(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】透明電極基板及び太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0224 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
H01L31/04 266
(21)【出願番号】P 2022530830
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2021043064
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2020198862
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮
(72)【発明者】
【氏名】関 淳志
(72)【発明者】
【氏名】牛久保 浩司
(72)【発明者】
【氏名】立川 卓
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-522433(JP,A)
【文献】特開平7-283432(JP,A)
【文献】特開2001-053307(JP,A)
【文献】特開2001-036107(JP,A)
【文献】特開2000-082831(JP,A)
【文献】特開平06-177407(JP,A)
【文献】国際公開第2007/058118(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/134360(WO,A1)
【文献】特開昭53-148993(JP,A)
【文献】特開2011-117082(JP,A)
【文献】国際公開第03/065386(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0047699(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/078
H01L 31/18-31/20
H01L 51/42-51/48
H02S 10/00-10/40
H02S 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池に用いられる透明電極基板であって、
ガラス基板と透明導電膜とを含み、
前記透明導電膜は、前記ガラス基板側に位置する導電層と、
前記導電層上に形成された表面層とから構成され、
前記表面層の平均塩素濃度が0.025重量%以下であり、前記導電層の平均塩素濃度が0.040重量%以上である、透明電極基板。
【請求項2】
前記表面層の厚さが10~80nmである、請求項1に記載の透明電極基板。
【請求項3】
前記表面層がSnO
2を主成分とし、ドーパント
の含有量が0.01重量%以下である、請求項1又は2に記載の透明電極基板。
【請求項4】
前記導電層がSnO
2を主成分とする層である、請求項1~3のいずれか1項に記載の透明電極基板。
【請求項5】
前記透明導電膜の膜厚が300~800nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の透明電極基板。
【請求項6】
前記ガラス基板と前記透明導電膜との間に、アンダーコート層をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の透明電極基板。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の透明電極基板を有するスーパーストレート型太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池に用いられる透明電極基板及び当該透明電極基板を有するスーパーストレート型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、太陽からの光エネルギーを直接電気エネルギーに変換する素子であり、シリコン系、化合物系、III-V族系、有機系に大別される。
化合物系のひとつに、CdTeを原料とするCdTe太陽電池が挙げられる。CdTe太陽電池は省資源で量産可能であり、さらに製造コストも比較的低いことから実用化されており、様々な研究も行われている。
【0003】
一般的にCdTe太陽電池は、透明電極(陰極)、n型層、p型層及び電極(陽極)が順に積層された構成を取るが、このように、透明基板上に透明導電膜、発電層(電池層)、裏面電極が順に形成され、太陽光が透明基板側から入射するタイプの太陽電池を総称してスーパーストレート型太陽電池と称する。
【0004】
CdTe太陽電池の発電原理は、太陽光等の光エネルギーが透明電極基板の側から入射し、p型層で光が吸収されて、電子やホール(正孔)といったキャリアが生成されることによる。すなわち、生成されたキャリアがp型層、n型層にそれぞれ移動して流れることで、電気エネルギーとして取り出される。
【0005】
例えば特許文献1は、透明電極を構成するガラス基板に着目し、CdTe太陽電池の変換効率(発電効率)の向上を図ったものである。すなわち、特許文献1では、CdTe太陽電池用のガラス基板が、特定の組成及び物性を満たすことにより、高い透過率、高いガラス転移点温度、所定の平均熱膨張係数、高いガラス強度、低いガラス密度、板ガラス生産時の溶解性、成形性、失透防止の特性をバランスよく有することができ、CdTe太陽電池の発電効率を高くできることが開示されている。
【0006】
