(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20221018BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
G01B11/06 Z
H01L21/66 J
(21)【出願番号】P 2019182831
(22)【出願日】2019-10-03
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517111000
【氏名又は名称】ユニティ セミコンダクター
【氏名又は名称原語表記】UNITY SEMICONDUCTOR
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】桑原 登
(72)【発明者】
【氏名】ケビン クァクァエ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ガスタルド
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122248(WO,A1)
【文献】特開2017-198491(JP,A)
【文献】特開2016-114506(JP,A)
【文献】特開平07-260437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/06
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面上に形成された第一薄膜と、該第一薄膜の表面上に形成された第二薄膜とを少なくとも有する薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の膜厚分布を測定する薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法であって、
前記薄膜付ウェーハを用い、波長λ0の照射光を用いたオートフォーカス機能を有する光学顕微鏡により焦点合わせを行って、焦点の高さZ1を求める工程と、
前記薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の観察画像の取得に使用する照射光の波長λ1を決定する工程と、
前記Z1を基準に焦点の高さを変化させながら、前記波長λ1の照射光を使用して、前記光学顕微鏡により前記薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の観察画像を取得する工程と、
前記観察画像内の反射光強度分布の標準偏差を算出し、前記反射光強度分布の標準偏差が最大となるピーク位置に対応する焦点の高さZ2を取得し、前記Z1と前記Z2との差ΔZを算出する工程と、
前記ΔZを補正値として前記光学顕微鏡の前記オートフォーカス機能の補正を行う工程と、
前記補正されたオートフォーカス機能を用いて焦点合わせを行って、前記光学顕微鏡により前記薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の観察画像を取得し、該観察画像内の反射光強度分布から膜厚分布を算出する工程とを有することを特徴とする薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法。
【請求項2】
前記波長λ1を決定する工程は、
前記薄膜付ウェーハの可視光の波長以上の波長領域の光に対する反射率の波長依存性を示すプロファイルP1をシミュレーションにより算出する工程と、
前記薄膜付ウェーハの前記第一薄膜の設定膜厚T1よりt[nm]だけ薄い又は厚い第一薄膜を有する薄膜付ウェーハの、前記可視光以上の波長領域の光に対する反射率の波長依存性を示すプロファイルP22をシミュレーションにより算出する工程と、
前記算出した前記プロファイルP1と前記プロファイルP22の差のプロファイルP32(=P22-P1)を算出し、該算出した差のプロファイルP32が0となるときの波長λ1に決定する工程であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法。
【請求項3】
前記薄膜付ウェーハがSOIウェーハであり、前記第一薄膜が埋め込み酸化膜層であり、前記第二薄膜がシリコン単結晶からなるSOI層であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法。
【請求項4】
前記波長λ0の照射光は前記波長λ1よりも長波長であり、前記波長λ1は可視光波長から選択された単一の波長であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜付ウェーハとして、例えば、基板上にBOX層としての酸化膜、SOI層としての単結晶シリコン膜を有するSOIウェーハが知られている。一般に、SOIウェーハの製造工程において、製造するSOIウェーハのSOI層膜厚、BOX層膜厚はユーザーの仕様(膜厚スペック)により設定されており、その膜厚設定値を狙い値としてSOIウェーハを製造した後に、検査工程などでSOI層膜厚の面内分布が評価される。
【0003】
特に、デザインルール28nm以下のFD-SOIデバイスでは、SOI層の厳しい膜厚均一性が要求されている。直径300mmのSOIウェーハ全体の膜厚均一性のみでなく、ミクロな領域内においてもSOI層の膜厚均一性が要求されている。
