(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】押出樹脂フィルムとその製造方法、および積層体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20221018BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20221018BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20221018BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221018BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20221018BHJP
C08L 33/12 20060101ALI20221018BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20221018BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20221018BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20221018BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
C08J5/18 CEY
C08F265/06
C08F220/18
C08L101/00
C08L33/06
C08L33/12
B29C48/88
B29C48/92
B29L7:00
B29L9:00
(21)【出願番号】P 2018500102
(86)(22)【出願日】2017-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2017005152
(87)【国際公開番号】W WO2017141873
(87)【国際公開日】2017-08-24
【審査請求日】2020-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2016025751
(32)【優先日】2016-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】辻 和尊
(72)【発明者】
【氏名】干場 孝男
(72)【発明者】
【氏名】藤井 就明
(72)【発明者】
【氏名】萩原 正明
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-198976(JP,A)
【文献】特公昭55-027576(JP,B1)
【文献】特開2002-254495(JP,A)
【文献】特開昭58-180547(JP,A)
【文献】特開昭63-248837(JP,A)
【文献】特開2002-264169(JP,A)
【文献】特表2010-509103(JP,A)
【文献】特開2010-030248(JP,A)
【文献】特開2004-230869(JP,A)
【文献】特開平10-176092(JP,A)
【文献】特開2005-112971(JP,A)
【文献】特開2009-143174(JP,A)
【文献】米国特許第05346954(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C48/00-48/96
B32B1/00-43/00
C08J5/00-5/02
5/12-5/22
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性樹脂(R)と、体積平均粒子径が0.5~15μmであり、熱可塑性樹脂(R)との屈折率差が0.02以上である微粒子(P)とを含む熱可塑性樹脂組成物(C)からなり、
微粒子(P)が無機粒子であり、
体積平均粒子径が15μm超の粒子を含まず、
プレス加工されていない状態で、
少なくとも一方のフィルム面が下記式(1)および(2)を充足し、
下記式(3-1)を充足する、押出樹脂フィルム。
G
L≧60・・・(1)、
G
L-35≦G
H≦G
L-10・・・(2)
(但し、上記式(1)、(2)中、G
Lは20℃での60°グロス(%)であり、G
Hは熱可塑性樹脂組成物(C)のガラス転移温度より10℃高い温度で30分加熱した後、20℃まで冷却した後の60°グロス(%)である。)
10/d≦W≦30/d・・・(3-1)
(但し、上記式(3-1)中、dは微粒子(P)の体積平均粒子径(μm)であり、Wは押出樹脂フィルム中の微粒子(P)の含有量(質量%)である。)
【請求項2】
下記方法により内部ヘイズおよび外部ヘイズを測定したとき、内部ヘイズよりも外部ヘイズの方が小さい、請求項1に記載の押出樹脂フィルム。
(測定方法)
JIS K 7136に準拠して、測定対象である押出樹脂フィルムの全体ヘイズを測定する。測定対象である押出樹脂フィルムの両面を水滴で濡らした後、各面に対してそれぞれ、厚みが同程度で、ヘイズが0.2以下である測定補助用のフィルムを密着させる。この状態でJIS K 7136に準拠してヘイズ測定を行い、得られた値を内部ヘイズとする。外部ヘイズとして、前記全体ヘイズと前記内部ヘイズとの差分を求める。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(R)は、少なくとも1層の内層が、主成分単量体単位が炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体単位および/または共役ジエン系単量体単位である架橋弾性重合体層であり、最外層が、主成分単量体単位が炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体単位である熱可塑性重合体層であるアクリル系多層構造重合体粒子(A)を含む、請求項1または2に記載の押出樹脂フィルム。
【請求項4】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)は、中心側から、30~98.99質量%のメタクリル酸メチル単位と、1~70質量%の炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位と、0.01~2質量%の多官能性単量体単位とを含む架橋重合体層からなる第1層と、70~99.9質量%の炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位と、0~30質量%のメタクリル酸メチル単位と、0.1~5質量%の多官能性単量体単位とを含む架橋弾性重合体層からなる第2層と、80~99質量%のメタクリル酸メチル単位と、1~20質量%の炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位とを含む硬質熱可塑性重合体層からなる第3層とからなる3層構造重合体粒子(AX)を含む、請求項3に記載の押出樹脂フィルム。
【請求項5】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)の粒子径が0.05~0.20μmである、請求項3または4に記載の押出樹脂フィルム。
【請求項6】
熱可塑性樹脂(R)はさらに、80質量%以上のメタクリル酸メチル単位を含み、極限粘度が0.3~1.0dl/gであるメタクリル系樹脂(B)を含む、請求項3~5のいずれかに記載の押出樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の押出樹脂フィルムの少なくとも一方のフィルム面に印刷が施された、印刷樹脂フィルム。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の押出樹脂フィルムまたは請求項7に記載の印刷樹脂フィルムが、加熱処理されて得られた、艶消し樹脂フィルム。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の押出樹脂フィルム、請求項7に記載の印刷樹脂フィルム、または請求項8に記載の艶消し樹脂フィルムを含む、加飾用フィルム。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の押出樹脂フィルム、請求項7に記載の印刷樹脂フィルム、または請求項8に記載の艶消し樹脂フィルムを含む、建材用フィルム。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の押出樹脂フィルム、請求項7に記載の印刷樹脂フィルム、または請求項8に記載の艶消し樹脂フィルムを含む、積層フィルム。
【請求項12】
基材上に、請求項1~6のいずれかに記載の押出樹脂フィルム、請求項7に記載の印刷樹脂フィルム、請求項8に記載の艶消し樹脂フィルム、または請求項11に記載の積層フィルムが積層された、積層体。
【請求項13】
請求項1~6のいずれかに記載の押出樹脂フィルムの製造方法であって、
熱可塑性樹脂組成物(C)をTダイからフィルム状に溶融押出する工程と、
フィルム状に押出された溶融物を、双方が金属剛体ロールである一対の冷却ロール、若しくは、一方が金属剛体ロールであり、他方が金属弾性ロールである一対の冷却ロールで挟持する工程とを有する、押出樹脂フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記一対の冷却ロールのうち、一方の冷却ロールの表面温度をT1とし、他方の冷却ロールの表面温度をT2とし(但し、T2≧T1である。)、熱可塑性樹脂組成物(C)のガラス転移温度をTgCとしたとき、下記式(4)を充足する、請求項13に記載の押出樹脂フィルムの製造方法。
10≦|TgC-T2|≦40・・・(4)
【請求項15】
請求項1~6のいずれかに記載の押出樹脂フィルムを加熱処理する、艶消し樹脂フィルムの製造方法。
【請求項16】
請求項1~6のいずれかに記載の押出樹脂フィルムの少なくとも一方のフィルム面に印刷を施し、加熱処理する、艶消し樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムとその製造方法に関するものである。本発明はまた、この熱可塑性樹脂フィルムを用いた、印刷樹脂フィルム、艶消し樹脂フィルムとその製造方法、加飾用フィルム、建材用フィルム、積層フィルム、および積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品および外装部品、家庭用電気機器の外装部品、家具の外装部品、並びに壁材等の用途には、表面に艶がないマット調(艶消し)の外観を有する樹脂フィルム(艶消し樹脂フィルム)が用いられる場合がある。さらに、用途等によっては、高級感および深み感等の意匠性の付与あるいは加飾性の付与等のために、艶消し樹脂フィルムの少なくとも一方のフィルム面に印刷が施される場合がある。この場合、艶消し樹脂フィルムには、良好な艶消し外観と良好な印刷性とが求められる。
【0003】
従来、艶消し樹脂フィルムの製造方法としては、透明性樹脂中に艶消し効果を有する微粒子(艶消し剤)を分散させた樹脂組成物をフィルム状に成形する方法(特許文献1~4等)、および、艶消し効果を有する微粒子(艶消し剤)を含まない/あるいは含む樹脂(組成物)をフィルム状に成形した後、表面に微細な凹凸を有するエンボスロールを押圧して、表面に微細な凹凸を付与する方法(特許文献5、6等)が挙げられる。
なお、本明細書において、「樹脂(組成物)」は、樹脂または樹脂組成物を意味する。
【0004】
特許文献1には、熱可塑性重合体とゴム含有重合体と艶消し剤とを含む樹脂組成物をフィルム化して得られる艶消し樹脂フィルムが開示されている(請求項1)。艶消し剤としては、粒径1~20μmの架橋構造を有する樹脂微粒子、マイカ微粒子、およびタルク微粒子が挙げられている(請求項2)。特許文献1には、艶消し樹脂フィルムの製造方法として、Tダイ法、インフレーション法、およびカレンダー法が挙げられている(段落0028)。
【0005】
特許文献2には、印刷が施される艶消し樹脂フィルムとして、熱可塑性重合体とゴム含有重合体と艶消し剤とを含む樹脂組成物をフィルム化して得られる艶消し樹脂フィルムが開示されている(請求項1、10)。艶消し剤としては、平均粒径0.5~20μmの無機粒子および/または有機架橋粒子、および水酸基含有重合体が挙げられている(請求項2、3)。特許文献2には、上記構成により、高級感および深み感に優れる表面艶消し外観を有し、かつ艶戻りのない艶消し樹脂フィルムを提供できることが記載されている(段落0069)。
【0006】
一般的に、艶消し剤である微粒子の使用の有無にかかわらず、艶消し樹脂フィルムは、その表面凹凸のために印刷性が低く、印刷抜けが生じやすい傾向がある(特許文献3の段落0006を参照)。このように、一般的に、艶消し樹脂フィルムにおいては、艶消し外観と印刷性とは互いに背反する特性である。印刷抜けが生じると、所望の印刷効果(意匠性あるいは加飾性等の付与)が得られず、製造の歩留まりも低下してしまう。
【0007】
ところで、溶融押出による熱可塑性樹脂フィルムの製造方法においては、フィルムの厚み制御およびフィルムの表面外観向上のために、原料の樹脂(組成物)を溶融してTダイよりフィルム状に押出した後、一対の冷却ロールで挟持して固化させるのが一般的である。しかしながら、艶消し剤である微粒子を分散させた樹脂組成物からなる艶消し樹脂フィルムでは、艶消し外観を得るために、艶消し剤である微粒子をフィルム面から突出させる必要がある。ところが、艶消し樹脂フィルムの製造方法において、仮に、艶消し剤である微粒子を分散させた樹脂組成物をフィルム状に押出し、一対の冷却ロールで挟持する工程を実施すると、微粒子がフィルム内部に押し込まれ、艶消し外観が損なわれてしまう恐れがある。また、艶消し剤である微粒子を分散させた樹脂組成物をフィルム状に押出して、一対の冷却ロールで挟持する工程を実施しない場合、フィルムの厚み制御が難しく、得られるフィルムの厚みムラが大きくなる傾向がある。また、フィルム面に筋等が発生して、フィルムの表面外観が損なわれる恐れがある。
【0008】
特許文献3には、フィルム表裏の60゜表面光沢度の差が5%以上である艶消し樹脂フィルムが開示されている(請求項1)。特許文献3において、原料の樹脂組成物としては、熱可塑性重合体とゴム含有重合体と艶消し剤とを含む樹脂組成物が挙げられている(請求項5)。艶消し剤としては、水酸基含有重合体が挙げられている(請求項6)。特許文献3には、艶消し樹脂フィルムの製造方法として、樹脂組成物を溶融押出した後、溶融物を鏡面ロールとゴムロールまたはシボ入りロールからなる非鏡面ロールとで挟持する方法が開示されている(請求項13、14)。特許文献3に記載の製造方法では、溶融物を一対のロールで挟持するので、厚みムラおよび筋の発生を抑制することができる。特許文献3に記載の方法では、鏡面ロールに密着していたフィルム面には鏡面が転写されるので、その面の表面光沢度は高く、その面に印刷を施すことで印刷抜けを低減することできる(特許文献3の段落0090)。一方、非鏡面ロールに密着していたフィルム面の表面光沢度は低く、艶消し外観を呈することができる(特許文献3の段落0090)。
