(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】生体組織透明化法及びその試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 1/30 20060101AFI20221018BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20221018BHJP
G01N 1/36 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
G01N1/30
G01N1/28 J
G01N1/36
(21)【出願番号】P 2019527726
(86)(22)【出願日】2018-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2018025239
(87)【国際公開番号】W WO2019009300
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2017132787
(32)【優先日】2017-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】児島 千恵
(72)【発明者】
【氏名】松本 章一
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533210(JP,A)
【文献】特開2015-049101(JP,A)
【文献】特表2017-511883(JP,A)
【文献】特表2016-538569(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106872252(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106866876(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28- 1/44,
G01N 33/48-33/98,
A01N 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を固定剤で固定する前、若しくは固定している間、又は固定した後、該生体組織に水溶性エチレン性不飽和モノマーを浸潤させる工程であって、該水溶性エチレン性不飽和モノマーは、
アミド基とは異なるイオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーを少なくとも含む工程、
固定後の生体組織内で、前記水溶性エチレン性不飽和モノマーを重合させることによりヒドロゲルを形成する工程、及び
前記固定後の生体組織から脂質を除去する工程
を含んでなることを特徴とする生体組織の透明化方法。
【請求項2】
前記
アミド基とは異なるイオン性解離基がアニオン性解離基である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記
アミド基とは異なるイオン性解離基がスルホン酸基、カルボン酸
基又はリン酸基である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記
アミド基とは異なるイオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーが(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸及びそれらの塩から選択される請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記
アミド基とは異なるイオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーがスチレンスルホン酸、(メタ)アクリロキシベンゼンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、3-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-(メタ)アクリロキシ-1-プロパンスルホン酸及びその塩から選択される請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶性エチレン性不飽和モノマー中の前記
アミド基とは異なるイオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーの割合が少なくとも50モル%である請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶性エチレン性不飽和モノマーが(メタ)アクリルアミドベースのモノマーを含む請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
脂質の除去が受動拡散により行われる請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
生体組織に、請求項1~8のいずれか1項に記載の生体組織の透明化方法を適用することを特徴とする、透明化生体組織が包埋されたヒドロゲルの製造方法。
【請求項10】
生体組織透明化のため又は透明化生体組織が包埋されたヒドロゲルの製造ための、
アミド基とは異なるイオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーの使用。
【請求項11】
アミド基とは異なるイオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーを含む生体組織透明化試薬又はキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の透明化方法及びそのための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光イメージングは、生体内での生命現象や病気の診断の際の有用なツールの1つとして用いられているが、従来の手法では、組織(例えば薄切片)の表面付近の二次元イメージとして得られ、三次元イメージを得るのは難しい。
一般に、生体組織は主にタンパク質、脂質、核酸などで構成されているが、これらの物質はそれぞれ屈折率が異なるため、生体組織内で屈折率は不均一な状態となり、したがって生体組織を光が透過せず、生体組織内部をその表面から観察することは不可能となっている。
【0003】
そこで、生体組織全体の屈折率を、その主要構成成分であるタンパク質のものに近づけることにより生体組織内での光の散乱を抑制する結果として、生体組織を透明化する技術が開発されている。
Chungらによる「CLARITY」法は、光散乱及び屈折率不均一の主因である脂質を、タンパク質をポリアクリルアミドのヒドロゲルに固定した後に電気泳動により除去し、組織内の液体を、屈折率がタンパク質のものに近い溶液に置換することにより、組織を透明化する技術である(非特許文献1、特許文献1)。
【0004】
CLARITY法は、電気泳動による組織破壊が起き易いという問題があったため、電気泳動に代えて振盪により徐々に脂質を除去する方法が開発された(非特許文献2、特許文献1、2)。しかし、この方法では、組織破壊は起こり難い一方で、振盪による脂質の除去に長時間(2~3週間)を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-538569
【文献】特表2015-533210
【非特許文献】
【0006】
【文献】K. Chung et al. Nature 497(7449), 332-337 (2013)