また、同様に透明電極に着目すると、基板上に形成される透明導電膜には原材料等の条件によって塩素が含まれることが知られている。例えば、特許文献2には、基体上に酸化スズ膜とフッ素ドープ酸化スズ膜がこの順で設けられ、酸化スズ膜の厚さを変えることで積層膜のヘイズ率を良好に調整することができる積層膜付き基体が開示されている。そして、前記積層膜は、特定の方法で形成されるため、基体表面付近の塩素原子濃度が高くなることが開示されている。特許文献2の積層膜付き基体では、フッ素ドープ酸化スズ膜、すなわち導電性を有する導電層が最表面に設けられる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/047246号
【文献】日本国特開2014-214355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~2に記載のような透明電極基板を用いたCdTe太陽電池では、n型層すなわち陰極の方向に取り出された電子が、陰極表面、すなわち透明電極基板表面の不純物準位でトラップされ、電池内でホールと再結合してしまう現象(キャリア再結合)が発生し、電池効率が低下する傾向がある。また、この傾向は、CdTe太陽電池に限らず、他のスーパーストレート型太陽電池にも見られる。
【0009】
したがって、本発明は、太陽電池の陰極として用いられる透明電極基板に着目し、キャリア再結合が抑制され、エネルギー変換効率に優れた透明電極基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の[1]~[7]に関する。
[1]太陽電池に用いられる透明電極基板であって、
ガラス基板と透明導電膜とを含み、
前記透明導電膜は、前記ガラス基板側に位置する導電層と、表面層とから構成され、
前記表面層の平均塩素濃度が0.025重量%以下であり、前記導電層の平均塩素濃度が0.040重量%以上である、透明電極基板。
[2]前記表面層の厚さが10~80nmである、前記[1]に記載の透明電極基板。
[3]前記表面層がSnO2を主成分とし、ドーパントを実質的に含有しない層である、前記[1]又は[2]に記載の透明電極基板。
[4]前記導電層がSnO2を主成分とする層である、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の透明電極基板。
[5]前記透明導電膜の膜厚が300~800nmである、前記[1]~[4]のいずれか1に記載の透明電極基板。
[6]前記ガラス基板と前記透明導電膜との間に、アンダーコート層をさらに含む、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の透明電極基板。
[7]前記[1]~[6]のいずれか1に記載の透明電極基板を有するスーパーストレート型太陽電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る透明電極基板は、透明導電膜が表面層を有する構成であり、該表面層の塩素濃度が特定の値以下であることで、表面のキャリア密度が小さい。そのため、太陽電池に用いた場合に光照射により発生したキャリアの再結合を抑制できる。本発明に係る透明電極基板は、このように、キャリア再結合を抑制しつつ、かつ、導電層は塩素濃度がある程度以上大きくなる条件で形成されることで、透明電極基板としての導電性にも優れる。これにより、太陽電池、好ましくはスーパーストレート型太陽電池に用いた際にエネルギー変換効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、透明電極基板の構成を表す模式断面図である。
【
図2】
図2は、CdTe太陽電池における透明導電膜、n型層(n型化合物層)及びp型層(p型化合物層)における、光照射時のバンドダイアグラムを示す図である。
【
図3】
図3は、CdTe太陽電池の構成を表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。本明細書において、重量基準の割合(百分率など)は、質量基準の割合(百分率など)と同じである。
【0014】
<透明電極基板>
先述したように、CdTe太陽電池は透明電極基板側から光照射を行うと電池層のうちのp型層で吸収され、電子とホール(正孔)のキャリアが発生する。発生した電子は電池層のうちのn型層から透明電極基板の方へと流れ、外部回路へ向かう。しかしながら、発生した電子が外部回路に出る前に、電池内で再度ホールと結合して消滅することがある。これをキャリア再結合と言うが、この再結合が起こると、エネルギー変換効率は低下する。このキャリア再結合とエネルギー変換効率の低下は、CdTe太陽電池に限らず、他のスーパーストレート型太陽電池にも見られるものである。
【0015】
一般的に、太陽電池の陰極は電子が取り出される側の電極として、キャリア密度が高い方が内部抵抗が低くなることから好ましい。これに対し、本発明では、陰極の電池層に接する表面近傍のみキャリア密度を小さくすることで、内部抵抗には殆ど影響を与えることなく、キャリア再結合を抑制し、高いエネルギー変換効率を実現するものである。
【0016】
すなわち、
図1に示すように、本発明に係る透明電極基板1は、ガラス基板10と透明導電膜20とを含み、前記透明導電膜20は、前記ガラス基板10側に位置する導電層21と、表面層22とから構成される。前記表面層の塩素濃度は0.025重量%以下であり、前記導電層の塩素濃度は0.040重量%以上である。かかる透明電極基板1は太陽電池、好ましくはスーパーストレート型太陽電池に用いられる。
