(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】流体デバイス及びその使用
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20221018BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20221018BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B01J19/00 321
(21)【出願番号】P 2021188361
(22)【出願日】2021-11-19
(62)【分割の表示】P 2019567809の分割
【原出願日】2018-01-29
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】林 耕磨
(72)【発明者】
【氏名】藤次 陽介
(72)【発明者】
【氏名】上野 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 遼
(72)【発明者】
【氏名】李 永波
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/213123(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
B01J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延びる第1の流路と、
前記
第1の流路に配置される、閉じることによって前記
第1の流路の所定の領域を画定する第1の区画バルブ及び第2の区画バルブと、
前記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブとの間に配置され、前記
第1の流路の流路壁の少なくとも一部を形成する第1のダイアフラム部材及び第2のダイアフラム部材と、
第1のダイアフラム部材及び第2のダイアフラム部材との間に配置され、前記所定の領域を画定する第3の区画バルブと、
前記第1の区画バルブと前記第3の区画バルブとで区画される前記流路の第1の領域に接続される第2の流路と、
前記第2の区画バルブと前記第3の区画バルブとで区画される前記流路の第2の領域に接続される第3の流路と、
前記第2の流路に設けられた第4の区画バルブと、
前記第3の流路に設けられた第5の区画バルブと、を備え、
前記第1の区画バルブ
、前記第2の区画バルブ
、前記第4の区画バルブ及び前記第5の区画バルブを閉じた状態で、前記第1のダイアフラム部材及び前記第2のダイアフラム部材の少なくとも一方を変形可能である、流体デバイス。
【請求項2】
記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブによって画定された領域の体積が10μL以下である、請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項3】
前記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブによって画定された領域において、前記第1のダイアフラム部材と前記第2のダイアフラム部材との間に検出部を備える、請求項1又は2に記載の流体デバイス。
【請求項4】
流体を撹拌する方法であって、
請求項1に記載の流体デバイスの前記第3の区画バルブを閉じた状態で、前記第3の区画バルブに対して前記第1の流路の一方側に第1の流体を導入する工程と、
前記第3の区画バルブを閉じた状態で、前記第1の流路の他方側に第2の流体を導入する工程と、
前記第1の区画バルブ及び前記第4の区画バルブを閉じ、前記第1の領域に前記第1の流体を区画する工程と、
前記第2の区画バルブ及び前記第5の区画バルブを閉じ、前記第1の領域に前記第1の流体を区画する工程と、
前記第3の区画バルブを開き、前記第1のダイアフラム部材及び前記第2のダイアフラム部材を変形させ、前記第1の流体及び前記第2の流体を混合する工程と、
を備える方法。
【請求項5】
前記第1の流体及び前記第2の流体を混合する工程において、前記第1のダイアフラム部材の変形と前記第2のダイアフラム部材の変形は交互に行う、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体デバイス及びその使用に関する。より具体的には、流体デバイス及び流体を撹拌する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体外診断分野や生物学的な研究における試験の高速化、高効率化、集積化、検査機器の超小型化を目指したμ-TAS(Micro-Total Analysis Systems)の開発等が注目を浴びており、世界的に活発な研究が進められている。
【0003】
μ-TASは、少量の試料で測定、分析が可能なこと、持ち運びが可能なこと、低コストで使い捨てが可能なこと等において、従来の検査機器に比べて優れている。特に、高価な試薬を使用する場合や少量多検体を検査する場合において、有用性が高い方法として注目されている。
【0004】
μ-TAS等の小型の流体デバイス中で酵素反応、抗原抗体反応、核酸ハイブリダイゼーション反応等を行う場合、再現性の向上、検出シグナルの増強等の観点から、反応溶液を十分に撹拌し、検出反応を均一化することが重要である。したがって、微量の溶液を撹拌し、溶液を混合する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
一実施形態に係る流体デバイスは、流路と、前記流路に配置される、閉じることによって前記流路の所定の領域を画定する第1の区画バルブ及び第2の区画バルブと、前記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブとの間に配置され、前記流路の流路壁の少なくとも一部を形成する第1のダイアフラム部材及び第2のダイアフラム部材と、を備え、前記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブを閉じた状態で、前記第1のダイアフラム部材及び前記第2のダイアフラム部材の少なくとも一方を変形可能である。
【0007】
一実施形態に係る流体デバイスは、接合面で接合される第1の基板及び第2の基板を備え、前記第1の基板又は第2の基板の少なくとも一方は、両基板を接合することにより流路を形成する溝を接合面に有し、前記溝は2つの区画バルブを備え、前記第1の基板は、前記2つの区画バルブの間であり前記溝と対向する位置に配置される第1貫通孔と第2貫通孔を有し、前記第1貫通孔の溝側の開口部は流路の軸に向かう方向に変形可能である第1のダイアフラム部材で塞がれており、前記第2貫通孔の溝側の開口部は流路の軸から離れる方向に変形可能である第2のダイアフラム部材で塞がれている。
【0008】
一実施形態に係る流体を撹拌する方法は、上記の流体デバイスの前記流路に前記流体を導入する工程と、前記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブを閉じる工程と、前記第1のダイアフラム部材を前記流路の軸に向かう方向に変形し、前記第1のダイアフラム部材の変形を解消することを繰り返す工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る流体デバイス100の構造を説明する上面図及び断面図である。
【
図2】(a)及び(b)は、ダイアフラムバルブの構造を説明する断面図である。
【
図3】(a)及び(b)は、ダイアフラムバルブの構造を説明する断面図である。
【
図4】(a)~(f)は流体の撹拌方法を説明する模式図である。
【
図5】(a)~(d)は2種類の流体を定量して混合する方法を説明する上面模式図である。
【
図6】(a)~(d)は一実施形態に係る分析方法を説明する模式図である。
【
図7】(a)~(c)は実験例2の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0011】
[流体デバイス]
(第1実施形態)
一実施形態において、本発明は、流路と、前記流路に配置される、閉じることによって前記流路の所定の領域を画定する第1の区画バルブ及び第2の区画バルブと、前記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブとの間に配置され、前記流路の流路壁の少なくとも一部を形成する第1のダイアフラム部材及び第2のダイアフラム部材と、を備え、前記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブを閉じた状態で、前記第1のダイアフラム部材及び前記第2のダイアフラム部材の少なくとも一方を変形可能である、流体デバイスを提供する。
【0012】
本流体デバイスにおいて、前記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブを閉じることにより、前記流路の前記第1のダイアフラム部材及び前記第2のダイアフラム部材を含む領域が画定され、前記第1のダイアフラム部材又は前記第2のダイアフラム部材が変形することにより、前記画定された領域に存在する前記流体が撹拌される。
【0013】
前記画定された領域の体積、すなわち、本実施形態の流体デバイスで撹拌することができる流体の体積は、例えば10μL以下であり、例えば6μL以下である。
