(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】酸素含有化合物の製造方法、及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
B01D 59/34 20060101AFI20221019BHJP
B01D 59/04 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
B01D59/34 B
B01D59/04
(21)【出願番号】P 2018230234
(22)【出願日】2018-12-07
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神邊 貴史
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健大
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/020934(WO,A1)
【文献】特開2016-131938(JP,A)
【文献】特開2006-272090(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0045043(US,A1)
【文献】特開2008-296135(JP,A)
【文献】特開2004-261776(JP,A)
【文献】特開2011-224426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 59/00-59/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素原子の安定同位体である酸素-16、酸素-17及び酸素-18の同位体比が調整された酸素含有化合物の製造方法であって、
酸素-16、酸素-17及び酸素-18を任意の成分比で含む第1原料ガスと、前記第1原料ガス中に不足する酸素同位体成分を前記第1原料ガスよりも多く含む第2原料ガスとを混合して、原料酸素ガスを調整し、
前記原料酸素ガスからオゾンを生成した後、未反応の前記原料酸素ガスとオゾンガスとを分離し、
前記オゾンガスにレーザを照射して所定の酸素同位体組成を有するオゾンを選択的に分解した後、
前記分解により生成した酸素ガスと未反応の前記オゾンガスとを分離して、酸素同位体比が調整された前記酸素ガスを得る、酸素含有化合物の製造方法。
【請求項2】
前記レーザを照射する際、目標とする酸素同位体比に近い酸素同位体組成を有するオゾンを選択的に分解する波長を選定する、請求項1に記載の酸素含有化合物の製造方法。
【請求項3】
酸素ガスとオゾンガスとを蒸留操作によって分離する、請求項1又は2に記載の酸素含有化合物の製造方法。
【請求項4】
酸素同位体の成分比が調整された酸素ガスを用いて、酸素含有化合物を生成する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の酸素含有化合物の製造方法。
【請求項5】
前記酸素含有化合物が、水、一酸化炭素及び二酸化炭素のいずれかである、請求項4に記載の酸素含有化合物の製造方法。
【請求項6】
酸素原子の安定同位体である酸素-16、酸素-17及び酸素-18の同位体比が調整された酸素含有化合物の製造装置であって、
酸素-16、酸素-17及び酸素-18を任意の成分比で含む第1原料ガス供給源と、
前記第1原料ガス中に不足する酸素同位体成分を前記第1原料ガスよりも多く含む第2原料ガス供給源と、
前記第1原料ガスと前記第2原料ガスとを混合した原料酸素ガスからオゾンを生成させるオゾン発生装置と、
未反応の前記原料酸素ガスとオゾンガスとを分離する第1分離装置と、
前記オゾンガス中の、所定の酸素同位体組成を有するオゾンを選択的に分解するレーザ照射装置と、
前記分解により生成した酸素ガスと未反応の前記オゾンガスを分離
して、酸素同位体比が調整された前記酸素ガスを得る、第2分離装置と、を備える、酸素含有化合物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素含有化合物の製造方法、及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素同位体濃度の調整方法としては、蒸留による方法が知られている(例えば、特許文献1)。蒸留での分離操作は、天然存在比の濃度組成を有する原料から、目標となる濃度組成となるまで蒸留塔内で濃縮していくが、蒸留分離は平衡分離であり、その組成は各成分の相対揮発度によって蒸留塔内の組成が決定する(
