(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】電動機組立体
(51)【国際特許分類】
H02P 23/04 20060101AFI20221018BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20221018BHJP
H02K 11/20 20160101ALI20221018BHJP
H02K 11/33 20160101ALI20221018BHJP
【FI】
H02P23/04
H02M7/48 Z
H02M7/48 E
H02K11/20
H02K11/33
(21)【出願番号】P 2018237427
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】小澤 孝英
(72)【発明者】
【氏名】西村 和馬
(72)【発明者】
【氏名】原田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】池上 諒子
(72)【発明者】
【氏名】片山 直輝
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-248198(JP,A)
【文献】特開平06-113592(JP,A)
【文献】特開平04-067758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/04
H02M 7/48
H02K 11/20
H02K 11/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機組立体であって、
電動機と、
前記電動機に交流電力を供給するインバータと、
前記インバータに固定された振動センサと、
前記振動センサの出力値に基づいて周波数ジャンプ帯域を決定する周波数ジャンプ制御部を備え、
前記インバータは、前記電動機に固定されており、
前記電動機は、駆動軸と、前記駆動軸に固定された回転子と、前記回転子の周囲に配置された固定子と、前記回転子および前記固定子を収容するモータケーシングを備えており、
前記インバータは、電気回路を有するインバータ基板と、スイッチング素子と、前記インバータ基板および前記スイッチング素子を収容するインバータケーシングを備えており、
前記振動センサは、前記インバータ基板に固定されており、
前記インバータ基板は、前記駆動軸に対して垂直であり、
前記駆動軸は、前記インバータ基板を貫通して延びており、
前記モータケーシングおよび前記インバータケーシングは、前記駆動軸に沿って直列に配置されており、
前記周波数ジャンプ制御部は、前記インバータへの指令周波数が前記周波数ジャンプ帯域内にある場合は、前記周波数ジャンプ帯域の下限値または上限値に相当する周波数の交流電力を前記インバータに出力させるように構成されている、電動機組立体。
【請求項2】
前記周波数ジャンプ帯域は、しきい値よりも大きい前記振動センサの出力値に対応する前記インバータへの指令周波数の範囲である、請求項1に記載の電動機組立体。
【請求項3】
前記周波数ジャンプ制御部は、前記電動機の回転速度を変化させながら、前記振動センサの出力値を取得し、前記振動センサの出力値をしきい値と比較し、前記しきい値よりも大きい前記振動センサの出力値に対応する指令周波数の範囲を決定し、決定された範囲を前記周波数ジャンプ帯域に設定するように構成されている、請求項1または2に記載の電動機組立体。
【請求項4】
前記インバータケーシングの内部空間の少なくとも一部は、樹脂で充填されており、
前記インバータ基板および前記振動センサは、前記樹脂に埋設されている、請求項
1に記載の電動機組立体。
【請求項5】
前記周波数ジャンプ制御部は、前記電動機組立体の通常運転中に前記振動センサの出力値を取得し、前記振動センサの出力値がしきい値を超えたときの指令周波数である下限周波数と、前記電動機組立体の運転中の最大周波数とを決定し、前記最大周波数と前記下限周波数と差を算出し、この差の2倍の幅をジャンプ幅に持ち、かつ前記最大周波数を中心とした新たな周波数ジャンプ帯域を決定するように構成されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機組立体。