【0014】
従来、このような微小な体積の流体を撹拌することは困難であった。特に、本発明のような流体デバイスにおいて、流路上で、微小な体積の流体を撹拌することは困難であった。微小な体積の流体が導入される流路の流路径は、設計上細くなるため、流路内では流体は一般的に層流で流れる。そのため流路に導入された異なる液体や異なる密度の液体は混合されにくく、分布が均一になるように撹拌するためには長時間を要した。
【0015】
これに対し、実施例において後述するように、本実施形態の流体デバイスにより、微小な体積の流体を効率よく撹拌することができる。本実施形態の流体デバイスで撹拌する流体は、液体であってもよく、気体であってもよい。また、液体を撹拌する場合、液体は磁性粒子等の粒子を含んでいてもよい。
【0016】
本実施形態の流体デバイスにおいて、流体が流れる流路とは、流体を流すための流路を意味し、流体が流れている状態及び流体が流れていない状態の双方を含む。
【0017】
図1は、一実施形態に係る流体デバイス100の構造を説明する上面図及び断面図である。流体デバイス100は、流体Lを流すための流路110と、第1の区画バルブ120と、第2の区画バルブ130と、第1のダイアフラム部材140と、第2のダイアフラム部材150と、を備え、流路110に、第1の区画バルブ120、第1のダイアフラム部材140、第2のダイアフラム部材150及び第2の区画バルブ130がこの順に設けられている。
【0018】
流路110の断面は、例えば略矩形、円形、楕円形である。流路110には、第1のダイアフラム部材140、第2のダイアフラム部材150、第1の区画バルブ120、第2の区画バルブ130の、それぞれの一部が露出している。第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じることにより、流路110の第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150を含む領域115が画定され、第1のダイアフラム部材140又は第2のダイアフラム部材150が変形することにより、画定された領域115に存在する前記流体Lが撹拌される。
【0019】
図1の例では、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130が閉じており、領域115が画定されている。本明細書において、「画定」とは、流路の対象領域を流路の他の領域から区別することを意味し、「遮断」、「独立」等といいかえることができる。
【0020】
第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150は、流路110の軸方向(流体Lが流れる方向)に垂直な方向に変形するものであってよい。流路110の軸方向に垂直な方向は、流路110の軸に向かう方向、後述する第2の基板220の厚さ方向等といいかえることができる。
【0021】
第1のダイアフラム部材140又は第2のダイアフラム部材150が変形することにより、それぞれ、第2のダイアフラム部材150又は第1のダイアフラム部材140が変形することにより生じる、画定された領域115の体積の変化が吸収される。
【0022】
より具体的には、第1のダイアフラム部材140が突出するように流路110の軸に向かう方向に変形すると、押しのけられた流体Lが、第2のダイアフラム部材150を流路110の外側に向かって押し出して変形させる。すなわち、第1のダイアフラム部材140の変形によって、流体Lには第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう圧力がかかり、その圧力が第2のダイアフラム部材150を流路110の軸から離れる方向に変形させる。これにより、領域115の体積は第1のダイアフラム部材140の変形前と実質的に同じ体積に維持される。このように、第1のダイアフラム部材140又は第2のダイアフラム部材150を変形させたときに、第2のダイアフラム部材150又は第1のダイアフラム部材140が変形して領域115の体積が実質的に変化しないことを、体積の変化が吸収されるという。
【0023】
同様に、第2のダイアフラム部材150が流路110の軸に向かう方向に突出するように変形すると、押しのけられた流体Lが、第1のダイアフラム部材140を流路の外側に向かって押し出して変形させる。すなわち、第2のダイアフラム部材150の変形によって、流体Lには第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう圧力がかかり、その圧力が第1のダイアフラム部材140を流路110の軸から離れる方向に変形させる。領域115の体積は第2のダイアフラム部材150の変形前と実質的に同じ体積に維持される。
【0024】
なお、第1のダイアフラム部材140の変形から第2のダイアフラム部材150の変形まで、又は第2のダイアフラム部材150の変形から第1のダイアフラム部材140の変形までには、領域115に存在する流体Lによって領域115の体積が変化した影響が及ぶまでに時間を要する場合がある。このため、第1のダイアフラム部材140の変形から第2のダイアフラム部材150の変形まで、又は第2のダイアフラム部材150の変形から第1のダイアフラム部材140の変形までには、時間差が生じる場合がある。
【0025】
本実施形態の流体デバイスは、第1のダイアフラム部材140を流路110の軸に向かう方向に変形させた結果、第2のダイアフラム部材150が流路110の軸から離れる方向に変形するものであってもよい。また、第2のダイアフラム部材150を流路110の軸に向かう方向に変形させた結果、第1のダイアフラム部材140が流路110の軸から離れる方向に変形するものであってもよい。また、第1のダイアフラム部材140を流路110の軸から離れる方向に凹むように変形した結果、流体Lに第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう圧力がかかり、その圧力が第2のダイアフラム部材150を流路110の軸に向かう方向に変形させてもよい。また、第2のダイアフラム部材150を流路110の軸から離れる方向に凹むように変形した結果、流体Lに第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう圧力がかかり、その圧力が第1のダイアフラム部材140を流路110の軸に向かう方向に変形させてもよい。
【0026】
図1の例では、第1のダイアフラム部材140が流路110の軸に向かう方向に変形し、第2のダイアフラム部材150が流路110の軸から離れる方向に変形している。そして、第1のダイアフラム部材140の変形により、生じた領域115の体積の変化は、第2のダイアフラム部材150が変形することにより吸収され、領域115の体積は第1のダイアフラム部材140の変形前と同じ体積に維持されている。
【0027】
本実施形態の流体デバイスにおいて、第1のダイアフラム部材140の変形量及び第2ダイアフラム部材150の変形量は、実質同一であってもよい。特に、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150の形状、大きさ、材質等がほぼ同一であると、第1のダイアフラム部材140の変形量及び第2ダイアフラム部材150の変形量は、実質同一となる傾向にある。ここで、実質同一とは、同一であること、又は、略同一であり、流体デバイスの製造上回避することが困難な誤差程度の差が存在することを意味する。
【0028】
本実施形態の流体デバイスにおいて、画定された領域115の体積と、撹拌される流体Lの体積は等しくてもよい。画定された領域115が流体Lで完全に満たされた場合、画定された領域115の体積と、撹拌される流体Lの体積は等しくなる。
【0029】
後述するように、本実施形態の流体デバイスにおいて、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じることにより、流路110の第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150を含む領域115が画定される。また、領域115が画定された状態で、第1のダイアフラム部材140又は第2のダイアフラム部材150が変形することにより、画定された領域115に存在する流体Lが、第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう方向、又は第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向に移動し、撹拌される。
【0030】
《区画バルブ》
本実施形態の流体デバイスにおいて、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130は、領域115を画定することができれば特に制限されないが、例えばダイアフラムバルブであってもよい。第1区画バルブ120と第2区画バルブ130との間の距離は、例えば、0.1~100mm程度であり、0.5~50mm程度であり、1~20mm程度である。第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130は、流路110に配置され、流路110の一部を構成する。流路110を流れる流体は、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130と接触し、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130の開閉動作により流体の流れが変化する。
