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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】電子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/06 20060101AFI20221018BHJP
   H01J 37/18 20060101ALI20221018BHJP
   H01J 37/28 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
H01J37/06 A
H01J37/18
H01J37/28 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021529603
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2019026322
(87)【国際公開番号】W WO2021001932
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川本 絵里奈
(72)【発明者】
【氏名】松永 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】片桐 創一
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】土肥 隆
(72)【発明者】
【氏名】澤畠 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】山崎 実
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/153939(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を放出する電子銃が配置されるとともに、スパッターイオンポンプと非蒸発ゲッターポンプが接続される電子銃室を備える電子線装置であって、
水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを前記電子銃室に供給するガス供給部をさらに備え、
前記ガス供給部は、前記ガスを発生するガス発生源を有し、
前記ガス発生源は、前記ガスを吸蔵する合金であり、
前記合金は前記非蒸発ゲッターポンプと同じ材料であって、
前記合金の表面積は前記非蒸発ゲッターポンプの表面積よりも小さいことを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
電子線を放出する電子銃が配置されるとともに、スパッターイオンポンプと非蒸発ゲッターポンプが接続される電子銃室を備える電子線装置であって、
水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを前記電子銃室に供給するガス供給部をさらに備え、
前記ガス供給部は、前記ガスを発生するガス発生源を有し、
前記ガス供給部は、前記ガス発生源に光を照射する光源をさらに有することを特徴とする電子線装置。
【請求項3】
請求項に記載の電子線装置であって、
前記ガス発生源は炭酸カルシウム又はカルボン酸であって、
前記光源は赤外線を照射することを特徴とする電子線装置。
【請求項4】
電子線を放出する電子銃が配置されるとともに、スパッターイオンポンプと非蒸発ゲッターポンプが接続される電子銃室を備える電子線装置であって、
水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを前記電子銃室に供給するガス供給部をさらに備え、
前記ガス供給部は、前記ガスを発生するガス発生源を有し、
前記ガス供給部は、前記ガス発生源に荷電粒子を照射する荷電粒子源をさらに有することを特徴とする電子線装置。
【請求項5】
電子線を放出する電子銃が配置されるとともに、スパッターイオンポンプと非蒸発ゲッターポンプが接続される電子銃室を備える電子線装置であって、
水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを前記電子銃室に供給するガス供給部をさらに備え、
前記ガス供給部は、前記非蒸発ゲッターポンプよりも前記スパッターイオンポンプに近い位置に配置されることを特徴とする電子線装置。
【請求項6】
電子線を放出する電子銃が配置されるとともに、スパッターイオンポンプと非蒸発ゲッターポンプが接続される電子銃室を備える電子線装置であって、
水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを前記電子銃室に供給するガス供給部をさらに備え、
前記スパッターイオンポンプは、電離電流を計測する電流計を有し、
前記ガス供給部は、前記電流計の計測値に基づいて制御されることを特徴とする電子線装置。
【請求項7】
請求項に記載の電子線装置であって、
前記ガス供給部は、前記電流計の計測値に基づいて、前記スパッターイオンポンプによる排気がなされていないと判定される場合には前記ガスを供給し、前記スパッターイオンポンプによる排気がなされていると判定される場合には前記ガスの供給を停止することを特徴とする電子線装置。
【請求項8】
請求項に記載の電子線装置であって、
