付与し得る凹凸形状を形成できる方法であれば特に限定されず、例えば、ガラス板5の第一の主面2に化学的な方法、あるいは物理的な方法を適用して表面処理を施し、所望の表面粗さの凹凸形状を形成できる。
【0042】
化学的な方法による防眩処理として具体的には、フロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素とフッ化アンモニウムとの混合溶液に、被処理体であるガラス板5を浸漬することで行われる。
【0043】
また、物理的な方法による防眩処理として、例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を加圧空気でガラス板5の表面に吹きつけるいわゆるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を付着させたブラシを水で湿らせて、当該ブラシを用いてガラス板5の表面を研磨する方法等で行われる。
【0044】
なかでも、化学的な表面処理であるフロスト処理は、被処理体の表面における割れの起点となりうるマイクロクラックが生じ難く、ガラス板5の強度の低下が生じ難いため、好ましく利用できる。
【0045】
さらに、防眩処理を施したガラス板5の第一の主面2に対して、第一の主面2の表面形状を整えるためのエッチング処理を行うことが好ましい。エッチング処理としては、例えば、ガラス板5を、フッ化水素の水溶液であるエッチング溶液に浸漬して、化学的にエッチングする方法を利用できる。エッチング溶液は、フッ化水素以外にも、塩酸、硝酸、クエン酸などの酸を含有してもよい。エッチング溶液に、これらの酸を含有させることで、ガラス板5に含有されるNaイオン、Kイオン等の陽イオン成分とフッ化水素との反応による、析出物の局所的な発生を抑制することができるほか、エッチングを処理面内で均一に進行させることができる。
【0046】
エッチング処理を行う場合、エッチング溶液の濃度や、エッチング溶液へのガラス板5の浸漬時間等を調節することで、エッチング量を調節し、これによりガラス板5の防眩処理面のヘイズ値を所望の値に調整することができる。また、防眩処理を、サンドブラスト処理等の物理的な表面処理で行った場合、ガラス板5にクラックが生じることがあるが、エッチング処理によってこのようなクラックを除去できる。また、エッチング処理によって、防汚層付きガラス板1のギラツキを抑えるという効果も得ることができる。
【0047】
このようにして、防眩処理および必要に応じてエッチング処理が行われた後のガラス板5の第一の主面2の形状としては、表面粗さ(二乗平均粗さ、RMS)が0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.01μm以上0.3μm以下であることがより好ましく、0.01μm以上0.2μm以下であることがさらに好ましい。表面粗さ(RMS)が上記した範囲であることで、防眩処理後の第一の主面2のヘイズ値を1%以上30%以下に調整でき、得られる防汚層付きガラス板1に優れた防眩性を付与できる。
【0048】
なお、表面粗さ(RMS)は、JIS B 0601:(2001)で規定される方法に準拠して測定を行うことができる。表面粗さ(RMS)の測定方法として具体的には、レーザー顕微鏡(キーエンス社製 商品名:VK-9700)により、試料である防眩処理後のガラス板5の測定面に対して、300μm×200μmの視野範囲を設定し、ガラス板5の高さ情報を測定する。測定値に対して、カットオフ補正を行ない、得られた高さの二乗平均を求めることで表面粗さ(RMS)を算出できる。カットオフ値としては0.08mmを使用することが好ましい。ヘイズ値は、JIS K 7136の規定により測定される値である。
【0049】
また、防眩処理およびエッチング処理が行われた後の第一の主面2の表面は、凹凸形状を有しており、ガラス板5の第一の主面2側の上方から第一の主面2の表面を観察すると、凹部分は円形状の孔として観察される。このように観察される円形状の孔の大きさ(直径)は1μm以上10μm以下であることが好ましい。上記した円形状の孔の大きさがこのような範囲にあることにより、防汚層付きガラス板1はギラツキ防止性と防眩性を両立可能である。
【0050】
(化学強化処理)
防汚層付きガラス板1においては、防汚層付きガラス板1の強度を高めるために、ガラス板5に対して化学強化処理が施されることが好ましい。化学強化処理は、上記で防眩処理のなされたガラス板5が必要に応じて所望の大きさに切断された後に行われることが好ましい。
【0051】
化学強化処理の方法としては、特に限定されず、ガラス板5の第一の主面2、第二の主面3および端面4をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成する。具体的には、ガラス転移点以下の温度で、ガラス板5の表面のガラスに含まれるイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径がより大きなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラス板5の第一の主面2、第二の主面3および端面4に圧縮応力が残留し、ガラス板5の強度を向上させる。
【0052】
(密着層6)
密着層6は、上述したように、ガラス板5と防汚層7の間に密着性を付与可能な密着層形成材料によって形成される。密着層6の最表層が酸化ケイ素からなる層である場合、当該酸化ケイ素からなる層は、後述する低反射膜における、酸化ケイ素(SiO2)を材料とした低屈折率層と同様の方法で形成できる。また、後述する低反射膜の最表層が酸化ケイ素(SiO2)の低屈折率層の構成とすれば、当該低反射膜は、密着層6として機能する。
【0053】
(低反射膜)
本実施形態の防汚層付きガラス板1は、第一の主面2と防汚層7の間に、低反射膜を備えることが好ましい。低反射膜は、ガラス板5が上記凹凸形状を有する場合には、凹凸形状を有する面(以下「防眩処理面」ともいう。)上に備えられることが好ましい。低反射膜の構成としては、光の反射を抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、波長550nmでの屈折率が1.9以上の高屈折率層と、波長550nmでの屈折率が1.6以下の低屈折率層とを積層した構成とすることができる。
