IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社サイオクスの特許一覧 ▶ 住友化学株式会社の特許一覧

特許7160562ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用ウエハおよびヘテロ接合バイポーラトランジスタ
<>
  • 特許-ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用ウエハおよびヘテロ接合バイポーラトランジスタ 図1
  • 特許-ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用ウエハおよびヘテロ接合バイポーラトランジスタ 図2
  • 特許-ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用ウエハおよびヘテロ接合バイポーラトランジスタ 図3
  • 特許-ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用ウエハおよびヘテロ接合バイポーラトランジスタ 図4
  • 特許-ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用ウエハおよびヘテロ接合バイポーラトランジスタ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用ウエハおよびヘテロ接合バイポーラトランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/331 20060101AFI20221018BHJP
   H01L 29/737 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01L29/72 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018095436
(22)【出願日】2018-05-17
(65)【公開番号】P2019201132
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】515131378
【氏名又は名称】株式会社サイオクス
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】目黒 健
(72)【発明者】
【氏名】竹田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 弘幸
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-022835(JP,A)
【文献】特開2016-119364(JP,A)
【文献】特開2002-289835(JP,A)
【文献】特開2011-054688(JP,A)
【文献】米国特許第05552617(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/331、29/737
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半絶縁性基板と、
前記半絶縁性基板上に形成されてサブコレクタ層として機能する第1層と、前記第1層上に形成されてコレクタ層として機能する第2層と、を備え、
前記第1層には、n型不純物としてテルルが3.0×1018cm-3以上9.0×1019cm-3以下の濃度でドープされており、
前記第1層と前記第2層との間には、InGaP層およびGaAs層のうち少なくともいずれかの層からなり、シリコンが1.0×10 18 cm -3 以上3.0×10 20 cm -3 以下の濃度でドープされている第3層が設けられているヘテロ接合バイポーラトランジスタ用半導体ウエハ。
【請求項2】
前記第1層には、n型不純物としてテルルが3.0×1018cm-3以上1.0×1019cm-3以下の濃度でドープされている請求項1に記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタ用半導体ウエハ。
【請求項3】
前記第3層の厚さは、10nm以上であって前記第1層の厚さの1/2以下の厚さである請求項1または2に記載のヘテロ接合バイポーラトランジスタ用半導体ウエハ。
【請求項4】
半絶縁性基板と、
前記半絶縁性基板上に形成されてサブコレクタ層として機能する第1層と、前記第1層上に形成されてコレクタ層として機能する第2層と、を備え、
前記第1層には、n型不純物としてテルルが3.0×1018cm-3以上9.0×1019cm-3以下の濃度でドープされており、