【文献】R. Tomer et al. Nature Protocols, 9(7), 1682-1697 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
組織破壊を回避しつつ、組織の迅速な透明化を実現する技術に対する必要性が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、(1)生体組織を固定剤で固定する前、若しくは固定している間、又は固定した後、該生体組織に水溶性エチレン性不飽和モノマーを浸潤させる工程であって、該水溶性エチレン性不飽和モノマーは、イオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーを少なくとも含む工程、(2) 固定後の生体組織内で、前記水溶性エチレン性不飽和モノマーを重合させることによりヒドロゲルを形成する工程、及び(3)前記固定後の生体組織から脂質を除去する工程 を含んでなることを特徴とする生体組織の透明化方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、生体組織に上記の生体組織透明化法を適用することを特徴とする、透明化生体組織が包埋されたヒドロゲルの製造方法を提供する。
本発明はまた、生体組織透明化のため又は透明化生体組織が包埋されたヒドロゲルの製造ための、イオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーの使用を提供する。
更に、本発明は、イオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーを含む生体組織透明化試薬を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体組織の透明化を、組織破壊を回避しつつ従来より短時間で実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来の透明化法及び本発明におけるスチレンスルホン酸ナトリウムを用いた透明化法の1つの実施形態を適用した生体組織片(ガン組織)の写真を示す。いずれも受動拡散により脂質除去を行った。生体組織片は方眼ボード上に載置されている。
【
図2】従来の透明化法及び本発明におけるスチレンスルホン酸ナトリウムを用いた透明化法の別の1つの実施形態を適用した生体組織片(ガン組織)の写真を示す。いずれも受動拡散により脂質除去を行った。生体組織片は方眼ボード上に載置されている。
【
図3】イオン性解離基(スチレンスルホン酸ナトリウム)を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーを含んで構成されるヒドロゲルの膨潤率を示す。
【
図4】イオン性解離基(スチレンスルホン酸ナトリウム)を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーを含んで構成されるヒドロゲルの弾性率を示す。
【
図5】本発明における2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウムを用いた透明化法の1つの実施形態を適用した生体組織片(ガン組織)の写真を示す。受動拡散により脂質除去を行った。生体組織片は方眼ボード上に載置されている。
【
図6】本発明におけるアクリル酸を用いた透明化法の1つの実施形態を適用した生体組織片(ガン組織)の写真を示す。受動拡散により脂質除去を行った。生体組織片は方眼ボード上に載置されている。
【
図7】本発明におけるアクリル酸を用いた透明化法の別の1つの実施形態(AcA75)を適用した生体組織片(ガン組織)の写真を示す。
【
図8】本発明におけるアクリル酸を用いた透明化法の別の1つの実施形態(AcA75)を適用した生体組織片(ガン組織)を免疫染色した後の蛍光顕微鏡写真を示す。
【
図9】従来の透明化法(AA100)及び本発明の透明化法の1つの実施形態(AcA75)を適用した生体組織片(脳組織)の写真を示す。
【
図10】従来の透明化法(AA100)及び本発明の透明化法の1つの実施形態(AcA75)を適用したGFP発現マウス脳組織片の蛍光顕微鏡写真を示す。
【
図11】異なる重合時間で形成されたAA/AcA共重合ヒドロゲルの膨潤率を示す。
【
図12】本発明の透明化法の異なる実施形態(重合時間:3、6、12及び24時間)を適用した生体組織片(ガン組織)の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<生体組織透明化法>
本発明の生体組織透明化法は、(1)生体組織を固定剤で固定する前、若しくは固定している間、又は固定した後、該生体組織に水溶性エチレン性不飽和モノマーを浸潤させる工程であって、該水溶性エチレン性不飽和モノマーは、イオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーを少なくとも含む工程、(2)固定後の生体組織内で、前記水溶性エチレン性不飽和モノマーを重合させることによりヒドロゲルを形成する工程、及び、(3)前記固定後の生体組織から脂質を除去する工程 を含んでなることを特徴とする。
【0013】
本発明は、下記実施例で証明されるように、ヒドロゲルを構成するモノマー単位としてイオン性解離基を有するものを用いることにより、脂質除去(すなわち、透明化)が受動拡散で短時間に達成できるという知見に基づくものである。
本発明において、「透明化」とは、少なくとも一部の波長の光(例えば、可視光若しくはその一部、紫外光又は赤外光)に関して、透明化前と比較して、生体組織の光透過性(率)が高くなることをいう。
【0014】
「生体組織」は、生物に由来する組織/器官であれば、特に制限されず、組織/器官の全体であってもよいし、その一部分であってもよい。組織は生検組織又は剖検組織であり、健常な組織であってもよいし、疾患に伴うか又は疾患の原因である(例えば、組織化学的、生化学的、形態学的)異常又は変化を有する組織であってもよい。組織/器官が由来する生物は、限定されないが、好ましくは、哺乳類、鳥類、魚類、両生類、爬虫類などの動物であり、特に好ましくは哺乳動物である。組織は、本発明の透明化法に供される前に、蛍光標識抗体などを用いて染色/標識されていてもよく、透明化後に染色/標識されてもよい。
生体組織は、脳(全脳又は脳ブロック若しくは切片)であってもよいし、他の組織/器官であってもよい。
【0015】
(1)浸潤工程
この工程は、水溶性エチレン性不飽和モノマー(以下、単に「モノマー」とも呼ぶ)を生体組織に浸潤させる工程である。
組織に浸潤させる水溶性エチレン性不飽和モノマーは、少なくとも、イオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーを含む。ここで、「イオン性解離基」はアニオン性解離基であってもよいし、カチオン性解離基であってもよいが、好ましくはアニオン性解離基である。本発明において、「アニオン性解離基」及び「カチオン性解離基」とは、水中で、モノマーにおいてそれぞれアニオン及びカチオンを生じる基である。
【0016】
アニオン性解離基としては、水中でアニオンとなり得る限り特に限定されないが、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基などが挙げられ、好ましくはスルホン酸基及びカルボキシル基である。