【0004】
因ってウェーハ全体のSOI膜厚均一性を評価するだけでなく、ミクロな領域内のSOI層膜厚均一性を評価し、品質改善、品質保証する必要が生じている。従来から行われている測定領域の大きい測定スポットの膜厚測定では不十分で、顕微鏡レベルのミクロな領域内におけるSOI層の膜厚評価が必要になってきた。
【0005】
本発明者は、ウェーハ表面の一部領域に単一波長λの光を照射し、前記領域からの反射光を検出して前記領域を多数に分割したピクセル毎の反射光強度を測定することによって、前記領域内の反射光強度分布を求め、該反射光強度分布から前記領域内における薄膜の膜厚分布を算出する薄膜付ウェーハの評価方法を提案した(例えば、特許文献1-3)。また、特許文献4にも、多層半導体構造の層の厚さバラツキを測定するための方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-249621号公報(特許第5365581号公報)
【文献】特開2016-114506号公報
【文献】特開2017-125782号公報
【文献】特表2016-504566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1-4に記載の方法によって測定を行っても、SOIウェーハのSOI層のミクロな領域内における膜厚分布の測定の精度が悪く、バラつきが大きく安定しないという問題があった。そこで、本発明者が測定に影響する様々なファクタを検討したところ、特許文献1-3に記載の方法では、SOIウェーハの膜厚スペック(膜厚仕様)毎に測定波長が異なるため、測定の精度や、安定性が異なること、各SOIウェーハの膜厚スペック毎に測定方法を検討することが必要であること等の問題があることを見出した。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、薄膜のミクロな領域における膜厚分布の測定を、精度高くかつ安定して行うことが可能な、薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、基板の表面上に形成された第一薄膜と、該第一薄膜の表面上に形成された第二薄膜とを少なくとも有する薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の膜厚分布を測定する薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法であって、前記薄膜付ウェーハを用い、波長λ0の照射光を用いたオートフォーカス機能を有する光学顕微鏡により焦点合わせを行って、焦点の高さZ1を求める工程と、前記薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の観察画像の取得に使用する照射光の波長λ1を決定する工程と、前記Z1を基準に焦点の高さを変化させながら、前記波長λ1の照射光を使用して、前記光学顕微鏡により前記薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の観察画像を取得する工程と、前記観察画像内の反射光強度分布の標準偏差を算出し、前記反射光強度分布の標準偏差が最大となるピーク位置に対応する焦点の高さZ2を取得し、前記Z1と前記Z2との差ΔZを算出する工程と、前記ΔZを補正値として前記光学顕微鏡の前記オートフォーカス機能の補正を行う工程と、前記補正されたオートフォーカス機能を用いて焦点合わせを行って、前記光学顕微鏡により前記薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の観察画像を取得し、該観察画像内の反射光強度分布から膜厚分布を算出する工程とを有する薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法を提供する。
【0010】
このような薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法によれば、薄膜のミクロな領域における膜厚分布の測定を、精度高く、安定して、簡便に行うことができる。
【0011】
このとき、波長λ1を決定する工程は、薄膜付ウェーハの可視光の波長以上の波長領域の光に対する反射率の波長依存性を示すプロファイルP1をシミュレーションにより算出する工程と、薄膜付ウェーハの第一薄膜の設定膜厚T1よりt[nm]だけ薄い又は厚い第一薄膜を有する薄膜付ウェーハの、可視光以上の波長領域の光に対する反射率の波長依存性を示すプロファイルP22をシミュレーションにより算出する工程と、算出した前記プロファイルP1と前記プロファイルP22の差のプロファイルP32(=P22-P1)を算出し、該算出した差のプロファイルP32が0となるときの波長λ1に決定する工程である薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法とすることができる。
【0012】
これにより、照射領域内の第二薄膜の膜厚分布を、第一薄膜の膜厚分布の影響を受けずにより高い空間分解能でより精度よく算出することが可能な画像取得用照射光の波長λ1を、容易に得ることができる。
