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特許7161422トモシンセシス撮影装置、トモシンセシス撮影装置の作動方法、トモシンセシス撮影装置の作動プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-18
(45)【発行日】2022-10-26
(54)【発明の名称】トモシンセシス撮影装置、トモシンセシス撮影装置の作動方法、トモシンセシス撮影装置の作動プログラム
(51)【国際特許分類】
   H05G 1/70 20060101AFI20221019BHJP
   A61B 6/02 20060101ALI20221019BHJP
   A61B 6/00 20060101ALI20221019BHJP
【FI】
H05G1/70 C
A61B6/02 301A
A61B6/02 300F
A61B6/00 330Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019024849
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020135973
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 徹也
(72)【発明者】
【氏名】松浦 正佳
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/046248(WO,A1)
【文献】特表2000-501552(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0065351(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
H05G 1/00-2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を透過した放射線を検出する放射線検出器であり、前記被写体の投影画像を撮像する撮像面を有する放射線検出器と、
前記撮像面に対する前記放射線の照射角度が異なる複数の位置に配された複数の放射線管で構成される放射線源と、
前記被写体の厚みに応じた、前記放射線検出器に到達する前記放射線の到達線量の前記照射角度による変化割合を示す第1係数であり、前記複数の放射線管毎に登録された第1係数、並びに前記複数の放射線管毎に登録された前記放射線の照射線量に関する第2係数を取得する取得部と、
前記第1係数および前記第2係数を用いて前記放射線の照射条件を補正する補正部と、
前記補正部において補正された前記照射条件を前記放射線源に設定する設定部と、
を備えるトモシンセシス撮影装置。
【請求項2】
前記第1係数は、前記照射角度が基準の位置に配された放射線管から照射された放射線を受けて、前記放射線検出器が実際に出力した実測基準出力値を、前記第1係数の算出対象の放射線管から照射された放射線を受けて、前記放射線検出器が実際に出力した実測対象出力値で除算した値である請求項1に記載のトモシンセシス撮影装置。
【請求項3】
前記第1係数は、前記照射角度が基準の位置に配された放射線管から照射された放射線を受けて、前記放射線検出器が出力すると理論的に推定される理論基準出力値を、前記第1係数の算出対象の放射線管から照射された放射線を受けて、前記放射線検出器が出力すると理論的に推定される理論対象出力値で除算した値である請求項1に記載のトモシンセシス撮影装置。
【請求項4】
前記放射線管の経時劣化による前記照射線量の低下割合を用いて、前記第2係数を校正する校正部を備える請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のトモシンセシス撮影装置。
【請求項5】
前記第2係数は、単位線量当たりの管電流照射時間積である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のトモシンセシス撮影装置。
【請求項6】
前記補正部は、前記照射条件に含まれる管電流照射時間積を補正する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のトモシンセシス撮影装置。
【請求項7】
前記複数の位置は、前記放射線の焦点が、直線状または円弧状に、等しい間隔で並べられた位置である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のトモシンセシス撮影装置。
【請求項8】
前記被写体を乳房とする乳房撮影装置である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のトモシンセシス撮影装置。
【請求項9】
被写体を透過した放射線を検出する放射線検出器であり、前記被写体の投影画像を撮像する撮像面を有する放射線検出器を備えるトモシンセシス撮影装置の作動方法であって、
前記撮像面に対する前記放射線の照射角度が異なる複数の位置に配された複数の放射線管で構成される放射線源を用い、
前記被写体の厚みに応じた、前記放射線検出器に到達する前記放射線の到達線量の前記照射角度による変化割合を示す第1係数であり、前記複数の放射線管毎に登録された第1係数、並びに前記複数の放射線管毎に登録された前記放射線の照射線量に関する第2係数を取得する取得ステップと、
前記第1係数および前記第2係数を用いて前記放射線の照射条件を補正する補正ステップと、
前記補正ステップにおいて補正された前記照射条件を前記放射線源に設定する設定ステップと、
を備えるトモシンセシス撮影装置の作動方法。
【請求項10】
被写体を透過した放射線を検出する放射線検出器であり、前記被写体の投影画像を撮像する撮像面を有する放射線検出器と、前記撮像面に対する前記放射線の照射角度が異なる複数の位置に配された複数の放射線管で構成される放射線源とを備えるトモシンセシス撮影装置の作動プログラムであって、
前記被写体の厚みに応じた、前記放射線検出器に到達する前記放射線の到達線量の前記照射角度による変化割合を示す第1係数であり、前記複数の放射線管毎に登録された第1係数、並びに前記複数の放射線管毎に登録された前記放射線の照射線量に関する第2係数を取得する取得部と、
前記第1係数および前記第2係数を用いて前記放射線の照射条件を補正する補正部と、
前記補正部において補正された前記照射条件を前記放射線源に設定する設定部として、
コンピュータを機能させるトモシンセシス撮影装置の作動プログラム。
【請求項11】
被写体を透過した放射線を検出する放射線検出器であり、前記被写体の投影画像を撮像する撮像面を有する放射線検出器と、
前記撮像面に対する前記放射線の照射角度が異なる複数の位置に配された複数の放射線管で構成される放射線源と、
前記被写体の厚みに応じた、前記放射線検出器に到達する前記放射線の到達線量の前記照射角度による変化割合を示す第1係数であり、前記複数の放射線管毎に登録された第1係数を取得する取得部と、
前記第1係数を用いて、前記照射角度が異なる複数の前記投影画像を撮影するトモシンセシス撮影、および前記トモシンセシス撮影に先立って行われるプレ撮影における前記放射線の照射条件を補正する補正部と、
前記補正部において補正された前記照射条件を前記放射線源に設定する設定部と、
を備えるトモシンセシス撮影装置。
【請求項12】
被写体を透過した放射線を検出する放射線検出器であり、前記被写体の投影画像を撮像する撮像面を有する放射線検出器を備えるトモシンセシス撮影装置の作動方法であって、
前記撮像面に対する前記放射線の照射角度が異なる複数の位置に配された複数の放射線管で構成される放射線源を用い、
前記被写体の厚みに応じた、前記放射線検出器に到達する前記放射線の到達線量の前記照射角度による変化割合を示す第1係数であり、前記複数の放射線管毎に登録された第1係数を取得する取得ステップと、
前記第1係数を用いて、前記照射角度が異なる複数の前記投影画像を撮影するトモシンセシス撮影、および前記トモシンセシス撮影に先立って行われるプレ撮影における前記放射線の照射条件を補正する補正ステップと、
前記補正ステップにおいて補正された前記照射条件を前記放射線源に設定する設定ステップと、
を備えるトモシンセシス撮影装置の作動方法。
【請求項13】
被写体を透過した放射線を検出する放射線検出器であり、前記被写体の投影画像を撮像する撮像面を有する放射線検出器と、前記撮像面に対する前記放射線の照射角度が異なる複数の位置に配された複数の放射線管で構成される放射線源とを備えるトモシンセシス撮影装置の作動プログラムであって、
前記被写体の厚みに応じた、前記放射線検出器に到達する前記放射線の到達線量の前記照射角度による変化割合を示す第1係数であり、前記複数の放射線管毎に登録された第1係数を取得する取得部と、
前記第1係数を用いて、前記照射角度が異なる複数の前記投影画像を撮影するトモシンセシス撮影、および前記トモシンセシス撮影に先立って行われるプレ撮影における前記放射線の照射条件を補正する補正部と、
