(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】ペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 15/00 20060101AFI20221018BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20221018BHJP
H01M 8/1246 20160101ALN20221018BHJP
【FI】
C01G15/00 D
H01M8/12 101
H01M8/1246
(21)【出願番号】P 2018186812
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】小川 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】永富 晶
(72)【発明者】
【氏名】碇 和正
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-293539(JP,A)
【文献】特開2003-151579(JP,A)
【文献】特開2014-177377(JP,A)
【文献】特表2017-533540(JP,A)
【文献】特開2000-113898(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0009784(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
H01M 8/00-8/0297
H01M 8/08-8/2495
C01F 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物を湿式粉砕する際の溶媒としてpHが7.5~12のアンモニウム塩水溶液を用いて湿式粉砕を行う湿式粉砕工程と、
前記湿式粉砕工程により得られる粉砕物からペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉を得る回収工程と、
を有する、ペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉の製造方法。
【請求項2】
前記湿式粉砕工程では、前記回収工程により得られるペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉の平均粒径D50が1.0μm以下となるように、湿式粉砕を行う、請求項1に記載のペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉の製造方法。
【請求項3】
前記アンモニウム塩水溶液が、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウムおよびそれらの類のうち1種以上を含む水溶液である、請求項1または2に記載のペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉の製造方法。
【請求項4】
平均粒径D50が0.2~1.0μmであり、
BET値が6.0m
2/g以上であり、
XRD測定においてLa(OH)
3のピークが検出され
ず、
平均粒径D50、D90、D10が以下の関係を有する、ペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉。
(D90-D10)/D50≦2.0
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉は、固体酸化物燃料電池(SOFC)の電解質の素材として使用されている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1の[0004]では、LaGaO3系の化合物は、その合成にあたり典型元素であるGaがペロブスカイト構造を組みにくく、高温での要請が必要であり目的組成以外の不純物異相が残りやすいという問題があることが指摘されている。
【0004】
また、固相合成法(いわゆる乾式)においては、ミクロ的な混合状態の不均一が生じやすくなるため、不純物異相が残りやすく、不純物異相の少ないペロブスカイトを合成するためには高温での焼成が必要であることが指摘されている(特許文献1の[0006])。
【0005】
特許文献1ではそれらの事情を鑑み、ペロブスカイト型結晶構造を有する固体酸化物燃料電池用複合酸化物において、該複合酸化物を構成する金属元素の原料が水酸化物、酸化物、炭酸塩のいずれかとし、該金属元素とクエン酸との反応生成物である複合クエン酸塩を熱分解してペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物を得る手法を開示している(特許文献1の[0014])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SOFCの電解質としてペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉(以降、単にLSGM粉とも称する。)を使用するためには、LSGM粉の焼結性を高める必要がある。そして焼結性を高めるためにはLSGM粉の表面積を増加させる必要がある。表面積を増加させるためには、LSGM粉を小粒径化する必要がある。
