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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】水素化ホウ素ナトリウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 6/21 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
C01B6/21
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021537352
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2020030035
(87)【国際公開番号】W WO2021025069
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2019144884
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020114418
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 薫
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】阿部 レネー 曜
(72)【発明者】
【氏名】蜂巣 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】松永 猛裕
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-181174(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190004(WO,A1)
【文献】特開2006-143537(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108545699(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 6/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス雰囲気下で、ホウ酸ナトリウム類およびアルミニウム粉末を含む混合物を、静置状態で脱水した後、400℃以上560℃以下で撹拌して反応させ、
前記ホウ酸ナトリウム類に含まれるホウ素に対する前記ホウ酸ナトリウム類に含まれるナトリウムのモル比が1.33以上である
ことを特徴とする、水素化ホウ素ナトリウムの製造方法。
【請求項2】
水素ガス雰囲気下で、アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物、ホウ酸ナトリウム類およびアルミニウム粉末を含む混合物を、400℃以上560℃以下の温度で撹拌して反応させ、
前記ホウ酸ナトリウム類に含まれるホウ素のモル量に対するアルカリ金属とアルカリ土類金属と前記ホウ酸ナトリウム類に含まれるアルカリ金属とアルカリ土類金属を足したモル量とのモル比が0.5を超えて3以下である、
ことを特徴とする水素化ホウ素ナトリウムの製造方法。
【請求項3】
水素ガス雰囲気下で、アルカリ金属水酸化物、ホウ酸ナトリウム類およびアルミニウム粉末を含む混合物を、静置状態で脱水した後、
400℃以上560℃以下の温度で撹拌して反応させ、
前記ホウ酸ナトリウム類に含まれるホウ素のモル量に対する前記アルカリ金属水酸化物と前記ホウ酸ナトリウム類とに含まれるアルカリ金属のモル量とのモル比が0.5を超えて3以下である、
ことを特徴とする水素化ホウ素ナトリウムの製造方法。
【請求項4】
水素ガス雰囲気下で、アルカリ金属水酸化物、ホウ酸ナトリウム類およびアルミニウム粉末からなる混合物を、400℃以上の静置状態で脱水した後、
水による酸化反応をさせて、アルミニウム粒の表面から内側に下記化学式(I)で示すナトリウムアルミニウム酸化物層を形成し、
400℃以上560℃以内の温度で撹拌して反応させる、
ことを特徴とする、水素化ホウ素ナトリウムの製造方法。
xNa2O・Al23・・・(I)
ここで、xは、0<x<1である。
【請求項5】
アルカリ金属水酸化物、ホウ酸ナトリウム類およびアルミニウム粉末からなる混合物を装入した容器を400℃以上で減圧加熱して、静置状態で脱水した後、
水による酸化反応をさせて、アルミニウム粒の表面から内側に下記化学式(I)で示すナトリウムアルミニウム酸化物層を形成し、
水素ガス雰囲気下で、400℃以上560℃以内の温度で撹拌して反応させる、
ことを特徴とする、水素化ホウ素ナトリウムの製造方法。
xNa2O・Al23・・・(I)
ここで、xは、0<x<1である。
【請求項6】
求項4または請求項5において、
前記ホウ酸ナトリウム類のホウ素量に対する前記アルカリ金属水酸化物と前記ホウ酸ナトリウム類とに含まれるアルカリ金属のモル量とのモル比が1.33以上である、
ことを特徴とする水素化ホウ素ナトリウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化ホウ素ナトリウムの製造方法に関し、より詳細には、メタホウ酸ナトリウムから水素化ホウ素ナトリウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の代替エネルギーとして水素燃料が注目される中、水素化ホウ素ナトリウム(Sodium Borohydride:SBH)は、水素の貯蔵や輸送、水素発生源として有望な水素キャリアである。水素キャリアとしての水素化ホウ素ナトリウムを社会へ普及させるためには、その量産技術を念頭に置いた最適な製造方法を確立させる必要がある。
【0003】
水素化ホウ素ナトリウムの従来の製造方法としては、例えば特許文献1においては、ホウ酸トリアルキル類と、ナトリウムアルミニウムハイドライドとを反応させて、ナトリウムボロハイドライドを製造する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2においては、水素雰囲気下で、メタホウ酸ナトリウムと粒状のアルミニウムとを、撹拌媒体を用いて圧延粉砕しつつ反応させて水素化ホウ素ナトリウムを得る工程を有する水素化ホウ素ナトリウムの製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、非特許文献1においては、二ホウ酸ナトリウム(Na425)とメタホウ酸ナトリウムとの混合物を、高温(855K(581℃)、好ましくは873K(599℃))において二ホウ酸ナトリウム(Na425)の溶融状態において、アルミニウムと水素と反応させて、水素化ホウ素ナトリウムを得る水素化ホウ素ナトリウムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第3471268号公報
【文献】国際公開第2015/190403号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Bin Hong LIU、他4名、"Sodium Borohydride Synthesis by Reaction of Na20 contained Sodium Borate with Al and Hydrogen"、Energy & Fuels、2007年、Vol.21、No.3、p.1707-1711
【文献】The Journal of Physical Chemistry C 114(15)7173-7177 march 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の提案では、水素雰囲気で無水ホウ砂を還元して水素化ホウ素ナトリウムを生成させるために、還元剤として、あらかじめ水素化ナトリウムかナトリウム金属を用いる必要があり、高価なナトリウム金属を用意しなければならないという問題がある。
【0009】
特許文献2の提案では、円筒形状の反応容器内に回転可能に配置された反応部に、乾燥した無水メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)と、直径が約3mmのアルミニウム粒とを装入し、反応容器内に、撹拌媒体(直径が約30mmの鋼球)を用いて、圧延粉砕により、水素化ホウ素ナトリウムを製造しているが、圧延粉砕時間が長くなることで、粉砕されるアルミニウム粒子が薄く、または小さくなりすぎて、粉砕が困難となって、反応が進行しなくなる、という問題がある。
【0010】
非特許文献1の提案では、二ホウ酸ナトリウム(Na425)を、溶融状態とする必要があり、高温(855K(581℃)、好ましくは873K(599℃))且つ、2.3Mpaの高圧水素に耐えうる装置が必要となり、装置構成が大がかりとなり、製造費用が嵩む、という問題がある。また、水素化ホウ素ナトリウムは1atmでは、534℃以上で分解するとされている(「非特許文献2」参照)。さらに高温の599℃では高圧の水素下であっても一部が分解してしまう、という問題がある。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、還元剤として安価なアルミニウムを用いて、簡易な構成によって水素化ホウ素ナトリウムの生成を達成することができる水素化ホウ素ナトリウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法は、水素ガス雰囲気下で、ホウ酸ナトリウム類およびアルミニウム粉末を撹拌しながら、400℃以上560℃以下で反応させ、前記ホウ酸ナトリウム類に含まれるホウ素に対する前記ホウ酸ナトリウム類に含まれるナトリウムのモル比が0.5より大きい、ことを特徴とする。
【0013】
第1の態様において、さらに、アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物を加え、前記ホウ酸ナトリウム類に含まれるホウ素のモル量に対するアルカリ金属とアルカリ土類金属と前記ホウ酸ナトリウム類に含まれるアルカリ金属とアルカリ土類金属を足したモル量とのモル比が0.5を超えて3以下であるようにしてもよい。
【0014】
第1の態様において、さらに、アルカリ金属水酸化物を加え、前記ホウ酸ナトリウム類に含まれるホウ素のモル量に対する前記アルカリ金属水酸化物と前記ホウ酸ナトリウム類とに含まれるアルカリ金属のモル量とのモル比が0.5を超えて3以下であるようにしてもよい。
【0015】
第2の態様の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法は、水素ガス雰囲気下で、アルカリ金属水酸化物、ホウ酸ナトリウム類およびアルミニウム粉末からなる混合物を、400℃以上の静置状態で脱水した後、水による酸化反応をさせて、アルミニウム粒の表面から内側に下記化学式(I)で示すナトリウムアルミニウム酸化物層を形成し、400℃以上560℃以内の温度で撹拌して反応させる、ことを特徴とする。
xNa2O・Al23・・・(I)
ここで、xは、0<x<1である。
【0016】
第3の態様の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法は、アルカリ金属水酸化物、ホウ酸ナトリウム類およびアルミニウム粉末からなる混合物を装入した容器を400℃以上で減圧加熱して、静置状態で脱水した後、水による酸化反応をさせて、アルミニウム粒の表面から内側に下記化学式(I)で示すナトリウムアルミニウム酸化物層を形成し、水素ガス雰囲気下で、400℃以上560℃以内の温度で撹拌して反応させる、ことを特徴とする。
