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特許7161147液晶配向剤、液晶配向膜及びそれを用いた液晶表示素子並びに該液晶配向膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及びそれを用いた液晶表示素子並びに該液晶配向膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20221019BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019525494
(86)(22)【出願日】2018-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2018022635
(87)【国際公開番号】W WO2018230617
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2017117278
(32)【優先日】2017-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】大田 政太郎
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 亮一
(72)【発明者】
【氏名】若林 暁子
(72)【発明者】
【氏名】軍司 里枝
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072554(WO,A1)
【文献】特開2016-224415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)の構造を有するジアミン及び下記式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる側鎖構造を有する少なくとも1種のジアミンを含有するジアミン成分と、テトラカルボン酸成分から得られるポリイミド前駆体及び/又は該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドの重合体を含有し、前記ジアミン成分は、光反応性側鎖を有するジアミン、及び下記式[1]の構造を有する二側鎖ジアミンから選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、A及びAは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~5のアルキレン基を表す。A及びAは、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキレン基を表す。Aは、炭素数1~6のアルキレン基又はシクロアルキレン基を表す。B及びBは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-NH-、-N(CH)-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-又は-N(CH)CO-を表す。Dは熱により水素原子に置き換わる保護基を表す。aは0又は1である。A及びA(aが1の場合)、A及びA(aが1の場合)、又はA及びA(aが0の場合)は、互いに結合しない。*は他の基に結合する部位を表す。)
【化2】
(式[S1]中、X及びXは、それぞれ独立して、単結合、-(CH-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-COO-、-OCO-又は-((CHa1-Am1-を表す。このうち、複数のa1はそれぞれ独立して1~15の整数であり、複数のAはそれぞれ独立して酸素原子又は-COO-を表し、mは1~2である。G及びGは、それぞれ独立して、炭素数6~12の2価の芳香族基又は炭素数3~8の2価の脂環式基から選ばれる2価の環状基を表す。前記環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基又はフッ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。m及びnは、それぞれ独立して0~3の整数であって、m及びnの合計は1~4である。Rは、炭素数1~20のアルキル、炭素数1~20のアルコキシ、又は炭素数2~20のアルコキシアルキルを表し、Rを形成する任意の水素はフッ素で置換されていてもよい。)
【化3】
(式[S2]中、Xは単結合、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-を表す。Rは炭素数1~20のアルキル又は炭素数2~20のアルコキシアルキルを表し、Rを形成する任意の水素はフッ素で置換されていてもよい。)
【化4】
(式[S3]中、Xは-CONH-、-NHCO-、-O-、-COO-又は-OCO-を表す。Rはステロイド骨格を有する構造を表す。)
【化5】


(式[1]中、Xは、単結合、-O-、-C(CH -、-NH-、-CO-、-(CH -、-SO -及びそれらの任意の組み合わせからなる2価の有機基を表す。mは1~8の整数である。2つのYは、それぞれ独立して、前記式[S1]~[S3]で表される少なくとも1つを表す。)
【請求項2】
前記ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドの重合体を含有することを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記式(1)の構造を有するジアミンは、下記式(1’’)で表される構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【化6】
【請求項4】
前記式(1)の構造は、下記式(1-1)~(1-12)、(1-14)~(1-18)で表される群からなる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化7】

【請求項5】
前記ジアミン成分は、前記式[S1]で表される側鎖構造を有するジアミンを含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記式[S1]で表される側鎖構造は、下記式[S1-x1]~[S1-x6]で表される群からなる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化8】


(式[S1-x1]~[S1-x6]中、Rは、前記式[S1]の場合と同様である。Xは、-(CH-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-を表す。Aは、酸素原子又は-COO-*(「*」を付した結合手が(CHa2と結合する)を表す。Aは、酸素原子又は*-COO-(「*」を付した結合手が(CHa2と結合する)を表す。aは0又は1の整数であり、aは2~10の整数である。Cyは1,4-シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基を表す。)
【請求項7】
前記式[S2]で表される側鎖構造を有するジアミンにおけるRは、炭素数3~20のアルキル又は炭素数2~20のアルコキシアルキルであることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
前記式[S3]で表される側鎖構造を有するジアミンは、下記式[S3-x]で表される側鎖構造を有するジアミンであることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【化9】
(式[S3-x]中、Xは、式[X1]又は[X2]を表す。また、Colは、式[Col1]~[Col4]からなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Gは、式[G1]又は[G2]を表す。*は他の基に結合する部位を表す。)
【請求項9】
前記テトラカルボン酸成分は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、又は脂環式テトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成されてなることを特徴とする液晶配向膜。
【請求項11】
請求項10に記載の液晶配向膜を具備することを特徴とする液晶表示素子。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一項に記載の液晶配向剤を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を焼成する工程と、
焼成して得られた膜を配向処理する工程と、
を有することを特徴とする液晶配向膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及びそれを用いた液晶表示素子並びに該液晶配向膜の製造方法に関する。特に、基板に対して垂直に配向している液晶分子を電界によって応答させるVA方式の液晶表示素子に好適な液晶配向剤、液晶配向膜及びそれを用いた該液晶表示素子並びに該液晶配向膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、パソコン、携帯電話、スマートフォン、テレビ等に幅広く用いられている。近年、車両に搭載されるカーナビやメーター、屋外に設置される産業機器や計測機器の表示部等、高温・高湿下で液晶表示素子が使用される機会も多くなっている。
【0003】
この種の液晶表示素子は、一般に、素子基板とカラーフィルタ基板との間に挟持された液晶層、液晶層に電界を印加する画素電極及び共通電極、液晶層の液晶分子の配向性を制御する液晶配向膜、画素電極に供給される電気信号をスイッチングする薄膜トランジスタ(TFT)等を備えている。
【0004】
液晶表示素子では、液晶層を画素電極及び共通電極で挟持させたものが液晶セルとして機能する。液晶セルでは、その電圧保持率(VHR:Voltage Holding Ratio)が低いと、電圧を印加しても液晶分子に十分な電圧がかかり難くなる。そのため、高温・高湿下での使用や長期使用等により、表示コントラストが低下したり、表示にフリッカー(ちらつき)が生じたりして表示が見難くなる。
【0005】
このような液晶表示素子の駆動方式の一つに、基板に対して垂直に配向している液晶分子を電界によって応答させる方式(垂直配向(VA)方式ともいう)がある。垂直配向方式の液晶表示素子では、予め液晶組成物中に光重合性化合物を添加し、かつポリイミド系などの垂直配向膜を用い、液晶セルに電圧を印加しながら紫外線を照射することで、液晶の応答速度を速くする技術(PSA(Polymer Sustained Alignment)方式素子、例えば、特許文献1及び非特許文献1参照。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-307720号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】K.Hanaoka,SID 04 DIGEST、P1200-1202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、液晶表示素子の高性能化に伴い、液晶配向膜に期待される特性も厳しくなっている。そのため、従来の技術では、近年の高性能化に伴う液晶配向膜や液晶表示素子の特性に対する期待に応えることが難しかった。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、高温・高湿下であっても長期に渡って高い電圧保持率を確保できる液晶配向膜を得ることができる液晶配向剤、該液晶配向膜及びそれを用いた液晶表示素子並びに該液晶配向膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の態様は、下記式(1)の構造を有するジアミン及び下記式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる側鎖構造を有する少なくとも1種のジアミンを含有するジアミン成分と、テトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸誘導体成分を含む)から得られるポリイミド前駆体及び/又は該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドの重合体を含有することを特徴とする液晶配向剤にある。