【0013】
このとき、薄膜付ウェーハがSOIウェーハであり、第一薄膜が埋め込み酸化膜層であり、第二薄膜がシリコン単結晶からなるSOI層である薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法とすることができる。
【0014】
このように、測定対象の薄膜付ウェーハがSOIウェーハである場合、照射領域内のSOI層の膜厚分布を、精度よく算出することができる。
【0015】
このとき、波長λ0の照射光は波長λ1よりも長波長であり、波長λ1は可視光波長から選択された単一の波長である薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法とすることができる。
【0016】
これにより、通常の光学顕微鏡(測定システム)を用いて可視光で測定を行えるため、低コストで簡便に実施できる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法によれば、薄膜付ウェーハ上の薄膜のミクロな領域における膜厚分布の測定を、正確に、安定して、簡便に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法の工程を示すフロー図である。
【
図2】本発明に係る薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法で使用することができる光学顕微鏡を示す概略図である。
【
図3】実施例で使用したSOIウェーハの、Z2算出時に得た反射強度分布の標準偏差と高さZの関係を示す。
【
図4】参考例で使用したSOIウェーハの、Z2算出時に得た反射強度分布の標準偏差と高さZの関係を示す。
【
図5】実施例と比較例のSOI層の膜厚分布(標準偏差)評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
上述のように、薄膜のミクロな領域における膜厚分布の測定を、精度高くかつ安定して行うことが可能な、薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法が求められていた。
【0021】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、基板の表面上に形成された第一薄膜と、該第一薄膜の表面上に形成された第二薄膜とを少なくとも有する薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の膜厚分布を測定する薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法であって、前記薄膜付ウェーハを用い、波長λ0の照射光を用いたオートフォーカス機能を有する光学顕微鏡により焦点合わせを行って、焦点の高さZ1を求める工程と、前記薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の観察画像の取得に使用する照射光の波長λ1を決定する工程と、前記Z1を基準に焦点の高さを変化させながら、前記波長λ1の照射光を使用して、前記光学顕微鏡により前記薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の観察画像を取得する工程と、前記観察画像内の反射光強度分布の標準偏差を算出し、前記反射光強度分布の標準偏差が最大となるピーク位置に対応する焦点の高さZ2を取得し、前記Z1と前記Z2との差ΔZを算出する工程と、前記ΔZを補正値として前記光学顕微鏡の前記オートフォーカス機能の補正を行う工程と、前記補正されたオートフォーカス機能を用いて焦点合わせを行って、前記光学顕微鏡により前記薄膜付ウェーハの前記第二薄膜の観察画像を取得し、該観察画像内の反射光強度分布から膜厚分布を算出する工程とを有する薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法により、薄膜付ウェーハ上の薄膜のミクロな領域における膜厚分布の測定を、正確に、安定して行うことが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0022】
以下、図面を参照して説明する。
【0023】
本発明に係る薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法では、例えば
図2に示すような光学顕微鏡2を用いることができる。波長選択のためのバンドパスフィルター4を取り付けた一般的な光学顕微鏡2の光源3からの照射光を、評価する薄膜付ウェーハ1の一部領域に照射することができる。光学顕微鏡2はオートフォーカス(以下、単に「AF」ということもある)機能を有しており、自動的に焦点合わせを行うことができる。AF機能で使用する照射光は、膜厚測定の測定波長よりも長波長で、測定波長に影響を及ぼさないエネルギーの低い長波長の光を用い、750nm以上の長波長とすることが望ましい。また、光学顕微鏡2は制御部を備えており、制御部は、測定データの取得、取得したデータの解析処理、入力した測定条件に応じて測定を行う制御、入力したデータに基づく動作条件の補正などを行うことができる。
【0024】