【0031】
第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130は、流路110において開閉動作が可能であるように動作すればよい。後述するダイアフラム部材とは異なり、特に流路の軸から離れる方向に変形しないように、流路と反対側の面が基板と接していてもよく、また一方向にしかバルブが変形しないように制御されていてもよい。
【0032】
図2(a)及び(b)は、ダイアフラムバルブの構造の一例を説明する断面図である。
図2(a)はダイアフラムバルブ200の開状態を示し、
図2(b)はダイアフラムバルブ200の閉状態を示す。
図2(a)及び(b)に示すように、ダイアフラムバルブ200は、第1の基板210と、エラストマー材料からなる弾性部材230と、第2の基板220とを備えている。第2の基板220と弾性部材230とは密着した状態で接着されている。また、第1の基板210とダイアフラム部材230との間の空間は流体Lを流すための流路110を形成している。また、第2の基板220の一部には貫通孔240が設けられている。また、貫通孔240においては、弾性部材230が露出している。
【0033】
図2(a)に示すダイアフラムバルブ200の開状態では、流路110の内部を流体Lが流れることができる。一方、
図2(b)に示すように、ダイアフラムバルブ200の貫通孔240からバルブ制御用の流体を供給し、貫通孔240の内部を加圧すると、弾性部材230が変形し、変形した弾性部材230の一部が第1の基板210と密着する。この状態は、ダイアフラムバルブ200の閉状態である。その結果、流路110の内部の流体Lの流れが遮断される。
【0034】
図2(b)の例では、ダイアフラムバルブ200は、流路110の軸方向(流体Lが流れる方向)に垂直な方向(流路110の軸に向かう方向)に変形している。また、ダイアフラムバルブ200は、第2の基板220の厚さ方向に変形している。
【0035】
ここで、
図2(a)及び(b)に示すように、ダイアフラムバルブ200の閉状態をより強固なものとするために、貫通孔240と対向する第1の基板210の領域には凸部211が形成されていてもよい。
【0036】
ダイアフラムバルブ200は、流体により開閉を制御されてもよい。バルブ制御用の流体としては、N2ガス、空気等の気体、水、油等の液体等が挙げられる。バルブ制御用の流体は、例えば、貫通孔240に接続されたチューブ等により供給することができる。あるいは、バルブの開閉は、機械的な力や電磁力で制御されてもよい。
【0037】
また、弾性部材230を形成するエラストマー材料としては、貫通孔240の内部の圧力変化に応じて貫通孔240の軸線方向に変形可能な材料であれば特に限定されず、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等のシリコーン系エラストマー等が挙げられる。
【0038】
図2(b)に示す閉状態のダイアフラムバルブ200において、貫通孔240の内部に印加していた圧力を低下させると、変形していた弾性部材230が元の形状に戻り、再び
図2(a)に示す開状態となる。その結果、再び流路110の内部を流体Lが流れることができるようになる。
【0039】
ダイアフラムバルブの構造は、上述したものに限られない。例えば、
図3(a)及び(b)に示すダイアフラムバルブ300を用いることもできる。
図3(a)はダイアフラムバルブ300の開状態を示し、
図3(b)はダイアフラムバルブ300の閉状態を示す。
【0040】
図3(a)及び(b)に示すように、ダイアフラムバルブ300は、上述したダイアフラムバルブ200と比較すると、弾性部材230が第2の基板220の全面に配置されておらず、ダイアフラムバルブ300の周囲のみに局所的に配置されている点が主に異なっている。
【0041】
ダイアフラムバルブ300の弾性部材230は、アンカー部231を備えていることにより、弾性部材230を加圧により変形させた場合においても、弾性部材230が破損して第2の基板220から剥離することが抑制されている。
【0042】
図3(a)に示すダイアフラムバルブ300の開状態では、流路110の内部を流体Lが流れることができる。一方、
図3(b)に示すように、ダイアフラムバルブ300の貫通孔240からバルブ制御用の流体を供給し、貫通孔240の内部を加圧すると、弾性部材230が変形し、変形した弾性部材230の一部が第1の基板210と密着する。この状態は、ダイアフラムバルブ300の閉状態である。その結果、流路110の内部の流体Lの流れが遮断される。
【0043】
図3(b)の例では、ダイアフラムバルブ300は、流路110の軸方向(流体Lが流れる方向)に垂直な方向(流路110の軸に向かう方向)に変形している。またダイアフラムバルブ300は、第2の基板220の厚さ方向に変形している。
【0044】
ダイアフラムバルブ300において、バルブ制御用の流体としては、ダイアフラムバルブ200と同様のものを用いることができる。あるいは、ダイアフラムバルブ300の開閉は、機械的な力や電磁力で制御されてもよい。また、弾性部材230を形成するエラストマー材料としては、ダイアフラムバルブ200と同様のものを用いることができる。
【0045】
図3(b)に示す閉状態のダイアフラムバルブ300において、貫通孔240の内部に印加していた圧力を低下させると、変形していた弾性部材230が元の形状に戻り、再び
図3(a)に示す開状態となる。その結果、再び流路110の内部を流体Lが流れることができるようになる。
【0046】
第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130がダイアフラムバルブである場合、
図2(b)又は
図3(b)に示すように、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じることにより、流路110の第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150を含む領域115を画定することができる。
【0047】
第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130は、ノーマリークローズド・バルブであってもよく、ノーマリーオープン・バルブであってもよい。ノーマリークローズド・バルブは、定常状態において閉状態であり、バルブを作動させることによって開状態となるバルブである。また、ノーマリーオープン・バルブは、定常状態において開状態であり、バルブを作動させることによって閉状態となるバルブである。
【0048】
第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130がノーマリークローズド・バルブである場合、定常状態において第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130は閉状態であり、バルブを作動させることによって、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130により画定された領域115が解放される。
【0049】
また、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130がノーマリーオープン・バルブである場合、定常状態において第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130は開状態であり、バルブを作動させることによって閉状態となり、流路110の一部の領域115が画定された領域となる。
【0050】
《ダイアフラム部材》
本実施形態の流体デバイスにおいて、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150はエラストマー材料から形成されていてもよい。エラストマー材料としては、ダイアフラムバルブの弾性部材について上述したものと同様のものを用いることができる。第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150は、流体により開閉を制御されてもよい。バルブ制御用の流体としては、N2ガス、空気等の気体、水、油等の液体等が挙げられる。あるいは、バルブの開閉は、機械的な力や電磁力で制御されてもよい。
【0051】
第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150は、流路110に配置され、流路110の流路壁の一部を構成する。流路110を流れる流体は、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150と接触し、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150の変形により流体の流れが変化する。
【0052】
