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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】農薬用展着剤及び農薬散布液
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/24 20060101AFI20221018BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20221018BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20221018BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221018BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20221018BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A01N25/24
A01N25/02
C08L29/04 Z
C08K3/22
C08K5/098
C08F8/12
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020505115
(86)(22)【出願日】2019-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2019009127
(87)【国際公開番号】W WO2019172381
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2018042318
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】香春 多江子
(72)【発明者】
【氏名】森川 圭介
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-054964(JP,A)
【文献】特開2015-134704(JP,A)
【文献】特開平8-217604(JP,A)
【文献】特開2018-076239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
C08L 29/04
C08K 3/22
C08K 5/098
C08F 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を有する単量体単位の含有率が0.1モル%以上10モル%以下であり、粘度平均重合度が200以上5000以下であり、且つけん化度が65モル%以上99.9モル%以下であるカルボキシ基変性ビニルアルコール系重合体(A)を含有する、農薬用展着剤。
【請求項2】
さらに多価金属イオン性化合物(B)を含有し、該多価金属イオン性化合物(B)の含有量が、カルボキシ基変性ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して0.001質量部以上25質量部以下である、請求項1に記載の農薬用展着剤。
【請求項3】
多価金属イオン性化合物(B)が、有機塩類又は無機塩類である、請求項2に記載の農薬用展着剤。
【請求項4】
上記有機塩類又は無機塩類のカチオンが、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、アルミニウムイオン(Al3+)及び亜鉛イオン(Zn2+)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の農薬用展着剤。
【請求項5】
上記有機塩類又は無機塩類のアニオンが、酢酸イオン(CH3COO-)、炭酸イオン(CO3 2-)、水酸化物イオン(OH-)、ヨウ化物イオン(I-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、硝酸イオン(NO3 -)、硫酸イオン(SO4 2-)、オルトケイ酸イオン(SiO4 4-)及びリン酸イオン(PO4 3-)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3又は4に記載の農薬用展着剤。
【請求項6】
上記カルボキシ基を有する単量体が、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、並びにエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれかに記載の農薬用展着剤。
【請求項7】
上記エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体が、(メタ)アクリル酸又はその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、及び(メタ)アクリル酸イソプロピルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の農薬用展着剤。
【請求項8】
上記エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその誘導体が、マレイン酸又はその塩、マレイン酸エステル、イタコン酸又はその塩、イタコン酸エステル、フマル酸又はその塩、フマル酸エステル、無水マレイン酸、及び無水イタコン酸又はその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の農薬用展着剤。
【請求項9】
上記カルボキシ基を有する単量体が、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸、イタコン酸モノメチル、イタコン酸ジメチル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~8のいずれかに記載の農薬用展着剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の農薬用展着剤、農薬活性成分及び水を含有する、農薬散布液。
【請求項11】
