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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】発光装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20221019BHJP
【FI】
H01L33/50
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018178894
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020053467
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100157901
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 貴行
【審査官】小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-220426(JP,A)
【文献】国際公開第2018/085670(WO,A1)
【文献】特開2016-100485(JP,A)
【文献】特開2016-219637(JP,A)
【文献】特開2013-084796(JP,A)
【文献】特開2018-107355(JP,A)
【文献】特開2013-168408(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146231(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0051982(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00, 33/48 - 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に実装された複数の発光素子と、
前記複数の発光素子上に設けられた蛍光体層と、
前記複数の発光素子間に配置され、前記発光素子の側面の少なくとも一部を覆う第1遮光層と、
前記複数の発光素子間に配置され、前記第1遮光層の上部及び前記蛍光体層の全体を上下方向に貫通した第2遮光層と、
を備え、
前記蛍光体層は、
複数の蛍光体粒子と、
前記蛍光体粒子の表面を被覆するガラス層と、
を有し、
前記蛍光体粒子同士は前記ガラス層を介して結合しており、
前記蛍光体粒子間には空気層が形成されており、
前記蛍光体層は前記第1遮光層上にも配置された発光装置。
【請求項2】
前記第1遮光層は白色樹脂により形成されており、
前記第2遮光層は黒色樹脂により形成されている請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記蛍光体層は、フィラーをさらに有する請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記複数の発光素子は相互に独立して制御可能な請求項1~3のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項5】
基板に複数の発光素子を実装し、前記複数の発光素子間に第1遮光層を配置した基体上に、ポリシラザン及び複数の蛍光体粒子を含むスラリー材をスプレーする工程と、
前記スラリー材がスプレーされた基体を加熱することにより、前記ポリシラザンをシリカに転化させて、前記蛍光体粒子を前記シリカを含むガラス層で被覆すると共に、前記蛍光体粒子間に空気層を形成する工程と、
前記第1遮光層の上部、並びに、前記蛍光体粒子及び前記ガラス層を含む蛍光体層の全体を上下方向に貫通する溝を形成する工程と、
前記溝内に第2遮光層を配置する工程と、
を備えた発光装置の製造方法。
【請求項6】
前記スラリー材は有機溶媒をさらに含み、
前記ポリシラザンをシリカに転化させる工程において、前記スラリー材から前記有機溶媒が除去される請求項5記載の発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記スラリー材はフィラーをさらに含む請求項5または6に記載の発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記スラリー材をスプレーする工程において、前記スラリー材を撹拌しながらスプレーする請求項5~7のいずれか1つに記載の発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記スラリー材は樹脂材料を含有しない請求項5~8のいずれか1つに記載の発光装置の製造方法。
【請求項10】