第1のダイアフラム部材140第2のダイアフラム部材150は対となっており、一方のダイアフラム部材が変形することによる流体の移動に伴い、他方のダイアフラム部材は一方のダイアフラム部材とは逆方向に変形する。そのため、例えば第1のダイアフラム部材140が流路110の軸に向かう方向に変形可能であり、第2のダイアフラム部材150が流路110の軸から離れる方向に変形可能である。あるいは、例えば、第2のダイアフラム部材150が流路110の軸に向かう方向に変形可能であり、第1のダイアフラム部材140が流路110の軸から離れる方向に変形可能である。あるいは、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150の双方が、流路110の軸に向かう方向と流路110の軸から離れる方向との双方向に変形可能である。この点が、上述した第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130が、流路110において開閉動作が可能であるように動作すればよい点とは異なる。
【0053】
第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150は、変形することにより流路110を遮断するものであってもよい。あるいは、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150は、変形することにより領域115の体積を変化させることができる限り、流路110を遮断しないものであってもよい。
【0054】
第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150が、変形することにより流路110を遮断するものである場合、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150は、上述したものと同様のダイアフラムバルブであってもよい。第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150は、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130と同じものであってもよい。
【0055】
《検出部》
本実施形態の流体デバイスにおいて、領域115は、酵素反応、抗原抗体反応、核酸ハイブリダイゼーション反応等を行う反応部であってもよい。領域115に存在する流体Lを撹拌する結果、上記の反応を均一に行い、再現性の向上、検出シグナルの増強等の効果が得られる。
【0056】
本実施形態の流体デバイスは、酵素反応、抗原抗体反応、核酸ハイブリダイゼーション反応等を検出する検出部を更に備えていてもよい。検出部は領域115の外部に存在しており、撹拌後の反応液を検出部に送液して反応結果を検出してもよい。あるいは、検出部は領域115の内部に存在していてもよい。
【0057】
例えば、検出部は、領域115において、第1のダイアフラム部材140と第2のダイアフラム部材150との間に配置されていてもよい。
【0058】
検出部が領域115の内部に存在している場合、撹拌を行っている間、すなわち、酵素反応、抗原抗体反応、核酸ハイブリダイゼーション反応等を実行している間にもリアルタイムに検出を行うことができる。
【0059】
検出部は、例えば、酵素反応、抗原抗体反応、核酸ハイブリダイゼーション反応等を光学的に検出するものであってもよいし、電気的に検出するものであってもよい。光学的に検出する検出器としては、分光光度計、蛍光光度計等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0060】
《流体デバイス》
本実施形態の流体デバイスは、接合面で接合される第1の基板及び第2の基板を備え、前記第1の基板又は第2の基板の少なくとも一方は、両基板を接合することにより流路を形成する溝を接合面に有し、前記溝は2つの区画バルブを備え、前記第1の基板は、前記2つの区画バルブの間であり前記溝と対向する位置に配置される第1貫通孔と第2貫通孔を有し、前記第1貫通孔の溝側の開口部は流路の軸に向かう方向に変形可能である第1のダイアフラム部材で塞がれており、前記第2貫通孔の溝側の開口部は流路の軸から離れる方向に変形可能である第2のダイアフラム部材で塞がれている。
【0061】
本実施形態の流体デバイスはカートリッジであってもよい。すなわち、本実施形態の流体デバイスは、自由に着脱することができる部品であり、分析装置に着脱するものであってもよい。あるいは、本実施形態の流体デバイスは、分析装置に着脱するカートリッジに組み込まれた流体デバイスの一部であってもよい。
【0062】
本実施形態の流体デバイスにおいて、少なくとも2枚の基板が積層構造をとっている。2枚の基板の接合面には、流路110となる溝が形成されている。1枚の基板は、少なくとも2つの貫通孔を有しており、それぞれの貫通孔の接合面側にはダイアフラム部材が備えられている。これらのダイアフラム部材は、第1のダイアフラム部材140、第2のダイアフラム部材150となる。後述する通り、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130がダイアフラム部材である場合には、1枚の基板は、さらに2つの貫通孔を備え、それぞれの貫通孔の接合面側には弾性部材が備えられていてもよい。これらの弾性部材は、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130となる。
【0063】
[液体を撹拌する方法]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、流体を撹拌する方法であって、上述した流体デバイスの前記流路に前記流体を導入する工程と、前記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブを閉じる工程と、前記第1のダイアフラム部材を前記流路の軸に向かう方向に変形し、前記第1のダイアフラム部材の変形を解消することを繰り返す工程と、を備える方法を提供する。本実施形態の方法により、微小な体積の流体を効率よく撹拌することができる。
【0064】
本実施形態の方法は、流体を撹拌する方法であって、上述した流体デバイスの前記流路に前記流体を導入する工程と、前記第1の区画バルブ及び前記第2の区画バルブを閉じて、前記流路の前記第1のダイアフラム部材及び前記第2のダイアフラム部材を含む領域を画定する工程と、前記第1のダイアフラム部材を前記流路の軸に向かう方向に変形し、その結果、前記画定された領域に存在する前記流体が前記第1のダイアフラム部材から前記第2のダイアフラム部材に向かう方向に移動すると共に、前記第2のダイアフラム部材が前記流路の軸から離れる方向に変形する工程と、前記第1のダイアフラム部材の変形を解消し、その結果、前記領域に存在する前記流体が前記第2のダイアフラム部材から前記第1のダイアフラム部材に向かう方向に移動すると共に、前記第2のダイアフラム部材の変形が解消される工程と、を備え、前記画定された領域に存在する前記流体が前記第1のダイアフラム部材から前記第2のダイアフラム部材に向かう方向又はその反対方向に移動することにより撹拌される方法であってもよい。
【0065】
以下、
図4(a)~(d)を参照しながら、第1実施形態に係る流体の撹拌方法を説明する。
図4(a)は、上述した流体デバイスの一例を示す断面図である。
図4(a)に示すように、まず、流体デバイス100の流路110に流体Lを導入する。流体デバイス100の流路110への流体Lの導入方法は特に制限されず、流路110に接続された不図示のポンプ等により行ってもよい。
【0066】
続いて、
図4(b)に示すように、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じて、流路110の第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150を含む領域115を画定する。領域115が画定されると、領域115の内部に存在していた流体Lの流れが停止し、静止状態となる。
【0067】
続いて、
図4(c)に示すように、第1のダイアフラム部材140を流路110の軸に向かう方向(矢印140D1で示す方向)に変形させる。ダイアフラム部材140の変形は、上述したダイアフラムバルブの制御と同様にして行うことができる。例えば、バルブ制御用の流体として上述したものと同様の流体を、矢印140D1の方向に供給することにより、ダイアフラム部材140を変形させることができる。あるいは、機械的な力や電磁力でダイアフラム部材140を変形させてもよい。
【0068】
その結果、画定された領域115に存在する流体Lが第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう方向(矢印LD1で示す方向)に移動すると共に、第2のダイアフラム部材150が流路110の軸から離れる方向(矢印150D1で示す方向)に変形する。
【0069】
第1のダイアフラム部材140が変形することにより生じた領域115の体積の変化は、第2のダイアフラム部材150が変形することにより吸収され、領域115の体積は第1のダイアフラム部材140の変形前と同じ体積に維持される。
【0070】
続いて、
図4(d)に示すように、第1のダイアフラム部材140の変形を解消する。第1のダイアフラム部材140の変形の解消は、例えば、
図4(c)において、矢印140D1の方向に供給していたバルブ制御用の流体の供給を停止すること等により行うことができる。
【0071】
その結果、領域115に存在する流体Lが第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向(矢印LD2で示す方向)に移動すると共に、第2のダイアフラム部材150の変形が解消される。