スルホン酸基を有するモノマーの具体例は、例えば、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロキシベンゼンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、3-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-(メタ)アクリロキシ-1-プロパンスルホン酸、t-ブチルアクリルアミドスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロキシエチルスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロピルスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2-ジメチルエタンスルホン酸、(メタ)アクリル酸ブチル-4-スルホン酸及びそれらの塩などである。なかでも、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロキシベンゼンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、3-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-(メタ)アクリロキシ-1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びそれらの塩が好ましい。
【0017】
カルボキシル基を有するモノマーの具体例は、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸及びそれらの塩などである。
リン酸基を有するモノマーの具体例は、例えば、ビニルホスホン酸、メタアクリロオキシエチルホスフェート及びそれらの塩などである。
アニオン性解離基の塩は、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩)、アンモニウム塩などであり得る。
【0018】
カチオン性解離基としては、水中でカチオンとなり得る限り特に限定されないが、例えば、アミノ基及び四級アンモニウム基が挙げられる。
カチオン性解離基を有するモノマーの具体例は、例えば、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート及びそれらの塩などである
カチオン性解離基の塩は、塩酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩などであり得る。
【0019】
組織に浸潤させるモノマーは、イオン性解離基を有するモノマー以外の水溶性エチレン性不飽和モノマーを含んでいてもよい。そのような他のモノマーとしては、水溶液中で電気的に中性のモノマーであれば特に制限されないが、好ましくはアミノ基(特に一級アミノ基)を有するモノマーであり、例えば、(メタ)アクリルアミドベースのモノマーが挙げられる。
(メタ)アクリルアミドベースのモノマーの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどであり得る。なかでも、(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0020】
全モノマーに対するイオン性解離基を有するモノマーの割合は、脂質除去に要する時間を、イオン性解離基を有するモノマーを使用しない(従来)方法と比較して短縮し得る限り特に限定されないが、好ましくは少なくとも50モル%、より好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%である。
全モノマーに対するイオン性解離基を有するモノマーの割合の上限は、得られるヒドロゲルが脂質除去後に生体組織の構造を維持できる程度の強度を示す限り特に限定されず、100モル%であり得、また、例えば99モル%、95モル%、90モル%、85モル%であり得る。
よって、水溶性エチレン性不飽和モノマーは、50~100モル%のイオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーと、0~50モル%の上記のような他のモノマーを含んでいてもよい。
【0021】
水溶性エチレン性不飽和モノマーは、生体組織に溶液として接触させることにより、該生体組織に浸潤させる(以下、水溶性エチレン性不飽和モノマーの溶液を単に「モノマー溶液」とも呼ぶ)。
モノマー溶液の溶媒としては、生理食塩水又は緩衝化生理食塩水を用いることができる。緩衝液は、当該分野において公知のものから適宜選択できるが、例えば、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液などである(例えば、0.01~1M[好ましくは0.01~0.1M]、pH6~10[好ましくはpH7~9]のもの)。緩衝液は、必要に応じて、NaCl、界面活性剤(下記参照)及び/又は防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム)を含んでいてもよい。緩衝液の具体例としては、PBS、PBS-T、BB又はBB-Tが挙げられる。浸潤工程が灌流以外の方法により行われる場合には特に、モノマー溶液は非イオン性界面活性剤(下記参照;例えば、Tween 20、Triton X-100、サポニン)を含むことが好ましい。
溶液中のモノマーの濃度(質量/体積)は、特に制限されないが、例えば0.5%~10%、1%~8%、2%~6%であり得る。
溶液の調製は、重合反応の開始を防止するため、(例えば氷上で)低温下(例えば0~5℃)で行い、調製後も、溶液を低温にて保存することが好ましい。
【0022】
モノマー溶液は架橋剤を含んでいてもよい。
架橋剤としては、例えば、N,N'-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、メタクリル酸アリル、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルアミン、ポリエチレングリコールジ(β-アクリロイルオキシプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(β-アクリロイルオキシプロピオネート)、ポリ(メタ)アリロキシアルカンなどが挙げられる。なかでも、N,N'-メチレンビスアクリルアミド、メタクリル酸アリルが好ましく、N,N'-メチレンビスアクリルアミドがより好ましい。
架橋剤は、モノマー100質量部に対して、例えば0.1~10質量部、好ましくは0.5~5質量部、より好ましくは1~2質量部で使用することができる。或いは、架橋剤は、モノマー溶液中、例えば0.01~0.5%、好ましくは0.02~0.3%の濃度(質量/体積)で用いることができる。
【0023】
モノマー溶液は、効率的な重合反応のために、重合開始剤を含んでいてもよい。
重合開始剤としては、公知のもの(例えば、熱重合開始剤又は光重合開始剤)を用いることができるが、熱重合開始剤が好ましく、アゾ系重合開始剤がより好ましい。
重合開始剤の具体例は、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2'-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2'-アゾビス[2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン]ジハイドロクロリド、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチル]ハイドレート、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n-ハイドレート、過硫酸アンモニウム、ジ-tert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイルなどが挙げられる。好ましくは、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、過硫酸アンモニウム、より好ましくは2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライドである。