前記第1層と前記第2層との間には、InGaP層およびGaAs層のうち少なくともいずれかの層からなり、シリコンが1.0×10 18 cm -3 以上3.0×10 20 cm -3 以下の濃度でドープされている第3層が設けられているヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用ウエハおよびヘテロ接合バイポーラトランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(Heterojunction Bipolar Transistor、以下、HBTとも称する)として、例えば、サブコレクタ層、コレクタ層、ベース層およびエミッタ層がこの順に半絶縁性基板上に形成されてなり、エミッタ層がワイドギャップ半導体であるInGaPで形成されていると共に他の層がGaAsで形成されているInGaP/GaAs系HBTが用いられている。InGaP/GaAs系HBTにおいては、電気特性を向上させるため、サブコレクタ層中にn型不純物としてテルル(以下、Teとも称する)をドープすることが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-119364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サブコレクタ層中のTe濃度を高くすると、HBTの電気特性を高めることができる一方、サブコレクタ層中に生成される結晶欠陥が多くなる場合がある。サブコレクタ層中の結晶欠陥が多くなると、HBTの信頼性が低下する場合がある。
【0005】
本発明の目的は、高い電気特性と高い信頼性とをあわせ持つヘテロ接合バイポーラトランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
半絶縁性基板と、
前記半絶縁性基板上に形成されてサブコレクタ層として機能する第1層と、前記第1層上に形成されてコレクタ層として機能する第2層と、を備え、
前記第1層には、n型不純物としてTeが3.0×1018cm-3以上9.0×1019cm-3以下の濃度でドープされており、
前記第1層と前記第2層との間には、InGaP層およびGaAs層のうち少なくともいずれかの層からなる第3層が設けられているヘテロ接合バイポーラトランジスタ用半導体ウエハおよびその関連技術が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い電気特性と高い信頼性とをあわせ持つヘテロ接合バイポーラトランジスタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態にかかるヘテロ接合バイポーラトランジスタ用半導体ウエハの断面構造の一例を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態にかかるヘテロ接合バイポーラトランジスタの概略構成の一例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態にかかるヘテロ接合バイポーラトランジスタのコレクタ抵抗と第1層(サブコレクタ層)中のTe濃度との関係性を示すグラフ図である。
図4】本発明の一実施形態にかかるヘテロ接合バイポーラトランジスタの電流利得と第1層(サブコレクタ層)中のTe濃度との関係性を示すグラフ図である。
図5】本発明の一実施形態にかかるヘテロ接合バイポーラトランジスタの電流利得と第3層中のSi濃度との関係性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
(1)ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用半導体ウエハの構成
図1に示すように、本実施形態にかかるヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)用半導体ウエハ10(以下、ウエハ10とも称する)は、半絶縁性ガリウム砒素(GaAs)からなる基板11と、基板11上に形成されてサブコレクタ層として機能する第1層12と、第1層12上に形成されてコレクタ層として機能する第2層14と、を備えている。
【0011】
第1層(サブコレクタ層)12として、例えばGaAsからなる層(GaAs層)を形成することができる。第1層12は、有機金属気相成長(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy、略称:MOVPE)法等の手法を用いて形成することができる。第1層12の厚さは例えば400~1,200nmとすることができる。
【0012】
第1層12には、n型不純物として、Teが3.0×1018cm-3以上9.0×1019cm-3以下、好ましくは3.0×1018cm-3以上1.0×1019cm-3以下の範囲内の濃度でドープされている。第1層12中にTeをドープすることで、第1層12中にn型不純物としてのシリコン(以下、Siとも称する)をドープする場合よりも、第1層12の抵抗を低くし、ウエハ10を用いて形成した後述のHBT30の電流利得(電流増幅率、β)を高めることが可能となる。すなわち、HBT30の電気特性を向上させることができる。
【0013】
第1層12中のTe濃度(Teのドープ量)が3.0×1018cm-3未満であると、Teをドープする効果が充分に得られず、第1層12の抵抗を充分に低くすることができない場合がある。このため、後述のHBT30の電流利得を充分に高めることができず、電気特性が低くなることがある。第1層12中のTe濃度を3.0×1018cm-3以上とすることで、Teをドープする効果を充分に得ることができる。その結果、HBT30の電流利得を充分に高め、電気特性を高くすることが可能となる。
【0014】
