(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーンゲル組成物、熱伝導性部材および放熱構造体
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20221018BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20221018BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221018BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20221018BHJP
C08K 5/3467 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/013
C08K5/5419
C08K5/3467
(21)【出願番号】P 2019532496
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2018026226
(87)【国際公開番号】W WO2019021824
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2017142709
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】太田 健治
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-327116(JP,A)
【文献】特開2009-209230(JP,A)
【文献】特表2014-503680(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140020(WO,A1)
【文献】特開2017-43717(JP,A)
【文献】特開2015-119173(JP,A)
【文献】特開2000-1616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L83/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)25℃における粘度が10~100,000mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)25℃における粘度が1~1,000mPa・sであり、分子内に平均して2~3個のケイ素原子結合水素原子を含有し、そのうち、少なくとも2個を分子鎖側鎖に有する直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであって、分子内のケイ素原子結合水素原子を平均して4個を超える数含む分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子内のケイ素原子結合水素原子を平均して4個を超える数含む分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサ
ン、またはメチルハイドロジェンシロキシ基含有シロキサンレジン 組成物中の成分(B)中のケイ素原子結合水素原子([H
B])と、成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子の含有量([H
non-B])について、[H
non-B]/ ([H
B]+[H
non-B])の値が0.0~0.70の範囲となる量(ただし、0.0を除く):成分(A)に含まれるアルケニル基1モルに対して、成分(B)および成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子が0.2~5モルとなる量、
(C)触媒量のヒドロシリル化反応用触媒、
(D)熱伝導性充填剤 400~3,500質量部、
(E)分子内に炭素原子数6以上のアルキル基を有するアルコキシシラン 前記の成分(D)に対して0.1~2.0質量%となる量、および
(F)耐熱性付与剤としてのフタロシアニン化合物 組成物全体の0.01~5.0質量%となる量
を含有してなる、熱伝導性シリコーンゲル組成物。
【請求項2】
前記の成分(E)が、下記構造式:
YnSi(OR)4-n
(式中、Yは炭素原子数6~18のアルキル基であり、Rは炭素原子数1~5のアルキル基であり、nは1または2の数である)
で表されるアルコキシシランである、請求項1の熱伝導性シリコーンゲル組成物。
【請求項3】
前記の成分(E)が、炭素原子数6~18のアルキル基を有するトリアルコキシシランである、請求項1または請求項2の熱伝導性シリコーンゲル組成物。
【請求項4】
前記の成分(D)が、成分(E)により表面処理されていることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーンゲル組成物。
【請求項5】
前記の成分(D)が、(D1)平均粒径が0.1~30μmである板状の窒化ホウ素粉末、(D2)平均粒径が0.1~50μmである顆粒状の窒化ホウ素粉末、(D3)平均粒径が0.01~50μmである球状及び/若しくは破砕状の酸化アルミニウム粉末、又は(D4)平均粒径が0.01~50μmであるグラファイト、或いはこれらの2種類以上の混合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーンゲル組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーンゲル組成物からなる熱伝導性部材。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーンゲル組成物を硬化させてなる熱伝導性部材。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の熱伝導性部材を備えた放熱構造体。
【請求項9】
電気・電子機器である、請求項8の放熱構造体。
【請求項10】
電気・電子部品または二次電池である、請求項8の放熱構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導率を有しながら、ギャップフィル性およびリペア性に優れた熱伝導性シリコーンゲル組成物、それからなる熱伝導性部材およびそれを用いる放熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トランジスター、IC、メモリー素子等の電子部品を登載したプリント回路基板やハイブリッドICの高密度・高集積化、二次電池(セル式)の容量の増大にともなって、電子部品や電池等の電子・電気機器から発生する熱を効率よく放熱するために、オルガノポリシロキサン、および酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末等の熱伝導性充填剤からなる熱伝導性シリコーン組成物が広く利用されており、特に、高い放熱量に対応すべく、多量の熱伝導性充填剤を充填した熱伝導性シリコーン組成物が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1および特許文献2には、熱伝導性充填剤の表面を、長鎖アルキル基を有する加水分解性シランで処理することにより、これらの熱伝導性シリコーン組成物に対して、熱伝導性無機充填剤を高充填化しても、成形物に柔軟性と耐熱機械特性が付与され、また、粘度上昇を低減して成形加工性を向上させ、高い熱伝導率を有する熱伝導性シリコーン組成物が実現可能であることが提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの熱伝導性シリコーン組成物にあっては、一定の粘度低減や成形性の改善は認められるものの、その流動性が不十分であるために、高度に精密化された電気・電子材料の構造に対する精密塗布が困難であり、かつ、放熱すべき電子部材との間に間隙(ギャップ)が生じて潜熱の原因になるなど、十分な放熱性が実現できない場合がある。さらに、これらの電子部材については、位置決めや回路再配置等に対応したリペア性が求められるところ、従来の熱伝導性シリコーン組成物は熱伝導性硬化物が部材に対して固着しやすく、これらの熱伝導性硬化物を残滓なく部材から剥離することが困難であり、製造時の歩留まりの悪化、電子部品や電池等の電子・電気機器の修繕や再利用の障害となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-209618号公報