【0011】
【化1】
(式(1)中、A及びAは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~5のアルキレン基を表す。A及びAは、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキレン基を表す。Aは、炭素数1~6のアルキレン基又はシクロアルキレン基を表す。B及びBは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-NH-、-N(CH)-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-又は-N(CH)CO-を表す。Dは熱により水素原子に置き換わる保護基を表す。aは0又は1である。A及びA(aが1の場合)、A及びA(aが1の場合)、又はA及びA(aが0の場合)は、互いに結合しない。*は他の基に結合する部位を表す。)
【0012】
【化2】
(式[S1]中、X及びXは、それぞれ独立して、単結合、-(CH-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-COO-、-OCO-又は-((CHa1-Am1-を表す。このうち、複数のa1はそれぞれ独立して1~15の整数であり、複数のAはそれぞれ独立して酸素原子又は-COO-を表し、mは1~2である。G及びGは、それぞれ独立して、炭素数6~12の2価の芳香族基又は炭素数3~8の2価の脂環式基から選ばれる2価の環状基を表す。前記環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基又はフッ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。m及びnは、それぞれ独立して0~3の整数であって、m及びnの合計は1~4である。Rは、炭素数1~20のアルキル、炭素数1~20のアルコキシ、又は炭素数2~20のアルコキシアルキルを表し、Rを形成する任意の水素はフッ素で置換されていてもよい。)
【0013】
【化3】
(式[S2]中、Xは単結合、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-を表す。Rは炭素数1~20のアルキル又は炭素数2~20のアルコキシアルキルを表し、Rを形成する任意の水素はフッ素で置換されていてもよい。)
【0014】
【化4】
(式[S3]中、Xは-CONH-、-NHCO-、-O-、-COO-又は-OCO-を表す。Rはステロイド骨格を有する構造を表す。)
【0015】
ここで、前記式(1)の構造を有するジアミンは、下記式(1’’)で表される構造を有することが好ましい。
【0016】
【化5】
【0017】
また、前記式(1)の構造を有するジアミンは、下記式(1-1)~(1-18)で表される群からなる少なくとも1つであることが好ましい。
【0018】
【化6】
【0019】
【化7】
【0020】
【化8】
【0021】
【化9】
【0022】
また、前記ジアミン成分は、前記式[S1]で表される側鎖構造を有するジアミンを含有することが好ましい。
【0023】
また、前記式[S1]で表される側鎖構造を有するジアミンは、下記式[S1-x1]~[S1-x7]で表される群からなる少なくとも1つであることが好ましい。
【0024】
【化10】
【0025】
(式[S1-x1]~[S1-x7]中、Rは、式[S1]の場合と同様である。Xは、-(CH-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-を表す。Aは、酸素原子又は-COO-*(「*」を付した結合手が(CHa2と結合する)を表す。Aは、酸素原子又は*-COO-(「*」を付した結合手が(CHa2と結合する)を表す。aは0又は1の整数であり、aは2~10の整数である。Cyは1,4-シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基を表す。)
【0026】
また、前記式[S2]で表される側鎖構造を有するジアミンにおけるRは、炭素数3~20のアルキル又は炭素数2~20のアルコキシアルキルであることが好ましい。
【0027】
また、前記式[S3]で表される側鎖構造を有するジアミンは、下記式[S3-x]で表されるジアミンであることが好ましい。
【0028】
【化11】
(式[S3-x]中、Xは、式[X1]又は[X2]を表す。また、Colは、式[Col1]~[Col4]からなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Gは、式[G1]又は[G2]を表す。*は他の基に結合する部位を表す。)
【0029】
また、前記ジアミン成分は、下記式[1]の構造を有する二側鎖ジアミンを含有することが好ましい。
【0030】
【化12】
【0031】
(式[1]中、Xは、単結合、-O-、-C(CH-、-NH-、-CO-、-(CH-、-SO-及びそれらの任意の組み合わせからなる2価の有機基を表す。mは1~8の整数である。2つのYは、それぞれ独立して、式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる少なくとも1つの側鎖構造を表す。)
【0032】
また、上記課題を解決する本発明の他の態様は、上記いずれか一つに記載の液晶配向剤を用いて形成されてなることを特徴とする液晶配向膜にある。
【0033】
また、上記課題を解決する本発明の更に他の態様は、上記に記載の液晶配向膜を具備することを特徴とする液晶表示素子にある。
【0034】
また、上記課題を解決する本発明の更に他の態様は、上記のいずれか一つに記載の液晶配向剤を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜を焼成する工程と、焼成して得られた膜を配向処理する工程と、を有することを特徴とする液晶配向膜の製造方法にある。
【発明の効果】
【0035】
本発明の液晶配向剤によれば、高温・高湿下であっても長期に渡って高い電圧保持率を確保できる液晶配向膜及び該液晶配向膜を用いた液晶表示素子を提供できる。すなわち、本発明の液晶配向膜及び液晶表示素子並びに該液晶配向膜の製造方法によれば、近年の高性能化に伴う液晶配向膜や液晶表示素子の特性に対する期待に応えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本実施形態の液晶配向剤は、下記式(1)の構造を有するジアミン及び下記式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる側鎖構造を有する少なくとも1種のジアミンを含有するジアミン成分と、テトラカルボン酸成分から得られるポリイミド前駆体及び/又は該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドの重合体を含有する。
【0037】
以下、式(1)の構造を有するジアミンを「特定構造を有するジアミン」又は「特定ジアミン」と称する場合がある。また、式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる側鎖構造を有する少なくとも1種のジアミンを「特定側鎖構造を有するジアミン」と称する場合がある。更に、本発明の特定ジアミン及び特定側鎖構造を有するジアミンを含有せしめた上記重合体を「特定重合体」と称する場合がある。以下、各々の構成要件につき詳述する。
【0038】
<特定ジアミン>
特定ジアミンは、下記式(1)の構造を有する。
【0039】
【化13】
【0040】
上記式(1)中、A及びAは、それぞれ独立して、単結合又は炭素数1~5のアルキレン基を表す。上下基板を張り合わせるシール材中の官能基との反応性の点からは、単結合又はメチレン基が好ましい。
【0041】
また、上記式(1)中、A及びAは、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキレン基を表し、好ましくはメチレン基又はエチレン基である。Aは、炭素数1~6のアルキレン基又はシクロアルキレン基を表し、シール材中の官能基との反応性の点からは、メチレン基又はエチレン基が好ましい。
【0042】
また、上記式(1)中、B及びBは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-NH-、-N(CH)-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-又は-N(CH)CO-を表す。得られる液晶配向膜の配向性の点からは、単結合又は-O-が好ましい。
【0043】
また、上記式(1)中、Dは、熱により水素原子に置き換わる保護基を表す。Dは、アミノ基の保護基として機能するものであり、熱により水素原子に置き換わる官能基であればその構造は限定されない。液晶配向剤の保存安定性の点からは、Dは室温において脱離しないことが好ましく、80℃以上の熱で脱離する保護基がより好ましく、100℃以上、特に120℃以上の熱で脱離する保護基が更に好ましい。脱離する温度は、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましい。高すぎる脱離する温度は重合体の分解を招く可能性がある。このようなDの例としては、tert-ブトキシカルボニル(t-Boc)基、9-フルオレニルメトキシカルボニル基等が挙げられる。なかでも、温度による脱離性の点からは、t-Boc基が好ましい。
【0044】
また、上記式(1)中、aは0又は1である。A及びA(aが1の場合)、A及びA(aが1の場合)、又はA及びA(aが0の場合)は、互いに結合しない。つまり、aが1の場合、A及びA、A及びAにより環は形成されず、Dに結合するN原子が該環の一部を構成しない。同様に、aが0の場合、A及びAにより環は形成されず、Dに結合するN原子が該環の一部を構成しない。
【0045】
また、上記式(1)中、*は他の基に結合する部位を表す。*から見て、ベンゼン環に対するA及び/又はAの結合位置は、オルト位、メタ位、パラ位のいずれでもよいが、液晶配向膜の液晶配向性の点からは、パラ位が好ましい。すなわち、上記式(1)は、下記式(1’)又は下記式(1’’)であるのが好ましい。
【0046】
【化14】
【0047】
上記式(1’)及び上記式(1’’)中、A~A、B、B、D、a並びに*は、上記式(1)の場合と同様である。