図1は、蒸留塔内の濃度分布の一例を示す図である。)。
【0003】
したがって、酸素同位体のうち、安定同位体である16O(酸素-16ともいう)、17O(酸素-17ともいう)及び18O(酸素-18ともいう)の3成分を所定の濃度組成に調整するためには、蒸留塔を専用に設計する必要がある。しかしながら、蒸留塔は一度製作したら変更することは行わないため、要求に応じて適宜濃度組成を変更することは困難である。
【0004】
また、蒸留によって酸素同位体を分離する場合、16O、17O及び18Oのうち、特定の成分のみを蒸留によって濃縮し、目的の濃度組成とすることは困難である。たとえば、17Oを10%まで濃縮した場合、18Oも蒸留操作で濃縮するので、ほぼ16Oと18Oが同じ濃度になる。
【0005】
したがって、従来の酸素同位体濃度の調整方法では、目的とする濃度組成にあわせて各同位体の成分が高濃度に濃縮されたものを用意し、これを混合して目的の濃度組成としていた。このため、任意の同位体組成の混合物が必要な場合、各成分を混合することになる。また、混合には、目的とする濃度よりも高い濃度の原料が必要となる。
【0006】
例えば、17Oを含み、かつ18Oが低い組成が必要な場合、16Oで希釈する必要があるが、17Oも希釈されてしまうため、17Oについてもより高濃度に濃縮されたもので希釈する必要がある。
【0007】
ところで、酸素原子の3種類の安定同位体のうち、17Oは中間成分でありかつ天然存在比も小さく、高濃縮品は高価であり、かつ生産量も少ない。このため、酸素同位体濃度の成分調整作業のために用意する原料は、非常に高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高価な原料を使用することなく、任意の酸素同位体比に調整可能な酸素含有化合物の製造方法、及びその製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
[1] 酸素原子の安定同位体である酸素-16、酸素-17及び酸素-18の同位体比が調整された酸素含有化合物の製造方法であって、
酸素-16、酸素-17及び酸素-18を任意の成分比で含む第1原料ガスと、前記第1原料ガス中に不足する酸素同位体成分を前記第1原料ガスよりも多く含む第2原料ガスとを混合して、原料酸素ガスを調整し、
前記原料酸素ガスからオゾンを生成した後、未反応の前記原料酸素ガスとオゾンガスとを分離し、
前記オゾンガスにレーザを照射して所定の酸素同位体組成を有するオゾンを選択的に分解した後、
前記分解により生成した酸素ガスと未反応の前記オゾンガスとを分離して、酸素同位体比が調整された前記酸素ガスを得る、酸素含有化合物の製造方法。
[2] 前記レーザを照射する際、目標とする酸素同位体比に近い酸素同位体組成を有するオゾンを選択的に分解する波長を選定する、[1]に記載の酸素含有化合物の製造方法。
[3] 酸素ガスとオゾンガスとを蒸留操作によって分離する、[1]又は[2]に記載の酸素含有化合物の製造方法。
[4] 酸素同位体の成分比が調整された酸素ガスを用いて、酸素含有化合物を生成する、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の酸素含有化合物の製造方法。
[5] 前記酸素含有化合物が、水、一酸化炭素及び二酸化炭素のいずれかである、[4]に記載の酸素含有化合物の製造方法。
[6] 酸素-16、酸素-17及び酸素-18を任意の成分比で含む第1原料ガス供給源と、
前記第1原料ガス中に不足する酸素同位体成分を前記第1原料ガスよりも多く含む第2原料ガス供給源と、
前記第1原料ガスと前記第2原料ガスとを混合した原料酸素ガスからオゾンを生成させるオゾン発生装置と、
未反応の前記原料酸素ガスとオゾンガスとを分離する第1分離装置と、
前記オゾンガス中の、所定の酸素同位体組成を有するオゾンを選択的に分解するレーザ照射装置と、
前記分解により生成した酸素ガスと未反応の前記オゾンガスを分離する第2分離装置と、を備える、酸素含有化合物の製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸素含有化合物の製造方法は、高価な原料を使用することなく、酸素含有化合物を任意の酸素同位体比に調整できる。
【0012】
また、本発明の酸素含有化合物の製造装置は、高価な原料を使用することなく、任意の酸素同位体比に調整された酸素含有化合物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来の蒸留塔内の濃度分布の一例を示す図である。
【