【0009】
特許文献4には、微粒子を分散させた樹脂組成物を溶融状態でダイから押出し、一方が高剛性の金属ロールであり、他方が外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロールである一対の冷却ロールで挟み込んで成形する押出マットシートの製造方法が開示されている(請求項1)。
特許文献4に記載の製造方法では、溶融物を一対の冷却ロールで挟持するので、厚みムラおよび筋の発生を抑制することができる(特許文献4の段落0009)。特許文献4には、金属弾性ロールの使用によって艶消し剤である微粒子が透明性樹脂中に押し込まれるのが抑制され、艶消し外観が損なわれるのが抑制されると記載されている(特許文献4の段落0011)。しかしながら、金属弾性ロールの表面は通常、鏡面処理により平滑面であり、艶消し剤である微粒子をフィルム面に突出させることが難しく、艶消し外観の発現は充分とは言えない。
【0010】
特許文献5、6には、透明性樹脂をTダイから溶融押出し、溶融物をゴムロールまたは金属弾性ロールからなる第1冷却ロールと、外周面に凹凸形状が形成された金属ロールからなる第2冷却ロールとで挟持して、第2冷却ロールの凹凸形状を転写する艶消し樹脂フィルムの製造方法が開示されている(特許文献5の請求項1、特許文献6の請求項1)。特許文献5、6では、艶消し剤である微粒子を用いず、溶融物の表面に第2冷却ロールの凹凸形状を転写することで、フィルム面に艶消し外観を得ている。
【0011】
特許文献1~6に記載の従来技術はいずれも、フィルムの製造時になんらかの手段でフィルム表面に凹凸を付与するものであり、一度冷却固化されたフィルムを製造した後に加熱処理で良好な艶消し外観を発現させる技術に関するものではない。
また、一般的に、艶消し剤である微粒子を用いた熱可塑性樹脂フィルムでは、微粒子の存在により、内部ヘイズが大きくなる傾向がある。内部ヘイズが過大では、印刷後にフィルムを部材等へ貼り付ける際の位置合わせが困難になる。したがって、艶消し剤である微粒子を用いた熱可塑性樹脂フィルムにおいても、内部ヘイズは充分に小さいことが好ましい。
なお、本明細書において、「内部ヘイズ」は、表面および裏面の凹凸の影響を除いたヘイズであり、後記方法にて測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平06-073199号公報(特許第3307989号公報)
【文献】特開平10-237261号公報
【文献】特開2002-361712号公報(特許第3964234号公報)
【文献】特開2009-143174号公報(特許第5108487号公報)
【文献】特開2009-202382号公報(特許第5118506号公報)
【文献】特開2009-196327号公報(特許第5143587号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、少なくとも一方のフィルム面は印刷性に優れ、内部ヘイズが充分に小さく、かつ、良好な艶消し外観を発現することが可能な熱可塑性樹脂フィルムとその製造方法を提供することを目的とするものである。
なお、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、フィルム製造後に加熱処理により良好な艶消し外観を発現することができるものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の熱可塑性樹脂フィルムとその製造方法、印刷樹脂フィルム、艶消し樹脂フィルムとその製造方法、加飾用フィルム、建材用フィルム、積層フィルム、および積層体を提供する。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、少なくとも1種の熱可塑性樹脂(R)と、体積平均粒子径が0.5~15μmであり、熱可塑性樹脂(R)との屈折率差が0.02以上である微粒子(P)とを含む熱可塑性樹脂組成物(C)からなり、少なくとも一方のフィルム面が下記式(1)および(2)を充足するものである。
GL≧60・・・(1)、
GL-35≦GH≦GL-10・・・(2)
(但し、上記式(1)、(2)中、GLは20℃での60°グロス(%)であり、GHは熱可塑性樹脂組成物(C)のガラス転移温度より10℃高い温度で30分加熱した後、20℃まで冷却した後の60°グロス(%)である。)
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、さらに下記式(3-1)を充足することが好ましい。
10/d≦W≦30/d・・・(3-1)
(但し、上記式(3-1)中、dは微粒子(P)の体積平均粒子径(μm)であり、Wは熱可塑性樹脂フィルム中の微粒子(P)の含有量(質量%)である。)
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、内部ヘイズよりも外部ヘイズの方が小さいことが好ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂(R)は、メタクリル系樹脂を含むことが好ましい。
【0019】
熱可塑性樹脂(R)は、少なくとも1層の内層が、主成分単量体単位が炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体単位および/または共役ジエン系単量体単位である架橋弾性重合体層であり、最外層が、主成分単量体単位が炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体単位である熱可塑性重合体層であるアクリル系多層構造重合体粒子(A)を含むことが好ましい。
【0020】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)は、中心側から、30~98.99質量%のメタクリル酸メチル単位と、1~70質量%の炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位と、0.01~2質量%の多官能性単量体単位とを含む架橋重合体層からなる第1層と、70~99.9質量%の炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位と、0~30質量%のメタクリル酸メチル単位と、0.1~5質量%の多官能性単量体単位とを含む架橋弾性重合体層からなる第2層と、80~99質量%のメタクリル酸メチル単位と、1~20質量%の炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位とを含む硬質熱可塑性重合体層からなる第3層とからなる3層構造重合体粒子(AX)を含むことが好ましい。
【0021】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)の粒子径は0.05~0.20μmであることが好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂(R)は、80質量%以上のメタクリル酸メチル単位を含み、極限粘度が0.3~1.0dl/gであるメタクリル系樹脂(B)を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の印刷樹脂フィルムは、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方のフィルム面に印刷が施されたものである。
本発明の艶消し樹脂フィルムは、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムまたは上記の本発明の印刷樹脂フィルムが加熱処理されて得られたものである。
本発明の加飾用フィルムは、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルム、上記の本発明の印刷樹脂フィルム、または上記の本発明の艶消し樹脂フィルムを含むものである。
本発明の建材用フィルムは、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルム、上記の本発明の印刷樹脂フィルム、または上記の本発明の艶消し樹脂フィルムを含むものである。
本発明の積層フィルムは、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルム、上記の本発明の印刷樹脂フィルム、または上記の本発明の艶消し樹脂フィルムを含むものである。
本発明の積層体は、基材上に、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルム、上記の本発明の印刷樹脂フィルム、上記の本発明の艶消し樹脂フィルム、または上記の本発明の積層フィルムが積層されたものである。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、熱可塑性樹脂組成物(C)をTダイからフィルム状に溶融押出する工程と、フィルム状に押出された溶融物を、双方が金属剛体ロールである一対の冷却ロール、若しくは、一方が金属剛体ロールであり、他方が金属弾性ロールである一対の冷却ロールで挟持する工程とを有するものである。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法において、前記一対の冷却ロールのうち、一方の冷却ロールの表面温度をT1とし、他方の冷却ロールの表面温度をT2とし(但し、T2≧T1である。)、熱可塑性樹脂組成物(C)のガラス転移温度をTgCとしたとき、下記式(4)を充足することが好ましい。
10≦|TgC-T2|≦40・・・(4)
【0026】
本発明の艶消し樹脂フィルムの製造方法は、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムを加熱処理するものである。また、本発明の艶消し樹脂フィルムの製造方法は、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方のフィルム面に印刷を施し、加熱処理するものである。
【0027】
通常、厚みが5~250μmの場合は主に「フィルム」に分類され、250μmより厚い場合には主に「シート」に分類されるが、本明細書では、フィルムとシートとを明確に区別せず、両者を合わせて「フィルム」と称す。
【0028】
本明細書において、特に明記しない限り、熱可塑性樹脂(R)の屈折率は、以下の方法にて測定した値とする。
プレス成形により熱可塑性樹脂(R)を縦3cm×横3cm×厚さ3mmのシートに加工し、(株)島津デバイス製造社製「カルニュー精密屈折計KPR-200」を用いて、23℃にて測定波長587.6nm(d線)で屈折率を測定する。
【0029】
本明細書において、特に明記しない限り、微粒子(P)の屈折率は、顕微鏡を用いて液浸法(ベッケ線法)により測定した値とする。
【0030】
本明細書において、特に明記しない限り、微粒子(P)の体積平均粒子径は、以下の方法にて測定した値とする。
マイクロトラック粒子径分布測定装置(日機装株式会社製「MK-3300」)を用い、レーザ回折・散乱法により微粒子(P)の体積平均粒子径を測定する。
【0031】
本明細書において、特に明記しない限り、フィルムの全体ヘイズ、内部ヘイズ、および外部ヘイズは、以下の方法にて測定した値とする。
JIS K 7136に準拠して、測定対象であるフィルムの全体ヘイズを測定する(通常通りのヘイズ測定)。また、厚みが同程度で、ヘイズが0.2以下である測定補助用の透明樹脂フィルムを2枚用意する。測定対象であるフィルムの両面を水滴で濡らした後、各面に対してそれぞれ測定補助用のフィルムを密着させる。これにより、測定対象のフィルムの表面凹凸の影響を無くすことができる。この状態でJIS K 7136に準拠してヘイズ測定を行い、得られた値を内部ヘイズとする。外部ヘイズとして、上記全体ヘイズと上記内部ヘイズとの差分を求める。
フィルムの全体ヘイズは10~20%が好ましく、13~16%がより好ましい。内部ヘイズは6~13%が好ましく、8~10%がより好ましく、8~9%がさらに好ましい。外部ヘイズは2~8%が好ましく、3~7%がより好ましい。
【0032】
本明細書において、特に明記しない限り、「樹脂(組成物)のガラス転移温度(Tg)」は、以下の方法にて測定した値とする。
JIS K 7121に準拠して、樹脂(組成物)のガラス転移温度(Tg)を測定する。示差走査熱量測定装置(島津製作所社製「DSC-50」)を用い、いったん試料を230℃まで昇温して室温まで冷却した後、再度、室温から230℃まで10℃/分の昇温速度で昇温させる条件にてDSC曲線を測定する。得られたDSC曲線から求められる中間点をガラス転移温度(Tg)とする。なお、室温から230℃までの範囲に中間点が複数表れる場合は、その中間点のうち最も含有量の多い樹脂に由来する中間点をガラス転移温度(Tg)とする。
【0033】
本明細書において、特に明記しない限り、熱可塑性樹脂フィルムの「グロス(光沢度)」は60°グロスであり、以下の方法にて測定した値とする。
グロス計としては、日本電色工業社製「VG7000」を用いる。はじめに、熱可塑性樹脂フィルムにおいて、両フィルム面についてそれぞれJIS Z 8741のグロス測定に準拠して、20℃にて、60°反射条件にてグロスを測定する。この値がGLである。
さらに、オーブンを用いて、フィルムをTg+10℃の温度で30分加熱し、20℃まで自然冷却した後、両フィルム面について上記と同様にしてグロスを再度測定する。この値がGHである。
【0034】
本明細書において、特に明記しない限り、アクリル系多層構造重合体粒子(A)を含むラテックス中のアクリル系多層構造重合体粒子(A)の粒子径は、(株)堀場製作所製の「LA-300」を用いて測定した値とする。
フィルム製造の過程において、アクリル系多層構造重合体粒子(A)の非架橋の最外層等が溶融して、マトリクスを形成する場合がある。この場合、フィルム中のアクリル系多層構造重合体粒子(A)の粒子径は、原料の重合体粒子の粒子径よりも小さくなる。
本明細書において、特に明記しない限り、フィルム中のアクリル系多層構造重合体粒子(A)の粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により求めるものとする。具体的には、フィルムの一部を切り出し、凍結条件下でミクロトームにより厚さ方向に切断し、得られた切片を酸化ルテニウム水溶液で染色した後、染色されたゴム粒子の断面をTEMで観察する。粒子100個の平均値をアクリル系多層構造重合体粒子(A)の粒子径とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、少なくとも一方の面は印刷性に優れ、内部ヘイズが充分に小さく、かつ、良好な艶消し外観を発現することが可能な熱可塑性樹脂フィルムとその製造方法を提供することができる。