前記ガス供給部は、前記スパッターイオンポンプによる排気がなされていると判定されるまで、前記ガスの供給量を増加させることを特徴とする電子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡に代表される電子線装置に係り、特に電子銃が配置される電子銃室を10-6~10-8Pa台の超高真空よりも高い真空度である極高真空まで排気する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線装置の一例である電子顕微鏡は、微細な構造を持つ様々な試料の観察に用いられ、特に半導体デバイスの製造工程では、半導体ウェハに形成されたパターンの寸法計測や欠陥検査等に利用される。電子線装置では、電子銃から放出される電子線の電子量を安定させるために、電子銃が配置される電子銃室の真空度を向上させることが求められる。
【0003】
特許文献1には、スパッターイオンポンプ(sputter Ion Pump; IP)と非蒸発ゲッター(Non-Evaporable Getter; NEG)ポンプとを備える極高真空排気装置において、IPによるガスの排気を誘発させる排気誘発材を供給することが開示されている。特に、極高真空状態で、IPを一時停止させた後に再起動させる際、超音波振動子により真空容器等を振動させて部材表面に吸着されたガスを放出させ、排気誘発材として供給することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3926206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1において排気誘発材として放出されるガスには、主成分である水素ガスとともに、IPやNEGポンプで排気しにくいガスが含まれることがあり、IPの再起動後に極高真空状態に到達するまでに長時間を要する場合がある。IPの再起動後に極高真空状態に到達する時間が長いと、例えば電子銃を交換するときに電子線装置のダウンタイムが長くなり、半導体デバイスの製造工程に支障をきたす。
【0006】
そこで本発明は、スパッターイオンポンプと非蒸発ゲッターポンプが接続される電子銃室が極高真空状態に到達するまでの時間を低減する電子線装置と電子線装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、電子線を放出する電子銃が配置されるとともに、スパッターイオンポンプと非蒸発ゲッターポンプが接続される電子銃室を備える電子線装置であって、水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを前記電子銃室に供給するガス供給部をさらに備えることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、電子線を放出する電子銃が配置されるとともに、スパッターイオンポンプと非蒸発ゲッターポンプが接続される電子銃室を備える電子線装置の制御方法であって、水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを前記電子銃室に供給するガス供給ステップを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スパッターイオンポンプと非蒸発ゲッターポンプが接続される電子銃室が極高真空状態に到達するまでの時間を低減する電子線装置と電子線装置の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電子線装置の全体構成図
図2】実施例1の電子銃室の一例を説明する図
図3】実施例2の電子銃室の一例を説明する図
図4】実施例2のガス発生源の材料の例を説明する図
図5】実施例3の電子銃室の一例を説明する図
図6】実施例3の電子銃室の他の例を説明する図
図7】実施例4の電子銃室の一例を説明する図
図8】実施例5の電子銃室の一例を説明する図
図9】実施例6の電子銃室の一例を説明する図
図10】実施例6の処理の流れの一例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に従って本発明に係る電子線装置の実施例について説明する。電子線装置は、電子線を試料に照射することによって試料を観察したり加工したりする装置であり、走査電子顕微鏡や走査透過電子顕微鏡等の様々な装置がある。以下では、電子線装置の一例として、電子線を用いて試料を観察する走査電子顕微鏡について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1を用いて本実施例の走査電子顕微鏡の全体構成について説明する。走査電子顕微鏡は、電子銃室100と集束・偏向室110と試料室120と制御部130を備える。
【0013】
電子銃室100には、電子線を放出する電子銃101が配置されるとともに、スパッターイオンポンプ102と非蒸発ゲッターポンプ103が接続される。スパッターイオンポンプ102と非蒸発ゲッターポンプ103が接続されることにより、電子銃室100は10-6~10-8Pa台の超高真空よりも高い真空度である極高真空まで排気される。スパッターイオンポンプ102はIP(sputter Ion Pump)、非蒸発ゲッターポンプ103はNEG(Non-Evaporable Getter Pump)ポンプとも呼ばれる。電子銃室100には、水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを供給するガス供給部104と、図示されない補助ポンプも接続される。補助ポンプは大気圧から真空排気するポンプであり、例えばドライポンプやターボ分子ポンプである。電子銃室100の詳細構成については図2を用いて説明する。