xNa2O・Al23・・・(I)
ここで、xは、0<x<1である。
【0017】
第1、第2または第3の態様において、ホウ酸ナトリウムのホウ素量に対するアルミニウムのモル比が1.33以上であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
第1又は第2の態様によれば、大がかりな設備とすることなく、水素化ホウ素ナトリウムの製造方法を提供することができる。
また、第3の態様によれば、大がかりな設備とすることなく、原料に水分量が多い場合においても、水素化ホウ素ナトリウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、ホウ酸ナトリウム類を原料とし、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する工程図である。
図2図2は、ホウ砂を原料とし、メタホウ酸ナトリウムを生成して、それを原料とし、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する工程図である。
図3図3は、本実施形態において用いる密閉容器の一例を示す部分断面図である。
図4図4は、本実施形態において用いる密閉容器の他の一例を示す部分断面図である。
図5a図5aは、本実施形態において用いる密閉容器の他の一例を示す部分断面図である。
図5b図5bは、本実施形態において用いる密閉容器の他の一例を示す部分断面図である。
図6図6は、メタホウ酸ナトリウムを原料とし、水素雰囲気下で水分除去を行い、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する工程図である。
図7図7は、メタホウ酸ナトリウムを原料とし、水素を導入せず、減圧乾燥で水分除去を行い、その後水素雰囲気下で水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する工程図である。
図8a図8aは、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)生成反応の工程を模式した反応模式図である。
図8b図8bは、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)生成反応の工程を模式した反応模式図である。
図8c図8cは、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)生成反応の工程を模式した反応模式図である。
図8d図8dは、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)生成反応の工程を模式した反応模式図である。
図8e図8eは、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)生成反応の工程を模式した反応模式図である。
図8f図8fは、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)生成反応の工程を模式した反応模式図である。
図8g図8gは、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)生成反応の工程を模式した反応模式図である。
図9a図9aは、メタホウ酸ナトリウムとアルミニウムとを混合してペレットを作成したSEMマッピング分析を示す図である。
図9b図9bは、水酸化ナトリウムを添加した試験例12の反応途中の反射電子像とSEMマッピング分析結果を示す図である。
図9c図9cは、水酸化ナトリウムを添加した試験例12の反応終了時の状態の反射電子像を示す図である。
図10a図10aは、試験例12の反応途中のSEMマッピング分析前の反射電子像である。
図10b図10bは、SEMマッピング分析後の反射電子像と点分析位置および推定の化学物質結果を示す図である。
図10c図10cは、図10aの番号に対応する場所のマッピング分析後に測定したSEM点分析結果(原子比率(%))を示す表である。
図11a図11aは、試験例12の反応終了後のマッピング分析前の反射電子像である。
図11b図11bは、マッピング分析後のSEM画像である。
図11c図11cは、マッピング分析前のSEM点分析結果(原子比率(%))を示す表である。
図12図12は、試験例11にかかる水素化ホウ素ナトリウムの製造方法における製造過程を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施形態>
図1は、ホウ酸ナトリウム類を原料とし、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する工程図である。
第1の実施形態の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法は、水素ガスを満たした密閉容器内で、ホウ酸ナトリウム類、アルミニウム粉末を混合させ、400℃以上560℃以下で反応させる。ホウ酸ナトリウム粉末およびアルミニウム粉末は、それぞれ固相状態のまま反応する。第1の実施形態の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法は、図1に示すように、第1工程(S-11)から第3工程(S-13)までの工程を含む。
【0021】
第1工程のホウ酸ナトリウムとしてのホウ酸ナトリウム類51は、ホウ砂を出発原料とし、水酸化ナトリウムを添加して、Na/B比が0.5から3.0の範囲の三酸化二ホウ素(B23)と酸化ナトリウム(Na2O)との複酸化物からなるものである。ホウ酸ナトリウム類としては、具体的にはホウ砂(4ホウ酸ナトリウム;Na247)、メタホウ酸ナトリウム(NaBO2(=Na224))、二ホウ酸ナトリウム(Na425)を例示することができるが、次に示すように、これらに限定されるものではない。
【0022】
表1は、三酸化二ホウ素(B23)と酸化ナトリウム(Na2O)との存在状態を示している。表1に示すように、ホウ酸ナトリウム原料Aからホウ酸ナトリウム原料F(以下「原料Aから原料F」ともいう)は、出発原料としてホウ砂(4ホウ酸ナトリウム;Na247)を用い、これに酸化ナトリウム(Na2O)を増加させた場合のホウ酸ナトリウム類を構成する三酸化二ホウ素(B23)と酸化ナトリウム(Na2O)との存在状態を示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1において、原料Aは、ホウ砂である。ホウ砂は、四ホウ酸ナトリウム(無水物)、四ホウ酸ナトリウム(5水和物)、四ホウ酸ナトリウム(10水和物)があり、ホウ砂の10水和物は天然に結晶として存在する。よって、この原料Aは、水和物液体を晶析分離し、水和物を乾燥することで結晶を分離できる。
【0025】
原料Cは、ホウ砂に水酸化ナトリウム(NaOH(Na2O・H2O))を添加して、Na/B(モル比)=1.0のホウ酸ナトリウム類であるメタホウ酸ナトリウム(NaBO2(=Na224))である。この原料Cのメタホウ酸ナトリウムは、水和物液体を晶析分離し、水和物を乾燥することで結晶を分離できる。
ここで、Na/B(モル比)とは、ホウ素に対するアルカリの性質を持つ金属およびホウ酸ナトリウムが含むナトリウムの合計のモル比をいう(以下、「Na/B」ともいう。)。
【0026】
原料Eは、メタホウ酸ナトリウムに水酸化ナトリウム(NaOH(Na2O・H2O))を添加して、Na/B=2.0のホウ酸ナトリウム類である二ホウ酸ナトリウム(Na425)である。この原料Eの二ホウ酸ナトリウムは、水和物液体から晶析分離することができず、水溶液から結晶として分離できない。
【0027】
また、原料Bは、0.5<Na/B<1.0の範囲のホウ酸ナトリウム類であり、最初はホウ砂が主体であるが、徐々に酸化ナトリウム(Na2O)の存在割合が多くなる。原料Bは、ホウ砂(Na247)と酸化ナトリウム(Na2O)とが混在する状態である。
【0028】
原料Dは、1.0<Na/B<2.0の範囲のホウ酸ナトリウム類であり、最初はメタホウ酸ナトリウムが主体であるが、徐々に酸化ナトリウム(N2O)の存在割合が多くなり、メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)と二ホウ酸ナトリウム(Na425)とが混在状態となる。この原料Dは、水和物を含有する液体であるが、晶析分離することができず、結晶として分離できない。
【0029】
原料Fは、2.0<Na/Bの範囲のホウ酸ナトリウム類であり、最初は二ホウ酸ナトリウム(Na425)が主体であるが、徐々に酸化ナトリウム(Na2O)の存在割合が多くなり、二ホウ酸ナトリウム(Na425)と酸化ナトリウム(Na2O)との混在状態となる。この原料Fは、二ホウ酸ナトリウムが主な結晶であるが、水溶液から晶析分離することができず、二ホウ酸ナトリウム結晶として分離できない。なお、Na/Bの値が高くなると、酸化ナトリウム(Na2O)が余る状態となり、Na/Bが2以上の場合には、原料Fはフリー状態で存在する。
【0030】
以上より、ホウ酸ナトリウム類は、三酸化二ホウ素(B23)と酸化ナトリウム(Na2O)を任意の比率で混合した複酸化物である。上述したように、例えばメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)は原料C(Na/B(モル比)=1.0;Na2O:B23=1:1)であり、二ホウ酸ナトリウム(Na425)は原料E(Na/B(モル比)=2.0;Na2O:B23=2:1)であるが、これ以外の固有の物質名を持たない任意の比率でNa2OおよびB23を混合したものでも、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)の製造原料として使用できる。
【0031】
ここで、ホウ酸ナトリウム類のNa/B(モル比)は、0.5よりも大きく6以下の範囲、より好ましくは1.0よりも大きく3以下の範囲であることが好ましい。
【0032】
以下に、各工程について詳述する。以下の工程では、ホウ酸ナトリウム類として結晶として分離したメタホウ酸ナトリウムを用いて説明する。
【0033】
[第1工程]
図1に示すように、第1工程(S-11)は、ホウ酸ナトリウム類51のメタホウ酸ナトリウムと、アルミニウム粉末52とを密閉容器内に装入した後、又は装入する前に密閉容器内に非酸化性ガス53を導入し、内部を非酸化性ガス雰囲気で満たす工程である。
第1工程では、主に原料を準備・装入する工程であるが、密閉容器内を非酸化性ガスで満たすことで、メタホウ酸ナトリウムおよびアルミニウムの表面酸化被膜への空気中の水分の付着を防止することができる。密閉容器内を非酸化性ガスで満たすタイミングとしては、原料を密閉容器内に装入した後でもよいし、装入する前でもよい。
【0034】
ここで、非酸化性ガス53としては、例えば水素ガス、希ガス(例えばヘリウムガス、アルゴンガスなど)などが挙げられる。または第1工程は、メタホウ酸ナトリウムと、アルミニウムとを密閉容器内に装入した後、密閉容器内を真空状態とする工程でもよい。
【0035】
密閉容器としては、高温(例えば560℃)および高圧(例えば10MPa)に耐えうる耐熱性、耐圧性を有し、ガスを充填するため密閉空間を確保できる容器が用いられる。なお、撹拌手段を少なくとも備えた容器を用いてもよい。