なお、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、フィルム製造後に加熱処理で良好な艶消し外観を発現することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明に係る一実施形態のフィルム製造装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
「熱可塑性樹脂フィルム」
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、フィルム製造後に加熱処理で良好な艶消し外観を発現するものである。
なお、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムであってもよいし、延伸フィルムであってもよい。特に明記しない限り、フィルムは未延伸フィルムを意味する。
以下、「熱可塑性樹脂フィルム」は、「樹脂フィルム」または「フィルム」と略記する場合がある。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂(R)と、一般に艶消し剤または光拡散剤と呼ばれる微粒子(P)とを含む。
熱可塑性樹脂(R)は、本発明の熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物(C)の主成分とすることができ、例えば熱可塑性樹脂フィルムの好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上を構成する熱可塑性樹脂である。
【0039】
一般的に、艶消し剤である微粒子(P)を含む熱可塑性樹脂フィルムでは、艶消し外観を得るために、艶消し剤である微粒子(P)をフィルム面から充分に突出させることが必要であるとされているが、そのために印刷性が低下することがある。
本発明では、フィルムの製造段階においては、良好な艶消し外観を有している必要がなく、艶消し剤である微粒子(P)はフィルム面から突出している必要がない。本発明では、フィルム製造後に、加熱処理によりフィルムを軟化させることで、艶消し剤である微粒子(P)をフィルム面に突出させて、良好な艶消し外観を発現させることができる。
なお、一般的に、フィルムの表裏は明確ではない。したがって、本明細書において、「フィルム面」は、フィルムの表面または裏面である。
【0040】
本発明において、微粒子(P)は、体積平均粒子径が0.5~15μmであり、熱可塑性樹脂(R)との屈折率差が0.02以上、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.04以上である。微粒子(P)の体積平均粒子径が0.5μm未満では、熱可塑性樹脂フィルムを加熱処理した後に微粒子(P)による光拡散効果が良好に得られず、良好な艶消し外観を発現させることが難しい。微粒子(P)の体積平均粒子径が15μm超では、熱可塑性樹脂フィルムの内部ヘイズが大きくなり、印刷後にフィルムを部材等に貼り付ける際の位置合わせが困難になる恐れがある。また、微粒子(P)の凝集物が生じたときに外観上の欠陥となる恐れがある。熱可塑性樹脂(R)と微粒子(P)との屈折率差が0.02未満では、加熱処理後に微粒子(P)による光拡散効果が充分に得られずに、良好な艶消し外観を発現させることが難しい。体積平均粒子径が0.5~15μmであり、熱可塑性樹脂(R)との屈折率差が0.02以上である微粒子(P)を用いることで、加熱処理後に微粒子(P)による光拡散効果が良好に得られ、良好な艶消し外観を得ることができる。微粒子(P)は、体積平均粒子径が0.5~10μmであることが好ましく、3~7μmであることがより好ましく、熱可塑性樹脂(R)との屈折率差が0.03以上であることが好ましい。
【0041】
本発明において、微粒子(P)のアスペクト比は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、特に好ましくは20以上である。かかるアスペクト比を有する微粒子(P)を用いることで、加熱処理後に微粒子(P)による光拡散効果が良好に得られ、良好な艶消し外観を得ることができる。アスペクト比の上限は特に制限されず、通常200程度である。
1個の微粒子における「アスペクト比」は、(最大長径/厚み)で定義される微粒子の形状を表す指数である。
通常、微粒子(P)は、アスペクト比が分布を持つ複数の微粒子からなる。
本明細書において、特に明記しない限り、アスペクト比は以下のように測定して得た値とする。電子顕微鏡にて100個以上の微粒子を観察し、得られた顕微鏡像において個々の微粒子のアスペクト比を求め、微粒子の個数(縦軸)とアスペクト比(横軸)との関係を示す分布を得る。その分布のうち個数がピークとなるアスペクト比を中心として、全微粒子の50%が入るアスペクト比の範囲をアスペクト比のデータとして求める。
アスペクト比のデータは、カタログ値を採用してもよい。
【0042】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、少なくとも一方のフィルム面が、下記式(1)、(2)を充足する。
GL≧60・・・(1)、
GL-35≦GH≦GL-10・・・(2)
(但し、上記式(1)、(2)中、GLは20℃での60°グロス(%)であり、GHは熱可塑性樹脂組成物(C)のガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で30分加熱した後、20℃まで冷却した後の60°グロス(%)である。)
【0043】
GLは常温(加熱処理前)での光沢性の指標である。一方、GHは加熱処理後の光沢性および艶消し性の指標である。
本明細書において、「GH測定のための加熱処理」は、特に明記しない限り、オーブン(ヤマト科学(株)社製「セイフティ精密恒温器DF411S」)を用いて行うものとする。
【0044】
フィルム面が上記式(1)を充足している場合(フィルム面のGLが60%以上である場合)、このフィルム面は常温で高光沢を有し、表面平滑性が高いため、印刷抜けが抑制され、良好な印刷性を有する。フィルム面のGLが60%未満の場合、このフィルム面は常温で光沢が低く、微粒子(P)がフィルム面に突出している可能性が高く、良好な印刷性を有さない恐れがある。フィルム面のGLが過度に高いと、加熱処理後にフィルム面に突出する微粒子(P)の量が不充分となり、良好な艶消し外観が得られなくなる恐れがある。少なくとも一方のフィルム面が常温で高光沢を有して良好な印刷性を有し、かつ、加熱処理後に良好な艶消し外観が得られることから、少なくとも一方のフィルム面のGLは、好ましくは60~99%、より好ましくは70~99%、更に好ましくは80~99%であり、特に好ましくは90~99%である。
なお、一対のフィルム面のGL値が異なる場合、より高品位な印刷が可能なことから、GL値の高い方の面に印刷を施すことが好ましい。
【0045】
ガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で30分加熱した後の60°グロスの低下が10%未満の場合(GL-GH<10)、加熱処理後に良好な艶消し外観を発現させることが難しい。一方、ガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で30分加熱した後の60°グロスの低下が35%超の場合(GL-GH>35)、加熱処理後に艶消し外観が発現するが、フィルム面に突出する微粒子(P)の量が多く、表面外観が悪化する恐れがある。フィルム面が上記式(2)を充足している場合(10≦GL-GH≦35)、加熱処理後に良好な艶消し外観と良好な表面外観を得ることができる。
【0046】
体積平均粒子径が0.5~15μm、好ましくは0.5~10μmであり、熱可塑性樹脂(R)との屈折率差が0.02以上である微粒子(P)を用い、少なくとも一方のフィルム面が上記式(1)、(2)を充足することで、少なくとも一方のフィルム面が高光沢で印刷性に優れ、内部ヘイズが充分に小さく、かつ、加熱処理後に良好な艶消し外観を発現することが可能な熱可塑性樹脂フィルムを提供することができる。
【0047】
本発明において、微粒子(P)の体積平均粒子径d(μm)および熱可塑性樹脂フィルム中の微粒子(P)の含有量W(質量%)は、下記式(3-1)を充足することが好ましく、下記式(3-2)を充足することがより好ましく、下記式(3-3)を充足することがさらに好ましい。
10/d≦W≦30/d・・・(3-1)、
10/d≦W≦20/d・・・(3-2)、
13/d≦W≦17/d・・・(3-3)
【0048】
微粒子(P)の含有量Wが過少(10/d未満)では、熱可塑性樹脂フィルムの加熱処理後に、微粒子(P)による光拡散効果が良好に得られず、充分な艶消し外観を発現させることが難しくなる恐れがある。微粒子(P)の含有量Wが過多(30/d超)では、熱可塑性樹脂フィルムを製造した時点で、フィルム面に突出する微粒子(P)の量が多く、フィルム面の光沢性が不充分で印刷性が不充分となる恐れがある。また、内部ヘイズが大きくなる恐れがある。微粒子(P)の含有量Wが好ましくは上記式(3-1)、より好ましくは(3-2)、さらに好ましくは(3-3)を充足するとき、少なくとも一方のフィルム面が高光沢で印刷性に優れ、内部ヘイズが充分に小さく、かつ、加熱処理後に良好な艶消し外観を発現することが可能な熱可塑性樹脂フィルムをより安定的に提供することができる。
【0049】
(熱可塑性樹脂(R))
熱可塑性樹脂(R)としては特に制限されず、溶融加工可能な透明性樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂(R)は、汎用樹脂でもよいし、いわゆるエンジニアリングプラスチックでもよい。熱可塑性樹脂(R)は、非ゴム状重合体でもよいし、ゴム状重合体でもよい。熱可塑性樹脂(R)は、1種または2種以上用いることができる。
【0050】
熱可塑性樹脂(R)として用いられる非ゴム状重合体としては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、およびポリノルボルネン等のオレフィン系樹脂;メタクリル酸メチル樹脂、およびメタクリル酸メチル-スチレン樹脂等のメタクリル系樹脂:ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン(AS)系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)系樹脂、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン(AES)系樹脂、アクリル-アクリロニトリル-スチレン(AAS)系樹脂、アクリロニトリル-塩素化エチレン-スチレン(ACS)系樹脂、およびメタクリルブタジエンスチレン(MBS)樹脂等のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート等のエステル系樹脂;ナイロン6、およびナイロン66等のアミド系樹脂;並びに、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアセテート系樹脂、セルロースアセテート系樹脂、アクリル-塩素化エチレン系樹脂、アセタール系樹脂、フッ素系樹脂、芳香族カーボネート系樹脂、スルホン系樹脂、エーテルスルホン系樹脂、メチルペンテン系樹脂、アリレート系樹脂、脂環構造含有エチレン性不飽和単量体単位を含有する樹脂、フェニレンスルフィド系樹脂、フェニレンオキサイド系樹脂、エーテルエーテルケトン系樹脂、エチレン-アクリル酸エチル系樹脂、塩素化エチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、およびシリコーン変性樹脂等が挙げられる。
【0051】
熱可塑性樹脂(R)として用いられるゴム状重合体としては、SEPS、SEBS、およびSIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、およびEPDM等のオレフィン系ゴム;アクリル系熱可塑性エラストマー;塩化ビニル系熱可塑性エラストマー;ウレタン系熱可塑性エラストマー;エステル系熱可塑性エラストマー;アミド系熱可塑性エラストマー;アイオノマー系樹脂;スチレン・ブタジエンブロック共重合体;エチレン-プロピレンゴム;ブタジエン系樹脂;アクリル系ゴム;シリコーンゴム;アクリル系多層構造重合体等が挙げられる。
【0052】
充分な曲げ強度を有し、ロールトゥロール(Roll to Roll)プロセスによる連続生産においてロール上への巻取りが容易なフィルムが得られることから、熱可塑性樹脂(R)は少なくとも1種のゴム状重合体を含むことが好ましい。また、ゴム状重合体を用いることで、熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性の向上効果も得られる。
【0053】
ゴム状重合体としては、上記例示の中でも、少なくとも1層のゴム層を含む多層構造粒子(いわゆるコア/シェル構造ゴム粒子)およびブロック共重合体等が好ましい。中でも、耐衝撃性等の観点から、アクリル系多層構造重合体が特に好ましい。
【0054】
<アクリル系多層構造重合体>
アクリル系多層構造重合体としては、公知のものを用いることができる。耐衝撃性等の観点から、アクリル系多層構造重合体としては、少なくとも1層の内層(最外層より内側の層)が、主成分単量体単位が炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単量体単位および/または共役ジエン系単量体単位である架橋弾性重合体層であり、最外層が、主成分単量体単位が炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単量体単位である熱可塑性重合体層であるアクリル系多層構造重合体粒子(A)が好ましい。
本明細書において、特に明記しない限り、「主成分単量体単位」は、50質量%以上の単量体単位と定義する。
【0055】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)は、少なくとも1層の架橋弾性重合体層を含む1層または複数層の内層が最外層の熱可塑性重合体層により覆われた、いわゆるコア/シェル構造ゴム粒子である。
アクリル系多層構造重合体粒子(A)は、最外層を除く少なくとも1層の内層を構成する架橋弾性重合体層の分子鎖と、隣接する層中の分子鎖とが共有結合により結合されているグラフト共重合体であることが好ましい。
【0056】