【0054】
低反射膜における高屈折率層と低屈折率層とは、それぞれ1層ずつ含まれる形態であってもよいが、それぞれ2層以上含まれる形態であってもよい。低反射膜が高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した形態であることが好ましい。
【0055】
低反射性を高めるためには、低反射膜は複数の層が積層された積層体であることが好ましく、例えば、該積層体は全体で2層以上6層以下の層が積層されていることが好ましく、該積層体は全体で2層以上4層以下の層が積層されていることがより好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体であることが好ましく、高屈折率層および低屈折率層の各々の層数を合計したものが上記範囲内であることが好ましい。
【0056】
高屈折率層および低屈折率層を構成する材料は、特に限定されず、要求される低反射性の程度や生産性等を考慮して適宜選択することができる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、窒化ケイ素(SiN)から選択される1種以上の材料を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO2)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料、SiとAlとの混合酸化物を含む材料から選択される1種以上の材料を好ましく使用できる。
【0057】
生産性や、屈折率の観点から、高屈折率層が酸化ニオブ、酸化チタン、窒化ケイ素から選択される1種の化合物からなる層であり、低屈折率層が酸化ケイ素からなる層である構成が好ましい。
【0058】
低反射膜を構成する各層を成膜する方法は、特に限定されず、各種成膜方法を用いることが可能である。例えば、真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタリング法、プラズマCVD法等を用いることができる。これらの成膜方法のなかで、スパッタリング法を用いることで、緻密で耐久性の高い低反射膜を形成できるので好ましい。特に、パルススパッタリング法、ACスパッタリング法、デジタルスパッタリング法等のスパッタリング法により低反射膜を成膜することが好ましい。
【0059】
例えば、パルススパッタリング法により低反射膜を成膜する場合、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気のチャンバ内に、ガラス板5を配置し、所望の組成となるようにターゲットを選択して成膜する。このとき、チャンバ内の不活性ガスのガス種は、特に限定されるものではなく、アルゴンやヘリウム等、各種不活性ガスを使用できる。
【0060】
不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力は、特に限定されるものではないが、0.5Pa以下とすることにより、形成される膜の表面粗さを好ましい範囲とすることが容易である。これは、以下に示す理由によると考えられる。すなわち、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力が0.5Pa以下であると、成膜分子の平均自由行程が確保され、成膜分子がより多くのエネルギーをもってガラス板に到達する。そのため、成膜分子の再配置が促され、比較的密で平滑な表面の膜ができると考えられる。不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1Pa以上であることが好ましい。
【0061】
パルススパッタリング法により高屈折率層および低屈折率層を成膜する場合、各層の層厚の調整は、例えば、放電電力の調整、成膜時間の調整等により可能である。
【0062】
(防汚層7)
防汚層7は、密着層6の表面に形成される。防汚層7としては、例えば、撥水・撥油性を有することで、得られる防汚層付きガラス板1に防汚性を付与できるものであれば特に限定されないが、含フッ素有機ケイ素化合物を硬化させて得られる、含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなることが好ましい。
【0063】
また、防汚層7の厚さは、特に限定されないが、防汚層7が含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなる場合、第一の主面2上の防汚層7の厚さは、2nm以上20nm以下であることが好ましく、2nm以上15nm以下であることがより好ましく、2nm以上10nm以下であることがさらに好ましい。第一の主面2上の防汚層7の厚さが2nm以上であれば、防汚層7によってガラス板5の第一の主面2上が均一に覆われた状態となり、耐擦り性の観点で実用に耐えるものとなる。また、第一の主面2上の防汚層7の厚さが20nm以下であれば、防汚層7が形成された状態での防汚層付きガラス板1のヘイズ値等の光学特性が良好である。
【0064】
含フッ素有機ケイ素化合物被膜を形成する方法としては、パーフルオロアルキル基;パーフルオロ(ポリオキシアルキレン)鎖を含むフルオロアルキル基等のフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤の組成物を、ガラス板5の第一の主面2上に形成された密着層6の表面に、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法、スプレーコート法等により塗布した後に加熱処理する方法、含フッ素有機ケイ素化合物を密着層6の表面に気相蒸着させた後に加熱処理する真空蒸着法等が挙げられる。密着性の高い含フッ素有機ケイ素化合物被膜を得るには、防汚層7を真空蒸着法により形成することが好ましい。真空蒸着法による含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する被膜形成用組成物を用いて行うことが好ましい。