【文献】特開2000-001616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、熱伝導性無機充填剤を高充填化した場合であっても、組成物全体が高い流動性を維持するために間隙の多い電子部品等に対する精密塗布性およびギャップフィル性に優れ、かつ、得られる熱伝導性硬化物の剥離性が高く、電子・電気機器等の放熱構造体のリペア性に優れた熱伝導性シリコーンゲル組成物を提供することを目的とする。更に得られる熱伝導性硬化物は柔らかいゲル組成物であることから、電子部品と放熱構造体の熱膨張率の違いにより生じる応力を緩和することにより、部材の破損を防止できる。また、本発明は、当該熱伝導性シリコーンゲル組成物を用いた熱伝導性部材、同部材を用いた放熱構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討の結果、本発明者らは、以下の成分(A)~(E)を含有してなる熱伝導性シリコーンゲル組成物を用いることで、上記課題を解決できる事を見出し、本発明に到達した。
(A)25℃における粘度が10~100,000mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)25℃における粘度が1~1,000mPa・sであり、分子内に平均して2~4個のケイ素原子結合水素原子を含有し、そのうち、少なくとも2個を分子鎖側鎖に有する直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン:成分(A)に含まれるアルケニル基1モルに対して、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子が0.2~5モルとなる量、
(C)触媒量のヒドロシリル化反応用触媒、
(D)熱伝導性充填剤 400~3,500質量部、および (E)分子内に炭素原子数6以上のアルキル基を有するアルコキシシラン 前記の成分(D)に対して0.1~2.0質量%となる量
【0008】
また、本発明の目的は、上記の成分(E)が、下記構造式:
YnSi(OR)4-n
(式中、Yは炭素原子数6~18のアルキル基であり、Rは炭素原子数1~5のアルキル基であり、nは1または2の数である)
で表されるアルコキシシランである場合に好適に解決され、特に、成分(E)が、デシル基等の炭素原子数6~18のアルキル基を有するトリアルコキシシランであるである場合に好適に解決される。
【0009】
また、本発明の目的は、前記の成分(D)が、成分(E)により表面処理されていることを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル組成物により、好適に解決される。
【0010】
また、本発明の目的は、さらに、(F)耐熱性付与剤を含有してなる熱伝導性シリコーンゲル組成物により、好適に解決される。
【0011】
同様に、本発明の目的は、成分(D)が、(D1)平均粒径が0.1~30μmである板状の窒化ホウ素粉末、(D2)平均粒径が0.1~50μmである顆粒状の窒化ホウ素粉末、(D3)平均粒径が0.01~50μmである球状及び/若しくは破砕状の酸化アルミニウム粉末、又は(D4)平均粒径が0.01~50μmであるグラファイト、或いはこれらの2種類以上の混合物である熱伝導性シリコーンゲル組成物により、好適に解決される。
【0012】
同様に、本発明の目的は、成分(B)が、(B1)分子内に平均して2~3個のケイ素原子結合水素原子を含有し、そのうち、少なくとも2個を分子鎖側鎖に有する直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンである組成物により好適に解決され、特に、成分(B)が分子鎖側鎖のみに平均して2個のケイ素原子結合水素原子を有する直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることがより好ましい。さらに、組成物中の成分(B)中のケイ素原子結合水素原子([HB])と、成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子の含有量([Hnon-B])について、[Hnon-B]/ ([HB]+[Hnon-B])の値が0.0~0.70の範囲であることが好ましく、同値は、0.0~0.50、0.0~0.25、0.0であってよい。
【0013】
さらに、本発明の目的は、これらの熱伝導性シリコーンゲル組成物からなる熱伝導性部材、特に、同組成物を硬化させてなる熱伝導性部材により、好適に解決される。また、これらの熱伝導性部材を備えた放熱構造体により、好適に解決される。
【0014】
当該放熱構造体は特に限定されないが、電気・電子部品、二次電池等の電気・電子機器であることが好ましく、微細な放熱構造について、所望のBLT(Bond Line Thickness)を設計して適用してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、熱伝導性無機充填剤を高充填化した場合であっても、組成物全体が高い流動性を維持するために間隙の多い電子部品等に対する精密塗布性およびギャップフィル性に優れ、かつ、得られる熱伝導性硬化物の剥離性が高く、電子部品のリペア性に優れた熱伝導性シリコーンゲル組成物が提供される。更に得られる熱伝導性硬化物は柔らかいゲル組成物であることから、電子部品と放熱構造体の熱膨張率の違いにより生じる応力を緩和することにより、部材の破損を防止できる。また、本発明により、当該熱伝導性シリコーンゲル組成物を用いた熱伝導性部材、同部材を用いた放熱構造体(特に、電気・電子部品の放熱構造および二次電池の放熱構造を含む、電気・電子機器の放熱構造体)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[熱伝導性シリコーンゲル組成物]
本発明に係る組成物は、(A)25℃における粘度が10~100,000mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、(B)25℃における粘度が1~1,000mPa・sであり、分子内に平均して2~4個のケイ素原子結合水素原子を含有し、そのうち、少なくとも2個を分子鎖側鎖に有する直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)ヒドロシリル化反応用触媒、(D)熱伝導性充填剤、および(E)分子内に炭素原子数6以上のアルキル基を有するアルコキシシランを各々特定量含有してなり、任意でさらに(F)耐熱性付与剤およびその他の添加剤を配合することができる。以下、各成分について説明する。