前記基体は、前記複数の発光素子間に配置され、前記発光素子の側面の少なくとも一部を覆う遮光層を含む請求項5~9のいずれか1つに記載の発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、発光装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のヘッドランプにおいて、選択した領域のみに光を照射する配光可変型ヘッドランプ(ADB:Adaptive Driving Beam)が開発されている。ADBをハイビームに適用することにより、例えば、対向車及び先行車等が存在する領域には投光せずに、それ以外の領域のみに投光することができる。これにより、他車の運転を妨害せずに、自車の運転者の視界を確保することができる。
【0003】
ADBに用いる発光装置においては、例えば基板に複数の発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)が実装されており、ヘッドランプの光学系により、各LEDから出射した光を特定の方向のみに照射する。そして、点灯させるLEDを選択することにより、選択された領域のみを照明する。
【0004】
ADBにおいては、投光するべき領域に対しては確実に投光し、投光するべきでない領域に対しては投光を確実に停止することが望まれる。このため、ADBに用いる発光装置については、光学系から見たときに、点灯しているLEDと消灯しているLEDのコントラストが高いことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-100485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態は、上述の問題点に鑑みてなされたものであって、点灯領域と消灯領域のコントラストが高い発光装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る発光装置は、基板と、前記基板に実装された複数の発光素子と、前記複数の発光素子上に設けられた蛍光体層と、を備える。前記蛍光体層は、複数の蛍光体粒子と、前記蛍光体粒子の表面を被覆するガラス層と、を有する。前記蛍光体粒子同士は前記ガラス層を介して結合している。前記蛍光体粒子間には空気層が形成されている。
【0008】
実施形態に係る発光装置の製造方法は、基板に複数の発光素子を実装した基体上に、ポリシラザン及び複数の蛍光体粒子を含むスラリー材をスプレーする工程と、前記スラリー材がスプレーされた基体を加熱することにより、前記ポリシラザンをシリカに転化させて、前記蛍光体粒子を前記シリカを含むガラス層で被覆すると共に、前記蛍光体粒子間に空気層を形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
実施形態によれば、点灯領域と消灯領域のコントラストが高い発光装置及びその製造方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る発光装置を示す平面図である。
図2】第1の実施形態に係る発光装置を示す断面図である。
図3図2の領域Aを示す一部拡大断面図である。
図4】第1の実施形態に係る発光装置の動作を示す断面図である。
図5A】第1の実施形態に係る発光装置の製造方法を示す図である。
図5B】第1の実施形態に係る発光装置の製造方法を示す図である。
図5C】第1の実施形態に係る発光装置の製造方法を示す図である。
図5D】第1の実施形態に係る発光装置の製造方法を示す図である。
図6】第1の実施形態に係る発光装置の製造方法を示す図である。
図7A】第1の実施形態に係る発光装置の製造方法を示す図である。
図7B】第1の実施形態に係る発光装置の製造方法を示す図である。
図7C】第1の実施形態に係る発光装置の製造方法を示す図である。
図8】第1の実施形態に係る発光装置を搭載したハイビームユニットを示す断面図である。
図9】第1の実施形態に係る発光装置を搭載したヘッドランプの動作を示す図である。
図10】第2の実施形態に係る発光装置を示す断面図である。
図11図10の領域Bを示す一部拡大断面図である。
図12】第3の実施形態に係る発光装置を示す一部拡大断面図である。
図13A】第1の実施形態に係る発光装置の光学顕微鏡写真である。
図13B図13Aに示すサンプルのSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)写真である。
図13C図13A及び図13Bの領域Cを示すSEM写真である。
図14A】第2の実施形態に係る発光装置の光学顕微鏡写真である。
図14B図14Aに示すサンプルのSEM写真である。
図14C図14A及び図14Bの領域Dを示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施形態>
先ず、第1の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る発光装置を示す平面図である。
図2は、本実施形態に係る発光装置を示す断面図である。