前記補正部において補正された前記照射条件を前記放射線源に設定する設定部として、
コンピュータを機能させるトモシンセシス撮影装置の作動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、トモシンセシス撮影装置、トモシンセシス撮影装置の作動方法、トモシンセシス撮影装置の作動プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出器に対して放射線管を複数の位置に移動させ、各位置において放射線管から放射線を照射するトモシンセシス撮影を行うトモシンセシス撮影装置が知られている。放射線管が移動される複数の位置は、例えば、放射線の焦点が、直線状または円弧状に、等しい間隔で並べられた位置である。こうしたトモシンセシス撮影により、放射線検出器の撮像面に対して異なる複数の照射角度で放射線が照射され、被写体に対する放射線の照射角度が異なる複数の投影画像が撮像される。そして、この複数の投影画像に基づいて、被写体の任意の断層面における断層画像が生成される。
【0003】
特許文献1には、撮影時間を短縮化するために、1つの放射線管ではなく、複数の放射線管を備えたトモシンセシス撮影装置が記載されている。特許文献1に記載のトモシンセシス撮影装置は、予め記憶された管電流照射時間積(mAs値ともいう)に関する係数を用いて、複数の放射線管の放射線の照射条件を補正することで、複数の放射線管から照射される放射線の照射線量を等しくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-119507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば圧迫板で圧迫された乳房といった横方向に偏平な被写体を撮影する場合、被写体を放射線が透過する距離は、照射角度が大きくなるほど長くなる。つまり、照射角度が大きくなるほど、被写体内部における放射線の吸収が多くなる。このため、同じ照射条件下においては、放射線検出器に到達する放射線の到達線量は、照射角度が大きくなるほど小さくなる。したがって、複数の放射線管を備える場合は、放射線検出器に到達する放射線の到達線量が、各放射線管によって異なる。
【0006】
本開示の技術は、複数の放射線管から異なる照射角度で放射線を照射する場合に、照射角度によらず放射線の到達線量が等しくなるよう補正することが可能なトモシンセシス撮影装置、トモシンセシス撮影装置の作動方法、トモシンセシス撮影装置の作動プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示のトモシンセシス撮影装置は、被写体を透過した放射線を検出する放射線検出器であり、被写体の投影画像を撮像する撮像面を有する放射線検出器と、撮像面に対する放射線の照射角度が異なる複数の位置に配された複数の放射線管で構成される放射線源と、被写体の厚みに応じた、放射線検出器に到達する放射線の到達線量の照射角度による変化割合を示す第1係数であり、複数の放射線管毎に登録された第1係数を取得する取得部と、第1係数を用いて放射線の照射条件を補正する補正部と、補正部において補正された照射条件を放射線源に設定する設定部と、を備える。
【0008】
第1係数は、照射角度が基準の位置に配された放射線管から照射された放射線を受けて、放射線検出器が実際に出力した実測基準出力値を、第1係数の算出対象の放射線管から照射された放射線を受けて、放射線検出器が実際に出力した実測対象出力値で除算した値であることが好ましい。
【0009】
あるいは、第1係数は、照射角度が基準の位置に配された放射線管から照射された放射線を受けて、放射線検出器が出力すると理論的に推定される理論基準出力値を、第1係数の算出対象の放射線管から照射された放射線を受けて、放射線検出器が出力すると理論的に推定される理論対象出力値で除算した値であることが好ましい。
【0010】
取得部は、複数の放射線管毎に登録された放射線の照射線量に関する第2係数を取得し、補正部は、第1係数に加えて、第2係数を用いて照射条件を補正することが好ましい。
【0011】
放射線管の経時劣化による照射線量の低下割合を用いて、第2係数を校正する校正部を備えることが好ましい。
【0012】
第2係数は、単位線量当たりの管電流照射時間積であることが好ましい。
【0013】
補正部は、照射条件に含まれる管電流照射時間積を補正することが好ましい。
【0014】
複数の位置は、放射線の焦点が、直線状または円弧状に、等しい間隔で並べられた位置であることが好ましい。
【0015】
被写体を乳房とする乳房撮影装置であることが好ましい。
【0016】
本開示のトモシンセシス撮影装置の作動方法は、被写体を透過した放射線を検出する放射線検出器であり、被写体の投影画像を撮像する撮像面を有する放射線検出器を備えるトモシンセシス撮影装置の作動方法であって、撮像面に対する放射線の照射角度が異なる複数の位置に配された複数の放射線管で構成される放射線源を用い、被写体の厚みに応じた、放射線検出器に到達する放射線の到達線量の照射角度による変化割合を示す第1係数であり、複数の放射線管毎に登録された第1係数を取得する取得ステップと、第1係数を用いて放射線の照射条件を補正する補正ステップと、補正ステップにおいて補正された照射条件を放射線源に設定する設定ステップと、を備える。
【0017】
本開示のトモシンセシス撮影装置の作動プログラムは、被写体を透過した放射線を検出する放射線検出器であり、被写体の投影画像を撮像する撮像面を有する放射線検出器と、撮像面に対する放射線の照射角度が異なる複数の位置に配された複数の放射線管で構成される放射線源とを備えるトモシンセシス撮影装置の作動プログラムであって、被写体の厚みに応じた、放射線検出器に到達する放射線の到達線量の照射角度による変化割合を示す第1係数であり、複数の放射線管毎に登録された第1係数を取得する取得部と、第1係数を用いて放射線の照射条件を補正する補正部と、補正部において補正された照射条件を放射線源に設定する設定部として、コンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0018】
本開示の技術によれば、複数の放射線管から異なる照射角度で放射線を照射する場合に、照射角度によらず放射線の到達線量が等しくなるよう補正することが可能なトモシンセシス撮影装置、トモシンセシス撮影装置の作動方法、トモシンセシス撮影装置の作動プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】乳房撮影装置等を示す図である。
図2】乳房撮影装置の装置本体を示す図である。
図3】乳房の圧迫厚を測定する様子を示す図である。
図4】放射線管を示す図である。
図5】検出器収容部の部分を示す図である。
図6】CC撮影の様子を示す図である。
図7】MLO撮影の様子を示す図である。
図8】トモシンセシス撮影の様子を示す図である。
図9】トモシンセシス撮影で得られた複数の投影画像から断層画像を生成する様子を示す図である。
図10】制御装置のブロック図である。
図11】第1係数テーブルを示す図である。
図12】第2係数テーブルを示す図である。
図13】第1係数を算出する様子を示す図である。
図14】第2係数を算出する第1のパターンを示す図である。
図15】第2係数を算出する第2のパターンを示す図である。
図16】第2係数を算出する様子を示す図である。
図17】第2係数を算出するために、線量計として電離箱を用いる場合を示す図である。
図18】第2係数を算出するために、線量計として円柱型半導体線量計を用いる場合を示す図である。
図19】第2係数を算出するために、冶具を用いる場合を示す図である。
図20】補正部の処理の概要を示す図であり、図20Aは、プレ撮影における照射条件の補正の様子を、図20Bは、トモシンセシス撮影における照射条件の補正の様子を、それぞれ示す。
図21】補正部においてプレ撮影用mAs値を算出する様子を示す図である。
図22】補正部においてトモシンセシス撮影用mAs値を算出する様子を示す図である。
図23】乳房撮影装置の出荷前の処理手順を示すフローチャートである。
図24】乳房撮影装置のトモシンセシス撮影の手順を示すフローチャートである。
図25】第1係数および第2係数を用いて照射条件を補正した効果を示す図である。
図26】トータルmAs値を設定して、プレ撮影を行わずにトモシンセシス撮影を行う場合の照射条件の設定の仕方を示す図である。
図27】第2実施形態の第1係数を算出する様子を示す図である。
図28】第3実施形態における乳房撮影装置の出荷前の処理手順を示すフローチャートである。
図29】第3実施形態における乳房撮影装置の出荷後の処理手順を示すフローチャートである。
図30】実測初期出力値テーブルを示す図である。
図31】各放射線管の放射線の照射線量の低下割合を算出する様子を示す図である。
図32】低下割合を用いて第2係数を校正する様子を示す図である。