【0017】
[(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
成分(A)であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、熱伝導性シリコーンゲル組成物の主剤であり、25℃における粘度が10~100,000mPa・sの範囲内である。(A)成分の25℃における粘度は、10~100,00mPa・sの範囲内であることが好ましく、10~10,000mPa・sの範囲内であることがより好ましい。(A)成分の粘度が10mPa・s未満であると、得られるシリコーンゲルの物理的特性が低下する傾向があり、一方、100,000mPa・sを超えると、得られるシリコーンゲル組成物の取扱作業性およびギャップフィル性が低下する傾向がある。
【0018】
成分(A)は、1種又は2種以上のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンで構成される。こうしたアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子構造は、特に限定されず、例えば、直鎖状、分枝鎖状、環状、三次元網状構造、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。成分(A)は、直鎖状のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのみからなっていてもよく、分枝構造を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのみからなっていてもよく、または、直鎖状のオルガノポリシロキサンと分枝構造を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとの混合物からなっていてもよい。また、分子内のアルケニル基として、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等が例示される。また、成分(A)中のアルケニル基以外の有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等のアルケニル基を除く一価炭化水素基が例示される。
【0019】
特に好適には、成分(A)は、直鎖状のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンであり、少なくとも分子鎖両末端にアルケニル基を含有することが好ましく、分子鎖両末端のみにアルケニル基を含有していてもよい。こうした成分(A)としては、特に限定されないが、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、これらの重合体のメチル基の一部がエチル基、プロピル基等のメチル基以外のアルキル基や3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基で置換された重合体、これらの重合体のビニル基がアリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のビニル基以外のアルケニル基で置換された重合体、およびこれらの重合体の2種以上の混合物が挙げられる。なお、これらのアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、接点障害防止等の見地から、低分子量のシロキサンオリゴマー(オクタメチルテトラシロキサン(D4)、デカメチルペンタシロキサン(D5))が低減ないし除去されていることが好ましい。
【0020】
本発明の成分(A)は、さらに、ケイ素原子に結合した一般式:
【化1】
(式中、R
1は同じかまたは異なる、脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基であり、R
2はアルキル基であり、R
3は同じかまたは異なるアルキレン基であり、aは0~2の整数であり、pは1~50の整数である。)
で表されるアルコキシシリル含有基を有しても良い。これらの官能基を有するオルガノポリシロキサンは、未硬化状態における組成物の増粘を抑制し、かつ分子中にアルコキシシリル基を有するため、成分(D)の表面処理剤としても機能する。このため、得られる組成物の増粘やオイルブリードが抑制され、取扱作業性が損なわれないという恩恵を得られる場合がある。
【0021】
[(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
成分(B)は、本発明の特徴的な成分の一つであり、25℃における粘度が1~1,000mPa・sであり、分子内に平均して2~4個のケイ素原子結合水素原子を含有し、そのうち、少なくとも2個を分子鎖側鎖に有する直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。当該構造を有することは、成分(B)が本組成物において、分子鎖側鎖上のケイ素原子結合水素原子のヒドロシリル化反応により架橋延長剤として機能することを意味する。
【0022】
成分(B)は、本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物において、成分(A)の架橋延長剤として機能し、組成物全体を、緩やかに架橋させ、ゲル状の硬化物を形成する。ここで、成分(B)は、分子鎖側鎖上に平均して少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、かつ、分子内のケイ素原子結合水素原子を平均して2~4個のみ含むことから、主として側鎖上の2個~4個のケイ素原子結合水素原子による架橋延長反応が進行して、部材からの剥離性に優れ、修繕・再利用等のリペア性に優れた熱伝導性シリコーンゲル硬化物を形成する。
【0023】
剥離性およびリペア性の改善の見地から、成分(B)は、(B1)分子内に平均して2~3個のケイ素原子結合水素原子を含有し、そのうち、少なくとも2個を分子鎖側鎖に有する直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが好ましく、(B1-1)分子鎖側鎖のみに平均して2~3個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが特に好ましい。なお、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子は、分子鎖側鎖のみに平均して2個のみであることが最も好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、成分(B)について、少なくとも成分(A)に含まれるアルケニル基1モルに対して、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子が0.2~5モルとなる量の範囲にあることが必要であり、0.3~2.0モルとなる量、または0.4~1.0モルとなる量の範囲であることが、得られる熱伝導性シリコーンゲル硬化物の形成および同硬化物の剥離性およびリペア性の見地から、特に好ましい。具体的には、組成物中に成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが存在しない場合、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子の含有量が前記下限未満では、熱伝導性シリコーンゲル組成物の硬化不良の原因となる場合があり、前記上限を超えると、ケイ素原子結合水素原子の量が過剰となって、同硬化物の剥離性およびリペア性が損なわれる場合がある。