図3は、図2の領域Aを示す一部拡大断面図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る発光装置1においては、基板10が設けられておる。基板10は、絶縁板上に配線(図示せず)が設けられた配線基板であり、絶縁板は例えば耐熱性及び熱伝導性が高いセラミックス、例えば、AlN等のアルミニウム窒化物により形成されている。
【0013】
図1及び図2に示すように、基板10の上面には、バンプ11を介して、複数個、例えば、96個の発光素子12が実装されている。発光素子12はLEDチップであり、例えば、青色の光を出射する。96個の発光素子12は、例えば、4行24列のマトリクス状に配列されている。基板10の上面における発光素子12が実装されている領域の両側には、各発光素子12に給電するためのワイヤーパッド15が設けられている。例えば、発光素子12が96個設けられている場合は、ワイヤーパッド15は片側に52個ずつ、合計で104個設けられている。各ワイヤーパッド15にはワイヤーがボンディングされて、外部の電源に接続される。これにより、発光素子12を1つずつ個別に制御することができる。
【0014】
発光素子12間には、遮光層13が設けられている。遮光層13は、発光素子12の側面の少なくとも一部、例えば、全部を覆っている。遮光層13は、発光素子12間の光の伝搬を阻止する層であり、光を反射する光反射層であってもよく、光を吸収する光吸収層であってもよい。遮光層13を光反射層とする場合は、例えば、白色樹脂によって形成することができる。遮光層13を光反射層とすると、高いコントラストを維持しつつ、光の取出効率が向上し、輝度及び光束が向上する。一方、遮光層13を光吸収層とする場合は、例えば、黒色樹脂によって形成することができる。黒色樹脂は、例えば、シリコーン樹脂に炭素粉からなるカーボン粒子やアルミニウム(Al)等からなる金属粒子を含有させることにより、形成することができる。遮光層13を光吸収層とすると、コントラストがより一層向上する。遮光層13は、白色及び黒色以外の色の樹脂又はセラミックスにより形成してもよい。なお、図1においては、遮光層13は図示を省略している。発光素子12及び遮光層13上には、蛍光体層14が設けられている。蛍光体層14は、全ての発光素子12上及び遮光層13上に連続的に形成されている。
【0015】
図3に示すように、蛍光体層14においては、複数の蛍光体粒子16が設けられている。蛍光体粒子16は、例えば、青色の光を吸収して黄色の光を放射する。また、蛍光体層14には、ガラス層17が設けられている。ガラス層17はシリカ(SiO)からなり、蛍光体粒子16の表面を被覆している。ガラス層17は蛍光体粒子16同士、発光素子12と蛍光体粒子16、遮光層13と蛍光体粒子16を結合させて、蛍光体粒子16を蛍光体層14内に保持している。また、ガラス層17は蛍光体粒子16を空気中の水分等から保護する。蛍光体粒子16間、発光素子12と蛍光体粒子16との間、及び、遮光層13と蛍光体粒子16との間には、空気層18が形成されている。
【0016】
以下、各部の寸法の一例を示す。
発光素子12の形状は平板状であり、例えば、縦が1mm(ミリメートル)、横が1mm、高さが150μm(ミクロン)である。蛍光体層14の厚さは、例えば、40μmである。蛍光体粒子16の直径は、例えば、2~23μmであり、例えば、5~15μmである。ガラス層17の厚さは、例えば、1μmである。
【0017】
次に、本実施形態に係る発光装置の動作について説明する。
図4は、本実施形態に係る発光装置の動作を示す断面図である。
図4に示すように、基板10を介して発光素子12に電力が供給されると、発光素子12が青色の光を出射する。この青色の光が蛍光体層14の蛍光体粒子16に吸収されると、蛍光体粒子16は黄色の光を放射する。これにより、蛍光体層14全体からは、白色の光が出射する。各発光素子12は独立して制御することができる。図4は、図の左端の発光素子12を点灯し、他の発光素子12を消灯した場合を示している。図4に示す矢印付きの折線Lは、光の経路の例を示している。
【0018】
折線Lにより示すように、蛍光体層14内において、発光素子12から出射した青色光及び蛍光体粒子16から出射した黄色光が空気層18からガラス層17に入射しようとすると、これらの光が空気層18とガラス層17との界面で反射される確率が高い。このため、蛍光体層14内における光の横方向、すなわち、発光素子12の配列方向への伝播が阻害される。この結果、ある発光素子12から出射した青色光の大部分、及び、この青色光によって蛍光体粒子16から放射された黄色光の大部分は、蛍光体層14におけるこの発光素子12の直上域に相当する領域から出射する。従って、発光装置1を外部から見たときに、点灯領域と消灯領域のコントラストが高い。
【0019】
次に、本実施形態に係る発光装置の製造方法について説明する。
図5A図5D図6図7A図7Cは、本実施形態に係る発光装置の製造方法を示す図である。
【0020】
先ず、図5Aに示すように、蛍光体粒子16を用意する。