【0017】
陰極(透明電極基板)における透明導電膜のうち、電池層に接する表面近傍に、塩素濃度を0.025重量%以下とした表面層を設けることにより、
図2に示すように、発生した電子とホールとの再結合を抑制できる。表面層の塩素濃度を小さくすることで、透明導電膜の表面のキャリア密度は小さくなり、流れ込んだ電子をトラップするサイトが減少する。その結果、電池層内へ電子が逆流して再結合する現象を抑制できるものと推測される。
【0018】
従来、透明導電膜の表面のキャリア密度を小さくする観点からは、例えばドーパントを含有させないこと等が第一に考えられた。そこで、透明導電膜の最表面にドーパントを含有しない表面層を設けることが検討されたが、かかる方法ではキャリア密度は十分に小さくならない場合があった。本発明者らは、透明導電膜には、原材料等に由来する塩素が含まれ、塩素もわずかながら、キャリアの準位を形成することに着目した。その結果、前述のような表面層において、塩素の濃度を小さくすることで、キャリア密度を十分に小さくできることを見出した。
【0019】
一方、透明電極基板としては優れた導電性を有することが好ましい。具体的には、透明導電膜全体としての移動度が大きい方が好ましい。したがって、導電層は、含塩素の前駆体などを原料として、十分に酸化されやすい条件で製膜することが重要である。このため、導電層中には、塩素がある程度の濃度以上残留するような条件が望ましい。これにより、導電層の膜質に関して、成膜時に結晶成長が促進されるので、導電層の移動度を大きくできる。また結果として、透明導電膜全体の移動度も大きくできる。以上のように、導電層中の塩素濃度をある程度以上大きくすることで、透明導電膜として、優れた導電性が得られることを見出した。
【0020】
すなわち、本実施形態に係る透明電極基板は、上述した構成を有することで、キャリア再結合を抑制でき、かつ透明電極基板としての導電性にも優れるため、太陽電池、好ましくはスーパーストレート型太陽電池に用いた際にエネルギー変換効率を向上できる。
以下、本実施形態に係る透明電極基板についてさらに具体的に説明する。
【0021】
(透明導電膜)
透明導電膜は、ガラス基板側に位置する導電層と、表面層とから構成される。
透明導電膜の比抵抗は、透明電極基板としての導電性を十分とする観点から0.001Ωcm以下が好ましく、0.0008Ωcm以下がより好ましく、0.0006Ωcm以下がさらに好ましい。また、透明導電膜の比抵抗は低いほど好ましいが、0.0001Ωcm以上が実際的である。透明導電膜の比抵抗は、透明電極基板に対してホール効果測定装置を用いることで測定できる。
【0022】
透明導電膜の膜厚は、高い光透過率を確保する観点から800nm以下が好ましく、600nm以下がより好ましい。また、膜厚は、抵抗を高くしすぎない観点から300nm以上が好ましく、400nm以上がより好ましい。透明導電膜の膜厚は、触針式段差計や蛍光X線分析装置を用いて測定できる。
【0023】
透明導電膜の電気特性としてはシート抵抗が重要となる。シート抵抗は、比抵抗/膜厚で定義される実質的な電極膜としての電気抵抗である。前述の比抵抗と膜厚を調整することにより、シート抵抗を好ましい値にできる。シート抵抗は、配線での電圧ロスを下げる観点から20Ω/□以下が好ましく、12Ω/□以下が更に好ましい。
【0024】
(表面層)
表面層の塩素濃度は、透明電極基板表面のキャリア密度を小さくし、キャリア再結合を抑制する観点から、0.025重量%以下であり、0.020重量%以下が好ましく、0.015重量%以下がより好ましい。また、表面層の塩素濃度は小さい程好ましく、下限は特に限定されないが、例えば0.003重量%以上である。塩素濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定できる。具体的にはまず、二次イオン質量分析装置(SIMS)により表面からの膜厚方向の濃度分布(デプスプロファイル)を測定する。例えば、スズなどの主成分物質、フッ素などの導電層のドーパント成分とともに塩素の膜厚方向の濃度分布を測定する。表面層及び導電層の構成に応じて、例えば、所定濃度のドーパント成分が検出されない部分を表面層とする。次に、表面層の塩素濃度を算出する場合は、表面層の範囲において、35Cl-/(主成分物質イオン)(検出カウント比)の膜厚平均値、例えば主成分物質がスズの場合、35Cl-/120Sn+(検出カウント比)の膜厚平均値を算出する。ただし、二次イオン質量分析装置(SIMS)の特性上、測定日や測定バッチが異なるとデータが変動するため、併せてCl濃度既知の標準サンプルについて35Cl-/(主成分物質イオン)(検出カウント比)を同バッチ、同条件で測定し、透明導電膜サンプルの測定結果と相対比較する。そこから、表面層の平均塩素濃度を導出し、これを表面層の塩素濃度とする。塩素濃度は、上記のほかに、蛍光X線装置(XRF)を用いて測定することもできる。
【0025】
透明導電膜の表面キャリア密度、すなわち表面層のキャリア密度は、6.0×1018cm-3以下が好ましく、4.0×1018cm-3以下がより好ましく、3.0×1018cm-3以下がさらに好ましい。表面層のキャリア密度は、小さい程好ましいが、下限は0.5×1018cm-3以上が実際的である。
【0026】
表面層のキャリア密度は、ホール効果測定装置により測定できる。具体的には、表面層のキャリア密度は、以下の方法により測定できる。