【0072】
第1のダイアフラム部材140の変形が解消することにより生じた領域115の体積の変化は、第2のダイアフラム部材150の変形が解消することにより吸収され、領域115の体積は第1のダイアフラム部材140の変形前と同じ体積に維持される。
【0073】
第1のダイアフラム部材140を流路110の軸に向かう方向に変形する工程、及び第1のダイアフラム部材140の変形を解消する工程は、複数回繰り返し行うことが好ましい。
【0074】
以上の工程により、領域115に存在する流体Lが第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう方向(矢印LD1で示す方向)又はその反対方向(矢印LD2で示す方向)に移動することにより撹拌される。
【0075】
このように、第1のダイアフラム部材140を変形させ、元に戻すことにより、領域115に存在する流体Lを撹拌することができる。
【0076】
(第2実施形態)
上述した実施形態に係る流体の撹拌方法は、前記第2のダイアフラム部材を前記流路の軸に向かう方向に変形し、前記第2のダイアフラム部材の変形を解消することを繰り返す工程を更に備え、前記第1のダイアフラム部材を変形し、前記第1のダイアフラム部材の変形を解消する工程と、前記第2のダイアフラム部材を変形し、前記第2のダイアフラム部材の変形を解消する工程と、を交互に行うものであってもよい。
【0077】
例えば、第2のダイアフラム部材150を流路110の軸に向かう方向に変形し、その結果、画定された領域115に存在する流体Lが第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向(矢印LD2で示す方向)に移動すると共に、第1のダイアフラム部材140が流路110の軸から離れる方向に変形する工程と、第2のダイアフラム部材150の変形を解消し、その結果、領域115に存在する流体Lが第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう方向(矢印LD1で示す方向)に移動すると共に、第1のダイアフラム部材140の変形が解消される工程と、を更に備えるものであってもよい。
【0078】
第1実施形態に係る流体の撹拌方法では、第1のダイアフラム部材140のみを変形させていたのに対し、第2実施形態に係る流体の撹拌方法は、第1のダイアフラム部材140だけでなく、第2のダイアフラム部材150も変形させる点において主に異なる。
【0079】
図4(a)~(f)を参照しながら、第2実施形態に係る流体の撹拌方法を説明する。第2実施形態に係る流体の撹拌方法において、
図4(a)~(d)を参照して上述した工程については第1実施形態に係る流体の撹拌方法と同様である。
【0080】
図4(d)を参照して上述したように、第1のダイアフラム部材140の変形を解消すると、領域115に存在する流体Lが第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向(矢印LD2で示す方向)に移動すると共に、第2のダイアフラム部材150の変形が解消される。
【0081】
続いて、
図4(e)に示すように、第2のダイアフラム部材150を流路110の軸に向かう方向(矢印150D2で示す方向)に変形させる。ダイアフラム部材150の変形は、上述したダイアフラム部材140の変形と同様にして行うことができる。
【0082】
その結果、画定された領域115に存在する流体Lが第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向(矢印LD2で示す方向)に移動すると共に、第1のダイアフラム部材140が流路110の軸から離れる方向(矢印140D2で示す方向)に変形する。
【0083】
第2のダイアフラム部材150が変形することにより生じた領域115の体積の変化は、第1のダイアフラム部材140が変形することにより吸収され、領域115の体積は第2のダイアフラム部材150の変形前と同じ体積に維持される。
【0084】
続いて、
図4(f)に示すように、第2のダイアフラム部材150の変形を解消する。第2のダイアフラム部材150の変形の解消は、例えば、
図4(e)において、矢印150D2の方向に供給していたバルブ制御用の流体の供給を停止すること等により行うことができる。
【0085】
その結果、領域115に存在する流体Lが第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう方向(矢印LD1で示す方向)に移動すると共に、第1のダイアフラム部材140の変形が解消される。
【0086】
第2のダイアフラム部材150の変形が解消することにより生じた領域115の体積の変化は、第1のダイアフラム部材140の変形が解消することにより吸収され、領域115の体積は第2のダイアフラム部材150の変形前と同じ体積に維持される。
【0087】
このように、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150を、それぞれ流路110の軸に向かう方向に変形させ、元に戻すことによっても、領域115に存在する流体Lを撹拌することができる。
【0088】
第2実施形態に係る流体の撹拌方法において、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150のうち、いずれのダイアフラム部材を最初に変形させるかは限定されない。上述した例では、第1のダイアフラム部材140を最初に変形させたが、第2のダイアフラム部材150を最初に変形させてもよい。
【0089】
(第3実施形態)
上述した第1実施形態及び第2実施形態に係る流体の撹拌方法は、前記第1のダイアフラム部材を前記流路の軸から離れる方向に変形し、前記第1のダイアフラム部材の変形を解消することを繰り返す工程を更に備え、前記第1のダイアフラム部材を前記流路の軸に向かう方向に変形し、前記変形を解消する工程と、前記第1のダイアフラム部材を前記流路の軸から離れる方向に変形し、前記第1のダイアフラム部材の変形を解消することを繰り返す工程と、を交互に行うものであってもよい。
【0090】
例えば、上述した第1実施形態及び第2実施形態に係る流体の撹拌方法は、第1のダイアフラム部材140を流路110の軸から離れる方向(矢印140D2で示す方向)に変形し、その結果、画定された領域115に存在する流体Lが第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向(矢印LD2で示す方向)に移動すると共に、第2のダイアフラム部材150が流路110の軸に向かう方向(矢印150D2で示す方向)に変形する工程と、第1のダイアフラム部材140の変形を解消し、その結果、領域115に存在する流体Lが第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう方向(矢印150D1で示す方向)に移動すると共に、第2のダイアフラム部材150の変形が解消される工程と、を更に備えるものであってもよい。
【0091】
第3実施形態に係る流体の撹拌方法は、第1実施形態及び第2実施形態に係る流体の撹拌方法と比較して、第1のダイアフラム部材140を流路110の軸に向かう方向及び流路110の軸から離れる方向の双方向に変形させる点において主に異なる。第1実施形態及び第2実施形態に係る流体の撹拌方法では、第1のダイアフラム部材140は流路110の軸に向かう方向のみにしか変形させていなかった。
【0092】
ここで、変形させるとは、ダイアフラム部材を能動的に変形させることを意味し、領域115の体積の変化を吸収するためにダイアフラム部材が受動的に変形することを含まない。
【0093】
図4(a)~(f)を参照しながら、第3実施形態に係る流体の撹拌方法を説明する。第3実施形態に係る流体の撹拌方法は、
図4(a)~(d)を参照して上述した工程については第1実施形態及び第2実施形態に係る流体の撹拌方法と同様である。
【0094】
図4(d)を参照して上述したように、第1のダイアフラム部材140の変形を解消すると、領域115に存在する流体Lが第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向(矢印LD2で示す方向)に移動すると共に、第2のダイアフラム部材150の変形が解消される。
【0095】
続いて、
図4(e)に示すように、第1のダイアフラム部材140を流路110の軸から離れる方向(矢印140D2で示す方向)に変形させる。ダイアフラム部材140の変形は、例えば、ダイアフラム部材140を、矢印140D2の方向に吸引することにより行うことができる。あるいは、機械的な力や電磁力でダイアフラム部材140を変形させてもよい。
【0096】
その結果、画定された領域115に存在する流体Lが第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向(矢印LD2で示す方向)に移動すると共に、第2のダイアフラム部材150が流路110の軸に向かう方向に変形する。
【0097】
本工程において、ダイアフラム部材140の変形方向、ダイアフラム部材150の変形方向及び流体Lの移動方向は、第2実施形態について
図4(e)を参照しながら説明した工程におけるものと同様である。第2実施形態では第2のダイアフラム部材150を能動的に変形させたのに対し、第3実施形態では、第1のダイアフラム部材140を能動的に変形させた点が異なる。
【0098】