【0065】
被膜形成用組成物は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物であって、真空蒸着法による被膜形成が可能な組成物であれば、特に制限されない。被膜形成用組成物は含フッ素加水分解性ケイ素化合物以外の任意成分を含有してもよく、含フッ素加水分解性ケイ素化合物のみで構成されてもよい。任意成分としては、本発明の効果を阻害しない範囲で用いられる、フッ素原子を有しない加水分解性ケイ素化合物(以下「非フッ素加水分解性ケイ素化合物」という。)、触媒等が挙げられる。
【0066】
(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)
本発明の含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成に用いる含フッ素加水分解性ケイ素化合物は、得られる含フッ素有機ケイ素化合物被膜が撥水性、撥油性等の防汚性を有するものであれば特に限定されない。
【0067】
含フッ素加水分解性ケイ素化合物は、具体的には、パーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する含フッ素加水分解性ケイ素化合物が挙げられる。これらの基は、加水分解性シリル基のケイ素原子に連結基を介してまたは直接結合する含フッ素有機基として存在する。なお、パーフルオロポリエーテル基とは、パーフルオロアルキレン基とエーテル性酸素原子とが交互に結合した構造を有する2価の基をいう。
【0068】
市販されているパーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)として、KP-801(商品名、信越化学工業社製)、X-71(商品名、信越化学工業社製)、KY-130(商品名、信越化学工業社製)、KY-178(商品名、信越化学工業社製)、KY-185(商品名、信越化学工業社製)、オプツ-ル(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業社製)などが好ましく使用できる。上記したなかでも、KY-185、オプツ-ルDSXを用いることがより好ましい。
【0069】
なお、市販品の含フッ素加水分解性ケイ素化合物が溶剤とともに供給される場合、市販品の含フッ素加水分解性ケイ素化合物は溶剤を除去して使用されるほうが好ましい。本発明に用いる、被膜形成用組成物は、上記含フッ素加水分解性ケイ素化合物と必要に応じて添加される任意成分とを混合することで調製され、真空蒸着に供される。
【0070】
このような含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物を、密着層6の表面に付着させ反応させて成膜することで、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が得られる。このとき、防汚層7は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物の硬化物からなる。なお、具体的な真空蒸着方法、反応条件については、従来公知の方法、条件等が適用可能である。
【0071】
(印刷層を備える防汚層付きガラス板)
防汚層付きガラス板1は、第二の主面3に印刷層を備えることが好ましい。
図2は、第二の主面3に印刷層8を備える防汚層付きガラス板10を概略的に示す断面図である。
図3は、
図2に示す防汚層付きガラス板10の、第二の主面3を底面とした底面図である。第2の実施形態に係る防汚層付きガラス板10は、防汚層付きガラス板1において、さらに、第二の主面3に形成される印刷層8を備える点で、防汚層付きガラス板1と異なっているが、その他の構成は防汚層付きガラス板1と同様である。
図2および
図3に示す防汚層付きガラス板10において、防汚層付きガラス板1と同様の機能を奏する構成には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0072】
防汚層付きガラス板10において、印刷層8は、第二の主面3の周縁部に形成されている。印刷層8は、例えば、表示の視認性と美観を高める目的で、携帯機器の表示装置の外周近傍に配置された配線回路や、携帯機器の筺体と防汚層付きガラス板10の接着部等を隠ぺいするように設けられる。ここで、周縁部とは、外周から中央部に向かって、所定の幅を有する帯状領域を意味する。印刷層8は、第二の主面3の周縁の全周に設けられていてもよく、周縁の一部に設けられていてもよい。
【0073】
印刷層8の外周は、第二の主面3と端面4との境界に接していてもよく、第二の主面3と端面4との境界より、内側にあってもよい。ここで、印刷層8の「外周」は、印刷層8の外端を意味し、印刷層8の「内周」は、印刷層8の内端を意味する。
【0074】
印刷層8の幅は、特に限定されず、目的に応じて適宜変更することができる。例えば、印刷層8は、上記配線回路や接着部を隠ぺい可能な幅で設けられる。印刷層8の幅は、印刷層8の備えられる全領域で均一であってもよく、また、幅の異なる領域を有してもよい。印刷層8の色は特に限定されず、目的に応じて所望の色を選択可能である。
【0075】
また、防汚層付きガラス板1と同様に、防汚層付きガラス板10においても、密着層6および防汚層7は、ガラス板5の第二の主面3側の最表面の外周近傍にわたって配設されることが好ましい。これにより、防汚層付きガラス板1の強度を向上させることができる。
【0076】
図4は、防汚層付きガラス板10を表示装置11に組み付けた状態を概略的に示す断面図である。
図5は、
図4に示す防汚層付きガラス板10について、表示装置11に組み付けられる前の防汚層付きガラス板10を第二の主面3側から見た平面図である。
図4、5に示すように、防汚層付きガラス板10は、表示装置11の表示部12上に、第二の主面3が表示部12に対向された状態で配置される。
図5において、破線Dは、防汚層付きガラス板10の第二の主面3側に配置される表示装置11の外周を示す。防汚層付きガラス板10において、密着層6および防汚層7がガラス板5の第二の主面3側の最表面すなわち印刷層8の表面の外周近傍にわたって配設される場合、例えば