このような密閉容器の詳細については後述する。
【0036】
メタホウ酸ナトリウム粉は柔らかいので撹拌工程で多くの部分が衝突して粉砕されるが粒径が100μm以下の場合、アルミニウム粉との混合時の接触の頻度が増加し、反応率も増大する。したがって、メタホウ酸ナトリウム粉の粒径は100μm以下であることが好ましい。なお、メタホウ酸ナトリウム粉はその保管時に水分を吸いやすいため、そのまま使用すると反応率が低下する。そのため、メタホウ酸ナトリウムの保管には湿度10%以下とするのが良く、その条件で短期保管した際は2から3重量%(以下「%」と記す)の水分となる。なお、二ホウ酸ナトリウムはその条件でも5%以上の水分を吸水する。
【0037】
また、本実施形態においては、メタホウ酸ナトリウム粉末は、ある程度細かく粉砕した後、目開き100μmの篩にかけることで得られる篩下の原料である。メタホウ酸ナトリウムとアルミニウムとの接触を良好にするには、より小さい粒径のメタホウ酸ナトリウム粉末を用いることが好ましい。そのためには、密閉容器内での撹拌媒体による粉砕による方法と、メタホウ酸ナトリウム粉末を目開き100μm未満の篩(例えば50μm以下の篩等)を用いる方法等がある。
【0038】
第1工程において装入するメタホウ酸ナトリウム粉の質量は、所望する水素化ホウ素ナトリウムの生成量に応じて決定することができる。ただし、乾燥させた粉砕済みのメタホウ酸ナトリウムは水分を吸着しやすいため、その吸着水分の質量減少分を考慮して多めに見積もる必要がある。
【0039】
原料となるアルミニウムとしては、粉末材、スクラップ材などの断片などを用いることができる。アルミニウム断片は、例えば切削切粉スクラップ、廃材等のスクラップ材等を利用することも可能であるが、なるべくアルミニウムより貴な金属の不純物の含有量が少ないものを選択することが好ましい。
【0040】
装入するアルミニウムの平均粒径は、例えば1μm以上であり、最大粒径が10mm以下であることが好ましい。アルミニウムの平均粒径が1μm未満であると粉じん爆発しやすく扱いにくくなると共に、粒子同士が付着しやすく、粒子同士が固まりやすくなることがある。平均粒径が10mmよりも大きいと、質量当たりの比表面積が小さくなり、反応面積が減って初期の反応速度が極度に低下することがある。当該平均粒径は、10μm以上5mm以下がより好ましい。
なお、平均粒径は、レーザ回折式粒子径分布測定装置により球相当直径の粒径として得られる。
【0041】
第1工程において、原料の投入の際における密閉容器内の温度は特に制限はなく、密閉容器内は特に加熱する必要がないため常温とすることができる。なお、メタホウ酸ナトリウムと空気中の水分との反応を避けるため、水分のない雰囲気中での原料装入が望ましい。原料の装入後は速やかに容器を密閉することが必要である。
【0042】
[第2工程(水分除去工程)]
図1に示すように、第2工程(S-12)は、密閉容器内を280℃以上560℃以下に加熱してメタホウ酸ナトリウムとアルミニウムとに含まれる残留水分を乾燥除去する工程である。
この残留水分を乾燥除去方法は、2つの水分除去方法を用いることができる。
【0043】
第1の水分除去方法は、加熱して密閉容器内の原料から発生する水分とアルミニウムとを反応させ、水素ガスと酸化アルミニウムに転換する方法である。
すなわち、この第1の水分除去方法は、密閉容器内の残留水分を気化させて、アルミニウムと反応させ、反応系内から水分を除去する方法である。
水分とアルミニウムの反応は下記反応式(1)で示される。
2Al+3H2O→Al23+3H2・・・(1)
【0044】
第2の水分除去方法は、密閉容器内を真空で加熱して水分を吸引して脱水する真空加熱乾燥方法である。この真空加熱乾燥方法では水分の多くが系外に出ることとなり、アルミニウムの消費を少なくすることができるが真空乾燥に時間がかかるが、水分量が多い場合に好ましい方法である。
【0045】
第2工程の水分除去工程における加熱条件は、280℃以上であれば、メタホウ酸ナトリウム水和物が水を放出するが、粉末状ホウ酸ナトリウムは水分の脱離が高温まで続くので400℃以上まで加熱することが望ましい。
【0046】
この水分除去工程により、水素化ホウ素ナトリウムの生成に当たり、メタホウ酸ナトリウムに含まれる水分の影響を避けることが出来るため、水素化ホウ素ナトリウムの生成効率の低下を抑えることができる。
【0047】
ここで、水分とは、水和水および表面に付着した水分と無水メタホウ酸ナトリウム粉末が水分と反応して含んだ水分をいう。メタホウ酸ナトリウムは、例えば、水素化ホウ素ナトリウムを加水分解して得ることができる。メタホウ酸ナトリウムは通常4水和物であるが、それ以外の割合で水和水を含むものであってもよい。また、本実施形態においては、メタホウ酸ナトリウムの表面に水分が付着しているか否かを問わず、いずれのメタホウ酸ナトリウムも用いることができる。
【0048】
なお、付着水分はメタホウ酸ナトリウムだけではなく、アルミニウムを覆う酸化被膜にも微量ながら存在するが、いずれも水分除去工程で気化することができる。また、熱重量分析から、1atmではメタホウ酸ナトリウムの水和水の放出温度は280℃であるので、メタホウ酸ナトリウムの水和水の放出のための加熱条件は、上述したように、280℃以上とすることが好ましい。保持時間としては、10分以上の保持時間が好ましく、水和水の放出速度を速くするために加熱温度を300℃以上560℃以下の範囲とすることにより保持時間を少なくすることが可能である。
【0049】
[第3工程]
図1に示すように、本実施形態においては、以上の第2工程(S-12)の終了後、次の第3工程(S-13)を設けることで水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成することができる。なお、水分除去を実施しない場合には、第2工程(S-12)を省略して、第1工程(S-11)から直接第3工程(S-13)と移行することもできる。
【0050】
水素化ホウ素ナトリウムの合成反応を進めるための撹拌は、撹拌子だけでも良いが、合成反応にはアルミニウムとホウ酸ナトリウムの接触と固体である原料と生成物の均一混合が必要なので接触を促進させる撹拌媒体を用いることが望ましい。
【0051】
ここで、撹拌媒体としては、例えば、ボール状、ロッド状などの形状のものが挙げられ、中でも、ボール状が好ましい。ボール状とする場合、ボールの径としては、装入するアルミニウムの粒径よりも大きい径とすることが好ましい。また、粉砕媒体の材質に関しては、例えばセラミック製、ステンレスなどの既存のものを適宜選択可能である。中でも、セラミック製ボールとすると軽量で金属による汚染がない。そのため、媒体としてはセラミック製ボールとすることが好ましく、具体的にはアルミナ製ボール、ムライト製ボールとすることが好ましい。アルミナは合成反応の生成物であるが、高温で焼成されたアルミナやアルミナを含むセラミックは安定であり、合成反応には影響を及ぼさない。
ここで、撹拌媒体の直径としては、約30mm未満、2mm以上20mm以下、より好ましくは3mm以上10mm以下とするのが好ましい。
【0052】
撹拌媒体を用いた撹拌は、撹拌子の周速度が13cm/sec程度の遅い撹拌速度から90cm/sec以上の媒体の衝突エネルギーによってアルミニウムが変形し、圧延粉砕される高速回転の撹拌速度まで許容される。ただし、周速度が90cm/sec以上とすると、圧延粉砕によりアルミニウムが薄く延ばされて粘着するようになり、原料、生成物と共に容器壁に固着して混合されなくなって反応率が低下する。よって、好ましくは撹拌子の周速度が70cm/sec以下のアルミニウムが変形しない速度とするのが望ましい。以後この周速度が70cm/sec以下の低速の撹拌条件を「ソフト撹拌」と称する。
【0053】
本実施形態においては、水素化ホウ素ナトリウムの合成反応は、撹拌によって混合されるアルミニウム表面近傍拡散距離以上のアルミニウム粒の表面を海岸とすると、海岸から離れた沖合(アルミニウム粒の表面から離れた領域:以下「沖合」という)の原料が、反応面であるアルミニウム表面までアルミニウム酸化被膜と反応生成物層へ拡散して到達し、アルミニウムと水素とホウ酸ナトリウムが反応して水素化ナトリウムが生成する。生成物である水素化ホウ素ナトリウムとアルミニウム酸化物と原料のホウ酸ナトリウムは表面近傍拡散距離の中で濃度勾配を持つがそれぞれが表面近傍拡散距離の中の濃度を平均化するように拡散で移動して合成反応が進む。反応速度はナトリウム、ボロン、アルミニウム、酸素、水素の各イオンの拡散速度と距離に依存する。水素ガスは分子が小さく各化合物内を反応表面まで速く移動できるため、反応速度への影響は少ない。
【0054】
第3工程(S-13)における水素ガス雰囲気下の密閉容器内で、反応を開始する方法は2つの方法がある。
【0055】
第1の反応開始する方法は、撹拌初期段階では撹拌媒体同士あるいは撹拌子との衝突でそれらの間に挟まれたアルミニウムが擦れて、表面を覆う酸化被膜が破れて、水素雰囲気下でアルミニウムの新規表面が無水化されたメタホウ酸ナトリウムと接触することで反応が進行する。
一旦、アルミニウムの表面酸化被膜が破れて微細な反応生成物が生成すると、アルミニウムの表面は、生成物、酸化ナトリウムを含有するアルミニウム酸化物で覆われる。
【0056】
第2の反応開始する方法は、酸化ナトリウム過剰のホウ酸ナトリウム原料の場合、酸化ナトリウムがアルミニウム表面のアルミニウム酸化被膜と結合して二酸化ナトリウムアルミニウム(NaAlO2)に変質して、金属イオンに対してバリアー効果がある酸化被膜から拡散が可能になることによって反応が開始する。
【0057】
水素化ホウ素ナトリウムが生成されるに従い、密閉容器内の水素が減量するが、水素ガス圧を高めることで反応速度が増大する。ここでの反応は原料をメタホウ酸ナトリウムとした場合、下記反応式(2)で示される。
4Al+6H2+3NaBO2→3NaBH4+2Al23・・・(2)
【0058】
第3の工程(S-13)においては、密閉容器は、第1工程(S-11)から第2工程(S-12)で用いた密閉容器をそのまま用いてもよいし、別の密閉容器を用いてもよい。すなわち、第1工程(S-11)から第3工程(S-13)は、1つの密閉容器内の工程として進めてもよいし、別の密閉容器内での工程としてもよい。
【0059】
第3工程(S-13)で保持する水素ガス圧は0.3MPa以上10MPa以下の範囲とすることが好ましく、1MPa以上10MPa以下の範囲とすることがより好ましい。水素ガス圧を0.3MPa以上10MPa以下とすることにより、水素化ホウ素ナトリウムの生成効率に優れるとともに、耐圧性に優れた反応容器、器具等を要することがなく、設備コストの増大を抑えることができる。
【0060】
第3工程(S-13)において、反応を十分に進行させるため、加熱温度は400℃以上560℃以下とすることが好ましい。加熱温度を400℃以上560℃以下とすることで、十分な反応速度が得られ、水素化ホウ素ナトリウムの生成効率に優れるとともに、生成した水素化ホウ素ナトリウムの分解が抑えられ十分な回収率が得られる。
【0061】
以上の第1工程(S-11)から第3工程(S-13)により、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成することができる。
【0062】