架橋弾性重合体層に使用される炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルとしては例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、およびアクリル酸プロピル等が挙げられる。耐衝撃性の点からアクリル酸n-ブチルが好ましい。架橋弾性重合体層に使用される共役ジエン系単量体としては例えば、1,3-ブタジエン、およびイソプレン等が挙げられる。
【0057】
架橋弾性重合体層には、炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルおよび/または共役ジエン系単量体の他、これらと共重合可能なビニル系単量体を用いてもよい。共重合可能なビニル系単量体としては例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、およびメタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル;スチレン、p-メチルスチレン、およびα-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、およびN-o-クロロフェニルマレイミド等のマレイミド系化合物;エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレート、およびトリアリルイソシアヌレート等の多官能性単量体等が挙げられる。
なお、本明細書において、「多官能性単量体」は、2以上の重合性官能基を有する単量体である。
【0058】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性等の観点から、架橋弾性重合体層中の炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位および/または共役ジエン系単量体単位の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0059】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)において、最外層の熱可塑性重合体層に使用される炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルとしては例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、およびメタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。熱可塑性重合体層中のメタクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有量は、アクリル系多層構造重合体粒子(A)の分散性の点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0060】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)の層数は特に制限されず、2層、3層、または4層以上である。熱安定性および生産性の点で、アクリル系多層構造重合体粒子(A)は3層構造であることが特に好ましい。
【0061】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)としては、中心側から、30~98.99質量%のメタクリル酸メチル単位と、1~70質量%の炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位と、0.01~2質量%の多官能性単量体単位とを含む架橋重合体層からなる第1層と、70~99.9質量%の炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位と、0~30質量%のメタクリル酸メチル単位(任意成分)と、0.1~5質量%の多官能性単量体単位とを含む架橋弾性重合体層からなる第2層と、80~99質量%のメタクリル酸メチル単位と、1~20質量%の炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位とを含む硬質熱可塑性重合体層からなる第3層(最外層)とからなる3層構造重合体粒子(AX)が好ましい。
【0062】
3層構造重合体粒子(AX)において、各層の比率は特に制限されず、第1層が5~40質量%であり、第2層が20~55質量%であり、第3層(最外層)が40~75質量%であるのが好ましい。
【0063】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)の粒子径は特に制限されないが、0.05~0.20μmの範囲内であることが好ましく、0.07~0.15μmであることがより好ましく、0.08~0.10μmであることが特に好ましい。アクリル系多層構造重合体粒子(A)の粒子径が0.05μm未満では、アクリル系多層構造重合体粒子(A)の取扱い性が低下する傾向がある。アクリル系多層構造重合体粒子(A)の粒子径が0.20μm超では、本発明の熱可塑性樹脂フィルムが、応力が加えられたときに白化して透過率が低下しやすくなる(耐応力白化性が悪化する)傾向がある。耐応力白化性の観点から、アクリル系多層構造重合体粒子(A)の粒子径は、好ましくは0.15μm以下である。
【0064】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)の重合法は特に制限されず、乳化重合法が好ましい。まず、1種または2種以上の原料単量体を乳化重合させて芯粒子を得た後、他の1種または2種以上の単量体を芯粒子の存在下に乳化重合させて芯粒子の周りに殻を形成させる。次いで必要に応じて、芯と殻からなる粒子の存在下にさらに1種または2種以上の単量体を乳化重合させて別の殻を形成させる。このような重合反応を繰り返すことにより、目的とするアクリル系多層構造重合体粒子(A)を乳化ラテックスとして製造することができる。得られたラテックス中には、通常、アクリル系多層構造重合体粒子(A)に加えて、メタクリル酸メチル単位を有する直鎖のメタクリル系樹脂が存在する。
【0065】
乳化重合に用いられる乳化剤としては特に制限されず、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤、およびノニオン・アニオン系乳化剤等が挙げられる。これら乳化剤は、1種または2種以上用いることができる。
アニオン系乳化剤としては例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、およびジラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩等が挙げられる。
ノニオン系乳化剤としては例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、およびポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。
ノニオン・アニオン系乳化剤としては例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム等のアルキルエーテルカルボン酸塩等が挙げられる。
ノニオン系乳化剤またはノニオン・アニオン系乳化剤の例示化合物におけるオキシエチレン単位の付加モル数は、乳化剤の発泡性が極端に大きくならないようにするために、一般に30モル以下、好ましくは20モル以下、特に好ましくは10モル以下である。
【0066】
乳化重合に使用される重合開始剤は特に制限されず例えば、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系開始剤;パースルホキシレート/有機過酸化物および過硫酸塩/亜硫酸塩等のレドックス系開始剤等が挙げられる。
【0067】
乳化重合には、必要に応じて連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-ラウリルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、およびsec-ブチルメルカプタン等のアルキルメルカプタンが挙げられる。
【0068】
各層の乳化重合に際し、単量体、乳化剤、重合開始剤、および連鎖移動剤等の原料の重合反応系への添加は、一括添加法、分割添加法、および連続添加法等の公知の任意の方法によって行うことができる。
【0069】
各層の重合反応温度はいずれも好ましくは30~120℃であり、より好ましくは50~100℃である。各層の重合反応時間は、用いられる重合開始剤および乳化剤の種類と使用量、および重合温度によっても異なるが、各層ともに通常は0.5~7時間である。単量体と水との質量比(単量体/水比)は、好ましくは1/20~1/1である。
【0070】
乳化重合によって得られる重合体ラテックス中に含まれるアクリル系多層構造重合体粒子(A)は粒状である。その粒子径は、好ましくは0.05~0.2μmである。アクリル系多層構造重合体粒子(A)を含むラテックスを、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造に用いることができる。
【0071】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)は必要に応じて、乳化重合によって製造された重合体ラテックスに対して、公知方法により凝固、脱水、および乾燥等を実施して、粉末状等の重合体として回収することができる。粉末状等のアクリル系多層構造重合体粒子(A)の分離回収方法としては、塩析凝固法、凍結凝固法、および噴霧乾燥法等が挙げられる。中でも、不純物を水洗により容易に除去できる点から、塩析凝固法および凍結凝固法が好ましい。なお、凝固工程の前に、ラテックスに混入した異物を除去する目的で、目開き50μm以下の金網等を用いて濾過する工程を実施することが好ましい。
【0072】
本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物(C)において、アクリル系多層構造重合体粒子(A)の含有量は40~80質量%が好ましく、50~70質量%がより好ましく、62~67質量%が特に好ましい。
なお、アクリル系多層構造重合体粒子(A)の含有量は、アセトンを用いて以下の方法にて求めるものとする。
熱可塑性樹脂組成物(C)を充分乾燥して水分を除去した後、その質量(W1)を測定する。次に、この熱可塑性樹脂組成物(C)を試験管に入れ、アセトンを加えて溶解し、アセトン可溶部を除去する。その後、真空加熱乾燥機を使用してアセトンを除去し、残留物を得る。この残留物から微粒子を分離し、次に得られた残留物の質量(W2)を測定する。次式に基づいて、アクリル系多層構造重合体粒子(A)の含有量を求める。
[アクリル系多層構造重合体粒子(A)の含有量]=(W2/W1)×100(%)
【0073】
<メタクリル系樹脂(B)>
熱可塑性樹脂(R)は、アクリル系多層構造重合体粒子(A)に併せて、さらに、80質量%以上のメタクリル酸メチル単位を含み、極限粘度が0.3~1.0dl/gであるメタクリル系樹脂(B)を含むことが好ましい。メタクリル系樹脂(B)において、耐熱性の点から、メタクリル酸メチル単位の含有量は85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。メタクリル系樹脂(B)は、1種または2種以上用いることができる。
メタクリル系樹脂(B)は透明性が高く、これを用いることで、熱可塑性樹脂(R)と微粒子(P)との屈折率差を調整しやすく、好ましい。
【0074】
メタクリル系樹脂(B)は、メタクリル酸メチル単位に合わせて、必要に応じて、20質量%以下の共重合可能なビニル系単量体単位を含むことができる。ビニル系単量体としては特に制限されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、およびアクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル単量体;メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、およびメタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル;酢酸ビニル、スチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、α-メチルスチレン、およびビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、およびメタクリロニトリル等のニトリル類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα、β-不飽和カルボン酸;N-エチルマレイミドおよびN-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物等が挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。
【0075】
メタクリル系樹脂(B)の極限粘度は、0.3~1.0dl/gである。メタクリル系樹脂(B)の極限粘度が0.3dl/g未満では、熱可塑性樹脂(R)と微粒子(P)とを含む熱可塑性樹脂組成物(C)を溶融成形する際の粘り強さが低下し、好ましくない。メタクリル系樹脂(B)の極限粘度が1.0dl/g超では、熱可塑性樹脂組成物(C)を溶融成形する際の流動性が低下し、好ましくない。
【0076】
アクリル系多層構造重合体粒子(A)100質量部に対するメタクリル系樹脂(B)の配合量は特に制限されず、好ましくは1~100質量部、より好ましくは5~70質量部、特に好ましくは15~45質量部、最も好ましくは20~30質量部である。メタクリル系樹脂(B)の配合量が100質量部超では、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性が低下する傾向および熱可塑性樹脂フィルムが硬くなる傾向があり、好ましくない。一方で、メタクリル系樹脂(B)の配合量が1質量部以上であると、熱可塑性樹脂フィルムを製膜するときの加工性が安定するため好ましい。
【0077】
メタクリル系樹脂(B)は、市販品またはISO8257-1の規定品を用いることができる。
メタクリル系樹脂(B)は、公知方法により重合して用いることができる。ここで、メタクリル系樹脂(B)の重合法は特に制限されず、例えば乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、および溶液重合法等が挙げられる。
【0078】
(微粒子(P))
本発明の熱可塑性樹脂フィルムに分散される微粒子(P)は、一般に艶消し剤または光拡散剤と呼ばれる微粒子である。微粒子(P)は、無機粒子でも有機粒子でもよい。微粒子(P)は、1種または2種以上用いることができる。
【0079】