図4、5に示すように、密着層6および防汚層7は、印刷層8の表面における印刷層8の内周の外側かつ印刷層8の外周の内側に存在し、第二の主面3上における印刷層8上の一部に設けられることが好ましい。これは、防汚層付きガラス板10が表示装置11に貼り合わせられる際には、美観上の観点から、通常、上記接着材料が印刷層8上に配置されるためである。密着層6および防汚層7が、印刷層8の表面における印刷層8の内周の外側かつ印刷層8の外周の内側に存在する場合には、防汚層付きガラス板10と表示装置11との接着力が低下するという不具合を回避し、良好な加工性を得ることができる。
【0077】
また、例えば
図4、5に示すように、防汚層付きガラス板10は、表示装置11等に貼り合わせられる際に、表示装置11の表示部12上に、防汚層付きガラス板10の開口部(第二の主面3における、印刷層8より内側の、印刷層8を有しない部分)が位置するように、配置される。この際、表示部12の周縁部が印刷層8と重なりあうことがある。このような場合、密着層6および防汚層7は、第二の主面3側の最表面である印刷層8の外周から、表示部12の周縁部が印刷層8と重なり合う部分よりも外側の領域までに形成されることが好ましい。これにより、表示部12の視認性を高めることができる。
【0078】
[防汚層付きガラス板の製造方法]
防汚層付きガラス板1、10は、ガラス板5の第一の主面2および端面4にわたって、密着層6および防汚層7が次のように形成されて製造される。ガラス板5の第二の主面3側に、ガラス板5の第二の主面3よりも面積の大きいキャリア基板が貼り付けられる。この際、キャリア基板は、防汚層付きガラス板1の第二の主面3に直接貼り付けられてもよい。防汚層付きガラス板10においては、キャリア基板は、印刷層8に貼り付けられることが好ましい。キャリア基板の材質は、密着層6および防汚層7を形成する温度、圧力、雰囲気等の条件に耐えるものであれば特に限定されず、ガラス製、樹脂製、金属製のものを使用できる。樹脂製のキャリア基板を用いる場合は、キャリア基板のガラス板5を貼り付ける側の表面の一部または全部に粘着剤が設置されていてもよい。このようにすることで、ガラス板5の保持力を高め、安定的に生産できる。
【0079】
このキャリア基板にガラス板5が貼りつけられた状態で、密着層形成材料を第一の主面2に向けてスパッタリングして、密着層6を形成する。スパッタリングが行われる過程で、密着層形成材料が端面4に回り込んで、端面4上に密着層6が形成される。
【0080】
次いで、キャリア基板にガラス板5が貼りつけられた状態で、密着層6が形成された第一の主面2に向けて、防汚層形成材料を蒸着して密着層6の表面に防汚層7を形成する。この場合も、蒸着が行われる過程で、防汚層形成材料が端面4に回り込んで、端面4上の密着層6の表面に防汚層7が形成される。
【0081】
この際、第二の主面3よりも面積の小さいキャリア基板を用いれば、第二の主面3側の最表面の外周近傍まで、密着層6および防汚層7を形成できる。ガラス板5を第二の主面3の面積より小さいキャリア基板上に貼り付けた状態で、密着層6および防汚層7を形成する。これにより、上記スパッタリングおよび蒸着の過程で、密着層形成材料および防汚層形成材料が、それぞれ第二の主面3側に回り込み、ガラス板5の第二の主面3側の、キャリア基板に貼り付けられずに露出する最表面に付着して、密着層6および防汚層7が形成される。このように、第二の主面3側の最表面の、キャリア基板に貼り付けられずに露出する領域、すなわち外周近傍までの領域に、密着層6および防汚層7を形成できる。
【0082】
一方、第二の主面3よりも面積の大きいキャリア基板を用いれば、密着層6および防汚層7は、ほとんど第二の主面3側に回り込まないようにすることができる。防汚層7が第一の主面2上および端面4上の密着層6の表面のみに設置される場合、キャリア基板の大きさは第二の主面3の大きさと同等または大きいことが好ましい。
【0083】
図6は本実施形態の防汚層付きガラス板1の製造方法において、防汚層7を形成するために使用可能な装置の一例を模式的に示す図である。
図6に示す装置は、第二の主面3上にキャリア基板9を貼り付けたガラス板5の第一の主面2上および端面4上の密着層6の表面に、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する被膜形成用組成物を蒸着する装置である。
【0084】
図6に示す装置を用いた場合、第一の主面2および端面4にわたって密着層6の形成されたガラス板5は、図の左側から右側に向かって搬送手段32により搬送されながら、真空チャンバ33内で、防汚層7が形成されることで防汚層付きガラス板1となる。
【0085】
図6に示す真空チャンバ33内では、真空蒸着法、特に抵抗加熱法による真空蒸着装置20を用いて、被膜形成用組成物がガラス板5の第一の主面2上および端面4上の密着層6の表面に付着する。
【0086】
真空チャンバ33内の圧力は、生産安定性の観点から、1Pa以下に維持されることが好ましく、0.1Pa以下がより好ましい。真空チャンバ33内の圧力がこのような圧力であれば、抵抗加熱法による真空蒸着を問題なく行うことができる。
【0087】
真空蒸着装置20には、真空チャンバ33外に被膜形成用組成物を加熱する加熱容器21と、加熱容器21から真空チャンバ33内に被膜形成用組成物の蒸気を供給する配管22と、配管22に接続され、加熱容器21から供給される被膜形成用組成物の蒸気をガラス板5の第一の主面2に噴射するための噴射口を有するマニホールド23とが備えられている。また、真空チャンバ33内において、ガラス板5は、マニホールド23の噴射口とガラス板5の第一の主面2とが対向するように保持されている。
【0088】
加熱容器21は、蒸着源である被膜形成用組成物が十分な蒸気圧を有する温度にまで加熱できる加熱手段を有する。被膜形成用組成物の種類によるが、被膜形成用組成物の加熱温度は、具体的には、30℃以上400℃以下が好ましく、150℃以上350℃以下が特に好ましい。被膜形成用組成物の加熱温度が上記範囲の下限値以上であると、成膜速度が良好になる。被膜形成用組成物の加熱温度が上記範囲の上限値以下であると、含フッ素加水分解性ケイ素化合物の分解が生じることなく、ガラス板5の第一の主面2上および端面4上の密着層6の表面に防汚性を有する被膜を形成できる。
