IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

特許7161054カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法
<>
  • 特許-カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法 図1
  • 特許-カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 236/12 20060101AFI20221018BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20221018BHJP
   C08F 2/22 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C08F236/12
C08F2/44 B
C08F2/22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021531132
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 KR2020010680
(87)【国際公開番号】W WO2021071078
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】10-2019-0123894
(32)【優先日】2019-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0070902
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム、チョン-ウン
(72)【発明者】
【氏名】キム、チ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ウォン-サン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ミョン-ス
(72)【発明者】
【氏名】オ、スン-ファン
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-504924(JP,A)
【文献】特開昭56-093721(JP,A)
【文献】特表2001-502366(JP,A)
【文献】特表2010-504385(JP,A)
【文献】特開2018-009272(JP,A)
【文献】特表2018-513222(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105733455(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00- 2/60
C08F 6/00-246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和ニトリル系単量体、エチレン性不飽和酸単量体および水溶性単量体を含む単量体混合物を、
グリオキサールを含む架橋剤の存在下で乳化重合するステップを含み、
前記乳化重合は、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムからなる群から選択される1種以上を含むペルサルフェート系重合開始剤と、
ヒドロペルオキシド、硫酸第一鉄およびナトリウムメタビサルフェートからなる群から選択される1種以上を含む、開始活性化剤の存在下で行われる、
カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項2】
前記水溶性単量体は、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレートおよびジエチルアミノエチルメタクリレートからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項3】
前記ペルサルフェート系重合開始剤の含量は、前記単量体混合物全体100重量部に対して0.1~2重量部である、請求項1または2に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項4】
前記開始活性化剤の含量は、前記ペルサルフェート系重合開始剤の含量100重量部に対して1~100重量部である、請求項1~3のいずれか一項に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項5】
前記共役ジエン系単量体は、1,3‐ブタジエン、2,3‐ジメチル‐1,3‐ブタジエン、2‐エチル‐1,3‐ブタジエン、1,3‐ペンタジエンおよびイソプレンからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和ニトリル系単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α‐クロロニトリルおよびα‐シアノエチルアクリロニトリルからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和酸単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、スチレンスルホン酸、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチルおよびマレイン酸モノ‐2‐ヒドロキシプロピルからなる群れから選択される1種以上を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項8】
架橋剤の含量は、前記単量体混合物全体100重量部に対して0.1~1重量部である、請求項1~7のいずれか一項に記載のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年10月7日付けの韓国特許出願第10‐2019‐0123894号および2020年6月11日付けの韓国特許出願第10‐2020‐0070902号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法に関し、より詳細には、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法、これにより製造された共重合体ラテックス、これを含むディップ成形用ラテックス組成物およびディップ成形用ラテックス組成物から製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0003】