【0008】
粉体の小粒径化には、粉体が液状媒体に分散されるように固形のメディア(例:ボールミル)にて粉砕される湿式粉砕法を用いるのが好ましい。乾式粉砕では、目的の小粒径に到達することが困難である。
【0009】
ところが、従来の純水を用いた湿式粉砕手法を採用すると、ペロブスカイト構造とは異なる異相である水酸化ランタン(La(OH)3)が析出するという課題が生じることを、本発明者らは知見した。
【0010】
異相は、LSGM粉の機能性、例えばSOFCの電解質として使用したときの性能を劣化させる。そのため、異相は可能な限り少なくすることが望ましい。
【0011】
本発明の一つの目的は、小粒径化の際に、異相であるLa(OH)3の析出を抑制するLSGM粉の製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、小粒径化されつつも異相であるLa(OH)3の析出が無いLSGM粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、
ペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物を湿式粉砕する際の溶媒としてpHが7.5~12のアンモニウム塩水溶液を用いて湿式粉砕を行う湿式粉砕工程と、
前記湿式粉砕工程により得られる粉砕物からペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉を得る回収工程と、
を有するペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉の製造方法である。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記湿式粉砕工程では、前記回収工程により得られるペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉の平均粒径D50が1.0μm以下となるように、湿式粉砕を行う。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の発明において、
前記アンモニウム塩水溶液が、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウムおよびそれらの類のうち1種以上を含む水溶液である。
【0015】
本発明の第4の態様は、 平均粒径D50が0.2~1.0μmであり、
BET値が6.0m2/g以上であり、
XRD測定においてLa(OH)3のピークが検出されない、ペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉である。
【0016】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の発明において、平均粒径D50、D90、D10が以下の関係を有する。
(D90-D10)/D50≦2.0
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小粒径化の際に、異相であるLa(OH)3の析出を抑制するLSGM粉の製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、小粒径化されつつも異相であるLa(OH)3の析出が無いLSGM粉を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るLSGM粉の製造フローを示す図である。
【
図2】
図2は、異相であるLa(OH)
3の存在を示すピークが表出した比較例1のLSGM粉に対するSEM像を示す図である。
【
図3】
図3は、異相であるLa(OH)
3の存在を示すピークは表出しなかった実施例3のLSGM粉に対するSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態について説明する。本明細書における「~」は所定の数値以上かつ所定の数値以下を指す。
【0020】
まず、本実施形態に係るペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物粉(LSGM粉)の製造に係る各工程についての概略を述べる。
図1は、本実施形態に係るLSGM粉の製造フローを示す図である。
【0021】