すなわち、透明電極基板の製造工程において、透明導電膜を製膜する際に、表面層の形成工程でガラス基板の一部に表面層のみが形成されるエリアを作製する。そのエリアを用いて、ホール効果測定装置により表面層のキャリア密度を測定する。
【0027】
表面層の厚さは、厚過ぎると抵抗が大きくなり電極の機能である電子移動を妨げるおそれがあることから、80nm以下が好ましく、70nm以下がより好ましい。一方、キャリア再結合を防ぐ効果を十分に得る観点から、表面層の厚さは10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。なお表面層の厚さは、触針式段差計や蛍光X線分析装置、X線光電子分光法(XPS)もしくは、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定できる。また、導電層の厚さに対する表面層の厚さの比は、透過率を低下させずに、高導電性を得る観点から0.25以下が好ましく、0.20以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましい。上記の比は、キャリア再結合を防止しつつ、高導電性を得る観点から0.03以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。
【0028】
表面層は、透明電極基板としての透光性を有し、塩素濃度が上述した範囲内となれば特に限定されないが、酸化物を含むことが好ましく、金属酸化物を含むことがより好ましい。具体的には、SnO2、ZnO、In2O3、TiO2、MgO、CdO等を含むことが好ましく、これら、もしくは、これらの混合酸化物を主成分とする層であることがより好ましい。表面層の主成分は、SnO2又はZnOが好ましく、SnO2がより好ましい。表面層の主成分であるとは、表面層を構成する成分のうち、50重量%以上であることを意味し、表面層全体に対して70重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましい。また、主成分としての含有量の上限は特に限定されず、100重量%であってもよい。
【0029】
表面層は、塩素以外にもキャリア密度を大きくする成分等を含まない方が好ましいことから、ドーパントを実質的に含有しないことが好ましい。なお、ドーパントを実質的に含有しないとは、不可避的な不純物として混入する場合を除いて含有しないことを意味し、具体的には表面層において0.01重量%以下であることをいう。
【0030】
すなわち、表面層は、SnO2又はZnOを主成分とし、ドーパントを実質的に含有しないことがよりさらに好ましく、SnO2を主成分とし、ドーパントを実質的に含有しないことが特に好ましい。
表面層の組成はX線光電子分光法(XPS)や二次イオン質量分析法(SIMS)により同定できる。
【0031】
(導電層)
導電層は、塩素濃度が0.040重量%以上である。塩素濃度は、含塩素の前駆体を原料として、十分に酸化されやすい条件で製膜し、透明導電膜の移動度を大きくする観点から0.040重量%以上であり、0.045重量%以上が好ましい。塩素が過剰に存在すると膜の平坦性が悪化する観点から0.100重量%以下が好ましく、0.080重量%以下がより好ましい。
導電層の塩素濃度は、上述の表面層の場合と同様に二次イオン質量分析法(SIMS)により測定できる。表面層及び導電層の構成に応じて、例えば、膜厚方向において所定濃度以上のドーパント成分が検出される領域を導電層として、導電層の範囲において、35Cl-/(主成分物質イオン)(検出カウント比)の膜厚平均値を算出する。ただし、二次イオン質量分析装置(SIMS)の特性上、測定日や測定バッチが異なるとデータが変動するため、併せてCl濃度既知の標準サンプルの35Cl-/(主成分物質イオン)(検出カウント比)を同バッチ、同条件で測定し、透明導電膜サンプルの測定結果と相対比較する。そこから、導電層の平均塩素濃度を導出し、これを導電層の塩素濃度とする。塩素濃度は、上記のほかに、蛍光X線装置(XRF)を用いて測定することもできる。
【0032】
導電層は、透明電極基板としての透光性と導電性を有していれば特に限定されないが、例えば主成分が、SnO2、ZnO又はIn2O3であることが好ましく、SnO2又はZnOがより好ましく、SnO2がさらに好ましい。なお、導電層の主成分であるとは、導電層を構成する成分のうち、50重量%以上であることを意味し、導電層全体に対して70重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましい。また、上限は特に限定されないが、主成分にドーパントがドープされる場合には、99.9重量%以下が好ましい。
【0033】
導電層は、前記主成分にドーパントがドープされたものを用いてもよい。なお、ドーパントとしては、フッ素やホウ素、錫等が挙げられる。ドープされた導電層としては、例えば、フッ素ドープされたSnO2やSnドープされたIn2O3、フッ素ドープされたIn2O3、アンチモンドープされたSnO2、AlドープされたZnO、GaドープされたZnO等が挙げられる。ドーパントがドープされることにより、導電性キャリアが生成し低抵抗となることから好ましい。
なお、導電層の組成はX線光電子分光法(XPS)や二次イオン質量分析法(SIMS)により同定できる。
【0034】
導電層は、優れた導電性を有することが好ましく、導電層の移動度を高くすることで、透明導電膜全体の移動度も高くすることができる。具体的には、透明導電膜におけるキャリアの移動度は38cm2/Vs以上が好ましく、40cm2/Vs以上がより好ましく、43cm2/Vs以上がさらに好ましい。移動度は大きい程好ましいが、上限は80cm2/Vs程度が実際的である。