第1層12中のTe濃度が9.0×1019cm-3を超えると、Teの固溶限界をはるかに超えることから第1層12中に多くのTeが析出してしまう。このため、Teの析出物を介してリーク電流が流れやすくなることから、第1層12上に後述のコレクタ電極21を設ける際の信頼性が低下する場合がある。第1層12中のTe濃度を9.0×1019cm-3以下とすることで、第1層12中におけるTeの析出を抑制することができる。第1層12中のTe濃度を1.0×1019cm-3以下とすることで、第1層12中におけるTeの析出をより抑制することができる。
【0015】
第2層(コレクタ層)14として、例えばGaAs層を形成することができる。第2層14は、MOVPE法等の手法を用いて形成することができる。第2層14には、n型不純物としてのSiが例えば1×1015cm-3以上5×1017cm-3以下の範囲内の濃度でドープされている。第2層14はn型不純物がドープされていない層(アンドープ層)であってもよい。第2層14は、p型不純物(例えば炭素(C))が1×1016cm-3未満の濃度でドープされた層であってもよい。第2層14の厚さは例えば400~1,200nmとすることができる。
【0016】
第1層12と第2層14との間には、InGaPからなる第3層13が設けられている。第3層13は、MOVPE法等の手法を用いて形成することができる。第3層13は、第1層12中に存在する後述のキラー欠陥が第2層14へ伝搬することを抑制(阻止)する層である。
【0017】
第1層12中にTeをドープすると、第1層12中には、原子面が消滅した刃状転位等の結晶欠陥や、この結晶欠陥とは異なる結晶欠陥であって後述のHBT30の電流利得の初期値を低下させる結晶欠陥(以下、キラー欠陥とも称する)が生成される。キラー欠陥は、主に第2層14および後述のベース層15、エミッタ層16、エミッタコンタクト層17等の第2層14よりも上側の層の成長時に、第1層12から第2層14および第2層14よりも上側の層へ伝搬する。キラー欠陥がベース層15まで達すると、キラー欠陥が電子および正孔の再結合の中心として働き、その結果、HBT30の電流利得の初期値を低下させてしまう。第2層14へのキラー欠陥の伝搬を抑制することで、HBT30の電流利得の初期値の低下を抑制することが可能となる。
【0018】
また、上述のようにキラー欠陥は結晶欠陥の一つであることから、第2層14へのキラー欠陥の伝搬を抑制することで、第2層14および第2層14よりも上側の層が結晶欠陥の少ない層となる。これにより、長期間電界を印加した場合であっても、HBT30の電流利得の低下を抑制でき、その結果、長期間にわたって高い電流利得を維持することが可能となる。すなわち、HBT30の信頼性を高めることが可能となる。
【0019】
第3層13には、n型不純物としてのSiが例えば1.0×1018cm-3以上3.0×1020cm-3以下、好ましくは1.0×1019cm-3以上1.5×1020cm-3以下の範囲内の濃度でドープされている。これにより、キラー欠陥の伝搬を確実に抑制することが可能となる。
【0020】
第3層13中のSi濃度を1.0×1018cm-3以上とすることで、第3層13にSiをドープする効果を充分に得ることができ、Siドープによるキラー欠陥の伝搬抑制効果を確実に得ることが可能となる。Si濃度を1.0×1019cm-3以上とすることで、第3層13にSiをドープする効果をより充分に得ることができ、Siドープによるキラー欠陥の伝搬抑制効果をより確実に得ることが可能となる。
【0021】
第3層13中のSi濃度を3.0×1020cm-3以下とすることで、Siドープによるキラー欠陥の伝搬抑制効果を得ながら、ドーパント(ドーパントガス)の浪費による第3層13の形成コストの増加を抑制することが可能となる。Si濃度を1.5×1020cm-3以下とすることで、Siドープによるキラー欠陥の伝搬抑制効果を確実に得ながら、ドーパントの消費量を確実に抑制することが可能となる。
【0022】
第3層13の厚さは、HBT30に要求される仕様によって適宜決定されるが、例えば、10nm以上であって第1層12の厚さの1/2以下の範囲内の厚さ、好ましくは20nm以上200nm以下の範囲内の厚さとすることができる。第3層13の厚さを10nm以上とすることで、第3層13によるキラー欠陥の伝搬抑制効果をより確実に得ることが可能となる。第3層13の厚さを20nm以上とすることで、第3層によるキラー欠陥の伝搬抑制効果をより一層確実に得ることが可能となる。第3層13はサブコレクタ層の一部としても機能する。このため、第3層13の厚さを、第1層12の厚さの1/2以下とすることで、第3層13が厚くなることによる抵抗(サブコレクタ抵抗)の増加の影響を最低限に抑え、HBT30の電流利得の低下を抑制することが可能となる。第3層13の厚さを200nm以下とすることで、第3層13による抵抗の増加の影響を確実に抑えることが可能となる。
【0023】
第3層13としてのInGaP層におけるIn混晶比は、結晶格子の緩和が起こりにくい範囲とする。これによりHBT30の信頼性の低下を確実に抑制することが可能となる。In混晶比は、第3層13の厚さによって適宜決定される。In混晶比が高くなるほど結晶格子の緩和が起こりやすくなる傾向にある。例えば、第3層13の厚さが30nmである場合、In混晶比は0.42~0.52の範囲内とすることが好ましい。