【請求項6】
前記周波数ジャンプ制御部は、前記電動機組立体の通常運転中に前記振動センサの出力値を取得し、しきい値よりも大きい前記振動センサの出力値に対応する指令周波数の範囲を決定し、決定された範囲を新たな周波数ジャンプ帯域に設定するように構成されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電動機組立体。
【請求項7】
前記周波数ジャンプ制御部は、指令周波数の上昇中に前記振動センサの出力値がしきい値を超えたとき、予め設定したジャンプ幅を現在の指令周波数に加算し、指令周波数の低下中に前記振動センサの出力値がしきい値を超えたとき、前記ジャンプ幅を現在の指令周波数から減算するように構成されている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の電動機組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータと電動機が一体に構成された電動機組立体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータと電動機が一体に構成された電動機組立体は、ポンプなどの回転機械の駆動源として使用される。電動機組立体が組み込まれた機械システムでは、回転速度が機械システムの固有振動数と一致すると、共振が起こり、大きな振動や騒音が発生する。そこで、共振を回避する周波数ジャンプの機能がインバータに備えられている。
【0003】
周波数ジャンプは、共振が起こりうる周波数ジャンプ帯域を回避して電動機を駆動する機能である。周波数ジャンプ帯域の設定は、次のように行われる。電動機組立体に振動センサを設置し、モータの回転速度(すなわち、インバータの出力周波数)を徐々に変えながら、振動のピーク(極大値)に基づいて固有振動数を決定し、その固有振動数をインバータに入力する。インバータは、入力された固有振動数を中心とする周波数ジャンプ帯域を設定し、記憶装置に格納する。
【0004】
図5および
図6は、周波数ジャンプを説明するグラフである。縦軸はインバータの出力周波数を表し、横軸はインバータに入力される指令周波数を表している。
図5に示すように、指令周波数が上昇して、周波数ジャンプ帯域に達すると、インバータの出力周波数は周波数ジャンプ帯域の下限値Lに固定される。上昇中の指令周波数が周波数ジャンプ帯域内にある間は、インバータの出力周波数は周波数ジャンプ帯域の下限値Lに維持される。指令周波数が周波数ジャンプ帯域を超えると、インバータの出力周波数は指令周波数と同じ周波数に復帰する。
【0005】
図6に示すように、指令周波数が低下して、周波数ジャンプ帯域に達すると、インバータの出力周波数は周波数ジャンプ帯域の上限値Hに固定される。低下中の指令周波数が周波数ジャンプ帯域内にある間は、インバータの出力周波数は周波数ジャンプ帯域の上限値Hに維持される。指令周波数が周波数ジャンプ帯域を下回ると、インバータの出力周波数は指令周波数と同じ周波数に復帰する。
【0006】
このような周波数ジャンプ機能によれば、インバータは、共振が起こりうる周波数帯域を避けて電動機を回転させることができる。したがって、インバータおよび電動機が組み込まれた機械システムの共振を未然に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-336946号公報
【文献】特表2008-536467号公報
【文献】特開2016-111793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インバータおよび電動機が組み込まれた機械システムの固有振動数は、機械システム自身のみならず、機械システムに固定された配管などの付加物に依存して変わりうる。このため、上述した周波数ジャンプ帯域の設定は、機械システムの据え付けや、その周辺の工事が完了した後に、ユーザーによって手動にて行われている。しかしながら、周波数ジャンプ帯域の設定は、労力を必要とする作業であり、機械システムの種類や設置場所によってはユーザーへの危険を伴うこともある。
