(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】揚げ物用衣材ミックス
(51)【国際特許分類】
A23L 7/157 20160101AFI20221019BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20221019BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
(21)【出願番号】P 2018554995
(86)(22)【出願日】2017-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2017043549
(87)【国際公開番号】W WO2018105574
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2016235546
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 章人
(72)【発明者】
【氏名】榊原 通宏
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】西出 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】宮城 光
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-511671(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043249(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/162972(WO,A1)
【文献】特開2012-029602(JP,A)
【文献】特開2007-028905(JP,A)
【文献】特開2004-208531(JP,A)
【文献】特開2012-165724(JP,A)
【文献】特開平07-067565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル化澱粉70~85質量%と、卵黄を含まない卵白から得られる卵白粉0.1~15質量%とを含有する油ちょう食品用衣材ミックス
であって、まぶしタイプのミックスである、油ちょう食品用衣材ミックス。
【請求項2】
さらに未加工の馬鈴薯澱粉1~25質量%を含有する、請求項1記載の油ちょう食品用衣材ミックス。
【請求項3】
前記未加工の馬鈴薯澱粉がもち種馬鈴薯澱粉である、請求項2記載の油ちょう食品用衣材ミックス。
【請求項4】
前記アセチル化澱粉が油脂加工されたものである、請求項1~
3のいずれか1項記載の油ちょう食品用衣材ミックス。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項記載の油ちょう食品用衣材ミックスを具材に
まぶして付着させることを含む、油ちょう食品用素材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項記載の油ちょう食品用衣材ミックス
を具材にまぶして付着させ、油ちょうすることを含む、油ちょう食品の製造方法。
【請求項7】
前記油ちょう食品用衣材ミックスが付着した具材の上に他の衣材を付着させることなく、該具材を油ちょうすることを含む、請求項
6記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は揚げ物用衣材ミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
衣付きの揚げ物は、具材の表面に衣材を付着させて油ちょうすることにより得られる食品である。揚げ物用の衣材としては、から揚げ等に用いられる粉状の衣材や、天ぷら等に用いられる液状の衣材が典型である。これらの衣材は、油ちょうによりその水分が蒸発して油と置換することで、サクサクした良好な食感の衣となる。
【0003】
揚げ物における衣の食感や具材のジューシー感を向上させるための衣材の改良が従来行われている。例えば特許文献1には、油脂加工アセチル化タピオカ澱粉を含有する揚げ物用衣材が記載されている。特許文献2には、油脂加工アセチル化澱粉を含有する揚げ物用打ち粉が記載されている。特許文献3には、加工澱粉やゲル化剤のような保水性粉末、卵液、衣材を順に付着させた後、油ちょう又は油とともに焼成する衣付き食品の製造方法がされている。