また、本発明に係る薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法の対象である薄膜付ウェーハは、基板の表面上に形成された第一薄膜と、該第一薄膜の表面上に形成された第二薄膜とを少なくとも有するものである。このような薄膜付ウェーハとしては、例えば、第一薄膜に対応する埋め込み酸化膜層(BOX層)、第二薄膜に対応するSOI層を有する、SOIウェーハを用いることが好ましい。特に、このようなSOIウェーハを測定対象とした場合、SOI層の膜厚分布を精度よく算出することができる。
【0025】
図1に本発明に係る薄膜付ウェーハの膜厚分布の測定方法のフロー図を示す。
【0026】
図1のS1に示すように、まず、光学顕微鏡を使用し、評価用の薄膜付ウェーハを用い、波長λ0の照射光を用いたAF機能により焦点合わせを行って、焦点の高さZ1を求める工程を行う。評価用の薄膜付ウェーハは、実際に測定を行う対象の薄膜付ウェーハである。
【0027】
図1のS2に示す工程は、薄膜付ウェーハの第二薄膜の観察画像の取得に使用する照射光の波長λ1を決定する工程である。まず、この第二薄膜と第一薄膜の膜厚の設定値(仕様)を使用して、照射光の波長と反射光の反射率等との関係をシミュレーションにより算出し、その結果から、測定を行う照射光として最適な波長λ1を選択する。第二薄膜と第一薄膜の膜厚の設定値(仕様)に対応する最適波長λ1は、第二薄膜の膜厚を設定値(仕様)の膜厚に固定して、第一薄膜の膜厚を変動させた時に、反射率の変化がない波長を選ぶ。このような最適波長λ1を選ぶことで、第一薄膜の膜厚変動による反射率変動をなくし、第二薄膜の膜厚変動の影響のみが反射率変動に対して反映されることになる。
【0028】
この工程は、具体的には、例えば、特許文献2に記載されているようにして行うことができる。まず、評価対象の薄膜付ウェーハの可視光の波長以上の波長領域の光に対する反射率の波長依存性を示すプロファイルP1をシミュレーションにより算出する。次に、評価対象の薄膜付ウェーハの第一薄膜の設定膜厚T1よりt[nm]だけ薄い、又は厚い第一薄膜を有する薄膜付ウェーハの可視光以上の波長領域の光に対する反射率の波長依存性を示すプロファイルP22をシミュレーションにより算出する。次に、シミュレーションにより算出した両方のプロファイルP1、P22の差のプロファイルP32(=P22-P1)を算出し、該算出した差のプロファイルP32がゼロとなるとき、すなわち反射率差がゼロになるときの波長を波長λ1と決定する。
【0029】
例えば、SOIウェーハでは、上記説明において、第一薄膜がBOX層に、第二薄膜がSOI層に相当する。SOIウェーハの膜厚スペックが、SOI層:12nm、BOX層:20nmの場合、測定波長λ1として492nmを用いることが最適であり(最適波長がλ1)、SOIウェーハの膜厚スペックが、SOI層:12nm、BOX層:25nmの場合、測定波長λ1として520nmを用いることが最適である。
【0030】
なお、S2の工程は、シミュレーションを行う工程であり、上述のS1の工程との順番は問わない。S2をS1より先に実施することも可能であるし、S1とS2の工程を同時進行で並行して行うことも可能である。
【0031】
図1のS3に示す工程は、S1で取得したZ1を基準に焦点の高さを変化させながら、S2で決定した波長λ1の照射光を使用して、光学顕微鏡により薄膜付ウェーハの第二薄膜の観察画像を取得する工程である。観察画像を取得する焦点高さ位置のピッチは、0.5μm以下とすることが好ましく、0.2μm以下とすることがさらに好ましい。このような範囲であれば、より高い精度で測定を行うことができる。
【0032】
図1のS4に示す工程は、S3で取得した第二薄膜の観察画像内の反射光強度分布の標準偏差を算出し、反射光強度分布の標準偏差が最大となるピーク位置に対応する焦点の高さZ2を取得し、Z1とZ2との差ΔZ(=Z1-Z2)を算出する工程である。ΔZの算出は、Z2を光学顕微鏡の制御部に入力することで、制御部内でΔZ(=Z1-Z2)の演算を行ってもよい。S3で取得した第二薄膜の観察画像の反射光強度分布の標準偏差が最大となる位置Z2は、波長λ1の照射光を使用したときの焦点位置と見做すことができる。このZ2を用いて、ΔZ=Z1-Z2を得ることができる。このようにΔZは、波長λ0の照射光を用いたAF機能で得た焦点位置Z1と、第二薄膜の観察画像を取得するときに使用する波長λ1の照射光を用いたときの焦点位置Z2との差であり、次の工程(S5)のAF機能の補正に用いる補正値となる。
【0033】
図1のS5に示す工程は、S4で求めたΔZを補正値として、光学顕微鏡のAF機能の補正を行う工程である。算出したΔZを補正値として光学顕微鏡の制御部に入力してもよいし、入力したZ2から制御部内で演算して得たΔZを補正値として読み込んでもよい。
【0034】
図1のS6に示す工程は、補正されたAF機能を用いて焦点合わせを行って、光学顕微鏡により薄膜付ウェーハの第二薄膜の観察画像を取得し、該観察画像内の反射光強度分布から膜厚分布を算出する工程である。補正されたAF機能を使用すると、AF機能を作動させて得た焦点位置に対し補正値ΔZの補正を行うため、波長λ1の照射光を用いたときの精度の高い焦点位置で、第二薄膜の観察画像の取得が行われることになる。このようにして取得した観察画像の反射強度分布に基づいて膜厚分布を求めることで、精度の高い膜厚分布評価を行うことが可能となる。膜厚分布の評価は、例えば、膜厚分布の標準偏差で行うことが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0036】