【0014】
集束・偏向室110は第一ポンプ112によって真空排気され、第一開口111を介して接続される電子銃室100と差動排気される。第一ポンプ112には、例えばスパッターイオンポンプ等が用いられる。集束・偏向室110には、図示されない集束レンズや偏向器が配置され、電子銃101から放出された電子線が集束されたり、偏向されたりする。
【0015】
試料室120は第二ポンプ122によって真空排気され、第二開口121を介して接続される集束・偏向室110と差動排気される。第二ポンプ122には、例えばターボ分子ポンプ等が用いられる。試料室120には、試料123が載置される試料台124が配置され、集束・偏向室110にて集束・偏向された電子線が試料123に照射される。電子線の照射により試料123から放出される二次電子や反射電子は、集束・偏向室110に配置される図示されない検出器によって検出される。
【0016】
制御部130は走査電子顕微鏡の各部を制御する装置であり、例えばコンピュータによって構成される。制御部130は検出器が出力する信号に基づいて観察画像を生成し、表示する。
【0017】
図2を用いて本実施例の電子銃室100について説明する。電子銃室100に配置される電子銃101は電子線を放出する電子源であり、例えば加熱によって熱電子が放出される熱電子源や、高電圧の印加により電子が電界放出される電界放出電子源等である。電子銃101から放出された電子線は、図示されない加速電極に印加される加速電圧により加速される。
【0018】
スパッターイオンポンプ102は、電場と磁場によってらせん運動しながら陰極間を往復運動する電子がガス分子をイオン化し、イオン化されたガスによってスパッターされる陰極の原子が形成する清浄な蒸着膜のゲッター作用によりガス排気するポンプである。スパッターイオンポンプ102にはIP用電源105が接続され、電場を形成するための高電圧が印加される。なおスパッターイオンポンプ102では、イオン化されたガスが陰極の内部に捕獲されることによってもガス排気がなされる。スパッターイオンポンプ102ではガスのイオン化によって排気作用が生じるので、残留ガスが少なくなるほど、すなわち真空度が高くなるほど排気速度が低下し、到達真空度は10-8Pa台の超高真空である。
【0019】
非蒸発ゲッターポンプ103は、ガスとの化学反応性の高い金属、例えばチタンやジルコニウムが超高真空中で加熱清浄化されることにより、表面に近づいたガスを捕獲することによってガス排気するポンプである。非蒸発ゲッターポンプ103には加熱するためのNEG加熱部106が備えられる。またNEG加熱部106にはNEG用電源107が接続され、非蒸発ゲッターポンプ103を加熱するための電力が供給される。スパッターイオンポンプ102の真空排気により超高真空に到達した状態で、NEG用電源107から電力が供給されて非蒸発ゲッターポンプ103が動作することにより、電子銃室100は極高真空に到達する。
【0020】
非蒸発ゲッターポンプ103は、超高真空においても高い排気速度を維持できるので、超高真空よりも高い真空度である極高真空まで到達できるものの、ガスの捕獲量が表面積の大きさで制限されるので動作時間に限りがある。すなわち、長時間の使用や低い真空度での使用によって非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度は低下する。例えば、電子銃101を交換する際、スパッターイオンポンプ102を一時停止させてから再起動するまでの間、非蒸発ゲッターポンプ103は動作し続け、動作時間が長くなるにつれて排気速度が低下するので、極高真空への到達に長時間を要する。また、スパッターイオンポンプ102を再起動させるために供給されるガスに、スパッターイオンポンプ102や非蒸発ゲッターポンプ103が排気しにくいガスが含まれていても、極高真空への到達時間が長くなる。
【0021】
そこで本実施例では、スパッターイオンポンプ102や非蒸発ゲッターポンプ103で排気しやすいガスを電子銃室100へ供給してスパッターイオンポンプ102を短時間で再起動させることにより、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度を低下させない。非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度が低下しなければ、極高真空への到達時間を低減できる。
【0022】
ガス供給部104は、スパッターイオンポンプ102や非蒸発ゲッターポンプ103で排気しやすい水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを電子銃室100に供給する。本実施例のガス供給部104は、ガス発生源201と加熱部202と加熱用電源203を有する。以下、各部について説明する。
【0023】
ガス発生源201は、水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを発生する部材であり、例えば、当該ガスを吸蔵する合金や水素化物、酸化物、炭酸化物、水酸化物である。またガス発生源201から発生するガスが非蒸発ゲッターポンプ103で排気しやすいガスとなるように、ガス発生源201の材料は非蒸発ゲッターポンプ103と同じであることが望ましい。さらに両者の材料が同じ場合は、ガス発生源201から発生するガスの量が非蒸発ゲッターポンプ103の排気許容量を下回るように、ガス発生源201の表面積は非蒸発ゲッターポンプ103よりも小さいことが望ましい。