農薬活性成分の含有量が、カルボキシ基変性ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上1000質量部以下である、請求項10に記載の農薬散布液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシ基変性ビニルアルコール系重合体を含有し、特に植物表面への固着性に優れる農薬用展着剤、並びに該農薬用展着剤の植物表面への残留リスクが低減された農薬散布液に関する。
【背景技術】
【0002】
農業分野では、一般に農薬を水で希釈した散布液が用いられている。しかしながら、このような散布液をそのまま植物表面に散布すると、植物や害虫体表上には水を弾くワックスや糸状の物質があり、散布液は簡単には付着しないため、散布液に含まれる農薬活性成分が降雨等により流亡したり、あるいは風により剥離脱落することで効果の持続性がしばしば損なわれる。
【0003】
そこで、農薬活性成分の植物表面への付着性、すなわち固着性を向上させる目的で、展着剤を含有する農薬散布液が用いられている。展着剤としては、散布液の表面張力を下げ、濡れにくい虫体や作物に対する付着性あるいは拡展性を向上させ防虫効果を高める性質を有する、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、リグニンスルホン酸塩、ナフチルメタンスルホン酸塩等が汎用されている。しかしながら、これらの汎用の展着剤は水に非常に馴染みやすい性質を有するため、降雨等による流亡を抑えることはできない。また、固着性を示す展着剤として、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、パラフィン、ポリ酢酸ビニル等が挙げられるが、使用濃度を高くしないと効果を奏さない、乾いた皮膜が水に溶けないため植物表面にいつまでも残留する等の問題がある。
【0004】
近年、特許文献1及び2のように、部分けん化型又は低けん化型のポリビニルアルコールを含有する農薬の固着性組成物や農業用液状散布液が提案されている。しかしながら、特許文献1のポリビニルアルコールは水に溶けやすいため、降雨等により農薬が流亡しやすく、固着性が不十分であるという問題点があった。また、特許文献2のポリビニルアルコールは水/アルコールの混合溶媒中で使用しなければならないため、使用時の環境負荷が高いという問題があった。
【0005】
一方、特許文献3には、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエーテル変性シリコーンを含有する農薬用展着剤組成物が提案されている。しかしながら、特許文献3に記載の展着剤組成物を用いた場合、植物表面に形成された皮膜が水に不溶であるために、農薬成分が植物表面にいつまでも残留するという問題があった。そのため、植物表面への初期の固着性に優れつつ、所定期間経過後には農薬成分が植物表面に残存しないという残留リスクが低減された農薬散布液は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-217604号公報
【文献】特開2015-134704号公報
【文献】特開2000-1404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、特に植物表面への固着性に優れる農薬用展着剤、及び該農薬用展着剤の植物表面への残留リスクが低減された農薬散布液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定のカルボキシ基変性ビニルアルコール系重合体を含有する農薬用展着剤により上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]カルボキシ基を有する単量体単位の含有率が0.1モル%以上10モル%以下であり、粘度平均重合度が200以上5000以下であり、且つけん化度が65モル%以上99.9モル%以下であるカルボキシ基変性ビニルアルコール系重合体(A)を含有する、農薬用展着剤。
[2]さらに多価金属イオン性化合物(B)を含有し、該多価金属イオン性化合物(B)の含有量が、カルボキシ基変性ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して0.001質量部以上25質量部以下である、上記[1]の農薬用展着剤。
[3]多価金属イオン性化合物(B)が、有機塩類又は無機塩類である、上記[2]の農薬用展着剤。
[4]上記有機塩類又は無機塩類のカチオンが、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、アルミニウムイオン(Al3+)及び亜鉛イオン(Zn2+)からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[3]の農薬用展着剤。
[5]上記有機塩類又は無機塩類のアニオンが、酢酸イオン(CH3COO-)、炭酸イオン(CO3 2-)、水酸化物イオン(OH-)、ヨウ化物イオン(I-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、硝酸イオン(NO3 -)、硫酸イオン(SO4 2-)、オルトケイ酸イオン(SiO4 4-)及びリン酸イオン(PO4 3-)からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[3]又は[4]の農薬用展着剤。
[6]上記カルボキシ基を有する単量体が、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、並びにエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[5]のいずれかの農薬用展着剤。
[7]上記エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体が、(メタ)アクリル酸又はその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、及び(メタ)アクリル酸イソプロピルからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[6]の農薬用展着剤。
[8]上記エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその誘導体が、マレイン酸又はその塩、マレイン酸エステル、イタコン酸又はその塩、イタコン酸エステル、フマル酸又はその塩、フマル酸エステル、無水マレイン酸、及び無水イタコン酸又はその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[6]の農薬用展着剤。