家事、食品産業、電子産業、医療分野などの日常生活で多様に使用される使い捨てゴム手袋は、天然ゴムまたはカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスのディップ成形により製造される。最近、天然ゴムの天然タンパク質によるアレルギー問題と不安定な需給問題で使い捨て手袋市場においてカルボン酸変性ニトリル系手袋が脚光を浴びている。
【0004】
一方、増加する手袋の需要に合わせて手袋の生産性を増加させるための様々な試みがある。かかる試みのうち最も頻繁に使用されることは、手袋を薄くするとともに強度を維持することである。過去は4g程度の重量の使い捨てニトリル手袋が一般的に使用されていたものの現在は、3.2g程度に薄くし、6N以上の引張強度を示す手袋が求められる。このように薄い手袋を製造するためには、低い濃度の凝集剤とラテックス組成物で手袋成形品を製造するが、そのような場合、シネレシス(syneresis)などの作業性が低下する。
【0005】
手袋の生産性を増加させるためのさらに他の試みは、ラインスピードを速くすることであるが、かかる場合にも高い作業性が求められる。
【0006】
このように高い強度と優れた作業性を同時に有するラテックスが求められるが、実際、手袋の強度と作業性はトレードオフ(trade‐off)関係にある。手袋の強度と作業性を決定することは、ラテックスのフィルム形成速度であるが、フィルム形成速度が速い場合、高い強度を有するものの作業性が劣り、フィルム形成速度が遅い場合、作業性には優れるものの低い強度の手袋が製造される。そのため、速いスピードの生産ラインで薄くしても高い引張強度を確保することができ、作業性に優れたカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記発明の背景技術で言及した問題を解決するために、本発明は、薄い厚さであっても高い引張強度と伸び率を有する成形品および、作業性が優れたディップ成形用ラテックス組成物を製造することができる、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを提供することを目的とする。
【0008】
すなわち、本発明は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造時に、グリオキサールを含む架橋剤の存在下で乳化重合を行って、共重合体内に均一な架橋サイトを形成することで、架橋密度が向上したカルボン酸変性ニトリル系共重合体を取得することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造時に、グリオキサールを含む架橋剤、および特定の重合開始剤と開始活性化剤の存在下で、水溶性単量体とエチレン性不飽和酸単量体を水中で一部重合して、重合初期に水溶性オリゴマーを製造することで、カルボン酸のpKaが特定の範囲にあるカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを製造しており、前記製造されたカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを含むディップ成形用ラテックス組成物は、作業性に優れ、前記ディップ成形用ラテックス組成物から製造された成形品は、優れた引張強度を具現した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和ニトリル系単量体およびエチレン性不飽和酸単量体を含む単量体混合物を、グリオキサールを含む架橋剤の存在下で乳化重合するステップを含むカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、共役ジエン系単量体由来の繰り返し単位、エチレン性不飽和ニトリル系単量体由来の繰り返し単位、エチレン性不飽和酸単量体由来の繰り返し単位およびグリオキサール由来部を含むカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス共重合体を含むカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを提供する。
【0012】
また、本発明は、共役ジエン系単量体由来の繰り返し単位、エチレン性不飽和ニトリル系単量体由来の繰り返し単位、エチレン性不飽和酸単量体由来の繰り返し単位、水溶性単量体由来の繰り返し単位およびグリオキサール由来部を含むカルボン酸変性ニトリル系共重合体を含み、pKaは8.5~9.5であるカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを提供する。
【0013】
また、本発明は、本発明によるカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを含むディップ成形用ラテックス組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、本発明によるディップ成形用ラテックス組成物由来層を含むディップ成形品を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造時に、グリオキサールを含む架橋剤の存在下で乳化重合を行って、高分子内に均一な架橋サイトを形成することで、架橋密度が向上したカルボン酸変性ニトリル系共重合体を取得することができる。
【0016】
また、本発明は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造時に、グリオキサールを含む架橋剤、および特定の重合開始剤と開始活性化剤の存在下で、水溶性単量体とエチレン性不飽和単量体を水中で一部重合して、重合初期に水溶性オリゴマーを製造することで、カルボン酸のpKaが低いカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを製造しており、前記製造されたカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを含むディップ成形用ラテックス組成物は、作業性に優れ、前記ディップ成形用ラテックス組成物から製造された成形品は、優れた引張強度を具現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1で、KOHの投入量によるpH変化を示すグラフである。