まず、アルカリ水溶液(後述の実施例だと炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)水溶液)に対し、La、Sr、Ga、Mgの各塩を溶解させた水溶液を添加する。そして析出物を熟成させ、この析出物をろ過および水洗し、乾燥させる。そして乾燥物を焼成し、焼成体を乾式にて簡易粉砕(粗砕)する。さらに粉砕する際に粒径等の調整をし易くするためである。
上記乾燥物を焼成する際は、酸化雰囲気、かつ1000℃以上の高温であるため、焼成において水酸化物化合物は合成されることはない。
【0022】
本明細書における「平均粒径D50」は、湿式レーザー回折式の粒度分布測定にて得られる値である。湿式レーザー回折式の粒度分布測定は、以下の要領により行えばよい。
測定対象である粉体0.15gを0.1wt%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液60gに加え、出力40Wの超音波ホモジナイザーにより2分間分散させる。そして当該分散液中の粉体の粒度分布を、マイクロトラック粒度分布測定装置-日機装製MT3000EXIIを用いて測定する。当該測定結果をグラフ化し粉体の体積基準の粒度分布の頻度と累積を求める。なお、累積10%粒径をD10、累積50%粒径をD50、累積90%粒径をD90と表記する。
【0023】
乾式簡易粉砕後、本実施形態の特徴であるところの湿式粉砕工程を行う(
図1の破線囲み)。
そして、湿式粉砕物をろ過にて得、ろ過物を乾燥させ、LSGM粉を回収する。
【0024】
本実施形態の主な特徴は小粒径化のための湿式粉砕工程にあり、それ以外の工程については公知の手法を採用しても構わない。また、湿式粉砕工程の対象物としては、小粒径化前のペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物であって、異相であるLa(OH)3が析出していないものであれば特に限定は無い。なお、小粒径化前のペロブスカイト型LaSrGaMg複合酸化物は、粉体でもよいし粉体ではなく凝集体であってもよい。本実施形態においては小粒径化前の段階でも粉体であるものを例示する。
【0025】
以下、本実施形態に係る湿式粉砕工程について詳述する。
【0026】
本実施形態に係る湿式粉砕工程では、小粒径化前のLSGM粉を湿式粉砕する際、pHが7.5~12の水系の溶媒を用いて湿式粉砕を行う。なお、「pHが7.5~12の水系の溶媒を用いて湿式粉砕を行う」とは、湿式粉砕の開始から終了に至るまで、LSGM粉が分散した水系の溶媒のpHを7.5~12に収めるようにpH制御が行われることを意味する。pHの制御は、事前に得られた測定値を参照し、反応にかかる薬剤の投入量を調整すれば、再現良く設定可能である。
【0027】
なお、ペロブスカイト型LSGM粉の他の組成としては、LSGMのうちのSは前記ストロンチウムの他、カルシウム,バリウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素、LSGMのうちのMは前記マグネシウムの他、アルミニウム,インジウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素でもよい。
【0028】
溶媒はアンモニウム塩水溶液がよく、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウムおよびそれらの類のうち1種以上を含む水溶液である。ここで「類」とは、例えば炭酸アンモニウムだと炭酸水素アンモニウムを含む表現である。溶媒としては、特には、硝酸アンモニウム水溶液(硝安)であるのが好ましい。溶媒(水系媒体)における硝酸アンモニウムの濃度は5~20質量%がよい。所望のpHにて濃度を設定しても良い。また、LSGM粉の各元素の組成比によっても濃度を調整することのが望ましい。なお、粉砕前および/または粉砕中において溶媒を添加しても良い。
【0029】
溶媒は、好ましくは弱酸性の水溶液であり、H,N,O(水素、窒素、酸素)などの元素で構成されており、熱をかけることで完全に分解除去できるものが望ましく、ペロブスカイト構造物を溶解しないものが良い。溶媒とあるのは、上記のような例えば硝酸アンモニウムが溶解された溶解液である。溶媒による装置の構成物、およびペロブスカイト構造粉の溶解は忌避される。
【0030】
湿式粉砕の際に、固形のメディア(例:ボールミル)を採用するのがよい。粉砕に係る諸条件には特に限定は無いが、以下の2つの条件を満たすようにする。
(条件1)最終的に回収工程にて得られる小粒径化されたLSGM粉の平均粒径D50が1.0μm以下(好ましくは0.7μm以下)である。
(条件2)最終的に回収工程にて得られる小粒径化されたLSGM粉に対するXRD測定においてLa(OH)3のピークが検出されない。
【0031】
条件1を満たすことにより、SOFCの電解質の素材として適した粒径となる。
【0032】