透明導電膜の移動度は、ホール効果測定装置により測定できる。
【0035】
導電層の厚みは透明導電膜の膜厚から表面層の厚さを引いた値となるが、X線光電子分光法(XPS)や二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて直接測定してもよい。導電層の厚みは220nm以上が好ましく、300nm以上がより好ましく、また、790nm以下が好ましく、700nm以下がより好ましい。
【0036】
(ガラス基板)
ガラス基板は、従来太陽電池に用いられているものと同様のものを使用できる。例えば、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、ZrO2、Na2OおよびK2Oを母組成として含むガラス基板が挙げられる。より具体的には、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を60~75%、Al2O3を1~7.5%、B2O3を0~1%、MgOを8.5~12.5%、CaOを1~6.5%、SrOを0~3%、BaOを0~3%、ZrO2を0~3%、Na2Oを1~8%、K2Oを2~12%含有するガラス基板が挙げられる。ただし、これら組成に限定されるものではない。
【0037】
ガラス基板は、太陽電池の発電効率を考慮すると、波長500~800nmの光に対する平均透過率が、2mm厚み換算で90.3%以上が好ましく、90.4%以上がより好ましく、90.5%以上がさらに好ましい。
【0038】
また、太陽電池を作製する際に、透明電極基板に対して熱処理を行う場合があることから、ガラス基板は良好な耐熱性を有することが好ましい。
具体的には、ガラス転移温度(Tg)は640℃以上が好ましく、660℃以上がより好ましく、680℃以上がさらに好ましい。一方、溶解時の粘性を上げすぎないようにするため、ガラス転移温度は820℃以下が好ましく、800℃以下がより好ましい。
【0039】
また、ガラス基板の50~350℃における平均熱膨張係数は、モジュール化する際にモジュールが反るのを抑制する点から70×10-7/℃以上が好ましく、80×10-7/℃以上がより好ましい。一方、剥がれ等を抑制する点から、90×10-7/℃以下が好ましく、85×10-7/℃以下がより好ましい。
【0040】
ガラス基板の厚さは、特に限定されないが、強度と透過率の観点から、0.7mm以上が好ましく、1.1mm以上がより好ましく、また、6.0mm以下が好ましく、4.0mm以下がより好ましい。
【0041】
(アンダーコート層)
ガラス基板と透明導電膜との間には、
図1に示すように、所望によりアンダーコート層30をさらに含んでいてもよい。アンダーコート層30は、光の反射を防止することで変換効率を向上できる。また、太陽電池の作製に際し、熱処理を行った場合であっても、ガラス基板10からのアルカリの拡散を防止し、導電層21の変質を抑制できる。
アンダーコート層には、従来公知のものを使用できる。例えばSiO
2、SiO
xC
y、SnO
2、TiO
2等が挙げられる。さらに、アンダーコート層は、積層膜とすることも好ましい。積層膜における層数は目的等に応じ特に限定されないが、透過率等の観点からは2層が好ましい。積層膜としては例えば、TiO
2とSiO
2の積層膜やSnO
2とSiO
2の積層膜などが挙げられる。
【0042】
アンダーコート層の厚みは、上記効果が好適に得られる点から10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。また、材料自体の光吸収を抑制する観点から100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。
【0043】
<透明電極基板の製造方法>
透明電極基板1は、ガラス基板10上に、導電層21、表面層22を順に積層することにより得られる。また、導電層21を積層する前に、所望によりアンダーコート層30を積層してもよい。
具体的には、ガラス基板は、ガラス原料を加熱して溶融ガラスを得る溶解工程、溶融ガラスから泡を除く清澄工程、溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る成形工程、およびガラスリボンを室温状態まで徐冷する徐冷工程により得られる。また、溶融ガラスをブロック状に成形し、徐冷した後に、切断、研磨を経てガラス基板を製造してもよい。
【0044】
上記各工程は、従来公知の各方法を使用できる。製造方法は、実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で適宜変形や改良等が可能である。
【0045】
ガラス基板上に所望によりアンダーコート層を形成した後、透明導電膜である導電層及び表面層を順に形成していく。
アンダーコート層、導電層、表面層はいずれも、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相蒸着)法やスパッタリング法、化学メッキ法、湿式塗布法等により形成できる。スパッタリング法は製板されたガラス基板上に製膜する方法であり、化学メッキ法は鏡を作る時にも使用される方法である。
【0046】
CVD法には、オンラインCVD法とオフラインCVD法がある。