【0089】
ここで、上記方法においては、真空蒸着の際に、加熱容器21内の含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する被膜形成用組成物を蒸着開始温度まで昇温した後、被膜形成用組成物の蒸気を所定の時間、系外に排出する前処理を設けることが好ましい。この前処理により、含フッ素加水分解性ケイ素化合物が通常含有する、得られる被膜の耐久性に影響を与える低分子量成分等を除去でき、さらには、蒸着源からマニホールド23に供給される原料蒸気の組成の安定化が可能となる。これにより、耐久性の高い含フッ素有機ケイ素化合物被膜を安定して形成可能となる。
【0090】
具体的には、加熱容器21の上部に、マニホールド23へと接続される配管22とは別に、被膜形成用組成物の初期蒸気を系外に排出するための開閉自在な排気口に接続する配管(図示せず)を設け、当該初期蒸気を系外でトラップする等の方法をとればよい。
【0091】
また、真空蒸着時における、ガラス板5の温度は、室温(20℃以上25℃以下)から200℃までの範囲であることが好ましい。ガラス板5の温度が200℃以下であると、成膜速度が良好になる。ガラス板5の温度の上限値は、150℃がより好ましく、100℃が特に好ましい。
【0092】
なお、マニホールド23は、加熱容器21から供給される蒸気が凝縮するのを防止するため、蒸気を加熱できるようにヒーターを備えていることが好ましい。また、配管22は、その途中で加熱容器21からの蒸気が凝縮するのを防ぐために、加熱容器21と共に加熱されるように設計することが好ましい。
【0093】
また、成膜速度を制御するために、上記配管22に可変バルブ24を設け、真空チャンバ33内に設けられた膜厚計25での検出値に基づいて上記可変バルブ24の開度を制御することが好ましい。このような構成を設けることで、ガラス板5の第一の主面2上および端面4上の密着層6の表面に供給する含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する被膜形成用組成物の蒸気の量を制御することが可能となる。これにより、ガラス板5の第一の主面2上の密着層6の表面に精度よく目的とする厚さの被膜を形成できる。なお、膜厚計25としては、水晶振動子モニタ等を用いることができる。さらに、膜厚の測定について、例えば、膜厚計25として、薄膜解析用X線回折計ATX-G(RIGAKU社製)を用いた場合には、X線反射率法により反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から膜厚を算出できる。
【0094】
このようにして、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含む被膜形成用組成物が、ガラス板5の第一の主面2上および端面4上の密着層6の表面に付着する。さらに、付着と同時にまたは付着後、含フッ素加水分解性ケイ素化合物が加水分解縮合反応することにより、密着層6に化学結合するとともに、分子間でシロキサン結合することで、含フッ素有機ケイ素化合物被膜となる。
【0095】
この含フッ素加水分解性ケイ素化合物の加水分解縮合反応は、密着層6への付着と同時に密着層6の表面で進行するが、さらにこの加水分解縮合反応を十分に促進させるために、必要に応じて、含フッ素有機ケイ素化合物被膜が形成されたガラス板5を、真空チャンバ33から取り出した後、ホットプレートや恒温恒湿槽を使用した加熱処理を行ってもよい。加熱処理の条件としては、例えば、80℃以上200℃以下の温度で10分以上60分以下の加熱処理が挙げられる。
【0096】
印刷層8は、インクを印刷する方法で形成される。インクを印刷する方法としては、バーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ロールコート法、スクリーン法等があるが、簡便に印刷できるうえ、種々の基材に印刷することができ、またガラス板5のサイズに合わせて印刷可能であることから、スクリーン法が好ましい。印刷層8は、複数の層を積層した複層でもよく、単一の層でもよい。印刷層8が複層からなる場合、印刷層8は、上記したインクの印刷、および印刷したインクの乾燥を繰り返すことで形成できる。
【0097】
インクとしては、特に限定されず、形成する印刷層8の色に応じて選択できる。インクとして、例えば、セラミックス焼成体等を含む無機系インク、染料または顔料のような色料と有機樹脂とを含む有機系インクのいずれを用いてもよい。
【0098】
例えば、印刷層8を黒色で形成する場合、黒色の無機系インクに含有されるセラミックスとしては、酸化クロム、酸化鉄などの酸化物、炭化クロム、炭化タングステン等の炭化物、カーボンブラック、雲母等が挙げられる。黒色の印刷層8は、前記セラミックスとシリカからなる無機系インクを混練し、インクを所望のパターンで印刷した後、インクを乾燥して得られる。この無機系インクは、溶融および乾燥工程を必要とし、一般にガラス専用インクとして用いられている。
【0099】
有機系インクは、所望の色の染料または顔料と有機樹脂を含む組成物である。有機樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、フェノール樹脂、透明ABS樹脂、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニル、ポリビニルブチラール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド等のホモポリマー、およびこれらの樹脂のモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーからなる樹脂が挙げられる。
【0100】
上記無機系インクおよび有機系インクのなかでは、乾燥温度が低いことから、有機系インクが好ましい。また、耐薬品性の観点から、顔料を含む有機系インクが好ましい。