図33】放射線の焦点を、円弧状に、等しい間隔で並べた複数の位置に、放射線管を配した例を示す図である。
図34】手術用の撮影装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
図1および図2において、本開示の技術に係る「トモシンセシス撮影装置」の一例である乳房撮影装置10は、被検者Hの乳房Mを被写体とする。乳房撮影装置10は、乳房MにX線、γ線といった放射線37(図4等参照)を照射して、乳房Mの放射線画像を撮影する。
【0021】
乳房撮影装置10は、装置本体11と制御装置12とで構成される。装置本体11は、例えば医療施設の放射線撮影室に設置される。制御装置12は、例えば放射線撮影室の隣室の制御室に設置される。制御装置12は、LAN(Local Area Network)等のネットワーク13を介して、画像データベース(以下、DB;Data Base)サーバ14と通信可能に接続されている。画像DBサーバ14は、例えば、PACS(Picture Archiving and Communication System)サーバであり、乳房撮影装置10から放射線画像を受信し、放射線画像を蓄積管理する。
【0022】
ネットワーク13には、端末装置15も接続されている。端末装置15は、例えば、放射線画像に基づく診療を行う医師が使用するパーソナルコンピュータである。端末装置15は、画像DBサーバ14から放射線画像を受信し、放射線画像をディスプレイに表示する。
【0023】
装置本体11は、スタンド20とアーム21とを有する。スタンド20は、放射線撮影室の床面に設置される台座20Aと、台座20Aから高さ方向に延びる支柱20Bとで構成される。アーム21は横から見た形状が略C字状であり、接続部21Aを介して、支柱20Bに接続されている。この接続部21Aにより、アーム21は支柱20Bに対して高さ方向に移動可能で、被検者Hの身長に応じた高さ調節が可能となっている。また、アーム21は、接続部21Aを貫く、支柱20Bに垂直な回転軸回りに回転可能である。
【0024】
アーム21は、線源収容部22、検出器収容部23、および本体部24で構成される。線源収容部22は放射線源25を収容する。検出器収容部23は放射線検出器26を収容する。また、検出器収容部23は、乳房Mが載せられる撮影台としても機能する。本体部24は、線源収容部22と検出器収容部23とを一体的に接続する。線源収容部22は高さ方向の上側に配されており、検出器収容部23は、線源収容部22と対向する姿勢で、高さ方向の下側に配されている。
【0025】
放射線源25は、複数、例えば15個の放射線管27と、放射線管27を収容するハウジング28とで構成される。放射線管27は、乳房Mに対する照射角度が異なる複数の投影画像を放射線画像として撮影するトモシンセシス撮影に用いられる。また、放射線管27の中の1つは、トモシンセシス撮影に先立って行われる、トモシンセシス撮影の放射線37の照射条件を設定するためのプレ撮影に用いられる。放射線検出器26は、乳房Mを透過した放射線37を検出して放射線画像を出力する。なお、放射線管27の個数は、上記例の15個に限らない。
【0026】
本体部24の線源収容部22と検出器収容部23との間には、圧迫板29が取り付けられている。圧迫板29は、放射線37を透過する材料で形成されている。圧迫板29は、検出器収容部23と対向配置されている。圧迫板29は、検出器収容部23に向かう方向と検出器収容部23から離間する方向とに移動可能である。圧迫板29は、検出器収容部23に向かって移動して、検出器収容部23との間で乳房Mを挟み込んで圧迫する。
【0027】
線源収容部22の正面下部には、フェイスガード30が取り付けられている。フェイスガード30は、被検者Hの顔を放射線37から防護する。
【0028】
支柱20B内には、放射線管27に印加する管電圧を発生する管電圧発生器(図示せず)が設けられている。また、支柱20B内には、管電圧発生器から延びる電圧ケーブル(図示せず)が配設されている。電圧ケーブルは、さらに接続部21Aからアーム21を通って線源収容部22内に導入され、放射線源25に接続される。
【0029】
図3において、圧迫板29には、乳房Mの圧迫厚Thを測定する測定センサ33が接続されている。測定センサ33は、支柱20Bに内蔵され、検出器収容部23からの圧迫板29の高さを圧迫厚Thとして測定するリニアポテンショメータ等である。測定センサ33は、例えば1mm刻みで圧迫厚Thを測定する。なお、圧迫厚Thは、本開示の技術に係る「被写体の厚み」の一例である。
【0030】
図4において、放射線管27は、陰極35と陽極36とを有している。陰極35は、電子を放出する。陽極36は、電子が衝突することで放射線37を発する。陰極35と陽極36とは、略円筒形状の真空のガラス管38に収容されている。陰極35は、電界放出現象を利用して、陽極36に向けて電子線EBを放出する電子放出源を有する電界放出型である。陽極36は、回転機構により回転する回転陽極とは異なり、回転せずに位置が固定された固定陽極である。
【0031】
陰極35と陽極36との間には、管電圧発生器からの管電圧が印加される。管電圧の印加により、陰極35から陽極36に向けて電子線EBが放出される。そして、電子線EBが衝突した陽極36の点(以下、焦点)Fから、放射線37が発せられる。
【0032】
ハウジング28には、放射線37を透過する放射線透過窓39が設けられている。陽極36から発せられた放射線37は、この放射線透過窓39を通じて、ハウジング28外に出射される。なお、ハウジング28内は、絶縁油で満たされている。
【0033】
放射線透過窓39の高さ方向の下側には、照射野限定器40(図1および図2では不図示)が設けられている。照射野限定器40はコリメータとも呼ばれ、放射線検出器26の撮像面45(図5参照)における放射線37の照射野を設定する。より詳しくは、照射野限定器40は、放射線透過窓39を透過した放射線37を遮蔽する鉛等の複数枚の遮蔽板41を有している。そして、この遮蔽板41で画定される、例えば矩形状の照射開口の大きさを、遮蔽板41を移動させて変更することで、放射線37の照射野を設定する。
【0034】
検出器収容部23の部分を示す図5において、放射線検出器26は撮像面45を有する。撮像面45は、乳房Mを透過した放射線37を検出して乳房Mの投影画像を撮像する面である。より詳しくは、撮像面45は、放射線37を電気信号に変換する画素が二次元配列された二次元平面である。このような放射線検出器26は、FPD(Flat Panel Detector)と呼ばれる。放射線検出器26は、放射線37を可視光に変換するシンチレータを有し、シンチレータが発する可視光を電気信号に変換する間接変換型でもよいし、放射線37を直接電気信号に変換する直接変換型でもよい。なお、以下では、撮像面45の画素から出力された、放射線37に応じた電気信号を、出力値という場合がある。
【0035】
図6および図7は、乳房撮影装置10における乳房Mの撮影方式を示す。図6は頭尾方向(CC;Craniocaudal view)撮影、図7は内外斜位方向(MLO;Mediolateral Oblique view)撮影である。CC撮影は、検出器収容部23と圧迫板29とで、乳房Mを上下に挟み込んで圧迫して撮影する撮影方式である。この場合、放射線検出器26は、投影画像としてCC画像を出力する。対してMLO撮影は、検出器収容部23と圧迫板29とで、乳房Mを60°程度の角度で斜めに挟み込んで圧迫して撮影する撮影方式である。この場合、放射線検出器26は、投影画像としてMLO画像を出力する。なお、図6および図7では、簡単化のために1つの放射線管27だけを図示している。また、図6および図7では、右の乳房Mを示しているが、もちろん左の乳房Mの撮影も可能である。
【0036】
支柱20B側から放射線源25および放射線検出器26を平面視した図8において、撮像面45の法線方向をZ方向、撮像面45の辺に沿う方向をX方向、Z方向およびX方向と直交する撮像面45の奥行方向をY方向とする。放射線管27は、撮像面45に対する放射線37の照射角度が異なる、計15の位置SP1、SP2、・・・、SP14、SP15に配されている。各位置SP1~SP15における放射線管27の放射線37の焦点F1~F15は、直線状に、等しい間隔Dで並んでいる。また、X方向の撮像面45の辺の中心点CPから延びる撮像面45の法線NRに、位置SP8が配されている。位置SP8以外の他の位置は、法線NRの左側に位置SP1~SP7、法線NRの右側に位置SP9~SP15というように、法線NRに関して左右対称に設定されている。
【0037】
ここで、位置SP1~SP15が設定される直線GLは、放射線源25および放射線検出器26をZ方向から平面視した場合に、X方向の撮像面45の辺と平行な線である。そして、直線GLは、Y方向に関して、手前側(支柱20Bとは反対側)にオフセットされている。また、焦点F1~F15の間隔Dは、完全に一致する場合に限らず、例えば±5%の誤差を許容する。
【0038】