次に、図5Bに示すように、多数の蛍光体粒子16、ポリシラザン、及び、有機溶媒を混合して、スラリー材50を作製する。ポリシラザンの構造式は図5Cに示すとおりである。有機溶媒には、例えば、ヘプタン又はジブチルエーテルを使用する。なお、有機溶媒は含有させなくてもよい。スラリー材50には、樹脂材料は含有されていない。
【0021】
一方、図5Dに示すように、基板10上にバンプ11を介して複数個の発光素子12を実装する。次に、発光素子12間及び発光素子12の周辺に、例えば白色樹脂又は黒色樹脂からなる遮光層13を形成する。これにより、基体51が作製される。
【0022】
次に、図6に示すように、例えば60度の温度に加熱した基体51上に、スラリー材50をスプレーして塗布する。このとき、スラリー材50を、容器52内において撹拌手段53によって撹拌しながらスプレーする。これにより、スラリー材50において、蛍光体粒子16の分散状態を均一に保持することができる。スラリー材50に含まれる有機溶媒は、基体51上にスプレーされた直後から蒸発し始める。
【0023】
次に、図7Aに示すように、スラリー材50がスプレーされた基体51を、例えば大気中で180度の温度に加熱する。これにより、スラリー材50が焼成され、スラリー材50に含まれる有機溶媒がさらに蒸発すると共に、ポリシラザンが空気中の水分と反応する。
【0024】
これにより、図7Bに示すように、ポリシラザンは蛍光体粒子16の表面上でシリカに転化し、ガラス層17を形成する。シリカの構造式は図7Cに示すとおりである。蛍光体粒子16同士はガラス層17を介して結合される。また、この段階では、有機溶媒は略完全に除去されて、蛍光体粒子16間には空気層18が形成される。この結果、蛍光体層14が形成される。このようにして、本実施形態に係る発光装置1が製造される。
【0025】
次に、本実施形態に係る発光装置の使用例について説明する。
図8は、本実施形態に係る発光装置を搭載したハイビームユニットを示す断面図である。
図9は、本実施形態に係る発光装置を搭載したヘッドランプの動作を示す図である。
【0026】
図8に示すように、発光装置1は、ハイビームユニット70に搭載される。ハイビームユニット70においては、ヒートシンク71が設けられており、ヒートシンク71に発光装置1の基板10(図2参照)が接合されている。また、発光装置1の光出射面側には、光学系72が設けられている。光学系72においては、筐体73内に、1枚以上の凸レンズ74及び1枚以上の凹レンズ75が設けられている。光学系72は、発光装置1の各発光素子12から入射された光を、相互に異なる方向に出射する。ハイビームユニット70には、発光素子12を個別に制御する制御回路が設けられていてもよい。ハイビームユニット70はロービームユニット及びスモールランプユニット等と共に、自動車のヘッドランプを構成する。
【0027】
図9は、自動車の運転者から見た景色を模式的に示す図である。図9に示すように、本実施形態に係る発光装置1が搭載されたヘッドランプのうち、ロービームユニットはADB(配光可変型ヘッドランプ)ではなく、ロービームユニットはロービーム領域RLの全体に対して投光する。
【0028】
一方、ハイビームユニット70はADBである。ハイビームユニット70においては、発光素子12を個別に点灯又は消灯することにより、ハイビーム領域RHを発光素子12と同数の領域に分割し、任意の領域に選択的に投光することができる。例えば、発光装置1に96個の発光素子12が4行24列のマトリクス状に配列されている場合は、ハイビーム領域RHを上下方向に4行、水平方向に24列の合計96個の領域に分割し、各領域について投光するか否かを選択することができる。
【0029】
例えば、図9に示す例では、ハイビーム領域RHのうち、先行車81のリアガラスには投光せずに、それ以外の領域に投光する。対向車82のフロントガラスには投光せずに、それ以外の領域に投光する。標識83に対しては減光して投光することにより、反射グレアを低減することができる。歩行者84及び85の頭部には投光せずに、体の部分には強い光を照射することにより、歩行者84及び85の存在を強調することができる。これにより、先行車81の運転者、対向車82の運転者、歩行者84及び85を眩惑させることなく、自車の運転者による視認性が向上する。更に、道路の遠方を照明することができる。なお、先行車81、対向車82、標識83、歩行者84及び85は、センサーにより自動的に認識する。
【0030】
次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態においては、図5Bに示す工程において、蛍光体粒子16及びポリシラザンを含み、樹脂材料を含まないスラリー材50を作製し、図6に示す工程において、スラリー材50を基体51に対してスプレーし、図7Aに示す工程において、スラリー材50を焼成する。これにより、スラリー材50に含まれるポリシラザンがシリカに転化して、図3に示すように、蛍光体粒子16同士がガラス層17によって結合されると共に、蛍光体粒子16間に空気層18が形成される。この結果、図4に示すように、空気層18とガラス層17との界面において光が反射されるため、蛍光体層14内を光が横方向に伝搬することを抑制することができる。これにより、発光装置1における点灯領域と消灯領域のコントラストを向上させることができる。