[9]上記カルボキシ基を有する単量体が、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸、イタコン酸モノメチル、イタコン酸ジメチル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[8]のいずれかの農薬用展着剤。
[10]上記[1]~[9]のいずれかの農薬用展着剤、農薬活性成分及び水を含有する、農薬散布液。
[11]農薬活性成分の含有量が、カルボキシ基変性ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して、0.1質量部以上1000質量部以下である、上記[10]の農薬散布液。
【発明の効果】
【0010】
本発明の農薬用展着剤は、特に植物表面への固着性に優れる。また、該農薬用展着剤を含有する農薬散布液は植物表面への固着性に優れつつ、植物表面への残留リスクを低減できる。さらに、本発明の農薬用展着剤は、水を溶媒として使用できるため、使用時の環境負荷が低いという効果も有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の農薬用展着剤及び農薬散布液について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0012】
〔農薬用展着剤〕
本発明の農薬用展着剤は、カルボキシ基を有する単量体単位の含有率が0.1モル%以上10モル%以下であり、粘度平均重合度が200以上5000以下であり、且つけん化度が65モル%以上99.9モル%以下であるカルボキシ基変性ビニルアルコール系重合体(A)(以下、ビニルアルコール系重合体を「PVA」と略記することがある)を含有する。本発明の農薬用展着剤は上記カルボキシ基変性PVA(A)を含有するため、植物表面への初期の固着性に優れ降雨等による農薬の流亡を防げるとともに、該農薬用展着剤を含有する農薬散布液は植物表面への残留リスクを低減できる。
【0013】
〔カルボキシ基変性PVA(A)〕
上記カルボキシ基変性PVA(A)において、カルボキシ基を有する単量体単位の含有率は0.1モル%以上10モル%以下であり、0.3モル%以上8モル%以下が好ましく、0.5モル%以上5モル%以下がより好ましい。カルボキシ基を有する単量体単位の含有率が0.1モル%未満の場合は、得られる農薬散布液の植物表面への残留リスクが高くなる。一方、カルボキシ基を有する単量体単位の含有率が10モル%を超える場合は、得られる農薬散布液により形成される皮膜の耐水性が不十分となり、結果として降雨等による農薬の流亡を防ぐ効果が不十分となる。
【0014】
上記カルボキシ基変性PVA(A)において、カルボキシ基を有する単量体単位の含有率は、例えば、該カルボキシ基変性PVA(A)を完全にけん化した後、十分にメタノール洗浄を行い、次いで90℃で減圧乾燥を2日間行い分析用PVAを作製し、作製した分析用PVAをDMSO-d6に溶解し、1H-NMR(例:500MHz)を用いて60℃で測定する。ビニルアルコール単位のメチン由来のピークとカルボキシ基を有する単量体単位の主鎖メチン又はメチレンに由来するピークを用いて、カルボキシ基単位の含有率を算出できる。
【0015】
上記カルボキシ基変性PVA(A)の粘度平均重合度(以下、単に「重合度」と略記することがある)は200以上5000以下であり、300以上4000以下が好ましく、350以上3000以下がより好ましく、500以上2500以下がさらに好ましい。粘度平均重合度が200未満の場合は、得られる農薬散布液により形成される皮膜の耐水性が不十分となり、結果として降雨等による農薬の流亡を防ぐ効果が不十分となる。一方、粘度平均重合度が5000を超えるカルボキシ基変性PVA(A)は製造が困難である。カルボキシ基変性PVA(A)の粘度平均重合度(P)は、JIS K 6726(1994年)に準じて測定される。すなわち、カルボキシ基変性PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dL/g)から次式により求められる。
P=([η]×103/8.29)(1/0.62)
【0016】
上記カルボキシ基変性PVA(A)のけん化度は65モル%以上99.9モル%以下であり、70モル%以上99.8モル%以下が好ましく、80モル%以上99.7モル%以下がより好ましい。けん化度が65モル%未満の場合は、水への溶解性が低下するため水溶液形態の散布液を調製するのが困難となる。一方、けん化度が99.9モル%を超える場合は、得られる農薬散布液の植物表面への残留リスクが高くなる。
【0017】
上記カルボキシ基変性PVA(A)は、例えば、カルボキシ基を有する単量体とビニルエステル系単量体とを共重合してビニルエステル系共重合体(以下、当該ビニルエステル系共重合体を「PVAc」ともいう。)とした後、該ビニルエステル系共重合体を水酸化ナトリウム等のけん化触媒を用いてけん化し、必要に応じて粉砕や乾燥を行うことで得られる。
【0018】
上記カルボキシ基を有する単量体としては、ビニルエステル系単量体と共重合可能な重合性基を有し、けん化後にカルボン酸又はその塩がPVA中に存在するものであればよい。上記カルボキシ基を有する単量体としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその誘導体等が挙げられる。具体的には、マレイン酸又はその塩、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸エステル;イタコン酸又はその塩、イタコン酸モノメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル等のイタコン酸エステル;フマル酸又はその塩、フマル酸モノメチル、フマル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸又はその誘導体;(メタ)アクリル酸又はその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル等の(メタ)アクリル酸エステルが好適に用いられる。上記化合物の塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩等)、アンモニウム塩等が挙げられる。中でも、得られるフィルムの冷水溶解性の観点から、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸、イタコン酸モノメチル、イタコン酸ジメチル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。このようなカルボキシ基を有する単量体は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本明細書において、「(メタ)アクリル」は、メタクリルとアクリルの両方を意味する。