【0009】
そこで、本発明は、周波数ジャンプ帯域の設定を自動で行うことができる電動機組立体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、電動機組立体であって、電動機と、前記電動機に交流電力を供給するインバータと、前記インバータに固定された振動センサと、前記振動センサの出力値に基づいて周波数ジャンプ帯域を決定する周波数ジャンプ制御部を備え、前記インバータは、前記電動機に固定されており、前記電動機は、駆動軸と、前記駆動軸に固定された回転子と、前記回転子の周囲に配置された固定子と、前記回転子および前記固定子を収容するモータケーシングを備えており、前記インバータは、電気回路を有するインバータ基板と、スイッチング素子と、前記インバータ基板および前記スイッチング素子を収容するインバータケーシングを備えており、前記振動センサは、前記インバータ基板に固定されており、前記インバータ基板は、前記駆動軸に対して垂直であり、前記駆動軸は、前記インバータ基板を貫通して延びており、前記モータケーシングおよび前記インバータケーシングは、前記駆動軸に沿って直列に配置されており、前記周波数ジャンプ制御部は、前記インバータへの指令周波数が前記周波数ジャンプ帯域内にある場合は、前記周波数ジャンプ帯域の下限値または上限値に相当する周波数の交流電力を前記インバータに出力させるように構成されている、電動機組立体が提供される。
【0011】
一態様では、前記周波数ジャンプ帯域は、しきい値よりも大きい前記振動センサの出力値に対応する前記インバータへの指令周波数の範囲である。
一態様では、前記周波数ジャンプ制御部は、前記電動機の回転速度を変化させながら、前記振動センサの出力値を取得し、前記振動センサの出力値をしきい値と比較し、前記しきい値よりも大きい前記振動センサの出力値に対応する指令周波数の範囲を決定し、決定された範囲を前記周波数ジャンプ帯域に設定するように構成されている。
一態様では、前記インバータケーシングの内部空間の少なくとも一部は、樹脂で充填されており、前記インバータ基板および前記振動センサは、前記樹脂に埋設されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インバータは電動機に固定され、振動センサはインバータに固定されている。したがって、振動センサは、電動機の回転に起因して発生する振動の大きさを正確に検出することができる。また、本発明によれば、電動機組立体が組み込まれた機械システム(例えば給水装置などのポンプ装置)が設置された後に、振動センサと周波数ジャンプ制御部との組み合わせによって、周波数ジャンプ帯域を自動で設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】電動機組立体の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】電動機組立体の他の実施形態を示す断面図である。
【
図3】周波数ジャンプ帯域を決定および設定する方法の一実施形態を説明するグラフである。
【
図4】周波数ジャンプ帯域を決定および設定する方法の一実施形態を説明するグラフである。
【
図5】指令周波数が上昇しているときの周波数ジャンプを説明するグラフである。
【
図6】指令周波数が低下しているときの周波数ジャンプを説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、電動機組立体の一実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、電動機組立体1は、電動機2と、電動機2に交流電力を供給するインバータ3を備えている。インバータ3は電動機2に固定されており、電動機2とインバータ3は一体的な構造体を構成している。電動機2の駆動軸5はインバータ3を貫通して延びている。
【0015】
電動機2は、駆動軸5と、駆動軸5に固定された回転子6と、回転子6の周囲に配置された固定子7と、回転子6および固定子7を収容するモータケーシング10を備えている。駆動軸5は、モータケーシング10に固定された2つの軸受27,28によって回転可能に支持されている。インバータ3は、電力線(図示せず)によって固定子7に接続されている。インバータ3が固定子7に交流電力を供給すると、固定子7は回転子6の周りに回転磁界を形成する。回転子6は、回転磁界によって回転し、駆動軸5は回転子6とともに回転する。