【0048】
このような特定ジアミンの具体例としては、例えば、下記式(1-1)~(1-18)で表されるジアミンが挙げられる。
【0049】
【化15】
【0050】
【化16】
【0051】
【化17】
【0052】
【化18】
【0053】
また、上記式(1)で表される特定ジアミンの具体例としては、例えば、下記式(1-19)~(1-21)も挙げられる。
【0054】
【化19】
【0055】
これらの特定ジアミンは、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。液晶配向膜や液晶表示素子に要求される特性に応じて、1種単独か2種以上混合して用いるか、また、2種以上混合して用いる場合にはその割合等、適宜調整すればよい。
【0056】
特定ジアミンを合成する方法は特に限定されない。例えば、上記式(1)で表される構造に対応する構造を有するジニトロ化合物を用い、そのニトロ基を還元反応によりアミノ基に変換する方法が挙げられる。
【0057】
上記還元反応に用いられる触媒は、市販品として入手できる活性炭担持金属であれば使用できるが、一般的に広く使用されているパラジウム-活性炭が、良好な結果が得られやすいので好ましい。還元反応をより効果的に進行させるため、活性炭の共存下で反応を実施することもある。特定ジアミンの合成に用いる溶媒は、各原料と反応しない溶媒であれば、制限なく使用することができる。溶媒は、1種で又は2種以上使用でき、また、適当な脱水剤や乾燥剤を用いて溶媒を乾燥し、非水溶媒としても使用できる。
【0058】
<二側鎖ジアミン>
本実施形態において、ジアミン成分として含まれていてもよい二側鎖ジアミンは、例えば下記式[1]で表される
【0059】
【化20】
【0060】
上記式[1]中、Xは、単結合、-O-、-C(CH-、-NH-、-CO-、-NHCO-、-COO-、-(CH-、-SO-又はそれらの任意の組み合わせからなる2価の有機基を表す。なかでも、Xは、単結合、-O-、-NH-、-O-(CH-O-であるのが好ましい。「それらの任意の組み合わせ」の例としては、-O-(CH-O-、-O-C(CH-、-CO-(CH-、-NH-(CH-、-SO-(CH-、-CONH-(CH-、-CONH-(CH-NHCO-、-COO-(CH-OCO-等が挙げられるが、これらに限定されない。mは1~8の整数である。
【0061】
また、上記式[1]中、2つのYは、それぞれ独立して、式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる少なくとも1つの側鎖構造を表す。式[S1]~[S3]で表される側鎖構造の詳細は後述する。
【0062】
また、上記式[1]中、Yは、Xの位置からメタ位であってもオルト位であってもよいが、好ましくはオルト位がよい。すなわち、上記式[1]は、下記式[1’]であるのが好ましい。
【0063】
【化21】
【0064】
また、上記式[1]中、2つのアミノ基(-NH)の位置は、ベンゼン環上のいずれの位置であってもよいが、下記式[1]-a1~[1]-a3で表される位置が好ましく、下記式[1]-a1であるのがより好ましい。下記式中、Xは、上記式[1]における場合と同様である。なお、下記式[1]-a1~[1]-a3は、2つのアミノ基の位置を説明するものであり、上記式[1]中で表されていたYの表記が省略されている。
【0065】
【化22】
【0066】
従って、上記式[1’]及び[1]-a1~[1]-a3に基づけば、上記式[1]は、下記式[1]-a1-1~[1]-a3-2から選ばれるいずれかの構造であるのが好ましく、下記式[1]-a1-1で表される構造がより好ましい。下記式中、X及びYは、それぞれ式[1]における場合と同様である。
【0067】
【化23】
【0068】
これらの上記式[1]で表される二側鎖ジアミンは、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。液晶配向膜や液晶表示素子に要求される特性に応じて、1種単独か2種以上混合して用いるか、また、2種以上混合して用いる場合にはその割合等、適宜調整すればよい。
【0069】
<特定側鎖構造を有するジアミン>
特定側鎖構造を有するジアミンは、下記式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる少なくとも1種の側鎖構造を有する。以下、かかる特定側鎖構造を有するジアミンについて、式[S1]~[S3]の順に説明する。
【0070】
特定側鎖構造を有するジアミンの例として、下記式[S1]で表される特定側鎖構造を有するジアミンがある。
【0071】
【化24】
【0072】
上記式[S1]中、X及びXは、それぞれ独立して、単結合、-(CH-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-COO-、-OCO-又は-((CHa1-Am1-を表す。このうち、複数のa1はそれぞれ独立して1~15の整数であり、複数のAはそれぞれ独立して酸素原子又は-COO-を表し、mは1~2である。
【0073】
なかでも、原料の入手性や合成の容易さの点からは、X及びXは、それぞれ独立して、単結合、-(CH-(aは1~15の整数である)、-O-、-CHO-又は-COO-が好ましく、単結合、-(CH-(aは1~10の整数である)、-O-、-CHO-又は-COO-がより好ましい。
【0074】
また、上記式[S1]中、G及びGは、それぞれ独立して、炭素数6~12の2価の芳香族基又は炭素数3~8の2価の脂環式基から選ばれる2価の環状基を表す。該環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。m及びnは、それぞれ独立して、0~3の整数であって、m及びnの合計は1~4である。
【0075】
また、上記式[S1]中、Rは、炭素数1~20のアルキル、炭素数1~20のアルコキシ又は炭素数2~20のアルコキシアルキルを表す。Rを形成する任意の水素はフッ素で置換されていてもよい。このうち、炭素数6~12の2価の芳香族基の例としては、フェニレン、ビフェニレン、ナフタレン等が挙げられる。また、炭素数3~8の2価の脂環式基の例としては、シクロプロピレン、シクロヘキシレン等が挙げられる。
【0076】
従って、上記式[S1]の好ましい具体例として、下記式[S1-x1]~[S1-x7]があげられるが、これらに限定されない。
【0077】
【化25】
【0078】
上記式[S1-x1]~[S1-x7]中、Rは、上記式[S1]の場合と同様である。Xは、-(CH-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-を表す。Aは、酸素原子又は-COO-*(「*」を付した結合手が(CHa2と結合する)を表す。Aは、酸素原子又は*-COO-(「*」を付した結合手が(CHa2と結合する)を表す。aは0又は1の整数であり、aは2~10の整数である。Cy、すなわちシクロヘキサン環の中にCyと記載した基は、1,4-シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基を表す。
【0079】
また、特定側鎖構造を有するジアミンの例として、下記式[S2]で表される特定側鎖構造を有するジアミンがある。
【0080】
【化26】
【0081】
上記式[S2]中、Xは単結合、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH)-、-NH-、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-を表す。なかでも、液晶配向剤の液晶配向性の点から、Xは-CONH-、-NHCO-、-O-、-CHO-、-COO-又は-OCO-が好ましい。
【0082】
また、上記式[S2]中、Rは、炭素数1~20のアルキル又は炭素数2~20のアルコキシアルキルを表す。Rを形成する任意の水素はフッ素で置換されていてもよい。なかでも、液晶配向剤の液晶配向性の点から、Rは炭素数3~20のアルキル又は炭素数2~20のアルコキシアルキルが好ましい。
【0083】
更に、特定側鎖構造を有するジアミンの例として、下記式[S3]で表される特定側鎖構造を有するジアミンがある。
【0084】
【化27】
【0085】
上記式[S3]中、Xは-CONH-、-NHCO-、-O-、-COO-又は-OCO-を表す。Rはステロイド骨格を有する構造を表す。ここでのステロイド骨格は、3つの六員環及び1つの五員環が結合した下記式(st)で表される骨格を有する。
【0086】
【化28】
【0087】
上記式[S3]の例として下記式[S3-x]が挙げられるが、これに限定されない。
【0088】
【化29】
【0089】
上記式[S3-x]中、Xは、上記式[X1]又は[X2]を表す。また、Colは、上記式[Col1]~[Col4]からなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Gは、上記式[G1]又は[G2]を表す。*は他の基に結合する部位を表す。
【0090】
上記式[S3-x]における、X、Col及びGの好ましい組み合わせの例としては、例えば、下記が挙げられる。すなわち、[X1]と[Col1]及び[G1]の組合せ、[X1]と[Col1]及び[G2]の組合せ、[X1]と[Col2]及び[G1]の組合せ、[X1]と[Col2]及び[G2]の組合せ、[X1]と[Col3]及び[G2]の組合せ、[X1]と[Col4]及び[G2]の組合せ、[X1]と[Col3]及び[G1]の組合せ、[X1]と[Col4]及び[G1]の組合せ、[X2]と[Col1]及び[G2]の組合せ、[X2]と[Col2]及び[G2]の組合せ、[X2]と[Col2]及び[G1]の組合せ、[X2]と[Col3]及び[G2]の組合せ、[X2]と[Col4]及び[G2]の組合せ、[X2]と[Col1]及び[G1]の組合せ、[X2]と[Col4]及び[G1]の組合せである。
【0091】
また、上記式[S3]の具体的としては、特開平4-281427号公報の段落[0024]に記載のステロイド化合物から水酸基(ヒドロキシ基)を除いた構造、同公報の段落[0030]に記載のステロイド化合物から酸クロライド基を除いた構造、同公報の段落[0038]に記載のステロイド化合物からアミノ基を除いた構造、同公報の段落[0042]にステロイド化合物からハロゲン基を除いた構造、及び特開平8-146421号公報の段落[0018]~[0022]に記載の構造等が挙げられる。
【0092】
これらの上記式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる少なくとも1つの特定側鎖構造を有するジアミンは、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。液晶配向膜や液晶表示素子に要求される特性に応じて、1種単独か2種以上混合して用いるか、また、2種以上混合して用いる場合にはその割合等、適宜調整すればよい。
【0093】
なお、ステロイド骨格の代表例としては、コレステロール(上記式[S3-x]における[Col1]及び[G2]の組み合わせ)が挙げられるが、該コレステロールを含まないステロイド骨格を利用することもできる。すなわち、ステロイド骨格を有するジアミンとして、例えば3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル等が挙げられるが、かかるコレステロール骨格を有するジアミンを含まないジアミン成分とすることも可能である。また、特定側鎖構造を有するジアミンとして、ジアミンと側鎖との連結位置にアミドを含まないものを利用することもできる。このようなジアミンを利用しても、本実施形態においては、コレステロール骨格を有するジアミンを含まないジアミン成分を利用しても、長期に渡って高い電圧保持率を確保できる液晶配向膜や液晶表示素子を得ることができる液晶配向剤を提供できる。