以上の本実施形態においても、メタホウ酸ナトリウムおよびアルミニウムは、それぞれを別々に密閉容器内に順次装入してもよいし、それらを含む混合物として装入してもよい。
混合物として装入する場合には、第1の工程(S-11)の前に、メタホウ酸ナトリウムとアルミニウムとを混合して混合物を得る工程を設け、第1の工程(S-11)において、メタホウ酸ナトリウムとアルミニウムとを当該混合物の形態で密閉容器に装入することが好ましい。
【0063】
また、事前にアルミニウムとメタホウ酸ナトリウムとを混合し、混合された状態の原料を使用することで、アルミニウムとホウ酸ナトリウムの接触頻度を高め、反応速度を大きくすることができる。
【0064】
また、アルミニウムとメタホウ酸ナトリウムとを混合物とする場合、事前に分散混合し、圧力をかけてペレットとすることもできる。ペレットは、粉体であるよりも湿気を吸いにくくハンドリングに優れるなどの利点がある。ペレットは撹拌の過程で割れて粉体に戻り、その後は粉体と同じ挙動をする。
【0065】
以上は、ホウ酸ナトリウム類として、粉体のメタホウ酸ナトリウムを用いて、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する場合であるが、前述したように、ホウ酸ナトリウム類としては、ホウ砂を原料として水酸化ナトリウムを加えてメタホウ酸ナトリウムを生成しそのまま水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成するようにしてもよい。
【0066】
図2は、ホウ砂を原料とし、メタホウ酸ナトリウムを生成して、それを原料とし、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する工程図である。
図2に示すように、本工程では、第1工程(S-11)において、ホウ砂に水酸化ナトリウムを添加して、三酸化二ホウ素(B23)と酸化ナトリウム(Na2O)との結晶(複酸化物)を生成する加熱焼成工程(S-11A)と、得られた生成物をアルミニウムと混合し接触させる混合接触工程(S-11B)との2工程を有する。この2工程とすることにより、水酸化ナトリウムの添加割合に応じて、Na/B比が1.0から3.0の範囲の三酸化二ホウ素(B23)と酸化ナトリウム(Na2O)との複酸化物を任意に生成することができる。
【0067】
上述した表1に示すように、Na/B=1のものがメタホウ酸ナトリウム(NaBO2(=Na224))、Na/B=2のものが二ホウ酸ナトリウム(Na425)である。
第1工程(S-11)の加熱焼成工程(S-11A)は、加熱温度を400℃以下とするのが好ましい。この加熱焼成により得られたホウ酸ナトリウム類は、一度室温まで冷却した後、粉砕される。そして、混合接触工程(S-11B)ではアルミニウムを導入して、室温でホウ酸ナトリウム類とアルミニウムとを混合接触する。
【0068】
その後は、上述したのと同様に第2工程(S-12)で水分を除去し、第3工程(S-13)において、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する。
この生成物には、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)以外に、酸化ナトリウム(Na2O)と酸化アルミニウム(Al23)と水素化ナトリウムが含まれる。
【0069】
次いで、本実施形態において用い得る密閉容器に一例について示すが、本実施形態においては以下のものに限定されるものではない。
【0070】
図3は、本実施形態において用いる密閉容器の一例を示す部分断面図である。
図3に示すように、密閉容器10Aは、丸底の有底円筒状の容器本体12と、容器本体12を密閉する、脱着可能な円盤状の蓋部14とを有する。容器本体12の下部外側には、温度調節可能なヒーター16が配置され、容器本体12の内容物はヒーター16により加熱される。また、容器本体12の上端面には、蓋部14と密着して内部の気密性を確保するためのO-リング18が配されており、蓋部14が閉じられたとき、蓋部14は容器本体12に対してO-リング18と密着した状態となる。
【0071】
蓋部14はその中央に開口部を有するとともに、開口部近傍に円筒部が立設され、円筒部の上側にはモーター20が配設されている。撹拌装置は、モーター20と、このモーター20の回転軸と接続された撹拌棒22と、この撹拌棒22の軸と直交する方向に複数の設けた撹拌部22Aと、から構成されている。そして蓋部14を容器本体12に装着したとき、撹拌棒22の先端は容器本体12内部の下方領域まで達する。つまり、モーター20を駆動させたとき、撹拌棒22と共に撹拌部22Aが回転し、容器本体12の内容物が撹拌される。
【0072】
蓋部14には、さらに、容器本体12の内部と連通する第1パイプ24および第2パイプ30が具備されており、第1パイプ24は、水素ガス供給バルブ26を介して水素ガス供給源(図示せず)に、排気バルブ28を介して真空ポンプ(図示せず)に接続されている。すなわち、水素ガス供給バルブ26を開状態とすると水素ガスが12内に供給され、排気バルブ28を開状態とすると容器本体12内が脱気される。また、第2パイプ30は圧力計32に接続されており、圧力計32により容器本体12内の圧力を知ることができる。
【0073】
図4は、本実施形態において用いる密閉容器の他の一例を示す部分断面図である。
図3の密閉容器との相違は、図4に示すように、密閉容器10Bは、容器本体12の内部に多数の撹拌媒体40を投入している。そして、容器本体12に原料を投入して撹拌棒22を回転させたとき、撹拌媒体40が撹拌され、原料のホウ酸ナトリウムと中間生成物である水素化ナトリウムとの移動が促進される。反応速度が上がるように撹拌媒体40の投入量を適宜増減して調整するようにしてもよい。
ここで、撹拌媒体40と原料との重量比は1以上110未満とするのが好ましい。
【0074】
図5aは、本実施形態において用いる密閉容器の他の一例を示す部分断面図である。
図3の密閉容器との相違は、図5aに示すように、密閉容器10Cは、容器本体12の内部で回転する撹拌棒22の下端部にJ型の撹拌部22Bを設けている。J型の撹拌部22Bは、容器本体12の底部12aの内周面に沿って湾曲しているように形成している。そして、容器本体12に原料を投入して撹拌棒22を回転させたとき、J型の撹拌部22Bが底部12aの内周面に沿って湾曲しているので、撹拌の際、容器内壁に原料が付着しづらいものとなる。なお、図4に示すように、撹拌媒体40を適宜投入するようにしてもよい。図5bに示す密閉容器10Cは、容器本体12の内部に2個の撹拌媒体40を投入している。
【0075】
<第2の実施形態>
第2の実施形態の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法は、第1の実施形態の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法に記載した第1工程から第3工程までの工程を含む。各工程について、第1の実施形態と同じ説明は省略し、異なる内容を説明する。
第2の実施形態の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法では、第1工程において、さらにアルカリ金属の水酸化物又はアルカリ金属の酸化物を密閉容器内に装入する。そして、第2工程において、水素ガスを満たした密閉容器内で、混合されたホウ酸ナトリウム粉末、アルミニウム粉末、アルカリ金属の水酸化物を400℃以上560℃以下で反応脱水させる。あるいは、加熱真空吸引脱水させたのち、第3工程において、水素ガスを満たした密閉容器内で、メタホウ酸ナトリウム粉末、アルミニウム粉末、アルカリ金属の酸化物を混合させ、400℃以上560℃以下で反応させる。
【0076】
このアルカリの性質を持つ金属の水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)等を例示することができる。
【0077】
また、アルカリの性質を持つ金属の酸化物としては、例えば酸化ナトリウム(Na2O)、酸化リチウム(Li2O)、二酸化ナトリウムアルミニウム(NaAlO2)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)等を例示することができる。この酸化カルシウムの添加はアルカリ度を大きくするために添加する。
【0078】
アルカリの性質を持つ金属の水酸化物として、水酸化ナトリウム(NaOH)を用いる場合、下記反応式(3)に示すように、水酸化ナトリウムがアルミニウムを消費し、代わりに水素が密閉容器内に供給される。よって、アルミニウムを消費による損失に相当する分のアルミニウムの添加量を増量することが好ましい。
6NaOH+2Al→2NaAlO2+2Na2O+3H2・・・(3)
【0079】
第2の実施形態の金属水酸化物(例えばNaOH)を導入して水素化ホウ素ナトリウムを製造する方法には、大別して2つの製造方法により、水素化ホウ素ナトリウムを製造することができる。なお、金属酸化物(例えばCaO)を用いる場合は、水分量が少ないので、第1の方法によるのが好ましい。
以下、図6および図7を用いて金属水酸化物(例えばNaOH)を導入して水素化ホウ素ナトリウムを製造する方法説明する。
図6は、メタホウ酸ナトリウムを原料とし、水素雰囲気下で水分除去を行い、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する工程図である。
図7は、メタホウ酸ナトリウムを原料とし、水素を導入せず、減圧乾燥で水分除去を行い、その後水素雰囲気下で水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する工程図である。
【0080】
第2の実施形態における第1の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法は、図6に示すように、280℃以上でメタホウ酸ナトリウムを乾燥する乾燥工程(S-21)と、この乾燥物にアルカリ金属水酸化物、ホウ酸ナトリウム類およびアルミニウムを室温で混合し接触させる混合接触工程(S-22)と、この混合接触物を、水素ガス雰囲気下で、400℃以上の静置状態で脱水しながら反応させ水分を除去する水分除去工程(S-23)と、水分除去工程(S-23)で、水による酸化反応をさせて、アルミニウム粒の表面から内側に下記化学式(I)で示すナトリウムアルミニウム酸化物層を形成した後、400℃以上560℃以内の温度で撹拌して反応させ、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成するSBH生成工程(S-24)と、を有する。
xNa2O・Al23・・・(I)
ここで、xは、0<x<1である。
【0081】
また、第2の実施形態における第2の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法は、図7に示すように、280℃以上でメタホウ酸ナトリウムを乾燥する乾燥工程(S-31)と、この乾燥物にアルカリ金属水酸化物、ホウ酸ナトリウム類およびアルミニウムを室温で混合し接触させる混合接触工程(S-32)と、この混合物を、400℃以上で減圧加熱して静置状態で脱水しながら反応させ水分を除去する減圧乾燥による水分除去工程(S-33)と、水分除去工程(S-33)で、水による酸化反応をさせて、アルミニウム粒の表面から内側に下記化学式(I)で示すナトリウムアルミニウム酸化物層を形成し、水素ガス雰囲気下で、400℃以上560℃以内の温度で撹拌して反応させ、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成するSBH生成工程(S-34)と、を有する。