【0024】
加熱部202は、ガス発生源201を加熱するヒータであり、ガスが発生する温度に達するまでガス発生源201を昇温する。加熱部202は、IP用電源105から高電圧が印加されたにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102によるガス排気がなされないときに、ガス発生源201を加熱してガスを発生させる。
【0025】
加熱用電源203は、加熱部202に電力を供給する電力源であり、電力が供給されることによって加熱部202がガス発生源201を加熱する。加熱部202に供給される電力量は、制御部130による制御や操作者による操作に基づいて調整される。
【0026】
以上説明した本実施例のガス供給部104によれば、例えば電子銃101の交換時にスパッターイオンポンプ102を短時間で再起動させることができる。すなわちIP用電源105が高電圧を印加しているにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102が再起動しないときに、加熱用電源203から加熱部202へ電力が供給されてガス発生源201が加熱される。そして、ガス発生源201の加熱によって発生するガスにより、スパッターイオンポンプ102が短時間で再起動するので、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度が維持される。またガス発生源201から発生する水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素は、スパッターイオンポンプ102や非蒸発ゲッターポンプ103で排気しやすいガスであるので、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度の維持とともなって、極高真空への到達時間を低減できる。
【実施例2】
【0027】
実施例1では、ガス発生源201を加熱することによってスパッターイオンポンプ102を再起動させるためのガスを発生させることについて説明した。本実施例では、ガス発生源201に光を照射することによりスパッターイオンポンプ102を再起動させるためのガスを発生させることについて説明する。なお、走査電子顕微鏡の全体構成は実施例1と同じであるので説明を省略する。
【0028】
図3を用いて本実施例の電子銃室100について説明する。電子銃室100には、実施例1と同様に、電子銃101が配置されるとともに、スパッターイオンポンプ102と非蒸発ゲッターポンプ103、ガス供給部104が接続される。電子銃101とスパッターイオンポンプ102、非蒸発ゲッターポンプ103は実施例1と同じである。本実施例のガス供給部104は、ガス発生源201と光源301と透過窓303を有する。ガス発生源201は実施例1と同じであるので、光源301と透過窓303について説明する。
【0029】
光源301は、ガス発生源201からガスを発生させるための光302を照射する装置であり、例えばLED(Light Emission Diode)である。光源301からガス発生源201へ照射される光302は、ガス発生源201の材料に応じて適切に選択されることが好ましい。例えば図4に示すように、ガス発生源201の材料が炭酸カルシウムやカルボン酸である場合、光源301は赤外線を照射する。炭酸カルシウムやカルボン酸に赤外線が照射されると、加熱により化学変化が生じ二酸化炭素が発生する。なお紫外線の照射によって水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素の少なくともいずれかのガスを発生する材料がガス発生源201に用いられても良い。光源301は、IP用電源105から高電圧が印加されたにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102によるガス排気がなされないときに、ガス発生源201に光302を照射してガスを発生させる。
【0030】
光源301とガス発生源201との間には、光302を集束させるためのレンズが配置されても良い。また光302の軸方向に沿ってレンズの位置を移動させることにより、光302が照射される面積が制御されても良い。さらに光源301の向きを変えることにより、光302が照射される位置が制御されても良い。光302が照射される面積や位置の制御によって、ガス発生源201から発生するガスの量を調整することができる。なおガスの発生量は、光源301の出力制御によって調整されても良い。ガスの発生量は、制御部130による制御や操作者による操作に基づいて調整される。
【0031】
透過窓303は、光源301からの光302を透過するとともに、電子銃室100の真空を封止する部材である。透過窓303には、光302の透過率が高い材料を用いることが好ましい。なお、光源301が電子銃室100の中に配置される場合、透過窓303はなくても良い。
【0032】