図2図1に示したpHによるKOHの投入量の微分曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の説明および請求の範囲で使用されている用語や単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義し得るという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0019】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
本発明において、「由来の繰り返し単位」および「由来部」という用語は、ある物質から起因した成分、構造またはその物質自体を指し得、具体的な例として、「由来の繰り返し単位」は、重合体の重合時に、投入される単量体が重合反応に参加して重合体内でなす繰り返し単位を意味し得、「由来部」は、重合体の重合時に投入される連鎖移動剤が重合反応に参加して重合物の連鎖移動反応を誘導するものであってもよい。
【0021】
本発明において、「ラテックス」という用語は、重合によって重合された重合体または共重合体が水に分散した形態で存在するものを意味し得、具体的な例として、乳化重合によって重合されたゴム状の重合体またはゴム状の共重合体の微粒子がコロイド状態で水に分散した形態で存在するものを意味し得る。
【0022】
本発明において、「由来層」という用語は、重合体または共重合体から形成された層を指し得、具体的な例として、ディップ成形品の製造時に、重合体または共重合体がディップ成形型上で付着、固定、および/または重合され、重合体または共重合体から形成された層を意味し得る。
【0023】
本発明によると、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法が提供される。前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造方法は、共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和ニトリル系単量体およびエチレン性不飽和酸単量体を含む単量体混合物を、グリオキサールを含む架橋剤の存在下で乳化重合するステップを含むことができる。
【0024】
本発明の一実施形態によると、前記共役ジエン系単量体は、1,3‐ブタジエン、2,3‐ジメチル‐1,3‐ブタジエン、2‐エチル‐1,3‐ブタジエン、1,3‐ペンタジエンおよびイソプレンからなる群から選択される1種以上を含むことができ、具体的な例として、1,3‐ブタジエンまたはイソプレンであってもよく、より具体的な例として、1,3‐ブタジエンであってもよい。
【0025】
前記共役ジエン系単量体の含量は、単量体混合物の全含量に対して、35重量%~75重量%、40重量%~75重量%、または45重量%~70重量%であってもよく、この範囲内で、ディップ成形品が、柔軟で、触感および着用感に優れるとともに、耐油性および引張強度に優れるという効果がある。
【0026】
本発明の一実施形態によると、前記エチレン性不飽和ニトリル系単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α‐クロロニトリルおよびα‐シアノエチルアクリロニトリルからなる群から選択される1種以上を含むことができ、具体的な例として、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルであってもよく、より具体的な例として、アクリロニトリルであってもよい。
【0027】
前記エチレン性不飽和ニトリル系単量体の含量は、単量体混合物の全含量に対して、20重量%~50重量%、25重量%~45重量%または25重量%~40重量%であってもよい。この範囲内で、ディップ成形品が、柔軟で、触感および着用感に優れるとともに、耐油性および引張強度に優れるという効果がある。
【0028】
本発明の一実施形態によると、前記エチレン性不飽和酸単量体は、カルボキシル基、スルホン酸基、酸無水物基のような酸性基を含有するエチレン性不飽和単量体であってもよく、具体的な例として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸などのエチレン性不飽和酸単量体;無水マレイン酸および無水シトラコン酸などのポリカルボン酸無水物;スチレンスルホン酸のようなエチレン性不飽和スルホン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチルおよびマレイン酸モノ‐2‐ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和ポリカルボン酸部分エステル(partial ester)単量体からなる群から選択される1種以上であってもよく、より具体的な例として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸からなる群から選択される1種以上であってもよく、さらに具体的な例として、メタクリル酸であってもよい。前記エチレン性不飽和酸単量体は、重合時に、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩などの塩の形態で使用され得る。
【0029】
前記エチレン性不飽和酸単量体の含量は、単量体混合物の全含量に対して、2重量%~15重量%、3重量%~9重量%、または4重量%~7重量%であってもよく、この範囲内で、前記ディップ成形品が、柔軟で、着用感に優れるとともに、重合安定性および引張強度に優れるという効果がある。
【0030】
本発明の一実施形態によると、前記単量体混合物は、水溶性単量体を含むことができる。前記水溶性単量体は、カルボン酸変性ニトリル系共重合体の重合時に、グリオキサールを含む架橋剤および後述するペルサルフェート系重合開始剤と開始活性化剤の存在下で、前記エチレン性不飽和酸単量体と反応して水溶性オリゴマーを形成することができる。
【0031】
前記水溶性単量体は、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレートおよびジエチルアミノエチルメタクリレートからなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0032】
前記水溶性単量体の含量は、単量体混合物の全含量に対して、0.1重量%~10重量%、0.1重量%~8重量%または0.3重量%~5重量%であってもよい。この範囲内で、作業性および重合安定性が向上するという効果がある。
【0033】