xNa2O・Al23・・・(I)
ここで、xは、0<x<1である。
【0082】
図7に示す、第2の実施形態における第2の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法は、先ず減圧乾燥において水分を系外へ追い出すので、原料の水分量が多い場合(例えば2%以上)には良好となる。これは、図6に示す第2の実施形態における第1の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法のように、金属アルミニウムのみの脱水方法では、原料の水分量が多い場合(例えば10%以上)には脱水しきれないので、第2の方法が好ましい。
【0083】
ここで、図6に示す、第2の実施形態における第1の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法について、さらに説明する。アルカリ金属水酸化物の水分は、加熱して反応の温度に達して10分以上媒体の衝突のない条件で反応温度を保持してアルミニウムと反応させて脱水する。以後この方法を「反応脱水法」と称する。
以下、アルカリ金属水酸化物を代表して水酸化ナトリウム(NaOH)を例にして説明する。水酸化ナトリウムから発生する水分の反応は、撹拌媒体の衝突のない条件で高温保持すると、アルミニウムと反応して水素が発生する反応となる。このとき生じる酸化アルミニウムは、同時に生じる金属酸化物である酸化ナトリウム(Na2O)を中和するように配位して二酸化ナトリウムアルミニウム(NaAlO2=Na2O・Al23)を作る。静止状態では高温の保持によって安定相であるβ”アルミナ(0.17Na2O・Al23)やβアルミナ(0.09Na2O・Al23)となるように酸化ナトリウム(Na2O)を離し、xNa2O・Al23(xは0.09<x<1)となる。xNa2O・Al23は二酸化ナトリウムアルミニウムに比べて結晶化によって構造が安定になり、Al23の結合が強くなるので強度が大きくなる。以後、強度の大きくなったxNa2O・Al23層を「ハードシェル」と称する。
ここで、β”アルミナ(0.17Na2O・Al23)やβアルミナ(0.09Na2O・Al23)からなるナトリウムアルミニウム酸化物層(xNa2O・Al23;0<x<1)は、ベータアルミナ固体電解質と称される。ベータアルミナ固体電解質は、アルミナブロックが作る二次元の層間にナトリウムイオンが分布し、その層間をナトリウムイオンは高速で移動する超イオン導電性を備える。
【0084】
生成したばかりの二酸化ナトリウムアルミニウム層は、柔らかい状態である。この柔らかい二酸化ナトリウムアルミニウム層を「ソフトシェル」と称する。ソフトシェルは媒体撹拌するとソフト撹拌条件であってもアルミニウム粒から離れることになる。
【0085】
アルミニウム粒から離れた二酸化ナトリウムアルミニウムは小さく、運動エネルギーの高いところに置かれているのでβアルミナ結晶化現象が起きにくいので、酸化ナトリウムの分離が少ない。たとえ分離してもアルミニウム表面から離れているのでアルミニウムの還元作用を受けられない。
アルカリ水酸化物を添加する目的は、アルミニウム表面での金属酸化物(酸化ナトリウム(Na2O))を増やすことにあるので、脱水が終了するまでは撹拌条件下で加熱および保持は行わないのが好ましい。
【0086】
反応脱水法で得られたハードシェルは、アルミニウム表面の反応部をソフト撹拌から保護している。また、β”アルミナ化したハードシェル(xNa2O・Al23)はイオン透過性が良好であるので、このハードシェル内を拡散によってナトリウム、ボロン、アルミニウム、酸素、水素の各イオンが移動可能となる。特にナトリウムイオンの移動速度は大きい。還元反応が行われるアルミニウム界面では、二酸化ナトリウムアルミニウムからβ”アルミナ化、βアルミナ化の進行で排出された酸化ナトリウム(Na2O)がアルミニウムに還元され金属ナトリウムとなる。この生成したアルミニウム中の金属ナトリウムは固溶量が小さいので、表面と結晶の粒界のような欠陥部に集まる。
【0087】
アルミニウム表面に存在する金属ナトリウムが水素ガスを、また、アルミニウムの欠陥部に存在する金属ナトリウムが水素原子を還元して水素化ナトリウム(NaH)となる。水素化ナトリウムは容易にハードシェルを通過し、ハードシェル内外に拡散する。水素化ナトリウム(NaH)近傍に、酸化ホウ素(B23)が拡散してくると、水素化ナトリウムは酸化ホウ素に水素(ヒドリド)を奪われて下記反応式(4)により、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する。
8NaH+B23→3Na2O+2NaBH4・・・(4)
この還元反応の結果、水素化ホウ素ナトリウムが生成し、一部は元の酸化ナトリウムに戻る。ハードシェルにおいては、ナトリウムイオンが主に移動するが、少量のホウ素イオンもハードシェル内に移動し、ハードシェル内でも水素化ホウ素ナトリウム反応が生じる。反応に必要な酸化ナトリウムはハードシェルを通じて外部から供給されるため、反応は継続的に進行する。
還元反応はアルミニウムの中の金属ナトリウムが多い場所で起きるので、アルミニウム表面とアルミニウムの結晶欠陥部に於いて進行するが、置換反応は水素化ナトリウムが移動と共に広範囲で進行する。
【0088】
ここで、アルカリ水酸化物として水酸化ナトリウム(NaOH)を用い、金属酸化物(酸化ナトリウム(Na2O))を増やし、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を生成する工程の反応の工程を模式した反応模式図(図8aから図8g)を参照しつつ詳述する。
図8aから図8gは、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)生成反応の工程を模式した反応模式図である。
【0089】
図8aに示すように、アルミニウム(Al)粒101の表面には自然酸化による酸化皮膜(Al23・H2O)102が形成されている。この自然酸化による酸化皮膜102は、厚さが約0.01μmであり、緻密な層である。
【0090】
図8bに示すように、このアルミニウム粒101表面の酸化被膜(Al23・H2O)102は、水酸化ナトリウム(NaOH)103から発生する水分と、水酸化ナトリウム(NaOH)103とによって溶解する。この溶解の結果、水酸化ナトリウム(NaOH)は、アルミニウム粒101の表面(新生面)と直接反応するようになる。
【0091】
そして、アルミニウム粒101が加熱されて、300℃以下の低い温度域では水酸化ナトリウム(NaOH)103から発生する水分によって酸化が進行し、下記反応式(5)により、アルミニウムが水酸化ナトリウムと反応し、柔らかなベーマイト(Al23・xH2O)層104と、酸化ナトリウム(Na2O)105と、水素(H2)106とを生成する。
4NaOH+2Al+H2O→Al23・H2O+Na2O+2H2・・・(5)
【0092】
ベーマイト(Al23・H2O)層104は、230℃から300℃又は約500℃で大部分の水分を放出する。なお、水酸化ナトリウム(NaOH)は、約320℃で溶融し、アルミニウム(Al)と直接反応し、Na2OとAl23とH2を生成する。
【0093】
図8cに示すように、酸化ナトリウム(Na2O)105と酸化アルミニウム(Al23)は結合して、下記反応式(6)から(9)により、二酸化ナトリウムアルミニウム(Na2O・Al23)からなるソフトシェル107を形成する。
6NaOH+2Al→Na2O・Al23+2Na2O+3H2・・・(6)
Al23・H2O→Al23+H2O・・・(7)
3H2O+2Al→Al23+3H2・・・(8)
Na2O+Al23→Na2O・Al23・・・(9)
【0094】
図8dに示すように、二酸化ナトリウムアルミニウム(Na2O・Al23)からなるソフトシェル層107は、400℃以上の高温で時間をかけて加熱されることにより、徐々に0.17Na2O・Al23のベータプライムアルミナ(β”アルミナ)となる。このベータアルミナの形成の際、Na2Oの一部(0.8Na2O)105を分離し、β”アルミナからなるハードシェル108を形成する。β”アルミナ化したハードシェル108は、超イオン導電性を有する固体電解質であり、例えばH+、Na+、O2-、B3+、Al3+のイオンなどが移動できるようになる。
【0095】
図8eに示すように、一部分離した酸化ナトリウム(Na2O)105がアルミニウムに接触すると、その一部がアルミニウムによって還元されて、金属ナトリウム(Na)109と酸化アルミニウム(Al23)を生成する。酸化アルミニウムは酸化ナトリウムを結合し二酸化ナトリウムアルミニウムを経てβ”アルミナとなる。金属ナトリウム(Na)109は、アルミニウムへの固溶量が小さいので、アルミニウムの表面や結晶欠陥部に集合する。
【0096】
図8fに示すように、β”アルミナ化したハードシェル108を通過した水素ガス(H2)が水素原子になって、アルミニウム粒101内部に侵入する。水素原子はアルミニウムの表面近傍、アルミニウム結晶欠陥部に多く集合している金属ナトリウム(Na)109と反応して、水素化ナトリウム(NaH)110を生成する。生成された水素化ナトリウム(NaH)110はアルミニウム粒101から離れて、生成物側に移り、生成物中を拡散する。また、アルミニウム(Al)粒101の結晶欠陥部にも水素化ナトリウム(NaH)110が集合して残存する。
【0097】
図8gに示すように、水素化ナトリウム(NaH)110は、三酸化二ホウ素(B23)111と反応して、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)112と酸化ナトリウム(Na2O)105とを生成する。また、アルミニウム粒101内部の結晶欠陥部に存在する水素化ナトリウム(NaH)も、そこに移動してきた三酸化二ホウ素(B23)111と反応し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)112と酸化ナトリウム(Na2O)105とを生成する。
【0098】
さらに、β”アルミナ化したハードシェル108中を拡散している水素化ナトリウム(NaH)110も、三酸化二ホウ素(B23)111と出会うと反応し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)112と酸化ナトリウム(Na2O)105とを生成する。
【0099】
このように水素化ナトリウム(NaH)110は、アルミニウム(Al)粒101の表面と内部、生成物内で反応する。水素化ナトリウム(NaH)の存在が多いアルミニウム(Al)粒101の結晶粒界や欠陥部は、反応生成物が溜まる。または、β”アルミナ化したハードシェル108内に生成した反応生成物によってアルミニウム(Al)粒101の組織が分断されると、細かな組織に変化する。
【0100】
水素化ナトリウム(NaH)は、そのサイズが小さく三酸化二ホウ素(B23)より拡散が容易なため、固体であってもアルミニウム(Al)粒101から沖合(アルミニウム粒の表面から離散する領域)に出ていき、原料の残っている場所が反応場となることによって反応速度の向上、反応率が向上する。