微粒子(P)としては例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、シリカ(二酸化珪素)、焼成珪酸カルシウム、焼成カオリン、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、ガラス、タルク、クレイ、マイカ、カーボンブラック、およびホワイトカーボン等の無機粒子;架橋スチレン系樹脂粒子、高分子量スチレン系樹脂粒子、および架橋シロキサン系樹脂粒子等の樹脂粒子等が挙げられる。微粒子(P)は、上記例示の粒子に対して脂肪酸等を用いて表面処理した粒子であってもよい。上記の中でも、マイカ等が好ましい。マイカは、合成マイカと天然マイカのいずれでもよい。
【0080】
<任意成分>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、上記した成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、1種または2種以上の任意成分を含むことができる。
任意成分としては例えば、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、有機色素、耐衝撃性改質剤、発泡剤、充填剤、および蛍光体等の各種添加剤等が挙げられる。
上記任意成分の添加タイミングは特に制限されず、例えば少なくとも1種の熱可塑性樹脂(R)の重合時に添加されてもよいし、重合された少なくとも1種の熱可塑性樹脂(R)に添加されてもよいし、少なくとも1種の熱可塑性樹脂(R)、微粒子(P)、および必要に応じて任意成分の混練時あるいは混練後に添加されてもよい。
【0081】
<酸化防止剤>
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、およびチオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、同一分子中にリン系酸化防止剤の効果を持つ部分およびヒンダードフェノール系酸化防止剤の効果を持つ部分を含む酸化防止剤を用いることもできる。これらの酸化防止剤は1種または2種以上を用いることができる。中でも、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤およびヒンダードフェノール系酸化防止剤等が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤の使用量:ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量は、質量比で、1:5~2:1が好ましく、1:2~1:1がより好ましい。
【0082】
リン系酸化防止剤としては例えば、2,2-メチレンビス(4,6-ジt-ブチルフェニル)オクチルホスファイト(ADEKA社製;商品名:アデカスタブHP-10)、トリス(2,4-ジt-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)、および3,9-ビス(2,6-ジt-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA社製;商品名:アデカスタブPEP-36)等が好ましい。
【0083】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては例えば、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジt-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANOX1010)、およびオクタデシル-3-(3,5-ジt-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)等が好ましい。
【0084】
同一分子中にリン系酸化防止剤の効果を持つ部分およびヒンダードフェノール系酸化防止剤の効果を持つ部分を含む酸化防止剤としては例えば、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]-ジオキサスホスフェピン(住友化学工業社製;商品名:Sumilizer GP)等が好ましい。
【0085】
<熱劣化防止剤>
熱劣化防止剤は、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。熱劣化防止剤としては例えば、2-t-ブチル-6-(3’-t-ブチル-5’-メチル-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、および2,4-ジt-アミル-6-(3’,5’-ジt-アミル-2’-ヒドロキシ-α-メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)等が好ましい。
【0086】
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物である。紫外線吸収剤は、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる化合物である。紫外線吸収剤としては例えば、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、およびホルムアミジン類等が挙げられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。上記の中でも、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、または波長380~450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤が好ましい。
【0087】
ベンゾトリアゾール類は、紫外線被照による着色等の光学特性低下を抑制する効果が高い。ベンゾトリアゾール類としては例えば、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、および、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール](ADEKA社製;LA-31)等が好ましい。
【0088】
波長380~450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤は、得られる熱可塑性樹脂フィルムの黄色味を抑制できる。このような紫外線吸収剤としては例えば、2-エチル-2’-エトキシ-オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;商品名サンデユボアVSU)等が挙げられる。
【0089】
上記した紫外線吸収剤の中で、紫外線被照による樹脂劣化が抑えられるという観点から、ベンゾトリアゾール類等が好ましく用いられる。
【0090】
また、波長380nm付近の波長を効率的に吸収したい場合は、トリアジン類の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。このような紫外線吸収剤としては例えば、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン(ADEKA社製;LA-F70)、およびその類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;TINUVIN477-DやTINUVIN460やTINUVIN479)等が挙げられる。
【0091】
さらに380~400nmの波長の光を特に効果的に吸収したい場合は、国際公開第2011/089794号公報、国際公開第2012/124395号公報、特開2012-012476号公報、特開2013-023461号公報、特開2013-112790号公報、特開2013-194037号公報、特開2014-62228号公報、特開2014-88542号公報、および特開2014-88543号公報等に開示される複素環構造の配位子を有する金属錯体(例えば、下記式(A)で表される構造の化合物等)を紫外線吸収剤として用いることが好ましい。
【0092】
【0093】
式(A)中、Mは金属原子である。Y1、Y2、Y3およびY4はそれぞれ独立に、炭素原子以外の二価基(酸素原子、硫黄原子、NH、およびNR5等)である。ここで、R5はアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロアラルキル基、およびアラルキル基等の置換基である。この置換基は、この置換基にさらに置換基を有してもよい。Z1およびZ2はそれぞれ独立に、三価基(窒素原子、CH、およびCR6等)である。ここで、R6はアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロアラルキル基、およびアラルキル基等の置換基である。この置換基は、この置換基にさらに置換基を有してもよい。R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシル基、ハロゲノ基、アルキルスルホニル基、モノホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基、およびピペラジノスルホニル基等の置換基である。この置換基は、この置換基にさらに置換基を有してもよい。a、b、cおよびdはそれぞれR1、R2、R3およびR4の数を示し、それぞれ1~4のいずれかの整数である。
【0094】
複素環構造の配位子としては例えば、2,2’-イミノビスベンゾチアゾール、2-(2-ベンゾチアゾリルアミノ)ベンゾオキサゾール、2-(2-ベンゾチアゾリルアミノ)ベンゾイミダゾール、(2-ベンゾチアゾリル)(2-ベンゾイミダゾリル)メタン、ビス(2-ベンゾオキサゾリル)メタン、ビス(2-ベンゾチアゾリル)メタン、ビス[2-(N-置換)ベンゾイミダゾリル]メタン、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
金属錯体の中心金属としては、銅、ニッケル、コバルト、および亜鉛が好ましく用いられる。
【0095】
金属錯体を紫外線吸収剤として用いるために、低分子化合物あるいは重合体等の媒体に金属錯体を分散させることが好ましい。金属錯体の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.1~2質量部である。金属錯体は380~400nmの波長におけるモル吸光係数が大きいので、充分な紫外線吸収効果を得るために添加する量が少なくて済む。添加量が少なくなればブリードアウト等によるフィルム外観の悪化を抑制することができる。また、金属錯体は耐熱性が高いので、製膜時の劣化あるいは分解が少ない。さらに金属錯体は耐光性が高いので、紫外線吸収性能を長期間保持することができる。
【0096】
なお、紫外線吸収剤のモル吸光係数の最大値εmaxは、次のようにして測定する。シクロヘキサン1Lに紫外線吸収剤10.00mgを添加し、目視による観察で未溶解物がないように溶解させる。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに注入し、日立製作所社製U-3410型分光光度計を用い、波長380~450nmでの吸光度を測定する。紫外線吸収剤の分子量(MUV)と、測定された吸光度の最大値(Amax)とから次式により計算し、モル吸光係数の最大値εmaxを算出する。
εmax=[Amax/(10×10-3)]×MUV
【0097】
<光安定剤>
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類等が挙げられる。
【0098】
<滑剤>
滑剤としては例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、および硬化油等が挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。
【0099】
<離型剤>
離型剤としては例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。
離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコール類の使用量:グリセリン脂肪酸モノエステルの使用量は、質量比で、2.5:1~3.5:1が好ましく、2.8:1~3.2:1がより好ましい。
【0100】
<高分子加工助剤>
高分子加工助剤としては例えば、乳化重合法によって製造され、60質量%以上のメタクリル酸メチル単位およびこれと共重合可能な40質量%以下のビニル系単量体単位からなり、平均重合度が3,000~40,000であり、0.05~0.5μmの粒子径を有する重合体粒子が用いられる。かかる重合体粒子は、単一組成および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、組成または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。特に、内層に比較的低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の比較的高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましい。高分子加工助剤は、極限粘度が3~6dl/gであることが好ましい。極限粘度が過小あるいは過大では、製膜性が低下する恐れがある。具体的には、三菱レイヨン社製メタブレン-Pシリーズ、ロームアンドハース社製、ダウケミカル社製、および呉羽化学社製のパラロイドシリーズ等が挙げられる。本発明の熱可塑性樹脂フィルムに配合される高分子加工助剤の量は、熱可塑性樹脂の合計量100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部である。高分子加工助剤の配合量は、0.1質量部未満では成形性が低下する恐れがあり、5質量部超では溶融流動性が低下する恐れがある。
【0101】
<有機色素>
有機色素としては、紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物等が好ましく用いられる。
【0102】
<蛍光体>
蛍光体としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、および蛍光漂白剤等が挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。
【0103】
上記各種添加剤の合計量は特に制限されず、一般に熱可塑性樹脂フィルム100質量%中、0.01~20質量%、好ましくは0.05~1.5質量%である。
【0104】