重合開始剤は、モノマー100質量部に対して、例えば10~60質量部、好ましくは20~40質量部とすることができる。或いは、重合開始剤は、モノマー溶液中、例えば0.01~1%、好ましくは0.05~0.5%、より好ましくは0.1~0.5%の濃度(質量/体積)で用いることができる。
【0024】
浸潤の方法は、モノマー溶液を生体組織に接触させることができるものであれば、特に制限されない。例えば、浸潤は、モノマー溶液を生体組織に塗布するか若しくは注入し、又は生体組織をモノマー溶液に浸漬させることにより行うことができる。
或いは、モノマー溶液を灌流(例えば心臓灌流)により生体組織に浸潤させてもよい。灌流速度は動物のサイズにより、例えば10~100ml/分であり得る。浸潤を灌流により行った場合には、動物から目的の生体組織を取り出した後、更に浸漬による浸潤を行なってもよい。
接触させる時間は、生体組織の大きさ及びモノマー溶液の組織浸透性を考慮して適宜決定できるが、例えば、15分間以上、30分間以上、1時間以上、6時間以上、12時間以上、1日間以上、2日間以上、3日間以上であり得る。上限は特に制限されないが、例えば最大1週間であり得る。
接触/浸潤に際するモノマー溶液の温度は、例えば0~10℃、好ましくは2~8℃、好ましくは2~5℃であり得る。浸潤が浸漬以外の方法による場合には、生体組織自体も低温(例えば、0~5℃)に維持することが好ましい。
【0025】
浸潤工程は、生体組織の固定の前、間及び/又は後に行なってもよい。
生体組織の固定には、当該分野で常用される固定剤を用いることができる。固定剤としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。なかでも、パラホルムアルデヒドが好ましい。固定剤の使用濃度(体積/体積)は、特に制限されないが、通常は50%以下、例えば1%~40%、好ましくは1%~20%、より好ましくは1%~10%、より好ましくは1%~5%であり得る。
浸潤工程を固定の間に行う場合には、モノマー溶液に固定剤を含ませることができる。この場合、固定後に、生体組織を更に、固定剤を含むか又は含まないモノマー溶液に(好ましくは浸漬により)接触させてもよい。
【0026】
(2)重合工程
この工程は、固定後の生体組織内で、モノマーを重合させることによりヒドロゲルを形成する工程である。
重合工程は、熱を付与するか及び/又は光若しくは放射線を照射することにより行うことができる。熱付与及び/又は照射の条件は、生体組織内のモノマーが重合してヒドロゲルを形成することができれば、特に限定されず、公知の条件から適宜採用することができる。例えば(特に、熱重合開始剤を用いる場合)、生体組織内での重合は、(好ましくはモノマー溶液中の)生体組織を恒温槽又は温水浴槽内に置くことにより行うことができる。
温度は、例えば25~60℃、好ましくは30~50℃、より好ましくは35~40℃であり得る。
【0027】
重合時間は特に限定されず、重合反応によるヒドロゲルの形成が完了するまでであるが、通常15分間~48時間であり、例えば1時間~48時間、好ましくは2時間~36時間、より好ましくは3時間~24時間であり得る。
生体組織をモノマー溶液中に維持したままで重合工程を行う場合には特に、重合反応を促進するため、重合工程の前に、モノマー溶液に不活性ガス(例えば窒素)を通気してモノマー溶液中の(重合反応を阻害し得る)酸素を除去してもよい。或いは、重合工程の前に、真空又は減圧下で、モノマー溶液及び生体組織から酸素を除去してもよく、更に重合工程を不活性ガス雰囲気下で行なってもよい。また、重合工程の間、モノマー溶液を振盪させてもよい。なお、モノマー溶液中の溶存酸素の除去は、浸潤工程の前に行っていてもよい。
【0028】
(3)脂質除去工程
この工程は、生体組織から(主に)脂質を除去する工程である。
脂質は生体組織中に比較的多く存在し、その屈折率はタンパク質のものと異なっており、また不溶性の脂質は光を散乱させるため、脂質の除去は光散乱を抑制すると共に、生体組織の屈折率を均一に近づけ(すなわち、タンパク質の屈折率に近づけ)、生体組織の透明化をもたらす。よって、本工程は「透明化工程」とも呼べる。なお、本工程の間に、脂質以外の構成成分(タンパク質を除く)も生体組織から除去されることを排除するものではない。
脂質除去の前に、生体組織から余分なヒドロゲルを除去してもよい。
脂質の除去は界面活性剤を用いて行われる。界面活性剤は、例えば0.5~30%、好ましくは1~15%、より好ましくは2~10%、より好ましくは2~8%(質量/体積)の溶液として用いることができる。界面活性剤の溶解には緩衝液を用いてもよい。緩衝液としては上記のものを用い得るが、ホウ酸緩衝液は殺菌作用を有するため好ましい。緩衝液のpHは7~9であることが好ましい。緩衝液の具体例は、0.1~1Mホウ酸緩衝液(pH8~9)及び0.01~0.1M PBS(pH7.4~8.5)であり得る。
界面活性剤は、イオン性界面活性剤であってもよく、非イオン性界面活性剤であってもよいが、イオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0029】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、サポニン、ジギトニン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどが挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸ナトリウム(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、アルキルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、胆汁酸塩(例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム)、N-ラウリルサルコシンなどが挙げられる。なかでも、ラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル四級化アンモニウムなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート(CHAPS)などが挙げられる。
【0030】
脂質の除去は、例えば、受動拡散により行うことができる。ここで、「受動拡散」とは、電気泳動のような能動的(強制的)に物質を移動させる技法を用いない物質の拡散をいう。具体的には、受動拡散は、例えば、生体組織を、界面活性剤を含む緩衝液(例えば、0.01~1M、pH6~10)中で、(好ましくは振盪させながら)インキュベートすることにより行うことができる。インキュベーション温度は、例えば室温、又は25~50℃、好ましくは30~50℃、より好ましくは35~45℃であり得る。インキュベーション時間は、生体組織の大きさ応じて適宜決定することがであるが、例えば、従来の方法によれば2週間以上を要していたものが、本発明の方法によれば、例えば12日間以下、好ましくは10日間以下、より好ましくは8日間以下、より好ましくは7日間以下であり得る。よって、インキュベーション時間は例えば4~12日間であり得、更に3~12日間であり得、更には2~12日間であり得、尚更には1~12日間であり得る。