【0101】
図9aは、メタホウ酸ナトリウムとアルミニウムとを混合してペレットを作成したSEMマッピング分析を示す図である。ここで、メタホウ酸ナトリウムとアルミニウムとのペレットNa/B=1であり、Al粒径は30μmである。図9aに示すように、アルミニウム粒101はやや扁平の粒状であり、メタホウ酸ナトリウムは均一組織である。
【0102】
図9bは、水酸化ナトリウムを添加した後述する試験例12の反応途中を示す部分の反射電子像とSEMマッピング分析結果を示す図である。倍率は図9aの約3倍としている。
ここで、図9b中、Na、Bとあるのは、NaBH4(SBH)と推定される。O、B、Naとあるのは、メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)と推定される。Na、Al、B、Oとあるのは、NaBH4(SBH)+酸化ナトリウム(Na2O)+三酸化二ホウ素(B23)+酸化アルミニウム(Al23)と推定される。O、Al、Na、Bとあるのは、酸化アルミニウム(Al23)+酸化ナトリウム(Na2O)+三酸化二ホウ素(B23)+NaBH4(SBH)と推定される。Na、Oは、酸化ナトリウム(Na2O)と推定される。
【0103】
図9bに示すように、前述した図8dに示すアルミニウム粒101にハードシェル108が形成され、このハードシェル108の内部で水素化ホウ素ナトリウム(SBH)の生成反応が進行する。ハードシェル108内部には、酸化ナトリウム(Na2O)の一部(0.8Na2O)105が分離し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)112が生成していることが確認される。
また、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)112は、反応温度(500℃近傍)では、溶融し、融体物となり、合体している。そして、この合体した融体物である水素化ホウ素ナトリウム(SBH)112が、アルミニウム粒101の割れ目の中に集合している。さらに、この割れ目に沿って反応が進み、生成物の反応率が高くなる。
【0104】
図9cは、水酸化ナトリウムを添加した後述する試験例12の反応終了部分の状態の反射電子像を示す図である。倍率は図9aの6倍としている。
図9cに示すように、β”アルミナからなるハードシェル108組織には、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)も混在していることが確認され、ハードシェルが割れて粒子状となっていることが確認された。
【0105】
図10aは、後述する試験例12の反応途中のSEMマッピング分析前の反射電子像である。図10bは、SEMマッピング分析後の反射電子像と点分析位置および推定の化学物質結果を示す図である。図10bは図10aの2倍としており、図10cは、図10aの番号に対応する場所のマッピング分析後に測定したSEM点分析結果(原子比率(%))を示す表である。図10bに示されるマッピング分析後の反射電子像に現れた滲出物の説明としては、例えば、図10bの6のプロットは、対応する点分析値は図10cの6であり水素化ナトリウム(NaH)と推定される。水素化ナトリウム(NaH)は電子線を多く照射されると融解するため、滲出したものと推定される。滲出物を水素化ナトリウムと仮定すると、水素化ナトリウム(NaH)は、xNa2O・Al23組織の境界部分に多く検出された。水素化ナトリウム(NaH)は、xNa2O・Al23組織の層内部にも少量検出された。なお、水素化ナトリウム(NaH)は、ハードシェル層外側のメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)が残存している部分には検出されていない。
【0106】
図11aは、後述する試験例12の反応終了後のマッピング分析前の反射電子像であり、図11bはマッピング分析後のSEM画像であり、図11cはマッピング分析前のSEM点分析結果(原子比率(%))を示す表である。これらの図面から、水素化ナトリウム(NaH)は、xNa2O・Al23存在部に発生することが確認された。また、図11bに示される13プロットのメタホウ酸ナトリウム(NaBO2)存在部には滲出物がなく水素化ナトリウム(NaH)が無いことが確認された。
【0107】
<第3の実施形態>
第3の実施形態の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法は、第1の実施形態の水素化ホウ素ナトリウムの製造方法に記載した第1工程から第3工程までの工程を含む。各工程について、第1の実施形態と同じ説明は省略し、異なる内容を説明する。第1の実施形態と異なるのは、第1工程において、ホウ酸ナトリウム原料として、二ホウ酸ナトリウム(Na425)を用いた。
【0108】
本実施形態では、ホウ酸ナトリウムに水酸化ナトリウムを事前に添加して、予め二ホウ酸ナトリウム(Na425)が準備されている。二ホウ酸ナトリウム(Na425)のNa/B(モル比)は2である。
二ホウ酸ナトリウム(Na425)の作成方法は、四ホウ酸ナトリウム(水和物)またはメタホウ酸ナトリウム(水和物)と水酸化ナトリウムをNa/B比が2になるように計量し、ニッケル容器等のアルカリに耐える容器に入れ加熱してホウ酸ナトリウム水和物融体としたのち、融体の状態で加熱保持して水蒸気発生させ水分を減少させて、突沸しないようにして、固化させる。水和物を含有する固化物を400℃まで加熱し、1から4時間保持して酸化ナトリウム含有二ホウ酸ナトリウム混合物の固形物を作成する。それぞれの存在比率として、Na/B=2までが二ホウ酸ナトリウムとメタホウ酸ナトリウムの混在物となり、それ以上分が二ホウ酸ナトリウムと、酸化ナトリウムとの混在物となる。作成した固形物は水分の吸収が著しいので、水分を含まないあるいは含有率が極めて小さい容器内で保管することが望ましく、使用直前に水分の無い雰囲気内で粉砕して粉体として使用することが望ましい。
【0109】
第3の実施形態の方法は、アルミニウム粉体(固体)、二ホウ酸ナトリウム(固体)、水素(気体)の反応系である。この反応系において、良好な反応が進むためには、二ホウ酸ナトリウム粉体は取り扱い中に水分を吸着しやすいので、第2工程で吸着した水分は真空加熱処理を行って密閉容器から水分除去を行っておくことが重要である。
【0110】
撹拌は原料に水分がなければ反応温度になってすぐに開始しても構わないが、原料中に水分が残っている場合はアルミニウムと酸化反応させてから撹拌する。また、撹拌によってアルミニウム表面の酸化被膜に傷が生じ、新規表面が形成され、そこに原料がアルミニウムと接触し、水素化ホウ素ナトリウム生成反応が始まる。
【0111】
水分が完全に除去され水素化ホウ素ナトリウム反応だけが始まればアルミニウムを含む酸化物はできるものの、生成物である水素化ホウ素ナトリウム(SBH)も同時に生成するのでアルミニウム表面の酸化被膜とはならない。酸化被膜ができないので反応は固体の中の原料の拡散速度に応じて進むこととなる。二ホウ酸ナトリウムを原料とすると、酸化ナトリウムが多く存在するので、反応界面での酸化ナトリウム不足が起きず反応が継続する。
【0112】
また、第3の実施形態の二ホウ酸ナトリウム粉末を用いる場合では、アルミニウムが二ホウ酸ナトリウム粉末中の水分により消費される。このため、二ホウ酸ナトリウムのホウ素量に対するアルミニウムのモル比が4/3以上であるように、アルミニウムが第1工程で密閉容器へ装入される。すなわち、水分で消費されるアルミニウム量を除いたアルミニウム量は、二ホウ酸ナトリウム中のホウ素と4/3モル以上のアルミニウム量を混合するのが好ましい。
アルミニウム粉末の原料は、水分と反応し酸化アルミニウムの生成でロスするアルミニウムを考慮し、アルミニウムの添加量としては、20重量%増とするのが好ましい。
【0113】
[試験例および比較例]
以下、本実施形態の効果を示す試験例により本実施形態を更に詳しく説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0114】
なお、以下において、試験例1から試験例3は、メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)を用いたものとした。
【0115】
試験例4から試験例7は、二ホウ酸ナトリウム(Na425)を用いたものとした。
【0116】
試験例8は、メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)と二ホウ酸ナトリウム(Na425)とを用いたものとした。
【0117】
試験例9は、二ホウ酸ナトリウム(Na425)とホウ砂(四ホウ酸ナトリウム(Na247))を用いたものとした。
【0118】
試験例10から試験例12は、メタホウ酸ナトリウム粉末を用いて、添加物として、アルカリの水酸化物(NaOH)を混合した。
【0119】
試験例13は、メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)とホウ砂(四ホウ酸ナトリウム(Na247))とを用い、添加物として、アルカリの水酸化物(NaOH)を混合した。
【0120】
試験例14から試験例16は、メタホウ酸ナトリウム粉末を用いて、添加物として、アルカリの水酸化物(NaOH)を混合したものであり、なお、試験例14から試験例16は水素を添加する前に真空加熱(減圧乾燥)をした。
【0121】
試験例17は、メタホウ酸ナトリウム粉末を用いて、添加物として、アルカリの酸化物(CaO)を混合した。
【0122】
比較例1としては、試験例1と同様の条件で、第3工程の温度を高温(583℃)とした。
【0123】
また、比較例2としては、試験例1において、第3工程の温度を高温(510℃)とし、最大圧力を低圧(0.53MPa)とした。
【0124】
また、比較例3としては、試験例1において、第3工程の温度を低温(230℃)とした。
【0125】
また、比較例4としては、試験例1において、第3工程の温度を高温(673℃)とし、撹拌は実施しなかった。
【0126】
また、比較例5としては、試験例1において、ホウ酸ナトリウムをホウ砂(Na/B=0.5)とした。
【0127】
比較例6から比較例9としては、試験例11において、第2の脱水工程で水素を導入し、加熱時から媒体撹拌を実施した。
【0128】
[試験例1]
試験例1のホウ酸ナトリウム類の原料としては、メタホウ酸ナトリウム粉末が用いられている。
【0129】
(a)第1工程
粉砕して、目開き100μmの篩にかけたメタホウ酸ナトリウム1.94gと、その質量のメタホウ酸ナトリウムと下記反応式(10)により反応する4/3倍モルのアルミニウム(平均粒径30μm)のアルミニウム粉末1.06gとを混合した後、常温下で、図4に示す密閉容器10B内に装入した。次いで、密閉容器内を真空ポンプに接続して脱気した後、水素ガス(非酸化性ガス)で満たした。
4Al+6H2+3NaBO2→3NaBH4+2Al23・・・(10)
【0130】
(b)第2工程
第2工程(水分除去工程)は、第一工程の後、密閉容器内を真空ポンプに連結し脱気した状態で300℃に加熱し、メタホウ酸ナトリウムおよびアルミニウム粉末の付着水分と、メタホウ酸ナトリウムの水和水とを放出させ脱水した。
【0131】
(c)第3工程