【0016】
インバータ3は、電気回路41を有するインバータ基板42と、コンデンサ43と、スイッチング素子44と、インバータ基板42およびスイッチング素子44を収容するインバータケーシング21を備えている。インバータケーシング21は、モータケーシング10に固定されている。
【0017】
駆動軸5は、モータケーシング10およびインバータケーシング21を貫通して延びている。モータケーシング10およびインバータケーシング21は、駆動軸5と同心状に配置されている。本実施形態では、モータケーシング10およびインバータケーシング21は、駆動軸5に沿って直列に配置されているため、電動機組立体1をコンパクトにすることができる。
【0018】
駆動軸5の一端は、図示しない回転機械(例えばポンプ)に連結される。駆動軸5の他端には、冷却ファン25が固定されている。この冷却ファン25はインバータ3の外側に配置されており、インバータ3の端面に隣接している。電動機2が回転すると、冷却ファン25が回転し、インバータケーシング21およびモータケーシング10の外面に空気の流れを形成する。電動機組立体1は、冷却ファン25を覆うファンカバー51を備えている。ファンカバー51は、インバータケーシング21に固定されている。
【0019】
図1において、電動機2は模式的に描かれている。電動機2は、例えば、回転子6に永久磁石を用いた永久磁石型モータである。しかしながら、電動機2は、永久磁石型モータに限定されず、誘導モータやSRモータなど、様々な種類のモータであってもよい。
【0020】
インバータケーシング21は、その外周面に冷却フィン56を有している。冷却フィン56は、駆動軸5の長手方向に延びている。インバータケーシング21は、その端面に冷却フィン36をさらに有している。冷却フィン36は、冷却ファン25に隣接しており、駆動軸5から放射状に延びている。モータケーシング10は、その外周面に冷却フィン57を有している。冷却フィン57は、駆動軸5の長手方向に延びている。
【0021】
冷却ファン25によって形成される空気の流れは、冷却フィン36、冷却フィン56、および冷却フィン57に接触しながら、インバータ3および電動機2の外面上を流れる。インバータ3および電動機2は、この空気の流れによって冷却される。スイッチング素子44は、インバータケーシング21の内面に接触しており、かつ冷却フィン36の裏側に位置している。このような配置により、スイッチング素子44は、冷却ファン25によって形成される空気の流れによって効率よく冷却される。
【0022】
インバータ基板42は、冷却フィン36の裏側の位置において、インバータケーシング21の内面に固定されている。電動機2の駆動軸5は、インバータ基板42を貫通して延びている。インバータ基板42は、駆動軸5に対して垂直である。電動機組立体1は、駆動軸5の外周面を覆う筒状壁50をさらに備えている。この筒状壁50は、インバータ3内に配置されている。インバータ基板42は、駆動軸5および筒状壁50が貫通する環状形状を有しており、駆動軸5と同心状に配置されている。筒状壁50は、インバータ3と固定子7とを接続する上記電力線(図示せず)が駆動軸5に接触することを防止することができる。
【0023】
電動機組立体1は、インバータ3に固定された振動センサ60と、振動センサ60の出力値に基づいて周波数ジャンプ帯域を決定する周波数ジャンプ制御部63をさらに備えている。本実施形態では、振動センサ60は、インバータ基板42に固定されている。一実施形態では、振動センサ60は、インバータケーシング21に固定されてもよい。この振動センサ60は、電動機2の回転に起因して発生する振動の大きさを測定するための振動検出器である。インバータ3は電動機2に固定され、振動センサ60はインバータ3に固定されているので、振動センサ60は、振動の大きさを正確に検出することができる。
【0024】