放射線37の照射角度は、法線NRと、各位置SP1~SP15における放射線管27の放射線37の焦点F1~F15と中心点CPとを結んだ線とのなす角度である。図8では、位置SP1における焦点F1と中心点CPとを結んだ線L1、および法線NRと線L1とのなす角度である照射角度θ(1)を、一例として図示している。
【0039】
符号Ψで示す角度は、トモシンセシス撮影の最大スキャン角度である。最大スキャン角度Ψは、位置SP1~SP15のうちの両端の位置SP1、SP15で規定される。具体的には、最大スキャン角度Ψは、位置SP1における焦点F1と中心点CPとを結んだ線L1と、位置SP15における焦点F15と中心点CPとを結んだ線L15とのなす角度である。
【0040】
1回のトモシンセシス撮影においては、放射線管27は、位置SP1の放射線管27、位置SP2の放射線管27、・・・、位置SP14の放射線管27、位置SP15の放射線管27というように、順に1つずつ駆動されて、乳房Mに向けて放射線37を照射する。放射線検出器26は、各位置SP1~SP15において照射された放射線37をその都度検出し、各位置SP1~SP15における投影画像を出力する。トモシンセシス撮影は、図6で示したCC撮影、および図7で示したMLO撮影の両撮影方式でそれぞれ行うことが可能である。なお、図6で示したCC撮影、および図7で示したMLO撮影を単独で行う単純撮影の場合は、照射角度が0°の位置SP8に配された放射線管27が用いられる。
【0041】
図9に示すように、乳房撮影装置10は、図8で示したトモシンセシス撮影で得られた、複数の位置SP1~SP15における複数の投影画像から、乳房Mの任意の断層面TF1~TFNに対応する断層画像T1~TNを生成する。乳房撮影装置10は、断層画像T1~TNの生成に、フィルタ補正逆投影法等の周知の方法を用いる。断層画像T1~TNは、各断層面TF1~TFNのそれぞれに存在する構造物を強調した画像である。
【0042】
図10において、制御装置12は、制御部50、取得部51、補正部52、設定部53、断層画像生成部54、ストレージデバイス55等を備えている。ストレージデバイス55は、例えばハードディスクドライブである。ストレージデバイス55には、第1係数テーブル60、第2係数テーブル61、および作動プログラム62が記憶されている。
【0043】
作動プログラム62は、本開示の技術に係る「トモシンセシス撮影装置の作動プログラム」の一例である。作動プログラム62を起動させると、制御装置12のCPU(Central Processing Unit)は、メモリ64等と協働して、上述の制御部50、取得部51、補正部52、設定部53、および断層画像生成部54として機能する。なお、CPU63およびメモリ64等は、本開示の技術に係る「コンピュータ」の一例である。
【0044】
制御部50は、放射線源25および放射線検出器26の動作を制御する。制御部50には、プレ撮影制御部50Aとトモシンセシス撮影制御部50Bとが設けられている。プレ撮影制御部50Aは、プレ撮影用放射線管27Pを用いてプレ撮影を行わせる。プレ撮影用放射線管27Pは、位置SP1~SP15に配された各放射線管27のうちから選定された1つの放射線管である。プレ撮影制御部50Aは、プレ撮影用放射線管27Pをプレ撮影用の照射条件にて駆動させ、プレ撮影用放射線管27Pから放射線37を照射させる。そして、これにより放射線検出器26で検出された投影画像を、放射線検出器26から補正部52に出力させる。
【0045】
取得部51は、第1係数テーブル60から第1係数を取得する。第1係数は圧迫厚Thに応じた値である。取得部51には、測定センサ33から圧迫厚Thが入力される。取得部51は、測定センサ33からの圧迫厚Thに対応した第1係数を、第1係数テーブル60から取得する。また、取得部51は、第2係数テーブル61から第2係数を取得する。取得部51は、取得した第1係数および第2係数を補正部52に出力する。
【0046】
補正部52は、取得部51からの第1係数および第2係数を用いて、プレ撮影用の照射条件を補正する。また、補正部52は、プレ撮影における放射線検出器26からの投影画像を画像解析して、トモシンセシス撮影用の照射条件を仮設定する。補正部52は、取得部51からの第1係数および第2係数を用いて、仮設定したトモシンセシス撮影用の照射条件を補正する。補正部52は、補正した照射条件を設定部53に出力する。
【0047】
設定部53は、補正部52において補正された照射条件を放射線源25に設定する。より詳しくは、設定部53は、補正部52からの補正されたプレ撮影用の照射条件をプレ撮影制御部50Aに出力することで、補正されたプレ撮影用の照射条件をプレ撮影用放射線管27Pに設定する。また、設定部53は、補正部52からの補正されたトモシンセシス撮影用の照射条件をトモシンセシス撮影制御部50Bに出力することで、補正されたトモシンセシス撮影用の照射条件を各放射線管27に設定する。
【0048】
照射条件は、放射線管27に印加する管電圧と、管電流照射時間積である。管電流照射時間積は、文字通り、放射線管27に流す管電流と放射線37の照射時間との積である。また、照射条件は、照射角度が0°の位置SP8の放射線管27の必要照射線量として表される場合がある。
【0049】
補正部52におけるトモシンセシス撮影用の照射条件の仮設定とは、例えば、乳房Mの厚みが比較的厚く、放射線検出器26からの投影画像の濃度が所望のレベルよりも低かった場合に、管電流照射時間積を定格値から上げる、等である。こうしたプレ撮影に基づくトモシンセシス撮影の照射条件の仮設定を行うことで、トモシンセシス撮影で撮影される投影画像、さらには投影画像から生成される断層画像Tの濃度が、乳房Mの個体差によらず略一定レベルとなる。
【0050】
トモシンセシス撮影制御部50Bは、各位置SP1~SP15に配された各放射線管27の全てを用いて、図8で示したトモシンセシス撮影を行わせる。具体的には、トモシンセシス撮影制御部50Bは、設定部53によって設定された照射条件にて各放射線管27を駆動させ、各放射線管27から乳房Mに順次放射線37を照射させる。そして、これにより放射線検出器26で検出された複数の投影画像を、放射線検出器26から断層画像生成部54に出力させる。
【0051】
断層画像生成部54は、図9で示したように、放射線検出器26からの複数の投影画像に基づいて断層画像Tを生成する。断層画像生成部54は、生成した断層画像Tを、ネットワーク13を介して画像DBサーバ14に送信する。
【0052】
図11に示すように、第1係数テーブル60は、第1係数Kfp(i、Thj)が、位置SP1~SP15に配された複数の放射線管27毎に登録されたテーブルである。iは各放射線管27を識別するための番号であり、位置SP1~SP15に対応した数1~15が各放射線管27に割り当てられている。圧迫厚Thjは、例えば10mm~80mmの範囲において1mm刻みで設定されている。jは各圧迫厚を識別するための番号である。圧迫厚Thjが10mm~80mmの範囲において1mm刻みで設定される上記例の場合、j=1~71である。第1係数Kfp(i、Thj)は、圧迫厚Thjに応じた、放射線37の到達線量の照射角度による変化割合を示す係数である。
【0053】
図12に示すように、第2係数テーブル61は、第2係数Kmd(i)が、位置SP1~SP15に配された複数の放射線管27毎に登録されたテーブルである。第2係数Kmd(i)は、放射線37の照射線量に関する係数である。
【0054】
ここで、「照射線量」とは、放射線管27から照射される放射線37の線量である。「照射線量」は、理想的には、放射線管27の直下において線量計で計測した線量である。一方、「到達線量」とは、放射線管27から照射され、乳房Mを透過する等して、放射線検出器26の撮像面45に最終的に到達する放射線37の線量である。このため、同じ照射条件下においては、当然ながら到達線量は照射線量よりも低い値となる。
【0055】
第1係数Kfp(i、Thj)の算出は、乳房撮影装置10の出荷前に実施される。より詳しくは図13に示すように、第1係数Kfp(i、Thj)の算出は、各放射線管27を放射線源25に組み込んだ後、検出器収容部23にファントム65を載置して実施される。ファントム65は、疑似的に乳房Mを表した模型であり、例えばアクリル樹脂製である。ファントム65は、圧迫厚Thj毎に用意されている。
【0056】
まず、照射角度が0°の位置SP8に配された放射線管27から放射線37を照射させ、これにより放射線検出器26が実際に出力した実測基準出力値MSDp(8、Thj)を得る。照射角度が0°の位置SP8は、本開示の技術に係る「基準の位置」の一例である。なお、基準の位置は、照射角度が0°の位置SP8に限らない。所定の照射角度の範囲にある位置、例えば照射角度-10°~+10°の範囲にある位置を、基準の位置としてもよい。
【0057】