【0101】
上記のようにして得られる実施形態の防汚層付きガラス板は、撥水性や撥油性等の防汚性に優れるとともに、高い強度を有するものである。
【0102】
[防汚層付きガラス板の物性]
(4点曲げ強度)
防汚層付きガラス板1の4点曲げ強度は、400MPa以上であることが好ましく、500MPa以上であることがより好ましい。4点曲げ強度が上記した範囲であることで、防汚層付きガラス板1は、タッチパネル等に適した高い強度を有する。なお、4点曲げ強度は、JIS R1601に定められる方法に準じて測定された値である。
【0103】
(加傷4点曲げ強度)
加傷4点曲げ強度は、防汚層付きガラス板1の評価面に割れの起点となりうるマイクロクラックを故意に与えて曲げ強度を評価するものである。加傷4点曲げ強度の大きさは、マイクロクラック数、各マイクロクラックの長さおよび深さに依存する。
【0104】
本願における加傷4点曲げ強度は、防汚層付きガラス板1に、次のように加傷処理を行った後、上記した4点曲げ強度と同様に測定し、防汚層付きガラス板1が端面4から割れたものについて測定された値である。
【0105】
加傷処理は、ガラス板5の厚み方向に対して平行な方向に沿って、ガラス板5にカッター(オルファ製)の刃をあて、カッターに50gの荷重をかけ、その状態でカッターを、ガラス板5の厚み方向に対して平行な方向に沿って、全厚みに対して動かして行う。加傷4点曲げ強度の測定においては、上記加傷処理を、防汚層付きガラス板1の外側の端面4上の、支持具の間を4等分する位置について3箇所、それぞれ行う。この場合、加傷処理によって与えられるマイクロクラックの数は3で一定なので、本願における加傷4点曲げ強度は、各マイクロクラックの長さと深さとに依存すると考えてよい。すなわち、加傷4点曲げ強度が4点曲げ強度と同程度であることは、割れにつながる長いおよび/または深いマイクロクラックが少ないか、または存在しないことを示唆すると考えられる。
【0106】
防汚層付きガラス板1において、加傷4点曲げ強度も、400MPa以上であることが好ましく、500MPa以上であることがより好ましい。加傷4点曲げ強度が上記した範囲であることで、防汚層付きガラス板1の端面4における、マイクロクラックの発生、特に上記した、携帯機器等へ組み付ける工程におけるマイクロクラックの発生を抑制し、防汚層付きガラス板1の破損等を回避できる。ここで、面取りを、その条件を調節して精密に行うことによっても端面4を強化することは可能であるが、この場合には、工程数が増加して、生産性が低下するおそれがある。これに対し、防汚層付きガラス板1によれば、密着層6および防汚層7をそれぞれ、第一の主面2および端面4に同時に形成できるため、強度の高い防汚層付きガラス板1を効率的に製造できる。なお、防汚層付きガラス板10の4点曲げ強度および加傷4点曲げ強度についても上記防汚層付きガラス板1と同様である。
【0107】
(水接触角)
防汚層付きガラス板1の接触角は、90°以上130°以下であることが好ましく、100°以上120°以下であることがより好ましい。接触角が上記した範囲であることで、防汚層付きガラス板1は優れた防汚性を発揮する。なお、接触角は、水に対する接触角の値であり、例えば、防汚層付きガラス板1の第一の主面2側の最表面に約1μLの純水の水滴を着滴させて、接触角計で測定できる(JIS R 3257参照)。防汚層付きガラス板10の接触角についても上記と同様である。
【0108】
このように、本発明の防汚層付きガラス板によれば、撥水性や撥油性等の防汚性に優れるとともに、特に端面の割れの起点になりうるマイクロクラックの発生を抑制することで高い強度を有し、さらに、良好な後加工性が得られる。
【実施例】
【0109】
次に、本発明の実施例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。例1~5は本発明の実施例、例6~8は比較例である。
【0110】
ガラス板として、厚さ1.3mm、向かい合う主面が四角形である板状ガラス(ドラゴントレイル(登録商標)、旭硝子製)を用い、以下の各例の手順で、それぞれ防汚層付きガラス板を得た。以下、当該ガラス板の一方の主面を第1面、他方の主面を第2面、厚さ方向の面を端面と称する。
【0111】
(例1)
ガラス板に、(1)防眩処理、(2)面取り、(3)化学強化処理およびアルカリ処理、(4)黒色印刷層の形成、(5-1)密着層の形成、(6)防汚層の成膜を、この順で、以下の通りに行った。
【0112】
(1)防眩処理
ガラス板の第1面に、以下の手順により、フロスト処理による防眩処理を施した。
【0113】
まず、耐酸性の保護フィルム(以下、単に「保護フィルム」ともいう)を、ガラス板の防眩処理を施さない側の主面(第2面)に貼合した。ついで、ガラス板を3質量%のフッ化水素水溶液に3分間浸漬し、ガラス板をエッチングすることで、ガラス板の第1面の表面に付着した汚れを除去した。次いで、ガラス板を15質量%フッ化水素および15質量%フッ化カリウムの混合水溶液に3分間浸漬し、ガラス板の第1面にフロスト処理を施した。その後、ガラス板を10質量%フッ化水素水溶液に6分間浸漬することで、防眩処理を施した第1面のヘイズ値を25%に調整した。なお、ヘイズ値は、JIS K 7136に拠り、ヘイズメータ(商品名:HZ-V3、スガ試験機社製)を用いて測定した。
【0114】
(2)面取り
防眩処理を施したガラス板を150mm×250mmの大きさに切断した。その後、ガラス板の全周にわたって0.2mmの寸法でC面取りを行った。面取りは600番の砥石(東京ダイア社製)を用い、砥石の回転数が6500rpm、砥石の移動速度が5000mm/minで行った。
【0115】
(3)化学強化処理およびアルカリ処理
上記でガラス板に貼付した保護フィルムを除去し、ガラス板を、450℃に加熱して溶融させた硝酸カリウム塩に2時間浸漬した。その後、ガラス板を溶融塩より引き上げ、1時間で室温まで徐冷することで化学強化処理を行った。これにより、表面圧縮応力(CS)が730MPa、応力層の深さ(DOL)が30μmの化学強化されたガラス板を得た。さらに、このガラス板を、アルカリ溶液(サンウォッシュTL-75、ライオン社製)に4時間浸漬してアルカリ処理を施した。