本発明の一実施形態によると、前記共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和ニトリル系単量体およびエチレン性不飽和酸単量体を含む単量体混合物を乳化重合することで、前記共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和ニトリル系単量体およびエチレン性不飽和酸単量体が共重合され、これにより、カルボン酸変性ニトリル系共重合体を製造することができる。
【0034】
本発明の一実施形態によると、前記共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和ニトリル系単量体、エチレン性不飽和酸単量体および水溶性単量体を含む単量体混合物を乳化重合することで、前記共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和ニトリル系単量体、エチレン性不飽和酸単量体および水溶性単量体が共重合され、これにより、カルボン酸変性ニトリル系共重合体を製造することができる。
【0035】
本発明の一実施形態によると、前記単量体混合物は、前記エチレン性不飽和ニトリル系単量体およびエチレン性不飽和酸単量体と共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体で形成されたエチレン性不飽和単量体をさらに含むことができる。
【0036】
前記エチレン性不飽和単量体は、スチレン、アリールスチレン、およびビニルナフタレンからなる群から選択されるビニル芳香族単量体;フルオロ(fluoro)エチルビニルエーテルなどのフルオロアルキルビニルエーテル;(メタ)アクリルアミド、N‐メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N‐メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、およびN‐プロポキシメチル(メタ)アクリルアミドからなる群から選択されるエチレン性不飽和アミド単量体;ビニルピリジン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4‐ヘキサジエンなどの非共役ジエン単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸‐2‐エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸2‐シアノエチル、(メタ)アクリル酸1‐シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2‐エチル‐6‐シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸3‐シアノプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレート、およびジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択されるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0037】
前記エチレン性不飽和単量体の含量は、前記単量体混合物の全含量に対して、20重量%以内、0.01重量%~20重量%、または0.01重量%~15重量%であってもよく、この範囲内で、前記ディップ成形品の触感および着用感に優れるとともに、引張強度に優れるという効果がある
本発明の一実施形態によると、前記共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和ニトリル系単量体およびエチレン性不飽和酸単量体を含む単量体混合物を乳化重合するステップは、グリオキサールを含む架橋剤の存在下で行われることで、カルボン酸変性ニトリル系共重合体内に均一な架橋サイトを形成し、共重合体の架橋密度を向上させることができる。
【0038】
ゴム高分子の場合、架橋密度が高くなると、引張強度は高くなるが、架橋密度が高くなりすぎると、伸び率が低下するという欠点がある。前記のようにグリオキサールを含む架橋剤の存在下で乳化重合を行う場合、架橋密度を適切に調節することで、共重合体内の架橋密度が向上し、共重合体から製造された成形品の引張強度が向上するとともに伸び率にも優れるという効果がある。
【0039】
本発明の一実施形態によると、前記乳化重合ステップにおいて、架橋剤としてグリオキサールを含む架橋剤の含量は、単量体混合物全体100重量部に対して0.1重量部~1重量部で投入され得る。前記重合ステップにおいて、前記範囲内にグリオキサールを含む架橋剤を投入することで、ラテックスの粒子間の架橋度を向上させ、これを含む成形品の強度をより向上させるという効果がある。
【0040】
本発明の一実施形態によると、前記共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和ニトリル系単量体、エチレン性不飽和酸単量体、および水溶性単量体を含む単量体混合物を乳化重合するステップは、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、および過硫酸アンモニウムからなる群から選択される1種以上を含むペルサルフェート系重合開始剤;ヒドロペルオキシド、硫酸第一鉄、およびナトリウムメタビサルフェートからなる群から選択される1種以上を含む、開始活性化剤およびグリオキサールを含む架橋剤の存在下で行われ得る。
【0041】
前記ペルサルフェート系重合開始剤の存在の下で乳化重合を行う場合、水の存在下で、サルフェートイオンラジカルがヒドロキシラジカルに変化する。前記ヒドロキシラジカルは、サルフェートイオンラジカルに比べて疎水性であることから、粒子の中で重合が行われ、この場合、エチレン性不飽和酸単量体と水溶性単量体のオリゴマー生成が抑制される。
【0042】
これに対して、本発明では、ペルサルフェート開始剤をヒドロペルオキシド、硫酸第一鉄およびナトリウムメタビサルフェートからなる群から選択される1種以上を含む開始活性化剤、およびグリオキサールを含む架橋剤とともに投入することで、親水性のサルフェートイオンラジカルの生成を極大化し、サルフェートイオンラジカルのヒドロキシラジカルへの変化を抑制し、水溶性単量体とエチレン性不飽和酸単量体の重合体である水溶性オリゴマーの生成を促進することができる。
【0043】
前記のように、前記エチレン性不飽和酸単量体が、重合初期に水溶性単量体とオリゴマーを形成する場合、最終のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスで容易にイオン化し、低いpKaを有する。低いpKaを有するラテックスは、作業性に優れ、高い強度を有する。
【0044】