以上説明した本実施例のガス供給部104によれば、例えば電子銃101の交換時に、実施例1と同様に、スパッターイオンポンプ102を短時間で再起動させることができる。すなわちIP用電源105が高電圧を印加しているにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102が再起動しないときに、光源301が光302を照射することによりガス発生源201からガスが発生する。そして、ガス発生源201から発生するガスにより、スパッターイオンポンプ102が短時間で再起動するので、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度が維持される。またガス発生源201から発生する水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素は、スパッターイオンポンプ102や非蒸発ゲッターポンプ103で排気しやすいガスであるので、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度の維持とともなって、極高真空への到達時間を低減できる。
【0033】
さらに本実施例によれば、光302の照射によりガスが発生するので、スパッターイオンポンプ102を再起動させるためのガスの発生量をより迅速に調整することができる。
【実施例3】
【0034】
実施例1ではガス発生源201を加熱することによって、実施例2ではガス発生源201に光302を照射することによって、スパッターイオンポンプ102を再起動させるためのガスを発生させることについて説明した。本実施例では、ガス発生源201に荷電粒子を照射することによりスパッターイオンポンプ102を再起動させるためのガスを発生させることについて説明する。なお、走査電子顕微鏡の全体構成は実施例1と同じであるので説明を省略する。
【0035】
図5を用いて本実施例の電子銃室100について説明する。電子銃室100には、実施例1と同様に、電子銃101が配置されるとともに、スパッターイオンポンプ102と非蒸発ゲッターポンプ103、ガス供給部104が接続される。電子銃101とスパッターイオンポンプ102、非蒸発ゲッターポンプ103は実施例1と同じである。本実施例のガス供給部104は、ガス発生源201と荷電粒子源501と加速電源502を有する。ガス発生源201は実施例1と同じであるので、荷電粒子源501と加速電源502について説明する。
【0036】
荷電粒子源501は、ガス発生源201からガスを発生させるための荷電粒子を照射する装置であり、例えば電子銃等の電子源である。荷電粒子源501は、IP用電源105から高電圧が印加されたにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102によるガス排気がなされないときに、ガス発生源201に荷電粒子、例えば電子を照射してガスを発生させる。
【0037】
荷電粒子源501とガス発生源201との間には、荷電粒子を集束させるための電磁レンズが配置されても良い。また荷電粒子を偏向させる偏向器が配置されても良い。荷電粒子が照射される面積や位置の制御によって、ガス発生源201から発生するガスの量を調整することができる。なおガスの発生量は、荷電粒子源501の出力制御によって調整されても良い。
【0038】
加速電源502は、荷電粒子源501とガス発生源201との間に電圧を印加する回路である。加速電源502によって印加される電圧により、荷電粒子源501から照射される荷電粒子は加速される。すなわち加速電源502が印加する電圧の制御によっても、ガス発生源201から発生するガスの量を調整できる。ガスの発生量は、制御部130による制御や操作者による操作に基づいて調整される。
【0039】
図6を用いて本実施例の電子銃室100の他の例について説明する。図6では、図5の荷電粒子源501の代わりに電子銃101を利用するために、ガス発生源201の位置が変更されるとともに、偏向器601が設けられる。すなわち電子銃101から放出される電子線は偏向器601によって偏向され、電子線の光軸602に近づけて配置されるガス発生源201に照射される。なお偏向器には、静電偏向器や電磁偏向器が用いられる。電子銃101と偏向器601は、IP用電源105から高電圧が印加されたにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102によるガス排気がなされないときに動作し、ガス発生源201に電子線を照射してガスを発生させる。
【0040】
以上説明した本実施例のガス供給部104によれば、例えば電子銃101の交換時に、実施例1や実施例2と同様に、スパッターイオンポンプ102を短時間で再起動させることができる。すなわちIP用電源105が高電圧を印加しているにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102が再起動しないときに、荷電粒子源501から荷電粒子が照射されたり、電子銃101から電子線が照射されたりすることによりガス発生源201からガスが発生する。そして、ガス発生源201から発生するガスにより、スパッターイオンポンプ102が短時間で再起動するので、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度が維持される。またガス発生源201から発生する水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素は、スパッターイオンポンプ102や非蒸発ゲッターポンプ103で排気しやすいガスであるので、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度の維持とともなって、極高真空への到達時間を低減できる。
【0041】