【0116】
(4)黒色印刷層の形成
ガラス板の第2面の外側周辺部の四辺に、2cm幅の黒枠状に印刷を施し、黒色印刷層を形成した。まず、スクリーン印刷機により、黒色インク(商品名:GLSHF、帝国インキ社製)を5μmの厚さに塗布した後、150℃で10分間保持して乾燥させ、第1の印刷層を形成した。次いで、第1の印刷層の上に、上と同じ手順で、黒色インクを5μmの厚さに塗布した後、150℃で40分間保持して乾燥させ、第2の印刷層を形成した。こうして、第1の印刷層と第2の印刷層とが積層された黒色印刷層を形成し、ガラス板の第2面の外側周辺部に黒色印刷層を備えたガラス板を得た。
【0117】
(5-1)密着層の形成
次に、下記の方法でガラス板の第1面と端面に酸化ケイ素膜を形成した。
【0118】
まず、ガラス板の、黒色印刷層の形成された第2面側の最表面に、ポリイミドの両面テープ(商品名:760H、寺岡製作所社製)を用いて、厚さ2mm、大きさ1000mm×1000mmのガラス板(キャリア基板)を貼りつけた。
【0119】
次いで、真空チャンバ内で、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲット(AGCセラミックス社製)を用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、ガラス板の第1面と端面に、第1面上での厚さが20nmの酸化ケイ素(SiO2)からなる密着層を形成した。
【0120】
(6)防汚層(AFP)の成膜
図6に示す装置と同様の装置を用い、以下の方法で防汚層を成膜した。なお、ガラス板はキャリア基板を貼りつけたまま用い、第1面上および端面上の密着層の表面に同時に防汚層を効率的に真空蒸着法にて成膜した。まず、防汚層の材料として、フッ素含有有機ケイ素化合物膜の形成材料(KY-185、信越化学製)を、加熱容器内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して形成材料中の溶媒を除去し、加熱容器内でフッ素含有有機ケイ素化合物膜の形成用組成物(以下、防汚層形成用組成物という。)を得た。
【0121】
次いで、防汚層形成用組成物が入った加熱容器を、270℃まで加熱した。容器温度が270℃に到達した後、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。次に、キャリア基板に貼りつけたガラス板を真空チャンバ内に設置した。その後、防汚層形成用組成物が入った加熱容器と接続されたノズルから、ガラス板の第1面側の最表面に向けて防汚層形成用組成物を供給し、成膜を行った。
【0122】
成膜は、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより膜厚を測定しながら行い、防汚層の膜厚が4nmになるまで行った。次いで、真空チャンバから取り出されたガラス基板を、フッ素含有有機ケイ素化合物膜面を上向きにしてホットプレートに設置し、大気中150℃で60分間加熱処理を行った。
【0123】
このようにして、
図2および
図3に示す防汚層付きガラス板と同様の構成を有する、ガラス板の第1面上および端面上に酸化ケイ素膜からなる密着層および防汚層を備える防汚層付きガラス板を得た。
【0124】
(例2)
ガラス板に対して、例1と同様に、(1)防眩処理、(2)面取り、(3)化学強化処理およびアルカリ処理、(4)黒色印刷層の形成を行った。次いで、下記のように(5-2)密着層(低反射膜)の形成を行った後、低反射膜の最表層上に、例1と同様に(6)防汚層の成膜を行った。
【0125】
(5-2)密着層(低反射膜)の形成
まず、例1と同様に、ガラス板の、黒色印刷層の形成された第2面側の最表面をキャリア基板に貼りつけた。
【0126】
次いで、ガラス板の防眩処理の施された第1面の最表面に、次のように、高屈折率層を形成した。真空チャンバ内で、アルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、酸化ニオブターゲット(商品名:NBOターゲット、AGCセラミックス株式会社製)を用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、ガラス板の第1面と端面に、ガラス板の第1面上での厚さが13nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる第1の高屈折率層を形成した。
【0127】
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、前記高屈折率層上に、ガラス板の第1面上での厚さが35nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる第1の低屈折率層を形成した。
【0128】
次いで、第1の高屈折率層と同様にして、第1の低屈折率層上に、ガラス板の第1面上での厚さが115nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる第2の高屈折率層を形成した。さらに、第1の低屈折率層と同様にして、第2の高屈折率層上に、ガラス板の第1面上での厚さが80nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる第2の低屈折率層を形成した。
【0129】
このようにして、酸化ニオブ(ニオビア)と酸化ケイ素(シリカ)が交互に合計4層積層された低反射膜を形成した。当該低反射膜は、得られる防汚層付きガラス板において、密着層として機能する。
【0130】
(例3)
例2において、(1)防眩処理を行わず、(6)防汚層における形成材料をオプツール(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業社製)に変更した以外は例2と同様にして、防汚層付きガラス板を得た。
【0131】
(例4)
例2において、(4)黒色印刷層の形成を行わない以外は例2と同様にして、防汚層付きガラス板を得た。
【0132】
(例5)