【0025】
このような成分(B)は、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体が例示される。なお、これらの例示は非限定的であり、メチル基の一部はフェニル基、水酸基、アルコキシ基等で置換されていてもよい。
【0026】
成分(B)の25℃における粘度は特に限定されないが、好ましくは、1~500mPa・sの範囲内であり、さらに、接点障害防止等の見地から、低分子量のシロキサンオリゴマー(オクタメチルテトラシロキサン(D4)、デカメチルペンタシロキサン(D5))が低減ないし除去されていることが好ましい。
【0027】
[その他の架橋剤の併用]
本発明の組成物は、成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサン、例えば、分子内のケイ素原子結合水素原子を平均して4個を超える数含む分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子内のケイ素原子結合水素原子を平均して4個を超える数含む分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキシ基含有シロキサンレジン等を架橋剤として含んでも良い。しかしながら、少なくとも、上記の量の成分(B)を、架橋延長剤として含むことが必要であり、その他のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを併用する場合であっても、本発明の組成物の硬化特性および硬化物の剥離性およびリペア性の見地から、成分(B)の比率が一定量以上であることが好ましい。また、これらのオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子中のケイ素原子結合水素原子の個数(平均値)は8個を超えない範囲が好ましい。
【0028】
具体的には、組成物中の成分(B)中のケイ素原子結合水素原子([HB])と、成分(B)以外のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子の含有量([Hnon-B])について、[Hnon-B]/ ([HB]+[Hnon-B])の値が0.0~0.70の範囲であることが好ましく、同値は0.0~0.50、0.0~0.25、0.0であってよい。[Hnon-B]/ ([HB]+[Hnon-B])の値が前記上限を超えると、組成物中の架橋剤全体に占める成分(B)の影響が相対的に小さくなり、硬化物の剥離性およびリペア性が損なわれたり、硬化不良の原因となる場合がある。
【0029】
本発明の技術的効果の見地から、本組成物中の架橋剤であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、以下の組み合わせが好適である。
(B´1): 成分(B)のみ、または、組成中に意図的に他のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが配合されておらず、実質的に成分(B)のみ
(B´2):成分(B)に加えて、
分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、
分子内のケイ素原子結合水素原子を平均して5~8個含む分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、および
分子内のケイ素原子結合水素原子を平均して5~8個含む含む分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体
から選ばれる1種類又は2種類以上を含有する、オルガノハイドロジェンポリシロキサン混合物
ただし、仮に上記の成分(B´2)を用いる場合であっても、[Hnon-B]/ ([HB]+[Hnon-B])の値は上記同様の範囲であることが好ましい。
【0030】
[組成物中のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(架橋剤)の量]
成分(B)を含めた組成物中のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの含有量は、組成物中の成分(A)に含まれるアルケニル基1モルに対して、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子が0.2~5モルとなる量であり、0.3~2.0モルとなる量、または0.4~1.0モルとなる量の範囲であることが、得られる熱伝導性シリコーンゲル硬化物の形成および同硬化物の剥離性およびリペア性の見地から、特に好ましい。
【0031】
特に、組成物中のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、前記の(B´2)で示した混合物、特に、成分(B)と分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンの混合物である場合、同組成物の硬化性を改善する見地から、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの中のケイ素原子結合水素原子が0.5~1.5モルとなる量であることが好ましく、0.7~1.0モルとなる量の範囲であることがより好ましい。一方、組成物中のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、実質的に成分(B)のみである場合、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの中のケイ素原子結合水素原子が0.3~1.5モルとなる量であることが好ましく、0.4~1.0モルとなる量の範囲であることがより好ましい。組成物中のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの種類および含有量が前記範囲内である場合、本発明の技術的効果である、熱伝導性シリコーンゲル組成物の流動性、ギャップフィル性に最も優れ、かつ、得られる熱伝導性シリコーンゲル硬化物の物理的特性、特に、剥離性およびリペア性が最も良好となる。
【0032】
[(C)ヒドロシリル化反応用触媒]