さらに本実施例によれば、荷電粒子の照射によってガス発生源201に対してより高いエネルギーを与えることができるので、ガスの吸蔵量が少ない安価な材料をガス発生源201に用いることができる。
【実施例4】
【0042】
実施例1乃至3では、スパッターイオンポンプ102を再起動させるためのガスをガス発生源201から発生させて電子銃室100に供給することについて説明した。本実施例では、スパッターイオンポンプ102を再起動させるためのガスをガスボンベから供給することについて説明する。なお、走査電子顕微鏡の全体構成は実施例1と同じであるので説明を省略する。
【0043】
図7を用いて本実施例の電子銃室100について説明する。電子銃室100には、実施例1と同様に、電子銃101が配置されるとともに、スパッターイオンポンプ102と非蒸発ゲッターポンプ103、ガス供給部104が接続される。電子銃101とスパッターイオンポンプ102、非蒸発ゲッターポンプ103は実施例1と同じである。本実施例のガス供給部104は、ガスボンベ701と配管702とバルブ703を有する。
【0044】
ガスボンベ701は、水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素のいずれかのガスを封入する容器であり、配管702とバルブ703を介して、電子銃室100に接続される。ガスボンベ701に封入されるガスは、バルブ703が開けられたときに配管702を通じて電子銃室100に供給される。すなわち、IP用電源105から高電圧が印加されたにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102によるガス排気がなされないときにバルブ703が開けられ、ガスボンベ701から電子銃室100へガスが供給される。また電子銃室100へのガスの供給量はバルブ703の開放の程度よって調整される。なおバルブ703の開放の程度は、制御部130による制御や操作者による操作に基づいて調整される。
【0045】
以上説明した本実施例のガス供給部104によれば、例えば電子銃101の交換時に、実施例1乃至3と同様に、スパッターイオンポンプ102を短時間で再起動させることができる。すなわちIP用電源105が高電圧を印加しているにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102が再起動しないときに、バルブ703が開けられることにより、ガスボンベ701から電子銃室100へガスが供給される。そして供給される水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素のいずれかのガスにより、スパッターイオンポンプ102が短時間で再起動するので、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度が維持される。またガスボンベ701から供給されるのは、スパッターイオンポンプ102や非蒸発ゲッターポンプ103で排気しやすいガスであるので、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度の維持とともなって、極高真空への到達時間を低減できる。
【0046】
なおガスボンベ701と配管702とバルブ703のセットからなるガス供給部104は、図7に示されるように単一のセットであっても良いし、複数のセットが電子銃室100にそれぞれ接続されても良い。
【実施例5】
【0047】
実施例1乃至4では、ガス供給部104が電子銃室100に接続されることについては説明した。ガス供給部104から供給されるガスは、スパッターイオンポンプ102の再起動に用いられる。そこで本実施例では、ガス供給部104をスパッターイオンポンプ102の近傍に配置することについて説明する。なお、走査電子顕微鏡の全体構成は実施例1と同じであるので説明を省略する。
【0048】
図8を用いて本実施例の電子銃室100について説明する。電子銃室100には、実施例1乃至4と同様に、電子銃101が配置されるとともに、スパッターイオンポンプ102と非蒸発ゲッターポンプ103、ガス供給部104が接続される。本実施例が実施例1乃至4と異なる点は、ガス供給部104がスパッターイオンポンプ102の近傍に配置される点である。より具体的には、ガス供給部104は非蒸発ゲッターポンプ103よりもスパッターイオンポンプ102に近い位置に配置される。このような配置により、ガス供給部104から供給されるガスは、スパッターイオンポンプ102よりも遠い位置に配置される非蒸発ゲッターポンプ103に捕獲されずにスパッターイオンポンプ102へ到達できる。
【0049】
本実施例によれば、例えば電子銃101の交換時に、スパッターイオンポンプ102をより短時間で再起動させることができる。すなわちIP用電源105が高電圧を印加しているにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102が再起動しないときに、スパッターイオンポンプ102の近傍に配置されるガス供給部104からガスが供給される。そして供給されるガスは、非蒸発ゲッターポンプ103に捕獲されることなく、スパッターイオンポンプ102へ到達するので、スパッターイオンポンプ102をより短時間で再起動させることができる。その結果、ガス供給部104から供給されたガスが非蒸発ゲッターポンプ103に捕獲されなかったことと相まって、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度が維持される。またガス供給部104から供給されるのは、スパッターイオンポンプ102や非蒸発ゲッターポンプ103で排気しやすいガスであるので、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度の維持とともなって、極高真空への到達時間を低減できる。