【0019】
カルボキシ基を有する単量体とビニルエステル系単量体との共重合の方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。中でも、無溶媒又はアルコール等の溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法を通常採用できる。上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n-プロピルパーオキシジカーボネート等のアゾ系開始剤又は過酸化物系開始剤等の公知の重合開始剤が挙げられる。
【0020】
重合温度に特に制限はなく、0℃以上150℃以下が好ましく、20℃以上150℃以下がより好ましく、30℃以上100℃以下がさらに好ましく、50℃以上80℃以下が特に好ましい。
【0021】
上記ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサチック酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0022】
上記カルボキシ基変性PVA(A)には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ビニルアルコール単位、カルボキシ基を有する単量体単位、及びビニルエステル単位以外の他の単量体単位を含有していてもよい。このような他の単量体単位としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ヘキセン等のα-オレフィン;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル; エチレングリコールビニルエーテル、1,3-プロパンジオールビニルエーテル、1,4-ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル;プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル;オキシアルキレン基を有する単量体;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、7-オクテン-1-オール、9-デセン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミド-プロピルトリエトキシシラン等のシリル基を有する単量体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-カプロラクタム等のN-ビニルアミド系単量体等が挙げられる。これらの他の単量体単位の含有率は、使用される目的や用途等によって異なるが、好ましくは10モル%以下であり、より好ましくは5.0モル%以下であり、さらに好ましくは1.0モル%以下であり、0.5モル%以下であってもよい。
【0023】
上述の方法により得られたビニルエステル系共重合体をアルコール溶媒中でけん化し、必要に応じて粉砕や乾燥を行うことでカルボキシ基変性PVA(A)を得ることができる。変性PVAを得るためのけん化条件、乾燥条件に特に制限はないが、けん化反応の温度は、好ましくは5~80℃の範囲であり、より好ましくは20~70℃の範囲である。けん化は、例えば、PVAc溶液に、けん化触媒を加えることで行うことができる。PVAc溶液におけるPVAc濃度は、10~60質量%が好ましく、15~50質量%がより好ましく、20~45質量%がさらに好ましい。けん化触媒としては、通常アルカリ触媒が用いられる。アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;及びナトリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシドが挙げられ、水酸化ナトリウムが好ましい。けん化触媒の使用量は、ビニルエステル系共重合体のビニルエステル単量体単位に対するモル比(MR)で0.005~0.50であることが好ましく、0.008~0.40であることがより好ましく、0.01~0.30であることがさらに好ましい。けん化反応に用いることができる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。特に使用する溶媒に限定はなく、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の中でもメタノール、もしくはメタノールと酢酸メチルとの混合溶媒が好ましく用いられる。
【0024】
ある好適な実施形態(X-1)としては、カルボキシ基を有する単量体単位の含有率が0.5モル%以上5モル%以下であり、粘度平均重合度が500以上2500以下であり、且つけん化度が80モル%以上98モル%以下であるカルボキシ基変性PVA(A)を含有する、農薬用展着剤が挙げられる。他の好適な実施形態(X-2)としては、上記実施形態(X-1)において、さらに多価金属イオン性化合物(B)を含有し、該多価金属イオン性化合物(B)の含有量が、カルボキシ基変性ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して0.001質量部以上25質量部以下である、農薬用展着剤が挙げられる。他の好適な実施形態(X-3)としては、上記実施形態(X-1)又は(X-2)において、カルボキシ基を有する単量体が、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、並びにエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、農薬用展着剤が挙げられる。他の好適な実施形態(X-4)としては、上記実施形態(X-1)~(X-3)のいずれかにおいて、上記エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその誘導体が、マレイン酸又はその塩、マレイン酸エステル、イタコン酸又はその塩、イタコン酸エステル、フマル酸又はその塩、フマル酸エステル、無水マレイン酸、及び無水イタコン酸又はその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である、農薬用展着剤が挙げられる。上記した実施形態(X-1)~(X-4)のいずれにおいても、上述の説明に基づいて、各成分の種類及び量を適宜変更でき、任意の成分について、追加、削除等の変更をすることができる。