【0031】
或いは、脂質の除去は、イオン性界面活性剤(好ましくはアニオン性界面活性剤、特にはラウリル硫酸ナトリウム)を用いて電気泳動により行なわれてもよい。
電気泳動は、例えば、10~60Vの直流電圧を用いて、20~60℃にて行う。電気泳動を行う期間は、従来の方法によれば3~5日間を要していたが、本発明の方法によれば、例えば2時間~3日間、好ましくは12時間~2日間であり得る。よって、本発明の方法によれば、電気泳動で脂質除去を行う場合、組織破壊を抑制することができる。
電気泳動の前に、用いるイオン性界面活性剤を含む緩衝液で生体組織を1回又は数回(例えば2~3回)洗浄して、残留する固定剤や未反応のモノマーなどを除去してもよい。
【0032】
脂質除去工程の間、界面活性剤を含む緩衝液を、随時(例えば12~24時間ごとに)又は常時、新鮮なものに交換してもよい。
脂質除去工程でイオン性界面活性剤を用いた場合には、その除去のために、生体組織を更に非イオン性界面活性剤とインキュベートすることが好ましい。この場合、非イオン性界面活性剤の濃度(体積/体積)は例えば0.01~1%であり得る。非イオン性界面活性剤を含む緩衝液の具体例は、BB-T又はPBS-Tである。また、脂質除去工程で非イオン性界面活性剤を用いた場合又は脂質除去工程後に非イオン性界面活性剤とのインキュベーションを行った場合には、その除去のために、生体組織を、界面活性剤を含まない緩衝液とインキュベートしてもよい。インキュベーションの条件は、例えば、30~40℃にて12時間~2日間であり得る。インキュベーションは振盪させながら行なってもよい。
【0033】
(4)更なる透明化工程
脂質の除去により透明化を達成できるが、更なる透明化のために、生体組織内の溶媒(ほとんどの場合、緩衝液などの溶媒である水)を、脂質を除去した生体組織の屈折率(ほとんどの場合、タンパク質の屈折率に近似する値[1.4~1.5、特に1.45~1.5])と一致するか又はこれに近似する屈折率を有する溶液(以下、「屈折率均一溶液」又は「屈折率適合溶液」とも呼ぶ)に置換してもよい。そのような物質としては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、90%のPEG400溶液)、グリセロール(例えば、20~90%のグリセロール溶液、75%グリセロール+20~40%グルコース混合溶液)、スクロース(例えば、75%スクロース溶液)、フルクトース、ポリビニルピロリドン、FocusClear(登録商標)(CelExplorer Labs)、80~90%(質量/体積)のHistodenz(登録商標)(SigmaAldrich)などが挙げられる。
置換は、例えば、生体組織を前記溶液と、30~40℃にてインキュベートすることにより行うことができる。インキュベーションの時間は、所望する更なる透明化を達成するまでであるが、例えば、(組織の大きさに応じて)10分間~3日間であり得る。
なお、透明化した生体組織は、(好ましくは防腐剤を含む)緩衝液中に保存することができる。
【0034】
<生体組織透明化試薬/キット>
本発明の生体組織透明化試薬は、イオン性解離基を有する水溶性エチレン性不飽和モノマーを含むことを特徴とする。
イオン性解離基を有するモノマーは、<生体組織透明化法>の項に記載したようなモノマーである。
本発明の試薬は、イオン性解離基を有するモノマー以外の水溶性エチレン性不飽和モノマーを含んでいてもよい。そのような他のモノマーとしては、<生体組織透明化法>の項に記載したような他のモノマーである。1つの具体的実施形態において、本発明の試薬は、イオン性解離基を有するモノマーと(メタ)アクリルアミドベースのモノマーとを含む。
【0035】
本発明の試薬はまた、架橋剤及び/又は重合開始剤を更に含んでいてもよい。架橋剤及び重合開始剤としては、<生体組織透明化法>の項に記載した架橋剤及び重合開始剤が挙げられる。1つの具体的実施形態において、本発明の試薬は、イオン性解離基を有するモノマーと(メタ)アクリルアミドベースのモノマーと架橋剤及び/又は重合剤を含む。1つの特定の実施形態において、本発明の試薬は、スチレンスルホン酸又はその塩のモノマーとアクリルアミドモノマーとメチレンビスアクリルアミドとを含む。
本発明の試薬において、イオン性解離基を有するモノマーと、他のモノマー、任意に架橋剤及び/又は重合剤の比率は、<生体組織透明化法>の項に記載した比率を実現できるものであり得る。
【0036】
本発明の試薬は、凍結状態の溶液として提供されてもよい。
本発明の試薬がイオン性解離基を有するモノマーと、他のモノマー、任意に架橋剤及び/又は重合剤を含む場合、それらは各々が異なる容器内に提供されてもよい(この実施形態は、「(試薬)キット」とも表現できる)。
本発明の試薬/キットは、モノマー等の溶解用の緩衝液を含んでいてもよい。緩衝液としては、<生体組織透明化法>の項に記載したものが挙げられる。
本発明の試薬/キットは、タンパク質固定剤を含んでいてもよい。固定剤としては、<生体組織透明化法>の項に記載したものが挙げられる。
本発明の試薬/キットは、屈折率適合溶液を含んでいてもよい。そのような溶液としては、<生体組織透明化法>の項に記載したものが挙げられる。
本発明の生体組織透明化試薬は、上記の生体組織透明化法における使用に適する。
【0037】
<組織包埋ヒドロゲルの製造方法>
本発明の製造方法は、生体組織に上記の生体組織透明化法を適用することを特徴とする。本発明の製造方法によれば、透明化生体組織を従来法より短時間に作製することができ、特に、脂質除去工程を受動拡散により行う場合、組織破壊を回避することができることに加えて、コストも低く抑えることができる。
本発明の製造方法により製造された生体組織は、研究用若しくは学習用又は本発明の組織透明化法若しくは試薬の宣伝用のサンプル標本として用いることができる。
【実施例】
【0038】
試薬
本実施例では、下記の試薬を用いた
タンパク質固定剤として、パラホルムアルデヒド(ナカライテスク);モノマーとして、アクリルアミド(AA;ナカライテスク)、p-スチレンスルホン酸ナトリウム(SS;東京化成工業)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(AMPS;シグマアルドリッチ)、アクリル酸(AcA;ナカライテスク);架橋剤として、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(bisAA;東京化成工業);低温型水溶性重合開始剤として、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダソリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド(VA-044;和光純薬工業);10×PBS溶液の試薬として、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム及び塩化カリウム(以上、和光純薬工業);脂質除去用溶液の界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム(ナカライテスク);脂質除去用溶液中の殺菌剤として、ホウ酸(ナカライテスク);屈折率均一溶液として、エチレングリコール(ナカライテスク);イオン性界面活性剤除去用の試薬として、Triton X-100(東京化成工業);免疫染色用の試薬としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20;ナカライテスク);Monoclonal Anti-Actin,α- Smooth Muscle-FITC antibody produced in mouse, clone 1A4 (Sigma-Aldrich)。