同様にして、第1係数Kfp(i、Thj)の算出対象の放射線管27から放射線37を照射させ、これにより放射線検出器26が実際に出力した実測対象出力値MTDp(i、Thj)を得る。なお、実測基準出力値MSDp(8、Thj)および実測対象出力値MTDp(i、Thj)は、放射線検出器26からの全出力値の平均値、または放射線検出器26の撮像面45の特定の領域における出力値の平均値等である。特定の領域は、撮像面45の中央の領域等である。
【0058】
第1係数Kfp(i、Thj)は、実測基準出力値MSDp(8、Thj)を、実測対象出力値MTDp(i、Thj)で除算することで算出される。こうして算出された第1係数Kfp(i、Thj)が、第1係数テーブル60に登録されてストレージデバイス55に記憶される。なお、第1係数Kfp(i、Thj)の計算方法からして当然ではあるが、照射角度が0°の位置SP8に配された放射線管27の第1係数Kfp(8、Thj)は1となる。
【0059】
図13では、j=1で、第1係数Kfp(i、Thj)の算出対象の放射線管27が、位置SP1に配された放射線管27であった場合(i=1)を例示している。また、実測基準出力値MSDp(8、Th1)=610で、実測対象出力値MTDp(1、Th1)=500であった場合を例示している。この場合、第1係数Kfp(1、Th1)=610/500=1.22となる。
【0060】
第2係数Kmd(i)の算出も、乳房撮影装置10の出荷前に実施される。ただし、第2係数Kmd(i)の算出には、2つのパターンがある。第1のパターンは、図14に示すように、各放射線管27の第2係数Kmd(i)を算出した後(ステップST10)、各放射線管27を放射線源25に組み込む(ステップST11)方法である。第2のパターンは、図15に示すように、第1のパターンとは逆に、各放射線管27を放射線源25に組み込んだ後(ステップST11)、各放射線管27の第2係数Kmd(i)を算出する(ステップST10)方法である。
【0061】
第1のパターン、第2のパターンのいずれの方法においても、第2係数Kmd(i)の算出の仕方は共通している。すなわち図16に示すように、第2係数Kmd(i)の算出対象の放射線管27に、第2係数算出用mAs値を照射条件として設定する。そして、第2係数算出用mAs値にて照射された放射線37の線量を、線量計70で計測する。
【0062】
第2係数Kmd(i)は、第2係数算出用mAs値を、線量計70の計測線量で除算することで算出される。つまり、第2係数Kmd(i)は、単位線量当たりの管電流照射時間積である。こうして算出された第2係数Kmd(i)が、第2係数テーブル61に登録されてストレージデバイス55に記憶される。
【0063】
図16では、第2係数Kmd(i)の算出対象の放射線管27が、位置SP1に配された放射線管27であった場合(i=1)を例示している。また、第2係数算出用mAs値=100で、計測線量=95.2であった場合を例示している。この場合、第2係数Kmd(1)=100/95.2≒1.05となる。
【0064】
図14で示した、各放射線管27の第2係数Kmd(i)を算出した後、各放射線管27を放射線源25に組み込む第1のパターンの場合、各放射線管27を、線量計70との位置関係が同じ位置にセットして、線量を計測する。線量計70との位置関係が同じ位置とは、例えば、線量計70の計測面と正対する、照射角度が0°の位置である。
【0065】
対して、図15で示した、各放射線管27を放射線源25に組み込んだ後、各放射線管27の第2係数Kmd(i)を算出する第2のパターンの場合は、図17図19のいずれかに示す方法で線量を計測する。
【0066】
図17は、線量計として電離箱70Aを用いる場合である。この場合、電離箱70Aを回転させて、第2係数Kmd(i)の算出対象の放射線管27に、電離箱70Aの計測面を正対させたうえで、線量を計測する。
【0067】
図18は、線量計として円柱型半導体線量計70Bを用いる場合である。円柱型半導体線量計70Bは、CT(Computed Tomography)撮影装置に用いられる線量計であり、全方位に対して等しい感度を有する。このため、円柱型半導体線量計70Bは、図17で示した電離箱70Aのように、計測面を放射線管27に正対させるために回転させる必要がない。
【0068】
図19は、できるだけ放射線管27の直下で線量の計測を行うための冶具75を用いる場合である。冶具75は直方体状であり、底板76の内壁面中央には線量計70が取り付けられている。冶具75の天板77には取付穴78が設けられている。この取付穴78に、照射野限定器40が着脱可能に取り付けられる。冶具75の側板79は、例えば数cm~数十cmの高さである。この場合、第2係数Kmd(i)の算出対象の放射線管27の照射野限定器40に冶具75を取り付ける。そして、第2係数算出用mAs値にて照射された放射線37の線量を、線量計70で計測する。なお、図14で示した第1のパターンにおいて、冶具75のような、放射線管27の直下で線量の計測を行うための冶具を用いてもよい。
【0069】
図20に示すように、補正部52は、第1係数Kfp(i、Thj)を用いて照射条件を補正する。また、補正部52は、第1係数Kfp(i、Thj)に加えて、第2係数Kmd(i)を用いて照射条件を補正する。
【0070】
図20Aは、プレ撮影における照射条件の補正の様子を示す。補正部52は、下記式(A)に示すようにプレ撮影用mAs値PB(i)を算出する。すなわち、補正部52は、照射条件に含まれる管電流照射時間積を補正する。
PB(i)=PDf0×Kfp(i、Thj)×Kmd(i)・・・(A)
なお、PDf0は、予め設定されたプレ撮影用の照射条件であり、照射角度が0°の位置SP8に配された放射線管27がプレ撮影用放射線管27Pであった場合の必要照射線量である。
【0071】
図20Bは、トモシンセシス撮影における照射条件の補正の様子を示す。補正部52は、下記式(B)に示すようにトモシンセシス撮影用mAs値TB(i)を算出する。すなわち、補正部52は、照射条件に含まれる管電流照射時間積を補正する。
TB(i)=TDf0×Kfp(i、Thj)×Kmd(i)・・・(B)
なお、TDf0は、プレ撮影の結果を踏まえて仮設定されたトモシンセシス撮影用の照射条件であり、照射角度が0°の位置SP8に配された放射線管27の、トモシンセシス撮影における必要照射線量である。
【0072】
図21に示すように、取得部51は、プレ撮影用放射線管27Pの番号および測定センサ33からの圧迫厚Thに対応した第1係数Kfp(i、Thj)を、第1係数テーブル60から取得する。また、取得部51は、プレ撮影用放射線管27Pの番号に対応した第2係数Kmd(i)を、第2係数テーブル61から取得する。補正部52は、取得部51からの第1係数Kfp(i、Thj)および第2係数Kmd(i)と、予め設定されたプレ撮影用の照射条件PDf0とを乗算することで、プレ撮影用mAs値PB(i)を算出する。
【0073】
図21では、プレ撮影用放射線管27Pが位置SP1に配された放射線管27で、圧迫厚がTh2、プレ撮影用の照射条件PDf0=50の場合を例示している。この場合、Kfp(1、Th2)=1.23、Kmd(1)=1.05である。このため、プレ撮影用mAs値PB(1)は、
PB(1)=PDf0×Kfp(1、Th2)×Kmd(1)
=50×1.23×1.05
≒64.58
となる。
【0074】
なお、図21の例では、プレ撮影用放射線管27Pを、位置SP1に配された放射線管27としたが、これに限定されない。照射角度が0°の位置SP8に配された放射線管27を、プレ撮影用放射線管27Pとしてもよい。この場合、照射角度が0°の位置SP8に配された放射線管27の第1係数Kfp(8、Thj)=1であるので、式(A)は下記式(C)に書き換えられる。
PB(8)=PDf0×Kmd(8)・・・(C)
【0075】
図22に示すように、取得部51は、放射線管27の番号および測定センサ33からの圧迫厚Thに対応した第1係数Kfp(i、Thj)を、第1係数テーブル60から取得する。また、取得部51は、放射線管27の番号に対応した第2係数Kmd(i)を、第2係数テーブル61から取得する。補正部52は、取得部51からの第1係数Kfp(i、Thj)および第2係数Kmd(i)と、プレ撮影の結果を踏まえて仮設定されたトモシンセシス撮影用の照射条件TDf0とを乗算することで、トモシンセシス撮影用mAs値TB(i)を算出する。
【0076】
図22では、放射線管27が位置SP2に配された放射線管で、圧迫厚がTh3、トモシンセシス撮影用の照射条件TDf0=200の場合を例示している。この場合、Kfp(2、Th3)=1.22、Kmd(2)=1.2である。このため、トモシンセシス撮影用mAs値TB(2)は、
TB(2)=TDf0×Kfp(2、Th3)×Kmd(2)
=200×1.22×1.2
=292.8
となる。
【0077】
次に、上記構成による作用について、図23および図24に示すフローチャートを参照して説明する。まず、図23に示すように、乳房撮影装置10の出荷前に、図13で示したように第1係数Kfp(i、Thj)が算出される(ステップST100)。算出された第1係数Kfp(i、Thj)は、第1係数テーブル60に登録されてストレージデバイス55に記憶される(ステップST110)。なお、テーブル形式ではなく関数形式で第1係数Kfp(i、Thj)を記憶してもよい。