加飾用フィルム等の用途において、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、JIS Z 0208に準拠して測定される、温度40℃および相対湿度90%における透湿度が80g/day/m2以下であることが好ましい。透湿度が上記規定を充足する場合、湿気による基材への影響が抑制され、好ましい。
【0105】
「熱可塑性樹脂フィルムの製造方法」
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂(R)、微粒子(P)、および必要に応じて他の任意成分を含む熱可塑性樹脂組成物(C)を用いて製造することができる。熱可塑性樹脂組成物(C)中において、各成分は略均一に分散していることが好ましい。
熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、熱可塑性樹脂(R)と微粒子(P)とを含む複数種の原料を溶融混練して熱可塑性樹脂組成物(C)を調製し、得られた熱可塑性樹脂組成物(C)をフィルム成形する方法が好ましい。
【0106】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂組成物(C)をTダイからフィルム状に溶融押出する工程と、フィルム状に押出された溶融物(以下、単に「溶融物」と略記する場合がある。)を、双方が金属剛体ロールである一対の冷却ロール、若しくは、一方が金属剛体ロールであり、他方が金属弾性ロールである一対の冷却ロールで挟持する工程とを有することが好ましい。
【0107】
<溶融混練>
熱可塑性樹脂(R)と微粒子(P)とを含む複数種の原料は、一括して溶融混練してもよいし、複数回に分けて溶融混練してもよい。溶融混練は例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、およびバンバリーミキサー等の溶融混練装置を用いて行うことができる。混練温度は、樹脂成分の溶融温度に応じて適宜調節され、通常140℃~300℃の範囲内が好ましい。溶融混練時に熱可塑性樹脂組成物(C)にかかる剪断速度は、好ましくは100sec-1以上であり、より好ましくは200sec-1以上である。
上記温度にて溶融混練を実施した後、得られた溶融混練物を120℃以下の温度に冷却する。冷却は、自然放冷よりも急速冷却が好ましい。急速冷却法としては、溶融状態のストランドを冷水槽に浸漬する方法等が挙げられる。
溶融混練により得られる熱可塑性樹脂組成物(C)は、保存、運搬または成形時の利便性を高めるために、ペレット、顆粒、および粉末等の任意の形態にしてもよい。
【0108】
<フィルム成形>
フィルム成形法としては、押出成形法、溶液キャスト法、溶融流延法、インフレーション成形法、およびブロー成形法等が挙げられる。中でも、押出成形法が好ましい。押出成形法によれば、透明性が高く、厚さの均一性が良好で、表面平滑性が良好なフィルムを、比較的高い生産性で得ることができる。
【0109】
押出成形法では、Tダイ付き押出機が好ましく用いられる。Tダイ付き押出機は、原料の熱可塑性樹脂組成物(C)が投入されるホッパ等の原料投入部と、投入された熱可塑性樹脂組成物(C)を加熱溶融し、Tダイ側に送り出すスクリュー部と、加熱溶融された熱可塑性樹脂組成物(C)をフィルム状に押出すTダイとを備える。
【0110】
Tダイ付き押出機において、溶融樹脂はギアポンプを用いてTダイに定量供給されることが好ましい。これによって、厚み精度の高いフィルムを製造することができる。
溶融樹脂はまた、ポリマーフィルタ等を用いたろ過により不純物が除去された後、Tダイに供給されることが好ましい。Tダイ付き押出機の設定温度は特に制限されず、熱可塑性樹脂組成物(C)の組成に応じて設定され、好ましくは160~300℃、より好ましくは220~280℃、さらに好ましくは240~270℃、特に好ましくは250~260℃である。また、押出機の先端からTダイまでの間も同様の温度に設定されることが好ましい。なお、Tダイ付き押出機の設定温度が、熱可塑性樹脂組成物(C)の溶融温度(加工温度)である。
【0111】
上記温度で溶融状態となった熱可塑性樹脂組成物(C)は、Tダイの吐出口から垂直下方にフィルム状に押出される。Tダイの温度分布は好ましくは±15℃以下、より好ましくは±5℃以下、特に好ましくは±1℃以下である。Tダイの温度分布が±15℃超の場合、溶融樹脂に粘度ムラが生じて、得られるフィルムに、厚みムラ、および応力ムラによる歪み等が生じる恐れがあり、好ましくない。
【0112】
Tダイから押出された溶融物の冷却方法としては、ニップロール方式、静電印加方式、エアナイフ方式、カレンダー方式、片面ベルト方式、両面ベルト方式、および3本ロール方式等が挙げられる。本発明では、ニップロール方式が好ましい。ニップロール方式により、印刷性に優れるフィルムが得られやすい。
ニップロール方式では、Tダイから押出された溶融物は、熱可塑性樹脂フィルムの所望の厚みに対応した離間距離の離間部を空けて互いに隣接して配置された複数の冷却ロール(ニップロール)を含む冷却ロールユニットにより加圧および冷却される。
以下、冷却ロールユニットにおいて、上流側からn番目(nは1以上の整数)の冷却ロールを、「第nの冷却ロール」と称す。冷却ロールユニットは、少なくとも、Tダイの吐出口の下方に離間部を有する第1の冷却ロールと第2の冷却ロールとを含む。冷却ロールの数は2以上であり、3~4が好ましい。
【0113】
Tダイから押出された溶融物は、第1の冷却ロールと第2の冷却ロールとの間で挟持され、加圧および冷却されて、熱可塑性樹脂フィルムとなる。なお、熱可塑性樹脂フィルムは、冷却ロールユニットだけでは充分に冷却されず、最下流の冷却ロールから離れる時点においても、熱可塑性樹脂フィルムは通常、完全には固化していない。最下流の冷却ロールから離れた後、熱可塑性樹脂フィルムは流下しながら、さらに冷却されていく。
【0114】
本発明においては、第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロールは、双方が金属剛体ロールである、若しくは、一方が金属剛体ロールであり、他方が金属弾性ロールであることが好ましい。
【0115】
金属剛体ロールは、フィルム製造中に変形しない高剛性を有する金属ロールである。金属剛体ロールの表面は平滑面であり、好ましくは鏡面である。金属剛体ロールとしては、従来より一般に押出成形で使用されている公知の金属剛体ロールを用いることができる。金属剛体ロールとしては例えば、ドリルドロールまたはスパイラルロール等の金属製中空ロールからなる内ロールと表面が平滑な金属製の外筒とを含み、内ロールの内部および/または内ロールと外筒との間に冷却流体が流下する二重構造の金属剛体ロールが用いられる。外筒の厚みは、フィルム製造中に変形しないだけの充分な厚みを有し、例えば20mm程度である。内ロールおよび外筒の材料は特に制限されず、ステンレス鋼およびクロム鋼等が挙げられる。
【0116】
金属弾性ロールは、フィルム製造中に表面が弾性変形可能な金属ロールである。金属弾性ロールの表面は平滑面であり、好ましくは鏡面である。金属弾性ロールとしては、従来より一般に押出成形で使用されている公知の金属弾性ロールを用いることができる。金属弾性ロールとしては例えば、金属製中空ロールからなる内ロールと表面が平滑でフィルム製造中に弾性変形可能な金属製の外筒とを含み、内ロールの内部および/または内ロールと外筒との間に冷却流体が流下する二重構造の金属弾性ロールが用いられる。内ロールと外筒との間には、ゴムまたは冷却目的ではない任意の流体を介在させてもよい。外筒の厚みは、フィルム製造中に破断せずに弾性変形可能な充分に薄い厚みを有し、例えば2~8mm程度である。外筒は、溶接継ぎ部のないシームレス構造であることが好ましい。内ロールおよび外筒の材料は特に制限されず、ステンレス鋼およびクロム鋼等が挙げられる。
【0117】
金属剛体ロールを2本用いた場合は、いずれのロールも外筒が変形せず、溶融物に対して断面視では点接触する。これに対して、金属弾性ロールは、溶融物が押圧されるのに追随して弾性変形する。そのため、金属弾性ロールを少なくとも1本用いた場合、溶融物と金属弾性ロールの断面視での接触長が相対的に長く、断面視で線接触することができ、溶融物をより均一な線圧で加圧することができる。
【0118】
溶融物を第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロールで挟持することで、フィルムの製膜性が良好となり、フィルムの厚みムラおよび筋の発生を抑制することができる。フィルムの薄膜化も可能である。
さらに、溶融物を挟持する第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロールとして、表面が平滑面、好ましくは鏡面である、金属剛体ロールまたは金属弾性ロールを用いることで、少なくとも一方のフィルム面を、常温で高光沢を有し、良好な印刷性を有する面とすることができる。基本的には、両フィルム面を、常温で高光沢を有し、良好な印刷性を有する面とすることができる。
なお、上記したように、本発明では、フィルムの製造段階においては、良好な艶消し外観を有している必要がなく、艶消し剤である微粒子(P)をフィルム面から充分に突出させる必要がない。したがって、艶消し剤である微粒子(P)を分散させた熱可塑性樹脂組成物(C)をフィルム状に成形した後、得られた溶融物を一対の冷却ロールで挟持することで、微粒子(P)がフィルム内部に押し込まれ、艶消し外観が損なわれていても差し支えない。
なお、金属剛体ロールまたは金属弾性ロールに比して、ゴムロール等の非金属ロールは表面平滑性が低く、高光沢なフィルム面を得ることが難しい。
【0119】
本発明の製造方法では、第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロールの双方に金属剛体ロールを用いることができる。ただし、上記したように、金属弾性ロールを用いる場合、溶融物と金属弾性ロールとの断面視接触長が相対的に長く、溶融物をより均一な線圧で加圧することができる。そのため、フィルム中の残留応力の低減効果およびフィルムの薄膜化効果等が得られる。したがって、一方の冷却ロール(第1の冷却ロールまたは第2の冷却ロール)は金属弾性ロールを用いることが好ましい。
なお、金属弾性ロールを用いる場合、溶融物を反対側から断面視点で支持する金属剛体ロールが必須である。すなわち、本発明では、第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロールのうち、一方は金属剛体ロールを用い、他方は金属弾性ロールを用いることが特に好ましい。
【0120】
第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロールのうち少なくとも一方は、ロール両端部の外径がロール中央部の外径よりも多少小さく設計されていることが好ましい。この場合、外周面に形成されるロール両端部とロール中央部との間の段差は、好ましくは0.5~1.0mmである。少なくとも一方の冷却ロールの外周面に上記段差が形成されていると、フィルムの両端部の厚みを中央部よりも若干厚くすることができ、両端部から切れが発生して生産性が低下することを抑制することができる。上記段差の形状は特に制限されず、垂直状、テーパ状、および階段状のいずれでもよい。なお、フィルムの中央部より多少厚くしたフィルムの両端部は、必要に応じて、後工程で切断除去することができる。
【0121】
第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロールから溶融物にかかる線圧は特に制限されず、溶融物の均一加圧の観点から、好ましくは5kg/cm以上、より好ましくは10kg/cm以上、さらに好ましくは20kg/cm以上、特に好ましくは30kg/cm以上である。第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロールから溶融物にかかる線圧の上限は特に制限されず、冷却ロールが弾性変形でき、フィルムの破断を防止できることから、50kg/cm程度である。
【0122】
上記したように、本発明の製造方法では、好ましくは、微粒子(P)が分散した熱可塑性樹脂組成物(C)を溶融押出した後、双方が金属剛体ロールである一対の冷却ロール、若しくは、一方が金属剛体ロールであり、他方が金属弾性ロールである一対の冷却ロール(第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロール)で溶融物を挟持する。
この方法では、溶融物の一対の冷却ロールへの密着性および剥離性が良好で、フィルム面に微粒子(P)が突出することを抑制することができ、製造時において少なくとも一方のフィルム面が高光沢で印刷性に優れる熱可塑性樹脂フィルムを製造することができる。
【0123】
冷却ロールの表面温度と熱可塑性樹脂組成物(C)のガラス転移温度(Tg)との差が小さくなる程、溶融物の冷却ロールへの密着性が向上して得られるフィルムの表面平滑性および表面光沢性が向上する一方、溶融物の冷却ロールからの剥離性が低下する傾向がある。
本発明の製造方法において、第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロールのうち、一方の冷却ロールの表面温度をT1とし、他方の冷却ロールの表面温度をT2とし(ただし、T2≧T1である。)、熱可塑性樹脂組成物(C)のガラス転移温度(Tg)をTgCとしたとき、下記式(4)を充足することが好ましく、下記式(5)を充足することがより好ましい。
10≦|TgC-T2|≦40・・・(4)
15≦|TgC-T2|≦20・・・(5)
【0124】
本発明に用いて好適な熱可塑性樹脂組成物(C)のTgCは、好ましくは70~125℃、より好ましくは90~110℃である。T2は、好ましくは60~90℃、より好ましくは70~80℃である。T2が60~90℃であれば、フィルムの表面平滑性および表面光沢性と溶融物の冷却ロールからの剥離性とのバランスが良好となり、好ましい。
【0125】
熱可塑性樹脂フィルムは、第1の冷却ロールおよび第2の冷却ロールにより充分に加圧および冷却されるので、冷却ロールユニットが第3以降の冷却ロールを含む場合、その材質は特に制限されない。第3以降の冷却ロールとしては、金属剛体ロールが好ましい。
また、冷却ロールユニットが第3以降の冷却ロールを含む場合、そのロールの表面温度は特に制限されない。第3以降の冷却ロールの表面温度は、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃である。
【0126】
「フィルム製造装置」
図1に、押出成形法によるフィルム製造装置の一実施形態を示す。
図1は、フィルム製造装置の模式図である。
【0127】
図1に示すように、フィルム製造装置1は、原料の樹脂組成物210M(樹脂組成物(C))を加熱溶融し、フィルム状に押出す押出成形手段110を備える。本実施形態において、押出成形手段110は、原料の樹脂組成物210Mが投入されるホッパ等の原料投入部111と、樹脂組成物210Mを加熱溶融し、押出すスクリュー部112と、加熱溶融された樹脂組成物210Mをフィルム状に吐出する吐出口113Aを含むTダイ113とを備えたTダイ付き押出機である。