第1のダイアフラム部材140が変形することにより生じた領域115の体積の変化は、第2のダイアフラム部材150が変形することにより吸収され、領域115の体積は第1のダイアフラム部材140の変形前と同じ体積に維持される。ここで、第2のダイアフラム部材150の変形は受動的である。
【0099】
続いて、
図4(f)に示すように、第1のダイアフラム部材140の変形を解消する。第1のダイアフラム部材140の変形の解消は、例えば、
図4(e)において上述した、矢印140D2の方向への吸引を停止すること等により行うことができる。
【0100】
その結果、領域115に存在する流体Lが第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう方向(矢印LD1で示す方向)に移動すると共に、第2のダイアフラム部材150の変形が解消される。
【0101】
第1のダイアフラム部材140の変形が解消することにより生じた領域115の体積の変化は、第2のダイアフラム部材150の変形が解消することにより吸収され、領域115の体積は第1のダイアフラム部材140の変形前と同じ体積に維持される。
【0102】
このように、第1のダイアフラム部材140を、流路110の軸に向かう方向及び流路110の軸から離れる方向に変形させ、元に戻すことによっても、領域115に存在する流体Lを撹拌することができる。
【0103】
(第4実施形態)
上述した第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態に係る流体の撹拌方法は、前記第2のダイアフラム部材を前記流路の軸から離れる方向に変形し、前記第1のダイアフラム部材の変形を解消することを繰り返す工程を更に備え、前記第1のダイアフラム部材を前記流路の軸に向かう方向に変形し、前記変形を解消する工程と、前記第2のダイアフラム部材を前記流路の軸から離れる方向に変形し、前記第2のダイアフラム部材の変形を解消することを繰り返す工程と、を交互に行うものであってもよい。
【0104】
例えば、第2のダイアフラム部材150を流路110の軸から離れる方向(矢印150D1で示す方向)に変形し、その結果、画定された領域115に存在する流体Lが第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう方向(矢印LD1で示す方向)に移動すると共に、第1のダイアフラム部材140が流路110の軸に向かう方向(矢印140D1で示す方向)に変形する工程と、第2のダイアフラム部材150の変形を解消し、その結果、領域115に存在する流体Lが第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向(矢印LD2で示す方向)に移動すると共に、第1のダイアフラム部材140の変形が解消される工程と、を更に備えるものであってもよい。
【0105】
第4実施形態に係る流体の撹拌方法は、第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態に係る流体の撹拌方法と比較して、第2のダイアフラム部材150を流路110の軸に向かう方向及び流路110の軸から離れる方向の双方向に変形させる点において主に異なる。第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態に係る流体の撹拌方法では、第2のダイアフラム部材150は流路110の軸に向かう方向のみにしか変形させていなかった。
【0106】
ここで、変形させるとは、ダイアフラム部材を能動的に変形させることを意味し、領域115の体積の変化を吸収するためにダイアフラム部材が受動的に変形することを含まない。
【0107】
図4(a)~(f)を参照しながら、第4実施形態に係る流体の撹拌方法を説明する。第4実施形態に係る流体の撹拌方法は、
図4(a)~(b)を参照して上述した工程については第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態に係る流体の撹拌方法と同様である。
【0108】
図4(b)を参照して上述したように、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じて、流路110の第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150を含む領域115を画定すると、領域115の内部に存在していた流体Lの流れが停止し、静止状態となる。
【0109】
続いて、
図4(c)に示すように、第2のダイアフラム部材150を流路110の軸から離れる方向(矢印150D1で示す方向)に変形させる。ダイアフラム部材150の変形は、例えば、ダイアフラム部材150を、矢印150D1の方向に吸引することにより行うことができる。あるいは、機械的な力や電磁力でダイアフラム部材150を変形させてもよい。
【0110】
その結果、画定された領域115に存在する流体Lが第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう方向(矢印LD1で示す方向)に移動すると共に、第1のダイアフラム部材140が流路110の軸に向かう方向に変形する。
【0111】
本工程において、ダイアフラム部材150の変形方向、ダイアフラム部材140の変形方向及び流体Lの移動方向は、第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態について
図4(c)を参照しながら説明した工程におけるものと同様である。第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態では第2のダイアフラム部材150は受動的に変形したのに対し、第4実施形態では、第2のダイアフラム部材150を能動的に変形させた点が異なる。
【0112】
第2のダイアフラム部材150が変形することにより生じた領域115の体積の変化は、第1のダイアフラム部材140が変形することにより吸収され、領域115の体積は第2のダイアフラム部材150の変形前と同じ体積に維持される。ここで、第1のダイアフラム部材140の変形は受動的である。
【0113】
続いて、
図4(d)に示すように、第2のダイアフラム部材150の変形を解消する。第2のダイアフラム部材150の変形の解消は、例えば、
図4(c)において上述した、矢印150D1の方向への吸引を停止すること等により行うことができる。
【0114】
その結果、領域115に存在する流体Lが第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向(矢印LD2で示す方向)に移動すると共に、第1のダイアフラム部材140の変形が解消される。
【0115】
第2のダイアフラム部材150の変形が解消することにより生じた領域115の体積の変化は、第1のダイアフラム部材140の変形が解消することにより吸収され、領域115の体積は第2のダイアフラム部材150の変形前と同じ体積に維持される。
【0116】
続いて、
図4(e)に示すように、第2のダイアフラム部材150を流路110の軸に向かう方向(矢印150D2で示す方向)に変形させる。例えば、バルブ制御用の流体として上述したものと同様の流体を、矢印150D2の方向に供給することにより、ダイアフラム部材150を変形させることができる。あるいは、機械的な力や電磁力でダイアフラム部材150を変形させてもよい。
【0117】
その結果、画定された領域115に存在する流体Lが第2のダイアフラム部材150から第1のダイアフラム部材140に向かう方向(矢印LD2で示す方向)に移動すると共に、第1のダイアフラム部材140が流路110の軸から離れる方向(矢印140D2で示す方向)に変形する。
【0118】
本工程において、ダイアフラム部材140の変形方向、ダイアフラム部材150の変形方向及び流体Lの移動方向は、第3実施形態について
図4(e)を参照しながら説明した工程におけるものと同様である。第3実施形態では第1のダイアフラム部材140を能動的に変形させたのに対し、第4実施形態では、第2のダイアフラム部材150を能動的に変形させた点が異なる。
【0119】
第2のダイアフラム部材150が変形することにより生じた領域115の体積の変化は、第1のダイアフラム部材140が変形することにより吸収され、領域115の体積は第2のダイアフラム部材150の変形前と同じ体積に維持される。ここで、第1のダイアフラム部材140の変形は受動的である。
【0120】
続いて、
図4(f)に示すように、第2のダイアフラム部材150の変形を解消する。第2のダイアフラム部材150の変形の解消は、例えば、
図4(e)において、矢印150D2の方向に供給していたバルブ制御用の流体の供給を停止すること等により行うことができる。
【0121】
その結果、領域115に存在する流体Lが第1のダイアフラム部材140から第2のダイアフラム部材150に向かう方向(矢印LD1で示す方向)に移動すると共に、第1のダイアフラム部材140の変形が解消される。
【0122】
第2のダイアフラム部材150の変形が解消することにより生じた領域115の体積の変化は、第1のダイアフラム部材140の変形が解消することにより吸収され、領域115の体積は第2のダイアフラム部材150の変形前と同じ体積に維持される。
【0123】
このように、第2のダイアフラム部材150を、流路110の軸に向かう方向及び流路110の軸から離れる方向に変形させ、元に戻すことによっても、領域115に存在する流体Lを撹拌することができる。