その一方、小粒径化前のLSGM粉の平均粒径が大きい場合であっても、該LSGM粉を過度に湿式粉砕すれば、平均粒径D50を1.0μm以下に収めることは理論的には可能である。しかしながら、過度に粉砕を行うことにより、LSGM粉におけるペロブスカイト型が崩れるおそれがある。そうなると、例えば後述の実施例の項目にて示すように、Ga等の溶出が生じ、結果として異相であるLa(OH)3が析出する。条件2は、このような過度な粉砕を除外すべく設けた規定である。
【0033】
前記湿式粉砕工程を経た後は、前記湿式粉砕工程により得られる粉砕物からLSGM粉を得る回収工程を行う。回収工程の具体的な内容としては、湿式粉砕物をろ過にて得、ろ過物を乾燥する等が挙げられる。
【0034】
以上の製造方法により、所望の小粒径に制御され、異相のないLSGM粉を得ることができる。さらには、比表面積が6m2/g以上の焼結特性に優れた粉体を得る。すなわち、異相の発生を考慮する必要がなく、粉砕強度を自在に設定可能とした方法である。
【0035】
以上の製造方法を経て得られたLSGM粉は小粒径化されており、以下の特徴を備える。
・平均粒径D50が0.2~1.0μm(好ましくは0.2~0.7μm)である。
・BET値が6.0m2/g以上である。
・XRD測定においてLa(OH)3のピークが検出されない。
なお、以下の条件を満たせば、粒径のばらつきが少ないことが表されるため、好ましい。
・平均粒径D50、D90、D10が以下の関係を有する。
(D90-D10)/D50≦2.0(好ましくは≦1.5)
【0036】
平均粒径D50が0.2~1.0μmであれば、SOFCの電解質の素材として適した粒径となる。
BET値が6.0m2/g以上であれば、焼結性が十分向上する。なお、本明細書におけるBET値は、Macsorb Model HM-1210(株式会社マウンテック製)を用いて窒素吸着によるBET1点法で測定したものである。なお、当該BET値測定において、測定前の脱気条件は105℃、20分間とする。
XRD測定においてLa(OH)3のピークがLSGMのピーク最高高さの1/100以下の高さにて検出されないことは、本実施形態の手法を経て小粒径化されたLSGM粉だと異相であるLa(OH)3が析出していないことを意味する。
なお、本明細書におけるXRD測定の測定条件は以下の通りである。
装置名 :UltimaIV(Rigaku)
管球 :Cu Kα
管電圧 :40kV
管電流 :40mA
発散スリット:1/2°
散乱スリット:8mm
受光スリット:解放
ステップ幅 :0.02°/step
計測時間 :4゜/min
【0037】
以上の結果、本実施形態によれば、小粒径化の際に、異相であるLa(OH)3の析出を抑制するLSGM粉の製造方法を提供できる。
また、本実施形態によれば、小粒径化されつつも異相であるLa(OH)3の析出が無いLSGM粉を提供できる。
【0038】
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【実施例】
【0039】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
実施例1の湿式粉砕工程を行う対象には、湿式法にて、炭酸アンモニウムと硝酸塩原料により生じる中和物をペレットにして1450℃大気雰囲気で焼成して得たLSGM粉原料焼成ペレットを簡易粉砕したものを採用した。
【0041】
その組成は後掲の表1に記載する。なお、表1における組成(モル比)とは、組成式La
αSr
βGa
γMg
δO
εの数値α,β,γ,δ,ε(但しεは2を超え3以下、すなわち2<ε≦3)のことを指す。また、表1における組成(モル比)はICP-AES法により求めた。そして湿式粉砕工程を得て小粒径化されたLSGM粉の組成(モル比)においては、LSGM粉原料焼成ペレットを簡易粉砕したものにおけるLaの値と合わせ、他の元素組成の値を記載した。
【表1】
【0042】
焼成ペレットは長さ約10mm、直径約2mmの円筒状である。この焼成ペレットに対しディスクミル(増幸産業製のマスコロイダー)を使用して簡易粉砕を行い、D10=6.6μm,D50=19.4μm,D90=151.9μmの簡易粉砕粉を得た。
【0043】
実施例1における湿式粉砕工程では、ビーズミル(容量1.2リットル)を使用した。ビーズミルのベッセル内に、直径1.0mmのZrO2ビーズを3100g仕込んだ。
そして、粉砕の際の溶媒である5wt%硝酸アンモニウム水溶液を作成すべく、純水2216gに硝酸アンモニウムを117g溶解させ、バッファータンクに投入した。そして、LSGM簡易粉砕品を1000g添加し、スラリーを作製した。粉砕時のpHは、設定値で7.9~9.2であった。
そして、当該スラリーをポンプを用いてビーズミルに循環させた。そして、ビーズミルを1000rpmで回転させ、所定の粒度分布(すなわち平均粒径D50が1.0μm以下且つ(D90-D10)/D50≦2.0)になるまで粉砕を行った。
【0044】