【0031】
これにより、例えば図8及び図9に示すように、発光装置1をADBの光源として使用すると、投光したい領域と投光したくない領域との光度差を大きくすることができる。この結果、自動車の安全な運転に寄与することができる。
【0032】
また、スラリー材50に樹脂材料を含有させず、スプレーにより噴射することにより、基体51の上面全体に薄く均一な厚さで塗布することができる。これにより、薄く厚さが均一な蛍光体層14を形成することができる。蛍光体層14を薄く形成することにより、蛍光体層14内における横方向への光の伝搬をより効果的に抑制し、コントラストをより一層向上させることができる。また、蛍光体層の厚みバラつきによる発光面の色ムラを低減させることができ、より均一な照射面を得ることができる。
【0033】
更に、本実施形態においては、蛍光体層14が発光素子12に接しているため、蛍光体層14から発光素子12を介して熱が放熱されやすい。これにより、蛍光体粒子16と遮光層13について、高温による温度特性劣化や樹脂劣化を抑制することができる。
【0034】
更にまた、本実施形態においては、蛍光体層14に樹脂材料が含有されておらず、無機材料で形成されている。このため、本実施形態に係る発光装置1は信頼性が高い。特に、高温環境下で駆動する場合の信頼性が高い。
【0035】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。
図10は、本実施形態に係る発光装置を示す断面図である。
図11は、図10の領域Bを示す一部拡大断面図である。
【0036】
図10及び図11に示すように、本実施形態に係る発光装置2は、前述の第1の実施形態に係る発光装置1(図1図3参照)と比較して、遮光層21が設けられている点と、蛍光体層14にフィラー22が含有されている点が異なっている。
【0037】
遮光層21は、発光素子12間に配置され、遮光層13の上部及び蛍光体層14の全体を上下方向に貫通している。遮光層21も、遮光層13と同様に、例えば白色樹脂からなる光反射層であってもよく、例えば黒色樹脂からなる光吸収層であってもよい。例えば、遮光層13を白色樹脂により形成し、遮光層21を黒色樹脂により形成することにより、発光装置2全体として、高い輝度と高いコントラストを両立させることができる。フィラー22は、例えば、SiO等のシリコン酸化物、TiO等のチタン酸化物若しくはAl等のアルミニウム酸化物等からなるセラミック粒子、又は、アルミニウム(Al)等からなる金属粒子である。
【0038】
本実施形態に係る発光装置2は、図5Bに示す工程においてフィラー22を混合させたスラリー材50を、図6に示す工程において基体51上にスプレーし、蛍光体層14の焼成後に発光素子12間をハーフダイシングして溝を形成し、この溝内に遮光層21を埋め込むことにより、製造することができる。
【0039】
本実施形態においては、遮光層21によって蛍光体層14が発光素子12毎に分断されており、発光素子12間から過剰な蛍光体粒子16が除去されているため、コントラストをより一層向上させることができる。
【0040】
また、蛍光体層14にフィラー22が含有されているため、蛍光体層14の表面改質が可能である。更に、蛍光体層14にフィラー22が含有されていることにより、スラリー材50の粘度が増加し、スラリー材50のハンドリングが容易になる。更にまた、蛍光体粒子16の分散をより均一化して、塗布ムラを低減することができる。
本実施形態における上記以外の構成、製造方法、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0041】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態について説明する。
図12は、本実施形態に係る発光装置を示す一部拡大断面図である。
【0042】
図12に示すように、本実施形態に係る発光装置3においては、蛍光体層14の最下層部分に樹脂層31が設けられている。樹脂層31は、例えばシリコーン樹脂からなり、発光素子12及び遮光層13に接し、その厚さは、蛍光体粒子16の直径未満であり、例えば、1~10μmである。蛍光体層14における最下段の蛍光体粒子16の下部は、樹脂層31内に埋め込まれている。
【0043】
本実施形態に係る発光装置3を製造する際には、図5Dに示す基体51を作製する工程の後、図6に示すスラリー材50をスプレーする工程の前に、スプレー塗布の前処理として、樹脂材料、例えば、シリコーン樹脂を薄く塗布する。この塗布は、例えば、スピンコート法又はスプレー法により行う。これにより、基体51の上面上に樹脂層31が形成される。