【0124】
上述した第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態及び第4実施形態に係る流体の撹拌方法は、互いに組み合わせて実施してもよい。
【0125】
例えば、第1のダイアフラム部材140の流路110の軸に向かう方向及び流路110の軸から離れる方向への能動的な変形と、第2のダイアフラム部材150の流路110の軸に向かう方向及び流路110の軸から離れる方向への能動的な変形を、組み合わせて実施してもよい。あるいは、領域115における流体Lの矢印LD1で示す方向及び矢印LD2で示す方向への移動を1サイクルとして、サイクル毎に上述した第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態及び第4実施形態に係る流体の撹拌方法を切り替えながら実施してもよい。
【0126】
上述した第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態及び第4実施形態に係る流体の撹拌方法において、撹拌対象である流体Lは、液体であってもよく、気体であってもよく、粉粒体であってもよい。例えば、流体Lは複数種類の液体であり、本発明の撹拌方法により複数種類の液体を混合してもよい。また、流体Lは濃度、温度、成分の分布状態が不均一な液体又は気体であってもよく、本発明の撹拌方法により分布状態を均一化してもよい。また、流体Lはエマルションやなどの分散系の分布状態が不均一な液体であり、本発明の撹拌方法により分布状態を均一化、微細化してもよい。また、流体Lは磁性粒子等の粒子を含んでいてもよく、本発明の撹拌方法により、磁性粒子等の粒子を分散させてもよい。
【0127】
実施例において後述するように、流体Lが磁性粒子を含んでいる場合においても、流体Lを効率よく撹拌することができる。また、磁性粒子は磁力を用いて集積させることができるため、例えば、領域115の内部に磁性粒子を集積させることができる。更に、上述した方法により、磁性粒子を含む流体Lを効率よく撹拌することができる。また、例えば、領域115に磁石(不図示)を近づけて磁力を働かせて、あらかじめ領域115内部に磁性粒子を集積しておいてもよい。そして、領域115に流体Lを導入し、第1の区画バルブ120と第2の区画バルブ130とを閉じて領域115を画定させた後に、磁石を離して領域115において磁性粒子を解放し、上記の撹拌方法により、磁性粒子を流体L中に撹拌してもよい。
【0128】
この結果、磁性粒子に例えば抗体、核酸断片等を結合させておき、磁性粒子上で酵素反応、抗原抗体反応、核酸ハイブリダイゼーション反応等を行うことができる。
【0129】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る流体の撹拌方法は、2種類の流体を定量して混合する方法である。
図5(a)~(d)を参照しながら、第5実施形態に係る流体の撹拌方法を説明する。
【0130】
図5(a)は、一実施形態に係る流体デバイス500の構造を説明する上面模式図である。流体デバイス500は、流体を流すための流路110a,110b,110c,110dと、第1の区画バルブ120と、第2の区画バルブ130と、第3の区画バルブ510と、第4の区画バルブ520と、第5の区画バルブ530と、第1のダイアフラム部材140と、第2のダイアフラム部材150とを備えている。
【0131】
以下、流体デバイス500を用いて、第1の流体L1及び第2の流体L2をそれぞれ定量して混合する手順について説明する。
【0132】
まず、
図5(a)に示すように、第3の区画バルブ510を閉じ、第1の区画バルブ120及び第4の区画バルブ520を開状態にする。続いて、流路110a及び流路110bに第1の流体L1を流す。続いて、
図5(b)に示すように、第1の区画バルブ120及び第4の区画バルブ520を閉じる。これにより、流路110aのうち、第1の区画バルブ120、第3の区画バルブ510及び第4の区画バルブ520で囲まれた領域115aが画定され、領域115aに存在する流体L1が定量される。
【0133】
一方、
図5(a)又は(b)に示すように、第3の区画バルブ510を閉じ、第2の区画バルブ130及び第5の区画バルブ530を開状態にする。続いて、流路110c及び流路110dに第2の流体L2を流す。続いて、
図5(c)に示すように、第2の区画バルブ130及び第5の区画バルブ530を閉じる。これにより、流路110cのうち、第2の区画バルブ130、第3の区画バルブ510及び第5の区画バルブ530で囲まれた領域115bが画定され、領域115bに存在する流体L2が定量される。
【0134】
続いて、
図5(d)に示すように、第3の区画バルブ510を開状態にする。その結果、流路110a及び流路110bが連結され、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130により、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150を含む領域115が画定された状態となる。領域115には、それぞれ定量された流体L1及び流体L2が含まれている。
【0135】
続いて、第1のダイアフラム部材140又は第2のダイアフラム部材150を変形させることにより、画定された領域115に存在する流体L1及び流体L2が撹拌され、混合される。ここで、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150の変形のさせ方は、上述した第1実施形態~第4実施形態に係る流体の撹拌方法と同様である。
【0136】
以上の操作により、流体L1及び流体L2を定量して混合することができる。ここで、例えば、領域115に検出器が設けられていてもよい。この場合、流体L1及び流体L2の撹拌中又は撹拌後に、当該検出器を用いて領域115の内部の流体の状態を検出・測定することもできる。
【0137】
[分析方法]
一実施形態において、本発明は、上述した方法により流体を撹拌する工程と、撹拌した前記流体を分析する工程とを備える、分析方法を提供する。
【0138】
以下、
図6(a)~(d)を参照しながら、本実施形態の分析方法により、抗原抗体反応を実施する具体例を説明する。
【0139】
まず、
図6(a)に示すように、流体デバイス100の流路110に流体Lを導入する。ここで、流体Lは、磁性粒子Mを含んでいる。磁性粒子Mの表面には、測定対象タンパク質に対する抗体が結合している。
【0140】
また、
図6(a)に示すように、流体デバイス100をマグネティックスタンド160にセットすることにより、領域115の内部に、流体L中の磁性粒子Mを集積させることができる。ここで、領域115は、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じることにより画定される領域である。
【0141】
続いて、
図6(b)に示すように、流体デバイス100の流路110に洗浄用のバッファーLBを流し、磁性粒子Mを洗浄してもよい。
【0142】
続いて、
図6(b)に示すように、流体デバイス100の流路110にサンプルTを含む試料を流す。サンプルTは、磁性粒子Mの表面に結合した抗体が特異的に結合する検出対象分子である。
【0143】
続いて、
図6(c)に示すように、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じて領域115を画定させ、流体デバイス100をマグネティックスタンド160から外す。この結果、領域115の内部にサンプルTを含む試料と磁性粒子Mが隔離される。また、ここで、流体デバイス100のダイアフラム部材140及び150を作動させ、上述したように領域115の内部の流体L(サンプルT及び磁性粒子Mを含有する液体)を撹拌する。これにより、領域115の内部の流体Lが均一になり、磁性粒子Mの表面に配置された抗体とサンプルTが、再現性よく、効率よく反応する。
【0144】
続いて、
図6(b)に示すように、流体デバイス100をマグネティックスタンド160にセットして、領域115に存在していた磁性粒子Mを集積させる。更に、
図6(b)に示すように、流路110に洗浄用のバッファーLBを流し、磁性粒子Mを洗浄する。
【0145】
続いて、
図6(b)に示すように、流体デバイス100の流路110に二次抗体(2ndAb)を含むバッファーを流す。二次抗体は、サンプルTに特異的に結合する標識抗体である。
【0146】
続いて、
図6(c)に示すように、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じて領域115を画定させ、流体デバイス100をマグネティックスタンド160から外す。この結果、領域115の内部に二次抗体含むバッファーと磁性粒子Mが隔離される。また、ここで、流体デバイス100のダイアフラム部材140及び150を作動させ、上述したように領域115の内部の流体L(二次抗体及びサンプルTが結合した磁性粒子Mを含有する液体)を撹拌する。これにより、領域115の内部の流体Lが均一になり、磁性粒子Mの表面に結合したサンプルTと二次抗体が、再現性よく、効率よく反応する。
【0147】
続いて、
図6(b)に示すように、流体デバイス100をマグネティックスタンド160にセットして、領域115に存在していた磁性粒子Mを集積させる。更に、