そして回収工程を行うべく、粉砕スラリーをろ過後に、乾燥機にて250℃で乾燥を行った。乾燥品を、250μmの篩で篩うことで、実施例1の小粒径化後のLSGM粉を得た。
【0045】
<実施例2>
実施例2では、湿式粉砕工程での溶媒を10wt%硝酸アンモニウム水溶液とすべく、純水2100gに硝酸アンモニウムを233g溶解させたことを除けば実施例1と同様の手法にて小粒径化後のLSGM粉を得た。粉砕時のpHは、測定値で7.7~8.8であった。
【0046】
<実施例3>
実施例3では、湿式粉砕工程での溶媒を20wt%硝酸アンモニウム水溶液とすべく、純水1866gに硝酸アンモニウムを467g溶解させたことを除けば実施例1と同様の手法にて小粒径化後のLSGM粉を得た。粉砕時のpHは、測定値で7.6~8.6であった。
【0047】
<比較例1>
比較例1では、実施例1における湿式粉砕工程を行わなかった。つまり、純水2333gを撹拌しながら、LSGM簡易粉砕品を1000g投入しスラリーとしたことを除けば、実施例1と同様の手法にてLSGM粉を得た。
【0048】
<比較例2>
比較例2では、実施例1における湿式粉砕工程において溶媒のpHを本実施形態での規定範囲外の7.1とすべく、純水2333gに酢酸を添加したものを溶媒とした。そして、得られた酢酸溶液を撹拌しながら、LSGM簡易粉砕品を1000g投入しスラリーとしたことを除けば、実施例1と同様の手法にてLSGM粉を得た。
【0049】
<実施例4>
実施例4の湿式粉砕工程を行う対象には、湿式法にて、炭酸アンモニウムと硝酸原料により生じる中和物をペレットにして1450℃大気雰囲気で焼成して得たLSGM粉原料焼成ペレットを簡易粉砕したものを採用した。その組成は後掲の表1に記載する。
【0050】
焼成ペレットは長さ約10mm、直径約2mmの円筒状である。この焼成ペレットに対しディスクミルを使用して簡易粉砕を行い、D10=6.6μm,D50=19.4μm,D90=151.9μmの簡易粉砕粉を得た。
【0051】
実施例1における湿式粉砕工程では、ビーズミル(容量1.2リットル)を使用した。ビーズミルのベッセル内に、直径1.0mmのZrO2ビーズを3100g仕込んだ。
そして、粉砕の際の溶媒である10wt%硝酸アンモニウム水溶液を作成すべく、純水2100gに硝酸アンモニウムを233g溶解させ、バッファータンクに投入し、スラリーを作製した。
そして、当該スラリーをポンプを用いてビーズミルに循環させた。そして、ビーズミルを1000rpmで回転させ、所定の粒度分布(すなわち平均粒径D50が1.0μm)になるまで粉砕を行った。粉砕時のpHは、設定値で7.8~8.8であった。
【0052】
そして回収工程を行うべく、粉砕スラリーをろ過後に、乾燥機にて250℃で乾燥を行った。乾燥品を、250μmの篩で篩うことで、実施例1の小粒径化後のLSGM粉を得た。
【0053】
<比較例3>
比較例3では乾式での粉砕を行った。乾式粉砕の対象には、湿式法にて、炭酸アンモニウムと硝酸塩原料により生じる中和物をペレットにして1450℃大気雰囲気で焼成して得たLSGM粉原料焼成ペレットを簡易粉砕したものを採用した。その組成は後掲の表1に記載するが、組成は実施例4で用いたものと同じにした。
【0054】
焼成ペレットは長さ約10mm、直径約2mmの円筒状である。この焼成ペレットに対しディスクミルを使用して簡易粉砕を行い、D10=6.6μm,D50=19.4μm,D90=151.9μmの簡易粉砕粉を得た。
【0055】
<結果>
実施例1~4の小粒径化後のLSGM粉に対しXRD測定を行ったところ、平均粒径D50が1.0μm以下となるまで湿式粉砕工程を行ったとしても、異相であるLa(OH)3の存在を示すピークは表出しなかった。特に実施例1~3においては(D90-D10)/D50≦2.0となるまで湿式粉砕工程を行ったとしても、異相であるLa(OH)3の存在を示すピークは表出しなかった。
【0056】
比較例1~2のLSGM粉に対しXRD測定を行ったところ、異相であるLa(OH)3の存在を示すピークが表出した。
【0057】
図2は、異相であるLa(OH)
3の存在を示すピークが表出した比較例1のLSGM粉に対するSEM像を示す図である。
図3は、異相であるLa(OH)
3の存在を示すピークは表出しなかった実施例3のLSGM粉に対するSEM像を示す図である。
図2(比較例1)の中央に存在する針状粒子の集合体が異相であるLa(OH)
3と推定される。この針状粒子の集合体は、
図3(実施例3)には存在しないことが確認された。なお、SEM像の取得には日立製作所製S-4700を使用した。
【0058】
比較例3のLSGM粉は乾式粉砕品であり、XRD測定を行ったところ、異相であるLa(OH)3の存在を示すピークは表出しなかった。その一方、乾式粉砕であるため十分な粉砕が行えず、平均粒径D50が1.0μm以下とはならなかった。平均粒径D50が1.0μm以下になるまで粉砕したところ、異相であるLa(OH)3が生じてしまった。