常温で密閉容器に水素ガス(非酸化性ガス)を導入して0.5Mpaとした後、密閉容器内を512℃に加熱した。直後に、密閉容器内の撹拌部22Aの撹拌手段を回転させ、撹拌子周速度:40cm/secで撹拌して、512℃での加熱温度を維持しつつ、4.0時間撹拌した。なお、第3工程の終了は密閉容器内の圧力上昇が生じなくなった時点で撹拌を終了させ、冷却した。このときの初期の水素ガス圧は、0.93MPaであり、終了の水素ガス圧は、0.48MPaであった。なお、このときの撹拌媒体40としては、アルミナ製ボール(直径5mm)を用い、ボールと原料との重量比を55とした。
以上のようにして、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。
【0132】
第3工程の工程終了後、反応率を水素ガス圧の減少から計算した。減少量は最大ガス圧から、反応条件での最少圧力との差を算出し、水素ガス体積(モル量)に換算して算出した。その結果、反応率(SBH率)は33.6%であった。
【0133】
また、以下に示すようにして、反応生成物中の水素化ホウ素ナトリウムの含有率をヨウ素滴定法により求めたところ、12.0%であった。反応率に換算すると33.7%であった。
~ヨウ素滴定法~
(1)試料(反応生成物)50mgを0.1mgの桁まで量り取り、秤量瓶に採取した。
(2)(1)で採取した試料を200ml共栓付三角フラスコに移した。この共栓付三角フラスコに濃度20g/LのNaOH溶液40mlを加え、水浴上で加温して未反応のアルミニウム粉末を完全に分解した。
(3)(2)の分解物を室温まで冷却後、0.05Mヨウ素溶液20.0mlをホールピペットで加え、栓をして暗所で15分間放置した。
(4)(3)の放置物に塩酸3mlを加えてよく振り混ぜた後、0.1Mチオ硫酸ナトリウムで滴定を行った。
(5)滴定の終了はヨウ素の紫色が無色に変化した時点とした。
(6)試料を添加しないで空試験を行い,水素化ホウ素ナトリウム含有率を計算により求めた。含有率の計算に用いた式を以下に示す。
〈水素化ホウ素ナトリウム含有率を求める計算式〉
NaBH(質量%)={(A-B)×0.1×f×37.83/8}/C×100
上記式中の変数および定数は以下の通りである。
A:空試験の0.1M チオ硫酸ナトリウム溶液滴定値(ml)
B:試料液の0.1M チオ硫酸ナトリウム溶液滴定値(ml)
f:0.1Mチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター
C:試料採取量(mg)
37.83:水素化ホウ素ナトリウムの分子量(g/mol)
8:1mol/L水素化ホウ素ナトリウム溶液の規定度(N)
【0134】
[試験例2]
試験例2は、試験例1の第3工程において、加熱温度を520℃とし、低速での撹拌(撹拌子周速度:13cm/sec)で1.9時間に変更した以外は、試験例1と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。その結果、反応率(SBH率)は26.3%であった。
【0135】
[試験例3]
試験例1において、ホウ酸ナトリウム類の原料として、メタホウ酸ナトリウム0.7gとホウ砂1.48gとを用い、加熱温度を516℃とし、2.9時間の撹拌に変更した以外は、試験例1と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。その結果、反応率(SBH率)は21.6%であった。
【0136】
以上の試験例1から試験例3の結果を、下記[表2]に示す。
【0137】
【表2】
【0138】
[比較例1]
試験例1の第3工程において、加熱温度を高温(583℃)とし、3.0時間の撹拌に変更した以外は、試験例1と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。その結果、反応率(SBH率)は7.2%であった。
【0139】
[比較例2]
試験例1の第3工程において、加熱温度を510℃とし、最大圧力を低圧(0.53MPa)とし、4.1時間の撹拌に変更した以外は、試験例1と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。その結果、反応率(SBH率)は18.2%であった。
【0140】
[比較例3]
試験例1の第3工程において、加熱温度を低温(230℃)とし、10.6時間の撹拌に変更した以外は、試験例1と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。その結果、反応率(SBH率)は8.7%であった。
【0141】
[比較例4]
試験例1において、原料を半分とし、第3工程において、加熱温度を673℃とし、撹拌を実施しないで試験例1と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。その結果、反応率(SBH率)は2.1%であった。
【0142】
[比較例5]
試験例1において、ホウ酸ナトリウム類の原料として、メタホウ酸ナトリウムをホウ砂1.98gに変更し、加熱温度を514℃とし、2.5時間の撹拌に変更した以外は、試験例1と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。なお、比較例5のNa/Bは0.5である。その結果、反応率(SBH率)は4.8%であった。
【0143】
以上の比較例1から比較例5の結果を、下記[表3]に示す。
【0144】
【表3】
【0145】
表2に示すように、試験例1から試験例3は、温度が512℃以上520℃以下の範囲で加熱しているので、SBH転換率が33.6%、26.3%、21.6%と良好であった。また、試験例3に示すように、メタホウ酸ナトリウムとホウ砂との混合原料であっても、水素化ホウ素ナトリウムの生成効率が良好であった。
【0146】
これに対し、表3に示すように、比較例1は温度が583℃と高温で加熱しているので、水素化ホウ素ナトリウムの分解による水素圧力の上昇を生じて反応が停止し、SBH転換率が7.2%と低いものであった。比較例2は第3工程の温度を高温(510℃)とし、最大圧力を低圧(0.53MPa)としているので、水素化ホウ素ナトリウムの生成が向上せず、SBH転換率が18.2%と低いものであった。比較例3としては、第3工程の温度を低温(230℃)としているので、水素化ホウ素ナトリウムの生成が向上せず、SBH転換率が8.7%と低いものであった。比較例4としては、温度が673℃で撹拌は実施しないので、水素化ホウ素ナトリウムの生成が向上せず、SBH転換率が2.1%と低いものであった。比較例5としては、ホウ酸ナトリウムをホウ砂(Na/B=0.5)としているので、水素化ホウ素ナトリウムの生成が向上せず、SBH転換率が4.8%と低いものであった。
【0147】
[試験例4]
試験例1において、第1工程において、ホウ酸ナトリウム類の原料として二ホウ酸ナトリウム(Na425)2.94gを用いて、加熱温度416℃での加熱を7.0時間の圧延粉砕となる撹拌(撹拌子周速度:140cm/sec)に変更した以外は、試験例1と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例4のNa/B(モル比)2.00である。
ここで、試験例4においては、真空加熱乾燥にて水分除去を行っている。これは、二ホウ酸ナトリウムを水溶液合成で蒸発乾固した後に粉砕し、400℃で乾燥しているが、デシケータ保管中に水分を吸収し、水分が5%前後に増量しており、この5%の水分は反応率を下げるので、撹拌操作を行う前に密閉容器内で真空加熱乾燥を実施している(以下試験例5から試験例6も同様である)。
その結果、反応率(SBH率)は32.6%であった。
【0148】
[試験例5]
試験例4の第3工程において、加熱温度509℃での加熱を7.1時間の撹拌(撹拌子周速度:40cm/sec)に変更した以外は、試験例4と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例5のNa/B(モル比)2.00である。その結果、反応率(SBH率)は60.4%であった。
【0149】
[試験例6]
試験例4の第3工程において、加熱温度560℃での加熱を4.0時間の撹拌(撹拌子周速度:40cm/sec)に変更した以外は、試験例4と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例6のNa/B(モル比)2.00である。
その結果、反応率(SBH率)は57.6%であった。
【0150】
[試験例7]
試験例4の原料のアルミニウム粉末を20重量%増量して1.27gとし、第3工程において、加熱温度495℃での加熱を7.1時間の撹拌(撹拌子周速度:40cm/sec)に変更とした以外は、試験例4と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例7のNa/B(モル比)2.00である。その結果、反応率(SBH率)は73.2%であった。
【0151】
[試験例8]
試験例4において、ホウ酸ナトリウム類の原料として、メタホウ酸ナトリウム0.82gと二ホウ酸ナトリウム1.31gとを用い、加熱温度を496℃とし、12.8時間の撹拌(撹拌子周速度:40cm/sec)に変更した以外は、試験例4と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。その結果、反応率(SBH率)は40.7%であった。
【0152】
[試験例9]
試験例4において、ホウ酸ナトリウム類の原料として、ホウ砂0.98gと二ホウ酸ナトリウム1.0gとを用い、加熱温度を495℃とし、7.6時間の撹拌(撹拌子周速度:40cm/sec)に変更した以外は、試験例4と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。その結果、反応率(SBH率)は37.5%であった。
【0153】
以上の試験例4から試験例9の結果を、下記[表4]に示す。
【0154】
【表4】
【0155】
表4に示すように、試験例4から試験例7はSBH転換率が32.6%、60.4%、57.6%、73.2%と良好であった。特に、試験例7は、アルミニウム粉末を20重量%増量しているので、酸化反応によるアルミニウムの低減を補い、SBH転換率が73.2%と高いものであった。また、試験例8のように、ホウ酸ナトリウムとして、メタホウ酸ナトリウムと二ホウ酸ナトリウムとを用いた場合、試験例9のように、ホウ酸ナトリウムとして、ホウ砂と二ホウ酸ナトリウムとを用いた場合でも、SBH転換率が40.7%、37.5%と良好であった。
【0156】
[試験例10]
試験例1の第1工程において、アルミニウム粉末1.33gと、水酸化ナトリウム粉末を1.18g添加し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例10のNa/B(モル比)は2.00である。その結果、反応率(SBH率)は40.7%であった。
【0157】
[試験例11]
試験例11は、水分除去のために、撹拌前の温度を所定温度に保持してアルミニウムと反応させている。
図12は、試験例11にかかる水素化ホウ素ナトリウムの製造方法における製造過程を示すグラフである。
第1工程において、目開き100μmの篩にかけたメタホウ酸ナトリウム1.94gと水酸化ナトリウム粉末2.36gと平均粒径30μmのアルミニウム粉末をメタホウ酸ナトリウム中のホウ素と4/3倍モルの1.06gに、水酸化ナトリウム2.36g中に含まれる水分量がアルミニウムと反応して消費される相当分のアルミニウム量0.53gを加えた1.59gを混合して密閉容器に装入した。常温で脱気した後、水素ガスを0.25Mpa充てんし密閉した。