【0025】
〔多価金属イオン性化合物(B)〕
本発明の農薬用展着剤は、植物表面への固着性に優れる点から、上記カルボキシ基変性PVA(A)に加えて、さらに多価金属イオン性化合物(B)を含有し、該多価金属イオン性化合物(B)の含有量が、カルボキシ基変性PVA(A)100質量部に対して、0.001質量部以上25質量部以下であることが好ましい。多価金属イオン性化合物(B)は、有機塩類又は無機塩類であることが好ましい。
【0026】
上記有機塩類又は無機塩類のカチオンは、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、アルミニウムイオン(Al3+)又は亜鉛イオン(Zn2+)を含むことが好ましい。具体的には、ベリリウムイオン(Be2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)、チタンイオン(Ti4+)、マンガンイオン(Mn2+)、鉄イオン(Fe2+又はFe3+)、コバルトイオン(Co2+)、ニッケルイオン(Ni2+)、銅イオン(Cu2+)、アルミニウムイオン(Al3+)及び亜鉛イオン(Zn2+)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。中でも、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、アルミニウムイオン(Al3+)、銅イオン(Cu2+)又は鉄イオン(Fe2+又はFe3+)がより好ましい。なお、本明細書において、ベリリウムイオン(Be2+)及びマグネシウムイオン(Mg2+)はアルカリ土類金属イオンに含める。
【0027】
上記有機塩類又は無機塩類のアニオンは、酢酸イオン(CH3COO-)、炭酸イオン(CO3 2-)、水酸化物イオン(OH-)、ヨウ化物イオン(I-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、硝酸イオン(NO3 -)、硫酸イオン(SO4 2-)、オルトケイ酸イオン(SiO4 4-)及びリン酸イオン(PO4 3-)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0028】
多価金属イオン性化合物(B)としては、例えば、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化マグネシウム(塩化マグネシウム六水和物)、クエン酸マグネシウム九水和物、クエン酸ナトリウムタングステン、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸ストロンチウム、酢酸バリウム、硫酸バリウム、リン酸バリウム、塩化ベリリウム、炭酸ベリリウム、硫酸ベリリウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、ギ酸マンガン二水和物、硫酸マンガンアンモニウム六水和物、塩化第一銅、塩化第二銅、塩化アンモニウム銅(II)二水和物、硫酸第一銅、硫酸第二銅、塩化コバルト、硫酸コバルト、硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル六水和物、酢酸ニッケル四水和物、硫酸ニッケルアンモニウム六水和物、アミド硫酸ニッケル四水和物、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムミョウバン、亜硫酸アルミニウム、チオ硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム(硝酸アルミニウム九水和物)、塩化アルミニウム六水和物、臭化第一鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、炭酸第一鉄、リン酸第一鉄、水酸化第一鉄、臭化亜鉛、塩化亜鉛、ケイ酸亜鉛、水酸化亜鉛、硝酸亜鉛六水和物、硫酸亜鉛、四塩化チタン、テトライソプロピルチタネート、チタンアセチルアセトネート、乳酸チタン、リン酸チタン等が挙げられる。中でも、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、クエン酸マグネシウム九水和物、クエン酸ナトリウムタングステン、ケイ酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムミョウバン、亜硫酸アルミニウム、チオ硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム六水和物、臭化第一鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、炭酸第一鉄、リン酸第一鉄、水酸化第一鉄、塩化第一銅、塩化第二銅、塩化アンモニウム銅(II)二水和物、硫酸第一銅、硫酸第二銅等が好ましい。多価金属イオン性化合物(B)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記有機塩類又は無機塩類は、分子構造中に金属イオンと結合を形成しうる官能基を有するキレート剤との混合物であってもよい。
【0030】
多価金属イオン性化合物(B)の含有量は、カルボキシ基変性PVA(A)100質量部に対して0.001質量部以上25質量部以下が好ましく、0.005質量部以上20質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上20質量部以下がさらに好ましい。多価金属イオン性化合物(B)の含有量がカルボキシ基変性PVA(A)100質量部に対して0.001質量部未満の場合は、得られる農薬散布液の固着性が不十分となる傾向がある。一方で、多価金属イオン性化合物(B)の含有量がカルボキシ基変性PVA(A)100質量部に対して25質量部を超える場合は、農薬散布液の調製時にゲル化する傾向がある。