【0094】
このように、本発明のジアミン成分は、上記式(1)の構造を有するジアミンと、上記式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる側鎖構造を有する少なくとも1種のジアミンと、を含有せしめたジアミンである。
【0095】
上記式[S1]~[S3]で表される側鎖構造を有するジアミンとしては、例えば、それぞれ下記式[1-S1]-[1-S3]の構造を有するジアミンがある。勿論これ以外に、二側鎖ジアミンにおける二つの側鎖が上記式[S1]~[S3]で表される群から選ばれる側鎖構造を有する少なくとも1種であるジアミンも含む。このような二側鎖ジアミンについては、上述の通りである。
【0096】
【化30】
【0097】
上記式[1-S1]中、X、X、G、G、R、m及びnは、上記式[S1]における場合と同様である。上記式[1-S2]中、X及びRは、上記式[S2]における場合と同様である。上記式[1-S3]中、X及びRは、上記式[S3]における場合と同様である。
【0098】
<その他のジアミン:光反応性側鎖を有するジアミン>
本実施形態のジアミン成分は、その他のジアミンとして、光反応性側鎖を有するジアミンを含有してもよい。ジアミン成分が、光反応性側鎖を有するジアミンを含有することで、特定重合体やそれ以外の重合体に、光反応性側鎖を導入できるようになる。
【0099】
光反応性側鎖を有するジアミンとしては、例えば、下記式[VIII]又は[IX]で表されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
【化31】
【0101】
上記式[VIII]及び[IX]中、2つのアミノ基(-NH)の位置は、ベンゼン環上のいずれの位置であってもよく、例えば、側鎖の結合基に対し、ベンゼン環上の2,3の位置、2,4の位置、2,5の位置、2,6の位置、3,4の位置又は3,5の位置が挙げられる。ポリアミック酸を合成する際の反応性の点からは、2,4の位置、2,5の位置又は3,5の位置が好ましい。ジアミンを合成する際の容易性の点も加味すると、2,4の位置又は3,5の位置がより好ましい。
【0102】
また、上記式[VIII]中、Rは単結合、-CH-、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-NH-、-CHO-、-N(CH)-、-CON(CH)-又は-N(CH)CO-を表す。特に、Rは単結合、-O-、-COO-、-NHCO-又は-CONH-であるのが好ましい。
【0103】
また、上記式[VIII]中、Rは、単結合又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基を表す。ここでのアルキレン基の-CH-は、-CF-又は-CH=CH-で任意に置換されていてもよく、次のいずれかの基が互いに隣り合わない場合、これらの基に置換されていてもよい;-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-NH-、二価の炭素環又は複素環。なお、この二価の炭素環又は複素環は、具体的には下記式(1a)のものを例示することができるが、これに限定されない。
【0104】
【化32】
【0105】
また、上記式[VIII]中、Rは、通常の有機合成的手法で形成させることができるが、合成の容易性の点からは、単結合又は炭素数1~12のアルキレン基が好ましい。
【0106】
また、上記式[VIII]中、R10は、下記式(1b)からなる群から選択される光反応性基を表す。なかでも、R10は、光反応性の点から、メタクリル基、アクリル基又はビニル基が好ましい。
【0107】
【化33】
【0108】
また、上記式[IX]中、Yは、-CH-、-O-、-CONH-、-NHCO-、-COO-、-OCO-、-NH-又は-CO-を表す。Yは、炭素数1~30のアルキレン基、二価の炭素環又は複素環を表す。ここでのアルキレン基、二価の炭素環または複素環における、1つ又は複数の水素原子は、フッ素原子又は有機基で置換されていてもよい。Yは、次の基が互いに隣り合わない場合、-CH-がこれらの基に置換されていてもよい;-O-、-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-、-NH-、-NHCONH-、-CO-。
【0109】
また、上記式[IX]中、Yは、-CH-、-O-、-CONH-、-NHCO-、-COO-、-OCO-、-NH-、-CO-又は単結合を表す。Yはシンナモイル基を表す。Yは単結合、炭素数1~30のアルキレン基、二価の炭素環又は複素環を表す。ここでのアルキレン基、二価の炭素環または複素環における、1つ又は複数の水素原子は、フッ素原子又は有機基で置換されていてもよい。Yは、次の基が互いに隣り合わない場合、-CH-がこれらの基に置換されていてもよい;-O-、-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-、-NH-、-NHCONH-、-CO-。Yはアクリル基又はメタクリル基等の光重合性基を表す。
【0110】
このような上記式[VIII]又は[IX]で表される光反応性側鎖を有するジアミンの具体例としては、下記式(1c)が挙げられるが、これに限定されない。
【0111】
【化34】
【0112】
上記式(1c)中、X及びX10は、それぞれ独立に、単結合、-O-、-COO-、-NHCO-又は-NH-である結合基を表す。Yは、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~20のアルキレン基を表す。
【0113】
光反応性側鎖を有するジアミンとしては、下記式[VII]のジアミンも挙げられる。式[VII]のジアミンは、ラジカル発生構造を有する部位を側鎖に有している。ラジカル発生構造においては、紫外線照射により分解しラジカルが発生する。
【0114】
【化35】
【0115】
上記式[VII]中、Arはフェニレン、ナフチレン及びビフェニレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族炭化水素基を表し、それらの環の水素原子はハロゲン原子に置換されていてもよい。カルボニルが結合しているArは、紫外線の吸収波長に関与するため、長波長化する場合、ナフチレンやビフェニレンのような共役長の長い構造が好ましい。一方、Arがナフチレンやビフェニレンのような構造になると、溶解性が悪くなる場合があり、この場合、合成の難易度が高くなる。紫外線の波長が250nm~380nmの範囲であればフェニル基でも十分な特性が得られるため、Arはフェニル基が最も好ましい。
【0116】
上記Arにおいて、芳香族炭化水素基には置換基が設けられていてもよい。ここでの置換基の例としては、アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基等、電子供与性の有機基が好ましい。
【0117】
また、上記式[VII]中、R1及びRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基、アルコキシ基、ベンジル基又はフェネチル基を表す。アルキル基やアルコキシ基の場合、R及びRにより環が形成されていてもよい。
【0118】
また、上記式[VII]中、T及びTは、それぞれ独立して、単結合、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-NH-、-CHO-、-N(CH)-、-CON(CH)-又は-N(CH)CO-の結合基を表す。
【0119】
また、式[VII]中、Sは単結合、非置換又はフッ素原子によって置換されている炭素原子数1~20のアルキレン基を表す。ここでのアルキレン基の-CH-又は-CF-は、-CH=CH-で任意に置換されていてもよく、次に挙げるいずれかの基が互いに隣り合わない場合、これらの基に置換されていてもよい;-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-NH-、二価の炭素環、二価の複素環。
【0120】
また、式[VII]中、Qは、下記式(1d)から選ばれる構造を表す。
【0121】
【化36】
【0122】
上記式(1d)中、Rは水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。Rは、-CH-、-NR-、-O-、又は-S-を表す。
【0123】
また、上記式[VII]中、Qは、電子供与性の有機基が好ましく、上記Arの例でも挙げたような、アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基等が好ましい。Qがアミノ誘導体の場合、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸の重合の際に、発生するカルボン酸基とアミノ基が塩を形成するなどの不具合が生じる可能性があるため、ヒドロキシル基又はアルコキシ基がより好ましい。
【0124】
また、上記式[VII]中、2つのアミノ基(-NH)の位置は、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン又はp-フェニレンジアミンのいずれでもよいが、酸二無水物との反応性の点では、m-フェニレンジアミン又はp-フェニレンジアミンが好ましい。
【0125】
従って、上記式[VII]の好ましい具体的としては、合成の容易さ、汎用性の高さ、特性等の点から、下記式が挙げられる。なお、下記式中、nは2~8の整数である。
【0126】
【化37】
【0127】
これらの上記式[VII]、[VIII]又は[IX]で表される光反応性側鎖を有するジアミンは、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。液晶配向膜とした際の液晶配向性、プレチルト角、電圧保持特性、蓄積電荷等の特性、液晶表示素子とした際の液晶の応答速度等に応じて、1種単独か2種以上混合して用いるか、また、2種以上混合して用いる場合にはその割合等、適宜調整すればよい。
【0128】
本実施形態において、ジアミン成分に光反応性側鎖ジアミンが含まれる場合、該光反応性側鎖ジアミンは、全ジアミン成分の10~70モル%が好ましく、20~60モル%がより好ましく、30~50モル%が更に好ましい。
【0129】
<その他のジアミン:上記以外のジアミン>
特定重合体を得るためのジアミン成分に含まれていてもよいその他のジアミンは、上記光反応性側鎖を有するジアミン等に限定されない。上記光反応性側鎖を有するジアミン以外のその他のジアミンの例としては、下記式[2]で表されるものが挙げられる。
【0130】
【化38】
【0131】
上記式[2]中、A及びAは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数2~5のアルケニル基又は炭素数2~5のアルキニル基を表す。なかでも、モノマーの反応性の点から、A及びAは、水素原子又はメチル基が好ましい。また、Yの構造を例示すると、下記式(Y-1)~(Y-148)及び(Y-155)~(Y-174)が挙げられる。