【0128】
フィルム製造装置1はまた、樹脂フィルム210の所望の厚みに対応した離間距離の離間部を空けて互いに隣接して配置され、Tダイ付き押出成形手段110により押出された溶融物を加圧しながら冷却する複数の冷却ロールからなる冷却ロールユニット120を有する。冷却ロールユニット120は、少なくとも、Tダイ113の吐出口113Aの下方に離間部を有する第1の冷却ロール121と第2の冷却ロール122とを含む。
【0129】
Tダイ113から押出された溶融物は、第1の冷却ロール121と第2の冷却ロール122との間で挟持され、加圧および冷却されて、樹脂フィルム210となる。この時点では、樹脂フィルム210は充分に冷却されておらず、完全には固化していない。
【0130】
図示する例では、冷却ロールユニット120は、第1の冷却ロール121と第2の冷却ロール122と第3の冷却ロール123と第4の冷却ロール124とを含む。第1の冷却ロール121と第2の冷却ロール122との間で挟持され、加圧および冷却された得られた溶融物は、第1の冷却ロール121から離れて第2の冷却ロール122の面上を通りながら冷却され、第2の冷却ロール122と第3の冷却ロール123との間に供され、加圧される。溶融物から次第に形成される樹脂フィルム210はさらに、第2の冷却ロール122から離れて第3の冷却ロール123の面上を通りながら冷却され、第3の冷却ロール123と第4の冷却ロール124との間に供され、加圧される。なお、樹脂フィルム210は、第2の冷却ロール122と第3の冷却ロール123との間で、および/または第3の冷却ロール123と第4の冷却ロール124との間で加圧されなくてもよい(図示略)。樹脂フィルム210はさらに、第3の冷却ロール123から離れて第4の冷却ロール124の面上を通りながら冷却された後、第4の冷却ロール124から離れて、次の工程に向かう。なお、この時点では、樹脂フィルム210は充分に冷却されておらず、完全には固化していない。
【0131】
本実施形態において、押出成形手段110のTダイ113および冷却ロールユニット120は、第1の製造室R1内に配置される。第1の製造室R1内の環境温度は特に調整されておらず、加熱溶融樹脂の存在により常温(20~25℃)より高めの例えば35~40℃程度である。
【0132】
本実施形態において、第1の製造室R1に隣接して、第2の製造室R2が設けられている。第2の製造室R2内の環境温度は、冷却ロールユニット120により加圧および冷却されて得られた樹脂フィルム210を徐冷するため、20~50℃の温度範囲内に調整されることが好ましい。第2の製造室R2内の環境温度は、公知の空調設備等を用いて調整することができる。
【0133】
フィルム製造装置1は必要に応じて、樹脂フィルム210を延伸する公知の延伸手段を有することができる(図示略)。フィルム製造装置1は必要に応じて、製造された樹脂フィルム210の少なくとも一方のフィルム面に保護フィルムを貼着する公知の保護フィルム貼着手段を有することができる(図示略)。フィルム製造装置1は必要に応じて、製造された樹脂フィルム210を巻き取る巻取りロールを有することができる(図示略)。
【0134】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは特に制限されない。
なお、[課題を解決するための手段]の項にて説明したように、通常、厚みが5~250μmの場合は主に「フィルム」に分類され、250μmより厚い場合には主に「シート」に分類されるが、本明細書では、フィルムとシートとを明確に区別せず、両者を合わせて「フィルム」と称している。
上記製造方法にて製造される未延伸の熱可塑性樹脂フィルム(未延伸フィルム)の厚みは、好ましくは10~500μm、より好ましくは30~400μm、特に好ましくは40~300μm、最も好ましくは50~200μmである。厚みが10μm未満のフィルムは、製造が難しくなる傾向がある。厚みが500μmより厚くなると、ラミネート性、ハンドリング性、切断性、および打抜き性等の二次加工性が低下し、単位面積あたりの材料コストも増大する傾向がある。
【0135】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、延伸フィルムであってもよい。すなわち、上記未延伸フィルムに対して延伸処理を施して、延伸フィルムとしてもよい。延伸処理によって機械的強度が高まり、ひび割れし難いフィルムを得ることができる。延伸方法は特に限定されず、例えば同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチュブラー延伸法等が挙げられる。均一に延伸でき、高強度のフィルムが得られるという観点から、延伸温度の下限は好ましくは熱可塑性樹脂組成物(C)のガラス転移温度(Tg)より10℃高い温度であり、延伸温度の上限は好ましくは熱可塑性樹脂組成物(C)のガラス転移温度(Tg)より40℃高い温度である。
【0136】
「印刷樹脂フィルム」
本発明の印刷樹脂フィルムは、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方のフィルム面に印刷が施されたものである。通常は、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムの一方のフィルム面に印刷が施される。上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムは常温において、少なくとも一方のフィルム面が高光沢性を有するため、高光沢性を有するフィルム面に印刷を施すことで、印刷抜けが抑制され、良好な印刷外観を有する印刷樹脂フィルムを提供することができる。
なお、上記したように、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によれば、両フィルム面が高光沢性を有する熱可塑性樹脂フィルムを製造することができる。一対のフィルム面のGL値が異なる場合、より高品位な印刷が可能なことから、GL値の高い方の面に印刷を施すことが好ましい。
印刷方法としては特に制限されず、例えばグラビア印刷法、フレキソグラフ印刷法、およびシルクスクリーン印刷法等の公知の印刷方法を用いることができる。
なお、基材上に本発明の印刷樹脂フィルムを積層する場合は、印刷面が基材と接するよう積層することが、印刷面の保護および高級感の付与の点から好ましい。
【0137】
「艶消し樹脂フィルム」
本発明の艶消し樹脂フィルムは、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムが加熱処理されて得られたものである。熱可塑性樹脂フィルムは少なくとも一方のフィルム面に印刷が施されたものであることが好ましい。
上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムを用いることで、印刷抜けが抑制され、良好な印刷外観を有し、かつ、良好な艶消し外観を有する艶消し樹脂フィルムを提供することができる。
【0138】
艶消し発現のための加熱処理の温度および時間は、少なくとも一方のフィルム面およびその近傍の熱可塑性樹脂組成物(C)が充分に軟化して、充分な量の微粒子(P)がフィルム面に突出して、良好な艶消し外観を発現する温度に設定される。加熱処理温度は、熱可塑性樹脂組成物(C)の軟化温度以上であり、Tg~Tg+50℃が好ましく、Tg+10℃~Tg+20℃がより好ましい。加熱処理時間は、15分~30分が好ましい。
【0139】
加熱処理温度は高い程、加熱処理時間は長い程、微粒子(P)のフィルム面における突出レベルが高くなり、艶消しの度合が高くなる傾向がある。本発明では、フィルム製造後の加熱処理条件を調整することで、艶消しの度合を調整することが可能である。加熱手段としては例えば、オーブン、乾燥機、および恒温器等を用いることができるが、所定の温度を保持できるものであればこれらに限定されない。例えば、後述するラミネート、圧空成形、および真空成形等の後加工において、熱可塑性樹脂フィルムを加熱して軟化させる工程が上記加熱処理を兼ねてもよい。ただし、熱可塑性樹脂フィルムに、表面平滑なプレス機を用いて熱プレスにより加熱処理すると、艶消しの度合が低下する傾向となるため好ましくない。すなわち、加熱処理は加圧状態で行ってもよいが、非加圧状態で行うことが好ましい。
【0140】
「積層フィルム」
本発明の積層フィルムは、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルム、上記の本発明の印刷樹脂フィルム、または上記の本発明の艶消し樹脂フィルムからなる樹脂層を含む複数の層を有するフィルムである。
【0141】
上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルム、上記の本発明の印刷樹脂フィルム、または上記の本発明の艶消し樹脂フィルムの少なくとも一方のフィルム面に、各種機能層を設けることができる。機能層としては例えば、ハードコート層、アンチグレア層、反射防止層、スティッキング防止層、拡散層、防眩層、静電気防止層、防汚層、易接着層、および微粒子等を含む易滑性層等が挙げられる。
【0142】
上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルム、上記の本発明の印刷樹脂フィルム、または上記の本発明の艶消し樹脂フィルムは、任意の熱可塑性樹脂(組成物)との接着性に優れるため、少なくとも一方のフィルム面に、樹脂組成の異なる少なくとも1層の熱可塑性樹脂層を積層することができる。
【0143】
積層フィルムの製造方法は、特に制限されない。
上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムを含む積層フィルムの製造方法としては、
(1)上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムの原料樹脂組成物(C)と、他の熱可塑性樹脂(組成物)とを溶融共押出して、積層フィルムを製造する方法、
(2)上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムの原料樹脂組成物(C)と、他の熱可塑性樹脂(組成物)のいずれか一方について、あらかじめフィルムを得、得られたフィルムに対して他方を溶融押出被覆して、積層フィルムを製造する方法、
(3)上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムの原料樹脂組成物(C)と、他の熱可塑性樹脂(組成物)との双方について、あらかじめフィルムを得、これらをプレス、圧空、真空等を用いて熱圧着する方法、
(4)上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルムの原料樹脂組成物(C)について、あらかじめフィルムを得、得られたフィルム上にて重合性組成物を重合させて、積層フィルムを製造する方法等が挙げられる。
なお、上記方法(3)において、プレス熱圧着の工程では、微粒子(P)はフィルム面に突出せず、艶消しは発現しない。
【0144】
上記(1)~(4)のうちいずれかの方法で得られた積層フィルムに対して、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの露出面に印刷を施すことで、上記の本発明の印刷樹脂フィルムを含む積層フィルムが得られる。さらに、この積層フィルムを加熱処理することで、上記の本発明の艶消し樹脂フィルムを含む積層フィルムが得られる。
【0145】
積層に適した他の熱可塑性樹脂としては特に制限されず、例えばカーボネート系重合体、塩化ビニル系重合体、フッ化ビニリデン系重合体、(メタ)アクリル系樹脂、ABS系樹脂、AES系樹脂、および、AS系樹脂等が挙げられる。これらは、1種または2種以上用いることができる。
【0146】
「積層体」
本発明の積層体は、基材上に、上記の本発明の熱可塑性樹脂フィルム、上記の本発明の印刷樹脂フィルム、上記の本発明の艶消し樹脂フィルム、または上記の本発明の積層フィルムが積層されたものである。基材上に、上記フィルムを積層することで、基材の意匠性向上を図ることができる。また、基材保護の効果も得られる。
【0147】
基材の材質としては特に制限されず、樹脂、鋼材、木材、ガラス、およびこれらの複合材料等が挙げられる。基材に用いられる樹脂としては特に制限されず、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられる。基材に用いられる熱可塑性樹脂としては、カーボネート系樹脂、エチレンテレフタレート系樹脂、アミド系樹脂、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、およびABS系樹脂等が挙げられる。基材に用いられる熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、およびメラミン系樹脂等が挙げられる。
本発明の積層体の製造方法は特に制限されず、接着、ラミネート、圧空成形、真空成形、三次元表面加飾成形(Three dimension Overlay Method:TOM成形)、インサート成形、およびインモールド成形等が挙げられる。
【0148】
基材の材質が樹脂の場合には、基材の表面に対して、本発明の熱可塑性樹脂フィルム、本発明の印刷樹脂フィルム、または本発明の積層フィルムを、加熱下で、真空成形、圧空成形、または圧縮成形する方法が好ましい。中でも、射出成形同時貼合法が特に好ましい。射出成形同時貼合法は、射出成形用の一対の雌雄金型間に本発明の熱可塑性樹脂フィルム、本発明の印刷樹脂フィルム、または本発明の積層フィルムを挿入した後、金型内(フィルムの片面上)に溶融した熱可塑性樹脂を射出成形する方法である。この方法では、射出成形体の製造と同時にフィルムの貼合を同時に実施できる。
金型内に挿入されるフィルムは、平らなものでもよいし、真空成形または圧空成形等で予備成形して得られた凹凸形状のものでもよい。フィルムの予備成形は、別個の成形機で行ってもよいし、射出成形同時貼合法に用いる射出成形機の金型内で行ってもよい。なお、フィルムを予備成形した後、その片面に溶融樹脂を射出する方法は、インサート成形法と呼ばれる。
基材の材質が樹脂の場合には、基材と積層するフィルムとを共押出成形する方法もある。
【0149】
なお、本発明の積層体では、良好な艶消し外観を発現させるために、最表層を本発明の熱可塑性樹脂フィルムとする。上記成形後にさらに加熱処理を行うことで、良好な艶消し外観を発現させることができる。これにより、本発明の艶消し樹脂フィルムを含む積層体が得られる。
【0150】