例2において、(5-2)密着層(低反射膜)の構成を下記のように変更した以外は例2と同様にして、防汚層付きガラス板を得た。例5では、例2と同様の方法で、低反射膜を、窒化ケイ素(SiN)からなる高屈折率層および酸化ケイ素からなる低屈折率層をそれぞれ4層ずつ交互に積層して形成した。窒化ケイ素からなる高屈折率層は、真空チャンバ内で、アルゴンガスに窒素ガスを50体積%となるように混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行って形成した。低反射膜を構成する各層の厚みは、ガラス板に近い層から順に、第1の高屈折率層が15nm、第1の低屈折率層が70nm、第2の高屈折率層が17nm、第2の低屈折率層が105nm、第3の高屈折率層が15nm、第3の低屈折率層が50nm、第4の高屈折率層が120nm、第4の低屈折率層が80nmである。
【0133】
(例6)
例1において、(5-1)密着層の形成を行わない以外は例1と同様にして、第1面の最表面に防汚層の形成されたガラス板を得た。
【0134】
(例7)
例1において、(5-1)密着層の形成および(6)防汚層の成膜を行わない以外は、ガラス板に対して例1と同様の処理を行った。
【0135】
(例8)
例1において、(6)防汚層の成膜を行わない以外は例1と同様にして、第1面の最表面に密着層の形成されたガラス板を得た。
【0136】
[評価]
例1~5で得られた防汚層付きガラス板および例6~8で得られたガラス板について、4点曲げ強度、加傷4点曲げ強度、視感反射率、水接触角およびX線光電子分光法(XPS)によるフッ素の1s軌道のピークの検出をそれぞれ以下の方法で行った。
【0137】
(4点曲げ強度)
JIS R1601に定められる方法に準じて平均4点曲げ強度を測定した。防汚層付きガラス板またはガラス板を、外幅80mm、内幅40mmの間隔で配置された2個の支持具上に載置し、防汚層付きガラス板またはガラス板の載置された各支点間の中央から左右に等しい距離にある2点に分けて荷重を加えて割れたときの最大曲げ応力を測定した。防汚層付きガラス板またはガラス板の割れた際の最大応力は上記JIS規格にある4点曲げの計算式を使用して算出した。また、防汚層付きガラス板またはガラス板が割れた後に、割れ起点を確認し、2個の支持具の間の端面部から割れているものを評価の対象とした。
【0138】
(加傷4点曲げ強度)
上記4点曲げ強度において、防汚層付きガラス板またはガラス板の、2個の支持具と対向する面と垂直になる側の向かい合う2つの端面に、以下の加傷処理を行った後、上記同様に4点曲げ試験を行った。防汚層付きガラス板またはガラス板の端面に、厚み方向に対して平行な方向に沿って、カッター(オルファ製)の刃をあて、カッターに50gの荷重をかけた。この状態で、防汚層付きガラス板またはガラス板の端面の、厚み方向に対して平行な方向に沿って、全厚みに対してカッターを動かした。防汚層付きガラス板またはガラス板の2個の支持具の間の端面を4等分する位置に、上記方法で3箇所、加傷処理を行い、その後4点曲げ試験を行った。
【0139】
(水接触角)
防汚層付きガラス板またはガラス板の第1面側の最表面に約1μLの純水の水滴を着滴させ、接触角計(型式;DM-51、協和界面科学社製)を用いて、水に対する接触角を測定した。
【0140】
(視感反射率)
防汚層付きガラス板またはガラス板の第1面側の最表面における、第2面に形成された黒色印刷層に向き合う領域について、分光測色計(型式:CM-2600d、コニカミノルタ社製)により、分光反射率をSCIモードで測定し、その分光反射率から、視感反射率(JIS Z8701において規定されている反射の刺激値Y)を求めた。なお、例4の視感反射率は、例1と同様にして求めた。
【0141】
(XPSによるフッ素の1s軌道のピークの検出)
X線光電子分光器(型式:Quantera SXM、アルバックファイ社製)を用いて、防汚層付きガラス板またはガラス板の端面におけるフッ素(F)の1s軌道のピークの検出の有無を測定した。当該フッ素は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物に含まれるものであるため、フッ素の1s軌道のピークが検出されたことは、検出部分に防汚層が形成されたことを示す。
【0142】
例1~8におけるガラス板に対する各処理の内容および評価結果を表1に示す。表1において、防眩処理、化学強化処理の欄は、処理を行った場合を○、行わない場合を×で表わす。また、印刷層の欄は、印刷層を形成した場合を○、形成しない場合を×で表わす。
【0143】
【0144】
表1に示されるように、実施例(例1~5)の防汚層付きガラス板は、いずれも、第一面側において防汚層を備えており、かつ端面において、XPSによるFの1s軌道のピークが検出されており、端面に防汚層を備えることが確認されている。すなわち、実施例の防汚層付きガラス板は、ガラス板の第1面から端面にわたって密着層(低反射膜)および防汚層を備えることが分かる。
なお例4は参考例である。
【0145】
そして、実施例の防汚層付きガラス板は、加傷4点曲げ強度が4点曲げ強度の80%以上を維持しているのに対して、比較例(例6~8)におけるガラス板の加傷4点曲げ強度は、4点曲げ強度の50%未満に低下している。このことから、実施例の防汚層つきガラス板では、端面において、少なくとも割れの起点になりうるような長いマイクロクラックや深いマイクロクラックの発生が抑制されていると考えられる。
【0146】
また、例6では防汚層は形成されているが、密着層が形成されていないため、加傷処理で与えられたマイクロクラックがより長いおよび/または深いために、加傷4点曲げ強度が低下したと考えられる。すなわち、加傷4点曲げ強度を低下させないためには、密着層が必要であることがわかる。
【0147】
また、実施例の防汚層付きガラス板は、防汚層が形成されない例7、8のガラス板に比べていずれも水接触角が大きく、優れた防汚性を発揮することが分かる。
【符号の説明】
【0148】
1…防汚層付きガラス板、2…第一の主面、3…第二の主面、4…端面、5…ガラス板、6…密着層、7…防汚層、8…印刷層、9…キャリア基板。