【0031】
多価金属イオン性化合物(B)の添加方法としては、(i)粉末のカルボキシ基変性PVA(A)と粉末の多価金属イオン性化合物(B)を混合する方法、(ii)農薬散布液の調製時にカルボキシ基変性PVA(A)水溶液に粉末の多価金属イオン性化合物(B)を添加する方法、(iii)多価金属イオン性化合物(B)の水溶液に粉末のカルボキシ基変性PVA(A)を添加する方法が、農薬散布液の植物表面への固着性を向上させる点で好ましい。
【0032】
本発明の農薬用展着剤は、実質的に、上記カルボキシ基変性PVA(A)のみを含むものであってもよく、上記カルボキシ基変性PVA(A)と、さらに必要に応じて上記多価金属イオン性化合物(B)とのみを含むものであってもよい。実質的に、上記カルボキシ基変性PVA(A)のみを含むとは、上記カルボキシ基変性PVA(A)以外の他の成分(例えば、他の展着剤、カルボキシ基変性PVA(A)以外の他のPVA、PVA以外の水溶性樹脂)の含有率が、好ましくは10質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%未満であり、さらに好ましくは0.01質量%未満であり、特に好ましくは0.001質量%未満であることを意味する。他の展着剤としては、一般展着剤、機能性展着剤、固着剤等が挙げられる。一般展着剤としては、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン(POE)アルキルフェニルエーテル系、POEアルキルエステル系等)、又は該非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤の混合物等が挙げられる。機能性展着剤としては、非イオン性界面活性剤(POEアルキルエーテル系、ソルビタン脂肪酸エステル系)、陰イオン性界面活性剤(ジアルキルスルホサクシネート塩等)、陽イオン性界面活性剤(テトラアルキルアンモニウム塩系)及びこれらの混合物等が挙げられる。固着剤としては、パラフィン、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル等が挙げられる。
【0033】
〔農薬散布液〕
本発明の農薬散布液は、上記の農薬用展着剤、農薬活性成分及び水を含有することが好ましい。また、本発明の農薬散布液は、溶媒として、水以外の溶媒を含有してもよい。他の実施形態としては、環境負荷の低減の点から、溶媒として、実質的に水以外の溶媒を含まないものであってもよい。実質的に水以外の溶媒を含まないとは、農薬散布液に含まれる溶媒の全量に対して、水以外の溶媒の含有率が好ましくは10質量%未満であり、より好ましくは5質量%未満であり、さらに好ましくは1質量%未満であることを意味する。カルボキシ基変性PVA(A)の含有率は、農薬散布液の全量に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上8質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。カルボキシ基変性PVA(A)の含有率を上記範囲にすると固着性及び植物表面への残留リスクの低減効果等が一層向上する。
【0034】
農薬散布液の全固形分濃度は0.001質量%以上20質量%以下が好ましく、0.01質量%以上10質量%以下がより好ましい。全固形分濃度が0.001質量%未満である場合は、必要量の農薬活性成分を与えることが困難になる傾向がある。一方、20質量%を超える場合は、過剰の農薬活性成分による汚染が問題となる傾向がある。
【0035】
農薬散布液を製造する方法は特に限定されないが、溶解性に優れ均一な農薬散布液が得られる観点から、カルボキシ基変性PVA(A)を含有する農薬用展着剤の溶液(とりわけ水溶液)と農薬活性成分と混合することが好ましい。農薬用展着剤の溶液におけるカルボキシ基変性PVA(A)の総固形分濃度は0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましい。
【0036】
また、農薬活性成分の含有量は、カルボキシ基変性PVA(A)100質量部に対して0.1質量部以上1000質量部以下が好ましく、1質量部以上500質量部以下がより好ましい。農薬活性成分の含有量がカルボキシ基変性PVA(A)100質量部に対して0.1質量部未満の場合は、必要量の農薬活性成分を与えることが困難になる傾向がある。一方、農薬活性成分の含有量がカルボキシ基変性PVA(A)100質量部に対して1000質量部を超える場合は、固着性が低下する傾向がある。
【0037】
上記農薬活性成分としては、例えば除草剤、殺虫剤、殺菌剤、植物調整剤、肥料等が挙げられ、常温(21℃)で液状又は粉末状の形態が好ましい。中でも、常温水(21℃)に対する飽和溶解度が50ppm以上である水溶性の農薬活性成分を含有するのが好ましい。これらの農薬活性成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
除草剤としては、例えば2,4-PA、MCP、MCPB、MCPAチオエチル(フェノチオール)、クロメプロップ、ナプロアニリド、CNP、クロメトキシニル、ビフェノックス、MCC、ベンチオカーブ、エスプロカルブ、モリネート、ジメピペレート、DCPA、ブタクロール、プレチラクロール、ブロモブチド、メフェナセット、ダイムロン、シメトリン、プロメトリン、ジメタメトリン、ベンダゾン、オキサジアゾン、ピラゾレート、ピラゾキシフェン、ベンゾフェナップ、トリフルラリン、ピペロホス、ACN、ベンスルフロンメチル等が挙げられる。
【0039】