【0039】
生体組織の透明化(1)
透明化手順
1.モノマー溶液の調製
固定剤を含むモノマー溶液を次のとおり調製した。
モル比AA/SS=100/0及び25/75のモノマー2.0g(最終濃度4.0 wt/vol%)とbisAA(最終濃度0.050 wt/vol%)と重合開始剤(VA-044;最終濃度0.25 wt/vol%)とパラホルムアルデヒド(最終濃度4.0 wt/vol%)とを1×PBS溶液(pH7.4)50mlに溶解した。
2.生体組織内へのモノマーの浸透(「浸潤工程」)
50mlコニカルチューブ内で、各モノマー溶液に生体組織片(ガン組織;1cm×1.5cm×0.5cm)を4℃にて1日浸漬することにより、生体組織片にモノマー溶液を浸透させた。
3.モノマーの重合(「重合工程」)
次いで、コニカルチューブを37℃の恒温槽内に置くことにより、生体組織内に浸潤したモノマーの重合反応を開始させ、24時間の重合反応を行った。
4.脂質の除去(「脂質除去工程」又は「透明化工程」)
各生体組織片を、4%(wt/vol)のラウリル硫酸ナトリウムを含む0.8Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で、インキュベーター(BIO-CHAMBER BCP 120-F;タイテック)及び小型振盪機ロータリーシェーカー(NR-2;タイテック)を用いて、振盪させながら37℃にてインキュベートした。
5.界面活性剤の除去
生体組織片を、0.1体積%のTriton X-100を含む0.1Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で振盪させながら37℃にて1日間インキュベートした。
6.組織内の溶媒置換(屈折率均一溶液への置換)
生体組織片を、エチレングリコール中で室温にて1時間インキュベートした。
【0040】
結果
脂質除去の前及び間(4及び8日間並びにAA/SS=100/0についてのみ更に32及び65日間のインキュベーション後)並びに溶媒置換後の生体組織片を
図1に示す。図において、生体組織片は1cm角の方眼ボード上に載せられている。
図から明らかなように、脂質除去の前は、いずれのモノマー溶液を用いても、生体組織片は不透明であったが、モル比AA/SS=25/75のモノマーでヒドロゲルを形成した生体組織は、8日間の脂質除去後に透明化した。一方、モル比AA/SS=100/0のモノマーでヒドロゲルを形成した生体組織は、32日間の脂質除去後も不透明なままであった。
モル比AA/SS=25/75のモノマーでヒドロゲルを形成した生体組織は、8日間の脂質除去後に、組織中の溶媒をエチレングリコールに置換すると、完全に透明化した。
【0041】
生体組織の透明化(2)
透明化手順
1.モノマー溶液の調製
固定剤を含むモノマー溶液を次のとおり調製した。
モル比AA/SS=100/0及び20/80のモノマー0.4g(最終濃度4.0 wt/vol%)とbisAA(最終濃度0.050 wt/vol%)と重合開始剤(VA-044;最終濃度0.25 wt/vol%)とパラホルムアルデヒド(最終濃度4.0 wt/vol%)とを1×PBS溶液(pH7.4) 10mLに溶解した。
2.生体組織内へのモノマーの浸透(「浸潤工程」)
50mlコニカルチューブ内で、各モノマー溶液に生体組織片(ガン組織;約0.5cm×0.5cm×0.075cm)を4℃にて1日浸漬することにより、生体組織片にモノマー溶液を浸透させた。
3.モノマーの重合(「重合工程」)
次いで、コニカルチューブを37℃の恒温槽内に置くことにより、生体組織内に浸潤したモノマーの重合反応を開始させ、24時間の重合反応を行った。
4.脂質の除去(「脂質除去工程」又は「透明化工程」)
各生体組織片を、4%(wt/vol)のラウリル硫酸ナトリウムを含む0.8Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で、インキュベーター(BIO-CHAMBER BCP 120-F;タイテック)及び小型振盪機ロータリーシェーカー(NR-2;タイテック)を用いて、振盪させながら37℃にてインキュベートした。
5.界面活性剤の除去
生体組織片を、0.1体積%のTriton X-100を含む0.1Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で振盪させながら37℃にて2日間インキュベートした。
6.組織内の溶媒置換(屈折率均一溶液への置換)
生体組織片を、エチレングリコール中で室温にて10分間インキュベートした。
【0042】
脂質除去の前及び間(1、2、3、6、7及び14日間のインキュベーション後)並びに溶媒置換後の生体組織片を
図2に示す。図において、生体組織片は1cm角の方眼ボード上に載せられている。
図2から明らかなように、モル比AA/SS=20/80のモノマーでヒドロゲルを形成した生体組織は、1~2日間の脂質除去後に透明化し始め、6~7日間の脂質除去後までに十分に透明化した。一方、モル比AA/SS=100/0のモノマーでヒドロゲルを形成した生体組織は、6日間の脂質除去後にようやく僅かに透明化し始めたように見える。
14日間の脂質除去後に組織中の溶媒をエチレングリコールに置換すると、いずれの組成比のモノマーでヒドロゲルを形成した生体組織も完全に透明化した。
【0043】
AA/SS共重合体(架橋剤なし)の物性評価
モル比AA/SS=100/0、75/25、50/50、25/75及び0/100のモノマー2.0g(最終濃度4.0 wt/vol%)を1×PBS溶液に溶解してモノマー溶液を調製した。溶存酸素を除去するため、各モノマー溶液に対して窒素バブリングを氷冷下で5分間行った後、重合開始剤(VA-044;0.25 wt/vol%)を加え、重合管内で37℃にて24時間重合させた。
得られたポリマー溶液を、50mlナスフラスコ中で16時間凍結乾燥させた(EYELA FDU-1200;東京理化)。その後、凍結乾燥ポリマーを蒸留水15mlに溶かし、50℃のメタノール150mlを貧溶媒として沈殿操作を行った後、ポリマーとメタノールをメンブレンフィルターを用いて分離させた。次いで、60℃のエタノールを用いる沈殿操作及びメンブレンフィルターによる分離操作を2回行った。最後に、真空乾燥によりエタノールを除去してポリマーを精製した。
【0044】
ポリマー約30mgを約0.7mlの重水に溶かしたサンプルについて、核磁気共鳴装置(ECS-400及びECX-400;日本電子)を用いて1H NMRスペクトルを測定した。
また、ポリマーの数平均分子量及び分子量分布を、ゲル浸透クロマトグラフ装置(co-2060,UV-2075Plus,RI-2031Plus及びPU-2080Plus;日本分光)を用いて測定した。カラムとしてTSKgel PWXL-CPを、展開溶媒としてリン酸塩(Na2HPO4,NaH2PO4)緩衝液(pH6.8)を用い、流量0.5ml/分、温度25℃の条件で測定した。較正には標準物質としてPEOを用いた。
ポリマーの10 wt/wt%エチレングリコール溶液を調製し、屈折率を多波長アッベ屈折計(DR-M2;アタゴ)を用いて21℃にて測定した。
【0045】
結果
モル比AA/SS=100/0、75/25、50/50、25/75及び0/100のモノマーから得られた5種類のポリマーについて、ポリマー中の組成比(モル%)、収率、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)及び屈折率を表1に示す。
ポリマー中の組成比は、用いたモノマーの組成比とほぼ一致していた。このことから、SSは、得られる共重合体中に、用いた組成比に一致して取り込まれたことを示す。