図2】本発明の酸素含有化合物の製造方法に適用可能な製造装置の構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した一実施形態である酸素含有化合物の製造方法について、それに用いる製造装置とともに図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0015】
なお、本明細書中において、濃度(%)とは、特に説明のない限り原子%(atom%)を示すものとする。
また、酸素ガスとは、二原子分子である酸素分子O2の気体状態である。
また、オゾン(O3)とは、3つの酸素原子からなる酸素の同素体である。
また、オゾンガスとは、三原子分子であるオゾン分子O3の気体状態である。
【0016】
<酸素含有化合物の製造装置>
先ず、本発明を適用した一実施形態である酸素含有化合物の製造装置の構成について説明する。
図1は、本発明を適用した一実施形態である酸素含有化合物の製造装置の構成の一例を模式的に示す系統図である。
図1に示すように、本実施形態の酸素含有化合物の製造装置(以下、単に「製造装置」という)1は、第1原料ガス供給源2、第2原料ガス供給源3、オゾナイザー(オゾン発生装置)4、第1分離装置5、レーザ照射装置6、第1分離装置7、濃度調整ガス供給源8、及び経路L1~L8を備えて、概略構成されている。
【0017】
本実施形態の製造装置1は、蒸留によって濃縮された酸素安定同位体の3種の組成(安定同位体比)を調整する装置である。製造装置1は、3つの酸素安定同位体のうち、天然存在比が小さい酸素-17を含む酸素を原料とし、酸素-17の濃度を維持しつつ、酸素-16及び酸素-18の安定同位体比が調整された酸素を製品として得ることができる。
【0018】
第1原料ガス供給源2は、酸素-16、酸素-17及び酸素-18を任意の成分比で含む第1原料ガスの供給源である。第1原料ガスとしては、特に限定されないが、酸素蒸留や水蒸留で得られる酸素ガスを用いることができる。また、酸素-16、酸素-17及び酸素-18を任意の成分比で含む第1原料ガスとしては、
図1に示すように、蒸留塔の塔頂から塔底までの任意の位置から採取した酸素を用いることができる。これらの中でも、酸素-17を多く含む酸素を第1原料ガスとして用いることが好ましい。なお、第1原料ガスは、第1原料ガス供給源2から経路L1を介してオゾナイザー4へ供給される。
【0019】
第2原料ガス供給源3は、第2原料ガスの供給源である。第2原料ガスは、第1原料ガス中に不足する酸素同位体成分を第1原料ガスよりも多く含むものであれば、特に限定されるものではなく、酸素蒸留や水蒸留で得られる酸素ガスを用いることができる。例えば、製品酸素が、酸素-17の濃度を維持しつつ、酸素-18よりも酸素-16の成分比が大きい場合では、第1原料ガスよりも酸素-16を多く含む第2原料ガスとして、天然組成の酸素を用いてもよい。また、第2原料ガス中の酸素-17の濃度は、第1原料ガスよりも少なくても構わない。
【0020】
第2原料ガスは、第2原料ガス供給源3から経路L2を介して経路L1内に供給される。経路L1内において、第1原料ガスと第2原料ガスとが混合された原料酸素ガスは、オゾナイザー4へ供給される。なお、経路L2は、経路L1に接続された構成に限定されるものではなく、オゾナイザー4へ接続された構成であってもよい。この場合、オゾナイザー4へ別々に供給された第1原料ガスと第2原料ガスとを混合して原料酸素ガスとする。
【0021】
オゾナイザー(オゾン発生装置)4は、酸素原料ガス(O2)からオゾン(O3)を生成させる装置である。オゾナイザー4は、酸素ガスからオゾンを生成させるものであれば、特に限定されない。オゾナイザー4としては、市販のオゾナイザー(例えば、東芝三菱電機産業システム社製、「OP-125H」等)を用いることができる。なお、オゾナイザー4で生成したオゾンと未反応の酸素原料ガス(酸素ガス)とを含む混合ガスは、経路L3を介して第1分離装置5に供給される。
【0022】
第1分離装置5は、オゾナイザー4の後段に設けられており、オゾナイザー4で生成したオゾンと未反応の酸素原料ガス(酸素ガス)とを含む混合ガスを、酸素ガス(O2)とオゾンガス(O3)とに分離する装置である。第1分離装置5は、酸素ガスとオゾンガスとを分離できるものであれば、特に限定されない。第1分離装置5としては、蒸留装置を用いることができる。なお、第1分離装置5によって分離されたオゾンガスは、経路L4を介してレーザ照射装置6へ供給される。一方、第1分離装置5によって分離された酸素ガスは、経路L5を介して回収される。なお、回収された未反応の酸素ガスは、再度オゾナイザー4に供給してもよい。
【0023】