本実施形態では、振動センサ60は、特に、電動機2の回転速度が、電動機組立体1が組み込まれた機械システム(例えば給水装置などのポンプ装置)の固有振動数に一致したときの共振を検出するために用いられる。共振が発生したときの振動の方向は、駆動軸5に対して垂直である。インバータ基板42は、駆動軸5に対して垂直であるので、共振が発生したときにインバータ基板42は撓みにくい(変形しにくい)。したがって、インバータ基板42に固定された振動センサ60は、共振を精度良く検出することができる。
【0025】
図2に示すように、インバータ基板42の撓みを防ぎ、かつ振動が振動センサ60に効率よく伝わるようにするために、インバータケーシング21の内部空間の少なくとも一部を樹脂68で充填し、インバータ基板42および振動センサ60を樹脂68に埋設してもよい。
【0026】
図1に戻り、周波数ジャンプ制御部63は、インバータ3に固定されている。本実施形態では、周波数ジャンプ制御部63は、インバータ3内に配置されている。より具体的には、周波数ジャンプ制御部63は、インバータ基板42に実装されている。一実施形態では、周波数ジャンプ制御部63は、インバータ基板42から分離されてもよい。さらに、一実施形態では、周波数ジャンプ制御部63は、インバータ3の外に配置されてもよい。
【0027】
周波数ジャンプ制御部63は、プログラムを格納する記憶装置63aと、プログラムに従って演算を実行する演算装置63bを有している。本実施形態では、演算装置63bは、インバータ3とは独立に設けられているが、インバータ3の演算装置が、周波数ジャンプ制御部63の演算装置として機能してもよい。振動センサ60は、周波数ジャンプ制御部63に電気的に接続されており、振動センサ60の出力値は周波数ジャンプ制御部63に送られるようになっている。
【0028】
周波数ジャンプ制御部63は、振動センサ60の出力値をしきい値と比較し、しきい値よりも大きい出力値に対応するインバータ3への指令周波数の範囲を決定し、決定した指令周波数の範囲を周波数ジャンプ帯域に設定するように構成されている。周波数ジャンプ制御部63は、決定された周波数ジャンプ帯域を記憶装置63aに記憶する。
【0029】
電動機組立体1の運転中は、周波数ジャンプ制御部63は、電動機組立体1の外部に配置された制御装置(図示せず)に接続されている。制御装置は、例えば、電動機組立体1に連結されたポンプの運転を制御するための制御装置である。この制御装置から指令周波数が周波数ジャンプ制御部63に入力される。指令周波数は、インバータ3が電動機2に供給すべき交流電力の周波数の指令値である。周波数ジャンプ制御部63は、インバータ3への指令周波数が周波数ジャンプ帯域外にある場合は、指令周波数と同じ周波数の交流電力をインバータ3に出力させ、インバータ3への指令周波数が周波数ジャンプ帯域内にある場合は、周波数ジャンプ帯域の下限値または上限値に相当する周波数の交流電力をインバータ3に出力させるように構成されている。このような機能は、周波数ジャンプ機能と呼ばれる。本明細書では、インバータ3から出力される交流電力の周波数を、出力周波数という。
【0030】
周波数ジャンプ機能は、
図5および
図6を参照して説明した動作と同じである。すなわち、
図5に示すように、指令周波数が上昇して、周波数ジャンプ帯域に達すると、インバータ3の出力周波数は周波数ジャンプ帯域の下限値Lに固定される。上昇中の指令周波数が周波数ジャンプ帯域内にある間は、インバータ3の出力周波数は周波数ジャンプ帯域の下限値Lに維持される。指令周波数が周波数ジャンプ帯域を超えると、インバータ3の出力周波数は指令周波数と同じ周波数に復帰する。
【0031】
図6に示すように、指令周波数が低下して、周波数ジャンプ帯域に達すると、インバータ3の出力周波数は周波数ジャンプ帯域の上限値Hに固定される。低下中の指令周波数が周波数ジャンプ帯域内にある間は、インバータ3の出力周波数は周波数ジャンプ帯域の上限値Hに維持される。指令周波数が周波数ジャンプ帯域を下回ると、インバータ3の出力周波数は指令周波数と同じ周波数に復帰する。
【0032】