さらに、基材に複合させた本発明のフィルムの上に紫外線(UV)または電子線(EB)の照射によって硬化してなるコーティング層を付与することができる。この場合、意匠性または基材保護性を一層高めることができる。
【0151】
「用途」
本発明の熱可塑性樹脂フィルム、本発明の印刷樹脂フィルム、本発明の艶消し樹脂フィルム、本発明の積層フィルム、および本発明の積層体は、任意の用途に使用でき、意匠性の要求される各種用途に好ましく利用でき、艶消し外観が求められる用途に好適である。
本発明の熱可塑性樹脂フィルム、本発明の印刷樹脂フィルム、本発明の艶消し樹脂フィルム、および本発明の積層フィルムは、加飾用フィルムおよび建材用フィルム等に好ましく利用できる。
【0152】
好適な用途としては例えば、家具、ペンダントライト、およびミラー等のインテリア部品;および、ドア、サッシ、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、およびレジャー用建築物の屋根等の建築用部品等が挙げられる。
その他の用途としては例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、および屋上看板等の看板部品またはマーキングフィルム;ショーケース、仕切板、および店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、およびシャンデリア等の照明部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ風防、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、自動車内装部材、およびバンパー等の自動車外装部材等の輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機、携帯電話、およびパソコン等の電子機器部品;保育器、およびレントゲン部品等の医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、および観察窓等の機器関係部品;太陽電池のバックフィルム、およびフレキシブル太陽電池用フロントフィルム等の太陽電池用部品;各種家電製品;道路標識、案内板、カーブミラー、および防音壁等の交通関係部品;温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ等の浴室部材、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、楽器、壁紙、および熔接時の顔面保護用マスク等の表面に設けられる加飾フィルム兼保護フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0153】
以下に、実施例および比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されない。なお、以下の記載において、特に明記しない限り、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
【0154】
[評価項目および評価方法]
各種評価は、以下の方法により行った。
(微粒子(P)の体積平均粒子径)
微粒子(P)の体積平均粒子径は、[課題を解決するための手段]の項に規定する方法にて、測定した。
(フィルムの全体ヘイズ、内部ヘイズ、および外部ヘイズ)
熱可塑性樹脂フィルムの全体ヘイズ、内部ヘイズ、および外部ヘイズは、[課題を解決するための手段]の項に規定する方法にて、測定した。
(ガラス転移温度(Tg))
樹脂(組成物)のガラス転移温度(Tg)は、[課題を解決するための手段]の項に規定する方法にて、測定した。
(グロス(光沢度)GL、GH)
熱可塑性樹脂フィルムのグロスGL、GHは、[課題を解決するための手段]の項に規定する方法にて、測定した。
(フィルムの印刷性)
熱可塑性樹脂フィルムをグラビア印刷機にかけて、GL値の高い方のフィルム面に文字および図柄の印刷を施した。下記基準に基づいて、印刷性を評価した。
<判定基準>
A(良):印刷抜けが見られない。
B(可):わずかに印刷抜けが見られる。
C(不可):印刷抜けが見られる。
【0155】
(製造例1)アクリル系多層構造重合体粒子(AX)の重合:
(1)攪拌機、温度計、窒素ガス導入部、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器内に、脱イオン水200部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部および炭酸ナトリウム0.05部を仕込み、容器内を窒素ガスで充分に置換して実質的に酸素がない状態にした後、内温を80℃に設定した。そこに、過硫酸カリウム0.01部を投入し、5分間攪拌した後、メタクリル酸メチル9.48部、アクリル酸n-ブチル0.5部およびメタクリル酸アリル0.02部からなる単量体混合物を20分かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
【0156】
(2)次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム0.03部を投入して5分間攪拌した後、メタクリル酸メチル1.45部、アクリル酸n-ブチル27.67部およびメタクリル酸アリル0.88部からなる単量体混合物を40分間かけて連続的に滴下供給した。添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
【0157】
(3)次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.06部を投入して5分間攪拌した後、メタクリル酸メチル53.73部、アクリル酸n-ブチル5.97部およびn-オクチルメルカプタン(連鎖移動剤)0.3部を含む単量体混合物を100分間かけて連続的に滴下供給し、添加終了後、重合率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行って、アクリル系多層構造重合体粒子(AX-1)を含むラテックスを得た。平均粒子径は0.09μmであった。
続いて、アクリル系多層構造重合体粒子(AX-1)を含むラテックスを-30℃で4時間かけて凍結させた。凍結したラテックスの2倍量の80℃温水に凍結ラテックスを投入、溶解してスラリーとした後、20分間80℃に保持した後、脱水し、70℃で乾燥した。
以上のようにして、粉末状の3層構造のアクリル系多層構造重合体粒子(AX-1)と直鎖のメタクリル系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物(AX-2)を得た。さらに、公知方法にて、この熱可塑性樹脂組成物(AX-2)をペレット化した。当該熱可塑性樹脂組成物(AX-2)におけるアクリル系多層構造重合体粒子(AX-1)の含有量をアセトンを用いて測定したところ、65質量%であった。また、熱可塑性樹脂組成物(AX-2)のガラス転移温度は98℃、であり、屈折率は1.49であった。
【0158】
(実施例1)
原料として、製造例1で得られたアクリル系多層構造重合体粒子(AX-1)を含む組成物(AX-2)のペレットと、微粒子(P)としてミクロマイカMK-100K(コープケミカル(株)社製、屈折率1.53、体積平均粒子径5μm、アスペクト比30~50)とを用いて、溶融押出成形により、熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、ミクロマイカMK-100Kにけるアスペクト比は、平均粒径/厚みにより求められたカタログ値である。アクリル系多層構造重合体粒子(AX-1)を含む組成物(AX-2)と微粒子(P)との質量比は、97/3とした。
【0159】
はじめに、Tダイ付き単軸ベント押出機を用いて、上記原料の混合物からなる熱可塑性樹脂組成物(C)を、フィルム状に溶融押出した。溶融押出条件は以下の通りとした。
押出機の設定温度(樹脂組成物の溶融温度):260℃、
スクリュー径:75mm、
Tダイの幅:1850mm、
Tダイのリップ開度:0.8mm、
Tダイからの溶融樹脂の吐出速度:110kg/h。
【0160】
次に、フィルム状に押出された溶融物を、第1~第4の冷却ロール(ニップロール)からなる冷却ロールユニットを用いて加圧および冷却した。第1の冷却ロール(以下、「第1ロール」と略記する場合がある)として64℃に温度調整された金属弾性ロールを用い、第2の冷却ロール(以下、「第2ロール」と略記する場合がある)として79℃に温度調整された金属剛体ロールを用いた。第3の冷却ロールとして65℃に温度調整された金属剛体ロールを用い、第4の冷却ロールとして60℃に温度調整された金属剛体ロールを用いた。なお、いずれの冷却ロールも、表面は鏡面であった。また、いずれのロール間距離も75μmに設定し、いずれのロール間においても、溶融物にかかる線圧は30kg/cmとした。溶融物を上記冷却ロールユニットにより加圧および冷却した後は公知方法と同様の方法にて、厚さ75μmの未延伸の熱可塑性樹脂フィルムを得た。得られた熱可塑性樹脂フィルムについて、各種評価を行った。主な製造条件と評価結果を表1に示す。
【0161】
(実施例2)
使用する微粒子(P)を(株)ヤマグチマイカ社製「SJ-010」(体積平均粒子径10μm、アスペクト比10~30)とし、その含有量を2質量%とした以外は、実施例1と同様にして、厚さ75μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。主な製造条件と評価結果を表1に示す。
【0162】
(実施例3)
熱可塑性樹脂(R)として、アクリル系多層構造重合体粒子(AX-1)に加えて、メタクリル系樹脂(B)((株)クラレ社製「パラペットEH」)を使用した以外は、実施例1と同様にして、厚さ75μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。アクリル系多層構造重合体粒子(AX-1)を含む組成物(AX-2)、メタクリル系樹脂(B)、および微粒子(P)の質量比は、77/20/3とした。主な製造条件と評価結果を表1に示す。
【0163】
(実施例4)
第1の冷却ロールと第2の冷却ロールの双方を金属剛体ロールとした以外は、実施例1と同様にして、厚さ75μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。主な製造条件と評価結果を表1に示す。
【0164】
(比較例1)
微粒子(P)の代わりに、比較用の微粒子(Q)として、(株)ヤマグチマイカ社製「A-21S」(体積平均粒子径23μm、アスペクト比60~80)を用い、その含有量を1質量%とした以外は、実施例1と同様にして、厚さ75μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。主な製造条件と評価結果を表2に示す。
【0165】
(比較例2、3)
微粒子(P)の含有量を表2に示すようにそれぞれ1質量%、10質量%と変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ75μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。主な製造条件と評価結果を表2に示す。
【0166】
(比較例4)
微粒子(P)の代わりに、比較用の微粒子(Q)として、東洋紡(株)社製の架橋性アクリル系樹脂粒子「タフチック(登録商標)FH-S」(体積平均粒子径5μm、アスペクト比約1)を用いた以外は、実施例1と同様にして、厚さ75μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。主な製造条件と評価結果を表2に示す。
【0167】
(比較例5、6)
一対の冷却ロールのうち一方または双方をシリコンゴムロールとした以外は、実施例1と同様にして、厚さ75μmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。主な製造条件と評価結果を表3に示す。
【0168】
(評価結果)
実施例1~4では、熱可塑性樹脂(R)と、体積平均粒子径が0.5~15μmであり、熱可塑性樹脂(R)との屈折率差が0.02以上である微粒子(P)とを含む熱可塑性樹脂組成物(C)を用いた。
実施例1~4では、上記の熱可塑性樹脂組成物(C)をTダイから溶融押出した後、フィルム状に押出された溶融物を、双方が金属剛体ロールである一対の冷却ロール、若しくは、一方が金属剛体ロールであり、他方が金属弾性ロールである一対の冷却ロールで挟持して、熱可塑性樹脂フィルムを製造した。
実施例1~4では、少なくとも一方のフィルム面が上記式(1)、(2)を充足する熱可塑性樹脂フィルムが得られた。実施例1~4では、微粒子(P)を含みながら、両フィルム面が常温において高光沢を有し、良好な印刷性を有し、内部ヘイズおよび全体ヘイズが小さく、加熱処理後に良好な艶消し外観を発現する熱可塑性樹脂フィルムが得られた。
【0169】
一方、体積平均粒子径の大きい微粒子(Q)を用いた比較例1では、得られた熱可塑性樹脂フィルムは内部ヘイズおよび全体ヘイズが高いものであった。
実施例1に対して微粒子(P)の添加量を低減し、d・Wの値を10未満とした比較例2では、得られた熱可塑性樹脂フィルムは加熱処理した後にグロスが充分に低下せず、所望の艶消し外観が得られなかった。
実施例1に対して微粒子(P)の添加量が増加し、d・Wの値を30超とした比較例3では、得られた熱可塑性樹脂フィルムは加熱処理前の時点で両フィルム面の光沢性が低く、印刷性もやや劣るものであった。
熱可塑性樹脂(R)との屈折率差が小さい微粒子(Q)を用いた比較例4では、得られた熱可塑性樹脂フィルムは加熱処理後に充分な光拡散効果が得られず、良好な艶消し外観が得られなかった。
一対の冷却ロールのうち一方または双方をシリコンゴムロールとした比較例5、6では、得られた熱可塑性樹脂フィルムは両フィルム面の表面凹凸が大きく、製造直後の時点で艶消し外観を呈し、印刷性が不良であった。
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
本発明は上記実施形態および実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【0174】
この出願は、2016年2月15日に出願された日本出願特願2016-025751号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0175】
1 フィルム製造装置
110 押出成形手段
111 原料投入部
112 スクリュー部
113 Tダイ
113A 吐出口
120 冷却ロールユニット
121 第1の冷却ロール
122 第2の冷却ロール
123 第3の冷却ロール
124 第4の冷却ロール
210 樹脂フィルム
210M 樹脂組成物
R1 第1の製造室
R2 第2の製造室