本発明の一実施形態によると、前記重合ステップにおいて、前記過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、および過硫酸アンモニウムからなる群から選択される1種以上を含むペルサルフェート系重合開始剤の含量は、単量体混合物全体100重量部に対して0.1重量部~5重量部、0.1重量部~3重量部または0.1重量部~2重量部で投入され得る。この範囲内で、重合速度を適切に調節することができ、重合調節が可能であるとともにカルボン酸変性ニトリル系共重合体の生産性に優れるという効果がある。
【0045】
本発明の一実施形態によると、前記重合ステップにおいて、前記ヒドロペルオキシド、硫酸第一鉄、およびナトリウムメタビサルフェートからなる群から選択される1種以上を含む開始活性化剤の含量は、ペルサルフェート系重合開始剤の全含量100重量部に対して1~100重量部、25重量部~100重量部または30重量部~100重量部で投入され得る。この範囲内で、エチレン性不飽和酸単量体と水溶性単量体の反応をより促進させ、水溶性オリゴマーの形成を容易にするという効果がある。
【0046】
本発明の一実施形態によると、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスは、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体を構成する単量体混合物に乳化剤および分子量調節剤などをさらに添加して乳化重合することで製造することができる。この際、前記重合において、単量体混合物の種類および含量は、上述の単量体種類および含量で投入され得、投入方法は、一括投入、連続投入または分割投入の方法から選択され得る。
【0047】
前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを製造するにあたり、乳化剤は、重合反応中と反応後、ラテックスに安定性を付与するために投入し、各種の陰イオン系乳化剤と非イオン系乳化剤を使用することができる。例えば、アニオン系乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホネート、アルコールサルフェート、アルコールエーテルスルホネート、アルキルフェノールエーテルスルホネート、アルファオレフィンスルホネート、パラフィンスルホネート、エステルスルホサクシネート、ホスフェートエステルなどがあり、非イオン系乳化剤としては、アルキルフェノールエトキシレート、ペチアミンエトキシレート、脂肪酸エトキシレート、アルカノアミドなどを含むことができる。かかる乳化剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、前記乳化剤は、単量体混合物の全含量100重量部に対して0.3重量部~10重量部、0.8重量部~8重量部、または1.5重量部~6重量部で投入され得、この範囲内で、重合安定性に優れ、泡発生量が少なく、成形品の製造が容易であるという効果がある。
【0048】
また、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを製造するにあたり、前記分子量調節剤は、例えば、α‐メチルスチレンダイマー、t‐ドデシルメルカプタン、n‐ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタンなどのメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭素化メチレンなどのハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドなどの硫黄含有化合物などを含むことができる。かかる分子量調節剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。具体的な例として、前記分子量調節剤は、メルカプタン類を使用することができ、より具体的な例として、前記分子量調節剤は、t‐ドデシルメルカプタンを使用することができる。前記分子量調節剤は、単量体混合物の全含量100重量部に対して0.1重量部~2重量部、0.2重量部~1.5重量部または0.3重量部~1重量部投入され得、この範囲内で、重合安定性に優れ、重合後、成形品の製造時に、成形品の物性に優れるという効果がある。
【0049】
また、本発明の一実施形態によると、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを製造するにあたり、重合は、媒質として、水、具体的な例として、脱イオン水で実施され得、重合容易性の確保のために、必要に応じて、キレート剤、分散剤、pH調節剤、脱酸素剤、粒径調節剤、老化防止剤および酸素捕捉剤などの添加剤をさらに含んで実施され得る。
【0050】
本発明の一実施形態によると、前記乳化剤、重合開始剤、分子量調節剤、添加剤などは、前記単量体混合物のように、重合反応器に、一括投入、または分割投入されてもよく、各投入時に連続投入されてもよい。
【0051】
本発明の一実施形態によると、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの重合時に、必要に応じて、キレート剤、分散剤、pH調節剤、脱酸素剤、粒径調節剤、老化防止剤、酸素捕捉剤(oxygen scavenger)などの副材料を添加することができる。
【0052】
本発明の一実施形態によると、前記乳化重合時に、重合温度は、例えば、10℃~90℃、20℃~80℃、または25℃~75℃の重合温度で実施され得、この範囲内で、ラテックス安定性に優れるという効果がある。
【0053】
本発明の一実施形態によると、重合反応の終了は、重合転化率が90%以上、好ましくは、93%以上になってから行うことができる。前記重合反応の終了は、重合禁止剤とpH調節剤、および酸化防止剤の添加により行うことができる。反応の終了後、最終に得られた共重合体ラテックスは、通常の脱臭濃縮工程により未反応の単量体を除去してから使用する。
【0054】
本発明の一実施形態によると、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスは、ガラス転移温度が-40℃~-15℃、-40℃~-20℃または-35℃~-20℃であってもよい。前記ラテックスのガラス転移温度が前記範囲内を満たすことで、引張強度に優れ、成形品のベタツキの発生を防止して着用感に優れ、亀裂を防止して耐久性に優れることができる。前記ガラス転移温度は、前記共役ジエン系単量体の含量を調節して調整することができ、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry)で測定することができる。