【0004】
一方、揚げ物用の衣材に求められる性質のひとつに、具材との結着性が挙げられる。具材と衣との間に水や空気の層が存在すると、衣が剥がれる、油ちょうの際に衣が破裂する、などの不都合が生じるおそれがあるためである。特に、具材が薄切り肉や、イカ、エビなどの魚介類の場合、加熱による具材の収縮が比較的大きいため、衣材が非常に剥がれやすいという問題がある。
【0005】
具材と衣材との結着性を高めるための手段として、従来、具材に衣材を付着させる前に打ち粉をまぶすことや、衣材を重ねて付着させて多層の衣を形成することが行われている。しかしながら、このような衣は、ネチャついたり、粉っぽく口溶けが悪くなる場合がある。また多層の衣は、具材そのものの風味を味わうためのうす衣の揚げ物には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-165724号公報
【文献】特開2002-291431号公報
【文献】特開2015-126706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、油ちょうの際の収縮が大きい具材を用いても衣が剥がれにくく、かつ、油っぽさや粉っぽさがなく口溶けの良い良好な食感の衣を有する揚げ物を製造することのできる、揚げ物用衣材ミックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、アセチル化澱粉50~95質量%と卵白粉0.1~15質量%とを含有する揚げ物用衣材ミックスを提供する。
また本発明は、該揚げ物用衣材ミックスを具材に付着させることを含む、揚げ物用素材の製造方法を提供する。
さらに本発明は、該揚げ物用衣材ミックスが付着した具材を油ちょうすることを含む、揚げ物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の揚げ物用衣材ミックスを具材にまぶして付着させ、そのまま油ちょうすることにより、簡便な操作で揚げ物を製造することができる。本発明により得られた揚げ物は、油っぽさや粉っぽさがなく、かつ口溶けも良い良好な衣の食感を有する。また本発明により得られた揚げ物は、具材から衣が剥がれにくいため、良好な外観を有するとともに、具材のジューシーさを保つことができる。さらに本発明のミックスによれば、厚く衣づけしなくとも具材から衣が剥がれにくいため、具材本来の風味が引き立つうす衣の揚げ物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の揚げ物用衣材ミックスは、アセチル化澱粉と卵白粉とを含有する。本発明のミックスに含まれるアセチル化澱粉とは、澱粉を酢酸又は無水酢酸と反応させて得られるエステル化澱粉である。該アセチル化澱粉の原料となる澱粉としては、その種類に制限はなく、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉などの通常使用される未加工澱粉が挙げられる。本発明で用いるアセチル化澱粉は、公知の方法を採用して該原料澱粉をから製造したものであってもよく、市販品を利用してもよい。
【0011】
本発明で用いる該アセチル化澱粉が油脂加工処理されたものであると、衣と具材との結着性をさらに高めることができるため好ましい。アセチル化澱粉の油脂加工処理は、常法によって行うことができる。例えば、アセチル化澱粉100質量部と油脂0.01~30質量部とを均質になるように混合し、その混合物を乾燥させる方法などを例示できる。該油脂加工処理に用いる油脂の例としては、サフラワー油、エゴマ油などが挙げられる。あるいは、該油脂加工処理アセチル化澱粉は、市販品を利用してもよい。
【0012】
本発明の揚げ物用衣材ミックスにおける該アセチル化澱粉(油脂加工処理アセチル化澱粉を含む)の含有量は、該ミックス全量中、50~95質量%であればよいが、好ましくは65~85質量%、より好ましくは70~80質量%である。該アセチル化澱粉の含有量を50質量%以上とすることで、衣と具材との結着性を効果的に高めることができる。他方、該アセチル化澱粉の含有量が95質量%を超えると、得られた揚げ物における衣や具材の食感が低下する。
【0013】