【0024】
第2層14上には、ベース層15、エミッタ層16およびエミッタコンタクト層17が、第2層14の側からこの順に設けられている。ベース層15、エミッタ層16およびエミッタコンタクト層17は、それぞれ、MOVPE法等の手法を用いて形成することができる。
【0025】
ベース層15として、例えばGaAs層を形成することができる。ベース層15には、p型不純物としてのCが例えば1×1019cm-3以上1×1020cm-3以下の範囲内の濃度でドープされている。p型不純物として、Cの他、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、亜鉛(Zn)等を用いてもよい。ベース層15の厚さは例えば50~150nmとすることができる。
【0026】
エミッタ層16として、例えばInGaP層を形成することができる。エミッタ層16は、InGaP層に限定されず、ベース層15の主成分と格子整合する材料を主成分とする半導体層であればよい。例えば、エミッタ層16はAlGaAs層であってもよい。エミッタ層16には、n型不純物としてのSiが例えば1×1017cm-3以上3×1018cm-3以下の範囲内の濃度でドープされている。エミッタ層16の厚さは例えば15~50nmとすることができる。
【0027】
エミッタコンタクト層17として、例えばGaAs層を形成することができる。エミッタコンタクト層17には、n型不純物としてのSiが例えば1×1018cm-3以上3×1019cm-3以下の範囲内の濃度でドープされている。エミッタコンタクト層17の厚さは例えば50~150nmとすることができる。
【0028】
(2)ヘテロ接合バイポーラトランジスタの構成
図2に、本実施形態におけるInGaP/GaAs系ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)30の概略構成の一例を示す。図2に示すように、HBT30は、上述のウエハ10をエッチング等により所定の形状に成形し、コレクタ電極21、ベース電極22およびエミッタ電極23を設けることで得られる。
【0029】
コレクタ電極21は第1層12上に設けられており、ベース電極22はベース層15上に設けられており、エミッタ電極23はエミッタコンタクト層17上に設けられている。コレクタ電極21、ベース電極22およびエミッタ電極23は、それぞれ、例えば、ニッケル(Ni)、金(Au)、白金(Pt)、チタン(Ti)等の各種金属またはこれらの金属を主成分とする合金を用いて形成することができる。コレクタ電極21、ベース電極22およびエミッタ電極23は、それぞれ、蒸着法等の手法を用いて形成することができる。
【0030】
(3)ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用半導体ウエハおよびヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造方法
続いて、上述のウエハ10の製造方法について説明する。まず、基板11のいずれかの主面上に第1層12、第3層13、第2層14、ベース層15、エミッタ層16およびエミッタコンタクト層17を、この順に成長させる。これにより、ウエハ10が得られる。そして、このウエハ10を、エッチング等により所定の形状に成形する。その後、コレクタ電極21、ベース電極22およびエミッタ電極23をそれぞれ形成することで、HBT30が得られる。
【0031】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0032】
(a)第1層12と第2層14との間にInGaPからなる第3層13を設けることで、第1層12中にTeをドープすることで第1層12中にキラー欠陥が生成された場合であっても、キラー欠陥が第1層12から第2層14および第2層14よりも上側の層へ伝搬することを抑制することが可能となる。これにより、第1層12中にTeを高濃度でドープして電流利得を高めたHBT30において、HBT30の電流利得の初期値の低下を抑制することが可能となる。すなわち、高い電気特性を有するHBT30を得ることが可能となる。
【0033】
また、第2層14および第2層14よりも上側の層へのキラー欠陥の伝搬を抑制することで、第1層12中にTeを高濃度でドープした場合であっても、第2層14および第2層よりも上側の層を結晶欠陥の一つであるキラー欠陥の少ない層とすることが可能となる。これにより、高い信頼性を有するHBT30を得ることが可能となる。
【0034】
このように、第3層13を設けることで、高い電気特性と高い信頼性とをあわせ持つHBT30を得ることが可能となる。
【0035】
(b)第1層12中のTe濃度を上述の範囲内で低くすることが好ましく、これにより、第1層12中に析出するTeを低減することが可能となる。その結果、例えば、通電時に結晶欠陥を介して流れるリーク電流を抑制できるので、コレクタ電極21を設ける際の信頼性を高めることができる。
【0036】