レーザ照射装置6は、オゾンガスにレーザ光を照射してオゾンを分解させる装置である。レーザ照射装置6は、レーザ光の波長を選択することにより、所定の組成比を有するオゾンのみを選択的に分解することができる。レーザ照射装置6は、オゾンを分解させる波長のレーザ光を照射できるものであれば、特に限定されない。このようなレーザ照射装置6としては、市販のレーザ照射装置(例えば、ザッハー社製、「TEC-300」等)を用いることができる。なお、レーザ照射装置6で生成した酸素ガスと未反応のオゾンガスとを含む混合ガスは、経路L5を介して第2分離装置7に供給される。
【0024】
第2分離装置7は、レーザ照射装置6の後段に設けられており、レーザ照射後の混合ガスを酸素ガス(O2)とオゾンガス(O3)とに分離する装置である。第2分離装置7は、酸素ガスとオゾンガスとを分離できるものであれば、特に限定されない。第2分離装置7としては、蒸留装置を用いることができる。なお、第2分離装置7によって分離された酸素ガスは、経路L6を介して製品酸素として回収される。一方、第2分離装置7によって分離されたオゾンガスは、経路L7を介して廃オゾンとして回収される。
【0025】
濃度調整ガス供給源8は、濃度調整ガスの供給源である。濃度調整ガスは、製品酸素中の安定同位体成分の濃度組成をより正確に調整する必要がある場合に用いることができる。濃度調整ガスとしては、酸素の安定同位体成分のいずれかを高濃度に含む酸素ガスを用いることができる。なお、濃度調整ガスは、経路L8を介して経路L6中の製品ガスに供給される。
【0026】
<酸素含有化合物の製造方法>
次に、本発明を適用した一実施形態である酸素含有化合物の製造方法(すなわち、上述した製造装置1の運転方法)について説明する。
本実施形態の酸素含有化合物の製造方法は、酸素原子の安定同位体である酸素-16、酸素-17及び酸素-18の組成比が調整された酸素含有化合物の製造方法である。
以下、蒸留塔によって酸素-16(16O)が40%、酸素-17(17O)が20%、酸素-18(18O)が40%に濃縮された原料酸素を用いて、酸素-17の濃度を維持しつつ、酸素-18の濃度を20%以下に低減した製品酸素を得る場合を一例として説明する。
【0027】
先ず、酸素-16、酸素-17及び酸素-18を任意の成分比で含む第1原料ガスと、第1原料ガス中に不足する酸素同位体成分を第1原料ガスよりも多く含む第2原料ガスとを混合して、原料酸素ガスを調整する。
【0028】
具体的には、蒸留塔によって酸素-16(16O)が40%、酸素-17(17O)が20%、酸素-18(18O)が40%に濃縮された原料酸素を第1原料ガスとし、酸素-16(16O)を多く含む酸素として天然組成の酸素を第2原料ガスとして用いる。そして、第1及び第2原料ガス供給源2,3からそれぞれ第1及び第2原料ガスを供給する際、第2原料ガスが第1原料ガスの2倍となるように混合して原料酸素ガスを調整し、これをオゾナイザー4へ供給する。
【0029】
次に、調整した原料酸素ガスからオゾンを生成して、酸素ガスとオゾンガスとの混合ガスを得る。具体的には、オゾナイザー4において、高周波電源装置から適切な高周波・高電圧を発光体に印加し、放電を発生させ、ここに原料酸素ガスを供給することにより、高濃度のオゾン(10%程度)を生成する。なお、発生するオゾンの組成は、原料酸素ガス中の各安定同位体の濃度に依存するため、酸素-16を多く含むオゾンが生成する。これにより、オゾナイザー4で生成したオゾンガスと未反応の酸素原料ガス(酸素ガス)とを含む混合ガスが得られる。
【0030】
次に、オゾナイザー4で得られた混合ガスを第1分離装置5に導入して、未反応の酸素ガス(O2)とオゾンガス(O3)とに分離し、オゾンガスのみをレーザ照射装置6へ供給する。なお、本実施形態では、オゾンのみをレーザ照射装置6に供給しているが、通常は安全上、オゾンガスを不活性ガスで希釈して用いる。
【0031】
次に、オゾンガスにレーザを照射して所定の同位体組成比を有するオゾンを選択的に分解する。具体的には、レーザ照射装置6を用い、レーザを照射する際、目標とする同位体組成比に近いオゾンを選択的に分解する波長を選定する。本実施形態では、目標濃度組成に近い16O16O17Oをターゲットとしてレーザ照射波長を選定し、これを選択的に分解する。レーザ照射後の混合ガス中には、オゾンの分解によって生成した酸素ガス(O2)と未反応のオゾンガス(O3)とが含まれる。
【0032】
次に、酸素ガスとオゾンガスとを分離する。具体的には、第2分離装置7を用いた蒸留操作によって、酸素ガス(O2)とオゾンガス(O3)とを分離する。
【0033】