図6(b)に示すように、流路110に洗浄用のバッファーLBを流し、磁性粒子Mを洗浄する。
【0148】
続いて、
図6(b)に示すように、流体デバイス100の流路110に二次抗体の標識に対応する基質反応液(S)を流す。
【0149】
続いて、
図6(d)に示すように、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じて領域115を画定させ、流体デバイス100をマグネティックスタンド160から外す。この結果、領域115の内部に基質反応液Sと磁性粒子Mが隔離される。また、ここで、流体デバイス100のダイアフラム部材140及び150を作動させ、上述したように領域115の内部の流体L(基質反応液S及び二次抗体が結合した磁性粒子Mを含有する液体)を撹拌する。これにより、領域115の内部の流体Lが均一になり、磁性粒子Mの表面に結合した二次抗体と基質反応液Sが、再現性よく、効率よく反応する。
【0150】
その結果、シグナルが発生する。シグナルは例えば蛍光である。続いて、発生したシグナルを検出する。シグナルの検出は、例えば、
図6(d)に示すように、領域115に隣接して設置した検出器170を用いて検出してもよいし、流体デバイスの外部に設置した不図示の検出器を用いて検出してもよい。
【0151】
検出器が流体デバイスの外部に設置されている場合、
図6(d)に示す、領域115の内部の反応後の反応液を検出器で検出可能な位置まで送液して移動させたうえでシグナルを検出するとよい。
【0152】
以上、本実施形態の分析方法により、抗原抗体反応を実施する具体例を説明したが、同様の方法により、酵素反応、核酸ハイブリダイゼーション反応等を行うこともできる。また、上述した例では、抗体とサンプルTとの反応、サンプルTと二次抗体との反応、二次抗体と基質反応液Sとの反応を流体デバイス100を用いて実施したが、本実施形態の分析方法はこれに限られず、例えば、二次抗体と基質反応液Sとの反応のみを流体デバイス100を用いて実施し、その他の反応は別の流体デバイス等で実施してもよい。
【実施例】
【0153】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0154】
[実験例1]
(流体デバイスの製造)
図1(a)及び(b)に模式図を示す流体デバイスを製造した。製造した流体デバイス(以下、「デバイスA」という。)は、流路110の断面は略矩形であり、流路110の幅は0.5~1.0mmであり、高さは0.2~0.5mmであった。第1区画バルブ120と第2区画バルブとの間の距離は5.5mmであった。
【0155】
また、デバイスAの厚さは約5mmであった。また、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130はダイアフラムバルブであり、ダイアフラム部材の材質はウレタン系エラストマであり、ダイアフラム部材の厚さは300μmであり、ダイアフラムバルブの直径は2mmであった。
【0156】
また、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150は、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130と同様のダイアフラムバルブであり、ダイアフラム部材の材質はウレタン系エラストマであり、ダイアフラム部材の厚さは300μmであり、ダイアフラムバルブの直径は2mmであった。
【0157】
[実験例2]
(磁性粒子の撹拌)
実験例1で製造したデバイスAを使用して、蛍光磁性粒子の撹拌を行った。まず、ストレプトアビジンが表面に修飾された直径3μmの磁性粒子(JSR社)に、ビオチンが標識された蛍光色素であるCy5(同仁化学研究所)を、アビジン-ビオチン結合により固定化することで蛍光磁性粒子を調製した。調製した蛍光磁性粒子は、終濃度0.01%となるように0.1%BSA(ウシ血清アルブミン)を含むTBST(0.05%Tween20-Tris Buffered Saline)バッファー(以下、「0.1%BSA-TBST」という。)に懸濁して以下の実験に用いた。
【0158】
続いて、デバイスAに3mm×3mm×5mmのネオジム磁石をセットした。続いて、デバイスAに上述した通りに調製した蛍光磁性粒子懸濁液を150μL導入し、流路110を通過させることで、蛍光磁性粒子を領域115に集積させた。その後、10μLの0.1%BSA-TBSTを導入し、流路を満たした。
図7(a)は、蛍光磁性粒子を導入した後のデバイスAの顕微鏡写真である。第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じ、区画化した状態である。
【0159】
続いて、デバイスAを作動させた。具体的には、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じたうえで、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150を作動させた。第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150は、時間差300msで交互に作動させた。第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150の作動は、いずれも流路110の軸に向かう方向に行った。
【0160】
ここで、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150のうち、作動させていない方のダイアフラム部材は、領域115の体積変化を吸収する方向に受動的に変形した。
【0161】
図7(b)は、撹拌後のデバイスAの顕微鏡写真である。その結果、
図7(b)に示すように、極めて短時間(約1秒)で磁性粒子が均一に撹拌されたことが明らかとなった。
【0162】
図7(c)は、撹拌後のデバイスAを蛍光顕微鏡で観察し、磁性粒子を標識したCy5の蛍光を検出した結果を示す写真である。その結果、蛍光顕微鏡写真からも、磁性粒子が均一に撹拌されたことが確認された。
【0163】
[実験例3]
(抗原抗体反応の検出)
実験例1で製造したデバイスAを使用して抗原抗体反応の検出を行った。抗原としては、心筋トロポニンI(cardiaic troponin I、cTnI)を使用した。
【0164】
まず、表面がカルボキシル基修飾された直径3μmの磁性粒子(JSR社)に、抗cTnI抗体(HyTest社)を、抗体のアミノ基を介して結合させた。続いて、終濃度が0.01w/v%となるように、0.1%BSA-TBSTで上記磁性粒子を希釈した。
【0165】
また、上記磁性粒子に結合させた抗cTnI抗体とは異なるエピトープを持つ抗cTnI抗体(HyTest社)に、アルカリフォスファターゼラベリングキット(同仁化学研究所社)を利用して、アルカリフォスファターゼを標識した。
【0166】
続いて、上記の希釈した磁性粒子50μLと、それぞれ、0、10、100、1000pg/mLとなるように0.1%BSA-TBSTで段階希釈したcTnI 50μLと、抗体濃度が2μg/mLとなるように希釈した上記のアルカリフォスファターゼ標識抗cTnI抗体50μLとを混合して37℃で5分間反応させ、磁性粒子上に抗原抗体複合体を形成させた。
【0167】
続いて、ネオジム磁石を用いて磁性粒子を捕捉しながら、200μLの0.1%BSA-TBSTで3回洗浄した。続いて、洗浄した磁性粒子に150μLの0.1%BSA-TBSTを加え、磁性粒子を再懸濁した。続いて、再懸濁した磁性粒子をデバイスAの流路110に送液し、磁性粒子を領域115に集積させた。
【0168】
続いて、デバイスAの流路110にアルカリフォスファターゼの化学発光基質である、CDP-star(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)10μLを導入し、第1の区画バルブ120及び第2の区画バルブ130を閉じて領域115を確定し、リアルタイムでCDP-starの分解反応による発光を検出した。検出器には、μPMT(浜松ホトニクス社)を利用した。検出器を、センサーがデバイスAの領域115に隣接するよう設置して測定を行った。
【0169】
測定開始から3分後に、第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150を作動させ、90秒間撹拌を行った。第1のダイアフラム部材140及び第2のダイアフラム部材150の作動は、実験例2と同様にして行った。続いて、撹拌の前後でシグナルの比較を行った。
【0170】
図8は、撹拌前、撹拌中及び撹拌後における各試料の発光強度を検出した結果を示すグラフである。その結果、撹拌によりシグナルが増強されることが確認された。
図8中、10000pg/mLの試料及び1000pg/mLの試料のグラフにおいて、撹拌により増強されたシグナルを両矢印で示す。
【符号の説明】
【0171】
100,500…流体デバイス、110,110a,110b,110c,110d…流路、115,115a,115b…領域、120,130,510,520,530…区画バルブ、140,150…ダイアフラム部材、160…マグネティックスタンド、170…検出部、200,300…ダイアフラムバルブ、210…第1の基板、211…凸部、220…第2の基板、230…弾性部材、231…アンカー部、240…貫通孔、L,L1,L2…流体、M…磁性粒子、LB…洗浄用バッファー、2ndAb…二次抗体、S…基質反応液。