【0132】
【化39】
【0133】
【化40】
【0134】
【化41】
【0135】
【化42】
【0136】
【化43】
【0137】
【化44】
【0138】
【化45】
【0139】
【化46】
【0140】
【化47】
【0141】
【化48】
【0142】
【化49】
【0143】
【化50】
【0144】
【化51】
【0145】
【化52】
【0146】
【化53】
【0147】
【化54】
【0148】
【化55】

【0149】
【化56】
【0150】
上記式中、特にnの範囲の記載が無いものについては、nは1~6の整数である。また、上記式中、Meはメチル基を表す。
【0151】
【化57】
【0152】
【化58】
【0153】
上記式中、Bocは、tert-ブトキシカルボニル基を表す。
【0154】
以上説明した、上記光反応性側鎖を有するジアミンを含むその他のジアミンは、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。ジアミン成分がその他のジアミンを含有する場合、特定重合体における、その他のジアミンに対する特定ジアミンは、本発明の効果を損ねない範囲で、適宜設定することができる。
【0155】
<テトラカルボン酸成分>
特定重合体を得るためのテトラカルボン酸成分の例としては、テトラカルボン酸、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジハライド、テトラカルボン酸ジアルキルエステル又はテトラカルボン酸ジアルキルエステルジハライドが挙げられ、本発明では、これらを総称してテトラカルボン酸成分とも称する。
【0156】
テトラカルボン酸成分としては、テトラカルボン酸二無水物や、その誘導体である、テトラカルボン酸、テトラカルボン酸ジハライド、テトラカルボン酸ジアルキルエステル、又はテトラカルボン酸ジアルキルエステルジハライド(これらを総称して、第1のテトラカルボン酸成分と称する)を用いることもできる。
【0157】
テトラカルボン酸二無水物の例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの具体例としては、以下の[1]~[5]の群のもの等がそれぞれ挙げられる。
【0158】
[1] 脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等;
【0159】
[2] 脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば下記式(X1-1)~(X1-13)等の酸二無水物;
【0160】
【化59】
【0161】
【化60】
【0162】
上記式(X1-1)~(X1-4)中、RからR23はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基又はフェニル基を表す。Rは水素原子又はメチル基を表す。また、上記式(X1-13)中、Xaは、下記式(Xa-1)~(Xa-7)で表される4価の有機基を表す。
【0163】
【化61】
【0164】
[3] 3-オキサビシクロ[3.2.1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物、4,9-ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン-3,5,8,10-テトラオン等;
【0165】
[4] 芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、下記式(Xb-1)~(Xb-10)で表される酸二無水物等、及び
【0166】
【化62】
【0167】
【化63】
【0168】
[5] 式(X1-44)~(X1-52)で表される酸二無水物、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0169】
【化64】
【0170】
【化65】
【0171】
以上説明したテトラカルボン酸成分は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。液晶配向膜や液晶表示素子に要求される特性に応じて、1種単独か2種以上混合して用いるか、また、2種以上混合して用いる場合にはその割合等、適宜調整すればよい。
【0172】
<特定重合体の製造方法>
特定重合体は、上記説明した本実施形態のジアミン成分と、テトラカルボン酸成分と、を反応させる方法により得られる。該方法としては、例えば、1種又は複数種のジアミンからなるジアミン成分と、テトラカルボン酸二無水物及びそのテトラカルボン酸の誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸成分と、を反応させ、ポリアミド酸を得る方法が挙げられる。具体的には、1級又は2級のジアミンと、テトラカルボン酸二無水物と、を重縮合させてポリアミック酸を得る方法が用いられる。
【0173】
ポリアミド酸アルキルエステルを得るためには、カルボン酸基をジアルキルエステル化したテトラカルボン酸と1級又は2級のジアミンとを重縮合させる方法、カルボン酸基をハロゲン化したテトラカルボン酸ジハライドと1級又は2級のジアミンとを重縮合させる方法、又はポリアミド酸のカルボキシ基をエステルに変換する方法が用いられる。ポリイミドを得るには、上記のポリアミド酸又はポリアミド酸アルキルエステルを閉環させてポリイミドとする方法が用いられる。
【0174】
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分との反応は、通常、溶媒中で行う。その際に用いる溶媒としては、生成したポリイミド前駆体が溶解するものであれば特に限定されない。ここでの溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又は1,3-ジメチル-イミダゾリジノン等が挙げられる。また、ポリイミド前駆体の溶媒溶解性が高い場合、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン又は下記式[D-1]~[D-3]で表される溶媒等を用いることができる。
【0175】
【化66】
【0176】
式[D-1]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を表す。式[D-2]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を表す。式[D-3]中、Dは炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0177】
これらの溶媒は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。ポリイミド前駆体を溶解させない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲であれば、上記溶媒に混合して使用してもよい。また、溶媒中の水分は、重合反応を阻害し、更には、生成したポリイミド前駆体を加水分解させる原因となるので、溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0178】
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを溶媒中で反応させる際には、ジアミン成分を溶媒に分散、或いは溶解させた溶液を攪拌させ、テトラカルボン酸成分をそのまま、又は溶媒に分散、或いは溶解させて添加する方法、逆にテトラカルボン酸成分を溶媒に分散、或いは溶解させた溶液にジアミン成分を添加する方法、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを交互に添加する方法等が挙げられ、これらのいずれの方法を用いてもよい。また、ジアミン成分又はテトラカルボン酸成分を、それぞれ複数種用いて反応させる場合は、あらかじめ混合した状態で反応させてもよく、個別に順次反応させてもよく、更に個別に反応させた低分子量体を混合反応させ重合体としてもよい。
【0179】
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを重縮合せしめる温度は、-20~150℃の任意の温度を選択することができるが、好ましくは-5~100℃の範囲である。反応は任意の濃度で行うことができるが、濃度が低すぎると高分子量の重合体を得ることが難しくなり、濃度が高すぎると反応液の粘性が高くなり過ぎて均一な攪拌が困難となる。そのため、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~30質量%である。反応初期は高濃度で行い、その後、溶媒を追加することもできる。
【0180】
ポリイミド前駆体の重合反応においては、ジアミン成分の合計モル数とテトラカルボン酸成分との合計モル数の比は、0.8~1.2であることが好ましい。通常の重縮合反応と同様に、このモル比が1.0に近いほど、生成するポリイミド前駆体の分子量は大きくなる。
【0181】
ポリイミドは、上記ポリイミド前駆体を閉環させて得られるポリイミドであり、このポリイミドにおいては、アミド酸基の閉環率(イミド化率ともいう)は、必ずしも100%である必要はなく、用途や目的に応じて任意に調整できる。ポリイミド前駆体をイミド化させる方法としては、ポリイミド前駆体の溶液をそのまま加熱する熱イミド化、又はポリイミド前駆体の溶液に触媒を添加する触媒イミド化が挙げられる。
【0182】
ポリイミド前駆体を溶液中で熱イミド化させる場合の温度は、100~400℃、好ましくは120~250℃であり、イミド化反応により生成する水を系外に除きながら行う方法が好ましい。ポリイミド前駆体の触媒イミド化は、ポリイミド前駆体の溶液に、塩基性触媒と酸無水物とを添加し、-20~250℃、好ましくは0~180℃で攪拌することにより行うことができる。
【0183】
塩基性触媒の量は、アミド酸基の0.5~30モル倍、好ましくは2~20モル倍であり、酸無水物の量は、アミド酸基の1~50モル倍、好ましくは3~30モル倍である。塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等が挙げられる。なかでも、ピリジンは、反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。酸無水物としては、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。特に、無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。触媒イミド化によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。
【0184】
ポリイミド前駆体又はポリイミドの反応溶液から、生成したポリイミド前駆体又はポリイミドを回収する場合には、反応溶液を溶媒に投入して沈殿させればよい。沈殿に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、ベンゼン、水等が挙げられる。溶媒に投入して沈殿させたポリマーは、濾過して回収した後、常圧或いは減圧下で、又は常温或いは加熱して乾燥することができる。また、沈殿回収した重合体を、溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2~10回繰り返すと、重合体中の不純物を少なくすることができる。この際の溶媒として、例えば、アルコール類、ケトン類、炭化水素等が挙げられる。これら中から選ばれる3種類以上の溶媒を用いると、より一層精製の効率が上がるので好ましい。