【0044】
この結果、図6に示す工程において、スラリー材50をスプレーしたときに、スラリー材50に含まれる蛍光体粒子16のうち、一部の蛍光体粒子16の下部が樹脂層31内に埋まる。これにより、蛍光体粒子16を基体51の上面に安定して配置することができ、蛍光体粒子16の配置が均一化される。この結果、蛍光体粒子16の付着厚さのばらつきを低減し、発光の色ムラを抑制することができる。
【0045】
なお、樹脂層31は蛍光体層14と比較して薄いため、光を横方向に伝える作用は小さく、コントラストに及ぼす影響は少ない。但し、ヘッドランプの設計によっては、発光装置3内で多少は光を横方向に伝搬させた方がよい場合もある。この場合には、樹脂層31を厚めに形成する。
本実施形態における上記以外の構成、製造方法、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0046】
なお、スラリー材50のスプレー塗布の前処理として、基体51上にポリシラザンを塗布してもよい。これにより、樹脂層31の替わりに、薄いガラス層が形成される。これによっても、本実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0047】
上述の各実施形態においては、発光装置をADBに適用する例を示したが、発光装置の適用範囲はこれには限定されない。例えば、スポットライト又はプロジェクションマッピングに適用してもよい。この場合は、発光素子毎に発光色を異ならせてもよい。
【0048】
前述の各実施形態は、本発明を具現化した例であり、本発明はこれらの実施形態には限定されない。例えば、前述の各実施形態において、いくつかの構成要素又は工程を追加、削除又は変更したものも本発明に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【0049】
<試験例>
次に、試験例について説明する。
本試験例は、前述の第1及び第2の実施形態に係る発光装置を顕微鏡で観察した例である。
図13Aは、第1の実施形態に係る発光装置の光学顕微鏡写真であり、図13BはそのSEM写真であり、図13C図13A及び図13Bの領域Cを示すSEM写真である。
図14Aは、第2の実施形態に係る発光装置の光学顕微鏡写真であり、図14BはそのSEM写真であり、図14C図14A及び図14Bの領域Dを示すSEM写真である。
【0050】
本試験例においては、第1の実施形態において説明した方法により、第1の実施形態に係る発光装置1に相当するサンプルS1、及び、第2の実施形態に係る発光装置2に相当するサンプルS2を作製した。そして、これらのサンプルを断面硬化用樹脂に埋め込み、切断して研磨し、断面観察用の試料とした。そして、これらの試料を光学顕微鏡及びSEMによって観察した。
【0051】
サンプルS1においては、遮光層13を白色のシリコーン樹脂により形成し、蛍光体層14をガラス材及び蛍光体粒子16により形成し、蛍光体層14の厚さを50μmとした。蛍光体粒子16はYAGにより形成し、蛍光体粒子16の平均粒径は16μmとした。図13A図13Cに示すように、サンプルS1においては、蛍光体層14中に空気層18が観察された。なお、空気層18はSEM写真では黒色に見える。
【0052】
サンプルS2においては、遮光層13を白色のシリコーン樹脂により形成し、蛍光体層14をガラス材、蛍光体粒子16、ナノフィラーにより形成し、蛍光体層14の厚さを30μmとした。蛍光体層14における(ガラス材:蛍光体粒子:ナノフィラー)の質量比は、(100:50:1)とした。蛍光体粒子16はYAGにより形成し、蛍光体粒子16の平均粒径は10μmとし、ナノフィラーはシリカにより形成した。図14A図14Cに示すように、サンプルS2においては、ナノフィラーは観察できなかったが、空気層18が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば、ヘッドランプ及びスポットライト等の照明装置の光源、並びに、プロジェクションマッピング等の表示装置の光源等に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1、2、3:発光装置
10:基板
11:バンプ
12:発光素子
13:遮光層
14:蛍光体層
15:ワイヤーパッド
16:蛍光体粒子
17:ガラス層
18:空気層
21:遮光層
22:フィラー
31:樹脂層
50:スラリー材
51:基体
52:容器
53:撹拌手段
70:ハイビームユニット
71:ヒートシンク
72:光学系
73:筐体
74:凸レンズ
75:凹レンズ
81:先行車
82:対向車
83:標識
84、85:歩行者
RH:ハイビーム領域
RL:ロービーム領域
S1、S2:サンプル
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C