【実施例6】
【0050】
実施例1乃至5では、IP用電源105が高電圧を印加しているにもかかわらず、スパッターイオンポンプ102が再起動しないときに、ガス供給部104がガスを供給することについて説明した。本実施例では、スパッターイオンポンプ102に流れる電離電流に基づいてガス供給部104から供給されるガスの量を制御することについて説明する。なお、走査電子顕微鏡の全体構成は実施例1と同じであるので説明を省略する。
【0051】
図9を用いて本実施例の電子銃室100について説明する。電子銃室100には、実施例1乃至5と同様に、電子銃101が配置されるとともに、スパッターイオンポンプ102と非蒸発ゲッターポンプ103、ガス供給部104が接続される。本実施例が実施例1乃至5と異なる点は、スパッターイオンポンプ102に電流計901が設けられる点と、電流計901の計測値に基づいて制御部130がガス供給部104を制御する点である。
【0052】
電流計901は、IP用電源105によって高電圧が印加されたスパッターイオンポンプ102に流れる電離電流を計測する。電離電流は、スパッターイオンポンプ102でイオン化されたガスが陰極をスパッターしたり陰極に捕獲されたりすることによって生じる電流であり、スパッターイオンポンプ102によるガス排気の目安となる。すなわち、電流計901が計測する電離電流が所定の閾値を超えた場合、スパッターイオンポンプ102が再起動したと判定できる。
【0053】
制御部130は、電流計901の計測値に基づいて、ガス供給部104を制御する。具体的には、スパッターイオンポンプ102にIP用電源105が高電圧を印加しているときに、電流計901の計測値が閾値未満であれば制御部130はガス供給部104にガスを供給させ、計測値が閾値を超えればガスの供給を停止させる。このような制御により、ガス供給部104から供給されるガスを、スパッターイオンポンプ102の再起動に要する最小限の量に抑制できる。またガス供給部104のガス供給量が最小限に抑制されることにより、非蒸発ゲッターポンプ103を余計に動作させずに済む。
【0054】
図10を用いて、図9に示した構成において、電子銃101が交換されるときの本実施例の処理の流れの一例について説明する。
【0055】
(S1001)
制御部130が、操作者からの指示に基づいて、電子銃101からの電子線照射を停止させる。
【0056】
(S1002)
制御部130が、操作者からの指示に基づいて、スパッターイオンポンプ102を一時停止させるためにIP用電源105をオフにする。
【0057】
(S1003)
操作者が電子銃101を交換する。
【0058】
(S1004)
制御部130が、操作者からの指示に基づいて、スパッターイオンポンプ102を再起動させるためにIP用電源105をオンにする。
【0059】
(S1005)
制御部130は、電流計901の計測値に基づき、スパッターイオンポンプ102が再起動したか否か、すなわちスパッターイオンポンプ102による排気が再開したか否かを判定する。スパッターイオンポンプ102による排気が再開していなければS1006へ処理が進み、再開していればS1007へ処理が進む。
【0060】
(S1006)
制御部130は、ガス供給部104から電子銃室100へガスを供給させる。なお、すでにガスが供給されている場合は、ガスの供給量を増加させても良い。
【0061】
(S1007)
制御部130は、ガス供給部104から電子銃室100へのガスの供給を停止させる。なお、ガスが供給されていない場合は、本ステップはスキップされる。
【0062】
以上の処理の流れにより、電子銃101の交換時に、電子銃室100が極高真空へ到達するまでの時間を低減できる。すなわち、ガス供給部104からのガス供給量を最小限に抑制しながらスパッターイオンポンプ102を再起動できるので、非蒸発ゲッターポンプ103を余計に動作させずに済む。その結果、非蒸発ゲッターポンプ103の排気速度が維持され、供給されるガスがスパッターイオンポンプ102や非蒸発ゲッターポンプ103で排気しやすいガスであることと相まって、極高真空への到達時間を低減できる。
【0063】
以上、本発明の電子線装置の複数の実施例について説明した。本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0064】
100…電子銃室、101…電子銃、102…スパッターイオンポンプ、103…非蒸発ゲッターポンプ、104…ガス供給部、105…IP用電源、106…NEG加熱部、107…NEG用電源、110…集束・偏向室、111…第一開口、112…第一ポンプ、120…試料室、121…第二開口、122…第二ポンプ、123…試料、124…試料台、130…制御部、201…ガス発生源、202…加熱部、203…加熱用電源、301…光源、302…光、303…透過窓、501…荷電粒子源、502…加速電源、601…偏向器、602…光軸、701…ガスボンベ、702…配管、703…バルブ、901…電流計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10