殺虫剤としては、例えばMPP、MEP、ECP、ピリミホスメチル、ダイアジノン、イソキサチオン、ピリダフェンチオン、フロルピリホスメチル、クロルピリホス、ESP、バミドチオン、プロフェノホス、マラソン、PAP、ジメトエート、ホルモチオン、チオメトン、エチルチオメトン、ホサロン、PMP、DMTP、プロチオホス、スルプロホス、ピラクロホス、DDVP、モノクロトホス、BRP、CVMP、ジメチルビンホス、CVP、プロパホス、アセフェート、イソフェンホス、サリチオン、DEP、EPN、エチオン、NAC、MTMC、MIPC、BPMC、PHC、MPMC、XMC、エチオフェンカルブ、ベンダイオカルブ、ピリミカーブ、カルボスルファン、ベンフラカルブ、メソミル、チオジカルブ、アラニカルブ、アレスリン、レスメトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シハロトリン、シフルトリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、シクロプロトリン、フェンバレレート、フルシトリネート、フルバリネート、エトフェンプロックス、カルタップ、チオシクラム、ベンスルタップ、ジフルベンズロン、テフルベンズロン、クロルフルアズロン、ブフロフェジン、フェノキシカルブ、除虫菊、デリス、硫酸ニコチン、マシン油、なたね油、CPCBS、ケルセン、クロルベンジレート、フェニソブロモレート、テトラジホン、BPPS、キノキサリン、アミトラズ、ベンゾメート、フェノチオカルブ、ヘキシチアゾクス、酸化フェンブタスズ、ジエノクロル、フェンピロキシメート、フルアジナム、ピリダベン、クロフェンテジン、DPC、ポリナフチン複合体、ミルベメクチン、DCIP、ダゾメット、ベンゾエピン、メタアルデヒド、DCV、BT、フェントロチオン等が挙げられる。
【0040】
殺菌剤としては、例えばカスガマイシン、ベノミル、チアベンダゾール、チオファネートメチル、チウラム、プロクロラズ、トリフミゾール、イプコナゾール、塩基性塩化銅、塩基性硫酸銅、水酸化第二銅、ノニルフェノールスルホン酸銅、DBEDC、テレフタル酸銅、無機硫黄、ジネブ、マンネブ、マンゼブ、アンバム、ポリカーバメート、有機ニッケル、プロピネブ、ジラム、チアジアジン、キャプタン、スルフェン酸系、TPN、フサライド、IBP、EDDP、トルクロホスメチル、ピラゾホス、ホセチル、カルベンダゾール、ジエトフェンカルブ、イプロジオン、ビンクロゾリン、プロシミドン、フルオルイミド、オキシカルボキシン、メプロニル、フルトラニル、テクロフタラム、トリクラミド、ペンシクロン、メタラキシル、オキサジキシル、トリアジメホン、ビテルタノール、ミクロブタニル、ヘキサコナゾール、プロピコナゾール、フェナリモル、ピリフェノックス、トリホリン、ブラストサイジンS、ポリオキシン、バリダマイシン、ストレプトマイシン、オキシテトラサイクリン、ミルディオマイシン、PCNB、ヒドロキシイソキサゾール、エクロメゾール、クロロネブ、メタスルホカルブ、メチルイソチオシアネート、有機ひ素硫酸亜鉛、ジチアノン、ベンゾチアゾール、キノキサリン系、CNA、ジメチリモール、ジクロメジン、トリアジン、フェリムゾン、フルアジナム、プロベナゾール、イソプロチオラン、トリシクラゾール、ピロキロン、オキソリニック酸、イミノクタジン酢酸塩、アルギン酸、対抗菌、シイタケ菌糸体抽出物、こうじ菌産生物、アグロバクテリウムラジオバクター、イミベンコナゾール等が挙げられる。
【0041】
植物調整剤としては、例えばイナベンフィド、オキシエチレンドコサノール、ニコチン酸アミド、ベンジルアミノプリン等が挙げられる。
【0042】
肥料としては、例えばオキサミド、クロトニリデン二尿素(CDU)、イソブチリデン二尿素(IB)、ウレアホルム、熔性りん肥、混合りん酸肥料、副酸石灰肥料、炭酸カルシウム肥料、混合石灰肥料、鉱さいけい酸質肥料、その他けい酸質肥料、水酸化苦土肥料、副酸苦土肥料、加工苦土肥料、鉱さいマンガン肥料、熔性微量要素肥料等が挙げられる。その他、鉱さいけい酸質肥料と同様に、けい酸供給及びアルカリ分によるpH矯正を目的とする加工鉱さいりん酸肥料等も適用可能である。中でも、オキサミド、クロトニリデン二尿素(CDU)、イソブチリデン二尿素(IB)、ウレアホルム、加工鉱さいりん酸肥料、鉱さいけい酸質肥料、混合りん酸肥料が好ましい。
【0043】
本発明の農薬散布液は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、上記他の展着剤、カルボキシ基変性PVA(A)以外の他のPVA、PVA以外の水溶性樹脂、乳化剤、水和剤、フロアブル剤、界面活性剤、増粘剤、架橋剤、防腐剤等が挙げられる。他の成分の含有率は、農薬散布液の全量に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%未満がさらに好ましく、0.1質量%未満が特に好ましい。
【0044】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例
【0045】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、カルボキシ基変性PVA(A)の粘度平均重合度、けん化度及び固着性は、以下の方法で測定又は評価した。
【0046】
[カルボキシ基変性PVA(A)の粘度平均重合度]
各カルボキシ基変性PVAの粘度平均重合度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた。
【0047】
[カルボキシ基変性PVA(A)のけん化度]
各カルボキシ基変性PVAのけん化度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた。
【0048】
[固着性評価]
(水を5回又は10回噴きかけた場合の評価)
後記する実施例及び比較例で得た農薬散布液を、植物(シェフレラ)の葉面に霧吹きで散布し、着色した。24時間放置後、その葉面(農薬散布液の散布面)に対し、霧吹きで10回、水を噴きかけた。そして、5回目及び10回目に水を吹きかけた際に農薬散布液が落ちずに残った展着面を目視観察し、農薬散布液の散布面の面積に対する、その展着面の割合を測定し、下記の基準で評価した。
A:残存着色面が80%以上
B:残存着色面が30%以上80%未満
C:残存着色面が30%未満
(総合評価)
本発明の展着剤は植物表面への初期の固着性に優れつつ、植物表面への残留リスクが低減されたものとして、5回目の水の噴霧の際の固着性が上記評価基準の「A」で、10回目の水の噴霧の際の固着性が上記評価基準の「B」の評価が最も好ましい態様である。この点について、5回目及び10回目の水の噴霧の際の固着性評価を総合し、下記の基準で評価した。
4:5回目が「A」、10回目が「B」
3:5回目が「B」、10回目が「B」
2:5回目が「B」、10回目が「C」
1:5回目が「C」、10回目が「C」
【0049】
[実施例1]
(PVA-1:カルボキシ基変性PVA(A)の製造)