【0055】
前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体の平均粒径は、80nm~300nm、80nm~280nmまたは100nm~230nmであってもよい。前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体の平均粒径を前記範囲に調節することで、製造されたディップ成形品の引張強度を向上させることができる。前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体の平均粒径は、前記乳化剤の種類や含量を調節して調整することができ、前記平均粒径は、レーザ分散分析装置(Laser Scattering Analyzer、Nicomp)で測定することができる。
【0056】
また、本発明によると、本発明の製造方法により製造されたカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスが提供される。
【0057】
本発明の一実施形態によると、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスは、共役ジエン系単量体由来の繰り返し単位、エチレン性不飽和ニトリル系単量体由来の繰り返し単位、エチレン性不飽和酸単量体由来の繰り返し単位およびグリオキサール由来部を含むカルボン酸変性ニトリル系共重合体を含むことができる。
【0058】
前記のように、グリオキサール由来部を含む場合、共重合体の架橋密度を適切に調節することで、共重合体内の架橋密度が向上し、共重合体から製造された成形品の引張強度が向上するとともに伸び率にも優れるという効果がある。
【0059】
本発明の一実施形態によると、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスは、共役ジエン系単量体由来の繰り返し単位、エチレン性不飽和ニトリル系単量体由来の繰り返し単位、エチレン性不飽和酸単量体由来の繰り返し単位、水溶性単量体由来の繰り返し単位およびグリオキサール由来部を含むカルボン酸変性ニトリル系共重合体を含み、前記カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスのpKaは、8.5~9.5であってもよい。
【0060】
前記のように、本発明によるカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスが、低いpKaを有することで、これを含むディップ成形用ラテックス組成物の作業性に優れ、これより製造されたディップ成形品の強度を向上させることができる。
【0061】
また、本発明によると、本発明によるカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを含むディップ成形用ラテックス組成物が提供される。本発明の一実施形態によると、前記ディップ成形用ラテックス組成物は、上述のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスに、加硫剤、イオン性架橋剤、顔料、充填剤、増粘剤およびpH調節剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含んで製造することができる。
【0062】
本発明の一実施形態によると、前記加硫剤は、前記ディップ成形用ラテックス組成物を加硫させるためのものであり、硫黄であってもよく、具体的な例として、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理された硫黄および不溶性硫黄などの硫黄であってもよい。前記加硫剤の含量は、ディップ成形用ラテックス組成物内のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの全含量100重量部(固形分基準)に対して0.1重量部~10重量部、または1重量部~5重量部であってもよく、この範囲内で、加硫による架橋能力に優れるという効果がある。
【0063】
また、本発明の一実施形態によると、前記加硫促進剤は、2‐メルカプトベンゾチアゾール(MBT、2‐mercaptobenzothiazole)、2,2‐ジチオビスベンゾチアゾール‐2‐スルフェンアミド(MBTS、2,2‐dithiobisbenzothiazole‐2‐sulfenamide)、N‐シクロヘキシルベンゾチアゾール‐2‐スルフェンアミド(CBS、N‐cyclohexylbenzothiasole‐2‐sulfenamide)、2‐モルホリノチオベンゾチアゾール(MBS、2‐morpholinothiobenzothiazole)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM、tetramethylthiurammonosulfide)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD、tetramethylthiuram disulfide)、ジエチルジチオカルバメート亜鉛(ZDEC、zinc diethyldithiocarbamate)、ジ‐N‐ブチルジチオカルバメート亜鉛(ZDBC、zinc di‐N‐butyldithiocarbamate)、ジフェニルグアニジン(DPG、diphenylguanidine)およびジ‐o‐トリルグアニジン(di‐o‐tolylguanidine)からなる群から選択される1種以上であってもよい。前記加硫促進剤の含量は、ディップ成形用ラテックス組成物内のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの全含量100重量部(固形分基準)に対して0.1重量部~10重量部、または0.5重量部~5重量部であってもよく、この範囲内で、加硫による架橋能力に優れるという効果がある。
【0064】
また、本発明の一実施形態によると、前記酸化亜鉛は、前記ディップ成形用ラテックス組成物内のカルボン酸変性ニトリル系共重合体のカルボキシ基などとイオン結合を行い、カルボン酸変性ニトリル系共重合体内、またはカルボン酸変性ニトリル系共重合体間のイオン結合による架橋部を形成するための架橋剤であってもよい。前記酸化亜鉛の含量は、ディップ成形用ラテックス組成物内のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの全含量100重量部(固形分基準)に対して0.1重量部~5重量部、または0.5重量部~4重量部であってもよく、この範囲内で、架橋能力に優れ、ラテックス安定性に優れ、製造されたディップ成形品の引張強度および柔軟性に優れるという効果がある。