SSの組成比が大きくなるにつれ、数平均分子量は小さくなった一方、屈折率は僅かに上昇した。
【0046】
【0047】
AA/SS共重合ヒドロゲルの物性評価
モノマー溶液を次のとおり調製した。
モル比AA/SS=100/0、75/25、50/50、25/75、15/85及び0/100のモノマー2.0g(最終濃度4.0 wt/vol%)とbisAA(最終濃度0.050 wt/vol%)とを1×PBS溶液に溶解した。
次いで、溶存酸素を除去するため、各モノマー溶液に対して窒素バブリングを氷冷下で5分間行った後、重合開始剤(VA-044;最終濃度0.25 wt/vol%)を加えた。
その後、モノマー溶液を100mlビーカーに入れてラップで覆い、37℃の恒温槽内に24時間置いてヒドロゲルを形成させた。
得られたヒドロゲルを蒸留水に48時間浸漬して洗浄した。
【0048】
膨張率の測定
洗浄したヒドロゲルから切り出した一部分を秤量後、36時間凍結乾燥させ(EYELA FDU-1200;東京理化)、再度秤量した。乾燥前後の質量から、水についての膨潤率を下記式により算出した:
膨潤率(%)=([湿潤質量]-[乾燥質量])/[乾燥質量]×100
ゲル弾性率の測定
サンプル載置用プレートが2枚とも平行円盤形であるレオロジー特性評価装置(HAAKE MARS III;英弘精機)を用いて、ヒドロゲルの動的粘弾性を測定した。測定条件は次のとおりであった:温度:37℃;周波数ω:1rad/秒;ヒドロゲルの厚さ:5mm。
正弦歪みγ(%)に対する応力σ(Pa)及び貯蔵弾性率G'(Pa)を求めた。G'は、応力のノイズが生じなかった1~10%の歪みの範囲内で算出したものの平均値とした。
【0049】
結果
ヒドロゲルの膨潤率及び弾性率の測定結果をそれぞれ
図3と
図4に示す。
膨潤率は、SSの組成比(モル比)が大きくなるにつれ増加し、調べたモル比のうちではAA/SS=75/25のものの膨潤率が最も大きくなった。
一方、弾性率は、SSの組成比(モル比)が大きくなるにつれ減少し、モル比AA/SS=25/75のゲルで最も小さかった。
これらの結果から、SSの組成比(モル比)が大きくなるにつれ、形成されるヒドロゲルのゲルの網目が大きくなることが理解できる。これは、ヒドロゲル中のイオン(この場合、スルホン酸イオン)同士の電荷反発によるものと考えられる。
なお、モル比15/85及び0/100については、用いた濃度(0.050 wt/vol%)の架橋剤では、脂質除去後に生体組織の構造を維持するために必要な程度の強度を有するヒドロゲルは得られなかった。
【0050】
生体組織の透明化(3)
透明化手順
1.モノマー溶液の調製
固定剤を含むモノマー溶液を次のとおり調製した。
モル比AA/AMPS=10/90のモノマー0.4g(最終濃度4.0 wt/vol%)とbisAA(最終濃度0.050wt/vol%)と重合開始剤(VA-044;最終濃度0.25 wt/vol%)とパラホルムアルデヒド(最終濃度4.0 wt/vol%)とを1×PBS溶液(pH7.4)10mLに溶解した。
2.生体組織内へのモノマーの浸透(「浸潤工程」)
50mlコニカルチューブ内で、各モノマー溶液に生体組織片(ガン組織;約0.4cm×0.5cm×0.07~0.08cm)を4℃にて1日浸漬することにより、生体組織片にモノマー溶液を浸透させた。
3.モノマーの重合(「重合工程」)
次いで、コニカルチューブを37℃の恒温槽内に置くことにより、生体組織内に浸潤したモノマーの重合反応を開始させ、24時間の重合反応を行った。
4.脂質の除去(「脂質除去工程」又は「透明化工程」)
各生体組織片を、4%(wt/vol)のラウリル硫酸ナトリウムを含む0.8Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で、インキュベーター(BIO-CHAMBER BCP 120-F;タイテック)及び小型振盪機ロータリーシェーカー(NR-2;タイテック)を用いて、振盪させながら37℃にてインキュベートした。
5.界面活性剤の除去
生体組織片を、0.1体積%のTriton X-100を含む0.1Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で振盪させながら37℃にて2日間インキュベートした。
【0051】
結果
脂質除去の前及び間(1及び3日間のインキュベーション後)を
図5に示す。図において、生体組織片は1cm角の方眼ボード上に載せられている。
図5から明らかなように、モル比AA/AMPS=10/90のモノマーでヒドロゲルを形成した生体組織は、1~3日間の脂質除去後に透明化し始めた。なお、モル比0/100については、用いた濃度(0.050 wt/vol%)の架橋剤では、脂質除去後に生体組織の構造を維持するために必要な程度の強度を有するヒドロゲルは得られなかった。
【0052】
生体組織の透明化(4)
透明化手順
1.モノマー溶液の調製
固定剤を含むモノマー溶液を次のとおり調製した。
アクリル酸のモノマー0.4g(最終濃度4.0 wt/vol%)とbisAA(最終濃度0.050 wt/vol%)と重合開始剤(VA-044;最終濃度0.25 wt/vol%)とパラホルムアルデヒド(最終濃度4.0 wt/vol%)とを1×PBS溶液(pH7.4)10mLに溶解した。
2.生体組織内へのモノマーの浸透(「浸潤工程」)
50mlコニカルチューブ内で、各モノマー溶液に生体組織片(ガン組織;約0.5cm×0.5cm×0.07~0.08cm)を4℃にて1日浸漬することにより、生体組織片にモノマー溶液を浸透させた。
3.モノマーの重合(「重合工程」)
次いで、コニカルチューブを37℃の恒温槽内に置くことにより、生体組織内に浸潤したモノマーの重合反応を開始させ、24時間の重合反応を行った。
4.脂質の除去(「脂質除去工程」又は「透明化工程」)
各生体組織片を、4%(wt/vol)のラウリル硫酸ナトリウムを含む0.8Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で、インキュベーター(BIO-CHAMBER BCP 120-F;タイテック)及び小型振盪機ロータリーシェーカー(NR-2;タイテック)を用いて、振盪させながら37℃にてインキュベートした。
5.界面活性剤の除去
生体組織片を、0.1体積%のTriton X-100を含む0.1Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で振盪させながら37℃にて2日間インキュベートした。
【0053】
結果
脂質除去の前及び間(1及び3日間のインキュベーション後)を
図6に示す。図において、生体組織片は1cm角の方眼ボード上に載せられている。
図6から明らかなように、アクリル酸でヒドロゲルを形成した生体組織は、1~3日間の脂質除去後に透明化し始めた。
【0054】
生体組織の透明化(5)
透明化手順
1.モノマー溶液の調製
固定剤を含むモノマー溶液を次のとおり調製した。
モル比AA/AcA=25/75のモノマー(最終濃度0.56M)とbisAA(最終濃度0.050 wt/vol%)と重合開始剤(VA-044;最終濃度1.25 wt/vol%)とパラホルムアルデヒド(最終濃度4.0 wt/vol%)とを1×PBS溶液(pH7.4)10mLに溶解した。
2.生体組織内へのモノマーの浸透(「浸潤工程」)
50mlコニカルチューブ内で、各モノマー溶液に生体組織片(ガン組織;約0.4cm×0.5cm×0.07cm)を4℃にて1日浸漬することにより、生体組織片にモノマー溶液を浸透させた。
3.モノマーの重合(「重合工程」)