【0078】
同様にして、乳房撮影装置10の出荷前に、図14図19で示したように第2係数Kmd(i)が算出される(ステップST120)。算出された第2係数Kmd(i)は、第2係数テーブル61に登録されてストレージデバイス55に記憶される(ステップST130)。なお、第2係数Kmd(i)を算出、記憶した後、第1係数Kfp(i、Thj)を算出、記憶してもよい。
【0079】
図24に示すように、乳房撮影装置10の第1撮影モードによるトモシンセシス撮影の手順は、ステップST200の撮影準備作業から開始される。撮影準備作業は、放射線技師が行う作業であって、主に乳房Mのポジショニングに関わる作業である。例えば、撮影準備作業は、被検者Hを装置本体11の前に誘導し、乳房Mを検出器収容部23に載せ、圧迫板29を検出器収容部23に向かって移動させ、検出器収容部23との間で乳房Mを挟み込んで圧迫する、といった作業を含む。撮影準備作業終了後、放射線技師によってトモシンセシス撮影の開始が指示される。
【0080】
図21で示したように、取得部51によって、プレ撮影用放射線管27Pの番号および測定センサ33からの圧迫厚Thに対応した第1係数Kfp(i、Thj)が、第1係数テーブル60から取得される。また、取得部51によって、プレ撮影用放射線管27Pの番号に対応した第2係数Kmd(i)が、第2係数テーブル61から取得される(ステップST210、取得ステップ)。第1係数Kfp(i、Thj)および第2係数Kmd(i)は、取得部51から補正部52に出力される。
【0081】
ステップST220に示すように、補正部52によってプレ撮影用の照射条件が補正される(補正ステップ)。より詳しくは図20Aおよび図21で示したように、取得部51からの第1係数Kfp(i、Thj)および第2係数Kmd(i)を用いて、補正部52によってプレ撮影用mAs値PB(i)が算出される。算出されたプレ撮影用mAs値PB(i)は、補正部52から設定部53に出力され、さらに設定部53からプレ撮影制御部50Aに出力される。これにより、補正されたプレ撮影用の照射条件がプレ撮影用放射線管27Pに設定される(ステップST230、設定ステップ)。続いてステップST240に示すように、プレ撮影制御部50Aにより、プレ撮影用mAs値PB(i)がプレ撮影用放射線管27Pに与えられ、プレ撮影が行われる。
【0082】
プレ撮影において放射線検出器26から出力された投影画像は、補正部52に入力される。補正部52では、放射線検出器26からの投影画像に基づいて、トモシンセシス撮影用の照射条件が仮設定される(ステップST250)。
【0083】
図22で示したように、取得部51によって、放射線管27の番号および測定センサ33からの圧迫厚Thに対応した第1係数Kfp(i、Thj)が、第1係数テーブル60から取得される。また、取得部51によって、放射線管27の番号に対応した第2係数Kmd(i)が、第2係数テーブル61から取得される(ステップST260、取得ステップ)。第1係数Kfp(i、Thj)および第2係数Kmd(i)は、取得部51から補正部52に出力される。
【0084】
補正部52において、仮設定されたトモシンセシス撮影用の照射条件が補正される(ステップST270、補正ステップ)。より詳しくは図20Bおよび図22で示したように、取得部51からの第1係数Kfp(i、Thj)および第2係数Kmd(i)を用いて、補正部52によってトモシンセシス撮影用mAs値TB(i)が算出される。算出されたトモシンセシス撮影用mAs値TB(i)は、補正部52から設定部53に出力され、さらに設定部53からトモシンセシス撮影制御部50Bに出力される。これにより、補正されたトモシンセシス撮影用の照射条件が各放射線管27に設定される(ステップST280、設定ステップ)。続いてステップST290に示すように、トモシンセシス撮影制御部50Bにより、トモシンセシス撮影用mAs値TB(i)が各放射線管27に与えられ、図8で示したトモシンセシス撮影が行われる。
【0085】
トモシンセシス撮影において放射線検出器26から出力された投影画像は、断層画像生成部54に出力される。断層画像生成部54では、図9で示したように、放射線検出器26からの投影画像に基づいて、断層画像Tが生成される(ステップST300)。生成された断層画像Tは、断層画像生成部54から画像DBサーバ14に送信される。
【0086】
補正部52により、放射線37の到達線量の照射角度による変化割合を示す第1係数Kfp(i、Thj)を用いて照射条件を補正するので、複数の放射線管27から異なる照射角度で放射線37を照射する場合に、照射角度によらず放射線37の到達線量が等しくなるよう補正することが可能となる。また、補正部52により、複数の放射線管27毎の放射線37の照射線量に関する第2係数Kmd(i)を用いて照射条件を補正するので、複数の放射線管27の個体差によらず、放射線37の照射線量が等しくなるよう補正することが可能となる。
【0087】
より詳しくは図25に示すように、補正前は、放射線37の到達線量の照射角度による変化、および複数の放射線管27の個体差による放射線37の照射線量の変化が原因で、各放射線管27による放射線検出器26の出力値が異なる値であったものが、補正後は、各放射線管27による放射線検出器26の出力値が等しい値となる。
【0088】
こうして第1係数Kfp(i、Thj)を用いて放射線37の到達線量が等しくなるよう補正することで、プレ撮影においては、プレ撮影用放射線管27Pがどの放射線管27であっても、大体同じ結果を得ることができる。また、トモシンセシス撮影においては、投影画像の画質が大体揃う。したがって、投影画像に基づいて生成される断層画像Tの画質を向上させることができる。
【0089】
また、第2係数Kmd(i)を用いて放射線37の照射線量が等しくなるよう補正することで、プレ撮影用放射線管27Pがどの放射線管27かに関わらず、プレ撮影の結果を同じにすることができる。また、断層画像Tの画質をより向上させることができる。
【0090】
なお、第2係数Kmd(i)を用いた補正は必須ではない。しかし、第2係数Kmd(i)を用いた補正を行うことで上記のように効果が増すため、第2係数Kmd(i)を用いた補正を行ったほうが好ましい。
【0091】
第2係数Kmd(i)を用いた補正を行わない場合は、上記式(A)は下記式(D)に、上記式(B)は下記式(E)に、それぞれ書き換えられる。
PB(i)=PDf0×Kfp(i、Thj)・・・(D)
TB(i)=TDf0×Kfp(i、Thj)・・・(E)
【0092】
第1係数Kfp(i、Thj)は、照射角度が基準の位置に配された放射線管27から照射された放射線37を受けて、放射線検出器26が実際に出力した実測基準出力値MSDp(i、Thj)を、第1係数Kfp(i、Thj)の算出対象の放射線管27から照射された放射線37を受けて、放射線検出器26が実際に出力した実測対象出力値MTDp(i、Thj)で除算した値である。実際の出力値を用いるので、信頼性の高い第1係数Kfp(i、Thj)を算出することができる。
【0093】
放射線管27は、放射線37の焦点F1~F15が、直線状に、等しい間隔Dで並べられた複数の位置SP1~SP15に配されている。こうして焦点F1~F15の配置位置SP1~SP15に規則性が確保されているため、断層画像Tの生成に係る処理を簡便に済ませることができる。
【0094】
なお、プレ撮影を行い、プレ撮影の結果を踏まえた照射条件にてトモシンセシス撮影を行うのではなく、プレ撮影を行わずにトモシンセシス撮影を行ってもよい。この場合、乳房撮影装置10を操作する放射線技師によって、制御装置12にトータルmAs値が設定される。トータルmAs値とは、複数の放射線管27を1つの放射線管と見立てた場合に、当該1つの放射線管に対して、トモシンセシス撮影において与えるmAs値である。
【0095】
トータルmAs値を設定して、プレ撮影を行わずにトモシンセシス撮影を行う場合における照射条件の設定の仕方は、図26に示すようになる。
【0096】
図26において、補正部52は、表80に示すように、TDf0に適当な値を代入して、仮のトモシンセシス撮影用mAs値TB(i)_Pを算出しておく。また、補正部52は、仮のトモシンセシス撮影用mAs値TB(i)_Pの総和を算出しておく。
【0097】
補正部52は、トータルmAs値を仮のトモシンセシス撮影用mAs値TB(i)_Pの総和で除算する。そして、さらに仮のトモシンセシス撮影用mAs値TB(i)_Pを乗算することで、トモシンセシス撮影用mAs値TB(i)を算出する。
【0098】
図26では、トータルmAs値が120、仮のトモシンセシス撮影用mAs値TB(i)_Pの総和が360であった場合を例示している。この場合、例えば位置SP2に配された放射線管27のトモシンセシス撮影用mAs値TB(1)は、仮のトモシンセシス撮影用mAs値TB(2)_P=27であるため、