ヒドロシリル化反応用触媒としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒が例示され、本組成物の硬化を著しく促進できることから白金系触媒が好ましい。この白金系触媒としては、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、白金-カルボニル錯体、およびこれらの白金系触媒を、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した触媒が例示され、特に、白金-アルケニルシロキサン錯体が好ましい。このアルケニルシロキサンとしては、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基、フェニル基等で置換したアルケニルシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基、ヘキセニル基等で置換したアルケニルシロキサンが例示される。特に、この白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性が良好であることから、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンであることが好ましい。加えて、取扱作業性および組成物のポットライフの改善の見地から、熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒を用いてもよい。なお、ヒドロシリル化反応を促進する触媒としては、鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒を用いてもよい。
【0033】
ヒドロシリル化反応用触媒の添加量は触媒量であり、成分(A)に対して、金属原子が質量単位で0.01~500ppmの範囲内となる量、0.01~100ppmの範囲内となる量、あるいは、0.01~50ppmの範囲内となる量であることが好ましい。
【0034】
[ヒドロシリル化反応抑制剤]
本発明の組成物には、その取扱作業性の見地から、さらにヒドロシリル化反応抑制剤を含むことが好ましい。ヒドロシリル化反応抑制剤は、本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物のヒドロシリル化反応を抑制するための成分であって、具体的には、例えば、エチニルシクロヘキサノールのようなアセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。反応抑制剤の添加量は、通常、シリコーンゲル組成物全体の0.001~5質量%である。特に、シリコーンゲル組成物の取扱作業性を向上させる目的では、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-フェニル-1-ブチン-3-オール等のアセチレン系化合物;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のシクロアルケニルシロキサン;ベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物等が特に制限なく使用することができる。
【0035】
[(D)熱伝導性充填剤]
成分(D)は、本組成物および本組成物を硬化させてなる熱伝導性部材に熱伝導性を付与するための熱伝導性充填剤である。このような成分(D)としては、純金属、合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属ケイ化物、炭素、軟磁性合金及びフェライトからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の粉末及び/又はファイバーであることが好ましく、金属系粉末、金属酸化物系粉末、金属窒化物系粉末、または炭素粉末が好適である。
【0036】
かかる熱伝導性充填剤は、後述する成分(E)であるアルコキシシランにより、その全部又は一部について表面処理がなされていることが好ましい。さらに、成分(E)と別に、あるいは成分(E)と共に、これらの粉体及び/又はファイバーとして、カップリング剤として知られている各種表面処理剤により処理されているものを用いてもよい。成分(D)の粉体及び/又はファイバーを処理するための表面処理剤としては、成分(E)のほか、界面活性剤、その他のシランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤及びシリコーン系表面処理剤などが挙げられる。
【0037】
純金属としては、ビスマス、鉛、錫、アンチモン、インジウム、カドミウム、亜鉛、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄及び金属ケイ素が挙げられる。合金としては、ビスマス、鉛、錫、アンチモン、インジウム、カドミウム、亜鉛、銀、アルミニウム、鉄及び金属ケイ素からなる群から選択される二種以上の金属からなる合金が挙げられる。金属酸化物としては、アルミナ、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化クロム及び酸化チタンが挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、及び水酸化カルシウムが挙げられる。金属窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素が挙げられる。金属炭化物としては、炭化ケイ素、炭化ホウ素及び炭化チタンが挙げられる。金属ケイ化物としては、ケイ化マグネシウム、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化タンタル、ケイ化ニオブ、ケイ化クロム、ケイ化タングステン及びケイ化モリブデンが挙げられる。炭素としては、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、活性炭及び不定形カーボンブラックが挙げられる。軟磁性合金としては、Fe-Si合金、Fe-Al合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金、Fe-Ni-Mo合金、Fe-Co合金、Fe-Si-Al-Cr合金、Fe-Si-B合金及びFe-Si-Co-B合金が挙げられる。フェライトとしては、Mn-Znフェライト、Mn-Mg-Znフェライト、Mg-Cu-Znフェライト、Ni-Znフェライト、Ni-Cu-Znフェライト及びCu-Znフェライトが挙げられる。
【0038】
なお、成分(D)として好適には、銀粉末、アルミニウム粉末、酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、窒化アルミニウム粉末またはグラファイトである。また、本組成物に、
電気絶縁性が求められる場合には、金属酸化物系粉末、または金属窒化物系粉末であることが好ましく、特に、酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、または窒化アルミニウム粉末であることが好ましい。
【0039】
成分(D)の形状は特に限定されないが、例えば、球状、針状、円盤状、棒状、不定形状が挙げられ、好ましくは、球状、不定形状である。また、成分(D)の平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは、0.01~100μmの範囲内であり、さらに好ましくは、0.01~50μmの範囲内である。
【0040】