実施例、参考例、比較例で使用した膜厚測定システムである光学顕微鏡は、AF機能を有し観察画像(顕微鏡画像)の取得が可能なものである。AF機能で使用する照射光の波長は785nmである。また、観察画像取得用の照射光の波長の調節、選択は、バンドパスフィルターを用いて行う。
【0037】
(実施例)
SOIウェーハの膜厚スペックが、SOI層12nm、BOX層20nmのSOIウェーハを用いた。まず、このSOIウェーハを光学顕微鏡(膜厚測定システム)にセットし、AF機能を使用して焦点合わせを行い、焦点位置Z1を求めた。Z1は自動で取得した。
【0038】
また、このSOIウェーハのSOI層の観察画像取得に使用する照射光の波長λ1を、シミュレーションにより求めたところ、測定波長λ1=492nmであった。
【0039】
次に、バンドパスフィルターを使用して観察画像取得用の照射光の波長の調節を行い、照射光の波長をλ1=492nmとした。そして、Z1を基準として焦点の高さを上下に変化させながら、観察画像を取得し、取得した観察画像の反射強度分布の標準偏差と高さZの関係を求めた。
図3に、高さZと反射強度分布の標準偏差の関係を示す。
図3に示された、標準偏差がピーク値になる高さがZ2である。なお、Z1の位置は、
図3及び後述の
図4において、グラフの右側に外れた範囲(横軸の数値範囲外)に位置している。
【0040】
このようにして得たZ2を光学顕微鏡に入力し、光学顕微鏡内の制御部で、補正値ΔZ(=Z1-Z2)を算出するとともに、この補正値ΔZを用いてAF機能の補正を行った。
【0041】
そして、AFで得た焦点位置に対し補正値ΔZの補正を行い、SOIウェーハのSOI層の観察画像を取得し、測定領域の観察画像内の反射光強度分布から膜厚分布の標準偏差を算出した。具体的には、ウェーハ面内5点(中心1点+外周端から5mm内側の位置4点)について、SOI層の膜厚分布の標準偏差を、観察画像内の反射光強度分布に基づいて算出した。なお、測定領域は、266μm×266μm(2048×2048ピクセル)である。
【0042】
(参考例)
SOIウェーハの膜厚スペックが、SOI層12nm、BOX層25nmのSOIウェーハを用いた。このSOIウェーハのSOI層の観察画像の取得に使用する照射光の波長λ1は520nmである。実施例と同様にして取得した観察画像の高さZと反射強度分布の標準偏差の関係を求めたところ、
図4に示されるような関係が得られた。この結果からわかるように、BOX層の厚さが異なると、λ1が異なり、その結果、焦点のピーク位置Z2による補正値も異なることがわかる。
【0043】
(比較例)
下記に示す従来の膜厚分布測定方法を採用したこと以外は、実施例と同じSOIウェーハを使用して、膜厚分布の測定を行った。具体的な手順は以下のとおりである。
(1)パターン付きサンプルウェーハを使って、膜厚測定システムである光学顕微鏡のAF機能を用いて焦点の高さZ1を求める。
(2)その位置で測定波長λ1を得るためのフィルターを使って波長λ1の照射光を照射し、顕微鏡画像のパターンに目視で焦点を合わせ、焦点が合った位置の高さZ2を求める。
(3)Z2を光学顕微鏡に入力し、光学顕微鏡内の制御部で、補正値ΔZ(=Z1-Z2)を算出するとともに、この補正値ΔZを用いてAF機能の補正を行う。
(4)膜厚分布測定中は、AF機能により合わせた焦点位置にΔZの補正を行い、観察画像を取得し、その反射強度分布から、膜厚分布の標準偏差を求める。
【0044】
実施例及び比較例の膜厚分布測定の評価は、以下のようにして行った。まず、比較例の測定方法により、1日3回の頻度の測定を31日間繰り返した。その後、実施例の測定方法に切り替えて、更に、42日間繰り返し測定を行った。
【0045】
評価結果を、
図5に示す。各プロットの番号は、図中のウェーハの概念図に示す測定位置を表している。なお、測定の順番は、
図5の横軸の右から左に向かう順となっている。
図5に示されるように、本発明の測定方法を用いた実施例のSOI層の膜厚分布標準偏差は、従来の測定方法を用いた比較例に比べて、測定間のバラツキが低減され、安定した測定結果が得られていることがわかる。
【0046】
なお、実施例のSOI層の膜厚分布標準偏差の値は、比較例に比べて大きくなっているが、これは、測定波長の焦点が正確に調整されたことによって、膜厚分布が再現性よく正確に測定できるようになったことを意味している。例えるならば、AFM(原子間力顕微鏡)によって、所定領域の表面粗さ(RMS)を測定する際、先端が丸くなった形状の針を先端がシャープな形状の触針に変更して同一領域の表面粗さ(RMS)を測定すると、より正確な表面粗さ(RMS)が測定されることとなる結果、表面粗さ(RMS)の数値が大きくなることと、同様の現象である。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0048】
1…薄膜付ウェーハ、 2…光学顕微鏡、 3…光源、
4…バンドパスフィルター。