TB(2)=(120/360)×27
=9
となる。
【0099】
このように、トータルmAs値を設定して、プレ撮影を行わずにトモシンセシス撮影を行う場合は、トータルmAs値を、補正されたトモシンセシス撮影用の照射条件である仮のトモシンセシス撮影用mAs値TB(i)_Pに応じた割合にしたがって、各放射線管27に分配する。
【0100】
なお、トータルmAs値を設定して、プレ撮影を行わずにトモシンセシス撮影を行う場合の手順は、図24で示したフローチャートにおいて、ステップST210~ステップST250がなく、代わりに、トータルmAs値を設定するステップと、仮のトモシンセシス撮影用mAs値TB(i)_Pおよびその総和を算出するステップとが追加される点が異なるだけである。このため、トータルmAs値を設定して、プレ撮影を行わずにトモシンセシス撮影を行う場合の手順は、図示および説明を省略する。
【0101】
[第2実施形態]
図27に示す第2実施形態は、第1係数Kfp(i、Thj)の算出方法が第1実施形態と異なる。すなわち、第1実施形態では、実測基準出力値を実測対象出力値で除算することで、第1係数Kfp(i、Thj)を算出していた。対して第2実施形態では、理論基準出力値と理論対象出力値を用いて、第1係数Kfp(i、Thj)を算出する。
【0102】
理論基準出力値は、照射角度が基準の位置に配された放射線管27から照射された放射線37を受けて、放射線検出器26が出力すると理論的に推定される出力値である。また、理論対象出力値は、第1係数Kfp(i、Thj)の算出対象の放射線管27から照射された放射線37を受けて、放射線検出器26が出力すると理論的に推定される出力値である。
【0103】
理論出力値TDp(i、Thj)は、下記式(F)を計算することで算出することができる。
TDp(i、Thj)=Df(i)×l÷L(i)×cosθ(i)×exp{-μ×Thj÷cosθ(i)}・・・(F)
なお、Df(i)は、番号iの放射線管27の照射線量、lは、放射線管27から照射線量Df(i)の計測位置までの距離、L(i)は、番号iの放射線管27から放射線検出器26の撮像面45の中心までの距離、θ(i)は、番号iの放射線管27の照射角度、μは、ファントム65の放射線37の吸収係数である。Df(i)は、例えば図17図19で示した方法で計測することができる。l、L(i)もメジャー等で計測可能である。また、θ(i)、μは既知の値である。したがって、理論出力値TDp(i、Thj)は、簡単な計算で求めることができる。
【0104】
ここでは、照射角度が0°の位置SP8に配された放射線管27から照射された放射線37を受けて、放射線検出器26が出力すると理論的に推定される理論出力値TDp(8、Thj)を、理論基準出力値TSDpとする。照射角度が0°の位置SP8は、本開示の技術に係る「基準の位置」の一例である。なお、上記第1実施形態と同じく、基準の位置は、照射角度が0°の位置SP8に限らない。所定の照射角度の範囲にある位置、例えば照射角度-10°~+10°の範囲にある位置を、基準の位置としてもよい。
【0105】
理論基準出力値TSDp(8、Thj)は、式(D)のθ(i)に0°を代入した下記式(E)で表される。
TSDp(8、Thj)=Df(i)×l÷L(i)×exp(-μ×Thj)・・・(E)
【0106】
第1係数Kfp(i、Thj)は、理論基準出力値TSDp(8、Thj)を、理論対象出力値TTDp(i、Thj)で除算することで算出される。
【0107】
図27では、j=2で、第1係数Kfp(i、Thj)の算出対象の放射線管27が、位置SP1に配された放射線管27であった場合(i=1)を例示している。また、理論基準出力値TSDp(8、Th2)=615で、理論対象出力値TTDp(1、Th2)=500であった場合を例示している。この場合、第1係数Kfp(1、Th1)=615/500=1.23となる。
【0108】
このように、第2実施形態では、照射角度が基準の位置に配された放射線管27から照射された放射線37を受けて、放射線検出器26が出力すると理論的に推定される理論基準出力値TSDp(i、Thj)を、第1係数Kfp(i、Thj)の算出対象の放射線管27から照射された放射線37を受けて、放射線検出器26が出力すると理論的に推定される理論対象出力値TTDp(i、Thj)で除算して、第1係数Kfp(i、Thj)を算出している。このため、放射線検出器26の実際の出力値を解析する必要がない。
【0109】
[第3実施形態]
図28図32に示す第3実施形態では、放射線管27の経時劣化による照射線量の低下割合を用いて、第2係数Kmd(i)を校正する。
【0110】
第3実施形態では、図28のフローチャートに示すように、まず、乳房撮影装置10の出荷前に、検出器収容部23に何も載置されていない素抜けの状態で各放射線管27から放射線37を照射させる(ステップST500)。そして、各放射線管27から照射された放射線37を受けて、放射線検出器26が実際に出力した実測出力値を、実測初期出力値としてストレージデバイス55に記憶させる(ステップST510)。図30は、こうしてストレージデバイス55に記憶された実測初期出力値テーブル90を示す。
【0111】
図29のフローチャートに示すように、出荷後の乳房撮影装置10において、設定期間が経過(ステップST600でYES)する毎に、ステップST500と同じく、素抜けの状態で各放射線管27から放射線37を照射させる(ステップST610)。設定期間は、例えば半年または1年である。
【0112】
そして、ステップST510においてストレージデバイス55に記憶された実測初期出力値と、ステップST610において放射線検出器26が実際に出力した実測出力値である実測経過出力値とに基づいて、各放射線管27の放射線37の照射線量の低下割合を算出する(ステップST620)。具体的には図31に示すように、実測経過出力値を実測初期出力値で除算することで、低下割合を算出する。
【0113】
ステップST630に示すように、算出した低下割合を用いて第2係数Kmd(i)を校正する。具体的には図32に示すように、校正部100は、各放射線管27の第2係数Kmd(i)を、低下割合で除算することで、第2係数Kmd(i)を校正する。校正部100は、校正した第2係数Kmd(i)が登録された校正第2係数テーブル101を、ストレージデバイス55に記憶させる。補正部52は、校正第2係数テーブル101に登録された第2係数Kmd(i)を用いて照射条件を補正する。
【0114】
このように、第3実施形態では、校正部100によって、放射線管27の経時劣化による照射線量の低下割合を用いて、第2係数Kmd(i)を校正する。このため、第2係数Kmd(i)から経時劣化の影響を排除することができる。
【0115】
放射線管27は、新たに交換される場合がある。この場合、第1係数テーブル60の第1係数Kfp(i、Thj)および第2係数テーブル61の第2係数Kmd(i)は、新たに交換された放射線管27の第1係数Kfp(i、Thj)および第2係数Kmd(i)に書き換えられる。
【0116】
上記各実施形態では、第2係数Kmd(i)を算出するために線量計70を用いているが、放射線検出器26を線量計70として代用してもよい。この場合、放射線検出器26からの出力値を、照射線量として扱う。
【0117】
第1係数テーブル60および第2係数テーブル61は、制御装置12に接続された他の装置に記憶されていてもよい。例えば、複数台の装置本体11を一括管理する管理装置のストレージデバイスに、複数台の装置本体11に係る第1係数テーブル60および第2係数テーブル61を記憶させておいてもよい。この場合、取得部51は、管理装置から送信された第1係数Kfp(i、Thj)および第2係数Kmd(i)を取得する。
【0118】
上記各実施形態では、焦点Fが配される位置を直線状としているが、これに限定されない。図33に示すように、焦点F1~F15が配される複数の位置SP1~SP15を、円弧状に、等しい間隔Dで並べてもよい。こうした円弧状の配置によっても、直線状の場合と同じく、焦点F1~F15の配置位置SP1~SP15に規則性が確保されるため、断層画像Tの生成に係る処理を簡便に済ませることができる。
【0119】
図6で示したCC撮影、および図7で示したMLO撮影を単独で行う単純撮影の代わりに、単純撮影で得られる放射線画像と等価な合成放射線画像を生成してもよい。合成放射線画像は、トモシンセシス撮影で得られた複数の投影画像、および断層画像生成部54で生成した複数の断層画像Tのうちの少なくともいずれかに、最小値投影法等の周知の合成画像生成処理を施すことで生成される。
【0120】
上記各実施形態では、トモシンセシス撮影装置として乳房撮影装置10を例示した。従来、乳房撮影装置10においてトモシンセシス撮影を行うことは、乳房Mの微小石灰化等の病変の発見を容易にするための手法として有用性が認められている。したがって、本開示のトモシンセシス撮影装置を、乳房撮影装置10に適用することは好ましい。