【0185】
本発明のポリアミド酸アルキルエステルを製造するための、より具体的な方法の例をそれぞれ、下記(1)~(3)に示す。
【0186】
(1)ポリアミド酸のエステル化反応で製造する方法
この方法は、例えば、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とからポリアミド酸を製造し、そのカルボキシ基(COOH基)に化学反応、すなわちエステル化反応を行い、ポリアミド酸アルキルエステルを製造する方法である。エステル化反応は、ポリアミド酸とエステル化剤を溶媒の存在下で、-20~150℃(好ましくは0~50℃)において、30分~24時間(好ましくは1~4時間)反応させる方法である。
【0187】
上記エステル化剤としては、エステル化反応後に、容易に除去できるものが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジネオペンチルブチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジ-t-ブチルアセタール、1-メチル-3-p-トリルトリアゼン、1-エチル-3-p-トリルトリアゼン、1-プロピル-3-p-トリルトリアゼン、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド等が挙げられる。エステル化剤の使用量は、ポリアミド酸の繰り返し単位1モルに対して、2~6モル当量が好ましい。なかでも、2~4モル当量が好ましい。
【0188】
上記エステル化反応に用いる溶媒としては、ポリアミド酸の溶媒への溶解性の点から、上記ジアミン成分とテトラカルボン酸成分との反応に用いる溶媒が挙げられる。なかでも、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトンが好ましい。これら溶媒は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。上記エステル化反応における溶媒中のポリアミド酸の濃度は、ポリアミド酸の析出が起こりにくい点から、1~30質量%が好ましい。なかでも、5~20質量%が好ましい。
【0189】
(2)ジアミン成分とテトラカルボン酸ジエステルジクロリドとの反応で製造する方法
この方法は、例えば、ジアミン成分とテトラカルボン酸ジエステルジクロリドとを、塩基と溶媒の存在下で、-20~150℃(好ましくは0~50℃)において、30分~24時間(好ましくは1~4時間)反応させる方法である。塩基は、ピリジン、トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン等を用いることができる。なかでも、反応が穏和に進行するため、ピリジンが好ましい。塩基の使用量は、反応後に、容易に除去できる量が好ましく、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドに対して2~4倍モルが好ましく、2~3倍モルがより好ましい。
【0190】
溶媒には、得られる重合体、すなわちポリアミド酸アルキルエステルの溶媒への溶解性の点から、上記ジアミン成分とテトラカルボン酸成分との反応に用いる溶媒が挙げられる。なかでも、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトンが好ましい。これらの溶媒は、1種単独又は2種以上混合して用いてもよい。
【0191】
反応における溶媒中のポリアミド酸アルキルエステルの濃度は、ポリアミド酸アルキルエステルの析出が起こりにくい点から、1~30質量%が好ましい。なかでも、5~20質量%が好ましい。また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドの加水分解を防ぐため、ポリアミド酸アルキルエステルの作製に用いる溶媒は、できるだけ脱水されていることが好ましい。更に、反応は窒素雰囲気中で行い、外気の混入を防ぐのが好ましい。
【0192】
(3)ジアミン成分とテトラカルボン酸ジエステルとの反応で製造する方法
この方法は、例えば、ジアミン成分とテトラカルボン酸ジエステルとを、縮合剤、塩基及び溶媒の存在下で、0~150℃(好ましくは0~100℃)において、30分~24時間(好ましくは3~15時間)重縮合反応させる方法である。
【0193】
縮合剤には、トリフェニルホスファイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’-カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ-1,3,5-トリアジニルメチルモルホリニウム、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニル等を用いることができる。縮合剤の使用量は、テトラカルボン酸ジエステルに対して、2~3倍モルが好ましく、特に、2~2.5倍モルが好ましい。
【0194】
塩基には、ピリジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。塩基の使用量は、重縮合反応後に、容易に除去できる量が好ましく、ジアミン成分に対して、2~4倍モルが好ましく、2~3倍モルがより好ましい。重縮合反応に用いる溶媒は、得られる重合体、すなわち、ポリアミド酸アルキルエステルの溶媒への溶解性の点から、上記ジアミン成分とテトラカルボン酸成分との反応に用いる溶媒が挙げられる。なかでも、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトンが好ましい。これら溶媒は、1種又は2種以上混合して用いてもよい。
【0195】
また、重縮合反応においては、ルイス酸を添加剤として加えることで、反応が効率的に進行する。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウム等のハロゲン化リチウムが好ましい。ルイス酸の使用量は、ジアミン成分に対して、0.1~10倍モルが好ましい。なかでも、2.0~3.0倍モルが好ましい。
【0196】
上記(1)~(3)の手法で得られたポリアミド酸アルキルエステルの溶液から、ポリアミド酸アルキルエステルを回収する場合には、反応溶液を溶媒に投入して沈殿させればよい。沈殿に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。溶媒に投入して沈殿させた重合体は、上記で使用した添加剤、触媒類を除去することを目的に、上記溶媒で、複数回洗浄操作を行うことが好ましい。洗浄し、ろ過して回収した後、重合体は常圧或いは減圧下、又は常温或いは加熱して乾燥することができる。また、沈殿回収した重合体を、溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2~10回繰り返すことにより、重合体中の不純物を少なくすることができる。ポリアミド酸アルキルエステルは、上記(2)又は(3)の製造方法が好ましい。
【0197】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、上記の特定重合体を含有するが、異なる構造の特定重合体を2種以上含有していてもよい。また、特定重合体に加えて、その他の重合体、すなわち式(1)で表される2価の基を有さない重合体(式(1)で表される特定ジアミンを含有しないで得られる重合体)を含有していてもよい。重合体の形式としては、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、ポリオルガノシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン又はその誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明の液晶配向剤がその他の重合体を含有する場合、全重合体成分に対する特定重合体の割合は5質量%以上が好ましく、例えば5~95質量%が挙げられる。
【0198】
液晶配向剤は、均一な薄膜を形成させるという点から、一般的には塗布液の形態をとる。本発明の液晶配向剤も、上記重合体成分と、この重合体成分を溶解させる有機溶媒とを含有する塗布液であることが好ましい。その際、液晶配向剤中の重合体の濃度は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によって適宜変更できる。均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点からは、1質量%以上が好ましく、溶液の保存安定性の点からは、10質量%以下が好ましい。特に好ましい重合体の濃度は、2~8質量%である。
【0199】
液晶配向剤に含有される有機溶媒は、重合体成分が均一に溶解するものであれば特に限定されない。具体例を挙げるならば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等である。なかでも、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンを用いることが好ましい。
【0200】
また、本発明の液晶配向剤に含有される有機溶媒は、上記溶媒に加えて、液晶配向剤を塗布する際の塗布性や塗膜の表面平滑性を向上させる溶媒を用いることもできる。かかる有機溶媒の具体例を下記に挙げるが、これらにされない。
【0201】
例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジイソプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2,6-ジメチル-4-ヘプタノン、4,6-ジメチル-2-ヘプタノン、3-エトキシブチルアセタート、1-メチルペンチルアセタート、2-エチルブチルアセタート、2-エチルヘキシルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、2-(メトキシメトキシ)エタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、1-(ブトキシエトキシ)プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアセタート、ジエチレングリコールアセタート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n-プロピルエステル、乳酸n-ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル、上記式[D-1]~[D-3]で表される溶媒等を挙げることができる。
【0202】
なかでも、有機溶媒は、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノブチルエーテル又はジプロピレングリコールジメチルエーテルを用いることが好ましい。このような溶媒の種類及び含有量は、液晶配向剤の塗布装置、塗布条件、塗布環境等に応じて適宜選択される。
【0203】