【0065】
また、本発明の一実施形態によると、前記ディップ成形用ラテックス組成物は、固形分含量(濃度)が5重量%~40重量%、8重量%~35重量%、または10重量%~30重量%であってもよく、この範囲内で、ラテックス移送の効率に優れ、ラテックス粘度の上昇を防止し、貯蔵安定性に優れるという効果がある。
【0066】
さらに他の例として、前記ディップ成形用ラテックス組成物は、pHが9~12、9~11.5、または9.5~11であってもよく、この範囲内で、ディップ成形品の製造時に加工性および生産性に優れるという効果がある。前記ディップ成形用ラテックス組成物のpHは、上述のpH調節剤の投入によって調節され得る。前記pH調節剤は、一例として、1重量%~5重量%濃度の水酸化カリウム水溶液、または1重量%~5重量%濃度のアンモニア水であってもよい。
【0067】
また、本発明の一実施形態によると、前記ディップ成形用ラテックス組成物は、必要に応じて、チタンジオキシドなどの顔料、シリカなどの充填剤、増粘剤、pH調節剤などの添加剤をさらに含むことができる。
【0068】
また、本発明によると、ディップ成形品が提供される。前記ディップ成形品は、前記ディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して製造されたディップ成形品であってもよく、ディップ成形によってディップ成形用ラテックス組成物から形成されたディップ成形用ラテックス組成物由来層を含む成形品であってもよい。
【0069】
前記成形品を成形するための成形品の製造方法は、前記ディップ成形用ラテックス組成物を直接浸漬法、アノード(anode)凝着浸漬法、ティーグ(Teague)凝着浸漬法などにより浸漬させるステップを含むことができ、具体的な例として、正極凝着浸漬法によって実施され得、この場合、均一な厚さのディップ成形品を取得できるという利点がある。
【0070】
具体的な例として、前記成形品の製造方法は、ディップ成形型に凝固剤を付着させるステップ(S100)と、前記凝固剤が付着されたディップ成形型をディップ成形用ラテックス組成物に浸漬し、ディップ成形用ラテックス組成物由来層、すなわち、ディップ成形層を形成するステップ(S200)と、前記ディップ成形層を加熱し、前記ディップ成形用ラテックス組成物を架橋させるステップ(S300)とを含むことができる。
【0071】
本発明の一実施形態によると、前記(S100)ステップは、ディップ成形型に凝固剤を形成するために、ディップ成形型を凝固剤溶液に浸漬して、ディップ成形型の表面に凝固剤を付着させるステップであり、前記凝固剤溶液は、凝固剤を、水、アルコールまたはこれらの混合物に溶解した溶液であり、凝固剤溶液内の凝固剤の含量は、凝固剤溶液の全含量に対して5重量%~75重量%、10重量%~65重量%、または15重量%~55重量%であってもよい。前記凝固剤は一例として、バリウムクロライド、カルシウムクロライド、マグネシウムクロライド、亜鉛クロライドおよびアルミニウムクロライドなどの金属ハライド;バリウムナイトレート、カルシウムナイトレートおよび亜鉛ナイトレートなどの硝酸塩;バリウムアセテート、カルシウムアセテートおよび亜鉛アセテートなどの酢酸塩;およびカルシウムサルフェート、マグネシウムサルフェートおよびアルミニウムサルフェートなどの硫酸塩からなる群から選択される1種以上であってもよく、具体的な例として、カルシウムクロライドまたはカルシウムナイトレートであってもよい。
【0072】
また、本発明の一実施形態によると、前記(S100)ステップは、ディップ成形型に凝固剤を付着させるために、ディップ成形型を凝固剤溶液に1分以上浸漬し、取り出した後、70℃~150℃で乾燥するステップをさらに含むことができる。
【0073】
本発明の一実施形態によると、前記(S200)ステップは、ディップ成形層を形成するために、凝固剤を付着したディップ成形型を本発明によるディップ成形用ラテックス組成物に浸漬し、取り出して、ディップ成形型にディップ成形層を形成するステップであってもよい。また、本発明の一実施形態によると、前記(S200)ステップは、ディップ成形型にディップ成形層を形成するために、前記浸漬時に、浸漬を1分以上実施することができる。
【0074】
本発明の一実施形態によると、前記(S300)ステップは、ディップ成形品を取得するために、ディップ成形型に形成されたディップ成形層を加熱して液体成分を蒸発させ、前記ディップ成形用ラテックス組成物を架橋させて硬化を行うステップであってもよい。この際、本発明によるディップ成形用ラテックス組成物を用いる場合、ディップ成形用ラテックス組成物内に含まれた架橋剤組成物の加硫および/またはイオン結合による架橋が実施され得る。また、本発明の一実施形態によると、前記加熱は、70℃~150℃で1分~10分間1次加熱した後、100℃~180℃で5分~30分間2次加熱して実施され得る。
【0075】
本発明の一実施形態によると、前記成形品は、手術用手袋、検査用手袋、産業用手袋および家庭用手袋などの手袋、コンドーム、カテーテル、または健康管理用品であってもよい。
【0076】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇および技術思想の範囲内で様々な変更および修正が可能であることは、通常の技術者にとって明白であり、これらにのみ本発明の範囲が限定されるものではない。
【0077】
実施例
[実施例1]
<カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造>
重合反応器に、アクリロニトリル28重量%、1,3‐ブタジエン64.2重量%およびメタクリル酸5.8重量%、ヒドロキシエチルメタアクリレート2重量%で構成される単量体混合物と、前記単量体混合物100重量部に対して、t‐ドデシルメルカプタン0.6重量部、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート2重量部、過硫酸カリウム0.3重量部、ヒドロペルオキシド0.1重量部、グリオキサール0.5重量部、水140重量部を入れた後、37℃の温度で重合を開始した。
【0078】
重合転化率が94%に達した時に水酸化アンモニウム0.3重量部を添加し、重合を停止した。その後、脱臭工程により未反応物を除去し、アンモニア水、酸化防止剤、消泡剤を添加し、固形分濃度45%、pH8.5のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスを取得した。