【0121】
もちろん、乳房撮影装置10に限らず、本開示のトモシンセシス撮影装置を、他の撮影装置に適用してもよい。例えば、手術時に被検者Hを撮影する、図34に示す撮影装置150に、本開示のトモシンセシス撮影装置を適用してもよい。
【0122】
撮影装置150は、制御装置(図示せず)を内蔵する装置本体151と、横から見た形状が略C字状のアーム152とを備えている。装置本体151には台車153が取り付けられ、装置本体151は移動可能となっている。アーム152は、線源収容部154、検出器収容部155、および本体部156で構成される。図1で示した乳房撮影装置10と同じく、線源収容部154は放射線源157を収容する。また、検出器収容部155は放射線検出器158を収容する。線源収容部154と検出器収容部155とは、本体部156により対向した姿勢で保持される。
【0123】
放射線源157および放射線検出器158は、図1で示した放射線源25および放射線検出器26と基本的な構成は同じである。ただし、撮影装置150では、被検者Hの胸部全体等、乳房Mよりも大きな被写体を撮影する。このため、放射線源157を構成する放射線管159は、乳房撮影装置10の各放射線管27よりも径が大きい。また、放射線検出器158も、その撮像面160は、放射線検出器26の撮像面45よりも面積が大きい。なお、大きな被写体の撮影に対応するため、放射線管159の配列個数を増やしてもよい。
【0124】
検出器収容部155は、被検者Hが仰臥する寝台161の下方に挿入される。寝台161は放射線37を透過する材料で形成されている。線源収容部154は、被検者Hの上方であって、被検者Hを挟んで検出器収容部155と対向する位置に配置される。
【0125】
撮影装置150では、乳房撮影装置10と同じく、第1係数Kfp(i、Thj)を用いて、照射角度によらず到達線量が等しくなるよう補正する。なお、撮影装置150においても、トモシンセシス撮影の他に、1つの放射線管159を用いて単純撮影を行うことが可能である。また、単純撮影を行う代わりに合成放射線画像を生成することも可能である。さらに、撮影装置150は、静止画の放射線画像を撮影する他、動画の放射線画像を撮影することも可能である。なお、符号162は、放射線源157のハウジングである。
【0126】
本開示のトモシンセシス撮影装置は、こうした手術用の撮影装置150以外にも、天井吊り下げ型の放射線源と、放射線検出器がセットされる立位撮影台または臥位撮影台とを組み合わせた一般的な放射線撮影装置に適用することも可能である。また、病棟を巡回して被検者Hを撮影するために用いられる、カート型の移動式放射線撮影装置に、本開示のトモシンセシス撮影装置を適用することも可能である。
【0127】
上記各実施形態において、例えば、制御部50(プレ撮影制御部50Aおよびトモシンセシス撮影制御部50B)、取得部51、補正部52、設定部53、断層画像生成部54、校正部100といった各種の処理を実行する処理部(Processing Unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(Processor)を用いることができる。各種のプロセッサには、ソフトウェアを実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0128】
1つの処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせ、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0129】
複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントおよびサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0130】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(Circuitry)を用いることができる。
【0131】
以上の記載から、以下の付記項1に記載の発明を把握することができる。
【0132】
[付記項1]
被写体を透過した放射線を検出する放射線検出器であり、前記被写体の投影画像を撮像する撮像面を有する放射線検出器と、
前記撮像面に対する前記放射線の照射角度が異なる複数の位置に配された複数の放射線管で構成される放射線源と、
前記被写体の厚みに応じた、前記放射線検出器に到達する前記放射線の到達線量の前記照射角度による変化割合を示す第1係数であり、前記複数の放射線管毎に登録された第1係数を取得する取得プロセッサと、
前記第1係数を用いて前記放射線の照射条件を補正する補正プロセッサと、
前記補正プロセッサにおいて補正された前記照射条件を前記放射線源に設定する設定プロセッサと、
を備えるトモシンセシス撮影装置。
【0133】
本開示の技術は、上述の種々の実施形態と種々の変形例を適宜組み合わせることも可能である。また、上記各実施形態に限らず、要旨を逸脱しない限り種々の構成を採用し得ることはもちろんである。さらに、本開示の技術は、プログラムに加えて、プログラムを非一時的に記憶する記憶媒体にもおよぶ。
【0134】
以上に示した記載内容および図示内容は、本開示の技術に係る部分についての詳細な説明であり、本開示の技術の一例に過ぎない。例えば、上記の構成、機能、作用、および効果に関する説明は、本開示の技術に係る部分の構成、機能、作用、および効果の一例に関する説明である。よって、本開示の技術の主旨を逸脱しない範囲内において、以上に示した記載内容および図示内容に対して、不要な部分を削除したり、新たな要素を追加したり、置き換えたりしてもよいことはいうまでもない。また、錯綜を回避し、本開示の技術に係る部分の理解を容易にするために、以上に示した記載内容および図示内容では、本開示の技術の実施を可能にする上で特に説明を要しない技術常識等に関する説明は省略されている。
【0135】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願および技術規格は、個々の文献、特許出願および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0136】
10 乳房撮影装置
11、151 装置本体
12 制御装置
13 ネットワーク
14 画像データベースサーバ(画像DBサーバ)
15 端末装置
20 スタンド
20A 台座
20B 支柱
21、152 アーム
21A 接続部
22、154 線源収容部
23、155 検出器収容部
24、156 本体部
25、157 放射線源
26、158 放射線検出器
27、159 放射線管
27P プレ撮影用放射線管
28、162 ハウジング
29 圧迫板
30 フェイスガード
33 測定センサ
35 陰極
36 陽極
37 放射線
38 ガラス管
39 放射線透過窓
40 照射野限定器
41 遮蔽板
45、160 撮像面
50 制御部
50A プレ撮影制御部
50B トモシンセシス撮影制御部
51 取得部
52 補正部
53 設定部
54 断層画像生成部
55 ストレージデバイス
60 第1係数テーブル
61 第2係数テーブル
62 作動プログラム(トモシンセシス撮影装置の作動プログラム)
63 CPU
64 メモリ
65 ファントム
70 線量計
70A 電離箱
70B 円柱型半導体線量計
75 冶具
76 底板
77 天板
78 取付穴
79 側板
80 表
90 実測初期出力値テーブル
100 校正部
101 校正第2係数テーブル
150 撮影装置
153 台車
161 寝台
CP 撮像面の辺の中心点
D 焦点の間隔
EB 電子線
F、F1~F15 放射線の焦点
GL 焦点の位置が設定される直線
H 被検者
Kfp 第1係数
Kmd 第2係数
L、L1、L15 焦点と中心点とを結んだ線
M 乳房(被写体)
MSDp 実測基準出力値
MTDp 実測対象出力値
NR 撮像面の辺の中心点から延びる撮像面の法線
PB プレ撮影用mAs値
PDf0 予め設定されたプレ撮影用の照射条件
SP、SP1~SP15 放射線管の位置
ST10、ST11、ST100、ST110、ST120、ST130、ST200、ST210、ST220、ST230、ST240、ST250、ST260、ST270、ST280、ST290、ST300、ST500、ST510、ST600、ST610、ST620、ST630 ステップ
T、T1~TN 断層画像
TB トモシンセシス撮影用mAs値
TB_P 仮のトモシンセシス撮影用mAs値
TDf0 仮設定されたトモシンセシス撮影用の照射条件
TF、TF1~TFN 断層面
Th 圧迫厚(被写体の厚み)
TSDp 理論基準出力値
TTDp 理論対象出力値
θ 放射線の照射角度
Ψ トモシンセシス撮影の最大スキャン角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34