(c)また、第1層12中のTe濃度を上述の範囲内で低くすることで、第1層12中に生成される刃状転位等の結晶欠陥を減らすことも可能となる。このため、第1層12から第3層13を介して第2層14および第2層14よりも上側の層へ伝搬する刃状転位等の結晶欠陥も少なくなる。これにより、HBT30の信頼性をさらに向上させることが可能となる。
【0037】
(d)第3層13を設けることで、第1層12中のTe濃度を上述の範囲内で低くしても、例えば3.0×1018cm-3以上1.0×1019cm-3以下、好ましくは3.0×1018cm-3以上9.0×1018cm-3未満の範囲内の濃度としても、高い電気特性を有するHBT30を得ることが可能となる。
【0038】
図3に、本実施形態にかかるHBT30のコレクタ抵抗R(Ω/□)と第1層12中のTe濃度との関係性を示す。図3中のTe濃度は二次イオン質量分析(SIMS)法を用いて測定した値である。また、図3に示すサンプル1,2は同一の構造を有している。図3から、サンプル1,2のいずれも、第1層12中のTe濃度が1.3×1019cm-3以下であると、Te濃度が高くなるにつれて第1層12の抵抗(コレクタ抵抗R)が低下し、第1層12中のTe濃度が1.3×1019cm-3程度のときコレクタ抵抗Rが最低となり、第1層12中のTe濃度が1.3×1019cm-3より高くなると、Te濃度が高くなるにつれてコレクタ抵抗Rが緩やかに上昇していくことが確認できる。また、図3から、Te濃度が1.0×1019cm-3以下である場合のコレクタ抵抗Rは、Te濃度が2.0×1019cm-3以上である場合のコレクタ抵抗Rよりも高いことが確認できる。このことから、第1層12中のTe濃度が1.0×1019cm-3以下である場合は、第1層中のTe濃度が2.0×1019cm-3以上である場合よりも、HBT30の電気特性が低くなる。
【0039】
しかしながら、本実施形態では、第1層12中のTe濃度を1.0×1019cm-3以下と低くしても、HBT30の電流利得は殆ど低下しないことが分かった。例えば、第1層12中のTe濃度を1.0×1019cm-3以下と低くしても、第1層12中のTe濃度を2.0×1019cm-3以上とした場合と同程度かそれ以上の電流利得を有することが分かった。このことは、本願発明者により初めて見出された事項である。これは、第3層13を設けることで、第2層14および第2層14よりも上側の層の成長時に、第1層12中のキラー欠陥が第2層14へ伝搬することを抑制でき、その結果、電流利得の初期値の低下を抑制できるためと考えられる。図4に、本実施形態にかかるHBT30の電流利得と第1層12中のTe濃度との関係性を示す。図4中のTe濃度はSIMS法を用いて測定した値である。また、図4に示すサンプル1,2は図3に示すサンプル1,2と同一のサンプルである。図4から、サンプル1,2のいずれも、Te濃度を低くしても、Te濃度が高い場合と同程度かそれ以上の高い電流利得を有していることが確認できる。
【0040】
このように、本実施形態では、第1層12中のTe濃度を低くしても高い電流利得を有することから、高い電気特性と高い信頼性とをあわせ持つHBT30を確実に得ることが可能となる。
【0041】
(e)第3層13中にSiを所定濃度でドープすることで、第3層13によるキラー欠陥の伝搬抑制効果をさらに高めることが可能となる。図5に、HBTの電流利得と第3層中のSi濃度との関係性を示す。図5から、第3層13の厚さが25nm、30nmのいずれの場合も、第3層13中のSi濃度が高くなるほど、電流利得が高くなっていることが確認できる。すなわち、第3層13を設けることで、キラー欠陥の伝搬を抑制できていることが確認できる。
【0042】
(5)変形例
本実施形態は、以下の変形例のように変更することができる。また、これらの変形例は、任意に組み合わせることができる。
【0043】
(変形例1)
第3層13として、例えばGaAs層を形成してもよい。本変形例においても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。但し、InGaP層はGaAs層よりもキラー欠陥の伝搬抑制効果が高いことから、第3層13としてInGaP層を設ける方が好ましい。
【0044】
本願発明者は、第3層13の厚さを例えば25nmとし、第3層13以外の他の構成を同一としたとき、第3層13としてSi濃度が5×1018cm-3であるInGaP層を形成したHBTの電流利得は64であり、第3層13としてSi濃度が9×1018cm-3であるGaAs層を形成したHBTの電流利得は56.9であることを確認済みである。このように、Si濃度が低いにもかかわらず、InGaP層の方が高い電流利得を維持できていることから、InGaP層の方がGaAs層よりもキラー欠陥の伝搬抑制効果が高いことが分かる。
【0045】
(変形例2)
第3層13として、例えば、アルミニウム(Al)原子を含むGaAs混晶層、すなわち、AlGaAs層を形成してもよい。第3層13としてAlGaAs層を形成する場合、Al混晶比を例えば0.2以下とすることが好ましい。Al混晶比が0.2を超えると、第3層13の抵抗が高くなったり、DXセンタと呼ばれる欠陥が生成されやすくなったりすることがある。Al混晶比を0.2以下とすることで、ここで述べた課題を解決することが可能となる。本変形例においても、上述の実施形態等と同様の効果が得られる。
【0046】
(変形例3)