オンラインCVD法とはフロートライン上でガラス基板の製造過程中に、ガラスの表面に直接、膜を製膜する方法である。すなわち、ガラス基板を得た後に透明導電膜等を製膜するのではなく、ガラス基板を得る工程の途中で透明導電膜等を製膜する。
具体的には、ガラス基板の製造の際、ガラスリボンが溶融錫浴の上を移動した後、徐冷されることで、連続的にガラス基板が製造されるが、このガラスリボンの移動中に、ガラスリボンの上面に、所望する層の製膜工程を連続的に実施するものである。
【0047】
より具体的には、上記ガラス基板の製造方法における徐冷工程の前、すなわち、成形工程でフロートライン上にあるガラスがまだ熱い状態のうちに、気体原料をガラス表面に吹き付けて、反応させながら、所望の層を製膜することで透明電極基板が得られる。
オンラインCVD法はガラス基板を製造する一連の工程の中で、アンダーコート層、導電層及び表面層を形成できることから、製造コストを低く抑えられるため好ましい。この場合、オンラインでの製膜となることから、製膜する層の組成は限定される。例えば、アンダーコート層をSiO2層やSiOxCy層、もしくは、TiO2及びSiO2の積層構成とし、導電層をフッ素ドープされたSnO2とし、表面層は、SnO2とすることが好ましい態様として挙げられる。
【0048】
一方で、オフラインCVD法とは、一旦、ガラス製造工程により製造され、適当なサイズに切断されたガラスを、改めて電気炉に投入して搬送しながら、前記オンラインCVD法と同様に気体原料の反応を利用して、所望の層を製膜する方法である。搬送速度や基板温度を製膜に合わせて設定できる利点がある反面、製造コストは、オンラインCVD法に比べて高くなる。
【0049】
スパッタリング法を用いる場合には、真空にした容器の中に特殊ガスを極微量注入し、電圧をかけることによって、ガラス基板上に所望の金属薄膜層や半導体膜層が形成され、透明電極基板が得られる。
スパッタリング法は一度製板されたガラス基板上に層を形成することから、製造コストはかかるものの、所望する様々な組成の層を形成できる。
【0050】
アンダーコート層、導電層、表面層の厚さは、CVD法の場合、原料の種類、原料ガス濃度、原料ガスのガラスリボンへの吹き付け流速、ガラスリボンの移動速度、基板温度、コーティングビーム構造由来の反応ガス滞留時間等により制御できる。またスパッタリング法の場合には、スパッタ時間や電圧等により厚さを制御できる。
【0051】
ここで、導電層において、表面層を形成する際には、塩化物系の前駆体材料を用いて、比較的酸化性の強い条件とすることで、塩素濃度が0.040重量%以上である導電層となりやすく、かつ、移動度が大きい導電層を得やすい。具体的には例えば、導電層がSnO2を主成分とし、ドーパントとしてフッ素を含有する層であり、CVD法で導電層を成膜する場合、気体原料は、Sn含有物質、F含有物質、水(水蒸気)、及び酸素または二酸化炭素を含む混合ガスが好ましく、Sn含有物質はSn含有塩化物であることがより好ましい。また、混合ガスに硝酸を加えることも、より酸化性の強い条件になりやすく、好ましい。混合ガスは、さらに窒素ガス等の不活性ガスを含むことも好ましい。
なお、混合ガスを得る方法としては、例えば、各物質を液相又は気相状態でミキサーに供給し、そこで加熱気化しながら混合する方法が挙げられる。
【0052】
上述の通りSn含有物質としてはSn含有塩化物が好ましい。Sn含有塩化物としては、モノブチル錫トリクロライド、四塩化錫、ジメチルジクロロ錫等が挙げられ、導電層の塩素濃度および移動度を高くする観点から、モノブチル錫トリクロライド、四塩化錫が好ましい。
F含有物質としては、トリフロロ酢酸、フッ化水素等が挙げられる。
【0053】
成膜温度は、十分な反応速度を得る観点から500℃以上が好ましく、550℃以上がより好ましい。また、成膜温度は、気相反応の抑制の観点から750℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましい。
【0054】
また、表面層における塩素濃度を所望の範囲とする方法として、例えば、表面層を形成する際の原材料の種類や混合比を調整することが挙げられる。具体的には例えば、表面層がSnO2を主成分とする層であり、CVD法で表面層を成膜する場合、気体原料は、Sn含有物質、水(水蒸気)及び酸素を含む混合ガスが好ましい。Sn含有物質としては、塩化物以外のSn含有物質が特に好ましい。混合ガスは、さらに窒素ガス等の不活性ガスを含むことも好ましい。また、混合ガス中の水(水蒸気)のSn含有物質に対するモル比率を10倍以上に大きくすることも、塩素濃度の調整の観点から好ましい。
【0055】
Sn含有物質としては、モノブチル錫トリクロライド、四塩化錫、ジメチルジクロロ錫、テトラメチル錫、テトラブチル錫、ジブチル錫ジアセテート等が挙げられ、表面層の塩素濃度を小さくする観点から、塩化物以外のSn含有物質等、塩素を含有しない物質が好ましく、テトラメチル錫、テトラブチル錫、ジブチル錫ジアセテートがより好ましい。
【0056】
ここで、Sn含有物質としては、上記のように塩素を含有しない物質が好ましいが、モノブチル錫トリクロライド等の塩素を含有する物質を用いてもよい。
この場合は、例えば、混合ガス中の水、酸素の量を適宜調整することで、表面層の塩素濃度を適切に調整できる。
【0057】
上記の混合ガスを用いる場合、成膜温度は、十分な反応速度を得る観点から500℃以上が好ましく、550℃以上がより好ましい。また、成膜温度は、気相反応の抑制、粉発生の抑制の観点から750℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましい。