電動機組立体1が組み込まれた機械システム(例えば給水装置などのポンプ装置)の固有振動数は、機械システム自身のみならず、機械システムに固定された配管などの付加物に依存して変わりうる。本実施形態によれば、振動センサ60と周波数ジャンプ制御部63との組み合わせにより、機械システムが設置された後に、周波数ジャンプ帯域の決定および設定を自動で実行することができる。したがって、電動機組立体1を含む機械システムの共振が防止される。
【0033】
周波数ジャンプ帯域の決定および設定は、電動機組立体1の通常運転の前の試運転時に実行される。
図3に示すように、試運転では、周波数ジャンプ制御部63は、インバータ3への指令周波数を0から最大周波数(定格周波数)Fmaxまで変化させ、電動機2の回転速度を変化させながら、振動センサ60の出力値を取得する。本実施形態では、周波数ジャンプ制御部63は、インバータ3への指令周波数を0から最大周波数Fmaxまで直線的に変化させ、電動機2の回転速度を一定の加速度で直線的に変化させるように構成されている。周波数ジャンプ制御部63は、取得した振動センサ60の出力値をしきい値と比較し、しきい値よりも大きい振動センサ60の出力値に対応する指令周波数の範囲R1,R2を決定し、決定された範囲R1,R2を周波数ジャンプ帯域に設定する。周波数ジャンプ制御部63は、周波数ジャンプ帯域R1,R2を記憶装置63a内に記憶する。
図3に示す例では、2つの周波数ジャンプ帯域R1,R2が設定される。周波数ジャンプ制御部63に設定可能な周波数ジャンプ帯域の数は、予め定められている。
【0034】
電動機2の運転中に、外部の制御装置から周波数ジャンプ制御部63に入力された指令周波数が、上記複数の周波数ジャンプ帯域R1,R2のうちのいずれかにある場合は、周波数ジャンプ制御部63は、その周波数ジャンプ帯域の下限値または上限値に相当する周波数の交流電力をインバータ3に出力させる。
【0035】
電動機組立体1が組み込まれた機械システムの固有振動数は、機械システムの状態の変化によって変わりうる。そこで、周波数ジャンプ制御部63は、通常運転中に振動センサ60の出力値を記憶装置63a内に記録し、通常運転後に新たな周波数ジャンプ帯域を設定するように構成されている。より具体的には、周波数ジャンプ制御部63は、振動センサ60の出力値を記憶装置63aから読み出し、しきい値よりも大きい振動センサ60の出力値に対応する指令周波数の範囲を決定し、決定された範囲を新たな周波数ジャンプ帯域に設定する。周波数ジャンプ制御部63は、新たに設定された周波数ジャンプ帯域を記憶装置63a内に記憶する。
【0036】
図4に示すように、ポンプなどの回転機械が設置される環境によっては、電動機組立体1の通常運転中に、外部の制御装置から周波数ジャンプ制御部63に入力される指令周波数は、最大周波数(定格周波数)Fmaxまで到達しないことがある。例えば、電動機組立体1に連結されているポンプの運転周波数が、最大周波数Fmaxよりも低い場合があり得る。このような場合、振動センサ60の出力値がしきい値を超えているが、ピーク(極大値)には到達しないので、周波数ジャンプ制御部63が振動のピークを検出できない場合もある。そこで、このような場合は、周波数ジャンプ制御部63は、振動センサ60の出力値がしきい値を超えたときの指令周波数である下限周波数F1と、運転中の最大周波数F2とを決定し、前記最大周波数F2と前記下限周波数F1と差を算出し、この差の2倍の幅をジャンプ幅とし、かつ前記最大周波数F2を中心とした新たな周波数ジャンプ帯域R3を決定する。周波数ジャンプ制御部63は、新たに設定された周波数ジャンプ帯域R3を記憶装置63a内に記憶する。
【0037】
一実施形態では、周波数ジャンプ制御部63は、通常運転中に新たな周波数ジャンプ帯域を設定してもよい。より具体的には、周波数ジャンプ制御部63は、通常運転中に振動センサ60の出力値を取得し、振動センサ60の出力値をしきい値と比較し、しきい値よりも大きい振動センサ60の出力値に対応する指令周波数の範囲を決定し、決定された範囲を新たな周波数ジャンプ帯域に設定する。周波数ジャンプ制御部63は、新たに設定された周波数ジャンプ帯域を記憶装置63a内に記憶する。
【0038】
さらに、一実施形態では、