成分(D)は、(D1)平均粒径が0.1~30μmである板状の窒化ホウ素粉末、(D2)平均粒径が0.1~50μmである顆粒状の窒化ホウ素粉末、(D3)平均粒径が0.01~50μmである球状及び/若しくは破砕状の酸化アルミニウム粉末、又は(D4)平均粒径が0.01~50μmである球状及び/若しくは破砕状グラファイト、或いはこれらの2種類以上の混合物であることが特に好ましい。最も好適には、平均粒径が0.01~50μmである球状および破砕状の酸化アルミニウム粉末の2種類以上の混合物である。特に、粒径の大きい酸化アルミニウム粉末と粒径の小さい酸化アルミニウム粉末を最密充填理論分布曲線に従う比率で組み合わせることにより、充填効率が向上して、低粘度化及び高熱伝導化が可能になる。
【0041】
成分(D)の含有量は、成分(A)100質量部に対して400~3,500質量部の範囲内であり、好ましくは、400~3,000質量部の範囲内である。これは、成分(D)の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる組成物の熱伝導性が不十分となり、一方、上記範囲の上限を超えると、成分(E)を配合又は成分(D)の表面処理に用い田場合であっても、得られる組成物の粘度が著しく高くなり、その取扱作業性、ギャップフィル性等が低下するからである。
【0042】
[(E)アルキルアルコキシシラン]
成分(E)は、成分(B)と共に本組成物の特徴的な成分であり、分子内に炭素原子数6以上のアルキル基を有するアルコキシシランである。ここで、炭素原子数6以上のアルキル基の具体例としてはヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基やベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられるが、特に炭素数6~20のアルキル基が好ましい。炭素原子数6未満のアルキル基を有するアルコキシシランの場合、組成物の粘度を低下させる効果が不十分であり、組成物の粘度が上昇して、所望の流動性およびギャップフィル性が実現できない場合がある。また、炭素原子数20以上のアルキル基等を有するアルコキシシランを用いた場合、工業的供給性に劣るほか、成分(A)の種類によっては、相溶性が低下する場合がある。
【0043】
好適には、成分(E)は、下記構造式:
YnSi(OR)4-n
(式中、Yは炭素原子数6~18のアルキル基であり、Rは炭素原子数1~5のアルキル基であり、nは1または2の数である)
で表されるアルコキシシランであり、OR基としてメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが例示され、特にメトキシ基及びエトキシ基が好ましい。また、nは1,2又は3であり、特に1であることが好ましい。
【0044】
このような成分(E)は、具体的には、C6H13Si(OCH3)3、C8H17Si(OC2H5)3、C10H21Si(OCH3)3、C11H23Si(OCH3)3、C12H25Si(OCH3)3、C14H29Si(OC2H5)3等が例示され、最も好適には、デシルトリメトキシシランである。
【0045】
成分(E)の使用量は、前記の成分(D)に対して0.1~2.0質量%となる量であり、使用量が前記下限未満であると、組成物の粘度を低下させる効果が不十分となる場合がある。また、成分(E)の使用量が前記上限を超えると、粘度低下の効果が飽和し、更にアルコキシシランが分離して、組成物の保存安定性が低下する場合がある。
【0046】
本発明において、成分(E)は、前記の成分(D)を成分(E)により表面処理された形態で配合することが好ましく、成分(D)の少なくとも一部が成分(E)により表面処理されたことが、本組成物の流動性およびギャップフィル性の改善の見地から、特に好ましい。表面処理剤として成分(E)を使用する場合、前記の成分(D)に対して0.15~1.2質量%となる量が好ましく、0.2~1.0質量%の範囲がより好ましい。
【0047】
成分(E)による表面処理方法は特に制限されるものではないが、成分(D)である熱伝導性無機充填剤への直接処理法、インテグラルブレンド法、ドライコンセントレート法等を用いることができる。直接処理法には、乾式法、スラリー法、スプレー法等があり、インテグラルブレンド法としては、直接法、マスターバッチ法等があるが、このうち乾式法、スラリー法、直接法が良く用いられる。好適には、成分(D)と成分(E)の全量を公知の混合装置を用いて事前に混合し、その表面を処理する形態であってよい。なお、前記の特許文献1および特許文献2に記載の通り、成分(D)の表面で、成分(E)の一部が加水分解ないし重合体を形成していてもよく、本発明における表面処理の概念に包摂されるものである。
【0048】
上記混合装置としては特に限定がなく、一軸または二軸の連続混合機、二本ロール、ロスミキサー、ホバートミキサー、デンタルミキサー、プラネタリミキサー、ニーダーミキサー、ヘンシェルミキサー等が例示される。
【0049】
[成分(F)]
本発明組成物は、前記の成分(A)~(E)、任意で他の架橋剤およびヒドロシリル化反応抑制剤を含んでなるものであるが、熱伝導性シリコーンゲル組成物およびその硬化物の耐熱性改善の見地から、さらに、(F)耐熱性付与剤を含有することが好ましい。成分(F)として、本発明の組成物およびその硬化物に耐熱性を付与できるものならば特に限定されないが、例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物、水酸化セリウム等の金属水酸化物、フタロシアニン化合物、カーボンブラック、セリウムシラノレ-ト、セリウム脂肪酸塩、オルガノポリシロキサンとセリウムのカルボン酸塩との反応生成物等が挙げられる。特に好適には、フタロシアニン化合物であり、例えば、特表2014-503680号公報に開示された無金属フタロシアニン化合物及び金属含有フタロシアニン化合物からなる群より選択される添加剤が好適に用いられ、金属含有フタロシアニン化合物のうち、銅フタロシアニン化合物が特に好適である。最も好適かつ非限定的な耐熱性付与剤の一例は、29H,31H-フタロシアニナト(2-)-N29,N30,N31,N32銅である。このようなフタロシアニン化合物は市販されており、例えば、PolyOne Corporation(Avon Lake,Ohio,USA)のStan-tone(商標)40SP03がある。
【0050】
このような成分(F)の配合量は、組成物全体の0.01~5.0質量%の範囲内とするであってよく、0.05~0.2質量%、0.07~0.1質量%の範囲であってもよい。
【0051】
[その他の添加剤]
本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、上記した成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、ヒュームドシリカ、湿式シリカ、粉砕石英、酸化チタン、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、ケイ藻土、カーボンブラック等の無機充填剤(「無機充填材」ともいう)、こうした無機充填剤の表面を有機ケイ素化合物により疎水処理してなる無機充填剤、ケイ素原子結合水素原子およびケイ素原子結合アルケニル基を含有しないオルガノポリシロキサン、耐寒性付与剤難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。また、本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、所望により、公知の接着性付与剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、または非イオン系界面活性剤などからなる1種類以上の帯電防止剤;誘電性フィラー;電気伝導性フィラー;離型性成分;チクソ性付与剤;防カビ剤などを含むことができる。また、所望により、有機溶媒を添加してもよい。