本発明の揚げ物用衣材ミックスにおける卵白粉の含有量は、該ミックス全量中、0.1~15質量%であればよいが、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~7質量%である。卵白粉の含有量を当該範囲とすることで、衣と具材との結着性を高めることができ、また得られた揚げ物の衣の油っぽさや粉っぽさを改善することができる。本発明で用いる卵白粉としては、卵白粉換算量の全卵粉を用いてもよいが、卵黄を含まない卵白のみから得られる卵白粉が好ましい。
【0014】
本発明の揚げ物用衣材ミックスに、該アセチル化澱粉及び卵白粉に加えて、さらに馬鈴薯澱粉を加えると、得られた揚げ物の衣の油っぽさや粉っぽさがより改善され、口溶け感も改善するため好ましい。該馬鈴薯澱粉としては、未加工の馬鈴薯澱粉、例えば、うるち種馬鈴薯澱粉、もち種馬鈴薯澱粉及びそれらの混合物が挙げられるが、もち種馬鈴薯澱粉が好ましい。もち種馬鈴薯澱粉とは、もち種のジャガイモから得られた、通常のジャガイモ(うるち種)由来の馬鈴薯澱粉に比べてアミロペクチン含量が高い馬鈴薯澱粉をいう。好ましくは、もち種馬鈴薯澱粉とは、アミロペクチン含量が、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上の馬鈴薯澱粉である。なお、通常のジャガイモ由来の馬鈴薯澱粉のアミロペクチン含量は、75~80質量%程度である。もち種馬鈴薯澱粉は、特表2002-538799号公報や特表2002-538801号公報に記載のものなどを利用することができ、また市販品を利用してもよい。本発明の揚げ物用衣材ミックスにおける該馬鈴薯澱粉の含有量は、該ミックス全量中、0.5~30質量%であればよいが、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~15質量%である。
【0015】
本発明の揚げ物用衣材ミックスには、上記成分以外に、必要に応じて、その他の成分、例えば、小麦粉、米粉等の穀粉;上記アセチル化澱粉以外の加工澱粉、又は上記未加工馬鈴薯澱粉以外の未加工澱粉;膨張剤;乳化剤;増粘剤;食塩、粉末醤油、発酵調味料、粉末味噌、アミノ酸等の調味料;香辛料;香料;ビタミン等の栄養成分;着色料;粉末油脂などから選択される1種又は2種以上、をさらに含有していてもよい。本発明の揚げ物用衣材ミックスに使用する当該その他の成分の種類やその含有量は、所望する揚げ物の特性に応じて適宜調整することができる。例えば、から揚げの風味(例えば中華風、和風、洋風等)に応じて、適切な調味料や香辛料等を配合することができる。本発明のミックスにおける当該その他の成分の含有量は、該ミックス全質量中、49.9質量%以下であればよいが、好ましくは34.5%以下、より好ましくは29質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0016】
本発明の揚げ物用衣材ミックスは、上記の成分を常法に従って混合することで製造することができる。得られた本発明のミックスは、具材にまぶして付着させる(いわゆる、まぶしタイプの)揚げ物用衣材として使用され、好適には粉状又は微粒状の形態であり得る。ここで、ミックスを「まぶす」とは、ミックスを、バッター液等へと調製することなく、そのまま(粉状又は微粒状の形態で)具材表面に付着させる操作をいい、例えば、具材の上方からミックスを振り掛ける操作、ミックスと具材を袋に投入して袋の入り口を閉じた状態で振盪する操作、ミックスを皿等に広げ、この上で具材を転がす操作などが包含されるが、これらに限定されない。
【0017】
本発明の揚げ物用衣材ミックスを用いる具材としては、通常揚げ物に用いられる具材、例えば鶏、豚、牛、羊、ヤギなどの畜肉類、魚介類、野菜類などの種々のものを使用することができるが、このうち畜肉類及び魚介類が好ましい。さらに、衣の剥がれを防止する観点からは、薄切り肉、イカ、エビなどの油ちょうにより収縮又は変形しやすい具材が、本発明のミックスを用いる具材として好適である。これらの具材には、本発明のミックスを適用する前に、必要に応じて下味をつけてもよい。またこれらの具材には、本発明のミックスを適用する前に、必要に応じて打ち粉やバッターを付着させてもよいが、打ち粉、バッター等をつけていない具材に本発明のミックスをまぶし、具材の表面に本発明のミックスを直接付着させてもよい。
【0018】