【0058】
<太陽電池>
本発明は、上記透明電極基板を有するスーパーストレート型太陽電池に関する。当該透明電極基板の構成や好ましい態様は、上記<透明電極基板>で記載したものと同様である。
本発明のスーパーストレート型太陽電池とは、透明電極基板の側から光が入射するタイプの太陽電池であればよく、例えばCdTe太陽電池が挙げられる。ただし、上記透明電極基板をスーパーストレート型以外のタイプの太陽電池、例えば、サブストレート型太陽電池に適用することを何ら排除するものではない。
CdTe太陽電池は、
図3に示すように、透明電極基板1の表面層22側の表面上に、n型層40、p型層50、及び裏面電極(陽極)60が順に積層された構成である。
【0059】
CdTe太陽電池の場合、透明電極基板の表面層側の表面上にはn型層が形成されるが、n型層としては、従来公知のものを使用でき、例えばCdS、CdSe等が挙げられ、CdSが好ましい。
n型層の厚みは30nm以上が好ましく、また、100nm以下が好ましい。
n型層は近接昇華法により形成でき、昇華速度を変更したり、基板温度を変更することにより、その厚みや膜質を調整できる。
【0060】
p型層はCdTeが一般的である。p型層の厚みは3μm以上が好ましく、また、15μm以下が好ましい。
p型層は近接昇華法により形成でき、昇華速度を変更したり、基板温度を変更することにより、その厚みや膜質を調整できる。
【0061】
裏面電極は陽極として作用するが、従来公知のものを使用できる。例えば、銀(Ag)やモリブデン(Mo)等の金属材料膜が積層された構造の電極や、Cuをドープしたカーボン電極等が挙げられる。また、裏面電極上にさらに裏板ガラスを有していてもよい。裏板ガラスは耐水性や耐酸素透過性を有していればよく、裏板ガラスに代えて樹脂からなるバックフィルムを用いてもよい。
裏面電極と裏板ガラス又はバックフィルムとの間は、樹脂封入や接着用の樹脂により接着される。
裏面電極の厚みは100nm以上が好ましく、また、1000nm以下が好ましい。裏板ガラス又はバックフィルムの厚みは1mm以上が好ましく、また、3mm以下が好ましい。
【0062】
CdTeからなるp型層の端部又はCdTe太陽電池の端部は封止されていてもよい。封止するための材料としては、例えば、前記透明電極基板におけるガラス基板と同じ組成を有するガラスや、その他の組成のガラス、樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。例1~3は実施例であり、例4~6は比較例である。
【0064】
[例1]
以下に示すように、フロート法によりガラス基板を製造すると同時に、オンライン常圧CVD(化学気相)法によりアンダーコート層、導電層及び表面層を形成することで、透明電極基板を得た。
【0065】
ソーダライムシリカガラス組成からなる溶融ガラスを1500~1600℃のフロートバス中に流し込み、連続的にガラスリボンを流しながら板状ガラスの成形を行った。
(アンダーコート層の成膜)
ガラスリボンの温度が760℃となる最上流側に位置する第1のコーティングビームから、モノシラン(SiH4)、エチレン、及びCO2からなる混合ガス1を供給し、ガラスリボン上に膜厚35nmのSiOC膜であるアンダーコート層を製膜した。
混合ガス1:モノシラン0.394kg/時間、エチレン1.35kg/時間、CO24.0kg/時間、窒素ガス6.9kg/時間
(導電層の成膜)
続いて、ガラスリボンが610℃となる下流側に位置する第2のコーティングビームから混合ガス2を供給し、SiOC膜上に膜厚420nmのSnO2:Fを成分とする導電層(フッ素ドープ酸化錫膜)を製膜した。
(表面層の成膜)
さらに、そのすぐ下流にある第3のコーティングビームから混合ガス3を供給し、膜厚が50nmのSnO2を成分とする表面層を製膜することで、透明電極基板を得た。なお、ガラス基板の板厚は3.2mmであった。
【0066】
ここで、混合ガス2、3における各原料の供給量を以下に示す。なお、混合ガスはいずれも、各物質を液相又は気相状態でミキサーに供給し、そこで加熱気化しながら混合して混合ガスとした。
混合ガス2:モノブチル錫トリクロライド22.1L/時間(液相)、トリフロロ酢酸5.3L/時間(液相)、水96.0kg/時間、硝酸22.3L/時間(液相)、窒素60.3Nm3/時間、空気171.7Nm3/時間
混合ガス3:モノブチル錫トリクロライド5.9L/時間(液相)、水44.6kg/時間、酸素1.3Nm3/時間、窒素48.9Nm3/時間
【0067】
[例2]
混合ガス2、3における原料の供給量を以下のように変更し、導電層の膜厚を440nm、表面層の膜厚を47nmに変更した以外は例1と同様にして透明電極基板を得た。
混合ガス2:モノブチル錫トリクロライド23.2L/時間(液相)、トリフロロ酢酸5.5L/時間(液相)、水90.2kg/時間、硝酸21.5L/時間(液相)、窒素60.3Nm3/時間、空気179.9Nm3/時間
混合ガス3:モノブチル錫トリクロライド5.9L/時間(液相)、水38.2kg/時間、酸素2.2Nm3/時間、窒素55.8Nm3/時間
【0068】
[例3]
混合ガス2、3における原料の供給量を以下のように変更し、導電層の膜厚を440nm、表面層の膜厚を30nmに変更した以外は例1と同様にして透明電極基板を得た。
混合ガス2:モノブチル錫トリクロライド23.2L/時間(液相)、トリフロロ酢酸5.5L/時間(液相)、水90.2kg/時間、硝酸21.5L/時間(液相)、窒素60.3Nm3/時間、空気179.9Nm3/時間