【0052】
[組成物の製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、上記の各成分を混合することにより調製でき、例えば、事前に成分(D)と成分(E)を混合して、成分(D)の表面を成分(E)で処理した後、残る成分(A)~(C)、成分(F)、並びに他の任意の成分を混合することにより調製できる。または、成分(A)中で成分(D)と成分(E)を混合し、成分(D)の表面を成分(E)で処理した後、残る成分(B)、成分(C)、成分(F)、並びに他の任意の成分を混合することにより調製できる。各成分の混合方法は、従来公知の方法でよく、特に限定されないが、通常、単純な攪拌により均一な混合物となることから、混合装置を用いた混合が好ましい。こうした混合装置としては特に限定がなく、一軸または二軸の連続混合機、二本ロール、ロスミキサー、ホバートミキサー、デンタルミキサー、プラネタリミキサー、ニーダーミキサー、ヘンシェルミキサー等が例示される。
【0053】
[組成物の形態およびパッケージ]
本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、一成分型(一液型を含む)の組成物として用いてもよく、必要に応じ、分液した多成分を使用時に混合する多成分型(多液型、特に二液型を含む)の組成物として用いてもよい。一成分型の場合、組成物の各構成成分を単一の保存容器に入れて使用することができ、多成分型の場合、個別に保存される複数の組成物を所定の比率で混合して使用することができる。なお、これらのパッケージは、後述する硬化方法や塗布手段、適用対象に応じて所望により選択することができ、特に制限されない。
【0054】
[熱伝導性シリコーンゲル組成物]
本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、流動性に優れ、精密な塗布が可能であり、かつ、ギャップフィル性に優れる。具体的には、硬化前の組成物の粘度が25℃において10~500Pa・s範囲であり、特に50~400Pa・sであることがより好ましい。
【0055】
本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、ヒドロシリル化反応により硬化して、熱伝導性に優れたシリコーンゲル硬化物を形成する。このヒドロシリル化反応硬化型のシリコーンゲル組成物を硬化するための温度条件は、特に限定されないが、通常20℃~150℃の範囲内であり、より好ましくは20~80℃の範囲内である。
【0056】
本発明のシリコーンゲル硬化物は、JIS K6249で規定されるタイプE硬度計で2~70の範囲を満たす硬度を有することが好ましく、2~50の範囲を満たすことがさらに好ましい。硬度70を示すものはエラストマー用途に一般的に使用されるタイプA型硬度計で50以下となり、こうした範囲の硬度を持つシリコーンゲル硬化物は、低弾性率および低応力といったシリコーンゲルの特徴を有するものになる。一方、硬度が70より大きい場合には、発熱部材との密着性は優れるものの、追従性が悪くなる恐れがあり、硬度が2未満の場合には追従性に優れるものの、発熱部材の固定性が悪くなる恐れがある。
【0057】
[熱伝導率]
本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、熱伝導性充填剤を安定的に高充填することができ、2.0W/mK以上、好適には3.0W/mK以上、より好適には3.0~7.0W/mKの組成物およびシリコーンゲル硬化物を設計可能である。
【0058】
[用途および放熱構造体]
本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、熱伝導による発熱性部品の冷却のために、発熱性部品の熱境界面とヒートシンク又は回路基板等の放熱部材との界面に介在させる熱伝達材料(熱伝導性部材)として有用であり、これを備えた放熱構造体を形成することができる。ここで、発熱性部品の種類や大きさ、細部の構造は特に限定されるものではないが、本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、高い熱伝導性を有しながら部材へのギャップフィル性に優れ、微細な凹凸や狭いギャップ構造を有する発熱性部材に対しても密着性と追従性が高く、かつ、ゲル特有の柔軟性を併せ持つことから、電気・電子部品又はセル方式の二次電池類を含む電気・電子機器の放熱構造体に好適に適用される。
【0059】
前記の熱伝導性シリコーン組成物からなる部材を備えた電気・電子機器は特に制限されるものではないが、例えば、セル方式のリチウムイオン電極二次電池、セルスタック式の燃料電池等の二次電池;プリント基板のような電子回路基板;ダイオード(LED)、有機電界素子(有機EL)、レーザーダイオード、LEDアレイのような光半導体素子がパッケージされたICチップ;パーソナルコンピューター、デジタルビデオディスク、携帯電話、スマートフォン等の電子機器に使用されるCPU;ドライバICやメモリー等のLSIチップ等が例示される。特に、高集積密度で形成された高性能デジタル・スイッチング回路においては、集積回路の性能及び信頼性に対して熱除去(放熱)が主要な要素となっているが、本発明に係る熱伝導性シリコーンゲル組成物を用いてなる熱伝導性部材は、輸送機中のエンジン制御やパワー・トレーン系、エアコン制御などのパワー半導体用途に適用した場合にも、放熱性および取扱作業性に優れ、電子制御ユニット(ECU)など車載電子部品に組み込まれて過酷な環境下で使用された場合にも、優れた耐熱性および熱伝導性を実現できる。また、本発明に係る熱伝導性シリコーンゲル組成物は、そのレオロジーを制御することで、水平面だけでなく垂直面にも配置することができ、かつ、電気・電子部品や二次電池等の発熱性部品の微細構造にも侵入して間隙(ギャップ)のない放熱構造体を与えることができる。これにより、当該放熱構造体を備えた電気・電子機器について放熱性が改善され、潜熱や熱暴走の問題が改善されるほか、柔軟なゲル状硬化物により電気・電子機器の部分構造を保護し、その信頼性と動作安定性を改善できる場合がある。
【0060】
上記の電気・電子機器を構成する材料としては、例えば、樹脂、セラミック、ガラス、アルミニウムのような金属等が挙げられる。本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、硬化前の熱伝導性シリコーンゲル組成物(流動体)としても、熱伝導性シリコーン硬化物としても、これらの基材に適用して使用することができる。
【0061】
[硬化方法]
発熱性部品について、本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物を用いた放熱構造を形成する方法は限定されず、例えば、電気・電子部品について放熱部分に本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物を注ぎ、十分に間隙まで充填した後、これを加熱したり、室温で放置したりすることにより、この組成物を硬化させる方法が挙げられる。
【0062】