本発明の液晶配向剤は、重合体成分及び有機溶媒以外の成分を追加的に含有してもよい。このような追加成分としては、液晶配向膜と基板との密着性や、液晶配向膜とシール材との密着性を高めるための密着助剤、液晶配向膜の強度を高めるための架橋剤、液晶配向膜の誘電率や電気抵抗を調整するための誘電体や導電物質等が挙げられる。これら追加成分の具体例としては、国際公開第2015/060357号の53頁段落[0104]~60頁段落[0116]に開示される貧溶媒や架橋性化合物が挙げられる。
【0204】
本発明の液晶配向剤には、上記の他、本発明に記載の特定重合体以外の重合体、液晶配向膜の誘電率や導電性等の電気特性を変化させる目的の誘電体、液晶配向膜と基板との密着性を向上させる目的のシランカップリング剤、液晶配向膜にした際の膜の硬度や緻密度を高める目的の架橋性化合物、更には塗膜を焼成する際にポリイミド前駆体の加熱によるイミド化を効率よく進行させる目的のイミド化促進剤等を含有せしめてもよい。
【0205】
液晶配向膜と基板との密着性を向上させる化合物としては、官能性シラン含有化合物やエポキシ基含有化合物が挙げられ、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N-トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10-トリメトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、10-トリエトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、9-トリメトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、9-トリエトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2-ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3,5,6-テトラグリシジル-2,4-ヘキサンジオール、N,N,N’,N’,-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン又はN,N,N’,N’,-テトラグリシジル-4、4’-ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
【0206】
また、本発明の液晶配向剤には、液晶配向膜の機械的強度を上げるために以下のような添加物を添加してもよい。
【0207】
【化67】
【0208】
上記の添加剤は、液晶配向剤に含有される重合体成分の100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましい。0.1質量部未満であると効果が期待できず、30質量部を超えると液晶の配向性を低下させるため、より好ましくは0.5~20質量部である。
【0209】
<液晶配向膜>
本発明の液晶配向膜は、上記液晶配向剤から得られる。本発明の液晶配向剤の使用により、基板に対して垂直に配向している液晶分子を電界によって応答させるVA方式、特にPSAモードに特に好適であり、高温・高湿下であっても長期に渡って高い電圧保持率を確保できる液晶配向膜や液晶表示素子を提供できる。液晶配向膜を得る方法の一例を挙げるなら、本発明の液晶配向剤を、基板に塗布した後、必要に応じて乾燥し、焼成を行うことで得られる硬化膜を、そのまま液晶配向膜として用いることもできる。また、この硬化膜をラビングしたり、偏光又は特定の波長の光等を照射したり、イオンビーム等の処理をしたり、PSA用配向膜として液晶充填後の液晶表示素子に電圧を印加した状態でUVを照射することも可能である。特に、PSA用配向膜として使用することが有用である。
【0210】
液晶配向剤を塗布する基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板とともに、アクリル基板やポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることもできる。その際、液晶を駆動させるためのITO電極などが形成された基板を用いると、プロセスの簡素化の点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならば、シリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極にはアルミニウム等の光を反射する材料も使用できる。
【0211】
液晶配向剤の塗布方法は、特に限定されないが、工業的には、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット法等が一般的である。その他の塗布方法としては、ディップ法、ロールコータ法、スリットコータ法、スピンナー法、スプレー法等があり、目的に応じてこれらを用いてもよい。液晶配向剤を基板上に塗布した後は、ホットプレート、熱循環型オーブン、IR(赤外線)型オーブン等の加熱手段により、溶媒を蒸発させ、焼成する。液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択できる。乾燥の工程は、必ずしも必要とされないが、塗布後から焼成までの時間が基板ごとに一定していない場合、又は塗布後ただちに焼成されない場合には、乾燥工程を行うことが好ましい。この乾燥は、基板の搬送等により塗膜形状が変形しない程度に溶媒が除去されていればよく、その乾燥手段については特に限定されない。例えば、温度40℃~150℃、好ましくは60℃~100℃のホットプレート上で、0.5分~30分、好ましくは1分~5分乾燥させる方法が挙げられる。
【0212】
液晶配向剤を塗布することにより形成された塗膜の焼成温度は限定されず、例えば100℃~350℃、好ましくは120℃~300℃であり、さらに好ましくは150℃~250℃である。焼成時間は5分~240分、好ましくは10分~90分であり、より好ましくは20分~90分である。加熱は、通常公知の方法、例えば、ホットプレート、熱風循環炉、赤外線炉などで行うことができる。
【0213】
焼成後の液晶配向膜の厚みは、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましい。本発明の液晶配向膜は、VA方式、特にPSAモードの液晶表示素子の液晶配向膜として有用である。
【0214】
<液晶表示素子及びその製造方法>
本発明の液晶表示素子は、上記液晶配向剤から得られる液晶配向膜付きの基板を得た後、既知の方法で液晶セルを作製し、該液晶セルを使用して素子としたものである。作製可能な液晶表示素子の具体例としては、対向するように配置された2枚の基板と、基板間に設けられた液晶層と、基板と液晶層との間に設けられ本発明の液晶配向剤により形成された上記液晶配向膜と、を有する液晶セルを具備する垂直配向方式の液晶表示素子である。具体的には、本発明の液晶配向剤を2枚の基板上に塗布して焼成することにより液晶配向膜を形成し、この液晶配向膜が対向するように2枚の基板を配置し、この2枚の基板の間に液晶で構成された液晶層を挟持し、すなわち、液晶配向膜に接触させて液晶層を設け、液晶配向膜及び液晶層に電圧を印加しながら紫外線を照射することで作製される液晶セルを具備する垂直配向方式の液晶表示素子である。
【0215】
更に具体的には、透明なガラス製の基板を準備し、一方の基板の上にコモン電極を、他方の基板の上にセグメント電極を設ける。これらの電極は、例えばITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようパターニングされている。次いで、各基板の上に、コモン電極とセグメント電極を被覆するようにして絶縁膜を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル-ゲル法によって形成されたSiO-TiOからなる膜とすることができる。次に、上記のような条件で、各基板の上に液晶配向膜を形成する。
【0216】
次いで、液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に例えば紫外線硬化性のシール材を配置し、更に液晶配向膜面上の所定の数カ所に液晶を配置する。その後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせて圧着することにより液晶を液晶配向膜前面に押し広げ、基板の全面に紫外線を照射してシール材を硬化することで液晶セルを得る。
【0217】
また、基板の上に液晶配向膜を形成した後、一方の基板上の所定の場所にシール材を配置する際に、外部から液晶を充填可能な開口部を設けておき、基板を貼り合わせる。その後、液晶材料をシール材に設けた開口部を通じて液晶セル内に注入し、次いで、この開口部を接着剤で封止して液晶セルを得る。液晶材料の注入は、真空注入法でもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法でもよい。
【0218】
上記のいずれの方法においても、液晶セル内に液晶材料が充填される空間を確保する為に、一方の基板上に柱状の突起を設けるか、一方の基板上にスペーサーを散布するか、シール材にスペーサーを混入するか、又はこれらを組み合わせる等の手段を取ることが好ましい。
【0219】
上記の液晶材料としては、特に限定されないが、VA方式で使用される液晶材料、特にPSAモードで使用可能な液晶材料を適宜選択して使用できる。
【0220】
次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に一対の偏光板を貼り付けることが好ましい。
【0221】
なお、本発明の液晶配向膜及び液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤を用いている限り上記の構成や製造方法に限定されるものではなく、その他の公知の手法で作製されたものであってもよい。液晶配向剤から液晶表示素子を得るまでの工程は、例えば、特開2015-135393号公報の17頁の段落[0074]~19頁の段落[0082]等に開示されている。
【0222】
重合体光反応性の側鎖を有する場合には、重合性化合物を重合させると共に、光反応性側鎖同士や、重合体が有する光反応性側鎖と重合性化合物を反応させることにより、より効率的に液晶の配向が固定化され、応答速度に優れた液晶表示素子となる。
【実施例
【0223】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらに限定して解釈されるものではない。使用した化合物は、以下の通りである。
【0224】
(ジアミン成分)
下記式[DA-1]~[DA-10]で表される化合物
DA-1:式[DA-1]で表される化合物(特定側鎖構造を有するジアミン)
DA-2:式[DA-2]で表される化合物(特定側鎖構造を有する二側鎖ジアミン)
DA-3:式[DA-3]で表される化合物(特定ジアミン)
DA-4:式[DA-4]で表される化合物(その他のジアミン)
DA-5:式[DA-5]で表される化合物(その他のジアミン)
DA-6:式[DA-6]で表される化合物(その他のジアミン)
DA―7:式[DA―7]で表される化合物(その他のジアミン)
DA―8:式[DA―8]で表される化合物(その他のジアミン)
DA―9:式[DA―9]で表される化合物(その他のジアミン)
DA―10:式[DA―10]で表される化合物(特定側鎖構造を有するジアミン)
【0225】
【化68】
【0226】
(テトラカルボン酸成分)
下記式[D1]~[D4]で表される化合物