混合ガス3:テトラブチル錫14.4L/時間(液相)、水18.7kg/時間、酸素11.6Nm3/時間、窒素78.0Nm3/時間。なお、テトラブチル錫は、不純物として、5重量%のトリブチル錫クロライドが含まれるものを用いた。
【0069】
[例4]
混合ガス2、3における原料の供給量を以下のように変更し、導電層の膜厚を420nm、表面層の膜厚を70nmに変更した以外は例1と同様にして透明電極基板を得た。
混合ガス2:モノブチル錫トリクロライド22.1L/時間(液相)、トリフロロ酢酸5.3L/時間(液相)、水96.0kg/時間、硝酸18.1L/時間(液相)、窒素60.3Nm3/時間、空気171.7Nm3/時間
混合ガス3:モノブチル錫トリクロライド8.3L/時間(液相)、水53.5kg/時間、酸素13.3Nm3/時間、窒素25.8Nm3/時間
【0070】
[例5]
混合ガス2、3における原料の供給量を以下のように変更し、導電層の膜厚を420nm、表面層の膜厚を50nmに変更した以外は例1と同様にして透明電極基板を得た。
混合ガス2:モノブチル錫トリクロライド22.1L/時間(液相)、トリフロロ酢酸5.3L/時間(液相)、水96.0kg/時間、硝酸18.1L/時間(液相)、窒素60.3Nm3/時間、空気85.8Nm3/時間
混合ガス3:モノブチル錫トリクロライド5.9L/時間(液相)、水31.8kg/時間、酸素11.9Nm3/時間、窒素54.1Nm3/時間
【0071】
[例6]
混合ガス2、3における原料の供給量を以下のように変更し、導電層の膜厚を420nm、表面層の膜厚を50nmに変更した以外は例1と同様にして透明電極基板を得た。
混合ガス2:モノブチル錫トリクロライド22.1L/時間(液相)、トリフロロ酢酸5.3L/時間(液相)、水153.6kg/時間、硝酸18.1L/時間(液相)、窒素60.3Nm3/時間、空気85.8Nm3/時間
混合ガス3:モノブチル錫トリクロライド5.9L/時間(液相)、水41.4kg/時間、酸素3.2Nm3/時間、窒素50.9Nm3/時間
【0072】
得られた各透明電極基板について、以下の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(塩素濃度)
導電層及び表面層の塩素濃度は、二次イオン質量分析装置(SIMS)(アルバック・ファイ社製、ADEPT1010型)を用いて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
一次イオン種:Cs+(セシウムイオン)
一次イオンの加速電圧:3keV
一次イオンの電流値:150nA
一次イオンのラスターサイズ:20×20μm角
検出二次イオン種:35Cl-、120Sn+、19F-
また、同バッチで測定する標準サンプルとしては、塩素濃度:9.58×1019(atoms/cm3)、フッ素濃度:4.62×1020(atoms/cm3)の酸化スズ膜サンプルを用いた。
【0074】
(キャリア密度)
表面層のキャリア密度(表面キャリア密度)は、透明電極基板を1cm角に切断し、ホール効果測定装置(アクセントオプティカルテクノロジーズ社製、HL5500PC)により以下の方法で測定した。
透明電極基板の製造工程において、表面層のみが形成されるエリアを設けて、表面層単層膜を作製した。表面層のみが形成されたエリアを用いて、ホール効果測定装置により表面層のキャリア密度を測定した。
【0075】
(移動度)
透明導電膜の移動度は、透明電極基板を1cm角に切断し、ホール効果測定装置(アクセントオプティカルテクノロジーズ社製、HL5500PC)により測定した。
【0076】
【0077】
実施例である例1~3の透明電極基板は、表面キャリア密度が小さく、かつ、透明導電膜の移動度は大きい結果となった。このような透明電極基板は、キャリア再結合を好適に抑制しつつ、かつ透明電極基板としての導電性に優れるため、太陽電池用の透明電極基板とした際に優れた電池効率が期待される。
【0078】
一方で、例4及び例5の透明電極基板は表面キャリア密度が大きく、太陽電池用の透明電極基板とした場合にはキャリア再結合が生じやすく、電池効率に劣ると考えられる。また、例6の透明電極基板は、表面キャリア密度は小さいものの、透明導電膜の移動度が小さいため、太陽電池用の透明電極基板とした場合に電池効率に劣ると考えられる。
【0079】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2020年11月30日出願の日本特許出願(特願2020-198862)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る透明電極基板は、キャリア再結合を抑制しつつ、かつ、透明電極基板としての導電性にも優れるので、太陽電池、好ましくはスーパーストレート型太陽電池に用いた際にエネルギー変換効率を向上できる。
【符号の説明】
【0081】
1 透明電極基板
2 CdTe太陽電池
10 ガラス基板
20 透明導電膜
21 導電層
22 表面層
30 アンダーコート層
40 n型層
50 p型層
60 裏面電極
【要約】
本発明は、太陽電池に用いられる透明電極基板であって、ガラス基板と透明導電膜とを含み、前記透明導電膜は、前記ガラス基板側に位置する導電層と、表面層とから構成され、前記表面層の平均塩素濃度が0.025重量%以下であり、前記導電層の平均塩素濃度が0.040重量%以上である、透明電極基板に関する。