以上の操作により、本発明の揚げ物用衣材ミックスを具材に付着させることにより、揚げ物用素材が得られる。本発明においては、本発明の揚げ物用衣材ミックスの後には具材に他の衣材を付着させない。したがって、該揚げ物用素材は、本発明の揚げ物用衣材ミックスの層の上に他の衣材の層を有さない。該揚げ物用素材は、直ちに油ちょうしてもよいが、冷蔵又は冷凍保存することもできる。該揚げ物用素材において、具材に対するミックスの付着量は、具合表面を満遍なく覆う程度であればよく、具材の形状に応じて適宜調整すればよい。
【0019】
かくして得られた本発明の揚げ物用衣材ミックスが付着した具材である揚げ物用素材を、常法に従い油ちょうすることで、揚げ物を製造することができる。該揚げ物用素材が冷蔵又は冷凍されていた場合であっても、そのままか又は10℃程度まで戻してから油ちょうすることで、冷蔵又は冷凍することなく油ちょうしたものと同等の品質の揚げ物が得られる。得られた揚げ物は、必要に応じて冷蔵又は冷凍保存してもよい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0021】
(揚げ物用衣材ミックスの製造)
下記の粉体原料を表1~4に示す配合で混合して、製造例1~31及び比較例1~9の揚げ物用衣材ミックスをそれぞれ製造した。
アセチル化澱粉(タピオカ澱粉)
油脂加工アセチル化澱粉(タピオカ澱粉)
未加工澱粉(タピオカ澱粉)
馬鈴薯澱粉(うるち種、未加工)
もち種馬鈴薯澱粉(未加工、アミロペクチン含量99質量%以上)
卵白粉
小麦粉(薄力粉)
【0022】
(イカから揚げの製造)
イカの胴部を約1cm幅のリングに切り分け、水気をよく拭き取った。このイカ切身に、揚げ物用衣材ミックスをイカ100質量部に対し18質量部程度になるようまぶして付着させた。ミックスが付着したイカ切身を170℃に熱したサラダ油で2分間油ちょうして、揚げ物を製造した。揚げたての揚げ物の品質を、それぞれ、訓練された10名のパネラーにより以下の評価基準で評価し、平均点を求めた。
【0023】
<評価基準>
(結着性)
5:衣の剥がれが全くなく、具材全体に衣が結着している
4:衣の一部に割れがあるが、具材全体に衣が結着している
3:衣の一部に割れ又は具材からの浮きがある
2:衣が剥がれて具材が露出している部分が一部にみられる
1:衣が剥がれて具材が露出している部分が所々にみられる
(衣の食感)
5:ネチャつき、油っぽさ、粉っぽさがなく、口溶けが良く、非常に好ましい
4:ネチャつき、油っぽさ、粉っぽさのいずれか1つが感じられるが、口溶け感があり、好ましい
3:ネチャつき、油っぽさ、粉っぽさのいずれか2つが感じられ、やや不良
2:ネチャつき、油っぽさ、粉っぽさが感じられ、不良
1:ネチャつき、油っぽさ、粉っぽさが強く感じられ、非常に不良
(具材の食感)
5:非常にジューシーで柔らかく、非常にかみ切りやすい
4:ジューシーで柔らかく、かみ切りやすい
3:ジューシーで柔らかい感じはあるが、ややかみ切りにくい
2:ややパサつき、かみ切りにくい
1:パサつきが強く、硬いかかみ切れない
【0024】
(試験例1)
アセチル化澱粉含量の異なるミックス(製造例1~7及び比較例1~2)、及びアセチル化澱粉の代わりに未加工澱粉を用いたミックス(比較例3~5)について、ミックスの組成及び製造したから揚げの評価を表1に示す。ミックス中のアセチル化澱粉含量が少ないと、衣と具材の結着性が低下した。一方、アセチル化澱粉含量が95質量%を超えると、結着性は高まるものの、得られた揚げ物における衣や具材の食感が低下した。
【0025】
【0026】
(試験例2)
卵白粉含量の異なるミックス(製造例8~13及び比較例6~7)について、ミックスの組成及び製造したから揚げの評価を表2に示す。なお、表2には製造例3の結果を再掲する。ミックス中の卵白粉含量が多い又は少ない場合、衣と具材の結着性が低下し、また得られた揚げ物における衣や具材の食感が低下した。
【0027】
【0028】
(試験例3)
アセチル化澱粉に加えてさらに未加工の澱粉を添加したミックス(製造例14~16)、及び油脂加工アセチル化澱粉を含むミックス(製造例17~20)について、ミックスの組成及び製造したから揚げの評価を表3に示す。なお、表3には製造例3の結果を再掲する。馬鈴薯澱粉の添加は、衣と具材の結着性や揚げ物の食感、特に衣の食感をさらに向上させたが、馬鈴薯澱粉以外の未加工澱粉の添加ではそのような効果は得られなかった。またアセチル化澱粉の油脂加工により、衣と具材の結着性が向上した。
【0029】
【0030】
(試験例4)
馬鈴薯澱粉含量の異なるミックスについて、ミックスの組成及び製造したから揚げの評価を表4に示す。
【0031】