なお、蒸留操作によって分離した酸素ガスに、濃度調整ガスを供給してもよい。具体的には、濃度調整ガスは、経路L6を介して経路L4中の製品ガスに供給する。これにより、製品酸素中の安定同位体成分の濃度組成をより正確に調整することができる。
【0034】
以上の運転操作により、酸素同位体の同位体比が調整された製品酸素(酸素ガス)が得られる。具体的には、製品酸素の同位体組成比は、酸素-16(16O)が73%、酸素-17(17O)が20%、酸素-18(18O)が6%となる。
【0035】
また、本実施形態の酸素含有化合物の製造方法では、酸素の安定同位体である酸素-16、酸素-17及び酸素-18の同位体組成比が調整された酸素を原料として用い、水(H2O)、一酸化炭素(CO)及び二酸化炭素(CO2)といった酸素含有化合物を生成することができる。酸素同位体の同位体組成比が調整された酸素ガスを用いて、これらの酸素含有化合物を生成することにより、酸素同位体の同位体組成比が調整された酸素含有化合物が得られる。
さらに、酸素含有化合物を製造する際、水素の安定同位体である水素(1H)、重水素(2H)及び三重水素(3H)や、炭素の安定同位体である炭素-12(12C)及び炭素-13(13C)と組み合わせることができるため、分子設計の自由度が高まる。
【0036】
ところで、従来の酸素同位体組成比の調整方法では、各同位体の成分が高濃度に濃縮されたものを用意し、これを混合して目標の濃度とする方法しかなかった。このため、非常に高価な高濃縮品を用意する必要があった。例えば、上述した実施形態と同様に、酸素-16(16O)が40%、酸素-17(17O)が20%、酸素-18(18O)が40%に濃縮された原料酸素を用いて、酸素-17の濃度を維持しつつ、酸素-18の濃度を半分の20%以下とするには、酸素-16で倍に希釈することになる。しかしながら、酸素-17も希釈されて、10%になってしまう。したがって、従来の希釈による濃度調整では、酸素-17の濃度が高い原料を用意する必要がある。たとえば、酸素-17が40%、酸素-18が30%の原料酸素を用意することで、希釈により酸素-17が20%、酸素-18が15%の製品酸素を得ることができるが、非常に高コストになってしまう。
【0037】
これに対して、本実施形態の酸素含有化合物の製造方法によれば、要求される濃度に合わせて原料を追加し、成分が調整された酸素(O2)からオゾン(O3)を生成した後、濃度に合わせた組成のオゾンを選択的にレーザで分解して酸素(O2)にすることで、目的の同位体組成の酸素(O2)をえることができる。これにより、比較的高価な成分について高濃縮品を用意する必要がない。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の酸素含有化合物の製造方法、及び製造装置1は、高価な原料を使用することなく、酸素含有化合物を任意の酸素同位体比に調整できる。
【0039】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述した実施形態の酸素含有化合物の製造方法では、酸素-16(16O)が40%、酸素-17(17O)が20%、酸素-18(18O)が40%に濃縮された原料酸素を用いて、酸素-17の濃度を維持しつつ、酸素-18の濃度を20%以下に低減した製品酸素を得る場合を一例として説明したが、これに限定されるものではない。
【0040】
たとえば、酸素-17の濃度を維持しつつ、酸素-16の濃度を20%以下に低減した製品酸素を得る場合には、第2原料ガスとして酸素-18を用い、これを第1原料ガスに混合するとともに、レーザを照射する際、目標の酸素同位体比に近いオゾン(17O18O18O)をターゲットとしてレーザ照射波長を選定し、これを選択的に分解することで、酸素-16(16O)が6%、酸素-17(17O)が20%、酸素-18(18O)が73%の製品酸素が得られる。このように、任意の安定同位体について、濃度を調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の酸素含有化合物の製造方法は、蒸留によって濃縮された酸素安定同位体の3種の酸素同位体比を調整する方法や、酸素同位体比が調整された酸素を含む化合物の製造方法に対して利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0042】
1…酸素含有化合物の製造装置(製造装置)、2…第1原料ガス供給源、3…第2原料ガス供給源、4…オゾナイザー(オゾン発生装置)、5…第1分離装置、6…レーザ照射装置、7…第2分離装置、8…濃度調整ガス供給源、L1~L8…経路