D1:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
D2:ビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物
D3:2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
D4:3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
【0227】
【化69】
【0228】
(溶媒)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BCS:エチレングリコールモノブチルエーテル
【0229】
<ポリイミドの分子量測定>
合成例におけるポリイミドの分子量は、(株)センシュー科学社製 常温ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置(SSC-7200)、Shodex社製カラム(KD-803、KD-805)を用い以下のようにして測定した。
カラム温度:50℃
溶離液:N,N’-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム-水和物(LiBr・HO)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)
流速:1.0ml/分
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(分子量 約9,000,000、150,000、100,000、30,000)、および、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(分子量 約12,000、4,000、1,000)。
【0230】
<イミド化率の測定>
合成例におけるポリイミドのイミド化率は次のようにして測定した。ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管(草野科学製 NMRサンプリングチューブスタンダード φ5)に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d、0.05%TMS混合品)0.53mlを添加し、超音波をかけて完全に溶解させた。
【0231】
この溶液を日本電子データム(株)製NMR測定器(JNW-ECA500)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5~10.0ppm付近に現れるアミック酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い、以下の計算式によって求めた。
イミド化率(%)=(1-α・x/y)×100
【0232】
<ポリイミド系重合体の合成>
<合成例1>
テトラカルボン酸二無水物であるD2(3.50g)、ジアミン成分であるDA-1(3.20g)、DA-3(6.69g)を、溶媒NMP(表1のN1)(53.57g)中で混合し、60℃で3時間反応させた後、D1(2.73g)及びNMP(表1のN2)(10.94g)を加え、40℃で6時間反応させポリアミド酸溶液を得た。
【0233】
このポリアミド酸溶液(20.0g)にNMP(41.54g)を加え、6.5質量%に希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(3.55g)、ピリジン(1.10g)を加え、80℃(表2の反応温度)で3時間反応させた。この反応溶液をメタノール(231.64g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、60℃で減圧乾燥し、合成例1のポリイミド粉末(A)を得た。このポリイミドのイミド化率は68%であり、数平均分子量は12,900、重量平均分子量は44,100であった。
【0234】
<合成例2~7>
合成例1の手法に沿って、材料や割合を表1及び2の通りに変更し、合成例2~7のポリイミド粉末(B)~(G)を得た。
【0235】
<合成例8>
テトラカルボン酸二無水物であるD2(3.50g)、ジアミン成分であるDA-2(2.12g)、DA-3(2.87g)を溶媒NMP(表1のN1)(47.29g)中で混合し、60℃で3時間反応させた後、D1(2.60g)及びNMP(表1のN2)(3.87g)を加え、室温で1時間反応させ、さらにD4(2.71g)及びNMP(表1のN3)(10.83g)を加え、室温で6時間反応させ、ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を合成例1の手法に沿って、材料や割合を表2の通りに変更し、合成例8のポリイミド粉末(H)を得た。
【0236】
<合成例9>
テトラカルボン酸二無水物であるD3(6.15g)、ジアミン成分であるDA-2(4.24g)、DA-3(1.91g)、DA-4(0.93g)、DA-8(2.78g)を溶媒NMP(表1のN1)(64.05g)中で混合し、60℃で6時間反応させ、ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を合成例1の手法に沿って、材料や割合を表2の通りに変更し、合成例9のポリイミド粉末(I)を得た。
【0237】
<比較合成例1>
テトラカルボン酸二無水物であるD2(3.50g)、ジアミン成分であるDA-1(3.20g)、DA-4(6.47g)をNMP(表1のN1)(52.70g)中で混合し、60℃で3時間反応させた後、D1(2.73g)とNMP(表1のN2)(10.92g)を加え、40℃で6時間反応させポリアミド酸溶液を得た。
【0238】
このポリアミド酸溶液(20.0g)にNMP(41.54g)を加え、6.5質量%に希釈した後、イミド化触媒として無水酢酸(3.60g)、ピリジン(1.11g)を加え、50℃で3時間反応させた。この反応溶液をメタノール(231.87g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄し、60℃で減圧乾燥し、比較合成例1のポリイミド粉末(J)を得た。このポリイミドのイミド化率は63%であり、数平均分子量は19,800、重量平均分子量は65,400であった。
【0239】
<比較合成例2~4>
比較合成例1の手法に沿って、材料や割合を表1及び2の通りに変更し、比較合成例2~4のポリイミド粉末(K)~(M)を得た。
【0240】
【表1】
【0241】
【表2】
【0242】
<実施例1>
合成例1で得たポリイミド粉末(A)(6.0g)にNMP(54.0g)を加え、70℃にて40時間攪拌して溶解させた。この溶液にBCS(40.0g)を加え、5時間攪拌することで、実施例1の液晶配向剤[1]を得た。この液晶配向剤に濁りや析出などの異常は見られず、樹脂成分は均一に溶解していることが確認された。
【0243】
<実施例2~9>
実施例1の手法に沿って、ポリイミド材料を表3の通りに変更し、実施例2~9の配向処理剤[2]~[9]を得た。これらの液晶配向剤に濁りや析出などの異常は見られず、樹脂成分は均一に溶解していることが確認された。
【0244】
<実施例10>
合成例3及び合成例6で得たポリイミド粉末(C)(3.0g)、ポリイミド粉末(F)(3.0g)にNMP(54.0g)を加え、70℃にて40時間攪拌して溶解させた。この溶液にBCS(40.0g)を加え、5時間攪拌することで、実施例10の液晶配向剤[10]を得た。この液晶配向剤に濁りや析出などの異常は見られず、樹脂成分は均一に溶解していることが確認された。
【0245】
<比較例1~比較例4>
実施例1の手法に沿って、ポリイミド材料を表3の通りに変更し、比較例1~3の配向処理剤[11]~[14]を得た。これらの液晶配向剤に濁りや析出などの異常は見られず、樹脂成分は均一に溶解していることが確認された。
【0246】
<液晶セルの作製>
上記で得た実施例1~5及び比較例1~4の液晶配向剤を、それぞれ、3×4cmITO付きガラス基板のITO面にスピンコートし、70℃で1分30秒間ホットプレートにて焼成した後、230℃の赤外線加熱炉で20分間焼成を行い、膜厚100nmのポリイミド塗布基板を作製した。
【0247】
上記方法でポリイミド塗布基板を二枚作製し、一方の基板の液晶配向膜面上に4μmのビーズスペーサを散布した後、その上から熱硬化性シール材(協立化学社製 XN-1500T)を印刷した。次いで、もう一方の基板の液晶配向膜が形成された側の面を内側にして、先の基板と貼り合せた後、シール材を硬化させて空セルを作製した。この空セルにPSA用重合性化合物含有液晶MLC-3023(メルク社製商品名)を減圧注入法によって注入し、液晶セルを作製した。この液晶セルの電圧保持率を測定した。
【0248】
次に、この液晶セルに15VのDC電圧を印加した状態で、この液晶セルの外側から365nmのバンドパスフィルターを通したUVを10J/cm照射(1次PSA処理とも称する)した。なお、UVの照度は、ORC社製UV-MO3Aを用いて測定した。
【0249】
その後、液晶セル中に残存している未反応の重合性化合物を失活させる目的で、電圧を印加していない状態で東芝ライテック社製UV-FL照射装置を用いてUV(UVランプ:FLR40SUV32/A-1)を30分間照射(2次PSA処理と称する)した。その後、電圧保持率の測定を行った。
【0250】
<電圧保持率の評価>
上記で作製した液晶セルを用い、60℃の熱風循環オーブン中で1Vの電圧を60μs間印加し、その後1667msec後の電圧を測定し、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として計算した。電圧保持率の測定には、東陽テクニカ社製のVHR-1を使用した。
【0251】
<高温高湿耐性の評価>
上記で作製した液晶セルを温度85℃、湿度85%の状態にした恒温恒湿器(エスペック社製PR-2KP)内に7日間静置した後、電圧保持率の測定を行った。ここで測定した電圧保持率と2次PSA処理後の電圧保持率の差分をVHR変化量とした。
【0252】
【表3】
【0253】
表3に示されるように、比較例1~4では高温・高湿下に液晶セルを置くことにより、VHR変化量が52%以上と大幅に変化しているが、実施例1~5ではVHR変化量50%以下と少ない変化量にすることができることが確認された。また、実施例1~5のなかでも、特に実施例1~3及び6~10の液晶配向剤[1]~[3]、[6]~[10]を用いて作製された液晶セルは、高温・高湿下であっても長期に渡って高い電圧保持率を確保できることが確認された。
【0254】
上記より、実施例1~10の液晶配向剤[1]~[10]を用いて形成されてなる液晶配向膜、また該液晶配向膜により得られてなる液晶表示素子は、例えば、車両に搭載されるカーナビやメーター、屋外に設置される産業機器や計測機器の表示部等、高温・高湿下での使用であっても、長期に渡って高い電圧保持率を確保できると言える。
【0255】
もちろん、実施例1~10の液晶配向剤[1]~[10]を用いて形成されてなる液晶配向膜、また該液晶配向膜により得られてなる液晶表示素子は、高温・高湿下でなくても、長期に渡って高い電圧保持率を確保できる。上記の通り、実施例1~10の液晶配向剤[1]~[10]を用いて形成されてなる液晶配向膜、また該液晶配向膜により得られてなる液晶表示素子は、比較例のものに比べて、初期の電圧保持率も高く、すなわち高い駆動信頼性も確保できていることが分かる。