【0158】
第2工程において、密閉容器を515℃まで加熱した後15分間保持して、メタホウ酸ナトリウム粉末と水酸化ナトリウム粉末とアルミニウム粉末中に含まれる水分を気化させアルミニウムと反応させて脱水した。温度上昇と水分による反応で発生した水素ガスによって密閉容器内は0.88Mpaまで上昇した。このときの撹拌手段は停止しており、撹拌しない状態で水素ガスの発生反応をさせた。
【0159】
第3工程において、密閉容器を520℃まで加熱し、撹拌手段を回転速度300rpm(撹拌子周速度:40cm/sec)で撹拌を開始した。密閉容器内の圧力は0.88Mpaまで上昇した。撹拌開始から0.5時間経過した時点から水素ガス圧力は急激に低下し、0.95時間撹拌した時点での水素ガス圧力は0.43Mpaまで低下した。この時点に水素ガスを導入し密閉容器内の圧力を0.5Mpaまで復帰させた。
その後、0.3時間撹拌を継続し、水素ガス圧力の減少が止まったので撹拌と加熱を終了し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例11のNa/B(モル比)は3.00である。その結果、水素ガス減少量から計算した反応率(SBH転換率)は49.8%であった。なお、このときの撹拌媒体としては、試験例1と同様に、アルミナ製ボール(直径5mm)を用い、ボールと原料との重量比を55とした。
【0160】
[試験例12]
試験例11の第1工程において、水酸化ナトリウム粉末を2.35g添加混合し、第2工程において、515℃、95分と変更し、第3工程において、加熱温度を515℃とし、図5bに示す撹拌子(J型の撹拌部22B)とし、撹拌媒体40としてムライト製円柱ボール2個(3.1g×2、原料との重量比1.16)を加えた密閉容器10Cを用いた。その際の回転速度は攪拌子周速130cm/secとし、4.0時間の撹拌に変更した以外は、試験例11と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例12のNa/B(モル比)は2.95である。その結果、反応率(SBH率)は64.2%であった。
【0161】
[試験例13]
試験例10において、ホウ酸ナトリウム類の原料として、メタホウ酸ナトリウム0.95gとホウ砂1.56gとを用い、アルミニウム粉末1.60g、水酸化ナトリウム粉末を2.35g添加し、加熱温度を495℃とし、8.5時間の撹拌に変更した以外は、試験例10と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例13のNa/B(モル比)は1.95である。その結果、反応率(SBH率)は59.8%であった。
【0162】
[試験例14]
試験例10の第2工程において、400℃で4時間減圧乾燥して、水分を系外へ除去し、第3工程において水素を導入し、密閉容器内を加熱し、直後に、密閉容器内の撹拌手段を回転させ、撹拌子周速度:40cm/secで撹拌して、501℃での加熱温度を維持しつつ、6.8時間撹拌した。この際水酸化ナトリウム粉末を2.34gの添加とし、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例14のNa/B(モル比)は2.97である。その結果、反応率(SBH率)は53.2%であった。
【0163】
[試験例15]
試験例14において、522℃での加熱温度を維持しつつ、6.1時間撹拌した。この際水酸化ナトリウム粉末を2.36gの添加とし、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例15のNa/B(モル比)は2.98である。その結果、反応率(SBH率)は58.6%であった。
【0164】
[試験例16]
試験例14において、505℃での加熱温度を維持しつつ、7.6時間撹拌した。この際水酸化ナトリウム粉末を1.17gの添加とし、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例16のNa/B(モル比)は1.99である。その結果、反応率(SBH率)は60.8%であった。
【0165】
[試験例17]
試験例1の第1工程において、水酸化ナトリウムの代わりに酸化カルシウム粉末を0.55g添加混合し、加熱温度495℃での加熱を18.0時間とした以外は、試験例1と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。試験例17のNa(Ca含む)/B(モル比)は1.33である。その結果、反応率(SBH率)は42.7%であった。
【0166】
以上の試験例10から試験例17の結果を、下記[表5]に示す。
【0167】
【表5】
【0168】
表5に示すように、試験例10は水酸化ナトリウムを添加しているので、水酸化ナトリウムの添加が無い試験例2のSBH転換率26.3%に較べて、SBH転換率が40.7%と大幅に向上している。
また、試験例11から試験例13は、水酸化ナトリウムを添加し、水分含有量が多いものであるが、攪拌前において、反応脱水法で水分除去を行っているので、SBH転換率が49.8%、64.2%、59.8%と良好であった。
また、試験例12は、前述したようにSEM分析を行っている。図9aから図11bに示すSEMマッピング分析から、Jタイプの撹拌子と媒体重量比が1.16となる2個のセラミック媒体と周速130cm/secの条件で撹拌している。この条件では、媒体よりも原料の体積のほうが大きいため、媒体の衝突の機会が少なくなると共に、衝突時に原料が挟まれる量が多くなる。そのためハードシェルが残存したソフト撹拌となっていることがわかる。残存アルミニウム形状も欠陥部に沿って反応が進み初期の楕円形から異形へ変化している。反応は水素化ナトリウムの拡散によってハードシェルの外側でも起きており、反応率が向上したと推定された。また、試験例14から試験例16は、水酸化ナトリウムを添加し、水分含有量が多いものであるが、試験例14から試験例16は、減圧乾燥して、水分除去を行い、その後水素を導入してSBH生成を行っている。この事前の水分除去により、SBH転換率が53.2%、58.6%、60.8%となり、水素化ホウ素ナトリウムの生成効率が良好であった。また、試験例17では水酸化ナトリウムの代わりに、酸化カルシウムを添加して場合であっても、SBH転換率が42.7%と水素化ホウ素ナトリウムの生成効率が良好であった。
【0169】
[比較例6]
試験例11の第2工程において、水素雰囲気下で撹拌手段を回転速度90rpm(撹拌子周速度:12cm/sec)で撹拌を開始し、ソフト撹拌しつつ水分除去をおこなった。
このときの撹拌媒体40としてステンレス製ボール(直径5mm)を用い、ボールと原料の重量比を110とし図5aに示す撹拌子(J型の撹拌部22B)とし、回転速度300rpm(撹拌子周速度:40cm/sec)で撹拌させた密閉容器10Cを用いた以外は、試験例11と同様に操作し、加熱温度を515℃で1.3時間とし、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。その結果、反応率(SBH率)は12.5%であった。
【0170】
[比較例7]
試験例11において、加熱温度を321℃で5.0時間とし、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。この際、第2工程において、水素雰囲気下で回転速度1150rpm(撹拌子周速度を140cm/sec)で撹拌を開始し、撹拌を行いつつ水分除去をおこなった。その結果、反応率(SBH率)は22.5%であった。
【0171】
[比較例8]
比較例6の第1工程において、水酸化ナトリウム粉末を5.89g添加混合し、第3工程において、加熱温度を520℃とし、5時間の撹拌に変更した以外は、比較例6と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。比較例8のNa/B(モル比)は6.00である。その結果、反応率(SBH率)は16.7%であった。
【0172】
[比較例9]
比較例6において、ホウ酸ナトリウム類の原料として、メタホウ酸ナトリウム1.97gとホウ砂1.50gとを用い、加熱温度を519℃とし、3.6時間の撹拌に変更した以外は、比較例6と同様に操作し、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を得た。なお、このときの撹拌媒体40としては、アルミナ製ボール(直径5mm)を用い、ボールと原料との重量比を55とした。その結果、反応率(SBH率)は13.3%であった。
【0173】
以上の比較例6から9の結果を、下記[表6]に示す。
【0174】
【表6】
【0175】
表6の比較例6から比較例9に示すように、第2工程の水分除去の際の加熱時から媒体撹拌したので、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)の転換率(%)が低下した。
これは、加熱開始時からソフト撹拌であっても撹拌媒体を使っているので柔らかいメタホウ酸ナトリウムが粉砕され、水酸化ナトリウムから発生した水分が微細化したメタホウ酸ナトリウムに吸着し、321℃から520℃の保持温度になっても微細化したメタホウ酸ナトリウムの水分はすぐに脱離せず、長期間水分を発生したのでアルミニウムの酸化反応が長く続きソフトシェル生成が継続した。また、水分発生時のソフト撹拌は、形成されたソフトシェルを破壊し、破壊されたソフトシェルは、アルミニウム粒の沖合(アルミニウム粒の表面から離散する領域)で混合状態を維持しているため、ソフトシェルから生成される酸化ナトリウム(Na2O)がアルミニウムの近隣に少なくなる状態となり、酸化ナトリウムからナトリウム、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)そして酸化ナトリウムに戻るという反応サイクルが出来ず、反応率が低下した。
【0176】
比較例6、8、9のソフト撹拌例の反応率(SBH率)は試験例に較べて低下した。なお、比較例7のように、積極的に撹拌して圧延粉砕させた場合は、アルミニウムの変形が大きくなり、新規界面が沖合の原料と接触しやすくなって、若干反応率は他の比較例に比べて良化した。
【符号の説明】
【0177】
10A、10B、10C 密閉容器
12 容器本体
14 蓋部
16 ヒーター
18 O-リング
20 モーター
22 撹拌棒
22A 撹拌部
22B J型の撹拌部
24 第1パイプ
26 水素ガス供給バルブ
28 排気バルブ
30 第2パイプ
32 圧力計
40 撹拌媒体
51 ホウ酸ナトリウム類
52 アルミニウム粉末
53 非酸化性ガス
101 アルミニウム粒
102 酸化皮膜
103 水酸化ナトリウム(NaOH)
104 ベーマイト(Al23・xH2O)層
105 酸化ナトリウム(Na2O)
106 水素(H2
107 ソフトシェル
108 ハードシェル
109 金属ナトリウム(Na)
110 水素化ナトリウム(NaH)
111 三酸化二ホウ素(B23
112 水素化ホウ素ナトリウム(SBH)
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8a
図8b
図8c
図8d
図8e
図8f
図8g
図9a
図9b
図9c
図10a
図10b
図10c
図11a
図11b
図11c
図12