迅速な硬化が求められる用途にあっては、特に、比較的速やかに全体を硬化させることができることから、これを加熱して硬化させる方法が好ましい。この際、加熱温度が高くなると、封止または充填している電気・電子部品封止剤中の気泡や亀裂の発生が促進されるので、50~250℃の範囲内に加熱することが好ましく、特に、70~130℃の範囲内に加熱することが好ましい。また、加熱硬化の場合、本組成物を一液型のパッケージとしてもよく、その場合、取扱作業性および組成物のポットライフの改善の見地から、熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒を用いてもよく、かつ、好ましい。
【0063】
一方、本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、室温または50度以下の加温下で硬化させることができる。その場合、本組成物を一液型または多液型のパッケージとしてもよく、混合後、室温または50度以下の加温下で1時間から数日間かけて室温または50度以下の加温下で硬化させることが好ましい。
【0064】
なお上記の硬化により得られた熱伝導性シリコーンゲルの形状、厚さおよび配置等は所望により設計可能であり、電気・電子機器の間隙に充填した後に必要に応じて硬化させてもよく、剥離層(セパレータ)を設けたフィルム上に塗布ないし硬化させ、フィルム上の熱伝導性シリコーンゲル硬化物として単独で取り扱ってもよい。また、その場合、公知の補強材により補強された熱伝導性シートの形態であってもよい。
【0065】
[電気・電子機器の具体例]
本発明の熱伝導性シリコーンゲル組成物は、ギャップフィル性に優れ、柔軟かつ熱伝導性に優れたゲル状の熱伝導性部材を形成するので、電気・電子部品中の電極と電極、電気素子と電気素子、電気素子とパッケージ等の隙間が狭いものや、これらの構造がこのシリコーンゲルの膨張・収縮に追随しにくい構造を有するものに対しても有効であり、例えば、二次電池、IC、ハイブリッドIC、LSI等の半導体素子、このような半導体素子、コンデンサ、電気抵抗器等の電気素子を実装した電気回路やモジュール、圧力センサー等の各種センサー、自動車用のイグナイターやレギュレーター、発電システム、または宇宙輸送システム等のパワーデバイス等に対しても使用することができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
【0067】
成分(A)~(E)を以下のように混合して、実施例1~6および比較例1~7の熱伝導性シリコーンゲル組成物を得た。
表1~表3(実施例1~6および比較例1~7)に示す部数で、成分(A)、成分(D)、成分(E)を混合し、さらに減圧下、160℃で1時間混合した。常温になるまで冷却し、次に成分(B)、成分(C)、その他表中に示される成分を加えて均一になるように混合した。
[熱伝導性シリコーンゲル硬化物の作成]
得られた組成物は、ポリプロピレンシート上にポリエチレン製バッカーを用いて高さ12mm、縦50mm、横30mmの枠を作成、得られた組成物を充填し、上にテフロン(登録商標)製シートを平滑になるように押し付け、そのままの状態で25℃の雰囲気下で1日硬化させた。硬化後、テフロン(登録商標)製シートとポリエチレン製バッカーを外し、熱伝導性シリコーンゲル硬化物を得た。
実施例1~6および比較例1~7に示す部数により得られた熱伝導性シリコーンゲル組成物は3.5W/mKの熱伝導率を得られるように成分(D)を配合している。この熱伝導率は京都電子工業株式会社製QTM-500を使用して、プローブ法にて測定された値である。
【0068】
本発明に関わる効果に関する試験は次のように行った。結果を表1~3に示す。
[硬さ]
硬さの測定にはASKER社製ASKER TYPE E型硬度計を使用した。
[圧縮変形]
圧縮変形率はStable Micro Systems社製TA.XT.plusテクスチャーアナライザーを用いて、0.5mm/秒の速度で10Nの応力をかけて10秒間保持し、10Nの応力到達時の試験体厚み12mmに対する変形率の値を読み取った。プローブは直径1.27cmのものを使用し、試験の開始位置は20mmとした。サンプルは上記で示した高さ12mm、縦50mm、横30mmのシリコーンゲル硬化物を台に固定して使用した。
[引張変形]
引張変形率はテクスチャーアナライザーを用いて、0.5mm/秒の速度で10Nの応力をかけて10秒間保持したのち、0.5mm/秒の速度で開始位置の20mm高さまで引張り上げ、応力を示さなくなった時の試験体厚み12mmに対する変形率の値を読み取った。試験開始位置20mmまで応力を示したものは、シリコーンゲル硬化物がプローブに粘着して変形し、剥離することができなかった。
【0069】
以下に示す実施例等では下記の化合物ないし組成物を原料に用いた。粘度は25℃において回転粘度計により測定された値であり、Vi含有量はアルケニル基中のビニル基部分(CH2=CH-)の含有量である。
成分(A):
A-1:分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(粘度 400mPa・s,Vi含有量 0.43質量%)
【0070】
成分(B):
B-1:分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子内に平均2個、分子鎖側鎖に平均2個(粘度 20mPa・s,Si-H 含有量 0.10質量%)
その他の架橋剤:
non-B-2:分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子内に平均5個、分子鎖側鎖に平均5個(粘度 5mPa・s,Si-H 含有量 0.75質量%)
non-B-3:分子鎖両末端ジメチルハイドロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子内に平均2個、分子鎖側鎖に平均0個(粘度 10mPa・s,Si-H 含有量0.15質量%)
【0071】
成分(C):
C-1白金濃度が0.6重量%である白金と1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの錯体
【0072】
成分(D):
D-1:平均粒子径0.4μmの破砕状酸化アルミニウム粉末
D-2:平均粒子径2.5μmの破砕状酸化アルミニウム粉末
D-3:平均粒子径35μmの球状酸化アルミニウム粉末
【0073】
成分(E):
E-1:デシルトリメトキシシラン
【0074】
成分(F):
F-1:29H,31H-フタロシアニナト(2-)-N29,N30,N31,N32銅
【0075】
【0076】
【0077】
実施例1~6に示すとおり、本発明にかかる各熱伝導性シリコーンゲル組成物(熱伝導率の設計値:3.5W/mK)は、応力により圧縮変形することによって応力緩和を示しながら、その後の引張応力により一定の変形で容易に剥離することが可能であり、リペア性を示していた。
【0078】
一方、本発明の構成成分B-1を欠いた比較例1-3,7においては、応力により圧縮変形することによって応力緩和を示すものの、その後の引張応力では剥離性が不十分であり、シリコーンゲル硬化物の変形を起こすと共に、リペア性を改善することができなかった。また、本発明の目的である使用には適さないものであった。また、成分B-1を使用しているものの、non-B3と比率が請求範囲外である比較例4-6においても、同様の結果で剥離性が不十分であり、リペア性を改善することができなかった。