還流冷却器、撹拌機、温度計、窒素導入管及び後添加液の仕込み口とポンプを備えたセパラブルフラスコに酢酸ビニルを1300g、メタノールを500g、イタコン酸の10質量%メタノール溶液を11mL仕込んだ。重合液を撹拌しつつ、系内で窒素置換して恒温槽により加熱し、60℃の恒温になった時点で2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)0.5gを添加し重合を開始した。重合開始時点より、重合系の固形分濃度を分析しつつ、イタコン酸の10質量%メタノール溶液を滴下しつつ重合を進行させた。重合開始から2.3時間までの間にイタコン酸の10質量%メタノール溶液96.6mLをほぼ均一に滴下した後、メタノールを1000g加えて重合を停止した。この重合ペーストにメタノール蒸気を吹き込んで未反応の酢酸ビニル単量体を除去し、カルボン酸単位の含有率が1.5モル%の酢酸ビニル-イタコン酸共重合体のメタノール溶液(PVAc溶液)を得た。
得られた該PVAc溶液にメタノールを加えて濃度が25質量%となるように調整したPVAcのメタノール溶液400g(溶液中のPVAc100g)に、11.6g(PVAc中の酢酸ビニル単位に対してモル比[MR]0.025)のアルカリ溶液(NaOHの10質量%メタノール溶液)を添加して、40℃でけん化を行った。アルカリ溶液の添加後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、合計1時間けん化反応を行った後、メタノール1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して、本発明のカルボキシ基変性PVA(PVA-1)を得た。PVA-1の物性を表2に示す。
【0050】
(農薬散布液の調製)
PVA-1を用いて1質量%水溶液を調製し、調製したPVA水溶液100質量部に対して、ノニオン系界面活性剤(花王株式会社製、デモールN)を0.1質量部及び農薬活性成分(住友化学園芸製、オルチオン乳剤 有効成分:アセフェート、MEP)を0.4質量部添加した。農薬散布液の固着性評価のために着色剤としてローダミンBを0.1質量部添加した後、上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0051】
[実施例2~8]
(PVA-2~PVA-7の製造、農薬散布液の調製)
カルボキシ基を有する単量体、酢酸ビニル、メタノール及び重合開始剤の量、重合温度、重合時間及び重合率、並びに、けん化時におけるPVAc溶液濃度及びけん化触媒の使用量、けん化温度を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、各種PVA(PVA-2~PVA-7)を製造した。PVA-2~PVA-7の物性を表2に示す。PVA-1に代えて、PVA-2~PVA-7をそれぞれ用いたこと、並びに多価金属イオン性化合物(B)の種類及び量を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、農薬散布液を調製した。なお、多価金属イオン性化合物(B)は、実施例1と同様の方法により調製した各種PVAの1質量%水溶液に添加した。得られた農薬散布液の固着性を上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0052】
[比較例1]
(PVA-iの製造、農薬散布液の調製)
撹拌機、窒素導入口及び開始剤添加口を備えたセパラブルフラスコに酢酸ビニル630g、メタノール1170gを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。上記フラスコの内温を60℃に調整した後、AIBN0.5gを添加し重合を開始した。重合開始から3.2時間後に重合率が40%となったところで、メタノール1000gを添加後、冷却して重合を停止した。未反応酢酸ビニルモノマーを除去しPVAcのメタノール溶液とした。得られた該PVAc溶液にメタノールを加えて濃度が25質量%となるように調整したPVAcのメタノール溶液400g(溶液中のPVAc100g)に、11.6g(PVAc中の酢酸ビニル単位に対するモル比[MR]0.025)のアルカリ溶液(NaOHの10質量%メタノール溶液)を添加して、40℃でけん化を行った。アルカリ添加後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、合計1時間けん化反応を行った後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAにメタノール1000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥することで、PVA(PVA-i)を得た。PVA-iの物性を表2に示す。PVA-1に代えて、PVA-iを用いた以外は実施例1と同様にして、農薬散布液を調製した。得られた農薬散布液の固着性を上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0053】
[比較例2]
(PVA-iiの製造)
特開2015-134704号公報(特許文献2)の実施例5と同様の方法で、末端カルボキシ基変性PVA(PVA-ii)を製造した。PVA-iiの物性を表2に示す。PVA-1に代えて、PVA-iiを用いたこと以外は実施例1と同様にして、農薬散布液を調製した。得られた農薬散布液の固着性を上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0054】
[比較例3]
(PVA-iiiの製造)
酢酸ビニルの量、重合時間及び重合率、多価金属イオン性化合物(B)の種類、並びに、けん化時におけるPVAc溶液濃度及びけん化触媒の使用量を表1に示すように変更した以外は比較例1と同様にして、PVA-iiiを製造した。PVA-iiiの物性を表2に示す。PVA-1に代えて、PVA-iiiを用いたこと以外は実施例1と同様にして、農薬散布液を調製した。得られた農薬散布液の固着性を上述の方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の農薬用展着剤は、特定のカルボキシ基変性PVA(A)を含有するため、特に植物表面への固着性に優れる。また、該農薬用展着剤を用いて得られる農薬散布液は、植物表面への固着性に優れつつ、植物表面への残留リスクを低減できる。さらに、本発明の農薬用展着剤は、水を溶媒として使用できるため、使用時の環境負荷が低いという効果も有する。従って、農業分野で使用される液状散布液(例えば葉、茎、果実等への散布液)への適用に有効である。