第3層13として、例えば、インジウム(In)原子を含むGaAs混晶層、すなわち、InGaAs層を形成してもよい。In混晶比は、上述の実施形態と同様に、結晶格子の緩和が起こりにくい範囲とする。In混晶比は、第3層13の厚さによって適宜決定される。例えば、InGaAs層の厚さが10nm程度である場合、In混晶比は0より大きく0.3以下の範囲内、好ましくは0.2とすることができる。本変形例においても、上述の実施形態等と同様の効果が得られる。
【0047】
(変形例4)
第3層13のSi濃度を、厚さ方向にわたって変化させても(グラデーションをつけても)よい。例えば、第3層13は、厚さ方向に、最下面から最上面に向かうにつれてSi濃度が徐々に大きくなるように構成されていてもよい。また例えば、第3層13は、最下面から最上面に向かうにつれてSi濃度が徐々に小さくなるように構成されていてもよい。本変形例においても、上述の実施形態等と同様の効果が得られる。また、本変形例では、HBT30の様々な要求仕様に適宜応じることが容易となる。
【0048】
(変形例5)
第3層13として、InGaP層とGaAs層(またはAlGaAs層、InGaAs層)との積層体を形成してもよい。本変形例によっても、上述の実施形態等と同様の効果が得られる。
【0049】
(変形例6)
第3層13は、エッチングストッパ層として機能する層とは異なる層である。本実施形態にかかるHBT30は、第3層13のほかに、エッチングストッパとして機能するInGaP層を有していてもよい。エッチングストッパ層は、第3層13と組成の異なる層で構成することが好ましい。例えば、エッチング層としてInGaP層を形成する場合、第3層13としてGaAs層、AlGaAs層、またはInGaAs層を形成することが好ましい。エッチングストッパ層は、第1層12と第3層13との間に設けてもよく、第3層13と第2層14との間に設けてもよい。本変形例においても、上述の実施形態等と同様の効果が得られる。
【0050】
(変形例7)
また、本実施形態にかかるHBT30は、第1層12、第3層13、第2層14、ベース層15、エミッタ層16およびエミッタコンタクト層17のほかに、ノンアロイ層等の層を有していてもよい。本変形例においても、上述の実施形態等と同様の効果が得られる。
【0051】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。但し、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0052】
上述の実施形態や変形例等は、InGaP/GaAs系HBTの限らず、InGaAs/AlGaAs/GaAs系高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor、HEMT)等の種々の半導体トランジスタにも適用できる。この場合、Teをドープする半導体層として、不純物濃度が高いn型GaAs層やn型AlGaAs層等を選択することができる。
【0053】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0054】
(付記1)
半絶縁性基板と、
前記半絶縁性基板上に形成されてサブコレクタ層として機能する第1層と、前記第1層上に形成されてコレクタ層として機能する第2層と、を備え、
前記第1層には、n型不純物としてTeが3.0×1018cm-3以上9.0×1019cm-3以下の濃度でドープされており、
前記第1層と前記第2層との間には、InGaP層およびGaAs層のうち少なくともいずれかの層からなる第3層が設けられているヘテロ接合バイポーラトランジスタ用半導体ウエハが提供される。
【0055】
(付記2)
付記1の半導体ウエハであって、好ましくは、
前記第1層には、n型不純物としてTeが3.0×1018cm-3以上1.0×1019cm-3以下の濃度でドープされている。
【0056】
(付記3)
付記1または2の半導体ウエハであって、好ましくは、
前記第3層には、Siが1.0×1018cm-3以上3.0×1020cm-3以下、好ましくは1×1019cm-3以上1.5×1020cm-3以下の濃度でドープされている。
【0057】
(付記4)
付記1~3のいずれかのヘテロ接合バイポーラトランジスタであって、好ましくは、
前記第3層の厚さは、10nm以上であって前記第1層の厚さの1/2以下の厚さである。
【0058】
(付記5)
半絶縁性基板と、
前記半絶縁性基板上に形成されてサブコレクタ層として機能する第1層と、前記第1層上に形成されてコレクタ層として機能する第2層と、を備え、
前記第1層には、n型不純物としてTeが3.0×1018cm-3以上9.0×1019cm-3以下の濃度でドープされており、
前記第1層と前記第2層との間には、InGaP層およびGaAs層のうち少なくともいずれかの層からなる第3層が設けられているヘテロ接合バイポーラトランジスタが提供される。
【0059】
10 ヘテロ接合バイポーラトランジスタ用ウエハ
11 半絶縁性基板
12 第1層(サブコレクタ層)
13 第3層
14 第2層(コレクタ層)
30 ヘテロ接合バイポーラトランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5