図4を参照して説明したように、周波数ジャンプ制御部63は、通常運転中に振動センサ60の出力値を取得し、振動センサ60の出力値をしきい値と比較し、振動センサ60の出力値がしきい値を超えたときの指令周波数である下限周波数F1と、最大周波数F2とを決定し、最大周波数F2と下限周波数F1と差を算出し、この差の2倍の幅を持ち、かつ最大周波数F2を中心とした新たな周波数ジャンプ帯域R3を決定してもよい。周波数ジャンプ制御部63は、新たに設定された周波数ジャンプ帯域R3を記憶装置63a内に記憶する。
【0039】
機械システムの固有振動数が何らかの原因で変化した結果、周波数ジャンプが正常に機能しているにもかかわらず、電動機組立体1の通常運転中に、共振が起きるおそれがある。そこで、機械システムの安全な運転を確保するために、周波数ジャンプ制御部63は、振動センサ60の出力値がしきい値を超えたとき、予め設定したジャンプ幅を現在の指令周波数に加算または減算し、インバータ3の出力周波数を瞬間的に変化させるように構成されている。より具体的には、指令周波数の上昇中に振動センサ60の出力値がしきい値を超えたとき、周波数ジャンプ制御部63は、現在の指令周波数に上記ジャンプ幅を加算する。指令周波数の低下中に振動センサ60の出力値がしきい値を超えたとき、周波数ジャンプ制御部63は、現在の指令周波数に上記ジャンプ幅を減算する。このような動作により、インバータ3の出力周波数は瞬間的に機械システムの固有振動数(共振周波数)を飛び越えることができる。結果として、共振を防ぐことができる。
【0040】
上述したように、周波数ジャンプ機能は、共振が起こると予想される周波数帯域を回避することで、機械システムの安全な運転を確保することができる。しかしながら、上述した周波数ジャンプ帯域が既に設定されているにもかかわらず、共振が発生した場合には、機械システムに何らかの不具合が発生していると推定される。
【0041】
そこで、本実施形態では、周波数ジャンプ制御部63は、指令周波数が周波数ジャンプ帯域内にあり、かつ周波数ジャンプ帯域の下限値または上限値に相当する周波数の交流電力をインバータ3が出力しているときに、あるいは、指令周波数が周波数ジャンプ帯域外でインバータ3が指令周波数の交流電力を出力しているときに、振動センサ60の出力値が上記しきい値を超えた場合は、電動機2の運転を停止させるように構成されている。このような動作により、電動機組立体1が組み込まれた機械システムの破損を回避することができる。
【0042】
周波数ジャンプ帯域の数は、電動機組立体1を含む機械システムの固有振動数の個数に依存する。このため、設定された周波数ジャンプ帯域の数が多すぎる場合は、やはり機械システムに何らかの不具合が発生していると推定される。
【0043】
そこで、本実施形態では、周波数ジャンプ制御部63は、設定された複数の周波数ジャンプ帯域の数が予め定められた数よりも大きい場合は、電動機2の運転を停止させるように構成されている。このような動作により、機械システムの破損を回避することができる。
【0044】
周波数ジャンプ帯域の数は、電動機組立体1を含む機械システムの固有振動数の個数に依存するので、すべての周波数ジャンプ帯域が、電動機2の運転周波数範囲の全体に占める割合は、所定の割合以下になる。そこで、一実施形態では、すべての周波数ジャンプ帯域の総和の、電動機2の運転周波数範囲に対する割合が所定の割合を超えた場合は、周波数ジャンプ制御部63は、電動機2の運転を停止させるように構成されている。電動機2の運転周波数範囲は、0から電動機2の最大周波数(定格周波数)Fmaxまでの範囲である。このような動作により、電動機組立体1が組み込まれた機械システムの破損を回避することができる。
【0045】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 電動機組立体
2 電動機
3 インバータ
5 駆動軸
6 回転子
7 固定子
10 モータケーシング
21 インバータケーシング
25 冷却ファン
27,28 軸受
36 冷却フィン
41 電気回路
42 インバータ基板
43 コンデンサ
44 スイッチング素子
50 筒状壁
51 ファンカバー
56 冷却フィン
57 冷却フィン
60 振動センサ
63 周波数ジャンプ制御部
63a 記憶装置
63b 演算装置
68 樹脂