次いで、コニカルチューブを37℃の恒温槽内に置くことにより、生体組織内に浸潤したモノマーの重合反応を開始させ、24時間の重合反応を行った。
4.脂質の除去(「脂質除去工程」又は「透明化工程」)
各生体組織片を、4%(wt/vol)のラウリル硫酸ナトリウムを含む0.8Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で、インキュベーター(BIO-CHAMBER BCP 120-F;タイテック)及び小型振盪機ロータリーシェーカー(NR-2;タイテック)を用いて、振盪させながら37℃にてインキュベートした。この操作は1日間又は3日間行った。
5.界面活性剤の除去
生体組織片を、0.1体積%のTriton X-100を含む0.1Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で振盪させながら37℃にて2日間インキュベートした。
6.組織内の溶媒置換(屈折率均一溶液への置換)
ラウリル硫酸ナトリウムを除去した組織片をエチレングリコール(屈折率1.42)に1時間浸漬させ、組織内の溶媒と置換を行った。
エチレングリコール置換後の組織片を1cm角の方眼ボードを用いて目視により透明性を評価した。
【0055】
結果
脂質除去の前及び間(1及び3日間の実施)及びエチレングリコール置換後のガン組織を
図7に示す。
図7から明らかなように、モル比AA/AcA=25/75のモノマーでヒドロゲルを形成した生体組織は、1日間の脂質除去後に透明化し始め、3日後にはより透明度が向上した。また、エチレングリコール置換によって、さらに透明度が向上した。この結果より、本発明の方法において、アクリル酸(AcA)モノマーは、アクリルアミド(AA)モノマーとの組合せで使用できる(すなわち、生体組織内でAA/AcA共重合体ゲルを形成させてもよい)ことが確認できた。
【0056】
生体組織の透明化(6)
1.モノマー溶液の調製
固定剤を含むモノマー溶液を次のとおり調製した。
AAのみ、もしくはモル比AA/AcA=25/75のモノマー(最終濃度0.56M)とbisAA(最終濃度0.050 wt/vol%)と重合開始剤(VA-044;最終濃度1.25 wt/vol%)とパラホルムアルデヒド(最終濃度4.0 wt/vol%)とを1×PBS溶液(pH7.4)10mLに溶解した。
2.生体組織内へのモノマーの浸透(「浸潤工程」)
50mlコニカルチューブ内で、各モノマー溶液に生体組織片(ガン組織;約0.4cm×0.5cm×0.07cm)を4℃にて1日浸漬することにより、生体組織片にモノマー溶液を浸透させた。
3.モノマーの重合(「重合工程」)
次いで、コニカルチューブを37℃の恒温槽内に置くことにより、生体組織内に浸潤したモノマーの重合反応を開始させ、24時間の重合反応を行った。
4.脂質の除去(「脂質除去工程」又は「透明化工程」)
生体組織片を、4%(wt/vol)のラウリル硫酸ナトリウムを含む0.8Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で、インキュベーター(BIO-CHAMBER BCP 120-F;タイテック)及び小型振盪機ロータリーシェーカー(NR-2;タイテック)を用いて、振盪させながら37℃にてインキュベートした。この操作を3日間行った。
5.界面活性剤の除去
生体組織片を、0.1体積%のTriton X-100を含む0.1Mホウ酸バッファー(pH8.5)30ml中で振盪させながら37℃にて1日間インキュベートした。
6.蛍光免疫染色
PBS溶液にTween20(0.050 wt%)を加えたPBST溶液(30 ml)に組織片を入れて1時間振蕩させた。
その後、PBST溶液で1:100に希釈した蛍光標識抗体(Monoclonal Anti-Actin,α- Smooth Muscle(αSMA抗体)-FITC antibody)溶液に組織片を入れ、37℃で1日振蕩しながらインキュベートした。
次いで、組織片を50 ml PBS溶液に入れて振蕩しながら合計1日洗浄した。この間、PBS溶液を4回交換した。
7.組織内の溶媒置換(屈折率均一溶液への置換)
各組織片をエチレングリコールに1時間浸漬した後、研究用倒立顕微鏡Ti-U (Nikon)を用いて蛍光観察を行った。
【0057】
結果
免疫染色したガン組織の顕微鏡像を
図8に示す。αSMA抗体は血管内皮細胞を染色することが知られている。AAのみ及びAcA75のいずれの組織からもαSMA抗体からの蛍光が観察された。
【0058】
生体組織の透明化(7)
3mm×2mm×1mmのGFP発現マウス脳組織片について、上記「生体組織の透明化(5)」に記載したものと同様の手順により透明化試験を行った。なお、脂質除去の操作は3日間実施した。
また、比較例として、上記方法においてAA/AcA=25/75のモノマーをモル比AA/AcA=100/0のモノマーに置換した従来法による透明化試験も行った。
脂質除去の前及び後並びにエチレングリコール置換後の脳組織(1cm角の方眼ボード上)を
図9に示す。脳組織では、透明化が進行し易いため、透明度は従来法(「AA100」)と本発明の方法(「AcA75」)とで同程度であった。
次に、エチレングリコール置換後のGFP含有組織片を細胞培養用のシャーレに置き、倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス,IX-71)を用いてGFPの蛍光を観察した(
図10)。
本発明の方法により透明化した組織(「AcA75」)において、従来法により透明化した組織(「AA100」)と同程度の蛍光強度が見られ、蛍光イメージングできることが確認できた。
【0059】
AA/AcA共重合ヒドロゲルの物性評価
モノマー溶液を、モル比AA/AcA=25/75のモノマー(最終濃度:0.56 M)とbisAA(最終濃度0.050 wt%)を含む10 mL PBS溶液(pH 7.4)として調製した。
次いで、溶存酸素を除去するため、各モノマー溶液に対して窒素バブリングを氷冷下で5分間行った後、重合開始剤(VA-044;最終濃度0.25 wt/vol%)を加えた。
その後、モノマー溶液を100mlビーカーに入れてラップで覆い、37℃にて3、6及び12時間重合を行ってヒドロゲルを形成させた。
得られたヒドロゲルを蒸留水に48時間浸漬して洗浄した。
洗浄したヒドロゲルから切り出した一部分を秤量後、36時間凍結乾燥させ(EYELA FDU-1200;東京理化)、再度秤量した。乾燥前後の質量から、水についての膨潤率を下記式により算出した:
膨潤率(%)=([湿潤質量]-[乾燥質量])/[乾燥質量]×100
AA/AcA共重合ヒドロゲル(AA/AcA=25/75)の膨潤率の測定結果を
図11に示す。図に示すように、AA/AcA共重合ヒドロゲルの膨潤率は12時間まで増大し、それ以降は一定となった。
【0060】
生体組織の透明化(8)
ガン組織片について、重合反応を3、6、12又は24時間行い、脂質除去の操作を3日間実施したこと以外は上記「生体組織の透明化(5)」に記載したものと同様の手順により透明化試験を行った。
脂質除去前、3日間の脂質除去後及びエチレングリコール置換後のガン組織を
図12に示す。この結果より、12時間の重合で24時間後と同程度の透明化を達成し得ることが確認できた。
【0061】
上記の結果から明らかなとおり、ヒドロゲルを構成するモノマー単位としてイオン性解離基を有するものを用いることにより、透明化が短時間に達成でき、透明化した組織の免疫染色や蛍光蛋白質の観察も可能である。
本発明の方法による迅速な透明化は、ヒドロゲル中のイオン性解離基が電荷反発して、ゲルの網目が大きくなることに起因するものと考えられる。また、共重合体の高い屈折率が影響している可能性もある。