【0079】
<ディップ成形用ラテックス組成物の製造>
前記取得したカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックス100重量部(固形分基準)に、硫黄1重量部、ジ‐n‐ブチルジチオカルバメート亜鉛(ZDBC、zinc di‐n‐butyldithiocarbamate)0.7重量部、酸化亜鉛1.5重量部および酸化チタン1重量部と水酸化カリウム溶液および2次蒸留水を加えて、固形分濃度16重量%およびpH10のディップ成形用ラテックス組成物を取得した。
【0080】
<ディップ成形品の製造>
13重量%のカルシウムナイトレート、86.5重量%の水、0.5重量%の湿潤剤(Huntsman Corporation、Australia製、製品名:Teric 320)を混合して凝固剤溶液を製造し、この溶液に手形状のセラミックモールドを1分間浸漬し、取り出した後、80℃で3分間乾燥し、凝固剤を手形状のモールドに塗布した。
【0081】
次いで、凝固剤が塗布された手形状のモールドを前記取得したディップ成形用ラテックス組成物に1分間浸漬し、取り出した後、80℃で1分間乾燥し、水に3分間浸漬した。また、モールドを80℃で3分間乾燥した後、125℃で20分間架橋させた。次に、架橋されたディップ成形層を手形状のモールドから取り出し、手袋状のディップ成形品を取得した。
【0082】
[実施例2]
前記実施例1のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造の際、グリオキサールを0.5重量部の代わりに0.1重量部投入した以外は、前記実施例1と同じ方法で実施した。
【0083】
[実施例3]
前記実施例1のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造の際、グリオキサールを0.5重量部の代わりに1重量部投入した以外は、前記実施例1と同じ方法で実施した。
【0084】
[実施例4]
前記実施例1のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造の際、グリオキサールを0.5重量部の代わりに0.05重量部投入した以外は、前記実施例1と同じ方法で実施した。
【0085】
[実施例5]
前記実施例1のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造の際、グリオキサールを0.5重量部の代わりに1.5重量部投入した以外は、前記実施例1と同じ方法で実施した。
【0086】
比較例
[比較例1]
前記実施例1のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造の際、グリオキサール0.5重量部を投入しない以外は、前記実施例1と同じ方法で実施した。
【0087】
[比較例2]
前記実施例1のカルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造の際、開始活性化剤であるヒドロペルオキシド0.1重量部を投入しない以外は、前記実施例1と同じ方法で実施した。
【0088】
実験例
<実験例1>
前記実施例および比較例で製造された共重合体ラテックスの物性を、下記の条件で測定し、その結果を下記表1~表2および図1図2に示した。
【0089】
*共重合体ラテックスのpKa測定:共重合体ラテックスに存在する不飽和酸単量体のイオン化程度を決定するものはpKaである。pKaが低い場合、手袋を製造する時のpHで鹸化する不飽和酸単量体の量が多くなるため、作業性に優れるとともに強度が高い手袋を製造することができる。ラテックスのpKaは、下記のような方法で測定した。重合して得られたラテックスを10%に希釈した後、3%水酸化カリウム水溶液を用いて、pHを12まで上げた後、2時間90℃で撹拌した。次いで、水溶液中のアンモニアを除去し、得られた希釈液を常温まで冷やした後、2%に希釈した塩酸水溶液を用いて、pHを2以下に下げた後、2時間90℃の温度で撹拌した。次に、水溶液中の二酸化炭素を除去し、得られた希釈液を常温まで冷やした後、濃度が正確な3%水酸化カリウム水溶液を用いて、酸塩基滴定グラフを得た。その結果は図1および図2に示した。
【0090】
図1は本発明の実施例1で、KOHの投入量によるpH変化を示すグラフであり、図1の1次変曲点と2次変曲点との間のKOHの投入量で計算したカルボン酸の量が表面に存在する酸の量である。図2図1に示したpHによるKOHの投入量の微分曲線である。この二次関数の頂点に相当するものがラテックスのpKaである。これにより、実施例1から製造された共重合体ラテックスのpKaが8.5~9.5の範囲を有することを確認することができる。
【0091】
<実験例2>
前記実施例および比較例で製造されたディップ成形用ラテックス組成物およびディップ成形品の物性を、下記の条件で測定し、その結果を下記表1および2に示した。
【0092】
*引張強度、伸び率、伸び率300%での応力(モジュラス):ディップ成形品からASTM D‐412に準じてダンベル状の試験片を作製した。次いで、この試験片を伸長速度500mm/分で引っ張り、伸び率が300%である時の応力、破断の時の引張強度および破断時の伸び率を測定した。
【0093】
*シネレシス測定:ディップ成形品の製造時に用いられた凝固剤溶液に手形状のセラミックモールドを1分間浸漬し、取り出した後、80℃で3分間乾燥し、凝固剤を手形状のモールドに塗布した。その後、凝固剤が塗布された手形状のモールドを各実施例および比較例のディップ成形用ラテックス組成物に1分間浸漬し、取り出した後、手形状のモールドから液滴(droplet)が落ちるのにかかる時間を測定した。5分以内で液滴が落ちない場合、×で示した。
【0094】
*外観:ディップ成形品の作業性が良好でない場合、手袋にフローマークが付く。手袋の外観を観察し、フローマークがある場合、Xで、フローマークなく作業性が優れる場合、〇で示した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
前記表1および2を参照すると、カルボン酸変性ニトリル系共重合体ラテックスの製造の際、グリオキサール、重合開始剤である過硫酸カリウムおよび開始活性化剤であるヒドロペルオキシドがすべて投入された実施例1~5は、グリオキサールを投入していないか(比較例1)、または開始活性化剤を投入していない(比較例2)場合に比べて、ラテックスのpKaが低く、ディップ成形用組成物の作業性に優れ、ディップ成形品の引張特性に優れることを確認することができる。
図1
図2